説明

ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法および回収された有機溶媒を使用するシリコーン組成物

【課題】ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材を製造する際に、シリコーン組成物の希釈に用いた有機溶媒を繰り返しリサイクルした場合であっても、該回収溶媒を用いて希釈したシリコーン組成物が硬化不良を起こすことのないシリコーン層を備えた基材の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)トルエン等の沸点が120℃以下の有機溶剤および(b)1−エチニル−1−シクロヘキサノール等の沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤を含む硬化性シリコーン組成物を基材に塗工する工程の後、ヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成させ、揮発性の上記成分(a)を回収する工程を含み、好ましくは回収した成分(a)を用いて硬化性シリコーン組成物を新たに調製する工程を含むことを特徴とする、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工程においてシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物中の有機溶剤を回収することを特徴とする、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材を製造する方法および該製造工程において回収された有機溶媒を使用するシリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙、ラミネート紙、合成樹脂フイルム、金属箔等のシート状基材表面にシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を塗工し、加熱または高エネルギー線照射等により、硬化皮膜を形成させることにより、粘着物質に対して剥離性を示すシリコーン剥離層やシリコーン感圧接着層を備えた基材を製造する方法は古く知られている。特に、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを主成分とするシリコーン組成物を基材上に塗布し、白金系触媒等のヒドロシリル化触媒の存在下でヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン剥離層やシリコーン感圧接着層を備えた基材が広く用いられている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。また、これらのヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物には、硬化までの作業時間を確保する目的で、従来公知の付加反応遅延剤(制御剤あるいは抑制剤ともいう)を添加して使用するのが通例であり、これらの化合物の沸点は公知である(例えば、特許文献4〜特許文献6参照)。
【0003】
ところで、主剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンが高重合度である場合には、シート状基材表面への薄く、均一な塗工を容易ならしめるために、シリコーン組成物を有機溶剤で希釈することが必要である。これらの溶剤希釈型のシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物は基材上に塗工後、加熱あるいは風乾することにより、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンのヒドロシリル化反応が進行して硬化皮膜を形成するものであるが、希釈剤である有機溶媒はその製造工程において硬化皮膜中から除去される。
【0004】
しかしながら、有機溶剤は、可燃性が高く、静電気による着火のおそれがあるばかりでなく、吸引、皮膚接触等により作業者等の健康に悪影響をおよぼすものでもある。そこで、上記シリコーン剥離層またはシリコーン粘着層を備えた基材の製造工程において大気中への飛散を防止するために、溶媒回収装置等の手段を用いて回収、管理されている。省資源の観点からも、かかる溶媒回収は好ましいものである。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−22886号公報
【特許文献2】特開昭63−22886号公報
【特許文献3】特開平4−335083号公報
【特許文献4】特開平09−143371号公報
【特許文献5】特開平10−158586号公報
【特許文献6】特開2001−158876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記回収後の有機溶剤を用いて、溶剤希釈型のシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物の調製を試みたところ、本発明に係る新たな課題を発見した。すなわち、前記の付加反応遅延剤を含むシリコーン組成物を用いて、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン剥離層またはシリコーン粘着層を備えた基材を製造する際に、有機溶媒を回収して再利用すると、該回収後の有機溶媒を用いて希釈したシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物の硬化不良が起こる場合があることを発見した。特に、有機溶媒を繰り返し回収して再利用すると、該回収後の有機溶媒を用いて希釈したシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物の硬化不良が起き、結果的に得られる剥離性硬化皮膜あるいはシリコーン粘着層が劣化するものである。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、シリコーン組成物の希釈に用いた有機溶剤を効率良く再利用することを目的とする。すなわち、シリコーン組成物を有機溶剤により希釈後、基材上でヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン剥離層またはシリコーン粘着層を備えた基材を製造する際に、希釈に用いた有機溶媒を回収して再利用した場合にあっても、該回収後の有機溶媒を用いて希釈したシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物の硬化不良を起こすことのない、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法を提供するものである。さらに、本発明は、該回収後の有機溶媒を用いて希釈したシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、(1)(a)25℃、1気圧における沸点が120℃以下の有機溶剤および(b)25℃、1気圧における沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程の後、(2−1)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程および(2−2)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程から選択された少なくとも一の工程を含むことを特徴とする、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法、および回収された成分(a)を用いたシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物により達成される。
【0009】
すなわち、上記目的は、
「[1] (1)以下の成分(a)および成分(b)を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程の後、
(a)25℃、1気圧における沸点が120℃以下の有機溶剤
(b)25℃、1気圧における沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤
(2−1)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程および(2−2)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程から選択された少なくとも一の工程を含むことを特徴とする、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法。
[2] さらに、(3)工程(2−1)または工程(2−2)により回収した成分(a)を用いて前記工程(1)のシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を調製する工程 を含む、[1]に記載のシリコーン層を備えた基材の製造方法。
[3] 前記の成分(a)がトルエン、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンから選択される1種類又は2種類以上の有機溶剤であり、前記の成分(b)が1−エチニル−1−シクロヘキサノール、4−エチル−1−オクチン−3−オール、ビス(1,1−ジメチルプロピニロキシ)ジメチルシラン、3−メチル−1−ドデシン−3−オール、3,7,11−トリメチル−1−ドデシン−3−オール、1,1−ジフェニル−2−プロピン−3−オール、3−エチル−6−エチル−1−ノニン−3−オール、3−メチル−1−ペンタデシン−3−オール、メチルトリス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、ジメチルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、メチルビニルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シランおよびテトラメチルテトラビニルシロキサン環状体から選択される1種類又は2種類以上のヒドロシリル化反応遅延剤であることを特徴とする[1]に記載のシリコーン層を備えた基材の製造方法。
[4] 上記基材がテープ状またはシート状である[1]に記載のシリコーン層を備えた基材の製造方法。
[5] (1)以下の成分(a)および成分(b)を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程の後、
(a)25℃、1気圧における沸点が120℃以下の有機溶剤
(b)25℃、1気圧における沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤
(2−1)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程および(2−2)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程、から選択された少なくとも一の工程により回収された成分(a)を含むシリコーン組成物。」により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るシリコーン層を備えた基材の製造方法により、シリコーン組成物の希釈に用いた有機溶剤を効率良く再利用することができる。具体的には、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン剥離層またはシリコーン粘着層を備えた基材を製造する際に、有機溶媒を回収して再利用した場合にあっても、該回収後の有機溶媒を用いて希釈したシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物が硬化不良を起こすことがなく、ヒドロシリル化反応により良好な硬化特性を示すシリコーン層を備えた基材を提供することができる。さらに、本発明は、該回収後の有機溶媒を用いて希釈したシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
はじめに、本発明のヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法につき、各工程および使用する各成分について詳細に説明する。
【0012】
本発明のヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法は、下記工程(1)および工程(2)を含むことを特徴とする。
【0013】
工程(1):以下の成分(a)および成分(b)を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程
(a)25℃、1気圧における沸点が120℃以下の有機溶剤
(b)25℃、1気圧における沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤
【0014】
工程(2):下記工程(2−1)および工程(2−2)から選択された少なくとも一の工程
工程(2−1):基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程
工程(2−2):基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程
【0015】
好ましくは、本発明の製造方法は、さらに、下記工程(3)を含む。
工程(3):工程(2−1)または工程(2−2)により回収した成分(a)を用いて前記工程(1)のシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を調製する工程
【0016】
上記工程(1)および工程(2)により、ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物に配合した場合であっても、該シリコーン組成物が硬化不良を起こすことがなく、良好な硬化特性を示す有機溶剤(a)の回収が達成される。さらに、工程(3)を含むことにより、該有機溶剤(a)の再利用が達成される。
【0017】
本願発明でいうシリコーン組成物は、シリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物であり、各々ヒドロシリル化反応により硬化して基材上にシリコーン層を形成する。シリコーン剥離剤組成物を硬化してなるシリコーン層はシリコーン剥離層であり、シリコーン粘着剤組成物を硬化してなるシリコーン層はシリコーン粘着層またはシリコーン感圧接着層である。
【0018】
本発明は、上記の工程(1)において、所定の沸点を有する有機溶剤(a)およびヒドロシリル化反応遅延剤(b)を組み合わせて使用することを特徴とする。すなわち、成分(a)である有機溶剤の25℃、1気圧における沸点(以下、単に「沸点」という)が120℃以下であり、成分(b)であるヒドロシリル化反応遅延剤の沸点が150℃以上である。成分(a)の沸点が前記上限を超える場合、または成分(b)の沸点が前記下限未満である場合、再利用された有機溶剤(a)をヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物に配合した場合であっても、該シリコーン組成物が硬化不良を起こす場合がある。
【0019】
発明者らは係る上記硬化不良の原因を、溶媒回収時に、低沸点のヒドロシリル化反応遅延剤が有機溶剤と共に気化し、回収された有機溶剤中に残存するためであると予想する。さらに、ヒドロシリル化反応遅延剤は、有機溶剤により希釈されるシリコーン組成物中に予め配合されているため、該有機溶剤を再利用する度に有機溶剤中のヒドロシリル化反応遅延剤の濃度は増加すると予想される。
【0020】
すなわち、成分(a)の沸点が前記上限を超える場合、または成分(b)の沸点が前記下限未満である場合、両成分の沸点が近いために、両成分を分画することが困難になり、有機溶剤が回収される度に、シリコーン組成物中に予め配合されていたヒドロシリル化反応遅延剤が溶剤中に濃縮される結果となる。このような有機溶剤をヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物に配合して希釈すると、該シリコーン組成物の設計組成以上のヒドロシリル化反応遅延剤が配合される結果となり、シリコーン組成物の硬化を阻害する場合がある。
【0021】
本発明において、成分(a)である有機溶媒は、ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物の希釈もしくは分散に用いられる溶媒であり、シート状基材表面への均一な塗工を容易ならしめる目的で配合される。本発明にかかる成分(a)である有機溶媒の沸点は120℃以下であり、特に、沸点が60℃〜120℃の範囲にある1種類又は2種類以上の有機溶剤が好適に使用できる。特に、溶媒回収に伴うヒドロシリル化触媒の濃縮を防止するために、成分(b)との沸点の差は30℃以上であることが必要である。また、成分(a)である有機溶媒の沸点と成分(b)との沸点の差が50℃以上であることが、両成分を分画する上で好適である。
【0022】
具体的には、成分(a)として、トルエン(沸点 110.6℃)、ヘキサン(沸点 68.7℃)、ヘプタン(沸点 98.4℃)、アセトン(沸点 56.1℃)、メチルエチルケトン(沸点 79.6℃)およびメチルイソブチルケトン(沸点 116.2℃)から選択される1種類又は2種類以上の有機溶剤が例示される。
【0023】
成分(b)であるヒドロシリル化反応遅延剤は、ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物中のアルケニル基とケイ素原子結合水素原子のヒドロシリル化反応を抑制し、シリコーン組成物の常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上するために配合される成分である。本発明において、成分(b)であるヒドロシリル化反応遅延剤の沸点は150℃以上であり、特に、沸点が175℃〜300℃の1種類以上のヒドロシリル化反応遅延剤が好適に使用できる。かかる高沸点のヒドロシリル化反応遅延剤を使用することにより、沸点の差を利用して(a)有機溶媒と(b)ヒドロシリル化反応遅延剤とを容易に分画することができ、溶媒回収に伴うヒドロシリル化触媒の濃縮を防止あるいは有機溶媒の精製を容易ならしめる。
【0024】
具体的には、成分(b)として、1−エチニル−1−シクロヘキサノール(沸点 180℃)、4−エチル−1−オクチン−3−オール(沸点 180℃以上)、ビス(1,1−ジメチルプロピニロキシ)ジメチルシラン(沸点 180℃以上)、3−メチル−1−ドデシン−3−オール、3,7,11−トリメチル−1−ドデシン−3−オール(沸点 180℃以上)、1,1−ジフェニル−2−プロピン−3−オール(沸点 180℃以上)、3−エチル−6−エチル−1−ノニン−3−オール、3−メチル−1−ペンタデシン−3−オール(沸点 180℃以上)、メチルトリス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン(沸点 200℃以上)、ジメチルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン(沸点 195℃)、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール(沸点 206℃)、メチルビニルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン(沸点 200℃以上)、3−フェニル−1−ブチン−3−オール(沸点 217℃)およびテトラメチルテトラビニルシロキサン環状体(沸点 200℃以上)が例示される。
【0025】
本発明に係る工程(1)は少なくとも基材の片側に上記の成分(a)および成分(b)を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程からなる。
【0026】
ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物であるシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を基材に塗工する工程は特に制限されるものではないが、一般的には、シリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物はテープ状基材またはシート状基材の片側に層状に塗工される。シリコーン組成物からなる層の厚さは特に限定されないが、通常10〜100μmである。
【0027】
基材の種類として、板紙,ダンボール紙,クレーコート紙,ポリオレフィンラミネート紙,特にはポリエチレンラミネート紙,合成樹脂フィルム,天然繊維布,合成繊維布,人工皮革布,金属箔が例示される。合成樹脂フィルムを構成する合成樹脂はポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンが例示される。特に耐熱性が要求される場合には、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリアリレート、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルフォン(PES)等の耐熱性合成樹脂フィルムが好適である。
【0028】
テープ状基材またはシート状基材への塗工方法は特に制限されるものではないが、グラビアコート、オフセットコート、オフセットグラビア、ロールコート、リバースロールコート、エアナイフコート、カーテンコート、コンマコートが例示される。
【0029】
本発明の工程(2)は工程(2−1):基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程 および 工程(2−2):基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程から選択された少なくとも一の工程である。
【0030】
基材上において、ヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成させる方法は公知であり、一般的にはヒドロシリル化反応触媒を含むシリコーン組成物を前期の方法で基材上に塗工した後、室温もしくは50〜200℃の温度条件下で加熱することにより硬化させて、テープ状基材またはシート状基材の表面にシリコーン層を形成するものである。本発明においては、成分(b)の揮発を抑制すべく、室温もしくは50〜140℃で加熱することが特に好ましい。また、所望の硬化速度の実現、硬化温度の選択および得られるシリコーン層の特性に応じて、紫外線等の高エネルギー線照射や公知の過酸化物添加による硬化手段を併用することができる。
【0031】
上記のヒドロシリル化反応により基材上でシリコーン層を形成する際に、シリコーン組成物の希釈または分散の目的で配合されていた(a)有機溶媒は揮発し、シリコーン層から溶剤蒸気となって飛散する。本発明の工程(2−1)はシリコーン層を形成する過程で揮発する(a)有機溶媒を回収する工程であり、工程(2−2)はシリコーン層を形成した後に、揮発した(a)有機溶媒を回収する工程である。これらは、シリコーン層を備えた基材の製造工程に従い、少なくとも一方または両方を採用することができる。
【0032】
(a)有機溶媒を回収する工程は、公知の溶剤回収方法を用いることで容易に達成できる。本発明の溶剤回収方法としては、溶剤蒸気と共存する空気から分離する方法、すなわち凝縮法、圧縮法、吸収法、吸着法およびこれらを組み合わせた方法を用いることができる。これらの方法は、溶剤蒸気の組成、物理的性質、化学的性質、濃度、発生量(処理量)、含まれる不純物、希望する回収率、回収する(a)有機溶媒の特性などを考慮して選択することができる。
【0033】
本発明において上記工程(2)で回収された(a)有機溶媒は、そのままシリコーン組成物の希釈・分散に使用することができる。しかしながら、沸点の差を利用して(a)有機溶媒と(b)ヒドロシリル化反応遅延剤とを精度良く分画するために、蒸留操作により(a)有機溶媒を精製して再利用することがより好ましい。また、2段階以上の多段式の蒸留操作により(a)有機溶媒を精製して再利用することが特に好ましい。
【0034】
一般的に、上記工程(2)において回収された(a)有機溶媒は、捕集の過程で水分量が増大しているため、そのまま蒸留すると溶剤成分が水と共沸して、水を含んだ(a)有機溶媒が得られてしまう可能性がある。そのため、ポリイミド膜などの高分子膜やセラミック膜やゼオライト膜を用いた膜分離、シリカゲルなどを用いた吸着等の操作により、水分を除去することが好ましい。なお、(a)有機溶媒を回収する工程の分離条件の制御により、水分の混入を抑制できる場合は、水分除去の操作は不要である。
【0035】
本発明においては、回収された(a)有機溶媒から沸点の差を利用して(a)有機溶媒と(b)ヒドロシリル化反応遅延剤とを容易に分画することができるが、上記蒸留操作の前に、モレキュラーシーブ等の吸着剤を、上記工程(2)で回収された(a)有機溶媒に投入して成分(b)の濃度を低下させることもできる。また、上記工程(2)で回収された(a)有機溶媒への化学的処理により(b)ヒドロシリル化反応遅延剤の一部または全部を失活させることができる。特に、上記蒸留操作の前に、モレキュラーシーブ等の化学吸着剤を用いて成分(b)の一部を回収された(a)有機溶媒から除去することが好ましい。
【0036】
本発明における一段または多段蒸留は、一般的な蒸留操作で行うことができる。すなわち、回分式蒸留と連続式蒸留のいずれの方式も選択することができる。工業的に実施する場合には連続式蒸留を行うことが好ましい。具体的には、本発明において使用する蒸留装置は、バッチ単蒸留装置、バッチ精留装置、連続精留装置、フラッシュ蒸発装置、薄膜式蒸発装置等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0037】
蒸留塔の性能は一般に理論段数で示されるが、段数が高い方が、高い分離能力を有し好ましい。理論段数を高めるには、蒸留塔の形状、リボイラや凝縮器の能力、運転条件(加熱条件、還流比、留出量)により制御できるが、こちらも求められる処理能力やコストや再利用される(a)有機溶媒に求められる純度などの性状に応じて選択することができる。なお、蒸留操作において、(1)圧力(真空度)、(2)温度、(3)フィード流量、(4)薄膜蒸発装置を使用する場合には液膜厚み等について、適宜選択することができる。
【0038】
本発明においては、使用される(b)ヒドロシリル化反応遅延剤が150℃以上の高沸点であるために、工程(2)において回収された(a)有機溶媒中に(b)ヒドロシリル化反応遅延剤が混入しにくい。また、回収の後工程において、沸点の差を利用して(a)有機溶媒を容易かつ純度良く分画することができる。このため、溶媒回収に伴う(b)ヒドロシリル化反応遅延剤の濃度を低減し、繰り返し再利用に伴う(b)ヒドロシリル化反応遅延剤の濃縮を容易に防止できる。
【0039】
上記工程(2)において回収された(a)有機溶媒、好ましくは、回収後に蒸留操作により精製して得られた(a)有機溶媒は、(b)ヒドロシリル化反応遅延剤の濃度が低減されているため、ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物の希釈目的で再利用しても、シリコーン層の硬化阻害を起こさないという利点がある。
【0040】
ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物の希釈目的で(a)有機溶媒を再利用する工程は、工程(3):工程(2−1)または工程(2−2)により回収した成分(a)を用いて前記工程(1)のシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を調製する工程である。
【0041】
本発明のシリコーン剥離剤組成物は、工程(2−1)または工程(2−2)により回収された(a)有機溶媒により希釈されていることを特徴とするものであり、より具体的には、(A)一分子中に少なくとも2以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)ヒドロシリル化反応触媒および工程(2−1)または工程(2−2)により回収された(a)有機溶媒からなることを特徴とする。
【0042】
本発明のシリコーン粘着剤組成物は、工程(2−1)または工程(2−2)により回収された(a)有機溶媒により希釈されていることを特徴とするものであり、より具体的には、(A)一分子中に少なくとも2以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(D)RSiO1/2単位(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基またはヒドロキシル基である)とSiO4/2単位とからなり、RSiO1/2単位とSiO4/2単位のモル比が0.6〜1.3であるオルガノポリシロキサンレジン、(C)ヒドロシリル化反応触媒および工程(2−1)または工程(2−2)により回収された(a)有機溶媒からなることを特徴とする。
【0043】
本発明のシリコーン組成物は、特に、成分(A)である一分子中に少なくとも2以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が100,000mPa・s以上であることが好ましい。
【0044】
成分(B)である1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、架橋剤として機能するものであり、ケイ素原子に結合している水素原子が成分(A)中のアルケニル基とヒドロシリル化反応する。架橋剤として機能するために、1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を有することが必要であり、1分子中に3個以上のケイ素原子結合水素原子を有することが好ましい。成分(C)の分子構造は限定されず、直鎖状,分岐鎖状,分岐状,環状が例示される。
【0045】
成分(C)は、ヒドロシリル化反応触媒であり、成分(A)と成分(B)中のアルケニル基と成分(C)中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化反応を促進する触媒である。本発明の工程(1)および工程(2)により回収された(a)有機溶媒、好ましくは、回収後に蒸留操作により精製して得られた(a)有機溶媒は、(b)ヒドロシリル化反応遅延剤の濃度が低減されているため、かかるヒドロシリル化反応触媒によるヒドロシリル化反応を阻害しないという利点がある。
【0046】
本発明において、好ましい成分(C)は白金系触媒であり、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸,塩化白金酸のオレフィン錯体,塩化白金酸とケトン類との錯体,塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、四塩化白金、白金微粉末、アルミナまたはシリカの担体に固体状白金を担持させたもの、白金黒、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末が例示される。
【0047】
かかる白金系触媒の配合量は、いわゆる触媒量である。具体的には白金族金属量で1〜1,000ppmであり、5〜200ppmの範囲にあることが好ましい。
【0048】
成分(D)はRSiO1/2単位(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基またはヒドロキシル基である)とSiO4/2単位とからなり、RSiO1/2単位とSiO4/2単位単位のモル比が0.6〜1.3であるオルガノポリシロキサンレジンであり、本発明のシリコーン粘着剤組成物に粘着性を付与する成分であり、一般にこの使用量が多いほど粘着力が強くなる。Rはメチル基であることが好ましく、Rはメチル基、ビニル基、ヘキセニル基またはヒドロキシル基から選択される基であることが好ましい。
【0049】
本発明の工程(1)および工程(2)により回収された(a)有機溶媒、好ましくは、回収後に蒸留操作により精製して得られた(a)有機溶媒は、上記シリコーン組成物の粘度を低減して、基材に対し、薄く、均一な塗工を行うための成分である。上記シリコーン組成物に配合する場合、シリコーン剥離剤組成物においては、成分(A)〜成分(C)の合計量を100重量%未満、30重量%以上とする量に希釈することが一般的である。同様に、シリコーン粘着剤組成物においては、成分(A)〜成分(D)の合計量を100重量%未満、30重量%以上とする量に希釈することが一般的である。
【0050】
なお、本発明のシリコーン組成物には、上記の成分(A)〜成分(D)および回収後の(a)有機溶媒の他に、成分(b)である高沸点のヒドロシリル化反応遅延剤を添加配合することができ、上記の通り、かかる(b)ヒドロシリル化反応遅延剤は、(a)有機溶媒の回収時に容易に分画することが可能である。
【0051】
本発明のシリコーン組成物には上記の成分の他に、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてこれら以外の成分を添加配合することができる。他の成分としては、接着性向上剤、耐熱剤、顔料その他従来公知の各種添加剤が例示される。また、本発明のシリコーン組成物は、上記成分およびその他任意の成分を添加して、均一に混合することにより調製することができる。各種攪拌機あるいは混練機を用いて、常温で混合すればよいが、混合中に硬化しない成分の組合せであれば、加熱下で混合してもよい。
【0052】
混合中に硬化しなければ、各成分の配合順序は特に制限されるものではない。混合後、直ちに使用しないときは、成分(B)と成分(C)が同一の容器内に存在しないように複数の容器に分けて保管しておき、使用直前に全容器内の成分を混合することが好ましい。また、本発明においては、成分(A)〜(C)および(b)ヒドロシリル化反応遅延剤からなるシリコーン剥離剤組成物または成分(A)〜(D)および(b)ヒドロシリル化反応遅延剤からなるシリコーン粘着剤組成物を、塗工直前に本発明の工程(1)および工程(2)により回収された(a)有機溶媒と混合して各組成物を調製することが特に好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実験例に記載の方法に限定されるものではなく、特に、「回収例」において、溶媒をさらに精製するための段数を1以上とすることを妨げるものでもない。なお、下記の例において、部はいずれも重量部であり、粘度は25℃において測定した値である。また、回収溶媒を用いたことによる硬化阻害の有無は、シリコーン剥離剤組成物を硬化させてなる皮膜の基材への硬化性および密着性により、以下に示す方法で評価した。
【0054】
[硬化性および密着性の評価]
シリコーン剥離剤組成物をポリエチレンラミネート紙の表面にシロキサン換算で1.0g/mとなる量塗工した後、熱風循環式オーブン中で所定の温度条件下で各々、10、20、30秒間加熱して硬化皮膜を形成させた。該硬化皮膜を指で強く擦り、硬化皮膜のくもりの発生の有無および脱落の有無を観察した。
【0055】
本発明の有用性を確認すべく、以下の回収例1を行った。また、比較実験として、沸点が150℃未満のヒドロシリル化反応遅延剤である3−メチル−1−ブチン−3−オール(沸点104℃)を含む(a)沸点が120℃以下の有機溶剤を用いて、以下の回収例2を行った。
【0056】
[回収例1]
未使用のトルエン(関東化学製、工業用グレード)482g、SRX211(東レ・ダウコーニング社製、溶剤型ペーパーコーティング剤) 100g、1−エチニル−1−シクロヘキサノール(沸点 180℃)18gを均一になるまで混合した。かかる方法により調製したトルエン溶液中のヒドロシリル化反応遅延剤の含有量は3.0重量%である。
【0057】
上記トルエン溶液600g を、温度計、ビグリューカラム付4つ口フラスコを用いて114−115℃、常圧の条件下でトルエンの分画操作を1回のみ行った。該分画操作により回収されたトルエン(以下 「回収トルエン1」という)をガスクロマトグラフィー(島津製作所製 型番GC−17A;DB−35MSカラム使用)により、1点検量線法により分析したところ、該回収されたトルエン中の1−エチニル−1−シクロヘキサノール含有量は0.08重量%であった。
【0058】
[回収例2]
1−エチニル−1−シクロヘキサノールの代わりに、3−メチル−1−ブチン−3−オール(沸点104℃)を用いた他は上記回収例1と同様にして、トルエンを回収した(以下、「回収トルエン2」という)。該回収トルエン2をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、該回収されたトルエン中の3−メチル−1−ブチン−3−オール含有量は0.86重量%であり、回収例1の10倍以上のヒドロシリル化反応遅延剤が回収トルエン中に残存する結果となった。
【0059】
上記回収トルエンがシリコーン剥離剤組成物の硬化性に与える影響を確認すべく、下記実験例1〜3を行った。
【0060】
[実験例1]
市販されている溶剤型のヒドロシリル化反応硬化型ペーパーコーティング剤製品 SRX−211(東レ・ダウコーニング社製)を上記回収例1により回収されたトルエン(以下、「回収トルエン1」という。1−エチニル−1−シクロヘキサノールの含有量 0.08重量%)を用いて、固形分(シリコーン分)が5重量%となるように希釈し、均一になるまで混合した後、塩化白金酸1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体を白金金属量が上記固形分に対して120ppmとなるような量添加し均一になるまで混合して、シリコーン剥離剤組成物1を調製した。該シリコーン剥離剤組成物1の硬化阻害の有無を上記[硬化密着性の評価]に示す方法で確認した結果を下表1に示す。
【0061】
[実験例2]
上記実験例1において、回収トルエン1の代わりに上記回収例2により回収されたトルエン(以下、「回収トルエン2」という。3−メチル−1−ブチン−3−オールの含有量 0.86重量%)を用いた他は実験例1と同様にして、シリコーン剥離剤組成物2を調製した。該シリコーン剥離剤組成物2の硬化阻害の有無を上記[硬化密着性の評価]に示す方法で確認した結果を下表1に示す。
【0062】
[実験例3]
回収トルエン1の代わりに未使用のトルエン(関東化学製、工業用グレード)を用いた他は実験例1と同様にして、シリコーン剥離剤組成物3を調製した。該シリコーン剥離剤組成物3の硬化阻害の有無を上記[硬化密着性の評価]に示す方法で確認した結果を下表1に示す。

























【0063】
【表1】

【0064】
上記回収例1により、(b)沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤、その他のシリコーン成分を含む(a)沸点が120℃以下の有機溶剤から、蒸留等の分画操作により(a)沸点が120℃以下の有機溶剤を純度良く回収できることが確認できた。また、該回収例1により回収されたトルエン(回収トルエン1)は、ヒドロシリル化反応遅延剤の含有量が極めて少なく、未使用の回収トルエンと同様に、シリコーン剥離剤組成物の硬化性に悪影響を及ぼさなかった(上記実験例1および実験例3)。
【0065】
一方、低沸点のヒドロシリル化反応遅延剤である3−メチル−1−ブチン−3−オールを含むトルエンから同様の回収プロセスを用いて回収されたトルエン(回収トルエン2)は、回収時に多量のヒドロシリル化反応遅延剤が混入し、シリコーン剥離剤組成物の希釈に使用した場合、硬化性に悪影響を及ぼすものであった(上記実験例2)。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明にかかるシリコーン層を備えた基材の製造方法およびシリコーン組成物を用いることにより、該シリコーン組成物の希釈に用いた有機溶剤を容易かつ高純度に回収することを特徴とするシリコーン剥離層を備えた基材の製造プロセス、シリコーン感圧接着層を備えた基材の製造プロセスおよび該製造プロセスに伴う、極めて効率的な有機溶剤のリサイクルプロセスを提供することができる。かかる製造プロセスは、低コストに実現することができ、地球環境に与える付加が小さく、省資源化の点でも極めて有用である。さらに、本発明は、有機溶剤を繰り返し回収して再利用した場合、該回収された有機溶剤中にヒドロシリル化反応遅延剤が濃縮されることが抑制され、未使用の有機溶媒を使用した場合と同様に、該基材上のシリコーン層の硬化性に悪影響を及ぼさない利点があるため、剥離紙、工程紙、剥離フィルム、転写紙、粘着テープ、剥離コーティング材、潤滑コーティング材、粘着部材、感圧接着部材等のシリコーン層、特に0.1〜1000μmのシリコーン硬化物からなるコーティング層または粘着層を備えた基材の製造に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)以下の成分(a)および成分(b)を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程の後、
(a)25℃、1気圧における沸点が120℃以下の有機溶剤
(b)25℃、1気圧における沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤
(2−1)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程および(2−2)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程から選択された少なくとも一の工程を含むことを特徴とする、ヒドロシリル化反応により硬化してなるシリコーン層を備えた基材の製造方法。
【請求項2】
さらに、(3)工程(2−1)または工程(2−2)により回収した成分(a)を用いて前記工程(1)のシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を調製する工程 を含む、請求項1に記載のシリコーン層を備えた基材の製造方法。
【請求項3】
前記の成分(a)がトルエン、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンから選択される1種類又は2種類以上の有機溶剤であり、前記の成分(b)が1−エチニル−1−シクロヘキサノール、4−エチル−1−オクチン−3−オール、ビス(1,1−ジメチルプロピニロキシ)ジメチルシラン、3−メチル−1−ドデシン−3−オール、3,7,11−トリメチル−1−ドデシン−3−オール、1,1−ジフェニル−2−プロピン−3−オール、3−エチル−6−エチル−1−ノニン−3−オール、3−メチル−1−ペンタデシン−3−オール、メチルトリス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、ジメチルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、メチルビニルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シランおよびテトラメチルテトラビニルシロキサン環状体から選択される1種類又は2種類以上のヒドロシリル化反応遅延剤であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン層を備えた基材の製造方法。
【請求項4】
上記基材がテープ状またはシート状である請求項1に記載のシリコーン層を備えた基材の製造方法。
【請求項5】
(1)以下の成分(a)および成分(b)を含むシリコーン剥離剤組成物またはシリコーン粘着剤組成物を少なくとも基材の片側に塗工する工程の後、
(a)25℃、1気圧における沸点が120℃以下の有機溶剤
(b)25℃、1気圧における沸点が150℃以上のヒドロシリル化反応遅延剤
(2−1)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成する過程で揮発する上記成分(a)を回収する工程および(2−2)基材上にヒドロシリル化反応によりシリコーン層を形成した後に、揮発した上記成分(a)を回収する工程、から選択された少なくとも一の工程により回収された成分(a)を含むシリコーン組成物。

【公開番号】特開2010−18751(P2010−18751A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182190(P2008−182190)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】