説明

ヒートポンプ式車両用空調装置

【課題】原形の冷房サイクルと圧力条件が同一となる回路部分、機器等を共用化し、最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、低コストでかつ搭載性に優れた信頼性の高いヒートポンプ式車両用空調装置を提供すること。
【解決手段】原形の冷房用の冷凍サイクル16に対して、電動圧縮機9の吐出回路に接続され、HVACユニット2の車内蒸発器7の下流側に配設された車内凝縮器8と、車外凝縮器8の入口側に設けられた切替え手段17を介してレシーバ11に接続される第1暖房用回路18と、レシーバ11の出口側と電動圧縮機9の吸入側との間に接続され、第2膨張弁20および車外蒸発器21が設けられた第2暖房用回路23とが具備され、電動圧縮機9、車内凝縮器8、切替え手段17、第1暖房用回路18、レシーバ11、第2膨張弁20および車外蒸発器21を備えた第2暖房用回路23により暖房用ヒートポンプサイクル24が構成可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等の空調に適用されるヒートポンプ式車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車等に適用される車両用空調装置では、エンジン冷却水などの燃焼排熱を利用した暖房運転を行うことができない。また、エンジンに代わる走行用モータやバッテリ等からの排熱を利用することは可能であるが、排熱量が少ないため、排熱のみを熱源とした暖房システムは成立しない。一方、電気ヒータを用いた暖房システムが考えられるが、バッテリ容量に対して暖房消費電力が大きいことから、車両の走行距離が著しく低下してしまうという問題が発生する。
【0003】
そこで、電気自動車等に適用する車両用空調装置として、電動圧縮機を備えたヒートポンプ方式の車両用空調装置が考えられているが、暖房時、冷媒回路を切替えて凝縮器を蒸発器、蒸発器を凝縮器として機能させるリバース方式のヒートポンプの場合、冷媒回路を構成する配管類や蒸発器、凝縮器等の熱交換器等を冷房運転および暖房運転の異なる圧力条件下で共用できるようにしなければならず、現行のエンジン駆動方式の車両に適用されている車両用空調装置を大幅に変更しなければならなかった。
【0004】
一方、HVACユニット(Heating Ventilation and Air Conditioning Unit)内に設けられる車内蒸発器に、現行システムの蒸発器を用いながらヒートポンプ暖房を可能とした車両用空調装置の一例として、特許文献1に示されたものが知られている。これは、現行の冷房用の冷凍サイクルを備えた車両用空調装置におけるHVACユニット内の車内蒸発器の下流側に車内凝縮器を設け、該車内凝縮器を圧縮機の吐出回路中に接続するとともに、その出口側に三方弁を設けてレシーバを接続し、該レシーバからHVACユニット内の車内蒸発器の上流側に設けられた過冷却器および膨張弁を経た冷媒を、暖房時に蒸発器として機能する車外凝縮器に導き、その出口側から圧縮機の吸入側に循環させる暖房用回路を追加設置した構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−23564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるものでは、車外凝縮器およびそれに接続される冷媒配管類を凝縮機能と蒸発機能を兼ね備えた熱交換器および高低圧共用の配管類としなければならず、現行システムからの変更幅が大きくならざるを得ない。また、車室内に設置されるHVACユニット側に、車内凝縮器の他にレシーバおよび過冷却器を設けなければならないため、HVACユニットの大型化は避けられず、従って、設置スペースの確保が難しくなり、車両への搭載性が悪化する等の課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、現行の車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が略同一となる回路部分および機器類を共用化し、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、低コストでかつ搭載性に優れた電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高いヒートポンプ式車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係るヒートポンプ式車両用空調装置は、電動圧縮機、車外凝縮器、レシーバ、第1膨張弁、HVACユニット内に設けられている車内蒸発器がこの順に接続されている冷房用の冷凍サイクルと、前記電動圧縮機の吐出回路に接続され、前記HVACユニット内の前記車内蒸発器の下流側に配設されている車内凝縮器と、前記車外凝縮器の入口側に設けられている切替え手段を介して前記レシーバに接続される第1暖房用回路と、前記レシーバの出口側と前記電動圧縮機の吸入側との間に接続され、第2膨張弁および車外蒸発器が設けられている第2暖房用回路と、を備え、前記電動圧縮機、前記車内凝縮器、前記切替え手段、前記第1暖房用回路、前記レシーバ、前記第2膨張弁および前記車外蒸発器を備えた前記第2暖房用回路によって暖房用ヒートポンプサイクルが構成可能とされていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、電動圧縮機、車外凝縮器、レシーバ、第1膨張弁およびHVACユニット内に設けられている車内蒸発器等からなる冷房用の冷凍サイクルに対して、電動圧縮機の吐出回路に接続され、HVACユニット内の車内蒸発器の下流側に配設されている車内凝縮器と、車外凝縮器の入口側に設けられている切替え手段を介してレシーバに接続される第1暖房用回路と、レシーバの出口側と電動圧縮機の吸入側との間に接続され、第2膨張弁および車外蒸発器が設けられている第2暖房用回路とが具備され、電動圧縮機、車内凝縮器、切替え手段、第1暖房用回路、レシーバ、第2膨張弁および車内蒸発器を備えた第2暖房用回路により暖房用ヒートポンプサイクルが構成可能とされているため、原形となる冷房用の冷凍サイクルの吐出回路に車内凝縮器、車外凝縮器の入口側とレシーバとの間に第1暖房用回路、レシーバの出口側と電動圧縮機の吸入側との間に第2膨張弁および車外蒸発器を備えた第2暖房用回路等の最小限の暖房用回路および機器を接続することによって、圧力条件が同一となる回路部分および機器類を共用化して暖房用ヒートポンプサイクルを構成することができる。従って、冷暖房双方の運転に耐え得る仕様の回路を新たに開発することなく、エンジン駆動方式の車両に用いられている現行の車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が同一となる回路部分および機器類をそのまま共用化し、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、低コストでありかつ搭載性に優れた電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高いヒートポンプ式車両用空調装置を提供することができる。
【0010】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上記のヒートポンプ式車両用空調装置において、前記車外蒸発器が、前記車外凝縮器用の車外ファンの通風路中に、前記車外凝縮器と互いに平行に設置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、車外蒸発器が、車外凝縮器用の車外ファンの通風路中に、車外凝縮器と互いに平行に設置されているため、冷房用の車外凝縮器に外気を通風する車外ファンにより、暖房サイクル用に設けられる車外蒸発器に対して外気を通風し、外気から吸熱してヒートポンプ暖房を行うことができる。従って、車外ファンを共用化して部品点数を抑制することができ、ヒートポンプ式車両用空調装置の構成の簡素化、コンパクト化および低コスト化を図ることができる。
【0012】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上述のいずれかのヒートポンプ式車両用空調装置において、前記レシーバが、該レシーバに接続される前記車外凝縮器からの冷媒回路および前記第1暖房用回路の冷媒流入口に、それぞれ逆止弁が組み込まれている逆止弁付きレシーバとされていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、レシーバが、該レシーバに接続される車外凝縮器からの冷媒回路および第1暖房用回路の冷媒流入口に、それぞれ逆止弁が組み込まれている逆止弁付きレシーバとされているため、運転モードにより使われない冷房または暖房用の冷媒回路をレシーバの冷媒流入口に組み込まれている逆止弁を介して遮断することができる。従って、レシーバおよび逆止弁を個別に冷媒回路中に設けたものに比べ、フランジ等の接続部品が不要となり、冷媒回路の簡素化、低コスト化を図ることができる。
【0014】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上述のいずれかのヒートポンプ式車両用空調装置において、前記第1膨張弁および前記第2膨張弁が、それぞれ温度式自動膨張弁とされており、その入口側にそれぞれ第1電磁弁および第2電磁弁が設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、第1膨張弁および第2膨張弁が、それぞれ温度式自動膨張弁とされており、その入口側にそれぞれ第1電磁弁および第2電磁弁が設けられているため、膨張弁を従来から使用されている温度式自動膨張弁とすることにより、膨張弁の開度を制御する制御系を不要とすることができるとともに、運転モードに応じて使われない冷媒回路を第1電磁弁および第2電磁弁で全閉状態とすることにより、該回路等に対する冷媒の溜まりを防止することができる。従って、膨張弁として安価で信頼性の高い温度式自動膨張弁を使うことができるとともに、電磁弁により休止回路を確実に全閉状態として冷媒の溜まり込み等を防止することができる。
【0016】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上述のいずれかのヒートポンプ式車両用空調装置において、前記第1膨張弁および前記第2膨張弁が、それぞれ電子膨張弁とされていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、第1膨張弁および第2膨張弁が、それぞれ電子膨張弁とされているため、運転モードに応じて使われない冷房または暖房用の冷媒回路を、該回路中に設けられている電子膨張弁を全閉状態とすることにより、冷房時に休止される車外蒸発器、暖房時に休止される車内蒸発器等への冷媒の溜まりを防止することができる。従って、上記休止回路を全閉状態とする電磁弁等を設ける必要がなく、冷媒回路の簡素化、低コスト化を図ることができる。
【0018】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上述のいずれかのヒートポンプ式車両用空調装置において、前記車外蒸発器および前記車内蒸発器と前記電動圧縮機の吸入側との間を接続する第2暖房用回路および冷媒回路中に、それぞれ逆止弁が設けられていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、車外蒸発器および車内蒸発器と電動圧縮機の吸入側との間を接続する第2暖房用回路および冷媒回路中に、それぞれ逆止弁が設けられているため、運転モードに応じて休止される車外蒸発器または車内蒸発器と電動圧縮機の吸入側との間を逆止弁により遮断することができる。従って、休止中の車外蒸発器または車内蒸発器を確実に機能停止させることができる。
【0020】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上述のいずれかのヒートポンプ式車両用空調装置において、前記HVACユニット内に、暖房用の補助電気ヒータが設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、HVACユニット内に、暖房用の補助電気ヒータが設けられているため、低外気温時や暖房立ち上がり時あるいは窓曇り時等々の暖房能力が不足気味となる状況下において、ヒートポンプ暖房運転と同時に一時的に補助電気ヒータを動作させることによって吹出し空気温度を上昇させ、暖房能力の不足を補うことができる。従って、必要な最大暖房能力を十分に確保することができるとともに、電気ヒータを主熱源として暖房運転するものに比べ、補助電気ヒータの利用率を下げることで高効率運転ができ、暖房消費電力の増大による車両走行距離の低下等を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、原形となる冷房用の冷凍サイクルの吐出回路に車内凝縮器、車外凝縮器の入口側とレシーバとの間に第1暖房用回路、レシーバの出口側と電動圧縮機の吸入側との間に第2膨張弁および車外蒸発器を備えた第2暖房用回路等の最小限の暖房用回路および機器を接続することによって、圧力条件が同一となる回路部分および機器類を共用化して暖房用ヒートポンプサイクルを構成することができるため、冷暖房双方の運転に耐え得る仕様の回路を新たに開発することなく、エンジン駆動方式の車両に用いられている現行の車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が同一となる回路部分および機器類をそのまま共用化し、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、低コストでありかつ搭載性に優れた電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高いヒートポンプ式車両用空調装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るヒートポンプ式車両用空調装置の冷媒回路図である。
【図2】図1に示すヒートポンプ式車両用空調装置に組み込まれるレシーバの縦断面図(A)とその平面図(B)および図(B)のa−a断面相当図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の一実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係るヒートポンプ式車両用空調装置の冷媒回路図が示され、図2には、それに組み込まれるレシーバの構成図が示されている。本実施形態のヒートポンプ式車両用空調装置1は、HVACユニット(Heating Ventilation and Air Conditioning Unit)2と、冷暖房可能なヒートポンプサイクル3とを備えている。
【0025】
HVACユニット2は、車室内からの内気または外気のいずれかを切替え導入し、下流側に圧送するブロア4と、ブロア4に連なる空気流路5中に上流側から下流側にかけて順次配設されている補助電気ヒータ(例えば、PTCヒータ)6と、車内蒸発器7と、車内凝縮器8とを備えている。このHVACユニット2は、一般に車室内前方のインストルメントパネル内に設置されており、補助電気ヒータ6、車内蒸発器7および車内凝縮器8によって温調された空気流を、車室内に向けて開口されている複数の吹出し口から選択的に車室内へと吹出し、車室内を設定温度に空調できるように構成されている。
【0026】
なお、HVACユニット2内に設置されている車内凝縮器8に対しては、通風を遮蔽可能なダンパ(図示省略)が設けられており、冷房モード時には、車内蒸発器7により冷却された冷風を、車内凝縮器8をバイパスして車室内へと吹出し、除湿モード時には、車内蒸発器7により冷却された冷風を、車内凝縮器8で再熱して車室内へと吹出すことができるように構成されている。
【0027】
冷暖房可能なヒートポンプサイクル3は、冷媒を圧縮する電動圧縮機9と、車外凝縮器10と、レシーバ11と、第1電磁弁12および第1膨張弁13と、車内蒸発器7と、逆止弁14とがこの順に冷媒配管15を介して接続されている閉サイクルの冷房用の冷凍サイクル(冷媒回路)16を備えている。この冷房用の冷凍サイクル16は、エンジン駆動方式の車両に適用されている現行の車両用空調装置と同様のものである。
【0028】
上記ヒートポンプサイクル3には、更に電動圧縮機9からの吐出配管(吐出回路)15AにHVACユニット2内に設置されている車内凝縮器8が接続されている。また、車外凝縮器10の入口側冷媒配管15Bに三方切替え弁(切替え手段)17が設けられ、この三方切替え弁17を介してレシーバ11に車内凝縮器8で凝縮された冷媒を導く第1暖房用回路18が接続されている。さらに、レシーバ11の出口配管15Dと電動圧縮機9への吸入配管15Eとの間に、第2電磁弁19、第2膨張弁20、車外蒸発器21および逆止弁22が順次設けられた第2暖房用回路23が接続されている。
【0029】
これによって、電動圧縮機9と、HVACユニット2内に設置されている車内凝縮器8と、三方切替え弁17と、第1暖房用回路18と、レシーバ11と、第2電磁弁19、第2膨張弁20、車外蒸発器21および逆止弁22が設けられている第2暖房用回路23とがこの順に冷媒配管15を介して接続される閉サイクルの暖房用のヒートポンプサイクル(冷媒回路)24が構成可能とされている。
【0030】
上記のヒートポンプサイクル3において、暖房用のヒートポンプサイクル24を構成している車外蒸発器21は、冷房用の冷凍サイクル16を構成している車内凝縮器8に対して、外気を通風する車外ファン25の通風路中に、車内凝縮器8に互いに平行に設置されており、車外ファン25を共用化している。なお、本実施形態では、車内凝縮器8の下流側に車外蒸発器21が設置されているが、逆であってもよい。
【0031】
また、本実施形態のレシーバ11は、図2に示されるように、車内凝縮器8からの冷媒配管15Cおよび第1暖房用回路18が接続される2つの冷媒流入口26,27にそれぞれ逆止弁28,29が一体的に組み込まれた逆止弁付きレシーバ11とされている。該逆止弁付きレシーバ11は、底を有する筒状の本体30と、該本体30の一端開口部に溶接された蓋体31と、該蓋体31に一端が接続され、他端が本体30の底部付近まで延長された冷媒流出管32と、本体30内の上方部に設置された上下一対のフィルタ33,34間に乾燥剤35を充填することにより構成されたドライヤ36とから構成されたドライヤ内蔵の逆止弁付きレシーバ11とされている。
【0032】
蓋体31には、上記の如く、冷媒配管15Cおよび第1暖房用回路18が接続される2つの冷媒流入口26,27と冷媒流出管32が接続されている冷媒流出口37とが設けられている。該冷媒流入口26,27および冷媒流出口37には、各々冷媒配管を接続するためのフィッテング部38,39,40が設けられ、該フィッテング部38,39,40を介して冷媒配管15C,15Dおよび第1暖房用回路18が接続されている。また、冷媒流入口26,27内には、逆止弁28,29が止め輪およびストッパ41,42を介して組み込まれている。
【0033】
なお、本実施形態では、第1膨張弁13および第2膨張弁20として、温度式自動膨張弁が使用されており、それぞれの入口側に第1電磁弁12および第2電磁弁19が設けられた構成とされている。しかし、これらの第1電磁弁12および第1膨張弁13、第2電磁弁19および第2膨張弁20に代えて、電子膨張弁をそれぞれ1個ずつ設置した構成としてもよい。
【0034】
斯くして、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記ヒートポンプ式車両用空調装置1において、冷房運転時、電動圧縮機9で圧縮された冷媒は、吐出配管15Aにより車内凝縮器8、三方切替え弁17を経由して車外凝縮器10に循環され、車外ファン25に通風される外気と熱交換されて凝縮液化される。この液冷媒は、冷媒配管15C、逆止弁28を経てレシーバ11内に導入され、ここで、いったん貯留された後、冷媒配管15D、第1電磁弁12を経て第1膨張弁13に導かれ、減圧されて気液二相状態となり、車内蒸発器7に供給される。
【0035】
車内蒸発器7でブロア4から送風されてくる内気または外気と熱交換されて蒸発ガス化された冷媒は、逆止弁14を経て電動圧縮機9に吸入され、再圧縮される。以下、同様のサイクルを繰り返すことになるが、この冷房サイクルは、エンジン駆動方式の車両に用いられている現行の車両用空調装置の冷房サイクルと何ら変わるものではなく、そのまま共用化することができる。車内蒸発器7で冷媒との熱交換されることにより冷却された内気または外気は、車室内に吹出され、車室内の冷房に供されることになる。
【0036】
なお、冷房運転時、車内凝縮器8への通風は、ダンパによって遮蔽され、車内蒸発器7で冷却された冷風がそのまま車室内へと吹出されるようになっているため、車内凝縮器8において冷媒は殆んど凝縮されることなく、車外凝縮器10に循環され、車外凝縮器10で外気と熱交換されることにより凝縮液化されることになる。
また、上記冷房サイクルで運転しながら、車内凝縮器8の入口に設けられているダンパを開くことにより、車内蒸発器7で冷却された冷風を車内凝縮器8に通風して再熱することができ、これによって、再熱除湿運転を行うことができる。
【0037】
一方、暖房運転時、電動圧縮機9で圧縮された冷媒は、吐出配管15Aにより車内凝縮器8に導入され、ここで、ブロア4から送風されてくる内気または外気と熱交換されて放熱される。これによって、加熱された空気は、車室内に吹出され、車室内の暖房に供されることになる。放熱して凝縮液化された冷媒は、三方切替え弁17により第1暖房用回路18に導かれ、逆止弁29を経てレシーバ11内に導入される。ここで、いったん貯留された冷媒は、冷媒配管15Dを経て第2暖房用回路23に導かれ、第2電磁弁19を経て第2膨張弁20を通過する過程で減圧されることにより気液二相状態となり、車外蒸発器21に供給される。
【0038】
この冷媒は、車外蒸発器21で車外ファン25により通風される外気と熱交換され、外気から吸熱して蒸発ガス化された後、逆止弁22を経て電動圧縮機9に吸入され、再圧縮される。以下、同様のサイクルを繰り返し、この暖房用のヒートポンプサイクル24によって、ヒートポンプ暖房が行なわれることになる。
【0039】
このように、原形となる冷房用の冷凍サイクル16の吐出配管(吐出回路)15Aに車内凝縮器8、車外凝縮器10の入口側に設けられた三方切替え弁17とレシーバ11との間に第1暖房用回路18、レシーバ11の出口側と電動圧縮機9の吸入側との間に第2膨張弁20、および車外蒸発器21が設けられた第2暖房用回路23等の最小限の暖房用回路および機器を接続することによって、圧力条件が同一となる回路部分および機器類を共用化して暖房用ヒートポンプサイクルを構成することができる。
【0040】
このため、冷暖房双方の運転に耐え得る仕様の回路を新たに開発することなく、エンジン駆動方式の車両に用いられている現行の車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が略同一となる回路部分および機器類をそのまま共用化し、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、低コストでありかつ搭載性に優れた電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高いヒートポンプ式車両用空調装置1を提供することができる。
【0041】
また、車外蒸発器21は、車外凝縮器10に外気を通風する車外ファン25の通風路中に車外凝縮器10と互いに平行に設置されており、暖房時、車外ファン25によって外気が通風され、この外気からの吸熱によりヒートポンプ暖房が行われるようになっている。このため、車外ファン25を共用化して部品点数を抑制することができ、ヒートポンプ式車両用空調装置1の構成の簡素化、コンパクト化および低コスト化を図ることができる。
【0042】
また、レシーバ11が、冷媒流入口26,27に逆止弁28,29が一体的に組み込まれた逆止弁付きレシーバとされている。これによって、運転モードに応じて使用しない冷房用の冷凍サイクル16または暖房用のヒートポンプサイクル24を、レシーバ11の冷媒流入口26,27に組み込まれている逆止弁28,29により遮断することができる。このため、レシーバ11および逆止弁28,29を個別に冷媒回路中に設けたシステムに比べ、フランジ等の接続部品が不要となり、冷媒回路の簡素化、低コスト化を図ることができる。なお、本実施形態では、レシーバ11をドライヤ36付きとしているが、必ずしもドライヤ36付きである必要はなく、ドライヤ無しでもよいことはもちろんである。
【0043】
さらに、本実施形態においては、第1膨張弁13および第2膨張弁20をそれぞれ温度式自動膨張弁とし、その入口側に第1電磁弁12および第2電磁弁19を設けた構成としている。このため、冷房時は車内蒸発器7、暖房時は車外蒸発器7で蒸発される冷媒の蒸発器出口での過熱度が一定となるように自動制御することができ、従って、冷媒圧力検出手段および冷媒温度検出手段を必要とする電子膨張弁を使用したものに比べ、制御系を簡素化し、低コスト化することができるとともに、信頼性を向上することができる。
【0044】
また、運転モードに応じて使われない冷媒回路を第1膨張弁13および第2膨張弁20の入口側に設けた第1電磁弁12および第2電磁弁19で閉じることができるようになっている。従って、休止される回路を確実に全閉状態として冷媒の溜まり込み等を防止することができる。
【0045】
しかし、本実施形態においては、上記にもかかわらず、これらの第1電磁弁12および第1膨張弁13、第2電磁弁19および第2膨張弁20を、それぞれ電子膨張弁を1個ずつ設置した構成により代替してもよい。これによると、休止される回路中に設けられている電子膨張弁を全閉状態とすることにより、冷房時に休止される車外蒸発器21、暖房時に休止される車内蒸発器7等への冷媒の溜まりを防止することができ、従って、休止回路を全閉状態とする電磁弁等の設置を省略し、冷媒回路の簡素化、低コスト化を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態では、車外蒸発器21および車内蒸発器7と電動圧縮機9の吸入側との間を接続する第2暖房用回路23および冷媒回路15Eに、それぞれ逆止弁22,12を設けている。このため、運転モードに応じて休止される車外蒸発器21または車内蒸発器7と電動圧縮機9の吸入側との間を逆止弁22,12により遮断することができ、従って、休止中の車外蒸発器21または車内蒸発器7を確実に機能停止させることができる。
【0047】
さらに、本実施形態によっては、HVACユニット2内に、PTCヒータ等により構成される暖房用の補助電気ヒータ6を設置している。これにより、低外気温時や暖房立ち上がり時あるいは窓曇り時等々の暖房能力が不足気味となる状況下においては、ヒートポンプ暖房運転と同時に一時的に補助電気ヒータ6を動作させることによって吹出し空気温度を上昇させ、暖房能力の不足を補うことができる。このため、必要最大暖房能力を増大することができるとともに、電気ヒータを主熱源として暖房運転するものに比べ、補助電気ヒータ6の利用率を低下して高効率運転ができ、暖房消費電力の増大による車両走行距離の低下等を抑制することができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、HVACユニット2は、車内蒸発器7の下流側に温調用のエアミックスダンパが設けられているエアミックス方式のHVACとしてもよい。また、三方切替え弁17は、2個の電磁弁で代替してもよいし、四方切替え弁によって代替してもよい。
【0049】
さらに、上記実施形態では、第1膨張弁13および第2膨張弁20の入口側に第1電磁弁12および第2電磁弁19を設けた構成としているが、これらの第1電磁弁12と第1膨張弁13および第2電磁弁19と第2膨張弁20は、各々を一体化した電磁開閉弁付き温度式自動膨張弁としてもよいことはもちろんである。また、車外蒸発器21は、車両走行用モータやインバータ、バッテリ等から排出される熱から吸熱できるように、その放熱用ラジエータと関連つけて配設してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 ヒートポンプ式車両用空調装置
2 HVACユニット
3 ヒートポンプサイクル
6 補助電気ヒータ
7 車内蒸発器
8 車内凝縮器
9 電動圧縮機
10 車外凝縮器
11 レシーバ(逆止弁付きレシーバ)
12 第1電磁弁
13 第1膨張弁(温度式自動膨張弁)
14 逆止弁
15 冷媒配管
15A 吐出回路(吐出配管)
16 冷房用冷凍サイクル
17 三方切替え弁(切替え手段)
18 第1暖房用回路
19 第2電磁弁
20 第2膨張弁(温度式自動膨張弁)
21 車外蒸発器
22 逆止弁
23 第2暖房用回路
24 暖房用ヒートポンプサイクル
25 車外ファン
26,27 冷媒流入口
28,29 逆止弁



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動圧縮機、車外凝縮器、レシーバ、第1膨張弁、HVACユニット内に設けられている車内蒸発器がこの順に接続されている冷房用の冷凍サイクルと、
前記電動圧縮機の吐出回路に接続され、前記HVACユニット内の前記車内蒸発器の下流側に配設されている車内凝縮器と、
前記車外凝縮器の入口側に設けられている切替え手段を介して前記レシーバに接続される第1暖房用回路と、
前記レシーバの出口側と前記電動圧縮機の吸入側との間に接続され、第2膨張弁および車外蒸発器が設けられている第2暖房用回路と、を備え、
前記電動圧縮機、前記車内凝縮器、前記切替え手段、前記第1暖房用回路、前記レシーバ、前記第2膨張弁および前記車外蒸発器を備えた前記第2暖房用回路によって暖房用ヒートポンプサイクルが構成可能とされていることを特徴とするヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項2】
前記車外蒸発器が、前記車外凝縮器用の車外ファンの通風路中に、前記車外凝縮器と互いに平行に設置されていることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項3】
前記レシーバが、該レシーバに接続される前記車外凝縮器からの冷媒回路および前記第1暖房用回路の冷媒流入口に、それぞれ逆止弁が組み込まれている逆止弁付きレシーバとされていることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項4】
前記第1膨張弁および前記第2膨張弁が、それぞれ温度式自動膨張弁とされており、その入口側にそれぞれ第1電磁弁および第2電磁弁が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項5】
前記第1膨張弁および前記第2膨張弁が、それぞれ電子膨張弁とされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項6】
前記車外蒸発器および前記車内蒸発器と前記電動圧縮機の吸入側との間を接続する第2暖房用回路および冷媒回路中に、それぞれ逆止弁が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項7】
前記HVACユニット内に、暖房用の補助電気ヒータが設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のヒートポンプ式車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−96634(P2012−96634A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245220(P2010−245220)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】