説明

ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナおよびそれを用いたヒ素イオン回収方法およびヒ素フリー水溶液の製造方法

【課題】水中のAsイオン濃度を超微量程度まで除去する手段を提供する。
【解決手段】メソポーラスアルミナに界面活性剤を作用した後に得られたアルミナを、モリブデン酸アンモニウムを含む水溶液中で混合させることにより、モリブデン酸アンモニウムをメソポーラスアルミナに担持させる。モリブデン酸アンモニウム等のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナは、pH調整等の水質調整を行なわずに常温処理において、水中の微量のヒ素イオンを選択的に吸着して除去できる。特別の前処理を行なわないので余分の後処理も必要がなく、かつ加熱装置なども使用しないので、低コストのヒ素除去システムを構築できる。多段にヒ素処理装置を構成することにより、迅速で大量にヒ素イオンフリーの水溶液を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標金属としてヒ素イオンを選択的に吸着可能なヒ素イオン吸着性化合物を担持した規則的な配列を持って多孔質化されているメソポーラスアルミナに関するものであり、メソポーラスアルミナに担持されたヒ素イオン吸着性化合物を用いて、ヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液(またはヒ素イオン水溶液)に含まれるヒ素イオンを効率的かつ選択的に回収する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒ素(元素記号As)は、第15族元素の一つであり、地殻中に広く分布し、火山活動などにより自然界に、あるいは鉱石や化石燃料の採掘、産業活動により人為的に環境中へ放たれている。海水にも約2ppbのヒ素が含まれており、プランクトンや海藻類は海水中からヒ素を取り入れ、蓄積している。これらを食物としている魚介類にも蓄積されるので、我々人間の体内にもヒ素を取り込んでいる。一方、ヒ素ミルク事件に代表されるようにヒ素は有毒であり、無機ヒ素の致死量は体重1kgにつき約2mg(2ppm)とされている。また、この濃度よりも少ない超微量のヒ素の摂取でもおう吐、腹痛、下痢等の症状や肝機能障害、感覚以上などが起こり、慢性的なヒ素摂取により神経障害や発がん性を生じると言われている。従って、ヒ素イオンの用水への混入は生命の危険を伴うものであるから、我々が摂取する食物や飲料水から極力ヒ素を排除することが要求されている。(非特許文献1,2)
【0003】
浄水場で水を処理してヒ素を除去しても、公共の飲料水の供給においてヒ素が危険レベルで検出されることが多数の地域社会で起こる。たとえば、飲料水の高いヒ素濃度はUSA、中国、バングラディッシュ、台湾、メキシコ、アルゼンチン、ポーランド、カナダ、ハンガリー、インドなどから最近報告されており、日本からの報告もある。水中では、ヒ素の殆どの普通の電価状態は5価のヒ素As(V)、すなわちヒ酸塩類の形で存在し、これは有酸素の地表水において広く存在している。また3価のヒ素As(III)は、亜ヒ酸塩類の形で存在し、これは酸素の少ない地下水において発生しやすい。環境レベルであるpH4〜10の範囲において、支配的な3価のヒ素As(III)化合物は電荷的には中性であるが、一方、5価のヒ素As(V)の化合物は負に帯電している。
【0004】
Asの検出には、現在までに次に挙げるように多様な方法が開発されている。高度分析(非特許文献3,4)、ラマン・赤外分光法(非特許文献5,6)、ICP質量分析(非特許文献7)、電気化学分析(非特許文献8)、化学発光分析(非特許文献9)、原子吸光分析法(非特許文献10,11)、原子蛍光分光法(非特許文献12)そしてクロマトグラフィー(非特許文献13,14)である。これらの方法は確かに価値があり各方法とも独自の利点はあるが、欠点があることも否めない。例えばZhu et al. (非特許文献15)は、誘電体バリア放電噴霧器を用いたAs検出において、水素化物発生原子蛍光分析法におけるAs3+の検出限界は0.04 ngl-1である、と発表したが、この方法では、温度による多大な影響が懸念される。また、Vincent et al.(非特許文献16)は、衝突セル技術ICP‐MSシステムによるAsの検出を発表したが、高感度にもかかわらず、衝突セル内に多原子干渉形成が見られた。Heitland et al. (非特許文献17)は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)‐ICP/MSによる尿中Asの高速判定を発表したが、費用がかかるうえ、使用される多量の有機溶媒は有毒である。Matsunaga et al.(非特許文献4)は、新たに水溶性試料中の微量のAsに対する肉眼検出法を開発したが、適切に管理された高度な条件が必要となる。さらに、この方法における検出限界は1×10-6 mol dm-3で、反応も非常に遅い。
【0005】
水中に存在するAsイオンの除去には、凝集法、触媒法及び吸着法が知られている。
凝集法としては、特許文献1に示されるように、鉄塩やポリ塩化アルミニウム(PAC)(一般式〔Al(OH)Cl6−n (ただし1<n<5、m<10))を用いて、酸化凝集して除去する方法が知られ、その公報にはAs濃度を平成5年に採用された排水基準である0.001ppm未満を満たした0.001ppmまで減少させることが示されている。
触媒法としては、特許文献2に示されているように、ロジウム(Rhodium)をアルミナに担持させた触媒(ロジウム含量5重量%、Aldrich社製)を触媒として用い、水素曝気によりイオンを還元除去することが示され、Asイオン濃度を10ppbにすることが可能であることが示されている。
吸着法については、以下の特許文献3から7に示したようなものが知られている。特許文献3には、硫酸イオンを含有するジルコニウム系メソ構造体(細孔径D20〜50nm、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB)含有量は39重量%、HTABの断面の直径30〜40nm)を吸着剤として用いることで、As濃度4000μmol/L以下としえることが示されている。特許文献4には、繊維状セルロース粉末にN−メチル−D−グルカミンを固定化させたキレート繊維(キレスト株式会社,キレストファイバーGRY)からなるフィルターに透過させた水のAs濃度が0.1ppm以下であることが示されている。
特許文献5には、γ−アルミナ担体に希土類金属の酸化物又は水酸化物を5〜60質量%担持したもの(平均細孔径 119nm 細孔容積 0.713 cm/g 表面積 240 m/g 全細孔容積に占める90〜200nmの細孔の割合 88%)を吸着剤として用いた例では、As濃度0.8ppmとしえたことを示している。
特許文献6には、アミノプロピル基修飾磁性微粒子を吸着剤として用いた場合は、As濃度を0.1ppmとしえたことが示されている。
特許文献7には、ビス(2−エチルヘキシル)アンモニウム ビス(2−エチルヘキシル)ジチオカルバメート8gを多孔質ポリアクリル酸エステル樹脂20gに担持し、粒状体の含浸樹脂を使用することで、As濃度を9×10−7モル/リットルまで減少させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−088482公報
【特許文献2】特開平9−327694公報
【特許文献3】特開2000−176441公報
【特許文献4】特開2005−000747公報
【特許文献5】特開2000−024647公報
【特許文献6】特開2005−046728公報
【特許文献7】特開平10−137504公報
【特許文献8】特開平08−267053公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P.B. Tchounwou, J.A. Centeno, A.K. Patlolla, Mol. Cell. Biochem. 255 (2004) 47.
【非特許文献2】M.F. Hughes, Toxicol. Lett. 133 (2002) 1.
【非特許文献3】X. Peng, G.S. Chen, Chin. J. Anal. Chem. 31 (2003) 38.
【非特許文献4】H. Matsunaga , C. Kanno, T. M. Suzuki, Talanta 66 (2005) 1287.
【非特許文献5】C. Ludwig, H.J. Gotze, M. Dolny, Spectrochim. Acta Part A 56 (2000) 547.
【非特許文献6】C. Ludwig, M. Dolny, H.J. Gotze, Spectrochim. Acta Part A 53 (1997) 2363.
【非特許文献7】V. Dufailly, L. Noel, T. Guerin, Anal. Chim. Acta 611 (2008) 134.
【非特許文献8】R. Piech,W.W. Kubiak, J. Electroanal. Chem. 599 (2007) 59.
【非特許文献9】C. Lomonte, M. Currell, M.J.S. Richard, Anal. Chim. Acta 583 (2007) 72.
【非特許文献10】J. Michon, V. Deluchat, R.A. Shukry, C. Dagot, J.C. Bollinger, Talanta 71 (2007) 479.
【非特許文献11】C.G. Bruhn, C.J. Bustos, K.L. Saez, J.Y. Neira, S.E. Alvarez, Talanta 71 (2007) 81.
【非特許文献12】X. Li, Y. Su, K. Xu, Talanta 72 (2007 1728).
【非特許文献13】A.L. Lindberg,W. Goessler, M. Grander, B. Nermell, M. Vahter, Toxicol. Lett. 168 (2007) 310.
【非特許文献14】Y.C. Yip, H.S. Chu, C.F. Yuen,W.C. Sham, J. AOAC Int. 90 (2007) 284.
【非特許文献15】Z.L. Zhu, J. Liu, S.H. Zhang, Anal. Chim. Acta 607 (2008) 136.
【非特許文献16】D. Vincent, N. Laurent, G. Thierry, Anal. Chim. Acta 611 (2008) 134.
【非特許文献17】P. Heitland, H.D. Koster, J. Anal. Toxicol. 32 (2008) 308.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、環境中、特に飲料水等の生活用水から有毒なヒ素イオンを除去してヒ素イオン濃度を極力少なくすることは、人間の命を守るために是非とも実現すべきことであるが、水溶液中の濃度をppt〜ppbレベルの超微量レベルまで低下させる技術や方法は殆どない。また、従来の技術では飲料水中のヒ素イオン濃度を低レベルにするには長時間かかり、生産性が悪くコストを下げることができない。しかも特殊な設備や装置が必要になり、コストアップの要因にもなっている。ヒ素イオン濃度を低下させるために溶液に酸やアルカリを添加することは、たとえヒ素イオン濃度が低下しても次の段階で添加物の後処理(除去や無害化)をしなければならなくなるという問題がある。また、加熱して反応を促進する方法は、たとえヒ素イオン濃度が低下しても、大掛かりな加熱手段を備えたり、また冷却システムも必要となり、エネルギー消費を増大させ、ヒ素回収の全体コストを増大させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ヒ素{As(V)}イオンを優先的に、選択的に吸着する(抽出する、または結合する、と置き換えても良い)ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラス−アルミナであり、これを用いて水溶液中にヒ素イオンが溶解したヒ素イオン溶解液からヒ素イオンを抽出するシステムおよび方法を提供するものである。本発明の概要は以下の通りである。
(1)本発明は、目標元素であるヒ素(As)イオンが溶解された溶液(ヒ素イオン溶解溶液)からヒ素イオンを吸着するとともに吸着されたヒ素イオンを遊離することが可能なヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナであり、このメソポーラスアルミナは、硝酸アルミニウムおよび界面活性剤を用いて作製され、その界面活性剤は、カンファー・スルファン酸(CSA)または臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)であることを特徴とする。あるいは、メソポーラスアルミナは、アルミニウム・イソプロポキシド(C21AlO)の加水分解により作製されることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明は、ヒ素イオン吸着性化合物は目標元素であるヒ素イオンを選択的に吸着可能な化合物であり、ヒ素イオン吸着性化合物はヘテロポリ酸であり、ヘテロポリ酸はモリブデン酸アンモニウムであることを特徴とし、さらにメソポーラスアルミナに界面活性剤を作用した後に得られた固体状態のアルミナを、モリブデン酸アンモニウムを含む水溶液中で混合させることにより、モリブデン酸アンモニウムをメソポーラスアルミナに担持し、モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する温度は常温であり、モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際にpH調整等の前処理および/または後処理は行なわないことを特徴とする。
【0011】
(3)本発明は、ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際に、アスコルビン酸を用いて、吸着したヒ素イオンの濃度を色調により判定することを特徴とする。さらに、メソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際に、アスコルビン酸を用いて、吸着したヒ素イオンの濃度を色調により判定することを特徴とする、ヒ素イオン溶解溶液中のヒ素イオン濃度の検出方法である。
【0012】
(4)本発明は、メソポーラスアルミナを用いてヒ素イオン溶解溶液からヒ素(As)を収集することを特徴とするヒ素コレクターであり、またメソポーラスアルミナを用いたヒ素除去フィルターであり、メソポーラスアルミナを用いたヒ素吸着剤である。
【0013】
(4)本発明は、ソポーラスアルミナを用いて、自然水、浄化前用水、工業廃水および生活排水、その他の水溶液を含むヒ素イオン溶解溶液からヒ素イオンを除去し、ヒ素イオン除去後の溶液を飲料水または生活用水または農業用水または工業用水として用いることを特徴とするヒ素イオン除去システムである。
【0014】
(5)ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを入れた容器中にヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液を導入するか、または、ヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液を入れた容器中にヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを添加して、ヒ素イオンを除去することを特徴とし、さらに複数台の前記溶器を直列接続して、ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナとヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液とを複数回接触させることにより、前記ヒ素イオン溶解溶液中のヒ素濃度を一定濃度以下(たとえば、Asの許容濃度以下、あるいは吸着限界濃度以下)に低減することを特徴とするヒ素イオン除去装置である。
【0015】
(6)本発明は、ヒ素イオン吸着性化合物をメソポーラスアルミナに担持する工程、ヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液にヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを接触させ、前記ヒ素イオン吸着性化合物にヒ素イオンを選択的に吸着する工程、ヒ素イオンを吸着した前記ヒ素イオン吸着性化合物からヒ素イオンを遊離する工程を含むことを特徴とするメソポーラスアルミナを用いたヒ素回収方法である。
【0016】
(7)本発明は、(6)に加えて、ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナはリユースでき、ヒ素イオン吸着性化合物はヒ素イオンを選択的に吸着可能な化合物であり、またヒ素イオン吸着性化合物はヘテロポリ酸であり、さらにヘテロポリ酸はモリブデン酸アンモニウムであることを特徴とするヒ素回収方法である。
【0017】
(8)本発明は、(7)に加えて、メソポーラスアルミナに界面活性剤を作用した後に得られた固体状態のアルミナを、モリブデン酸アンモニウムを含む水溶液中で混合させることにより、モリブデン酸アンモニウムをメソポーラスアルミナに担持することを特徴とし、モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する温度は常温であり、モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際にpH調整等の前処理および/または後処理は行なわないことを特徴とし、さらに、ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際に、アスコルビン酸を用いて、吸着したヒ素イオンの濃度を色調により判定することを特徴とするヒ素回収方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のメソポーラスアルミナは、強固なナノ構造骨格を有し、その外表面や内表面は表面積の大きな多孔質構造となっている。この大きな表面積を持つ多孔質表面に多数のヒ素イオン吸着性化合物が担持されている。従って、このヒ素イオン吸着性化合物におけるヒ素イオンの吸着効率が非常に高いので、ヒ素イオン溶解溶液からのヒ素イオン除去効率が高く、ヒ素イオン溶解溶液から迅速にヒ素イオン吸着・除去を行なうことができる。しかも吸着サイトが多数存在し、ナノサイズの1個1個の吸着サイトがヒ素イオン吸着に作用するので、ppmレベルのヒ素イオンを除去できるだけでなく、ppb〜pptレベルの超微量のヒ素イオンも除去できる。特にヒ素イオン吸着性化合物がモリブデン酸アンモニウムなどのヘテロポリ酸の場合には、他のカチオンやアニオンに比べてヒ素イオンを非常に良好に選択的・優先的に吸着できる。また、メソポーラスアルミナを界面活性剤で処理した後にモリブデン酸アンモニウムを作用させると、大きな表面積を持つ多孔質表面に効率良くモリブデン酸アンモニウムが担持されるので、ヒ素イオンの吸着サイトが増してヒ素イオンを効率良く超微量レベルから高濃度レベルまで吸着することができる。さらに、このようなモリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナは、ヒ素イオン溶解溶液のpH調整等の前処理および/または後処理をしなくとも、加熱せずに常温の状態でも迅速に大量にヒ素イオンを吸着することができるので、pH調整剤の後処理をする必要もなく、特別な加熱手段も必要とせずエネルギー消費を増大させることもなく経済的である。たとえば、浄化前の水を浄化するシステムにおいて、モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナを投入するだけであり、ヒ素イオンを吸着した後にフィルター等でヒ素イオンを吸着したモリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナを取り除けば良い。さらに、本発明の複数台のヒ素イオン除去装置を用いた多段階ヒ素イオン除去システムにより、低コストで迅速にしかも大量に浄化前の水からヒ素イオンを除去でき、ヒ素イオンのない(ヒ素フリーの)水溶液(飲料水)を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明のヒ素回収システムを示す図である。
【図2】図2は、本発明に使用されるアルミナ(Al)の生成方法の一実施形態を示す図である。
【図3】図3は、界面活性剤を用いてAl−IIおよびAl−IIIを生成する合成方法を示す図である。
【図4】図4は、メソポーラスアルミナの広角X線回折パターンを示す図である。
【図5】図5は、メソポーラスアルミナの小角X線散乱パターンを示す図である。
【図6】図6は、Alの温度77Kにおける窒素(N)吸着/脱着等温線を示す図である。
【図7】図7は、Alの細孔分布を示す図である。
【図8】図8は、メソポーラスアルミナ構造のTEM像を示す図である。
【図9】図9は、本発明におけるアルミナ−キャプター作製からアルミナ−キャプターのヒ素イオン吸着までのフローを示す模式図である。
【図10】図10は、ヒ素イオンが溶解溶液からアルミナ−キャプターを用いてヒ素を回収する方法を示す図である。
【図11】図11は、水溶液中のヒ素イオン濃度を示す表である。
【図12】図12は、種々のヒ素イオン濃度を含む溶液からろ過後のアルミナキャプターの色調を示す図である。
【図13】図13は、種々の金属イオンを含む溶液から本発明のアルミナ−キャプターを使用してヒ素イオンを吸着する様子を模式的に示した図である。
【図14】図14は、アルミナキャプターを用いたヒ素イオンの除去効率に及ぼす加熱および接触時間の効果を示す図である。
【図15】図15は、アスコルビン酸の有無によるヒ素イオン抽出効率の相違を示す図である。
【図16】図16は、本発明のヘテロポリ酸のヒ素イオン吸着化によって変色する効果を有するアスコルビン酸の標識剤としての役割を説明する模式図である。
【図17】図17は、溶液中のヒ素イオン濃度におけるICP−OESによる測定データを示す表である。
【図18】図18は、自然水におけるアルミナ−キャプターの処理前後のヒ素イオン濃度および除去効率を示す表である。
【図19】図19は、自然水におけるアルミナ−キャプターの除去効率を示す図である。
【図20】図20は、本発明のアルミナ−キャプターを用いたヒ素イオンフリーを実現する連続的ヒ素回収システムを示す図である。
【図21】本発明のアルミナ−キャプターを用いて家庭用飲料水からヒ素イオンを吸着してヒ素フリーの飲料水を供給するシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有するヒ素イオン吸着性化合物を用いたヒ素イオン検出技術およびヒ素回収技術を提供するものである。さらにこのヒ素回収技術を用いて飲料水、自然水、農業用水などの生活用水からヒ素イオンを除去する浄化システムを提供する。この技術の特徴は異種原子から構成されるナノ構造物であるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、pptレベルの超微量のヒ素イオンも回収でき、さらに環境負荷を与えずに、しかも迅速で低コストであるという点で、種々のカチオンおよびアニオン性イオンを含む廃棄物(廃水)からヒ素を抽出する方法として非常に優れている。
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のヒ素回収システムを示す図である。まず、第1段階でメソポーラスアルミナ(MPAと略す)を合成する。ここで、メソポーラスアルミナとは、多孔質アルミナの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2から50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスアルミナもメソポーラスアルミナと呼ぶ。
【0022】
メソポーラスアルミナは種々の方法により合成できる。たとえば、酸アルミニウム塩(たとえば、硝酸アルミニウム{Al(NO3)3}、硫酸アルミニウム{Al(SO)}、酢酸アルミニウム{Al(CHCOO)})と界面活性剤{たとえば、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)やカンファー−10−スルファン酸(CSA)}を用いてメソポーラスアルミナを形成できる。あるいは、アルミニウムアルコキシド{たとえば、アルミニウム・イソプロポキシド}を加水分解し、焼成して作製することができる。このメソポーラスアルミナは直径が2〜50nmの細長い円筒形状をした多孔質のナノチューブ構造体などである。ただし、メソポーラスアルミナの構造は他の形状、たとえばロッド状、コーン状、球状等の他の形状のナノ構造体でも良い。このようにして形成されたメソポーラスアルミナは、外殻が強固で形状がそろっているため、以下に示すヒ素吸着性化合物を担持させて、ヒ素吸着に繰り返し使用しても安定した品質を保持することが可能である。
【0023】
次に第2段階でヒ素イオン吸着性化合物をメソポーラスアルミナ(MPA)に担持させる。この段階では、ヒ素イオン吸着性化合物にはヒ素イオンは(他のカチオンやアニオンも)吸着されていない。(ヒ素イオンを吸着していないことを示す用語として「ヒ素イオン吸着性化合物」と称する。)本発明に用いられるヒ素イオン吸着性化合物として、金属錯体、無機金属化合物や有機金属化合物がある。セルロース、タンパク質などのヒ素イオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、元素の中でヒ素(イオン)を吸着できる化合物であって、MPAに担持でき、化学処理により、目標元素であるヒ素以外のカチオンおよびアニオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標元素であるヒ素を遊離できる化合物である。
【0024】
ヒ素イオン吸着性化合物は、回収しようとする目標元素であるヒ素イオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、ヒ素イオンに対して選択的に結合するキレート化合物が挙げられる。ヒ素を含む各種のカチオンやアニオンが溶解した(各種)イオン溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、ヒ素イオン吸着性化合物に目標元素であるヒ素イオンを選択的に吸着できる。また、キレート化合物は、非常に微量の(たとえば、ppbオーダー〜ppmオーダーの)ヒ素を選択的に吸着することができるので、イオン溶解溶液中に含まれるヒ素イオンの量が少なくても、効率的に選択的にヒ素イオンを吸着する。
【0025】
あるいは、ヒ素イオン吸着性化合物として、たとえば、ヘテロポリ酸が挙げられる。ヘテロポリ酸としてはモリブデン酸アンモニウム四水和物(Ammonium molybdate tetrahydrate)などのモリブデン酸アンモニウム(Ammonium molybdate:(NHMo24)がある。ヘテロポリ酸はMPAの多孔質で表面積の広いナノチューブ表面に担持され、モリブデンをポリ元素とし、ヘテロ元素としてヒ素イオン{As(V)}を吸着する。従って、ヒ素イオン{As(V)}に対する優先性および選択性が高いので溶液中からのヒ素イオン{As(V)}抽出(回収)に適する。
【0026】
本発明は、Asイオン、特に、As(V){As5+}イオンの除去および検出に有用なヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナ(As吸着素子と言っても良い)にかかるものである。As(III){As3+}イオンの存在は知られており、また、それをAs5+に変換する方法も特許文献8等により示され公知のものであり、本発明は、このような公知の手段を用いてAs3+イオンをAs5+イオンに変換した被検出水や被清浄水とすることも含むものである。
【0027】
このようなヒ素イオン吸着性化合物をMPAに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、MPAに保持されるべきヒ素イオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0028】
前述のヘテロポリ酸としてのモリブデン酸アンモニウムを多孔質ナノ構造体であるMPAナノチューブに担持する方法としては、メソポーラスアルミナのナノチューブ表面をDDAB{臭化ジメチルアンモニウムジラウリル(dilauryl dimethyl ammonium bromide)}のような界面活性剤を用いて官能化させた後、モリブデン酸アンモニウム溶液と接触させてメソポーラスアルミナのナノチュープ等のナノ構造表面にモリブデン酸アンモニウムを担持したアルミナ−(ヒ素)キャプター(ヒ素イオンを捕促(吸着)するという意味で「キャプター」という用語も使用する)を作製する方法がある。
【0029】
ヒ素イオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標元素であるヒ素イオンを吸着できる場合があるが、ヒ素イオン吸着性化合物は凝集等するため、ヒ素イオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)ヒ素イオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標元素であるヒ素イオンが吸着しても、拡散または浸透によりヒ素イオン吸着性化合物内部のヒ素イオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にあるヒ素イオン吸着性化合物の官能基全部にヒ素イオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にあるヒ素イオン吸着性化合物の官能基にヒ素イオンが吸着したとしても、その吸着したヒ素イオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部にヒ素イオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけてヒ素イオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0030】
これに対して、メソポーラスアルミナ(MPA)は、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスアルミナ(MPA)の表面および細孔内壁にヒ素イオン吸着性化合物を担持したものは、ヒ素イオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、ヒ素イオン吸着性化合物のヒ素イオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、ヒ素イオン吸着性化合物の1分子ずつがヒ素イオン吸着に利用できると考えることもできる。ヒ素イオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、MPAの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、MPAに担持されたヒ素イオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、MPAに担持されたヒ素イオン吸着性化合物がヒ素イオン溶解溶液と接触すると速やかに吸着される。また、吸着されたヒ素イオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着されたヒ素イオンが速やかに遊離されるということも意味するので、生産性が飛躍的に向上する。
【0031】
次に第3段階では、ヒ素イオンを含有するヒ素イオン溶解溶液とヒ素イオン吸着性化合物(これをACとも称する)を高密度に担持したメソポーラスアルミナ(これをMPA−ACと略する)と接触(浸漬等を含む)させる。ヒ素イオン溶解溶液はヒ素イオンが含有している水溶液であるが、他のカチオンやアニオンなどが含まれている場合もある。本発明のシステムでは、ヒ素を岩石中から取り出すために酸やアルカリ等で強制的に岩石中のヒ素を溶解させた溶解溶液や、自然界等に存在するヒ素が溶けている天然水や、ヒ素イオンが含まれる工場廃液などがヒ素イオン溶解溶液となる。特に農業用水や飲料水や生活用水として用いる場合にはヒ素イオン濃度を許容限度以下に低減させる必要があるので、ppt〜ppb〜ppmレベルの超微量〜微量という広範囲のAsイオンを吸着できる本発明のMPA−ACを用いたシステムを好適に適用できる。
【0032】
ヒ素イオン溶解溶液には目標元素であるヒ素イオンの他に各種カチオンやアニオンも含まれているが、本発明のMPA−ACは一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標元素であるヒ素を選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下のヒ素イオン溶解溶液中にMPA−ACを浸漬すれば、目標元素であるヒ素イオンだけを吸着したMPA−AC(すなわち、MPA−AC−As)を得ることができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他の各種イオン(Mと記載する場合がある)が吸着される可能性もあるので、ヒ素イオン溶解溶液中の目標元素であるヒ素以外のイオンをあらかじめ少なくしておくことにより、ヒ素以外のイオンMの吸着量が非常に少ないMPA−AC−Asが得られる。たとえば、ヒ素イオン溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行いヒ素イオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。
【0033】
前述したメソポーラスアルミナのナノチュープ表面にモリブデン酸アンモニウムを担持したアルミナ−(ヒ素)キャプターは、常温(0℃〜40℃)でも一定時間(たとえば、5時間〜10時間)ヒ素イオン溶解溶液に浸漬し攪拌することにより、かなりの量のヒ素イオンを吸着可能である。このアルミナ−キャプター(MPA−AC)は、特別な前処理(事前にpH値調整処理や、他のイオンを除去しておく処理や、特殊な薬剤を添加しておく処理など)をしなくとも、および/または加熱したり圧力をかけたりしなくとも、ヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液(水道水や自然水なども含む)に浸漬し攪拌するだけで、ヒ素イオンを吸着することができる。従って、非常に簡単な設備でヒ素イオン溶解溶液からヒ素イオンを除去できるので、生産性が向上しかつ低コスト化が可能となるし、エネルギー消費も増大させないので環境にもやさしい。ろ過されたろ過液は有害なヒ素が取り除かれたので、飲料水としても使用可能となるし、あるいは環境中(自然界)へ戻すこともできる。
【0034】
ヒ素イオン溶解溶液の最初のヒ素イオン濃度をYとし、1回のMPA−ACの接触処理でX%のヒ素が除去できる(除去効率X%)とすれば、2回繰り返すことにより、ヒ素イオン溶解溶液中のヒ素イオン濃度はY(1−X/100)となる。たとえば、X=90なら2回の接触処理で0.01Yのヒ素イオン濃度になる。4回の接触処理では0.0001Yのヒ素イオン濃度になる。このように多段階の接触処理を行なうことにより許容限度以下のヒ素イオン濃度にすることが可能となる。特殊な装置や設備を具えなくても簡単に実現できるので、低コスト化が可能である。しかも、特殊な薬剤等も使用しないので、処理後の(ヒ素イオンレベルが許容限界以下になった)溶液に対して、その特殊な薬剤等を除去したり無害化したりする手段を施す必要がなく、たとえばそのまま飲料水向けに使用することができる。このことは従来方法に比べて低コスト化が可能であることを示している。
【0035】
次に、第4段階において、ほぼ目標元素であるヒ素だけを吸着したMPA−AC−Asを、目標元素であるヒ素を溶解可能な溶液(溶離液)に接触(浸漬等)して、目標元素であるヒ素イオンを溶解(溶離)する。(溶出処理)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるヒ素イオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標元素であるヒ素イオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標元素であるヒ素イオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標元素であるヒ素イオンだけを吸着したMPA−AC−Asにする必要がない。尚、ヒ素イオン以外のイオンが吸着している場合(MP−AC−As−Mと記載)、MPA−ACからヒ素イオンを取り除く前か後にイオン種Mを取り除く処理を行なう。この後で、目標元素であるヒ素イオンが遊離されたMPA−ACは固形物であるから、溶離液からろ過して取り除く。固形物として取り除かれたMPA−ACは再度使用可能である。ろ過液中にはヒ素イオンのみが溶解しているので、種々の方法(たとえば、電気メッキ法)により、目標元素を分離すると目標元素であるヒ素を回収できる。尚、MPA−ACに目標元素であるヒ素を吸着してMP−AC−Asにすることを目標元素であるヒ素の抽出と考えた場合に、この工程はMP−AC−AsからAsを遊離してMPA−ACにするので逆抽出工程と言うこともできる。たとえば、上述したモリブデン酸アンモニウムを担持したMPAに吸着したAsイオン(MPA−AC−As)からAsイオンを遊離(溶離)するために、このMPA−AC−Asをアルカリ水(たとえば、NaOH水溶液)に浸漬し、攪拌すれば良い。この後ろ過し、水洗乾燥すれば再生したMPA−ACを得ることができ、MPA−ACを繰り返しAsイオン吸着に使用することができる。
【実施例1】
【0036】
<Al−Iの生成>
図2は、本発明に使用されるアルミナ(Al)の生成方法の一実施形態を示す図である。図2に示すように、アルミニウム・イソプロポキシド(C21AlO)20gを丸底フラスコ中の蒸留水100mlに添加して、80℃で1時間マグネットによって攪拌した。その後硝酸を用いて水溶液のpHを4に調整した。この後この混合物は再び丸底フラスコ中で、80℃で8時間攪拌した。その後、溶液をろ過して、白い固形物が収集され、60℃で一晩乾燥を行ない、さらに空気中において550℃で6時間か焼した。含まれていた有機成分は蒸発して取り除かれた。か焼により得たこの白い粉末がアルミナ(Al)である。このアルミナを本願ではAl−Iと称する。尚、上記の値は実施例であるから、多少変動させても良い。(以下の実施例でも同様である。)
【実施例2】
【0037】
<Al−IIの生成>
硝酸アルミニウム{Al(NO)9HO}25gおよび界面活性剤であるカンファー・スルファン酸(CSA)2.5gを75mlの蒸留水中に入れて、マグネット攪拌しながらこれらの混合物を溶解した。その後アンモニア水溶液を用いて溶液のpH値を5.5に調整した。混合液は攪拌10分後に粘性が出てきて、次にポリテトラフルオロエチレンで内面被覆されたオートクレーブへ移され、160℃〜180℃で24時間の熱水処理を行なった。その後、室温まで冷却され、固形材料は遠心分離器を使って収集され、さらにエタノールを用いて数回洗浄された。得られたこの白い粉末状生成物は60℃で一晩乾燥され、さらに空気中において550℃で6時間か焼し、含まれていた有機成分は蒸発して取り除かれた。この白い粉末がアルミナ(Al)である。このアルミナを本願ではAl−IIと称する。図3は、上述の界面活性剤を用いてpH5.5でAl−IIを生成する合成方法を示す実施形態を示す図である。尚、このAl−IIは界面活性剤を用いて作製したメソポーラスAlである。
【実施例3】
【0038】
<Al−IIIの生成>
実施例2で用いた界面活性剤CSAの代わりに界面活性剤の臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を用いてアルミナを作製した。すなわち、図3に示すように、硝酸アルミニウム{Al(NO)9HO}25gおよび界面活性剤であるCTAB2.5gを75mlの蒸留水中に入れて、マグネット攪拌しながらこれらの混合物を溶解した。その後アンモニア水溶液を用いて溶液のpH値を5.5に調整した。混合液は攪拌10分後に粘性が出てきて、次にポリテトラフルオロエチレンで内面被覆されたオートクレーブへ移され、160℃〜180℃で24時間の熱水処理を行なった。その後、室温まで冷却され、固形材料は遠心分離器を使って収集され、さらにエタノールを用いて数回洗浄された。得られたこの白い粉末状生成物は60℃で一晩乾燥され、さらに空気中において550℃で6時間か焼し、含まれていた有機成分は蒸発して取り除かれた。この白い粉末がアルミナ(Al)である。このアルミナを本願ではAl−IIIと称する。尚、このAl−IIIは界面活性剤を用いて作製したメソポーラスAlである。
【実施例4】
【0039】
<メソポーラスアルミナの特性(X線回折)>
図4は、メソポーラスアルミナの広角X線回折{XRD(X−Ray Deffraction)}パターンを示す図である。また図5は、メソポーラスアルミナの小角X線散乱(SAXS:Small Angle X−Ray Scattering)パターンを示す図である。実施例1〜3において作製したか焼したアルミナ粉末の結晶構造はXRDおよびSAXSを使って特徴づけられる。図5は、3種類のアルミナ(Al−I、Al−II、Al−III)のX線小角散乱の測定結果である。メソポーラスアルミナ・ナノチューブの小角X線プロファイルは、領域0.45≦2θ≦1.45°においてブロードな分解回折ピークを示し、界面活性剤なしの(Al−I)、界面活性剤CSAの場合(Al−II)、および界面活性剤CTABの場合(Al−III)のAlに関し、d(粒子間距離)は、それぞれ13.768nm、11.593nmおよび14.373nmである。ブロードで強度が小さいほどアルミナのメソ構造の無秩序化が増大していることを示しているので、メソポーラス度はAl−Iは最も低く、Al−IIおよびAl−IIIはメソポーラス度が大きいことが分かる。このことはアルミナ形成時の界面活性剤を用いた効果である。
【0040】
図4は、界面活性剤CTABを用いて作製したアルミナ(Al−III)のX線広角回折パターンを示す。すべての回折ピークに対して、結晶格子間距離はめこみ法を用いてアルミナのX線回折(hkl)をすべて割り当てることができた。すなわち、これらのピーク位置は、PDF−2粉末X線回折データベース(PDF-2 Release 2009 database)を有する単結晶回折計出力変換ソフトウエア{DIFRAC plus Evaluation Package (EVA) software}を使って厳密に決定された。図4から分かるように、Al−IIIの充分に分解した代表的な回折ピークが示されている。Al−IIIは単一相γ−Alの結晶構造を示し、JCPDSカードチャートに示されるAl(JCPDSNo.029−0063)のピーク位置と一致し、格子定数a=7.924Åを示した。結論として、広い低分解の低強度ピークは短距離秩序のγ−Alメソ構造を示している。
【実施例5】
【0041】
<メソポーラスアルミナの特性(窒素吸着等温泉)>
我々は、実施例1〜3に示す方法によって、アルミナの材料の形状およびサイズを制御できたが、その証拠はN吸着等温線からも得ることができる。図6は、温度77Kにおける窒素(N)吸着/脱着等温線であり、横軸が相対圧、縦軸は吸着量を示す。この窒素(N)吸着/脱着等温線は、典型的なタイプIV(IUPACによる分類)の吸着挙動であり、吸着/脱着ブランチの周知の鋭い屈曲を持ち、顕著なヒシテリシスループを示していて、アルミナ試料のN吸着等温線の特徴を表している。すなわち、図6で示すアルミナ材料(Al−I)は、均質であり規則性が高いことを示している。またこのアルミナ材料(Al−I)のヒシテリシスループは、H2型(IUPACによる分類)であり、界面活性剤の有り無しにおいて作製された均質なメソポーラスの立方晶構造に典型的なヒシテリシスである。この良く特徴づけられた鋭い屈曲線は0.5≦P/P0≦0.85で現われている。
【0042】
図7は温度77Kにおける細孔分布を示す図であり、図6の窒素(N)吸着/脱着等温線に基づいて求めた細孔分布を示す図である。横軸に細孔直径、縦軸にdVp微分値をとっている。図6の窒素(N)吸着/脱着等温線に示されたシャープな屈曲線は、吸着量の急激な増加を示し、細孔ピーク約5.43nm(Al−I単独の場合)の均一なメソポーラス構造内における毛管凝縮を示す。さらに、モリブデンイオン{Mo+6}で修飾された(担持された)アルミナ材料の場合、N吸着等温線データにおいて示されたように、ヒシテリシスループの幅における減少は、作製されたナノプローブの全てでナノスケールの細孔サイズの減少を示す。我々のアルミナの合成法、Mo+6の担持法およびヒ素吸着・溶離の一連のプロセスにおいて、アルミナ・メソポーラス構造は顕著なテクスチャパラメータ、すなわち比表面積および細孔体積を求めた。細孔体積は、Al−I、Mo+6で修飾したAl−I、Asを溶離後のMo+6で修飾したAl−Iに関して、それぞれ0.405 cm3g-1、0.261 cm3g-1 および 0.357 cm3g-1である。また、BET比表面積は、Al−I、Mo+6で修飾したAl−I、As溶離後のMo+6で修飾したAl−Iに関して、それぞれ234.54 m2g-1、156.78 m2g-1および185.25 m2g-1であった。ヒ素吸着性化合物であるモリブデン酸アンモニウムが担持する前のBET比表面積Sも234.54m/gあり、大きい。また、Al−Iにモリブデン酸アンモニウムが担持しても屈曲性は変化がなくアルミナのメソ構造には変化がないことが分かる。さらに、Al−Iに担持されたモリブデン酸アンモニウムにヒ素イオンが吸着し、その吸着したヒ素イオンを溶離した後も屈曲性は変化がなくアルミナのメソ構造には変化がないことが分かる。従って、アルミナのメソ構造はプロセスの前後においても安定していることが示されている。
【実施例6】
【0043】
<メソポーラスアルミナの特性{透過電子顕微鏡解析(TEM)}>
図8は、均一形状のメソポーラスアルミナ構造の代表的TEM像を示す図である。メソポーラスアルミナの高解像度の透過電子顕微鏡(HRTEM)は、アルミナの制御された形態、メソポーラス度および結晶構造を調査するために行なわれた。上図がAl−I、中図がAl−II、下図がAl−IIIである。図8のこれらのHRTEMマイクロ写真から分かるように、実施例1〜3による方法で作製された本発明のメソポーラスアルミナは、どれも直径範囲が5−8nmで、細長く伸びた多孔質アルミナナノチューブである。結晶構造の代表的優先方位は[222]で、立方晶Fd3m対称性(シンメトリ)を持つ広域ナノ結晶ドメインを形成していることを示している。これらのTEM写真が示す最も顕著な特徴は、アルミナのメソ構造は、ゆがみがなく広域にわたって格子の縞模様が連続した秩序性を持ち、さらに均一な配列を有していることである。優先方位に沿った広域のナノ結晶ドメインはアルミナ立方晶格子のナノチューブの特徴である。このTEM写真、すなわちHR−TEM像は秩序だった面心立方メソポーラスネットワークの大きなドメインサイズであることを明確に示している。
【実施例7】
【0044】
<アルミナ(Al)−キャプターの簡単な作製方法>
本発明は、ヒ素{As(V)}吸着用化合物(ヒ素キャプター、あるいは単にキャプターと称する場合もある、ここで、キャプタ(captor)とは捕獲するものを意味する)をアルミニウム金属酸化物(アルミナ)に担持できるという、いわゆるヒ素キャプター用キャリアーとして使うことができるアルミニウム金属酸化物のユニークな特性を利用することに基づいている。大量に大規模にアルミナを生産する方法が調査されたが、図9に示すように、複雑な生産設備はないので簡単に生産できることが分かる。(図9は、ヒ素イオン吸着性化合物を高度に官能化したメソポーラスAlに担持させたAl−キャプターを用いてヒ素イオンを吸着した一連のフローを模式的に示した図、すなわちアルミナ−キャプター作製からアルミナ−キャプターへのヒ素イオン吸着までのフローを示す模式図である。)たとえば、実施例1〜3において作製したメソポーラスアルミナ(Al)の表面マトリックスの極性を、図9に示すように、臭化ジメチルアンモニウムジラウリル(dilauryl dimethyl ammonium bromide:DDAB)のようなカチオン性界面活性剤の高密度分散によって、微細に調整する。この処理によってメソポーラスアルミナのナノチューブの周囲が官能化された状態になる。この状態が図9に示すアルミナ−キャリアー(Al−Carrier)(ここで、キャプターの意味でキャリアを使っている)である。
【0045】
次に、モリブデン酸アンモニウム四水和物(Ammonium molybdate tetrahydrate)などの
モリブデン酸アンモニウム(Ammonium molybdate:(NHMo24)のようなヘテロポリ酸によってアルミナに適切な処理を行ない、官能化されたメソポーラスアルミナの細孔表面にこのヘテロポリ酸を担持すると同時に、メソポーラスアルミナの細孔表面も官能化した状態となっている。それから、溶媒および他の試薬は、ロータリーエバポレーターを使った簡単な排気方法によって除去され、10〜20分後、すべてのプロセスは完了し、上記のヘテロポリ酸を担持した(あるいは、ヘテロポリ酸で修飾された)粉末状のアルミナが作製された。このヘテロポリ酸を担持した粉末状のアルミナはヒ素キャプターであり、ヒ素{As(V)}を含む溶液と接触させることにより、ヒ素{As(V)}を吸着することができる。ヒ素{As(V)}を吸着したメソポーラスアルミナ{図9において、Al−As(V)−Captured}は変色して、ヒ素{As(V)}を吸着したことを肉眼でも観察できる。
【0046】
上記のモリブデン酸アンモニウムをアルミナ(Al−I、Al−II、Al−III)に担持する手順について詳細に説明する。40mlのエタノールに、アルミナ1mgと界面活性剤DDAB0.3mgを混合撹拌し、35℃にて30分間、ロータリーエバポレーターにて吸引排気し、次に、このエバポレーターに備付の真空ポンプを作動して、45℃にて真空乾燥した。このようにして得られた固形物を水洗し、45℃で常圧乾燥する。次に、このようにして得られた固形物を、50mlの水に0.3mgのモリブデン酸アンモニウム{(NHMo24.24HO}を混入した液に混合し、12時間攪拌する。その混合水をろ過して、得られた固形物を水洗し、55℃で常圧乾燥する。このようにして、メソポーラスアルミナのナノチュープ表面にモリブデン酸アンモニウムを担持したアルミナ−(ヒ素)キャプターを得ることができる。
【実施例8】
【0047】
<ヒ素イオンを溶解した水溶液へのアルミナ(Al)−キャプターの適用>
本発明は、モリブデン化合物をメソポーラスアルミナ・ナノチューブへ担持させ、この担持したモリブデン化合物がAs(V)イオンと安定な錯体を形成することができるという独特な特性を利用するというアイデアに基づいている。さらに、この錯体形成する溶液にアスコルビン酸(たとえば、0.1モル(M)の)を少量含む希釈溶液を添加することにより、As(V)を含むこの錯体を担持したアルミナ(Al)が藍色を呈するようになる。この藍色の濃さは吸着したヒ素量とともに増大し、肉眼でも識別可能である。この錯体は、水溶液が酸性の条件においてのみ形成することができ、アルミナ(Al)に担持した状態でヒ素酸塩−モリブデン酸塩―錯体を水溶液中において形成することができる。
【0048】
図10は、ヒ素{As(V)}が溶解された水溶液からアルミナ−キャプターを用いて水溶液からヒ素を回収する方法を示す図である。その手順は以下のようである。
(1)50mlのマグネットを備えたキャップ付き平底ビンへ、17.6mlの水溶液、100ppmのヒ素{As(V)}イオンを含む溶液を0.4ml、およびアルミナキャプター20mgが添加された。アルミナキャプターとは、上述のモリブデン酸アンモニウム四水和物を担持したアルミナ(Al−I、Al−II、Al−III)である。
(2)このアルミナキャプターを含む混合液は45℃で30分間マグネットスターラーを使って充分に攪拌された。
(3)定温放置(30分)が終了後、0.1Mアスコルビン酸の2mlを水溶液中に添加する。
(4)攪拌はさらに30−40分継続され、アルミナ−コレクター(アルミナキャプター)はヒ素を吸着して(ヒ素酸塩−モリブデン酸塩―錯体を形成)によって藍色を呈する。従って、この藍色はAs(V)の検出を示す。
(5)固形材料はろ過され(たとえば、ワットマン社の紙フィルターを用いる)、脱イオン水で洗浄された。
(6)得られた固形材料はAs(V)を吸着した透明な藍色のアルミナ−コレクターで、このことは、溶液からAs(V)をうまく集めることができることを示している。
(7)溶液中のヒ素イオン濃度は、各段階でICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法(ICP−OES)を用いて測定した。図11は、各段階における水溶液中のヒ素イオン濃度を示す表である。最初の水溶液中のヒ素イオン濃度は2.035ppmであったが、アルミナ−キャプターを浸漬した後の水溶液中のヒ素イオン濃度は0.636ppmとなり、水溶液中のヒ素イオンは1.363ppm除去された。従って、アルミナ−キャプターによるヒ素イオン除去効率は67%である。
【実施例9】
【0049】
<pptレベル濃度までの超高感度キャプチャー>
従来のヒ素濃度検出方法やヒ素除去方法の検出限界は、10−6M(モル)、すなわちppmレベルであるが、本発明のアルミナキャプターは、作製方法が簡単であるばかりでなく、ppb〜pptレベルのヒ素濃度を検出または除去することができる。図12は、種々のヒ素濃度を含む溶液からろ過した後のアルミナキャプターの呈色性(色調)を示す図である。実施例8に示す方法に従って、種々のヒ素濃度を含む水溶液にアルミナ−キャプターを添加して、ヒ素を吸着したアルミナ−キャプターを得た。ヒ素を含まない場合は白色であるが、ヒ素を含む場合は藍色(または青色)に変色する。しかもヒ素(イオン)濃度が高くなるに従って、藍色の色調が濃くなっていく。すなわち、0.5ppb(10−10Mレベル)という非常に低いヒ素濃度でも薄い藍色を呈して、肉眼でもアルミナ−キャプターにヒ素が吸着したことが分かる。100ppbのヒ素(イオン)濃度では明るい藍色となり、さらに2000ppbとなると濃い藍色となる。図109に示すように、ヒ素(イオン)濃度の増加につれて藍色が連続的に濃くなる。逆に言えば、ヒ素(イオン)を吸着したアルミナ−キャプターの色調を見れば、どの程度のヒ素(イオン)濃度であるかが分かる。
【0050】
このことから、本発明のアルミナキャプターは、水溶液中のヒ素イオンを除去できるだけでなく、ヒ素濃度検出センサーとしても使用できる。しかもこのヒ素濃度検出センサーはppt(ppb以下)レベルのヒ素濃度も検出できるので、環境中の微量のヒ素を検出し問題があるかどうかを判定することができる。また、本発明のアルミナキャプターはpptレベルの微量のヒ素イオンを吸着できるので、環境中の極めて微小濃度(〜10−10M)のヒ素イオンを除去することが可能となり、ヒ素フリーの環境を実現できる。本発明は、メソポーラスアルミナを作り、そこにヒ素吸着性化合物(たとえばヘテロポリ酸)を吸着し、そこにヒ素イオンを吸着させる。すなわち、1つのビルディングブロック技術と言える。本発明のヒ素吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナにおけるヒ素イオン検出またはヒ素イオン吸着が高感度であることによる大きな利点は、このビルディングブロック技術よって完全に制御された固定化レセプターの電子のアクセプター/ドナーの高い適応性および高移動度性に寄与するということである。
【実施例10】
【0051】
<多数のカチオンを含む水溶液からヒ素{As(V)}を収集することによる高感度性>
本発明のアルミナ−キャプターのヒ素イオン吸着性に関する選択性、すなわち多数の競合金属イオンが存在するときに、ヒ素イオン吸着性に及ぼす影響について調査した。
その手順を以下に示す。
(1)50mlのマグネットを備えたキャップ付き平底ビンへ、16mlの水溶液、100ppmAs(V)溶液を0.2ml、種々のカチオン{Na+、 Ca+2、Mg+2、Li+、Ho+3、Co+2、Zn+2、Ni+2、Cd+2、La+2、Mn+2、Hg+2、Ba+2、Cu+2、Al+3、Cr+6、Fe+2、およびBi+3}について各濃度200ppmを貯蔵溶液から各100μml、トータルで1.8ml、およびアルミナ−キャプター20mgを添加した。各金属カチオンの各濃度はすべて1ppmに保持された。ここで、アルミナ−キャプターとは、上述のモリブデン酸アンモニウム四水和物を担持したアルミナ(Al−I、Al−II、Al−III)である。
(2)この混合液は45℃で30分間マグネットスターラーを使って充分に攪拌された。
(3)定温放置(30分)が終了後、0.1Mアスコルビン酸の2mlが溶液中へ添加された。
(4)攪拌はさらに30−40分継続され、アルミナ−キャプターは藍色に変色した。このことは、アルミナキャプターがAs(V)を検出し、吸着したことを示す。
(5)固形材料は、紙フィルターを用いてろ過され、さらに脱イオン水で洗浄された。
(6)得られた固形材料は透明な藍色のアルミナ−コレクターであり、As(V)含有溶液からAs(V)をうまく集めることができたことを示している。
【0052】
図13は、種々の金属イオンを含む溶液から本発明のアルミナ−キャプターを使用してヒ素イオンのみをアルミナ−キャプターで吸着する状態を模式的に示した図である。ここでHOMとは、「High Ordered Mesoporous(高度に秩序化したメソポーラス)」のことで、本発明のメソポーラスアルミナのことを意味する。ヒ素イオンを含む多数の金属イオンを含む溶液に本発明のHOM−キャプター(アルミナ−キャプター)を添加すると、ヒ素イオンだけを優先的かつ選択的に吸着し、藍色に変色したHOM−キャプターを得ることができる。この藍色に変色したHOM−キャプター(固体)は、ヒ素を吸着しているが他の金属は殆ど吸着しない。また、この藍色に変色したHOM−キャプター(固体)を取り除いたろ過液にはヒ素イオンは殆どなくなり、他の金属イオン濃度は殆ど変化がない。このように、本発明のアルミナ−キャプターは、多数の競合金属イオンを含む溶液において、ヒ素イオン以外の金属イオンは殆ど吸着せず、ヒ素イオンに対して優先的かつ選択的吸着性が非常に高いことが分かった。
【実施例11】
【0053】
<As(V)イオン吸着における加熱無しの効果>
As(V)を回収するための最適条件は45℃まで加熱することが必要で、それはAs(V)の抽出を促進し、抽出時間を短縮する。しかし、加熱には設備とエネルギーが必要になりAs(V)回収費用のアップにつながる。そこで常温(加熱無し)で、As(V)の回収量を増やす方法について実験した。その結果、As(V)の抽出は、同じ回収量を達成するためには、As(V)イオンとアルミナ−キャプターの接触時間を増加することにより実現できることが分かった。まず、加熱(45℃)有り無しでは、同じ一定時間(60〜75分)の場合、加熱無しの方が20%だけ回収効率が低下する。
【0054】
図14は、アルミナキャプターを用いたヒ素イオンの除去効率に及ぼす加熱および接触時間の効果を示す図である。実施例8と同様に、アルミナキャプター20mgをヒ素イオンを含む溶液に添加し、加熱有り無しでヒ素{As(V)}イオンをアルミナキャプターに吸着し、溶液からヒ素イオンを除去した。ヒ素イオン濃度はICP−OESにより測定し、アルミナキャプターに吸着前後で比較し、除去効率を求めた。図14の縦軸は除去効率である。45℃で加熱しながら約3時間アルミナキャプターを溶液に接触した場合は、90%の効率であったが、加熱無し{すなわち、常温(0℃〜40℃)}の場合約10時間以上のアルミナキャプターの接触で89%の効率が得られた。すなわち、加熱無しの場合はアルミナキャプターを長く溶液中のヒ素イオンと接触させれば良いことが確かめられた。加熱無しの場合は加熱装置や設備は不要であり、時間についても一晩溶液中に浸漬しておけば(すなわち、設備が休んでいるときに浸漬して攪拌するだけで良い)、加熱と同程度のヒ素{As(V)}イオンを回収できる。
【実施例12】
【0055】
<アスコルビン酸(ascorbic acid)の付加の効果>
上述のように、ヒ素{As(V)}を回収するために重要な要素としてアスコルビン酸を付加している。しかし、アスコルビン酸を老廃物として廃棄処理するために過度な処理が必要となる。すなわち、飲料水の純化に使用される塩素の消費量が高くなるので、アスコルビン酸がない効果に関して除去効率についての調査を行なった。その結果、アスコルビン酸は、As(V)の除去効率に対する効果は全くないということ、さらに、その役割はヒ素酸塩−モリブデン酸塩−錯体を標識化し、その形成を肉眼で分かるようにすることであることが明確に見出された。
【0056】
図15は、アスコルビン酸の有無によるヒ素イオン抽出効率の相違、すなわち、水溶液からAs(V)の除去の効率に及ぼすアスコルビン酸の効果を示す図である。実施例8において、アスコルビン酸を添加しない場合についてもアルミナ−キャプターのヒ素イオンの除去効果を調べた。20mgのアルミナ−キャプターでヒ素イオンを含む溶液に60−75分接触させた。アスコルビン酸を添加した場合におけるアルミナ−キャプターのヒ素イオンの除去効率は67%であった。これに対して、アスコルビン酸を添加しない場合におけるアルミナ−キャプターのヒ素イオンの除去効率は65%となった。この結果は、アスコルビン酸は、As(V)の除去効率に対する効果は殆どないということを明確に示している。
【0057】
図16は、本発明のヘテロポリ酸を担持したアルミナーキャプターを用いてヒ素イオンを吸着する系において、ヘテロポリ酸のヒ素イオン吸着化(錯体化)によって肉眼で認識される程度に紺色(青色)変色するというアスコルビン酸の標識剤としての役割を説明する模式図である。換言すれば、図16は、ヒ素{As(V)}イオンを捕獲するための提案されたメカニズムおよび形成された錯体だけを標識化する際のアスコルビン酸の役割を図解で示したものである。ヘテロポリ酸の1つであるモリブデン酸アンモニウム{(NHMoO24}がアルミナに担持(修飾)したアルミナ−キャプターを目標元素であるヒ素イオンを溶解した溶解液と接触させる。ヒ素{As(V)}イオンはヘテロポリ酸に取り込まれ(吸着して)錯体を形成する。この錯体化はアルミナの表面に担持した状態で行なわれ、Asが吸着したキャプターは((NH[As(Mo10]錯体)であり、モリブデンの価電数は六価{Mo(VI)}である。この状態の(中間)錯体は無色である。次にアスコルビン酸の接触によって、アルミナの表面に担持された錯体は(NH[As(Mo10]錯体に変化し、モリブデン酸塩中のモリブデンは還元されて五価モリブデン{Mo(V)}に変化し、この結果ヘテロポリ酸が藍色(青色)に変色する。
【実施例13】
【0058】
<アルミナ−キャプターの水道水への適用>
本発明のアルミナ−キャプターの大きな利点は、水源、pH条件、水の含有物質などに関係なく、複雑な条件は殆ど必要がないことである。本発明のアルミナ−キャプターを水道水に適用した場合の適用性について調査した。上述した実施例で用いた脱イオン水(DW)を普通の水道水に置換し、さらに添加物を付加して、水道水において存在する可能性のある添加物や他のイオンの効果を調査した。水道水からヒ素{As(V)}を除去するための最適条件は以下の通りである。
【0059】
(1)50mlのマグネットを備えたキャップ付き平底ビンへ、17.6mlの水道水、100ppmAs(V)溶液を0.4ml、およびアルミナキャプター20mgが添加した。
(2)この混合液は70分間マグネットスターラーを使って充分に攪拌された。
(3)定温放置(30分)後、0.1Mアスコルビン酸を2ml溶液中へ添加した。
(4)攪拌はさらに30−40分継続され、固形物は藍色に変化し、アルミナ−キャプターによってAs(V)を吸着したことを示す。
(5)固形材料は紙フィルターを使ってろ過され、脱イオン水で洗浄された。
(6)得られた固形材料は透明な藍色のヒ素{As(V)}イオンを吸着したアルミナ−キャプターである。このことは、溶液からAs(V)をうまく集めることができることを示す。
(7)各段階における溶液中のヒ素{As(V)}イオン濃度をICP−OESにより測定した。そのデータを図17に示す。
【0060】
図17に示すように、水道水中のヒ素イオン濃度は非常に低く0.0005ppmであり、この溶液にヒ素イオン含有水を添加した後のヒ素イオン濃度は2.013ppmとなった。これに本発明のヒ素イオン吸着性化合物であるヘテロポリ酸のモリブデン酸ナトリウム塩を担持したアルミナ(アルミナーキャプター)を浸漬して接触した後における、ヒ素イオンを吸着したアルミナ−キャプターを除去後のろ過液中のヒ素イオン濃度は0.685ppmとなった。従って、本発明のアルミナ−キャプターによって除去された溶液中のヒ素は1.328ppmであり、ヒ素除去率は約66%である。
【実施例14】
【0061】
<アルミナ−キャプターの自然廃水への適用>
As(V)用の高い選択的除去剤としてアルミナ−キャプターの効率を、自然水に関しても調査した。3つの異なったサンプルは、茨城県つくば市の湖沼の異なった場所から持って来た。この3つのサンプルは、20mgのアルミナ−キャプターに対して、複雑な設備や装置を使用せず低コストで行なうことを目標として、加熱をせずにしかもアスコルビン酸を用いないで調査した。加熱をしないので一晩アルミナキャプターをサンプル溶液に浸漬攪拌した。新しい革新的システムである本発明のアルミナ−キャプターが自然の野外の水源で適用可能であることを確かめた。試験手順は、実施例13と同じであり、水道水をサンプル溶液に変更し、加熱およびアスコルビン酸は使用しなかった。各段階における各サンプル溶液中のヒ素{As(V)}イオン濃度をICP−OESにより測定した。そのデータを図18に示す。すなわち、図18は、自然水におけるアルミナ−キャプターの処理前後のヒ素{As(V)}イオン濃度および除去効率を示す表である。また、それをグラフにした図が図19である。すなわち、図19は、自然水におけるアルミナ−キャプターの除去効率を示す図である。図19では除去効率を縦軸に取っている。
【0062】
水道水を含めた各サンプルの処理前におけるAs(V)イオン濃度は、すべて0.0007ppm以下であった。このサンプルにヒ素イオンを含む溶液を添加後は、2.011ppm〜2.014ppmのAs(V)イオン濃度であるが、この溶液に本発明のアルミナ−キャプターを添加してAs(V)イオンを吸着後、ろ過後のろ過液のAs(V)イオン濃度は0.2147〜0.2350ppmであった。この結果、すべての試料について除去効率は88.3%〜89.6%である。この除去効率は実施例13等に比較すると約22%も高い。この効果は、主として加熱なしの効果、すなわち常温で一晩浸漬攪拌した効果である。この結果は、熱処理条件をさらに最適化すればさらに向上可能であることを示唆している。尚、アスコルビン酸を使用していないので、実施例14において回収したヒ素を吸着したアルミナ−キャプターは藍色に変色していない。このことはろ過液からアスコルビン酸を処理しなくても、この後飲料水等(農業用水や生活用水など)に直接適用できることを示している。
【0063】
図20は、本発明のアルミナ−キャプターを用いたヒ素{As(V)}イオンフリーを実現する連続的ヒ素回収システムを示す図である。本発明のアルミナ−キャプターを入れた容器を上下2段に構成する。まず上段容器に種々の金属イオン等のカチオンやアニオンが溶解されたイオン溶解液を入れ、一定時間保持する。容器に入った溶解液は攪拌できるようになっており、容器中のアルミナ−キャプターが溶解液と十分に接触できるようになっている。一定時間が経過後、上段に入れたイオン溶解液を下段の容器に移送する。この移送は、容器を上下に配置しておけば、上段容器の下の出口に備えた開閉バルブを開けるだけで重力により下段容器へ落ちていくのでエネルギーは不要である。
【0064】
上段容器に入っている本発明のアルミナ−キャプターはイオン溶解液(ヒ素イオンを含むカチオンやアニオンを含む溶解溶液)中のヒ素を吸着するので、上段容器から排出されたイオン溶解液中のヒ素濃度はかなり減少している。最初の注入するイオン溶解液のヒ素濃度が2.029ppmであれば、実施例14で得た値(約89%の除去効率)を用いると、たとえば一晩接触後において、上段容器から排出されたイオン溶解液のヒ素濃度は約0.223ppmとなる。下段容器にも本発明のアルミナ−キャプターが入っていて、下段容器に注入された上段容器からのイオン溶解液と十分に接触させる。たとえば、下段容器中のイオン溶解液も攪拌できるようになっている。下段容器において、アルミナ−キャプターとイオン溶解液と一定時間接触させた後に、下段容器からイオン溶解液を排出する。下段容器に入っている本発明のアルミナ−キャプターはイオン溶解液中のヒ素を吸着するので、下段容器から排出されたイオン溶解液中のヒ素濃度はかなり減少している。上段容器から移送されたイオン溶解液のヒ素濃度が上記の約0.223ppmであれば、もし一晩接触後において、下段容器から排出されたイオン溶解液のヒ素濃度は約0.025ppmとなる。従って、最初の溶液中のヒ素濃度が2ppmと高くても、図117に示す本発明の2段階ヒ素回収システムを用いることにより、0.1ppm以下の人体に問題ないレベルの値となる。さらに、接触時間や温度などを最適化すれば、図117に示すようにヒ素イオン濃度を0.0005ppm程度にすることもでき、そのときのヒ素除去効率は99.97%となり、非常に低いレベルを実現することができる。
【0065】
さらに図20に示すような本発明のアルミナ−キャプターを入れた容器をさらに多段に接続することにより、さらに低いレベルのヒ素イオン濃度を持つ溶液を得ることができる。特に図109(Fig7)に示すように、本発明のアルミナ−キャプターは1ppb以下の超微量のヒ素イオンも吸着できるので、多段階連続ヒ素回収システムを用いれば、かなり高濃度のヒ素イオン濃度の溶液であっても1ppb以下のヒ素フリー溶液を簡単な設備でしかも時間をかけずに作製することができる。ヒ素イオンを吸着したアルミナ−キャプターはある濃度以上のヒ素イオンは吸着しなくなるので、そのレベルに近づいたら、新しいヒ素を吸着していないアルミナ−キャプターと交換すれば良い。アスコルビン酸を溶液に含有させておけば、藍色の濃さによってヒ素イオン濃度が分かり交換し易い。しかし、アスコルビン酸を含有させることは、溶液を利用する場合にはアスコルビン酸の除去も検討しなければならいないが、アスコルビン酸を含有しなくても事前にデータを得ておけば、その使用時間によってアルミナ−キャプターの交換頻度を決めておくことができる。あるいは、処理液のヒ素濃度をICP−OES等によって測定する機能をつけておけば、アスコルビン酸を使用しなくてもアルミナ−キャプターの交換時期を知ることができる。また、適宜処理液を取ってアスコルビン酸を添加して溶液中のヒ素イオン濃度を測定することもできる。このように、加熱無しの常温(0〜40℃、好適には20〜40℃)およびアスコルビン酸を使用しなくても、図20のような複数段の除去システムを構成すれば、ヒ素イオン濃度を目標限度以下のヒ素フリーの水溶液を得ることができる。
【0066】
図20に示す多段連続ヒ素回収システムのさらなる利点は、多数接続することにより、イオン溶解液を1つの容器に留めておく時間を短縮できることである。従って、大量の溶液処理を行なうことができ、設備も安価なことから溶液中からのヒ素イオン除去をかなり安く行なうことができる。これをさらに発展させて本発明のアルミナ−キャプターを連続した流動床方式にすることにより、さらに大量溶液処理を安価に行なうことも可能となる。このように、本発明のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを環境中のヒ素イオン吸着剤として用いて、図20のようなヒ素イオン除去システムやヒ素除去装置を構築して、井戸水、川や湖沼などの自然水、浄化前用水さらには工場廃水や生活排水等のヒ素イオンを含むと予想されるヒ素イオン溶解溶液からヒ素イオンを除去して、この除去された溶液(水)を(さらに、他のイオン等の除去などは必要であるが)飲料水、生活用水、農業用水、あるいは工場用水として用いることが可能となる。図20に示す鉄イオン(Fe+2)、塩素イオン(Cl−1)、マンガンイオン(Mn+6)等も除去する場合には、これらのイオンを除去する物質を、本発明のヒ素イオン吸着性物質を担持したメソポーラスアルミナと一緒に添加しておけば良い。
【0067】
図21は、本発明のアルミナ−キャプターを家庭等で日常的に使用されるティーバッグ用のバッグ(袋)に入れて、家庭用飲料水からヒ素イオンを吸着してヒ素フリーの飲料水を供給するシステムを示す図である。ヒ素イオンは微量でも長い間摂取すると発がん性が高まるので、極微量のヒ素でも除去しておくことが望ましい。しかし、これまでのヒ素除去剤はppbオーダーのヒ素を取り除くことは困難であったが、本発明のアルミナ−キャプターはppt〜ppbレベルの超微量のヒ素イオンも吸着できるので、ヒ素フリーの飲料水を供給することができる。たとえば、図21に示すように、紅茶のティーバッグ用の袋などの中に紅茶の代わりにヒ素キャプターを詰めて、ヒ素吸着用バッグとして飲料水ポットの中に入れておけば、常にヒ素フリーの水を飲むことができる。すなわち、このヒ素吸着用バッグはヒ素吸着剤として使用できる。アルミナに担持されたヒ素イオン吸着性化合物はアルミナとの結合力が強いので、使用中に離れてしまうことはなく、飲料水中に溶出したりすることもなく安全に使用できる。ヒ素イオンがppmオーダーで飲料水中に入っていた場合には即命にも関わることであるが、図21に示すように飲料水ポットの中に入れたヒ素吸着用バッグのおかげで、人体にも即時に問題となるようなレベルのヒ素濃度にはならない。使用済みのヒ素吸着用バッグは前述したようにアルカリ水で処理すればアルミナ−キャプターに吸着したヒ素は分離可能なので、再度使用することもできる。このように本発明のヒ素吸着イオンを担持したメソポーラスアルミナを入れた小型バッグ(ヒ素吸着用バッグ)を用いて、家庭でも簡単にヒ素フリーの飲料水を提供することができる。しかも繰り返し使用できるので、経済的で低コストな小型バッグ(ヒ素吸着用バッグ)を用いたヒ素フリーの飲料水供給システムである。
【0068】
本発明はメソポーラスアルミナにヒ素イオン吸着性化合物を担持させる。たとえば、メソポーラスアルミナに界面活性剤を作用した後に得られたアルミナを、モリブデン酸アンモニウムを含む水溶液中で混合させることにより、モリブデン酸アンモニウムをメソポーラスアルミナに担持させる。このモリブデン酸アンモニウム等のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナは、pH調整等の前処理や後処理などの水質調整を行なわずに常温処理において、水中の微量のヒ素イオンを選択的に吸着して除去できる。従って、特別の前処理(たとえば、酸やアルカリ処理)を行なわないので余分の後処理も必要がなく、かつ加熱装置なども使用しないので、低コストのヒ素除去システムを構築できる。さらに多段にヒ素除去システムやヒ素除去処理装置を構成することにより、迅速で大量にヒ素イオンフリーの水溶液を得ることができる。飲料水や生活用水などに使用されるヒ素イオンフリー(ヒ素イオンの非常に少ない)水溶液を安価にしかも大量に迅速に提供できるシステムを提供できる。また、本発明のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナは、水溶液中のヒ素イオンを抽出して収集できるのでヒ素コレクター(アルミナコレクター)としても使用できる。さらにアスコルビン酸と併用することにより、ppm〜ppb〜pptレベルで変化する色調を用いてヒ素イオンセンサーとしても使用できる。また、本発明のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナは、ppm〜ppb〜pptレベルのヒ素イオンを除去できるフィルターとして使用することもでき、家庭用飲料水や工業用用水の供給部分に設置すれば、ヒ素フリーの水を常に供給できる。
【0069】
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。また、上記実施形態や実施例は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、ストロンチウムコレクターおよびセンサーに関する産業分野、種々のカチオンやアニオンや界面活性剤等を含む物質や材料からヒ素イオンを除去する産業分野、特に飲料水浄化を行なう産業分野およびヒ素を回収する産業分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標元素であるヒ素(As)イオンが溶解された溶液(ヒ素イオン溶解溶液)からヒ素イオンを吸着するとともに吸着されたヒ素イオンを遊離することが可能なヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナ。
【請求項2】
メソポーラスアルミナは、硝酸アルミニウムおよび界面活性剤を用いて作製されることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項3】
界面活性剤は、カンファー・スルファン酸(CSA)または臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項または第2項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項4】
メソポーラスアルミナは、アルミニウム・イソプロポキシド(C21AlO)の加水分解により作製されることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項5】
ヒ素イオン吸着性化合物は目標元素であるヒ素イオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項6】
ヒ素イオン吸着性化合物はヘテロポリ酸であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第5項のいずれかの項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項7】
ヘテロポリ酸はモリブデン酸アンモニウムであることを特徴とする、特許請求の範囲第6項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項8】
メソポーラスアルミナに界面活性剤を作用した後に得られた固体状態のアルミナを、モリブデン酸アンモニウムを含む水溶液中で混合させることにより、モリブデン酸アンモニウムをメソポーラスアルミナに担持することを特徴とする、特許請求の範囲第7項に記載のヒ素回収方法。
【請求項9】
モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する温度は常温であることを特徴とする、特許請求の範囲第7項または第8項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項10】
モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際にpH調整等の前処理および/または後処理は行なわないことを特徴とする、特許請求の範囲第7項〜第9項のいずれかの項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項11】
ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際に、アスコルビン酸を用いて、吸着したヒ素イオンの濃度を色調により判定することを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第10項のいずれかの項に記載のメソポーラスアルミナ。
【請求項12】
特許請求の範囲第1項〜第11項に記載のメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際に、アスコルビン酸を用いて、吸着したヒ素イオンの濃度を色調により判定することを特徴とする、ヒ素イオン溶解溶液中のヒ素イオン濃度の検出方法。
【請求項13】
特許請求の範囲第1項〜第11項に記載のメソポーラスアルミナを用いてヒ素イオン溶解溶液からヒ素(As)を収集することを特徴とする、ヒ素コレクター。
【請求項14】
特許請求の範囲第1項〜第11項のいずれかの項に記載のメソポーラスアルミナを用いたヒ素除去フィルター。
【請求項15】
特許請求の範囲第1項〜第11項に記載のメソポーラスアルミナを用いたヒ素吸着剤。
【請求項16】
ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを入れた小型バッグであることを特徴とする請求項15に記載のヒ素吸着剤。
【請求項17】
特許請求の範囲第1項〜第11項のいずれかの項に記載のメソポーラスアルミナを用いて、自然水、浄化前用水、工業廃水および生活排水を含むヒ素イオン溶解溶液からヒ素イオンを除去し、ヒ素イオン除去後の溶液を飲料水または生活用水または農業用水または工業用水として用いることを特徴とする、ヒ素イオン除去システム。
【請求項18】
特許請求の範囲第1項〜第11項のいずれかの項に記載のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを入れた容器中にヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液を導入するか、または、ヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液を入れた容器中に特許請求の範囲第1項〜第11項のいずれかの項に記載のヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを添加して、ヒ素イオンを除去することを特徴とする、ヒ素イオン除去装置。
【請求項19】
複数台の前記溶器を直列接続して、ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナとヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液とを複数回接触させることにより、前記ヒ素イオン溶解溶液中のヒ素濃度を一定濃度以下に低減することを特徴とする、特許請求の範囲第18項に記載のヒ素イオン除去装置。
【請求項20】
ヒ素イオン吸着性化合物をメソポーラスアルミナに担持する工程、および
ヒ素イオンを含むヒ素イオン溶解溶液にヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナを接触させ、前記ヒ素イオン吸着性化合物にヒ素イオンを選択的に吸着する工程、
を含むことを特徴とするメソポーラスアルミナを用いたヒ素回収方法。
【請求項21】
ヒ素イオンを吸着した前記ヒ素イオン吸着性化合物からヒ素イオンを遊離する工程をさらに含むことを特徴とする、特許請求の範囲第20項に記載のメソポーラスアルミナを用いたヒ素回収方法。
【請求項22】
ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナはリユースすることを特徴とする、特許請求の範囲第20項または第21項に記載のセシウム回収方法。
【請求項23】
ヒ素イオン吸着性化合物はヒ素イオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第20項〜第22項のいずれかの項に記載のヒ素回収方法。
【請求項24】
ヒ素イオン吸着性化合物はヘテロポリ酸であることを特徴とする、特許請求の範囲第20項〜第23項のいずれかの項に記載のヒ素回収方法。
【請求項25】
ヘテロポリ酸はモリブデン酸アンモニウムであることを特徴とする、特許請求の範囲第24項に記載のヒ素回収方法。
【請求項26】
メソポーラスアルミナに界面活性剤を作用した後に得られた固体状態のアルミナを、モリブデン酸アンモニウムを含む水溶液中で混合させることにより、モリブデン酸アンモニウムをメソポーラスアルミナに担持することを特徴とする、特許請求の範囲第25項に記載のヒ素回収方法。
【請求項27】
モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する温度は常温であることを特徴とする、特許請求の範囲第25項または第26項に記載のヒ素回収方法。
【請求項28】
モリブデン酸アンモニウムを担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際にpH調整等の前処理および/または後処理は行なわないことを特徴とする、特許請求の範囲第25項〜第27項のいずれかの項に記載のヒ素回収方法。
【請求項29】
ヒ素イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスアルミナをヒ素イオン溶解溶液に接触させてヒ素イオンを吸着する際に、アスコルビン酸を用いて、吸着したヒ素イオンの濃度を色調により判定することを特徴とする、特許請求の範囲第20項〜第28項のいずれかの項に記載のヒ素回収方法。

【図11】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−95641(P2013−95641A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240708(P2011−240708)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】