説明

ビキシン誘導体及び細胞保護剤

【課題】小胞体ストレスに対する細胞保護作用を有する新規な細胞保護剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で示されるビキシン誘導体を含有する細胞保護剤。



(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞保護剤及びこれに用いられる新規なビキシン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
小胞体ストレスとは蛋白質の成熟の場である小胞体に何らかのストレスが負荷され、折りたたみの不完全な蛋白質が蓄積した状態であると考えられている。小胞体には、分子シャペロンなどを増加して蓄積されたタンパク質を保護し、又は分解すること等によって、小胞体の機能障害を回避するしくみを有しているが、強い小胞体ストレスの状態が継続すると、細胞がストレスに対抗しきれなくなって、アポトーシスが引き起こされる場合がある。これまでにアルツハイマー病やパーキンソン病、さらに緑内障などの神経変性疾患と小胞体ストレスとの関連が示唆されている。
【0003】
このため、小胞体ストレスを抑制可能な化合物があれば、アルツハイマー病やパーキンソン病、緑内障などの神経変性疾患に対する治療効果が期待できるため、種々の化合物が探索され、又は開発されている。
例えば、特許文献1には、カルバゾール誘導体を有効成分とする小胞体ストレス又は酸化ストレス由来細胞死抑制剤が開示されている。特許文献2には、リグノフェノール系誘導体を含有する哺乳動物細胞保護剤が開示されている。特許文献3には、リグニン誘導体を用いた眼疾患の予防・治療剤が開示されている。
【0004】
一方、アナトーはベニノキ科ベニノキの種子から抽出される色素であり、油脂、溶剤、水またはアルカリ水溶液により抽出され、黄色〜赤色の食品用(食品添加物)または化粧品用(口紅など)色素として用いられている(例えば、特許文献4)。主成分としてカロテノイド類であるビキシンやノルビキシンを含有している。ビキシンの主な作用として抗酸化作用が知られており、その他にもペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ(peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) gamma)活性化作用(非特許文献1)や抗変異原性作用などが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239538号公報
【特許文献2】特開2004−244367号公報
【特許文献3】特開2008−13448号公報
【特許文献4】特開2005−82561号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biochem Biophys Res Commun 390 (4), 1372 (2009)
【非特許文献2】Environ Mol Mutagen 50 (9), 808 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、小胞体ストレスに対する細胞保護作用の機構は未だ充分に解明されているわけではなく、有効な細胞保護作用を発揮可能な新規な薬剤に対する期待は依然として存在している。
本発明は、小胞体ストレスに対する細胞保護作用を有する新規な細胞保護剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1] 下記一般式(I)で示されるビキシン誘導体を含有する細胞保護剤。式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0009】
【化1】

【0010】
[2] 前記Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、前記Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、ただし、Rが水素原子かつRがメチル基である場合、並びに、R及びRが共に水素原子である場合は除かれる[1]に記載の細胞保護剤。
[3] 前記式中Rがメチル基である[1]又は[2]に記載の細胞保護剤。
[4] 前記アルキル基が、炭素数1〜3のアルコキシ基を置換基として有する[1]〜[3]のいずれかに記載の細胞保護剤。
[5] 前記ビキシン誘導体が、下記のいずれかである[1]に記載の細胞保護剤。
【0011】
【化2】

【0012】
[6] 上記一般式(I)で示されるビキシン誘導体。式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。ただし、Rが水素原子かつRがメチル基である場合、並びに、R及びRが共に水素原子である場合を除く。
[7] 前記式中Rがメチル基である[6]に記載のビキシン誘導体。
[8] 前記アルキル基が、炭素数1〜3のアルコキシ基を置換基として有する[6]又は[7]に記載のビキシン誘導体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小胞体ストレスに対する細胞保護作用を有する新規な細胞保護剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1にかかる過酸化水素による細胞ストレスに対するアナトーの細胞保護効果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1にかかる過酸化水素による細胞ストレスに対するビキシン及びメチルビキシンの細胞保護効果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1にかかるツニカマイシンによる細胞ストレスに対するアナトーの細胞保護効果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1にかかるツニカマイシンによる細胞ストレスに対するビキシン及びメチルビキシンの細胞保護効果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2にかかるIn vivoにおけるアナトー、ビキシンおよびメチルビキシンの細胞保護効果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例3にかかるツニカマイシンによる細胞ストレスに対する各種ビキシン誘導体の細胞保護効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のビキシン誘導体は、下記一般式(I)で示されるものである。式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
また本発明の細胞保護剤は、下記一般式(I)で示される化合物を含有するものである。式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
本発明のビキシン誘導体であれば、小胞体ストレスによる細胞傷害から細胞を保護する作用を有するので、細胞保護剤として有効である。
【0016】
【化3】

【0017】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
なお、本発明において「ビキシン誘導体」との表現には、特に断らない限り、ビキシンも含まれる。
以下、本発明について説明する。
【0018】
上記一般式(I)中、Rで表されるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基であればよく、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基であってもよい。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。中でも、炭素数1〜4であることが確実な細胞保護作用を奏する観点から好ましい。
また、Rで表されるアルキル基は、置換基を有していてもよい。Rで表されるアルキル基が有しうる置換基としては、アルコキシ基を挙げることができ、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。これらの置換基としては炭素数1〜3のアルコキシ基であることが、確実な細胞保護作用を奏する観点から好ましい。
【0019】
一般式(I)のおけるRとしては、確実な細胞保護作用を奏する観点から、好ましくは、メチル基、エチル基、イソブチル基及びメトキシエチル基を挙げることができる。
【0020】
上記一般式(I)中、Rで表されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基であればよく、メチル基、エチル基などを挙げることができる。一般式(I)のおけるRとしては、確実な細胞保護作用を奏する観点から、好ましくは、メチル基である。
【0021】
本発明にかかるビキシン誘導体としては、例えば、下記の化合物を例示することができる。なお、化合物(I−1)はビキシン及び化合物(I−6)はノルビキシンとして公知の化合物である。
【0022】
【化4】

【0023】
本発明におけるビキシン誘導体は、天然由来の成分として、又は化学合成品として入手可能である。
特に、化合物(I−1)はビキシン及び化合物(I−6)はノルビキシンとして公知の化合物であり、それぞれアナトーとして、ベニノキ科ベニノキの種子から、油脂、溶剤、水またはアルカリ水溶液により抽出したものであってもよく、市販品をそのまま使用してもよい。
例えば、ビキシンの場合には、ベニノキの種子を、例えば、熱した状態で油脂もしくはプロピレングリコールで抽出すること、室温状態でヘキサンもしくはアセトンで抽出し溶媒を除去すること、または熱した状態でアルカリ性水溶液で抽出し、加水分解して中和することによって、得ることができる。
【0024】
またその他の化合物は、例えば、ビキシンまたはノルビキシンを、通常用いられるエステル化反応に供することで合成することができる。前記エステル化反応は特に制限されず、例えば、アルコールと酸触媒(好ましくは、濃硫酸等の強酸)とを用いる方法、アルコールとカルボジイミド類等の縮合剤とを用いる方法、ビキシンまたはノルビキシンをハロゲン化剤を用いて酸ハロゲン化物とした後、これとアルコールとを反応させる方法、ハロゲン化アルキルと塩基とを用いる方法等を挙げることができる。
またエステル化反応によって得られた反応生成物を必要に応じて精製処理してもよい。精製処理としては通常行なわれる精製方法を特に制限なく適用でき、例えばシリカゲルカラムクロマト処理等を行うことができる。
例えば、化合物(I−2)(メチルビキシン)の場合、ビキシンを過剰量のメタノール中で濃硫酸の存在下にエステル化反応させて、精製処理することで得ることができる。
【0025】
本発明の細胞保護剤は、上述したビキシン誘導体を有効成分として含むものである。本発明において「細胞保護剤」とは、小胞体ストレスよる細胞傷害を緩和又は抑制する作用を有する薬剤を意味する。
【0026】
ビキシン誘導体の細胞保護作用は、例えば、各種の条件で誘導された視神経細胞死の細胞死抑制活性を測定することにより確認することができる。こうした視神経細胞の細胞死誘導条件としては、例えば、酸素及び/又はグルコース欠乏による視神経細胞死条件、ツニカマイシンによる小胞体ストレス誘導による視神経細胞死条件及びN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)などによる小胞体ストレス誘導及び/又は細胞内Ca2+濃度上昇による視神経細胞死誘導条件などを用いることができる。
したがって、本発明におけるビキシン誘導体は、こうした視神経細胞の細胞死に対する細胞保護剤の他、このような視神経細胞死が原因となりうる眼疾患の予防・治療剤として用いることができる。
【0027】
本発明におけるビキシン誘導体による細胞傷害抑制効果が有効な視神経細胞としては、網膜神経節細胞、アマクリン細胞(無軸索細胞)、双極細胞、水平細胞、視細胞(光受容細胞)、インタープレキシフィルム細胞及びミューラー細胞(網膜グリア細胞)などを挙げることができる。また、本発明におけるビキシン誘導体は、ヒトを含む動物に有効であるが、特に、ヒトを含む哺乳類に有効である。
【0028】
本発明におけるビキシン誘導体が対象とする眼疾患は、ヒトを含む哺乳類の眼疾患であることが好ましい。本発明におけるビキシン誘導体が有効な眼疾患としては、網膜血管閉塞症、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、黄斑変性症、網膜色素変性症、レーベル病等に代表される網膜疾患や緑内障などの視神経障害を伴う眼疾患が挙げられる。
【0029】
また、本発明におけるビキシン誘導体は、視神経細胞の細胞死に対する細胞保護作用の他、パーキンソン病又はアルツハイマー病などの神経変性疾患を惹起する細胞傷害に対しても保護作用を有する。従って、本発明におけるビキシン誘導体は、これらの神経変性疾患に対する予防・治療剤としても用いることができる。
【0030】
本発明におけるビキシン誘導体は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤または配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0031】
本発明の眼疾患の予防・治療剤及び細胞保護剤は、非経口でも、経口でも投与することができる。非経口投与の剤型としては、点眼剤、注射剤、点鼻剤などが、経口投与の剤型としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤などが挙げられ、汎用される技術を用いて製剤化することができる。
【0032】
例えば、点眼剤であれば、添加物として、等張化剤、緩衝剤、p H 調節剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、保存剤等を適宜配合することができる。また、pH調節剤、増粘剤、分散剤などを添加することにより、薬物を懸濁化させて、安定な点眼剤を得ることもできる。等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール等を挙げることができる。緩衝剤としては例えば、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸、ε -アミノカプロン酸等を挙げることができる。pH調節剤としては、例えば塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。可溶化剤としては、例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等を挙げることができる。増粘剤、分散剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を、また、安定化剤としては、例えばエデト酸、エデト酸ナトリウム等を挙げることができる。保存剤(防腐剤)としては、例えば汎用のソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられ、これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
点眼剤のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、4.0〜8.5の範囲が好ましく、また、浸透圧比を1.0付近に設定することが望ましい。また、注射剤には、溶液、懸濁液、乳濁液および用時液中に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤が包含され、例えば薬物を液中に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。
また、注射剤は、滅菌精製水及び等張化のための塩化ナトリウムなどを用いて調製することができる。
【0034】
また、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤; ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤; ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い製剤化することができる。
【0035】
投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、点眼剤であれば0.001〜10%(w/v)のものを1日1回〜数回点眼すればよく、注射剤であれば通常1日0.1mg〜250mgを1回または数回に分けて投与すればよい。また、経口剤であれば通常1日当り250mg〜2.5gを1回または数回に分けて投与することができる。必要により上記範囲外の量を用いることができる。
【0036】
ビキシン誘導体は、また、非生理的細胞死抑制剤及び細胞保護剤などの試薬として使用することができる。例えば、各種培養細胞系へ直接投与することにより、不適切に誘導されるアポトーシスに対して細胞を保護することができる。これらの試薬の形態は特に限定されないが、例えば、粉末などの固形剤、又は有機溶剤若しくは含水有機溶剤に溶解した液体剤などを挙げることができる。通常、上記の化合物を試薬として用いて非生理的細胞死抑制作用及び細胞保護作用を発揮させるための効果的な使用濃度は、10μM〜50μMとしてもよく、適切な使用量は培養細胞系の種類や使用目的により異なり当業者が適宜選択可能である。また、動物に投与する場合、血中濃度10μM〜100μMであることがこのましい。また、必要により上記範囲外の量を用いることができる。
【0037】
さらに、本剤は、経口あるいは腸管経由の栄養補助材(食品)としても有用である。食品の形態は、従来公知の各種形態を採ることができる。また、食品添加物としても用いることができる。栄養補助食品として摂取する場合、好ましい摂取量としては、1日あたり250mg〜2.5g程度であり、必要により上記範囲外の量を用いることができる。
【0038】
また、本発明におけるビキシン誘導体は、リード化合物として、細胞保護活性を指標としてさらに有用な化合物を探索し、得るために用いてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0040】
[調製例1]
アナトーの調製
ベニノキの種子1kgを粉砕後、室温下、2リットルのアセトンを用いる2日間の冷浸を3回行って抽出を行った。得られた102gのエキスをアナトーとして用いた。
【0041】
[調製例2]
ビキシンの調製
上記調製例1で得られたアナトーのうち70gについて、アセトンに溶解し、室温にて一晩放置後、吸引濾過したところ、ビキシンの粉末結晶21gが得られた。
【0042】
【化5】

【0043】
HR-ESI-MS m/z 417.2016 [M+Na]+calcd for C25H30O4 (417.2036).
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 1.96 (6H, s, H-21 and H-24, overlapped signals), 1.99 (3H, s, H-22), 2.01 (3H, s, H-23), 3.79 (3H, s, OCH3), 5.88 (1H, d, J = 16.1 Hz, H-2), 5.91 (1H, d, J = 16.1 Hz, H-19), 6.32 (1H, d, J = 9.7 Hz, H-12), 6.37 (2H, d, J = 11.5 Hz, H-9 and H-16, overlapped signals), 6.41 (1H, d, J = 14.9 Hz, H-14), 6.54 (2H, br d, J = 13.1 Hz, H-5 and H-7, overlapped signals), 6.63 (1H, m, H-6), 6.67 (1H, m, H-10), 6.71 (1H, m, H-11), 6.86 (1H, dd, J = 12.0, 14.3 Hz, H-15), 7.46 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-3), 7.97 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-18). 13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 12.7 (C-21), 12.8 (C-22), 13.0 (C-23), 20.3 (C-24), 51.6 (OCH3), 115.1 (C-2), 117.5 (C-19), 123.4 (C-15), 124.2 (C-6), 130.7 (C-10), 131.4 (C-11), 131.6 (C-17), 133.3 (C-4), 134.2 (C-12), 135.2 (C-9), 136.6 (C-8), 137.1 (C-13), 138.0 (C-16), 140.4 (C-18), 140.5 (C-5 and C-14), 142.4 (C-7), 151.1 (C-3), 168.0 (C-20), 171.7 (C-1).
【0044】
[合成例1]
メチルビキシンの合成(Bx−1:化合物I−2)
ビキシン300mgを過剰量のメタノール(150mL)に溶解後、濃硫酸2.0mLを添加し、80℃にて反応を行った。反応生成物は酢酸エチル−水系にて液液分配を行った。得られた酢酸エチル相の溶媒を留去した後、移動相にヘキサン−酢酸エチル(4:1(体積比))混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルカラム:silica gel 60 (70−230mesh) Merck社製。以下同じ)に付し、精製することでメチルビキシン35.2mgを得た。
【0045】
【化6】

【0046】
HR-ESI-MS m/z 431.2220 [M+Na]+calcd for C26H32O4 (431.2193).
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.94 (3H of α and 6H of β, br s, Hα-21 and Hβ-21, 24), 1.96 (3H of α, s, Hα-24), 1.98 (3H of α and 6H of β, br s, Hα-22 and Hβ-22, 23), 2.00 (3H of α, s, Hα-23), 3.76 (3H of α and 6H of β, s, OCH3), 3.79 (3H of α, s, OCH3), 5.88 (1H of α and 2H of β, d, J = 15.6 Hz, Hα-2 and Hβ-2, 19), 5.91 (1H of α, d, J = 15.6 Hz, Hα-19), 6.30-6.42 (4H of α and 2H of β, m, Hα-9, 12, 14, 16 and Hβ-9, 12), 6.48 - 6.53 (2H of α and 4H of β, m, Hα-5, 7 and Hβ-5, 7, 14, 16), 6.59 - 6.70 (3H of α and 4H of β, m, Hα-6, 10, 11 and Hβ-6, 10, 11, 15), 6.85 (1H of α, dd, J = 14.6, 12.2 Hz, Hα-11), 7.39 (1H of α and 2H of β, d , J = 15.6 Hz,, Hα-3 and Hβ-3, 18), 7.96 (1H of α, d, J = 15.6 Hz, H-18). 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 12.7 (Cα-21, Cβ-21, 24), 12.8 (Cα-22, Cβ-22, 23), 13.0 (Cα-23), 20.3 (Cα-24), 51.5 (OCH3 of α, 2xOCH3 of β), 51.6 (OCH3 of α), 115.8 (Cα-2), 115.9 (Cβ-2, 19), 117.5 (Cα-19), 123.3 (Cα-15), 124.3 (Cα-6), 124.4 (Cβ-6, 15), 130.7 (Cα-11), 131.1 (Cβ-10, 11), 131.2 (Cα-10), 131.5 (Cα-17), 133.4 (Cα-4), 133.5 (Cβ-4), 134.2 (Cα-12), 134.77 (Cβ-9, 12), 134.84 (Cα-9), 136.6 (Cα-8), 136.8(Cβ-8, 13), 137.0(Cα-13), 137.9 (Cα-16), 139.45 (Cβ-5, 16), 139.49 (Cα-5), 140.39 (Cα-18), 140.44 (Cα-14), 141.68 (Cβ-7, 14), 141.74 (Cα-7), 149.1 (Cα-3, Cβ-3), 167.9 (Cβ-1, 20), 168.0 (Cα-1, 20).
【0047】
[合成例2]
エチルビキシンの合成(Bx−2:化合物I−3)
ビキシン300mgを過剰量のエタノール(30mL)に溶解後、濃硫酸1.0mLを添加し、80℃にて反応を行った。反応生成物は酢酸エチル−水系にて液液分配を行った。得られた酢酸エチル相の溶媒を留去した後、移動相にヘキサン−酢酸エチル(4:1(体積比))混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製する事でエチルビキシン27.5mgを得た。
【0048】
【化7】

【0049】
HR-ESI-MS m/z 445.2317 [M+Na]+calcd for C27H34O4 (445.2349).
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 1.31 (3H, t, H-2’), 1.94 (3H, s, H-22), 1.96 (3H, s, H-23), 1.98 (3H, s, H-22), 2.00 (3H, s, H-22), 3.79 (3H, s, OCH3), 4.22 (2H, q, J = 14.3, 6.9 Hz,H-1’), 5.88 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-2), 5.91 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-19), 6.32 (1H, d, J = 9.7 Hz, H-12), 6.37 (2H, d, J = 11.5 Hz, H-9 and H-16, overlapped signals), 6.41 (1H, d, J = 14.9 Hz, H-14), 6.54 (2H, br d, J = 13.1 Hz, H-5 and H-7, overlapped signals), 6.63 (1H, m, H-6), 6.67 (1H, m, H-10), 6.71 (1H, m, H-11), 6.86 (1H, dd, J = 12.0, 14.3 Hz, H-15), 7.46 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-3), 7.97 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-18). 13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 12.8 (C-21), 12.9 (C-22), 14.5 (C-23), 14.5 (H-2’), 20.4 (C-24), 51.7 (OCH3), 60.3(H-1’), 116.4 (C-2), 117.6 (C-19), 123.4 (C-15), 124.4 (C-6), 130.9 (C-11), 131.3 (C-10), 131.6 (C-17), 133.6 (C-4), 134.4 (C-12), 134.9 (C-9), 136.7 (C-8), 137.0 (C-13), 138.1 (C-16), 139.4 (C-5), 140.5 (C-18), 140.6 (C-14), 141.7 (C-7), 148.9 (C-3), 167.6 (C-20), 168.1 (C-1).
【0050】
[合成例3]
イソブチルビキシンの合成(Bx−3:化合物I−4)
ビキシン300mgを過剰量の2−ブタノール(30mL)に溶解後、濃硫酸1.0mLを添加し、100℃にて反応を行った。反応生成物は酢酸エチル−水系にて液液分配を行った。得られた酢酸エチル相の溶媒を留去した後、移動相にヘキサン−酢酸エチル(3:1(体積比))混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製する事でイソブチルビキシン4.3mgを得た。
HR-ESI-MS m/z 473.2651 [M+Na]+ calcd for C29H38O4(473.2662).
【0051】
[合成例4]
2’−メトキシエチルビキシンの合成(Bx−4:化合物I−5)
ビキシン300mgを過剰量のエチレングリコールモノメチルエーテル(150mL)に溶解後、濃硫酸2.0mLを添加し、100℃にて反応を行った。反応生成物は酢酸エチル−水系にて液液分配を行った。得られた酢酸エチル相の溶媒を留去した後、移動相にヘキサン−酢酸エチル(4:1(体積比))混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製する事で2’-メトキシエチルビキシン17.6mgを得た。
【0052】
HR-ESI-MS m/z 475.2411 [M+Na]+calcd for C28H36O5 (475.2455).
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 1.94 (3H, s, H-22), 1.96 (3H, s, H-23), 1.98 (3H, s, H-22), 2.00 (3H, s, H-22), 3.41 (3H, s, 2’-OCH3), 3.65 (2H, t, J = 4.6 Hz, H-1’), 3.78 (3H, s, COOCH3), 4.32 (2H, t, J = 4.6 Hz, H-2’), 5.91 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-2), 5.94 (1H, d, J = 13.7 Hz, H-19), 6.32 (1H, d, J = 10.4 Hz, H-12), 6.36 (1H, d, J = 9.8 Hz, H-9), 6.37 (1H, d, J = 11.5 Hz, H-16), 6.41 (1H, d, J = 14.3 Hz, H-14), 6.51 (1H, br d, J = 10.4 Hz, H-7), 6.52 (1H, br d, J = 14.4 Hz, H-5), 6.62 (1H, m, H-6), 6.69 (1H, m, H-10), 6.70 (1H, m, H-11), 6.86 (1H, dd, J = 12.0, 14.9 Hz, H-15), 7.41 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-3), 7.96 (1H, d, J = 15.5 Hz, H-18). 13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 12.7 (C-21), 12.8 (C-22), 13.0 (C-23), 20.4 (C-24), 51.6 (COOCH3), 59.0 (2’-OCH3), 63.31 (C-1’), 70.7 (C-2’), 115.9 (C-2), 117.5 (C-19), 123.3 (C-15), 124.3 (C-6), 130.8 (C-11), 131.2 (C-10), 131.5 (C-17), 133.5 (C-4), 134.3 (C-12), 134.9 (C-9), 136.6 (C-8), 137.0 (C-13), 138.0 (C-16), 139.7 (C-5), 140.4 (C-18), 140.5 (C-14), 141.8 (C-7), 149.4 (C-3), 167.5 (C-20), 168.0 (C-1).
【0053】
[実施例1]
In vitroにおけるアナトー、ビキシンおよびメチルビキシンの細胞保護効果
マウス網膜神経節細胞株であるRGC−5を、96穴プレートに1穴あたり1000個の細胞密度で播種し、10%FCS含有DMEMを用いて、37℃5%COの条件下で、培養した。24時間後に培養液を交換し、上記のとおりにして得たアナトー、ビキシン及びメチルビキシンの各被検物質を添加した。
【0054】
各被検物質を添加1時間後に、各種ストレス誘発剤(0.3mM過酸化水素又は2μg/mLツニカマイシン)をそれぞれ添加して反応させた。なお、過酸化水素及びツニカマイシンによる各々の細胞保護試験では、過酸化水素又はツニカマイシンを含まない系を対照群として用いた。また、27時間後に、hoechst33342およびヨウ化プロピジウムを添加して、核の二重染色法により死細胞率を計測した。過酸化水素を用いた結果を図1(アナトー)及び図2(ビキシン及びメチルビキシン)に、ツニカマイシンを用いた結果を図3(アナトー)及び図4(ビキシン及びメチルビキシン)に、それぞれ示す。図中、「ビヒクル(Vehicle)」は、各被検物質を含まない系を意味する。
【0055】
図1及び図3に示されるように、アナトーは過酸化水素誘発細胞死に対して濃度依存的な細胞保護効果を示し、3μg/mlで有意な細胞死抑制効果が認められ、また、ツニカマイシン誘発細胞死に対しても濃度依存的な保護効果を示し、0.1μg/ml以上で有意な細胞死抑制効果が認められた。
図2及び図4に示されるように、ビキシンおよびメチルビキシンはツニカマイシン誘発細胞死に対して細胞保護効果を示し、3μg/ml以上で有意な細胞死抑制効果が認められ、また、過酸化水素に対してメチルビキシンは3μg/ml以上で有意な細胞死抑制効果を示し、ビキシンより低濃度で保護効果が認められた。
【0056】
[実施例2]
In vitroにおける各ビキシン誘導体の細胞保護効果
マウス網膜神経節細胞株であるRGC−5を、96穴プレートに1穴あたり1000個の細胞密度で播種し、10%FCS含有DMEMを用いて、37℃5%COの条件下で培養した。24時間後に培養液を交換し、表1に示すとおり、上記のようにして得た各被検物質を所定の濃度で添加した。
【0057】
各被検物質を添加1時間後に、2μg/mLのツニカマイシンをそれぞれ添加して反応させた。27時間後に、hoechst33342およびヨウ化プロピジウムを添加して、核の二重染色法により死細胞率を計測した。ストレス誘発剤を添加し且つ被検物質を含まない系(「Vehicle」)を対照群とした。各群における細胞障害比を表1に示す。なお、細胞障害比は、Vehicleの死細胞率を100%としたときの各群の死細胞率の比である。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、本発明にかかるビキシン誘導体は、いずれもストレス抑制効果があることわかる。特に、ビキシン、メチルビキシン及びBx−2には、低濃度でもストレス抑制効果が得られることがわかる。
【0060】
[実施例3]
In vivoにおけるアナトー、ビキシンおよびメチルビキシンの細胞保護効果
ddYマウス(雄、7週齢)にイソフルラン麻酔下、各抑制物質及びストレス物質(片目あたり1μgのツニカマイシン)(溶媒は5% DMSO)を各々2μL、硝子体内投与し、7日後眼球摘出した。なお、メチルビキシンは500μMの濃度で投与した。1晩、4℃の条件で4%パラホルムアルデヒドに浸漬させ、その後パラフィン置換を行った。5μmの厚さの薄切切片を作製してヘマトキシリン・エオジン染色を行い、視神経乳頭から375μm〜625μmのGCL(網膜神経節細胞)の数、IPL(内網状層)の厚さを評価した。結果を図5(GCL)及び図6(IPL)に示す。なお、図5及び図6は、平均±S.E.M.(n=8〜18)の値であり、*及び**は、ツニカマイシン添加群の値に対して、それぞれ*p<0.05、**p<0.01を意味する。
【0061】
図5に示されるように、ツニカマイシン誘発網膜障害におけるGCLの細胞数の減少は、アナトー又はビキシンの硝子体内投与によって用量依存的に抑制された。また、メチルビキシンの投与によっても同様に細胞減少の抑制が認められた。
さらに、図6に示されるように、ツニカマイシンによるIPLの薄層化において、メチルビキシン(500μM)はビキシンと比較してより強力な保護効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるビキシン誘導体を含有する細胞保護剤。
【化1】



(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、前記Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、ただし、Rが水素原子かつRがメチル基である場合、並びに、R及びRが共に水素原子である場合は除かれる請求項1記載の細胞保護剤。
【請求項3】
前記式中Rがメチル基である請求項1又は請求項2記載の細胞保護剤。
【請求項4】
前記アルキル基が、炭素数1〜3のアルコキシ基を置換基として有する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の細胞保護剤。
【請求項5】
前記ビキシン誘導体が、下記のいずれかである請求項1記載の細胞保護剤。
【化2】

【請求項6】
下記一般式(I)で示されるビキシン誘導体。
【化3】


(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
ただし、Rが水素原子かつRがメチル基である場合、並びに、R及びRが共に水素原子である場合を除く。)
【請求項7】
前記式中Rがメチル基である請求項6記載のビキシン誘導体。
【請求項8】
前記アルキル基が、炭素数1〜3のアルコキシ基を置換基として有する請求項6又は請求項7記載のビキシン誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97003(P2012−97003A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243535(P2010−243535)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(591060289)岐阜市 (15)
【Fターム(参考)】