説明

ヒータユニットおよび熱処理装置

【課題】雰囲気温度の上昇を抑制しながら被処理品を効率よく熱処理する。
【解決手段】この発明の熱処理装置10は、熱処理炉1、熱源21、フィルタ3、および透光部材4を備える。熱処理炉1は被処理品100を収容するものである。熱源21は、赤外線を放射するものが用いられる。フィルタ3は、熱源21に隣接して配置され、所定波長以上の赤外線をカットするものである。透光部材4は、フィルタ3に対向して熱源21と反対側に離隔配置され、フィルタ3によりカットされない赤外線を透過させるとともにフィルタ3を熱処理路1内の雰囲気から分離するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒータユニットおよび熱処理装置に関し、特に、輻射熱を利用した比較的低温域(例えば、300℃以下)による熱処理に適したヒータユニットおよび熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水や有機溶媒等の液滴が付着したり、これらの液体で湿潤した被処理品から熱によって液体成分を気化させて乾燥させるために、熱源を備えた乾燥装置が用いられる。
【0003】
特許文献1には、シリコンウエハ上の水滴を乾燥させる乾燥装置として、熱源に赤外線ランプを用い、ウエハ設置台と遠赤外線ランプとの間にシリコンウエハと同一材質(Si)のフィルタを配置したものが提案されている。フィルタは、水滴を効率よく乾燥させる波長の赤外線を透過させるが、シリコンウエハを加熱する波長の赤外線を除去する機能を有する。したがって、シリコンウエハを加熱することなく液滴のみを加熱してすばやく乾燥出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−122232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載された乾燥装置では、フィルタが赤外線を吸収するためにフィルタ自体が熱を持ち、フィルタ周辺の空気も加熱される。このため、乾燥時に被処理品から可燃性のガス(N−メチルピロリドン(以下、MMPと称する。)ガスなど)が発生する場合は雰囲気温度が発火点温度まで上昇し、発火する危険性があった。例えば、リチウムイオン電池用電極では、金属箔の表面に塗布する集電体のスラリーを作成する際の溶剤としてNMPが用いられることがあるため、この危険がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、雰囲気温度の上昇を抑制しながら被処理品を効率よく熱処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のヒータユニットは、熱源、フィルタ、および透光部材を有する。熱源は、赤外線を放射するものが使用される。フィルタは、前記熱源に隣接して配置され、所定波長以上の赤外線をカットするものである。透光部材は、前記フィルタに対向して前記熱源と反対側に離隔配置され、前記フィルタを透過した赤外線を透過させるものである。
【0008】
この構成によると、熱源から放射される赤外線は、フィルタを通過する際に所定波長以上の光線がカットされる。そして、フィルタを透過した赤外線だけが透光部材を透過することになる。したがって、透光部材を被処理品に対物配置すれば、透光部材を透過した赤外線によって被処理品が輻射加熱され、被処理品を熱処理(例えば、乾燥)することが出来る。このとき、透光部材に吸収される赤外線はほとんどないので、透光部材が過熱することがない。したがって、雰囲気温度の上昇を抑制しながら効率よく被処理品を加熱処理することが可能となる。
【0009】
また、フィルタ表面から放熱される熱が透光部材に伝わらないようにするために、前記フィルタと前記透光部材との間の空間が真空断熱されていることが望ましい。
【0010】
前記フィルタおよび前記透光部材の材料としては、入手が容易な石英ガラスを好適に使用できる。
【0011】
また、この発明の熱処理装置は、熱処理炉、熱源、フィルタ、および透光部材を備える。熱処理炉は被処理品を収容するものである。熱源は、赤外線を放射するものが用いられる。フィルタは、前記熱源に隣接して配置され、所定波長以上の赤外線をカットするものである。透光部材は、前記フィルタに対向して前記熱源と反対側に離隔配置され、前記フィルタによりカットされない赤外線を透過させるとともに前記フィルタを前記熱処理路内の雰囲気から分離するものである。
【0012】
この構成によると、熱源から放射される赤外線は、フィルタを通過する際に所定波長以上の光線がカットされる。そして、フィルタを透過した赤外線だけが透光部材を透過することになる。したがって、透光部材を被処理品に対物配置すれば、透光部材を透過した赤外線によって被処理品が輻射加熱され、被処理品を熱処理(例えば、乾燥)することが出来る。このとき、透光部材に吸収される赤外線はほとんどないので、透光部材が過熱することがない。したがって、雰囲気温度の上昇を抑制しながら効率よく被処理品を加熱処理することが可能となる。
【0013】
また、この発明の熱処理装置は、前記透過部材に前記フィルタ表面から放熱される熱が伝わるのを阻止する伝熱阻止手段を有している。この構成によると、フィルタ表面から放熱される熱が伝わらないようにすることが出来、雰囲気温度の上昇の抑制に寄与する。具体的には、前記フィルタと前記透光部材との間の空間を真空断熱したり、前記フィルタの表面を冷却する冷却手段を設けることにより実現される。
【0014】
また、前記熱処理炉内における前記透光部材の赤外線出射側に対向する領域へ前記被処理品を移動させる移動手段を有すると、被処理品を連続的に熱処理出来るようになり、作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、雰囲気温度の上昇を抑制しながら被処理品を効率よく熱処理することが可能となる。このため、熱処理時に被処理品から可燃性のガス(MMPなど)が発生しても、雰囲気温度が発火点温度まで上昇することがなく、爆発の危険性がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る熱処理装置を示す概略構成図である。
【図2】この発明の他実施形態に係る熱処理装置を示す概略構成図である。
【図3】熱源、フィルタおよび透光部材を一体化したヒータユニットの一例を示す熱処理装置の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、この発明の実施形態に係る熱処理装置について説明する。
【0018】
図1に示すように、熱処理装置10は、熱処理炉1、熱源21、フィルタ3、および透光部材4を有する。この熱処理装置10は、輻射熱を利用した比較的低温域(例えば、300℃以下)による熱処理を行うのに好適なものである。
【0019】
熱処理炉1は、枠体11および断熱層12を備える。枠体11は耐熱性を備える材料から成る。断熱層12は、枠体11の内側に設けられる。この構成により、熱処理炉1は耐熱性および断熱性を備えることになる。断熱層12にはセラミックファイバ等の断熱材を好適に用いることが出来る。なお、枠体11の内側を中空とすることにより、断熱層12を空気層で構成しても構わない。
【0020】
本実施の形態では、熱処理炉1は、扁平な箱形状を呈しているものとする。熱処理炉1の形状はこれに限られない。例えば、有底円筒形などでも良い。熱処理炉1の天井中央部には、後述するヒータ2を装着するための矩形の取付穴1Aが貫通している。
【0021】
熱処理炉1の内部は、図における上下が狭い空間となっている。この空間に被処理品100が収容される。熱処理炉1の内部を、上下が狭い空間としたのは、後述するヒータ2から出射される赤外線を効率よく被処理品100に照射するためである。
【0022】
被処理品100の具体例としては、例えば、リチウムイオン電池用の電極などが挙げられる。上述したように、リチウムイオン電池用の電極は、製作時に可燃性のNMPを溶剤としたスラリーが使用される。
【0023】
熱源21には、赤外線を放射する発熱体が用いられる。具体的には、ニクロム線発熱体、ハロゲンヒータ、カーボンヒータ等が挙げられる。なお、図1中の矢印IR1は、熱源21から放射される赤外線を現している。熱源21に必要な出力は熱処理炉1の大きさおよび被処理物100の処理条件によって変わる。
【0024】
ヒータ2は、上記の熱源21とセラミックファイバ等の断熱材22を真空モールドで一体化して所定の形状に作製される。本実施の形態では、ヒータ2は角板状を呈しているものとする。なお、赤外線ヒータ2の形状はこれに限られない。例えば、熱処理炉1が有底円筒形であれば、これに対応させてヒータ2をハーフパイプ状やクォーターパイプ状に形成しても良い。
【0025】
断熱材22の底面には熱源21が一部露出している。断熱材22は熱源21からの熱を遮断する。よって、ヒータ2は赤外線の放射方向に指向性を有する。すなわち、ヒータ2は断熱材22の底面から下方に向けて赤外線を出射するように構成される。
【0026】
断熱材22は、の上部にはフランジ22Bが形成されている。ヒータ2を熱処理炉1に取付ける際は、断熱材22の胴部22Aを上記の取付穴1Aに挿入する。そして、断熱材22のフランジ部22Bを熱処理炉1の外壁にビス止めなどで固定する。これにより、熱源21が熱処理炉1の内部に臨むように、ヒータ2が熱処理炉1に取付けられる。
【0027】
熱処理炉1の内壁には、取付穴1Aの開口の周囲に支持部材5が取付けられている。支持部材5は、後述するフィルタ3および透光部材4を支持している。
【0028】
フィルタ3は所定波長以上の赤外線をカットするものである。フィルタ3の材料としては、入手が容易な石英ガラスを好適に用いることが出来る。なお、フィルタ3の材料はこれに限られない。カットされる赤外線の波長領域は、フィルタ3の材料により決まる。例えば、石英ガラスであれば約4μm以上の赤外線がフィルタ3によりカットされ、それ以下の赤外線はフィルタ3を透過する。図1中の矢印IR2はフィルタ3を透過した赤外線を現している。
【0029】
フィルタ3は、板状を呈している。フィルタ3は、ヒータ2の下方に位置するように上記の支持部材5に支持されている。すなわち、フィルタ3は、熱源21に隣接するように配置される。
【0030】
透光部材4は、フィルタ3にカットされずにフィルタ3を透過した赤外線を透過させるとともにフィルタ3を熱処理炉1内の雰囲気から分離するものである。透光部材4の材料としては、入手が容易な石英ガラスを好適に用いることが出来る。なお、透光部材4の材料はこれに限られない。例えば、多少高価ではあるが、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、サファイヤ等を用いることも可能である。
【0031】
透光部材4は板状を呈している。透光部材4の厚みは、例えば3〜5mm程度である。なお、透光部材4の厚みはこの範囲に限られない。透過率の面では透光部材4の厚みは薄い方が有利である。
【0032】
透光部材4は、フィルタ3の下方に位置するように上記の支持部材5に支持されている。透光部材4とフィルタ3は略並行に支持されている。すなわち、透光部材4はフィルタ3に対向して熱源21と反対側に離隔配置されている。透光部材4は、フィルタ3の熱処理炉1内の雰囲気からの分離を確実にするため、支持部材5との間で密着性をより高くされるのが望ましい。この密着性を高めるため、透光部材4を、シール部材(不図示)を介して支持部材5に取付けることができる。このシール部材の材料としては、耐熱性および耐溶剤性を備えるフッ素系もしくはSi系の樹脂を好適に用いることが出来る。
【0033】
透光部材4をフィルタ3から離隔させるのは、フィルタ3の表面から放熱される熱が透過部材4に伝熱するのを抑制するためである。図1中の波線Hはフィルタ3の表面から放熱される熱を現している。したがって、透光部材4とフィルタ3の間隔は大きい方が良く、例えば50mm程度に設定される。なお、この間隔は、下記に説明する伝熱阻止手段により短くすることが可能である。
【0034】
伝熱阻止手段は、透過部材4にフィルタ3表面から放熱される熱が伝わるのを阻止するものである。具体的には、フィルタ3と透光部材4との間の空間9を真空断熱したり、フィルタ3の表面を冷却する冷却手段を設けることにより実現される。冷却手段としては、例えば、ファンやブロワなどの送風装置、放熱フィンやヒートパイプなどの熱交換器を好適に使用できる。
【0035】
被処理品100は、熱処理炉1内における透光部材4の赤外線出射側に対向する領域で熱処理される。なお、この領域へ被処理品100を移動させる移動手段を設けてもよい。具体的には、図示のごとく搬送ローラ6を備えている。なお、移動手段は、搬送ローラ6に限られない。例えば、搬送ベルトなどでも良い。移動手段により、被処理品100を連続的に熱処理出来るようになり、作業効率が向上する。
【0036】
被処理品100は、図示のごとく熱処理炉1の全長(図1の左右の幅)よりも長いものであっても構わない。この場合は、熱処理炉1の両側面に開口(搬入口1Bおよび搬出口1C)を設けることで、熱処理炉1の外部から矢印Sのように被処理品100を搬入し、熱処理炉1内で順次熱処理を行いながら搬出するまでの一連の作業を自動で行うことが可能となる。なお、被処理品100が可撓性を有するシート状のものである場合には、図2に示すように、送り出しローラ7および巻き取りローラ8をそれぞれ搬入口1A、搬出口1Bの外側に配置し、ロールツーロールで熱処理を連続的に行うことも可能である。
【0037】
本実施形態に係る熱処理装置10によると、熱源21から放射される赤外線IR1は、フィルタ3を通過する際に所定波長以上の光線がカットされる。そして、フィルタ3を透過した赤外線IR2だけが透光部材4を透過することになる。したがって、透光部材100を透過した赤外線IR3によって被処理品100が輻射加熱され、被処理品100を熱処理(例えば、乾燥)することが出来る。このとき、透光部材4に吸収される赤外線はほとんどないので、透光部材4が過熱することがない。したがって、雰囲気温度の上昇を抑制しながら効率よく被処理品100を加熱処理することが可能となる。このため、熱処理時に被処理品から可燃性のガス(MMPなど)が発生しても、雰囲気温度が発火点温度まで上昇することがなく、爆発の危険性がない。
【0038】
図3は、熱源、フィルタおよび透光部材を一体化したヒータユニットの一例を示す熱処理装置の要部の断面図である。図3に示すヒータユニット200の例では、支持部材5を、上部にフランジ部5Bを有する筒状とし、ヒータ2の胴体部22Aを支持部材5の筒内部に挿入してフランジ部22Aを用いてヒータ2を支持部材5に固定している。これによって、熱源21、フィルタ3および透光部材4を一体化したヒータユニット200が形成される。
【0039】
ヒータユニット200を熱処理炉1に取付ける際は、支持部材5の胴体部5Aを、熱処理炉1の取付穴1Aに挿入する。そして、フランジ部5Aを用いて熱処理炉1の外壁にビス止めなどにより固定する。これにより、ヒータユニット200を着脱自在に構成することが可能となる。
【0040】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、この発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
10−熱処理装置
1−熱処理炉
2−ヒータ
21−熱源
3−フィルタ
4−透光部材
6−搬送ローラ
100−被処理品
200−ヒータユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を放射する熱源と、
前記熱源に隣接して配置され、所定波長以上の赤外線をカットするフィルタと、
前記フィルタに対向して前記熱源と反対側に離隔配置され、前記フィルタを透過した赤外線を透過させる透光部材と、
を有するヒータユニット。
【請求項2】
前記フィルタと前記透光部材との間の空間が真空断熱された請求項1に記載のヒータユニット。
【請求項3】
前記フィルタおよび前記透光部材が石英ガラス製である請求項1または2に記載のヒータユニット。
【請求項4】
被処理品を収容する熱処理炉と、
赤外線を放射する熱源と、
前記熱源に隣接して配置され、所定波長以上の赤外線をカットするフィルタと、
前記フィルタに対向して前記熱源と反対側に離隔配置され、前記フィルタを透過した赤外線を透過させるとともに前記フィルタを前記熱処理路内の雰囲気から分離する透光部材と、
を有する熱処理装置。
【請求項5】
前記透過部材に前記フィルタ表面から放熱される熱が伝わるのを阻止する伝熱阻止手段を有する請求項4に記載の熱処理装置。
【請求項6】
前記フィルタと前記透光部材との間の空間が真空断熱された請求項5に記載の熱処理装置。
【請求項7】
前記フィルタの表面を冷却する冷却手段が設けられた請求項5に記載の熱処理装置。
【請求項8】
前記熱処理炉内における前記透光部材の赤外線出射側に対向する領域へ前記被処理品を移動させる移動手段を有する請求項4〜7のいずれかに記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−155966(P2012−155966A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13267(P2011−13267)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】