説明

ビオチン化ないしホーミングペプチド提示型バイオナノカプセル

【課題】容易に種々の生体分子と相互作用可能なバイオナノカプセルを提供する。
【解決手段】ビオチン/ビオチン結合性タンパク質/ホーミングペプチド修飾されたB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質またはその改変体を含む、バイオナノカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホーミングペプチド提示型バイオナノカプセルに関する。また本発明は、ビオチン化バイオナノカプセルに関する。さらに本発明は、ビオチンを介して生体認識分子を提示したバイオナノカプセルに関する。本発明のバイオナノカプセルは、薬物送達システム(DDS)、遺伝子送達システム(GDS)に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
バイオナノカプセルは薬剤、遺伝子、タンパク質等を包含して生体内の任意の細胞や組織に送達させることができるナノサイズのプロテオリポソームである。このバイオナノカプセルはリポソームとは異なり、ウイルスの感染系に基づいているので細胞内への物質導入効率は飛躍的に高い。オリジナルタイプのバイオナノカプセルは、ヒト肝臓特異的であるので、肝臓以外の細胞や組織に再標的化して送達させるには、HBsAgタンパク質由来のPre-Sペプチド(ヒト肝臓特異的認識分子として機能)を別の生体認識分子(抗体、サイトカイン、同受容体など)に交換する必要があった(特許文献1〜3)。
【0003】
一方、ホーミングペプチドと総称される、特に3アミノ酸残基以上15アミノ酸残基未満のペプチドが生体内で特定の臓器及び細胞を認識して、生体内ピンポイント標的化に利用できることが示されている(非特許文献1〜3)。しかし、これらホーミングペプチドは、ファージを使用したランダムペプチドライブラリーから単離され、その際のファージの状態のままか、ペプチドに直接薬剤や蛍光物質を結合した用途にしか使用されていないのが現状であり、ファージライブラリーからホーミングペプチド部分を単離して巨大分子(リポソーム、遺伝子、RNA、タンパク質等)などに結合させて、生体内デリバリに応用した例はなかった。
【特許文献1】WO01/64930
【特許文献2】WO03/082330
【特許文献3】WO03/082344
【非特許文献1】Joyce J.A., Laakkonen P., Bernasconi M., Bergers G., Ruoslahti E., and Hanahan D. (2003) CANCER CELL 4, 393-403.
【非特許文献2】Kolonin M, Pasqualini R, Arap W. Current Opinion in Chemical Biology 2001, 5:308-313
【非特許文献3】Zhang L, Hoffman JA, and Ruoslahti E Circulation 2005; 112: 1601-1611
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、容易に種々の生体分子と相互作用可能なバイオナノカプセルを提供することを目的とする。
【0005】
また本発明は、生体認識能に優れたバイオナノカプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、バイオナノカプセルを構成するHBsAgタンパク質またはその改変体をビオチン化もしくはビオチン結合性タンパク質化し、このビオチンにアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン(Neutravidin)などのビオチン結合性タンパク質を介してビオチン化された生体認識分子を連結すること、或いは、バイオナノカプセルに連結されたビオチン結合性タンパク質にビオチン化された生体認識分子を連結することで、カプセル内の物質の生体内への導入を実質的に損なうことなく、任意の細胞/組織を標的化できることを見出した。また、ホーミングペプチドをバイオナノカプセルに提示することにより、細胞/組織を標的化できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下のビオチン化バイオナノカプセル、ビオチン結合性タンパク質を連結したバイオナノカプセルと生体認識分子提示型バイオナノカプセルを提供するものである。
1. ホーミングペプチドが連結されたB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)タンパク質またはその改変体を含む、バイオナノカプセル。
2. ホーミングペプチドが、ビオチン-ビオチン結合性タンパク質-ビオチン結合を介してHBsAgタンパク質またはその改変体に連結されてなる、項1に記載のバイオナノカプセル。
3. ホーミングペプチドが、HBsAgタンパク質またはその改変体と直接又は適当なアミノ酸配列を介して連結された融合タンパク質に含まれる、項1に記載のバイオナノカプセル。
4. HBsAgタンパク質またはその改変体が抗体のFc 領域と結合性のドメインを含み、ホーミングペプチドと抗体のFc領域とを含む融合タンパク質が前記表面抗原タンパク質に連結されている、項1に記載のバイオナノカプセル。
5. 前記ドメインがZZタグである、項4に記載のビオチン化バイオナノカプセル。
6. ビオチン修飾されたHBsAgタンパク質またはその改変体を含む、ビオチン化バイオナノカプセル。
7. ビオチン修飾されたHBsAgタンパク質またはその改変体とビオチン結合性タンパク質を含む、ビオチン結合性タンパク質−ビオチン化バイオナノカプセル。
8. 前記HBsAgタンパク質またはその改変体が、抗体のFc 領域と結合性のドメインを含む項1に記載のビオチン化バイオナノカプセル。
9. 前記ドメインがZZタグである、項8に記載のビオチン化バイオナノカプセル。
10. ビオチン結合性タンパク質を化学的に連結したHBsAgタンパク質またはその改変体を含むバイオナノカプセル。
11. ビオチン結合性タンパク質とHBsAgタンパク質またはその改変体を架橋剤を介して結合してなる項10に記載のバイオナノカプセル。
【発明の効果】
【0008】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、ビオチン化バイオナノカプセル、ビオチン結合性タンパク質を連結したバイオナノカプセルを得ることができる。このビオチン化バイオナノカプセルは、アビジン/ストレプトアビジン/ニュートラアビジン等のビオチン結合性タンパク質を介して、任意のビオチン化生体認識分子を連結することができる。また、ビオチン結合性タンパク質を連結したバイオナノカプセルは、任意のビオチン化生体認識分子を連結することができる。ビオチンを適当なスペーサーを介して連結することで、多数の生体認識分子を、その生体認識能を損なうことなく連結することができる。本発明のビオチン化バイオナノカプセルとビオチン結合性タンパク質を連結したバイオナノカプセルは、内部に封入した物質を細胞内導入するために好ましく使用されるが、この他に核酸(DNA,RNA)、タンパク質(受容体またはそのリガンド、酵素)及び生理活性物質などの任意の物質と相互作用するための適当な生体認識分子を連結するのに使用することができる。従来のバイオナノカプセルは、生体認識分子を予めHBsAgタンパク質またはその改変体に連結しており、ZZタグを連結した場合でも抗体以外のタンパク質は連結することができず、個別の目的に応じてバイオナノカプセルをその都度HBsAgタンパク質との融合タンパク質として組換え生物用発現ベクターの作製から作り直す必要があった。一方、本発明のビオチン化バイオナノカプセルによれば、(ビオチン)−(ビオチン結合性タンパク質)−(ビオチン)結合を介して任意の生体認識分子の連結に対応できるため、効率の点からも望ましい。同様に、本発明のビオチン結合性タンパク質を連結したバイオナノカプセルによれば、(ビオチン結合性タンパク質)−(ビオチン)結合を介して任意の生体認識分子の連結に対応できる。
【0009】
本発明のもう1つの好ましい実施形態によれば、ホーミングペプチド提示型バイオナノカプセルが提供される。ホーミングペプチド提示型バイオナノカプセルは、ビオチンを介して多数のホーミングペプチド(1種類でも2種類以上でもよい)を提示できるため、複数の細胞に同時にカプセル内に封入された物質を導入することができる。また、ホーミングペプチドを適当な密度で提示させることで、導入効率をさらに向上させることができ、核酸、タンパク質などの封入物質の導入剤としても高い有用性を有する。さらに、複数の抗原性物質を細胞表面に提示させれば、ワクチンとしても有用である。ホーミングペプチドは低分子であるので、抗体と異なり抗原性が問題となりにくい利点がある。ホーミングペプチドは、ZZタグとFc領域の結合、ビオチンとビオチン結合性タンパク質の結合、あるいはHBsAgタンパク質との融合タンパク質としてバイオナノカプセルに表面提示することができる。さらに、ホーミングペプチドは、バイオナノカプセルに二価または多価の架橋剤を介して化学的に結合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、バイオナノカプセルを「BNC」と略記することがある。また、「BNC」をビオチン化されたバイオナノカプセルの意味で使用することがある。
【0011】
BNCは、HBsAgタンパク質またはその改変体と、リン脂質膜を構成要素とするナノサイズの粒子を意味し、リン脂質膜に前記HBsAgタンパク質またはその改変体が突き刺さった構造をとっている。BNCの内部には、核酸、タンパク質、薬物などの細胞内に導入される物質が封入されていてもよい。本明細書で、「未封入BNC」は、導入物質が封入されていないBNCを指す。
【0012】
BNCの構成要素である、HBsAgタンパク質またはその改変体としては、HBsAgタンパク質またはその改変体が例示される。なお、HBsAgタンパク質は、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)タンパク質と組み合わせて未封入BNCを形成してもよい。HBsAgタンパク質またはその改変体は、糖鎖を有していてもよい。未封入BNCに核酸、タンパク質、薬物などの導入物質を封入させる方法としては、エレクトロポレーションにより行ってもよく、導入物質を含むリポソームとビオチン化されたまたはされていない未封入BNCを融合させて、内部に導入物質を封入してもよい。
【0013】
本明細書において、BNC、導入物質(核酸、タンパク質、薬物等)などの大きさは、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡(AFM)により測定してもよく、ゼーターサイザーナノ-ZS(Malvern Instruments)などにより光学的に測定してもよい。
【0014】
真核細胞でHBsAgタンパク質を発現させると、該タンパク質は、小胞体膜上に膜タンパクとして発現、蓄積され、中空ナノ粒子としてルーメンもしくは細胞外に放出されるので好ましい。真核細胞としては、哺乳類、昆虫等の動物細胞、酵母等が適用できる。このような粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、人体への安全性が極めて高い。
【0015】
1つの好ましい実施形態において、ビオチン化される前の未封入BNCは、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜15重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される。糖鎖は、真核細胞で製造されるときに付加されるものであり、使用する真核細胞によって相違する。BNCのリン脂質膜は、フォスファチジルコリン(PC)、フォスファチジルセリン(PS)、フォスファチジルエタノールアミン(PE)などが含まれ、例えば酵母で製造されたBNCではフォスファチジルコリン(PC)が主成分である。リン脂質膜の組成は、製造に用いられた真核細胞の種類、リポソームとの融合の有無などによって変化する。本発明の1つの実施形態において、未封入BNCを製造するために用いられる真核細胞としては、哺乳類細胞(CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞など)、昆虫細胞(Sf9、Sf21、HighFive株など)、酵母(Saccharomyces, Pichia, Hansenulla, Schizosaccharomyces, Candida)などが挙げられ、これらの真核細胞の小胞体膜が中空ナノ粒子のリン脂質膜となると考えられている。
【0016】
HBsAgタンパク質に包含され、S粒子の構成要素であるSタンパク質(226アミノ酸)は、粒子形成能を有している。S粒子に55アミノ酸からなるPre-S2を付加したのがMタンパク質(M粒子の構成タンパク質)であり、Mタンパク質に108アミノ酸(サブタイプy)または119アミノ酸(サブタイプd)からなるPre-S1を付加したものがLタンパク質(L粒子の構成タンパク質)である。
【0017】
なお、本願明細書では特に断らない限り、Pre-S1領域のアミノ酸位置の番号付けは、108アミノ酸のサブタイプyに基づいて行う。当業者は、119アミノ酸(サブタイプd)についての対応する位置を容易に認識する。
【0018】
Lタンパク質、Mタンパク質はSタンパク質と同様に粒子形成能を有している。従って、PreS1およびPreS2の2つの領域は任意に置換、付加、欠失、挿入を行ってもよい。例えばPre-S1領域の3-77位(サブタイプy)に含まれるヒトおよびチンパンジーの肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質を用いることで、肝細胞認識能を失ったBNCを得ることができる。また、PreS2領域にはアルブミンを介して肝細胞を認識する部位が含まれているので、このアルブミン認識部位を欠失させることもできる。本発明において、ホーミングペプチドをBNCに表面提示・連結する場合には、肝細胞認識部位、アルブミン認識部位を欠失させるか、これらの機能を失わせるのが好ましい。ビオチン化BNCを細胞への物質導入以外の用途(例えばワクチン用途)に使用する場合には、これらに認識部位は残しても残さなくてもよい。
【0019】
Sタンパク質(226アミノ酸)は粒子形成能を担っているので、Sタンパク質の改変は、粒子形成能を損なわないように行う必要がある。例えば、Sタンパク質の107-148は削除しても粒子形成能を保持するので(J. Virol. 2002 76 (19), 10060-10063)、置換、付加、欠失、挿入等を行ってもよく、C末端部の疎水性の154-226残基も同様に置換、付加、欠失、挿入などを行っても粒子形成能を保持し得る。一方、Sタンパク質の8-26残基部(膜貫通領域TM1)および80-98残基部(TM2)は膜貫通helix(transmembrane配列)であり、この領域は変異を行わないか、欠失、付加、置換等は、膜貫通特性を維持するように疎水性の残基を残して行うのが望ましい。
【0020】
1つの好ましい実施形態において、HBsAgタンパク質の改変体としては中空ナノ粒子を形成する能力を有する限り種々の改変体が広く包含され、HBsAgタンパク質を例に取ると、PreS1とPreS2領域に関しては任意の数の置換、欠失、付加、挿入が挙げられ、Sタンパク質に関しては、1又は数個もしくは複数個、例えば1〜120個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に1〜5個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されていてもよい。置換、付加、欠失、挿入などの変異を導入する方法としては、該タンパク質をコードするDNAにおいて、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984))などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段(例えばDNA合成機を使用する)(J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett.,22, 1859 (1981))などが挙げられる。例えばHBsAgタンパク質改変体として、HBsAg(Q129R, G145R)タンパク質あるいはこれをさらに改変したものは、抗原性が低いために好ましい。コドンの選択は、宿主のコドンユーセージを考慮して適宜決定できる。
【0021】
HBsAgタンパク質の改変体として、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、Staphylococcus aureus Protein A由来のZZタグ)を使用することもできる。ZZタグとは、イムノグロブリンGのFc領域と結合する能力を有するアミノ酸配列と規定され、次の2回繰り返し配列からなる(ZZタグ の配列:
VDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPKVDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK)。
【0022】
ZZタグは、Lys(K)が豊富であり、後でビオチン化する際に側鎖のアミノ基がビオチン化できるため、ビオチンを数多く結合させることができるために好ましい(図7と8参照)。ZZタグ以外にも、Lys(K)残基の豊富なペプチドを導入したHBsAgタンパク質改変体は、ビオチン化の効率が高くなるために好ましい。なお、ビオチン化されたアミノ酸(位置)の検出は、必要であればHBsAgタンパク質またはその改変体をトリプシンやリジルエンドペプチダーゼCなどのプロテアーゼで消化し、LC-MS、MS/MSなどで解析することにより決定できる。
【0023】
本発明のビオチン化BNCは、HBsAgタンパク質またはその改変体を真核細胞で発現することにより得ることができる非ビオチン化BNCを適当なビオチン化剤でビオチン化することにより得ることができる。
【0024】
ビオチン化剤としては、ビオチンを直接あるいは適当なスペーサーを介して結合するものであればよく、特に限定されない。好ましいビオチン化剤は、-NH-(CH2)n-CO- (n=1〜6)などの脂肪族アミド構造あるいはポリアルキレングリコール構造を有するスペーサーを介して結合される。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリブチレングリコール(PBG)、(PEG)-(PPG)-(PEG)ブロック共重合体、(PPG)-(PEG)-(PPG)ブロック共重合体、(PEG)-(PBG)-(PEG)ブロック共重合体、(PBG)-(PEG)-(PBG)ブロック共重合体などがあげられ、好ましくは、PEG、PPG、(PEG)-(PPG)-(PEG)ブロック共重合体、(PPG)-(PEG)-(PPG)ブロック共重合体、より好ましくはPEGがあげられる。好ましいPEG構造は、下記式で表される:
-(CHCHO)-
(式中、nは2〜500、好ましくは2〜100、より好ましくは2〜50、さらに好ましくは4〜10の整数を示す。)
1つの好ましい実施形態において、本発明のビオチン化剤の好ましいスペーサーはポリアルキレングリコール構造を有する。該ポリアルキレングリコール構造は、エステル、アミドまたはチオエーテル結合を介して、好ましくはアミド結合を介してビオチンおよびHBsAgタンパク質またはその改変体と各々結合するのが好ましい。
【0025】
他の1つの好ましい実施形態において、ビオチン化剤としては、たとえば下記の構造のものが使用できる:
X-(CH2)m1-NH-{CO(CH2)nNH}m2-(ビオチニル)
(式中、Xはスルホコハク酸イミドオキシカルボニル基、コハク酸イミドオキシカルボニル基、テトラフルオロフェノキシカルボニル、シアノメチルオキシカルボニル、p-ニトロフェニルオキシカルボニル、I, Br, Clなどのアミノ基と反応してアミド(NHCO)またはアミノアルキル基を形成可能な活性エステル残基、ハロゲン原子を表す。m1は2〜6の整数を表し、m2は0〜50、好ましくは1〜10、より好ましくは0〜5、さらに好ましくは0〜3の整数を示す。)
具体的なビオチン化剤としては、たとえばPierce製のEZ-Link Sulfo-NHS-Biotin、EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin、EZ-Link Sulfo-NHS-LC-LC-Biotin、EZ-Link-NHS-PEO4-Solid Phase Biotinylation Kitなどの各種ビオチン化剤が例示される。
【0026】
ビオチン化剤は、上記のようなビオチン化剤とBNCを1〜37℃、好ましくは室温で反応させればよい。本発明のビオチン化BNCを構成するHBsAgタンパク質またはその改変体は、HBsAgタンパク質またはその改変体あたりビオチン残基が0.1〜20個、好ましくは2〜10個、より好ましくは3〜8個結合している。本発明者は、ビオチン残基がHBsAgタンパク質またはその改変体のほぼすべてのLys残基に導入された場合でも、細胞や組織内部への物質の導入活性が損なわれないことを見出した。多くのLys残基はBNC外表面に存在し、その正電荷基(イプシロン−アミノ基)により負電荷を帯びている細胞表面の認識に関わっていると考えられたが、この知見は意外なものであった。
【0027】
本発明で使用するビオチン結合性タンパク質は、ビオチン化HBsAgタンパク質またはその改変体とビオチン化ホーミングペプチドなどのビオチン化生体認識分子を連結できるものであればよく、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンが好ましく例示されるが、それ以外にもストレプトアビジン、ニュートラアビジン(NeutrAvidin)やアビジンが複数個結合した融合タンパク質(リンカーで化学的に結合されていてもよい)などの、複数のビオチンと結合可能なビオチン結合性タンパク質は広く包含される。ビオチン結合性タンパク質は、細胞や組織等と非特異的な吸着を起こさないためにもバッファーのpH が中性または弱酸性下で、タンパク質のpIが中性か弱酸性であるのが良い。
【0028】
ビオチン-ビオチン結合タンパク質-ビオチン結合を介してホーミングペプチドを連結したBNCは、HBsAgタンパク質またはその改変体に、ホーミングペプチドを直接連結した融合タンパク質と同様な物質の細胞内への導入活性を有する。したがって、ビオチン化BNCはどのホーミングペプチド(広く細胞認識分子であっても良い)が細胞認識に適しているかを決めるための中間体として有用である。
【0029】
BNCとホーミングペプチドの連結、BNCとビオチン結合性タンパク質の連結に使用されるリンカーないし架橋剤としては、二価ないし多価のリンカーないし架橋剤が好ましく用いられる。このようなリンカー/架橋剤としては、タンパク質ないしペプチド同士の連結に利用できるものであれば特に限定されず、公知のリンカー/架橋剤を広く利用することができる。具体的には、N−(4−マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミド(GMBS)、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)、N−(8−マレイミドカプリルオキシ)スクシンイミド(HMCS)、N−(11−マレイミドウンデカノイルオキシ)スクシンイミド(KMUS)、N−((4−(2−マレイミドエトキシ)スクシニル)オキシ)スクシンイミド(MESS)、N−(4−マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドナトリウム塩(スルホ−GMBS)、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スルホスクシンイミドナトリウム塩(スルホ−EMCS)、N−(8−マレイミドカプリルオキシ)スルホスクシンイミドナトリウム塩(スルホ−HMCS)などの、タンパク質/ペプチド上のアミノ基と反応するN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、フェノールエステルなどの活性エステル;タンパク質/ペプチド上のアミノ基と反応するアルキルもしくはアリールイソシアネートまたはイソチオシアネート、あるいはタンパク質/ペプチド上のスルフヒドリル基と反応するマレイミド もしくはα−ハロアミドなどの反応性基をリンカー/架橋剤分子内に2個または3個以上有する二価または多価のリンカー/架橋剤が例示される。
【0030】
ホーミングペプチドを直接にBNCとの融合タンパク質とする場合、HBsAgタンパク質またはその改変体をコードするDNAとホーミングペプチドをコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させることにより、任意の標的細胞を認識するBNCを得ることができる。
【0031】
HBsAgタンパク質の改変体としては、抗原性(エピトープなどの抗原性に関与する部位を欠失/置換した改変体)、免疫原性、粒子構造の安定性、および組織・細胞選択性、リポソームとの融合能を向上した改変体であってもよい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、未封入BNCの粒径は、20〜130nm程度であり、導入物質を封入したBNCの粒径は、導入物質の大きさにもよるが、通常40〜500nm程度、例えば、40〜400nm、より好ましくは40〜200nm程度、特に40〜150nm程度である。
【0033】
生体認識分子を結合した本発明のBNCは、特定の細胞に対して特異的に導入物質を送り込むものとして有用である。例えば、導入物質を封入したBNCを静脈注射などによって体内に投与すれば、当該粒子は体内を循環し、粒子表面に提示した肝細胞或いは他の細胞に選択的/特異的な分子により標的細胞に導かれ、導入物質が標的細胞に導入される。
【0034】
また、本発明のBNCは、標的細胞とin vitroで混合することにより細胞導入試薬としても好ましく使用できる。
【0035】
細胞に導入される物質としては、特に限定されず、例えば細胞内に導入されて生理作用を生じる各種薬物、例えばホルモン、リンホカイン、サイトカイン、酵素などの生理活性タンパク質;ワクチンとして作用する抗原性タンパク質;細胞内で発現する遺伝子、プラスミド等のポリヌクレオチド、又は発現を誘発もしくは誘導する特定の遺伝子発現に関与するポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド(RNAiを含む);さらに遺伝子治療のために導入される各種遺伝子及びアンチセンスDNA/RNA等を挙げることができる。なお、導入される「遺伝子」には、DNAだけでなくRNA(siRNAを含む)も含まれる。また、導入される物質はタンパク質、遺伝子などの高分子の生理活性物質が好ましく例示できるが、低分子量の各種薬物(特に難吸収性の薬物や、選択毒性を要求される薬物)に適用しても好ましい結果を得ることができる。導入物質は、安定化剤と混合して、BNCに封入するか、BNCと安定化剤を混合しても良い。また、遺伝子、タンパク質などは天然のものでも合成されたものでもよく、改変された遺伝子、タンパク質であってもよい。
【0036】
生体認識分子としては、抗体、抗原、生理活性ペプチド、リンホカイン、サイトカイン、糖鎖、受容体、ホーミングペプチド、ウイルス由来外皮タンパク質、微生物由来膜タンパク質などが挙げられる。本発明のビオチン化BNCは、HBsAgタンパク質またはその改変体1個当たりビオチンを多数結合させることができる。したがって、該タンパク質またはその改変体1個当たりのビオチンの数を制御することにより、BNCの細胞認識の程度を改変することができる。また、種類の違う生体認識分子を2種以上結合させれば、2種以上の細胞/臓器/組織に導入物質を導入することができる。
【0037】
ビオチン化BNCは、先にビオチン結合性タンパク質を結合させ、次にビオチン化生体認識分子を連結させることも可能であるが、好ましくはビオチン結合性タンパク質とビオチン化生体認識分子を予め結合させ、これをビオチン化BNCと反応させることにより、生体認識分子が表面提示されたBNCを製造することができる。
【0038】
特に、生体認識分子としてホーミングペプチドを使用する場合、抗原性が低くかつ副作用が少ないBNCを得ることができる。ホーミングペプチドのアミノ酸の数は、3〜30個、好ましくは3〜25個、より好ましくは3〜15個、さらに好ましくは4〜10個が例示される。
【0039】
BNCはナノサイズであるがタンパク質(分子量10万以下が殆ど)と比較して非常に大きい粒子(分子量600万程度)である。ホーミングペプチドを低分子の薬剤に連結した例は知られているが、BNCに連結した場合、BNCが非常に大きいため、ホーミングペプチドの生体認識能が損なわれると予測されるが、意外にも本発明者は、BNC表面にホーミングペプチドを提示させることで、BNC内の封入物質を細胞内に高効率で導入できることを見出した。
【0040】
さらに、ホーミングペプチドとIgGのFc領域を融合させれば、BNCのZZタグとの結合を介して最終的にホーミングペプチドを提示したBNCを得ることができる。
【0041】
ホーミングペプチドとしては、生体内のいずれかの細胞/臓器/組織などを認識するものであれば特に限定されず、例えば以下のものを例示できる。
【0042】
【表1】

【0043】
ヒトのホーミングペプチドは、例えば (Steps toward mapping the human vasculature by phage display.Arap W, Kolonin MG, Trepel M, Lahdenranta J, Cardo-Vila M, Giordano RJ, Mintz PJ, Ardelt PU, Yao VJ, Vidal CI, Chen L, Flamm A, Valtanen H, Weavind LM, Hicks ME, Pollock RE, Botz GH, Bucana CD, Koivunen E, Cahill D, Troncoso P, Baggerly KA, Pentz RD, Do KA, Logothetis CJ, Pasqualini R. Nat Med. 2002 Feb;8(2):121-7.)に記載されており、各種のヒト細胞(各組織、器官)に対し、ファージディスプレイなどの方法によりホーミングペプチドを同定する方法論は確立されているので、このようにして同定されたヒトのホーミングペプチドをBNCに連結することで、特定の組織/器官を標的化できる。
【0044】
導入物質を封入した本発明のBNCは、in vivo及びin vitroの標的細胞及び組織にBNCを近接させて、BNC自身の細胞膜との強力な融合活性により、BNC内部の様々な物質(遺伝子、siRNAを含むRNA、化合物ないし薬物、タンパク質)を細胞内に高効率に導入する。
【0045】
ホーミングペプチドを表面提示した本発明のBNCは、遺伝子、タンパク質などの巨大分子をピンポイントデリバリ可能であり、かつ、リポソームと異なり肝臓に集積せず全身に満遍なく分布させ最終的に標的部位に集積可能である。さらに、BNCの抗原性を著しく抑えることが可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0047】
実施例1:ホーミングペプチド融合型Fcタンパク質とZZ-BNCによる100-nmポリスチレンビーズの細胞へのデリバリ
(1)Fc融合LyP-1ホーミングペプチド(LyP-1/Fc タンパク質)のプラスミド構築と精製
発現タンパク質を大腸菌ペリプラズム画分へ移行させるシグナル配列(pelB signal)を有したベクターpET22b(+)を用いて、大腸菌でのLyP-1/Fc 融合タンパク質ベクターの構築を行った。ヒトIgGのFcドメインをコードするcDNAをpET22b(+)に挿入し、N末にLyP-1ペプチド(CGNKRTRGC)をコードする配列を挿入した。
【0048】
LyP-1/Fc 融合タンパク質発現ベクターをEscherichia coli BL21(DE3)株に形質転換し、10mL LB培地(100μg/ml アンピシリン含有)を用いて37℃で一晩培養した。翌日LB培地(100μg/ml アンピシリン含有)で1Lに希釈し、A600が0.7に到達した時点で400mM IPTGで誘導を行った。誘導後、5時間17℃で培養を行い、30mM Tris-HCl, 40%スクロース, 2mM EDTA, pH 7.2, 100mlで浸透圧ショックを行なった。12000rpm 20min遠心し、菌体のみ回収した。回収した菌体に0.5mM MgSO4100ml を加え、氷上でペリプラズム画分に存在するタンパク質を放出させた。12000rpm 20min遠心し、上清を回収し、回収した上清を20mM Tris-HCl pH8.0 で一晩透析した。プロテインG Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Biosciences)をカラムに詰め、透析後のサンプルを通し、0.1M グリシン緩衝液pH2.6で溶出を行ない、精製LyP-1/Fcタンパク質を得た。
【0049】
得られた精製LyP-1/Fcタンパク質をSDS-12.5% PAGE で解析し、ウェスタンブロッティングを行なった。HRP標識抗ヒトIgG Fcマウス由来モノクローナル抗体(1:5000)(MP Biomedicals,Inc.)で検出したところ、26kDa付近にバンドが検出された(図1:左レーン、精製LyP-1/Fc タンパク質; 右レーン、精製Fcタンパク質)。BICINCHONINIC ACID PROTEIN ASSAY KIT(Sigma)を用いてタンパク質定量し、最終濃度が約300μg/mlになるようにAmicon Ultra 10000 MWCO(MILLIPORE)を用いて限外ろ過により濃縮し、4℃にて保存した。
【0050】
(2)LyP-1/Fcタンパク質のヒト乳癌細胞に対する蓄積
MDA-MB-435 ヒト 乳癌細胞とHEK293ヒト胎児腎臓細胞(それぞれ1×105 cell)を500μl DMEM(10% FBS含有)に撒き、1晩37℃のCO2インキュベータで培養した。翌日LyP-1/Fc タンパク質、またFc タンパク質それぞれを終濃度4μM(DWで)になるように添加し、37℃ 5%CO2インキュベータで7時間培養した。PBSで3回洗浄し、4% PFA(パラフォルムアルデヒド)で固定した後、0.25%(v/v) Triton-X100含有PBSを入れて室温で15分間静置した。ブロッキング溶液で1/300倍希釈したFITC 標識抗ヒトIgG Fc抗体(MP Biomedicals,Inc.)を100μl入れ、室温で1時間静置した。0.03% Triton-X100含有PBSにて3回洗浄後、共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いてFITC由来の蛍光を観察した。
【0051】
図2Aに示すようにLyP-1/Fc タンパク質がMDA-MB-435細胞のみに集積することが確認された。それぞれの細胞において、LyP-1/Fc タンパク質、Fc タンパク質が集積した割合を、(蛍光が有する細胞数 / 全細胞数)で測定したところ、MDA-MB-435細胞へのLyP-1/Fc タンパク質の集積が80.9%、Fc タンパク質の集積が9.1%、HEK293細胞へのLyP-1/Fc タンパク質の集積が9.7%、Fc タンパク質の集積が10.5%であった。マルチ蛍光プレートリダーVARIOSKAN(Thermo electron corporation)で、それぞれの蛍光値を測定したところ、LyP-1/Fcタンパク質を加えたMDA-MB-435細胞の値は、同細胞にFc タンパク質を加えた場合の値、他の細胞での値の2.3-4.5倍であった(図2B)。以上の結果より、LyP-1/Fcタンパク質はLyP-1ペプチドの作用によりMDA-MD-435細胞に特異的に集積することが示された。
【0052】
(3)ZZ タンパク質とLyP-1/Fc タンパク質のin vitro相互作用
PBS中で、ZZ タンパク質を提示するBNC(ZZ-BNC)1molに対し、LyP-1/Fcタンパク質 1, 2, 5, 10, 20molの割合で混和した。次に患者血液中のHBsAgタンパク質量を測定するIMX HBsAg・ダイナパック(アボットジャパン株式会社)キットに同梱している抗HBs マウス由来モノクローナル抗体結合ビーズ(1mol ZZ-BNCを免疫沈降するのに充分な量)を混和し、60min4℃で静置した。その後、15000rpm 20minで遠心し、上清と沈殿物をそれぞれ分取した。沈殿物はPBSで3回洗浄した。上清、沈殿物をSDS-12.5% PAGE で解析し、HRP 標識抗ヒトIgG Fcマウス由来モノクローナル抗体(1:5000)(MP Biomedicals,Inc.)を用いてウェスタンブロッティングを行なった(図3)。その結果、ZZ-BNC 1molに対しLyP-1/Fcタンパク質 1mol 混和したときは、遊離のLyP-1/Fcタンパク質は観察されなかった。しかし、ZZ-BNC 1molに対しLyP-1/Fcタンパク質 2, 5, 10, 20mol混和した場合は、遊離のLyP-1/Fcタンパク質 が検出された。以上の結果より、in vitroでZZ-BNC 1molに対し、LyP-1/Fcタンパク質は1-2molの割合で結合することが示唆された。
【0053】
(4)LyP-1/Fcタンパク質を用いたヒト乳癌細胞に対するZZ-BNCの再標的化
MDA-MB-435ヒト乳癌細胞(1×105 cell)を500μl DMEM(10% FBS含有)に撒き、37℃ 、5%CO2インキュベータで一晩培養した。ZZ-BNC 1molに対しLyP-1/Fcタンパク質 1molの割合で混和し、4℃で1時間静置し、ZZ-BNC・LyP-1/Fc混合液を1wellあたり ZZ−BNC 5μgの添加量になるように細胞培養上清に添加した。7時間後、PBSで3回洗浄し、4% PFAで固定した後、0.25%(v/v) Triton-X100含有PBSを用いて室温で15分間静置した。ブロッキング溶液で1/100倍に希釈した一次抗体(抗ZZ-BNCウサギ由来ポリクローナル抗体)を、100μlずつ入れ、室温で1時間静置した。0.03% Triton-X100含有PBSにて3回洗浄した後、ブロッキング溶液で1/2000倍に希釈した二次抗体(Alexa546-標識抗ウサギIgG抗体)を、100μlずつ入れ、室温で1時間静置した。0.03% Triton-X100含有PBSにて3回洗浄後、共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて蛍光を観察した。陰性コントロールとして、LyP-1/Fcタンパク質の代わりにFcタンパク質を用いて同様の実験を行なった。その結果、LyP-1/Fcタンパク質提示型ZZ-BNCを添加したMDA-MB-435細胞内にZZ−BNCが取り込まれていることが確認された(図4)。一方、Fcタンパク質提示型ZZ-BNCを添加したMDA-MB-435細胞ではZZ-BNCは確認できなかった。(ZZ-BNCが確認された細胞数/全細胞数)で計算したところ、LyP-1/Fcタンパク質提示型ZZ-BNCのヒト乳癌細胞への集積は80.3%、Fcタンパク質提示型ZZ-BNCの集積は12.3%であった。以上の結果より、LyP-1/Fc タンパク質提示型ZZ-BNCは、高効率にMDA-MD-435細胞内部に取り込まれることが判明した。
【0054】
(5)ZZ-BNCとリソソームマーカーの共局在
上記のLyP-1/Fc タンパク質提示型ZZ-BNC を感染させたMDA-MB-435 ヒト乳癌細胞に対し、同様の手法でブロッキング溶液で1/100倍に希釈した一次抗体(抗Lamp2マウス由来モノクローナル抗体(clone H4B4; DSHB, Iowa City, IA)と抗ZZ-BNCウサギ由来ポリクローナル抗体)及びブロッキング溶液で1/2000倍希釈した二次抗体(Alexa546-標識抗ウサギIgG抗体とCy3-標識抗マウスIgG抗体(Amersham Biosciences))で免疫染色を行った。その結果、Alexa546由来の蛍光がCy3由来の蛍光を呈する領域の内部に観察された(図5)。以上から、ZZ-BNCはLyP-1/Fcタンパク質により高効率に細胞内に導入され、細胞内では後期エンドソームやリソソームに存在することが示された。
【0055】
(6)ZZ-BNCとLyP-1/Fcタンパク質を用いたMDA-MB-435細胞へのローダミン標識ポリスチレンビーズ(FluoSpheres;直径100 nm)の送達
2 mg/ml FluoSpheres (Molecular Probes) 2mlをCOATSOME EL-01-A(日本油脂株式会社)1バイアルに混和し、室温で30分間静置した。リポソーム-蛍光ビーズ溶液1.6μlを蒸留水で100μlに希釈し、凍結乾燥ZZ-BNC(100mg)に加えて融解し、ZZ-BNC及びリポソーム脂質量が共に終濃度1μg/μlとなるように調製した。精製LyP-1/Fcタンパク質 1 molをZZ-BNC 1molに混和し、1時間4℃で静置した後、上述の方法で用意したMDA-MB-435細胞に1wellあたり ZZ-BNCが5μgになるように添加した。5%CO2インキュベータで37℃ 、7時間培養した後、PBSにて3回洗浄し、共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて蛍光を観察した。その結果、LyP-1/Fcタンパク質提示型ZZ-BNCは、全細胞の67%に蛍光が観察された(図6)。一方、ZZ-BNC単独では25%、リポソーム単独では8%であった。以上から、LyP-1/Fc提示型ZZ-BNCはFluoSpheres(直径100 nm)のような巨大物質もヒト乳癌細胞に特異的かつ高効率に導入できることが示された。
【0056】
実施例2:ビオチン化ホーミングペプチド、ビオチン化ZZ-BNC及びストレプトアビジンによる蛍光物質の生体内ピンポイントデリバリ
(1)ZZ-BNCのビオチン標識
ZZ-BNC溶液を600μg/ml以上の濃度まで限外濾過フィルター(ミリポア社製)を用いて濃縮した。ZZ-BNC 100μlをNHS-Sulfo-Biotination Kit(Pierce社)を用いて、業者添付のプロトコールに従って30分間室温でビオチン化反応させ、リジン残基のアミノ基およびN末端アミノ基をビオチン標識した。フリーの未反応ビオチンを、ZebaTM Desalt Spin Columns(Pierce社製:Sephadex G25またはG50を充填したカラムでも代替可能)を用いて1,000×gで2分間遠心することにより除去した(図7)。
【0057】
(2)ビオチン取り込みレベルを測定するためのHABAアッセイ
180μLのHABA/アビジン溶液(Pierce社)をマイクロプレートウェルにピペットで加え、500nmで吸光度測定し、A500HABA/アビジンとして記録した。次に、20μLのビオチン化サンプルをHABA/アビジン溶液を含むウェルに添加し、よく攪拌した後、500nmで吸光度測定した。少なくとも15秒間該測定値がほぼ一定になったときに、A500HABA/アビジン/ビオチンサンプルとして記録した。A500HABA/アビジンからA500HABA/アビジン/ビオチンサンプルの吸光度変化を、Pierce社提供の数式に当てはめて、サンプル中に含まれるビオチン量が算出できる。
【0058】
(3)LyP-1ペプチド(CNKRTRGGC)提示型ZZ-BNCの調製
粉末ビオチン化LyP-1ペプチド(ビオチン-GGCNKRTRGGC / Ruoslahti et al., PNAS, 101, 9381-9386 (2004)(ペプチドはInvitrogenにて合成(純度95%以上))を蒸留水で140ng/μl に希釈したもの(15μl)と蒸留水で調製した1mg/ml ストレプトアビジン(生化学工業)100μlを混合して、室温で30分間反応させ、ストレプトアビジン-ビオチン化LyP-1 ペプチド複合体を形成させた。次いで、ビオチン化ZZ-BNC(タンパク質量として100μg)を上記ストレプトアビジン-ビオチン化LyP-1 ペプチド複合体に加えて、室温で30分間反応させ、LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCを調製した(図8)。
【0059】
(4)ローダミンB包含LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCの調製
蒸留水で0.5mg/ml に希釈したローダミンB(ALDRICH)2mlをCOATSOME EL-01-A(日本油脂株式会社)1バイアルに混和し、室温で30分間反応させた。その後、Sephacryl HR-S500を充填したスピンカラムを用いてゲルろ過を行い、遊離のローダミンBを除き、ローダミンB包含リポソームを作製した。本反応液10μlを上記LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCに混和し、リポソームに含まれるリン脂質量とZZ-BNCタンパク質量が等量となるように、ローダミンB包含リポソームとLyP-1ペプチド提示型ZZ-BNC混合し、ローダミンB包含LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCを調製した。
【0060】
(5) ビオチン化LyP-1ペプチドのMDA-MB-435細胞への集積
MDA-MB-435細胞(ヒト由来乳癌細胞)とWiDr細胞(ヒト由来大腸癌細胞)をそれぞれ 1×105 cellずつ24wellコラーゲンコートプレート(IWAKI)上に撒き、500μl DMEM(10% FBS含有)中で5%CO2インキュベータにおいて37℃一晩培養した。ビオチン化LyP-1ペプチド140ngとFITC標識ストレプトアビジン(Molecular Probes)7μgを蒸留水中、室温で30分間反応させ、FITC標識ストレプトアビジン-ビオチン化 LyP-1 ペプチド複合体を形成させ、各wellに添加した。7時間後、PBSで3回洗浄し、共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて蛍光を観察した。その結果、FITC標識ストレプトアビジン-ビオチン化LyP-1ペプチド複合体が、MDA-MB-435細胞のみに特異的に集積していることが観察された(図9)。一方、ネガティブコントロールであるビオチン化GGCRPPRペプチド(ペプチド合成依頼 はInvitrogen / Ruoslahti et al., Circulation, 112, 1601-1611.(2005))は、両細胞で全く集積しなかった。
【0061】
(6)ヒト由来乳癌細胞を保有するマウスの作製
MDA-MB-435細胞(ヒト由来乳癌細胞)を10cmコラーゲンコートプレート(IWAKI)上に撒きDMEM(10% FBS含有)中で、37℃ CO2インキュベータで数日間培養し、1×107 cell を得た。PBS(-)500μl、マトリゲル500μlと混和し、Nude BALB/ca nu/nu マウスの背部皮下に注入し、約2週間生育させ、MDA-MB-435細胞由来組織(直径7-10mm)を有するXenograftモデルマウスを作製した。
【0062】
(7)ローダミンB包含LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCのMDA-MB-435細胞由来組織への特異的集積
ローダミンB包含LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNC(ZZ-BNCタンパク質量として50mg)を、MDA-MB-435細胞由来組織を有するXenograftモデルマウスの尾静脈から投与した。ネガティブコントロールとして、LyP-1を提示していないローダミンB包含ZZ-BNC(ZZ-BNCタンパク質量として50mg)、ローダミンB包含リポソーム10μl、0.5mg/mlに調製したローダミンB 10μlをそれぞれ蒸留水で125μlにしたものを用いた。投与後、In Vivoイメージング装置OV100 (OLYMPUS)で545nmの波長で励起し、570-625nmの波長で蛍光を観察した。ローダミンB包含LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCを投与したマウスでは、投与後3時間程度から移植腫瘍への集積が確認された(図10と11)。本集積は投与後12時間程度まで確認できた。一方、LyP-1を提示していないローダミンB包含ZZ-BNC、ローダミンB包含リポソーム、ローダミンBを投与したマウスでは移植腫瘍への集積は確認できなかった(図8)。以上から、ホーミングペプチドを提示したBNCは、生体内で物質のピンポイントデリバリが出来ることが判明した。
【0063】
(8)ローダミンB包含心血管内皮細胞特異的ホーミングペプチド提示型ZZ-BNCのマウス心臓への特異的集積
マウス心臓由来血管内皮細胞を特異的に認識するホーミングペプチド(CRPPR:Zhang L, Hoffman JA, and Ruoslahti E Circulation 2005; 112: 1601-1611)を含むビオチン標識GGCRPPR ペプチド (ペプチド合成依頼はInvitrogen)を蒸留水で140ng/μl にした溶液15μlと、1mg/mlストレプトアビジン(生化学工業)100μlを、室温で30min反応させ、ストレプトアビジン-ビオチン標識LyP-1ペプチド複合体を形成させた。次いで、ビオチン化ZZ-BNC(タンパク質量として100μg)に上記ストレプトアビジン-ビオチン標識LyP-1 ペプチド複合体全量を混ぜ、室温で30分間反応させ、GGCRPPRペプチド提示型ZZ-BNCを調製した。次に、「(4)ローダミンB包含LyP-1ペプチド提示型ZZ-BNCの調製」と同じ方法でローダミンB包含GGCRPPRペプチド提示型ZZ-BNCを調製した。タンパク質量として50mgのローダミンB包含GGCRPPRペプチド提示型ZZ-BNCをBALB/cマウス(♀)の尾静脈から投与した。ネガティブコントロールとしては、GGCRPPRを提示していないローダミンB包含ZZ-BNC(ZZ-BNCタンパク質量として50mg)、ローダミンB包含リポソーム10μl、0.5mg/mlに調製したローダミンB 10μlをそれぞれ蒸留水で125μlにしたものを用いた。投与から8時間後、それぞれのマウスから心臓を摘出し、In Vivoイメージング装置OV100 (OLYMPUS)で545nmの波長で励起し、570-625nmの波長で蛍光を観察した。その結果、ローダミンB包含GGCRPPRペプチド提示型ZZ-BNCを投与したマウス心臓に強い蛍光が観察された(図12)。また、同心臓を樹脂包埋固定(Technovitを使用)して切片を蛍光観察したところ、ローダミンB包含GGCRPPRペプチド提示型ZZ-BNCを投与したマウス心臓の血管周辺に蛍光の蓄積が確認された(図13)。以上から、ホーミングペプチド提示型BNCは、生体内においてがん組織のみならず通常組織においてもピンポイントで物質をデリバリできることが判明した。
【0064】
実施例3:バイオナノカプセルとリポソームの生体内動態の差
ローダミンB包含リポソーム(Lp-Rho)とローダミンB包含BNC(BNC-Lp-Rho)は「実施例2(7)」に記載のLyP-1を提示していないローダミンB包含ZZ-BNC(ZZ-BNCタンパク質量として50mg)とローダミンB包含リポソーム10μlにそれぞれ相当する。これらをBALB/cマウス(♀)の尾静脈から投与し、In Vivoイメージング装置OV100 (OLYMPUS)で545nmの波長で励起し、570-625nmの波長で蛍光を観察した。その結果、投与から60分以内に、投与したローダミンB包含リポソームの大半は肝臓にトラップされた(現存するDDSキャリアの大半が同じ挙動をとる)が、ローダミンB包含BNCの肝臓への局在は観察されなかった(図14)。その後、両者とも300分までに胆汁から腸管に分泌され糞便として挙動することが強く示唆された。また、投与後60分のマウスをIn Vivoイメージング装置(Xenogen社)で観察したが同じ結果を示した。以上から、BNCはリポソームとは異なり投与後速やかに肝臓にトラップされるのではなく、全身を血流に乗って循環しているものと考えられた。このBNCの性質は、ホーミングペプチドを用いて体内の様々な部位に再標的化する際に非常に有効で、リポソームを含む他のDDSキャリアーには見られない性質である。
【0065】
実施例4:RIP1-Tag2 tumor homing配列CRGRRSTを用いたBNCの再標的化
(1)GFP-RT1 発現用plasmid pGEX-6P-1-GFP-RT1の構築
pGEX-6P-1-GFP plasmid DNA 4μgをHindIII 24U、EcoRI 32Uで切断し、1% agarose (1XTAE buffer) 電気泳動により約5.8kbの断片を分離し、Nucleospin column (MACHEREY-NAGEL) で精製した。linkerについては、5’側にEcoRI粘着末端、3’側にHindIII粘着末端を有し、RIP1-Tag2 tumor homing配列CRGRRST(RT1と呼称:Stage-specific vascular markers revealed by phage display in a mouse model of pancreatic islet tumorigenesis. Joyce J.A., Laakkonen P., Bernasconi M., Bergers G., Ruoslahti E., and Hanahan D. (2003) CANCER CELL 4, 393-403.)をコードするように設計した下記合成DNAをGreiner Bio-One Co., Ltd.に合成を委託(HPLC精製)した。
【0066】
配列:
RIPTag-CRGRRST-U (28Nts) 5’-AATTCG TGC CGC GGT CGC CGC AGT ACT A-3’
RIPTag-CRGRRST-L (28Nts) 3’- GC ACG GCG CCA GCG GCG TCA TGA TTCGA-5’
C R G R R S T
下線部分に、linker挿入plasmidの検索が容易なように、制限酵素SacII認識配列を導入した。100μMのRIPTag-CRGRRST-U、RIPTag-CRGRRST-L合成DNA水溶液各10μlを500μl用tubeに混合し、95℃ 5分加熱後、tubeの入ったBLOCK INCUBATOR (KOKEN RIKA BP-4100)のheat blockごと室温に放置し、約20分かけて徐冷することによって、二本鎖DNAのannealingを行なった。この混合液とNucleospin columnで精製したplasmid DNA の両者を、ligation high (TOYOBO)を用いて結合し、文献2に従って調製した、DH5α competent cellに形質転換した。pGEX primerを用いたcolony lysis PCRによって、得られたcolony のinsertの有無を確認し、QIAGEN plasmid mini kit (QEAGEN)で精製したplasmid DNAについて、SacII切断、塩基配列決定により設計した塩基配列が導入されていることを確認した。
【0067】
(2)GFP-RT1 タンパク質の発現と精製
pGEX-6P-1-GFP-RT1をBL21-CodonPlus(登録商標)(STRATAGENE) competent cell(High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Inoue H., Nojima H., and Okayama H. (1990) Gene 96, 23-28.)に形質転換し、得られたsingle cloneを以下のように発現させた。2xYT medium 37℃ 一晩培養液10mlを1Lの2xYT mediumに植菌し、37℃でOD600 = 0.9まで培養、 最終濃度 0.2 mM IPTGで発現を誘導し、20℃で6時間培養後、集菌した。
菌体からの精製は基本的には文献(Solubilization and Purification of Enzymatically Active Glutathione S-Transferase (pGEX) Fusion Proteins. Frangioni J. V. and Neel B.G. (1993) Analytical Biochemistry 210, 179-187.)に従い、以下のように行った。菌体を42.5mlのSTE buffer(11.8 mM Tris-Cl pH8.0, 176.5 mM NaCl, 1.18 mM EDTA)に可溶化した後、lysozymeを終濃度100μg/mlとなるように加えて、氷冷下15分間溶菌した。DTT を 5 mM, Sodium Sarkosylを1.5% (いずれも終濃度)となるように加え、vortex mixerで攪拌した後、Ultrasonic disruptor UD-201(微量チップTP-040使用、OUTPUT 4, DUTY 60)) (TOMY)を用いて、1-2分間超音波処理を行った。15,460 x g 4℃ 30分の遠心により、不溶物を除去した後、Triton X-100を終濃度1.6%となるように加え、Glutathione sepharose 4B (75% slurryで800μl) (GE Healthcare Life Sciences)に4℃で2時間rotateしながら吸着させた。Econo-Pac Column (BIO-RAD)にGlutathione sepharose 4Bを含む可溶化溶液を充填し、非吸着画分を再度添加した後、PBS buffer 60mlで洗浄し、PreScission Protease Cleavage buffer (50 mM Tris-Cl pH7.0, 150 mM NaCl, 1mM EDTA, 1mM DTT) 12 mlで平衡化した。 同じbuffer 750 μlに、PreScission Protease 15μl(30U)を加え、4℃、16時間切断した。Glutathione S-transferaseより切り離されたGFP-RT1は、PreScission Protease Cleavage buffer 750 μl、室温 10分を3回処理して溶出し、Centricon YM-10, 10 kDa NMWL(MILLIPORE)で約600μlまで濃縮した。最終精製品は、0.22μmのfilterを通し、BCA assayによりタンパク質濃度を決定した。1Lの大腸菌培養液より、約1.6 mgの精製タンパク質を得た。
【0068】
(3)GFP-RT1のin vivo homing活性の測定
RIP1-Tag2マウスの作成は文献(Heritable formation of pancreatic beta-cell tumours in transgenic mice expressing recombinant insulin/simian virus 40 oncogenes. Hanahan D. (1985) Nature 315, 115-122.)に従った。13.5週令のRIP1-Tag2マウスに0.18% (W/V) NEMBUTAL注射薬を腹腔内に投与し、麻酔下に尾静脈より、100-200μl(約300μg)の精製タンパク質を投与した。7分後に開胸、左心室より、PBS 20ml 続いて2% paraformaldehide (PFA)/ PBS溶液 20mlを潅流し、膵臓を取り出した。4% PFA / PBS 4℃ 30分、以後、PBS、12 % Sucrose / PBS、15 % Sucrose / PBS、18 % Sucrose / PBSに室温で各30分浸漬した後、O.C.T. Compound (Tissue-Tek 4583)に包埋、凍結し、Cryostat microtome (Leica) で10μmの切片を作成した。切片を風乾後、4℃で保存してあった、aceton : methanol = 1:1 で10分間組織を固定した。PBSで洗浄後、5% goat serum / PBSで室温30分間blockingした後、Anti-GFP (abcam ab6556) 溶液 (1/300 dilution in 2.5% goat serum / PBS)で4℃ 16時間反応し、PBS洗浄後、Alexa Fluor 594 Goat anti-rabbit IgG(Molecular Probes A-11012)溶液 (1/1000 dilution in 2.5% goat serum / PBS) で室温45分間反応し、PBS洗浄後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI (VECTOR LABORATORIES,INC. H-1200) で封入し、蛍光顕微鏡で観察した。(図16と17)
その結果、ホーミングペプチドRT1は単離されたときのファージライブラリー状態もしくは単独では文献(Stage-specific vascular markers revealed by phage display in a mouse model of pancreatic islet tumorigenesis. Joyce J.A., Laakkonen P., Bernasconi M., Bergers G., Ruoslahti E., and Hanahan D. (2003) CANCER CELL 4, 393-403.)によると、RIP1-Tag2マウスの膵臓内の自然発生したInsulinomaの細胞質内に局在することが知られているが、GFPと融合したホーミングペプチドRT1は、Insulinomaの細胞質内に局在することなく、がん組織内部のBlood Lakeに局在した。つまり、ホーミングペプチドはファージライブラリー状態、単独もしくは低分子と結合した形では生体内で正しく機能するが、改めて高分子と結合すると正しく機能しない事を示す結果となった。
【0069】
(4)RT1提示型BNC発現用plasmidの構築と酵母への形質転換
次に、ホーミングペプチド(RT1)を同一ポリペプチド上に融合したBNCを発現させるための酵母用ベクターを作製した。まずpGLD-LAG-d50N-ZZを、オリジナルタイプBNC発現用ベクターpGLDLIIP39-RcT(Kuroda S, Otaka S, Miyazaki T, Nakao M, Fujisawa Y. Hepatitis B virus envelope L protein particles. Synthesis and assembly in Saccharomyces cerevisiae, purification and characterization. J Biol Chem. 1992 267 1953-61)から図18記載の方法で作製し、pGLD-LAG-d50N-ZZのBamHI-SalI断片(2.5 kb)をpUC119 BamHI, SalI部位にsubcloningし、ついでNotI部位に5’リン酸化した下記のlinker を導入した。具体的には、plasmid pUC119-LAG-d50N 4μgを、NotI 32Uで切断後、Alkaline phosphatase (TaKaRa) 60Uで処理し、phenol-chloroform抽出を行い、0.8% agarose 電気泳動で精製した。 linkerは逆相カラムで精製した合成DNAをそれぞれT4 polynucletide kinaseで5’−リン酸化し、phenol- chloroform抽出後、ligation high (Toyobo) を用いて両者を結合した。以下の3つの断片、すなわちplasmid pUC119-LAG-d50N-RT1 のXhoI-XbaI断片(0.6 kb)、pGLD-LAG-WTのXbaI-ScaI断片(4kb)、pGLD-LAG-WTのScaI-XhoI断片(6kb)を各pasmid DNA 3μgに対して制限酵素を各24U用いて切断し、0.8% agarose電気泳動で精製した後、ligation highを用いて結合した。得られたplasmid pGLD-LAG-d50N-RT1はCscl 超遠心によって精製し、Saccharomyces cerevisiae BY8238 (MATa leu2-3, 112 his4-519 can1 [ρ-] にspheroplast法 (Transformation of Yeast. Hinnen, A., Hicks, J. B., and Fink, G. R. (1978) Proc Natl Acad Sci U S A. 75, 1929-1933)を用いて形質転換した。
NotI- RIPTag-CRGRRST-U
5’- GGCCGCTGCCGCGGCCGCCGCAGTACTAGC-3’
3’- CGACGGCGCCGGCGGCGTCATGATCGGGCC-5’
NotI- RIPTag-CRGRRST-L
【0070】
(5)RT1-BNC高発現株の選別と培養
形質転換後、SD-leu plateで生育してきた菌6株を、High-Pi mediumで懸濁し、8S5N-P400 medium 50mlで30℃、3日間培養した。得られた菌体(0.8-2g)に対し、2,5 mlのbuffer A (0.1% Tween 80, 100μg/ml PMSFを含む)と約2.5 ml相当分のglass beadsを加え、10分間vortex mixerで激しく攪拌することによって、菌体を破砕した。20000 x gの遠心によって得られた破砕上清を2000倍希釈して、IMx (ABBOTT JAPAN CO., LTD)を測定し、最も高いものを選別した。anti ZZ-BNC抗体によるwestern blottingによって, RT1-BNCの分子量が約34 kDaであることと、酵母菌体内で顕著なprotease分解を受けていないことを確認した。
【0071】
大量スケールの培養はHigh-Pi medium 50ml, OD600 = 0,65 で培養を開始し、30℃、48 hrs 培養後、OD600= 6.60 でその10分の1量を新しいHigh-Pi medium 400mlに植え継ぎ、30℃、24 hrs培養後 OD600 = 4.96でその10分の1量を新しい 8S5N-P400 medium 4Lに植え継ぎ、30℃、72 hrs培養した。最終的にOD600 = 16.28、培養液1L あたり26.5 gの菌体を得ることができた。
【0072】
(6)RT1-BNCの精製
基本的には文献(Yamada T, Iwabuki H, Kanno T, Tanaka H, Kawai T, Fukuda H, Kondo A, Seno M, Tanizawa K, Kuroda S. Physicochemical and immunological characterization of hepatitis B virus envelope particles exclusively consisting of the entire L (pre-S1 + pre-S2 + S) protein. Vaccine. 2001 19: 3154-63.)に従った。
菌体破砕は1分間破砕 → 1分間冷却 を5回繰り返した。破砕上清の透析は、まず約15倍量の外液 ( PBS, 1 mM EDTA ) で2時間、ついで約25倍量の外液で2時間、さらに同量の外液で一晩行なった。熱処理は70 ℃で20分間行った。熱処理上清は0.45μmのfilterを通した後、10 mM リン酸緩衝液 pH 7.2 + 0.15 M NaCl で平衡化した硫酸化セルロファインカラム(カラム径1.6 × 20 cm、担体 CHISSO CORP.、流速 4 ml/min )に添加し、カラム容量の2倍量の同様の平衡化buffer で非吸着画分を洗浄した後、10 mM リン酸緩衝液 pH 7.2 + 1 M NaClで溶出した。溶出画分をAmicon Ultra ; NMWL 100K (MILLIPORE) で5 ml 以下に濃縮し、PBS, 1 mM EDTAで平衡化したゲル濾過カラム( カラム径1.6 × 60 cm、担体 Sephacryl S-500 HR ; GE Healthcare Life Sciences、流速 0.3 ml/min)に添加した。溶出画分をAmicon Ultra ; NMWL 100K, (MILLIPORE) で濃縮し、さらに、Acrodisc.Units with MustangTM Membrane PNM STG25E3 (PALL)を用いてendotoxinの除去を行い、BCA assayによりタンパク質濃度を決定した(図19と20)。
【0073】
(7)pEmGFP plasmid 封入RT1-BNCの作製
COATSOME EL (日本油脂 EL-01-D) 1μmol (凍結乾燥品)を250 μg/m のplasmid pcDNA6.2/C-EmGFP-GW/CAT (Invitrogen) の溶液1mlで溶解した。以下のようにBNC溶液と混合し、室温で10分間complexを形成させた。
【0074】
【表2】

【0075】
(8)RT1-BNCのin vivo homing 活性の測定
RIP1-Tag2 マウスに上記複合体150 μlを投与し、65時間放置した後、anti-ZZ抗体とanti-GFP抗体を用いてin vivo homing活性を解析した(図21と22)。
その結果、Stage-specificにRIP1-Tag2 tumorに集積するpeptide配列RT1: CRGRRSTを、GFPとBNCに融合し、下記の表のように、3つの系で、2種類の抗体を用いて検出した。いずれの場合も、stageの進行したtumor特異的に形成されるblood lake中の赤血球への集積を示唆する結果となった。
【0076】
【表3】

【0077】
(9)高分子結合型ホーミングペプチドの限界に関して
RT1配列は、単離された時のファージライブラリー状態、単独、もしくは低分子結合体がRIP1-Tag2 tumorに特異的に集積することはすでに報告されているが、GFPやBNC等の高分子を改めて融合することによってtumorに集積させた例は未だ報告されていない。同様に、既存ホーミングペプチドを高分子(GFP)と結合させた場合、本来の標的部位に局在しないことも多く経験している。例えば、心臓のホーミングペプチドとして報告されているNSSRDLG(Muller OJ, Kaul F, Weitzman MD, Pasqualini R, Arap W, Kleinschmidt JA, Trepel M. Random peptide libraries displayed on adeno-associated virus to select for targeted gene therapy vectors. Nat Biotechnol. 2003; 21: 1040-6.)は、GST-GFPを融合することで心臓には行かない(図23)。また、前立腺のホーミングペプチドとして報告されているSMSIARL(Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99: 1527-31. Targeting the prostate for destruction through a vascular address.Arap W, Haedicke W, Bernasconi M, Kain R, Rajotte D, Krajewski S, Ellerby HM, Bredesen DE, Pasqualini R, Ruoslahti E.)も同様に、GST-GFPを融合することで前立腺には行かない(図24)。
つまり、ホーミングペプチドにはファージライブラリーとして単離された状態、単独もしくは低分子結合型でしか機能しないものが多く、中には改めて高分子を結合しても機能するものがあるが、その探索の為には、実施例4に示すような方法では時間がかかり、しかも大量の改変型BNCを得ることは提示したホーミングペプチドの配列に依存するので困難である。実施例1及び実施例2に示すような簡便なホーミングペプチド提示型BNCの作製法を用いなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の生体認識分子(特に、ホーミングペプチド)を提示したBNCは、種々の標的に対してピンポイントデリバリが可能であり、医薬品の標的細胞への送達(DDS、GDS)、様々な標的部位への研究用試薬の送達が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】Purification of LyP-1/Fc protein;左のバンドが精製LyP-1/Fcタンパク質・右のバンドは精製Fcタンパク質。
【図2】LyP-1/Fcタンパク質のヒト乳癌細胞に対する蓄積。
【図3】ZZ-BNCとLyP-1/Fc タンパク質のin vitro相互作用。
【図4】LyP-1/Fcタンパク質を用いたヒト乳癌細胞に対するZZ-BNCの再標的化。
【図5】ZZ-BNCとリソソームマーカーの乳癌細胞内における共局在。
【図6】ZZ-BNCとLyP-1-Fcタンパク質を用いたMDA-MB 435細胞への直径100nm蛍光ビーズ送達。
【図7】ZZ-BNCをビオチン化する方法を示す模式図。
【図8】ビオチン化ZZ-BNCにストレプトアビジンを介してホーミングペプチドを結合する方法を示す模式図。
【図9】ビオチン化LyP-1ペプチドのMDA-MB-435細胞に対する特異的集積。
【図10】Specific accumulation of LyP-1-displaying BNC in human breast cancer cell-derived tumors (1)
【図11】Specific accumulation of LyP-1-displaying BNC in human breast cancer cell-derived tumors (2)
【図12】ホーミングペプチド提示BNCを用いたローダミンBの心臓へのIn vivo送達心臓の全体像。
【図13】In Vivo Pinpoint Delivery of Rhodamine to Mouse Heart using Homing Peptide (5 aa)-displaying BNC (Systemic Injection)
【図14】Bio-imaging Analysis of Systemically Injected Rhodamine-labeled BNC in Nude Mouse
【図15】pGEX6P-1-GFP-RT1の構築。
【図16】GFP-RT1 はin vivo投与によりRIP1-Tag2 tumor のblood lakeに集積した。
【図17】GFP-RT1 はin vivo投与によりRIP1-Tag2 tumor のblood lakeに集積した正常の膵臓組織には集積せず、GFPでは観察されなかった。
【図18】pGLD-LAG-d50N-RT1の構築。
【図19】RT1-BNC の精製。
【図20】RT1-BNC 精製全工程表。
【図21】RT1-BNCもin vivo投与によりRIP1-Tag2 tumor のblood lakeに集積したZZ-BNCでは観察されなかった。
【図22】RT1-BNCのRIP1-Tag2 tumor のblood lakeへの集積はGFP抗体でも検出でき、ZZ-BNCでは観察されなかった。
【図23】Cardiac GST-GFP-NSSRDLG:心臓には全くtargetしなかった。
【図24】prostate GFP-SMSIARL:前立腺のsignalは弱く、前立腺の周囲の組織や肝臓の血管でsignalが検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホーミングペプチドが連結されたB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)タンパク質またはその改変体を含む、バイオナノカプセル。
【請求項2】
ホーミングペプチドが、ビオチン-ビオチン結合性タンパク質-ビオチン結合を介してHBsAgタンパク質またはその改変体に連結されてなる、請求項1に記載のバイオナノカプセル。
【請求項3】
ホーミングペプチドが、HBsAgタンパク質またはその改変体と直接又は適当なアミノ酸配列を介して連結された融合タンパク質に含まれる、請求項1に記載のバイオナノカプセル。
【請求項4】
HBsAgタンパク質またはその改変体が抗体のFc 領域と結合性のドメインを含み、ホーミングペプチドと抗体のFc領域とを含む融合タンパク質が前記表面抗原タンパク質に連結されている、請求項1に記載のバイオナノカプセル。
【請求項5】
前記ドメインがZZタグである、請求項4に記載のビオチン化バイオナノカプセル。
【請求項6】
ビオチン修飾されたHBsAgタンパク質またはその改変体を含む、ビオチン化バイオナノカプセル。
【請求項7】
ビオチン修飾されたHBsAgタンパク質またはその改変体とビオチン結合性タンパク質を含む、ビオチン結合性タンパク質−ビオチン化バイオナノカプセル。
【請求項8】
前記HBsAgタンパク質またはその改変体が、抗体のFc 領域と結合性のドメインを含む請求項1に記載のビオチン化バイオナノカプセル。
【請求項9】
前記ドメインがZZタグである、請求項8に記載のビオチン化バイオナノカプセル。
【請求項10】
ビオチン結合性タンパク質を化学的に連結したHBsAgタンパク質またはその改変体を含むバイオナノカプセル。
【請求項11】
ビオチン結合性タンパク質とHBsAgタンパク質またはその改変体を架橋剤を介して結合してなる請求項10に記載のバイオナノカプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−162981(P2008−162981A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356378(P2006−356378)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(503100821)株式会社ビークル (12)
【Fターム(参考)】