説明

ヒートポンプ式空気調和機

【課題】室外側熱交換器の熱交換面に着霜抑制塗膜を形成したヒートポンプ式空気調和機において、デフロスト運転の改善により暖房能力の向上を図ること。
【解決手段】本発明に係るヒートポンプ式空気調和機は、熱交換面に滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜が形成された室外側熱交換器と、室外側熱交換器をデフロストするデフロスト装置と、室外側熱交換器のデフロスト開始状態を検知するフロスト検知部と備えている。フロスト検知部は、外気温度が特定の温度を超える範囲において、室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴が流下し始める状態M1から室外側熱交換器の熱交換面において水滴の流下が止まる状態M2までの間の何れかの状態をデフロスト開始状態として検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室外側熱交換器の熱交換面に滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜が形成されたヒートポンプ式空気調和機に関し、特に、暖房運転時におけるデフロスト運転に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートポンプ式空気調和機において、室外側熱交換器における着霜量を低減する目的で着霜抑制塗料を塗布、硬化させて着霜抑制塗膜を形成することが知られている。ここで、塗布する着霜抑制塗料としては、特許文献1、特許文献2などに記載のポリキシロキサン系の組成物からなる塗料が知られている。また、特許文献2に記載の着霜抑制塗膜を室外側熱交換器の熱交換面に形成したヒートポンプ式空気調和機として、特許文献3に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2000−119642号公報
【特許文献2】特開2002−323298号公報
【特許文献3】特開2006−46694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このようなヒートポンプ式空気調和機においては、着霜抑制塗膜を熱交換面に形成した室外側熱交換器における着霜過程についての解明が十分になされておらず、このような室外側熱交換器を用いる場合の着霜特性が十分に把握されていなかった。このため、室外側熱交換器の熱交換面に着霜抑制塗膜を形成した従来のヒートポンプ式空気調和機においては、室外側熱交換器の熱交換面に着霜抑制塗膜を形成しない従来一般のヒートポンプ式空気調和機(以下、従来一般品という)の場合と、デフロスト運転を異ならせることの意義については何ら提起されていなかった。ところが、本発明者は、室外側熱交換器の熱交換面に着霜抑制塗膜を形成したヒートポンプ式空気調和機(以下発明対象品という)における着霜過程について研究を行った結果、外気温度が特定の温度を超える範囲においては霜の成長過程が従来一般品と大幅に異なる特性を有することを解明した。また、この特性を利用してデフロスト運転を行うことにより暖房能力をさらに改善できることを解明した。
【0004】
本発明は、このような知見に基づき成されたものであって、室外側熱交換器の熱交換面に着霜抑制塗膜を形成したヒートポンプ式空気調和機において、デフロスト運転の改善により暖房能力の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るヒートポンプ式空気調和機は、上記課題を解決するものであって、熱交換面に滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜が施された室外側熱交換器と、室外側熱交換器をデフロストするデフロスト装置と、室外側熱交換器のデフロスト開始状態を検知するフロスト検知部と備えたヒートポンプ式空気調和機であって、前記フロスト検知部は、外気温度が特定の温度を越える範囲において、室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴が流下し始める状態から室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴の流下が止まる状態までの間の何れかの状態をデフロスト開始状態として検知することを特徴とする。なお、本明細書において特定の温度とは、外気中の水分が過冷却水状態で熱交換器の熱交換面に水滴となって付着し、付着した水滴がそれ自身の成長により自重で流下することが可能な下限の外気乾球温度をいう。この特定の温度は、ヒートポンプ式空気調和機の仕様、及び、滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜の品質により異なるが、前述の特許文献1及び2の着霜抑制塗膜を使用した場合は0℃より数℃低い温度となることが解明されている。
【0006】
本発明者は、従来一般品と発明対象品とについて、室外側熱交換器における霜の成長過程の詳細を研究した。これによると、外気温度が特定の温度を越える範囲において、前者では、室外側熱交換器の熱交換面に付着した水滴が徐々に大きくなり、流下せずにその位置に留まって凍結し霜として成長していた。これに対し、後者では、室外側熱交換器の熱交換面に付着した水滴が、水滴としてある程度大きくなった段階で過冷却状態の水のまま流下し、熱交換面全面に霜が凍りつく状態に至るまでの時間(従来はこれをフロスト時間と称している)が大きくなるという特性を有することが解明された。また、この特性があることにより、フロストによる暖房能力の低下が抑制されることが解明された。本発明は、このような研究により得られた知見に基づきなされたものであって、デフロスト運転の開始時期を、室外側熱交換器の熱交換面に付着した水滴が過冷却水として流下し始める状態から、熱交換面に付着した水滴が霜となって下方への流下が停止する状態までの間とされているので、暖房能力の低下が抑制されて暖房能力が向上する。なお、熱交換面に付着した水滴が凍結して流下しなくなった後は、従来品も発明対象品もその後の着霜現象に殆ど差が見られない。したがって、熱交換面に付着した水滴の流下が行われなくなった後までデフロスト運転の開始を引き延ばしてみても、従来一般品の場合に比しより以上に暖房能力を改善することができない。また、暖房能力もより以上に向上させることができない。
【0007】
また、前記フロスト検知部は、室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴が流下し始める状態からこの水滴の流下が止まる状態までの間であって、室外側熱交換器の熱交換面に付着している一部の水滴中に凍結が始まる状態をデフロスト開始状態として検知するようにすることが好ましい。この状態は、室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴中に過冷却状態が解消されるものが現れ始めていることを意味する。また、水滴は、過冷却が解消されると、一気に氷結が始まり、急激に熱交換器の通風抵抗が増加するとともに熱交換能力の低下が生ずる。したがって、この時期が最も適切である。
【0008】
また、前記室外側熱交換器は、プレートフィンが鉛直方向に配置され、熱交換チューブが水平方向に配置されたクロスフィンコイル式熱交換器であることが好ましい。室外側熱交換器としてこの構造の熱交換器を用いた場合には、熱交換面に付着した水滴を円滑に下方へ流下させることができる。
【0009】
また、前記フロスト検知部は、クロスフィンコイル式熱交換器である室外側熱交換器の下方部において一部の水滴中に凍結が始まる状態が検知されたときに前記デフロスト開始状態とすることが好ましい。プレートフィンが鉛直方向に配置され、熱交換チューブが水平方向に配置されたクロスフィンコイル式熱交換器の場合には、下方部分から水滴の氷結が始まるので、この部分が氷結する状態を検知することにより、検知遅れを招くことがない。
【0010】
また、前記フロスト検知部は、室外側熱交換器の通風抵抗値を検知する差圧センサを設け、この差圧センサにより検知される通風抵抗値が設定値以上になったときに前記デフロスト開始状態とすることができる。着霜の成長過程に対応した室外側熱交換器の通風抵抗データを取得することにより、通風抵抗値により所望の状態を検知することが可能である。また、通風抵抗値により着霜状態を検知することできるので、フロストの検知を簡易に行うことができる。
【0011】
また、前記フロスト検知部は、室外側熱交換器の出口冷媒温度の一定時間当たりの変化を検知するセンサを設け、このセンサにより検知される出口冷媒温度の一定時間当たりの変化が設定値以上になったときに前記デフロスト開始状態とすることもできる。室外側熱交換器の出口冷媒温度は外気温度により異なるが、外気温度の変化及び着霜状態の変化に対応して室外側熱交換器の出口冷媒温度が変化する。したがって、外気温度との関係において室外側熱交換器の出口冷媒温度の単位時間当たりの変化データを取得しておけば、室外側熱交換器の出口冷媒温度の単位時間当たりの変化を追跡することにより着霜状態の変化を検知することができる。
【0012】
また、前記フロスト検知部は、外気温度が前記特定の温度以下の範囲においては、デフロスト開始状態として検知する状態が前記開始状態とは異なるようにすることが好ましい。すなわち、前述のように熱交換面に付着する水滴が過冷却状態のまま流下する現象が生成されるのは外気温度が前記特定の温度を超える範囲の場合である。したがって、この特定の温度を予め実験的に定め、外気温度がこの特定の温度以下の範囲においては、従来一般品の場合と同様の基準値に基づきフロストを検知することができる。
【0013】
また、前記デフロスト装置は、外気温度が前記特定の温度を超える範囲においては正サイクルデフロストを行い、外気温度が前記特定の温度以下の範囲においては逆サイクルデフロストを行うことが好ましい。外気温度が前記特定の温度を超える範囲においては、着霜が熱交換面の全面に広がる前にデフロストを行うので、正サイクルデフロストにより短時間周期でデフロストを行うことの方が、暖房能力の低下を抑制できることが実験的に確認された。また、外気温度が前記特定の温度以下の範囲においては、着霜状態が熱交換面全体に拡大した状態で、逆サイクルデフロストを行うことにより、最適なデフロスト運転を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るヒートポンプ式空気調和機によれば、外気温度が特定の温度を超える範囲においては、滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜が熱交換面に施された熱交換器の特性を把握してデフロスト運転を行うことにより、暖房能力の向上、及び快適な暖房運転を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るヒートポンプ式空気調和機について、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るヒートポンプ式空気調和機の冷媒回路図であり、図2は同空気調和機に用いられる室外側熱交換器の通風側から見た正面図である。図3は、同空気調和機における制御装置の機能ブロック図である。
【0016】
本発明に係るヒートポンプ式空気調和機は、図1に示すような冷媒回路を備えて構成されている。圧縮機1の吐出口及び吸入口に対し四路切換弁2が接続され、この四路切換弁2の切換ポート間に室外側熱交換器3、膨張弁4、室内側熱交換器5が順次接続されて冷媒回路が構成されている。室外側熱交換器3は、室外ファン3aを備え、室内側熱交換器5は、室内ファン5aを備えている。また、この冷媒回路において、外気温度が特定の温度A(図7参照)を超える範囲におけるデフロストを行うためのデフロスト回路として、圧縮機1の吐出管1aと室外側熱交換器3の暖房運転時における入口側との間にホットガスバイパス回路10が形成されている。また、このホットガスバイパス回路10には、デフロスト時の冷媒流を制御するホットガスバイパスバルブ11が設置されている。
【0017】
室外側熱交換器3は、図2に示すように、いわゆるクロスフィンコイル式熱交換器であり、熱交換面を形成する多数のアルミニウム製のプレートフィン31を一定の間隔をあけて空気流の流通方向に直交する方向に並べられている。また、これらプレートフィン31に対して、内部を冷媒が流通する銅管製の熱交換チューブ32が貫通するように取り付けられている。なお、プレートフィン31は、フラットフィン、スリットフィン、ワッフルフィンなどの板状のフィンの何れでもよい。そして、熱交換面を成すプレートフィン31の表面には滑水性及び撥水性を有する着霜抑制塗膜が施されている。この着霜抑制塗膜は、特許文献1、特許文献2などにより公知のポリキシロキサン系の組成物からなる着霜抑制塗料を塗布、硬化させたものである。また、塗膜の膜厚は、プレートフィン31の素地の表面粗さを平坦にすることのできる厚さとして1.0〜1.5μm程度に形成されている。
【0018】
また、室外側熱交換器3の下方には、室外側熱交換器3から流下するドレンを受け、これを円滑に排出するために、一方向に傾斜させたドレンパン33が配置されている。また、このドレンパン33の上面にも、滴下したドレンの排出を良好にするために、前述の着霜抑制塗膜が施されている。
【0019】
また、上記構成の空気調和機は、図3に示すような制御装置を備えている。圧縮機1は、圧縮機1を発停及び回転数制御する圧縮機駆動部21により運転され、室内ファン5a及び室外ファン3aは、室内ファン5a及び室外ファン3aの発停及び回転数制御を行う室外ファン駆動部22及び室内ファン駆動部23により運転される。また、これら圧縮機1、室外ファン3a,及び室内ファン5aの運転モードや、四路切換弁2、膨張弁4、及びホットガスバイパスバルブ11の切換制御、開度制御又は開閉制御は、操作部24からの操作指令及びフロスト検知部25などからの検知信号が制御部20に送信され、制御部20がこれら指令及び信号に基づき制御している。フロスト検知部25には、外気サーモ26で検知された外気温度、室外側熱交換器3における空気出入口間の差圧を検知する差圧センサ27により検知された室外側熱交換器3の通風抵抗値が送信される。
【0020】
また、フロスト検知部25にはメモリー28が付設されている。このメモリー28には、外気温度が特定の温度Aを越える範囲において、室外側熱交換器3のデフロスト開始時期を決定する第1通風抵抗値と、外気温度が特定の温度A以下の範囲において、室外側熱交換器3のデフロスト開始時期を決定する第2通風抵抗値とが格納されている。そして、フロスト検知部25は、外気温度が特定の温度Aを超える範囲においては、差圧センサ27から送信される通風抵抗値が第1通風抵抗値まで上昇したときに高温用のデフロストロス開始信号を制御部20に送信する。また、フロスト検知部25は、外気温度が特定の温度A以下の範囲においては、差圧センサ27から送信される通風抵抗値が第2通風抵抗値まで上昇したときに低温用のデフロストロス開始信号を制御部に送信する。このように、本発明においては、外気温度が特定の温度Aを超えているか以下であるかにより、デフロスト開始時期の検知方法を変えるとともに、デフロスト運転方法を変えることができるように構成されている。
【0021】
上記ヒートポンプ式空気調和機は、次のように運転される。
冷房運転時には、操作部からの冷房運転指令に基づき、四路切換弁2を図1に示す実線側に切り換え、圧縮機1、室外ファン3a及び室内ファン5aが運転される。圧縮機1が駆動されることにより、圧縮機1から吐出された吐出ガスが四路切換弁2、室外側熱交換器3、膨張弁4、室内側熱交換器5、四路切換弁2の順に循環して圧縮機1に吸入される。このような冷媒の循環によって、室外側熱交換器3は凝縮器として動作し、室内側熱交換器5は蒸発器として動作する。凝縮器として動作する室外側熱交換器3では、高圧のガス冷媒が外気と熱交換を行って凝縮する。これによって高圧の冷媒から外気に対して熱が放出される。蒸発器として動作する室内側熱交換器5では、膨張弁4により減圧された低圧の液冷媒が室内空気と熱交換を行って蒸発する。これによって室内空気が低圧の冷媒によって吸熱されて冷却される。
【0022】
一方、暖房運転時には、四路切換弁2を図1に示す破線側に切り換え、圧縮機1、室外ファン3a及び室内ファン5aが運転される。圧縮機1が駆動されることにより、圧縮機1から吐出された吐出ガスが四路切換弁2、室内側熱交換器5、膨張弁4、室外側熱交換器3、四路切換弁2の順に循環して圧縮機1に吸入される。このような冷媒の循環によって、室内側熱交換器5が凝縮器として動作し、室外側熱交換器3が蒸発器として動作する。凝縮器として動作する室内側熱交換器5では、高圧のガス冷媒が室内空気と熱交換を行って凝縮する。これによって室内空気が高圧冷媒からの放熱によって加熱される。一方、蒸発器として動作する室外側熱交換器3では、膨張弁4で減圧された低圧の液冷媒が外気と熱交換を行って蒸発する。これによって外気の熱が低圧の冷媒によって吸熱される。
【0023】
この暖房運転時において、外気温度が低くなり、外気の露点温度が0℃以下となるときには、室外側熱交換器3における冷媒の蒸発温度も外気より数℃から10数℃低い温度となり、室外側熱交換器3で冷却された外気中の水分が熱交換面に霜となってプレートフィンに付着する。また、この霜の成長を放置すると、霜が室外側熱交換器3の熱交換面全体に広がり室外側熱交換器3の熱交換器能力が著しく低下する。そこで、一般に、ヒートポンプ式空気調和機においては、室外側熱交換器の熱交換面に霜が付着し、室外側熱交換器の熱交換能力が低下した場合にデフロスト運転が行われている。以下、この発明の特徴を成すデフロスト装置及びその運転について説明するが、これらの説明に当り、室外側熱交換器の熱交換面に滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜を施したヒートポンプ式空気調和機、すなわち発明対象品の特性について、発明者により解明された内容を説明する。
【0024】
発明対象品は、従来特許公報等の文献に記載されている。しかし、発明対象品に関し、着霜抑制塗膜を熱交換面に形成した室外側熱交換器における着霜過程上の特性について詳細に研究されたものがなかった。したがって、この発明対象品について、特別のデフロスト運転を行うことも提案されていなかった。また、発明対象品については、従来一般品と同様に、タイマーや室外側熱交換器の出口冷媒温度などの検知により、霜が略全体的に広がった状態となったときにデフロスト運転を行えばよいと考えられていた。しかしながら、発明対象品の室外側熱交換器における着霜形態を詳細に調べてみると、外気温度が特定の温度Aを越える範囲においては、従来一般品に比し霜の成長が大幅に遅れるという特性を示すことが分かった。
【0025】
そこで、先ずこの特性について、図4〜図6に基づき従来一般品と比較しながら説明する。図4は、従来一般品の室外側熱交換器と発明対象品の室外側熱交換器における霜の成長過程の相違を示す比較図であり、図5は、室外側熱交換器における通風抵抗値、運転時間及び霜の成長過程との関係説明図であり、図6は、暖房能力、運転時間及び霜の成長過程との関係説明図である。
【0026】
図4は、(a)欄に、従来一般品の無処理の熱交換面を備えた室外側熱交換器における霜の成長過程を示すものであって、縦方向に暖房運転の経過に伴い霜がどのように成長するかを示している。また、(b)欄に、発明対象品の熱交換面に着霜抑制塗膜を形成した室外側熱交換器における霜の成長過程を示している。この(b)欄についても、縦方向に暖房運転の経過に伴い霜がどのように成長するかを示している。また、(c)欄には、本発明の説明のために、霜の成長過程における状態を表す着霜状態表示記号及びデフロスト開始ポイントを記載している。
【0027】
この図に示すように、従来一般品の室外側熱交換器は、水滴のない状態からスタートし(a1)、暖房運転時間の経過に伴い結露水が水滴となって付着し始め(a2)、水滴が合体して成長する(a3)。この水滴は過冷却水である。この状態をM1と称する。そして、結露水は合体して成長するとともに過冷却状態が解消されて、その位置で凍結を始め(a4)、霜として成長し(a5)、成長した霜が重なるような状態になる(a6)。この状態をM2と称する。また、引き続き霜が全体空間を埋めるように成長し(a7)、終には空気を殆ど通過させない状態となる(a8)。この状態をM3と称する。
【0028】
一方、発明対象品の室外側熱交換器は、水滴のない状態からスタートし(b1)、暖房運転時間の経過に伴い結露水が水滴となって付着し始め(b2)、水滴が合体して成長する(b3)。この水滴は過冷却水である。この発明対象品に関する(b1)〜(b3)の過程は、前述の従来一般品に関する(a1)〜(a3)の過程と略同一である。また、(b3)の状態は、前述の(a3)の状態と略同一であり、この状態をM1と称する。次いで、発明対象品の室外側熱交換器の場合は、水滴は過冷却水のままさらに成長を続け(b4)、熱交換面に滑水性及び撥水性に優れた塗膜が施されていることから、水滴自身の自重により過冷却状態の水のまま流下する(b5)。そして、暖房運転時間が経過すると、流下する水滴の中に過冷却を解消する水滴が現れ始め、それぞれの水滴が霜となり、霜が重なる程度の状態になる(b6)。(b6)の状態は、前述の(a6)の状態と略同一であり、これをM2と称する。そして、引き続き暖房運転が行われると、霜が全体空間を埋めるように成長し(b7)、終には空気を殆ど通過させない状態となる(b8)。発明対象品に関する(b6)〜(b8)の過程は、前述の従来一般品に関する(a6)〜(a8)の過程と略同一である。また、(b8)の状態は、前述の(a8)の状態と略同一であり、この状態をM3と称する。
【0029】
このような着霜過程を経る従来一般品と発明対象品とについて、室外側熱交換器における通風抵抗値、運転時間及び霜の成長過程との関係を図5で見ると、M1、M2,M3の各状態における室外側熱交換器の通風抵抗値P1、P2、P3は、従来一般品も発明対象品も略同一の着霜状況であるため、同一となる。しかし、M1の状態からM2の状態になるまでの経過時間は、従来一般品がt2−t1であるのに比し、発明対象品がt12−t1であり、同図に示すように経過時間が2倍近く延びていることが分かった。これは、従来一般品においては、(a4)〜(a5)に示すように熱交換面に付着した結露水が同一位置で冷却されるのに対し、発明対象品の場合は、熱交換面に付着した結露水が流下しながら冷却されるため、従来一般品の場合に比し霜に成り難いからである。なお、M2の状態からM3の状態になるまでの時間は、従来品がt3−t2であるのに対し、発明対象品がt13−t12であって、図示されるように略同程度であった。
【0030】
また、このような着霜過程を経る従来一般品と発明対象品について、暖房能力、運転時間及び霜の成長過程との関係を図6により見てみると、M1、M2,M3の各状態における暖房能力は、従来一般品も発明対象品も、着霜状態が略同一であることから略同一である。しかしながら、M1の状態からM2の状態になるまでの時間が、図5においても示されるように発明対象品の方が長くなるため、発明対象品は、従来品に比し暖房能力の低下が緩和されるとともに、その分着霜過程における暖房能力が増大することが分かる。なお、図6において縦軸の暖房能力は、プレートフィン31に霜が付いていない状態を100%とした割合で示している。
【0031】
しかし、このような特性が現れるのは、外気温度が特定の温度Aを超える範囲であり、それ以下の範囲ではこのような特性が期待できない。これを示したのが図7である。図7は、従来一般品と発明対象品とについて、外気温度とフロスト時間との関係を示した図であって、縦軸にフロスト時間が目盛られ、横軸に外気温度が目盛られている。なお、ここで、フロスト時間とは、暖房運転開始又はデフロスト終了後の暖房運転再開からデフロスト運転開始までの運転時間をいい、デフロスト運転開始の時期を、霜が熱交換面全体を埋めるように成長し終には空気を殆ど通過させないような状態となるM3付近としたものをいう。
【0032】
この図7から分かるように、発明対象品では、着霜過程における前述の特性が発揮される場合には、M1の状態からM2の状態になるまでの時間が長くなり、フロスト時間が長くなる。しかしながら、発明対象品においてこのような特性が発揮されるのは外気温度が特定の温度Aを超える範囲であって、特定の温度A以下の範囲においては従来一般品との差がないことが分かった。
【0033】
そこで、本実施の形態に係るヒートポンプ式空気調和機は、本発明者による以上のような研究成果を踏まえ、本実施の形態におけるデフロスト装置は、次のように構成される。本発明におけるデフロスト装置は、室外側熱交換器3をデフロストするために必要とされる装置を総称するものである。したがって、室外側熱交換器3の霜を溶かす熱を供給するホットガスバイパス回路10、ホットガスバイパス回路10を流れる冷媒流を制御するホットガスバイパスバルブ11、冷媒回路をデフロストサイクルに切り換える制御やその他デフロスト運転に必要な制御を行う制御部20の一部、室外側熱交換器3の着霜状態によりデフロスト開始時期を判断するフロスト検知部25、外気温度を検知する外気サーモ26及び室外側熱交換器3の通風抵抗値を測定する差圧センサ27などのように、デフロストのために態々設けられているものはこのデフロスト装置を構成するものである。なお、通常運転及びデフロスト運転に兼用される圧縮機1、四路切換弁2、室外ファン3a、室内ファン5aなども、デフロスト運転の観点から見た場合は、デフロスト装置を構成する。
【0034】
フロスト検知部25は、前述のように、室外側熱交換器3の着霜状態によりデフロスト開始時期を判断するものであるが、本実施の形態においては、前述の着霜特性が発揮される特定の温度Aを超える外気温度範囲においては、前述の水滴が流下し始める状態からこの流下が止まる状態までの間に行うようにしている。また、好ましい実施の形態として、室外側熱交換器3の熱交換面に付着している一部の水滴中に凍結を始めるものが生じ始める状態、すなわち、水滴の流下が止まるM2の状態の少し手前の状態をデフロスト開始時期として検知するようにしている。また、この検知に当っては、室外側熱交換器3の下方部において、水滴が凍結し始めて水滴の流下が停止されるときに前記デフロスト運転開始状態とすることが好ましい。その理由は、熱交換チューブ32が水平方向に配置されたクロスフィンコイル式熱交換器の場合には、下方部分から水滴の氷結が始まるので、この部分で水滴の氷結状態を検知するようにすることが好ましい。また、このように構成することにより、前述の暖房能力の増加効果を十分に享受することができる。
【0035】
しかしながら、外気温度が特定の温度A以下になると、上述のような特性が現れなくなるため、従来一般品で行われているのと同様のフロスト検知が行われる。したがって、この場合には、フロスト検知部25は、室外側熱交換器3における霜の発生が熱交換面の略全体に拡散するM3直前ぐらいを検知するようにしている。
【0036】
また、このようなフロスト検知部25におけるフロスト検知の方法、つまりデフロスト運転の開始時期の検知は、差圧センサ27により測定される室外側熱交換器3の通風抵抗値により行われている。また、外気サーモ26の検知する外気温度が特定の温度Aを超えているか、特定の温度A以下であるかにより、通風抵抗値の設定値を変更するように構成されている。図5から分かるように、外気温度が特定の温度Aを超える範囲において、室外側熱交換器3の通風抵抗と室外側熱交換器3における着霜過程とは一定の関係を持っている。したがって、着霜の成長過程に対応した室外側熱交換器3の通風抵抗データを把握することにより、このデータに基づき室外側熱交換器3における水滴の流下の有無や着霜の状態を検知する通風抵抗値を設定することができる。外気温度が特定の温度Aを超える範囲におけるデフロスト開始時期を決定する第1通風抵抗値は、このような方法により定められるものであって、室外側熱交換器3の熱交換面に付着している一部の水滴中に凍結が始まる状態を検出するように定められている。より具体的には、図7におけるM2の状態を示す通風抵抗値P2に近い値とする。また、外気温度が特定の温度A以下の範囲におけるデフロスト開始時期を決定する第2通風抵抗値は、従来のものと同様、室外側熱交換器3における通風がなくなる少し手前の通風抵抗値に定められている。より具体的には、図7におけるM3の状態を示す通風抵抗値P3に近い値とする。
【0037】
次に、デフロスト運転であるが、外気温度が特定の温度Aを超える範囲においては、前述のホットガスバイパス回路10のホットガスバイパスバルブ11を開放することにより、暖房運転を行いながらホットガスを室外側熱交換器3にバイパスしてデフロスト行う正サイクルデフロスト運転が行われる。これは、従来一般品のように熱交換面全体に凍結が広がる前にデフロストを行うようにしているため、デフロストのための熱量が少なくてすむことから正サイクルデフロストによりデフロストを行うように構成されている。また、このように構成することにより、暖房運転を一時的に停止することなく、かつ、暖房能力の変化が少ない安定した暖房運転を行うことができる。
【0038】
一方、外気温度が特定の温度A以下の範囲においては、室外側熱交換器3の熱交換面全体に霜が拡大した状態でデフロストを行うため、暖房運転を一時的に停止するとともに、室内ファン5aの運転を停止し、さらに、冷媒回路を冷房サイクルに切り換えて運転する逆サイクルデフロスト運転を行うようにしている。このような逆サイクルデフロストは、デフロストのための熱量を大きくすることができるので、デフロスト時間の短時間化を図ることができる。
【0039】
本実施の形態に係るヒートポンプ式空気調和機は、以上のように構成されており、次のような効果を奏することができる。
(1)デフロスト運転の開始時期を、室外側熱交換器3の熱交換面に付着した水滴が過冷却水状態のまま流下する状態から、熱交換面に付着した水滴が霜となって下方への流下が停止する状態までの間とすることにより、暖房能力の低下を抑制して暖房能力を向上させることができる。
【0040】
(2)特に、デフロスト運転の開始時期を、室外側熱交換器3の熱交換面に付着している一部の水滴中に凍結を始めるものが生じ始める状態、すなわち、水滴の流下が止まるM2の状態の少し手前の状態をデフロスト開始時期として検知するようにしているので、暖房能力の増加効果を十分に享受することができる。
【0041】
(3)また、上記のデフロスト運転開始時期は、外気温度が特定の温度Aを超える範囲においてのみ行っており、外気温度が特定の温度A以下の範囲においては、従来品におけると同様の時期にデフロスト運転を開始するようにしているので、合理的なデフロスト運転を行うことができる。
【0042】
(4)また、室外側熱交換器3は、プレートフィン31が鉛直方向に配置され、熱交換チューブ32が水平方向に配置されたクロスフィンコイル式熱交換器により形成されているので、熱交換面に付着した水滴を円滑に下方へ流下させることができる。したがって、室外側熱交換器3における着霜を大幅に遅らせることができ、暖房能力を大幅に改善することができる。
【0043】
(5)また、このようなクロスフィンコイル式熱交換器を用いた場合には、下方部分から水滴の氷結が始まるので、下方部分で水滴が氷結する状態を検知するようにしている。これにより、検知遅れを招くことがない。
【0044】
(6)また、室外側熱交換器3における着霜の成長過程に対応した室外側熱交換器3の通風抵抗データを制御部20に格納するとともに、運転時間とともに変化する室外側熱交換器3の通風抵抗を測定し、この測定データを通風抵抗データと比較することにより、室外側熱交換器3における水滴の流下の有無や着霜の状態を検知している。このように、フロスト検知部25におけるフロスト検知の方法を、室外側熱交換器3の通風抵抗の変化により行うようにしているので、容易にフロスト検知を行うことができる。
【0045】
(7)また、本発明におけるデフロスト装置は、外気温度が特定の温度Aを超える範囲においては正サイクルデフロストを行い、外気温度が特定の温度A以下の範囲においては逆サイクルデフロストを行なうようにしている。したがって、特定の温度Aを超える外気温度領域においては、デフロスト運転時の暖房能力の低下が少なく、安定した暖房運転を行うことができる。また特定の温度A以下の外気温度領域においては、強力なデフロスト能力を発揮し短時間の内にデフロスト運転を終了するようにしているので、合理的な暖房運転を行うことができる。
【0046】
(変形例)
上記実施の形態において以下のように変更することもできる。
・本実施の形態において、室外側熱交換器3の着霜過程に対応して室外側熱交換器3の出口の冷媒温度が変化するとともに、その変化率が変化する。したがって、室外側熱交換器の出口冷媒温度の一定時間当たりの変化を検知するセンサを設け、このセンサにより検知される室外側熱交換器3の出口冷媒温度の一定時間当たりの変化量が設定値以上になったときに前記デフロスト開始状態とすることもできる。
【0047】
・デフロスト運転として、外気温度が特定の温度Aを超える範囲においては正サイクルデフロスト運転が行われ、外気温度が特定の温度A以下の範囲においては、逆サイクルデフロスト運転を行うように形成されているが、これらフロスト運転は、他の公知のデフロスト運転に変更することは可能である。他の公知のデフロストロス運転としては、例えば、単純ホットガスバイパス、電気ヒータ方式などがある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係るヒートポンプ式空気調和機の冷媒回路図である。
【図2】同空気調和機に用いられる室外側熱交換器の通風側から見た正面図である。
【図3】同空気調和機における制御装置の機能ブロック図である。
【図4】従来一般品の室外側熱交換器と発明対象品の室外側熱交換器における霜の成長過程の相違を示す比較図であって、(a)欄は従来一般品における霜の成長過程図であり、(b)は発明対象品における霜の成長過程図であり、(c)欄は、着霜状態表示記号等の表示欄である。
【図5】室外側熱交換器における通風抵抗値、運転時間及び霜の成長過程との関係説明図である。
【図6】同ヒートポンプ式空気調和機の部分断面図であって、配管接続完了時の状態図である。
【図7】従来一般品と発明対象品とについて、外気温度とフロスト時間との関係図である。
【符号の説明】
【0049】
A…特定の温度、M1…熱交換面に付着している水滴が滴下し始める状態、M2…熱交換面に付着している水滴の流下が止まる状態、P1.P2.P3…通風抵抗値、3…室外側熱交換器、25…フロスト検知部、27…差圧センサ、31…プレートフィン、32…熱交換チュ−ブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換面に滑水性及び撥水性を大きくする着霜抑制塗膜が施された室外側熱交換器と、室外側熱交換器をデフロストするデフロスト装置と、室外側熱交換器のデフロスト開始状態を検知するフロスト検知部と備えたヒートポンプ式空気調和機であって、
前記フロスト検知部は、外気温度が特定の温度を越える範囲において、室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴が過冷却水として流下し始める状態から室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴の流下が止まる状態までの間の何れかの状態をデフロスト開始状態として検知することを特徴とするヒートポンプ式空気調和機。
【請求項2】
前記フロスト検知部は、室外側熱交換器の熱交換面に付着している水滴が流下し始める状態からこの水滴の流下が止まる状態までの間であって、室外側熱交換器の熱交換面に付着している一部の水滴中に凍結が始まる状態をデフロスト開始状態として検知することを特徴とする請求項1記載のヒートポンプ式空気調和機。
【請求項3】
前記室外側熱交換器は、プレートフィンが鉛直方向に配置され、熱交換チューブが水平方向に配置されたクロスフィンコイル式熱交換器であることを特徴とする請求項1又は2記載のヒートポンプ式空気調和機。
【請求項4】
前記フロスト検知部は、クロスフィンコイル式熱交換器である室外側熱交換器の下方部において一部の水滴中に凍結が始まる状態が検知されたときに前記デフロスト開始状態とすることを特徴とする請求項3記載のヒートポンプ式空気調和機。
【請求項5】
前記フロスト検知部は、室外側熱交換器の通風抵抗値を検知する差圧センサを設け、この差圧センサにより検知される通風抵抗値が設定値以上になったときに前記デフロスト開始状態とすることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のヒートポンプ式空気調和機。
【請求項6】
前記フロスト検知部は、室外側熱交換器の出口冷媒温度の一定時間当たりの変化を検知するセンサを設け、このセンサにより検知される出口冷媒温度の一定時間当たりの変化が設定値以上になったときに前記デフロスト開始状態とすることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のヒートポンプ式空気調和機。
【請求項7】
前記フロスト検知部は、外気温度が前記特定の温度以下の範囲においては、デフロスト開始状態として検知する状態が前記開始状態とは異なることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のヒートポンプ式空気調和機。
【請求項8】
前記デフロスト装置は、外気温度が前記特定の温度を超える範囲においては正サイクルデフロストを行い、外気温度が前記特定の温度以下の範囲においては逆サイクルデフロストを行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のヒートポンプ式空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−60163(P2010−60163A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223935(P2008−223935)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)