説明

ヒラメ飼育用配合飼料及びヒラメ飼育方法

【課題】ヒラメの体色異常を抑制でき良好な成育も達成できるヒラメ飼育用配合飼料とこれを用いるヒラメ飼育方法を提供する。
【解決手段】脂肪含量、カロリー含量、含有脂肪酸中のn3系脂肪酸とn6系脂肪酸の組成比、更にはEPAやDHAの組成比が特定の範囲内であるように調製されたヒラメ飼育用配合飼料。これらを用いるヒラメ飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒラメ飼育用配合飼料及びヒラメ飼育方法に関する。更に詳しくは本発明は、ヒラメの飼育において腹面黒化等の不具合を有効に防止し得るヒラメ飼育用配合飼料と、このヒラメ飼育用配合飼料を投与して行うヒラメ飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、養殖魚類に対する生物餌料や配合飼料の研究・開発を背景に、各種水産動物の養殖技術が発展し、食用魚全体に占める養殖魚の割合が高くなってきている。
【0003】
例えば生物餌料や配合飼料においてエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)等のn3系高度不飽和脂肪酸を栄養強化すると、魚体の成長や養殖魚の生残率の向上に有効であると言われている。
【0004】
しかし、本願発明者の研究によれば、例えばヒラメの養殖において、魚体の成長の他に体色異常の問題も考慮したとき、n3系高度不飽和脂肪酸の増加のみに注力した現在の生物餌料への栄養強化法や配合飼料への油の添加は必ずしも有効ではない。
【0005】
ヒラメの体色異常とは、本来は白色を呈するべき腹面が黒色を呈する「腹面黒化」や、本来は黒色を呈するべき背面が白色を呈する「背面白化」をいう。かかる体色異常はヒラメの市場価値を著しく低下させるものであり、とりわけ腹面黒化が重大な問題であると考えられる。
【0006】
従来、養殖魚を対象とした配合飼料あるいは生物餌料に関しては下記「特許文献1」〜「特許文献3」に例示される多数の公知文献が存在する。しかしこれらの公知文献において、ヒラメの体色異常を有効に解決できる十分な提案は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−156349号公報。 この特許文献1は、グルタチオンを各種の給餌形態のもとに使用して魚介類を養殖し、それらの魚介類の体色黒化を防止するための魚介類の養殖方法及び魚介類飼料の発明を開示する。
【0008】
【特許文献2】特開平11−276091号公報。 この特許文献2は、構成脂肪酸として所定組成比以上のドコサペンタエン酸を含む油脂及び微生物を配合し、魚類の種苗生産における奇形の発生を防止するための動物性プランクトン用飼料及び魚類の奇形防止剤の発明を開示する。
【0009】
【特許文献3】特開2007−314492号公報。 この特許文献3は、cis9,trans11−共役リノール酸と魚油を有効成分として含む、脂質代謝の改善を図るための脂質代謝改善用組成物を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の従来技術状況から、本発明は、腹面黒化等のヒラメの体色異常の発生を有効に抑制でき、更にヒラメ仔稚魚の良好な成育等も達成できるヒラメ飼育用配合飼料と、このヒラメ飼育用配合飼料を投与して行うヒラメ飼育方法を提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための第1発明の構成は、下記の(1)及び(2)の内のいずれか一つ以上の条件を満たすヒラメ飼育用配合飼料である。
【0012】
(1)配合飼料の脂肪含量が5〜12重量%の範囲内である。
【0013】
(2)配合飼料のカロリー含量が330〜400Kcal/100g飼料(蛋白質は5Kcal、脂肪は9Kcal、炭水化物は2Kcal/gで計算)である。
【0014】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための第2発明の構成は、下記の(1)〜(3)の内のいずれか一つ以上の条件を満たすヒラメ飼育用配合飼料である。
【0015】
(1)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が22〜24%の範囲内である。
【0016】
(2)配合飼料の含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比が13〜17%の範囲内である。
【0017】
(3)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比(Σn3)とn6系脂肪酸の組成比(Σn6)との比(Σn3/Σn6)が2〜4の範囲内である。
【0018】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための第3発明の構成は、下記の(1)及び(2)の内のいずれか一つ以上の条件を満たすヒラメ飼育用配合飼料である。
【0019】
(1)配合飼料の含有脂肪酸中のエイコサペンタエン酸(EPA)の組成比が7〜11%の範囲内である。
【0020】
(2)配合飼料の含有脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が11〜13%の範囲内である。
【0021】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための第4発明の構成は、第1発明〜第3発明のいずれかに記載のヒラメ飼育用配合飼料であって、更にタウリン含量が500〜700mg%の範囲内であるヒラメ飼育用配合飼料である。
【0022】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための第5発明の構成は、ヒラメ仔稚魚に対して第1発明〜第4発明のいずれかに記載のヒラメ飼育用配合飼料を投与するヒラメ飼育方法である。
【0023】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための第6発明の構成は、前記第5発明に係るヒラメ飼育方法において、予めヒラメ飼育用生物餌料の投与期間を先行させ、その投与期間の終了前にヒラメ飼育用配合飼料の投与を開始するヒラメ飼育方法である。
【0024】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための第7発明の構成は、前記第6発明に係るヒラメ飼育方法において、ヒラメ飼育用生物餌料が以下のイ)〜ニ)に示す生物餌料の1種以上であるヒラメ飼育方法である。
【0025】
イ)下記の(a)及び(b)の内のいずれか1以上の条件を満たすように栄養強化されたワムシを有効成分とするヒラメ飼育用ワムシ系第1生物餌料。
【0026】
(a)脂肪含量が10.5〜11.5重量%dmの範囲内である。
【0027】
(b)含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が10〜15%の範囲内である。
【0028】
ロ)上記のイ)に記載のワムシであって、グルカン及び/又はブドウポリフェノールを添加して栄養強化されたワムシを有効成分とするヒラメ飼育用ワムシ系第2生物餌料。
【0029】
ハ)下記の(c)〜(e)の内のいずれか1以上の条件を満たすように栄養強化されたアルテミアを有効成分とするヒラメ飼育用アルテミア系第1生物餌料。
【0030】
(c)脂肪含量が22〜26重量%dmの範囲内である。
【0031】
(d)含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が40〜44%の範囲内である。
【0032】
(e)含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比が10〜12%の範囲内である。
【0033】
ニ)上記のハ)に記載のアルテミアであって、グルカン及び/又はブドウポリフェノールを添加して栄養強化されたアルテミアを有効成分とするヒラメ飼育用アルテミア系第2生物餌料。
【発明の効果】
【0034】
ヒラメ仔稚魚に対して第1発明〜第3発明のいずれかに規定する条件をを満たすヒラメ飼育用配合飼料を投与すると、腹面黒化等の体色異常の発現を有効に抑制することができる。第1発明、第2発明、第3発明の内、二つの発明に規定する条件を併せ満たすヒラメ飼育用配合飼料は体色異常の抑制効果が特に優れ、三つの発明に規定する条件を全て満たすヒラメ飼育用配合飼料は体色異常の抑制効果がとりわけ優れる。
【0035】
第1発明のヒラメ飼育用配合飼料は10%以上の脂肪を含む飼料に比較し、多少ヒラメの成長は劣るが、第2発明又は第3発明のヒラメ飼育用配合飼料を投与した場合でもヒラメ魚体の成長度は標準的又はそれ以上である。
【0036】
以上のヒラメ飼育用配合飼料であって、更にタウリン含量が第4発明に規定する範囲内であるものは、体色異常の抑制効果を維持したもとで、ヒラメ魚体の成長が更に良好である。
【0037】
これらの配合飼料は、好ましくは第5発明又は第6発明の方法に従って投与することができる。
【0038】
特に第7発明のように、生物餌料として特定のヒラメ飼育用ワムシ系生物餌料やヒラメ飼育用アルテミア系生物餌料を用いる場合、ヒラメ飼育用配合飼料の投与効果とあいまって、ヒラメ仔稚魚の良好な成育、ヒラメの体色異常、特に腹面黒化の発生の有効な抑制に極めて優れた効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ヒラメの全長と配合飼料の特徴との関係を示す。
【図2】ヒラメの黒化魚率と配合飼料の特徴との関係を示す。
【図3】ヒラメの黒化魚率と配合飼料の特徴との関係を示す。
【図4】ヒラメの黒化魚率と配合飼料の特徴との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に本発明の実施形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0041】
〔ヒラメ飼育用配合飼料〕
本発明に係るヒラメ飼育用配合飼料は下記の第1の特徴〜第3の特徴の内の一つ以上の特徴を備えた配合飼料であり、好ましくは更に、下記の第4の特徴を備えた配合飼料である。
【0042】
(第1の特徴)
第1の特徴は、配合飼料が下記の(1)及び(2)の内のいずれか一方の条件を満たし、特に好ましくはその双方の条件を満たすことである。
【0043】
(1)配合飼料の脂肪含量が5〜12重量%の範囲内である。より好ましくは6〜10重量%の範囲内である
(2)配合飼料のカロリー含量が330〜400Kcal/100g飼料である。より好ましくは360〜370Kcal/100gの範囲内である。
【0044】
(第2の特徴)
第2の特徴は、配合飼料が下記の(1)〜(3)の内のいずれか一つの条件を満たし、特に好ましくはその内のいずれか二つの条件を満たし、とりわけ好ましくは全ての条件を満たすことである。
【0045】
(1)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が22〜24%の範囲内である。より好ましくは22.5〜23.5%の範囲内である。
【0046】
(2)配合飼料の含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比が13〜17%の範囲内である。より好ましくは14〜16%の範囲内である。
【0047】
(3)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比(Σn3)とn6系脂肪酸の組成比(Σn6)との比(Σn3/Σn6)が2〜4の範囲内である。より好ましくは2.5〜3.5の範囲内である。
【0048】
(第3の特徴)
第3の特徴は、配合飼料が下記の(1)及び(2)の内のいずれか一方の条件を満たし、特に好ましくはその双方の条件を満たすことである。
【0049】
(1)配合飼料の含有脂肪酸中のエイコサペンタエン酸(EPA)の組成比が7〜11%の範囲内である。より好ましくは7.5〜10.5%の範囲内である。
【0050】
(2)配合飼料の含有脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が11〜13%の範囲内である。より好ましくは11.5〜12.5%の範囲内である。
【0051】
(第4の特徴)
第4の特徴は、上記の第1の特徴〜第3の特徴の内の一つ以上の特徴を備えた配合飼料が、更に500〜700mg%の範囲内のタウリンを含有することである。より好ましくは550〜650mg%の範囲内のタウリンを含有することである。
【0052】
〔ヒラメ飼育方法〕
本発明に係るヒラメ飼育方法は、ヒラメ仔稚魚に対して本発明に係る上記いずれかのヒラメ飼育用配合飼料を投与する方法である。
【0053】
本発明のヒラメ飼育方法におけるヒラメ飼育用配合飼料の投与スケジュールは特に限定されない。しかし、一般的には、以下の投与スケジュールに従うことが好ましい。
【0054】
(1)基本的には、予めヒラメ飼育用生物餌料の投与期間を先行させ、その投与期間の終了前にヒラメ飼育用配合飼料の投与を開始する。ヒラメ飼育用生物餌料の種類は限定されないが、ワムシ、アルテミア、又はこれらに対して適宜に栄養強化を施した生物餌料が例示される。
【0055】
(2)ヒラメ飼育用配合飼料の投与は、ヒラメ仔稚魚が配合飼料を摂食可能になったと判断される時点で開始する。
【0056】
(3)配合飼料の投与開始から2〜3週間を経過した時点で生物餌料の投与期間を終了する。
【0057】
〔ヒラメ飼育方法における特徴的な生物餌料の併用〕
なお、上記の(1)で述べた生物餌料として、ヒラメ仔稚魚の良好な成育を達成できると共にヒラメの体色異常、特に腹面黒化の発生を有効に抑制できるという目的から、好ましくは以下に「ヒラメ飼育用生物餌料」のイ)〜ニ)として示す生物餌料が例示される。
【0058】
これらの内から、ワムシ系生物餌料及び/又はアルテミア系生物餌料(特に好ましくはワムシ系第2生物餌料及び/又はアルテミア系第2生物餌料)を用いることができる。ワムシ系生物餌料とアルテミア系生物餌料の併用がとりわけ好ましく、その場合、限定はされないが、ワムシ系生物餌料の投与期間を先行させ、その投与期間の終了前にアルテミア系生物餌料の投与期間を開始する、という投与スケジュールが好ましい。
(ヒラメ飼育用生物餌料)
イ)下記の(a)及び(b)の内のいずれか1以上の条件を満たすように栄養強化されたワムシを有効成分とするヒラメ飼育用ワムシ系第1生物餌料。
【0059】
(a)脂肪含量が10.5〜11.5重量%dmの範囲内である。
【0060】
(b)含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が10〜15%の範囲内である。
【0061】
ロ)上記のイ)に記載のワムシであって、グルカン(好ましくは、パン酵母由来β−1,3/1,6−グルカン)及び/又はブドウポリフェノール(好ましくは、ブドウ種子抽出ポリフェノール)を添加して栄養強化されたワムシを有効成分とするヒラメ飼育用ワムシ系第2生物餌料。なお、グルカン10重量部程度とブドウポリフェノール1重量部程度の重量比での併用が特に好ましい。
【0062】
ハ)下記の(c)〜(e)の内のいずれか1以上の条件を満たすように栄養強化されたアルテミアを有効成分とするヒラメ飼育用アルテミア系第1生物餌料。
【0063】
(c)脂肪含量が22〜26重量%dmの範囲内である。
【0064】
(d)含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が40〜44%の範囲内である。
【0065】
(e)含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比が10〜12%の範囲内である。
【0066】
ニ)上記のハ)に記載のアルテミアであって、グルカン(好ましくは、パン酵母由来β−1,3/1,6−グルカン)及び/又はブドウポリフェノール(好ましくは、ブドウ種子抽出ポリフェノール)を添加して栄養強化されたアルテミアを有効成分とするヒラメ飼育用アルテミア系第2生物餌料。なお、グルカン10重量部程度とブドウポリフェノール1重量部程度の重量比での併用が特に好ましい。
【実施例】
【0067】
次に本願発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0068】
〔実施例1:試験区の設定〕
投与する配合飼料の種類が異なる以下のA区〜D区の4区を設定した。各試験区で用いた配合飼料の内容を以下に述べる。「EPA組成比」とは配合飼料の含有脂肪酸中のエイコサペンタエン酸(EPA)の組成比を意味し、「DHA組成比」とは配合飼料の含有脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比を意味する。
【0069】
A区では、ヒガシマル社の配合飼料(商品名「珊瑚:種苗1号」)を用いた。その一般成分や脂肪酸の組成等は以下に示す通りである。
一般成分(%)、カロリー含量、タウリン含量:
水分 8.4
蛋白質 51.1
脂肪 10
灰分 13.7
カロリー含量 379Kcal/100g飼料
タウリン含量 350mg%。
脂肪酸組成:
Σn3 28.1%
Σn6 10.3%
Σn3/Σn6 2.73
EPA組成比 10.3%
DHA組成比 11.9%。
【0070】
B区では、日清丸紅飼料社の配合飼料(商品名「アルテック:K2」)を用いた。その一般成分や脂肪酸の組成等は以下に示す通りである。
一般成分(%)、カロリー含量、タウリン含量:
水分 6.9
蛋白質 56.8
脂肪 16.4
灰分 12.8
カロリー含量 446Kcal/100g飼料
タウリン含量 560mg%。
脂肪酸組成:
Σn3 27.0%
Σn6 5.7%
Σn3/Σn6 4.75
EPA組成比 12.4%
DHA組成比 10.5%。
【0071】
C区では、日清マリンテック社の配合飼料(商品名「マリンキング」)を用いた。その一般成分や脂肪酸の組成等は以下に示す通りである。
一般成分(%)、カロリー含量、タウリン含量:
水分 6.4
蛋白質 57.5
脂肪 13.5
灰分 13.5
カロリー含量 427Kcal/100g飼料
タウリン含量 380mg%。
脂肪酸組成:
Σn3 29.3%
Σn6 2.9%
Σn3/Σn6 10.1
EPA組成比 15.0%
DHA組成比 10.3%。
【0072】
D区では、オリエンタル酵母工業社の配合飼料(商品名「あゆスウィート」)を用いた。その一般成分や脂肪酸の組成等は以下に示す通りである。
一般成分(%)、カロリー含量、タウリン含量:
水分 6.4
蛋白質 48.4
脂肪 5.7
灰分 13.5
カロリー含量 338Kcal/100g飼料
タウリン含量 240mg%。
脂肪酸組成:
Σn3 22.9%
Σn6 15.0%
Σn3/Σn6 1.53
EPA組成比 8.1%
DHA組成比 10.6%。
【0073】
〔実施例2:先行投与する生物餌料〕
上記A区〜D区のいずれにおいても、配合飼料の投与に先だって、実施例3に示す投与スケジュールに従い同一の栄養強化したワムシとアルテミアを同一の条件で投与した。ワムシとアルテミアの栄養強化条件は下記の通りであるが、いずれも現在の標準的な栄養強化条件である。
【0074】
ワムシの培養液は1000個体/mlに調整し、アルテミアの培養液は100〜150個体/mlに調整した。これらのワムシ、アルテミアに対してシゾキトリウム属の植物プランクトン(脂肪含量35.2%、脂肪酸中のDHAの組成比49.6%)を毎日朝夕に分けて1日当たり合計3liter/ton(17時に2liter、翌朝6時に1liter)与えて栄養強化した。
【0075】
〔実施例3:ヒラメの飼育〕
(生物餌料及び配合飼料の給餌)
A区〜D区の各試験区ごとに、500L容量の水槽を各区2水槽ずつ準備して、これらの水槽にそれぞれヒラメ受精卵7500粒を収容し、孵化させた。孵化後3日目よりワムシの朝夕の給餌を開始した。ワムシは各試験区ともに前記のように栄養強化したものを用い、その給餌量は毎日250万個体〜1200万個体の範囲内で、魚の成長に従って多くした。ワムシの給餌は孵化後30日令まで続けた。
【0076】
一方、ヒラメ仔稚魚が18日令に達した時、各試験区ともに前記のように栄養強化したアルテミアの朝夕の給餌を開始した。その給餌量は毎日30万個体〜600万個体の範囲内で、魚の成長に従って多くした。アルテミアの給餌は孵化後57日令まで続けた。
【0077】
更に、孵化後32日令で、各試験区ごとに異なる前記の配合飼料の給餌を開始した。いずれの試験区でも配合飼料は朝夕の2回の給餌とし、給餌量は毎日3〜60gとし、魚の成長に従って多くした。配合飼料の給餌は孵化後92日令、即ち飼育の終了まで継続した。
【0078】
(分養その他)
以上の飼育期間中、孵化後28日令に達した時点で2550尾/500L容水槽に分養した。又、孵化後59日令に達した時点では、いずれの試験区でも100尾の全長、体表色、奇形等を調査すると共に、700尾/500L容水槽に分養した。更に飼育試験終了時の孵化後92日令においても同様に処理した。
【0079】
〔実施例4:試験結果〕
(試験区別のヒラメの成長)
孵化後92日令に達した時点でチェックしたA区〜D区のヒラメの全長と、各試験区で用いた配合飼料の特徴との関係を調べた。その結果を図1に示す。
【0080】
図1において、図1(a)は各試験区で用いた配合飼料の脂肪含量とヒラメの全長との関係を、図1(b)は各試験区で用いた配合飼料のタウリン含量とヒラメの全長との関係を、それぞれ◆のプロットで示す。
【0081】
(試験区別の腹面黒化の発現率)
飼育を終了した時点のヒラメにおける腹面黒化の発現率と、各試験区で用いた配合飼料の特徴との関係を調べた。それらの調査結果を図2〜図4に示す。
【0082】
図2において、図2(a)は各試験区で用いた配合飼料の脂肪含量と黒化魚率(ヒラメの腹面黒化魚出現率である。以下同様)との関係を、図2(b)は各試験区で用いた配合飼料のカロリー含量と黒化魚率との関係を、それぞれ◆のプロットで示す。
【0083】
図3において、図3(a)は各試験区で用いた配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比(Σn3)と黒化魚率との関係を、図3(b)は各試験区で用いた配合飼料の含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比(Σn6)と黒化魚率との関係を、図3(c)は各試験区で用いた配合飼料におけるΣn3/Σn6と黒化魚率との関係を、それぞれ◆のプロットで示す。
【0084】
図4において、図4(a)は各試験区で用いた配合飼料の含有脂肪酸中のエイコサペンタエン酸(EPA)の組成比と黒化魚率との関係を、図4(b)は各試験区で用いた配合飼料の含有脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比と黒化魚率との関係を、それぞれ◆のプロットで示す。
【0085】
〔実施例5:試験結果の評価〕
以上の試験結果から、主として黒化魚率を考慮し、あるいは黒化魚率とヒラメの成長とを併せ考慮して、以下(1)〜(8)の知見が得られた。
【0086】
(1)配合飼料の脂肪含量は5〜12重量%の範囲内、端的には8重量%程度が好ましい。
【0087】
(2)配合飼料のカロリー含量は330〜400Kcal/100g飼料の範囲内、端的には370Kcal/100g程度が好ましい。
【0088】
(3)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比(Σn3)は、22〜24%の範囲内、端的には23%程度が好ましい。
【0089】
(4)配合飼料の含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比(Σn6)は13〜17%の範囲内、端的には15%程度が好ましい。
【0090】
(5)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比(Σn3)とn6系脂肪酸の組成比(Σn6)との比(Σn3/Σn6)は、2〜4の範囲内、端的には3程度が好ましい。
【0091】
(6)配合飼料の含有脂肪酸中のエイコサペンタエン酸(EPA)の組成比は、7〜11%の範囲内、端的には9%程度が好ましい。
【0092】
(7)配合飼料の含有脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比は、11〜13%の範囲内、端的には12%程度が好ましい。
【0093】
(8)以上の点に加え配合飼料のタウリン含量は500〜700mg%の範囲内が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により、ヒラメの体色異常を抑制でき、その良好な成育も達成できるヒラメ飼育用配合飼料と、これを用いるヒラメ飼育方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)及び(2)の内のいずれか一つ以上の条件を満たすことを特徴とするヒラメ飼育用配合飼料。
(1)配合飼料の脂肪含量が5〜12重量%の範囲内である。
(2)配合飼料のカロリー含量が330〜400Kcal/100g飼料である。
【請求項2】
下記の(1)〜(3)の内のいずれか一つ以上の条件を満たすことを特徴とするヒラメ飼育用配合飼料。
(1)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が22〜24%の範囲内である。
(2)配合飼料の含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比が13〜17%の範囲内である。
(3)配合飼料の含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比(Σn3)とn6系脂肪酸の組成比(Σn6)との比(Σn3/Σn6)が2〜4の範囲内である。
【請求項3】
下記の(1)及び(2)の内のいずれか一つ以上の条件を満たすことを特徴とするヒラメ飼育用配合飼料。
(1)配合飼料の含有脂肪酸中のエイコサペンタエン酸(EPA)の組成比が7〜11%の範囲内である。
(2)配合飼料の含有脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が11〜13%の範囲内である。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のヒラメ飼育用配合飼料であって、更にタウリン含量が500〜700mg%の範囲内であることを特徴とするヒラメ飼育用配合飼料。
【請求項5】
ヒラメ仔稚魚に対して請求項1〜請求項4のいずれかに記載のヒラメ飼育用配合飼料を投与することを特徴とするヒラメ飼育方法。
【請求項6】
前記ヒラメ飼育方法において、予めヒラメ飼育用生物餌料の投与期間を先行させ、その投与期間の終了前にヒラメ飼育用配合飼料の投与を開始することを特徴とする請求項5に記載のヒラメ飼育方法。
【請求項7】
前記ヒラメ飼育方法において、ヒラメ飼育用生物餌料が以下のイ)〜ニ)に示す生物餌料の1種以上であることを特徴とする請求項6に記載のヒラメ飼育方法。
イ)下記の(a)及び(b)の内のいずれか1以上の条件を満たすように栄養強化されたワムシを有効成分とするヒラメ飼育用ワムシ系第1生物餌料。
(a)脂肪含量が10.5〜11.5重量%dmの範囲内である。
(b)含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が10〜15%の範囲内である。
ロ)上記のイ)に記載のワムシであって、グルカン及び/又はブドウポリフェノールを添加して栄養強化されたワムシを有効成分とするヒラメ飼育用ワムシ系第2生物餌料。
ハ)下記の(c)〜(e)の内のいずれか1以上の条件を満たすように栄養強化されたアルテミアを有効成分とするヒラメ飼育用アルテミア系第1生物餌料。
(c)脂肪含量が22〜26重量%dmの範囲内である。
(d)含有脂肪酸中のn3系脂肪酸の組成比が40〜44%の範囲内である。
(e)含有脂肪酸中のn6系脂肪酸の組成比が10〜12%の範囲内である。
ニ)上記のハ)に記載のアルテミアであって、グルカン及び/又はブドウポリフェノールを添加して栄養強化されたアルテミアを有効成分とするヒラメ飼育用アルテミア系第2生物餌料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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