説明

ヒータ用端子カバー

【課題】従来の陶器製の端子カバーと同様の耐熱性と絶縁性を具備し、且つ従来の端子カバーには無い耐落下強度をも具備することにより、長期に亘り使用することができるヒータ用端子カバーを提供する。
【解決手段】芳香族系ポリイミド樹脂で構成されたヒータ用端子カバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ用端子カバー(絶縁碍子)に関する。本発明のヒータ用端子カバーは耐熱性や絶縁性の高い芳香族系ポリイミド樹脂を用いて構成されるために、端子カバー自体の熱劣化、熱変形、落下による割れの懸念が少なく、またヒータ通電時の感電事故、短絡事故の懸念も少なく有用である。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の加工機器等に用いるヒータとしては、バンドヒータ、プレートヒータ、スペースヒータ、シーズヒータ等がある。これらのヒータは、機器使用時には通電しているので、裸の端子に作業者や治具等が接触して感電や短絡するのを防止するために、通常は、該端子は端子カバーによって保護されている。
従来、これらの端子カバーには耐熱性、絶縁性の観点で信頼の高い陶器製のものが用いられていた。
これらのヒータは、機器使用時には電源から電力を供給するためにその端子に配線が結線されているものの、機器のメンテナンス時にはその端子から配線は外す必要が生じる。そのため、端子カバーは、機器のメンテナンス開始時には端子から外され、その後の機器の復旧時には再び端子に取り付けられる。
【0003】
しかし、これらの作業は、多数のヒータに対して行われるために、取り扱う端子カバーの数も多くなり、手や作業台から端子カバーを溢れさせて、端子カバーを落下させてしまうことが多い。また作業中も配線等に気を取られることが多いために、端子カバーをうっかり落下させてしまうことが多い。
そして、熱可塑性樹脂加工用の機器等の多くはコンクリート打ちの床上に設置されているので、結果として陶器製のヒータ用端子カバーをコンクリート床上に落下させることとなり、その殆どは破損してしまい、再使用ができない。
そのため、上記のようなメンテナンス作業が度重なると、当初、陶器製のヒータ用端子カバーを十分に保有していても、徐々に在庫は無くなり、最終的には不足してしまう。この時、機器復旧までに端子カバーを再購入できれば本来問題はない。
しかし、生産現場では時間に追われているために、機器の稼働自体には影響のないヒータ用端子カバーを取り付けずに機器使用を再開してしまい、結果、感電事故や短絡事故等を引き起こす可能性があった。
【0004】
本発明に類する技術としては、特許文献1には送電線用の高分子ポリマー碍子に関する発明が開示されており、エポキシ樹脂を用いた鉄道の電線用の碍子や配電盤などの支持碍子(ポスト碍子)などが知られているが、これらはヒータの様な熱源に直接接して、長期に使用することを想定するものでは無く、耐熱性の観点から流用できるようなものでは無い。
また、シーズヒータに関する特許文献2や、カートリッジヒータに関する特許文献3において、封止剤、絶縁材として、耐熱性、絶縁性の観点からポリイミドが好適に用いられる旨が開示されているが、頻繁にヒータに取り付け、取り外しされるヒータ用端子カバーとして、芳香族系ポリイミド樹脂を用い、その割れを防止することを目的とする本発明とは全く異なるものである。
【0005】
【特許文献1】特開平05−135639号公報
【特許文献2】特開平06−060967号公報
【特許文献3】特開平07−050195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題点を解決するため本発明は、感電事故等の抜本対策として、従来の陶器製の端子カバー(絶縁碍子)と同様の耐熱性、絶縁性を有し、且つ、落下時の割れの懸念のない端子カバーを開発し、これに置き換えることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決し得るヒータ用端子カバーを開発するべく鋭意研究を重ねた結果、ヒータ用端子カバーを耐熱性と絶縁性の高い芳香族系ポリイミド樹脂で構成すると、感電、短絡、熱劣化、熱変形、落下時の割れなどの問題が無いヒータ用端子カバーが得られることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
1.芳香族系ポリイミド樹脂で構成されたヒータ用端子カバー、
2.芳香族系ポリイミド樹脂が、ASTM−D−648に基づく熱変形温度が300℃以上であることを特徴とする上記1.に記載のヒータ用端子カバー、
3.芳香族系ポリイミド樹脂が、ASTM−D−257に基づく体積固有抵抗値が1014Ω/cm以上であることを特徴とする上記1.に記載のヒータ用端子カバー、
4.コンクリート床より2mの高さから床上に自然落下させた場合の耐落下性が、破損率として10%以下であることを特徴とする上記1.に記載のヒータ用端子カバー、
5.ヒータが、芳香族系ポリイミド樹脂の熱変形温度を越えない設定温度にて連続使用されることを特徴とする上記2.に記載のヒータ用端子カバー、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のヒータ用端子カバーは、芳香族系ポリイミド樹脂で構成することにより、従来の陶器製の端子カバーと同様の耐熱性と絶縁性を具備し、且つ従来の端子カバーには無い耐落下強度をも具備するものであり、それにより長期に亘り使用することができ、その結果として、特に感電事故や短絡事故を予防し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明のヒータ用端子カバーの構成および効果について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づくものであるが、本発明はそのような実施態様に何ら限定されるものではない。なお、本発明において用いる「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
〔芳香族系ポリイミド樹脂〕
本発明において、ヒータ用端子カバーを各種の樹脂材料により見出すにあたり、種々の耐熱性を有する樹脂材料の可否を検討した。耐熱性を有する樹脂材料としては、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、芳香族ポリイミド(全芳香族ポリイミド)、芳香族ポリエステル(全芳香族ポリエステル)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化エチレン(ポリ四フッ化エチレン)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、繊維強化ポリエステル、繊維強化ポリアミド等が挙げられ、検討されたが、特に耐熱性に優れ、更に絶縁性、物理強度、切削加工性、入手容易さ、コスト等の観点から、本発明では芳香族系ポリイミドを選定した。
【0010】
ポリイミド樹脂とは、その主鎖中に酸イミド結合をもつ高分子物質の総称であり、通常は等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミン(若しくはジイソシアネート)とを原料にして、環化重縮合により合成することで得られる。
原料であるテトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物やナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の様な芳香族化合物である場合、これらから合成されたものを特に芳香族ポリイミド樹脂と呼ぶ。更にジアミンがフェニレンジアミンや4,4’−ジアミノビフェニルエーテルの様な芳香族化合物であり原料モノマーが何れも芳香族化合物である場合、これらから合成されたものを特に全芳香族ポリイミド樹脂と呼ぶ。本発明は全芳香族ポリイミド樹脂を含む芳香族ポリイミド樹脂を芳香族系ポリイミドと称し、これを材料に用いるものである。
【0011】
芳香族系ポリイミドは、芳香族環とイミド結合とが共役構造を取るため、剛直で強固な分子構造を有する。特に全芳香族ポリイミドの場合、芳香族環と芳香族環がイミド結合を介して共役構造を持つことができ、更に強固な分子構造を有することができ、本発明の用途目的上好ましい。これらの共役構造に加え、更にイミド環構造が剛直性を与え、イミド結合が強い分子間力を持つために、芳香族系ポリイミドは樹脂でありながら非常に優れた熱安定性を発現する。
また、芳香族系ポリイミドは機械的性質や電気的性質も同様に安定しており、高い物理強度や電気絶縁性能を具備している。そのため、芳香族系ポリイミドは、従来から成形品としてICソケット、複写機の軸受け等の摺動部材、プリンターのワイヤガイド、圧縮機等のピストンリング、スラストワッシャー、モーター絶縁材、パイプシール、自動車や航空機のエンジン廻り部品、人工衛星の絶縁部品、クランプリング、エッシャー、アッシャー、軸受け、ボルト、ナット、ギア、ガスケットシール等、またフィルムとして電子回路部材の絶縁材料、特に非接触ICタグ(データキャリア)のIC実装用のベース基材、フレキシブルプリント回路用基材、リードフレーム用基材等、更にワニス・コーティング剤として電子回路の封止剤、多層配線回路の層間絶縁材料、電線・ケーブル用被覆材、焼付エナメル、放射線等保護用塗料等、幅広く利用されている。
このような優れた特徴を有するポリイミド樹脂は、デュポン、東レ、宇部興産、日立化成等の各社製品を利用することができる。
【0012】
本発明のヒータ用端子カバーに用いる芳香族系ポリイミド樹脂は、その耐熱性能として、ASTM−D−648に基づく熱変形温度が300℃以上であることが好ましい。該熱変形温度は400℃以上であることがより好ましく、450℃以上であることが特に好ましい。該熱変形温度が300℃未満であると、ヒータ実使用時の設定温度によっては、変形し再利用できなくなる可能性があり、好ましくない。
本発明のヒータ用端子カバーに用いる芳香族系ポリイミド樹脂は、その絶縁性能として、ASTM−D−257に基づく体積固有抵抗値が、1014Ω/cm以上であることが好ましい。該体積固有抵抗値は1015Ω/cm以上であることがより好ましく、5×1015Ω/cm以上であることが特に好ましい。該体積固有抵抗値が1014Ω/cm未満であると、端子カバーを装着していてもヒータ通電時に感電や短絡の恐れがあり、好ましくない。
【0013】
〔ヒータ〕
ヒータはその仕様により、種々様々な形状や出力のものがある。用途によっては700〜800℃まで加熱できるヒータも存在するが、本発明のヒータ用端子カバーを用いるのは、特に熱可塑性樹脂の加工機器等に用いるヒータが想定されており、バンドヒータ、プレートヒータ、スペースヒータ、シーズヒータ等を例示することができる。
本発明のヒータ用端子カバーを適用するヒータとしては、芳香族系ポリイミド樹脂の熱変形温度を越えない設定温度にて連続使用することを前提とするものが好ましい。芳香族系ポリイミド樹脂の熱変形温度を越えた高温にてヒータを連続使用すれば、当然これに接するヒータ用端子カバーは変形し、使用に耐えられない。
具体的には、300℃を越えない設定温度にて連続使用することを前提とするヒータが特に好ましい。
【0014】
〔ヒータ用端子カバー〕
芳香族系ポリイミド樹脂を成形加工し、ヒータ用端子カバーを得る方法として、芳香族系ポリイミド樹脂が熱可塑の性状を有する場合は、インジェクション等の製法を駆使して所望の金属型内に熱溶融樹脂を押出し、成形加工することも出来る。しかしながら、芳香族系ポリイミド樹脂が融点(軟化点)を持たず、熱可塑の性状を有していない場合は、インジェクション等の製法を適用するのは無理であり、また、本発明のヒータ用端子カバーの様に高い耐熱性が求められるものの場合は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)の溶液を利用して、型内で加熱または触媒を用いて脱水・環化反応を進めて所望の形状のヒータ用端子カバーを得るか、或いは同様にポリアミド酸よりポリイミド樹脂の固まり(ブロック)を一旦成形し、次いで金属加工と同様に切削することにより所望の形状のヒータ用端子カバーに加工する。
【0015】
本発明のヒータ用端子カバーは、コンクリート床より2mの高さから床上に自然落下させた場合の耐落下性が、破損率として10%以下であることが好ましい。該破損率は、5%以下であることがより好ましく、0%であることが特に好ましい。該破損率が10%を越えて大きい場合は、従来の陶器製のヒータ用端子カバーと同様、破損による損失の量が大きく、在庫不足懸念による感電事故等発生への抜本対策とならず好ましくない。
ここで、試験法をコンクリート床より2mの高さからの落下としたのは、メンテナンスの実作業上、ヒータ用端子カバーの設置される最も高い位置が、床から約2mの高さであったためである。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例および試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、手順等は本発明を逸脱しない限り適宜変更できる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
〔ヒータ用端子カバーの製造〕
芳香族系ポリイミド樹脂として、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮重合物よりなる成形体「ユピモールSA201」(宇部興産(株)製、登録商標名)を用い、切削加工により図1の形状のヒータ用端子カバーを500個製造した。「ユピモールSA201」のASTM−D−648に基づく熱変形温度(18.56kg/cm2)は486℃、ASTM−D−257に基づく体積固有抵抗値(23℃)は7.1×1015Ω/cmである。
【0017】
〔試験例〕
以下に示す試験方法に従い、本発明のヒータ用端子カバーの物性評価を行った。
〔ヒータ用端子カバーの耐熱性評価〕
上記で得たヒータ用端子カバーを、出願人の生産ライン1系列全てのヒータ(バンドヒータ、プレートヒータ)の端子に実際に取り付け、以下の条件下にて長期の耐熱性試験を実施して、評価を行った。
テスト数量 :200個
テスト期間 :3ヶ月
ヒータ設定温度:230℃〜270℃
試験後、本発明のヒータ用端子カバー200個全ての外観より、熱による変形の有無を評価したが、何れも設置当初と同様であり変形は見られなかった。同様に変色等の樹脂劣化も見られず、上記条件下での長期の耐熱性を有することが確認された。
【0018】
〔ヒータ用端子カバーの絶縁性評価〕
ヒータ用端子と該ヒータを取り付けた樹脂加工器機(押出機)本体の金属部分間の絶縁性を、ヒータ用端子カバーがある場合と、ない場合とでそれぞれ評価した。評価には絶縁抵抗計(メガ)を用いて、絶縁抵抗の測定(メガ測定)を行った。
本発明のヒータ用端子カバーを、ヒータの端子に取り付けた状態で評価したところ、絶縁抵抗値は100MΩ(メガオーム)を示し、本発明のヒータ用端子カバーにより実質的に絶縁されていることが確認された。尚、該絶縁抵抗値は従来の陶器製端子カバーを取り付けて評価した場合と同等である。
同様に、ヒータの端子に端子カバーを取り付けない状態で絶縁性を評価したところ、絶縁抵抗値は1MΩ以下(振り切り)を示し、絶縁は確認されなかった。
【0019】
〔ヒータ用端子カバーの耐落下性評価〕
上記で得たヒータ用端子カバー10個と、従来の陶器製のヒータ用端子カバー(絶縁碍子)10個を、何れもコンクリート床より2mの高さから床上に自然落下させて、破損の有無を確認した。結果を表1に示す。従来品は10個中、破損が7個(破損率70%)であったのに対し、本発明品は10個中、破損は0個(破損率0%)であった。
特に陶器製のヒータ用端子カバーでは、ヒビが入ったものでも、再使用中に割れて、製品への混入や感電事故・短絡事故が発生する恐れが高いために、使用不可としてカウントした。
【0020】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のヒータ用端子カバーは、芳香族系ポリイミド樹脂で構成することにより、従来の陶器製の端子カバーと同様の耐熱性と絶縁性を具備し、且つ従来の端子カバーには無い耐落下強度をも具備することにより、長期に亘り使用することができる。その結果として、特に感電事故や短絡事故を予防できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヒータ用端子カバーの設計図の一例である。
【図2】ヒータ用端子カバーの使用態様を示す図である。
【図3】耐落下試験後の本発明のヒータ用端子カバー(写真左側)、および従来品のヒータ用端子カバー(写真右側)の外観写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族系ポリイミド樹脂で構成されたヒータ用端子カバー。
【請求項2】
芳香族系ポリイミド樹脂が、ASTM−D−648に基づく熱変形温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のヒータ用端子カバー。
【請求項3】
芳香族系ポリイミド樹脂が、ASTM−D−257に基づく体積固有抵抗値が1014Ω/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のヒータ用端子カバー。
【請求項4】
コンクリート床より2mの高さから床上に自然落下させた場合の耐落下性が、破損率として10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒータ用端子カバー。
【請求項5】
ヒータが、芳香族系ポリイミド樹脂の熱変形温度を越えない設定温度にて連続使用されることを特徴とする請求項2に記載のヒータ用端子カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−146889(P2008−146889A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330066(P2006−330066)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000122313)株式会社ユポ・コーポレーション (73)
【Fターム(参考)】