説明

ヒ素の定量方法

【課題】高価な装置を用いずに簡便且つ正確に木材中のヒ素濃度を測定することができるヒ素の定量方法を提供する。
【解決手段】無灰ろ紙1の中に試料2を置く。試料2としては、CCA等を含む乾燥後の木材を100メッシュ以下に粉砕したものを用いる。次いで、無灰ろ紙1を縦方向に三つ折りにする。その後、横方向に三つ折りにする。続いて、試料2を含包した無灰ろ紙1を、燃焼フラスコの共栓部(ガラス栓)3に取り付けた白金かご4に入れる。また、燃焼フラスコの500ml三角フラスコ5には、少量の吸収液6、例えば1mMの塩酸5mlを入れ、更に酸素を満たしておく。そして、無灰ろ紙1に点火し、無灰ろ紙1が固定された白金かご4を三角フラスコ5に挿入し、内部で試料2を燃焼させ、燃焼により発生したヒ素を吸収剤6に吸収させる。このようにして、ヒ素を溶液化する。その後、ヒ素を吸収した吸収剤6の分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材に含まれるヒ素の定量に好適なヒ素の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クロム化ヒ酸銅(CCA)等のヒ素系木材防腐剤を含む木材のリサイクル及び処分の際に、その木材に含まれるヒ素の濃度を正確に測定することが要求されている。しかし、このような木材では、ヒ素濃度の偏在性が大きく、ヒ素濃度を正確に測定することが困難である。従来のヒ素濃度の測定方法としては、木材の表面においてCCA中の銅の発色を利用する方法、近赤外線の反射を利用する方法等がある。しかしながら、これらの方法の定量性は低い。また、蛍光X線を用いる携帯型簡易定量装置が市販されているが、この装置は非常に高価である。また、マイクロ波照射−酸分解法とよばれる方法もあるが、この方法でも、高価な装置を用いる必要がある。また、この装置を携帯することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−270137号公報
【特許文献2】特開2005−127932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高価な装置を用いずに簡便且つ正確に木材中のヒ素濃度を測定することができるヒ素の定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るヒ素の定量方法は、ヒ素を含有する試料を酸素フラスコ燃焼法により燃焼させることにより、前記試料から発生したヒ素が溶解した溶液を得る工程と、前記溶液中のヒ素濃度を測定する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸素フラスコ燃焼法を採用してヒ素を含む溶液を取得するので、正確且つ簡易な分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態に係るヒ素の溶液化方法を示す模式図である。
【図2】吸収液6中のヒ素の分析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るヒ素の溶液化方法を示す模式図である。
【0009】
本実施形態では、先ず、図1に示すように、例えば無灰ろ紙1の中に試料2を置く。試料2としては、例えばCCA等のヒ素系木材防腐剤を含む乾燥後の木材を100メッシュ以下に粉砕したものを用いる。試料2の質量は、例えば0.01gとする。
【0010】
試料2を無灰ろ紙1内に置いた後には、無灰ろ紙1を縦方向に三つ折りにする。その後、横方向に三つ折りにする。続いて、試料2を含包した無灰ろ紙1を、燃焼フラスコの共栓部(ガラス栓)3に取り付けた白金かご4に入れる。また、燃焼フラスコの500ml三角フラスコ5には、少量の吸収液6、例えば1mMの塩酸5mlを入れ、更に酸素を満たしておく。そして、無灰ろ紙1に点火し、無灰ろ紙1が固定された白金かご4を三角フラスコ5に挿入し、内部で試料2を燃焼させる。
【0011】
燃焼終了後に三角フラスコ5を傾斜させて2分間振盪し、その後30分間放置することにより、燃焼により発生したヒ素を吸収液6に吸収させる。このようにして、ヒ素を溶液化する。
【0012】
その後、ヒ素を吸収した吸収液6をろ過後、分析を行う。この分析では、例えば水素化物発生原子吸光分析(HGAAS)を行う。
【0013】
酸素フラスコ燃焼法では、1回の燃焼操作に要する時間は、数分間程度(放置時間を含めると30分間程度)である。このため、短時間でヒ素の溶液化を行うことが可能である。また、各段階の処理も容易であり、特別な習熟がなくとも正確な操作を行うことが可能である。従って、本実施形態によれば、容易且つ正確に木材中のヒ素を溶液化することができる。
【0014】
しかし、水素化物発生原子吸光分析(HGAAS)に必要な装置は搬送しにくく、より一層簡便な分析方法が好ましい。そこで、モリブデンブルー法による発色分析を行うことが好ましい。但し、吸収液6には、5価のヒ素及び5価のリン等が含まれているため、吸収液6をそのまま用いた場合、リンがヒ素と同程度の発色(吸光度)を示し、ヒ素の正確な定量が困難である。そこで、本実施形態では、次のようにして、ヒ素及びリンの総濃度を求め、更に、リンの濃度を求め、ヒ素及びリンの総濃度からリンの濃度を減じる。図2は、吸収液6中のヒ素の分析方法を示すフローチャートである。
【0015】
この分析方法では、先ず、吸収液6をろ過後、25mlに定溶し、この一部(例えば10ml)について、還元剤、例えば5質量%L−システイン溶液2mlを加える(ステップS11)。次いで、2分間の湯浴を行う(ステップS12)。このとき、浴の温度は、例えば75℃程度とする。この結果、リンの価数が5価に保持されたまま、ヒ素の価数が3価に変化する。その後、酸性モリブデン酸アンモニウム溶液(6M硝酸と3質量%モリブデン酸アンモニウムの5:2混合溶液)を適当量(例えば1.2ml)添加し、5分間程度放置する(ステップS13)。続いて、5質量%アスコルビン酸水溶液を、例えば1.2ml添加する(ステップS14)。そして、75℃の湯浴で3分間加熱し、その後、7分間〜10分間放置する(ステップS15)。
【0016】
また、吸収液6の定溶後の一部(例えば10ml)に対しては、純水2mlを加えた後(ステップS21)、酸性モリブデン酸アンモニウム溶液を適当量(例えば1.2ml)添加し、5分間程度放置する(ステップS23)。続いて、5質量%アスコルビン酸水溶液を添加する(ステップS24)。そして、75℃の湯浴で3分間加熱し、その後、7分間〜10分間程度放置する(ステップS25)。
【0017】
そして、ステップS15の処理により得られた液、及びステップS25の処理により得られた液について、分光光度計で波長が830nmの吸光度を測定する。ステップS15の処理により得られた液では、ヒ素の価数が3価になっているため、ヒ素はモリブデンブルー法に不活性であり、リンの濃度のみが測定される。一方、ステップS25の処理により得られた液では、ヒ素及びリンの総濃度が測定される。そこで、ヒ素及びリンの総濃度からリンの濃度を減算することにより、ヒ素の濃度を得ることができる。
【0018】
なお、吸収液6には、ヒ素及びリンの他にもケイ素、クロム、鉄及び銅等の種々の元素が含まれているが、これらによってはヒ素及びリンの濃度結果に影響は生じない。
【0019】
このような発色分析を行うためには、発色試薬及び吸光光度計があればよく、水素化物発生原子吸光分析(HGAAS)に必要な装置よりも搬送しやすい。このため、当該木材がある場所、例えば建造物の解体作業が行われている場所及び木材の廃棄処理を行おうとしている場所等においてヒ素の定量分析を行うことが容易となる。つまり、分析対象である木材から試料を取り出して分析施設等まで搬送してくる必要がなくなる。
【0020】
次に、本願発明者が実際に行った実験の結果について説明する。
【0021】
この実験では、先ず、CCAを含む5種類の木材(試料No.1〜No.5)に対して、上述の酸素フラスコ燃焼法を用いたヒ素の溶液化を行った。次いで、各試料から得られた吸収液について、水素化物発生原子吸光分析によるヒ素濃度の定量を行った。また、各試料から得られた吸収液について、上述の発色分析によるヒ素濃度の定量も行った。更に、マイクロ波照射−酸分解法によるヒ素濃度の定量も行った。これらの結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すように、水素化物発生原子吸光分析を行った場合も、発色分析を行った場合も、マイクロ波照射−酸分解法による測定の結果と同等の結果を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素を含有する試料を酸素フラスコ燃焼法により燃焼させることにより、前記試料から発生したヒ素が溶解した溶液を得る工程と、
前記溶液中のヒ素濃度を測定する工程と、
を有することを特徴とするヒ素の定量方法。
【請求項2】
前記試料として、防腐剤を含む木材を用いることを特徴とする請求項1に記載のヒ素の定量方法。
【請求項3】
前記ヒ素濃度の測定をモリブデンブルー法により行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のヒ素の定量方法。
【請求項4】
前記ヒ素濃度を測定する工程は、
前記溶液から第1の溶液及び第2の溶液を取り出す工程と、
前記第1の溶液中のヒ素及びリンの総濃度をモリブデンブルー法により測定する工程と、
前記第2の溶液の還元処理を行うことにより、前記第2の溶液中のリンの価数を5価に維持しながらヒ素の価数を5価から3価に変化させる工程と、
前記還元処理後の前記第2の溶液中のリンの濃度をモリブデンブルー法により測定する工程と、
前記第1の溶液から測定されたヒ素及びリンの総濃度から前記第2の溶液から測定されたリンの濃度を減じる工程と、
を有することを特徴とする請求項3に記載のヒ素の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−33576(P2011−33576A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182611(P2009−182611)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】