説明

ビグアナイド系薬物の内服製剤

【課題】苦み・刺激等の服用時の不快感が改善された、ビグアナイド系薬物および有機酸を含有する内服製剤を提供すること。
【解決手段】ビグアナイド系薬物、クエン酸、および甘味料を含有する内服製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビグアナイド系薬物および有機酸を含有する内服製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メトホルミン等のビグアナイド系薬物は、苦み・刺激等の不快感を有している。メトホルミンの用量は、1回あたり約250mg(日本)、約850mg(米国)である。そのような高用量にもかかわらず、現在、市場には錠剤のみが供給されている。 苦みの強い薬物の苦みを遮断する方法として、種々の方法が用いられている。例えば、固形製剤においては、糖衣錠、フィルムコート錠、カプセル剤等の剤形にすることが利用されている。また、散剤、細粒剤、顆粒剤においては、甘味料または香料を添加する方法のほか、マイクロカプセル化、非腸溶性コーティング方法、低融点のロウ状固体とのスプレードライ法およびレシチンを添加する方法(特許文献1)等も用いられている。
内服液剤においては、エチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(特許文献2)のような水に不溶性の高分子化合物を添加する方法、酸性リン脂質またはそのリゾ体を添加する方法(特許文献3)、大量のクエン酸を添加する方法(特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-265234号公報
【特許文献2】特開昭52-41214号公報
【特許文献3】特開平7-67552号公報
【特許文献4】特公平4-58452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明によって、服用の不快感が改善されたビグアナイド系薬物の内服製剤が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ビグアナイド系薬物に有機酸を加えた内服製剤とすることによって、苦み・刺激等の不快感が改善されることを見出した。このようにして、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下を包含する。
[1] ビグアナイド系薬物および有機酸を含有する内服製剤。
[2] ビグアナイド系薬物、有機酸および甘味料を含有する内服製剤。
[3] ビグアナイド系薬物がメトホルミンまたはその薬学上許容される塩である[1]または[2]記載の内服製剤。
[4] 有機酸がリンゴ酸、クエン酸、酒石酸またはこれらの混合物である[1]〜[3]のいずれか記載の内服製剤。
[5] 甘味料がアスパルテームTM、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビアまたはこれらの混合物である[1]〜[4]のいずれか記載の内服製剤。
[6] ビグアナイド系薬物と有機酸の重量比が1:0.01〜1:50である[1]〜[5]のいずれか記載の内服製剤。
[7] ビグアナイド系薬物と甘味料の重量比が1:0.001〜1:10である[2]〜[6]のいずれか記載の内服製剤。
[8] 剤形が液剤、ゼリー剤、グミ剤、ドライシロップ、散剤、細粒剤または顆粒剤である[1]〜[7]のいずれか記載の内服製剤。
[9] 液剤である場合はその液のpHが3.5〜6であり、また液剤以外の内服製剤である場合は製剤に対し10倍量(w/w)の水に溶解もしくは分散することによってえられる溶液のpHが、3.5〜6である[1]〜[8]のいずれか記載の内服製剤。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ビグアナイド系薬物としては、例えばビグアナイド骨格を有する薬物が挙げられ、具体的にはメトホルミン、ブホルミン、フェンホルミンまたはこれらの薬学上許容される塩が挙げられる。
有機酸としては、例えばリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸、グルクロン酸等が挙げられ、これらの混合物であってもよい。好ましい有機酸としては、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等の2または3のカルボキシル基を有する有機酸が挙げられ、特に好ましくは、リンゴ酸が挙げられる。ビグアナイド系薬物と有機酸の重量比としては、例えば1:0.01〜1:50が挙げられ、好ましくは1:0.02〜1:10が挙げられ、特に好ましくは1:0.05〜1:1が挙げられる。有機酸がリンゴ酸である場合は、ビグアナイド系薬物とリンゴ酸の重量比の好ましい範囲としては、例えば1:0.05〜1:0.5が挙げられる。
甘味料としては、例えばアスパルテームTM、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア、ソーマチン、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、グリセリン等が挙げられ、これらの混合物であってもよい。好ましい甘味料としては、アスパルテームTM、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビアが挙げられる。ビグアナイド系薬物と甘味料の重量比としては、例えば1:0.001〜1:10が挙げられ、好ましくは、1:0.02〜1:1が挙げられる。
内服製剤が液剤である場合はその液のpHを、好ましくは3.5〜6の範囲になるように、より好ましくは4〜6の範囲に設定することで、不快感を減じ、また製剤中の薬物の安定性を確保することができる。また液剤以外の内服製剤である場合は製剤に対し10倍量(w/w)の水に分散することによってえられる溶液もしくは分散液のpHを、好ましくは3.5〜6の範囲になるように、より好ましくは4〜6の範囲に設定する。これは、不快感を減じ、また製剤中の薬物の安定性を確保するためである。
【0008】
内服製剤としては、液剤、ゼリー剤、グミ剤、ドライシロップ、散剤、細粒剤および顆粒剤等の剤形が挙げられる。好ましい製剤は、錠剤ではない製剤である。
本発明の製剤においては、薬学上許容される無毒性かつ不活性な添加剤を添加することもできる。これらの添加剤としては、例えば、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、白糖、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、タルク、カオリン、リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、結晶セルロース等の賦形剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の滑沢剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、メチルセルロース、アラビアゴム末、ポリビニルアルコール等の結合剤、その他着色剤、矯味剤、吸着剤、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、帯電防止剤、pH調整剤等が挙げられる。 また、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、パイン、バナナ、チョコレート、ヨーグルト等の香料を配合することもでき、その場合は、より好ましい服用感が得られる。
【0009】
本発明の内服製剤の製造方法としては、公知の方法が挙げられるが、例えば、固形製剤の場合は、押し出し造粒法、破砕造粒法、乾式圧密造粒法、流動層造粒法、転動造粒法、高速撹拌造粒法、湿式打錠法、直接打錠法等が挙げられる。
本発明の内服製剤は、通常量の有効成分(ビグアナイド系薬物)を含有し、投与経路による通常の実施に従い、薬理学者や開業医が熟知している投薬量レジメに従って投与するために、従来の方法によって使用される。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例及び実験例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0011】
実施例1
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
リンゴ酸 0.8%
アスパルテームTM 0.3%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 93.8%
精製水に、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、アスパルテームTMおよびレモンフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0012】
実施例2
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
リンゴ酸 0.8%
サッカリンナトリウム 1%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 93.1%
精製水に、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、サッカリンナトリウムおよびレモンフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0013】
実施例3
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
クエン酸 2%
アスパルテームTM 0.3%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 92.6%
精製水に、塩酸メトホルミン、クエン酸、アスパルテームTMおよびレモンフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0014】
実施例4
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
リンゴ酸 1.5%
サッカリンナトリウム 0.25%
エリスリトール 10%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 83.15%
精製水に、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、サッカリンナトリウム、エリスリトールおよびレモンフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0015】
実施例5
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
リンゴ酸 1.5%
アスパルテームTM 0.2%
ソルビトール 6%
グレープフルーツフレーバー 0.1%
精製水 87.2%
精製水に、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、アスパルテームTM、ソルビトールおよびグレープフルーツフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0016】
実施例6
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
リンゴ酸 1.5%
サッカリン 0.03%
グリセリン 10%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 83.37%
精製水に、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、サッカリン、グリセリンおよびレモンフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0017】
実施例7
塩酸メトホルミン液剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
リンゴ酸 1.5%
サッカリンナトリウム 0.25%
サッカリン 0.03%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 93.12%
精製水に、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、サッカリンナトリウム、サッカリンおよびレモンフレーバーを溶解し、5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0018】
実施例8
塩酸メトホルミンドライシロップ
成分 量
塩酸メトホルミン 500g
リンゴ酸 80g
サッカリンナトリウム 25g
エリスリトール 865g
ポリビニルピロリドンK30 30g
----------------------------------------
合計 1500g
塩酸メトホルミン、リンゴ酸、サッカリンナトリウム、エリスリトール、ポリビニルピロリドンK30を、精製水:エタノール=1:1(w/w)混液200gと共に混合し、湿潤した塊状物を得る。この塊状物を造粒ミルを通して粒度を整えた後、乾燥することで33%塩酸メトホルミンドライシロップを調製する。
【0019】
実施例9
塩酸メトホルミンゼリー剤
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
ゼラチン 0.5%
リンゴ酸 0.8%
アスパルテームTM 0.3%
レモンフレーバー 0.1%
精製水 93.3%
80℃以上に加熱した精製水に、ゼラチンを加え溶解させる。この液に塩酸メトホルミン、リンゴ酸、アスパルテームTMおよびレモンフレーバーを溶解または分散した後、冷却することで塩酸メトホルミンゼリー剤を調製する。
【0020】
実施例10
塩酸ブホルミン細粒剤
成分 量
塩酸ブホルミン 100g
マンニトール 300g
乳糖 300g
コーンスターチ 150g
リンゴ酸 90g
アスパルテームTM 30g
メチルセルロース 30g
------------------------------------------
合計 1000g
塩酸ブホルミン、マンニトール、乳糖、コーンスターチ、リンゴ酸、アスパルテームTM、メチルセルロースを、精製水200gと共に混合し、湿潤した塊状物を得る。この塊状物をバスケット造粒機を用いて造粒した後、乾燥することで10%塩酸ブホルミン細粒を調製する。
【0021】
実施例11
塩酸ブホルミングミ剤
成分 量
塩酸ブホルミン 100mg
ゼラチン 600mg
クエン酸 100mg
サッカリンナトリウム 25mg
ソルビトール 1550mg
レモンフレーバー 25mg
精製水 600mg
----------------------------------------
合計 3000mg
80℃以上に加熱した精製水に、ゼラチンを加え溶解させる。この液に塩酸ブホルミン、クエン酸、サッカリンナトリウム、ソルビトールおよびレモンフレーバーを溶解または分散した後、型に流し込み冷却することで塩酸ブホルミングミ剤を調製する。
【0022】
実施例12
塩酸ブホルミン散剤
成分 量
塩酸ブホルミン 100mg
マンニトール 560mg
コーンスターチ 200mg
クエン酸 100mg
アスパルテームTM 30mg
ステアリン酸マグネシウム 10mg
----------------------------------------
合計 1000mg
塩酸ブホルミン、マンニトール、コーンスターチ、クエン酸、アスパルテームTM及びステアリン酸マグネシウムを混合することで10%塩酸ブホルミン散剤を調製する。
【0023】
実施例13
各種pHの塩酸メトホルミン液剤
実施例1の液剤において、塩酸メトホルミン、リンゴ酸、アスパルテームTMおよびレモンフレーバーを約80%の精製水に溶解または分散した後、希塩酸または希水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを2、3、3.5、4、5、6に調整することで、各種pHの5%塩酸メトホルミン液剤を調製する。
【0024】
比較例1
塩酸メトホルミン溶液
成分 重量%
塩酸メトホルミン 5%
精製水 95%
精製水に、塩酸メトホルミンを溶解し、5%塩酸メトホルミン溶液を調製する。
【0025】
試験例1
官能試験
実施例1〜3および比較例1で調製した塩酸メトホルミン液剤および溶液を用いて、20人のパネラーによる官能試験を実施した。「全く苦みを感じなかった」、「やや苦みを感じた」および「苦みを感じた」パネラーの数を表1に示す。
【0026】
(表1)
サンプル 全く苦みを感じなかった人 やや苦みを感じた人 苦みを感じた人
---------------------------------------------------------------------------
実施例1 11人 8人 1人
実施例2 10人 9人 1人
実施例3 11人 8人 1人
比較例1 0人 2人 18人
また、実施例4〜7の塩酸メトホルミン液剤に関して官能試験を行ったところ、良好な服用感を示した。
【0027】
試験例2
官能試験および安定性試験
実施例13で得られた各種pHの塩酸メトホルミン液剤について、官能試験および安定性試験を行った。官能試験は、試験例1と同様にして行った。安定性試験は、塩酸メトホルミン液剤をバイアルに入れて、60℃で2週間保存して、HPLCで塩酸メトホルミンの残存率を測定することで行った。結果を表2に示す。
【0028】
(表2)
pH 官能試験の判定 残存率(%)
--------------------------------------
2 不良 78
3 普通 86
3.5 良好 94
4 良好 96
5 良好 98
6 良好 100
7 不良 98
pHが3.5以下では、塩酸メトホルミンが不安定であり、また酸味が強すぎて服用感が良好ではない。pHが7以上では、苦みが残る。
【0029】
通常、内服液剤ではほとんど苦みを感じる。従って、液剤についてのこれらの実験は、ゼリー剤、グミ剤、ドライシロップ、散剤、細粒剤、顆粒剤等の他の剤形でも、口中に含んだ際の不快感が減じられることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によって、服用の不快感が改善されたビグアナイド系薬物の内服製剤が提供される。これによって、例えば、老人、小児等あらゆる年齢層の患者にとって、十分な量のビグアナイド系薬物を容易に服用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビグアナイド系薬物、クエン酸、および甘味料を含有する内服製剤。
【請求項2】
甘味料がアスパルテームTM、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビアまたはこれらの混合物から選ばれる、請求項1記載の内服製剤。
【請求項3】
ビグアナイド系薬物と甘味料の重量比が1:0.001〜1:10である請求項1または2記載の内服製剤。
【請求項4】
ビグアナイド系薬物がメトホルミンまたはその薬学上許容される塩である請求項1〜3のいずれか記載の内服製剤。
【請求項5】
ビグアナイド系薬物とクエン酸の重量比が1:0.01〜1:50である請求項1〜4のいずれか記載の内服製剤。
【請求項6】
剤形が液剤、ゼリー剤、グミ剤、ドライシロップ、散剤、細粒剤または顆粒剤である請求項1〜5のいずれか記載の内服製剤。
【請求項7】
液剤であって、その液のpHが、3.5〜6である請求項6記載の内服製剤。
【請求項8】
液剤以外の内服製剤であって、製剤に対し10倍量(w/w)の水に溶解もしくは分散することによってえられる溶液もしくは分散液のpHが、3.5〜6である請求項6記載の内服製剤。

【公開番号】特開2010−195839(P2010−195839A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139891(P2010−139891)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【分割の表示】特願2000−545519(P2000−545519)の分割
【原出願日】平成11年4月26日(1999.4.26)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】