説明

ビスイミダゾリジン配位子の製造方法とそれを用いた触媒。

【課題】C2対称なビスイミダゾリジンを配位子とすることで、より複雑な配位場の構築を目指し、有用な触媒的不斉合成を実現する。
【解決手段】下記式(1)にて示される配位子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスイミダゾリジン配位子の製造方法とそれを用いた触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖を基本構成単位とする生体高分子は、高度な不斉空間を構築しており、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法と呼ばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて有用、重要なものとなっている。
【0003】
現在、触媒的不斉合成法は様々な金属触媒を用いることにより達成されている。有用な触媒的不斉反応を実現する不斉配位子として、C2対称な光学活性ビスオキサゾリンや下記非特許文献に記載された光学活性イミダゾリジン配位子の開発が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Myung−Jong Jinら“Highly enantioselective Pd−catalyzed allylic alkylation using new Chiral ferrocenylphosphinoimidazolidine ligands”、Chem.、Comm.、2006、663−664
【非特許文献2】Geon−Joong Kimら、“New enantioselective chiral imidazolidine ligands for Pd−catalyzed asymmetric allylic alkylation”、Tetraheadron.Lett.、2003、1971−1974
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビスオキサゾリンは、様々な反応に有用ではあるものの、その平面性の高い構造故に、配位場が平面四配位という、単純な配位場になっている。また、光学活性イミダゾリジン配位子としては単核のものが知られており、ビスイミダゾリジンの報告例はない。イミダゾリジンを配位子とした、アゾメチンイリドを用いる不斉反応の報告もない。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、単核ではなくC2対称なビスイミダゾリジンを配位子とすることで、より複雑な配位場の構築を目指し、より有用な触媒的不斉合成の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なっていたところ、光学活性なジアミンに置換基を導入し、その後アルデヒドと反応させることで二段階での合成に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の一観点に係る配位子は、下記化学式(1)にて記させることを特徴とする。
【化1】

【0009】
(ただし、R、RはCH、−(CH−、Phのいずれかであり、RはH、CHSO、CHSO、CSO、CHCO、CCO、CH 、C、CHPh、Phのいずれかであり、RはCH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。)
【0010】
また、本発明の他の一観点に係る触媒は、下記化学式(2)にて記させることを特徴とする。
【化2】

【0011】
(ただし、R、RはCH、−(CH−、Phのいずれかであり、RはH、CHSO、CHSO、CSO、CHCO、CCO、CH 、C、CHPh、Phのいずれかであり、RはCH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。Mは金属原子を表す)
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、二段階で効率的な配位子を合成することができる。光学活性ジアミンの置換基を変化させることで、電子的効果、立体的効果により自由度の高い配位子及びこれを用いた触媒反応を提供することができる。また、平面配位子の問題点を克服し、より複雑な配位場を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態に関わる配位子は、上記化学式(1)で示されることを特徴とする。光学活性ジアミンを構築単位としてもつ2分子のイミダゾリジン骨格は、ジアミンと2位と6位にアルデヒド基を有するピリジンとを反応させることで構築することができる。また、イミダゾリジン環上の片方のNHをCHSO、CHSO、CSO、CHCO、CCO、CH 、C、CHPh、Ph等で置換することにより、電子的、立体的効果により、配位能力、配位場の複雑さを変化させることができる。ここでPhは芳香環を示す。
【0015】
配位子は、空気中室温でオイル状であり、冷暗所にて1ヶ月以上保存することができる。また、多くの有機溶媒(アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、アセトニトリル、ジオキサン等)に可溶であり、これらを溶媒として用いる錯体形成ならび触媒的不斉反応に用いることができる。
【0016】
また、本実施形態に係る配位子は、以下の方法により合成できる。
【化3】

【0017】
また、本実施形態に係る配位子は、金属に配位することで触媒として用いることができ、マンニッヒ型反応や1,3−双極子環化反応に好適に用いることができる。
【0018】
また、本実施形態に係る配位子を金属に配位させる方法としては、目的の金属塩に対し、等量の配位子を有機溶媒中で反応させる方法が考えられる。配位させる金属としては限定されるものではないが、例えば、銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄を例示することができる。金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属が銅である場合、CuCl、CuOAc、CuCl、Cu(OAc)、Cu(OTf)等を用いることができる。
【0019】
以上、本発明によると、多様性と汎用性のあるビスイミダゾリジン配位子の合成を達成でき、自由度の高い配位子及びこれを用いた触媒を提供することができる。
【実施例】
【0020】
以下、上記実施形態に係る配位子及び触媒について具体的な化合物を作成し、その評価を行なった。以下具体的に説明する。
【0021】
(実施例1)
上記実施形態に係る一例として、ビスイミダゾリジンを合成した。以下説明する。
【化4】

【0022】
[(1S,2S)−N−benzyl−1,2−diphenylethane−1,2−diamine] (A)の合成:
まず、活性化したMS4Å(2.5g)が入ったナスフラスコの中にジメチルホルムアミド(25ml)を入れ、アルゴン置換する。その後(1S,2S)−1,2−diphenyletahne−1,2−diamine(1g,5mmol)と水酸化セシウム一水和物を(836mg)、ベンジルクロライド(690μl)の順に加え、35℃で撹拌する。24時間以上攪拌した後、ろ紙濾過でMSを除き、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチル、水、食塩水の順に抽出する。有機層を亡硝により乾燥し、減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒1:1 n−ヘキサン/酢酸エチルから酢酸エチル)により精製することで46%の収率で黄色オイル状の目的化合物(A)を得た。
(A)の機器デ−タ:
H NMR(400MHz,CDCl)d 3.47(d,J=13.5Hz,1H),3.67(d,J=13.5Hz,1H),3.76(d,J=7.3Hz,1H),4.01(d,J=7.3Hz,1H),7.09−7.31(m,15H,aromatic)
13C NMR(125MHz,CDCl):d 51.4,61.8,68.8,126.8,126.9,127.02,127.03,128.0,128.07,128.09,128.3,140.2,140.6,141.2,143.5
FT/IR 3375,3311,3060,3026,2904,2837,1601,1493,1452,762,696cm−1
[α]20=−7.5°(c=1.23,CHCl
HRMS(FAB+) calcd for C2123 (M+H)303.1861: found 303.1873.
【0023】
(実験項2)
[2,6−bis((2R,4S,5S)−1−benzyl−4,5−diphenylimidsazolidine−2−yl)pyridine](1−1)の合成:
アルゴン雰囲気下、2,6−ピリジルアルデヒド(74.3mg,0.55mmol)を無水塩化メチレン(10ml)に溶解し、酢酸(63μl)と(1)を加え、30℃で24時間攪拌し、飽和重層水を加えた後、クロロホルムを用い抽出する。有機層を亡硝により乾燥し、減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒3:1 n−ヘキサン/酢酸エチル)により黄色オイル状の(1−1)を99%収率で得た。
【0024】
(1−1)の機器デ−タ:
H NMR(400MHz,CDCl)d 3.66(d,2H),3.83−3.87(m,4H),4.40(d,2H),5.02(s,2H),7.00−7.37(m,33H,aromatic)
13C NMR(100MHz,CDCl)d 55.24,61.61,69.29,70.36,81.94,94.16,115.55,121.29,122.21,126.60,127.21,127.49,127.67,127.99,128.15,128.21,128.30,129.46,136.37,137.38,139.95,141.50,161.02,196.3,206.67
FT/IR 3340.1,3028.66,2839.67,1739.48,1552.42,1454.06,1153.22,761.744cm−1
[α]20=−69.5(c=1.00,CHCl
FTMS(ESI+) calcd for C4945Na(M+Na) 726.3567;found 726.3567.
【0025】
以上により、下記構造式(1−1)で示される配位子を得ることができた。
【化5】

【0026】
(実施例2)
また、上記実施例1と同様の操作により、Rをトシル基とした下記構造式(1−2)を二段階で合成した。
【化6】

【0027】
(1−2)の機器デ−タ:
H NMR(400MHz,CDCl)d 2.40(s,6H),3.55(br,2H),4.25(d,2H),4.71(d,2H),5.83(s,2H),6.99−7.98(m,31H,aromatic)
13C NMR(100MHz,CDCl)d 21.50,58.94,69.21,71.37,78.28,93.94,120.89,124.01,126.62,126.90,127.31,127.35,127.70,127.96,128.19,128.41,129.46,134.14,138.00,139.10,139.66,143.67,157.89,183.39
FT/IR 3672.77,3296.71,2923.56,2254.38,1598.70,1347.03,1160.94,983.518cm−1
[α]20=−28.2(c=1.00,CHCl
HRMS(FAB+) calcd for C4946 (M+H) 832.2991: found 832.2991.
【0028】
(実施例3)
次に、実施例において得られた配位子を2価の銅塩に配位させ、触媒とした。そして、この触媒としての効果を確認した。具体的には、実施例1にて得た(1−1)を用いる銅錯体の調整を行い、触媒的不斉マンニッヒ型反応、1,3−双極子環化反応に応用した。
【0029】
((1−1)を用いる銅錯体の調整)
アルゴン雰囲気下、Cu(OTf)(3.6mg,0.01mmol)とビスイミダゾリジン(1−1)(0.011mmol)を無水塩化メチレン1mlに溶解し、室温にて2時間以上攪拌し、減圧濃縮した後、再結晶化した。
【0030】
((1−1)−Cu(OTf)錯体を用いるマンニッヒ型反応の確認)
【化7】

【0031】
銅錯体をトルエン1mlに溶解し、−20℃でアゾメチンイリド(50.6μl,0.2mmol)、トリエチルアミン(2.8μl)、トシルイミン(57.7mg)を加える。20時間後、反応液を減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒5:1 n−ヘキサン/酢酸エチルから3:1)により、62%収率(syn:anti=84:16)、得られた生成物の光学純度は、syn体が97%ee、anti体が92%eeであった。(分析条件:DAICEL CHIRALCEL AD−H, flow rate =1.0ml/min,hexane:2−propanol=90:10)
【0032】
((1−1)−Cu(OTf)錯体を用いる1,3−双極子環化反応の確認)
【化8】

【0033】
銅錯体を1,4−ジオキサン1mlに溶かし、アゾメチンイリド(35.0μl,0.2mmol)、炭酸セシウム(6.5 mg)、trans−β−ニトロスチレン(32.86mg)を加え、室温で20時間攪拌する。反応液を減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒3:1 n−ヘキサン/酢酸エチル)により、96%収率(endo:exo=99:1)、得られた生成物の光学純度は、endo体が99%eeであった。(分析条件:DAICEL CHIRALCEL AS−H,flow rate=0.7ml/min,hexane:2−propanol=70:30)
【0034】
以上本実施例により本触媒の効果を確認することができ、汎用性が高く自由度の大きな新規ビスイミダゾリジン配位子及びそれを用いる触媒を得ることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、触媒及びそのための配位子として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)にて示される配位子
【化1】

(ただし、R、RはCH、−(CH−、Phのいずれかであり、RはH、CHSO、CHSO、CSO、CHCO、CCO、CH 、C、CHPh、Phのいずれかであり、RはH、CH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。)
【請求項2】
下記式(2)にて示される触媒。
【化2】

(ただし、R、RはCH、−(CH−、Phのいずれかであり、RはH、CHSO、CHSO、CSO、CHCO、CCO、CH 、C、CHPh、Phのいずれかであり、RはCH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。Mは金属原子を表す)
【請求項3】
マンニッヒ型反応又は1,3−双極子環化反応の少なくともいずれかに用いられる請求項2記載の触媒。

【公開番号】特開2011−111426(P2011−111426A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270898(P2009−270898)
【出願日】平成21年11月29日(2009.11.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月29日 有機合成化学協会発行の「第95回 有機合成シンポジウム講演要旨集」に発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】