説明

ヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の製造方法

【課題】多段階の反応が不要であり、発火の危険性が高い還元剤を用いることなく、簡便且つ安全にヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】特定のピペラジン類とグリセリンを、酸触媒存在下で分子内脱水縮合反応させて、下記一般式(2)


(式中、R、Rは前記に同じ。)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法に関する。ヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類は、医農薬中間体、有機合成用触媒、化学吸着剤、抗菌剤等に有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の製造方法としては、ピペラジンと2,3−ジブロモプロパン酸エチルとを反応させて1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−2−カルボン酸エチルを調製し、次いで得られたエステルを還元して1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−2−メタノール(ヒドロキシメチルトリエチレンジアミン)を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、多段階の反応が必要で煩雑な上に、還元剤として発火の危険性が高い水素化リチウムアルミニウムを用いているため、安全性の面から好ましくない。また、水素化リチウムアルミニウム等の強力な還元剤は、反応終了後の後処理も慎重に行う必要があるため、工業的に行うには好ましくない。
【0004】
【特許文献1】特表2001−504855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、多段階の反応が不要であり、発火の危険性が高い還元剤を用いることなく、簡便且つ安全にヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示すとおりのヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の製造方法である。
【0008】
[1]下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R、Rは各々独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるピペラジン類とグリセリンを、酸触媒存在下で分子内脱水縮合反応させることを特徴とする下記一般式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R、Rは前記に同じ。)
で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【0013】
[2]一般式(1)で示されるピペラジン類が、ピペラジン、メチルピペラジン、エチルピペラジン及びジメチルピペラジンからなる群より選ばれる一種又は二種以上のピペラジン類であることを特徴とする上記[1]に記載の製造方法。
【0014】
[3]酸触媒が、金属リン酸塩及び有機リン化合物からなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物を含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、一段階で目的物が得られる上に、還元性の化合物を用いる必要がないため、従来方法に比べて簡便且つ安全にヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の製造方法は、上記一般式(1)で示されるピペラジン類とグリセリンを反応させて、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を得ることをその特徴とする。
【0018】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)及び(2)中、R、Rは各々独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が例示される。
【0019】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)で示されるピペラジン類としては、特に限定するものではないが、例えば、ピペラジン、メチルピペラジン、エチルピペラジン、ジメチルピペラジン等が挙げられる。これらのうち、工業的に入手しやすさの点から、ピペラジン、メチルピペラジンがより好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類としては、特に限定するものではないが、例えば、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミン、ヒドロキシメチルメチルトリエチレンジアミン、ヒドロキシメチルエチルトリエチレンジアミン、ヒドロキシメチルジメチルトリエチレンジアミン等が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)で示されるピペラジン類とグリセリンとの分子内脱水縮合反応を、酸触媒の存在下に行う。酸触媒としては、例えば、金属リン酸塩や有機リン化合物等のリン含有物質、窒素含有物質、硫黄含有物質、ニオブ含有物質、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、ゼオライト、ヘテロポリ酸、第4B族金属酸化物縮合触媒、第6B族金属含有縮合触媒、ブレンステッド酸、ルイス酸、リンアミド等が挙げられる。本発明においては、これらのうち、金属リン酸塩や有機リン化合物等のリン含有物質が好ましい。
【0022】
本発明の製造方法において、金属リン酸塩としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等の金属塩が挙げられる。リン酸と塩を形成する金属としては、特に限定するものではないが、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、銀、スズ、鉛等が挙げられる。また、有機リン化合物としては、従来公知のものでよく、特に制限はないが、例えば、リン酸メチル等のリン酸エステル、リン酸ジメチル等のリン酸ジエステル、リン酸トリフェニル等のリン酸トリエステル、亜リン酸、亜リン酸メチル、亜リン酸フェニル等の亜リン酸エステル、亜リン酸ジフェニル等の亜リン酸ジエステル、亜リントリフェニル等の亜リン酸トリエステル、フェニルホスホン酸等のアリールホスホン酸、メチルホスホン酸等のアルキルホスホン酸、メチル亜ホスホン酸等のアルキル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアリール亜ホスホン酸、ジメチルホスフィン酸等のアルキルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のアリールホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のアルキルアリールホスフィン酸、ジメチル亜ホスフィン酸等のアルキル亜ホスフィン酸、ジフェニル亜ホスフィン酸等のアリール亜ホスフィン酸、フェニルメチル亜ホスフィン酸等のアルキルアリール亜ホスフィン酸、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト等の酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルの塩類等が挙げられる。本発明においては、これらから選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。
【0023】
本発明の製造方法において、反応は気相で行っても液相で行っても良い。また、反応は懸濁床による回分、半回分、連続式でも、また固定床流通式でも実施できるが、工業的には、固定床流通式が操作、装置、経済性の面から有利である。
【0024】
本発明の製造方法において、希釈剤として、窒素ガス、水素ガス、アンモニアガス、水蒸気、炭化水素等の不活性ガスや、水、不活性な炭化水素等の不活性溶媒を用いて、原料である上記一般式(1)で示されるピペラジン類又は/及びグリセリンを希釈し、反応を進行させることができる。これらの希釈剤は任意の量で使用でき、特に限定するものではないが、上記一般式(1)で示されるピペラジン類/希釈剤のモル比、又はグリセリン/希釈剤のモル比は、0.01〜1の範囲が好ましい。モル比0.01以上にすると、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の生産性が向上する。また、モル比1以下とすると、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の選択性が向上する。
【0025】
本発明の製造方法において、希釈剤は上記一般式(1)で示されるピペラジン類又は/及びグリセリンと同時に反応器内に導入してもよいし、予め上記一般式(1)で示されるピペラジン類又は/及びグリセリンを希釈剤に溶解させた後に、原料溶液として反応器に導入してもよい。
【0026】
本発明の製造方法において、反応が気相で行われる場合、通常は、窒素ガス、アルゴンガス等の反応に不活性なガスの共存下で行われる。かかるガスの使用量は上記一般式(1)で示されるピペラジン類1モルに対して、通常1〜20モル、好ましくは2〜10モルである。
【0027】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)で示されるピペラジン類/グリセリンのモル比は、通常0.02〜50、好ましくは0.05〜20の範囲である。0.02以上50以下にすることで、副反応が抑制されるため、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の選択率が向上する。また、本発明の製造方法において、反応温度は、通常150〜500℃、好ましくは200〜400℃の範囲である。500℃以下とすることで、原料及び生成物の分解が抑制されるため、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の選択率が向上し、150℃以上とすることで十分な反応速度が得られる。
【0028】
本発明の製造方法において、反応終了後、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を含有する反応混合ガスを、水又は酸性水溶液に通じて溶解させ、上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を含有する反応混合液を得る。そして、得られた反応混合液から、抽出、濃縮等の所望の分離精製操作により上記一般式(2)で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類を得ることができる。また、ハロゲン化水素酸を用いて、ハロゲン化水素酸塩として得ることもできる。
【実施例】
【0029】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものでない。
【0030】
実施例1.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒としてフェニルホスホン酸(和光純薬工業社製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0031】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は41%であり、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンの収率は10%であった。
【0032】
実施例2.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒としてリン酸アルミニウム(和光純薬工業社製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0033】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は53%であり、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンの収率は12%であった。
【0034】
実施例3.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒としてシリカ−アルミナ(日揮化学社製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0035】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は38%であり、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンの収率は10%であった。
【0036】
実施例4.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン82.9(0.90モル)、溶媒として水135ml、触媒としてリン酸アルミニウム(和光純薬工業社製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0037】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は89%であり、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンの収率は8%であった。
【0038】
実施例5.
ピペラジン77.5g(0.90モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒としてリン酸アルミニウム(和光純薬工業製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0039】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は11%であり、選択率は、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが2%であった。
【0040】
比較例1.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒を添加せずに、200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0041】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は0%であった。
【0042】
比較例2.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒としてラネーニッケル(デグサ社製、B111W)12.5g、200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0043】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は0%であった。
【0044】
比較例3.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒として酸化チタン(IV)(和光純薬工業社製、化学用)5.0g、200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は0%であった。
【0045】
比較例4.
ピペラジン15.5g(0.18モル)、グリセリン16.6(0.18モル)、溶媒として水135ml、触媒として酸化銅(II)(和光純薬工業社製、化学用)5.0g、200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は6.0MPaであった。反応時間は12時間であった。
【0046】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ピペラジン転化率は0%であった。
【0047】
上記比較例1〜比較例4から明らかなように、本発明の酸触媒を使用しない場合には、ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが得られなかった。
【0048】
比較例5.
特許文献1に記載の方法に準じて、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンの調製を行った。
【0049】
2Lのセパラブルフラスコにピペラジン43.1g(0.5mol)、トリエチルアミン151.8g(1.5mol)を仕込み、トルエンで希釈した。窒素置換後、これにトルエンで希釈した2,3−ジブロモプロピオン酸エチル(東京化成工業社製)を攪拌しながら添加し、100℃で24時間熟成反応を行った。
【0050】
析出したトリエチルアミンの塩酸塩をろ過により除去し、得られた反応液を濃縮し、エステル体を合成した。
【0051】
このエステル体をテトロヒドロフランに溶解させ、氷浴下、水素化アルミニウムリチウムのテトロヒドロフラン溶液に攪拌しながら添加した。
【0052】
室温で2時間反応後、水、15%水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、不溶物をろ過により除去した。
【0053】
反応液を濃縮後、酢酸エチルで抽出洗浄した。酢酸エチルを除去し、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンを48g得た(収率68%)。
【0054】
上記比較例5から明らかなように、特許文献1に記載の方法は多段階の反応が必要なため極めて煩雑であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるピペラジン類とグリセリンを、酸触媒存在下で分子内脱水縮合反応させることを特徴とする下記一般式(2)
【化2】

(式中、R、Rは前記に同じ。)
で示されるヒドロキシメチルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で示されるピペラジン類が、ピペラジン、メチルピペラジン、エチルピペラジン及びジメチルピペラジンからなる群より選ばれる一種又は二種以上のピペラジン類であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸触媒が、金属リン酸塩及び有機リン化合物からなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−105944(P2010−105944A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278254(P2008−278254)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】