説明

ヒュームド金属酸化物粒子及びその製造方法

本発明は、ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法であって、揮発性の非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含む液体供給原料の流れを提供する工程と、該液体供給原料を霧化及び燃焼又は熱分解するのに十分な線速度を有する燃焼ガスの流れを提供する工程と、該液体供給原料の流れを該燃焼ガスの流れに噴射して反応混合物を形成し、該燃焼ガスの温度がヒュームド金属酸化物粒子の凝固温度より低くなる前に、該液体供給原料を霧化して該ヒュームド金属酸化物粒子を形成するのに十分な温度及び該燃焼ガスの流れ中の滞留時間にさらすようにする工程とを含む、ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法を提供する。本発明は、比較的小さな凝集体サイズ及び/又は比較的狭い凝集体サイズ分布を有するヒュームドシリカ粒子をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物粒子は、産業において広範囲にわたる用途を見出している。例えば、半導体産業においては、金属酸化物粒子は、研磨用組成物における研磨剤として使用されている。金属酸化物粒子はまた、塗料などのコーティング用組成物の調製やインク用記録媒体の製造において使用されている。
【0003】
種々の方法が、金属酸化物粒子の製造に関して開示されている。例えば、米国特許第3,322,499号明細書(Carpenterら)では、金属ハライド又は金属オキシハライドなどの揮発性金属化合物の高温酸化による発熱性金属酸化物粒子の製造方法が開示されている。このような方法は十分な品質の金属酸化物粒子を生成するが、それらは、費用のかかる生成後処理工程、例えば、ハロゲン化された供給原料の燃焼によって生じる酸を除去する工程を必要とすることがしばしばである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、高価で複雑な生成前及び生成後処理工程を必要としない金属酸化物粒子の製造方法に関するニーズがある。さらに、比較的小さな凝集体サイズ及び/又は比較的狭い凝集体サイズ分布を有する金属酸化物粒子に関するニーズがある。本発明のこれら及び他の利点並びに追加の発明の特徴は、本明細書で提供される本発明の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法であって、揮発性の非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含む液体供給原料の流れを提供する工程と、該液体供給原料を霧化及び燃焼又は熱分解するのに十分な線速度を有する燃焼ガスの流れを提供する工程と、該液体供給原料の流れを該燃焼ガスの流れに噴射して反応混合物を形成し、該燃焼ガスの温度がヒュームド金属酸化物粒子の凝固温度より低くなる前に、該液体供給原料を霧化して該ヒュームド金属酸化物粒子を形成するのに十分な温度及び該燃焼ガスの流れ中の滞留時間にさらすようにする工程とを含む、ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法を提供する。
【0006】
本発明は、一次粒子サイズdと凝集体サイズDcircを有するヒュームドシリカ粒子であって、該一次粒子サイズの平均dave、該凝集体サイズの平均Dcirc ave及び該凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)が以下の式、即ち、
【数1】

の一方又は両方を満たすヒュームドシリカ粒子の母集団又は集合をさらに提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法を提供する。この方法は、(a)揮発性の非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含む液体供給原料の流れを提供する工程と、(b)該液体供給原料を霧化及び燃焼又は熱分解するのに十分な線速度を有する燃焼ガスの流れを提供する工程と、(c)該液体供給原料の流れを該燃焼ガスの流れに噴射して反応混合物を形成し、該燃焼ガスの温度がヒュームド金属酸化物粒子の凝固温度より低くなる前に、該液体供給原料を霧化して該ヒュームド金属酸化物粒子を形成するのに十分な温度及び該燃焼ガスの流れ中の滞留時間にさらすようにする工程とを含む。
【0008】
本明細書で用いられる場合には、金属酸化物粒子という用語は、化学式MXYで表すことができ、式中、Mが金属を表し、XとYが独立して1よりも大きい、離散性の金属酸化物の粒子について言うものである。これらの粒子は、典型的には、比較的強い凝集力によって互いに保持されるより小さな一次粒子の凝集体である。凝集体金属酸化物粒子は、比較的弱い凝集力で互いに保持されるより大きな凝集塊を形成することもできる。
【0009】
本発明で用いられる液体供給原料は、揮発性の非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含む。本明細書で用いられる場合には、「揮発性」という用語は、燃焼ガスの流れに導入された場合にガス又は蒸気に容易に転化する化合物について言うものである。本発明で使用するのに好適な金属酸化物前駆体は、特には限定されず、当業者に公知の任意の金属酸化物前駆体であって、但し、非ハロゲン化されており、燃焼ガスの流れにおいて容易に揮発させることができる前駆体を含む。好適な非ハロゲン化前駆体は、アルミニウム(III)n−ブトキシド、アルミニウム(III)sec−ブトキシド、アルミニウム(III)イソプロポキシド、トリメチルアルミニウム、チタンイソプロポキシド、及びそれらの混合物を含むがこれらに限定されない。金属酸化物前駆体はまた、シリコーン化合物であることもできる。好適なシリコーン化合物は、(i)シリケート、例えば、テトラエトキシオルソシリケート(TEOS)及びテトラメトキシオルソシリケート;(ii)シラン、例えば、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、及びアリールアルキルアルコキシシラン、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、及びジエチルプロピルエトキシシラン;(iii)シリコーン油;(iv)ポリシロキサン及び環状ポリシロキサン、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMTS)、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ヘキサメチル−シクロトリシロキサン;(v)シラザン、例えば、ヘキサメチルジシラザン;並びにそれらの混合物を含むがこれらに限定されない。好ましくは、シリコーン化合物は、メチルトリメトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、及びそれらの混合物から成る群より選択される。
【0010】
液体供給原料はまた、2つ以上の揮発性非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含むこともできる。例えば、液体供給原料は、ケイ素含有金属酸化物前駆体とアルミニウム含有金属酸化物前駆体を含むことができるか又はケイ素含有金属酸化物前駆体とチタン含有金属酸化物前駆体を含むことができる。好ましくは、金属酸化物前駆体は、シリコーン化合物と、アルミニウム(III)n−ブトキシド、アルミニウム(III)sec−ブトキシド、アルミニウム(III)イソプロポキシド、及びトリメチルアルミニウムから成る群より選択された少なくとも1つの化合物とを含む。液体供給原料が2つ以上の揮発性非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含む場合には、この2つ以上の金属酸化物前駆体は、任意の好適な量で液体供給原料中に存在することができる。金属酸化物前駆体の相対量を変化させることによって、ヒュームド金属酸化物粒子の化学組成を変化させることができると解される。
【0011】
液体供給原料は、任意の好適な方法によって形成することができる。金属酸化物前駆体は、金属酸化物前駆体とそれに適した溶剤を混合することにより調製することができる。溶剤は、液体供給原料の燃焼又は熱分解に関してヒュームド金属酸化物粒子中に残留汚染物質を残さないことが好ましい。好適な溶剤は、1つ又は複数の有機溶剤を含むがそれらに限定されない。
【0012】
金属酸化物前駆体は、任意の好適な濃度で液体供給原料中に存在することができる。より高い金属酸化物前駆体濃度は、ヒュームド金属酸化物粒子の生成速度を最大にするため金属酸化物前駆体濃度を低くすることが好ましい。液体供給原料において飽和に近い金属酸化物前駆体濃度が特に好ましい。当業者によって理解されるように、液体供給原料の飽和点は、用いられる特定の溶剤及び金属酸化物前駆体、並びにpH、温度及び圧力などの外的因子に依存している。したがって、幾つかの調製においては、液体供給原料中の金属酸化物前駆体濃度は、典型的には約20wt%以上、好ましくは約60wt%以上、より好ましくは約80wt%以上である。それゆえ、最も好ましくは、金属酸化物前駆体は、好適な溶剤とは混合されない(即ち、金属酸化物前駆体は液体供給原料の100wt%である)。
【0013】
燃焼ガス流は、任意の好適な方法によって形成することができる。好ましくは、燃焼ガス流は、予熱された酸化剤流と液体又はガスの燃料流を燃焼することによって確立される。典型的には、酸化剤流は、燃料流と適切な割合で混合された場合に、活発に燃焼することができる混合物が得られる任意のガス状酸化剤を含む。好適な酸化剤流は、空気、酸素及びそれらの混合物を含むがこれらに限定されない。酸化剤流はまた、1つ又は複数の実質的に非酸化性又は不活性のガス、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどを含むこともできる。酸化剤流が少なくとも1つの酸化剤ガスと少なくとも1つの実質的に非酸化性又は不活性のガスとの混合物を含む場合には、混合物の全酸化剤ガス濃度は、少なくとも約20vol%であることが好ましい。
【0014】
酸化剤流は、任意の好適な温度に予熱することができる。典型的には、酸化剤流は、酸化剤流と混合されたときに得られる混合物が容易に燃焼できるような温度に加熱される。他の実施態様においては、酸化剤流は、燃料流が酸化剤流と混合されると直ちに燃焼するような温度に加熱することができる。
【0015】
燃料流は、任意の容易に燃焼することができるガス、蒸気及び/又は液体燃料のうち1つ又は複数を含むことができる。好適な燃料の例は、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)などを含むがそれらに限定されない。しかしながら、炭化水素などの高含有量の炭素含有成分を有する燃料流を用いることが一般に好ましい。好適な炭化水素は、天然ガス、メタン、アセチレン、アルコール、灯油、及びそれらの混合物を含むがこれらに限定されない。本明細書で用いられる場合には、「天然ガス」という用語は、メタン(CH4)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)及び窒素の混合物について言うものである。幾つかの形態では、天然ガスは、比較的少量のヘリウムをさらに含むことができる。本明細書で用いられる場合には、「灯油」という用語は、石油の分別蒸留の際に得られる石油炭化水素の混合物について言うものである。別の好ましい実施態様においては、燃料流は水素を含む。
【0016】
燃焼ガス流を確立するのに用いられる酸化剤流と燃料流の相対的な量を幅広い範囲にわたって変化させ、特定の前駆体に関する流れの温度及び線速度を最適化することができる。液体供給原料を霧化及び熱分解又は燃焼するのに十分な線速度を有する燃焼ガス流を生成するのに必要な酸化剤と燃料の相対的な量は、用いられる特定の1つ又は複数の酸化剤及び1つ又は複数の燃料、並びに霧化及び熱分解又は燃焼される特定の供給原料に依存している。典型的には、酸化剤と燃料の混合物は、燃料リッチ又は燃料リーンのいずれかであることができる。本明細書で用いられる場合には、「燃料リッチ」という用語は、混合物中に存在する酸化剤の量が混合物中に存在する燃料の量を完全に酸化又は燃焼するのに十分ではない燃料と酸化剤の混合物について言うものである。それと対照的に、「燃料リーン」という用語は、酸化剤が混合物中に存在する燃料を完全に酸化又は燃焼するのに必要な量を超える量で存在する燃料と酸化剤の混合物について言うものである。
【0017】
燃焼ガス流は、液体供給原料を霧化及び燃焼又は熱分解するのに十分な線速度を有する。典型的には、燃焼ガス流は、少なくとも約マッハ0.2の線速度を有する。本明細書で用いられる場合には、「マッハ」という用語は、[燃焼ガス流の線速度]/[周囲媒体(即ち、燃焼ガス流)の音速]の比について言うものである。当業者は、音速がそれが伝わる媒体の温度と圧力に依存するので、マッハ速度もまた周囲媒体の温度と圧力に依存するとわかるであろう。したがって、マッハ数について表される燃焼ガス流の速度は、燃焼ガスの温度と圧力に依存する。さらには、液体供給原料を霧化及び熱分解又は燃焼するのに必要な線速度は、用いられる特定の1つ又は複数の供給原料に依存する。例えば、メチルトリメトキシシラン供給原料の霧化及び燃焼のための最適な線速度は、オクタメチルシクロテトラシロキサン供給原料の霧化及び燃焼のための最適な線速度とは異なる場合がある。
【0018】
燃焼ガス流は、任意の好適な温度を有することができる。典型的には、燃焼ガス流の温度は、約2200K〜約3000Kである。燃焼ガス流の温度は、当技術分野で公知の方法、例えば、HungらのJ.Mater.Res.,7,1861−1869(1992年7月)に記載されている熱電対によって測定することができる。
【0019】
酸化剤流と燃料流は、任意の好適な装置で一緒にして燃焼ガス流にすることができる。典型的には、酸化剤流と燃料流は、液体供給原料を燃焼ガス流に噴射する反応ゾーンに接続された燃焼チャンバーで一緒にされて燃焼される。1つの実施態様においては、燃焼チャンバーは、エンクロージャの内部断面積が燃焼ガスの流路に沿って小さくなるエンクロージャを含む。この実施態様においては、燃焼ガスは、エンクロージャを通って進み、燃焼チャンバーの内部断面積よりも大きな内部断面積を有する反応ゾーンへ入る。
【0020】
液体供給原料は、燃焼ガス流の任意の好適な地点に導入することができる。しかしながら、供給原料は、供給原料を霧化して燃焼又は熱分解のいずれかにより所望の金属酸化物に転化するのに十分な温度、線速度及び滞留時間に供給原料がさらされることを確実にする地点で燃焼ガス流に導入されなければならない。上記のように、必要な温度、線速度及び滞留時間は、用いられる特定の供給原料に依存し、したがって、必要な導入地点は、特定の供給原料に応じて変わる場合がある。
【0021】
液体供給原料流は、任意の好適な方法によって燃焼ガス流に噴射することができる。典型的には、供給原料流は、少なくとも1つのノズルを通して燃焼ガスに噴射される。本発明での使用に好適なノズルのタイプは特には限定されない。好ましくは、このノズルは、単一流体又は二流体用ノズルである。本明細書で用いられる場合には、「単一流体用ノズル」という用語は、1つの流体がノズルに導入され、そこから出るノズルについて言うものであり、「二流体用ノズル」という用語は、2つの流体がノズルに導入され混合されて、次いでその混合物がノズルから出るノズルについて言うものである。好ましくは、複数(例えば、2つ以上、3つ以上又は4つ以上)のノズルを、液体供給原料流を燃焼ガス流に噴射するのに使用し、それによって確実に液体供給原料を素早く均一に燃焼ガスと混合する。さらには、複数のノズルを使用する場合に、ノズルの1つ又は複数は、他のノズルの下流に(即ち、燃焼ガスの流路に沿って)配置されることが好ましい。
【0022】
少なくとも1つの単一流体用ノズルを使用する場合には、液体供給原料は、2つの方法で霧化することができる。第一は、液体供給原料を圧力下でノズルに送ることができ、液体供給原料を霧化するのに十分な力で液体供給原料流がノズルから出ることを確実にする。第二は、液体供給原料流を燃焼ガス流に直接噴射することができ、この場合には、燃焼ガス流の力によって液体供給原料が霧化される。典型的には、二流体用ノズルを使用する場合には、液体供給原料は、加圧流体、例えば、スチーム又は空気を用いて主に霧化され、さらには燃焼ガス流の力によって霧化される。
【0023】
幾つかの実施態様においては、1つ又は複数の追加の液体供給原料を燃焼ガス流に導入することができる。1つ又は複数の追加の供給原料は、第1供給原料と同じ地点で燃焼ガス流に導入することができるか又は第1供給原料が燃焼ガス流に導入された地点の下流の1つ又は複数の地点で導入することができる。複数の供給原料が燃焼ガス流に導入される場合には、各供給原料は同じ前駆体を含むことができるか又は異なる前駆体を含むことができる。
【0024】
上記のプロセスでは、金属酸化物粒子は、2つの方法のうちの1つにおいて形成することができる。第一に、液体供給原料中に含有される前駆体を燃焼して対応する金属酸化物粒子を形成することができる。第二に、液体供給原料中に含有される前駆体を熱分解して対応する金属酸化物粒子を形成することができる。本明細書で用いられる場合には、「熱分解」という用語は、炭素質化合物、例えば、ケイ素含有供給原料の熱分解について言うものである。
【0025】
金属酸化物粒子が熱分解によって形成される場合には、反応混合物を追加の成分と接触させて、確実に金属酸化物前駆体を酸化することができる。これらの追加の成分は、酸素がない場合に金属酸化物前駆体の酸化を向上させる任意の好適な化学物質であることができる。好適な化学物質は、CO2とH2Oを含むがそれらに限定されない。幾つかの実施態様においては、燃料/酸化剤の比は、カーボンブラックが燃焼ガス流中に形成しないことを確実にするほど十分低いレベル以下に維持されなければならない。このレベルは、「臨界当量比」と一般に称され、本発明の使用に好適な供給原料に関しては、それは約1.7に等しい。この当量比は、系に存在する燃料/酸化剤の比を、同じ系の完全燃焼に必要とされる燃料/酸化剤の化学量論的な比で割ったものと定義される。I.Glassman,「Combustion,」AP,1987を参照されたい。
【0026】
固体金属酸化物粒子が形成した後、反応混合物(即ち、液体供給原料と燃焼ガス)を急冷することによって反応を抑制することができる。典型的には、反応混合物は、急冷剤を新しく形成された固体金属酸化物粒子にスプレーすることによって急冷される。反応混合物を急冷するのに任意の好適な急冷剤を使用することができる。好適な急冷剤は、空気、スチーム、二酸化炭素、及び水を含むがそれらに限定されない。あるいはまた又はそれに加えて、壁を有する反応器内の燃焼ガス流に液体供給原料を噴射する場合には、反応混合物は、反応器の壁への伝熱によって急冷することができる。急冷は、金属酸化物粒子を冷却し、ガス流の温度を下げるのに役立ち、それによって反応速度が減少する。任意選択で、急冷は、段階的であることができるか又は反応器の複数の地点で行うことができる。
【0027】
反応混合物を急冷した後、冷却されたガスと金属酸化物粒子は、金属酸化物粒子と任意の共生成したカーボンブラックを回収する下流の任意の通常の冷却及び分離手段に進む。ガス流からの金属酸化物粒子の分離は、通常の手段、例えば、集塵器、サイクロンセパレータ、バグフィルター、又は当業者に公知の他の手段によって容易に達成される。
【0028】
本発明の方法は、任意の好適な装置で実施することができる。好ましくは、この方法は、図1に示されるような反応器において実施される。特には、図1に示される反応器は、燃焼ガス流が、例えば、AとBのガス(例えば、空気と水素)を噴射することによって確立される内径D1を有する燃焼チャンバー10を含む。燃焼チャンバー10の内径は、燃焼ガス流が(D1よりも小さい)内径D2を有する反応器の絞り部分14に達するまで燃焼ガス流の流路12に沿って減少している。好ましくは、液体供給原料Cが、反応器の絞り部分14の1つ又は複数の地点で燃焼ガス流に噴射される。如何なる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、液体供給原料を反応器の絞り部分において燃焼ガス流に噴射することにより、燃焼ガス流が液体供給原料を霧化及び燃焼又は熱分解するのに十分な速度と温度を有することが確実になると考えられる。次いで、反応器の内径は、燃焼ガス流と液体供給原料流の流路12に沿って、それが(直径D2よりも大きな)内径D3を有する拡張部分16に達するまで増加している。この部分で、ヒュームド金属酸化物粒子が形成し、任意選択で、反応混合物は、急冷剤D(例えば、水)を噴射することによって急冷される。
【0029】
燃焼ガス流の温度によって、金属酸化物粒子の表面積が決定される。金属酸化物粒子の表面積は、一般には一次粒子のサイズに関係している。好ましい金属酸化物粒子は、S.Brunauer,P.H.Emmet及びI.Teller,J.Am.Chemical Society,60,309(1938)の方法から計算され、一般にはBETと称される、少なくとも約10m2/g、好ましくは少なくとも約15m2/g、より好ましくは少なくとも約20m2/g、最も好ましくは少なくとも約25m2/gの表面積を有する。金属酸化物粒子は、約500m2/g未満、好ましくは約475m2/g未満、より好ましくは約450m2/g未満、最も好ましくは約400m2/g未満のBET表面積を典型的に有する。
【0030】
本発明の方法は、有利には任意の好適な金属酸化物の粒子を生成するのに使用することができる。好適な金属酸化物は、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、シリカ、チタニア、バリア(baria)、ニオビア、ルビジア(rubidia)、ストロンチア、及びカルシアを含むがそれらに限定されない。本発明の方法はまた、2つ以上の金属酸化物を含むヒュームド金属酸化物粒子(例えば、シリカとアルミナを含むヒュームド金属酸化物粒子)を生成するのに使用することもできる。
【0031】
本発明は、一次粒子サイズdと凝集体サイズDcircを有するヒュームドシリカ粒子であって、該一次粒子サイズの平均dave、該凝集体サイズの平均Dcirc ave及び該凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)が以下の式、即ち、
【数2】

の一方又は両方を満たすヒュームドシリカ粒子(例えば、それを含むか、本質的にそれから成るか又はそれから成る組成物)の母集団又は集合をさらに提供する。
【0032】
一次粒子サイズの平均daveは、ヒュームドシリカ粒子のBET表面積SAに関係し、以下の式、即ち、
【数3】

を用いて計算することができる。
【0033】
凝集体サイズDcircは、凝集体Aと同じ面積を有する円の直径と定義され、任意の好適な方法、例えば、ASTM規格D3849に従ったTEM画像分析によって測定することができる。凝集体Aの面積を決定した後、凝集体サイズDcircを、以下の式、即ち、
【数4】

によって計算することができる。
【0034】
本明細書で用いられる場合には、凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)は、以下に記載する母集団、集合又は組成物(例えば、約2000以上の凝集体)のヒュームドシリカ粒子に関する凝集体サイズの幾何標準偏差Dcircであり、ヒュームドシリカ粒子の凝集体サイズ分布を表す。ヒュームドシリカ粒子のDcirc ave値は幾何数平均である。幾何数平均並びに幾何標準偏差は、任意の好適な方法、例えば、T.Kodas及びM.Hampden−Smith,Aerosol Processing of Materials,28−31(John Wiley & Sons 1999)に記載されている方法によって計算することができる。
【0035】
ヒュームドシリカ粒子を含む母集団、集合又は組成物は、任意の好適な数のヒュームドシリカ粒子を含むことができる。例えば、母集団、集合又は組成物は、ヒュームドシリカ粒子の約2000以上の凝集体、約5000以上の凝集体、又はさらには約10,000以上の凝集体を含むことができる。母集団、集合又は組成物はまた、ヒュームドシリカ粒子を約10g以上、約100g以上、又は約1kg以上含むことができる。
【0036】
本発明の金属酸化物粒子は、有利には種々の用途に適している。例えば、金属酸化物粒子は、化学機械研磨プロセスにおける研磨剤として使用することができる。如何なる理論にも束縛されることを望むものではないが、より小さな凝集体サイズ及び/又は金属酸化物粒子の狭い凝集体サイズ分布は、研磨プロセスによって生じる表面欠陥の発生を少なくとも部分的に減少させると考えられる。金属酸化物粒子はまた、塗料などのコーティング用組成物の調製において使用することもできる。これらのコーティング用組成物はまた、ポリマーフィルム又はポリマー紙などの基材をコーティングしてインク用記録媒体を製造するのに使用することもできる。
【0037】
以下の例は本発明を例示するが、当然ながら、何らその範囲を限定するものとして解されるべきではない。
【実施例】
【0038】
[例1〜4]
これらの例は、本発明に従ったヒュームド金属酸化物粒子の製造方法を示す。とりわけ、これらの例は、異なる表面積を有するヒュームドシリカ粒子を製造するのに用いられる4つの方法を示す。以下の方法は、上記の図1に示されるパイロットスケールの反応器を用いて実施した。パイロットスケールの反応器のおよその寸法は、図1を参照して以下の通り、即ち、D1=18.4cm、D2=9.7cm、D3=69cm及びL1=213cmとした。液体供給原料は、市販のオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMTS)であり、燃焼ガス流は、空気と天然ガスの混合物を燃焼することによって確立した。各方法で用いられる空気、天然ガス及びOMTSの量を表1に示す。液体供給原料(即ち、OMTS)は、反応器の絞り部分14(即ち、図1における直径D2の部分)で燃焼ガス流に噴射し、反応混合物は(図1のD位置で反応器に導入される)水を用いて急冷した。
【0039】
【表1】

【0040】
各方法によって製造したヒュームドシリカ粒子の表面積をBETの手順に従って測定した。各方法から得られたヒュームドシリカ粒子の平均表面積を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
これらの結果によって実証されるように、本発明の方法は、非ハロゲン化金属酸化物前駆体からヒュームド金属酸化物粒子を製造するのに使用することができる。さらには、本発明の方法は、幅広い範囲の表面積を有するヒュームド金属酸化物粒子を製造するのに使用することができる。
【0043】
[例5]
この例は、本発明のヒュームドシリカ粒子に特有の粒子サイズの特徴を示す。例1〜4のヒュームドシリカ粒子を、本明細書に記載される方法に従って分析し、ヒュームドシリカ粒子(即ち、例1〜4のそれぞれで製造されたシリカ粒子)の各試料からの2000の凝集体について一次粒子サイズdと凝集体サイズDcircを決定した。次いで、一次粒子サイズの平均dave、凝集体サイズの平均Dcirc ave及び凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)を計算した。とりわけ、ヒュームドシリカ粒子の一次粒子サイズの平均daveは、BET表面積(SA)の測定値と式
【数5】

を用いて決定した。凝集体サイズDcircはTEM画像分析を用いて決定し、各凝集体の面積Aを測定して、式
【数6】

により凝集体サイズDcircを計算した。これらDcircの決定により、凝集体サイズの幾何数平均Dcirc ave及び凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)を、ヒュームドシリカ粒子(即ち、例1〜4のそれぞれで製造されたシリカ粒子)の各試料について計算した。一次粒子サイズの平均dave、凝集体サイズの平均Dcirc ave及び凝集体サイズの幾何標準偏差(即ち、凝集体サイズ分布)σg(Dcirc)を、ヒュームドシリカ粒子の各試料について表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
これらの結果によって実証されるように、例1のシリカ粒子についての一次粒子サイズの平均dave、凝集体サイズの平均Dcirc ave及び凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)は、以下の式のいずれも満たさないが、例2〜4のシリカ粒子の同じ物理的特性は以下の式、即ち、
【数7】

の一方又は両方を満たす。
【0046】
とりわけ、例1のヒュームドシリカ粒子は、式(1)又は(2)を満たさないが、例2、3及び4のヒュームドシリカ粒子は式(1)を満たし、例3及び4のヒュームドシリカ粒子は式(2)を満たす。
【0047】
本明細書で引用した刊行物、特許出願及び特許を含むすべての参考文献は、本明細書により、それぞれの参考文献が個々にかつ具体的に示されてその参照により含まれ、全体として本明細書に記載されている場合と同程度にその参照により含まれる。
【0048】
本発明を説明する中で(特に特許請求の範囲の中で)使用される「a」、「an」及び「the」という冠詞並びに同様の指示語は、本明細書で別段の指摘がないか又は文脈によって明確に否定されない限り、単数及び複数の両方を包含すると解されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、別段の断りがない限り制限のない用語である(即ち、「含むが限定されない」ことを意味する)。本明細書における値の範囲の説明は、本明細書で別段の指摘がない限り、単に範囲の中に入っているそれぞれ独立した値を個々に言及することの省略方法として機能することを意図しており、それぞれの独立した値は、まるでそれが本明細書で個々に列挙されたかのように本明細書に組み入れられる。本明細書で説明されたすべての方法は、本明細書で別段の指摘がないか又は文脈によって別に明確に否定されない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意の及びすべての例又は例示的な語(例えば、「などの」)の使用は、単に本発明をより明らかにすることを意図しており、特許請求の範囲に別段の記載がない限り、本発明の範囲に関する限定をもたらすものではない。本明細書に記載のないものは、特許請求の範囲に記載のない任意の構成要素を本発明の実施に不可欠であるものとして示すと解すべきである。
【0049】
本発明を実施するために発明者らが知っている最良の方法を含めて、本発明の好ましい実施態様を本明細書で説明している。これらの好ましい実施態様の変形態様は、前述の説明を読めば当業者に明らかになるであろう。発明者らは、当業者が適切であるような変形態様を用いることを期待しており、発明者らは、本発明が本明細書で具体的に説明したのと別の方法で実施されることを意図している。したがって、本発明は、準拠法によって容認されているように、特許請求の範囲に列挙した主題のすべての改良及びそれと同等なものを包含する。さらには、そのすべての可能な変形態様における上記要素の任意の組み合わせは、本明細書で別段の指摘がないか又は文脈によって別に明確に否定されない限り、本発明によって包含される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の方法を実施するのに好適な反応器の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法であって、
(a)揮発性の非ハロゲン化金属酸化物前駆体を含む液体供給原料の流れを提供する工程と;
(b)該液体供給原料を霧化及び燃焼又は熱分解するのに十分な線速度を有する燃焼ガスの流れを提供する工程と;
(c)該液体供給原料の流れを該燃焼ガスの流れに噴射して反応混合物を形成し、該燃焼ガスの温度がヒュームド金属酸化物粒子の凝固温度より低くなる前に、該液体供給原料を霧化して該ヒュームド金属酸化物粒子を形成するのに十分な温度及び該燃焼ガスの流れ中の滞留時間にさらすようにする工程と
を含む、ヒュームド金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応混合物を急冷することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応混合物が空気によって急冷される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応混合物がスチームによって急冷される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記反応混合物が水によって急冷される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記液体供給原料の流れが、壁を有する反応器内の前記燃焼ガスの流れに噴射され、前記反応混合物が、該反応器の壁への伝熱によって急冷される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記金属酸化物前駆体がシリコーン化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記シリコーン化合物が、シリケート、シラン、ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、シラザン、及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記シリコーン化合物が、テトラエトキシオルソシリケート、テトラメトキシオルソシリケート、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジエチルプロピルエトキシシラン、シリコーン油、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ヘキサメチル−シクロトリシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シリコーン化合物が、メチルトリメトキシシラン、オクタメチルトリメトキシシラン、及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属酸化物前駆体が、アルミニウム(III)n−ブトキシド、アルミニウム(III)sec−ブトキシド、アルミニウム(III)イソプロポキシド、トリメチルアルミニウム、及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記液体供給原料が、シリコーン化合物と、アルミニウム(III)n−ブトキシド、アルミニウム(III)sec−ブトキシド、アルミニウム(III)イソプロポキシド、及びトリメチルアルミニウムから成る群より選択された少なくとも1つの化合物とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記燃焼ガスの流れが、予熱された酸化剤流と液体又はガスの燃料流を燃焼することによって確立される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化剤流が、空気、酸素及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記燃料流が炭化水素を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記炭化水素の燃料流が、天然ガス、メタン、アセチレン、アルコール、灯油、及びそれらの混合物から成る群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記燃料流が水素を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記液体供給原料の流れが、少なくとも1つのノズルを通して前記燃焼ガスの流れに噴射される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ノズルが単一流体用ノズルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ノズルが二流体用ノズルである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記液体供給原料が、2つ以上のノズルを通して前記燃焼ガスの流れに噴射される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記ノズルの少なくとも1つが他のノズルの下流に配置される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記金属酸化物粒子が熱分解によって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記燃焼ガスの温度が前記ヒュームド金属酸化物粒子の凝固温度より低くなる前に、前記反応混合物をCO2又はH2Oと接触させて酸化を向上させる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
一次粒子サイズdと凝集体サイズDcircを有する約2000以上のヒュームドシリカの凝集体を含む組成物であって、該一次粒子サイズの平均dave、該凝集体サイズの平均Dcirc ave及び該凝集体サイズの幾何標準偏差σg(Dcirc)が以下の式、即ち、
【数1】

の一方又は両方を満たす、組成物。
【請求項26】
前記ヒュームドシリカの粒子がある表面積を有し、前記一次粒子サイズdが以下の式、即ち、
【数2】

に従って該表面積SAから計算される、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記式(1)を満たす、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記式(2)を満たす、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記式(1)と(2)の両方を満たす、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物が、約5000以上のヒュームドシリカ凝集体を含む、請求項25に記載の組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2006−507212(P2006−507212A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555686(P2004−555686)
【出願日】平成15年11月24日(2003.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/037558
【国際公開番号】WO2004/048261
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(391010758)キャボット コーポレイション (164)
【氏名又は名称原語表記】CABOT CORPORATION
【Fターム(参考)】