説明

ヒータ、加熱装置、画像形成装置

【課題】 抵抗値の変化の原因となる微小なクラックの発生を抑え、使用経時における抵抗発熱体の抵抗値の変化率を小さくする。
【解決手段】 耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の基板11の長手方向に、発熱抵抗体121,122および発熱抵抗体121,122に電力を供給するための電極14,15を形成し、少なくとも発熱抵抗体14,15上にオーバーコート層18を施してヒータ100を形成する。ヒータ100の発熱抵抗体14,15としては、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の重量比率Ag/Pdが、90/0〜70/30のAg/Pd合金およびガラス、前記Ag/Pd合金重量に対して20〜60重量%の無機酸化物および/または無機窒化物を含有したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、情報機器、家電製品や製造設備等に用いられる薄型の面状ヒータ、このヒータを実装したプリンタ、複写機、ファクシミリ等の加熱装置、この加熱装置を用いた画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヒータは、コストダウンが図れ、経時変化においても抵抗発熱体の抵抗値変化が小さく長時間安定した抵抗温度係数が得られ、立ち上がり特性の向上したヒータを形成することができる。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2003−17225公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、銀(Ag)/パラジウム(Pd)合金、ガラス、フィラーである無機酸化物および無機窒化物の種類および粒径によっては、ガラスおよびフィラーを添加してもシート抵抗値が上がりにくい。そのため、高シート抵抗値の発熱体を用いる場合、発熱体の抵抗値調整にガラスおよびフィラーを多く添加しなければならない。
【0004】
このとき、特許文献1のように、フィラーをAg/Pd合金重量に対して、20重量%以下の添加では、ガラスの添加量が多くなる。ガラスの添加量が多いと、基板、配線導体やオーバーコートガラス層との反応により発泡したり、抵抗値のばらつきが大きくなったりするなどの不具合が起こりやすい等の問題があった。
【0005】
この発明の目的は、ガラス添加を減らすことで発砲や抵抗値のばらつきを抑えるとともに、使用経時における抵抗発熱体の抵抗値の変化率が小さくできるヒータ、このヒータを用いた加熱装置、この加熱装置を用いた画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明のヒータは、耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の基板の長手方向に発熱抵抗体と該発熱抵抗体に電力を供給するための電極を形成し、少なくとも前記発熱抵抗体上にオーバーコート層を施したものにあって、前記発熱抵抗体は、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の重量比率Ag/Pdが、90/0〜70/30のAg/Pd合金およびガラス、前記Ag/Pd合金重量に対して20〜60重量%の無機酸化物および/または無機窒化物を含有するとともに、前記Ag/Pd合金重量に対して25〜70重量%のガラスおよび無機酸化物および/または無機窒化物を含有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、抵抗値の変化の原因となる微小なクラックの発生を抑え、使用経時における抵抗発熱体の抵抗値の変化率を小さくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1、図2は、この発明のヒータの一実施例について説明するためのものであり、図1は正面図、図2は図1のx−x’断面図である。
図1、図2において、11は、耐熱、電気絶縁性材料例えば酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム、窒化珪素などの電気絶縁性を有する高剛性のセラミック等の基材で高い熱伝導性の短冊状基板である。121,122は、基板11の表面側の長手方向に沿って平行に形成された銀系や金属酸化物などの抵抗体ペーストを高温で焼成し所定の抵抗値を有する厚膜からなる帯状の抵抗発熱体、13は抵抗発熱体121,122それぞれの一端の一部を重層した銀系の導体ペーストを焼成して形成した接続部である。14は抵抗発熱体121の他端を重層形成したAg/Pd合金などを主体とする良導電体膜からなる給電用の電極、15は抵抗発熱体122の他端を重層形成したAg/Pd合金などを主体とする良導電体膜からなる給電用の電極である。16,17は電極14,15と抵抗発熱体121,122はそれぞれ接続部13と同材料で同様に焼成して形成された接続部である。電極14,15を残した抵抗発熱体121,122および接続部13,16,17上には、オーバーコート層18が形成されている。
【0010】
なお、基板11を形成する材料は、酸化物などからなるセラミックスであってもよい。また、セラミック材料から薄板の原板を形成する方法は、単に押圧金型を使い成形してもよい。また、抵抗発熱体は上記した銀系材料耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の基板の長手方向に発熱抵抗体と該発熱抵抗体に電力を供給するための電極を形成し、少なくとも前記発熱抵抗体上にオーバーコート層を施したヒータにおいて、前記発熱抵抗体は、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の重量比率Ag/Pdが、90/10〜70/30のAg/Pd合金およびガラス、前記Ag/Pd合金重量に対して20〜60重量%の無機酸化物および/または無機窒化物を含有するとともに、前記Ag/Pd合金重量に対して25〜70重量%のガラスおよび無機酸化物および/または無機窒化物を含有したことを特徴とするの他に、ルテニウム系、炭素系等、通電により発熱が得られ厚膜形成できる材料であれば、特定されるものではない。
【0011】
ここで、抵抗発熱体121,122の材料についてさらに説明する。抵抗発熱体121,122は、AgとPdの重量比率Ag/Pdが90/10〜70/30のAg/Pd合金およびAg/Pd合金重量に対し25〜70重量%のガラスおよびフィラーを含有し、さらに、フィラーの添加量がAg/Pd合金重量に対し20〜60重量%となるものを使用する。
【0012】
このとき、Ag/Pd合金に添加するガラスおよびフィラーの重量比率xと、形成された抵抗発熱体のシート抵抗値yとの間において、次式を満足することにより数mΩ/□/10μmから数Ω/□/10μmの広いシート抵抗値範囲が得られる。
y=a・ebx (ただし、a、bは係数で、a=0.005〜0.025、b=0.04〜0.08)
【0013】
図3は、上記した条件下でガラスおよびフィラーの重量比率とシート抵抗値(mΩ/□/10μm)の関係について説明するためのグラフ(両対数)である。ここでは、9種の異なるガラスとフィラーの重量%とシート抵抗値の変化状態を示している。
【0014】
このグラフから明らかなように、ガラスおよびフィラーの重量に基づき、所定のシート抵抗値をもつ抵抗発熱体を製造上容易に形成できるとともに、そのばらつきも小さいことが分かる。
【0015】
図4は、フィラ−量を従来の15%とした場合とこの発明の25%とした場合の、試験サイクル数に対する低効値の変化率を実験した結果である。
図4に示すように、5万回のときの抵抗値変化率は、従来2%程度であるのに対し、この発明では1.2%程度、10万回のときは、従来3.4%程度であるのに対し、この発明では1.7%程度であった。この発明は、経時における抵抗値の変化率が従来に比して小さいことが分かる。
【0016】
原因としては、フィラ−は溶けないがガラスは溶ける関係から、フィラ−量が多いと発熱抵抗体中にフィラ−が均一に分布するため、ガラスが軟化したときに抵抗膜中でフィラ−およびガラスが均一な状態となる。このため熱応力が集中しにくくなり、リラックの発生を防止することが可能となる。
【0017】
また、フィラ−量が多いと銀・パラジウムの焼結を妨げるため、ポーラスな膜を形成しやすい。このため、基板と発熱抵抗体との反応により発生したガスが抜けることで発砲の防止を図ることができる。
【0018】
このような関係から、ガラスの含有量に比してフィラ−を多く添加させたことで発熱抵抗体中のAgとPdに加わる熱応力を小さくすることができる。このため、抵抗値の変化の原因となる微小なクラックの発生を抑えることが可能となる。
【0019】
上記した構成のヒータ100は、加熱装置に組み込まれ、例えば図5に示す回路構成により通電され発熱温度が調整される。すなわち、商用電源41を温度制御回路42の制御端子に接続されたソリッドステートリレー43を介してヒータ100の電極14,15に通電されると、直列接続された抵抗発熱体121,122に電流が流れて発熱する。抵抗発熱体121,122の発熱により基板11も温度上昇する。この熱は、基板11の裏面側に取着されたサーミスタ44の感温部に伝わり、感温部の抵抗値を変化させる。サーミスタ44の抵抗値の変化を、Pd1の基板11の裏面側に形成された配線導体を介して出力させ、これを温度制御回路42に入力して設定温度にあるか否かを判定する。温度が設定温度より低い場合はソリッドステートリレー43にオン信号を出力し、設定温度より高い場合はソリッドステートリレー43にオフ信号を出力する。
【0020】
このように、抵抗発熱体121,122に加える電力を制御することによって、抵抗発熱体121,122を温度調整する。なお、温度制御回路42はソリッドステートリレー43のオン・オフ制御について述べたが、他にパルス幅変調制御方式等による温度調整でも構わない。
【0021】
そして、ヒータ100は電極12,13に電力が供給されると、抵抗発熱体121,122にそれぞれ電流が流れ、抵抗発熱体121,122は長手方向にほぼ均一の発熱温度分布を呈することになる。この実施例では、例えば抵抗発熱体121,122の抵抗値を25Ωとし、100Vの電圧を印加することにより4Aの電流が流れ、400Wの発熱量を得ることが可能となる。
【0022】
通常は、上述したように基板11の裏面側に設けたサーミスタ44がヒータ100の温度を検出して温度制御回路42を通じてソリッドステートリレー43をオン・オフ制御し所定の温度に制御している。
【0023】
次に、図6を参照し、上記したヒータの実施例を定着装置200に実装した場合の、この発明の加熱装置の一実施例について説明する。図中ヒータ100については、図1、図2と同じであり、同一部分には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0024】
図6において、201は回転軸202で回転自在に回転される加圧ローラで、その表面に耐熱性弾性材料たとえばシリコーンゴム層203が嵌合してある。加圧ローラ201の回転軸202と対向してヒータ100が並置して図示しない基台内に取り付けられている。
【0025】
ヒータ100の周囲にはポリイミド樹脂等の耐熱性のシートからなるエンドレスのロール状の定着フィルム204が循環自在に巻装されており、抵抗発熱体121,122を介した基板11真上のオーバーコート層21の表面は、この定着フィルム204を介して加圧ローラ201のシリコーンゴム層203と弾接している。
【0026】
定着装置200においてヒータ100は電極14,15に接触したりん青銅板等に銀メッキを施した弾性が付与された図示しないコネクタを通じて通電され、発熱した抵抗発熱体121,122のオーバーコート層21上に設けられた定着フィルム204面とシリコーンゴム層203との間で、トナー像T1がまず定着フィルム204を介してヒータ100により加熱溶融され、少なくともその表面部は融点を大きく上回り完全に軟化溶融する。この後、加圧ローラ201の用紙排出側では複写用紙Pがヒータ100から離れ、トナー像T2は自然放熱して再び冷却固化し、定着フィルム204も複写用紙Pから離反される。
【0027】
このように、トナー像T1は一旦完全に軟化溶融された後、加圧ローラ201の用紙排出側で再び冷却されることから、トナー像T2の凝縮力は非常に大きくなものとなっている。
【0028】
この定着装置200では、ヒータ100の抵抗値の変化の原因となる微小なクラックの発生を抑え、使用経時における抵抗発熱体の抵抗値の変化率の低下を抑えて寿命の向上を図ることができる。
【0029】
次に、図7を参照して、この発明に係るヒータ、このヒータを用いた加熱装置を搭載した複写機を例とした、この発明の画像形成装置について説明する。図中、加熱装置200の部分は、上記した説明と同じであり、同一部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図7において、301は複写機300の筐体、302は筐体301の上面に設けられたガラス等の透明部材からなる原稿載置台で、矢印Y方向に往復動作させて原稿P1を走査する。
【0030】
筐体301内の上方向には光照射用のランプと反射鏡とからなる照明装置302が設けられており、この照明装置302により照射された原稿P1からの反射光源が短焦点小径結像素子アレイ303によって感光ドラム304上スリット露光される。なお、この感光ドラム304は矢印方向に回転する。
【0031】
また、305は帯電器で、例えば酸化亜鉛感光層あるいは有機半導体感光層が被覆された感光ドラム304上に一様に帯電を行う。この帯電器305により帯電された感光ドラム304には、結像素子アレイ303によって画像露光が行われた静電画像が形成される。この静電画像は、現像器306による加熱で軟化溶融する樹脂等からなるトナーを用いて顕像化される。
【0032】
カセット307内に収納されている複写用紙Pは、給送ローラ308と感光ドラム304上の画像と同期するタイミングをとって上下方向で圧接して回転される対の搬送ローラ309によって、感光ドラム304上に送り込まれる。そして、転写放電器310によって感光ドラム304上に形成されているトナー像は複写用紙P上に転写される。
【0033】
この後、感光ドラム304上から離れた用紙Pは、搬送ガイド311によって加熱装置200に導かれて加熱定着処理された後に、トレイ312内に排出される。なお、トナー像が転写された後、感光ドラム304上の残留トナーはクリーナ313を用いて除去される。
【0034】
定着装置200は複写用紙Pの移動方向と直交する方向に、この複写機300が複写できる最大判用紙の幅(長さ)に合わせた有効長、すなわち最大判用紙の幅(長さ)より長い抵抗発熱体121,122を延在させてヒータ100の加圧ローラ201が設けられている。
【0035】
そして、ヒータ100と加圧ローラ201との間を送られる用紙P上の未定着トナー像T1は、抵抗発熱体121,122の熱を受け溶融して複写用紙P面上に文字、英数字、記号、図面等の複写像を現出させる。
【0036】
このような、複写機300は複写機等における定着用のヒータ100の抵抗値の変化の原因となる微小なクラックの発生を抑え、使用経時における抵抗発熱体の抵抗値の変化率の低下を抑えることができる。
【0037】
なお、この発明は上記した実施例に限定されるものではない。例えば、オーバーコート層材は相対する定着フィルムの材質やその他条件によって変える必要があるため特定はできないが、定着フィルムが樹脂の場合、オーバーコート層はガラスや定着フィルムが金属の場合、オーバーコート層は樹脂を組み合わせるのが望ましい。この樹脂としては一般的に摺動性に優れるとされる材料である、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリフェニレンサルファイド、エラストマー系、ポリオレフィン系、フッ素等が考えられる。基本的にはどれを使用しても良いが、耐熱性から弾性に富むPI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)等のイミド系が好ましいが、硬度が低すぎると樹脂被膜の方が削れてしまうため、例えば3H以上の硬度は必要である。
【0038】
また、ヒータの用途としては、複写機等の画像形成装置の定着用に用いたが、これに限らず、家庭用の電気製品、業務用や実験用の精密機器や化学反応用の機器等に装着して加熱や保温の熱源としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明のヒータに関する一実施例について説明するための構成図。
【図2】図1のx−x’断面図。
【図3】ガラスおよびフィラーの重量比率に対するシート抵抗値について説明するための説明図。
【図4】この発明の効果について説明するための説明図。
【図5】図1に用いる温度調整について説明するための回路構成図。
【図6】この発明の加熱装置に関する一実施例について説明するための説明図。
【図7】この発明の画像形成装置に関する一実施例について説明するための説明図。
【符号の説明】
【0040】
11 基板
121,122 抵抗発熱体
13,16,17 接続部
14,15 電極
18 オーバーコート層
100 ヒータ
200 定着装置
300 複写機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の基板の長手方向に発熱抵抗体と該発熱抵抗体に電力を供給するための電極を形成し、少なくとも前記発熱抵抗体上にオーバーコート層を施したヒータにおいて、
前記発熱抵抗体は、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の重量比率Ag/Pdが、90/0〜70/30のAg/Pd合金およびガラス、前記Ag/Pd合金重量に対して20〜60重量%の無機酸化物および/または無機窒化物を含有するとともに、前記Ag/Pd合金重量に対して25〜70重量%のガラスおよび無機酸化物および/または無機窒化物を含有したことを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記抵抗発熱体は、Ag/Pd合金に添加するガラスおよび無機酸化物および無機窒化物のAg/Pd合金の重量比率xと形成されたシート抵抗値yが、y=a・ebx(ただし、aおよびbは係数でa=0.005〜0.025、b=0.04〜0.08)の関係にあることを特徴とする請求項1記載のヒータ。
【請求項3】
加熱ローラと、
前記加熱ローラに対向配置された抵抗発熱体が圧接された請求項1または2記載のヒータと、
前記ヒータと前記加熱ローラとの間を移動可能に設けられた定着フィルムとを具備したことを特徴とする加熱装置。
【請求項4】
媒体に形成された静電潜像にトナーを付着させてこのトナーを用紙に転写して所定の画像を形成する手段と、
画像が形成された用紙を加圧ローラにより定着フィルムを介して定着用のヒータに圧接しながら通過させることによって、トナーを定着するようにした請求項3記載の加熱装置とを具備したことを特徴とする画像処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−40620(P2006−40620A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215898(P2004−215898)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】