説明

ヒラメラブドウイルス結合性アプタマー

【課題】ヒラメラブドウイルス(HIRRV)の感染を予防及び治療することのできる医薬及び方法、HIRRVを特定水域から除去する装置及び方法、並びにHIRRVを簡便かつ高感度に検出するための方法及びキットを提供する。
【解決手段】HIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドに結合し、宿主のHIRRV感染活性を抑制する活性を有するHIRRV結合性核酸アプタマー。また、前記HIRRV結合性核酸アプタマーを用いてHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒラメラブドウイルス(HIRRV)に結合するHIRRV結合性核酸アプタマー、それを含むHIRRV病の治療・予防用医薬組成物及びラブドウイルス病検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒラメラブドウイルス病は、1984年に日本の養殖ヒラメ(Paralichthys olivaceus)において最初に発生したウイルスによる感染症である。その原因ウイルスは、1本鎖RNAの棒状を呈するウイルスで、ラブドウイルス(Rhabdovirus)科ノビラブドウイルス(Novirhabdovirus)属に属する。サケ科魚類の伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)や出血性敗血症ウイルス(VHSV:viral hemorrhagic septisemia virus)と同科同属に分類されるが、それらのウイルスとは遺伝子型が明確に異なり、ヒラメで発見された経緯からヒラメラブドウイルス(Hirame rhabdovirus: HIRRV又はHRV;本明細書では、以下、しばしば「HIRRV」とする)と呼ばれている。HIRRVは、15〜20℃でよく増殖し、熱には非常に弱いが、低温には強く、冷凍下(-20℃以下)でも生存している。それ故、比較的に低水温時期に発生しやすい。
【0003】
HIRRVによる感染症は、外部所見では、稚魚において脊椎骨周辺、筋肉内及び鰭基部に点状出血又は脳の出血が見られ、育成魚においては体表や鰭の充出血、腹部膨満が見られる。また、内部所見では、腹水の貯留や生殖腺の著しい充出血、筋肉内の強い出血等が観察される。死亡率は、数パーセントから高い場合には90%を超える。HIRRVによる感染症は、これまでヒラメの他、アユ、ニジマス、メバル、クロダイ等においても報告されている(非特許文献1)。いずれも水産資源上重要な魚種であるが、さらなる重要な魚種にも感染が拡大する可能性があり、本ウイルスによるパンデミックな感染を防止するためにも早急な防除方法が求められている。
【0004】
HIRRV病の予防策としては、現在までのところ、有機ヨード剤や紫外線による消毒と飼育水温を15℃以下に保つことが知られている(非特許文献2)。しかし、該方法は、十分な感染抑制効果があるとは言い難く、また、すでに感染した個体に対しては有効な治療・抑制法とは言えないため、感染個体を介して、その周辺水域の個体にさらに伝播する可能性がある。
【0005】
非特許文献3にはHIRRVに対するDNAワクチンの発明が開示されている。このDNAワクチンは、HIRRVの糖タンパク質をコードする遺伝子DNAからなるワクチンで、対象とする個体に投与することによって、その個体のHIRRVに対する防御免疫を刺激し、HIRRV防御能を個体に付与することができる点において優れている。また、DNAワクチンは、ペプチドワクチンよりも高温下においても比較的安定で、長期貯蔵が可能であり、遺伝学的手法により迅速な改良が容易にできることや、ワクチン開発に必要な時間を短縮できるという利点を有する。実際に、このような糖タンパク質をコードするDNAワクチンが高いワクチン効果を示すことが明らかにされている(非特許文献4)。しかし、DNAワクチンには即効性がなく、接種後約2週間以降でなければ防御効果が現れないという欠点がある。さらに、抗原をコードする遺伝子組換えプラスミドDNAを持つトランスジェニック魚は、食用魚として安全性の面でも問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yoshimitsu M. et al., 1987, Fish Pathology, 22:54-55
【非特許文献2】江草周三監修, 若林 久嗣、室賀 清邦 編集, 魚介類の感染症・寄生虫病, 恒星社厚生閣 (2004/11)
【非特許文献3】Takano T. et al., 2004, Fish Shellfish Immunol., 17:36-374
【非特許文献4】Yasuike M, et al., 2007, Fish Shellfish Immunol., 23:531-541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、HIRRVの感染を予防及び治療することのできる医薬組成物及び方法、HIRRVを特定の水域から除去する装置及びそれを用いた除去方法、並びにHIRRVを簡便かつ高感度に検出するための方法及びキットを開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、HIRRVの感染を抑制できるHIRRV結合性核酸アプタマーの開発に成功した。
【0009】
本発明は、前記核酸アプタマーに基づくものであり、以下を提供するものである。
(1)ヒラメラブドウイルス(HIRRV)及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドに結合し、HIRRVの宿主感染能を抑制する活性を有するHIRRV結合性核酸アプタマー。
(2)核酸がRNAである、(1)に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー。
(3)配列番号1〜6のいずれかで示される塩基配列を含む、(1)又は(2)に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー。
(4)前記(2)又は(3)に記載のHIRRV結合性核酸アプタマーをコードするDNA。
(5)前記(4)に記載のDNAを発現可能な状態で含む発現ベクター。
(6)前記(5)に記載の発現ベクターを発現宿主内に導入した形質転換体又はその後代。
(7)発現宿主が微生物又は魚類である、(6)に記載の形質転換体又はその後代。
(8)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHIRRV結合性核酸アプタマー及び/又は前記(7)に記載の微生物形質転換体又はその後代並びに濾材を含む濾過槽を備えたHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドの除去装置。
(9)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHIRRV結合性核酸アプタマー及び/又は前記(7)に記載の微生物形質転換体又はその後代並びに濾材を含む濾過槽に特定の水域の水を通過させて、該特定の水域の水からHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを除去する方法。
(10)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHIRRV結合性核酸アプタマー又は(5)に記載の発現ベクター及び製薬上許容可能な担体を含むヒラメラブドウイルス病を治療又は予防するための医薬組成物。
(11)前記(10)に記載の医薬組成物を魚類に投与してHIRRV病を治療又は予防する方法。
(12)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHIRRV結合性核酸アプタマーを用いてHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを検出する方法。
(13)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHIRRV結合性核酸アプタマーを含む、HIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを検出するためのHIRRV検出キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明のHIRRV結合性核酸アプタマーによれば、HIRRVの宿主感染能を抑制できる分子標的薬又はHIRRVを高感度に検出するための検出マーカーを提供することができる。
【0011】
本発明の医薬組成物によれば、魚類、特に水産資源として重要な魚種におけるHIRRVの感染予防又は治療を行うことができる。
【0012】
本発明のHIRRV除去方法によれば、特定の水域からHIRRVを除去し、HIRRV感染のおそれの低い安全な水域を提供することができる。
【0013】
本発明のHIRRV検出方法によれば、高感度にHIRRVを検出することができる。
本発明のHIRRV検出キットによれば、簡便かつ高感度にHIRRVを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のSELEX法により選択された6種のHIRRV結合性RNAアプタマーの塩基配列を示す。この図では、HIRRV結合性RNAアプタマーの配列のウラシル(U)をチミン(T)に変換してDNA配列で記載している。
【図2A】1μg/mLのHIRRV結合性RNAアプタマーを使用したときの、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)の胚細胞株であるHINAE細胞におけるHIRRVの感染抑制活性を示す。試験区は、培地のみの試験区(a)、バッファのみの試験区(b)、バッファ+HIRRV添加試験区(c)、バッファ+HIRRV+J9-2アプタマー添加試験区(d)、バッファ+HIRRV+J9-25アプタマー添加試験区(e)及びバッファ+HIRRV+J9-29アプタマー添加試験区(f)を示す。
【図2B】2μg/mLのHIRRV結合性RNAアプタマーを使用したときのHINAE細胞におけるHIRRVの感染抑制を示す。各試験区は、図2Aと同様である。
【図2C】4μg/mLのHIRRV結合性RNAアプタマーを使用したときのHINAE細胞におけるHIRRVの感染抑制を示す。各試験区は、図2Aと同様である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.HIRRV結合性核酸アプタマー
本発明の第1の実施形態は、HIRRV結合性核酸アプタマーである。本発明のHIRRV結合性核酸アプタマーは、ヒラメラブドウイルス(HIRRV)及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドに結合し、宿主感染能を抑制する活性を有することを特徴とする。
【0016】
「アプタマー」とは、標的物質と特異的に結合する能力を持ったリガンド分子であり、その分子の種類により、核酸アプタマーとペプチドアプタマーに大別することができる。いずれのアプタマーも、その分子が有する立体構造によって標的物質と強固、かつ特異的に結合し、標的物質の機能を特異的に抑制する。標的物質と直接結合し、細胞外でも作用させることが可能という点においては、抗体と同様の作用効果を有するが、アプタマーは、通常、標的物質に対する特異性及び親和性が抗体よりも高く、また、結合に必要な標的のアミノ酸残基数が抗体のそれと比較して少なくてもよいことから、近縁の分子どうしを識別できる点で抗体よりも優れている。そのため、近縁のタンパク質又は微生物における亜型や株を識別する上で抗体よりも有用である。さらに、免疫原性や毒性が抗体よりも低い上に、3〜4週間程度の短期間で作製できる他、化学合成により大量に製造することもできるという利点をもつ。アプタマーは公知の技術であり、詳細に関しては、例えば、Sumedha D. Jayasena, 1999, Clin. Chem. 45:1628-1650に記載の方法を参照すればよい。
【0017】
本発明のHIRRV結合性核酸アプタマーは、核酸で構成される核酸アプタマーである。アプタマーを構成する核酸は、DNA、RNA又はそれらの組合せのいずれであってもよい。好ましくはRNAで構成されるRNAアプタマーである。一般に、RNAはDNAと比較して、より多くの立体構造を形成できるからである。また、本発明のHIRRV結合性核酸アプタマーは、必要に応じて、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)/BNA(Bridge Nucleic Acid)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸や擬似核酸を含むこともできる。核酸アプタマーは、通常、1本鎖核酸が水素結合等を介した二次元構造、さらに三次元立体構造を形成し、その立体構造等に基づいて標的物質(例えば、ポリペプチド)と強固に、かつ特異的に結合することによって、標的物質の生理活性を抑制することができる。なお、本明細書では、RNAで構成されるHIRRV結合性核酸アプタマーを以降「HIRRV結合性RNAアプタマー」と呼ぶ。
【0018】
本発明のHIRRV結合性核酸アプタマーは、必要に応じて標識されていてもよい。標識は当該分野で公知のあらゆる核酸用標識物質を利用することができる。例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。このような標識物質で標識されたHIRRV結合性核酸アプタマーは、後述するHIRRV検出方法において、HIRRVと結合した該アプタマーを検出する際に有用なツールとなり得る。
【0019】
本発明のHIRRV結合性核酸アプタマーが結合する標的物質は、HIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドである。
【0020】
本明細書において「HIRRVで発現するポリペプチド」とは、HIRRVのゲノム上にコードされるHIRRV特異的なタンパク質の全部又はその一部をいう。例えば、HIRRVの膜タンパク質又はその一部である。また、ここでいう「一部」とは、HIRRV特異的なタンパク質の断片であって、HIRRVが有する感染能を保持するアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0021】
本態様において「宿主」とは、HIRRVの感染対象となる宿主生物であって、一般的には魚類、例えば、サケ科(Salmonidae)、アユ科、ヒラメ科(Paralichthyidae)、フサカサゴ科(Scorpaenidae)、スズキ科(Moronidae)、タラ科(Gadidae)、ニシン科(Clupeidae)、カレイ科(Pleuronectidae)、アジ科(Carangidae)、イカナゴ科(Ammodytidae)、タイ科(Sparidae)及びメバル科(Sebastidae)に属する魚種が該当する。より具体的には、例えば、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、メバル(Sebastes inermis)、アユ(Plecoglossus altivelis)、イカナゴ(Ammodytes personatus)、マアジ(Trachurus japonicus)、シマアジ(Pseudocaranx dentex)、マダイ(Pagurus major)、イシダイ(Oplegnathus fasciatus)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、クロダイ(Acanthopagrus schlegeli)である。
【0022】
本明細書において「感染」とは、HIRRVが宿主細胞内に侵入してから、宿主細胞内で増殖後、その細胞から多量のHIRRVが放出されるまでの過程をいう。本明細書において「宿主感染能」とは、HIRRVが宿主細胞に感染する能力をいう。また、本明細書において「宿主感染能を抑制する」とは、前記感染におけるいずれかの過程を阻害又は抑制することによって、HIRRVの有する感染能を阻害し、宿主細胞内でのHIRRVによる感染の拡大を抑制することをいう。
【0023】
HIRRV結合性核酸アプタマーは、HIRRV粒子又はHIRRVで発現するポリペプチドを標的分子として、当該分野で公知の方法により作製することができる。例えば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて試験管内選別による作製が挙げられる。SELEX法とは、ランダム配列領域とその両端にプライマー結合領域を有する多数のRNA分子によって構成されるRNAプールから標的分子に結合したRNA分子を選択し、回収後にRT-PCR反応によって増幅した後、得られたcDNA分子を鋳型として転写を行い、それを次のラウンドのRNAプールにするという一連のサイクルを数〜数十ラウンド繰り返して、標的分子に対して、より結合力の強いRNAを選択する方法である。ランダム配列領域とプライマー結合領域の塩基配列長は特に限定はしない。一般的にランダム配列領域は、20〜80塩基、プライマー結合領域は、それぞれ15〜40塩基の範囲である。標的分子への特異性を高めるためには、標的分子に類似する分子とRNAプールとを混合し、その分子と結合しなかったRNA分子からなるプールを用いればよい。以上の方法によって最終的に得られたRNA分子をHIRRV結合性RNAアプタマーとして利用する。なお、SELEX法は、公知の方法であり、具体的な方法は、例えば、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. 1995, U.S.A.92: 11509-11513)に準じて行えばよい。
【0024】
HIRRV結合性核酸アプタマーは、HIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドに結合し、HIRRVの宿主、すなわち魚類への感染活性を抑制することのできる核酸アプタマーであれば、特にその塩基配列は、限定しない。一例として、本発明の配列番号1〜6のいずれかで示される塩基配列を含むHIRRV結合性RNAアプタマーが挙げられる。好ましくは配列番号1及び6のいずれかで表わされる塩基配列からなるHIRRV結合性RNAアプタマーである。
【0025】
HIRRV結合性核酸アプタマーは、当該分野で公知のあらゆる方法によって調製することができる。例えば、配列番号1〜6で示される塩基配列に基づいて、化学的合成法によって調製できる。化学合成法は、同一のアプタマーを大量に調製できる点で好ましい。このような化学合成によるアプタマーの調製は、ライフサイエンス関連の各メーカーが受託合成サービスを行っている(例えば、インビトロジェン社)ので、それらを利用することもできる。また、HIRRV結合性RNAアプタマーは、後述のHIRRV結合性核酸アプタマーをコードするDNAを用いて、当該分野で公知のin vitroRNA転写法(例えば、Sambrook, J. et. al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold SpringHarbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)により製造してもよい。さらに、HIRRV結合性核酸アプタマーは、後述する形質転換体を用いて、当該分野で公知の技術によってHIRRV結合性核酸アプタマーの発現誘導処理を施し、その形質転換体から目的のHIRRV結合性核酸アプタマーを回収してもよい。
【0026】
HIRRV結合性核酸アプタマーは、後述するHIRRV検出方法において、HIRRV及び/又は該ウイルスで発現するHIRRV特異的なポリペプチドを検出するためのマーカー分子とすることができる。HIRRV結合性核酸アプタマーは、HIRRVとの特異性及び親和性がHIRRV抗体よりも高いことから、抗体よりも高感度なHIRRV検出マーカーとなり得る。
【0027】
2.HIRRV結合性核酸アプタマーをコードするDNA
本発明の第2の実施形態は、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAである。具体的には、例えば、配列番号1〜6で示される各塩基配列中のウラシル(U)をチミン(T)に置換した塩基配列からなるDNAである。各核酸は、必要に応じて、メチル基等で修飾されていてもよく、またPNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸や擬似核酸を含むこともできる。
【0028】
本発明のDNAは、HIRRV結合性RNAアプタマーを鋳型として、そのアプタマーの3’末端塩基配列に全部又は一部が相補するプラマーを用いて、逆転写反応を行うことによって調製することができる。逆転写反応は、当該分野で公知の技術を使用すればよい。例えば、上述のMolecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.に記載の方法に準じて行うことができる。また、本発明のDNAは、例えば、配列番号1〜6で示されるRNAアプタマーの情報に基づいて、当技術分野で公知の化学合成法によって製造することもできる。化学合成による製造は、ライフサイエンス関連の各メーカーが受託合成サービスを行っている(例えば、インビトロジェン社)ので、それらを利用することができる。
【0029】
3.HIRRV結合性核酸アプタマー発現ベクター
本発明の第3の実施形態は、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAを発現可能な状態で含む発現ベクターである。
【0030】
「発現可能な状態で含む」とは、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAを発現ベクター内のプロモーターの下流に発現可能なように連結することをいう。
【0031】
本発明の発現ベクターには、発現宿主内で自律的に増殖し得るプラスミド又はファージを使用することができる。「発現宿主」とは、発現ベクターにコードされたRNAアプタマーを細胞内で発現することのできる宿主である。例えば、発現ベクターがプラスミドであれば、発現宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合、pET、pGEX6p、pMAL、pREST等を、発現宿主が枯草菌(Bacillus subtilis)の場合、pUB110、pTP5等を、発現宿主が酵母の場合、YEp13、YEp24、YCp50等を、また発現宿主が魚類の場合、pEGFP-1(クロンテック社)等を使用できる。また、ファージであれば、λファージ(λgt11、λZAP等)を用いることができる。さらに、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターも用いてもよい。
【0032】
大腸菌や枯草菌のような細菌を発現宿主とする場合、本発明の発現ベクターは、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNA配列の他、細菌用複製起点、プロモーター配列、リボゾーム結合配列及び転写終結配列を含むことが好ましい。プロモーターは、発現宿主内で機能発揮できるものであればいずれを用いてもよい。また、そのようなプロモーターを制御する調節因子をコードする遺伝子を、本発明の発現ベクター内、又は本発明の発現ベクターとは別個のベクターではあるが同時に使用するヘルパーベクター内に含むことができる。
【0033】
酵母、動物細胞、昆虫細胞等の真核細胞を発現宿主とする場合、本発明の発現ベクターは、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNA配列の他、プロモーター配列、必要に応じてエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル(ドナー部位、アクセプター部位、ブランチポイント等)、ポリA付加シグナル、選択マーカー配列、リボソーム結合配列(SD配列)等を連結していてもよい。
【0034】
上記ベクターにHIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAを挿入する方法は、当該分子遺伝学分野で公知の方法を用いることができる。例えば、精製した前記DNAを適当な制限酵素で切断し、それに対応する切断末端を生じる適当な制限酵素で切断したベクター内にDNAリガーゼ等を用いて連結する方法がある。当該方法の詳細については、上述のSambrook, J. et. al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.に記載の方法を参照にすればよい。
【0035】
本発明の発現ベクターを目的の発現宿主細胞に導入した場合、それが細胞内で維持されている限りHIRRV結合性RNAアプタマーを発現することができる。
【0036】
4.形質転換体又はその後代
本発明の第4の実施形態は、前記第3実施形態の発現ベクターを発現宿主内に導入した形質転換体又はその後代である。
【0037】
本実施形態において「形質転換体」とは、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAを含む発現ベクターの導入によって形質転換された発現宿主をいう。使用する発現宿主は、導入した発現ベクターにコードされたHIRRV結合性RNAアプタマーを発現できれば特に限定しない。通常、発現ベクターにより、その適用宿主は決まっており、それに従えばよい。発現宿主の具体例を挙げると、例えば、大腸菌、枯草菌、ロドブルム(Rhodovulum)菌のような細菌、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)又はメタノール資化性酵母(Pichia pastoris)のような酵母、sf9又はsf21のような昆虫細胞、BF-2細胞又はEPC細胞のような動物(特に、魚類)細胞、及び第一態様で例示したHIRRVに感染し得る魚種等が好適に用いられる。
【0038】
本発明の発現ベクターは、発現宿主に導入後、その宿主のゲノム内に挿入されてもよく、またゲノムとは独立に細胞内に存在してもよい。
【0039】
前記発現ベクターを細菌に導入する方法は、公知の方法であれば特に限定しない。例えば、ヒートショック法、カルシウムイオン方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、上述のSambrook, J. et. al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.に記載の方法を参照に行えばよい。また、動物細胞の形質転換には、リポフェクチン法(Malone R.W., et. al., 1989, PNAS, 86:6077-6081、Felgner P.L., et. al., 1987, PNAS, 84:7413-7417)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Graham F.L., and van der Eb A. J., 1973, Virology, 52:456−467)、DEAE−Dextran法等が好適に用いられる。
【0040】
本態様において前記形質転換体の「後代」とは、本発明の発現ベクターを導入した形質転換体第1世代の有性若しくは無性生殖を介した子孫であって、HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAを発現可能な状態で保持しているものをいう。例えば、形質転換体が大腸菌の場合には、その形質転換体が分裂した娘細胞が該当する。HIRRV結合性RNAアプタマーをコードするDNAを発現可能な状態で継代する限りにおいて後代の世代は問わない。
【0041】
5.HIRRV除去装置及びHIRRV除去方法
本発明の第5の実施形態は、HIRRV除去装置、及びHIRRV除去方法である。本実施形態で「HIRRV除去」とは、HIRRV及び該ウイルスで発現するポリペプチド(以下、「HIRRV等」とする)を除去すること及び/又はそれらの有する宿主感染性を失活させることをいう。以下、HIRRV除去装置及びHIRRV除去方法について、それぞれ説明をする。
【0042】
5−1.HIRRV除去装置
本発明の「HIRRV除去装置」は、濾過槽を備える。その他に、濾過槽に特定の水域の水を送り込むためのポンプ、フィルター、及び/又は後述する実施形態8に記載のHIRRV検出方法を適用する検出装置を一以上備えていてもよい。
【0043】
「濾過槽」とは、前記第1実施形態に記載のHIRRV結合性アダプター、及び/又は第4実施形態に記載の形質転換体の微生物形質転換体又はその後代(以下、「微生物形質転換体等」とする)並びに濾材を含む容器又は用池であって、特定の水域の水を通過可能なように構成されている。
【0044】
「微生物形質転換体」とは、前記第4実施形態に記載の形質転換体において大腸菌等の微生物を発現宿主とする形質転換体をいう。好ましくは発現したHIRRV結合性RNAアプタマーを細胞外に分泌することのできる微生物種の前記形質転換体である。このような微生物主としては、例えば、ロドブルム・スルフィドフィルム(Rhodovulum sulfidophilum)が挙げられる。また、使用する微生物形質転換体は、濾過槽を海水に使用するのであれば海水で生存・増殖可能な微生物種を、また淡水に使用するのであれば淡水で生存・増殖可能な微生物種をそれぞれ発現宿主とする形質転換体を使用することが好ましい。
【0045】
「濾材」とは、HIRRV結合活性を保持した状態でHIRRV結合性RNAアプタマーを固定若しくは充填可能な、及び/又は微生物形質転換体等が定着可能な部材をいう。構成されていれば特に限定はしない。一定容積中に多数のHIRRV結合性RNAアプタマーを固定若しくは充填、及び/又は多数の微生物形質転換体等を定着させることができ、かつ流通性に富む表面積の大きい濾材が好ましい。濾材の具体的な例としては、プラスチック製若しくはガラス製のビーズやマイクロカプセル、グラスファイバ、カーボンファイバ又はフェルトのような繊維塊、又は活性炭、軽石、ゼオライト若しくはウレタンフォームのような多孔質材が挙げられる。
【0046】
濾材には、本発明のHIRRV結合性RNAアプタマーを固定させておくこと又は微生物形質転換体等を濾材に定着させておくことが好ましい。微生物形質転換体等は、濾過槽内にHIRRV結合性RNAアプタマーを分泌する。したがって、濾過槽内に、HIRRV結合性アダプターを固定若しくは充填する場合であっても、又は微生物形質転換体等を定着させる場合であっても、濾過槽内にはHIRRV結合性RNAアプタマーが存在することになる。ここに特定の水域の水を通すことによって、特定の水域の水にHIRRV等が存在した場合には、濾過槽内のHIRRV結合性RNAアプタマーが該HIRRVと結合し、宿主感染能を失活させることができる。その結果、排水口からは特定水域からHIRRV等を除去した水を排出することができる。
【0047】
HIRRV結合性RNAアプタマーを濾材に固定する方法は、当該分野で公知の核酸結合方法を利用することができる。例えば、ビオチン修飾したHIRRV結合性RNAアプタマーを、当該ビオチンを介して濾材に固定した(ストレプト)アビジンと結合させる方法が挙げられる。
【0048】
微生物形質転換体等を濾材に定着させる方法は、当該分野で公知の微生物定着方法を用いればよい。例えば、微生物形質転換体等を培養した培養液に濾材を数時間〜数日間浸漬する方法や、閉鎖区画内の特定の水域に微生物形質転換体等を投入し、数時間〜数日間濾過槽にその水を循環させることによって、自然定着させる方法が挙げられる。
【0049】
本明細書で「特定の水域」とは、HIRRV等による汚染の可能性がある開放区画又は閉鎖区画内の水域をいう。淡水、汽水、海水を問わない。閉鎖若しくは一部開放された準閉鎖区画の例としては、水槽(プールを含む)、水田、池(調整池を含む)、沼又は湖が挙げられる。開放区画としては、例えば、沿岸海域等に設置する生簀が挙げられる。
【0050】
濾過槽の具体例としては、濾過器又は濾過用水池等が挙げられる。
濾過器は、HIRRV結合性アダプター及び/又は微生物形質転換体等を内部に含む容器であって、取水口から取り入れた特定の水域の水を通過させ、HIRRV等が除去された水を排水口から排水するように構成されている。取水口付近に、取り込む水に混在する不要な固形物(ゴミ)等を除去するためのフィルターを配置していてもよい。フィルターの具体例としては、タンパク質、合成樹脂、ガラス又は金属製の繊維、網又はそれらの組合せが挙げられる。
【0051】
濾過用水池は、微生物形質転換体等を有する用水池で、取水口から取り入れた特定の水域の水を一定期間用水池に保持した後、HIRRV等が除去された水を排水口から排水するように構成されている。
濾過槽は、特定の水域の水を循環できるように構成されていてもよい。
【0052】
5−2.HIRRV除去方法
本発明の「HIRRV除去方法」は、前記除去装置と同様の構成を有する濾過槽を用いて特定の水域の水からHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを除去する方法である。
【0053】
本発明の除去方法は、濾過槽の取水口から特定の水域の水を取り込む取水工程、取り込んだ水を該濾過槽に通して、排水口から排水する排水工程を含む。必要に応じて取水工程で取り込んだ水を濾過槽内に所定の期間保持する保持工程を含むこともできる。
【0054】
取水工程において、取水口からの水の取り込みは、ポンプ等を用いた能動的作用による取り込みであってもよいし、又は自然の水流若しくは潮流による受動的作用による取り込みであってもよい。
【0055】
排水工程において、排水は、前記入水作用に基づく受動的作用によって行われてもよいし、排水ポンプ等を用いて能動的に排水してもよい。
【0056】
保持工程では、取り込んだ水に含まれるHIRRV等を除去し得るだけの充分な期間、濾過槽内に取り込んだ水を保持し、その後、それを排水し、新たに取り込んだ水を再び保持することができる。必要に応じて、取り込んだ水に通気(エアレーション)を行ってもよい。
【0057】
本発明の除去装置及び/又は除去方法によれば、HIRRV等で汚染された特定の水域の水からHIRRV等を除去し、HIRRV感染のおそれのない、又は少ない水又は水域を提供できる。
【0058】
6.医薬組成物
本発明の第6の実施形態は、ヒラメラブドウイルス病を治療又は予防するため前記第1実施形態のHIRRV結合性核酸アプタマー又は第3実施形態の発現ベクター及び製薬上許容可能な担体を含むことを特徴とする医薬組成物である。
【0059】
本発明の医薬組成物は、製薬上許容される範囲内において一以上のHIRRV結合性核酸アプタマーを含有することができる。例えば、医薬組成物が配列番号1〜6で示されるHIRRV結合性RNAアプタマーのいずれか二以上を組み合わせて含有していてもよい。それぞれのHIRRV結合性核酸アプタマーがHIRRVの異なる部分に結合する場合、異なるHIRRV結合性核酸アプタマーを組み合わせて使用することによりHIRRVの感染活性をより効率的に抑制することができる。
【0060】
「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用し得る溶媒及び/又は添加剤をいう。
【0061】
溶媒には、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。これらは、殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0062】
また、添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、無痛化剤等が挙げられる。
【0063】
本発明の医薬組成物の剤型は、投与方法によって異なり、また処方条件に応じて適宜選択される。投与方法については、次の態様で詳述するが、本態様においては、非経口投与が好ましい。経口投与の場合、HIRRV結合性RNAアプタマーは、通常、消化器官内で分解されてしまうからである。非経口投与においては、組織内投与又は粘膜投与が好ましい。非経口剤としての剤型も、その投与方法によって異なる。例えば、組織内投与の場合には注射剤が、粘膜投与の場合には、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、粉剤、ペースト剤、ゲル剤、軟膏剤、又は硬膏剤等が好適に使用される。前記各剤型の形状、大きさについては、いずれも当該分野で公知の剤型の範囲内にあればよく、特に限定はしない。
【0064】
本発明の医薬組成物を製剤化するには、当業者に公知の方法を利用することができる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Merck Publishing Co., Easton, Pa.)に記載の方法を用いればよい。例えば、注射剤として調製する場合には、HIRRV結合性核酸アプタマーを製薬上許容可能な溶媒で溶解し、好ましくは血液と等張にした希釈剤を用いて当該分野で慣用されている方法により製造することができる。注射剤には、等張性の溶液を調製するのに充分な量の食塩、グルコース又はグリセリン及び通常の溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、無痛化剤等も配合することができる。これら溶液、乳剤及び懸濁剤は、HIRRV結合性核酸アプタマー及び製薬上許容される塩の所定量を、前記水性や油性の非毒性の溶媒及び希釈剤に溶解又は懸濁し、さらに必要に応じて等張化剤等を加え、滅菌することにより調製すればよい。
【0065】
本発明の医薬組成物によれば、HIRRVに感染した又は感染するおそれのある宿主、すなわち魚類のHIRRV病の治療薬又は予防薬を提供することができる。
【0066】
7.HIRRV治療・予防方法
本発明の第7の実施形態は、前記第6実施形態の医薬組成物を魚類に投与してHIRRVを治療又は予防する方法である。本実施形態において、「魚類」とは、HIRRVに感染することが知られている又は感染するおそれのある魚であって、好ましくは第1の実施形態に記載の宿主として例示した魚科、より好ましくは魚種である。
【0067】
医薬組成物の投与方法は、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。好ましくは血液を介した全身投与である。一方、HIRRV病は、一般に腎臓、脾臓、生殖腺、消化管で細胞の壊死等の顕著な症状が観察されることから、これらの臓器又は器官に局所的に投与してもよい。
【0068】
前記医薬組成物の投与形態は、含有された有効成分であるHIRRV結合性核酸アプタマーが失活しないあらゆる適当な形態を包含する。例えば、前述の組織内投与又は粘膜投与のような非経口投与が挙げられる。組織内投与の場合、前述のように注射による投与が好ましい。注入する部位は特に限定しない。例えば、血管内(静脈内又は動脈内等)、皮下、皮内、筋肉内、骨髄内、髄腔内、心室内、腹腔内又は腸内等が挙げられる。好ましくは、静脈内又は動脈内等の血管内、筋肉内、又は腹腔内である(非特許文献1)。これらの方法は、侵襲性が比較的低く、被験体である魚に与える負担が小さいからである。
【0069】
前記態様の医薬組成物を投与する場合、一投与単位中には、HIRRV感染抑制活性が発揮され得る有効量が含有されていることが好ましい。本明細書で使用する場合、「有効量」とは、有効成分がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、本発明ではHIRRV結合性核酸アプタマーがHIRRVを治療又は改善できる用量、具体的にはHIRRVの細胞内への侵入、増殖及び/又は細胞外への放出を阻害又は抑制し、宿主のHIRRV感染に対する抵抗性を付与し、かつ投与する生体に対して有害な副作用がほとんどない又は全くない用量をいう。具体的な量は、被験体の情報、使用される剤形、及び投与経路によって変化し得る。「被験体の情報」には、HIRRVの進行度若しくは重症度、全身の健康状態、大きさ、重量、雌雄性別、薬剤感受性、及び治療に対する耐性等が含まれる。HIRRV感染治療・予防の効果を得る上で、本発明の医薬組成物の大量投与が必要な場合、魚類に対する負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。
【0070】
8.HIRRV検出方法
本発明の第8の実施形態は、HIRRV結合性核酸アプタマーを用いてHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するHIRRV特異的なポリペプチドを検出するHIRRV検出方法である。HIRRVを検出可能な方法であれば、検出手段は特に限定はしない。例えば、表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス測定法、比濁法、比色法又は蛍光法を利用することができる。
【0071】
「表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)」とは、金属薄膜にレーザー光を照射すると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰する現象をいう。「表面プラズモン共鳴法(SPR法)」は、この現象を利用した方法で、センサ部である金属薄膜表面上の吸着物を高感度に測定することができる。本発明においては、例えば、ビオチン/(ストレプト)アビジンのような公知の結合技術を用いて、予めHIRRV結合性核酸アプタマー又はHIRRV等を金属薄膜表面上に固定化しておく。その金属薄膜表面上に試料を通過させ、HIRRV結合性核酸アプタマーとHIRRV等との結合によって生じる試料通過前後の金属表面上の吸着物の差を検出することによりHIRRV又は該ウイルスで発現するポリペプチドを検出することができる。SPR法には、置換法、間接競合法等が知られるがいずれを用いてもよい。本技術は、当該分野において周知であり、例えば、永田和弘、及び半田宏, 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法, シュプリンガー・フェアラーク東京, 東京, 2000に記載の方法を参照することができる。
【0072】
「水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance)測定法」は、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着すると、その質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用した方法である。この方法を用いたQCMセンサは、水共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえることができる。本発明においては、電極表面に、前記SPR法と同様に予めHIRRV結合性核酸アプタマー又はHIRRV等を固定化しておき、試料を電極表面に接触させることによって、HIRRV結合性核酸アプタマーとHIRRVとの結合により生じる水共振周波数の変化量からHIRRVの有無を定量的に検出することができる。本技術は、当該分野において周知である。例えば、J.Christopher Love,L.A.Estroff,J.K.Kriebel, R.G.Nuzzo, G.M.Whitesides (2005) Self-Assembled Monolayers of a Form of Nanotechnology, Chemical Review,105:1103-1169;森泉豊榮,中本高道,(1997) センサ工学,昭晃堂に記載の方法を参照されたい。
【0073】
「比濁法」とは、溶液に光を照射し、溶液中に浮遊する物質によって散乱する散乱光の減衰又はその溶液を通過した透過光を、比色計等を用いて光学的に計測することにより溶液中の物質量を測定する方法である。本発明においては、試料にHIRRV結合性核酸アプタマーを添加する前後の吸光度を計測することによって、試料中のHIRRV等を定量的に検出することができる。HIRRV結合性核酸アプタマーとHIRRV等との結合による凝集を高めるため、HIRRV結合性核酸アプタマーをラテックスのような担体に固定化しておくこともできる。
【0074】
また、HIRRV等に対する抗体と併用することによりHIRRV等を検出することもできる。例えば、ELISA法のサンドイッチ法を応用した方法を用いてもよい。この方法では、まず、固相担体にHIRRV結合性核酸アプタマーを固定しておき、次に試料を加えて、試料中に存在するHIRRVと該アプタマーとを結合させる。続いて、試料を洗い流した後、抗HIRRV抗体を加えてHIRRV等に結合させる。洗浄後、適当な標識をした二次抗体を用いて抗HIRRV抗体を検出することにより、試料中のHIRRV等を検出することができる。固相担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。HIRRV結合性核酸アプタマー又はHIRRV等の前記固相担体への固定は、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用する方法等、公知の方法に従って結合させることにより達成できる。
【0075】
9.HIRRV検出キット
本発明の第9の実施形態は、HIRRV検出マーカーを含むHIRRV等を検出するためのキットである。本キットは、前記実施形態であるHIRRV検出方法を使用してHIRRV等を検出することが好ましい。
【0076】
本キットは、HIRRV結合性核酸アプタマーの他、必要に応じて標識二次抗体、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、又は試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等を含むことができる。さらに、そのキットの使用説明書を包含することもできる。
【実施例】
【0077】
<実施例1:HIRRV結合性核酸アプタマーの選択>
(DNAライブラリー及びRNAプールの構築)
まず、DNAライブラリー(2.5mg)をオペロン・バイオテクノロジー社に委託合成し、調製した。このDNAライブラリーは、配列番号7で示す40塩基のランダムな塩基配列並びにその5’側及び3’側にそれぞれT7プロモーターのフォワードプライマーに相当する塩基配列及びM13リバースプライマーに相補的な塩基配列を有する全長75塩基のDNAを約5×1016クローン包含する(図1参照)。
【0078】
続いて、前記DNAライブラリーからRNAプールをT7 RibomaxTM Express Large Sclae RNA Production System(プロメガ社)を用いて構築した。具体的手順については、前記キット付属の使用説明書に従った。
【0079】
(SELEX法)
HIRRV結合性核酸アプタマーをSELEX法により分離した。SELEX法は、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1995, 92: 11509-11513)の方法に若干の改変を加えた方法を用いた。具体的な方法を以下に示す。
【0080】
(1)RNAとHIRRVの結合と結合したRNAの回収
1.5mLチューブに入った50μLのヌクレアーゼフリーの水に前記RNAプールを溶かした。RNAを直鎖状にするため、前記チューブを90℃で3分間、ヒートブロックを用いて加熱した後、直ちに氷上に5分間置いた。濾過滅菌した450μLの結合バッファ(20mM TRIS/100mM NaCl/2.5mM MgCl2(pH7.5))を前記チューブに加えた。予め約500μLの結合バッファを通した孔サイズ0.1μmの湿潤フィルターに、前記RNAサンプルを通し、フィルターに結合するRNAを除去した。
【0081】
得られた濾液を室温に置き、50μLのHIRRV(8601H株、北海道大学吉永守教授より分与)を加えた。RNAとHIRRVとを結合させるため37℃で30〜45分間振とうさせながらインキュベートした後、氷上に5分間置いた。その後、サンプルを結合バッファで予め湿らせた孔サイズ0.1μmの湿潤フィルターで濾過し、フィルター上に残ったHIRRVとRNAの複合体(以下、HIRRV−RNAとする)を約500μLの結合バッファで洗浄して回収した。ヒートブロックを用いてHIRRV−RNAを90℃で5分間加熱し、HIRRVとRNAを解離させた。解離したHIRRV粒子を除去するため、チューブに400μLのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCI)−DEPCを加え、10秒間激しく混合した後、13,000rpmで10分間遠心した。上層を回収し、新たなチューブに移した。−20℃の99%エタノールを1mL加えた後、Etachinmate(ニッポンジーン社)と3M 酢酸ナトリウムを用いてエタノール沈殿処理を行った。回収したRNAを20μLのヌクレアーゼフリーの水に溶解し、−20℃に保存した。これをオリジナルHIRRV結合性核酸アプタマーとした。
【0082】
(2)逆転写反応によるcDNA合成
オリジナルHIRRV結合性核酸アプタマーから、さらにHIRRVと強固に結合するHIRRV結合性核酸アプタマーを選択するために、アプタマー増幅用鋳型となるcDNAを逆転写反応により合成した。逆転写には、M-MLV system(プロメガ社)を用いた。10μLの前記回収したRNA、アプタマー用フォワードプライマー(AptFw;T7 Fwプロモーター;配列番号8)及びアプタマー用リバースプライマー(AptRv;M13 Rvプライマー;配列番号9)各1μL、及び1μLのdNTPを0.2mLチューブ内で混合した。65℃で加熱混合し、5分後直ちに氷上に移し、5分間静置した。続いて、4μLの5× first strand buffer、2μLのDTT、0.25μLのRNase Out、0.5μLのMMLV及び1.25μLのRNaseフリーの水を加えて混合し(計22μL)、37℃に50分、次に70℃で15分間加熱した後、4℃で冷却した。得られた溶液をオリジナルのHIRRV結合性核酸アプタマーの鋳型cDNAとした。
【0083】
(3)cDNAの増幅
得られたcDNAをPCRにより増幅させた。36.1μLの水、5μLのEx Taq(タカラバイオ社)用10× バッファ、4μLのdNTP, AptFw及びAptRvを各1.9μL、0.6μLのEx Taq(タカラバイオ社)及び0.5μLのcDNAからなる50μLのPCR反応液を95℃1分間、続いて95℃で1分間、50℃で15秒及び72℃で3分間を1サイクルとして10サイクル反復した。PCR反応後、産物を水で500μLに充填し、等量のPCIで酵素等の除去処理、エタノール沈殿を行った後に、30μLのヌクレアーゼフリーの水に溶解してcDNA溶液を得た。
【0084】
(4)RNAの大量調製
HIRRV結合性RNAアプタマーのプールを調製するため、増幅した前記cDNAを鋳型として、T7 Ribomax system(プロメガ社)を用いて、RNAを大量に転写した。0.2mLチューブ2本のそれぞれに10μLの2× T7バッファ、5μLの前記cDNA溶液、3μLのヌクレアーゼフリーの水、及び2μLのEnzyme X mix(計20μL)を入れて、混合し、37℃で30分間インキュベートした。続いて、5μLのDNaseを添加した後、37℃で15分間加温した。最後に、2本のチューブ内のサンプルをまとめて、ヌクレアーゼフリーの水で400μLに充填し、等量のPCIでタンパク質除去、エタノール沈殿を行った後、50μLのヌクレアーゼフリーの水に溶解して、第2のHIRRV結合性核酸アプタマーとした。前記(1)〜当該(4)までを1ラウンドとした。
【0085】
(5)ラウンドの繰り返し
前記ラウンドを12回繰り返した。選択ストリンジェンシーを高めるために、ラウンドの回数を増加するごとに、使用するHIRRVの濃度を104nMから1nMに減じた。ラウンド4〜9においては、HIRRV−RNAと非結合RNAを高速遠心により分離した。
【0086】
(6)単離されたHIRRV結合性核酸アプタマーの塩基配列決定
上述のスクリーニングラウンドにより得られたHIRRV結合性核酸アプタマーに対して、RT-PCRを行った。プライマーには、各RNAアプタマーの両端に存在するプライマー結合領域に相補するT7 Fw及びM13 Rvプライマーを用いた。その後、T7プライマーを用いてシーケンサー(ABI社)により増幅PCR断片の塩基配列を決定した。
【0087】
(7)結果
本実施例によって得られたHIRRV結合性RNAアプタマーの塩基配列を図1に示す。SELEX法によって19個のRNAアプタマーが得られた。このうちの14クローンは、塩基配列が同一であったことから全部で6種(J9-2、J9-9、J9-16、J9-21、J9-25及びJ9-29)のRNAアプタマーが分離されたことになる。また、J9-2、J9-9、J9-16及びJ9-21の4クローンについては、J9-2の塩基配列が1塩基置換されたクローンであることから実質的に同じ群のクローンと考えられる。したがって、3群(J9-2、J9-25及びJ9-29)のHIRRV結合性核酸アプタマーが分離されたことになる。
【0088】
<実施例2:HIRRV結合性核酸アプタマーによるHIRRV感染の抑制>
実施例1で得られたHIRRV結合性核酸アプタマーのHIRRV感染活性抑制能について検証した。
【0089】
(1)細胞培養
日本産ヒラメ(Paralichthys olivaceus)の胚細胞系列(HINAE)(北海道大学 吉永守教授より分与;Establishment of Two Japanese Flounder Embryo Cell Lines, Hisae Kasai and Mamoru Yoshimizu, Fish.Sci.Hokkaido Univ. 52:67-70)を10%FBS(JRH Bioscience社)/100 IU/mLのペニシリンG(Sigma)/100μg/mLのストレプトマイシン(Gibco-BRL社)で懸濁したLeibovitz’s L-15 培地(Gibco-BRL社)3mLに単層となるように播種し、15℃で3〜4日間培養した。詳細な培養方法については、(Lua et al., 2008, Antiviral Res. 80(3):316-323)に記載の方法に準じた。
【0090】
(2)HIRRV結合性核酸アプタマーによるHIRRV感染の阻害
実施例1で得られたRNAアプタマー3群(J9-2、J9-25及びJ9-29)について、HIRRV感染の阻害活性を検証した。
【0091】
結合バッファを用いて前記3群のRNAアプタマー溶液を1、2及び4mg/mLの濃度に調製し、フォールディング後、1mLの各RNAアプタマー溶液に105 TCID50のHIRRVを加えた。37℃で30分間インキュベート後、その溶液を、(1)で調製したHINAE細胞に加えてHIRRVの感染処理を行った。また、対照区にはL-15培地のみを、またバッファのみの試験区にはバッファのみを加え、HIRRV試験区と同様の方法で処理した。感染処理後のHINAE細胞を15℃にインキュベートし、4日後にHIRRVの感染における細胞変性効果(CPE)を顕微鏡下で観察し、RNAアプタマーによるHIRRV感染の阻害活性を調べた。
【0092】
(3)結果
図2に結果を示す。cのバッファ+HIRRV添加試験区にJ9-2、J9-25又はJ9-29の各RNAアプタマーを添加した場合、3群のいずれを添加した場合にも濃度依存的にCPEが回復した。この結果から、本発明のHIRRV結合型RNAアプタマーは、宿主細胞のHIRRV感染抑制活性を有することが立証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒラメラブドウイルス(HIRRV)及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドに結合し、HIRRVの宿主感染能を抑制する活性を有するHIRRV結合性核酸アプタマー。
【請求項2】
核酸がRNAである、請求項1に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー。
【請求項3】
配列番号1〜6のいずれかで示される塩基配列を含む、請求項1又は2に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー。
【請求項4】
請求項2又は3のいずれか一項に記載のHIRRV結合性核酸アプタマーをコードするDNA。
【請求項5】
請求項4に記載のDNAを発現可能な状態で含む発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターを発現宿主内に導入した形質転換体又はその後代。
【請求項7】
発現宿主が微生物又は魚類である、請求項6に記載の形質転換体又はその後代。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー及び/又は請求項7に記載の微生物形質転換体又はその後代並びに濾材を含む濾過槽を備えたHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドの除去装置。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー及び/又は請求項7に記載の微生物形質転換体又はその後代並びに濾材を含む濾過槽に特定の水域の水を通過させて、該特定の水域の水からHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを除去する方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のHIRRV結合性核酸アプタマー又は請求項5に記載の発現ベクター及び製薬上許容可能な担体を含むヒラメラブドウイルス病を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物を魚類に投与してヒラメラブドウイルス病を治療又は予防する方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のHIRRV結合性核酸アプタマーを用いてHIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを検出する方法。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のHIRRV結合性核酸アプタマーを含む、HIRRV及び/又は該ウイルスで発現するポリペプチドを検出するためのHIRRV検出キット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公開番号】特開2012−200204(P2012−200204A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67434(P2011−67434)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【Fターム(参考)】