説明

ヒドロキシ酪酸エステル及びその医学的使用

式(I):
【化1】


の(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルについて鏡像異性的に濃縮された3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルである化合物は、ケトン体(3R)-ヒドロキシブチラートへの有効かつ美味な前駆体であるため、ヒト又は動物対象内の遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか、悪化するか又は関連する状態、例えば体重減少又は体重増加が関係する状態を治療するため、或いは覚醒を促すか又は認知機能を改善するため、或いは神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態又は高血糖の作用を治療、予防又は軽減するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ケトン体の血中レベルを上昇させるヒドロキシ酪酸エステル、及び該エステルの医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ケトン体は、脂肪組織から放出された脂肪酸から肝臓で産生される化合物である。体のほとんどの組織でエネルギー源としてケトン体自体を使用することができる。血中のケトン体レベルを増加させる化合物の摂取は、身体能力及び認知能力の向上並びに心血管状態、糖尿病、神経変性疾患及びてんかんの治療などの種々の臨床的利益をもたらし得る。
ケトン体は、(R)-3-ヒドロキシブチラート及びアセトアセタートを包含する。WO2004/108740に記載されているように、理論上はこれらの化合物を直接投与して対象内のケトン体レベルの上昇を果たせるだろう。しかし、この化合物の直接投与は非実用的であり、危険になりかねない。例えば、(R)-3-ヒドロキシブチラート又はアセトアセタートのどちらかをその遊離酸形態で直接投与すると、胃腸管からの急速な吸収後に重大なアシドーシスをもたらし得る。未制御量でこれらの化合物のナトリウム塩を投与することも、治療的に関連する量の化合物の投与に伴い得る危険なナトリウム過負荷の可能性があるため不適切である。
この背景に対抗してWO2004/108740は、アセトアセタート及び(R)-3-ヒドロキシブチラート等のケトン体への前駆体として役立つので、対象に投与するとケトン体の血中濃度を上昇させる(R)-3-ヒドロキシブチラートの誘導体を開示している。該誘導体の例として、例えば種々のアルコール由来のエステルが挙げられる。WO2004/108740はさらに、インスリン欠乏及びインスリン抵抗性などの代謝障害を治療するため、及び身体能力を高めるための栄養サプリメントとしてのこれらの誘導体の使用を開示している。
WO04/105742は、対象の血漿内で循環する遊離脂肪酸のレベルを下げる化合物を用いて筋肉機能障害又は疲労を治療できることを教示している。該化合物の例としてケトン体エステル等のケトン体が挙げられている。
【発明の概要】
【0003】
(発明の概要)
今や、驚くべきことに1つの特定の3-ヒドロキシ酪酸エステルの1つの特定のエナンチオマーがケトン体(3R)-ヒドロキシブチラートへの有効かつ美味な前駆体であることが分かった。従って、本発明は、下記式(I):
【0004】
【化1】

【0005】
の(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルについて鏡像異性的に濃縮された3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルである化合物を提供する。
本発明は、上記定義どおりの本発明の化合物と、食餌療法的又は医薬的に許容できる担体とを含む摂取可能組成物をさらに提供する。
(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルは脂肪酸の血漿レベルを下げる。従って本発明は、ヒト又は動物対象内の遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか悪化するか又は関連する状態の治療で使用するための上記定義どおりの本発明の化合物をさらに提供する。
一実施形態では、本発明は、体重減少又は体重増加が関係する状態の治療で用いる上記定義どおりの本発明の化合物をさらに提供する。従って、本化合物を用いて肥満又は他の過体重状態を治療し、体重減少を促進し、健康体重を維持し、又は対象(健康対象であっても障害対象であってもよい)内の贅肉の取れた(lean)筋肉に対する脂肪の割合を減らすことができる。本化合物を食餌性サプリメントとして使用することができる。
本発明は、覚醒を促すか又は認知機能を改善するか、或いは認知機能障害を治療するのに用いる上記定義どおりの本発明の化合物をさらに提供する。
本発明は、神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態又は高血糖の作用を治療、予防、又は軽減するのに用いる上記定義どおりの本発明の化合物をも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施例3に記載の試験において、炭水化物、脂肪又は本発明の化合物(「ケトン」)の食餌を与えたラットの毎日の体重(グラム/ラット/日)のプロットを示す。
【図2】実施例3に記載の試験において、炭水化物、脂肪又は本発明の化合物(「ケトン」)の食餌を与えたラットの毎日の食物摂取(グラム/ラット/日)のプロットを示す。
【図3】実施例5に記載の試験において、脂肪、炭水化物又は本発明の化合物(「ケトン」)の食餌で14日間処置したラットの視床下部の室傍核(PVN)領域及び海馬内のBDNF陽性細胞体のレベルを示す顕微鏡写真を含む。脂肪及び炭水化物の食餌で処置したラットに比べて、ケトン食餌で処置したラットのPVN内には有意に多数のBDNF陽性細胞体が見られる。
【図4】実施例5に記載の試験において、脂肪、炭水化物又は本発明の化合物(「ケトン」)の食餌で14日間処置したラットの視床下部の室傍核(PVN)領域内のMC4R陽性細胞体のレベルを示す顕微鏡写真を表す。脂肪食餌で処置したラットより、ケトン食餌及び炭水化物食餌で処置したラットのPVNの後側巨大細胞(pm)及び内側小細胞性(mpd)領域内には有意に多数のMC4R陽性細胞体が見られる。
【図5】図4の顕微鏡写真の拡大図を示す。顕微鏡写真は、脂肪食餌に関するラットに比べてケトン食餌又は炭水化物(Cho)食餌に関するラットのPVN内のMC4R陽性細胞体の有意に高密度の領域の存在を示す。
【図6】実施例5に記載の試験において、脂肪、炭水化物又は本発明の化合物(「ケトン」)の食餌で14日間処置したラットの視床下部の後側室傍核(PVN)領域内のCARTのレベルを示す顕微鏡写真を含む。脂肪食餌で処置したラット内より、ケトン及び炭水化物食餌で処置したラットのPVN内で有意に多数のCART陽性細胞体が見られる。CARTの最大レベルは、ケトン食餌で処置したラットのPVN内で見られる。
【図7】実施例5に記載の試験において、脂肪、炭水化物又は本発明の化合物(「ケトン」)の食餌で14日間処置したラットの視床下部の腹内側核(VMH)、弓状核(ARC)及び正中隆起(ME)領域内のCARTのレベルを示す顕微鏡写真を表す。これらの領域内の最大数のCART陽性細胞体は、ケトン食餌で処置したラット内で見られる。
【図8】図7の各顕微鏡写真の拡大図を示す。顕微鏡写真は、脂肪及び炭水化物食餌に関するラットに比べてケトン食餌に関するラットのPVN内の有意に多数のCART陽性細胞体の存在を明白に示す。
【図9】図7及び図8の顕微鏡写真のさらなる拡大図を示し、ケトン食餌で処置したラットのPVNが最高密度のCART陽性細胞体を有することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(発明の詳細な説明)
本発明の化合物は、(3R,3R')エナンチオマーについて鏡像異性的に濃縮された3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルである。本明細書で使用する場合、「濃縮された」なる用語は、その濃縮異性体のレベルが、当該異性体がラセミ混合物で典型的に生成されるであろうレベルより高いことを意味する。濃縮百分率に言及している場合、濃縮異性体は、存在する全3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルの当該百分率を構成する。一般的に本発明の3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルは、(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルについて鏡像異性的に少なくとも90%、好ましくは95%に濃縮されている。換言すれば、存在する全3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチル異性体である。さらなる実施形態では、3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルは少なくとも97%、例えば98%、又は99%の(3R,3R')エナンチオマーを含み得る。
【0008】
上記定義どおりの本発明の化合物は、リパーゼ酵素の存在下で(3R)-ヒドロキシ酪酸エチルと(R)-1,3-ブタンジオールの間のトランスエステル化反応を行なう工程を含む方法で調製され得る。反応は典型的に約40℃で約96時間行なわれる。この方法の例を以下の実施例1で述べる。反応生成物は典型的に薄膜式蒸留(wiped film distillation)(GMP)を受ける。これは脱気パス、出発原料を除去するための第2ライトカットパス(light cut pass)それから最終パスを含む。最終パスの条件は典型的に1.8トル(240Pa)で145℃である。
(3R,3R')エナンチオマーについて濃縮された3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルのサンプルは、経口摂取されると、ケトン体である(3R)-ヒドロキシブチラートの血中レベルを測定可能な程度に上昇させる。従って、本発明の化合物は、(3R)-ヒドロキシブチラートを対象に送達する有効な手段を表す。
2つの特定の利点が本発明に付随する。第1に、(3R,3R')エナンチオマーは美味であり、他のケトン体より苦味が少ない。従って、それは経口投与に特によく適している。このことは、悪名高く不快な味なので経口摂取に耐え難い多くの他のケトン体、それらの誘導体及び前駆体と対照をなす。第2に、(3R,3R')エナンチオマーはin vivoで開裂されて(3R)-ヒドロキシブチラート及び(R)-1,3-ブタンジオーを形成する。(3R)-ヒドロキシブチラートは即座に放出され、摂取後の迅速な作用をもたらす。(R)-1,3-ブタンジオールは肝臓内で(3R)-ヒドロキシブチラートに変換されてから血液中に放出される。全体的にはこのことが好ましい薬物動態プロファイルを与える。本発明の化合物の摂取後に所望の(R)-3-ヒドロキシブチラートの血中レベル上昇が迅速に達成されると共に一定期間にわたって持続されるからである。
【0009】
上記定義どおりの本発明の化合物は、脂肪酸の血漿レベルを下げる。従って、本発明の化合物を用いて、対象の血漿内で循環する遊離脂肪酸のレベルを下げることができる。それをそのまま用いて、ヒト又は動物対象内の遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか、悪化するか又は関連する状態を治療することができる。従って、上記定義どおりの本発明の化合物のヒト又は動物対象への投与を含む方法によってヒト又は動物対象を治療することができる。それによって対象の状態を改善又は回復し得る。
遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか、悪化するか又は関連する状態として、限定するものではないが、神経変性疾患又は障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病;低酸素状態、例えば狭心症、極端な身体運動、間欠性跛行、低酸素症、脳卒中及び心筋梗塞;インスリン抵抗性状態、例えば感染症、ストレス、肥満症、糖尿病及び心不全;並びに炎症状態、例えば炎症及び自己免疫疾患が挙げられる。
脂肪酸の血漿レベルの低減に加え、本発明の化合物は、脳内の食欲中枢に作用する。特に、本発明の化合物は、脳の食欲中枢内の種々の食欲抑制神経ペプチド(食物摂取減少及び食欲低減と関連することが分かっている神経ペプチド)のレベルを高め、かつ食欲及び食物摂取の減少に伴って代謝物マロニルCoAのより高いレベルをも誘導する。従って、本発明は、体重減少又は体重増加と関係する状態の治療で用いる上記定義どおりの本発明の化合物をさらに提供する。例えば、食欲を抑制するか、肥満症を治療するか、体重減少を促進するか、健康体重を維持するか又は対象内の贅肉の取れた筋肉に対する脂肪の割合を下げるのに本化合物を使用し得る。いずれの場合にも対象は健康な対象であっても又は障害のある対象であってもよい。
健康な対象は、例えば、身体能力及び/又は身体外観が重要である健康体重の個体であってよい。例として、軍隊員、アスリート、ボディビルダー及びファッションモデルが挙げられる。障害のある対象は、非健康体重の個体、例えば過体重、臨床的に肥満又は臨床的に非常に肥満の個体であってよい。或いは障害のある対象は臨床状態、例えば後述する状態に苦しむ健康体重又は非健康体重の個体であってよい。
健康体重の個体は18.5〜24.9の肥満度指数(BMI)を有し;過体重の個体は25〜29.9の肥満度指数(BMI)を有し;臨床的に肥満の個体は30〜39.9の肥満度指数を有し;かつ臨床的に非常に肥満の個体は40以上の肥満度指数を有する。
【0010】
脂肪酸の血漿レベルを低減し、脳内の食欲中枢に作用することに加え、本発明の化合物は脳リン酸化ポテンシャル及びATP加水分解のΔG'を高めることによって脳代謝効率を高め、それによって認知機能の改善を促す。また本発明の化合物を用いて認知機能障害を治療するか又は神経変性作用を軽減することができる。
本発明の化合物は、室傍核(脳の食欲中枢)内及び海馬(記憶にとって重要であることが分かっている脳の一部)内の両方の神経ペプチド脳由来神経栄養因子(Brain Derived Neurotropic Factor)(BDNF)のレベルをも高める。食欲を減少させることのみならず、BDNFは大脳基底核及び興味ある他の領域内でアポトーシスを防止し、また神経細胞成長を促進することが分かっているので、本発明の化合物によってもたらされるBDNFレベル上昇は神経変性を阻止し、低酸素又は外傷後の神経細胞死を制限し、及び神経組織成長を促進すると予想される。
本発明の化合物は、食欲抑制神経ペプチドコカイン・アンフェタミン応答転写物(Cocaine-and-Amphetamine Responsive Transcript)(CART)のレベルをも高める。CARTは、食欲を低減するのみならず、覚醒を促すことが分かっている。従って、本発明の化合物によってもたらされるCARTレベル上昇は認知機能を改善すると予想される。
従って、本発明の化合物は、(a)覚醒及び認知機能の改善を促すため、及び(b)神経変性を阻止するために有用である。
従って、本発明は、覚醒を促すか又は認知機能を改善するか、或いは認知機能障害を治療するのに用いる上記定義どおりの本発明の化合物をさらに提供する。
【0011】
本発明は、神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態又は高血糖の作用を治療、予防、又は軽減するのに用いる上記定義どおりの本発明の化合物をも提供する。
一実施形態では、上記定義どおりの本発明の化合物は、神経変性の作用を治療、予防、又は軽減するのに使う。本発明の化合物を用いて、如何なる特定の原因から生じる神経変性の作用をも治療、予防、又は軽減することができる。神経変性は、例えば神経変性疾患又は障害が原因であってよく、或いは加齢、外傷、無酸素などが原因であってよい。本発明の化合物を用いて治療できる神経変性疾患又は障害の例として、限定するものではないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、神経膠芽腫及びハンチントン舞踏病が挙げられる。
本発明の化合物を用いて予防又は治療できる状態のさらなる例として、筋肉機能障害、疲労及び筋肉疲労が挙げられる。健康対象又は障害のある対象の筋肉機能障害及び筋肉疲労を予防又は治療し得る。障害のある対象は、例えば、筋痛性脳症(myalgic encephalopathy)(ME、又は慢性疲労症候群)又はその症状に苦しむ個体であってよい。本発明の化合物を用いて、糖尿病、代謝症候群X若しくは甲状腺機能亢進などの状態に苦しむ患者、又は老齢期の患者を治療することもできる。
上記状態は、遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか、悪化するか又は関連する状態のさらなる例であり;従って、本発明のモノエステル化合物を用いてこれらの状態を治療することができる。
別の実施形態では、本発明の化合物を用いて、糖尿病、異常高熱、甲状腺機能亢進、代謝症候群X、発熱及び感染から選択される状態に苦しむ患者、又は老齢期の患者を治療する。
【0012】
本発明の化合物を1種以上の追加の作用物質、例えば微量栄養素及び薬物から選択される作用物質と組み合わせて投与してよい。本発明の化合物と追加の作用物質を一緒に摂取用の単一組成物に製剤化し得る。或いは、本発明の化合物と追加の作用物質を個別、同時又は逐次投与のため別々に製剤化し得る。
追加の作用物質が薬物である場合、それは、例えば、対象が苦しんでいる状態に適した標準的療法であってよい。例えば、本発明の化合物を通常の抗糖尿病薬と組み合わせて、糖尿病を患っている対象に投与してよい。通常の抗糖尿病薬として、インスリン増感剤、例えばチアゾリジンジオン、インスリン分泌促進剤、例えばスルホニル尿素、ビグアナイド系抗高血糖薬、例えばメトホルミン、及びその組合せが挙げられる。
追加の作用物質が微量栄養素である場合、それは例えば、ミネラル又はビタミンであってよい。例として、鉄、カルシウム、マグネシウム、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD及びビタミンEが挙げられる。
ケトン体は、ナイアシン受容体に作用する。従って、ケトン体とナイアシンは両方とも脂肪組織に作用して遊離脂肪酸の放出を阻止するので、本発明の化合物はナイアシン(ビタミンB3)と組み合わせて有利に投与し得る。
上記定義どおりの本発明の化合物、すなわち(3R,3R')エナンチオマーについて鏡像異性的に濃縮された3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルを、食餌療法的又は医薬的に許容できる担体をさらに含む摂取可能組成物に製剤化することができる。本組成物は、食物製品、飲料、ドリンク、サプリメント、食餌性サプリメント、機能性食品、栄養補助食品(nutraceutical)又は薬物であってよい。
【0013】
摂取可能組成物中の本発明の化合物の濃度は、組成物の特定のフォーマット、組成物の使用目的及び標的集団などの種々の因子によって決まる。一般的に本組成物は、遊離酸の血漿レベルを下げるのに有効な量で本発明の化合物を含むだろう。典型的に該量は、組成物を摂取する対象内のβ-ヒドロキシブチラート(bHB)及び/又はアセトアセタートの循環濃度が10μM〜20mM、好ましくは50μM〜10mM、さらに好ましくは100μM〜5mMを達成するのに必要な当該量である。一実施形態では、0.7mM〜5mM、例えば1mM〜5mMの循環濃度を達成する量を使用する。
本発明の研究対象は迅速に加水分解されて2つの天然産物、β-ヒドロキシブチラート(bHB)及び(R)-1,3-ブタンジオールになるので、食物として分類することができ、かつ食物製品の一部を形成し得る天然カロリー源である。
食物製品は、主に1種以上の多量養素タンパク質、炭水化物及び脂肪で構成され、生物の体内で使用されて成長を持続し、損傷を修復し、生命維持プロセスを助け又はエネルギーを供給する食用材料である。食物製品は、ビタミン若しくはミネラル等の1種以上の微量栄養素、又は香料及び着色料などの追加の食餌性成分を含むこともある。
本発明の化合物を添加物として中に組み込める食物製品の例として、スナックバー、食事代替バー、シリアル、菓子及びプロバイオティック製剤、例えばヨーグルトが挙げられる。
飲料及びドリンクの例として、ソフト飲料、エネルギードリンク、乾燥ドリンクミックス、栄養飲料、食事又は食物代替ドリンク、再水和用組成物(例えば運動中又は運動後)及び注入用ハーブティー又は水中浸出液用ハーブブレンドが挙げられる。
再水和用組成物は、典型的に水、糖炭水化物及び本発明の化合物を含む。本組成物は、当業者には認められるように、適切な香料、着色料及び保存料を含んでもよい。炭水化物糖はエネルギー源として存在し、かつグルコース及びトレハロースを含め、適切な糖が知られている。食事又は食物代替ドリンクは、減量計画で使用するため一般的に提唱されている型のものであってよい。このようなドリンク製剤は典型的に適量の1種以上の多量養素、すなわちタンパク質、脂肪及び/又は炭水化物の源を任意の追加成分、例えば可溶化剤、保存剤、甘味料、香味料及び着色料と共に含む。
栄養補助食品は、疾患の予防及び治療を含め、医学上又は健康上の利益を与えるとみなされる食品成分、食物サプリメント又は食物製品である。一般に栄養補助食品は、消費者に特定の健康上の利益を与えるのに特に適している。栄養補助食品は、典型的に微量栄養素、例えばビタミン、ミネラル、ハーブ又は植物化学物質を対応する正規の食物製品で見られるより高いレベルで含む。当該レベルは、典型的に単一の1人分として又は食餌計画の一部として又は栄養療法のコースとして取り込まれるたときに該栄養補助食品の意図した健康上の利益を最適化するように選択される。本発明の場合、このレベルは脂肪酸の血漿レベルを下げるのに有効なレベルであろう。
機能性食品は、消費者に純粋な栄養を供給することの健康上の利益を超える健康上の利益を与えるとして市販されている食品である。機能性食品は典型的に上述したような微量栄養素などの成分を組み入れ、それが栄養効果以外に特別な医学的又は生理学的利益を与える。機能性食品は典型的にパッケージング上に健康強調表示を載せている。
本発明によれば、栄養補助食品又は機能性食品は、典型的に上記定義どおりの本発明の化合物を対象内の遊離脂肪酸の血漿レベルを下げるのに有効な量で含む。さらに典型的には、栄養補助食品又は機能性食品は、食欲を抑制するか、肥満を治療するか又は対象の体重減少を促進するのに有効な量で本化合物を含有する。
食餌性サプリメントは、ビタミン、ミネラル、ハーブ又は他の植物学的産物、又はアミノ酸などの食餌性成分を含有する、ヒト対象の普通の食餌を補助することを意図している製品である。食餌性サプリメントは典型的に単位剤形で提供され、食物の代わりではなく、食物の前か後に消費するために設計される。従って、食餌性サプリメントは錠剤又はカプセル剤として、或いは食品の上に振りかけるため又は水若しくは飲料に添加するための乾燥粉末若しくは顆粒として提供されることが多い。
【0014】
上記定義どおりの本発明の化合物は、食餌療法的又は医薬的に許容できる担体又は賦形剤と混合することによって、薬物又は食餌性サプリメントに製剤化され得る。該担体又は賦形剤は、溶媒、分散媒体、コーティング剤、等張剤又は吸収遅延剤、甘味料などであってよい。これらにはありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、等張剤及び吸収遅延剤、甘味料などが含まれる。適切な担体は種々多様の材料から調製され、材料としては、限定するものではないが、希釈剤、結合剤及び接着剤、潤沢剤、崩壊剤、着色剤、充填剤(bulking agent)、香味料、甘味料及び種々の材料、例えば特定の剤形を調製するために必要なことがある緩衝剤及び吸着剤などが挙げられる。医薬的に活性な物質のため該媒体及び薬剤を使用することは技術上周知である。
例えば、固体経口剤形は活性化合物と共に、希釈剤、例えばラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシデンプン又はジャガイモデンプン;潤沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸カルシウム及び/又はポリエチレングリコール;結合剤、例えばデンプン、アカシアガム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えばデンプン、アルギン酸、アルギナート又はデンプングリコール酸ナトリウム(sodium starch glycolate);飽和剤(effervescing mixture);染料、甘味料;湿潤剤、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸を含有し得る。このような製剤は、既知の方法、例えば混合、造粒、錠剤化、糖コーティング、又はフィルムコーティング法を用いて製造され得る。
経口投与用の分散液は、シロップ、エマルション及び懸濁液であってよい。シロップは、担体として例えば、サッカロース又はサッカロースとグリセロール及び/又はマンニトール及び/又はソルビトールを含んでよい。特に、糖尿病患者用シロップは担体として、グルコースに代謝しないか又は非常に少量しかグルコースに代謝しない製品、例えばソルビトールのみを含有し得る。懸濁液及びエマルションは、担体として例えば、天然ガム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコールを含んでよい。
上記定義どおりの本発明の化合物は、顆粒剤又は散剤にも適宜製剤化される。この形態では、本化合物は、水又は他の液体、例えばヒトが飲むための茶又はソフトドリンク、例えば上述したような飲料又はドリンクに容易に分散し得る。本化合物をカプセル化し、錠剤化し、又は生理学的に許容できるビヒクルと共に単位剤形に製剤化することができる。単位剤形は、1回の1日投与のため治療的に有効な量の抽出物を含むことができ、或いはそれをより少ない量に製剤化して1日複数回投与に備えることができる。このようにして本組成物を例えば、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤、経腸製剤又は他のいずれの経口投与できる形態にも製剤化することができる。生理学的に許容できる担体の例として、水、油、エマルション、アルコール又は他のいずれの適切な材料も挙げられる。
以下の実施例で本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0015】
実施例1:(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルの合成
【0016】
【化2】

【0017】
(3R)-ヒドロキシ酪酸エチル(約3kg)、(R)-1,3-ブタンジオール(約1.5kg)、及び固体担持カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)リパーゼB(約300g)を20リットルの回転式エバポレーターフラスコ内で混ぜ合わせて大規模Buchiエバポレーター上に置く。ジオールが消費されるまで(1H NMR分光法で分析されるように;約3日)システムを40〜45℃で回転させながら1〜1.3kPa(8〜10トル)に減圧する。粗製材料をろ過(純粋)して酵素を分離し、過剰の(3R)-ヒドロキシ酪酸エチルをエバポレーションから除去する(0.3〜0.4kPa(2〜3トル)の最終圧及び80〜85℃の最終温度へ)。初めから終わりまで、冷却水を循環させる[反応中は-5℃、(3R)-ヒドロキシ酪酸エチルの除去中は+5℃]。活性炭(大スパーテルで8杯程度)を加え、回転式エバポレーター上での混合を15分間続けてから純粋混合物をCelite(登録商標)栓を通してろ過し、生成物(ろ液)を貯蔵用プラスチック容器に直接デカントする。Celite(登録商標)栓をエーテル(約500mL)で洗浄し、真空中で洗浄液から溶媒を除去し、残留物を貯蔵用バルクに加える。
【0018】
実施例2:(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルのin vivo試験−カロリー制御食餌
幼年成熟雄性ラット(開始体重70g)(Harlan UK Limited)(n=50)を12時間:12時間で明暗が反転する光周期で約20℃にて収容した。実験食餌を開始する前は動物に標準的な実験飼料(Chow)(SDS, Essex, UK)を与えた:(a)キロカロリーの34%が添加パルミタートに由来する普通の“Western”食餌(Western)(n=20)、(b)キロカロリーの70%が添加トウモロコシデンプンに由来する高炭水化物(CHO)(n=10)又は(c)キロカロリーの30%が(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルに由来する(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチル食餌(モノエステル)(n=20)。
3種の食餌の多量養素組成を下表1に示す。全ての食餌はkCal/gで同一エネルギーを含むが、異なる多量養素を有した。
【0019】
表1

【0020】
食餌及びモノエステルはオックスフォード大学で製造された。適宜水を供給した。この研究プロジェクトはOxford Animal Ethics Review Committees及びHome Officeによって承認された。
研究を開始する時までに孤立環境内の生活に慣れるように、実験開始前1週間はラットを個々に収容した。ラットは彼らの実験食餌を試みるまで、標準的な実験飼料chowを適宜消費した。Western及び炭水化物食餌を与えたラットには、前日モノエステルを与えたラットが消費した当該カロリーと同じカロリー数を与えた。
全てのラットを66日間飼育した。この期間後、ラットの体、心臓及び脂肪パッドの重量を測定した。結果を下表2に示す。
【0021】
表2

*P<0.05
【0022】
表2の結果は、脂肪パッドの重量が、Western(すなわち高脂肪)食餌又は炭化水素食餌のどちらかを与えたラットより、モノエステル食餌を与えたラットで66日試験の最後で有意に少なかったことを示している。体重に対する脂肪もモノエステルを与えたラットでは有意に低かった。
【0023】
実施例3:(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルのin vivo試験−食事供給食餌療法
表1に示したの同じ食物を使用するが、ラットに食事を与えて実施例2を繰り返した。従って、この実施例のラットは、実施例2におけるようにカロリー制限するのではなく、各食事でどれだけ食物を食べるか自由に選択した。
試験の最初の6日にわたって3種の各食餌群のラットについて時間に対して毎日の体重(グラム/ラット/日)をプロットした。結果のグラフを図1に示す。Tukey-Kramer多重比較検定による一元配置分散分析を利用した(n=8/群、**p<0.001)。モノエステル食餌を与えたラットでは、3日目〜6日目に有意な体重減少が見られた。炭水化物食餌を与えた群のラットの体重は採餌プロセスの最初から最後まで高いままだった。
モノエステル食餌に関する食事供給ラットは、他の2種の食餌に関するラットより少ない食物を食べ、多く減量した。毎日の食物摂取(グラム/ラット/日)を試験の最初の7日にわたって3種の各食餌群のラットについて時間に対してプロットした。結果のグラフを図2に示す。この場合もやはり、Tukey-Kramer多重比較検定による一元配置分散分析を利用した(n=8/群、**p<0.001)。モノエステル食餌に関するラットは炭水化物及びWestern食餌に関するラットに比し、期間の最初から最後まで一貫して毎日の食物摂取の減少を示した。
【0024】
実施例4:(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルのin vivo試験−等窒素含有及び等カロリー食餌
28日の研究で、約350gの雄性及び雌性ウィスターラットを3つの食餌群の1つにランダム化し(n=10の雄及び10の雌/群)、炭水化物食餌(CHOD)、普通のヒト食餌(NHD)、又はケトン食餌(KD)を投与した。食餌は等窒素含有及び等カロリーであり、それらの炭水化物、脂肪、及びケトンの相対量のみが異なった。KDでは、用いたケトンは、ケトンモノエステル(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチル食餌(すなわち本発明の化合物)だった。KDでは、エネルギーの約1/3がケトンエステルに由来したが、NHD及びCHODでは、エネルギーの1/3がそれぞれパルミタート及びデンプンに由来した。実験食餌の組成(カロリーの%を単位として表す)を下表3で要約する。
【0025】
表3

【0026】
実験食餌の組成(g/100g)を下表4で要約する。
【0027】
表4

【0028】
研究の28日に、KD群の雄ラットはCHOD及びNHD群の雄ラットより有意に軽かった(それぞれ390±26g対418±15g及び413±16g)。KD群の雄ラットが増量した総量は、CHOD及びNHD群が増量した総量より有意に少なかた。KDを与えた雄では、餌の消費がCHOD及びNHD食餌を与えた雄に比べて有意に少なかった(日22〜29の間の餌の摂取:それぞれ239±17g対269±7g及び269±7g)。雄ではケトンモノエステルの平均摂取が約11g/kg(体重)/日だった。
研究の日15、22、及び28に、KD群の雌ラットはCHOD及びNHD群の雌ラットより有意に軽かった(日28:それぞれ240±13g対253±12g及び258±13g)。KD群の雌ラットが増量した総量は、CHOD及びNHD群が増量した総量より有意に少なかた。KDを与えた雌では、餌の消費がCHOD及びNHD食餌を与えた雌に比べて有意に少なかった(日22〜29の間の餌の摂取:それぞれ175±12g対191±5g及び194±7g)。雌ではケトンモノエステルの平均摂取が約13.0g/kg(体重)/日だった。
【0029】
実施例5:(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルが神経ペプチドレベル、クレブス回路及びCoA中間体のレベル、並びに脳内の遊離ヌクレオチドのレベルに及ぼす効果
14日の研究で、体重が約250gのウィスターラットを3つの食餌群の1つにランダム化し(n=6のラット/群)、炭水化物(「デンプン」)食餌、普通のヒト(「脂肪」)食餌又はケトンエステル食餌(用いたケトンエステルはケトンモノエステル(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチル食餌(すなわち本発明の化合物)だった)のどれかを投与した。供給食事と対で1日3時間3つの食餌を食べさせた。g/100gを単位として表す食餌の組成を表5で要約し、カロリーの%を単位として表す組成を表6で要約する。
【0030】
表5

【0031】
表6

【0032】
ケトンエステル食餌に関するラットは、デンプン(炭水化物)又は脂肪で補充された食餌を食べる当該ラットより少ない食物を消費し、かつ体重増加が少ないことが分かった。この結果は実施例2〜4の結果と一致している。
14日間1日当たり3時間供給食事と対で3種の食餌を食べた後、脳内の種々のクレブス回路及びCoA中間体のレベルを標準技術を利用して酵素的に及び質量分光法で測定した。結果を表7に示す。
表7で見られるように、ケトンエステルを与えられたラットは脳内のマロニルCoAレベルが高いことが分かった(表中太字フォント)。マロニルCoAは、食物摂取の減少と関連することが知られている代謝物であり;それは食欲を減らすことが知られている(Wolfgang, M. J. and Lane, M. D. (2006) J. Biol. Chem. 281, 37265-37269)。これらのデータは、食欲を減少させるために本発明のケトン化合物を含む食餌を使用することと一致している。表7中の値は、μモル/g(湿重量)の平均±SEM、n=6〜8である。CoAはnmol/g(湿重量)で与えられている。
【0033】
表7:脳のクレブス回路及びCoA中間体

ap<0.05 ケトンエステルとデンプンの間
【0034】
14日間ラットに食餌を与えた後、遊離ヌクレオチドの比率及び遊離ヌクレオチド濃度を測定した。以前に開示されている(Veech, R. L. et al., J. Biol. Chem. 254: 6538-47, 1979)ように計算したラットの凍結破裂脳(freeze blown brain)及び代謝物比率について測定を行なった。結果を表8に示す。表8中の値は平均±SEMとして与えられている(n=6〜8)。サイトゾルのpHを7.2であると仮定した。
【0035】
表8:遊離ヌクレオチド比率の計算値及び遊離ヌクレオチド濃度の計算値

ap<0.05 ケトンエステルとデンプンの間、bp<0.05 ケトンエステルと脂肪の間、両方ともマンホイットニーのU検定(Mann-Whitney U test)で判断した。
【0036】
表8の結果は、食餌の14日後に、ケトンエステルを与えたラットの脳リン酸化ポテンシャル及びATP加水分解のΔG'が、炭水化物及び脂肪食餌を与えたラットにおけるより有意に高かったことを示している。ケトンを与えたの脳内の唯一の変化はエネルギー:リン酸化及びΔGの増加だった。このエネルギー増加は、灌流された作動ラット心臓内におけるケトンの効果と一致している(Sato, K., Kashiwaya, Y., Keon, C. A., Tsuchiya, N., King, M. T., Radda, G. K., Chance, B., Clarke, K.、及びVeech, R. L. (1995) FASEB J. 9, 651-658)。しかし、ケトン灌流によって心臓内で観察される莫大な酸化還元変化は観察されない。
これらのデータは、脳の代謝効率を高め、それによって認知機能の改善を促し、アルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン舞踏病などの神経変性疾患の作用を治療又は軽減し、或いは例えば、加齢、外傷、無酸素などによる神経変性に対して脳及び中枢神経系を保護するために本発明のケトン化合物を含む食餌を使用することと一致している。
【0037】
(本発明のケトン化合物が脳内の神経ペプチドのシグナル伝達に及ぼす効果)
脂肪、炭水化物又はケトンエステル食餌による飼育の14日後、食物摂取減少及び食欲低下に関連することが分かっている種々の神経ペプチド(「食欲抑制」ペプチド)のレベルをラット脳の視床下部の室傍核(PVN)領域内及び海馬内で調査した。ラットの区分された脳について行なう標準的な抗体技術を利用して神経ペプチドレベルを測定した。結果を図3〜9の顕微鏡写真で示す。
測定したペプチドは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、メラニン細胞刺激ホルモン受容体4(MC4R)、及びコカイン及びアンフェタミン反応性転写物(Cocaine-and-Amphetamine Responsive Transcript)(CART)だった。これらのペプチドは食欲抑制性であるのみならず、他の重要な作用を有するので、以下の通りである:
−BDNFは、食欲を減らし、かつ大脳基底核及び興味のある他の領域内のアポトーシスを防止することも知られているので、BDNFレベルの上昇は、食欲を減らすのみならず、神経変性を阻止すると予想され;
−CARTは、カフェイン又はモダフィニル(気分を明るくする記憶増強覚醒剤)と同様に覚醒を促し、かつ食欲を減らすので、CARTレベルの上昇は、食欲を減らすのみならず、認知機能を改善すると予想され;
−MC4Rは、大型ペプチドのメラニン細胞刺激ホルモンなどの種々のホルモンへの分解を促進し、そして食欲を制御する。MC4Rの突然変異は肥満の原因となることが知られている。
従って、これらのペプチドは、ケトンエステル摂食の、食欲の抑制に加えて多くの重要な治療態様で中心となる重要なもである。最も特に、a)覚醒(alterness)の促進及び認知機能の改善、並びにb)加齢、外傷、無酸素などの種々の原因による神経変性の阻止において重要である。
【0038】
図3の結果は、ケトン食餌で処置したラットのPVN内のBDNF陽性細胞体が、脂肪及び炭水化物食餌処置ラットに比べて有意に多いことを示している。ケトンで処置したラットの海馬内でも同様に観察される。PVNは食欲を制御することが分かっている脳の一部であり、一方で海馬は記憶にとって重要であることが知られている。従って、この結果は、本発明のケトン化合物を含む食餌を用いて食欲を減らし、神経変性を阻止し、及び認知機能改善を促進できることを支持している。
図4及び5の顕微鏡写真は、ケトン又は炭水化物(Cho)食餌で処置したラットの後側巨大細胞(pm)及び内側小細胞性(mpd)領域内のMC4R陽性細胞体の濃度が、脂肪食餌で処置したラットに比べて有意に高いことを示している。これは、本発明のケトン化合物を含む食餌を用いて食欲を減らし、かつ減量を促進できることを支持している。
図6、8及び9は、14日間脂肪食餌、炭水化物食餌又は本発明のケトン化合物を含む食餌で処置したラットの視床下部の後側室傍核(PVN)領域内のCARTレベルを示す。図7は、視床下部の腹内側核(VMH)、弓状核(ARC)及び正中隆起(ME)領域内のCARTレベルを示す。ケトン及び炭水化物食餌で処置したラットのPVN内では、脂肪食餌で処置したラットのPVN内より有意に多数のCART陽性細胞体が見られる。ケトン食餌で処置したラットのPVN内で最大レベルのCARTが見られる。さらに、ケトン食餌で処置したラットは、視床下部の腹内側核(VMH)、弓状核(ARC)及び正中隆起(ME)領域内に最大数のCART陽性細胞体を含む。これらの結果は、本発明のケトン化合物を含む食餌を用いて食欲を減らし、神経変性を阻止し、及び認知機能の改善を促すことができることをさらに支持する。要約すれば、図3〜9の顕微鏡写真は、ケトン食餌が以下のことをもたらすことを示している。
−室傍核及び海馬内の多くのBDNF(図3);
−室傍核内の多くのCART(図6〜9);及び
−室傍核内の高いMC4R活性(図4及び5)。
これらのデータは、食欲を減らし、神経変性を阻止し、及び認知機能の改善を促すために本発明のケトン化合物を含む食餌を使用することと一致している。
【0039】
実施例6:錠剤組成物
それぞれ0.15gの重量で、かつ25mgの本発明の化合物を含有する錠剤を以下のように製造した。
(10,000錠剤の組成)
本発明の化合物(250g)
ラクトース(800g)
トウモロコシデンプン(415g)
タルク粉末(30g)
ステアリン酸マグネシウム(5g)
本発明の化合物、ラクトース及びトウモロコシデンプンの半分を混合した。この混合物を次に0.5mmメッシュサイズのふるいを通して押し出した。トウモロコシデンプン(10g)を温水(90ml)に懸濁させる。結果として生じるペーストを用いて前記粉末を造粒した。この顆粒を乾燥させ、1.4mmメッシュサイズのふるいで小フラグメントに細分化した。残存量のデンプン、タルク及びステアリン酸マグネシウムを加え、慎重に混合して錠剤に加工した。
【0040】
実施例7:シロップ製剤
本発明の化合物 250mg
ソルビトール溶液 1.50g
グリセロール 2.00g
安息香酸ナトリウム 0.005g
香料 0.0125ml
精製水を適宜加えて 5.00mlへ
本発明の化合物をグリセロールと大部分の精製水の混合物に溶かした。次いでこの溶液に安息香酸ナトリウムの水溶液を添加した後、ソルビトール溶液を加え、最後に香料を添加した。精製水で体積を埋め合わせ、よく混合した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

の(3R)-ヒドロキシ酪酸(3R)-ヒドロキシブチルについて鏡像異性的に濃縮された3-ヒドロキシ酪酸3-ヒドロキシブチルである化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物と、食餌療法的又は医薬的に許容できる担体とを含む摂取可能組成物。
【請求項3】
食物製品、飲料、ドリンク、食物サプリメント、食餌性サプリメント、機能性食品、栄養補助食品又は薬物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
療法によるヒト又は動物の体の治療方法で使用するための請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
ヒト又は動物対象内の遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか、悪化するか又は関連する状態を治療するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
体重減少又は体重増加が関係する状態を治療するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
食欲を抑制し、肥満を治療し、体重減少を促進し、健康体重を維持し、又は対象内の贅肉の取れた筋肉に対する脂肪の割合を低減するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
認知機能障害、神経変性疾患又は障害、筋肉機能障害、疲労及び筋肉疲労から選択される状態を予防又は治療するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項9】
糖尿病、甲状腺機能亢進、代謝症候群Xから選択される状態に苦しむ患者を治療するのに使用するため、又は老齢期の患者を治療するための請求項4に記載の化合物。
【請求項10】
神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態又は高血糖の作用を治療、予防、又は軽減するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項11】
神経変性の作用を治療、予防、又は軽減するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項12】
前記神経変性が、加齢、外傷、無酸素又は神経変性疾患若しくは障害によって引き起こされる、請求項10又は11に記載の化合物。
【請求項13】
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、神経膠芽腫及びハンチントン舞踏病から選択される神経変性疾患又は障害を治療するのに使用するための請求項4に記載の化合物。
【請求項14】
覚醒を促すか又は認知機能を改善するのに使用するための請求項1又は4に記載の化合物。
【請求項15】
治療する状態の標準的療法と組み合わせて使用するための請求項5〜14のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
ヒト又は動物対象の遊離脂肪酸の血漿レベル上昇によって引き起こされるか、悪化するか又は関連する状態を治療する方法であって、請求項1に記載の化合物を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項17】
体重減少又は体重増加が関係する状態を治療する方法であって、投与が必要な対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項18】
食欲を抑制し、肥満を治療し、体重減少を促進し、健康体重を維持し、又は贅肉の取れた筋肉に対する脂肪の割合を低減する方法であって、投与が必要な対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項19】
認知機能障害、神経変性疾患又は障害、筋肉機能障害、疲労及び筋肉疲労から選択される状態を予防又は治療する方法であって、投与が必要な対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項20】
糖尿病、甲状腺機能亢進、代謝症候群Xから選択される状態に苦しむ患者を治療するか、又は老齢期の患者を治療する方法であって、前記対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項21】
神経変性、フリーラジカル毒性、低酸素状態又は高血糖の作用を治療、予防、又は軽減する方法であって、投与が必要な対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項22】
神経変性の作用を治療、予防、又は軽減する方法であって、投与が必要な対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項23】
前記神経変性が、加齢、外傷、無酸素又は神経変性疾患若しくは障害によって引き起こされる、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、星状細胞腫、神経膠芽腫及びハンチントン舞踏病から選択される神経変性疾患若しくは障害を予防又は治療する方法であって、投与が必要な対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。
【請求項25】
対象の覚醒を促すか又は認知機能を改善する方法であって、前記対象に請求項1に記載の化合物を投与する工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−500264(P2012−500264A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523833(P2011−523833)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/040766
【国際公開番号】WO2010/021766
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(500205220)アイシス イノヴェイション リミテッド (10)
【住所又は居所原語表記】Ewert House, Ewert Place, Summertown, Oxford, OX2 7SG, United Kingdom
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】