説明

ビスビナフチルアセチレン化合物、その製造方法、エレクトロルミネッセンス素子用発光材料及び蛍光顔料

【課題】新規の多環芳香族炭化水素化合物(PAH)誘導体の開発に有用な新規なビスビナフチルアセチレン化合物とその製造方法を提供する。
【解決の手段】化(1)(化(1)中、R〜R26は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子または、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基のいずれかの置換基を示し、R〜R26は互いに炭素原子を介して結合していても良い。)で示されるビスビナフチルアセチレン化合物、その製造方法及び、それを含んでなるエレクトロルミネッセンス素子用発光材料または蛍光顔料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビスビナフチルアセチレン化合物、その製造方法及び、当該ビスビナフチルアセチレン化合物のエレクトロルミネッセンス素子用発光材料や蛍光顔料などへの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
クリセン、アントラセン等の骨格を有する多環芳香族炭化水素化合物(PAH)誘導体は有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子や発光素子用の材料としての利用が注目されており、近年盛んに研究がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このようなEL素子や発光素子用の材料、あるいは蛍光顔料などへ用途展開するにあたり、当該用途に最適な構造を有した材料を取得する必要があり、その中で新規の多環芳香族炭化水素化合物(PAH)誘導体の開発に有用な化合物の合成は上記材料の候補化合物として提案できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−196970号公報
【特許文献2】特開2010−241687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記クリセンやアントラセンは安価に大型の有機ELを生産するには不向きで、これに代わる高分子材料(インク材料)が検討されている。しかしながら、高分子材料を用いると、有機ELは電子輸送層 / 発光層 / 正孔輸送層のヘテロ構造を有しているが、各層間の材料同士が溶解しやすくなってしまうという課題が存在する。
【0006】
本発明の目的は、新規の多環芳香族炭化水素化合物(PAH)誘導体の開発に有用な新規なビスビナフチルアセチレン化合物とその製造方法を提供することにあり、このような化合物の入手が可能となれば、エレクトロルミネッセンス(EL)素子用発光材料や蛍光顔料などへの用途に向けた研究開発が活発化されることが期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、新規の多環芳香族炭化水素化合物(PAH)合成に有用な中間体の創製を目指して鋭意検討した結果、本発明の2,2−ビス(ビナフチル)アセチレン誘導体を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記化(1)で示される新規な2,2−ビス(ビナフチル)アセチレン誘導体、及びその製造方法に関する。
【0009】
【化1】

【0010】
(化(1)中、R〜R26は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子または、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基のいずれかの置換基を示し、R〜R26は互いに炭素原子を介して結合していても良い。)で示されるビスビナフチルアセチレン化合物は、従来知られていない新規化合物である。
【0011】
上記化(1)で示されるビスビナフチルアセチレン化合物は分子骨格内に三重結合を有するためその反応性は高く、付加反応等で三重結合部位に容易に置換基を導入することが可能である。
【0012】
また、本発明は上記ビスビナフチルアセチレン化合物誘導体を含んでなるエレクトロルミネッセンス(EL)素子用発光材料や、ビスビナフチルアセチレン化合物誘導体を含んでなる蛍光顔料に関する。
【0013】
上記化(1)で示される本発明に係るビスビナフチルアセチレン誘導体化合物において、化(1)中のR〜R26で水素原子を除いた置換基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、フリル基、ピリジン基、ピリミジン基、ピラジン基、ピリダジン基、トリアジン基、ピロール基、ピロゾール基、イミダゾール基、1,2,3−トリアゾール基、1,2,4−トリアゾール基、チアゾール基、オキサゾール基、1,2,3−オキサジアゾール基、1,3,4−チアジアゾール基、イソベンゾフラニル基などの芳香族基が挙げられる。これらの芳香族基は、必要に応じて置換基を有していてもよい。その他の置換基としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基、N―アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、炭素数が1〜12の直鎖、分岐あるいは環状アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso―プロピル基、tert―ブチル基、n−オクチル基、シクロプロピル基など)、炭素数1〜12の直鎖あるいは分岐アルキルオキシ基(メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基など)、炭素数直1〜12の鎖あるいは分岐アルキルオキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基など)などが挙げられる。
【0014】
なおR〜R26は互いに炭素原子やヘテロ原子を介して結合していても良い。
上記化(1)で示される本発明に係るビスビナフチルアセチレン誘導体は化(2)に示すように1,1’―ビナフチル−2−トリフルオロメタンスルホン酸誘導体とビストリメチルシリルアセチレンとをパラジウム触媒下、120℃で反応させることにより容易に得ることができる。また、1,1’―ビナフチル−2−トリフルオロメタンスルホン酸誘導体はラセミ体を利用しても光学活性体を利用しても良い。
【0015】
【化2】

【0016】
また、本発明のビスビナフチルアセチレン誘導体は多環芳香族炭化水素化合物(PAH)誘導体の開発に有用な中間体であるのみならず、その構造において縮環した芳香環が三重結合で結合した共役構造を有している。そのため、本発明のビスビナフチルアセチレン誘導体の一部は蛍光特性を有している。
【0017】
すなわち、本発明に係るビスビナフチルアセチレン誘導体は蛍光材料としてエレクトロルミネッセンス(EL)素子用発光材料、特に、現在市場が求めている有機ELディスプレイ用に、期待の持たれる化合物である。
また、本発明に係るビスビナフチルアセチレン誘導体は、蛍光顔料としても大いに期待の持たれる化合物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以下の効果を奏する。
(1)本発明のビスビナフチルアセチレン誘導体は多環芳香族炭化水素化合物(PAH)誘導体の開発に有用な中間体である。
(2)本発明に係るビスビナフチルアセチレン誘導体は、有機ELディスプレイ用などの蛍光材料として期待の持たれる化合物である。
(3)本発明に係るビスビナフチルアセチレン誘導体は、蛍光顔料として期待の持たれる化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のビスビナフチルアセチレン化合物のH NMRチャートを示す図であり、X軸(横軸)はδ(単位はppm)、Y軸(縦軸)の強度は任意単位である。
【図2】本発明のビスビナフチルアセチレン化合物の13C NMRチャートを示す図であり、X軸(横軸)はδ(単位はppm)、Y軸(縦軸)の強度は任意単位である。
【図3】本発明のビスビナフチルアセチレン化合物の質量分析測定結果を示す図であり、標準ピーク(BP)265(m/z)に対し、530(m/z)を示した。図3中、上部左側が測定条件、上部右側が測定結果を示す。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、この実施例は本発明を限定するものではない。
【0021】
なお化合物の分析については下記の機器を使用して実施した。
[測定機器]
比旋光度測定は、JASCO製 DIP−370(波長589 nm、ナトリウム D線)を用いて行なった。
H−NMR測定は、JEOL製 AL−400を用いて行なった。
13C−NMR測定は、JEOL製 AL−400を用いて行なった。
質量分析は、JEOL製 MS700を使用しイオン化法をEIモードにて行なった。
赤外吸光測定は、JASCO製 FT/IR−4100を用いて行なった。
【0022】
実施例1 (-)−2,2−bis(binaphyl)acetyleneの合成
(R)−1,1’−ビナフチル −2−トリフルオロメタンスルホン酸(218mg,0.54mmol)、ビストリメチルシリルアセチレン(194μl,0.81mmol)、酢酸パラジウム(12mg,0.054mmol)、トリシクロヘキシルホスフィンテトラフルオロボレート(40mg,0.11mmol)、炭酸カリウム(149mg,1.08mmol)、炭酸銀(75mg,0.27mmol)をシュレンク管に入れアルゴン雰囲気下、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(2ml)加え、120℃で2時間還流した。室温まで冷却後、ジエチルエーテルにて抽出を行い、飽和食塩水で洗浄した。
溶媒を除去し、残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=20/1)で精製することにより黄色結晶の表記化合物39.1mg(27%)を得た。
【0023】
得られた化合物について、図1、図2及び図3に示すように、比旋光度測定、H-NMR測定、13C-NMR測定、質量分析(MS)、赤外吸光測定を実施し、以下に示す結果を得た。この結果より、得られた化合物は(−)−2,2−bis(binaphyl)acetyleneであることを確認した。
【0024】
分析結果
(比旋光度測定)
[α] 26 -276 (c 0.35, CHCl
H−NMR測定)
H−NMR (400MHz, CDCl
δ 6.65 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.16 (2H, d, J = 8.3 Hz), 7.21−7.24 (6H, m), 7.36−7.41 (4H,
m), 7.47 (2H, t, J = 7.3 Hz), 7.58 (2H, t, J = 7.3 Hz), 7.63 (2H, d, J = 8.3 Hz), 7.78 (2H,
d, J = 8.3 Hz), 7.97 (4H, d, J = 7.32 Hz)
【0025】
13C−NMR測定)
13C−NMR (100MHz, CDCl
δ 93.73, 121.40, 125.25, 125.63, 125.87, 126.21, 126.35, 126.40, 126.80, 127.37,
127.81, 127.94, 128.08, 128.35, 128.49, 132.52, 132.65, 132.72, 133.46, 136.58, 140.44
【0026】
(質量分析)
MS (relative intensity) m/z 530 (M+, 91), 265 (100),
HRMS calcd for C4226, 530.2034 found 530.2030
【0027】
(赤外吸光測定)
IR (KBr) 3053, 2916, 2849 cm−1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化(3)で示されるビスビナフチルアセチレン化合物。
【化3】

(化(3)中、R〜R26は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子または、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基のいずれかの置換基を示し、R〜R26は互いに炭素原子を介して結合していても良い。)
【請求項2】
化(3)中、R〜R26がすべて水素原子である、請求項1記載のビスビナフチルアセチレン化合物。
【請求項3】
下記の化(4)で表されるビナフチル化合物とビストリメチルシリルアセチレンとを反応させることを特徴とするビスビナフチルアセチレン化合物の製造方法。
【化4】

(化[4]中、R〜R13は水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基のいずれかの置換基を示し、R11〜R13は互いに同じでも異なっていてもよく、化[4]中のXはハロゲン原子またはトリフルオロメタンスルホニル基を示す。)
【請求項4】
請求項1または請求項2記載のビスビナフチルアセチレン化合物を含んでなるエレクトロルミネッセンス素子用発光材料。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載のビスビナフチルアセチレン化合物を含んでなる蛍光顔料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−176924(P2012−176924A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41938(P2011−41938)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(301005614)東ソー・ファインケム株式会社 (38)
【Fターム(参考)】