説明

ヒドロゲルのパターン化および細胞培養物品

パターンコーティングされた基板を形成する方法は、多糖系ポリマーを含む組成物を基板上に配置してコーティング基板を作出する工程を有してなる。多糖系ポリマー組成物は実質的に架橋モノマーを含まない。本方法は、コーティング基板の一部をUV照射の第1の放射線量に曝露して、多糖系ポリマーの架橋を誘起する工程をさらに有し、ここで、基板の一部がイオン化放射線から遮蔽される。UVに曝露されたコーティング基板は、架橋していない多糖系ポリマーを除去するため、洗浄または水和されて差し支えない。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年8月26日出願の米国仮特許出願第61/237,098号の米国特許法(35U.S.C.)第119(e)条に基づく優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ヒドロゲル、特に多糖系のヒドロゲルのパターン化方法、および、パターン化されたヒドロゲルを有する細胞培養物品などの物品に関する。
【背景技術】
【0003】
パターン化されたヒドロゲルは、センサ、細胞培養および組織工学を含めたさまざまな用途に用いられている。温度、pH、塩分濃度およびグルコース濃度などの刺激に応えて可逆的に変化できる膨潤挙動に起因して、ヒドロゲルは、センサとして、またはセンサの構成要素としての役割を果たしうる。それらのモジュラスおよび親水性はプラスチックに比べて組織によく似ていることから、ヒドロゲルは、細胞培養、アッセイおよび組織工学の分野において関心が寄せられている。
【0004】
パターン化したヒドロゲルを製造するには多くの方法が存在する。これらの方法の多くは、開始剤を用い、フォトマスクを利用してモノマーを光硬化し、その後に未反応のモノマーおよび開始剤、ならびに、ヒドロゲルポリマーの生産に使用される可能性のある重合防止剤もしくは他の成分または試薬を洗い流す工程を取り入れている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、とりわけ、架橋性ポリマーから形成されたパターン化したヒドロゲルについて記載する。さまざまな実施の形態では、多糖系ポリマーなどのポリマーは、光開始剤、硬化性ポリマー、および有害または毒性の溶媒または材料を使用することなく、光架橋される。したがって、このような成分または試薬を除去するための洗浄工程は、低減されうるか、あるいは完全に排除されうる。
【0006】
さまざまな実施の形態では、本開示は、パターンコーティングされた基板を形成する方法を提供する。本方法は、多糖系ポリマーを含む組成物を基板上に配置してコーティング基板を作出する工程を有してなる。多糖系ポリマー組成物は、実質的に架橋モノマーを含まない。本方法はさらに、前記コーティング基板の一部をUV照射の第1の放射線量に曝露して前記多糖系ポリマーの架橋を誘起する工程をさらに含み、ここで、前記基板の一部は前記イオン化放射線から遮蔽される。UVに曝露されたコーティング基板を洗浄または水和して、架橋していない多糖系ポリマーを除去してもよい。
【0007】
本方法は、架橋した多糖系ポリマーの少なくとも一部および最初に遮蔽されたコーティング基板の少なくとも一部を第2の放射線量のUV照射に曝露して、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を製造する工程をさらに含みうる。代替として、または加えて、本方法は、前記コーティング基板の少なくとも一部および前記コーティング基板の少なくとも一部をUV照射にあらかじめ曝露し、その後に第1の放射線量のイオン化放射線に曝露し、その後、第1の放射線量のイオン化放射線から遮蔽して、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を製造する工程をさらに含みうる。
【0008】
本方法は、パターン化したヒドロゲル層を有するさまざまな物品の製造に使用して差し支えない。一部の実施の形態では、本方法は、パターン化したヒドロゲル層を有する細胞培養物品の製造に使用される。
【0009】
ヒドロゲルをパターン化する従前の方法に対する本明細書に提示される1つ以上のさまざまな実施の形態の利点は、添付の図面と併せて解釈する場合に、以下の詳細な説明に基づいて、当業者に容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】パターン化したヒドロゲル層の製造方法の略図。
【図2】パターン化したヒドロゲル層の製造方法の略図。
【図3】パターン化したヒドロゲル層の製造方法の略図。
【図4】パターン化されたヒドロゲル層でコーティングされた表面を有するウェルを備えた細胞培養物品の断面の概略図。図4Aでは、ウェルはコーティングされておらず、図4B〜Cでは、ウェルまたはその一部がコーティングされている。
【図5】本明細書に記載の方法に従って製造したパターン化ヒドロゲル表面の実施例の光学顕微鏡写真。図5Aおよび5Cでは、クリスタルバイオレット染色を利用して、架橋領域を示している。図5Dは、図5Cに示すパターン化表面を作出するために使用したフォトマスクの光学顕微鏡写真である。
【図6】図6A〜Bは、本明細書に記載の方法に従って製造したパターン化ヒドロゲル表面の実施例の原子間力顕微鏡画像である。
【図7】図7Aは、架橋領域を示すためにクリスタルバイオレット染色を利用した、本明細書に記載の方法に従って製造したパターン化表面の光学顕微鏡写真である。
【0011】
図7Bは、図7Aに示すパターン化表面の作出に使用したパターン化スクリーニング装置の概略図であり、パターンがいかにして作出されるかを例示している。
【図8】図8Aは、図7Aに示すパターンのすべての高さを含む交差の光学顕微鏡写真であり、図8Bは、図7Aに示すパターンのすべての高さを含む交差の原子間力顕微鏡で得られた画像である。
【図9】図9は、架橋領域を示すためにクリスタルバイオレット染色を利用した、本明細書に記載の方法に従って製造したパターン化表面の光学顕微鏡写真である。
【図10】図10は、本明細書に記載の方法に従って製造したパターン化表面の原子間力顕微鏡画像を提供する。上の2つの画像は、UVで3分間処理したヒドロキシエチルセルロース(HEC)層の水和(A)および乾燥(B)画像であり、高さにおける10倍の差異(膨潤の7.3μmに対し乾燥では700nm)を示している。下の3つの画像は、10分間(C)、5分間(D)および3分間(E)、UV処理したHECサンプルの高さプロファイルを示している。
【0012】
図面は必ずしも縮尺に従っていない。図に用いられる同様の参照数字は同様の要素、工程などを指定している。しかしながら、所定の図における要素について言及するための数字の使用は、同一の数字を付した別の図面における要素を限定することは意図しておらず、異なる数字を使用して要素について言及していたとしても、異なる数字が付された要素同士が同一または同様であり得ないことを示唆することは意図していないことが、当然に理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面について述べるが、それらは、装置、システムおよび方法の幾つかの特別な実施の形態の例証として示されている。他の実施の形態も意図されており、それらは、本開示の範囲または精神から逸脱することなくなされうることも理解されよう。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0014】
本明細書で用いられるすべての科学用語および技術用語は、他に特記しない限り、当技術分野で通常用いられる意味を有する。本明細書に提示される定義は、本明細書に頻繁に用いられる幾つかの用語の理解を促すことを目的としており、本開示の範囲を限定することは意味しない。
【0015】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、「または」という用語は、そうでないことが明確に指示されていない限り、一般に、「および/または」を含む意味で用いられる。
【0016】
本明細書では、「有する」、「有している」、「含有する」、「含有している」、「含む」、「含んでいる」などは、オープンエンドの意味で用いられ、一般に、「限定はしないが、含む」ことを意味する。「実質的に〜からなる」、「〜からなる」などは、「含む」などに含まれることも理解されよう。したがって、多糖系ポリマーを含む組成物は、多糖系ポリマーからなる、または実質的に多糖系ポリマーからなる組成物でありうる。
【0017】
本明細書では「ヒドロゲル」とは、その乾燥重量の30%以上の量の水を吸収することができるポリマーを意味する。多くの実施の形態では、ヒドロゲルは、その乾燥重量の100%以上の量の水を吸収することができる。当然ながら、ヒドロゲルポリマーが吸収することができる水の量はポリマーの架橋の度合いに応じて変化しうるが、架橋の割合が大きくなると、水の吸収または膨潤の低下を生じる場合が多い。
【0018】
本明細書では「パターン化したヒドロゲル」とは、意図したトポグラフィ特性を備えた表面を有するヒドロゲル層を意味する。
【0019】
本明細書では「多糖系ポリマー」とは、連結した単糖単位骨格を有するポリマーを意味する。例えば、ポリグルコース系ポリマーは、連結したグルコース単位の骨格を有するポリマーである。さらなる例として、セルロース系ポリマーは、β(1→4)結合するグルコース単位骨格を有するポリマーである。当然、多糖系ポリマーのペンダント部分は、天然の単糖について、必要に応じて置換されて差し支えない。例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)はすべて、セルロース系ポリマーとみなされる。
【0020】
本開示は、とりわけ、架橋性ポリマーから形成されるパターン化したヒドロゲルについて記載する。典型的には、パターン化したヒドロゲルは、開始剤を用い、フォトマスクを介してモノマーを光硬化し、その後、未反応のモノマーおよび開始剤、ならびにヒドロゲルポリマーの製造に使用される可能性のある重合防止剤もしくは他の成分または試薬を洗い流すことによって形成される。しかしながら、本明細書で説明するように、水溶性の多糖系ポリマーなどのポリマーは、光架橋して、パターン化したヒドロゲル表面を形成することができることが見出された。水溶性の多糖系ポリマーは、光開始剤を使用せず、架橋モノマーの添加なしにUV照射に曝露すると架橋する。したがって、一部の実施の形態では、未硬化のモノマーおよび開始剤などの成分または試薬を除去する洗浄工程が、軽減または完全に排除されうる。
【0021】
適切な水溶性の架橋性多糖系ポリマーは、本明細書に記載のパターン化したヒドロゲルの製造に使用して差し支えない。さまざまな実施の形態では、多糖系ポリマーは、セルロース系ポリマーなどのポリグルコース系ポリマー、デキストラン系ポリマー、アミロース系ポリマー、またはヒドロキシエチルデンプンなどのデンプン系ポリマーなどである。一部の実施の形態では、多糖系ポリマーは、キシラン系ポリマーなどのポリキシロース系ポリマーである。
【0022】
さまざまな実施の形態では、ポリグルコース系ポリマーは、式I:
【化1】

【0023】
に従った構造を有し、ここで、
各Rは、独立して、
(i)OXであって、ここでXは、H、C1−C3直鎖または分岐鎖アルキル、C1−C5直鎖または分岐鎖アルコキシである;か、または、
(ii)YOXであって、ここでXは上述の通りであり、YはC1−C3アルキルである。
【0024】
例えば、Rは、OH、OCH3、CH2OCH2CH2OH、OCH2CH2OH、CH2OCH(CH3)OCH2CH(CH3)OH、OCH2CH(CH3)OH、CH2OCH3、またはCH2OCH2CH(CH3)OHであって差し支えない。
【0025】
さまざまな実施の形態では、上記ポリグルコース系ポリマーは、疎水的に改質されていて差し支えなく、ここで、C16またはC18アルキルなどのC10以上のアルキルが、1つ以上の利用可能なヒドロキシル基を介して置換され、エーテル結合を形成する。
【0026】
当然、他の多糖系ポリマーも同様に置換されうる。例えば、ポリキシロース系モノマーは、下記式IIに示すようにキシロース単位から形成され、ここで、ポリマー骨格の一部ではない各Rは、独立して、式Iのポリグルコース系ポリマーに関して上述したようになる:
【化2】

【0027】
多糖系ポリマーは、当技術分野で既知の方法に従って合成して差し支えなく、あるいは、Sigma−Aldrich、Dow、またはAqualonなどの適切な供給業者から入手してもよい。
【0028】
さまざまな実施の形態では、多糖系ポリマーは中性ポリマーである。荷電した多糖類は、架橋した後でさえ、適切なヒドロゲルを形成するには水に溶解し過ぎると考えられる;すなわち、架橋していないポリマーの除去を目的とした洗浄または水和は、結果として、荷電した架橋ポリマーの除去も生じさせてしまいかねない。
【0029】
当然、架橋密度は、使用するポリマーの分子量の影響を受けうる。例えば、高分子量ポリマーは、低分子量ポリマーよりも高い架橋密度をもたらすと考えられる。
【0030】
一部の実施の形態では、多糖系ポリマーは、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)またはそれらの疎水的に改質された誘導体からなる群より選択されるセルロース系ポリマーである。現在、Sigma−Aldrich、Dow、およびAqualonを含めた供給業者がさまざまなセルロースポリマーを提供している。例として、HECに関し、(i)SIGMA−Aldrich社は、約90kDa、約250kDa、約720kDa、または約1,300kDaの平均分子量を有するHECを提供しており、(ii)Dow社は、約1100〜約6000cPの範囲の1%ブルックフィールド粘度を有するさまざまなHEC製品、および、ペンダント・疎水性基を備えたHEC骨格を有する疎水性に改質したHEC(CELLOSIZE HMHEC 500)であるHMHECを提供しており、(iii)Aqualon社は、Natrosol 250というHEC、および、ペンダント・セチル基を有する、PolySurf 67というHMHECを提供している。
【0031】
図1〜3を参照すると、パターン化したヒドロゲルを形成するさまざまな方法が概略的な形態で示されている。図1および図2に示すように、基板10の表面の少なくとも一部は、水溶性の多糖系ポリマー20でコーティングされる(ステップA)。次に、UV光33の透過を可能にする領域およびUV光35の透過を遮断する領域を有する、パターン化したUV遮蔽30が多糖系ポリマー層20の上に設置され、得られた組立体はUV照射に曝露される(ステップB)。UV光33の透過を可能にする、パターン化した遮蔽の領域の真下にある多糖系ポリマー層20の一部はUV照射に曝露され、UV光35を遮断するパターン化遮蔽の領域の真下にある多糖系ポリマー層20の一部はUV照射から遮蔽される。UV照射に曝露された層20の一部は架橋を生じ、一方、保護された部分はUV誘起性の架橋を生じない。パターン化遮蔽30は取り外され(ステップC)、この点で、図1〜2に示す概略的方法は異なっている。
【0032】
図1に示す方法では、パターン化遮蔽30は取り外され(ステップC)、架橋された領域と架橋されていない領域とを有する得られた多糖系ポリマー層20’は水和または洗浄されて、架橋されていないポリマーが除去され、パターン形状25を有するパターン化架橋ポリマーが残る(ステップD)。
【0033】
図2に示す方法では、パターン化遮蔽30は取り外され(ステップC)、得られた多糖系ポリマー層全体がさらなるUV照射に曝露される(ステップE)。得られたポリマー層20’’は、比較的大量の架橋を有する領域(所定の位置に遮蔽を用いて曝露し、遮蔽を取り外した領域)および比較的少量の架橋を有する領域(遮蔽が取り外されたときにのみ曝露された領域)を有する。水和の際(ステップD)、比較的大きい架橋密度22を有する領域は、比較的小さい架橋密度24を有する領域と同じ程度には膨潤せず、パターン化された層を残す。
【0034】
当然、図2に示す方法は、異なる順番で行ってもよいことが理解されよう。例えば、層の上にパターン化遮蔽を設置する前に、多糖系ポリマー層全体をUV光に曝露することもできよう。層全体のUV光への曝露に加えて、または代替として、当然ながら、2つ以上の遮蔽を使用してもよく、遮蔽は、異なる架橋密度をもたらすために、UV透過を可能にする重複した領域を有していてもよい。
【0035】
図3を参照すると、多糖系ポリマーを含めた2つの層を用いた方法の概観が示されている。図示した実施の形態では、基板10の上に設置された多糖系ポリマーヒドロゲル層20は、層20の一部がパターン化したUV遮蔽の非UV透過性部分35によってUV照射から遮蔽された状態で、UV照射に曝露される。第2の多糖系ポリマーのヒドロゲル層40は、UV照射された第1の層20’上に設置され、第2の層40は、層40の一部がパターン化したUV遮蔽の非UV透過性部分35によってUV照射から遮蔽された状態で、UV照射に曝露される(ステップA)。第2の層40は、第1の層20と同一の組成または異なる組成であって差し支えない。水和または洗浄の際(ステップB)、得られたトポグラフィ表面は、第1の層が曝露された領域28(第2の層はUVから保護)、基板10が曝露された領域18(第1および第2の層はUVから保護)、第2の層が曝露された領域45(第2の層はUVに曝露)を備えうる。第1のヒドロゲル層は、UV照射から遮蔽された領域か、または第1の放射線量でUV照射に曝露された領域かに応じて、架橋密度が高い領域28および低い領域27を有しうる。よって、得られた表面は、水和の際に、さまざまな高さおよび曝露材料を有しうる。当然ながら、さまざまな他の表面のトポグラフィおよび特徴は、追加の多糖系ポリマー層を使用することによって、1つ以上の層が、異なるパターンの遮蔽に曝露されることによって、すなわち、異なる量のUV照射などに曝露されることによって得られうることが理解できよう。さらには、層の組成、層の厚さ、および層またはそれらの一部が曝露されるUV光の量は、表面のトポグラフィまたは特性に影響を与えうる。
【0036】
多糖系ポリマー層は、適切な方法で、基板表面または下部の多糖系ポリマー層に設置されて差し支えない。例えば、多糖系ポリマーは、乾燥粉末の状態で基板上に配置して差し支えなく、溶液、ゲルまたは懸濁液などの状態で基板に注ぐか流し込んでもよい。ヒドロゲルを形成する多糖系ポリマーは水溶性の傾向があることから、水は、基板表面に施用するための溶液、ゲルまたは懸濁液を作出するための溶媒として使用されうる。当然、他の溶媒も使用して差し支えない。
【0037】
多糖系ポリマー組成物は、溶媒を適切な濃度で懸濁または溶解させうる。組成物は、基板または下部層、またはそれらの所望の一部を均一にコーティングまたはカバーすることが好ましい。多糖系ポリマー層の濃度または厚さは、得られたパターン化ヒドロゲル層の所望の特性を達成するために変化させることができることが理解されよう。さまざまな実施の形態では、多糖系ポリマーは、0.005%〜20重量%の濃度で溶媒に懸濁または溶解する。例えば、多糖系ポリマーの濃度は、0.01%〜10重量%、0.1%〜1%、0.1%〜0.5%、約0.2%などでありうる。
【0038】
多糖系ポリマー組成物は、実質的に架橋モノマーを含まない。例として、約1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%未満、または0.01重量%未満の架橋モノマーを有する多糖系ポリマー組成物は、架橋モノマーを実質的に含まないと考えられよう。同様に、多糖系ポリマー組成物は光開始剤を実質的に含まないであろう。
【0039】
さまざまな実施の形態では、溶液、懸濁液、またはゲルは、UV処理の前に蒸発させ、乾燥させる。一部の実施の形態では、溶液、懸濁液、ゲルなどは、5重量%未満、2重量%未満、または1重量%未満の水しか含まないように乾燥させる。加熱または真空を利用して蒸発を促進させてもよい。例えば、コーティング基板は、約40℃〜約70℃、または約60℃で静置して差し支えない。水よりも揮発性の溶媒を用いて、蒸発プロセスを促進させてもよい。
【0040】
多糖系ポリマー層の一部をUV照射に供するために、適切なパターン化したUVスクリーンを用いることもできる。パターン化したUVスクリーンは、穴を備えたフォトマスクまたは他の不透明なプレートであって差し支えなく、あるいは、UV光が規定のパターンを通過するように透明であってもよい。例として、フォトマスクは、UV透過性の開口部またはパターン化した空隙を備えた鋼鉄から形成して差し支えなく、または、UV不透過性のNiまたはFeパターンを備えた石英から形成してもよい。
【0041】
パターン化UVスクリーンは、架橋性の多糖層に直接接触させて設置するか、またはその層のごく近くに設置することができる。典型的には、UVスクリーンが架橋性の多糖系ポリマーの近くに配置されると、達成されるパターンの解像度は良好になる。
【0042】
所定の位置にパターン化UVスクリーンを備えた、または備えていない、架橋性の多糖系ポリマー層を、適量のUV光に曝露することができる。UV光の強度またはUVへの曝露時間は、所望の架橋量を達成するために変化させることができる。多くの実施の形態では、架橋性の多糖系ポリマー層は、約50〜約300mJ/cm2のUV照射に、約1分〜約20分間、曝露される。
【0043】
架橋性の多糖系ポリマー層は、適切な基板上に施用されうる。基板は、当然、パターン化したヒドロゲルをコーティングする装置の最終的な実用性に応じて変化しうることが理解されよう。適切な基板の例としては、セラミック基板、ガラス基板、プラスチックまたは他のポリマー性基板、またはそれらの組合せが挙げられる。一部の実施の形態では、基板は、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコールガラス、石英ガラス;ケイ素などのガラス材料である。一部の実施の形態では、基板は、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニル・アルコール)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(酢酸ビニル−co−無水マレイン酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、環状オレフィンポリマー、フッ化炭素ポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンイミンなどの樹枝状ポリマー;ポリ(酢酸ビニル−co−無水マレイン酸)、ポリ(スチレン−co−無水マレイン酸)、ポリ(エチレン−co−アクリル酸)またはこれらの誘導体などの共重合体を含めた、プラスチックまたはポリマーである。
【0044】
基板は、基板表面とコーティングした多糖系ポリマー層との相互作用を強化するため、または、表面に望ましい特性を付与するために、処理またはコーティングされうる。例えば、基板表面は、イオン化、加熱、光活性化、酸の酸化、焼結、物理的気相成長法、化学蒸着、および強い有機溶媒を用いたエッチングなどを介して活性化されうる。一部の実施の形態では、基板表面はプラズマまたはコロナ処理される。
【0045】
パターン化したヒドロゲルを用いた物品(すなわち、機器または装置)は、本明細書に提示される教示に従ってコーティングすることができる。さまざまな実施の形態では、細胞培養物品は、本明細書に記載のパターン化された多糖系ヒドロゲル層を備える。パターン化したヒドロゲル層を施用して差し支えない細胞培養物品の例としては、単一ウェルプレートおよび6、12、96、384、および1536ウェルプレートなどのマルチウェルプレート、広口瓶、ペトリ皿、フラスコ、多層化フラスコ、ビーカー、プレート、ローラーボトル、チャンバ化および多重チャンバ化培養スライドなどのスライド、管、カバーガラス、バッグ、膜、中空糸、ビーズおよびマイクロ担体、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバ、バイオリアクタ、CellSTACK(登録商標)および発酵槽などが挙げられる。
【0046】
多くの実施の形態では、パターン化したヒドロゲル層が施用される細胞培養物品の表面は、ウェル内の表面である。ウェルを有する細胞培養物品の例としては、プレート、フラスコ、ビーカー、瓶、バッグ、チャンバ、発酵槽などが挙げられる。図4を参照すると、基板またはベース材料10から形成された細胞培養物品100は、1つ以上のウェル50を備えうる。ウェル50は、側壁18および表面15を備えている。図4B〜Cを参照すると、パターン化したヒドロゲル・コーティング20は、表面15または側壁18、またはそれらの一部に配置されうる。
上述のパターン化したヒドロゲル層を有する細胞培養物品には、細胞が播種されうる。細胞は、どのような細胞型であってもよい。例えば、細胞は、結合組織細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、骨細胞または平滑筋細胞、心筋細胞、腸細胞、腎細胞、または他の臓器に由来する細胞、幹細胞、島細胞、血管細胞、リンパ球、癌細胞、一次細胞、細胞株などでありうる。細胞は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞でありうるが、細菌、酵母、または植物細胞などの非哺乳類細胞であってもよい。ヒドロゲルのパターン化表面は、接着細胞の培養に特に適しているであろう。
【0047】
態様(1)では、多糖系ポリマーを含む組成物を基板上に配置してコーティング基板を作出し、ここで前記組成物は実質的に架橋モノマーを含まず;前記コーティング基板の一部を第1の放射線量で紫外線放射に曝露して、前記多糖系ポリマーの架橋を誘起し、ここで、基板の一部が前記イオン化放射線から保護される、パターンコーティングされた基板を形成する方法が提供される。態様(2)では、前記コーティング基板を洗浄して、架橋していない多糖系ポリマーを除去する工程をさらに有してなる、態様1の方法が提供される。態様(3)では、前記架橋した多糖系ポリマーの少なくとも一部および最初に遮蔽されたコーティング基板の少なくとも一部を、第2の放射線量の紫外線放射に曝露して、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を製造する工程をさらに有してなる、態様1または2の方法が提供される。態様(4)では、前記コーティング基板の少なくとも一部をイオン化放射線にあらかじめ曝露し、その後に、第1の放射線量の紫外線放射に曝露し、前記コーティング基板の少なくとも一部をその後に第1の放射線量の紫外線放射から遮蔽して、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を作出する工程をさらに有してなる、態様1〜3のうちいずれか1つの方法が提供される。態様(5)では、前記多糖系ポリマーがポリグルコース系ポリマーまたはポリキシロース系ポリマーである、態様1〜4のうちいずれか1つの方法が提供される。態様(6)では、前記ポリグルコース系ポリマーが、 セルロース系ポリマー、デキストラン系ポリマー、またはアミラーゼ系ポリマーから選択される、態様1〜5のうちいずれか1つの方法が提供される。態様(7)では、前記多糖系ポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、デキストラン、およびキシラン、またはそれらの疎水的に改質された誘導体からなる群より選択される、態様1〜6のうちいずれか1つの方法が提供される。態様(8)では、細胞培養物品が前記基板を提供する、態様1〜7のうちいずれか1つの方法が提供される。
【0048】
さらなる態様(9)では、細胞培養物品の表面をパターンコーティングするための方法であって、物品の表面に多糖系ポリマーを含む組成物を配置してコーティングした表面を生成し、ここで、前記組成物は実質的に架橋モノマーを含まず;コーティングした表面の一部を紫外線放射に曝露して前記多糖系ポリマーの架橋を誘起し、ここで、基板の一部が前記イオン化放射線から保護される、各工程を有してなる方法が提供される。態様(10)では、前記コーティング基板を洗浄して、架橋していない多糖系ポリマーを除去する工程をさらに有してなる、態様9の方法が提供される。態様(11)では、前記架橋した多糖系ポリマーの少なくとも一部および前記最初に遮蔽されたコーティング基板の少なくとも一部を第2の放射線量で紫外線放射に曝露して、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を生じる工程をさらに有してなる、態様9または10の方法が提供される。態様(12)では、前記コーティング基板の少なくとも一部をイオン化放射線にあらかじめ曝露し、その後に、第1の放射線量の紫外線放射に曝露し、前記コーティング基板の少なくとも一部が、その後、第1の放射線量の紫外線放射から遮蔽されて、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板が作出される工程をさらに有してなる、態様9〜11のいずれかの方法が提供される。態様(13)では、前記多糖系ポリマーが、ポリグルコース系ポリマーまたはポリキシロース系ポリマーである、態様9〜12のうちいずれかの方法が提供される。態様(14)では、前記ポリグルコース系ポリマーが、セルロース系ポリマー、デキストラン系ポリマー、またはアミラーゼ系ポリマーから選択される、態様9〜13のうちいずれかの方法が提供される。態様(15)では、前記多糖系ポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、デキストラン、およびキシラン、またはそれらの疎水的に改質された誘導体からなる群より選択される、態様9〜14のうちいずれかの方法が提供される。さらなる態様(16)では、態様9〜15のうちいずれかの態様の方法によって製造された細胞培養物品が提供される。
【0049】
さらなる態様(17)では、細胞を培養するためのパターン化表面を備えた細胞培養物品であって、前記表面が、架橋した多糖系ポリマーから実質的になるコーティングから形成され、前記コーティングが架橋モノマーを含まない、細胞培養物品が提供される。態様(18)では、前記多糖系ポリマーが、ポリグルコース系ポリマーまたはポリキシロース系ポリマーである、態様17の物品が提供される。態様(19)では、前記ポリグルコース系ポリマーが、セルロース系ポリマー、デキストラン系ポリマー、またはアミラーゼ系ポリマーから選択される、態様17または18の物品が提供される。ある態様では、多糖系ポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、デキストラン、およびキシラン、またはそれらの疎水的に改質された誘導体からなる群より選択される、態様17〜19のうちいずれか1つの態様の物品が提供される。
【0050】
次に、パターン化したヒドロゲル表面を製造する代表的な方法および本方法によって製造される物品のさまざまな実施の形態を説明する、非限定的な例を提示する。
【実施例】
【0051】
実施例1:基板上のヒドロゲル
水(0.2重量%、1〜2mL)中、PolySurf67(Aqualon社製)、セチル置換を有する疎水的に改質されたヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、または別の水溶性の架橋性ポリマー(ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、デキストラン、キシラン、または2−ヒドロキシエチルセルロース)の溶液を、6ウェルのポリスチレンプレートに流し込んだ。Aqualon社の製品カタログ(Polymers for Hair and Skin Care - Aqueous system solutions for cosmetic and personal care products、250-50F、REV. 02-08)によれば、HMHECは、最初に、アルカリセルロースとエチレンオキシドと標準的な反応を行ってHECを生成し、次に、セチル置換を行って疎水性末端基を得る、2段階反応で製造される。PolySurf67は、8000〜14,000のブルックフィールド粘度(1%溶液、cps)を有し、550,000の平均分子量を有する。
【0052】
PolySurf67または他の水溶性の架橋性ポリマーの溶液を蒸発させて乾燥し(60℃)、周囲条件下、10分間、コーティングから約1.5インチ(3.81cm)のところで、UVオゾンバルブを用いてUV処理した(185/254nm)。フォトマスク[PPM Photomask Inc.社製(カナダ国H4T1J6ケベック州モントリオール、フィッシャーストリート4950所在)]の除去の際、UV照射後にフィルムには外観的な変化はなかった。特徴は、水の添加の際、または、フィルムが高湿度の領域に曝露された場合にのみ見られた。水を加えると、架橋した領域は膨潤し、架橋していない部分は溶解してしまう。溶解プロセスは温度上昇によって増進しうる(40〜60℃)。60℃では、水の存在下、架橋したヒドロゲルのみが表面に残る。
【0053】
別の実施例では、1mLのTMOSを、100mLの0.5% HEC溶液(2−ヒドロキシエチルセルロース、Sigma Aldrich社製、MW=250kDa)に撹拌しながら加えた。これは、指定された2倍のTMOS/HECである。しかしながら、適量のTMOSであれば任意の量でHEC溶液に加えることができる。必要に応じて、例えば、0.05倍〜4倍のTMOSのHEC溶液を容易に調製することができる。2倍のTMOS/HEC溶液を乾燥したHEC層上にコーティングし、UV光に10分間、曝露した。光源は、6ウェルプレートの底部表面から約4インチ(10.16cm)離れていた。HECは、層上にさまざまなパターンを得るため、さまざまな時間、UV光に曝露することができる。パターン化したマスクを利用して、UV処理の間に入るUV光を遮り、さまざまなパターンを得た。
【0054】
図5Aおよび5Bに見られる画像では、円形の開口部を有するフォトマスクが用いられ、HECがUV照射に曝露され、図1Aにおけるクリスタルバイオレット染色でも明らかなように、HECに架橋が現れた。クリスタルバイオレット染色を用いていない図5Bの画像に示すように、架橋した領域は、陰影から分かるように、トポグラフィの高さを有する。
【0055】
図5Cおよび5Dの画像は、クリスタルバイオレットを用いた、パターン化しコーティングしたヒドロゲル(5C)、および、パターンを作り出すのに用いたフォトマスク(5D)である。図5Cに示す結果は、これも、多糖系ポリマーがUV照射に曝露されたときに架橋する能力があることを裏付けている。ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、デキストラン、キシラン、および2−ヒドロキシエチルセルロースを含めた他の水溶性の架橋性ポリマーにも同様の結果が観察された(データ示さず)。
【0056】
利用可能な側面の形状が、キャストフィルムの品質、フィルムとマスクとの距離、および、散乱をいかに良好に防ぐことができるかを含めたさまざまなパラメータに基づいて制限されることが観察された。例えば、線幅20μmのUVマスクを使用すると、〜50μmの特徴を生じる(クリスタルバイオレット染色により視覚化)。解像度は、ポリマー溶液を流し入れる前にろ過して、光を散乱する可能性のある粉塵または微粒子を除去することによって改善することができると考えられる。さらには、微粒子の存在に起因するフィルムのむらは、マスクとフィルムの間のギャップを増大させる可能性があり、特に、境界におけるUV光の遮断を不完全にし、したがって、得られたパターンの解像度を低下させる。コリメータの使用によってパターンの解像度を改善することもできよう。図5A〜Dに示す画像に示す結果をもたらす実験は、コリメータを使用せずに行われた。
【0057】
UV架橋した領域は、光学顕微鏡によって容易に可視化するためにクリスタルバイオレットで染色することができ(図5)、あるいは、形状が小さすぎる場合には、トポグラフィは、原子間力顕微鏡を用いて観察することができる(図6)。
【0058】
図6A〜Bに提示する画像は、原子間力顕微鏡(AFM)によって画像化したパターン化ヒドロゲル表面の例を示しており、ヒドロゲルポリマーのUV照射によって小さい形状を獲得することができることを示している。図6A〜Bに示す形状は、約50μm〜75μmの範囲である。
【0059】
実施例2:ヒドロゲルのトポグラフィ
実施例1に記載のキャストフィルムを、フォトマスク(PPM Photomask社から市販されるパターン化石英)の存在下でUV処理した。次に、フォトマスクを取り外し、フィルムを別の放射線量のUV照射に供した(さらに1〜4分間)。実施例1のHECフィルムと同様に、水和の際に特徴が現れ、ここで、より架橋された領域(マスクの取り外し前及び後の両方でUVに供された領域)は、もっと軽度に架橋された領域(それらの領域はマスクの取り外し後にのみ、UVに供された)と同程度には膨潤しないことから、くぼんで見える。異なる領域の相対的高さは、コーティングした材料の量またはUV曝露時間のいずれかを変化させてバランスを調整することができることが認識されよう(例えば、下記実施例4参照)。
【0060】
実施例3:多層化構造
実施例1または実施例2に記載の手順を用いて、多層化または多機能構造を形成することも可能である。例えば、第1のポリマーフィルムを流し入れ、UVおよびフォトマスクで処理して差し支えない。しかしながら、フィルムの洗浄または水和の代わりに、ポリマーの第2の層を第1の層の上面に流し込むこともできる。第2の層は、別のフォトマスクを使用して処理することもでき、マスクを取り外して水和および洗浄する際に、表面は:1)第1または第2の層のいずれもUVに曝露されない場合には、露出した基板、2)第2の層がUV処理に晒された第2のポリマー層(しかしながら、第1の層がUV処理されたか否かによって高さの差は存在する)、および3)第1のポリマーはUV処理に供されたが、第2の層は供されずに流し出された、第1のポリマー層を含みうる。
【0061】
これらの方法に従って製造したパターン化したヒドロゲルの例を図7に示す。この事例では、カバーガラスはフォトマスクとして使用し、HECポリマーフィルムの上面に配置した。カバーガラスを0℃、120℃および240℃で設置し(12:00=0°)、フィルムをUVで処理した(180mJ/cm2、スクリーンからの距離1.5インチ(3.81cm)、10分間)。第2のHEC層を第1の層の上面に配置し、カバーガラスを第1のセットからずらして、30°、180°、300°で設置した。基板をしかるべくUV処理 に供し(180mJ/cm2、スクリーンからの距離1.5インチ(3.81cm)、10分間)、2〜5mlの水に浸すことによって水和し、クリスタルバイオレットで染色した。次に、サンプルを乾燥に至らしめ(振とうによって過剰の水を除去し、サンプルを乾燥するまで60〜70℃のオーブンに入れた)、Bioscope II(Veeco社製)を使用してAFMでトポグラフィを測定した。乾燥の際、コーティングの収縮が100%可逆性ではなく、完全に滑らかなフィルムには戻らないことから、AFMの解析を行うことができる。得られたAFM画像を図7Aに示す。底部層、上部層、および全般的なコーティングのUV照射のパターン化を示す概略図を図7Bに示す;ここで、UV BLは、底部層のUV処理した部分を表わし、UV TLは、上部層のUV処理した部分を表わし、UV BL/TLは、UV照射に供された上部および底部の両方の層の部分を表わし、0 UVは、UV照射から遮蔽された上部および底部層の領域を表わす。
【0062】
使用した2つのコーティング 層では、4つの区別できる高さを有する領域が観察された(図8参照)。図8に示すように、区画の境界における高さの差異から判断することにより、4つの区画の間の相対的な乾燥時の高さの差異(図8)を画像化および測定が可能である。図8Aは、 図7Aおよび図7Bに示したパターンのすべての高さを含む交差の光学顕微鏡写真である。図8Bは、同一領域のAFM画像である。クリスタルバイオレットはUV曝露が多かった領域でより吸収されることから、光学的グラフは、4つの領域の相対的高さを示している。これは、高さの差異としてAFMで確認された(境界にΔの印をつけた)。測定した高さの差異は青色で示しているが、黒いΔ値(105nm)は、境界が他の境界より解像度が低かったため、計算値である。
【0063】
第1および第2の層で用いたポリマーは同一であっても異なっていてもよいことが認識されよう。例えば、疎水性の差は、1つの層にHECを使用し、他の層には疎水的に改質されたHECを使用することによって達成することができる。
【0064】
図9に示すように、この技法は、より小さい形状で行うことができる。図9の光学顕微鏡写真に示す2つの層化したパターンを作出するため、一定間隔で線に沿った円を有する線からなるパターンを有するフォトマスクが用いられる。第1のHECヒドロゲル層を、所定の場所にフォトマスクを用いてポリスチレン基板上にコーティングし、UV光(180mJ/cm2、光源からの距離1.5インチ(3.81cm)、10分間)に供した。次に、フォトマスクを第1の設置とはほぼ直交させて配置した第1の層上に第2のHECヒドロゲル層をコーティングし、上述のように所定の場所にフォトマスクを用いて第2の層をUV光に供した。得られた層を図9に示した。図からわかるように、20μmのサイズの形状が入手可能であった。当然ながら、より小さい形状は、本明細書に提示される教示を用いて当業者が容易に入手可能である。
【0065】
実施例4:UV処理時間およびフィルムの厚さ
フィルムの厚さは、基板上に積層されるポリマーの量を変える(流し込む溶液の濃度を変化させる)ことによって、ならびにUV曝露時間の変化によって変動させることができる。例えば、同一量の材料(0.2重量%、1mL、〜9.5cm2)のサンプルをUV処理に2、3、5および10分間供し、水和した高さを原子間力顕微鏡で測定した(図10)。乾燥時の高さおよび水和時の高さを3分間のサンプルについて測定し、水和すると、ヒドロゲルは高さが10倍(700nmから7.3μm)に膨潤することが分かった。我々は、10分間および5分間のサンプルが、それらの膨潤挙動において実質的に同一であることを見出した(〜3.5μm)。2分間のサンプルの高さは>11μmで、計器の測定可能範囲を超えていた。
【0066】
図10では、上の2つの画像は、UVで3分間処理したヒドロキシエチルセルロース(HEC)層の水和した(A)および乾燥した(B)画像を示しており、高さに10倍の差があることが明らかになった(膨潤の7.3μmに対し、乾燥では700nm)。下の3つの画像は、10分間(C)、5分間(D)および3分間(E)、UV処理したHECサンプルの高さプロファイルを示している。
【0067】
実施例5:細胞培養およびアッセイ
簡潔にいえば、HepG2/C3A細胞(ATCC# CRL−10741)を、10%の ウシ胎仔血清(Invitrogen社 #16000−077)および1%のペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社 #15140−155)を補充したイーグル基本培地(ATCC # 30−2003)中で培養した。細胞を、37℃、5%CO2および95%の相対湿度で培養した。96ウェルマイクロプレートフォーマットの1ウェルあたり100μLの培地に5000細胞で、改質セルロースコーティング(n=3)上に細胞を播種した。培地は毎日交換した。細胞接着を評価するため、乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイ(Promega CytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ#G1780)を行った。製造業者の説明書に従って細胞を溶解し、理論的には、存在する細胞数に直接的に比例する、放出LDHの量を測定した。結果を図11に示す。
【0068】
実施例6:細胞接着を強化するためのパターン化
我々は、パターン化を利用して細胞接着を改善できることも実証した。コラーゲンIおよび血清の存在下、対照としてMatrigel(商標)を使用して、HepG2/C3A細胞を、HEC/TMOSコーティング(細胞接着の目的でオルトケイ酸テトラメチルを添加)上に播種した。相対的細胞数は、24時間後に、LDH(乳酸脱水素酵素)アッセイを利用して測定した(図11)。図11におけるY軸は、490ナノメートルにおける平均光学密度を示している。X軸において、1はコラーゲン−1でコーティングした表面であり、2はMARTIGEL(商標)でコーティングした表面であり、3はパターン化されていないHEC/TMOS表面であり、4〜6は、各々または4、5、および6が独特にパターン化されているパターン化されたHEC/TMOS表面である。図11は、サブミクロン範囲のパターンを有するパターン化表面(4〜6)への細胞接着を示している。パターン化表面(4〜6)を用いて達成された細胞接着は、「Matrigel」で観察される細胞接着と同程度であった。しかしながら、パターン化されていない(UV処理された)基板は、多くの細胞のうち3分の1しか保持しなかった。この実施例ではHEC/TMOSコーティングを使用したが、HEC/TEOSコーティングは、本明細書に提示される知見を踏まえると、細胞培養に使用するとよいことが予想される。
【0069】
上述のように、ヒドロゲルのパターン化の実施の形態が開示される。当業者は、本明細書に記載のアレイ、組成物、キット、および方法が、開示されている以外の実施の形態を使用して実施することができることを認識するであろう。開示される実施の形態は、単に例示の目的で提示されているのであって、限定ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンコーティングされた基板を形成する方法であって、
多糖系ポリマーを含む組成物を基板上に配置してコーティング基板を作出し、ここで、前記組成物が実質的に架橋モノマーを含まず、
前記コーティング基板の一部を紫外線放射の第1の放射線量に曝露して、前記多糖系ポリマーの架橋を誘起し、ここで、前記基板の一部が前記イオン化放射線から遮蔽される、
各工程を有してなる方法。
【請求項2】
前記架橋した多糖系ポリマーの少なくとも一部および前記最初に遮蔽されたコーティング基板の少なくとも一部を紫外線放射の第2の放射線量に曝露し、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を作出する、
各工程をさらに有してなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
および後に紫外線放射の第1の放射線量に曝露される前記コーティング基板の少なくとも一部と、後に紫外線放射の第1の放射線量から遮蔽される前記コーティング基板の少なくとも一部をイオン化放射線にあらかじめ曝露し、架橋密度が高い領域と架橋密度が低い領域を有するコーティング基板を作出する工程をさらに有してなる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリグルコース系ポリマーが、セルロース系ポリマー、デキストラン系ポリマー、またはアミラーゼ系ポリマーから選択されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1校記載の方法。
【請求項5】
前記多糖系ポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、デキストラン、およびキシラン、またはそれらの疎水的に改質された誘導体からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−503037(P2013−503037A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526967(P2012−526967)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/046745
【国際公開番号】WO2011/028590
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】