説明

ヒドロゲル組成物およびその製造方法

【課題】一般的な方法により製造されたヒドロゲル組成物に比して、より高い力学的特性を示すヒドロゲル組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のドロゲル組成物は、水と親水性ポリマーとを含んでなり、このヒドロゲル組成物が、(a)約10kPa以上の極限引張強さ、(b)約70kPa以上の圧縮強さ、または、(c)約10kPa以上の極限引張強さと約70kPa以上の圧縮強さとを有する。さらに、ヒドロゲル組成物の製造方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明はヒドロゲル組成物およびその製造方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
「ゲル」は、ゾルより、より密な形態のコロイドと定義し得る。「ヒドロゲル」は、液体すなわち分散媒が水であるゲルである。ヒドロゲルは、水で安定なコロイドが形成できる実質的にどのような物質からでも作製することができる。たとえば、シリカヒドロゲルは、周知であり、多くの用途で利用されてきている。ヒドロゲルは、高分子物質(たとえば親水性モノマーまたはポリマー)から作製することもできる。
【0003】
親水性モノマーまたはポリマーからヒドロゲルを作製する最も一般的な方法の1つは、親水性モノマーまたはポリマーの水溶液を利用する方法である。具体的には、このプロセスは、親水性モノマーまたはポリマーの希釈水溶液の調製から始まる。ついで、この希釈液を放射線照射または他の方法(たとえば化学架橋剤使用)で処理し、溶液中に存在する個々のモノマー分子またはポリマー分子の間に架橋を形成する。分子間により多くの架橋が形成されるにつれ、親水性モノマーまたはポリマーがポリマー分子のネットワークを作り始め、水溶液ゲルになるまで成長する。得られたヒドロゲルは、水溶液からの水がカプセル化された架橋ポリマー分子の三次元マトリックスを含んでいる。
【0004】
上記のプロセスにより作製されたヒドロゲルは多くの用途で使用される。しかしながら、このヒドロゲルの特性が、本プロセスに固有の限界により強く影響をうけるため、使用できない多くの用途が存在する。たとえば、大きく広がった架橋ポリマー分子のマトリックスを有し、かなり大きい機械的強度(たとえば圧縮強さおよび/または引張強さ)を持つヒドロゲルを生じるのに十分な高い濃度の親水性モノマーまたはポリマーの初期水溶液を作製することはしばしば困難である。特に、水への溶解性が比較的低く、かなり高い濃度の親水性ポリマーを含む水性分散体として使用することができない、中〜高分子量までの親水性ポリマーからヒドロゲルを作製する場合には、ポリマーネットワークの広がりとヒドロゲルの力学的性質とはより強く悪影響を受け得る。このプロセスによって作製されたヒドロゲルは、比較的弱い力学的性質を示すため、ヒドロゲルに中程度の機械的ストレス(たとえば引っ張りおよび/または圧縮ストレス)を与えるかもしれない用途においてさえ、このようなヒドロゲルの有用性が大きく妨げられる。
【0005】
さらに、プロセスが親水性モノマーまたはポリマーの均一水溶液を必要とする限り、水不溶性材料(たとえばポリマー)も中に均一に分散させたヒドロゲルを作製することは困難である。より具体的には、親水性モノマーまたはポリマーの初期水溶液に水不溶性材料を均一に分散させておき、モノマーまたはポリマーが架橋してヒドロゲルを生じた後に水不溶性材料がヒドロゲル中に一様に分布しているようにすることがしばしば困難である。上記のプロセスを利用する場合、このプロセスで作製されるヒドロゲルの最終的な含水量をコントロールすることも、しばしば困難である。特に、前記のプロセスによって作製されたヒドロゲルの最終的な含水量は、主に、ヒドロゲルの化学的組成(すなわち、ヒドロゲルを作製するために使用された親水性ポリマー)と親水性ポリマー分子が架橋する程度とによって決まる。したがって、ヒドロゲルに含まれる水量は、少なくとも部分的には、ヒドロゲルを作製するために使用される特定の親水性ポリマーと所望の特性を有するヒドロゲルを作製するのに必要な架橋度とによって決まり、ヒドロゲルの所望の最終含水量だけでは決まらない。
【0006】
それゆえ、一般的な方法により製造されたヒドロゲル組成物に比して、より高い力学的特性を示すヒドロゲル組成物へのニーズが存在する。このようなより高い力学的特性を示すヒドロゲル組成物を作製する方法へのニーズも存在する。本発明はこのようなヒドロゲル組成物およびこのヒドロゲル組成物の製造方法を提供する。本発明のこれらの利点およびその他の利点ならびに、追加的な発明的特徴は、本明細書における本発明の記載から明らかになるであろう。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明は、水と親水性ポリマーとを含んでなるヒドロゲル組成物において、当該ヒドロゲル組成物が、(a)約10kPa以上の極限引張強さ、(b)約70kPa以上の圧縮強さ、または、(c)約10kPa以上の極限引張強さと約70kPa以上の圧縮強さとを有する、ヒドロゲル組成物を提供する。
【0008】
本発明は、さらに、ヒドロゲル組成物の製造方法であって、(a)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、(b)溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、(c)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に前記前駆体を充填するステップと、(d)前記前駆体から成形体を形成するのに十分な時間と条件下に、前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮するステップと、(e)前記成形体内に含まれた親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるのに十分な時間と条件下に、前記成形体の少なくとも一部を放射線処理するステップと、(f)前記放射線処理された成形体からヒドロゲルを形成するのに十分な時間と条件下に、前記放射線処理された成形体を水和するステップとを有する、ヒドロゲル組成物の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、さらに、ヒドロゲル組成物の製造方法であって、(a)架橋剤の分散体を供給するステップと、(b)溶融処理可能な親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、(c)前記ヒドロゲル前駆体の少なくとも一部を前記分散体で被覆するステップと、(d)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、(e)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に、ステップ(c)で作製された前記被覆前駆体を充填するステップと、(f)前記前駆体から成形体を形成するのに十分な時間と条件下、前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮し、前記成形体内に含まれた前記親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるステップと、(g)前記成形体からヒドロゲルを形成するのに十分な時間と条件下、前記成形体を水和するステップとを含む、もう一つのヒドロゲル組成物の製造方法を提供する。
【0010】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、水と親水性ポリマーとを含んでなるヒドロゲル組成物を提供する。このヒドロゲル組成物は、(a)約10kPa以上の極限引張強さ、(b)約70kPa以上の圧縮強さ、または、(c)約10kPa以上の極限引張強さと約70kPa以上の圧縮強さとを有する。
【0011】
本発明のヒドロゲル組成物は水を含有する。この水は、脱イオンまたは逆浸透等の方法で精製されたものであることが好ましい。本発明のヒドロゲル組成物は、適宜どのような含水量であってもよい。本発明のヒドロゲル組成物は、ヒドロゲル組成物の全重量をベースに、少なくとも約30%(たとえば、少なくとも約35%または少なくとも約38%)の含水量であることが好ましい。含水量は、少なくとも約50%がより好ましく、少なくとも約75%がさらにより好ましく、少なくとも約90%がその上さらに好ましく、約92〜約95%が最も好ましい。
【0012】
本発明のヒドロゲル組成物は、親水性ポリマーを含有する。この親水性ポリマーは、適宜どのような親水性ポリマーでもよい。しかしながら、中〜高分子量の親水性ポリマーが好ましい。特に、本親水性ポリマーは、約400,000原子質量単位以上の平均分子量を有することが好ましい。平均分子量は、約500,000原子質量単位以上であることがより好ましく、約1,000,000原子質量単位以上(たとえば、約2,000,000原子質量単位以上または、約3,000,000原子質量単位以上または、約4,000,000原子質量単位以上または、さらに、約7,000,000の原子質量単位以上)であることが最も好ましい。
【0013】
本親水性ポリマーは、溶融処理可能な親水性ポリマーであることが好ましい。溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーであることがより好ましい。ここで用いられる「溶融処理可能」という用語は、ポリマーが、その溶融状態で、たとえば、射出成形、押し出し、ブロー成形および/または圧縮成形等のプロセスを使用して処理できることを意味する。融解処理可能なポリマーが、そのような成形工程で一般的に使われる加工温度で、著しい酸化劣化、分解または熱分解を示さないことが好ましい。ここで使用される用語「放射線架橋性」とは、適切な量の放射線(たとえばガンマ線、X線または電子ビームの放射線)に曝露された時に個々のポリマー分子間に架橋を形成するポリマーを意味する。放射線架橋性のポリマーは、照射を受けた場合に著しい劣化または鎖切断を示さないものであることが好ましい。好ましい形態では、親水性のポリマーがポリ(エチレンオキシド)である。
【0014】
本発明のヒドロゲル組成物は、約10kPa以上の極限引張強さを持ち得る。ここで使用される用語「極限引張強さ」は、引張応力の下における材料(たとえばヒドロゲル組成物)の耐破壊性の最大値を意味する。極限引張強さは、ASTM標準D638−03(タイプV)に記載の手順により測定することができ、ASTM標準D638−03(タイプV)の任意の手順により範囲内にあると決定されたものは、ここに定義された範囲内にあるものと考えられる。好ましい形態では、本発明のヒドロゲル組成物が、約20kPa以上の極限引張強さを有する。より好ましい形態では、本発明のヒドロゲル組成物が、約30kPa以上、最も好ましくは35kPa以上(たとえば約45kPa以上または約50kPa以上)の極限引張強さを有する。
【0015】
本発明のヒドロゲル組成物は、約70kPa以上の圧縮強さを持ち得る。ここで使用される用語「圧縮強さ」は、圧縮応力の下における材料(たとえばヒドロゲル組成物)の耐破壊性の最大値を意味する。ヒドロゲル組成物の圧縮強さは、適宜どのような技術を用いてでも測定し得る。ヒドロゲルの圧縮強さを決定する適切な技術の一つに、「ガンマ線照射により作製されたκ−カラギーナン−ポリエチレンオキシドヒドロゲルブレンド(”Kappa−carrageenan−polyethylene oxide hydrogel blends prepared by gamma irradiation”)」,放射線物理と化学(”Radiation Physics and Chemistry”),55:127−131(1999年)に記載された、C. Tranquilan−Aranilla等の方法がある。ヒドロゲル組成物の圧縮強さは、C. Tranquilan−Aranilla等が開発した技術を、直径約15.9mm(0.625インチ)で厚さが約6.4mm(0.25インチ)のサイズで測定されるように、テストに使用されるサンプルを変えた修正バージョンを使って測定することが好ましい。この修正技術で使用されるクロスヘッド速度は約10mm/分(0.4インチ/分)である。これは、C. Tranquilan−Aranilla等が使用したクロスヘッド速度と同一である。上記の好ましい技術(すなわち、C. Tranquilan−Aranilla等の方法に基づく修正技術)を使用して範囲内にあると決定された場合、ヒドロゲルの圧縮強さは、ここに定義された範囲内にあるものと考えられる。好ましい形態では、本発明のヒドロゲル組成物が、約100kPa以上の圧縮強さを有する。より好ましい形態では、本発明のヒドロゲル組成物が、約200kPa以上の圧縮強さを有し、最も好ましくは、300kPa以上(たとえば約400kPa以上、約440kPa以上、約500kPa以上、約600kPa以上または約620kPa以上)の圧縮強さを有する。
【0016】
本発明のヒドロゲル組成物は、上述の一つの範囲内にある極限引張強さを有し、あるいは、上述の一つの範囲内にある圧縮強さを有し、あるいは、上述の一つの範囲内にある極限引張強さと上述の一つの範囲内にある圧縮強さとの組合せを有する。好ましくは、本発明のヒドロゲル組成物が、上述の一つの範囲内にある極限引張強さと上述の一つの範囲内にある圧縮強さとの両方を有する。たとえば、好ましい形態では、本発明のヒドロゲル組成物が、約10kPa以上の極限引張強さと約70kPa以上の圧縮強さとを有する。特に好ましい形態では、本発明のヒドロゲル組成物が、約35kPa以上(たとえば約45kPa以上または約50kPa以上)の極限引張強さと約300kPa以上(たとえば約400kPa以上または約440kPa以上)の圧縮強さとを有する。
【0017】
本発明のヒドロゲル組成物は、親水性ポリマーに加えて第2のポリマーを更に含み得る。第2のポリマーとしては、適切なポリマー(たとえば親水性ポリマーまたは疎水性あるいは水不溶性のポリマー)であればどのようなポリマーでも可能である。第2のポリマーとしての使用に適した親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールコポリマー{たとえば、ポリ(エチレングリコール−コプロピレングリコール)コポリマー、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)ブロックコポリマーまたはポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)ブロックコポリマー}、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリビニルピロリドン、セルロースエーテル、アルジネート、キトサン、ヒアルロン酸(hyaluronate)、コラーゲンおよびこれらの混合物または組合せがあるが、これらに限られるわけではない。あるいは、第2のポリマーとして、吸収性ポリマー(すなわち、生体内で分解して、身体によって除去され得る無毒性物質に変化するポリマー)が可能である。第2のポリマーとしての使用に適した吸収性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、β−ヒドロキシ酸ポリマーおよびこれらの組合せがあるが、これらに限られるわけではない。
【0018】
本発明のヒドロゲル組成物は、薬剤(たとえばリドカイン)、治療薬または湿潤薬等の、適宜どのような活性成分も含み得る。活性成分は、適宜どのような手段ででもヒドロゲル組成物中に取り込まれ得る。活性成分は、たとえば、ヒドロゲル組成物を作製するために利用される前駆体中に取り込まれ(たとえば、ドライブレンドし)得る。あるいは、水和プロセスの間に活性成分をヒドロゲル組成物中に取り込むことができる。特に、活性成分を含有する水溶液を利用してヒドロゲル前駆体を水和することができる。あるいは、本発明に係るヒドロゲル組成物は、脱水または乾操してキセロゲルとすることが可能であり、ついで、活性成分を含有する水溶液を利用してこのキセロゲルを水和することができる。
【0019】
本発明のヒドロゲル組成物は、多くの用途、特に、確実に中〜高程度の機械的ストレスに耐え得るヒドロゲルを必要とする用途への適合性が高い。たとえば、本発明のヒドロゲル組成物は、多くの生物医学的な用途への使用に対して適合性が高い。適切な生物医学的な用途には、抗付着性バリア(たとえば、外傷または外科手術の後の固定化中における、コラーゲン線維の構造体への異常な付着を防止するバリア)、コンタクトレンズ、薬剤デリベリデバイス、人工核椎間板、創傷用包帯および軟組織修理構造体(たとえば人工軟骨)があるが、これらに限られるわけではない。
【0020】
本発明は、ヒドロゲル組成物を製造する方法も提供する。最初の形態では、本発明が、ヒドロゲル組成物の製造方法であって、(a)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、(b)溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、(c)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に前記前駆体を充填するステップと、(d)前記前駆体から成形体を形成するのに十分な時間と条件下に、前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮するステップと、(e)前記成形体内に含まれた親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるのに十分な時間と条件下に、前記成形体の少なくとも一部を放射線処理するステップと、(f)前記放射線処理された成形体からヒドロゲルを形成するのに十分な時間と条件下に、前記放射線処理された成形体を水和するステップとを有する、ヒドロゲル組成物の製造方法を提供する。
【0021】
本発明のこの第一の方法形態で使用されるヒドロゲル前駆体は、溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーを含有する。ヒドロゲル前駆体に含まれる溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーとしては、適宜どのようなポリマーでも可能であるが、中〜高重量平均分子量の親水性ポリマーが好ましい。特に、親水性ポリマーとしては、約400,000原子質量単位以上の平均分子量が好ましく、約500,000原子質量単位以上の平均分子量がより好ましく、約1,000,000原子質量単位以上(たとえば、約2,000,000原子質量単位以上または約3,000,000原子質量単位以上またはさらに、約4,000,000原子質量単位以上)の平均分子量がもっとも好ましい。好ましい形態では、親水性ポリマーがポリ(エチレンオキシド)である。
【0022】
本発明のこの方法形態の圧縮ステップ中に作製される成形体は、適宜どのような方法を使用してでも照射処理し得る。これらの方法の多くは当技術分野で公知である。たとえば、適切な量のガンマ線、X線または電子ビームの放射線に曝露することにより、成形体を照射処理し得る。約0.5〜約50Mrad(たとえば、約0.5〜約10Mradまたは、約1.5〜約6Mrad)のガンマ放射線への曝露によって成形体を照射処理することが好ましい。成形体を上記の範囲外にある照射量の放射線に曝露することも可能であるが、このような照射量はヒドロゲルに好ましくない特性を生じさせる傾向を与える。特に、約0.5Mrad未満の放射線量では、一般的に、大きく広がった架橋ポリマー分子のマトリックスと凝集性のヒドロゲルとを生じるには親水性ポリマーの架橋が不十分である。さらに、50Mradを超える線量が使用されると、一般的に得られる、親水性ポリマーの架橋の程度への更なる改善が、そのような高放射線量で起こり得る親水性ポリマーの劣化で相殺されることになる。
【0023】
成形体は、不活性または減圧雰囲気で照射処理されることが好ましい。不活性(すなわち、非酸化性)または減圧雰囲気における成形体の照射により、酸化的雰囲気中における照射中に起こり得る酸化反応と鎖の切断反応の影響が減少する。典型的には、照射ステップの間、酸素不透過性の包装中に成形体を置く。酸素不透過性の包装材料として適切なものには、アルミニウム、ポリエステル被覆金属箔(たとえば、DuPont Teijin Films社から入手可能なマイラー(R)(製品)、ポリエチレンテレフタレートおよびポリ(エチレン・ビニルアルコール)があるが、これらに限られるわけではない。成形体の照射の間に起こる酸化の量をさらに減少させるために、成形体を中に入れた後、酸素不透過性の包装の脱気(たとえば、包装内の圧力を周囲の大気圧より下げること)および/または不活性ガス(たとえば窒素、アルゴン、ヘリウムまたはこれらの混合物)によるブロー(flush)を行うことができる。
【0024】
第2の形態では、本発明は、ヒドロゲル組成物の製造方法であって、(a)架橋剤の分散体を供給するステップと、(b)溶融処理可能な親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、(c)前記ヒドロゲル前駆体の少なくとも一部を前記分散体で被覆するステップと、(d)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、(e)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に、ステップ(c)で作製された前記被覆前駆体を充填するステップと、(f)前記前駆体から成形体を形成するのに十分な時間と条件下、前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮し、前記成形体内に含まれた前記親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるステップと、(g)前記成形体からヒドロゲルを形成するのに十分な時間と条件下、前記成形体を水和するステップとを含む、ヒドロゲル組成物の製造方法を提供する。
【0025】
本発明のこの第2の方法形態で使用される架橋剤の分散体は、適宜任意の媒体に分散した、適宜どのような架橋剤(たとえば化学架橋剤)でも含有し得る。好ましくは、架橋剤が過酸化物である。好ましい過酸化物架橋剤は、たとえば過酸化ベンゾイルのように、約100〜約125℃の分解温度を有する。好ましい形態では、分散体の媒体が有機溶媒(たとえば酢酸エチル)である。
【0026】
本発明の第2の方法形態で使用されるヒドロゲル前駆体は、溶融処理可能な親水性ポリマーを含有する。本ヒドロゲル前駆体に含まれる溶融処理可能な、親水性ポリマーは、適宜どのようなポリマーでもあり得るが、中〜高重量平均分子量の親水性ポリマーが好ましい。特に、この親水性ポリマーが、約400,000原子質量単位以上の平均分子量を有することが好ましく、約500,000原子質量単位以上の平均分子量を有することがより好ましく、約1,000,000原子質量単位以上(たとえば、2,000,000原子質量単位以上、または約3,000,000原子質量単位以上、さらにまたは4,000,000原子質量単位以上)の平均分子量を有することが最も好ましい。好ましい形態では、親水性ポリマーがポリ(エチレンオキシド)である。
【0027】
上記したように、本発明の方法には、内部空間を持つ、ヒドロゲル組成物用の圧縮成形型を提供することが含まれる。用語「圧縮成形型」は、係合させられたときに内部空間(すなわち、成形型キャビティ)を定める、典型的には二つの半型を有する成形型を意味するために使用される。圧縮成形型の構成配置は、適宜どのようなものでもよい。通常、圧縮成形型の構造により、その内部空間(すなわち、成形型キャビティ)が、成形体をかなり完全な形状(すなわち、ヒドロゲル組成物のために使用されるのと実質的に同一の形状)で定めるようになっている。しかしながら、第1の方法形態のステップ(d)と第2の方法形態のステップ(f)とで作製される成形体を更なる処理(たとえば機械加工)に付して、所望の最終形状を有するヒドロゲル組成物を作製するための形状の成形体を得ることもできると理解される。
【0028】
本発明の方法で使用されるヒドロゲル前駆体は、適宜どのような形状ででも得ることができる。たとえば、本ヒドロゲル前駆体を、親水性ポリマーと、適宜任意の他の添加物(たとえば第2のポリマー、活性成分、その他)とを含有する、溶融マトリックスの形態で与えることができる。好ましくは、ヒドロゲル前駆体が、粉体、ペレットおよびこれらの組合せからなる群から選ばれた形態で与えられる。
【0029】
本発明の方法で使用されるヒドロゲル前駆体は、親水性ポリマーに加えて、第2のポリマーを更に含有し得る。第2のポリマーは、適宜どのようなポリマー(たとえば親水性ポリマーまたは疎水性もしくは水不溶性ポリマー)でもあり得る。第2のポリマーとしての使用に適した親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールコポリマー{たとえば、ポリ(エチレングリコール−コプロピレングリコール)コポリマー、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)ブロックコポリマーまたはポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)ブロックコポリマー}、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリビニルピロリドン、セルロースエーテル、アルジネート、キトサン、ヒアルロン酸、コラーゲン、およびこれらの混合物または組合せが挙げられるが、これらに限られるわけではない。あるいは、第2のポリマーが、吸収性ポリマー(すなわち、生体内で分解して、身体によって除去され得る無毒性物質に変化するポリマー)であり得る。第2のポリマーとしての使用に適した吸収性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、β−ヒドロキシ酸ポリマーおよびこれらの混合物または組合せが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0030】
ヒドロゲル前駆体中に存在するオプションの第2のポリマーは、適宜どのような手段ででもヒドロゲル前駆体中に取り込み得る。たとえば、オプションの第2のポリマーが溶融処理可能な場合、第2のポリマーを溶融し、親水性ポリマーの溶融マトリックス中に均一に分散することができる。オプションの第2のポリマーが溶融処理可能でない場合には、圧縮成形ステップの前に、第2のポリマーを親水性ポリマーとドライブレンドし、ポリマーブレンドすなわちポリマー混合物を作製することができる。
【0031】
本発明の方法で使用されるヒドロゲル前駆体は、薬剤(たとえばリドカイン)、治療薬または湿潤薬等の、適宜どのような活性成分でも含有し得る。本活性成分は、適宜どのような手段ででも、ヒドロゲル前駆体中に取り込むことができる。たとえば、ヒドロゲル組成物を作製するために使用される前駆体中に本活性成分を取り込む(たとえば、ドライブレンドする)ことができる。あるいは、たとえば、活性成分を含有する溶液または分散体中にヒドロゲル前駆体の少なくとも一部を浸漬することにより、活性成分でヒドロゲル前駆体を被覆し、ついで、この被覆された被覆前駆体を乾燥して液状媒体を除去することができる。
【0032】
上記したように、圧縮成形型の内部空間(すなわち成形型キャビティ)の少なくとも一部が、ヒドロゲル前駆体で充填される。好ましくは、上記混合物が充満した圧縮成形型の内部空間部分が、最終的なヒドロゲル組成物の表層の一部を含む。より好ましくは、圧縮成形型の内部空間の実質的に全てがヒドロゲル前駆体で充填される。圧縮成形型の内部空間の一部だけがヒドロゲル前駆体で充填された場合、圧縮成形型の内部空間の残余の部分は、好ましくは、もう一つの溶融処理可能なポリマー(たとえば超高分子量ポリエチレン)で充填される。
【0033】
圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部が充填された後、圧縮成形型内に収納されたヒドロゲル前駆体は、ヒドロゲル前駆体から成形体を形成するのに充分なある時間と条件(たとえば、圧力および温度)の下、圧縮される。本ヒドロゲル前駆体は、二型構成の圧縮成形型の二つの半型を係合させ、成形型内に収納された物質(たとえば、ヒドロゲル前駆体)に圧縮力がかけられるような方向に外力を与えることにより、適宜どのような手段ででも圧縮されるものと考えられる。
【0034】
前駆体には、圧縮成形ステップの間、典型的には、約3,400kPa〜約28,000kPaの圧力がかけられる。好ましくは、前駆体に、約3,800kPa〜約14,000kPaの圧力がかけられる。圧縮成形ステップの間、前駆体は、一般的に、約70〜約200℃の温度下に置かれる。好ましくは、前駆体が、圧縮成形ステップの間、約90〜約180℃の温度(より好ましくは約120〜約140℃の温度)下に置かれる。ヒドロゲル前駆体の圧縮成形型による圧縮は、ヒドロゲル前駆体から成形体を作るのに十分ならば、どのような時間ででも行い得る。前駆体は、圧縮成形の間、典型的には約5〜約30分間、より好ましくは約5〜約10分間圧縮される。ヒドロゲル前駆体から成形体を形成するのに必要な特定の時間と条件(たとえば圧力および温度)とが、ヒドロゲル前駆体の組成(たとえば、前駆体に含まれる、溶融処理可能な親水性ポリマーのタイプおよび/または量)および所望の成形体のサイズ(たとえば厚さ)ならびに他の要因等いくつかの要因に依存することも理解される。
【0035】
適宜任意の技術を使用して、本発明方法中に作製される成形体を水和し、ヒドロゲル組成物を形成することができる。典型的には、成形体の少なくとも一部を、所望の含水量のヒドロゲル組成物を生じるのに十分な時間、水溶液(たとえば、脱イオン水、逆浸透によりろ過された水、食塩水または、適切な活性成分を含有する水溶液)中に沈漬する。たとえば、最大の含水量を持つヒドロゲル組成物を所望する場合、成形体がその最大サイズまたは最大体積にまで膨潤できるのに十分な時間、成形体を水溶液中に沈漬する。典型的には、少なくとも約50時間、好ましくは少なくとも約100時間、より好ましくは約120〜約240時間(たとえば約120〜約220時間)、成形体を水溶液中に沈漬する。ヒドロゲル組成物を形成するのに好ましいレベルまで成形体を水和するのに必要な時間は、ヒドロゲル前駆体の組成(たとえば、前駆体中に含まれる溶融処理可能な親水性ポリマーのタイプおよび/または量)、成形体のサイズ(たとえば厚さ)および水溶液の温度ならびにその他の要因等のいくつかの要因に依存するものと理解される。成形体を水和させるのに使用される水溶液は、適宜任意の温度に維持され得る。本水溶液は、典型的には少なくとも約25℃の温度、より好ましくは約30〜約100℃の温度、最も好ましくは、約40〜約90℃(たとえば約50〜約90℃または約50〜約80℃)の温度に維持される。
【0036】
本発明の方法には、適宜任意のプロセスを使用するヒドロゲル組成物の殺菌ステップを更に含めることができる。ヒドロゲル組成物は、適宜任意の時点で殺菌し得るが、好ましくは、成形体/ヒドロゲル前駆体が水和された後に殺菌される。放射線によらない適切な殺菌技術には、公知のガスプラズマ法またはエチレンオキシド法があるが、これらに限られるわけではない。たとえば、PlazLyte(R)殺菌システム(イリノイ州、MundeleinのAbtox社)を使用して、または、米国特許第5,413,760号および第5,603,895号明細書に記載されたガスプラズマ殺菌法に従って、ヒドロゲル組成物を殺菌することができる。ヒドロゲル組成物の内部部分が殺菌を必要とする場合等の状況によっては、公知の方法を使用して、約1.5〜約4Mradの比較的低用量のガンマ線を使用してヒドロゲル組成物を殺菌することができる。
【0037】
本発明の方法によって作製されるヒドロゲル組成物は、適宜任意の包装材料で包装し得る。包装材料が破られるまで、ヒドロゲル組成物の無菌性を維持する包装材料であることが望ましい。
【0038】
〔実施例〕
本例は本発明をさらに例示するものであるが、いかなる意味においても本発明の範囲を制限するものと解されるべきではないことはもちろんである。本例は、本発明に係るヒドロゲル組成物の製造に関するものである。
【0039】
平均分子量が約700万原子質量単位のポリ(エチレンオキシド){POLYOXTM WSR−303のポリ(エチレンオキシド)(ミシガン州、Midlandのダウ・ケミカル社から入手可能)}を含むヒドロゲル前駆体を、内部空間を有する圧縮成形型中に置いた。圧縮成形型の内部空間は、直径が約89mm(3.5インチ)、厚さが約3.2mm(0.125インチ)のディスクの形になっており、圧縮成形型中をヒドロゲル前駆体で完全に充満した。前駆体に、室温で、約2〜3分間、約2700kPa(400psi)の圧縮力をかけることにより、前駆体を圧縮成形型に詰め込んだ。この詰め込みステップの後、圧縮成形型の圧力を2700kPa(400psi)から約11,000kPa(1600psi)まで増大させつつ、圧縮成形型内の温度を、約3.3℃/分(6°F/分)の割合で、室温から約127℃(260°F)まで上昇させた。ついで、圧縮成形型内の温度と圧力を、約15分間、約127℃(260°F)と11,000kPa(1600psi)とに維持した。圧縮ステップの後、圧力を11,000kPa(1600psi)から約480kPa(70psi)にまで低下させつつ、得られたディスク成形体を、約3.9℃/分(7°F/分)の割合で、127℃(260°F)から室温(すなわち約22℃(72°F))まで冷却した。合計5枚のディスク成形体を生産するために、上記のプロセスを4回繰り返した。ついで、それぞれのディスクを分析して、本プロセスで製造されるディスクの平均的な力学的性質を決定した。ASTM標準D638−03(タイプV)によって、得られたディスク成形体が、約27,650kPa(4,010psi)の平均極限引張強さ、約800%の平均破断伸度および約122MPa(17,700psi)の平均ヤング率を有することが示された。
【0040】
上記のプロセスによって製造された5枚のディスク成形体を、アルミニウム箔バッグで別々に真空包装した。ついで、これらの包装されたディスクを約5Mrad(50kGy)のガンマ線放射に曝露して放射線処理した。照射ステップの後、ディスクに含まれるポリ(エチレンオキシド)を酸化劣化から保護するために、照射処理されたディスクをアルミニウム箔バッグ中に保持した。次に、照射処理されたディスクをアルミニウム箔バッグから取り外し、逆浸透によりろ過した水中に沈漬した。ディスク成形体を、室温{すなわち約22℃(72°F)}に維持された水中に置き、平衡状態に達するまで膨潤させた。典型的には、これには約170時間(7日日)を要した。得られたヒドロゲル組成物は、約74%の平均ゲル含有量と約92%の平均含水率を有していた。
【0041】
得られたヒドロゲル組成物は、一般的な溶液ベースのプロセスによって製造されたヒドロゲルと比較して、引張強さが改善されていた。特に、一般的な溶液ベースのプロセスによって製造されたヒドロゲルの極限引張強さは低すぎて、ASTM標準D638−03(タイプV)による手順に従う測定ができなかった。実際の所、測定に使用したこのヒドロゲルサンプルは、典型的には、サンプルをテスト装置に載せる前に壊れてしまった。これに対し、ASTM標準D638−03(タイプV)によれば、本発明のヒドロゲル組成物は、約52kPa(7.6psi)の平均極限引張強さと約253%の平均破断伸度とを示した。
【0042】
得られたヒドロゲル組成物は、溶液ベースのプロセスによって製造されたヒドロゲルと比較して、圧縮強さも改善された。上記の、C. Tranquilan−Aranilla等の好ましい修正技術を使用して決めた場合、一般的な溶液ベースのプロセスによって製造されたヒドロゲルは、約41kPa(6psi)の最大圧縮強さを示した。これとは対照的に、同じ手順を使用して測定した場合、本発明のヒドロゲル組成物は、約630kPa(92psi)の平均圧縮強さを示した。本発明のヒドロゲル組成物は、最初の(すなわち、圧縮されていない)高さの約50%の高さまで圧縮した後にヒドロゲル組成物がその原形を保持できるのに十分な弾力性も示した。
【0043】
上記のデータセットによって示されるように、本発明のヒドロゲル組成物は、典型的プロセス(たとえば溶液ベースのプロセス)によって製造されるヒドロゲルと比較して改善された力学的性質を示す。特に、本発明のヒドロゲル組成物の引張特性は、一般的なヒドロゲルに対しかなり改善されている。また、本発明のヒドロゲル組成物の圧縮強さは、一般的なヒドロゲル(すなわち一般的な溶液ベースのプロセスによって製造されたヒドロゲル)の圧縮強さより10倍以上大きい。これらの改善された力学的性質により、本発明のヒドロゲル組成物が、中程度の機械的ストレス(たとえば張力ストレスおよび/または圧縮ストレス)を受け得る用途に適するようになる。
【0044】
本明細書で引用された、出版物、特許出願および特許等の全ての文献は、それぞれの文献の全体が、参照により、個々にかつ具体的に、組み込まれ、説明されている程度まで、参照により組み込まれる。
【0045】
本発明の記述の文脈における、用語”a”,”an”および”the”の使用ならびに同様の指示語は、(特に、添付の請求項の文脈においては)、本明細書において別途記載がなく、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数と複数との両方をカバーするものと解釈されるべきである。用語”comprising”(含有する、含む)、”having”(有する、持つ)、”including”(含む、含有する)および”containing”(含む、含有する)は、別途記載がない限り、オープンエンドの用語(すなわち「含むが、これに限られるわけではない」を意味する用語)と解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において別途記載がない限り、その範囲内に入るそれぞれ別々の値を個々に意味する簡便法として使用されることのみを意図するものであり、それぞれ別々の値は、それが個々に本明細書中に列挙されたのと同様にして本明細書中に組み入れられる。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書において別途記載がなく、あるいは文脈と明らかに矛盾しない限り、適宜任意の順序で実行することができる。本明細書における全ての例および例示用の用語(たとえば、”such as”(「たとえば」,「等」)の使用は、単に、本発明をよりよく説明することを意図したものであり、別途記載がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書の用語は、どのような要素であっても、それが請求項に含まれていない場合には、本発明の実行に本質的なものであることを示すものと解釈されるべきではない。
【0046】
本発明の好ましい実施例は、本発明を実行するために本発明者らが知る最良の形態を含め、本明細書に記載されている。当業者が前述の説明を読めば、彼らにとって好ましい形態のバリエーションは明らかなものとなるであろう。本発明者らは、そのような技術水準の技術者がそのようなバリエーションを適宜使用するものと期待しており、本発明が本明細書で具体的に記述した以外の方法で使用されることを意図している。従って、本発明には、添付の請求項に列挙され、適用可能な法により許容される主題のすべての修正および均等物が含まれる。さらに、本明細書に別途記載がなくまたは文脈に明らかに矛盾しない限り、全ての可能なバリエーションにおける上記の要素のどのような組合せも本発明の範疇に属する。
【0047】
本発明の具体的な実施態様は以下の通りである。
【0048】
(1)水と親水性ポリマーとを含んでなるヒドロゲル組成物において、当該ヒドロゲル組成物が、(a)約10kPa以上の極限引張強さ、(b)約70kPa以上の圧縮強さ、または、(c)約10kPa以上の極限引張強さと約70kPa以上の圧縮強さとを有する、ヒドロゲル組成物。
(2)前記親水性ポリマーが溶融処理可能な親水性ポリマーである、実施態様1に記載のヒドロゲル組成物。
(3)前記親水性ポリマーが、溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーである、実施態様2に記載のヒドロゲル組成物。
(4)前記ヒドロゲル組成物が、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールコポリマー、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリビニルピロリドン、セルロースエーテル、アルジネート、キトサン、ヒアルロン酸(hyaluronate)、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、β−ヒドロキシ酸ポリマーおよびこれらの混合物からなる群から選ばれた第2のポリマーを更に含む、実施態様1〜3のいずれかに記載のヒドロゲル組成物。
(5)実施態様1〜4のいずれかに記載のヒドロゲル組成物と、当該ヒドロゲル組成物中に分散または溶解した活性成分とを含んでなる薬剤デリベリデバイス。
【0049】
(6)実施態様1〜4のいずれかに記載のヒドロゲル組成物を含んでなる創傷用包帯。
(7)ヒドロゲル組成物の製造方法であって、
(a)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、
(b)溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、
(c)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に前記前駆体を充填するステップと、
(d)前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮して、前記前駆体から成形体を形成するステップと、
(e)前記成形体の少なくとも一部を放射線処理して、前記成形体内に含まれた親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるステップと、
(f)前記放射線処理された成形体を水和して、前記放射線処理された成形体からヒドロゲルを形成するステップと
を含む、ヒドロゲル組成物の製造方法。
(8)ヒドロゲル組成物の製造方法であって、
(a)架橋剤を含む分散体を供給するステップと、
(b)溶融処理可能な親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、
(c)前記ヒドロゲル前駆体の少なくとも一部を前記分散体で被覆するステップと、
(d)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、
(e)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に、ステップ(c)で作製された前記被覆前駆体を充填するステップと、
(f)前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮して、前記前駆体から成形体を形成し、前記成形体内に含まれた前記親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるステップと、
(g)前記成形体を水和して前記成形体からヒドロゲルを形成するステップと
を含む、ヒドロゲル組成物の製造方法。
(9)約120〜約220時間、約50〜約90℃の温度の水溶液中に、前記成形体の少なくとも一部を沈漬することにより前記成形体を水和する、実施態様7または8に記載の方法。
(10)前記水溶液が、さらに、薬剤、治療薬、湿潤薬およびこれらの混合物からなる群から選ばれた活性成分を含む、実施態様9に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と親水性ポリマーとを含んでなるヒドロゲル組成物において、当該ヒドロゲル組成物が、(a)約10kPa以上の極限引張強さ、(b)約70kPa以上の圧縮強さ、または、(c)約10kPa以上の極限引張強さと約70kPa以上の圧縮強さとを有する、ヒドロゲル組成物。
【請求項2】
前記親水性ポリマーが溶融処理可能な親水性ポリマーである、請求項1に記載のヒドロゲル組成物。
【請求項3】
前記親水性ポリマーが、溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーである、請求項2に記載のヒドロゲル組成物。
【請求項4】
前記ヒドロゲル組成物が、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールコポリマー、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリビニルピロリドン、セルロースエーテル、アルジネート、キトサン、ヒアルロン酸(hyaluronate)、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、β−ヒドロキシ酸ポリマーおよびこれらの混合物からなる群から選ばれた第2のポリマーを更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載のヒドロゲル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のヒドロゲル組成物と、当該ヒドロゲル組成物中に分散または溶解した活性成分とを含んでなる薬剤デリベリデバイス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のヒドロゲル組成物を含んでなる創傷用包帯。
【請求項7】
ヒドロゲル組成物の製造方法であって、
(a)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、
(b)溶融処理可能で放射線架橋性の親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、
(c)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に前記前駆体を充填するステップと、
(d)前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮して、前記前駆体から成形体を形成するステップと、
(e)前記成形体の少なくとも一部を放射線処理して、前記成形体内に含まれた親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるステップと、
(f)前記放射線処理された成形体を水和して、前記放射線処理された成形体からヒドロゲルを形成するステップと
を含むヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項8】
ヒドロゲル組成物の製造方法であって、
(a)架橋剤を含む分散体を供給するステップと、
(b)溶融処理可能な親水性ポリマーを含むヒドロゲル前駆体を供給するステップと、
(c)前記ヒドロゲル前駆体の少なくとも一部を前記分散体で被覆するステップと、
(d)内部空間を有する圧縮成形型を供給するステップと、
(e)前記圧縮成形型の内部空間の少なくとも一部に、ステップ(c)で作製された前記被覆前駆体を充填するステップと、
(f)前記圧縮成形型内に収納された前記前駆体を圧縮して、前記前駆体から成形体を形成し、前記成形体内に含まれた前記親水性ポリマーの少なくとも一部を架橋させるステップと、
(g)前記成形体を水和して前記成形体からヒドロゲルを形成するステップと
を含む、ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項9】
約120〜約220時間、約50〜約90℃の温度の水溶液中に、前記成形体の少なくとも一部を沈漬することにより前記成形体を水和する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液が、さらに、薬剤、治療薬、湿潤薬およびこれらの混合物からなる群から選ばれた活性成分を含む、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2006−104466(P2006−104466A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−285072(P2005−285072)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(501384115)デピュイ・プロダクツ・インコーポレイテッド (216)
【Fターム(参考)】