説明

ヒドロキシ酸から誘導されたモノマー及びそれから調製されたポリマー

【課題】生体吸収性ポリマーを調製することができる、新規なクラスの非毒性の脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーを提供する。
【解決手段】式I:


で示されるジヒドロキシモノマー化合物でありこのジヒドロキシモノマー化合物から調製されたポリ(アミドカーボネート)及びポリ(エステルアミド)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−、β−及びγ−ヒドロキシ酸と天然のアミノ酸L-チロシンの誘導体から調製されるモノマーに関する。本発明は、更に本発明のモノマーから調製されたポリ(アミドカーボネート)及び脂肪族−芳香族ポリ(アミドエステル)に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
米国特許第5,099,060号は3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸とL-チロシンアルキルエステル(デスアミノチロシル−チロシンアルキルエステル)に基づくジフェノールモノマーを開示している。その後の関連特許にはこの基本モノマー構造の変異体が含まれている。これらのモノマーは多くの応用例において有用であるがいくつかの制限がある:
【0003】
これらのモノマーは水に不溶性であり、従って、これらから作られるポリマーはあまり吸収性ではない。言い換えると、従来記載されてきた水不溶性モノマーから調製される以前に記載されたポリマーは重量損失は全くないであろうが、ポリマー骨格の分解は機械的強度の損失及びポリマー分子量の低下を生じさせる。
【0004】
これらのモノマーは2つのフェノール性水酸基を提供し、生じるポリマーを完全に芳香族性骨格構造に限定し、これは優れた機械的強度を与えるが低分解速度となることがある。
【0005】
ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)のようなポリ(ヒドロキシ酸)及びそれらのコポリマーは、安全性の記録が確立していること及びFDAの認可の故に、確実に最も広く研究されている分解性合成ポリマーである。天然に現れるα-L-アミノ酸から誘導されるポリ(アミノ酸)は分解性ポリマーの主要な別のグループを形成する。生体材料としてのそれらの明らかなる可能性にも拘わらず、実際はポリ(アミノ酸)はほとんど実用的応用法が見出されていない。主たる問題はポリ(アミノ酸)の大部分は非常に扱いにくいことである(例えば非加工性、このことはその有用性を制限する)。
【0006】
ヒドロキシ酸とアミノ酸のコポリマーが幾つか調製されてきており生物学的展望から評価されているが、生体材料としてのそれらの研究はかなり限定されたものであった。Helderら、J. Biomed. Mater. Res., (24), 1005-1020(1990)はグリシンとDL-乳酸のコポリマーの合成及び、in vitro及びin vivo分解の結果を開示する。乳酸とリジンから誘導されるコポリマーのエレガントな合成がBarreraら、Macromolecules, (28), 425-432 (1995)によって報告された。リジン残基が細胞接着促進ペプチドをコポリマーに化学的に結合させるために使用された。アミノ酸とヒドロキシ酸の別のポリマーが米国特許第3,773,737号に開示されている。
【0007】
上述した3つのタイプのコポリマーは環状モノマーから開環重合によって調製されるランダムコポリマーであった。コポリマーの構成は二つのタイプの環状モノマーの相対的反応性及び使用する厳密な重合条件に強く依存する。この構成を制御することは困難であり、ポリマーの特性を予測することは困難である。また、ポリマーの微細構造及び配列におけるバッチごとの大きな変動があるかもしれない。さらに、従前の大部分の報告には低分子量(Mw<10,000)のポリマーしか記載されていない。
【0008】
成功裡に商業化された医学的使用のための分解性ポリマーは非常に僅かしかない。ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)及びそれらのコポリマーは代表的な例である。依然として組織−共存性材料としての使用に適した生分解性、特に生体吸収性ポリマーに対する必要性が存在する。例えば、新しい組織工学(tissue engineering)分野の多くの研究者は、単離した細胞集団を生体材料スキャフォールド上に移植してin vivo において機能的な新たな組織を作り出すことによる新組織の操作を提案している。分解及び吸収速度が組織の成長速度に対応して調節し得る生体吸収性材料が必要とされる。これは、特定のポリマー特性が発達中の特定の適用例の要求に最適に適合し得るように多数の異なる材料のライブラリーが利用可能であることを必要とするであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
この要求は本発明によって満たされる。本発明は、新規なクラスの非毒性の脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマー及びそれらから誘導される生体吸収性ポリマーを提供する。このモノマーはα−、β−、γ−ヒドロキシ酸と天然のアミノ酸L-チロシンの誘導体から調製される。
【0010】
従って、本発明の一つの側面により、以下の式Iの構造を有するモノマーが提供される:
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立にHまたは18個までの炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基から選ばれ;R3は-CH=CH−及び(-CH2-)k(kは0から6の間、0と6を含む)からなる群より選ばれ;各Zはヨウ素原子または臭素原子であり;dとnは独立に0、1または2;及びXは水素または以下の式IIの構造を有するペンダント基である:
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Yは18個までの炭素原子を有する直鎖または分枝アルキル基及びアルキルアリール基から選ばれる。))
【0015】
先行技術の観点から見ると、この新規なモノマーは米国特許第5,099,060号に開示されたデスアミノチロシル−チロシンアルキルエステルに類似しているが、デスアミノチロシル単位が脂肪族ヒドロキシ酸によって置き換えられているという重要な相違がある。特に、この新規なヒドロキシモノマーは水可溶性である。この特徴は予測することはできなかったものであり、以前に開示された可溶性に乏しいデスアミノチロシル−チロシンアルキルエステルとの重要な相違である。
【0016】
モノマーを重合して、優れた物理的、化学的及び生物学的特性を示すポリマーを形成してもよい。これらの特性は、このポリマーを、成形構造、例えばフィルム、繊維、ロッド、特に組織再構成又は組織工学用の高分子骨格として有用なものにする。ポリマー形態で無毒であることに加えて、本発明のポリマーは、生理学的条件下における加水分解的鎖切断により無毒性分解生成物を形成することが期待される。本明細書に開示される新規ポリマーのもっとも重要な改良点は、分解及び生物吸収速度の上昇である。
【0017】
脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーを、前記デサミノチロシル−チロシンアルキルエステルと同様の態様で使用することができる。特に、モノマーを、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリウレタン、ポリ(エステル アミド)及びポリエーテルの製造に使用することができる。これら多数の異なるポリマーのなかで、脂肪族−芳香族ポリ(アミドカーボネート)及び脂肪族−芳香族ポリ(アミドエステル)が好ましい態様である。
【0018】
それゆえ本発明は、本発明のモノマーから製造される脂肪族−芳香族ポリ(アミドカーボネート)をも含んでいる。ポリ(アミドカーボネート)は、米国特許第5,198,507号明細書(本文献は、参照することにより本明細書に組み込まれる)に開示される方法により製造される。更に本発明は、本発明のモノマーから製造される脂肪族−芳香族ポリ(アミドエステル)を含んでいる。ポリ(アミドエステル)は、米国特許第5,216,115号明細書(本文献は、参照することにより本明細書に組み込まれる)に開示される方法により製造される。
【0019】
本発明の脂肪族−芳香族ポリ(アミドカーボネート)は、式III:
【0020】
【化3】

【0021】
で示される繰り返し構造単位を有する。
【0022】
本発明の脂肪族−芳香族ポリ(アミドエステル)は、式IV:
【0023】
【化4】

【0024】
で示される繰り返し構造単位を有する。
【0025】
式III及びIVにおいて、R1、R2、R3、X、Z、d及びnは、式I及びIIで定義されたものと同じである。更に、XのYは水素であってもよい。Rは、24までの炭素原子を有する、飽和及び非飽和、置換及び非置換のアルキル、アリール及びアルキルアリール基のなかから選ばれる。mは、平均ポリマー鎖における繰り返し単位の数のことであり、2〜1000である。
【0026】
本発明のポリ(アミドカーボネート)及びポリ(アミドエステル)は、デサミノチロシル−チロシンアルキルエステルを重合した従来のポリカーボネート及びポリアリーレート(polyarylate)よりも速く分解され、生物吸収されるだろう。したがって、本発明のポリマーは、すでに開示されているポリマーよりも速い分解及び吸収速度を要求するすべての状況下におけるバイオマテリアルとして使用することができる。本発明のポリマーが特に有用な特定の用途には、新規な組織を操作するために単離細胞集団を移植する組織工学用の骨格及び徐放のために医薬的に活性な成分を高分子マトリックス内に混合した、埋め込み型ドラッグデリバリーデバイスが含まれる。
【0027】
それゆえ、本発明は、更に、本発明のポリ(アミドカーボネート)及びポリ(エステルアミド)を含む埋め込み可能医療用具を含んでいる。本発明の1つの態様においては、Gutowska et al., J. Biomater. Res., 29, 811-21(1995)及びHoffman, J. Controlled Release, 6, 297-305(1987)に記載されるような部位特異的又は全身的ドラッグデリバリーシステムとして、ポリマーを生物学的又は医薬的に活性な化合物の治療学的有効量と組み合わせる。更に、本発明の別の態様は、本発明のポリ(アミドカーボネート)又はポリ(エステルアミド)と組み合わせた治療学的有効量の生物学的又は医薬的に活性な化合物を含む埋め込み可能ドラッグデリバリーデバイスを、部位特異的又は全身的ドラッグデリバリーを必要とする患者の体内に埋め込むことによる、部位特異的又は全身的ドラッグデリバリー方法を提供する。
【0028】
本発明の別の態様においては、ポリマーを、Mikos et al., Biomaterials, 14, 323-329(1993)又はSchugens et al., J. Biomed. Mater. Res., 30, 449-462(1996)に記載されるような多孔性デバイスに形成し、Bulletin of the Material Research Society, Special Issue on Tissue Engineering(ゲストエディター:Joachim Kohn)に記載されるように細胞の接着及び増殖を許容させる。それゆえ、本発明の別の態様は、本発明のポリ(アミドカーボネート)及びポリ(エステルアミド)から形成される、インビトロ又はインビボにおける細胞の接着及び増殖用の多孔性構造を有する組織骨格を提供する。
【0029】
本発明のポリマーは、優れた物性及び加工性を有する。そのため、通常のポリマー成形技術、例えば溶液流延、押出、圧縮成形及び射出成形等により、特定用途用の異なる3次元構造に成形することができる。
【0030】
本発明の別の特徴は、本発明の実施について現在企図される最良の態様における本発明の本質を開示する、後述の記載及び請求の範囲において示されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発明のより完全な認識と、多くの他の意図した利益は、発明の詳細な説明を以下の図面と共に考慮して参照することによって容易に得られる。図1 ポリ(GATE アジペート)の減少インビトロ分解を、ポリ(D,L-乳酸)との比較において示す(PBS中、pH=7.4、65℃)。
【図2】図2 ポリ(GATE アジペート)の加速インビトロ分解を、ポリ(DTE アジぺート)との比較において示す(PBS中、pH=7.4、37℃)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の最適な実施例
ポリ(ヒドロキシ酸)、例えばPGA及びPLAは、最も成功した合成バイオマテリアルである。しかしながら、その分解生成物の酸性度、物理機械的性質の制限範囲、及び生物学的リガンド、薬剤又は架橋剤に対する化学的接点を提供しない単純な化学構造に問題がある。従って、ヒドロキシ酸を広範な他の成分と共重合して、最適な性質を達成しようと試みた。
【0033】
本発明は、新規種類のジハイドロキシモノマー及びこれを重合したコポリマーであって、α−、β−又はγ−ヒドロキシ酸が、まずL−チロシンアルキルエステル又はL−チロシンアルキルエステルの構造誘導体を架橋して、式Iで定義したようなジヒドロキシモノマーを形成するものを示す。これら新規モノマーは、その後重合されて、完全に代替性のポリ(アミドカーボネート)を形成するか、又は選ばれた二酸と共重合して、ポリ(アミドエステル)を形成するか、又は反応して他の有用なポリマーを形成する。
【0034】
ジヒドロキシ化合物は、ジオール又はジフェノールモノマーを使用する伝統的な重合反応で、伝統的に加水分解的に安定で、かつ非生分解性と考えられるポリマーを合成する重合反応を含めて利用され得る。
【0035】
ジヒドロキシ化合物には、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリエーテル及び新規脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーとポリ(アルキレンオキシド)とのランダムブロックコポリマーが含まれる(米国特許第5658995号明細書に記載)。特に好ましい態様は、新規ポリ(アミドエステル)及び新規ポリ(アミドカーボネート)であり、これにつき、以下で更に詳細に述べる。
【0036】
本発明のジヒドロキシモノマー出発物質は、式Iで示した構造を有し、式中、R1、R2、R3、X、Z、d及びnは、式Iに関して上述されたものと同様である。nは、好ましくは0であり、R1及びR2は、好ましくは独立的に水素及びメチルから選ばれる。最も好ましくは、n=0であり、少なくともR1及びR2の一方は水素であり、他方は、水素でなければメチルであり、グリコール酸の構造及び乳酸の種々の立体異性体がそれぞれ得られる。R3は、好ましくは−CH2−であり、そうであればジヒドロキシモノマー出発物質は、L−チロシンの誘導体である。Xは、好ましくは、式IIに従う構造を有し、式中、Yはエチル、ブチル、ヘキシル、オクチル又はベンジル基である。Yは、より好ましくはエチル基である。
【0037】
少なくとも1種のZが存在すれば、本発明のジヒドロキシモノマー出発物質から調製されたポリマーは、放射線不透過性であり、同時係属で共通に所有された米国仮特許出願(番号60/064,905、1997年11月7日出願)に開示されており、ここで参考として取り入れる。本発明のヨウ化及び臭化ジヒドロキシモノマーは、放射線不透過性、生物学的適合性で、他のポリマーバイオマテリアルに対して非毒性の添加物としても使用され得る。
【0038】
L−チロシンは、天然に存在するアミノ酸であり、及びヒドロキシ酸も、好ましくは天然に存在する、細胞適合性の材料である。最も好ましい態様として、式Iのジハイドロキシモノマーは、ヨウ化又は臭化してもしなくてもよいL−チロシンのアルキル又はアルキルアリールエステルと、式Iaの構造を有するヒドロキシ酸とを反応することによって、調製される。
【0039】
【化5】

【0040】
式中、R1、R2及びnは、式Iに関して上述されたものと同様である。L−チロシンエステルは、好ましくは、エチル、ブチル、ヘキシル、オクチル又はベンジルエステルである。エチルエステルが最も好ましい。
【0041】
式Iaのヒドロキシ酸において、nが0で、かつR1及びR2が水素であれば、ヒドロキシ酸はグリコール酸であり;nが0でR1が水素でR2がメチルであれば、ヒドロキシ酸は、乳酸の立体異性体のいずれかである。グリコール酸は、最も好ましいジヒドロキシ化合物出発物質である。
【0042】
8個までの炭素原子を含むチロシンのアルキル及びアルキルアリールエステルを、J.P. Greenstein及びM. Winitzの「Chemistry of the Amino Acids」(John Wiley & Sons、New York、1961年、927〜929頁に開示された方法に従って調製した。8個より多くの炭素原子を含むチロシンのアルキル及びアルキルアリールエステルを、Overellの米国特許第4428932号明細書に開示された方法に従って調製した。これらの開示は、ここで参考として取り入れる。もしチロシンアルキル又はアルキルアリールエステルが、その塩の形態で初期に得られても、その塩は、水性塩基で単に洗浄することによって除去される。
【0043】
ジヒドロキシ化合物は、その後カルボジイミド媒介カップリング反応をヒドロキシベンゾチアゾールの存在下で行うことによって調製され、これは米国特許5587507号明細書の開示に従って行い、この開示はここで参考として取り入れる。好適なカルボジイミドをここに開示する。好ましいカルボジイミドは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライド(EDCI・HCl)である。合成経路の模式的概要を以下に示す。
【0044】
【化6】

【0045】
粗ジヒドロキシ化合物を、まず50%の酢酸と水で、その後20:20:1の酢酸エチル−ヘキサン−メタノールで2回再結晶した。これとは別に、メチレンクロライド:メタノールの100:2混合物を移動相として含むシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーを使用した。
【0046】
ジヒドロキシ化合物を次いで重合して医学用の組織適合性で生体腐食性の(bioerodible)ポリマーを形成する。例えば、米国特許第4,980,449号に開示された適切な方法のうちの一つによって、ジヒドロキシ化合物を重合してポリイミノカーボネートを形成することができ、その開示をここで参考として取り込む。一つの方法に従うと、ヒドロキシ化合物の一部が適切なジシアナートに転換し、次いで、等モル量のジヒドロキシ化合物とジシアナートが強塩基性触媒、例えば金属アルコキシド又は金属ヒドロキシドの存在下に重合する。得られたポリイミノカーボネートは式VIの構造を有する:
【0047】
【化7】

ここで、R1、R2、R3、X、Z、d及びnは式IIIに関して先に定義したものと同じであり、mは平均ポリマー鎖における繰り返し単位であり2〜1,000の範囲にある。
【0048】
本発明のジヒドロキシ化合物は、米国特許第5,099,060号に記載された方法によってホスゲンと反応して脂肪族−芳香族ポリ(アミドカーボネート)を形成することができ、この開示をここに参考として取り込む。記載された方法は本質的にはジオールをポリカーボネートに重合する従来方法である。触媒及び溶媒と組合せた適切な方法は当技術において公知であり、Schnell, Chemistry and Physics of Polycarbonates, (Interscience, ニューヨーク 1964)に教示されており、この教示を参考としてここに取り込む。本発明のジヒドロキシ化合物を使用し、これらの方法に従って製造した脂肪族−芳香族ポリ(アミドカーボネート)は、式IIIの構造を有する繰り返し構造単位を有しており、ここでR1、R2、R3、X、Z、d、n及びmは式IIIに関して先に定義したものと同じである。
【0049】
ジヒドロキシ化合物を米国特許第5,216,115号に開示された方法に従って反応させて厳密な交互ポリ(アミドエステル)を形成することもでき、この開示をここで参考として取り込む。
【0050】
米国特許第5,216,115号に開示されたように、ジヒドロキシ化合物を脂肪族又は芳香族ジカルボン酸と、カルボジイミドを介する直接ポリエステル化により、4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−p−トルエンスルホネート(DPTS)を触媒として使用して脂肪族又は芳香族ポリ(エステルアミド)を形成する。ポリ(エステルアミド)の重合に適したジカルボン酸は式VIIの構造を有している:
【0051】
【化8】

【0052】
ここで、脂肪族ポリ(エステルアミド)を製造するためにはRは、飽和及び不飽和、置換及び非置換アルキル基であり18個までの炭素原子、好ましくは2〜12個の炭素原子を含み、任意に少なくと1個の窒素又は酸素原子を含んでもよい基から選択される。芳香族ポリ(エステルアミド)を製造するためにはRは、24個までの炭素原子、好ましくは13〜20個の炭素原子を含むアリール及びアルカリール基であり、任意に少なくとも1個の窒素又は酸素原子を含んでもよい基から選択される。得られたポリ(アミドエステル)は式IVの構造を有しており、ここでR、R1、R2、R3、X、Z、d、n及びmは式IVに関して先に定義したものと同じである。
【0053】
Rは、出発材料として使用したジカルボン酸が重要な天然に生じる代謝物であるか又は生体適合性が高い化合物であるように選択することが好ましい。好ましい脂肪族ジカルボン酸出発材料は、それゆえ、クレブス回路として公知の細胞呼吸経路の中間体であるジカルボン酸を含む。これらのジカルボン酸は、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸及びオキサル酢酸(式VIIのRはそれぞれ、−CH2−CH2−C(=O)−、−CH2−CH2−、−CH=CH−及び−CH2C(=O)−である)を含む。
【0054】
他の天然に生じる好ましい脂肪族ジカルボン酸はアジピン酸(R=(−CH2−)4)であり、ビートジュース中にある。さらに他の好ましい生体適合性脂肪族ジカルボン酸はセバシン酸(R=(−CH2−)3)であり、これは広範囲に研究され、Laurencin et al., J. Biomed. Mater. Res., 24, 1463-81(1990)によるポリ(ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン−co−セバシン酸無水物)の臨床評価の一部として毒性のないことが分かっている。
【0055】
他の好ましい生体適合性脂肪族ジカルボン酸はオキサル酸(Rなし)、マロン酸(R=(−CH2−))、グルタル酸(R=(−CH2−)3)、ピメリン酸(R=(−CH2−)5)、スベリン酸(R=(−CH2−)6)及びアゼライン酸(R=(−CH2−)7)を含む。すなわち、包括的にいえばRは(−CH−)Qで表わすことができ、ここでQは0と8の間である。好ましい芳香族ジカルボン酸にはテレフタル酸、イソフタル酸及びビス(p−カルボキシフェノキシ)アルカン、例えばビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパンがある。
【0056】
本発明のジヒドロキシ化合物はポリウレタンの製造においても有用であり、これには多種のジヒドロキシ化合物が本質的に従来法による鎖延長剤として使用されている。本発明のポリ(アミドカーボネート)及びポリ(アミドエステル)とポリ(アルケンオキシド)とのランダム又はブロックコポリマーを、米国特許第5,658,995号に開示した方法に従って製造することができ、この開示も参考として取り込む。
【0057】
本発明のジヒドロキシ化合物は、テトラヒドロフラン(THF)中のポリスチレンを標準としてさらに修正することなくゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で計算して、約20,000ダルトン、好ましくは約80,000ダルトンより大きい重量平均分子量を有するポリ(アミドカーボネート)を形成する。本発明のジヒドロキシ化合物は、溶出剤としてTHFを使用しポリスチレンを標準としてさらに修正することなくGPCで計算して、約20,000ダルトン、好ましくは80,000ダルトンより大きい重量平均分子量を有するポリ(エステルアミド)を提供する。
【0058】
本発明のポリマーは、側鎖の遊離したカルボン酸基を有するポリマーを含むものとして定義される。しかし、遊離のカルボン酸基とコモノマーとの交差反応なしで、対応するモノマーからの側鎖の遊離したカルボン酸基を有するポリマーを、側鎖の遊離したカルボン酸基と重合させるのは可能ではない。従って、側鎖の遊離したカルボン酸基を有する本発明のポリマーは、Xが式IIの構造を有し、Yがベンジル基である式Iの構造を有する本発明のベンジルエステルモノマーのホモポリマー及びコポリマーから製造される。
【0059】
ベンジルエステルホモポリマー及びコポリマーは、共に係属し、共通に所有される1997年11月7日に出願された米国仮特許出願番号60/064,656(該出願の開示は、参考文献として本明細書に組み入れられる)に開示されている、パラジウムが触媒する水素化分解法により、ベンジル基の選択除去を通じて対応する遊離のカルボン酸ホモポリマー及びコポリマーに変換し得る。ポリマーの主鎖の不安定性が過酷な加水分解技術の使用を防止するので、触媒水素化分解が必要である。
【0060】
また、本発明のポリマーは、放射性不透過臭素及びヨウ素置換ポリマーを含むものとして定義される。このようなポリマーの製造は、上述した、共に係属し、共通に所有される米国仮特許出願番号60/064,905に開示されている。この出願の開示は、それが本発明のポリマーに関連するように、参考文献として本明細書の組み入れられる。
【0061】
本発明の新規なモノマーは、生物医学的利用のための生物再吸収性ポリマーの製造において特に有用である。上記ポリマーは、合成ポリマーの分野で一般に用いられている公知の方法によって製造することができ、有益な物理的及び化学的性質を有する多様な有用な物品を供給する。上記有用な物品は、押出成形、圧縮成形、射出成形、溶液流延及び湿式紡糸等の通常のポリマー成形技術によって成形される。上記ポリマーから製造された成形物品は、中でも医学的移植の応用のための分解可能な装置として有用である。
【0062】
例えば、組織エンジニアリングの発生の分野における多くの研究者は、インビボにおいて機能的な新しい組織を創造するために生物材料骨格上に分離された細胞集団を移植することにより、新しい組織を設計することを提案している。この応用のために、相対的に速く分解し、完全な再吸収性のポリマーが必要である。先行技術のデスアミノチロシル−チロシンアルキルエステル分解性ポリマーは、再吸収の遅い材料であり、インビボにおける1年以上の移植の間に有意な重量減少を示さない。本発明のポリマーは、この必要性を処理するために設計された。
【0063】
本明細書で開示されるポリマーについてのさらなる応用は、公知の時間内に無害で分解される人工血管及びステント、骨板、縫合糸、移植可能なセンサー、外科手術の接着防止のためのバリア、移植可能な薬物送達装置及び他の治療の補助となるもの及び物品等の成形品の利用を含む。ここで、本発明のポリマーは、より速い分解及び再吸収速度を供給することにより、先行技術のデスアミノチロシル−チロシンアルキルエステルポリマーを増強している。ポリ(アミドカーボネート)について上記で議論したように、新規なポリ(アミドエステル)は、以前に開示されたポリアリーレート(polyarylates)よりも速く分解し、速い生物再吸収速度を阻害することが期待される。
【0064】
下記の非限定的な実施例は、本発明の特定の面を説明する。全ての部及び%は、特に記述しない場合は重量であり、全ての温度は摂氏である。
【実施例】
【0065】
実施例
本発明のポリマーの分解速度(インビトロ)及びいくつかの基本的性質は、ポリ(D,L−乳酸)及びポリ(DTEアジペート)についての研究との比較において評価した。ポリ(D,L−乳酸)は、非常に水溶性であるモノマー(乳酸)を含有する。多くの応用において、ポリ(D,L−乳酸)はあまりに速く分解する。限定的な水溶性を有する脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーの利用は、対応するポリマーの分解速度を減少することができる。さらに、先行技術の実質的に水に不溶性のモノマー、デスアミノチロシル−チロシンアルキルエステルと比較して、限定的な水溶性を有する脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーの利用は対応するポリマーの分解速度を促進し得る。従って、新規な脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーから得られるポリマーは、ポリ(D,L−乳酸)、及びデスアミノチロシル−チロシンポリカーボネート及びポリアリーレートの分解及び再吸収速度の中間の速度を有する。
【0066】
このアプローチの有用性を説明するために、グリコール酸及びL−チロシンエチルエステル(及びそれによってGATEとして設計される)からジヒドロキシモノマーを製造した。GATEを、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸又はセバシン酸のいずれかと重合した。これは、その重合性主鎖構造の柔軟性及び疎水性のみにおいて異なる4種の互いに異なるコポリマーを生ずる。ポリマー主鎖中のメチレン基の数が増加すると、ガラス転移点は低下する。多数のメチレン基の数の存在はポリマー主鎖の柔軟性を増加させるので、これは予想された。ポリマー表面で測定した空気−水接触角もポリマー主鎖中のメチレン基の数の増加によって低下する。ポリマー表面の疎水性を反映する接触角はポリマー構造に多くのメチレン基を加えると大きくなるので、これは予想外であった。
【0067】
ポリ(GATEアジペート)のインビトロ分解速度を、ポリ(D,L−乳酸)及び以前に報告されたポリ(DTEアジペート)(DTEはデスアミノチロシル−チロシンエチルエステルを意味する)とpH=7.4においてかつ65℃又は37℃の何れかの温度でそれぞれ比較した。三種類のポリマーは全て同様のポリエステル主鎖を有するアモルファス物質であるため、基本的分解メカニズムは理論的にも同等であることが予想された。もっとも重要な知見は、ポリ(GATEアジペート)がポリ(D,L−乳酸)よりもゆっくり分解したが、ポリ(DTEアジペート)よりも速く分解したことである。さらにポリ(D,L−乳酸)とは異なり、ポリ(GATEアジペート)は研究において周囲のpHを変化させなかった。これは、より遅い分解速度とポリマー1グラムにつき生成する酸性分解生成物が顕著により少量であったことによる。これらの知見は、新規クラスのポリマーのより高度な生体適合性であると言い換えることができるであろう。
【0068】
実験例
物質:L−チロシン、グリコール酸、L−(+)−乳酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、チオニルクロリド、エタノール、ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及びp−トルエンスルホン酸をアルドリッチより購入した。エチル−3−(3−ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)をJBL Scientificより入手した。ポリ(D,L−乳酸) (Mw=1.0×105ダルトン)をMEDISORBより入手した。全ての溶媒はHPLCグレードのものを受理したまま使用した。
【0069】
方法:核磁気共鳴(NMR)及びフーリエ変換赤外(FTIR)分析をVarian XL-200-MHz及びMatson Cygnus 100スペクトロメーターでそれぞれ測定した。モノマー純度及びポリマーのガラス転移温度(Tg)をTA Instrments (Model 910)走査型示差熱量計(DSC)を用いて測定した。分子量はPerkin Elmer Pump (Model 410)及びWaters示差屈折計 (Model 410)からなるシステム上でゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。ポアサイズが103及び105Å(オングストローム)である二種類のPL−ゲルカラム(Polymer Laboratories)を直列に用いてTHF中1 mL/分の流速で操作を行った。分子量をポリスチレン標準に対して計算して求めた。溶媒流延ポリマーフィルムサンプルをRame-Hart gontometory (Model 100)における空気−水接触角の測定のため準備した。
【0070】
合成:J.P.Greenstein及びM.Winitz, Chemistry of the Amino Acids (John Wiley & Sons, New York 1961), p.927-929に記載されるチオニルクロリド法を使用してL−チロシンエチルエステルをL−チロシンから合成した。グリコール酸または乳酸をL−チロシンエチルエステルとEDCI・HClをカップリング剤として用いてカップリングした。得られたモノマーの、N−グリコールアミド−L−チロシンエチルエステル(GATE)及びN−ラクトアミド−L−チロシンエチルエステル(LATE)を次にホスゲンを用いてポリマー化を行い、ポリ(アミドカーボネート)を米国特許第5,099,060号に記載されるように得た。または選択した二酸(コハク酸、アジピン酸、スベリン酸及びセバシン酸)を用いてコポリマー化を行い、米国特許第5,216,115号に記載されるカルボジイミドを媒介とした直接ポリマー化技術を用いて一連のポリ(エステルアミド)を得た。
【0071】
GATEモノマー合成:グリコール酸(3.9 g, 0.052 mol)、チロシンエチルエステル(9.0 g, 0.043 mol)及びHOBt(0.174 g, 1.29 mmol)を攪拌バーを備えた100 ml丸底フラスコ中に加えた。ジメチルホルムアミド(24 mL)を加えた。すぐに均一な溶液が得られた。反応容器を外部氷水浴中で冷却し、温度を0〜4℃に保持した。EDCI・HCl(9.88 g, 0.052 mol)を添加し、混合物を4時間攪拌し、氷水浴を除去して、反応混合物をさらに8時間攪拌した。
モノマーを単離するために48 mLの酢酸エチルをフラスコに添加して20分間攪拌し、次に20 mLの0.5 M炭酸水素ナトリウム溶液を添加した。全混合物を分離用じょうごに移し、水相を除去した。ほとんどの生成物を含む残った有機相を20 mLの0.5 M炭酸水素ナトリウム溶液及び20 mLの20%(w/w)NaClで二回洗浄した。次に20 mLの0.4 M HClで三回洗浄し、20%(w/w)塩化ナトリウム溶液で三回洗浄した。これらの洗浄後、有機相はpH紙において中性であった。有機相を硫酸マグネシウム粉末により乾燥し、粉末をろ過して除去し、透明なろ液を減圧下蒸発させた。生成物は明黄色の油状物質として得られた。この油状物質に80 mLのヘキサンを加えて攪拌した。油状物質は数分のうちに結晶化して固体となった。
粗製固体を集め、80 mLのメチレンクロリドにより洗浄し、減圧下定量値となるまで乾燥した。6.8 gのGATEを白色粉末形態で、収率60%、純度99%で得た。GATEの化学的構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0072】
ポリ(GATEカーボネート)の合成:使用前に全ての器具を洗浄し、オーブン中で120℃にて乾燥した。250 mLの三つ口フラスコにオーバーヘッド攪拌機を取り付けた。GATE(4.29 g, 0.016 mol)及び36 mLのメチレンクロリドを添加した。攪拌下、ピリジン(4.85 mL, 0.064 mol)を添加し、透明な溶液を得た。反応混合物を外部氷水浴中で約4℃に冷却した。
ホスゲンのトルエン溶液(10 mL, 0.019 mol)を10 mLのシリンジを用いて添加した。注意:ホスゲンは非常に毒性であり、適する有毒物換気フード内でのみ使用しなければならない。ホスゲンの添加速度はシリンジポンプにより調整し、3.9 mL/時間に維持した。全てのホスゲンを添加した後、反応混合物をさらに90分間攪拌した。この間、反応混合物は粘性となった。その後、反応混合物を40 mLのメチレンクロリドで希釈し、沈殿したピリジニウム塩酸塩をろ過により除去した。生成物の大部分を含むろ液を800 mLの酢酸エチルで処理を行うとポリマーが沈殿した。粗製ポリマーをろ過により集め、40 mLのメチレンクロリドに溶解して400 mLのイソプロパノールから再沈殿することにより精製した。最終精製工程として、ポリマーを40 mLのテトラヒドロフランに溶解し、400 mLの蒸留水を加えて再沈殿した。ポリ(GATEカーボネート) (4.3 g)を白色粉末形態にて収率96%で得た。重量平均分子量は約20,000 g/molであった。
【0073】
ポリ(GATEアジペート)の合成:等モル量のGATE及びアジピン酸をメチレンクロライドに溶解させ、ポリ(DTEアジペート)に関する米国特許第5,216,115(実施例4)の記載に正確にポリエステル化を行った。一般的には、ポリ(GATEアジペート)は、重量平均分子量約100,000g/モルの白色粉末の形態で約50%収率で単離した。
【0074】
2つの別々のインビトロ分解実験を行って、ポリ(D,L-乳酸)に対するポリ(GATEアジペート)分解速度とポリ(DTEアジペート)分解速度とを、37℃又は65℃においてリン酸塩緩衝溶液(pH=7.4)中で溶媒キャストフィルムサンプルをインキュベートすることにより比較した。緩衝溶液は毎週交換し、分解が進行している間、緩衝溶液のpHをモニターした。分子量の保持率をGPCで測定した。各データのプロットは少なくとも2回のサンプル測定の平均である。
【0075】
結果及び考察
本発明の新規ジヒドロキシ化合物、GATE及びLATEは、脂肪族ヒドロキシ酸とアミノ酸−L−チロシンから作られたモノマーの最初の例である。これらの脂肪族−芳香族ジヒドロキシモノマーを使用して新規な分解性バイオマテリアルを開発した。最初の4つのGATE誘導交互コポリエステルは、ポリマー主鎖のメチレン基の数が異なることを除いて化学構造が似ている。
【0076】
【表1】

【0077】
構造がわずかに異なることにより、ポリマーのバルク及び表面特性が大きく異なる(表II)。ポリマー主鎖のメチレン基の数が増えるとガラス転移点(Tg)は低下した。これは、沢山のメチレン基が存在するとポリマー主鎖の柔軟性を増加させるためであると考えられる。しかしながら、ポリマー表面で測定した空気−水接触角(θ)も、ポリマー主鎖のメチレン基の数が増加するにつれて低下した。この結果は、メチレン基をポリマー構造に加えると、ポリマー表面の疎水性を反映する接触角は大きくなるはずなので、予想外であった。明らかに、ポリマー表面での官能基(アミド基等)の選択的な転位のため、ポリマー表面の組成はポリマーバルクの組成とは異なる。
【0078】
ポリ(GATEアジペート)のインビトロ分解速度を、pH=7.4及び65℃において加速分解実験において、ポリ(D,L−乳酸)と比較した。両ポリマーは、類似のポリエステル主鎖を有するアモルファス材料なので、基本的な分解機構は合理的に比較できると考えられる。
最も有意な知見は、ポリ(GATEアジペート)はポリ(D,L−乳酸)よりもゆっくりと分解したことである(図1)。また、(D,L−乳酸)とは異なり、ポリ(GATEアジペート)は環境pHを変化させなかった。今日、幾つかの分解性移植材料の炎症反応は、高濃度の酸性分解物質と相関すると一般的に受け入れられている。従って、広く用いられているポリ(D,L−乳酸)と比較して、本発明の新規ポリ(GATEアジペート)はより分解速度が遅く、酸性分解物質の放出量が十分少ない。
【0079】
ポリ(DTEアジペート)及びポリ(GATEアジペート)の分解を37℃で比較して患者の体内における条件の模擬実験をした。この実験は、実質的には水不溶性であり疎水性のDTE(デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)をより水溶性の親水性GATEとポリマー構造内で置換すると、観察される対応するポリマーの分解速度は現実に高くなるという事実を説明している。
【0080】
ポリ(DTEアジペート)及びポリ(GATEアジペート)のフィルムサンプルを製造し、インキュベートしたサンプルの分子量を周期的に130日まで測定した。図2に見られるように、ポリ(GATEアジペート)はポリ(DTEアジペート)よりも早く分解した。
【0081】
【表2】

【0082】
産業上の有用性
本発明の新規ポリマーは、組織工学用新規骨格材料及び薬剤放出システムを含む医用用途に有用である。
【0083】
上述の実施例及び好ましい態様の記載は、請求の範囲により規定される本発明を具体的に示すためのものであり、限定するものではない。容易に理解されるように、請求の範囲に記載した本発明から離れることなく、上述の構成を多数変更し、組み合わせて利用することができる。そのような変更は本発明の趣旨及び範囲から離れるものとはみなされず、そのような変更は全て以下の請求の範囲の範囲内に含まれるものとする。
【0084】
関連する出願の相互参照
本件出願は、1997年2月18日に出願した米国仮出願第60/038,213号;1997年11月7日に出願した第60/064,656号;1997年11月7日に出願した願第60/064,905号の利益を享受するものである。これらの3件の出願の開示内容は全て本件明細書に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】

(式中、
1及びR2は、独立に、水素及び18個までの炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基からなる群から選択され、
3は、−CH=CH−及び(−CH2−)k(kは0と6との間にある)からなる群から選択され、
各Zは、独立に、臭素又はヨウ素であり、
dは、1又は2であり、
nは、0、1又は2であり、そして
Xは、水素であるか、又は、式:−C(=O)O−Y
(式中、Yは、18個までの炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基及びアルキルアリール基からなる群から選択される。)
で示される側鎖基である。)
で示されるジヒドロキシ化合物。
【請求項2】
nが0であり、かつR1及びR2が独立に、水素及びメチル基からなる群から選択される請求項1に記載のジヒドロキシ化合物。
【請求項3】
1及びR2が共に水素である請求項2に記載のジヒドロキシ化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−6820(P2010−6820A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188682(P2009−188682)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【分割の表示】特願2008−178161(P2008−178161)の分割
【原出願日】平成10年2月18日(1998.2.18)
【出願人】(500478400)ラットガーズ ザ ステイト ユニヴァーシティ (2)
【Fターム(参考)】