説明

ヒドロキシビニルナフタレン化合物の製造方法

【課題】 タール分等の不純物の含有量の少ない高純度のヒドロキシビニルナフタレンを工業的に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明のヒドロキシビニルナフタレン化合物の製造方法は、ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物を、フェノール系ラジカル捕捉剤の存在下、45℃以上の温度で活性炭処理に付して精製する工程を含む。活性炭処理はアルコールと水の混合溶媒中で行うのが好ましい。活性炭処理後、晶析操作によりヒドロキシビニルナフタレン化合物を単離する工程を有していてもよい。ヒドロキシビニルナフタレンビニル化合物として2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、光関連材料等の原料として有用なヒドロキシビニルナフタレン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有するヒドロキシビニルナフタレン化合物は種々の方法により製造されるが、一般に入手容易な原料からいくつかのステップを経て製造される。しかし、この化合物は、芳香環にヒドロキシル基、ビニル基という反応性の高い官能基を有しているので、製造工程において種々の副反応が起きやすい。また、出発原料や途中段階の中間原料に由来する不純物が最終工程の反応液中に含まれることが多い。このため、最終工程で得られるヒドロキシビニルナフタレン化合物中には多様な不純物が混入する。
【0003】
特許文献1には、ナフタレン環にヒドロキシル基等の置換基を有するビニルナフタレン化合物の精製方法として、該化合物が溶解した水溶性アルコール溶液から前記ビニルナフタレン化合物を析出させる方法が提案されている。この方法によれば、不純物としてのビニル基を有しないナフタレン化合物を比較的簡単に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−143789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法では比較的低分子の不純物を取り除くことはできるものの、タール分等の分子量の大きい不純物を除くことは困難である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、タール分等の不純物の含有量の少ない高純度のヒドロキシビニルナフタレンを工業的に効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物を、特定の条件下で活性炭処理に付すと、タール分(タール様物質)を効率よく除去でき、着色の少ない高純度のヒドロキシビニルナフタレン化合物を工業的に効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物を、フェノール系ラジカル捕捉剤の存在下、45℃以上の温度で活性炭処理に付して精製する工程を含むヒドロキシルビニルナフタレン化合物の製造方法を提供する。
【0009】
この製造方法において、活性炭処理をアルコールと水の混合溶媒中で行うことが好ましい。
【0010】
また、上記製造方法は、活性炭処理後、晶析操作によりヒドロキシビニルナフタレン化合物を単離する工程を含んでいてもよい。
【0011】
前記ヒドロキシビニルナフタレン化合物としては、2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物に対して、フェノール系ラジカル捕捉剤の存在下、45℃以上という高い温度で活性炭処理を施すので、タール分が活性炭に絡まったような状態で除去されるとともに、ヒドロキシビニルナフタレン化合物の重合等によるロスを最小限に抑制できるため、着色の少ない高純度のヒドロキシビニルナフタレン化合物を工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法では、ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物を、フェノール系ラジカル捕捉剤の存在下、45℃以上の温度で活性炭処理に付して精製する。
【0014】
ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有するヒドロキシビニルナフタレン化合物としては、特に限定されず、ナフタレン環におけるビニル基の結合位置は、1位、2位の何れであってもよい。ナフタレン環におけるヒドロキシル基の位置は何れであってもよいが、ナフタレン環におけるビニル基の位置が1位の場合には、ヒドロキシル基の位置は2位、4位、5位、8位が好ましく、特に4位が好ましい。また、ナフタレン環におけるビニル基の位置が2位の場合には、ヒドロキシル基の位置は、1位、3位又は6位が好ましく、特に6位が好ましい。
【0015】
ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有するヒドロキシビニルナフタレン化合物の代表的な例として、1−ヒドロキシ−2−ビニルナフタレン、1−ヒドロキシ−4−ビニルナフタレン、1−ヒドロキシ−5−ビニルナフタレン、1−ヒドロキシ−8−ビニルナフタレン、2−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、2−ヒドロキシ−3−ビニルナフタレン、2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、、レジスト用途に用いる場合のレーザー光に対する透明性等の点で、特に、下記式(1)
【化1】

で表される2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンが好ましい。
【0016】
活性炭処理に供する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシビニルナフタレン化合物の反応工程で得られた反応粗液、又はこの反応粗液に対して、例えば、液性調整、濾過、濃縮、抽出、洗浄等の操作を経て得られるヒドロキシビニルナフタレン化合物含有組成物を使用できる。粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物中には、通常、ヒドロキシビニルナフタレン化合物を合成する反応工程、或いはさらにその原料を合成する反応工程[例えば、後述する式(3)で表される化合物から式(2)で表される化合物を合成する際の反応工程等]などで副生したタール分等の不純物が含まれており、粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物は着色している。
【0017】
フェノール系ラジカル捕捉剤としては、公知のフェノール系ラジカル捕捉剤を使用できる。フェノール系ラジカル捕捉剤の代表的な例として、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、4−t−ブチルカテコール、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシルビニルナフタレン化合物の安定化効果の点で、t−ブチルカテコールが好ましい。
【0018】
フェノール系ラジカル捕捉剤の使用量は、特に制限されないが、活性炭処理に付す被処理液中のヒドロキシビニルナフタレン化合物に対して、例えば1〜20モル%、好ましくは3〜15モル%、さらに好ましくは4〜10モル%程度である。フェノール系ラジカル捕捉剤の使用量が少なすぎると、ヒドロキシビニルナフタレン化合物の重合等により、ヒドロキシビニルナフタレン化合物の取得量が減少する。フェノール系ラジカル捕捉剤の使用量が多すぎる場合は、経済的に不利となる。
【0019】
本発明では、活性炭処理の際、系内にフェノール系ラジカル捕捉剤を存在させるので、比較的高い温度で活性炭処理を行っても重合反応等の副反応が抑制され、効率よくタール分等の不純物を除去することができる。なお、p−ビニルフェノールに対しては、ハイドロキノン、4−t−ブチルカテコール等のラジカル捕捉剤は安定化効果を示さないとされており(「ビニルフェノール 基礎と応用」、丸善石油化学株式会社研究所編、教育出版センター発行、第39頁)、本発明において、ヒドロキシビニルナフタレン化合物に対してこれらのラジカル捕捉剤に安定化効果が認められたことは驚くべきことである。
【0020】
活性炭処理に用いる活性炭としては、特に限定されず、ガス賦活活性炭及び薬品賦活活性炭のいずれも使用できる。活性炭の起源も特に限定されず、木材、鋸屑、果実殻、果実殻炭などの植物系原料から得られる活性炭;泥炭、亜炭、褐炭、コークス、石炭ピッチ、石油ピッチなどの鉱物系原料から得られる活性炭;フェノール樹脂、アクリル樹脂などの合成樹脂原料から得られる活性炭のいずれも使用できる。活性炭の形状も特に限定されず、粉末状、粒状、繊維状等の何れであってもよい。活性炭の比表面積は、例えば10〜3000m2/g程度である。
【0021】
活性炭処理に付す被処理液としては、溶液であれば特に限定されないが、タール分等の不純物の除去効果の点から、溶媒として、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール;水;これらの混合溶媒を用いるのが好ましく、特に、アルコール(例えば、メタノール)と水の混合溶媒を用いるのが好ましい。アルコール(例えば、メタノール)と水の混合溶媒を用いる場合、アルコールと水の比率は、例えば、前者/後者(重量比)=1/99〜99/1、好ましくは5/95〜80/20、さらに好ましくは20/80〜50/50程度である。
【0022】
活性炭処理に付す被処理液中のヒドロキシビニルナフタレン化合物の濃度は、処理効率や作業性等を損なわない範囲で適宜選択できるが、一般には、0.1〜30重量%程度(例えば0.1〜5重量%)、好ましくは0.2〜10重量%(例えば0.2〜5重量%)、さらに好ましくは0.3〜5重量%程度である。
【0023】
活性炭の使用量も処理効率や作業性等を考慮して適宜選択でき、例えば、被処理液中のヒドロキシビニルナフタレン化合物100重量部に対して、1〜1000重量部、好ましくは2〜500重量部、さらに好ましくは3〜100重量部、特に好ましくは4〜50重量部程度である。
【0024】
活性炭処理における処理温度は45℃以上である。通常、有機物質を活性炭処理に付す場合、活性炭による吸着効率を高めるととともに、副反応を防止するため、0〜30℃程度の低い温度で行うことが多いが(例えば、特開2005−75798号公報)、本発明では45℃以上という比較的高い温度で活性炭処理を行うことが重要である。処理温度が45℃未満の場合は、ヒドロキシビニルナフタレンの溶解度が低下し、多量の溶媒が必要となる。活性炭処理における処理温度は、好ましくは45〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃、特に好ましくは50〜80℃程度である。なお、処理温度が高すぎると重合等の副反応が起きる場合がある。処理時間は、例えば5分〜10時間、好ましくは10分〜5時間程度である。上述したように、本発明では、系内にフェノール系ラジカル捕捉剤を存在させるので、このように比較的高い温度で活性炭処理を行うにもかかわらず、重合等の副反応が抑制され、目的物のロスを伴うことなく効率よくタール分等の不純物を除去できる。
【0025】
また、本発明では、活性炭処理を45℃以上という比較的高い温度で行うため、活性炭処理後の濾過性に優れるとともに、その後、晶析によりヒドロキシビニルナフタレンを単離する際には、結晶径の大きいヒドロキシビニルナフタレン化合物の結晶を得ることができる。
【0026】
活性炭処理は、バッチ式、連続式、固定床方式、流動床方式等の公知の方法を採用できる。
【0027】
活性炭処理の後、活性炭を濾過(好ましくは熱時濾過)により除去し、濾液を蒸発乾固することにより、より好ましくは、濾液を晶析操作に付すことにより、着色の少ない高純度のヒドロキシビニルナフタレン化合物を取得することができる。晶析は、例えば、前記濾液を冷却したり、適当な量になるまで濃縮したり、貧溶媒と混合することにより行うことができる。これらの操作を適宜組み合わせてもよい。冷却する場合の冷却温度は、例えば−20℃〜20℃、好ましくは−10℃〜10℃程度である。冷却速度は、例えば1〜30℃/hr、好ましくは3〜20℃/hr程度である。
【0028】
析出したヒドロキシビニルナフタレン化合物の結晶を、必要に応じてリンス液でリンスし乾燥することにより、精製されたヒドロキシビニルナフタレン化合物を得ることができる。リンス液としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール;水;これらの混合溶媒を用いるのが好ましく、特に、アルコール(例えば、メタノール)と水の混合溶媒を用いるのが好ましい。リンス液としてアルコールと水の混合溶媒を用いる場合、アルコール(例えば、メタノール)と水の比率は、例えば、前者/後者(重量比)=1/99〜99/1、好ましくは20/80〜95/5、さらに好ましくは80/20〜55/45程度である。
【0029】
なお、活性炭処理に付す粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物は、公知の方法、例えば、特開2008−143789号公報等に記載されている方法により得ることができる。また、例えば、前記式(1)で表される2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンは、下記の方法により得ることもできる。すなわち、下記式(2)
【化2】

[式中、Rは、下記式(a)、(b)、(c)又は(d)
1CO− (a)
2NHCO− (b)
3OC(=O)− (c)
4SO2− (d)
(上記式中、R1は水素原子又は炭化水素基を示し、R2、R3、R4は、それぞれ、炭化水素基を示す)
で表される基を示す]
で表される2−置換オキシ−6−ビニルナフタレンを活性水素が結合したヘテロ原子を有する化合物と反応させることにより、前記式(1)で表される2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンを得ることができる。
【0030】
1、R2、R3、R4における炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(例えば、C1-10アルキル基等);アリル、ブテニル、ヘキセニル基等のアルケニル基(例えば、C2-10アルケニル基等);シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基などの脂環式炭化水素基(例えば、C3-15脂環式炭化水素基等);フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基(例えば、C6-15芳香族炭化水素基等);ベンジル、2−フェニルエチル、1−フェニルエチル基等のアラルキル基(例えば、C7-16アラルキル基等)などが挙げられる。これらの中でも、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等のC1-4アルキル基;アリル基等のC2-4アルケニル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等のC5-6シクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のC6-10アリール基;ベンジル基等のC7-11アラルキル基が好ましい。
【0031】
これらの炭化水素基は置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素原子等のハロゲン原子;メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等のC1-4アルキル基;アリル基等のC2-4アルケニル基;シクロヘキシル基等の5〜6員のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;クロロメチル、トリフルオロメチル基等のC1-4ハロアルキル基;メトキシ、エトキシ基等のC1-4アルコキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基等のC1-4アルコキシ−カルボニル基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル基等のC1-8アシル基;ニトロ基;シアノ基などが挙げられる。
【0032】
式(a)で表される基の代表的な例として、アセチル基、プロピオニル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。式(b)で表される基の代表的な例として、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基、N−トリルカルバモイル基などが挙げられる。式(c)で表される基の代表的な例として、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基などが挙げられる。式(d)で表される基の代表的な例として、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、ナフタレンスルホニル基等が挙げられる。
【0033】
前記Rとしては、式(a)で表される基であるのが特に好ましい。
【0034】
活性水素が結合したヘテロ原子を有する化合物としては、例えば、水、アルコール、チオール、アンモニア、第1級又は第2級アミンなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどの炭素数1〜10(好ましくは、炭素数1〜4)のアルコールが挙げられる。チオールとしては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタンなどの炭素数1〜10(好ましくは、炭素数1〜4)のチオールが挙げられる。第1級又は第2級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、エタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの炭素数1〜10程度の第1級又は第2級アミンが挙げられる。これらの中でも、活性水素が結合したヘテロ原子を有する化合物としては、水、アルコールが好ましい。
【0036】
活性水素が結合したヘテロ原子を有する化合物(水、アルコール等)の使用量は、通常、式(2)で表される2−置換オキシ−6−ビニルナフタレン1モルに対して、0.95モル以上、好ましくは1.5モル以上である。活性水素が結合したヘテロ原子を有する化合物(水、アルコール等)を大過剰量用い、溶媒として使用してもよい。また、他の溶媒を反応溶媒として用いることもできる。
【0037】
前記他の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル;ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0038】
反応は塩基性触媒の存在下で円滑に進行する。塩基性触媒としては、有機塩基、無機塩基のいずれも使用でき、例えば、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素複素環化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルピペリジン、DBU(ジアザビシクロウンデセン)等のアミン類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。これらの中でも、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩などの無機塩基が好ましい。
【0039】
塩基性触媒の使用量は、例えば、式(2)で表される2−置換オキシ−6−ビニルナフタレンに対して、0.001〜100モル%、好ましくは0.01〜50モル%である。大過剰量の塩基性触媒を用いることもできる。
【0040】
反応系内には、原料及び生成する2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンのラジカル重合を抑制するため、ラジカル重合禁止剤を存在させてもよい。ラジカル重合禁止剤としては公知のものを使用でき、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、t−ブチルカテコール、フェノチアジンなどが挙げられる。
【0041】
反応温度は、例えば−100℃〜200℃、好ましくは10℃〜100℃である。
【0042】
反応終了後、反応混合物から、例えば、濾過、濃縮、抽出、洗浄(水洗、酸又はアルカリ洗浄等)、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段を用いることにより、2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンを得ることができる。
【0043】
前記式(2)で表される2−置換オキシ−6−ビニルナフタレンは、下記式(3)
【化3】

(式中、Rは前記に同じ)
で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールを脱水反応に付すことにより製造できる。
【0044】
脱水反応は、通常有機溶媒中、脱水触媒の存在下で行われる。有機溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル;ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらのなかでも、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0045】
脱水触媒としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸類;前記スルホン酸類とピリジン等の塩基(有機塩基、無機塩基)との塩(例えば、ピリジニウムp−トルエンスルホン酸等);リン酸、硫酸などの無機酸;硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム等の無機酸の塩;陽イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0046】
脱水触媒の使用量は、式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールに対して、例えば0.01〜20モル%、好ましくは0.1〜10モル%程度である。
【0047】
反応系内には、生成する式(2)で表される2−置換オキシ−6−ビニルナフタレンのラジカル重合を抑制するため、ラジカル重合禁止剤を存在させてもよい。ラジカル重合禁止剤としては前記のものを使用できる。
【0048】
反応温度は、例えば50〜200℃、好ましくは80〜150℃である。脱水反応は副生する水を留去しながら行ってもよい。この場合、水と共沸する有機溶媒を反応溶媒として用い、有機溶媒と水とを共沸させながら、留出した水を系外に排出してもよい。
【0049】
反応終了後、反応混合物から、例えば、濾過、濃縮、抽出、洗浄(水洗、酸又はアルカリ洗浄等)、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段を用いることにより、式(2)で表される2−置換オキシ−6−ビニルナフタレンを得ることができる。
【0050】
前記式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールは、下記式(4)
【化4】

で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールを、R1COOH(式中、R1は前記に同じ)で表されるカルボン酸若しくはその反応性誘導体(アシル化剤)[Rが式(a)で表される基である化合物を得る場合]、R2NCO(式中、R2は前記に同じ)で表されるイソシアネート化合物[Rが式(b)で表される基である化合物を得る場合]、Y1COOR3(式中、Y1はハロゲン原子、R3は前記に同じ)で表されるハロギ酸エステル[Rが式(c)で表される基である化合物を得る場合]、又はR4SO22(式中、Y2はハロゲン原子、R4は前記に同じ)で表されるスルホン酸ハライド[Rが式(d)で表される基である化合物を得る場合]と反応させることにより製造できる。Y1、Y2におけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0051】
1COOHで表されるカルボン酸の反応性誘導体としては、カルボン酸ハライド[R1COY3(Y3はハロゲン原子を示す)]、カルボン酸無水物[(R1CO)2O]などが挙げられる。Y3におけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素原子などが挙げられる。前記アシル化剤としてはカルボン酸無水物がより好ましい。
【0052】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールをアシル化剤と反応させる場合、例えば、式(a)で表される基がアセチル基の場合には、アシル化剤として、酢酸クロリド、酢酸ブロミド、無水酢酸などを使用できる。アシル化剤の使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜2.0モル、好ましくは1.0〜1.3モル程度である。なお、これより多い量のアシル化剤を用いることもできる。
【0053】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールをイソシアネート化合物と反応させる場合、例えば、式(b)で表される基がN−フェニルカルバモイル基の場合には、イソシアネート化合物としてフェニルイソシアネートを使用できる。イソシアネート化合物の使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜2.0モル、好ましくは1.0〜1.3モル程度である。
【0054】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールをハロギ酸エステルと反応させる場合、例えば、式(c)で表される基がメトキシカルボニル基の場合には、ハロギ酸エステルとしてクロロギ酸メチルを使用できる。ハロギ酸エステルの使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜2.0モル、好ましくは1.0〜1.3モル程度である。
【0055】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールをスルホン酸ハライドと反応させる場合、例えば、式(d)で表される基がp−トルエンスルホニル基の場合には、スルホン酸ハライドとして、p−トルエンスルホン酸クロリドなどを使用できる。スルホン酸ハライドの使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜2.0モル、好ましくは1.0〜1.3モル程度である。
【0056】
上記反応は、何れの場合も、通常有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル;ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらのなかでも、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル、トルエン等の芳香族炭化水素、これらの混合溶媒が好ましい。
【0057】
反応は、必要に応じて、触媒、塩基、酸捕捉剤等の存在下で行われる。例えば、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールに、式(a)で表される基に対応するアシル化剤を反応させて、式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールのうちRが式(a)で表される基である化合物を製造する場合には、系内に塩基を存在させるのが好ましい。塩基としては、有機塩基、無機塩基のいずれも使用でき、例えば、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素複素環化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルピペリジン、DBU(ジアザビシクロウンデセン)等のアミン類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。これらの中でも、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩などの無機塩基が好ましい。塩基の使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜20モル、好ましくは1.0〜10モル、さらに好ましくは1.5〜8モルである。大過剰の塩基を用いることもできる。
【0058】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールに、式(b)で表される基に対応するイソシアネート化合物を反応させて、式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールのうちRが式(b)で表される基である化合物を製造する場合には、カーバメート化合物を合成する際に通常用いる触媒を使用することができる。このような触媒として、例えば、スズ、チタン、アルミニウムなどを含有する金属化合物(金属有機化合物、炭酸塩、酢酸塩、酸化物、ハロゲン化物等)、塩基性化合物(ピリジン等)が挙げられる。
【0059】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールに、式(c)で表される基に対応するハロギ酸エステルを反応させて、式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールのうちRが式(c)で表される基である化合物を製造する場合には、系内に塩基を存在させるのが好ましい。塩基としては、上記アシル化剤を反応に用いる場合と同様の塩基を使用できる。塩基の使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜20モル、好ましくは1.0〜10モル、さらに好ましくは1.5〜8モルである。大過剰の塩基を用いることもできる。
【0060】
式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールに、式(d)で表される基に対応するスルホン酸ハライドを反応させて、式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールのうちRが式(d)で表される基である化合物を製造する場合には、系内に塩基を存在させるのが好ましい。塩基としては、上記アシル化剤を反応に用いる場合と同様の塩基を使用できる。塩基の使用量は、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール1モルに対して、通常0.95〜20モル、好ましくは1.0〜10モル、さらに好ましくは1.5〜8モルである。大過剰の塩基を用いることもできる。
【0061】
上記各反応における反応温度は、例えば−100℃〜200℃、好ましくは10℃〜150℃である。
【0062】
反応終了後、反応混合物から、例えば、濾過、濃縮、抽出、洗浄(水洗、酸又はアルカリ洗浄等)、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段を用いることにより、式(3)で表される1−(6−置換オキシ−2−ナフチル)エタノールを得ることができる。
【0063】
前記式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールは、下記式(5)
【化5】

で表される6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒドと、下記式(6)
CH3MgX (6)
(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で表されるグリニヤール試薬とを反応させることにより得ることができる。
【0064】
式(6)中、Xで示されるハロゲン原子として、例えば、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられる。
【0065】
グリニヤール反応は、通常有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらのなかでも、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテルが好ましい。
【0066】
式(6)で表されるグリニヤール試薬の使用量は、式(5)で表される6−ヒドロキシ−2−ナフトアルデヒド1モルに対して、例えば0.95〜10モル、好ましくは1.0〜5モル程度である。反応温度は、例えば−100℃〜100℃、好ましくは0℃〜80℃である。
【0067】
反応終了後、例えば、酸を含む水溶液等によってクエンチし、濾過、濃縮、抽出、洗浄(水洗、酸又はアルカリ洗浄等)、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段を用いることにより、式(4)で表される1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールを得ることができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
なお、2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレン(HVN)の純度はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により求めた。HPLCの測定条件は以下の通りである。カラムにTSK−GEL ODS−80TS,4.6×150mm(東ソー社製)を用い、カラム温度を45℃とした。移動相にはアセトニトリル、超純水を用い、下記の条件で比率を変動させて分析した。流速は1m/s、検出波長は280nmである。
グラージェント条件:
時間(分) 流量(ml/min) %A(水) %B(アセトニトリル)
− 1.0 60 40
15 1.0 20 80
20 1.0 20 80
20.1 1.0 60 40
25 1.0 60 40
【0070】
合成例1
窒素雰囲気下、2−ヒドロキシ−6−ナフトアルデヒド(49.97g、0.29モル)を脱水THF(水分20ppm以下、406g)に溶解させた液を、1.0モル/LのメチルマグネシウムブロマイドのTHF溶液(753.51g、0.75モル)に温度10℃以下を維持し、撹拌しながら、85分間かけて、滴下した。滴下終了後、20℃で47時間撹拌し続けた。その後、12N塩酸(70mL)と水(210mL)の混合液を20℃以下を維持し、撹拌しながら、滴下した。滴下終了後、上層と下層を分液した。分液ロートを水200mLとトルエン500mLでとも洗いし、水層、有機層を全て併せ3Lフラスコに移液した。併せた混合液に6N塩酸(1回目、20g、2回目、5g、3回目、5g、4回目、10g)を順番に加えていき、下層のpHが1になったところで塩酸の追加を終了した。その後、この有機層を、飽和重曹水500mL、飽和食塩水500mLで順次洗浄した。得られた溶液(THF/トルエン溶液、合計1747g)から低沸分をおよそ200g留出させ(留出温度64℃、常圧)、粗1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノール(粗ジオール)を含む粗液を得た(1534g、この粗液中の目的物(粗ジオール)の得量は55.14g(0.29モル)であった。収率100%)。この粗1−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)エタノールを含む有機溶媒中の水分濃度をカールフィッシャー(水分分析装置)で測定したところ、2.3重量%であった。
【0071】
合成例2
合成例1で得られた粗ジオールに、乾燥THF(水分20ppm以下、500g)と炭酸ナトリウム(153g、1.44モル)を加え、窒素雰囲気下で撹拌しながら、52℃まで昇温し、無水酢酸(35.35g、0.346モル)を滴下した。滴下終了後、53〜55℃を維持しながら2時間撹拌を続けた。反応液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析したところ、原料(ジオール)の残存を確認したので、さらに、無水酢酸(2.98g、0.0292モル)を滴下した。滴下後1時間撹拌を行い、HPLCで原料を分析したところ、原料(ジオール)の含有量は0.1重量%未満になっていた。反応を停止するために、トルエンを403g添加後、容器ごと氷水で冷却し、3N塩酸961gを内温を14〜17℃に維持できるように、ゆっくりと滴下した。有機層と水層を分離した後、有機層を蒸留水で洗浄し、有機層をエバポレーターで濃縮乾固させ、粗1−(6−アセトキシナフタレン−2−イル)エタノール(粗アセテート)65.0gを得た(収率97%)。
【0072】
合成例3
合成例2で得られた粗アセテート(65.0g、0.282モル)、p−トルエンスルホン酸一水和物(2.69g、0.0141モル)、及びピリジン(0.5584g、0.0071モル)をフラスコに入れ、トルエン(1230g)を加えた。この混合物を撹拌しながら、トルエンが留出しはじめるまで昇温した。そのまま5時間反応させ、HPLC分析により原料が完全に消失したことを確認した。反応混合液を室温まで冷却した後、分液し、有機層を5%重曹水(520g)、蒸留水(520g)で順次洗浄した。有機層を濃縮し、2−アセトキシ−6−ビニルナフタレン(ACVN)を49重量%含むトルエン溶液を得た。
【0073】
実施例1
合成例3で得られた49重量%のACVNトルエン溶液(粗液)36.9gにメタノール90.9gを添加し、加熱して完溶させた。この時の温度は47℃であった。加熱を停止し、10℃/hrの冷却速度で、40℃付近まで冷却し、種晶を添加した。その後、10℃/hrの冷却速度で、0〜5℃まで冷却した。析出した結晶を濾過し、冷やしたメタノール2.0gでリンスし、乾燥させ、2−アセトキシ−6−ビニルナフタレン(ACVN)を14.5g(純度93.8重量%、収率74.6%)得た。
ACVN14.1g(純度93.8重量%、0.0623モル)と炭酸ナトリウム6.68g(0.0630モル)をメタノール267.9gに混合し、30℃に加温した。反応開始から3時間後に、HPLCにてACVNの消失を確認した。反応液を1N塩酸及び12N塩酸を用いて中和し、pHを5〜6とし、t−ブチルカテコールを0.52g(0.0031モル、5モル%対ACVN)添加した。得られた粗HVN溶液373gを2分割にして次のようにして活性炭処理を行った。
粗HVN溶液187gに水222g(液中のメタノール/水の比率を1/2とする)を添加し、52℃に加熱し、溶解した。そこへ、活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、商品名「白鷺A」)0.71gを添加し、内温51〜52℃で30分撹拌し、熱時濾過により活性炭と付着したタールを除去した。その濾液を10℃/hrの冷却速度で0〜5℃まで冷却し、析出した結晶を濾取し、リンス液[メタノール/水=2/1(重量比)]13.2gでリンスし、乾燥して、精製された2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレン(HVN)を3.91g(微茶白色、純度95.3重量%、収率75.7%)得た。
残りの半分についても同様の操作を行い、精製された2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレン(HVN)を4.25g(微茶白色、純度90.5重量%、収率78.1%)得た。
【0074】
実施例2
実施例1と同様の方法で反応して得られた反応液から溶媒を留去して得られた粗HVN(含茶白色、純度80.4重量%)5.26gとt−ブチルカテコール0.55g(5モル%対原料として用いたACVN)をメタノール247gに溶解し、そこへ水495gを添加し、55℃まで加熱して溶解させた。活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、商品名「白鷺A」)1.31gを添加後、内温51〜52℃で30分撹拌し、熱時濾過により活性炭及び付着したタールを除去した。その濾液を10℃/hrの冷却速度で0〜5℃まで冷却し、析出した結晶を濾取し、リンス液[メタノール/水=2/1(重量比)]23gでリンスし、乾燥して、精製された2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレン(HVN)を3.11g(微茶白色、純度93.9重量%、収率69%)得た。
【0075】
比較例1
活性炭処理温度を40℃とした以外は実施例1と同様の操作を行うことを試みたところ、HVNが完溶せず、活性炭処理の操作ができなかった。
【0076】
比較例2
t−ブチルカテコールを用いなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。粗ACVN26.75g(純度84.5重量%、0.1065モル)から得られた精製2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレン(HVN)の得量は12.5g(淡茶白色、純度99.0重量%、収率68.3%)であった。
【0077】
参考例1
実施例1と同様の方法で反応して得られた反応液から溶媒を留去して得られた粗HVN(含茶白色、純度80.4重量%)0.5gとt−ブチルカテコール0.020g(5モル%対HVN)をメタノール10.6gに溶解し、そこへ水21.1gを添加し、60℃まで加熱して溶解させた。内温を60℃に保ち、HVN量の経時変化をHPLCで調べたところ、HVN量は3時間で4.9%減少し、5時間、24時間でも4.9%の減少にとどまり、経時変化(重合等による)は止まっていた。
【0078】
参考例2
実施例1で得られたHVN(微茶白色、純度90.5重量%)0.5gとハイドロキノン0.015g(5モル%対HVN)をメタノール10.6gに溶解し、そこへ水21.1gを添加し、60℃まで加熱して溶解させた。内温を60℃に保ち、HVN量の経時変化をHPLCで調べたところ、HVN量は3時間で8%、6時間で12%、24時間で19%減少した。しかしながら、下記の比較参考例1ほど減少することはなく、HVNの経時変化(重合等による)の抑制効果が見られた。
【0079】
比較参考例1
実施例1と同様の方法で反応して得られた反応液から溶媒を留去して得られた粗HVN(含茶白色、純度80.4重量%)0.6gをメタノール12.8gに溶解し、そこへ水25.6gを添加し、60℃まで加熱して溶解させた。内温を60℃に保ち、HVN量の経時変化をHPLCで調べたところ、HVN量は3時間で17%減少し、6時間で23%減少し、24時間で31%減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレン環にヒドロキシル基とビニル基とを有する粗ヒドロキシビニルナフタレン化合物を、フェノール系ラジカル捕捉剤の存在下、45℃以上の温度で活性炭処理に付して精製する工程を含むヒドロキシルビニルナフタレン化合物の製造方法。
【請求項2】
活性炭処理をアルコールと水の混合溶媒中で行う請求項1記載のヒドロキシビニルナフタレン化合物の製造方法。
【請求項3】
活性炭処理後、晶析操作によりヒドロキシビニルナフタレン化合物を単離する工程を含む請求項1又は2記載のヒドロキシビニルナフタレン化合物の製造方法。
【請求項4】
ヒドロキシビニルナフタレン化合物が2−ヒドロキシ−6−ビニルナフタレンである請求項1〜3の何れかの項に記載のヒドロキシビニルナフタレン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−68581(P2011−68581A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219779(P2009−219779)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】