説明

ビスナフタレンスルフィド系化合物

【課題】高屈折率を有するビスナフタレンスルフィド系化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】式(I):


(Rは、水素原子又はメチル基)で表わされる、ビスナフタレンスルフィド系化合物、及び1,1'-チオビス(2-ナフトール)と、HC=CR−CO−Xなる(メタ)アクリル酸ハライドとを、塩基の存在下、溶媒中で反応させる工程を含む、式(I)で表わされる、ビスナフタレンスルフィド系化合物の製造方法。但しRはH又はCHであり、Xはハロゲンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料の光学用物品、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター用保護膜、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク用コーティング剤及び接着剤、光ファイバー用コア材及びクラッド材、光ファイバー接続用接着剤、光導波路用コア材及びクラッド材、光導版材料、ホログラフィー等を利用する光記憶材料、LED封止剤等の様々な光学用物品等に用いられるビスナフタレンスルフィド系化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香環を有する化合物は屈折率が炭化水素系化合物よりも高いことが知られている。また、屈折率は硫黄原子や窒素原子等を導入することにより向上させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−26010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、製造上の困難さや製造コスト、化合物の溶解性低下による純度低下等により、より高屈折率のモノマーを開発し、高純度化するためには困難を伴う場合が多い。
【0005】
本発明の課題は、高屈折率を有するビスナフタレンスルフィド系化合物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕 式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基である)
で表わされる、ビスナフタレンスルフィド系化合物、並びに
〔2〕 式(II):
【0009】
【化2】

【0010】
で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)と、式(III):
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xはハロゲン原子、Rが水素原子の場合にはアクリルオキシ基又はRがメチル基の場合にはメタクリルオキシ基である)
で表される(メタ)アクリル化剤と、塩基の存在下、溶媒中で反応させる工程を含む、式(I):
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基である)
で表わされる、ビスナフタレンスルフィド系化合物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のビスナフタレンスルフィド系化合物は、高屈折率を有するという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られたビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドの1H-NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドの13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のビスナフタレンスルフィド系化合物は、式(I):
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基である)
で表される化合物であり、高い屈折率を有するという特長を有する。
【0020】
式(I)で表されるビスナフタレンスルフィド系化合物は、式(II):
【0021】
【化6】

【0022】
で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)と、式(III):
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xはハロゲン原子、Rが水素原子の場合にはアクリルオキシ基、又はRがメチル基の場合にはメタクリルオキシ基である)
で表される(メタ)アクリル化剤と、塩基の存在下、溶媒中で反応させる工程を含む方法により得られる。
【0025】
式(III)において、Rは、入手し易さの観点から、メチル基又は水素原子である。Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子があるが、これらの中では、コスト、反応性、工業的製造の際の取り扱いやすさ等の観点から、塩素原子が好ましい。従って、Xがハロゲン原子である場合、式(III)で表される(メタ)アクリル化剤、即ち(メタ)アクリル酸ハライド、(メタ)アクリル酸クロリドが好ましい。また、式(III)で表される(メタ)アクリル化剤は、アクリル酸の無水物又はメタクリル酸の無水物であってもよく、即ち、Xは、Rが水素原子の場合にはアクリルオキシ基、又はRがメチル基の場合にはメタクリルオキシ基であってもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0026】
式(III)で表される(メタ)アクリル酸化剤の使用量は、式(II)で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)1モルに対して、経済性の観点から、1.8〜3.6モルが好ましく、2.4〜2.8モルがより好ましい。
【0027】
塩基としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等が挙げられ、これらの中では、比較的低毒性で安価なトリエチルアミンが好ましい。
【0028】
塩基の使用量は、式(II)で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)1モルに対して、1.8〜4.0モルが好ましく、2.6〜3.0モルがより好ましい。
【0029】
溶媒としては、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、N,N-ジメチルホルムアミド、トルエン等の有機溶媒が挙げられ、これらの中では、式(II)で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)の溶解性の観点から、テトラヒドロフランが好ましい。
【0030】
溶媒の使用量は、式(II)で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)の1〜20重量倍が好ましい。
【0031】
式(II)で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)と式(III)で表される(メタ)アクリル化剤との反応は、例えば、溶媒中の、式(II)で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)と塩基に、(メタ)アクリル酸ハライドを滴下することにより、行うことができる。この際、反応溶液の温度は、(メタ)アクリル化剤の安定性の観点から、80℃以下に制御することが好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル化剤の滴下終了後、反応溶液を、滴下温度よりさらに20℃程度加熱することにより、反応の進行を促進することができる。
【0033】
反応の際の雰囲気は特に限定されず、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下であっても、大気中であってもよい。
【0034】
反応の進行及び終点は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)等により確認することができる。
【0035】
反応終了後、水、ギ酸水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等を用いて反応溶液を洗浄し、溶媒を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーや再結晶等により、得られたビスナフタレンスルフィド系化合物を、単離、精製することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
【0038】
【化8】

【0039】
滴下ロート、温度計及びコンデンサーを設置した500mL容のフラスコ中で、窒素雰囲気下、1,1'-チオビス(2-ナフトール)20.0g(0.06モル)、トリエチルアミン17.8g(0.18モル)及びテトラヒドロフラン22.7g(0.31モル)を混合し、5〜10℃まで冷却した。反応液の温度を0〜10℃に保ちながらアクリル酸クロリド14.78g(0.16モル)を滴下した。アクリル酸クロリドを滴下終了後、反応液の温度を32℃まで昇温し、反応終点まで熟成した。ガスクロマトグラフにより原料である1,1'-チオビス(2-ナフトール)が消失した時点を反応終点とした。反応終了後、クロロホルム100gを加え、純水52.2g、3重量%ギ酸水溶液20g、純水20g、3重量%炭酸ナトリウム水溶液38.2g、純水20.0gの順で洗浄した。洗浄後の有機層をエバポレーターにて濃縮(40℃/0.1kPa/2hr)を行い、結晶を析出させた。析出した結晶を減圧濾過により取出し、褐色固体状のビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドを得た(収量25.2g、収率91%、GC純度96.6%)。
【0040】
得られた生成物(ビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィド)を、質量分析、融点、1H-NMR、13C-NMRの測定により同定した。1H-NMRスペクトルを図1に、13C-NMRスペクトルを図2に示す。
【0041】
〔質量分析(GC-MS)〕
m/z:55, 144, 197, 198, 300, 372, 426
【0042】
〔融点〕142℃
【0043】
1H-NMR〕(CDCl3、300MHz):8.72〜8.62(m、2H)、7.83〜7,72(m、4H)、7.52〜7.41(m、4H)、7.14〜7.07(m、2H)、6.03〜5.86(m、2H)、5.59〜5.41(m、4H)
【0044】
13C-NMR〕(CDCl3、75MHz):163.6、148.9、134.5、132.0、131.8、129.3、128.3、127.2、126.5、125.9、123.5、122.0
【0045】
得られたビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドの屈折率を以下の方法により、測定した。
【0046】
ビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドは固体のため、屈折率は溶媒にモノマーを溶解させ、溶液として測定した。
【0047】
ビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィド0.21gにジメチルホルムアミド(DMF)0.61gを加えて溶解させ、26重量%DMF溶液を調製した。この溶液の屈折率(25℃)を測定すると1.4502であった。DMFの屈折率は1.4296(25℃)であるため、下記計算式によりビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドの屈折率を算出したところ、ビス(2-アクリロイルオキシ-ナフチル)スルフィドは、1.63という非常に高い屈折率を有していた。
【0048】
【数1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のビスナフタレンスルフィド系化合物は高屈折率を有することから、プラスチック材料の光学用物品、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター用保護膜、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク用コーティング剤及び接着剤、光ファイバー用コア材及びクラッド材、光ファイバー接続用接着剤、光導波路用コア材及びクラッド材、光導版材料、ホログラフィー等を利用する光記憶材料、LED封止剤等の様々な光学用物品等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基である)
で表わされる、ビスナフタレンスルフィド系化合物。
【請求項2】
式(II):
【化2】

で表される1,1'-チオビス(2-ナフトール)と、式(III):
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xはハロゲン原子、Rが水素原子の場合にはアクリルオキシ基又はRがメチル基の場合にはメタクリルオキシ基である)
で表される(メタ)アクリル化剤と、塩基の存在下、溶媒中で反応させる工程を含む、式(I):
【化4】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基である)
で表わされる、ビスナフタレンスルフィド系化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43837(P2013−43837A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180675(P2011−180675)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】