説明

ヒラタキクイムシ類産卵誘導材

【課題】
内容成分やその含有量が不安定で、また昆虫の生育に影響を与える物質が混入する可能性のある天然木を使用せずに、安定な人工的環境下でヒラタキクイムシ類に産卵させ、その卵を得るための産卵誘導材を提供する
人工環境下で安定的にヒラタキクイムシ類に産卵をさせることが本発明の課題である。
【解決手段】
吸液性のある多層性の構造物に、可溶性デンプン、シュクロースを含む溶液を担持させ、ヒラタキクイムシ類の成熟成虫を飼育することで、安定的にヒラタキクイムシ類に産卵させることが可能となり、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は住宅その他の建築に使用される木質建材に被害を与える乾材害虫の試験法に関し、その代表的な乾材害虫であるヒラタキクイムシ類の産卵誘導材に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒラタキクイムシ類は、ラワンなどの広葉樹材の主要害虫として知られるが、防虫加工法の普及により、被害が問題となることが少なかった。しかし近年、防虫未加工材の使用の増加、木質材料のホルムアルデヒド放出量の低減化、住宅の高気密化、高断熱化によるヒラタキクイムシ類の活動期の変化等により、その被害が増加しつつあり、より効率的な防虫方法の開発が望まれている。
【0003】
しかしながら、ヒラタキクイムシ類の生態等について未解明の点が多く、その飼育方法や試験方法についても十分な状況ではない。より有効な防除法を開発する為に、ヒラタキクイムシ類に関する飼育方法や薬剤の評価方法を開発することが大きな課題となっていた。
【0004】
ヒラタキクイムシ類に関する試験法が各種示されているが、幼虫及び成虫に関する試験方法のみであり、ヒラタキクイムシ類の産卵方法や、産卵を効率的に行わせる方法に関する記載はされていない。また、ベニヤ法による採卵方法が示されているが、澱粉含量が十分な木材を選択して用いる必要があり、このような材料を安定に入手することが困難であり、簡易に安定的な条件下でヒラタキクイムシ類の採卵を行うことが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】社団法人日本木材保存協会規格集
【非特許文献2】日本応用動物昆虫学会誌1978 第22号 第2号 68‐73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内容成分やその含有量が不安定で、また昆虫の生育に影響を与える物質が混入する可能性のある天然木を使用せずに、安定な人工的環境下でヒラタキクイムシ類に産卵させ、その卵を得るための産卵誘導材を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意研究を行い、吸液性のあるシート状基材を層状に重ね、糖類を含む水溶液を処理して乾燥させた構造体でヒラタキクイムシ類を飼育することにより、安定的に産卵させることが可能となり、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、効率良く安定的にヒラタキクイムシ類に産卵させることができる材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のヒラタキクイムシ類の安定的な人工産卵誘導材について以下詳しく述べる。本発明対象のヒラタキクイムシ類は、甲虫目ナガシンクイムシ科ヒラタキクイムシ亜科の昆虫であり、ヒラタキクイムシ、アフリカヒラタキクイムシ、ナラヒラタキクイムシ、ケヤキヒラタキクイムシ、アラゲヒラタキクイムシなどが挙げられるが、特に乾材害虫として問題になっているヒラタキクイムシとアフリカヒラタキクイムシが好ましい。
【0010】
本発明に用いられる糖類としては、デンプン類が挙げられ、それらにはコーンスターチ、小麦でん粉、米でん粉、モロコシでん粉、いも類でん粉、馬鈴薯でん粉、甘藷でん粉、タピオカでん粉、豆類でんぷん、緑豆でん粉、野草類でん粉、クズでん粉、カタクリでん粉、ワラビでん粉、幹茎でん粉、サゴでん粉等を用いることができるが、特にそれらの可溶性デンプンが好ましい。
【0011】
デンプン以外の糖類としては、グルコース、フラクトース、ガラクトース、シュクロース、マルトース、ラクトース、オリゴ糖を用いることができるが、特にシュクロースが望ましい。糖類は二種類以上のものを混合して使用しても差し支えなく、またデンプン類とデンプン以外の糖類を混合して使用しても差し支えない。
【0012】
吸液性のあるシート状基材は、シート状で糖類を含浸させることができる基材であればいかなるものでも差し支えないが、木材、紙類等を挙げることができ、紙類としては印刷・情報用紙、包装用紙、衛生用紙、雑種紙、ろ紙、板紙、不織布などを用いることができるが、特にろ紙と衛生用紙が望ましい。
【0013】
吸液性のあるシート状基材に、糖類を処理する場合は、糖類を水溶液とし、基材自体を糖類の溶液中に浸漬してもよいし、糖類の溶液を吹きつけ塗布しても良いし、さらに刷毛塗りであっても良い。糖類を水溶液とする場合の濃度について特に制限はないが、処理後に乾燥させるためある程度の濃度で処理することが望ましく、2〜50%、好ましくは5〜20%である。シート状基材に糖類の水溶液を処理した後は乾燥を行い、乾燥温度についても特に制限はないが通常50〜100℃の範囲で行われる。乾燥を行った後、シート状基材中の糖類の含有率は0.1〜50%であり、特に0.2〜20%が好ましい。
【0014】
シート状基材の厚さについては特に制限はないが、通常0.05〜2mmの範囲のものが用いられ、好ましくは0.1〜0.2mmのものが用いられる。
シート状基材を重ねる枚数に関しては2枚以上であれば問題はなく、通常2〜10枚の範囲で重ねて使用し、2〜5枚の範囲で重ねるのが好ましい。
【実施例】
【0015】
〔実施例1〕
3枚積層したろ紙(厚さ約0.6mm、アドバンテック社製)を、溶性デンプン5重量部およびグラニュー糖10重量部を水85重量部に溶解した水溶液に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0016】
〔実施例2〕
ろ紙(アドバンテック社製)を五つ折りにしヒダ状にしたものに、溶性デンプン5重量部およびグラニュー糖10重量部を水85重量部に溶解した水溶液に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0017】
〔実施例3〕
4枚重ねキムタオル(厚さ約0.3mm、日本製紙クレシア製)を、溶性デンプン5重量部およびグラニュー糖10重量部を水85重量部に溶解した水溶液に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0018】
〔比較例1〕
3枚積層したろ紙(アドバンテック社製)を、水に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0019】
〔比較例2〕
ろ紙(アドバンテック社製)を五つ折りにしヒダ状にしたものを、水に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0020】
〔比較例3〕
1枚のろ紙(アドバンテック社製)を、溶性デンプン5重量部およびグラニュー糖10重量部を水85重量部に溶解した水溶液に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0021】
〔比較例4〕
4枚重ねキムタオル(日本製紙クレシア製)を、溶性デンプン5重量部およびグラニュー糖10重量部を水85重量部に溶解した水溶液に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥した後、4枚中の1枚のみを試験体とした。
【0022】
〔比較例5〕
4枚重ねキムタオル(日本製紙クレシア製)を、水に浸漬処理し、60℃で1晩乾燥し試験体とした。
【0023】
(試験例)
プラスチック製カップに試験体を置き、そこにヒラタキクイムシ成虫20頭を放虫し、温度27℃、湿度70%R.H.の恒温恒湿室で2週間静置した後、試験体を分解し、試験体への産卵数を観察した。

【0024】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によってヒラタキクイムシ類の産卵誘導材を安定で簡易に調製することができ、人工室内環境下で害虫であるヒラタキクイムシ類に安定的に産卵させることが可能となり、簡易に卵を得ることができる。さらに効率のよい防虫方法開発に役立つヒラタキクイムシ類に関する飼育、試験方法を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸液性のシート状基材を間隙のあるヒダ状もしくは層状に加工し、糖類を含む水溶液を担持させた構造体であることを特徴とするヒラタキクイムシ類産卵誘導材。

【請求項2】
請求項1の吸液性のシート状基材が、ろ紙及び/または衛生用紙であるヒラタキクイムシ類産卵誘導材。

【請求項3】
糖類として可溶性デンプンまたはシュクロースを1種類以上含むことを特徴とする請求項1または2に記載のヒラタキクイムシ類産卵誘導材。



【公開番号】特開2012−217387(P2012−217387A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86508(P2011−86508)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第61回日本木材学会大会 一般社団法人日本木材学会 2011年3月18日〜20日
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【Fターム(参考)】