ヒール付き靴
【課題】主として、パンプスと称されている女性用の靴、特にハイヒールパンプスやミドルヒールパンプス等、ある程度の高さのヒールを有するヒール付きの靴に関し、外反母趾が生じるのを好適に防止することができ、また歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることや、靴の前部側の不用意な変形をも防止することができる靴を提供することを課題とする。
【解決手段】甲皮と、ヒールを有する靴底とで靴本体が形成されたヒール付き靴であって、靴本体の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部が設けられていることを特徴とする。
【解決手段】甲皮と、ヒールを有する靴底とで靴本体が形成されたヒール付き靴であって、靴本体の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部が設けられていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、パンプスと称されている女性用の靴、特にハイヒールパンプスやミドルヒールパンプス等、ある程度の高さのヒールを有するヒール付きの靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、女性用の靴として紐や留め金を使わず、甲部を深くカットして開口部を大きく形成したパンプスと称されている靴が知られている。このようなパンプスは、ヒールが低いフラットヒールパンプスから、ヒールが中程度のミドルヒールパンプス、ヒールが高いハイヒールパンプスまで各種態様のものがある。
【0003】
ところが、このようなパンプスは、女性用の靴として美しいラインを形成するために、靴先部が細く形成されており、靴を着用したときに、着用者の足指が靴先部の狭い空間に押込まれた状態となり易い。特にハイヒールパンプスやミドルヒールパンプスのように、ヒール5が図10のようにある程度の高さに形成されたパンプスの場合は、その前傾した靴底形状により、歩くごとに靴15に対して足が前方側に滑ってずれ易く、図11に示す靴先部16に押込まれた足指9a、9b、9c、9d、9eの部分が外側から圧迫され、歩行に伴って絶えず周囲から締付けられる状態になる。
【0004】
このような各足指の締付けが長期にわたり繰返されることは、外反母趾の原因ともなる。外反母趾は、足先を踏出した際に靴の甲皮が親指と小指間を強く締付けることによって生ずる足指の変形現象であり、これに伴う足先の痛みや歩行困難が問題とされている。特に、パンプスの場合は、甲部を深くカットして開口部が大きく形成されているので、着用者の足が保持される部分は主に甲皮の前部側であり、従って、足指の部分に外側からの力が集中的にかかり易く、パンプス以外の靴に比べて外反母趾が特に生じ易いものとなっていた。
【0005】
上記のような外反母趾を防止するために、たとえば下記特許文献1乃至3のような特許出願もなされている。特許文献1に係る発明は、中底を局部的に屈曲容易な素材とし、且つこの屈曲容易な素材の底面の少なくとも一部に、屈曲性を助長する切込加工を施したものである。
【0006】
また、特許文献2に係る発明は、靴底の少なくとも足先部分にスリットを形成し、靴を履いた状態で、スリットが広がることにより甲の幅が広がるようにしたものである。さらに、特許文献3に係る発明は、足指付け根部の下側にあたる箇所と、踵の下側にあたる箇所とに、それぞれ衝撃吸収性及び反発性に優れる弾性体を埋込配設したものである。
【0007】
しかしながら、これら特許文献1乃至特許文献3に係る発明は、靴底に切り込み加工等を形成し、或いは弾性体を設ける等によって、足指付け根部等、外反母趾が生じ易い部分にかかる外力を局部的に緩和する手段を講じたものにすぎず、靴に対して足が前方側にずれ易いという問題を解消するものではないため、上記のような外反母趾の問題を根本的に解決しうるものではなかった。
【0008】
また、靴の中で足が前方側にずれることで、図10及び図11に示すように靴の踵部17と足の踵18との間に隙間19が生じ易く、歩行時に踵18が浮いて靴が脱げ易くなるという問題も生じていた。さらに、靴の中で足が前方側にずれると、特に女性用の靴の場合に美しいラインが要求される前部側が変形するおそれもある。
【0009】
そして、上記特許文献1乃至特許文献3に係る発明は、靴に対して足が前方側にずれ易いという問題を解消するものではないので、踵部分における靴と足との間に隙間が生じて歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなるという問題や、女性用靴において美しいラインが要求される靴前部側が変形するおそれがあるという問題を解決することもできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−140409号公報
【特許文献2】特開2004−180746号公報
【特許文献3】特開2009−279187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、外反母趾が生じるのを好適に防止することができ、また歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることや、靴の前部側の不用意な変形をも防止することができる靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような課題を解決するために、甲皮と、ヒールを有する靴底とで靴本体が形成されたヒール付き靴であって、靴本体の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部が設けられていることを特徴とするヒール付き靴を提供するものである。
【0013】
かかる構成によって、着用者が靴本体の内部に足を挿入した際、着用者の足が滑って前方側に移動しようとすると、着用者の足の指間(一般には親指と人指し指の間)に鼻緒部が挿入されることとなる。
【0014】
この結果、鼻緒部によって足の前方側への不用意な移動が阻止されることとなり、足指に外側からの力がかかって足指が不当に圧迫されるようなこともなく、従って、主にハイヒールやミドルヒール等のパンプスにおいて従来生じていた外反母趾が生じるのを好適に防止することができる。
【0015】
さらに、鼻緒部によって足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、踵部分における靴と足との間に隙間が生じるおそれが少なく、歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることもない。
【0016】
さらに、足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、靴の前部側の不用意な変形も防止されることとなり、女性用靴に要求される前部側の美しいライン等の形状を維持することができる。
【0017】
上記のような鼻緒部は、伸縮性素材からなる板紐材によって形成することができる。すなわち、伸縮性素材からなる板紐材を、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように甲皮の内面側に配設し、該板紐材の両端部を重ねて靴本体の前部側の底面部に止着することによって、該板紐材の両端部が鼻緒部として形成されることとなる。
【0018】
かかる構成とすることによって、着用者の足を靴本体の内部に挿入し、指間の付け根の部分に鼻緒部の先端部が挿入されたとき、伸縮性素材からなる板紐材によって足の側面部及び踵部の周囲が包囲されつつ、板紐材によって足が挿入された方向と逆方向へ引っ張られるような復元力が生じることとなり、足の前方側への不用意な移動が阻止されつつ、伸縮性素材からなる板紐材によって足が好適に保持されることとなる。
【0019】
また、甲皮との間で板紐材を挟持しうるように、前部側に溝部が形成された裏貼材を甲皮の内面側に貼着し、前記板紐材の両端部を前記裏貼材の溝部に挿入し、該板紐材の両端部を、前記溝部を構成する裏貼材の部分とともに、靴本体の前部側の底面部に止着することで鼻緒部を形成することができる。
【0020】
かかる構成とすることによって、靴の製造段階において、重ね合わされた板紐材の両端部が、裏貼材の溝部に挿入された状態で靴本体の前部側の底面部に止着されるので、その板紐材の両端部及び裏貼材によって形成される鼻緒部の位置決めが確実になされることとなる。また、板紐材の両端部及び裏貼材の双方で鼻緒部が形成されることとなるので、鼻緒部に腰が生じて不用意な変形等も防止される。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、外反母趾が生じるのを好適に防止することができ、また歩行時に踵が浮いて脱げ易くなることや、前部側の不用意な変形をも防止することができる靴を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態の靴の側面図。
【図2】同平面図。
【図3】裏貼部の概略平面図。
【図4】靴の内部を透視して示す平面図。
【図5】鼻緒部を構成する板紐材を示す斜視図。
【図6】板紐材を裏貼部に取り付けた状態を示す斜視図。
【図7】着用時の作用を示す平面図。
【図8】着用時の作用を示す側面図。
【図9】着用時の作用を示す側面図。
【図10】従来のパンプスの作用を示す概略側面図。
【図11】従来のパンプスの作用を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
本発明の靴は、上記のように、甲皮と、ヒールを有する靴底とで靴本体が形成されたヒール付き靴であって、靴本体の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部が設けられているものである。
【0025】
この鼻緒部は、たとえば伸縮性素材からなる長尺状の板紐材によって構成される。板紐材の素材としては、たとえばアクリル系の高反発性素材等を使用することができる。このアクリル系の高反発性素材として、たとえば富士高圧社製のマシュマロ(商品名)を使用することができる。また、ウレタン系の衝撃吸収性素材を使用することもでき、そのようなウレタン系の衝撃吸収性素材として、たとえば株式会社ロジャースイノアック製のポロン(商品名)を使用することもできる。
このような板紐材を、その両端部を前方に配しつつ、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように靴本体の内面側に配設し、該板紐材の両端部を重ねて靴本体の前部側の底面部に止着することによって、該板紐材の両端部が鼻緒部として形成されることとなる。
【0026】
また、かかる場合において、上記のような板紐材を甲皮との間で挟持すべく、前部側に溝部が形成された裏貼材を甲皮の内面側に貼着し、前記板紐材の両端部を前記裏貼材の溝部に挿入し、該板紐材の両端部を、前記溝部を構成する裏貼材の部分とともに、靴本体の底面部に止着することで鼻緒部を形成することができる。
【0027】
甲皮は、一般の靴と同様に天然皮革、合成皮革等の素材のものが用いられるが、裏貼材は、たとえば布製等のものを用いることができ、好ましくは板紐材と同様に伸縮性を有する素材のものが用いられる。足の側面部及び踵部を包囲するように配設された板紐材の伸縮性を損なわないようにするためである。
【0028】
また、上記のような伸縮性のある板紐材以外の手段で鼻緒部を形成することも可能である。尚、本発明は、上記のように外反母趾が生じるのを防止するものであるので、特に外反母趾が生じ易いとされていたパンプスに適用することを主眼とするものであるが、パンプス以外の靴に適用することも可能である。
【0029】
以下、本発明のより具体的な実施形態について、図面に従って説明する。本実施形態においては、所定高さのヒールを有するパンプスに適用する場合について説明する。
【0030】
本実施形態の靴本体1は、図1に示すように甲皮2と、靴底3とからなる。靴底3の後方部には、所定高さのヒール5が備えられている。甲皮2の上面には、図2に示すように足が挿入可能な開口部4が形成されている。
【0031】
そして、靴本体1の前部側内部には、図4に示すように鼻緒部6が設けられている。この鼻緒部6は、図5に示すような伸縮性素材からなる板紐材7によって構成されている。
【0032】
この板紐材7は、甲皮2と、該甲皮2の内面側に貼着される裏貼材2bとで挟持されている。裏貼材2bは、図3に示すように全体が甲皮2とほぼ同様の形状からなり、該裏貼部2bの前部側には溝部8が形成されている。そして、図6に示すように、前記溝部8に、前記板紐材7の両端側の鼻緒部形成部7a、7bが重ね合わされた状態で挿入され、上述のように甲皮2と裏貼材2bとを貼り合わせることで板紐材7が挟持され、さらに鼻緒部形成部7a、7bの端部側が溝部8を構成する裏貼部2bの部分とともに靴本体1の底面に止着されることによって、図4に示すような鼻緒部6が形成されるのである。甲皮2と裏貼材2bの間に挟持された板紐材7は、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように靴本体の内面側に配設されることとなる。
【0033】
そして、上記のような構成からなる靴を着用者が着用する場合には、図7乃至図9に示すように、開口部4から足9を靴本体1の内部に挿入する。この場合において、靴本体1の前部側内部には、上記のように鼻緒部6が設けられているため、図7乃至図9に示すように、着用者の足9の親指9aと人指し指9bとの間に鼻緒部6が挿入されることとなり、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが、鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接し、着用者の足9が前側に滑って不用意に移動するのが鼻緒部6によって阻止されることとなる。
【0034】
ここで、靴本体1の先端部10から鼻緒部6の踵方向側の端部6aまでの寸法は、靴のサイズに応じて所定の寸法に定められる。すなわち、靴のサイズに適合した着用者の足9が靴本体1の内部に挿入され、上記のように親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接したときに、図8に示すように、靴本体1の踵部11と、着用者の足9の踵12との間に不用意に隙間が生じることがないように、靴本体1の先端部10から鼻緒部6の踵方向側の端部6aまでの寸法が設定されることとなる。
【0035】
図7及び図8には、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接したときの、その当接部分のライン13を一点鎖線で図示している。親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cは、前記当接部分のライン13よりも前方側へ不用意に移動することがなく、従って前記当接部分のライン13よりも前方側の図8に示す斜線部は、空間部14として形成されることとなる。
【0036】
また、着用者の足9を靴本体1の内部に挿入し、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cに鼻緒部6の踵方向側の端部6aが挿入される際、その鼻緒部6を構成する板紐材7及び裏貼部2bは、図7に示すように、足9の各指の上面部分に当接し、さらに板紐材7の両端側の鼻緒部形成部7a、7bが図9に示すように下向きに折り返されていることによって親指9aと人指し指9bとの内面側に当接する。
【0037】
この場合において、鼻緒部6を構成する板紐材7は、上記のように伸縮性のある素材で構成され、さらに板紐材7は足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように靴本体の内面側に配設されているため、足9を靴本体1の内部に挿入し、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cに鼻緒部6の踵方向側の端部6aが挿入されたとき、伸縮性素材からなる板紐材7によって足の側面部及び踵部の周囲が包囲されつつ、板紐材7によって足が挿入された方向と逆方向へ引っ張られるような復元力が生じることとなり、足9の前方側への不用意な移動が阻止されつつ、伸縮性素材からなる板紐材7によって足9が好適に保持されることとなる。
【0038】
以上のように、本実施形態においては、靴本体1の内部前部側に鼻緒部6が設けられていることによって、着用者の足9の親指9aと人指し指9bとの間に鼻緒部6が挿入され、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが、鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接し、着用者の足9が前側に不用意に移動するのが鼻緒部6によって阻止されるので、従来、ハイヒールやミドルヒール等のある程度の高さのヒールを有するパンプス型の靴において生じていた外反母趾を好適に防止することができる。
【0039】
また、鼻緒部6によって足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、踵部分における靴と足との間に隙間が生じるおそれが少なく、歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることもない。
【0040】
さらに、足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、靴の前部側の不用意な変形も防止されることとなり、パンプスの前部側の美しいライン等の形状を維持することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 靴本体
2 甲皮
2b 裏貼材
3 靴底
5 ヒール
6 鼻緒部
7 板紐材
8 溝部
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、パンプスと称されている女性用の靴、特にハイヒールパンプスやミドルヒールパンプス等、ある程度の高さのヒールを有するヒール付きの靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、女性用の靴として紐や留め金を使わず、甲部を深くカットして開口部を大きく形成したパンプスと称されている靴が知られている。このようなパンプスは、ヒールが低いフラットヒールパンプスから、ヒールが中程度のミドルヒールパンプス、ヒールが高いハイヒールパンプスまで各種態様のものがある。
【0003】
ところが、このようなパンプスは、女性用の靴として美しいラインを形成するために、靴先部が細く形成されており、靴を着用したときに、着用者の足指が靴先部の狭い空間に押込まれた状態となり易い。特にハイヒールパンプスやミドルヒールパンプスのように、ヒール5が図10のようにある程度の高さに形成されたパンプスの場合は、その前傾した靴底形状により、歩くごとに靴15に対して足が前方側に滑ってずれ易く、図11に示す靴先部16に押込まれた足指9a、9b、9c、9d、9eの部分が外側から圧迫され、歩行に伴って絶えず周囲から締付けられる状態になる。
【0004】
このような各足指の締付けが長期にわたり繰返されることは、外反母趾の原因ともなる。外反母趾は、足先を踏出した際に靴の甲皮が親指と小指間を強く締付けることによって生ずる足指の変形現象であり、これに伴う足先の痛みや歩行困難が問題とされている。特に、パンプスの場合は、甲部を深くカットして開口部が大きく形成されているので、着用者の足が保持される部分は主に甲皮の前部側であり、従って、足指の部分に外側からの力が集中的にかかり易く、パンプス以外の靴に比べて外反母趾が特に生じ易いものとなっていた。
【0005】
上記のような外反母趾を防止するために、たとえば下記特許文献1乃至3のような特許出願もなされている。特許文献1に係る発明は、中底を局部的に屈曲容易な素材とし、且つこの屈曲容易な素材の底面の少なくとも一部に、屈曲性を助長する切込加工を施したものである。
【0006】
また、特許文献2に係る発明は、靴底の少なくとも足先部分にスリットを形成し、靴を履いた状態で、スリットが広がることにより甲の幅が広がるようにしたものである。さらに、特許文献3に係る発明は、足指付け根部の下側にあたる箇所と、踵の下側にあたる箇所とに、それぞれ衝撃吸収性及び反発性に優れる弾性体を埋込配設したものである。
【0007】
しかしながら、これら特許文献1乃至特許文献3に係る発明は、靴底に切り込み加工等を形成し、或いは弾性体を設ける等によって、足指付け根部等、外反母趾が生じ易い部分にかかる外力を局部的に緩和する手段を講じたものにすぎず、靴に対して足が前方側にずれ易いという問題を解消するものではないため、上記のような外反母趾の問題を根本的に解決しうるものではなかった。
【0008】
また、靴の中で足が前方側にずれることで、図10及び図11に示すように靴の踵部17と足の踵18との間に隙間19が生じ易く、歩行時に踵18が浮いて靴が脱げ易くなるという問題も生じていた。さらに、靴の中で足が前方側にずれると、特に女性用の靴の場合に美しいラインが要求される前部側が変形するおそれもある。
【0009】
そして、上記特許文献1乃至特許文献3に係る発明は、靴に対して足が前方側にずれ易いという問題を解消するものではないので、踵部分における靴と足との間に隙間が生じて歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなるという問題や、女性用靴において美しいラインが要求される靴前部側が変形するおそれがあるという問題を解決することもできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−140409号公報
【特許文献2】特開2004−180746号公報
【特許文献3】特開2009−279187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、外反母趾が生じるのを好適に防止することができ、また歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることや、靴の前部側の不用意な変形をも防止することができる靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような課題を解決するために、甲皮と、ヒールを有する靴底とで靴本体が形成されたヒール付き靴であって、靴本体の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部が設けられていることを特徴とするヒール付き靴を提供するものである。
【0013】
かかる構成によって、着用者が靴本体の内部に足を挿入した際、着用者の足が滑って前方側に移動しようとすると、着用者の足の指間(一般には親指と人指し指の間)に鼻緒部が挿入されることとなる。
【0014】
この結果、鼻緒部によって足の前方側への不用意な移動が阻止されることとなり、足指に外側からの力がかかって足指が不当に圧迫されるようなこともなく、従って、主にハイヒールやミドルヒール等のパンプスにおいて従来生じていた外反母趾が生じるのを好適に防止することができる。
【0015】
さらに、鼻緒部によって足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、踵部分における靴と足との間に隙間が生じるおそれが少なく、歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることもない。
【0016】
さらに、足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、靴の前部側の不用意な変形も防止されることとなり、女性用靴に要求される前部側の美しいライン等の形状を維持することができる。
【0017】
上記のような鼻緒部は、伸縮性素材からなる板紐材によって形成することができる。すなわち、伸縮性素材からなる板紐材を、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように甲皮の内面側に配設し、該板紐材の両端部を重ねて靴本体の前部側の底面部に止着することによって、該板紐材の両端部が鼻緒部として形成されることとなる。
【0018】
かかる構成とすることによって、着用者の足を靴本体の内部に挿入し、指間の付け根の部分に鼻緒部の先端部が挿入されたとき、伸縮性素材からなる板紐材によって足の側面部及び踵部の周囲が包囲されつつ、板紐材によって足が挿入された方向と逆方向へ引っ張られるような復元力が生じることとなり、足の前方側への不用意な移動が阻止されつつ、伸縮性素材からなる板紐材によって足が好適に保持されることとなる。
【0019】
また、甲皮との間で板紐材を挟持しうるように、前部側に溝部が形成された裏貼材を甲皮の内面側に貼着し、前記板紐材の両端部を前記裏貼材の溝部に挿入し、該板紐材の両端部を、前記溝部を構成する裏貼材の部分とともに、靴本体の前部側の底面部に止着することで鼻緒部を形成することができる。
【0020】
かかる構成とすることによって、靴の製造段階において、重ね合わされた板紐材の両端部が、裏貼材の溝部に挿入された状態で靴本体の前部側の底面部に止着されるので、その板紐材の両端部及び裏貼材によって形成される鼻緒部の位置決めが確実になされることとなる。また、板紐材の両端部及び裏貼材の双方で鼻緒部が形成されることとなるので、鼻緒部に腰が生じて不用意な変形等も防止される。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、外反母趾が生じるのを好適に防止することができ、また歩行時に踵が浮いて脱げ易くなることや、前部側の不用意な変形をも防止することができる靴を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態の靴の側面図。
【図2】同平面図。
【図3】裏貼部の概略平面図。
【図4】靴の内部を透視して示す平面図。
【図5】鼻緒部を構成する板紐材を示す斜視図。
【図6】板紐材を裏貼部に取り付けた状態を示す斜視図。
【図7】着用時の作用を示す平面図。
【図8】着用時の作用を示す側面図。
【図9】着用時の作用を示す側面図。
【図10】従来のパンプスの作用を示す概略側面図。
【図11】従来のパンプスの作用を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
本発明の靴は、上記のように、甲皮と、ヒールを有する靴底とで靴本体が形成されたヒール付き靴であって、靴本体の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部が設けられているものである。
【0025】
この鼻緒部は、たとえば伸縮性素材からなる長尺状の板紐材によって構成される。板紐材の素材としては、たとえばアクリル系の高反発性素材等を使用することができる。このアクリル系の高反発性素材として、たとえば富士高圧社製のマシュマロ(商品名)を使用することができる。また、ウレタン系の衝撃吸収性素材を使用することもでき、そのようなウレタン系の衝撃吸収性素材として、たとえば株式会社ロジャースイノアック製のポロン(商品名)を使用することもできる。
このような板紐材を、その両端部を前方に配しつつ、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように靴本体の内面側に配設し、該板紐材の両端部を重ねて靴本体の前部側の底面部に止着することによって、該板紐材の両端部が鼻緒部として形成されることとなる。
【0026】
また、かかる場合において、上記のような板紐材を甲皮との間で挟持すべく、前部側に溝部が形成された裏貼材を甲皮の内面側に貼着し、前記板紐材の両端部を前記裏貼材の溝部に挿入し、該板紐材の両端部を、前記溝部を構成する裏貼材の部分とともに、靴本体の底面部に止着することで鼻緒部を形成することができる。
【0027】
甲皮は、一般の靴と同様に天然皮革、合成皮革等の素材のものが用いられるが、裏貼材は、たとえば布製等のものを用いることができ、好ましくは板紐材と同様に伸縮性を有する素材のものが用いられる。足の側面部及び踵部を包囲するように配設された板紐材の伸縮性を損なわないようにするためである。
【0028】
また、上記のような伸縮性のある板紐材以外の手段で鼻緒部を形成することも可能である。尚、本発明は、上記のように外反母趾が生じるのを防止するものであるので、特に外反母趾が生じ易いとされていたパンプスに適用することを主眼とするものであるが、パンプス以外の靴に適用することも可能である。
【0029】
以下、本発明のより具体的な実施形態について、図面に従って説明する。本実施形態においては、所定高さのヒールを有するパンプスに適用する場合について説明する。
【0030】
本実施形態の靴本体1は、図1に示すように甲皮2と、靴底3とからなる。靴底3の後方部には、所定高さのヒール5が備えられている。甲皮2の上面には、図2に示すように足が挿入可能な開口部4が形成されている。
【0031】
そして、靴本体1の前部側内部には、図4に示すように鼻緒部6が設けられている。この鼻緒部6は、図5に示すような伸縮性素材からなる板紐材7によって構成されている。
【0032】
この板紐材7は、甲皮2と、該甲皮2の内面側に貼着される裏貼材2bとで挟持されている。裏貼材2bは、図3に示すように全体が甲皮2とほぼ同様の形状からなり、該裏貼部2bの前部側には溝部8が形成されている。そして、図6に示すように、前記溝部8に、前記板紐材7の両端側の鼻緒部形成部7a、7bが重ね合わされた状態で挿入され、上述のように甲皮2と裏貼材2bとを貼り合わせることで板紐材7が挟持され、さらに鼻緒部形成部7a、7bの端部側が溝部8を構成する裏貼部2bの部分とともに靴本体1の底面に止着されることによって、図4に示すような鼻緒部6が形成されるのである。甲皮2と裏貼材2bの間に挟持された板紐材7は、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように靴本体の内面側に配設されることとなる。
【0033】
そして、上記のような構成からなる靴を着用者が着用する場合には、図7乃至図9に示すように、開口部4から足9を靴本体1の内部に挿入する。この場合において、靴本体1の前部側内部には、上記のように鼻緒部6が設けられているため、図7乃至図9に示すように、着用者の足9の親指9aと人指し指9bとの間に鼻緒部6が挿入されることとなり、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが、鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接し、着用者の足9が前側に滑って不用意に移動するのが鼻緒部6によって阻止されることとなる。
【0034】
ここで、靴本体1の先端部10から鼻緒部6の踵方向側の端部6aまでの寸法は、靴のサイズに応じて所定の寸法に定められる。すなわち、靴のサイズに適合した着用者の足9が靴本体1の内部に挿入され、上記のように親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接したときに、図8に示すように、靴本体1の踵部11と、着用者の足9の踵12との間に不用意に隙間が生じることがないように、靴本体1の先端部10から鼻緒部6の踵方向側の端部6aまでの寸法が設定されることとなる。
【0035】
図7及び図8には、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接したときの、その当接部分のライン13を一点鎖線で図示している。親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cは、前記当接部分のライン13よりも前方側へ不用意に移動することがなく、従って前記当接部分のライン13よりも前方側の図8に示す斜線部は、空間部14として形成されることとなる。
【0036】
また、着用者の足9を靴本体1の内部に挿入し、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cに鼻緒部6の踵方向側の端部6aが挿入される際、その鼻緒部6を構成する板紐材7及び裏貼部2bは、図7に示すように、足9の各指の上面部分に当接し、さらに板紐材7の両端側の鼻緒部形成部7a、7bが図9に示すように下向きに折り返されていることによって親指9aと人指し指9bとの内面側に当接する。
【0037】
この場合において、鼻緒部6を構成する板紐材7は、上記のように伸縮性のある素材で構成され、さらに板紐材7は足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように靴本体の内面側に配設されているため、足9を靴本体1の内部に挿入し、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cに鼻緒部6の踵方向側の端部6aが挿入されたとき、伸縮性素材からなる板紐材7によって足の側面部及び踵部の周囲が包囲されつつ、板紐材7によって足が挿入された方向と逆方向へ引っ張られるような復元力が生じることとなり、足9の前方側への不用意な移動が阻止されつつ、伸縮性素材からなる板紐材7によって足9が好適に保持されることとなる。
【0038】
以上のように、本実施形態においては、靴本体1の内部前部側に鼻緒部6が設けられていることによって、着用者の足9の親指9aと人指し指9bとの間に鼻緒部6が挿入され、親指9aと人指し指9bとの付け根の部分9cが、鼻緒部6の踵方向側の端部6aに当接し、着用者の足9が前側に不用意に移動するのが鼻緒部6によって阻止されるので、従来、ハイヒールやミドルヒール等のある程度の高さのヒールを有するパンプス型の靴において生じていた外反母趾を好適に防止することができる。
【0039】
また、鼻緒部6によって足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、踵部分における靴と足との間に隙間が生じるおそれが少なく、歩行時に踵が浮いて靴が脱げ易くなることもない。
【0040】
さらに、足の前方側への不用意な移動が阻止されるので、靴の前部側の不用意な変形も防止されることとなり、パンプスの前部側の美しいライン等の形状を維持することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 靴本体
2 甲皮
2b 裏貼材
3 靴底
5 ヒール
6 鼻緒部
7 板紐材
8 溝部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲皮(2)と、ヒール(5)を有する靴底(3)とで靴本体(1)が形成されたヒール付き靴であって、靴本体(1)の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部(6)が設けられていることを特徴とするヒール付き靴。
【請求項2】
伸縮性素材からなる板紐材(7)が、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように甲皮(2)の内面側に配設され、該板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)を重ねて鼻緒部(6)を形成すべく、該板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)が靴本体(1)の前部側の底面部に止着されている請求項1記載のヒール付き靴。
【請求項3】
甲皮(2)との間で板紐材(7)を挟持しうるように、靴本体(1)の前部側に溝部(8)が形成された裏貼材(2b)が前記甲皮(2)の内面側に貼着され、前記板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)を前記裏貼材(2b)の溝部(8)に挿入し、該板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)が、前記溝部(8)を構成する裏貼材(2b)の部分とともに、靴本体(1)の前部側の底面部に止着されて鼻緒部(6)が形成されている請求項2記載のヒール付き靴。
【請求項1】
甲皮(2)と、ヒール(5)を有する靴底(3)とで靴本体(1)が形成されたヒール付き靴であって、靴本体(1)の前部側内部に、足の指間に挿入可能な鼻緒部(6)が設けられていることを特徴とするヒール付き靴。
【請求項2】
伸縮性素材からなる板紐材(7)が、足の側面部及び踵部の周囲を包囲しうるように甲皮(2)の内面側に配設され、該板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)を重ねて鼻緒部(6)を形成すべく、該板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)が靴本体(1)の前部側の底面部に止着されている請求項1記載のヒール付き靴。
【請求項3】
甲皮(2)との間で板紐材(7)を挟持しうるように、靴本体(1)の前部側に溝部(8)が形成された裏貼材(2b)が前記甲皮(2)の内面側に貼着され、前記板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)を前記裏貼材(2b)の溝部(8)に挿入し、該板紐材(7)の両端部(7a)、(7b)が、前記溝部(8)を構成する裏貼材(2b)の部分とともに、靴本体(1)の前部側の底面部に止着されて鼻緒部(6)が形成されている請求項2記載のヒール付き靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−200333(P2012−200333A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65968(P2011−65968)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(511075900)株式会社メルミンジャパン (1)
【出願人】(598007322)東英通商株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(511075900)株式会社メルミンジャパン (1)
【出願人】(598007322)東英通商株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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