説明

ヒ素およびアンチモンを含有しない酸化チタン含有ホウケイ酸ガラスおよびその製造方法

【課題】製造中にヒ素化合物およびアンチモン化合物が清澄剤として使用されない酸化チタン含有ホウケイ酸ガラスを提供する。
【解決手段】ヒ素化合物およびアンチモン化合物を使用することなく製造された、酸化チタン含有ホウケイ酸ガラス、更に酸素含有セレン化合物を清澄剤として使用することを含む、環境に優しい精製方法とする。ガラスは、赤外範囲において良好な透過率値を有し、邪魔な変色を示さないことから、IR光導体、光センサー用カバーガラスおよびUVフィルターの製造に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、製造中にヒ素化合物およびアンチモン化合物が清澄剤(refinig agent)として使用されない、酸化チタン含有ホウケイ酸ガラスに関する。更に、本発明は、清澄剤としての酸素含有セレン化合物の使用に基づいた、ホウケイ酸ガラスの環境に優しい精製方法を含む。
【0002】
ヒ素化合物およびアンチモン化合物が清澄剤として使用されない場合、本発明のガラスは、酸化チタン含有ガラス組成物の製造において多くの場合に見られる邪魔な黄色または褐色の色合いをもたない。
【0003】
本発明によるガラスは、IR光導体、光センサーのカバーガラス、UVフィルターガラスなどの製造用の原材料として特に適している。
【0004】
TiO含有ホウケイ酸ガラスの場合にたびたび見られる50〜200ppmの含有量の酸化鉄を有するガラス組成物は、溶融プロセスにおいて変色する傾向がある。酸化鉄の前記含有量は一般的であり、ガラスの主成分に対して、この物質が不純物として含まれることによってもたらされる。変色は、メタチタン酸鉄(II)、したがって正式に言えば二酸化チタンTiOと酸化鉄(II)FeOとの混合化合物である、FeTiOまたはイルメナイトの形成に起因する。イルメナイトの形成には、ガラス溶融体に存在する鉄が二価酸化状態で存在する必要がある。一方、Feの場合のように鉄の多くの部分が酸化状態+IIIで存在するとき、イルメナイトの形成は抑制される。
【0005】
これはガラスへの酸化物質の添加によって達成することができ、このことは、ガラス溶融体において元素酸素または他の酸化ガスの連続放出を引き起こし、したがってガラス溶融体にほぼ一定濃度の酸化ガスをもたらす。一定レベルの酸化ガスは、次に、ガラス溶融体に存在する、鉄も含まれる金属がより高い酸化状態を維持すること、または溶融および精製プロセスの間にその状態に最終的に変換されることをもたらす。酸化形態において、これらの化合物は、通常、ガラスの変色を僅かしか、または全く引き起こさない。また凝固の間および後には、そのような酸化化合物は還元されない。
【0006】
永久的に高いレベルのOをガラス溶融体において達成するために、実際には、好ましくは酸化ヒ素と酸化アンチモンとの混合物、またはヒ素およびアンチモンの互いに別々の異なる酸化物が使用される。
【0007】
そのような混合物は、酸素ガスを徐々に放出し、ここで酸化アンチモンは約1150℃でO放出の高いピークを有するが、酸化ヒ素のO放出のピークは、1250℃以上までの温度に達する。したがって、これらの酸化物は、多数のガラス溶融体において清澄剤としての使用を可能にする温度で作用する。
【0008】
これらの酸化ヒ素および酸化アンチモンの精製系の大きな欠点は、ヒ素化合物およびアンチモン化合物の高い毒性ならびに環境に対する有害性であり、このために、これらの使用は、現在は法律による規制で既に制限されており、将来ははるかに厳しくなる可能性がある。したがって、ガラス産業において、これらの効果的な清澄剤の適切な代替物への要求が存在する。
【0009】
多くの場合に選択される選択肢は、硫酸塩、酸化スズ、ハロゲン化物またはこれらの物質の組み合わせの使用である。しかしこれらの物質は、通常、精製プロセスにおいてガラス溶融体にはるかに低い酸化効果をもたらし、このことは次にイルメナイトの形成によりガラスに褐色の着色をもたらす。
【0010】
より高温のプロセス温度では、ハロゲン化物は高度に揮発性の化合物であり、これは次にこれらの化合物の、ガラス溶融体からの素早い枯渇をもたらす。これにより、次に、ハロゲン化物清澄剤の過剰投与が必要になる。この過剰投与は、次に、より多くのハロゲン化水素酸(hydrohalogen acid)の放出をもたらす。一方、このことは、プロセスの環境適合性の観点から望ましくない。他方では、増加した酸放出は、製造設備の摩耗の促進をもたらし、したがって長期的にはプロセスコストが増大する。
【0011】
清澄剤の代替物として任意に使用される、例えば硝酸カリウムなどの硝酸塩も、分解中に発生する酸化ガス、とりわけ酸素をあまりにも早く、すなわち低すぎる温度でガラス溶融体に放出する傾向を有する。このために、これらも1000℃を超える温度での精製プロセスにおける使用にあまり適していない。好ましくは、硝酸塩は、酸化ヒ素(III)または酸化アンチモン(III)との組み合わせで使用され、これによりガラス溶融体にて酸化As(V)または酸化アンチモン(V)に変換される。したがって、これらは精製プロセスにおいて酸素を放出する。
【0012】
ガラス溶融体に酸化環境を生じさせる更に考慮される可能性は、溶融凝集体にて酸素を直接泡立てることである。しかし、そのような方法は、大型プロセス容器が使用されるようなプロセスにおいてのみ適している。しかし、そのような方法では、清澄剤の使用と対照的に、現在までに利用可能な技術的可能性によっても、ガラス溶融体中に微細酸素を得ることはできない。
【0013】
したがって、ヒ素化合物またはアンチモン化合物をガラスの精製プロセスに使用しないにもかかわらず、邪魔な変色が何もない酸化チタン含有ホウケイ酸ガラスを提供することが、本発明の目的である。更に、それぞれのガラスは、ヒ素化合物およびアンチモン化合物が清澄剤として使用されるガラスに一般的なIR範囲の透過率値も有するべきである。
【0014】
この目的は、ガラスの総量に基づいて、重量%で
SiO 30〜85
3〜20
Al 0〜15
NaO 3〜15
O 3〜15
ZnO 0〜12
TiO 0.5〜10
CaO 0〜0.1
の酸化物ならびにガラスの総量に基づいて0.001重量%〜0.1重量%の量の少なくとも1種の酸素含有セレン化合物を含む、ヒ素とアンチモンとを含有しないホウケイ酸ガラスによって解決される。
【0015】
ガラスのマトリックスは、ガラスの総量に基づいて、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、特に好ましくは少なくとも40重量%の割合でSiOを含む。SiOは、ガラスマトリックスにおける重要なネットワーク形成成分であり、ガラス特性に影響を与える。特に、SiOはガラスの耐薬品性にとってとりわけ重要である。ガラスにおけるSiOの含有量は、ガラスの総量に基づいて、最大で85重量%、好ましくは最大で75重量%、特に好ましくは最大で70重量%である。高すぎるSiOの含有量は、ガラスの軟化点のあまりにも激しい上昇をもたらしうる。
【0016】
SiOの他に、本発明によるガラスは、少なくとも1種の二次ネットワーク形成成分も含む。ガラスは、Bを追加のネットワーク形成成分として含有し、これはガラスの総量に基づいて、少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも4重量%、特に好ましくは少なくとも5重量%の割合で含有される。ネットワーク形成特性を介して、Bは、ガラスの安定性を本質的に支持する。低すぎるBの含有量の場合では、ホウケイ酸ガラス系に求められる安定性を保証することができない。それにもかかわらず、ガラスにおけるBの含有量は、ガラスの総量に基づいて、最大で20重量%、好ましくは最大で17重量%、特に好ましくは最大で15重量%である。ガラスにおいて高すぎるBの含有量の場合では、粘度が激しく低減されることがあり、そのため結晶化安定性の低減を受け入れる必要がある。
【0017】
本発明によると、ガラスは酸化アルミニウムを含むことが好ましい。酸化アルミニウムの添加は、ガラス形成を改善することに役立ち、一般に耐薬品性の改善を支持する。本発明によるガラスにおける酸化アルミニウムの割合は、ガラスの総量に基づいて、最大で15重量%、好ましくは最大で12重量%、特に好ましくは最大で10重量%である。しかしながら、高すぎる酸化アルミニウムの含有量は、結晶化傾向の増加をもたらす。好ましくは、ガラスにおける酸化アルミニウムの量は、ガラスの総量に基づいて、少なくとも0.1重量%、更に好ましくは少なくとも0.5重量%、最も好ましくは少なくとも0.75重量%である。特に好ましくは、ガラスにおける酸化アルミニウムの量は、1.0重量%、3重量%、5重量%または10重量%である。
【0018】
ガラスは、ガラスの総量に基づいて、少なくとも6重量%、好ましくは少なくとも9重量%、特に好ましくは少なくとも12重量%の割合でアルカリ金属酸化物を含む。アルカリ金属酸化物としては、少なくともNaOおよびKOが本発明によるガラスに含有される。
【0019】
アルカリ金属酸化物は、ガラスの溶融性を改善し、したがって経済的な製造を可能にする。ガラスの製造中には、これらは融剤として機能する。ガラスにおけるアルカリ金属酸化物の合計は、30重量%、好ましくは26重量%、特に好ましくは24重量%の値を超えるべきではない。高すぎるアルカリ金属酸化物の含有量の場合では、ガラスの耐候性が損なわれることがあり、したがって適用範囲は厳しく限定されることがある。
【0020】
ガラスにおけるNaOおよびKOの割合は、ガラスの総量に基づいて、それぞれ少なくとも3重量%、好ましくはそれぞれ少なくとも4重量%である。しかし、ガラスにおけるNaOおよびKOの割合は、ガラスの総量に基づいて、それぞれ最大で15重量%、好ましくはそれぞれ最大で12重量%である。
【0021】
本発明のガラス組成物は、二酸化チタンを含む。この物質は、光学特性を改善するためにガラスに添加される。特に、二酸化チタンの添加の助けにより、ガラスの屈折率を狙った様式で調整することができる。それにより、屈折率はガラスのTiO含有量が増加すると増加する。ガラスにおけるTiOの含有量は、ガラスの総量に基づいて、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、特に好ましくは少なくとも1.5重量%である。ガラスにおけるTiOの割合は、ガラスの総量に基づいて、最大で10重量%、好ましくは最大で8重量%、特に好ましくは最大で6重量%である。高すぎるTiOの含有量は、ガラスの望ましくない結晶化をもたらすことがある。酸化チタンの添加は、更なる利点に結びつき、この手段によってガラスの透過スペクトルのUV端がより高い波長にシフトし、より多くの酸化チタンが添加される場合、このシフトはより高くなる。
【0022】
このように、本発明により調製されたガラスを、例えばUVフィルターなどの広範囲の可能な用途に使用することができる。したがって、本発明によるガラスはUVフィルターにも適している。ガラスに追加の層を適用するだけで、酸化チタンの添加なしで同等の効果をガラスにおいて得ることができるが、これは透過率を低減しうる。
【0023】
追加の融剤として、ならびに狙った様式で融点を調整するために、本発明のガラス組成物は酸化亜鉛ZnOを含むこともできる。ネットワーク修飾成分ZnOを添加することによって、ガラスの融点を低減することができる。ガラスにおけるZnOの含有量は、ガラスの総量に基づいて、最大で12重量%、好ましくは最大で10重量%、特に好ましくは最大で8重量%である。高すぎるZnOの含有量は、本発明によるガラスの融点の過度の低下をもたらしうる。
【0024】
本発明のガラス組成物は、低い量の少なくとも1種の酸素含有セレン化合物を含む。本発明に従ってガラスの製造中にセレン化合物をガラスに添加して、溶融プロセスの間に鉄の原子価を増大させる。酸素含有セレン化合物の割合は、ガラスの総量に基づいて、少なくとも10ppm(m/m)、好ましくは少なくとも50ppm(m/m)、特に好ましくは少なくとも100ppm(m/m)である。ガラスにおける酸素含有セレン化合物の合計の割合は、ガラスの総量に基づいて、最大で0.1重量%、好ましくは最大で0.05重量%、特に好ましくは最大で0.01重量%である。高すぎる割合の酸素含有セレン化合物は、ガラスの着色をもたらすことがあり、ピンク色の着色が生じうる。
【0025】
好ましくは、酸素含有セレン化合物は、亜セレン酸の塩(亜セレン酸塩)、セレン酸の塩(セレン酸塩)および/またはこれらの水和物、二酸化セレン(SeO)、三酸化セレン(SeO)ならびにこれらの混合物から選択される。好ましい亜セレン酸の塩(亜セレン酸塩)は、亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)である。セレン酸ナトリウム十水和物NaSeO・10HOは、好ましいセレン酸の塩(セレン酸塩)および/またはこれらの水和物として考慮される。とりわけ好ましくは、酸素含有セレン化合物は、二酸化セレン(SeO)、亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)およびこれらの混合物から選択される。
【0026】
特に好ましくは、酸素含有化合物はSeOである。特に好ましくは、ガラスは、ガラスの総量に基づいて0.001重量%〜0.1重量%のSeOを含む。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、本発明によるガラスは、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、アルカリ金属ナトリウムおよびカリウム、チタン、亜鉛の酸化物、ならびに少なくとも1種の酸素含有セレン化合物、好ましくはSeOのみからなり、すなわちガラス組成物は、少なくとも90重量%、更に好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも98重量%の前記成分からなる。更なる好ましい実施形態によると、ガラスは他の成分を含まず、このことは、これらが出発混合物と混合されないことを意味する。不純物がガラスに存在しうる。
【0028】
本発明の更なる好ましい実施形態において、本発明によるガラス組成物は、上述の酸化物の他に少量の硫酸塩も含有する。この場合、ガラスにおける硫酸塩の含有量は、好ましくは少なくとも150ppm(m/m)、更に好ましくは少なくとも250ppm(m/m)、特に好ましくは少なくとも350ppm(m/m)である。
【0029】
しかしながら、本発明の特に好ましい実施形態において、硫酸塩の含有量は、ガラスの総量に基づいて、450ppm(m/m)以下、好ましくは350ppm(m/m)以下、特に好ましくは250ppm(m/m)以下である。
【0030】
硫酸塩は、ガラスにおける精製効果を達成するために、製造プロセスにおいて本発明のガラス組成物に添加される。
【0031】
本発明による他のガラスは、上述の成分の他に更なる添加剤を含有することもできる。これらの更なる添加剤は、例えば、更なるアルカリまたはアルカリ土類金属化合物(例えば、LiO、MgO、CaO)の混合物であることができ、これらはガラスの流動性および溶融性または耐薬品性を操作するためにガラスに添加される。
【0032】
本発明は、ガラスの光学特性、例えば屈折率を操作する添加剤が加えられた、前記組成を有するガラスも含む。好ましくは、そのような添加剤は酸化バリウム(BaO)である。そのような実施形態において、BaOは、ガラスの総量に基づいて少なくとも0.001重量%の割合で含有される。BaOの添加により、ガラスの屈折率を強く増大させることができる。
【0033】
本発明によるガラスの異なる実施形態において、回避することが困難であり、望ましくなく存在する更なる添加剤は、例えば、酸化鉄(FeO、Fe、Fe)または硫黄化合物(硫化物および硫酸塩)などのd族の金属の酸化物でありうる。酸化鉄は、ガラスの主要成分の一般的な不純物、特に砂の不純物である。
【0034】
しかし、本発明によるガラス組成物は、ヒ素とアンチモンの化合物を含まない。これらの化合物が存在しないという事実は、ヒ素またはアンチモンの化合物、特にヒ素およびアンチモンの酸化物がガラスに添加されないことを意味する。したがって、本発明によるガラスは、ガラスの総量に基づいて、10ppm(m/m)未満、好ましくは5ppm(m/m)未満、特に好ましくは1ppm(m/m)未満のアンチモンの酸化物を含む。本発明によるガラス組成物における酸化ヒ素の割合は、ガラスの総量に基づいて、<3ppm(m/m)、好ましくは<2.5ppm(m/m)の範囲である。
【0035】
ガラスの製造
本発明の好ましい実施形態において、本発明によるガラスは、ガラスを製造する従来の方法の助けを借りて製造することができる。好ましくは、方法はダウンドロー法(down draw method)、オーバーフローフュージョン法(overflow fusion method)およびフロート法(float method)から選択される。しかし、例えばガラス管またはガラス容器の製造に一般的に使用される方法などの他の製造方法も可能でありうる。
【0036】
本発明によるガラスの製造は、好ましくは、
−例えば炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物または酸化物などのガラス製造の通常の原材料である出発成分を混合すること、
−混合物を少なくとも1350℃〜最大1550℃の温度に加熱し、これにより均質溶融体を形成すること、
−溶融体を造形温度に冷却し、その間またはその後に任意にガラスを造形すること
というステップを含む。
【0037】
本発明の実施形態は、前記造形は、溶融体をフロートバスに適用することにより、応力の無い様式で実施されることを特徴とする。
【0038】
本発明の更なる実施形態は、ガラスの造形にダウンドロー法を使用する。
【0039】
本発明の実施形態によると、精製プロセスは、そのことがとりわけ意図されている精製容器において、または物理的に分離されているガラス製造プラントの領域において、好ましくは精製チャンネルにおいて実施される。
【0040】
本発明の代替となる実施形態において、そのような追加の精製用の入れ物(物理的に分離されている精製容器または精製チャンネル)は使用されない。この場合、精製プロセスはガラス製造の他のプロセスステップと並行した様式で、好ましくは溶融または均質化と並行した様式で実施される。
【0041】
本発明によると、清澄剤は、少なくとも1種のセレン化合物、好ましくは少なくとも1種の酸素含有セレン化合物を含む。本発明の1つの実施形態において、セレン化合物は唯一の清澄剤である。この場合、清澄剤は、セレン化合物のみからなる。しかし、セレン化合物と異なる追加の清澄剤を、セレン化合物の他に使用することもできる。好ましくは、追加の清澄剤は、好ましくはアルカリ硫酸塩、アルカリ土類硫酸塩およびこれらの混合物から選択される硫酸塩である。特に好ましくは、硫酸塩は、NaSO、CaSOおよびこれらの混合物から選択される。
【0042】
好ましくは、セレン化合物は、亜セレン酸の塩(亜セレン酸塩)、セレン酸の塩(セレン酸塩)および/またはこれらの水和物、二酸化セレン(SeO)、三酸化セレン(SeO)ならびにこれらの混合物から選択される。好ましい亜セレン酸の塩(亜セレン酸塩)は、亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)である。好ましいセレン酸の塩(セレン酸塩)および/またはこれらの水和物として、セレン酸ナトリウム十水和物NaSeO・10HOを記述する必要がある。とりわけ好ましくは、セレン化合物は、二酸化セレン(SeO)、亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)およびこれらの混合物から選択される。特に好ましくは、セレン化合物は亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)である。
【0043】
驚くべきことに、セレンは、ガラス溶融体におけるその化合物の酸化効果に関して、ヒ素およびアンチモンのような多価元素の中で特別な位置を有するが、後者の2つの欠点(例えば、極めて毒性のガスを放出する傾向)を有さないことがわかった。このように有利な様式によって、セレンは、それらの化合物がヒ素およびアンチモンの毒性化合物の代替清澄剤として通常使用されるがセレンと同様の挙動を示さない他の金属または半金属と異なる。この族の元素には、例えばスズ、セリウムまたはビスマスが含まれる。より高度な酸化物における元素の酸化数のみならず元素の酸化還元電位および化合物の分解温度が示唆しているにもかかわらず、これらの元素の化合物、特にこれらの酸化物は、本発明の意図される目的をもたらさないことが示された。理論に束縛されることなく、本発明者たちは、現在までの自身の経験および経験的知識によって、セレン化合物の特殊な効果は、まさにイルメナイトの形成が通常生じる温度範囲において酸素を放出するという、これらの化合物の傾向によるものであると想定する。このように、前記セレン化合物の添加は、イルメナイトの形成およびガラスの変色を防止することができ、このことは特に効果的な様式と結びついている。
【0044】
好ましい実施形態は、四価酸素含有セレン化合物を唯一の清澄剤として使用することを含む。
【0045】
本発明の更なる実施形態は、四価および六価の酸素含有セレン化合物の混合物の使用に基づいている。任意に、セレン化合物ではない少なくとも1種の更なる清澄剤を添加することができる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、亜セレン酸の塩が1種だけ、唯一のセレン化合物として、セレン化合物ではない少なくとも1種の更なる清澄剤と組み合わせて使用される。
【0047】
特に好ましい実施形態において、この亜セレン酸の塩は亜セレン酸ナトリウム(NaSeO)である。
【0048】
更に好ましい実施形態において、六価酸素含有セレン化合物が唯一の清澄剤として使用される。
【0049】
本発明によるガラスの精製プロセスの特に好ましい実施形態において、セレン酸の塩またはセレン酸の塩の1種または複数の水和物が、唯一のセレン化合物として、セレン化合物ではない少なくとも1種の更なる清澄剤と組み合わせて使用される。
【0050】
本発明の更に特に好ましい実施形態において、セレン酸の塩は、セレン酸ナトリウムNaSeOおよび/またはその水和物である。
【0051】
亜セレン酸およびセレン酸の塩の代替案では、セレンの酸素含有酸:二酸化セレン(SeO)および三酸化セレン(SeO)の両方の無水物も使用することができる。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、亜セレン酸の塩の代わりに、またはセレン酸の塩の代わりに、それぞれの無水和物が清澄剤として使用される。
【0053】
更に好ましい実施形態において、清澄剤として、亜セレン酸の塩またはセレン酸の塩が、両方の酸の無水物と組み合わせて使用される。
【0054】
本発明の好ましい実施形態において、硫酸塩が追加の清澄剤としてセレン化合物の他に使用される。ここで、本発明の特に好ましい実施形態において、アルカリ金属硫酸塩が使用される。代替となる実施形態において、アルカリ土類金属硫酸塩が追加の清澄剤として使用される。しかし、硫酸塩はアルカリ硫酸塩とアルカリ土類硫酸塩との混合物を含むこともできる。
【0055】
本発明の特別の実施形態において、NaSOが追加の清澄剤として使用される。更なる実施形態において、CaSOが追加の清澄剤として使用される。
【0056】
本発明ではガラスへのヒ素化合物またはアンチモン化合物の標的添加が完全に除外される。
【0057】
清澄剤の酸化効果は、ガラス溶融体へ気体反応性酸素を放出する傾向に依存している。このことは、好ましくは、清澄剤の部分的または完全な分解により生じる。その進行の程度に関して、ならびにその速度に関して、このプロセスは温度によって強く左右される。
【0058】
精製プロセスにおいて、清澄剤が存在するガラス溶融体の温度が低すぎる場合、清澄剤の分解は十分ではない、または非常にゆっくりでしかない。これらの条件下では、ガラス溶融体における遊離酸素の濃度は、一方では所望の精製効果を達成するため、他方ではFe2+イオンのFe3+イオンへの酸化を保証するために必要なレベルに達することができない。そうすると、多すぎる鉄イオンが低酸化状態のままであり、ガラス内にイルメナイト包接の形成が起こり、このことはガラスの望ましくない変色をもたらす。
【0059】
しかし、精製プロセスにおけるガラス溶融体の温度が高すぎる場合、分解する清澄剤からの気体酸素の放出がこれも高すぎる速度で生じる。この結果は異なることがある。
【0060】
一方では、これは、ガラスの原材料の分解ガス(例えば、CO、SO、SO)の主な部分が依然として溶融体から流出しない時点で既に清澄剤が酸素を放出することをもたらしうる。そうすると、清澄剤は、気体酸素の放出によるガラス溶融体からの残留封入ガスの連行(entrainment)という、意図された効果を示すことができない。
【0061】
清澄剤の急速な分解の更なる欠点は、このことによって、ガラス溶融体における比較的一定レベルの遊離反応性酸素の調整がほとんど可能でなくなるという事実である。しかし、そのようなレベルは、Fe3+イオンのFe2+イオンへの還元を避けるため、およびガラスにおけるFe2+の濃度を可能な限り低く保つために必要である。
【0062】
ガラス溶融体の温度は、少なくとも1300℃以上、好ましくは少なくとも1330℃以上、特に好ましくは少なくとも1360℃以上でなければならない。温度が低すぎる場合、結果として、ガラス溶融体における酸素の酸化効果が小さくなりすぎる可能性がある。
【0063】
しかし、精製プロセスにおけるガラス溶融体の温度は、最大で1550℃、好ましくは最大で1500℃、特に好ましくは最大で1450℃の値を超えるべきではない。高すぎる温度の場合、清澄剤の分解は、過度に速く進行することがあり、本発明のガラスの品質を相当程度損ないうる上記の望ましくない副作用がもたらされることがある。
【0064】
本発明により使用されるセレン化合物は、任意に、ガラス溶融体に特に均一に分布されうることを特徴とすることが見出された。このように、これらの化合物は、ガラスにおいてFe種の特に効果的な酸化剤として作用することができる。このセレン化合物の効果は、現在、毒性ガスの放出のためにガラス製造プロセスにはもはや望ましくない他の清澄剤の効果と同じである。
【0065】
[実施例]
比較例1
TiO含有ホウケイ酸ガラスは、酸化アンチモンおよびハロゲン化物による標準精製プロセスを使用して調整した。このようにして得られたガラスは、ガラスの総量に基づいて、重量%で、
SiO 64.0
8.3
Al 4.0
NaO 6.5
O 7.0
ZnO 5.5
TiO 4.0
Sb 0.6
Cl 0.1
という組成を有した。
【0066】
ガラスは無色であり、色の望ましくない色合いがなかった。ガラスを、可視光線の領域、ならびに近UVおよびIR領域における透過特性に関して試験した。この試験で得た透過スペクトルを図1に示す。
【0067】
比較例2
下に記述されている組成を有するガラスは、ガラスの原材料の混合物を約1450℃に加熱し、続いて1500℃で約4時間保持することにより調製した。清澄剤として、硫酸塩を使用した。ガラス溶融体の冷却ステップ、続く造形ステップの前に、ガラスを均質化ステップに付した。使用した砂は、70ppmの割合のFeを有し、これは不純物として含有されていた。このようにして得たガラスは、その主成分に関して(望ましくない不純物は考慮しない)、ガラスの総量に基づいて、重量%で、
SiO 64.1
8.36
Al 4.18
NaO 6.32
O 6.85
ZnO 5.38
TiO 4.18
という組成を有した。
【0068】
ガラスを、可視光線の範囲、ならびに近UVおよびIR領域における透過特性に関して試験した。この試験で得た透過スペクトルを図1に示す。
【0069】
実施例1(本発明による)
下に記述されている組成を有するガラスは、ガラスの原材料の混合物を約1450℃に加熱し、続いて1500℃で約4時間保持することにより調製した。清澄剤として、硫酸塩と組み合わせた亜セレン酸ナトリウムを使用した。ガラス溶融体の冷却ステップ、続く造形ステップの前に、ガラスを均質化ステップに付した。使用した砂は、70ppmの割合のFeを有し、これは不純物として含有されていた。このようにして得たガラスは、その主成分に関して(望ましくない不純物は考慮しない)、ガラスの総量に基づいて、重量%で、
SiO 64.1
8.36
Al 4.18
NaO 6.32
O 6.85
ZnO 5.38
TiO 4.18
SeO 0.025
という組成を有した。
【0070】
ガラスは完全に無色であった。裸眼により、比較例1の組成を有し、そこに記載された精製プロセスに付されたガラスと比較すると、差異を決定することができなかった。ガラスを、可視光線の範囲、ならびに近UVおよびIR領域における透過特性に関して試験した。この試験で得た透過スペクトルを図1に示す。
【0071】
驚くべきことに、本発明による組成を有し、本発明による精製プロセスに付されたガラスの透過特性は、比較試験片の近IRの透過特性と同様に良好であったことが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】比較例のガラスならびに本発明によるガラスの透過スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの総量に基づいて重量%で
SiO 30〜85
3〜20
Al 0〜15
NaO 3〜15
O 3〜15
ZnO 0〜12
TiO 0.5〜10
CaO 0〜0.1
の酸化物、ならびにガラスの総量に基づいて0.001重量%〜0.1重量%の量の少なくとも1種の酸素含有セレン化合物を含む、ヒ素およびアンチモンを含まないホウケイ酸ガラスであって、前記化合物は、亜セレン酸の塩、セレン酸の塩、二酸化セレン(SeO)、三酸化セレン(SeO)およびこれらの混合物から選択されるホウケイ酸ガラス。
【請求項2】
ガラスの総量に基づいて重量%で、
SiO 35〜70
3〜17
Al 0〜12
NaO 3〜12
O 3〜12
ZnO 0〜10
TiO 0.5〜8
CaO 0〜0.1
の酸化物、ならびにガラスの総量に基づいて0.001重量%〜0.1重量%の量の酸素含有セレン化合物を含む、請求項1に記載のヒ素およびアンチモンを含まない含有ホウケイ酸ガラス。
【請求項3】
ガラスの総量に基づいて、重量%で、
SiO 40〜70
3〜15
Al 0〜10
NaO 3〜12
O 3〜12
ZnO 0〜8
TiO 0.5〜6
CaO 0〜0.1
の酸化物、ならびにガラスの総量に基づいて0.001重量%〜0.1重量%の量の酸素含有セレン化合物を含む、請求項1または2に記載のヒ素およびアンチモンを含まない含有ホウケイ酸ガラス。
【請求項4】
前記ガラスが前記成分のみからなる、請求項1から3の1以上に記載のホウケイ酸ガラス。
【請求項5】
−例えば炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物または酸化物などのガラス製造の原材料である出発成分を混合すること、
−前記混合物を少なくとも1350℃〜1550℃の温度に加熱し、これにより均質溶融体を形成すること、
−前記溶融体を造形温度に冷却し、その間またはその後に任意にガラスを造形すること
というプロセスステップを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のホウケイ酸ガラスの製造方法。
【請求項6】
精製プロセスの後に、前記溶融体を造形のためにフロートバスに適用する、前記ガラスをダウンドロー法により造形する、または管もしくは繊維に加工する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ガラスの総量に基づいて、重量%で、
SiO 30〜85
3〜20
Al 0〜15
NaO 3〜15
O 3〜15
ZnO 0〜12
TiO 0.5〜10
CaO 0〜0.1
の酸化物を含む、ホウケイ酸ガラスの精製のための酸素含有セレン化合物の使用であって、前記酸素含有セレン化合物は、ガラスの総量に基づいて0.001重量%〜0.1重量%の量で含有され、この化合物は、亜セレン酸の塩、セレン酸の塩、二酸化セレン(SeO)、三酸化セレン(SeO)およびこれらの混合物から選択される使用。
【請求項8】
IR光導体、光センサー用カバーガラスまたはフィルターガラスとしての、請求項1から4の1以上に記載のガラスの使用。

【図1】
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【公開番号】特開2013−56817(P2013−56817A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−174002(P2012−174002)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【出願人】(505458670)ショット・アーゲー (32)
【Fターム(参考)】