説明

ヒータ加工品

【課題】 ヒータ部位によりワット密度が可変であり、安定的に、部分的に加熱分布を制御できるヒータ加工品を提供することにある。
【解決手段】 芯材上に横巻きした発熱線に絶縁体を施したヒータ線を使用した加工品について、該発熱線の巻き密度をヒータ部位により可変とすることで、ワット密度を可変とし、ヒータ部位の必要性に応じて、部分的に加熱分布を制御する。さらに、加工品にした際に所望の位置で所望の発熱量を得られるよう制御するために、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して50倍以下であること、及び/又は、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が5倍以下である必要がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材上に横巻きした発熱線に絶縁体を施したヒータ線を使用した加工品について、該発熱線の巻き密度をヒータ部位により可変とすることで、ワット密度を可変とし、安定的に、部分的に加熱分布を制御できるヒータ加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から各種保温器具で使われるヒータ加工品は、ヒータ線のワット密度が均一であり、どの部位も同等の発熱量を得る構造であるため、発熱量を増減するような制御は困難であった。ヒータ線の配置の間隔を変えることで発熱量を制御することは、ある程度までは制御可能であるが、より部分的に限定して発熱量を制御することは不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、上記の問題点を解消すべく、ヒータ部位により適切な発熱量が得られる、すなわち、より部分的に限定して発熱量を制御可能なヒータ加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、芯材上に横巻きした発熱線に絶縁体を施したヒータ線を使用した加工品について、該発熱線の巻き密度をヒータ部位により可変とすることで、ワット密度を可変とし、ヒータ部位の必要性に応じて、部分的に加熱分布を制御できることを究明した。
しかし、巻き密度の可変部では、発熱線の位置ずれが生じやすいという問題がある。そこで、加工品にした際に所望の位置で所望の発熱量を得られるよう制御するために、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して50倍以下であること、及び/又は、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が5倍以下である必要があることを究明した。
さらに、該ヒータ線を加工品とすることで、より熱効率が改善され、発熱量を制御することが可能である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、該発熱線の巻き密度をヒータ部位により可変とすることで、ワット密度を可変とし、部分的に加熱分布を制御できるため、以下の顕著な作用・効果が提供される。
(a)部分的に発熱量が不足し、加熱効果が損なわれるような問題点が解消される。
(b)部分的に発熱量が過剰となり、余分な熱がリード線あるいは他部材へ伝わるなど、熱的な負荷を軽減できる。
(c)ヒータ部位の必要性に応じて、適切な発熱量が得られるため、他部材への熱的な負荷を抑えられ、製品寿命が長くできる。
(d)部分的に発熱量を調整できるため、リード線、接続子、収縮チューブなどの他部材の耐熱性を低くすることができ、製造コストを抑えられる。
(e)部分的に発熱量を調整できるため、ヒータ線の使用を最小限に抑えることができ、製造コストを抑えられる。
(f)部分的に発熱量を調整できるため、エネルギー効率が改善され、ランニングコストを軽減できる。
【0006】
また、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して50倍以下であること、及び/又は、該発熱線の巻きピッチ幅の可変部において、ピッチ幅の変化量が5倍以下である必要があることで、上記に加え、以下の作用・効果が提供される。
(g)巻き密度の位置ずれがなくなるため、加工品として、より安定した発熱量の制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のヒータ線の発熱線の巻き方の一例を示す図
【図2】本発明のヒータ線の一例で絶縁体被覆付ヒータ線を示す断面図
【図3】本発明のヒータ加工品の一例を示す図
【図4】実施例1〜5及び比較例1の評価結果を示す図
【図5】実施例6及び7のヒータ加工品のヒータ面温度を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき、添付図面を参照しながら説明する。
図1〜3において、1は絶縁体被覆付ヒータ線、2は芯材、3は芯材2の外周に横巻された発熱線、3aは発熱線3の巻き密度が密な部分、3bは発熱線3の巻き密度が疎な部分、3cは発熱線3の巻き密度の移行部分、4は絶縁体、5はアルミ箔ヒータ加工品、6は接続子、7はリード線、8はアルミ箔シート、9は空洞部である。
【0009】
本発明で特徴的なことは、発熱線の巻き密度を可変とすることにより、発熱量を制御可能である点と、巻き密度の可変部の発熱量が安定している点にある。
図1(a)は、発熱線3の巻き密度を密な部分3aと疎の部分3bのように変えることにより、それぞれの発熱量(ワット密度)が可変であるヒータ線を示している。図1(b)は、発熱線3の巻き密度が密な部分3aと疎の部分3bの間に移行部分3cを有する。 図1(a)に示すように、巻き密度の変化が急である場合は、発熱量の変化も急であり、図1(b)に示すように緩やかである場合は、発熱量の変化も緩やかであるため、該巻き密度の変化量については、ヒータ加工品の仕様や必要な発熱量に応じて適宜決定する。
しかし、図1(a)(b)いずれの場合も、該可変部では芯材に対する巻き線の角度が変化するため、発熱線の位置ずれが生じやすく、特に図1(a)のようにピッチ変化が急で、かつ変化量が大きい場合は、その傾向が顕著である。最悪の場合、ヒータ線の製造工程あるいは加工工程の配線途中等で巻き密度が変化してしまい、その結果、ヒータ加工品にした場合に、所望の位置で所望の発熱量が得られず、発熱量を希望通りに制御することが困難となる。
このような巻き密度の位置ずれを防止し、加工品にした際に発熱量を正確に制御するため、発熱線の巻きピッチは重要な要素となってくる。
発熱線の巻きピッチが大きすぎると、芯材に対する巻き線の角度が小さくなる、あるいは、ピッチの変化量が大きすぎると、芯材に対する巻き線の角度の変化が大きくなるため、長手方向に発熱線がずれ易くなり、結局、発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して50倍以下であること、あるいは、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が5倍以下である必要があり、さらに好ましくは、巻きピッチ及びピッチ幅の変化量の両方がこれらの範囲を満足していることである。
【0010】
こうすることで、該可変部の芯材に対する巻き線の角度の変化量が抑えられるため、ヒータ線の製造工程や加工工程にて機械的な負荷がヒータ線に加わったとしても、通常の巻き張力にて製造した発熱線の位置ずれを防止する効果が得られる。
【0011】
本発明で使用する、芯材2としては、ガラス芯、ガラス繊維(素線)を撚ったもの、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、さらには、ゴム弾性芯等が使用でき、その中でも複数本のガラス繊維(素線)を撚ったガラス芯が特に好ましい。
発熱線3としては、常用されているニクロム線、ステンレス線、銅ニッケル合金線等の金属複合合金線が用いられる。
絶縁体4としては、シリコーンゴム、フッ素ゴムあるいはフッ素樹脂など、耐熱性の高い樹脂が用いられる。
【0012】
加工品の形態としては、主には、アルミ箔やアルミ板に該ヒータ線を配線したアルミ箔(板)の面状ヒータ加工品が挙げられる。
【0013】
以上により、加工品において、所望の位置にて所望の発熱量が得られるよう制御されることで、過不足なく効率的に熱量を供給できると同時に、他部材への熱的負荷を軽減するなど、エネルギー効率が改善されることで製品寿命やランニングコストの改善効果も期待できる。
【0014】
以下に、図1に示した本発明であるヒータ線の具体例を示す。
「実施例1」
芯材2として外径0.7mmのガラス芯の上に、発熱線3(密な部分3a)として外径0.13mmの抵抗線CN15Wをピッチ0.45mmにて長手方向に0.275m巻き、また、その両端に発熱線3(疎な部分3b)として外径0.13mmの抵抗線CN15Wをピッチ0.94mmにて、それぞれ0.305mずつ巻く。その抵抗値は、密な部分3aで66.9Ω/m、疎な部分bで33.4Ω/mである。そして、30V入力時、全長0.885mで使用して、ワット密度が発熱線3(密な部分3a)で40W/m、発熱線3(疎な部分3b)で20W/mの発熱芯線を作製する。
該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して最大7倍であり、さらに、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が2倍であった。
【0015】
「実施例2」
実施例2は、実施例1と同じ仕様だが、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して最大50倍であり、さらに、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が2倍であった。
【0016】
「実施例3」
実施例3は、実施例1と同じ仕様だが、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して最大7倍であり、さらに、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が5倍であった。
【0017】
「実施例4」
実施例4は、実施例1と同じ仕様だが、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して最大60倍であり、さらに、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が2倍であった。
【0018】
「実施例5」
実施例5は、実施例1と同じ仕様だが、該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して最大10倍であり、さらに、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が7倍であった。
【0019】
以下に、図2に示した本発明である絶縁体被覆付ヒータ線と、図3(a)(b)に該絶縁体被覆付ヒータ線を使用したアルミ箔ヒータ加工品を示す。
「実施例6」
図2は、実施例1のヒータ線に、シリコーンゴム絶縁体4を施し、外径2.4mmである絶縁体被覆付ヒータ線1である。さらに、図3(a)に示すように、ヒータ加工品全体の温度分布が一定になるよう、該ヒータ線をアルミ箔上に配線し、リード線や接続子を施したヒータ加工品を作製する。
【0020】
「実施例7」
図3(b)に示すように、実施例6と同仕様のヒータ線を規則的に配置し、中央部の温度が高くなるよう、ヒータ加工品を作製する。
【0021】
「比較例1」
芯材2として外径0.7mmのガラス芯の上に、発熱線3(密な部分3a)として外径0.13mmの抵抗線CN49Wをピッチ1.11mmにて長手方向に0.275m巻き、また、その両端に発熱線3(疎な部分3b)として外径0.13mmの抵抗線CN15Wをピッチ7.80mmにて、それぞれ0.305mずつ巻く。
該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して最大60倍であり、さらに、該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が7倍であった。
【0022】
図4に、実施例1〜5及び比較例1の評価結果を示す。
図4の評価結果より、発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して50倍以下、あるいは、該発熱線の巻きピッチの可変部において、該ピッチの変化量が5倍以下の場合では、発熱線の位置ずれは生じなかった。
これは、発熱線の巻きピッチが大きすぎると、芯材に対する巻き線の角度が小さくなる、あるいは、ピッチの変化量が大きすぎると、芯材に対する巻き線の角度の変化が大きくなるため、長手方向に発熱線がずれ易くなると推測される。実施例4及び5では、巻きピッチとピッチ幅の変化量のいずれかが、所望の範囲より外れているが、加工品の熱量制御に悪影響を及ぼす程の影響はほとんど見られないため、良品限界のレベルと判断する。
比較例1では、ヒータ線の製造時の巻き取り工程や、ヒータ加工工程など、ヒータ線同士の摩擦等の負荷がかかると、発熱線の位置ずれが発生する傾向がみられた。
【0023】
図5に、実施例6及び7のヒータ加工品のヒータ面温度を測定した結果を示した。
図3(a)の実施例6は、従来のヒータ線、すなわち、一定の発熱量を有するヒータ線を使用した場合に比べ、加工品全体の温度のばらつきが小さくなっていることが分かる。
図3(a)のように、ヒータ線の配置が不規則の場合、従来のヒータ線を使用すると、ヒータ加工品全体の熱量分布のばらつきが大きくなってしまう。また、接続子に過度な熱量がかかり、熱的負荷が大きくなる等の問題も考えられる。本発明品であれば、加工品の形状により、ヒータ線の配置を不規則にせざるを得ない場合においても、加工品全体の温度を均一に調整したり、接続子付近の熱的負荷を軽減するなどの制御が可能となる。
図3(b)の実施例7は、従来のヒータ線を使用した場合に比べ、最大値の温度が格段に高くなっていることが分かる。
従来のヒータ線を使用し、該実施例7のような発熱量分布を得たい場合は、ヒータ加工品の中央部に、ヒータ線を密に配置する必要があり、ヒータ線の使用量が多くなってしまうが、本発明品であれば、ヒータ線の使用量はそのままで、発熱量を制御可能となる。
【0024】
以上のように、発熱線の巻きピッチを、ヒータ部位により可変にすることでワット密度を可変とし、かつ、ヒータ線の配置を組み合わせることで、自由に加熱分布を制御できるヒータ加工品が得られる。
発熱線の仕様に関しても、例えば、発熱線の巻き密度を粗・密の繰り返しにする、あるいは、巻き密度を段階的に変化させる、さらに、発熱線を複数本引きそろえて巻きつけるなど、様々な態様を応用すれば、さらに複雑に発熱量の制御が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のヒータ線は、従来例に比べてヒータ部位によりワット密度を可変でき、しかも安定性に優れるため、部分的に加熱分布を制御できるヒータとして、炊飯器、保温容器等、各種用途への適用が可能となる。
【符号の説明】
【0026】
1 絶縁体被覆付ヒータ線
2 芯材
3 発熱線
3a 発熱線の巻き密度が密な部分
3b 発熱線の巻き密度が疎な部分
3c 発熱線の巻き密度の移行部分
4 絶縁体
5 アルミ箔ヒータ加工品
6 接続子
7 リード線
8 アルミ箔シート
9 空洞部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材上に横巻きした発熱線に絶縁体を施したヒータ線を使用した加工品について、該発熱線の巻きピッチは、ヒータ部位により可変にすることで、ワット密度を可変とし、部分的に加熱分布を制御できるヒータ加工品。
【請求項2】
該発熱線の巻きピッチは、該発熱線の外径に対して50倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒータ加工品。
【請求項3】
該発熱線の巻きピッチの可変部において、ピッチ幅の変化量が5倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒータ加工品。



【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−51110(P2013−51110A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188241(P2011−188241)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】