説明

ヒドロシリル化方法、有機ケイ素化合物の製造方法、及び有機ケイ素化合物

【課題】触媒毒となり得る3級アミン原子を有するオレフィン化合物を使用した場合においてもヒドロシリル化反応の反応性を損なうことなく、付加異性体の生成及び二重結合の内部転位を抑制するヒドロシリル化方法を提供する。
【解決手段】酸アミド化合物の存在下、白金及び/又はその錯体化合物の触媒作用により、炭素−炭素不飽和結合を有するオレフィン化合物とハイドロジェンシリル基を有する化合物とを反応させるヒドロシリル化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応活性及び付加位置選択性に優れたヒドロシリル化方法、この方法を用いた有機ケイ素化合物の製造方法、及びこれにより得られる有機ケイ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル基を有する化合物とケイ素原子結合水素原子を有する化合物を白金系触媒存在下で反応させて両化合物を付加させるヒドロシリル化反応は、オルガノシランやオルガノポリシロキサンの合成や変性、及び有機化合物や有機高分子のシリル化方法として公知の技術である。
【0003】
アルコキシシリル基等に代表されるハイドロジェンカーボンオキシシリル基を有する化合物の製造方法は以下の2つに大別される。
〈第1の方法〉
ハイドロジェンクロロシラン化合物を用いて脂肪族不飽和有機化合物にヒドロシリル化反応を生じさせた後、アルコールを用いてクロロシリル基をアルコキシシリル基へと変換する方法。
〈第2の方法〉
ハイドロジェンアルコキシシラン化合物を用いて脂肪族不飽和有機化合物にヒドロシリル化反応を生じさせる方法。
【0004】
このうち第2の方法は工程が簡便であり、第1の方法に比べてイオン性の不純物が少なく、アルコキシ化に伴う廃棄物も少ないことから生産効率に優れる。一方で、ハイドロジェンクロロシラン化合物に比べ、ハイドロジェンアルコキシシラン化合物は、ヒドロシリル化反応活性に劣り、不飽和有機化合物の二重結合の転位を促進させることから、付加位置の選択性の低い材料であった。
【0005】
ハイドロジェンアルコキシシランを使用した系で、ヒドロシリル化の反応性を向上させ、二重結合の転位を抑制して付加位置を制御する手段としては、カルボン酸化合物の存在下、白金触媒を使用してハイドロジェンアルコキシシランと脂肪族不飽和有機化合物又はビニル置換芳香族化合物とをヒドロシリル化反応させる方法(特許文献1,2:特開2000−143679号公報、特開平11−180986号公報)が開示されているが、何れも十分な付加選択性の制御に至らない他、カルボン酸に起因するエステル交換体の副生、添加量の調整が困難といった問題があった。また、上記技術を使用しても3級アミン原子を含む不飽和有機化合物、例えばアリルイソシアネート、トリアリルイソシアヌレートに対するヒドロシリル化の反応性は不十分であった。
【0006】
ヒドロシリル化反応性の向上は、反応収率の向上となり生産効率の向上に繋がることは言うまでも無く、末端炭素原子がヒドロシリル化された有機ケイ素化合物は、それ自体がカップリング剤、変性剤等として使用した際に、末端以外の位置でシリル化された異性体よりも性能が高く、オルガノポリシロキサンであれば耐熱性等の諸物性で優れるため、末端がヒドロシリル化された有機ケイ素化合物を高収率・高選択的に製造するためのヒドロシリル化方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−143679号公報
【特許文献2】特開平11−180986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、触媒毒となり得る3級アミン原子を有するオレフィン化合物を使用した場合においても反応活性に優れ、末端炭素原子以外のシリル化及び二重結合の内部転位異性体の副生を抑制するヒドロシリル化方法、この方法を用いた有機ケイ素化合物の製造方法、及びそれにより得られた有機ケイ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(i)炭素−炭素不飽和結合を有するオレフィン化合物と、(ii)ハイドロジェンシリル基を有する化合物とを白金及び/又はその錯体化合物の存在下でヒドロシリル化反応させるにあたり、反応助剤として酸アミド化合物を用いることで、特に3級アミン原子を有するオレフィン化合物を使用した場合でもヒドロシリル化反応の反応性を損なうことなく、末端炭素原子以外のシリル化及び二重結合の内部転位異性体の副生を抑制してヒドロシリル化反応を行うことができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のヒドロシリル化方法、これを用いた有機ケイ素化合物の製造方法、及び有機ケイ素化合物を提供する。
請求項1:
酸アミド化合物の存在下、白金及び/又はその錯体化合物の触媒作用により、
(i)炭素−炭素不飽和結合を有するオレフィン化合物と、
(ii)ハイドロジェンシリル基を有する化合物と、
を反応させることを特徴とするヒドロシリル化方法。
請求項2:
酸アミド化合物が、下記一般式(1)
0−[C(=O)−NR12k (1)
(式中、R0は水素原子又は炭素数1〜30のk価の炭化水素基、R1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、kは1又は2である。)
で表される請求項1記載のヒドロシリル化方法。
請求項3:
酸アミド化合物が、下記一般式(2)
2−C(=O)−NH2 (2)
(式中、R2は水素原子又は炭素数1〜30の1価炭化水素基である。)
で表される第1級酸アミド化合物である請求項1又は2記載のヒドロシリル化方法。
請求項4:
ハイドロジェンシリル基を有する化合物が、下記一般式(3)
H−SiR3n3-n (3)
(式中、R3は1価炭化水素基、Xはオルガノオキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるハイドロジェンオルガノオキシシラン又は該ハイドロジェンオルガノオキシシランを構成成分の少なくとも1種として得られる加水分解縮合物である請求項1〜3のいずれか1項記載のヒドロシリル化方法。
請求項5:
一般式(3)におけるXが、メトキシ基、エトキシ基又は2−プロペノキシ基である請求項4記載のヒドロシリル化方法。
請求項6:
ハイドロジェンシリル基を有する化合物が、ハイドロジェントリメトキシシラン、ハイドロジェンメチルジメトキシシラン、ハイドロジェンジメチルメトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、ハイドロジェンメチルジエトキシシラン、ハイドロジェンジメチルエトキシシラン、ハイドロジェントリ(2−プロペノキシ)シラン、ハイドロジェンメチルジ(2−プロペノキシ)シラン、ハイドロジェンジメチル(2−プロペノキシ)シラン、これらシランモノマーを加水分解縮合して得られるヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン及びオルガノシルセスキオキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、並びに側鎖又は末端にヒドロシリル基を有するケイ素原子数3〜100個のジメチルシリコーンポリマーから選ばれるものである請求項5記載のヒドロシリル化方法。
請求項7:
オレフィン化合物が、3級アミン原子を含むオレフィン化合物、下記一般式(4)
CH2=C(R4)−(CH2m−C(R4)=CH2 (4)
(式中、R4はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基、mは0〜20の整数である。)
で表されるジエン化合物、並びにビニル基又はアリル基を有する脂肪族環構造及び/又は芳香族環構造を含む化合物から選ばれるものである請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化方法。
請求項8:
オレフィン化合物が、アリルイソシアネート、トリアリルイソシアヌレート、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、ジビニルシクロヘキサン、トリビニルシクロヘキサン、ジアリルシクロヘキサン、トリアリルシクロヘキサン、スチレン、アリルベンゼン及びアリルフェノールから選ばれるものである請求項7記載のヒドロシリル化方法。
請求項9:
請求項1〜8のいずれか1項記載のヒドロシリル化方法を用いることを特徴とする有機ケイ素化合物の製造方法。
請求項10:
請求項9記載の製造方法により製造される有機ケイ素化合物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に触媒毒となり得る3級アミン原子を有するオレフィン化合物を使用した場合においても反応活性を落とすことなく、末端炭素原子以外のシリル化及び二重結合の内部転位異性体の副生を抑制して、選択性に優れたヒドロシリル化方法が提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のヒドロシリル化方法は、酸アミド化合物の存在下、白金及び/又はその錯体化合物の触媒作用により、(i)炭素−炭素不飽和結合を有するオレフィン化合物と、(ii)ハイドロジェンシリル基を有する化合物とを反応させるものである。
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明の製造方法における原料について説明する。
(i)炭素−炭素不飽和結合を有するオレフィン化合物
本発明におけるオレフィン化合物としては、ビニル基に代表される炭素−炭素二重結合を有する化合物であれば特に限定されないが、その中でも3級アミン原子を有するオレフィン化合物、下記一般式(4)
CH2=C(R4)−(CH2m−C(R4)=CH2 (4)
(式中、R4はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基、mは0〜20の整数である。)
で表されるジエン化合物、ビニル基又はアリル基を有する脂肪族環構造及び/又は芳香族環構造を有する化合物等を基質としたヒドロシリル化反応において顕著な有効性が確認される。
【0014】
ここで、上記式(4)において、R4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10、特に1〜6の1価炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。mは0〜20、特に2〜10の整数である。
【0015】
オレフィン化合物の具体的な例としては、アリルイソシアネート、トリアリルイソシアヌレート;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9-デカジエン;ジビニルシクロヘキサン、トリビニルシクロヘキサン、ジアリルシクロヘキサン、トリアリルシクロヘキサン、スチレン、アリルベンゼン、アリルフェノールなどが挙げられるが、ここに例示されるものに限らない。
【0016】
(ii)ハイドロジェンシリル基を有する化合物
本発明におけるハイドロジェンシリル基を有する化合物としては、下記一般式(3)
H−SiR3n3-n (3)
(式中、R3は1価炭化水素基、Xはオルガノオキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるハイドロジェンオルガノオキシシラン、又はこのハイドロジェンオルガノオキシシランを構成成分の少なくとも1種として得られる加水分解縮合物であることが好ましい。R3は炭素数1〜10、特に1〜6の1価炭化水素基であれば特に限定されないが、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基などが挙げられ、それらの中でもメチル基が特に好ましい。Xはオルガノオキシ基であれば特に限定されないが、材料入手の容易さからメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、2−プロペノキシ基等のアルケノキシ基であることが好ましい。このハイドロジェンオルガノオキシシランを構成成分の少なくとも1種として得られる加水分解縮合物は、他の構成成分としてアルコキシシリル基(アルコキシ基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。)を有する有機ケイ素化合物を含んでもよく、得られた縮合物は鎖状、分岐状、環状等のポリマー構造も特に限定されない。
【0017】
具体的な例としては、ハイドロジェントリメトキシシラン、ハイドロジェンメチルジメトキシシラン、ハイドロジェンジメチルメトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、ハイドロジェンメチルジエトキシシラン、ハイドロジェンジメチルエトキシシラン、ハイドロジェントリ(2−プロペノキシ)シラン、ハイドロジェンメチルジ(2−プロペノキシ)シラン、ハイドロジェンジメチル(2−プロペノキシ)シラン、及びこれらシランモノマーを加水分解縮合して得られるヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、オルガノシルセスキオキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサンのようなヒドロシリル基を有する環状シロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、側鎖又は末端にヒドロシリル基を有するケイ素原子数3〜100個のジメチルシリコーンポリマー等が挙げられるが、ここに例示されるものに限らない。
【0018】
(ii)のハイドロジェンシリル基を有する化合物の使用量は、(i)のオレフィン化合物の不飽和基1モルに対して0.7〜1.5モルが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0019】
ヒドロシリル化反応触媒
本発明におけるヒドロシリル化反応触媒は、公知の技術として知られている白金(Pt)及び/又は白金(Pt)を中心金属とする錯体化合物である。具体的には、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸の1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体並びに該錯体を中和処理した化合物や、中心金属の酸化数がPt(II)やPt(0)の1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。好ましくは中心金属の酸化数がPt(IV)以外の錯体であることが付加位置選択性の点から望ましく、特にPt(0)、Pt(II)であることが好ましい。
【0020】
本発明におけるヒドロシリル化反応触媒の使用量は、ヒドロシリル化反応の触媒効果が発現する量であれば特に限定されないが、好ましくは(i)オレフィン化合物1モルに対して0.000001〜1モルであり、より好ましくは0.0001〜0.01モルである。0.000001モル未満である場合には十分な触媒効果が発現しないおそれがあり、1モルより多い場合には効果が飽和するため生産コストが高くなり不経済になってしまうおそれがある。
【0021】
酸アミド化合物
本発明におけるヒドロシリル化反応助剤である酸アミド化合物は、具体的には下記一般式(1)
0−[C(=O)−NR12k (1)
(式中、R0は水素原子又は炭素数1〜30のk価の炭化水素基、R1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、kは1又は2である。)
で表される、カルボン酸とアミンからなるカルボン酸アミド化合物であれば特に限定されないが、使用量対効果の観点から下記一般式(2)
2−C(=O)−NH2 (2)
(式中、R2は水素原子又は炭素数1〜30の1価炭化水素基である。)
で表される第1級酸アミド化合物が特に好ましい。
【0022】
式(1)、(2)において、R0及びR2は、水素原子又は炭素数1〜30、特に1〜20のk価の炭化水素基であり、R0及びR2が1価のとき、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ビニル基等のアルケニル基等が挙げられ、R0及びR2が2価のとき、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、ビニレン基等のアルケニレン基、フェニレン基等のアリーレン基等が挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。R1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20、特に1〜6の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基等が挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。
【0023】
より具体的な酸アミド化合物としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、アクリルアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、フタルアミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられ、これらは試薬として市販されており、入手の容易さと助剤効果の点からホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、ステアリン酸アミドが好ましい。
【0024】
本発明における酸アミド化合物の使用量は、助剤効果(反応促進、選択性向上)が発現する量であれば特に限定されないが、好ましくは(i)オレフィン化合物1モルに対して0.00001〜10モルであり、より好ましくは0.001〜1モルである。0.00001モル未満である場合には十分な触媒効果が発現しないおそれがあり、10モルより多い場合には効果が飽和する他、助剤が逆に触媒活性を低減させるおそれが生じる。
【0025】
本発明の製造方法を実施するにあたり、反応温度は50〜150℃が好ましく、より好ましくは60〜130℃であり、更に好ましくは70〜110℃である。50℃未満では反応速度が低く生産効率が悪くなる場合がある。150℃を超える場合には付加位置の制御が困難となり、付加異性体が生成してしまう他、ヒドロシリル基由来の脱水素反応等の副反応が生じるおそれがある。反応時間は10〜300分が好ましく、より好ましくは60〜120分である。
【0026】
本発明の製造方法を実施するにあたり、適宜に溶媒を使用してもよい。反応の阻害や原料との反応性が無いものであれば特に限定されないが、アルコール系溶媒や、エーテル系溶媒、含へテロ元素極性溶媒、炭化水素系溶媒が一般的であり、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノールといったアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランといったエーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドといった含へテロ元素極性溶媒、ヘキサン、ヘプタンといった脂肪族炭化水素化合物や、トルエン、キシレンといった芳香族炭化水素化合物が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で又は2種以上を混合して使用しても良い。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記の例において部は質量部を示す。
なお、下記例中、反応生成物の組成分析は熱伝導率型検出器を備えたガスクロマトグラフィーを使用し、NMR分析により同定された標準化合物との比較で行った。
ヒドロシリル化の反応率はハイドロジェンシリル基を含有する化合物の仕込み量に対する反応に消費された量の割合をガスクロマトグラフィーにより計算した値である。
また、使用した白金錯体はジビニルシロキサンの0価白金錯体のトルエン溶液である。 例中の付加異性体とはオレフィンの末端炭素以外の炭素がシリル付加された化合物を指す。
【0028】
[実施例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた500mlセパラブルフラスコに、トリアリルイソシアヌレート24.9部(0.1モル)、アセトアミド0.11部(0.002モル)、白金錯体のトルエン溶液を、滴下するトリメトキシシラン1モルに対して白金錯体が0.00005モルに相当する量を納め、撹拌混合した。その後、加熱して内温60℃となったところでトリメトキシシラン36.7部(0.3モル)を1時間かけて滴下した。滴下と同時に反応が起こり、発熱が生じ、反応液温度が60℃から徐々に上昇したため、加熱を停止し、反応液温度が80℃を超えないように調整しながら滴下を継続した。滴下終了後、内温70℃となるように加熱をしながら反応液を1時間熟成した後に、内容物をガスクロマトグラフィーにより分析した。反応率及び付加異性体の生成率を表1に示した。
【0029】
[実施例2]
実施例1における使用原料のトリメトキシシランをトリエトキシシランに変更した以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表1に示した。
【0030】
[実施例3]
実施例1における使用原料のトリメトキシシランをペンタメチルジシロキサンに変更した以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表1に示した。
【0031】
[実施例4]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた500mlセパラブルフラスコに、1,5−ヘキサジエン82.0部(1モル)、アセトアミド0.77部(0.013モル)、白金錯体のトルエン溶液を、滴下するトリメトキシシラン1モルに対して白金錯体が0.00005モルに相当する量を納め、撹拌混合した。その後、加熱して内温60℃となったところでトリメトキシシラン244.4部(2モル)を1時間かけて滴下した。滴下と同時に反応が起こり、発熱が生じ、反応液温度が60℃から徐々に上昇したため、加熱を停止し、反応液温度が70℃を超えないように調整しながら滴下を継続した。滴下終了後、内温70℃となるように加熱をしながら反応液を1時間熟成した後に、内容物をガスクロマトグラフィーにより分析した。反応率及び付加異性体の生成率を表2に示した。
【0032】
[実施例5]
実施例4における使用原料のトリメトキシシランをトリエトキシシランに変更した以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表2に示した。
【0033】
[実施例6]
実施例4における使用原料のトリメトキシシランをペンタメチルジシロキサンに変更した以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表2に示した。
【0034】
[実施例7]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた500mlセパラブルフラスコに、スチレン104.0部(1モル)、アセトアミド0.77部(0.013モル)、白金錯体のトルエン溶液を、滴下するトリメトキシシラン1モルに対して白金錯体が0.00005モルに相当する量を納め、撹拌混合した。その後、加熱して内温60℃となったところでトリメトキシシラン122.2部(1モル)を1時間かけて滴下した。滴下と同時に反応が起こり、発熱が生じ、反応液温度が60℃から徐々に上昇したため、加熱を停止し、反応液温度が70℃を超えないように調整しながら滴下を継続した。滴下終了後、内温70℃となるように加熱をしながら反応液を1時間熟成した後に、内容物をガスクロマトグラフィーにより分析した。反応率及び付加異性体の生成率を表3に示した。
【0035】
[実施例8]
実施例7における使用原料のトリメトキシシランをトリエトキシシランに変更した以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表3に示した。
【0036】
[実施例9]
実施例7における使用原料のトリメトキシシランをペンタメチルジシロキサンに変更した以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表3に示した。
【0037】
[比較例1]
実施例1におけるアセトアミドを使用しなかったこと以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表1に示した。
【0038】
[比較例2]
実施例1におけるアセトアミドの代わりに酢酸を使用したこと以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表1に示した。
【0039】
[比較例3]
実施例4におけるアセトアミドを使用しなかったこと以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表2に示した。
【0040】
[比較例4]
実施例4におけるアセトアミドの代わりに酢酸を使用したこと以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表2に示した。
【0041】
[比較例5]
実施例7におけるアセトアミドを使用しなかったこと以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表3に示した。
【0042】
[比較例6]
実施例7におけるアセトアミドの代わりに酢酸を使用したこと以外は同様にして反応を行った。反応率及び付加異性体の生成率を表3に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
以上の実施例及び比較例の結果は、本発明がヒドロシリル化反応の反応性を損なうことなく、付加異性体の副生を抑制し、オレフィン末端炭素原子をシリル化した化合物を効率よく与えることを実証するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸アミド化合物の存在下、白金及び/又はその錯体化合物の触媒作用により、
(i)炭素−炭素不飽和結合を有するオレフィン化合物と、
(ii)ハイドロジェンシリル基を有する化合物と、
を反応させることを特徴とするヒドロシリル化方法。
【請求項2】
酸アミド化合物が、下記一般式(1)
0−[C(=O)−NR12k (1)
(式中、R0は水素原子又は炭素数1〜30のk価の炭化水素基、R1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、kは1又は2である。)
で表される請求項1記載のヒドロシリル化方法。
【請求項3】
酸アミド化合物が、下記一般式(2)
2−C(=O)−NH2 (2)
(式中、R2は水素原子又は炭素数1〜30の1価炭化水素基である。)
で表される第1級酸アミド化合物である請求項1又は2記載のヒドロシリル化方法。
【請求項4】
ハイドロジェンシリル基を有する化合物が、下記一般式(3)
H−SiR3n3-n (3)
(式中、R3は1価炭化水素基、Xはオルガノオキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるハイドロジェンオルガノオキシシラン又は該ハイドロジェンオルガノオキシシランを構成成分の少なくとも1種として得られる加水分解縮合物である請求項1〜3のいずれか1項記載のヒドロシリル化方法。
【請求項5】
一般式(3)におけるXが、メトキシ基、エトキシ基又は2−プロペノキシ基である請求項4記載のヒドロシリル化方法。
【請求項6】
ハイドロジェンシリル基を有する化合物が、ハイドロジェントリメトキシシラン、ハイドロジェンメチルジメトキシシラン、ハイドロジェンジメチルメトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、ハイドロジェンメチルジエトキシシラン、ハイドロジェンジメチルエトキシシラン、ハイドロジェントリ(2−プロペノキシ)シラン、ハイドロジェンメチルジ(2−プロペノキシ)シラン、ハイドロジェンジメチル(2−プロペノキシ)シラン、これらシランモノマーを加水分解縮合して得られるヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン及びオルガノシルセスキオキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、並びに側鎖又は末端にヒドロシリル基を有するケイ素原子数3〜100個のジメチルシリコーンポリマーから選ばれるものである請求項5記載のヒドロシリル化方法。
【請求項7】
オレフィン化合物が、3級アミン原子を含むオレフィン化合物、下記一般式(4)
CH2=C(R4)−(CH2m−C(R4)=CH2 (4)
(式中、R4はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基、mは0〜20の整数である。)
で表されるジエン化合物、並びにビニル基又はアリル基を有する脂肪族環構造及び/又は芳香族環構造を含む化合物から選ばれるものである請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化方法。
【請求項8】
オレフィン化合物が、アリルイソシアネート、トリアリルイソシアヌレート、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、ジビニルシクロヘキサン、トリビニルシクロヘキサン、ジアリルシクロヘキサン、トリアリルシクロヘキサン、スチレン、アリルベンゼン及びアリルフェノールから選ばれるものである請求項7記載のヒドロシリル化方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のヒドロシリル化方法を用いることを特徴とする有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法により製造される有機ケイ素化合物。

【公開番号】特開2012−121852(P2012−121852A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274710(P2010−274710)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】