説明

ビカルタミドを含む医薬組成物およびその使用方法

本発明は、放出調節パターンをもつ経口ビカルタミド含有製剤に関する。本組成物は、1週間に2回、1週間に2回および1週間に1回の服薬スケジュールで投与するのに適している。本組成物は抗アンドロゲン作用を生起するために使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬分野に関する。本発明は、非ステロイド性抗アンドロゲン化合物であるビカルタミドについての方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アンドロゲンは、アンドロゲン受容体に結合することによって男性的な特徴の発達および維持を刺激および制御する、天然または合成化合物、通常ステロイドホルモンである。アナボリック・ステロイドホルモンであるので、これらは初期または転移性前立腺腫瘍細胞を含む、前立腺および他の周辺組織などの特定の組織の成長を刺激することが知られている。テストステロンおよびジヒドロテストステロンなどのアンドロゲンは、アンドロゲン受容体に結合することによって細胞機能に影響を与える。最前線の「アンドロゲン枯渇療法」に対する高い応答速度と初期および転移性前立腺腫瘍細胞のいずれにものアンドロゲン受容体が存在することは、該受容体が前立腺癌の発達および成長の重要な媒介物であるとことを裏付ける。
【0003】
前立腺癌はアンドロゲン依存性である。従って種々の治療戦略は前立腺腫瘍の成長におけるアンドロゲン(すなわちテストステロンおよびジヒドロテストステロン)の役割を無効にすることに焦点を当てている。これらの治療戦略としては、精巣アンドロゲン産生を抑制するための黄体ホルモン放出性ホルモン(「LHRH」)類似体の使用(化学的去勢)またはアンドロゲン産生を除去するための睾丸摘出(外科的去勢)が挙げられる。
【0004】
近年、抗アンドロゲンとして公知の薬剤類が前立腺癌の治療に広く使用されてきた。アンドロゲンの生物学的活性は、非共有結合性アンドロゲン受容体−ステロイド複合体形成によって媒介される。抗アンドロゲンはこの複合体形成を阻害するので、前立腺のアンドロゲン依存性成長において、内因性ステロイドの役割を無効にする。
【0005】
上記戦略の組み合わせも多数検討され、その相対的効力および延命効果が評価されてきた。抗アンドロゲン薬と去勢(化学的または外科的のいずれか)との組み合わせは、精巣によって産生されるテストステロンの作用を抑制するだけでなく、他の腺、すなわち副腎によって産生される少量であるが重要な量も抑制する。そのような治療は完全型または最大アンドロゲン遮断療法(CABまたはMAB)と呼ばれることがある。進行疾患では、LHRH類似体(たとえばゴセレリン、ロイプロリド)(通常、長期作用型の注入可能なインプラントまたはデポーとして投与される)と、非ステロイド性抗アンドロゲン(たとえば経口錠剤として与えられるビカルタミド)との組み合わせを使用することができる。臨床試験から、そのような併用療法で治療した男性は、LHRH類似体だけで治療した者よりも長く生きられることが確認されている。併用療法は、腫瘍のサイズを小さくするために外科または放射線治療(最新補助療法)の前に使用することもできる。
【0006】
アシルアニリドであるビカルタミドは、非ステロイド性抗アンドロゲンであり、フルタミドまたはニルタミドのような他の公知の抗アンドロゲンよりももっと好都合な特性をもつ「第二世代」抗アンドロゲンである(たとえば、非特許文献1および非特許文献2参照)。アストロゼニカ(AstraZeneca)より市販されている製品はCASODEX(商標)であり、その化学式は4−シアノ−3−トリフルオロメチル−N−(3−p−フルオロフェニルスルホニル1−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)アニリンである。この化合物は、特許文献に開示されている(特許文献1および特許文献2など)。その抗アンドロゲン活性は、(R)−ビカルタミドにほぼ例外なく存在し、(S)−ビカルタミドには活性はあったとしてもわずかである。進行した前立腺癌の治療に黄体形成ホルモン−放出ホルモン類似体または外科的去勢と組み合わせて、1日1回50mgの用量で使用する。また初期(限局性または局所進行性の)の、非転移性前立腺癌の治療には単剤療法として1日1回150mgの用量で使用する。それは、約5.8日の長半減期をもち、血漿濃度がピークになるまでの時間は約31時間である。
【0007】
ビカルタミドに関する報告では、患者に毎日ビカルタミドを投与した後の定常状態濃度(Css)と用量との関係は、10〜50mg/日の間のみでの直線性が詳述され、100〜200mg/日の間の用量では直線性からのずれ、300mg/日での増大した直線性からのずれを示す。300mg超、特に450mg〜600mg用量での研究では、Cssはそれ以上増加しないことが観察された。高用量でのCssにおけるこの非直線性および停滞状態は、消化管通過での低減された薬剤吸収および飽和輸送に起因している。(非特許文献3参照)
【0008】
前立腺癌は、殆どの場合、非常にゆっくり進行し、特にその初期段階では多くの患者では殆ど全く兆候がない。前立腺癌にかかっている殆どの男性は、疾患を有したまま何年も生きることだろう。従って、上記のアンドロゲン遮断療法に直面したときに、その選択を考慮することが重要である。たとえば、150人の患者におけるスエーデンの研究では、三つのアンドロゲン遮断療法:ビカルタミド、GnRH類似体および睾丸摘出のうちから彼らの選択を調べた(非特許文献4参照)。殆どの男性は、抗アンドロゲンビカルタミドの経口錠剤を好んだが、不満も示した。その主な理由の一つは、毎日薬を飲まなければならないということであった。ビカルタミドはしばしば数ヶ月から数年間用いられることが多い。従ってそのような状況では、毎日薬を飲むことは困難となるため、服薬頻度を減らし、患者の快適性および薬剤服用遵守を高めるような治療が求められる。
【0009】
特許文献3は、薬剤の生物学的効用を高めるため、ビカルタミドの血漿濃度における患者間のばらつきを低下させるため、または患者の治療および/または前立腺癌の危険性を減少させるための、ビカルタミドとpKa3〜6の腸溶性ポリマーとの固体分散物を開示する。患者は毎日薬剤を服用量摂取しなければならない。
【0010】
特許文献4は、薬剤の生物学的効用を高めることを目的とする、約2000nm未満の有効平均粒径をもつビカルタミド粒子をもち、表面安定剤を含む、ナノ粒子ビカルタミド製剤を開示する。この公報は、非経口注射(たとえば静脈内、筋肉内または皮下)固体、液体またはエーロゾル形での経口投与、膣内、鼻、直腸、眼球、局所(粉末、軟膏または液滴)、口腔、嚢内、腹腔内あるいは局所投与用などに調製できる組成物について教示する。この発明は、ビカルタミドの溶解性および生物学的効用を高めることに関する。
【0011】
特許文献5は、併用療法で使用するためであって、経口投与においてパルスまたはバイモーダル方式で活性成分を送達することを意図するアシルアニリド粒子、特にビカルタミドの制御放出組成物を開示する。この組成物は、粒子群をコーティングすることによって継続的なパルスが得られる多種粒子である。製剤の詳細も実施例も記載されていない。この組成物は1日1回投与用を意図する。
【0012】
特許文献6は、少なくとも40ug/mlのR−ビカルタミドの平均定常状態血漿レベルを送達するビカルタミド製剤を投与することによる転移性前立腺癌の治療法に関する。この出願に示される実施例は、殆ど固体分散とR−ビカルタミド製剤に関するものであり、毎日投与が意図される。
【0013】
高用量でのビカルタミドの吸収および生物学的効用を改善するための試みもこれまでいくつかなされたが、依然として、飽和吸収を克服し、かつ約50〜約600mgの広い用量範囲で定常状態の濃度と投薬量との間の直線関係をもたらし得るビカルタミドの組成物の開発および実現が求められている。
【0014】
少ない服薬回数でのビカルタミドの投与によって哺乳類における抗アンドロゲン作用を生じさせ、かつ長期化された期間にわたってその治療的有効レベルを維持する方法を得ることも望ましい。そのような方法のために、投与間隔の間に投与する用量は、慣用の1日1回の治療による間隔の間に与えられる全用量と比較して同じか、または少ないかもしれないが、本方法では、慣用の1日1回の服薬と比較して一回の用量は多い。この用量は150mg以上であってもよく、すなわち1日1回単位の用量よりも高い。しかしながら、公知のとおり高用量に関して、ビカルタミドは、おそらくその飽和吸収により、非線形速度論を示す。(非特許文献5)従って、そのような用量の含有物は、不完全な吸収となることがあり、血漿中の薬剤レベルを最適未満とする。さらには、高用量では、ビカルタミドの薬物動態学において患者間でのばらつきが大きいことが報告されている。
【0015】
従って、上記および他の問題を解決する、抗アンドロゲン作用を生起させることが必要な哺乳類において抗アンドロゲン作用を生起させる方法に対する需要が当業界にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4636505号
【特許文献2】欧州特許第100172号
【特許文献3】米国特許出願第2004067257号
【特許文献4】国際公開第2006069098号
【特許文献5】国際公開第2006076533号
【特許文献6】国際公開第2006090129号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Schellhammer PFら、Urology,50:330−6,(1997)
【非特許文献2】McLeod DG,Oncologist、2;18−27,(1997)
【非特許文献3】Tyrell CJら,Eur Urol 33:39−53,(1998)
【非特許文献4】Nymanら,BJU International,96:1014−1018,(2005)
【非特許文献5】Kolvenbagら,Prostate,34:61−72,(1998)
【発明の概要】
【0018】
本発明者らは、ビカルタミド吸収の予想された飽和に反して、薬剤の治療的に有効な血漿レベルが長期化された期間にわたって体内で維持されるように、高用量でビカルタミドを投与し得ることを知見した。
【0019】
本発明の方法および組成物は、長期にわたってビカルタミドの治療的に有効な血漿レベルを維持するので、服薬頻度を減らすことができる。
【0020】
本発明の一つの側面は、1週間に3回の服薬、1週間に2回の服薬および1週間に1回の服薬などの少ない服薬頻度でビカルタミドの薬学的有効量を経口投与することにより、抗アンドロゲン作用の必要な哺乳類において抗アンドロゲン作用を生じさせるための方法に関する。
【0021】
本発明の別の側面は、1週間に1回の服薬スケジュールでビカルタミドの放出調節医薬組成物を哺乳類に経口投与することによって、哺乳類において抗アンドロゲン作用を生じさせるための方法に関する。
【0022】
本発明は、哺乳類において抗アンドロゲン作用を生起させるためのビカルタミドを含む1週間に1回の組成物を提供する。
【0023】
本発明の一つの側面は、また、約50mg〜約1000mgの範囲にあり、且つ本発明の方法に有効な医薬的に有効量のビカルタミドにも関する。
【0024】
本発明の別の側面は、ビカルタミドの高い生物学的効用と優れた薬物動態学的プロフィールを示す、ビカルタミドの放出調節医薬組成物に関する。本組成物は、ビカルタミドの用量の一部が実質的に投与直後に放出され、且つ所定の時間間隔後に用量の残りの部分が放出される、経口パルス放出組成物である。即時放出部分は、少なくとも非コーティングまたは薄膜コーティング錠剤の形態で調製され、遅延放出部は少なくとも1つの遅延放出ポリマーでコーティングされた錠剤の形態で調製される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、50mgビカルタミドを毎日投与した予測参考例との比較における、定常状態レベルでの本試験および参考のビカルタミド組成物の予想血漿濃度時間プロフィールを示す図である。
【図2】図2は、実施例3のビカルタミドの代表的な組成物の溶解プロフィール(「試験」)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、抗アンドロゲン作用を生起させることが必要な哺乳類における抗アンドロゲン作用を生起させるための方法、好ましくは経口法に関する。
本方法は、1週間に3回、1週間に2回または1週間に1回の服薬スケジュールでビカルタミドの放出調節医薬組成物を哺乳類に経口投与することによって提供される。
【0027】
好ましくは、ビカルタミドの放出調節医薬組成物は、1週間に1回の服薬スケジュールで投与される。
【0028】
本発明の方法は、体内でビカルタミドの治療的に有効な血漿レベルの維持を長期化させる。吸収メカニズムの飽和による、ビカルタミド損失を低下させる放出調節医薬組成物を提供することによって、服薬頻度が低減される。さらに本発明の方法は、毎日服薬する不都合さが解消されるため、患者の薬剤服用遵守を改善させる。また本発明は、患者間でのばらつきも低下させることができる。
【0029】
本明細書中で使用される「ビカルタミド」なる用語は、遊離塩基、製薬的に許容可能なすべての塩、エステル、その溶媒和およびラセミ化合物、個々の異性体R−ビカルタミドおよびR−ビカルタミドおよびその医薬的に許容可能な塩、エステルおよび溶媒和物などのビカルタミドの全ての形態を意図する。従って、ビカルタミドは、ビカルタミド約50mg〜約1000mgに等しい量の範囲で本発明の医薬組成物に使用される。
【0030】
本明細書中で使用される「1週間に3回」の服薬スケジュールとは、ある用量のビカルタミドを1週間すなわち7日間の間に3回、好ましくは毎週同じ三曜日に服薬することを意味する。
【0031】
本明細書中で使用される「1週間に2回」の服薬スケジュールとは、ある用量のビカルタミドを1週間すなわち7日間の間に2回、好ましくは毎週同じ二曜日に服薬することを意味する。
【0032】
本明細書中で使用される「1週間に1回」の服薬スケジュールとは、ある用量のビカルタミドを1週間すなわち7日間の間に1回、好ましくは毎週同じ曜日に服薬することを意味する。
【0033】
本明細書中で使用されるビカルタミドの「医薬的に有効量」なる用語は、所望の治療成果、特に抗アンドロゲン作用を達成するために、哺乳類に投与されるべきビカルタミドの必要量を示す。上記目的のために用いられる用量は、通常、約50mg〜約1000mgである。
【0034】
本明細書中で使用される「低減された服薬回数」なる用語は、哺乳類へのビカルタミドの投与頻度が1日1回未満であることを意味する。従ってたとえば、頻度は1週間に3回、1週間に2回または1週間に1回であってもよい。
【0035】
本発明の方法は通常、抗アンドロゲン治療の必要な哺乳類に適用可能である。好ましくは哺乳類はヒト患者であり、より好ましくは男性であり、特に前立腺癌、良性前立腺過形成あるいは他の陰部−泌尿器系癌などの、増殖性疾患に罹患していることが確認された男性である。
【0036】
本発明の方法の一つの側面は、本発明のビカルタミド組成物を単独で、あるいは抗エストロゲンなどの他の薬剤、たとえばタモキシフェン;アロマターゼ阻害剤、たとえばアナストラゾール;LH−RH類似体、たとえばゴセレリン;細胞毒性薬、たとえばシクロホスファミド;および他のすべての好適な薬剤と組み合わせて投与することを含む。本組成物は、睾丸摘出の補助としても投与することができる。
【0037】
本発明の方法の別の側面は、一種以上の負荷量のビカルタミドの投与、続いて維持療法として本発明の組成物の投与を含む。これにより、定常状態レベルへ急速に到達し、続いて治療期間にわたってそれを維持できるだろう。
【0038】
本発明の組成物は、単位用量として投与され、該単位用量はビカルタミド約50mg〜約1000mgの範囲で変動することができる。好ましくは、それは1週間に3回、1週間に2回または1週間に1回の服薬スケジュールで投与される、約150mg〜約600mg、より好ましくは約150mg〜約400mgのビカルタミドである。
【0039】
本発明の放出調節医薬組成物は、ビカルタミドと好適な賦形剤とを含む。本組成物は、服薬頻度を低減しうるどのようなタイプの放出調節プロフィールを示してもよい。従って、本発明に従った放出調節プロフィールは、制御放出、徐放(sustained release)、持続放出(extended release)、遅延放出、パルス放出、二重放出、時限放出、部位特異的放出および、これらのあらゆる組み合わせなどの他の放出であってもよい。
【0040】
本発明の一態様において、本組成物は、投与により、ビカルタミドの全量が所定の時間経過後に胃腸管の後半部に放出される、経口遅延放出製品の形態である。この放出は、「一度に全部」であっても、徐放方式であってもよい。
【0041】
本発明の一態様において、本組成物は、ビカルタミドの用量の一部が実質的に投与直後に放出され、用量の残りの部分は所定の時間間隔後に放出される、経口パルス放出製品の形態である。
【0042】
本発明の別の態様において、本組成物は、ビカルタミドの用量の一部が実質的に投与直後に放出され、残りの用量は所定の時間経過後に徐放的に放出される、経口パルス放出製品の形態である。
【0043】
上記態様の組成物は、種々の医薬的に許容可能な賦形剤、たとえば希釈剤、たとえば微結晶質セルロース、ラクトース、蔗糖、リン酸カルシウム;崩壊剤、たとえばスターチ、セルロース誘導体、ガム、架橋ポリマーなど;バインダー、たとえばスターチ、ゼラチン、糖、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドンなど;滑剤、たとえばタルク、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状二酸化ケイ素、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物を含むことができる。
【0044】
本組成物は、顆粒、錠剤、積層錠剤、小型錠剤およびペレットの形状で、または粉末、ペレット、小型錠剤および/または錠剤を充填したカプセルとして調製することができる。これらの組成物の製造プロセスは当業者には公知であり、本明細書中、参照として含まれる。
【0045】
一態様において、ビカルタミドおよび好適な賦形剤は一緒に、顆粒の形状に調製する。顆粒を圧縮してビカルタミドの小型錠剤を形成する。これらは場合により薄膜コーティングされてもよい。これらの小型錠剤は、該組成物の実質的に投与直後にビカルタミドを放出する。次いでこの小型錠剤は、ビカルタミドの放出速度および時間を調節する好適なポリマーでコーティングする。これらのポリマーは、通常、セルロース、ビニルピロリドンポリマー、アルキレンオキシドホモポリマー、超崩壊剤ポリマー、アクリル酸ポリマーおよび、植物、動物、鉱物または合成源のガムなどのカテゴリーに属する。
【0046】
好ましくは、上記ポリマーはビカルタミドの放出を所定の時間経過まで遅延させる。この目的に好ましいものは、腸溶性ポリマー、たとえばセルロースのエステルおよびその誘導体、ビニルポリマーおよびコポリマー、pH感受性メタクリル酸コポリマーおよびシェラックなどである。本発明の組成物に使用し得る幾つかの例としては、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートスクシネート、メチルセルロースフタレート、エチルヒドロキシセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、ポリビニルブチラートアセテート、酢酸ビニル−無水マレイン酸コポリマー、スチレン−マレイン酸モノエステルコポリマー、メチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、メタクリレート−メタクリル酸−オクチルアクリレートコポリマーがある。
【0047】
一態様では、硬質ゼラチンカプセルに、投与すべきビカルタミドの全量に相当するコーティングした小型錠剤を充填して、本発明の遅延放出組成物を形成する。
【0048】
好ましい態様では、硬質ゼラチンカプセルに、非コーティング(または薄膜コーティングした)小型錠剤とコーティングした小型錠剤とを組み合わせて充填する。充填された非コーティングおよびコーティングした小型錠剤の数は、投与直後および所定の時間後に放出されるべきビカルタミドの量に依存する。即時放出用非コーティング小型錠剤には、ビカルタミド約80mg〜約600mgが含まれ、遅延放出用コーティング小型錠剤には、ビカルタミド約60mg〜約400mgが含まれる。
【0049】
別の態様では、本組成物は、薬剤の放出速度を変更する一種以上のポリマーでコーティングされたビカルタミドを含むコアからなる一つの錠剤の形状で製剤された。
【0050】
また別の態様では、本組成物は、ビカルタミドと好適なポリマーが一緒に混合され、ビカルタミドの放出を変更するマトリックスを形成する、マトリックス組成物として製剤することができる。
【0051】
さらに別の態様では、本組成物は併用療法のための薬剤を含むキットの一部として提供される。キットの一部として含めることができる他の薬剤は、抗エストロゲン、たとえばタモキシフェン;アロマターゼ阻害剤、たとえばアナストラゾール;LH−RH類似体、たとえばゴセレリン;細胞毒性薬、たとえばシクロホスファミド;および他のあらゆる好適な薬剤である。別の側面では、本組成物は、最大4週間まで、または定常状態に達するまで負荷量として、キットの組成物を毎日投与し、続いて維持用量として同一組成物を毎週投与する。
【0052】
本発明の第二の側面は、ビカルタミドの放出調節医薬組成物に関する。意外にも、本組成物を特定の様式で即時放出成分と遅延放出成分との組み合わせとして調製すると、ビカルタミドの血漿レベルが実質的に上昇することが知見された。また意外にも、上記組成物を使用して投与したビカルタミドの曲線かつ最低血漿レベル以下の領域は、慣用のビカルタミド組成物中の同じ用量と比較して高かったことも知見された。
【0053】
本組成物は、実質的に経口投与と同時に分散してビカルタミドを放出する非コーティング錠剤または薄膜コーティング錠剤として調製される固形経口組成物である。遅延放出成分は、非コーティング錠剤を所定の時間間隔でビカルタミドの放出を遅延させるポリマーでコーティングすることによって調製する。このポリマーは、セルロースおよびその誘導体、ビニルポリマーおよびコポリマー、並びにpH−感受性メタクリル酸コポリマーの群から選択される腸溶性ポリマーであるのが好ましい。非コーティングまたは薄膜コーティング錠剤と、遅延放出コーティング錠剤を組み合わせて、本発明の放出調節組成物を形成する。
【0054】
この組成物は、進行性、局所進行性、非転移性並びに転移性前立腺癌の高効率且つ優れた治療を得るのに使用することができる。用量および服薬レジメは、患者の要求および病状に応じて、並びに併用療法の一部としてまたは単剤療法として適用されるかに応じて、適切に選択することができる。
【0055】
慣用のビカルタミド組成物と比較して生物学的効用の改善を示す本組成物の一つの態様は、ビカルタミドの放出調節医薬組成物であり、該組成物は、即時放出成分中に全用量の約20%〜約80%の量のビカルタミドと、遅延放出成分中に全用量の約80%〜約20%の量のビカルタミドとを含む、即時放出成分と遅延放出成分との組み合わせで調製される経口パルス放出組成物である。
【0056】
特定の態様では、pH1.2の疑似胃液、pH4.5の緩衝液およびpH6.8の疑似腸液を用いるpH変化法を使用してUSP装置I型における溶解試験にかけたときの上記放出調節医薬組成物は、以下の溶解プロフィールに従ってビカルタミドを放出する:ビカルタミドの20%〜65%が疑似胃液中で放出され、40%〜75%がpH4.5の緩衝液中で放出され;60%以上が疑似腸液中で放出される。この溶解媒体は、1%ラウリル硫酸ナトリウムを含み、該組成物は、疑似胃液中で約2時間、pH4.5の緩衝液中で約2時間、および残りの時間を疑似腸液中で試験することができる。
【0057】
臨床研究:本発明の組成物の単用量投与の薬物動態学を評価し、同一用量のCasodex(登録商標)の薬物動態学と比較するために、小グループの志願者における研究を設計した。
【0058】
研究設計:並行研究設計を用いる、非盲検、ランダム、絶食、単用量薬物動態学試験で、12人の健康なヒト志願者を用いた。(各グループに6名)。試験組成物はビカルタミド250mgを含み、投与直後に用量の一部を、所定の時間間隔の後に用量の一部を放出するように調製した。参考組成物は、同時投与される5錠の50mgCasodex(登録商標)錠剤であった。血液サンプリングは投与前と、1週間にわたって所定の時間間隔後に実施した。評価した薬物動態学パラメーターはCmax、Tmax、AUCtおよびAUCinfであった。
【0059】
結果:
試験から誘導された薬物動態学的データを、以下の表1にまとめた。
【表1】

【0060】
表から解るように、試験製品のAUCinfは、参考製品のAUCinfの約1.5倍であり、このことは本発明の組成物から優れた吸収および生物学的効用が得られたことを示す。吸収の上昇は、投与/投与頻度の低減に加えて、定常状態レベルへのより早い到達に有用である。
【0061】
定常状態における試験組成物および参考組成物の動態学を予想し、比較するために、トライアルから得たデータをソフトウエアWinnolin(登録商標)にかけた。定常状態レベルにおける試験組成物と参考組成物の予想血漿濃度時間プロフィールを図1に示す。
【0062】
図から明らかになるように、本発明の方法および組成物は、参考製品と比較して、ビカルタミドの改善された血漿プロフィールとなる。また1週間にわたって1週間に1回の投与により維持された血漿レベルは、毎日参考製品50mgを投与した予想血漿レベルに匹敵し得るかそれよりも高い。
【0063】
投与85日目における定常状態薬物動態学パラメーターを試験製品および参考製品について予想した。データを以下の表2に示す。
【表2】

【0064】
予想定常状態薬物動態学パラメーター全てに関する上記表2から解るように、試験製品は参考製品よりも高い値を示し、試験製品は参考製品と比較して変動が少なく、このことは試験製品に関して吸収および生物学的効用の改善と半減期の長期化、並びに潜在的なばらつきの少なさを示している。
【0065】
本発明の方法の種々の変形は、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく実施することができる。以下の非限定的な実施例は、本発明の態様を説明するものであって、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0066】
実施例1
【表3】

【表4】

【表5】

【0067】
ビカルタミド、ナトリウムスターチグリコシレート(顆粒内部分)およびラクトース一水和物をふるいにかけ、上記表2に記載の量でブレンドした。十分量の精製水に溶解したポリビニルピロリドンを使用して、乾燥粉末ブレンドを造粒した。
【0068】
このブレンド物を乾燥し、ふるいにかけて乾燥顆粒を得た。次いでこの顆粒を残りの量のナトリウムスターチグリコレートとステアリン酸マグネシウムとブレンドした。潤滑したブレンド物を丸ポンチを使用して錠剤に圧縮した。
【0069】
サブコーティング溶液は、PEG6000とヒドロキシプロピルメチルセルロースをメタノールとジクロロメタンとの混合物中に溶解することによって調製した。上記錠剤を、錠剤重量増が約2〜3%w/wとなるまで、上記溶液を用いてコーティングした。
【0070】
腸溶性コーティング分散液は、アセトン、イソプロパノールおよび精製水を混合し、この中に、メタクリル酸コポリマー、タルクおよびクエン酸トリエチルを分散させることによって調製した。サブコーティングした錠剤を、10〜11%w/wの重量増となるまで、上記溶液でコーティングした。
【0071】
実施例2
【表6】

【表7】

【表8】

【0072】
プロセスは実施例1と同じであった。250mgビカルタミドの全用量に相当する錠剤(すなわち5錠のコーティング錠剤)を空の硬質ゼラチンカプセルに充填した。
【0073】
実施例3
【表9】

【表10】

【表11】

【0074】
プロセスは実施例1と同じであった。150mgの全用量に相当する三つの非コーティング錠剤と、100mgの全用量に相当する二つのコーティング錠剤とを硬質ゼラチンカプセル殻に充填した。この組成物は、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を添加した、pH1.2、4.5および6.8の緩衝液を使用するpH変化方法を使用して溶解試験にかけた。この試験はUSP装置I型で実施した。得られた溶解プロフィールを図2に示す。
【0075】
実施例4
【表12】

【表13】

【表14】

製造プロセスは実施例1のものと同様であった。
【0076】
実施例5
【表15】

【表16】

【表17】

【0077】
調製およびプロセスは実施例1と同様であった。350mgビカルタミドの全量に相当する錠剤(すなわち5錠のコーティング錠剤)を、空の硬質ゼラチンカプセル殻に充填した。
【0078】
実施例6
【表18】

【表19】

【表20】

【0079】
ビカルタミド、微結晶質セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースをふるいにかけ、上記表18に記載の量でブレンドした。さらにこの混合物をナトリウムスターチグリコレートとブレンドし、ステアリン酸マグネシウムで滑らかにした。滑らかにしたブレンド物をロータリー錠剤圧縮装置で錠剤に圧縮した。この錠剤をサブコーティングし、次いで実施例1に記載の製造手順に従って腸溶性コーティングした。ビカルタミド250mgの全用量に相当する錠剤(すなわち5錠のコーティング錠剤)を空の硬質ゼラチンカプセル殻に充填した。
【0080】
実施例7
【表21】

【表22】

【0081】
即時放出錠剤:ビカルタミド、ナトリウムスターチグリコレート(顆粒内部分)およびラクトース一水和物をふるいにかけ、上記表20に記載の量でブレンドした。十分量の精製水に溶解したポリビニルピロリドンを使用して乾燥粉末ブレンドを造粒した。このブレンド物を乾燥し、ふるいにかけて乾燥顆粒を得た。次いでこの顆粒を残りの量のナトリウムスターチグリコレートとステアリン酸マグネシウムとブレンドした。滑らかにしたブレンド物は、6mm丸ポンチを使用して圧縮した。
【0082】
徐放性錠剤:ビカルタミド、微結晶質セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースをふるいにかけ、上記表22に記載の量でブレンドした。この混合物をさらにナトリウムスターチグリコレートとブレンドし、ステアリン酸マグネシウムで滑らかにした。滑らかにしたブレンド物は、ロータリー錠剤圧縮装置で錠剤に圧縮した。この錠剤をサブコーティングし、次いで実施例1に記載の製造手順に従って腸溶性コーティングした。実施例の錠剤はいずれも空の硬質ゼラチンカプセル殻に充填した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビカルタミドの医薬的に有効量を、1週間に3回の服薬、1週間に2回の服薬および1週間に1回の服薬の群から選択される服薬スケジュールで、哺乳類に投与することを含む、抗アンドロゲン作用を生起させることが必要な哺乳類における抗アンドロゲン作用の生起方法。
【請求項2】
ビカルタミドの医薬的に有効量を1週間に1回の服薬スケジュールで哺乳類に経口投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
医薬的に有効量のビカルタミドは約150mg〜約1000mgの範囲を変動する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ビカルタミドの放出調節医薬組成物を、1週間に1回の服薬スケジュールで哺乳類に経口投与することを含む、抗アンドロゲン作用を生起させることが必要な哺乳類における抗アンドロゲン作用の生起方法。
【請求項5】
前記ビカルタミドの放出調節医薬組成物を単剤療法として投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ビカルタミドの放出調節医薬組成物を併用療法の一部として投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
1週間に1回の服薬スケジュールで投与する、抗アンドロゲン作用を生起させることが必要な哺乳類において抗アンドロゲン作用を生起させるためのビカルタミドの放出調節医薬組成物。
【請求項8】
約50mg〜約1000mgの範囲のビカルタミドを含む、請求項7に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項9】
約150mg〜約600mgの範囲のビカルタミドを含む、請求項8に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項10】
顆粒、錠剤、積層錠剤、小型錠剤、ペレットまたはカプセルの形状に製剤した請求項7に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項11】
前記放出調節が、制御放出、徐放、持続放出、遅延放出、パルス放出、二重放出、時限放出または部位特異的放出である、請求項7に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項12】
前記放出調節が遅延放出またはパルス放出である、請求項11に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物が、少なくとも一つの即時放出性錠剤と、遅延放出ポリマーでコーティングした少なくとも一つの錠剤とを含む経口パルス放出組成物である、請求項7に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項14】
1週間に3回の服薬、1週間に2回の服薬および1週間に1回の服薬の群から選択される服薬スケジュールで投与されるビカルタミドの放出調節医薬組成物。
【請求項15】
1週間に1回の服薬スケジュールで経口投与するためのビカルタミドの放出調節医薬組成物を含むキット。
【請求項16】
前記放出調節医薬組成物は、負荷用量として最大で4週間まで1日1回投与し、続いて維持量として同一組成物を毎週投与する、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記放出調節医薬組成物は、ビカルタミドの定常状態の血漿レベルになるまで負荷用量として1日1回投与され、同一組成物が維持量で週ごとに投与される、請求項15に記載のキット。
【請求項18】
即時放出成分中に全用量の約20%〜約80%の量のビカルタミドと、遅延放出成分中に全用量の約80%〜約20%の量のビカルタミドを含む、即時放出成分と遅延放出成分との組み合わせとして調製された経口パルス放出組成物である、ビカルタミドの放出調節医薬組成物。
【請求項19】
前記経口パルス放出組成物が、少なくとも一つの即時放出錠剤と、遅延放出ポリマーでコーティングされた少なくとも一つの錠剤とを含み、該組成物は慣用のビカルタミド組成物と比較して改善された生物学的効用を示す、請求項18に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物がビカルタミドの半減期を延長する一種以上の賦形剤またはそれらの混合物を含む、生物学的効用が改善されたビカルタミドの放出調節医薬組成物。
【請求項21】
前記一種以上の賦形剤が、セルロース、ビニルピロリドンポリマー、アルキレンオキシドホモポリマー、超崩壊剤ポリマー、アクリル酸ポリマーおよび、植物、動物、鉱物または合成源のガムの群から選択されるビカルタミドの放出速度および時間を変えるポリマーを含む、請求項20に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項22】
前記ポリマーが、セルロースのエステルおよびその誘導体、ビニルポリマーおよびコポリマー、pH感受性メタクリル酸コポリマー、セラックなどの腸溶性ポリマーである、請求項21に記載の放出調節医薬組成物。
【請求項23】
pH1.2の疑似胃液、pH4.5の緩衝液およびpH6.8の疑似腸液を用い、該溶解媒体が1%ラウリル硫酸ナトリウムを含む場合のpH変化法を用いてUSP装置タイプIでの試験において、以下の溶解プロフィールに従ってビカルタミドを放出するビカルタミドの放出調節医薬組成物:ビカルタミドの20%〜65%が疑似胃液中に放出され;40%〜75%はpH4.5の緩衝液中に放出され;60%以上は疑似腸液中に放出される。
【請求項24】
前記溶解試験が、疑似胃液中で約2時間、pH4.5の緩衝液中で約2時間、およびpH6.8の疑似腸液中で残りの時間実施される、請求項23に記載の放出調節医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−542627(P2009−542627A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517616(P2009−517616)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際出願番号】PCT/IN2007/000274
【国際公開番号】WO2008/068770
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(500445631)パナセア バイオテック リミテッド (29)
【Fターム(参考)】