説明

ヒドロゲルマトリックスおよびマイクロキャリアを含む活性物質供給システム

活性物質供給システムが、生体相容性生体安定性ヒドロゲルマトリックス、ならびに、該ヒドロゲルマトリックス内に均一に埋められている生分解性マイクロキャリアを含んでおり、少なくとも2種の活性物質を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体活性物質供給システムに関し:
架橋ヒドロゲルマトリックス;および
該架橋ヒドロゲルマトリックス内に埋められているマイクロキャリア
を含んでいる。該マイクロキャリアは、生体相容性生分解性(コ)ポリマーでできており、均一に該生体相容性架橋ヒドロゲルマトリックス中に埋められており、少なくとも2種の異なる活性物質を含有する。
【背景技術】
【0002】
活性物質供給システムの局所インプラント(移植)を通した活性物質投与は、(治療)用量の活性物質、例えば薬剤を、ある特定の期間、ある特定の標的部位において供給していく独特の可能性を与える。局所投与は、全身投与よりも高い治療指標に到達するのを可能ならしめる。結論として、その明らかな薬剤効率が向上され、一方、副作用が低下される。
【0003】
局所供給が、注射もしくはインプラント(移植)により達成され得、サイズおよび形において、ナノ粒子〜マイクロ球、半固体(ヒドロ)ゲル〜固体ポリマーインプラントにおいて変動している異なる薬剤供給手法を使用している。インプラント(移植)可能な装置は一般的に、引き延ばされた薬剤放出期間使用されており、注射可能なシステムよりも制御された放出を提供する。
【0004】
固体ポリマーインプラントは、マトリックスもしくはリザーバータイプシステムの形で存在する。このマトリックスタイプの活性物質供給システムにおいて、該活性物質は均一に、該ポリマーマトリックス全般に分散されている。該活性物質の粒子が、その表面において存在し、まずその放出媒体中に溶解し、バースト効果を引き起こし、該活性物質供給システム内で勾配を創り出していき、これが熱力学的に、その放出プロセスを推進させる。この放出はこれゆえ、濃度依存放出プロファイルであり、ずっと一定ではない。リザーバーもしくはコアを含んでいる活性物質供給システムにおいて、その薬剤は、中心コア内に位置され、これは、薬剤を含んでいないポリマー膜により囲まれている。この場合、該活性物質は、0オーダーで放出され(放出がずっと一定である)、該膜厚およびコア長により制御されている。しかしながら、異なる放出プロファイルを有する単一リザーバー活性物質供給システムからの幾重もの活性物質の投与は、最適化し難く、一旦このシート層厚およびコア長が1活性物質もしくは薬剤のために選ばれてしまうと、もう1種別のにとっては非可逆的に固定されてしまうからである。
【0005】
避妊およびホルモン代替治療において、互いに対して実質的に一定な比における2種の活性物質の放出がしばしば、使用されている。米国特許第4,596,576号明細書が、数種の活性物質の同時放出用の、2つ以上のリザーバーからなっている膣用の幾つものコンパートメントのリングを記載する。しかしながら、これら種々の活性物質の間で放出比を一定に保つために、各リザーバーが、ストッパー(不活性材料)により分離されていることがあり、この装置を生産するのを難しくしている。米国特許第5,989,581号明細書が、プロゲストゲンおよびエストロゲンを、固定された生理的な比において、長期間に亘り同時に放出する膣内リングを記載する。この装置は、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)(PEVA)コアでできており、ホルモン混合物を含有しており、該プロゲストゲンが、比較的低い程度の過飽和で溶解されている。該コアが、薬剤非添加PEVAスキンにより囲まれている。このような装置は、幾つもの分離されたコンパートメントを含んでいるものよりも容易に製造されるが、過剰量のステロイドを必要とする。
【0006】
生分解性マイクロ球もおおよそ、小分子、薬剤、ペプチド、および蛋白の局所供給に使用されてきている。いわゆるマイクロ球において、その薬剤含有コアは、そのポリマーマトリックスにより囲まれている。ある幾つかのシステムにおいて、その薬剤は、そのポリマーの表面上で吸収されるかもしくは化学共役されるか、または、そのマトリックスのコア中に捕捉される。これら形態構造は時々、混合される。例えば、ポリ(乳酸)(PLA)およびポリ(乳酸/グリコール酸)(PLGA)マイクロ球中にカプセル化された親油性薬剤の場合、一部の該薬剤が該ポリマーに溶解されるが、殆どがこれらマイクロ球の外表面において結晶化される。このような環境において、該薬剤の拡散は可能ではない。
【0007】
種々の活性物質放出プロファイルが、当該活性物質のキャリアの化学組成および分子量(MW)、ならびに、その生分解性マイクロ球および他の要因のサイズおよび有孔率を調整していくことにより、達成され得る(Liら、Polymer for Advanced Technologies,2003,14,239−244およびその中の文献7〜10)。
【0008】
懸濁されたかもしくは溶解された薬剤が、生分解性マイクロ球から放出されるメカニズムは、異なるパラメーターに依り、薬剤の溶解度、これらマイクロ球からの薬剤の拡散、マイクロ球ポリマーの加水分解、および重量損失を包含している。その放出プロファイルは通常、初期放出相により、特徴付けられている(その表面上で存在する薬剤粒子、もしくは、これらマイクロ球のマイクロ孔を経由するその表面に対するアクセスを持っている薬剤粒子の溶解による)。この放出は、その薬剤の溶解度、薬剤の負荷量、ならびに、これらマイクロ球の有孔率および密度により、影響を及ぼされる。引き続いての放出は、該ポリマーの加水分解、および、その可溶なオリゴマーの溶解に依り、薬剤拡散のための孔/チャネルを創り出す。これらのポリマーの特性は、発症、期間、および、薬剤のレベルに影響し、この相の間に達成される。
【0009】
マイクロ球は通常、細い針を有するシリンジを使用しながら、皮下もしくは筋内注射により、投与される。その薬剤放出期間は主に、薬剤キャリアとして使用されるポリマーの物理化学的特徴に依っている。典型的には、PLGAおよびPLAマイクロ球の蓄積が、1〜3ヶ月に亘るその供給に使用されている。より長時間の供給には、もしくは、特定の体の部分(特定の解剖学的形状もしくは機械的ストレスを伴う)における供給には、マイクロ球単独では有用ではなく、特定の形および機械的特性を有するインプラントが必要とされている。
【0010】
インプラント(移植)可能であるには、これらマイクロ球が、特定の3D構造もしくはマトリックスとして構造化されていなくてはならない。例えば、levonorgestrelを放出する活性薬剤供給システムが調製されてきたが、levonorgestrelをロードされたポリラクチドおよび乳酸とグリコール酸との溶媒エバポレーション手法により調製されたマイクロ球コポリマーの圧縮成型による(Dinarvand,R.ら、Drug Delivery Systems and Sciences,2001,1,113−116)。しかしながら、このマトリックスの放出プロファイルは、Fickian動態モデルに従わなかったし、圧縮成型の厳しい条件(90℃120分)の使用が、このポリマーの一部分解(Tgより上の加工温度)、または、このカプセル化された薬剤の一部変性/不活性化を誘導し得る。更に、この種のインプラントの機械的特性は不充分であると予期され、ポリラクチドおよび乳酸とグリコール酸とのコポリマーの両方が機械的限界を持っているからである。もう1つ別のCapronorと呼ばれる皮下インプラントは、ポリ(ε−カプロラクトン)およびペレットのような粒を使用し、融合コレステロールをマトリックスとして使用している。CapronorIIは、2桿のポリ(ε−カプロラクトン)からなり、各々が、18mgのlevonorgestrelを含有している。CapronorIIIは、コポリマー(カプロラクトンおよびトリメチレンカーボネート)の単一カプセルであり、32mgのlevonorgestrelで満たされ、これは、CapronorIIよりも急速に、この薬剤を放出し、生分解するよう開発されてきた。両システムを用いれば、インプラントは、1年目の使用の間は、そのままであり、これゆえ、もし必要とあらば、除去され得る。2年目を過ぎると、これは二酸化炭素および水に生分解し、これらは体により吸収される。それで、その制御放出は、その埋め込んでいるマトリックス(融合コレステロール)からの如何なる制御もなく、これら生分解性ポリマーマイクロ球の化学組成により制御されるだけの場合におけるものである。
【0011】
ヒドロゲルは、流行ってきているクラス(分類)のポリマー主体の活性物質供給システムの1つであり、生体相容性および水透過性による。生体相容性により、その材料が、如何なる毒性も免疫反応も誘導しないことを意味する。
【0012】
広範な親水性ポリマーが使用され得、このようなヒドロゲルを製造し、天然もしくは合成ポリマーおよび両方の組み合わせを包含している(総説として、Hoffmanら、Adv.Drug Del.Rev.2002,43,3−12、J.L.Druryら、Biomaterials,2003,24,4337−4351参照)。親水性ポリマーを架橋していくことにより従来どおり調製されると、ヒドロゲルが、この重量の>20%の水を吸収できる能力を持ち、一方、区別できる(はっきりとした)3D構造を維持し続ける。ヒドロゲルの膨潤挙動はこれゆえ、医薬およびバイオ医療への適用のためのそれらの使用と関係してそれらの重要な特徴の1であるが、これは、膨潤していく平衡の程度が、(1)該ヒドロゲルを通した溶質拡散係数、(2)表面および光学特性(特に、コンタクトレンズとしてのそれらの使用と関係して)、および(3)機械的特性に影響するからである。それらの高い膨潤容量のために、ヒドロゲルからの低分子量(MW)水溶性薬剤の放出が相対的に速く、制御しがたい。急速な薬剤放出のこの問題を克服するには、異なる以降の代替案(代替法)が提案されている。
【0013】
該薬剤を該ヒドロゲルマトリックス上で化学的に不動化させてポリマー薬剤共役体を形成させることが論じられており、該薬剤の作用を、その共有結合の加水分解もしくは生物切断により引き延ばす(Sparerら、Controlled Release Delivery System,T.J.RosemanおよびS.Z.Mansdorf著、Marcel Dekker,New York,1983,pp107−119)。しかしながら、巨大分子鎖に結合している共有結合薬剤は、その放出の前に、当該薬剤を不活性化させることが考えられる。
【0014】
更に、薬剤不動化量は、当該薬剤の溶解度により限られることがある。
【0015】
仕上げに、不均一構造もしくは複合ヒドロゲルがデザインされており、ヒドロゲルからの薬剤の放出を、疎水性ドメイン中への当該薬剤のカプセル化により、遅らせる。Yuiらが、このような装置を、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル架橋ヒアルロン酸の分解性マトリックス中における脂質マイクロ球(薬剤マイクロリサーバーとして作用している)に基づき、記載したが、これら生分解性ヒドロゲルからの薬剤放出を制御していき、バースト(暴発)効果を避けており、該マイクロリザーバーの疎水性による不活性化から薬剤を保護しているような利点を提供している。ところで、脂質マイクロ球の0オーダーの放出が、これら架橋ヒアルロン酸ゲルのin vivoにおける表面制御分解に比例して、達成された(Yuiら、J.Control Rel.1993,25,133−143)。
【0016】
しかしながら、分解が、ヒドロキシルラジカル副生成物による炎症反応により推進され、このようなシステムの臨床への適用のための使用が、疑問であり、これは、ヒトの健康におけるこの炎症反応の効果が、知られていないからである。更に、このシステムは、速く分解しすぎることがある。
【0017】
ゼラチンおよびデキストランの相互浸透性ポリマーネットワーク(IPN)が、デュアル刺激応答性生分解性ヒドロゲルとして提案されており(Kurisawa,M.ら、J.Control Rel.1998,54,191−200)、ここで、脂質マイクロ球が、薬剤マイクロリサーバーとして、取り込まれている。このヒドロゲルは、そのゾルゲル温度以下で調製され、α−キモトリプシンおよびデキストラナーゼ両方の存在下に、脂質マイクロ球を放出すると見出されたが、一方、その放出は、どちらか1酵素だけの存在下に、障害される。しかしながら、このシステムは、制御されがたく、これは、患者毎に酵素含量の変動があり得るからである。
【0018】
ヒドロゲルからの捕捉された薬剤のリーク(放出)を遅らせる同一の予期を用いて、米国特許第6,632,457号明細書が、複合薬剤供給システムを記載し、これは、油脂、脂肪酸、ワックス、フッ化炭素、または、合成もしくは天然非水混和性相形成脂質マイクロ球で調製され得る疎水性マイクロドメインの、吸収性ヒドロゲル内での分散により形成される。このシステムは、比較的低MW(好ましくは、2,000ダルトン未満のMW、および、0.01mg/mlより高い水溶性)を持っている水溶性薬剤単独もしくは組み合わせの制御放出に適している。この特許において記載された適切なヒドロゲルは、酵素分解もしくは加水分解に脆い成分として、ポリペプチドもしくはポリエステル成分を含んでいる、アクリル末端化PLA−b−PEG−b−PLA水溶性鎖3ブロックコポリマーもしくは架橋ネットワークの付加重合により形成されたもののような、吸収性ヒドロゲルである。
【0019】
不運にも、該水溶性治療用化合物の拡散が遅れているメカニズムは、理解されておらず、これにより、このシステムを予見性に乏しくしている。このシステムは、高MWおよび乏しい水溶性を持っている薬剤の制御放出には適しておらず、該供給システムの滞留時間が限られている(生体再吸収性/生分解性ポリマーを使用して)。
【0020】
加えて、該生分解性ヒドロゲルのために、このような供給システムはまた、低MW薬剤の長期間に亘る制御放出には適しておらず、これは、このようなシステムの滞留時間が、そのポリマー成分の分解速度により、限られているからである。仕上げに、このような供給装置はまた、局所酸性化による炎症反応を誘導し得る恐れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
前の観点において、それらの物理化学的特性(水溶性、MW)および薬物動態特性がどうであれ、限られた拡散容量(乏しい水溶性および/または高いMW)を持っている活性物質を包含して、体の如何なる部分においても移植され得、活性物質の制御され持続された放出を可能ならしめる活性物質供給システムを開発していく必要性がある。
【0022】
本発明のある1つの課題は、前述した欠点に、生体相容性供給システムを提供することにより立ち向かうことであり、これは容易に、固体で特定の3D構造に加工可能であり、解剖されたインプラント(移植)部位にフィット(適合)させられる。本発明による供給システムは、その水和状態において、容易な挿入および患者の最適な快適さのために柔らかくて弾性であり、使用末端において仕上げに除去されるまでの移植全時間に亘り化学物質もしくは構造分解に耐性(生体安定性)である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
驚くことに、本発明による活性物質供給システムが、高い膨潤容量および弾性を、水存在下に、本ヒドロゲルマトリックス中のマイクロキャリアの存在にも関わらず呈することが見出された。マイクロキャリアの存在は、該ヒドロゲルマトリックスの膨潤性および弾性を修飾しない。
【0024】
弾性により、引っ張られるかもしくは圧縮された後にその元の形状に戻る体の傾向を意味する。膨潤容量により、本ヒドロゲルマトリックスが水存在下に膨潤する容量を意味する。両因子とも、これら活性物質の放出速度に寄与する。
【0025】
本発明により、指し示されたような固体活性物質供給システムが提供され、これはまず、そのマトリックスが生体相容性生体安定性架橋共有結合ヒドロゲルからなることを特徴とし、そのマイクロキャリアが均一に、該マトリックスにおいて埋められており、少なくとも2種の活性物質を含有する。該マイクロキャリアは好ましくは、サイズの範囲が1〜1000ミクロンの、生分解性生体相容性(コ)ポリマーでできたマイクロキャリアである。
【0026】
こうして、本発明によるシステムは、生体相容性であり、生体安定性であり、および容易に加工可能な、活性物質供給システムを提供し、これは、非分解性ヒドロゲルタイプマトリックス(H)で構成され、当該供給システムのコアを形成しており、これは、それらの水溶性および/またはMWがどうであれ、如何なる活性物質もしくは活性物質の如何なる組み合わせをもの、制御され維持された放出のためである。生分解性ポリマーマイクロキャリアおよびヒドロゲルタイプマトリックス両方の組成および形態の特徴が整えられ、個々の各活性物質の望まれる放出パターンに到達することが、理解されるべきである。このような生体安定生体相容性供給システムは、体の如何なる部分においても、移植され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明によるヒドロゲルマトリックスは、架橋ポリマーネットワーク(網)であり、本供給システムに、安定性、弾性、膨潤性、および柔軟性を、その水和状態において与えている。
【0028】
特に、本供給システムにおける本ヒドロゲルマトリックスの膨潤容量は、25〜40重量%の間に含まれ、その弾性率は、その水和状態において0.17〜0.5MTAの間に含まれ、一方、その引っ張り歪みは、降伏点において好ましくは1〜7MTAである。
【0029】
本ヒドロゲルマトリックスは好ましくは、ポリマーもしくはコポリマーでできており、親水性/疎水性バランス制御を可能ならしめており、(メタ)アクリルポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(ヒドロキシ)アルキル(メタ)アクリレート、ポリアルコキシアルキルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、および親水性ポリウレタンからなる群から選択されてくる。
【0030】
実際、異なる親水性/疎水性コモノマーの共重合は、合成ヒドロゲルの膨潤挙動を整える道(方法)である。例えば、コモノマーとしての少量のメタクリル酸(MAA)が劇的に、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)の膨潤を増大させ得る。反対に、メチルメタクリレート(MMA)の疎水性が、メチルメタクリレートとヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とのコポリマーが純粋なPHEMAよりも低い膨潤度を呈するのを可能ならしめる。
【0031】
本発明による特に好ましい実施形態において、本ヒドロゲルマトリックスは、ポリ(ヒドロキシ)メチルアクリレート、もしくは、(ヒドロキシ)メチルアクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマーでできており、その重合反応は、酸化還元イニシエーターを使用しながら穏和な条件下に実施され、本ヒドロゲルタイプマトリックスの合成の間の、マイクロキャリアに対する如何なる損傷をも避ける。好ましくは、該ヒドロゲルは、該ポリマーマイクロキャリアの融点(Tm)よりも低温において合成される。好ましくは、本ヒドロゲルタイプマトリックスの合成温度は、マイクロキャリアがポリ(ε−カプロラクトン)でできている場合、59℃よりも低い。
【0032】
本発明によるもう1つ別の特に好ましい実施形態において、マイクロキャリアがアモルファス(コ)ポリマーでできている場合、本ヒドロゲルタイプマトリックスは、当該マイクロキャリアのガラス温度(Tg)よりも低温において合成される。好ましくは、該ヒドロゲルタイプマトリックスの合成温度は、ポリ(D,L−ラクチド)マイクロキャリアに関しては、57℃よりも低い。
【0033】
アモルファス(コ)ポリマーは例えば、乳酸とグリコール酸とのランダムコポリマーである(PLGA)。
【0034】
本発明によるマイクロキャリアは、生分解性マイクロ球もしくはマイクロカプセルであり、均一に、本ヒドロゲルマトリックス中に分布される。これらは、該ヒドロゲルと組み合わせて、その中において含有される活性物質の放出速度制御に寄与する。マイクロカプセルは、如何なる形状のマイクロ粒子でもある。
【0035】
マイクロ球(msp)は、細かい球の粒子であり、好ましくは1〜1000ミクロンの範囲中の直径を有する。
【0036】
マイクロキャリアは、生分解性ポリマーもしくはコポリマーでできている。このような(コ)ポリマーは、天然もしくは合成ポリマーたり得る。天然ポリマーにより、(1)ポリペプチド、ならびに、アルブミン、フィブリノーゲン、ゼラチン、およびコラーゲン(膠原)のような蛋白、(2)ヒアルロン酸、スターチ(澱粉)、およびキトサンのような多糖を意味する。合成ポリマーにより、例えば、脂肪族ポリエステル(ホモポリマーおよびコポリマー)、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ(アミノ酸)等を意味する。
【0037】
脂肪族ポリエステルは例えば、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸/グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)ホモポリマー、ならびに、ε−カプロラクトンとの乳酸およびグリコール酸の如何なるコポリマー;ポリ(オルトエステル)、ポリ(アルキルカーボネート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ無水物、ポリアクリルアミド、ポリ(アルキルシアノアクリレート)等もである。
【0038】
マイクロキャリアは好ましくは、脂肪族ポリエステルでできており、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、および乳酸とグリコール酸とのコポリマー(PLGA)のようなものである。これらは、親油性および親水性薬剤両方のためのマイクロカプセル化材料として、使用される。これら合成生分解性ポリマーは高度に疎水性であり、有機溶媒に溶解し、この中において、親油性薬剤が可溶性となり、親水性薬剤が懸濁もしくは乳化され得、水溶液として、カプセル化された薬剤を有するマイクロ球を調製する。
【0039】
マイクロ球を調製する通常の方法は、(1)エマルション溶媒エバポレーション(O/W、W/O、およびW/O/Wエマルションエバポレーション、ここで、Oが油を表し、Wが水相を表す)、(2)相分離(溶媒無添加および溶媒無分配)、(3)界面重合、ならびに(4)スプレードライ(噴霧乾燥)である。
【0040】
薬剤のカプセル化をマイクロ球により調製する方法が当業界において、よく知られている。活性物質をポリマー中に取り込んでいく種々のマイクロカプセル化手法が、米国特許第5,665,428号明細書において、引用されている。
【0041】
本発明によるある1実施形態において、本活性物質供給システムが、少なくとも2グループのマイクロキャリアを含む。既に上で述べたように、マイクロキャリアにより、生分解性および生体相容性ポリマーでできたマイクロ粒子もしくはマイクロ球を意味する。異なるグループのマイクロキャリアが、(1)異なるポリマーでできたマイクロ球、(2)同一ポリマーでできているが異なる分子量を持っているマイクロキャリア、(3)同一ポリマーでできているが異なるサイズを持っているマイクロキャリアを意味する。
【0042】
加えて、本活性物質供給システムは、少なくとも2グループのマイクロキャリアを含み得、各グループが、もう1種別のグループにおいて含有される活性物質とは異なる活性物質を含有している。
【0043】
更に、本発明による各グループの活性物質供給システムも、生分解性(コ)ポリマーで調製され得、これは、その他のグループを形成している生分解性(コ)ポリマーとは異なっているか、もしくは、これに同一である。
【0044】
これらの特徴のお陰で、本活性物質供給システムは、種々の活性物質の供給を可能ならしめ、本発明による供給システムは、1種以上の異なるグループの活性物質をロードされた生分解性ポリマーマイクロキャリア(BPM)を含んでいる。幾重もの薬剤投与がこうして、活性物質を異なる速度において分解および/または拡散主体の放出メカニズムにより放出できる、同一もしくは異なるグループの生分解性ポリマーマイクロキャリア(BPM)を使用しながら、可能となる。これゆえ、個々の各薬剤の放出速度が、マイクロキャリアおよびヒドロゲルマトリックス両方の適切な修飾により、プログラムされ得る。
【0045】
本活性物質が本生分解性マイクロキャリアから放出されるメカニズムは更に、薬剤の溶解度、そのマイクロ球からの薬剤の拡散、加水分解、および、そのマイクロ球ポリマーの重量損失に依る。
【0046】
本薬剤が、本ポリマーマトリックスの孔もしくはチャネルを通る拡散により、本ポリマー障壁を横断する拡散により、あるいは、本マイクロキャリアのポリマー障壁の浸食により、放出される。通常、拡散および浸食は並行し得、これらの2種の現象の相対的な寄与は、該マイクロキャリアのポリマー組成に依る。
【0047】
ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)ホモポリマー、ならびに、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトンの如何なるコポリマーのような生分解性脂肪族ポリエステルが、カプセル化材料用マイクロキャリアとして使用されることとなるが、これは、それらの生体相容性、容易な加工性、および最も興味あることに、それらの巨大分子の特徴これゆえそれらの分解速度を整えることができる可能性、浸透性、適切な合成ルートによる放出速度特性のお陰である。これらの巨大分子の特徴は、ポリマーMW、結晶性(アモルファス〜準結晶)、および(コポリマーの場合)そのコモノマー比を包含しているが、リビング開環重合メカニズムを通したそれらの合成の結果として、適正に整えられ得る。これらの(コ)ポリエステルの大部分が市販されており、ヒトにおける臨床での使用にFDAにより認められている。低分子量ポリマー(<20,000)が、触媒なしの、乳酸および/またはグリコール酸の直接縮合により調製される。高分子量ポリマーが、ジアルキル亜鉛、トリアルキルアルミニウム、およびテトラアルキル錫のような触媒を用いる開環重合により生産され、ここでは、ラクチドおよび/またはグリコリド環状ダイマーが(共)重合されている。
【0048】
リビング開環重合メカニズムを使用しながら合成されたポリマーが好ましいこととなるが、当該ポリマーの化学組成および巨大分子構造を、ならびに、該巨大分子操作の結果として、該ポリマー分子量およびポリマー分子性を、細かく整えることができる可能性のためである。
【0049】
速い放出に関して(1〜3ヶ月)、LA/GA比100/0〜25/75を有するPLGAコポリマーが使用されることとなる。該ポリマー分子量が低いほど、これらマイクロ粒子の浸食による薬剤の分解速度および放出が速くなる。より長い放出期間に関して(18ヶ月まで)、PCLのようなより疎水性のポリマーが好ましいこととなる。
【0050】
L−ラクチド、D,L−ラクチド、グリコリド、ε−カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびジオキサノンの如何なる組み合わせによっても形成された如何なるホモおよびコポリマーも、望まれる分解速度にフィット(適合)させるのに使用され得る。興味あることに、ポリ(乳酸)−ポリ(ε−カプロラクトン)コポリマーはデザイン(設計)され得、2重の放出メカニズムを示す:高度に透過性だがゆっくり分解性のポリ(ε−カプロラクトン)部分による拡散主体の放出、ならびに、高度に分解性のポリ(乳酸)ブロックによる浸食主体の放出。
【0051】
一旦合成されると、マイクロ球が好ましくは、本ヒドロゲル中に埋められ、これは、本ヒドロゲルの溶液前駆体中への当該固体マイクロ球の拡散による。本ヒドロゲル組成が更に、長期安定性、耐性、および柔軟性を提供し、本発明によるシステムを快適に移植可能にしている。マイクロ球の加水分解が、本ヒドロゲルタイプマトリックスの平衡水分量により、アップレギュレーションされることがあり、その膨潤容量に依るが、これが今度は、そのヒドロゲルのネットワークの親水性/疎水性バランス、架橋密度(メッシュサイズ)等を調製していくことにより、制御され得る。
【0052】
上の特徴によれば、このシステムは、活性物質の放出プロファイルを、テイラーメイドできる可能性を与え、これは、幾重もの放出メカニズムを、同一装置において組み合わせていくことによる:
(1)生分解性ポリマーマイクロキャリア壁を通しての拡散/生分解性ポリマーマイクロキャリア壁の浸食(分解)
(2)その膨潤容量と関連して、本ヒドロゲルタイプマトリックス有孔ネットワークを通しての拡散
【0053】
有利には、本発明による活性物質供給システムは更に、放出速度修飾剤を本ヒドロゲルマトリックス中および/または本マイクロキャリア中において含む。
【0054】
生分解性マイクロキャリア関連ヒドロゲルマトリックスからの薬剤放出が速すぎることがあり得るので、放出速度修飾剤が、本生分解性ポリマーマイクロキャリア中もしくはヒドロゲル中両方において加えられ得る。放出速度修飾剤の使用が報告されており、カプセル化材料として作用する。放出速度修飾剤は例えば、ナノ粘土である。
【0055】
本発明によれば、本活性物質は、医薬、治療、生理、もしくは生体効果を持っている物質である。この供給システムは、ヒトもしくは動物体内もしくは上で局所的に適用されるためのシステムであるか、あるいは、細胞もしくは組織培養もしくは工学用基材としての使用のためのシステムである。
【0056】
本明細書において述べられた場合、用語<<水溶性に乏しい物質>>とは、低い飽和溶解度を持っている物質を言う。婦人科において使用される水溶性に乏しい薬剤の例は、levonorgestrelであり、飽和溶解度5μg/mLを37℃において表示する。levonorgestrelが、より水溶性の少ないステロイドの1種であることが、述べられるべきである。中庸な親油性を有する薬剤の他の例は、デキサメタゾンおよびチモロールマレイン酸塩であり、頻繁に眼科において使用される。
【0057】
特に好ましい実施形態において、1グループのマイクロキャリアが、ステロイドホルモンを含有し、もう1つ別のグループのマイクロキャリアが、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤を含有する。
【0058】
このようなシステムはこれゆえ、Levonorgestrelのような水溶性に乏しいステロイドホルモンおよびマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤(MMPi)両方の局所(膣内もしくは子宮内)同時投与用にデザイン(設計)されており、避妊処置の間の子宮異常出血抑制用である。
【0059】
如何なるステロイド、ホルモン、および、ホルモンアゴニストもしくはアンタゴニスト、あるいはこれらの組み合わせの供給にも、使用され得る。
【0060】
本システムは、個々もしくは同時に、該ステロイドに加えて、抗ウィルス薬、抗菌剤、抗寄生虫薬、抗菌剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、もしくは抗新生物剤、ならびに、鎮痛剤、およびHIVおよび他の性感染症に対する保護剤のような如何なる他の生物活性物質をも、供給し得る。
【0061】
本発明は、本発明による活性物質供給システムの、動脈内、筋内、乳房内、腹腔内、皮下、硬膜外、眼球内、結膜、直腸内、膣内、頸内、子宮内、もしくは如何なる移植可能な供給システムとしての使用にも関する。
【0062】
更に、本発明は、本発明による活性物質供給システムの、細胞培養、組織工学、特に、軟骨、皮膚、骨、筋等、ならびに再生医療支援装置としての使用に関する。
【0063】
更に、本発明は、本発明による活性物質供給システムの、DNAもしくは蛋白供給システムとしての使用に関し、特に、蛋白の直接供給を必要としている遺伝子治療におけるかもしくは治療におけるものである。
【0064】
有利に、この活性物質供給システムは、オリゴペプチド活性物質、サイトカイン、組織特異的成長因子、蛋白主体の成長因子、または、内因性もしくは移植された始原細胞の、適切なタイプの細胞への分化を誘導し得る如何なる分子もの供給に使用され得、疾患もしくは病気の組織および/または器官の治癒、修復、もしくは再生において使用され得る。治療もしくは組織誘導蛋白をコード化しているプラスミドもしくは非ウィルスDNAの放出が、蛋白の直接供給に対する約束された代替案を代表する。
【0065】
本発明による装置の他の実施形態が、添付された請求項において述べられている。
【0066】
上で指し示したように、本発明は、インプラント(移植)可能な活性物質供給システムに関し、生分解性および生体相容性ポリマーマイクロキャリア(BPM)で構成されており、好ましくは2種以上の活性成分の、異なる速度での、長期間に亘る制御放出用の、柔らかくて弾性のヒドロゲルマトリックス(H)中に分散される。幾重もの活性物質投与が可能であり、分解および/または拡散主体の放出メカニズムにより、活性物質を異なる速度において放出できる異なるグループの生分解性ポリマーマイクロキャリアを使用している。これゆえ、個々の各活性物質の放出速度が、マイクロキャリアおよびヒドロゲルマトリックス両方の適切な修飾により、プログラムされ得る。このような装置の好ましい適用は、levonorgestrel(LNG)のような溶解性に乏しいステロイドホルモンおよびマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤(MMPi)両方の、局所同時投与(子宮内もしくは膣内)である。それで、避妊処置の間の異常子宮出血の抑制用の特定治療用量および放出プロファイルを得ることが可能である。
【0067】
本発明によるシステムは、長期の活性物質供給システムであり、生体安定性ヒドロゲルマトリックス中に埋められた1種、2種、もしくはこれ以上の治療用分子の独立した制御放出用の生分解性ポリマーマイクロキャリアを含んでおり、長期の安定性、耐性、および柔軟性を提供していく。
【0068】
本発明による供給システムは、活性物質の放出プロファイルを、テイラーメイドできる可能性を与え、これは、多重の放出メカニズムを、同一装置において組み合わせていくことによる:
(1)生分解性ポリマーマイクロキャリア壁を通しての拡散/生分解性ポリマーマイクロキャリア壁の浸食(分解)
(2)その膨潤挙動と関連して、本ヒドロゲルタイプマトリックス有孔ネットワークを通しての拡散
【0069】
これゆえ、本システムは、相対的に低分子量の活性物質にも、相対的に水溶性の活性物質にも、拘束されない。本システムは、異なるグループの生分解性ポリマーマイクロキャリアで構成され得るので、2種以上の活性物質の制御放出に、これらの物理化学的特性がどうであれ、使用され得る。活性物質キャリア(生分解性ポリマーマイクロキャリア)として使用されるこれらポリマーは、生分解性合成ポリマーであるが、好ましくは脂肪族ポリエステルであり、その主な分解メカニズムは、これらエステルの共有結合の加水分解による切断により、推進されていく。本システムはこれゆえ、高度に可変性であり、これは、数多くのパラメーターが修飾され、如何なる活性物質の放出速度をも調整し得るからであり、独立して:
生分解性ポリマーマイクロキャリアの化学組成:
例えば、該ポリマーの、分子量(MW)、MW分布、結晶性、および末端基の化学、ならびに(コポリマーの場合)、構造およびコモノマー比
生分解性ポリマーマイクロキャリアの特性:
表面有孔率、平均サイズ、およびサイズ分布
該生分解性ポリマーマイクロキャリア中における活性物質のロード量
に関して、動かしていくことによる。
【0070】
更に、このようなポリマーの加水分解が、本ヒドロゲルタイプマトリックスの平衡水分量により、アップレギュレーションされることがあり、その膨潤容量に依るが、これが今度は、そのヒドロゲルのネットワークの親水性/疎水性バランス、架橋密度(メッシュサイズ)等を調製していくことにより、制御され得る。
【0071】
加えて、これら活性物質の放出速度が下記のように、生分解性マイクロキャリアおよびヒドロゲルタイプマトリックス相の1もしくは両方において充填剤として使用される放出速度修飾剤(RRM)の分散により、整えられ得る。
【0072】
親水性/疎水性バランスを共重合により整える可能性のために、メチルメタクリレート(MMA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、エチルメタクリレート(EMA)、フェニルエチル(メタ)アクリレート(PE(M)A)を含んでいる群から選択されたアクリルポリマーが、本インプラント調製に使用され得る。これらポリマーが、生体相容性であり、コンタクトレンズおよび眼球内インプラントとしての長期使用に耐えるとして知られている。ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ(1−ビニル−2−ピロリドン)、ポリエチレングリコール、および親水性ポリウレタンを含んでいる群において選択された他のポリマーも、使用され得る。
【0073】
最も好ましくは、インプラントは、より快適なために、移植時間全般に亘る生体安定性と相対的に低い弾性(硬さ)とを併せ持っているポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)で構成される。適切なヒドロゲルは、その弾性率に関して範囲0.17〜0.5MPAの機械的特性をその水和状態において、その引っ張り歪みに関して1〜7を降伏点において、呈すべきである。
【0074】
多くの異なるルートが使用され、物理的および化学的両方のヒドロゲルを合成してきたが、Hoffmanらによる総説において記載されたとおりである(Hoffmanら、Adv.Drug Del.Rev.2002,43,3−12)。ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)ヒドロゲルの調製および特性に亘る一般的な総説が、Horak,D.らにより、与えられている(Horakら、PBM Series 2003,1,65−107)。化学的架橋が、物理的架橋を凌駕して好ましいとされ、良好な機械的安定性を有するヒドロゲルを創出する。化学的ゲルは好ましくは、モノマーおよび架橋剤の共重合により、バルクもしくは水溶液中において形成され、例えば、水中においてヒドロキシエチルメタクリレート+エチレングリコールジメタクリレート(水中においてHEMA+EGDMA)である。EGDMAに対する代わりとして、4−[(E)−[(3Z)−3−[4−(アクリロイルオキシ)ベンジリデン]−2−ヘキシリデン]メチル]フェニルアクリレートが使用されてよい。もう1つ別の代わりとして、モノマーが、マクロマー(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート+ポリ(エチレングリコールジメタクリレート)(HEMA+PEGDMA))と、もしくは、水溶性ポリマーと、架橋剤の存在下もしくは非存在下に、共重合され得る。ポリマーが直接、バルクもしくは溶液中において、照射、化学的架橋剤、もしくは多重官能基反応性化合物を使用しながら、架橋され得る。仕上げに、モノマーが、異なる固体ポリマー内で重合され得、相互浸透ポリマーネットワーク(IPN)ゲルを形成する。このヒドロゲル合成の条件は、予め形成されたポリマーマイクロキャリアの如何なる損傷もしくは分解をも避けるよう選ばれてよい。例えば、酸化還元イニシエーター系を使用する該ヒドロゲル合成は、発熱性である。それで、該ポリマーマイクロキャリアの融解のリスクがあり、特に、相対的に低融点(Tm)(ポリ(ε−カプロラクトン)、Tm=59℃)を有するポリマーでできたものである。ヒドロゲル合成の間のマイクロキャリアに対する如何なる損傷をも避けるには、反応温度が、該ポリマーマイクロキャリアのTmを下回って維持されなくてはならず、ポリ(ε−カプロラクトン)マイクロキャリアの場合、好ましくは59℃以下である。生分解性ポリマーマイクロキャリアの可溶化も、例えばポリ(ε−カプロラクトン)−ジアクリレートポリマーのようなマイクロキャリアの調製用の架橋ポリマーを使用することにより、避けられる。
【0075】
UVイニシエーターを使用する非常に短い重合時間(1〜3分)での光重合も、国際出願WO9603666において記載されたようなものが、使用され得る。
【0076】
他の照射手法も、非常に低温でのヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のポリエチレングリコールメタクリレート(PEG−MA)との共重合によるヒドロゲルの調製に使用され得る(Kwon,O.H.ら、J.of Industrial and Engineering Chemistry 2003,9(2),138〜145;Bhattacharya,A.ら、Prog.Polym.Sci.2000,25,371〜401,pp.375〜383)。
【0077】
活性物質をポリマー中に取り込んでいく種々のマイクロカプセル化手法が、米国特許第5,665,428号明細書において引用されている。マイクロカプセル化法の選択は殆ど、活性物質の溶解度に依る。ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−グリコール酸)等のような疎水性ポリマー内での親油性活性物質の不動化が容易に、従来の油/水エマルション−エバポレーションにより、実施される。
【0078】
親水性活性物質である蛋白もしくはペプチドのカプセル化に関して、非水相分離手法、つまり、油/油エマルション、次いで、その内相の固化のような異なる方法が、記載されている。ペプチドおよび蛋白は、2重水/油/水エマルション(米国特許第4,652,441号明細書)に基づいた、相分離もしくはコアセルベートプロセスによる溶媒−エバポレーション変法によっても、効率的にカプセル化される。
【0079】
長く作用し続ける避妊薬の制御放出用に、マイクロ球が、ε−カプロラクトンとD,L−ラクチドとのブロックコポリマーから、溶媒−エバポレーションプロセスを使用して調製された。同一種のコポリマーが、40日に亘るプロゲステロンおよびエストラジオールの制御放出用に、使用されている。
【0080】
マイクロカプセル化を目指す代替ルートは:
a)米国特許第5,665,428号明細書において記載されたような、ポリマー溶融プロセス。しかしながら、熱感受性ペプチドおよび蛋白活性物質には適用可能であるが、このシステムは、100℃を下回る温度においてマイクロキャリア中に加工され得るコポリマーに限られる。
b)超臨界反溶媒(SAS)(Bertucco A.ら、Process Technology Proceedings(1996)、12(High Pressure Chemical Engineering)、217〜222)もしくは超臨界溶液急速膨張(RESS)(Tom,Jean W.ら、ACS Symposium Series(1993)、514(Supercritical Fluid Engineering Science)、238〜57)法両方による、超臨界CO手法。この無溶媒プロセスの主な利点は、除去するのが難しいか、もしくは、活性物質変性/分解を誘導し得る毒性および浸出可能残渣がないこと。
【0081】
マイクロ球およびヒドロゲルが、以降のように組み合わせられる。一旦形成され、洗浄されて乾燥された活性物質をロードされた生分解性ポリマーマイクロキャリアが、前記ゲル前駆体溶液中に分散され、次いで、以前に記載された方法のいずれかにより、好ましくはアクリルモノマーの化学的架橋により、この分散体のゲル化を伴う。
【0082】
BM関連ヒドロゲルマトリックスから放出された活性物質は速すぎることがあり得るので、放出速度修飾剤が、本生分解性ポリマーマイクロキャリア中もしくはヒドロゲルマトリックス中両方において、加えられ得る。放出速度修飾剤の使用が、カプセル化材料として、文献(米国特許第6,632,457号明細書参照)において報告されているが、活性物質放出を遅らせるメカニズムは尚不明である。好ましくは、ナノ充填剤が使用され得ると考えられ、これは容易に、非常に低負荷においてさえ(<1重量%)、多くの異なるポリマーマトリックス中に分散され得、輸送特性を修飾する。これらの高い形状比およびマイクロメートル以下のサイズにより、顕著に、ねじれ因子を上昇させ得、結果的に、活性物質分散経路の増加を与える。このようなナノ充填剤は例えば、ナノ粘土cloisite30Bなどを包含し、本生分解性ポリマーマイクロキャリア中の修飾剤としてその分解および親水性を制御するか、および/または、本ヒドロゲルマトリックスの修飾剤として活性物質分散経路を変化させるよう使用され得、これは、この活性物質キャリアのねじれ因子を上昇させていくことによる。
【0083】
本特許において記載されたシステムは、如何なる治療用分子をも、その物理化学的および薬物動態学特性(つまり、活性物質のMWおよび水溶性)が何であれ、供給するのに使用され得る。相対的に低いMW、米国特許第6,632,457号明細書において記載されたシステムにおけるような水溶性活性物質に拘束されない。異なるグループのマイクロキャリア(生分解性ポリマーマイクロキャリア)が本ヒドロゲルコア中に取り込まれ得るので、本システムは、相対的に長期間に亘り、異なる速度において供給されなくてはならない1種以上の生物、生理、もしくは医薬活性成分の組み合わせをも、供給するのに使用され得る。
【0084】
これら放出システムは好ましくは、水溶性に乏しいステロイドホルモンのようなLevonorgestrelおよびマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤(MMPi)の両方の局所(膣内もしくは子宮内)同時投与用にデザイン(設計)され、避妊処置中の子宮の異常な出血の抑制用である。如何なるステロイド、ホルモン、ホルモンアゴニスト、もしくはアンタゴニスト、またはこれらの組み合わせの供給にも、使用され得る。本システムは、個々もしくは同時に、該ステロイドに対して、抗ウィルス薬、抗菌剤、抗寄生虫薬、抗菌剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、もしくは抗新生物剤、ならびに、鎮痛剤、殺精子剤、およびHIVおよび他の性感染症に対する保護剤のような如何なる他の生物活性物質をも、供給し得る。
【0085】
異なる適用に興味ある他の分子は、中枢神経系、代謝、呼吸もしくは消化器官に影響を及ぼす薬、抗アレルギー薬、心臓血管薬、ホルモン調製品、抗腫瘍薬、抗生物質、化学療法剤、抗菌剤、局所麻酔薬(局麻剤)、抗ヒスタミン薬(抗ヒ剤)、ビタミン、抗菌剤。血管弛緩薬、降圧剤、免疫抑制剤を包含する。
【0086】
あるいは、この活性物質供給システムは、オリゴペプチド活性物質、サイトカイン、組織特異的成長因子、蛋白主体の成長因子、または、内因性もしくは移植された始原細胞の、適切なタイプの細胞への分化を誘導し得る如何なる分子もの供給に使用され得、疾患もしくは病気の組織および/または器官の治癒、修復、もしくは再生において使用され得る。治療もしくは組織誘導蛋白をコード化しているプラスミドもしくは非ウィルスDNAの放出が、蛋白の直接供給に対する約束された代替案を代表する。
【0087】
これらヒドロゲル主体の活性物質供給システムは特に、婦人科および眼科への適用に、適している。
【0088】
眼科への適用に関して、主要な関心事は、眼組織(例えば、網膜)の、薬剤、特にプロテオミクスおよび遺伝子治療から開発されたもののようなより新たな治療剤に対する高い感受性である。の間に合って且つ特定の部位に、最適な薬剤供給を求める必要性を高めると予期されている。本発明は、部位特異的供給およびより好ましい保持時間を眼において達成することを、毒性もしくは副作用の発症を抑えつつ可能とする(爆発的効果なし)。このバースト放出は実際、術後直後期における眼球内組織を危険にし得ると思われる。
【0089】
眼科において、各々の特定の医療への適用が、容易な挿入、および、隣接組織に対する最小限の外傷のためにミニチュア化され<<ゲル>>のように柔らかくなくてはならないインプラントのサイズおよび形状に関する拘束を付与する。本ヒドロゲルマトリックス主体の供給システムは、マイクロ装置へと容易に微小機械加工され得、一方、組織の損傷を防いでいる柔らかな態様を示している。
【0090】
眼球内制御薬剤放出挿入物の場合、目論まれる位置は、結膜下、硝子体内、嚢内、強膜上、溝中、およびメラノーマ上である。
【0091】
緑内障、ブドウ膜炎、傷の治癒、単純ヘルペスのような異なる病理が、そして免疫応答調節さえ、関わり得る。
【0092】
加工されて、(a)型により固められたかもしくは機械により後処理された(旋盤カット)形態、(b)膜、シート等を包含して多くの異なる物理的形態を持ち得るので、動脈内、筋内、乳房内、腹腔内、皮下、硬膜外、眼球内、直腸内、膣内、子宮内等を包含して異なる可能な投与ルートを使用すれば、局所供給に使用され得る。
【0093】
本発明による活性物質供給システムはこれゆえ、皮下、筋注、もしくは腹腔内インプラントとして、または、関節、筋、胸、眼、泌尿器等のような異なる器官もしくは組織において、使用され得る。活性物質供給への適用の他に、これらのシステムは、細胞培養、組織工学(例えば、軟骨、皮膚、骨、筋等)、再生医療、ならびに遺伝子治療にも、有用たり得る。
【実施例】
【0094】
実施例1.−
空洞ポリ(L−ラクチド)(PLLA)マイクロ球を含有しているヒドロゲルの製造
この実施例において、生分解性ポリマーマイクロ球が調製され、水/油/水(W/O/W)エマルション−エバポレーション手法を使用しており、以降のとおり:1gのPLLA(Boerhinger−Ingelheim)が、10mLのジクロロメタンに、磁気攪拌下に溶解された。ゼラチン水溶液が、1gのゼラチンを、5mLの脱イオン水に、40℃において溶解させていくことにより調製された。該ゼラチン溶液が、このポリマーの溶液に加えられ、この混合物が、超音波により乳化され、Ultraturaxを13500rpmにおいて2分間、Falconチューブ中において使用した。この結果得られてくる1次的なw/oエマルションが次いで、1滴ずつ、ミクロピペットを用いて、250mLの円筒のガラスフラスコ中10℃において含有されている100mLの2重量%のポリビニルアルコール(PVA)の水溶液に注入された。この結果得られてくるw/o/wエマルションが、機械的に攪拌され、溶媒が、まず10℃において30分間、次いで30℃において90分間エバポレーションするようにされた。この結果得られてくる固体マイクロ球が、濾過後に回収され、凍結乾燥されていく前に、脱イオン水を用いて3回洗浄された。これらマイクロ球の表面形態が、白金コーティング後に、SEM(Jeol JSM−840A)により検査された。マイクロ球が回収され、100〜300μmの範囲のサイズおよび有孔構造を持っていた。
【0095】
モノマー溶液が、50mLの精製メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、3gのメタクリル酸ジメチルアミノエチル(MADAM)、および、0.05gのジメタクリル酸エチレングリコール(EGDMA)を混合していくことにより調製された。0.25gの過硫酸アンモニウム((NH)および0.1gのメタ重亜硫酸ナトリウム(Na)が、30mLの水に溶解され、酸化還元イニシエーター溶液を形成させた。この溶液が、該モノマー溶液に加えられ、円筒プラスチック型において1/3の容積比であった。この混合物が、磁気攪拌下に均一化され、マイクロ球添加前に、10℃において冷蔵された。与えられた量のこの予め形成された生分解性マイクロ球が、該溶液に加えられ、本ヒドロゲルが、10℃において合成され、該マイクロ球に対する如何なる損傷をも避けた。本ヒドロゲルの重合が、約30分後に観察された。この分散体の穏やかな攪拌が、該マイクロ球が均一に本ヒドロゲルマトリックス中に分布されるようにした。本ヒドロゲルマトリックスの相対的な光学透明性が、該生分解性ポリマーマイクロ球が容易に可視化されるようにした。該生分解性ポリマーマイクロ球は、ここで上記されたような治療成分のいずれかを含有してよい。
【0096】
図1に言及しながら、生分解性ポリマーマイクロ球が適正に、本ヒドロゲルマトリックス中に分散され、それらの構造を保存している。
【0097】
図1は、生分解性ポリマーマイクロ球充填ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)ヒドロゲルマトリックスのSEM顕微鏡写真を表し、(a)本ヒドロゲル表面および該生分解性マイクロ球形態ならびに(b)本ヒドロゲル断面を示しており、該生分解性マイクロ球の分散およびこれらの内部形態を示している。
【0098】
この水/油/水(W/O/W)プロセスが、ペプチドもしくは蛋白を包含して、水溶性活性物質のカプセル化に使用され得る。疎水性活性物質(つまり、ステロイドおよび同様のもの)の場合、単純な油/水(O/W)エマルション主体のプロセスが好ましい。ポリL−ラクチド(PLLA)マイクロ球が、この単純方法を使用して調製され、同一範囲内(100〜300μm)のサイズを持つが、より低いサイズ多分散性を有する。
【0099】
あるいは、空洞ポリ(D,L−ラクチド)マイクロ球を含有しているヒドロゲルが、実施例1において記載されたと同一のプロセスを使用しながら、合成され得る。アモルファス(非晶質)ポリ(D,L−ラクチド)(PDLLA)が、準結晶性ポリ(L−ラクチド)(PLLA)マイクロ球よりも速く分解すると知られている。
【0100】
実施例2.−:
空洞ポリ(ポリ(ε−カプロラクトン))(ポリ(PCL))マイクロ球を含有しているヒドロゲルの形成
前の実施例において与えられた手順が繰り返されるが、ポリ(L−ラクチド)マイクロ球を、ポリ(PCL)のもので置き換えられている。ポリ(ε−カプロラクトン)マイクロ球が、ポリ(L−ラクチド)担体に関するものと同一レシピに従い調製される。エマルション主体のプロセスに代わるものとして、ポリマーマイクロ球が、前に報告されたような他のルート(経路)によっても調製され得、ミクロカプセル化手法の選択は主に、前記活性物質の特性により採用されている。
【0101】
実施例3.−:
PHEMAヒドロゲルマトリックスからのlevonorgestrelの放出
ストック用のモノマー溶液が、10mLのメタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)および11μLのジメタクリル酸エチレングリコール(EGDMA)(0.1重量%の架橋剤)を混合していくことにより調製された。1.5mLのこのストック用のモノマー溶液が回収され、2.5mgのLNGがそれに溶解された。N2が、この溶液中において5分間、0.5mLのイニシエーター溶液添加前に、バブリングされた。該イニシエーター溶液は、6.5mg/mLの過硫酸カリウム((NH)の、および、3.2mg/mLのメタ重亜硫酸ナトリウム(Na)の水溶液を混合していくことにより、調製されたてであった。5分間窒素中にバブリング後、このイニシエーター溶液が、該モノマー溶液に加えられ、非常によく、反応チューブ(試験管)中室温において混合された。15分のN2バブリング。該試験管は閉じられ、室温においておかれる。適度な粘度に到達した後、この混合物が、完全な重合用の最終の型中に移された。1片の0.21gのこの架橋されたヒドロゲルマトリックスが、溶解溶媒(精製水)中に、37℃において、発振浴における1400rpmでの攪拌下に含浸された。異なる時間間隔において、2mLの該溶解溶媒が、UV検出器を備えたHPLCによるLNG含量の決定用に回収された。その放出プロファイルが、放出されたLNGの結果の%として表記され、図2において示される。最初の24時間の間の、合計LNG含量の20重量%の、初期の爆発的発生の後、その放出速度は安定化して、10日後、値10μg/日前後に到達する傾向にある。20日のインキュベート後、合計LNG含量の90重量%が、該ヒドロゲルから放出された。これらの結果が、PHEMA−ヒドロゲルマトリックスからのLNGの放出が、非常に速いことを示す。
【0102】
実施例4−:
PHEMA−ヒドロゲルから、および、PHEMA−ヒドロゲル中に埋められたPCLマイクロ粒子から放出されたLNGの比較
図3は、該ヒドロゲルマトリックス(実施例3参照)から、および、同一組成のPHEMA−ヒドロゲルマトリックス中に埋められたPCLマイクロ球(このマイクロ粒子−ヒドロゲルマトリックスの調製に関して、実施例5参照)から放出されたLNGの放出速度の比較を示す。この図は明らかに、ポリマーマイクロ球内側のLNGのカプセル化は、薬剤放出の遅延のためであることを示す。20日のインキュベート後、そのLNG含量の35重量%が、このマイクロ球含有ヒドロゲルマトリックスから放出され、これは遙かに、同一インキュベート時間後の純粋ヒドロゲルから放出されたLNGよりも低い。このことは、ポリマーマイクロ球中へのLNGのカプセル化が、純粋ヒドロゲルからの直接放出に比較した場合、該ヒドロゲルマトリックスからのその放出を遅らせるのを可能にすることを確認し、これらのマイクロ球が、薬剤拡散に対する障壁を作り出していることを確認している。
【0103】
実施例5.−:
PCLマイクロ球中へのカプセル化後の、PHEMAヒドロゲルマトリックスからの、レボノルゲストレル(LNG)およびエストラジオール(EST)の放出
この実施例において、2種の活性分子、つまりレボノルゲストレルおよびエストラジオールが、PCLでできた生分解性ポリマーマイクロ球中にカプセル化されている。2種の異なるグループのマイクロ球が、異なる分子量を有するPCL、つまりLNGおよびESTのカプセル化に関してそれぞれMW:50,000および10,000のPCLを使用して、調製されている。同一O/Wエマルション−エバポレーション手法が、両薬剤のカプセル化に使用された。LNGのカプセル化用に、1gのPCL(Solvay Interox、MW:50000)が、20mLのジクロロメタンに、磁気攪拌下に溶解された。200mgのLNGが、この溶液に溶解され、理論LNG含量20重量%に至った。0.27重量%のポリビニルアルコールの水溶液が、調製された。この有機ポリマー溶液が、PVA水溶液中に、1滴ずつ、マイクロピペットを用いて、室温において、300rpmでの攪拌下に(IKA−WERK RW:20)加えられ、そのO/Wエマルションを形成させた。溶媒が、24時間、室温において蒸発するようにされた。この結果得られてくる固体マイクロ球が濾過後に回収され、凍結乾燥される前に3回脱イオン水を用いて洗浄された。エストラジオールのカプセル化用に、MW10000を有するPCLが、触媒として錫触媒(ジブチル錫ジオキセパン)を使用しながら、開環重合により、合成された。理論充填量5重量%を有するエストラジオールのマイクロ球が、LNGのカプセル化用と同一方法を使用しながら、調製された。
マイクロ球が、以降のように、PHEMAヒドロゲルマトリックス中に埋められた:1.5mLの前記ストックモノマー溶液が回収され、2.5mgの両種のマイクロ球粒子(msp)がその中において分散された。5分間のバブリングの後、0.5mLの前記イニシエーター溶液が加えられた。該イニシエーター溶液は、6.5mg/mLの過硫酸カリウム((NH)の水溶液および3.2mg/mLのメタ重亜硫酸ナトリウム(Na)の水溶液を混合していくことにより、調製されたてであった。5分間窒素中にバブリングした後、このイニシエーター溶液が、該モノマー溶液に加えられ、試験管中において、室温において、非常に良く混合された。15分のN2バブリング。該試験管は閉じられ、室温においておかれる。適度な粘度に到達した後、この混合物が、完全な重合用の最終の型中に移された。
【0104】
放出に関する経験に関して、0.33gの該ヒドロゲルが量り採られ、溶解溶媒(精製水)中に、37℃において、発振浴における1400rpmでの攪拌下に含浸された。異なる時間間隔において、2mLの該溶解溶媒が、UV検出器を備えたHPLCによるLNGおよびエストラジオール両方の含量の決定用に回収された。該ヒドロゲルマトリックスからのLNGおよびESTの放出プロファイルが、図4において示される。LNGの拡散速度は、ESTのそれよりも速く、エストラジオールに比較した場合により高いLNGの充填量のためである(20重量%対5重量%)。爆発的放出後(そのLNG含量の10重量%が、24時間後に放出される)、その放出速度は安定化して、7日後、1日当たりの用量30〜40μg/日前後に到達する傾向にある。ESTの拡散は、LNGのものに比較した場合より速く、最も恐らくは、そのより低い初期含量による。また、LNGに比較した場合より高いエストラジオールの水溶性は、より速い放出およびより高い初期爆発的放出に応答性であるかも知れない。この実施例は、放出プロファイルが、薬剤溶解度、薬剤含量、およびマイクロ球特性を包含している異なるパラメーターに依存することを示す。
【0105】
実施例6
本マイクロ球の存在は、本ヒドロゲルの膨潤していく振る舞いを妨げない
この膨潤していく振る舞いが、脱イオン水中におけるこの乾いたヒドロゲルサンプルの、室温における含浸により、研究された。ある時間間隔において、このヒドロゲル片が、水から抽出され、ペーパータオルを用いて吸い取られて乾かされ、量り採られた。得られた結果が、図5において描かれる。
【0106】
図5において、5、10、15、20、25、および30mgマイクロ球/mLヒドロゲルでの異なる量の空洞のPCLマイクロ球を取り込んでいるPHEMAヒドロゲルの膨潤していく動的挙動が、例示される。
【0107】
図5から、マイクロ球を有する本ヒドロゲルの充填量が−調べられる充填量範囲における−如何なる主要な影響をも、PCLマイクロ球を含有しているPHEMAヒドロゲルの膨潤していく挙動において持たないことが見て取れる。
【0108】
実施例7:ヒドロゲルマトリックス中に埋められた異なる量のマイクロ球を有する当該ヒドロゲルマトリックスに関する弾性率の比較
本実施例において、コポリマーヒドロゲルマトリックスたるポリ(ヒドロキシ)エチルメチルアクリレート(PHEMA)+1%エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)が、実施例1に従って、調製された。
【0109】
PHEMA主体のヒドロゲルが、疎水性モノマー(MMA)との共重合により、これを本装置の核心に好ましい候補ビルディング材料とする一連の特性を呈する。
低温において合成され得る能力、軽減された毒性を有するイニシエーター系を使用
種々の形状に成型され得る能力
良好な機械的特性および透水性、ならびに、良好な生体相容性
本活性本体をカプセル化しているマイクロ球用分散媒として振る舞えるモノマー混合物、結果的に、触れられていないマイクロ球が、本ヒドロゲルバルク中において一様に分布される
弾性および丈夫さのような、良好な機械的特性、mspの存在により影響されない(50mg/mLのヒドロゲルまで)
本活性本体の第2の拡散障壁として振る舞う能力
暫定の拡散結果が、本ヒドロゲル組成物中へのMMAの包含が、その水の取り込み(そして引き続き、その材料の水和度、これが今度は、ヒドロゲル膜を通しての異なる分子の輸送に影響する)を消失させるだけでなく、LNGの拡散の遅延にも寄与すると示唆し、恐らく、本ヒドロゲルバルク中へのガラス様低浸透領域の包含による。
【0110】
本活性本体、LNGは、顕著に疎水性の特徴、および、水へよりも遙かに高いHEMAモノマーへの溶解性を持つ。そのポリマーへのその溶解性は恐らく、LNGに対するpHEMA膜の高い浸透性、および引き続き、本活性本体の速い拡散を求めるのに充分高い。PCLマイクロ球中でのLNGの高いカプセル化%に関して、該マイクロ球表面上で横たわっているLNG結晶が、ヒドロゲル合成の間に、該モノマー混合物に溶けて、分子を織り込んでいる本ヒドロゲルマトリックスに至り、本ヒドロゲルマトリックスを通したLNGの拡散特徴を向上させていくことも、可能である。これゆえ、本ヒドロゲル組成物中への疎水性コモノマーMMAの包含は、活性本体の拡散を調節するのを補助し得、本ヒドロゲルを、カプセル化されたLNGの第2の期待される拡散障壁としていく。
【0111】
pHEMAヒドロゲルサンプル(1.0%EGDMA)に関する弾性率が、異なるマイクロ球量の有無により:10mgマイクロ球/mLヒドロゲルおよび50mgマイクロ球/mLヒドロゲル、測定されており、図6において例示される。
【0112】
これらマイクロ球の存在が、本ヒドロゲルの弾性特性を、大きくは修飾しなかったことが観察される。
【0113】
実際、その弾性率G’の修飾が、小さくてシステマティックでないようなPCLマイクロ球と共に充填されたヒドロゲルサンプルに関して現れたが、本ヒドロゲルバルクの機械的特徴に対するこれらマイクロ球の寄与が、図6において提示されるように全くなかったと示唆している。
【0114】
本ヒドロゲルの主な物理化学的特性が、膨潤可能性および弾性を包含して、少なくとも充填量範囲5〜50mgmsp/mLヒドロゲル混合物において、これらマイクロ球の存在により影響されない。更により高いmsp充填量(100mgmsp/mLヒドロゲル混合物まで)が、同様の観察を与えると示されている。
【0115】
本発明の好ましい実施形態が、例示目的に開示されてきたが、当業者は、種々の修飾、追加、もしくは代替が、添付している請求項において開示されているような本発明範囲および思考から逸脱していくことなく、可能であると認める。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1a】生分解性ポリマーマイクロ球充填ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)ヒドロゲルマトリックスのSEM顕微鏡写真。
【図1b】生分解性ポリマーマイクロ球充填ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)ヒドロゲルマトリックスのSEM顕微鏡写真。
【図2】放出されたLNGの結果の%。
【図3】ヒドロゲルマトリックス(実施例3参照)から、および、同一組成のPHEMA−ヒドロゲルマトリックス中に埋められたPCLマイクロ球(このマイクロ粒子−ヒドロゲルマトリックスの調製に関して、実施例5参照)から放出されたLNGの放出速度の比較。
【図4】LNGおよびESTの放出プロファイル。
【図5】5、10、15、20、25、および30mgマイクロ球/mLヒドロゲルでの異なる量の空洞のPCLマイクロ球を取り込んでいるPHEMAヒドロゲルの膨潤していく動的挙動。
【図6】pHEMAヒドロゲルサンプル(1.0%EGDMA)に関する弾性率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ヒドロゲルマトリックス;および
該ヒドロゲルマトリックス内に埋められているマイクロキャリア
を含み、該マイクロキャリアが、生体相容性生分解性(コ)ポリマーでできており、均一に生体相容性架橋ヒドロゲルマトリックス中に埋められており、少なくとも2種の活性物質を含有することを特徴とする、固体活性物質供給システム。
【請求項2】
前記ヒドロゲルマトリックスが、水の存在下に、25〜40重量%の範囲中の膨潤容量を持つ、請求項1の活性物質供給システム。
【請求項3】
前記ヒドロゲルマトリックスが、0.17〜0.5MPAの範囲中の粘度弾性率をその水和状態において持ち、1〜7MPAの引っ張り歪みを降伏点において持つ、請求項1もしくは2の活性物質供給システム。
【請求項4】
前記ヒドロゲルマトリックスが、(メタ)アクリルポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、および親水性ポリウレタンからなる群から選択されるポリマーもしくはコポリマーでできている、請求項1〜3のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項5】
前記ヒドロゲルマトリックスが、ポリ(ヒドロキシ)メチルアクリレートでできている、請求項4の活性物質供給システム。
【請求項6】
前記ヒドロゲルマトリックスが、エチレングリコールジメタクリレートと共にポリ(ヒドロキシ)メチルアクリレートでできている、請求項4の活性物質供給システム。
【請求項7】
前記ヒドロゲルマトリックスが、前記マイクロキャリアの融点よりも低温において合成される、請求項1〜6のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項8】
前記ヒドロゲルマトリックスが、前記マイクロキャリアのガラス温度よりも低温において合成される、請求項1〜6のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項9】
前記マイクロキャリアが、サイズ範囲1〜1000ミクロンのマイクロ球であり、ここで、前記活性物質が、カプセル化されている、請求項1〜8のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項10】
前記マイクロキャリアが、コラーゲン、グリコサミノグリカン、キトサン、ポリヒドロキシアルカン酸、脂肪族ポリエステル(ホモポリマーおよびコポリマー)、ポリ(無水物)、ポリホスファゼン、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、およびポリ(アミノ酸)からなる群から選択されるポリマーもしくはコポリマーでできている、請求項1〜9のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項11】
前記マイクロキャリアが、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、および、乳酸とグリコール酸とのコポリマー(PLGA)からなる群から選択される脂肪族ポリエステルである、請求項10の活性物質供給システム。
【請求項12】
異なる前記活性物質が、異なるグループのマイクロキャリアにおいて含有されており、各グループが、もう1つ別のグループにおいて含有される活性物質とは異なる活性物質を含有している、請求項1〜11のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項13】
更に、放出速度修飾剤を、前記ヒドロゲルマトリックス中および/または前記マイクロキャリア中において含んでいる、請求項1〜12のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項14】
前記活性物質が、医薬、治療、生理、もしくは生体効果を持っている物質である、請求項1〜13のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項15】
局所的にヒトもしくは動物の体上での、薬剤供給システムとしての、使用のための、請求項1〜14のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項16】
ヒトもしくは動物における器官もしくは組織における、皮下、筋内、もしくは腹腔内インプラントとしての、使用のための、請求項15の活性物質供給システム。
【請求項17】
活性物質xを含有している1グループのマイクロキャリア、および、もう1つ別の活性物質yを含有しているもう1つ別のグループのマイクロキャリアを含んでおり、ここで、xおよびyが、(ステロイドホルモン、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、抗血管新生剤、抗炎症剤)からなる群から選択される、請求項12〜16のいずれか1項の活性物質供給システム。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項の固体活性物質供給システムを調製する方法であって:
ステップ1において、少なくとも2種の活性物質を含有している生分解性(コ)ポリマーマイクロキャリアを、ヒドロゲル形成マトリックス中に分散させていき;
ステップ2において、その後、該ヒドロゲル形成マトリックスを、イニシエーターの添加により架橋させていく
ことを含み、該マイクロキャリアが均一に、該生体相容性架橋ヒドロゲルマトリックス中に埋められていることを特徴とする、方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−520783(P2008−520783A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541911(P2007−541911)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055751
【国際公開番号】WO2006/053836
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(500029925)ユニベルシテ・ド・リエージュ (18)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur,Belgium
【Fターム(参考)】