説明

ヒートロール製造用アルミニウム合金ビレット

【課題】強度、高温クリープ性、耐熱性に優れ、表面が黒色でなく、特にヒートロールに適したアルミニウム合金ビレット開発することを目的とする。
【解決手段】上記の課題は、Mnが0.97〜1.50質量%、Mgが0.50〜2.50質量%、Cuが0.20〜1.40質量%、Feが0.20〜1.00質量%、Tiが0.01〜0.50質量%、Beが0.0001〜0.01質量%、残部がAl及び不可避的不純物であるアルミニウム合金からなるヒートロール用のビレットにより解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒートロール製造用アルミニウム合金ビレットに関し、さらに詳しくは強度、高温クリープ特性に優れ、表面が非黒色で、清浄なアルミニウム合金ビレットに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機などに使用されるヒートロールは軽量、非磁性で熱伝導性、耐熱性が要求されることからアルミニウム合金が用いられている。アルミニウム合金の中で5052や5056合金は高温強度が高い合金として知られている。そのため以前からこれらの合金がヒートロールに用いられてきている。しかしこの合金はヒートロールとして繰り返し使用されると、高温クリープ特性が十分でないので、使用中の加圧により変形することがある。またこの合金の押出加工はマンドレルを用いて行われるためコスト高となる。
上記の合金に代わるものとしてMnが0.5〜0.9%、Mgが0.1〜2.0%含むアルミニウム合金が提案されている(特許文献1参照)。この合金はMnが比較的少ないので加工性は良いが強度が十分でない。特に近年は省エネの観点からヒートロールの薄肉化の傾向にあるところから、特に強度の高い合金が求められている。
【0003】
またMnの含有量が高いヒートロール用合金としては特開平2−149628号(特許文献2)がある。この合金はMnが1.0〜5.0%、Mgが0.1〜2.0%を含み、その他選択成分としてZr、Cu、Ni、Si、Cr、Zn、Fe、Tiを少量含むものである。
上記の合金の組成範囲内でMgが多いものは強度は高いが、共通の問題として、合金ビレットを製造する際、Mgが酸化され易く、その結果合金中に酸化物の介在物が多くなり、特性が低下するだけでなく、酸化物によりビレット表面が黒色を呈し、平滑性に劣る。ヒートロールはビレットをまず押出し、次いで引き抜き加工されて製造されるが、ビレットの表面が清浄でないと、その後の加工面に影響するするので、表面を清浄にする切削等が必要になり、加工工程が増え、コスト高となる。
【特許文献1】特開平9−170039号公報
【特許文献2】特開平2−149628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みなされたもので、強度、高温クリープ性、耐熱性に優れ、表面が黒色でなく、特にヒートロールに適したアルミニウム合金ビレットを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するために鋭意研究した結果なされたもので、以下の各項の発明からなる。
(1)Mnが0.97〜1.50質量%、Mgが0.50〜2.50質量%、Cuが0.20〜1.40質量%、Feが0.20〜1.00質量%、Tiが0.01〜0.50質量%、Beが0.0001〜0.01質量%、残部がAl及び不可避的不純物であるアルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット。
(2)Mgが1.00〜2.00質量%である上記(1)に記載のビレット。
(3)Si1.00質量%以下、Cr0.50質量%以下、Zr0.50質量%以下の少なくとも一種を含む上記(1)又は(2)に記載のビレット。
(4)直径が5インチ(12.7cm)以下である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のビレット。
(5)直径が4インチ(10.16cm)以下である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のビレット。
(6)平均結晶粒径が1mm以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のビレット。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のビレットから製造されたヒートロール。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアルミニウム合金ビレットは表面が非黒色、清浄で、その後の押し出し加工、引き抜き加工を、特に清浄化工程を設けずに行うことができ、加工工程が能率的である。
またアルミニウム合金はBe添加により、Mgの酸化が防止され、そのために合金中の酸化物の介在物が少なく、合金特性の劣化が防止されている。
さらに、Mn、Mgの含有量が比較的高いことから、強度、高温クリープ特性、耐熱性にも優れている。Mn、Mgの含有量が高いことによる加工性の問題はビレットを小さい径で鋳造し、結晶粒を抑えることにより十分に解決可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のヒートロール用のアルミニウム合金はMn、Mg、Cu、Fe、Ti、Beを必須成分として含む。
Mnは合金中に0.97〜1.50質量%(以下%は特に断りない場合は質量%を表す)含有する。Mnは、分散第二相であるMnAlとして結晶組織内に細かく分散し、マトリックスを強化して高温クリープ特性を向上させる。Mnの量は0.97%より少ないとこの特性向上が十分でなく、また1.50%を越えると加工性が劣り、ビレットをかなり細くしても加工が難しくなる。
【0008】
Mgはアルミニウムに固溶して存在し、合金中の強度を向上させるのに寄与する。この強度を大きくするために本発明の合金では0.50%以上含有させる。しかしあまり多いと加工性が劣り、押出し加工が難しくなるので2.50%が限度である。上記の範囲内で0.80〜1.40%が特に好ましい。
CuはAl−Cu−Mg系化合物を析出し、高温クリープ特性を向上させるもので、0.20%以上必要であるが、1.40%を越えると押出し特性が低下する。
【0009】
Feはマトリックス中にAlFeとしてMnと共存微細析出物を形成し結晶微細化に寄与し、加工性及び高温クリープ性改善に寄与する。その効果を発現するためには0.20%以上必要である。しかし多過ぎると粗大結晶が析出したりして特性が低下するので、1.00%以下とする。
Tiは再結晶の微細化に寄与し、マトリックスを強化、加工性、高温クリープの特性を向上させる。そのために0.01%以上必要であるが、0.5%を越えると粗大粒が発生し特性が低下する。
【0010】
BeはMgの酸化防止のために添加するものである。アルミニウム合金において、Mgは酸化され易く、特にその含有量が高くなると顕著である。この酸化は主としてビレットに鋳造する際の溶湯処理の際に生じる。BeはMg、AlよりOとの親和力が強く、Beの酸化膜は添加後溶湯表面を覆い、Mgの酸化を防止する。その後鋳造時、鋳塊(ビレット)表面もBeの堅固な酸化膜で覆い、表面相の酸化を防止、表面結晶粒度粗大化防止に寄与、滑らかな表面鋳肌を形成する。Mgが酸化すると、その酸化物が介在物として合金中に存在し、特性劣化の原因になるばかりでなく、ビレット表面が黒くなる。そのためにその除去等の工程が必要になる。
またBeはCu−Mg合金晶出物の微細分散化を助け、マトリックスを強化、加工性、高温クリープ特性改善に寄与する。これらのBeの作用効果はBeの添加がわずかの場合にも生ずる。
したがってBeは0.0001%以上、好ましくは0.001%以上あればよい。その上限は、多くても作用効果が飽和するので、経済性等も考慮して0.01%とした。
【0011】
本発明のアルミニウム合金ビレットにはその他にSi、Cr、Zrが選択的に添加することができる。
SiはMgと化合物を生成し、これが合金中に析出して 合金の強度を向上する。しかし1.00%を越えるとその化合物の析出物が粗大化するので1.00%以下が好ましい。
Cr、Zrは共に再結晶粒の微細化の作用を有し、マトリックスを強化し、加工性、高温クリープ特性を向上させる。但し、0.50%を越えると結晶が粗大化するので0.50%以下とするのがよい。
本発明のビレットは上記の組成にした原料を溶解し、鋳造することによって得ることができる。これには冷却した円筒状の鋳型内に合金溶湯を上部より注入し、固化させ、下部より引き取る連続鋳造法が好ましい。
【0012】
本発明の合金は、その効果を高めるため急冷ホットトップ鋳造法によりビレット径は5インチ(12.7cm)以下、望ましくは4インチ(10.16cm)以下のビレットに鋳造、急冷凝固、微細組織鋳塊とすることがポイントである。ビレットはその後500〜650℃、好ましくは550〜600℃で均質化処理する。こうして 処理されたビレットの結晶粒は通常平均1mm以下であり、さらにビレット が5インチ以下と細い場合は0.8mm以下とすることもできる。
均一化処理されたビレットは先ず450〜500℃で押し出し加工を行い、次いでヒートロールの形状に冷間引き抜き加工を行う。
【実施例】
【0013】
以下実施例により本発明を具体的に示すが本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例、比較例)
実施例として表1に示す組成(残部はアルミニウム及び不可避的不純物)のアルミニウム合金溶湯を連続鋳造し、直径4インチ(10.16cm)のビレットを製造した。表中比較例は実施例とBeを除きほぼ同じ組成である。
製造された各ビレットの表面状態を示す写真を図1に示す。図1の右側が実施例のもの、左側が比較例のものである。実施例のものは表面がアルミニウムの色(銀白色)であるが、比較例のものは黒色を呈している
【0014】
【表1】

【0015】
次いでビレットを570℃で6時間均一化処理をした。処理後のビレット断面をマクロ組織で観察した結果結晶サイズは殆ど平均1mm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のアルミニウム合金はBeの添加により、Mgの酸化が防止され、ビレットの表面が黒色にならず、その後の加工に有利である。またBeの添加はCu−Mg合金析出物の微細分散化を助け、マトリックスを強化、加工性、高温クリープ特性を改善する。その結果、ヒートロール製造用の優れた合金として産業上の利用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ビレット表面写真で右側が本発明の実施例によるもの、左側が比較例によるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnが0.97〜1.50質量%、Mgが0.50〜2.50質量%、Cuが0.20〜1.40質量%、Feが0.20〜1.00質量%、Tiが0.01〜0.50質量%、Beが0.0001〜0.01質量%、残部がAl及び不可避的不純物であるアルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット。
【請求項2】
Mgが1.00〜2.00質量%である請求項1に記載のビレット。
【請求項3】
Si1.00質量%以下、Cr0.50質量%以下、Zr0.50質量%以下の少なくとも一種を含む請求項1又は2に記載のビレット。
【請求項4】
直径が5インチ(12.7cm)以下である請求項1〜3のいずれかに記載のビレット。
【請求項5】
直径が4インチ(10.16cm)以下である請求項1〜4のいずれかに記載のビレット。
【請求項6】
平均結晶粒径が1mm以下である請求項1〜5のいずれかに記載のビレット。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のビレットから製造されたヒートロール。

【図1】
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【公開番号】特開2007−162046(P2007−162046A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357239(P2005−357239)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(392037116)東洋アルミ株式会社 (2)