説明

ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒及び、それを用いたビスフェノール化合物の製造方法

【課題】高収率、高選択性で工業的にビスフェノール化合物を製造可能な、ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒、及びビスフェノール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有するスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂からなるビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒であって、該強酸性イオン交換樹脂触媒が以下を満足することを特徴とするビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒。1)該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂が球状のゲル型である2)該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量が、乾燥状態で0.5meq/g以上4.0meq/g以下である3)該強酸性イオン交換樹脂触媒の、イオン交換樹脂の中心における硫黄原子存在量Aに対する樹脂表面から半径40%の間の硫黄原子存在量の最大値Bの比B/Aが、5以上である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒に関する。詳しくは特定の量のスルホン酸基を含有し、かつそのスルホン酸基が樹脂の中心付近に比べ、外表面付近に多く存在しているビスフェノール類製造用強酸性イオン交換樹脂触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノール化合物は、一般に、酸性触媒存在下、芳香族ヒドロキシ化合物とカルボニル化合物との縮合反応により製造される。酸性触媒としては、塩酸や硫酸のような鉱酸、ヘテロポリ酸のような固体酸なども使用されているが、触媒による装置の腐食や反応活性、触媒のコストなどの点から、工業的にはスルホン酸基のような酸性基を有する陽イオン交換樹脂が汎用されている。また、転化率や選択率等の向上を目的として、チオール基或いは保護されたチオール基を含有する化合物(以下「チオール化合物」と略記することがある)を触媒と共存させて反応させることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ポリマー粒子が部分的に、殻層のみがスルホン化された樹脂のスルホン酸基の一部をメルカプトエチルアミンで変性したイオン交換樹脂を触媒として使用し、ビスフェノール化合物を製造した例が記載されており、該イオン交換樹脂を触媒として使用することにより、触媒活性を維持しながら変性剤の使用量を減少させることができ、更に、触媒の単位スルホン酸基当りで見た触媒活性(ターンオーバー数、以下TONと略記することがある)が、イオン交換樹脂の中心まで完全にスルホン化された樹脂に比べて高いことが示されている。また特許文献1には、十分に高い触媒活性を達成するためにはマクロレティキュラースチレン−ジビニルベンゼン共重合体を原料として使用し、最適な架橋度は約10%に相当する旨記載があるが、スルホン酸基の量や樹脂内の分布と触媒活性との関係については、なんら検討されていない。
【0004】
また、非特許文献1には、架橋度8%のスチレンージビニルベンゼン共重合体粒子を部分的にスルホン化したイオン交換樹脂を用い、チオール化合物としてエチルメルカプタンを共存させてビスフェノール化合物を製造した例が記載されており、樹脂の表面近傍のみをスルホン化したイオン交換樹脂に比べ、イオン交換樹脂の内部までスルホン酸基を分散させたイオン交換樹脂のほうが高活性を示すことが示されているが、スルホン酸基量及び樹脂内のスルホン酸基の分布とビスフェノール化合物の選択率との関係については、なんら検討されていない。
【0005】
また、非特許文献2には架橋度2%、8%、及び12%のスチレンージビニルベンゼン共重合体粒子を部分的にスルホン化したイオン交換樹脂を用い、チオール化合物としてエチルメルカプタンを共存させてビスフェノール化合物を製造した例が記載されており、スルホン酸基の量が多い樹脂ほど、単位重量当りの触媒活性が向上することが示されているが、樹脂内のスルホン酸基の分布とビスフェノール化合物の選択率との関係については、なんら検討されていない。
【0006】
工業的にビスフェノール化合物を製造する場合、原料原単位改善の観点から収率の向上が求められているが、上記何れの場合も収率及び選択率が依然として市場の要求を十分に満足させるには到っておらず、副生成物の異性化反応器の導入などプロセス上の対応で原料原単位の改善を図っているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】チェコスロバキア社会主義連邦共和国 特許179824号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Polym. Sci., Polym. Chem., 18, 1980, 65-67.
【非特許文献2】Collect. Czech. Chem. Commun., 44, 1979, 2612-2618.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高収率、高選択性で工業的にビスフェノール化合物を製造可能な、ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒、及びビスフェノール化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を進めた結果、スルホン酸基を有するスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂からなるビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒であって、該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂が球状のゲル型であり、該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量が、乾燥状態で0.5meq/g以上4.0meq/g以下であり、該強酸性イオン交換樹脂触媒の、イオン交換樹脂の中心における硫黄原子存在量Aに対する樹脂表面から半径40%の間の硫黄原子存在量の最大値Bの比B/Aが、5以上であるビスフェノール類製造用強酸性イオン交換樹脂触媒をビスフェノール化合物の生成反応に使用すると、従来の触媒では不十分であった選択性・収率を向上させることができることを見いだし、本発明の完成に到った。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、スルホン酸基を有するスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂からなるビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒であって、該強酸性イオン交換樹脂触媒が以下を満足することを特徴とするビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒、に存する。
1))該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂が球状のゲル型である
2)該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量が、乾燥状態で0.5meq/g以上4.0meq/g以下である
3)該強酸性イオン交換樹脂触媒の、イオン交換樹脂の中心における硫黄原子存在量Aに対する樹脂表面から半径40%の間の硫黄原子存在量の最大値Bの比B/Aが、5以上である
【発明の効果】
【0012】
本発明で開示された触媒をビスフェノール類の製造に用いることにより、高い選択性・収率を保ちながら、高いターンオーバー数(TON)で効率的にビスフェノール類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、深さ方向の硫黄原子分布を測定した結果の図である。
【図2】従来のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、深さ方向の硫黄原子分布を測定した結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒に使用されるイオン交
換樹脂は、スチレンとジビニルベンゼンを両方含む重合成モノマーに、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や過酸化ベンゾイル(BPO)などのラジカル重合開始剤を混合して懸濁重合することにより得られる三次元構造を有する透明な球状のスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂を、膨潤剤の不存在下または存在下にスルホン化剤を用いスルホン化することにより製造される。このように、スチレンとジビニルベンゼンとを重合開始剤の共存下に共重合させることにより得られる三次元構造を有する透明なスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂を、スルホン化してイオン交換樹脂とすることにより、一般にゲル型と呼ばれるイオン交換樹脂を得ることが出来る。
【0015】
ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒に用いるイオン交換樹脂について、架橋度2〜20%程度のゲル型またはポーラス型のイオン交換樹脂を使用できることが一般に知られている。しかし、本発明に使用されるイオン交換樹脂はポーラス型ではなく、ゲル型のイオン交換樹脂である。これは、ポーラス型のイオン交換樹脂はその内部に細孔を有するため、スルホン化を行う際にスルホン化が樹脂の細孔内部でも進行し、後述するようなスルホン酸基がイオン交換樹脂の中心付近に比べ外表面付近に多く存在しているという本願規定のイオン交換樹脂触媒を製造するのが困難であり、本発明の効果を得ることができないためである。
【0016】
また、ポーラス型のイオン交換樹脂を製造するために使用されるスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂を使用して本発明の特徴を満足するようにスルホン化を行おうとすると、破砕しやすいことも判明した。ここでポーラス型のイオン交換樹脂を製造するために使用されるスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂とは、スチレンとジビニルベンゼンとを重合開始剤及び有機溶媒や線状ポリスチレンなどの第三成分の共存下に共重合させることにより得られる三次元網目構造を持つ多孔性の共重合体のことであり、スチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂が多数のマクロポア(細孔)を有するため、その比表面積がゲル型のイオン交換樹脂を製造するために使用されるスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂よりもはるかに大きいものである。
【0017】
このように強度の面からも、ゲル型のイオン交換樹脂を製造するために使用されるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を用いてスルホン化を行い、ゲル型のイオン交換樹脂とすることが、本発明において必須となる。
また、本発明では使用するゲル型のスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂は球状である。ここでいう球状とは、幾何学的な真球状のみを意味しているのではなく、楕円体でもよいが、真球状に近いものがより好ましい。楕円体である場合は、互いに直交する3つの径のうち、もっとも長い径(長軸径)ともっとも短い径(短軸径)の比が2以下のモノが好ましく、1.3以下のものが更に好ましい。このようなスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂は、スチレンとジビニルベンゼンとにラジカル重合開始剤を用いて共重合反応を行う、公知の技術に基づいて得ることができる。 ラジカル重合開始剤としては、例えば
過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。ラジカル重合開始剤は、全モノマー重量に対して、通常0.05重量%以上、5重量%以下で用いられる。重合様式は、特に限定されるものではないが、均一な球状の共重合樹脂が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合樹脂の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。なお、共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する場合がある。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる場合がある。また、重合雰囲気は、空気雰囲気下もしくは不活性ガス雰囲気下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。なお、
均一粒径の架橋共重合体を得る公知の方法も好適に使用でき、例えば、特開2002−35560号公報、特開2001−294602号公報、特開昭57−102905号公報の方法が好適に使用できる。
【0018】
本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒において、該強酸性イオン交換樹脂触媒のイオン交換樹脂の架橋度は2%以上が好ましく、4%以上が更に好ましく、一方7%以下が好ましく、6%以下が更に好ましい。ここで言う架橋度とは、重合に供する原料モノマー中のジビニルベンゼンの濃度をいい、当該分野において使われている定義と同様である。架橋度が小さすぎると、得られるイオン交換樹脂の強度を保つことが困難となり、ビスフェノール化合物製造用触媒として反応に供するに際し、例えば水中のイオン交換樹脂を使用前にフェノールやフェノールと水との混合溶媒等に接触させた時の膨潤収縮により、イオン交換樹脂の破砕等が生じるため好ましくない。一方、大きすぎると、樹脂粒子内の拡散抵抗のため触媒活性の著しい低下を生じるため好ましくない。
【0019】
本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒に使用するイオン交換樹脂のサイズは、平均径が通常は0.2mm以上、好ましくは0.4mm以上、一方、通常は2.0mm以下、好ましくは1.5mm以下である。平均径が大きすぎると、反応活性が低下する傾向にあり、小さすぎると反応器での反応液の流通の際、圧力損失が大きくなる傾向があるため好ましくない。
【0020】
また、均一係数は通常は1.6以下、好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下であり、一方、通常は1.0以上である。均一係数がかかる範囲内であると反応活性が向上すると共に、通液時の圧力損失が緩和される点で好ましい。均一係数は小さい程望ましく、大きすぎると反応活性が低下する傾向となる。なお、本明細書でいう平均径及び均一係数は、ダイヤイオン、イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1(三菱化学株式会社刊、改訂4版、平成19年10月31日発行、140〜142頁 参照)に記載の方法で
得られる値で定義される。
【0021】
本発明において、スチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂を膨潤剤の不存在下にスルホン化する方法では、スルホン化剤として濃硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄ガスまたはクロロスルホン酸などを用いることができ、この際の反応温度は、通常0〜120℃程度で、使用するスルホン化剤に応じて適宜選択することができる。スルホン化によって導入されるスルホン酸基の量のコントロールは、反応温度及び反応時間を調整することにより可能であるが、濃硫酸を用いた場合にこれらを最も調整しやすいので、好ましく用いられる。
【0022】
一方、膨潤剤の存在下スルホン化する方法では、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、クロロベンゼンo−ジクロロベンゼン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、プロピレンジクロライド等の有機溶媒が膨潤剤として使用可能である。また、スルホン化剤としては、濃硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄ガスまたはクロロスルホン酸などを用いることができ、この際の反応温度は通常−20〜120℃程度で、使用するスルホン化剤及び膨潤剤に応じて適宜選択することができる。スルホン化によって導入されるスルホン酸基の量のコントロールは、添加するスルホン化剤の量、反応温度及び反応時間を調整することにより可能であるが、スルホン化剤の量を調整する方法が簡便で好ましい。
膨潤剤の不存在下に濃硫酸を用いてスルホン化する方法が、スルホン化によって導入されるスルホン酸基の量のコントロールが容易であり、かつ膨潤剤を使用しないため廃棄物の削減にもつながり好ましい。
【0023】
スルホン化された共重合樹脂は、常法に従って洗浄等を行い、洗浄液から分離することによって強酸性イオン交換樹脂を得ることが出来る。得られるイオン交換樹脂のスルホン
酸基の量は、乾燥状態で0.5meq/g以上であり、好ましくは1.0meq/g以上、より好ましくは1.2meq/g以上、であり、一方乾燥状態で4.0meq/g以下であり、好ましくは3.8meq/g以下、より好ましくは3.5meq/g以下である。スルホン酸基の量が乾燥状態で0.5meq/g以上であると触媒としての活性が十分であり好ましい。また、スルホン酸基の量が乾燥状態で4.0meq/g以下であると、4,4‘−ビスフェノールA(以下、4,4’−体と略記することがある)の選択率が十分に高く好ましい。ここで4,4‘−体の選択率とは、4,4’−体と2,4‘−ビスフェノールA(以下2,4’−体と略記することがある)の比(4,4‘−体/2,4’−体比)のことを表す。
【0024】
また、本発明に使用される強酸性イオン交換樹脂触媒の、イオン交換樹脂の中心における硫黄原子存在量Aに対する樹脂表面から半径40%の間の硫黄原子存在量の最大値Bの比B/Aは、5以上である。この硫黄原子存在量は、イオン交換樹脂のスルホン酸基が含有する硫黄原子に基づく値である。B/Aが大きいということは、イオン交換樹脂の中心部に比べて外周部にスルホン酸基が局在化している。すなわち、イオン交換樹脂がスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂の主に外周部をスルホン化して得られたものであることを意味する。
【0025】
B/Aは好ましくは8以上、更に好ましくは20以上、特に好ましくは50以上であり、大きいほど好ましい。B/Aが5以上であると4,4‘−体の選択率が高くなる、即ち、4,4’−体/2,4‘−体比が大きくなる。これは、イオン交換樹脂の内部にスルホン酸基が存在すると、イオン交換樹脂内部で副反応が起こるためであると考えられる。
硫黄原子存在量の測定方法については妥当な分析方法であれば特に制限はなく、例えば、電子線マイクロアナライザ(以下EPMAと略記することがある)、X線光電子分光(XPS)、顕微赤外等の装置を用いて測定することができる。中でもEPMAによる測定が簡便で正確に測定できる方法であり好ましい。EPMAを用いた測定方法は、前処理として測定試料の測定面にAuを蒸着させ、該測定試料に細く絞った電子線を照射し、電子が表面の原子と衝突する際に発生する特性X線を分光分析して、表面微小領域における原子の種類の同定、濃度を測定する方法であり、各原子の存在量は、ピーク強度から相対的に表現される。
【0026】
本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により深さ方向の硫黄原子分布を測定した図の代表的なものを、図1に示した。一方、図2は従来のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により深さ方向の硫黄原子分布を測定した図である。
【0027】
本発明の強酸性イオン交換樹脂触媒において、フェノール膨潤度Cに対する水膨潤度Dの比D/Cは好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.6以上であり、一方、好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下、特に好ましくは1.0以下である。ここで、フェノール膨潤度とは乾燥状態の強酸性イオン交換樹脂触媒をフェノールで膨潤させた際の、単位乾燥触媒重量当りのフェノール膨潤状態における触媒体積のことをいい、、水膨潤度とは乾燥状態の強酸性イオン交換樹脂触媒を水で膨潤させた際の、単位乾燥触媒重量当りの水膨潤状態における触媒体積のことをいう。フェノール膨潤度Cに対する水膨潤度Dの比D/Cが1.2を超えると、水によって膨潤状態となっているイオン交換樹脂にフェノールを接触させた場合、大きく収縮して反応器内に空間部が出来るため、偏流や対流が起こりやすくなる。反応器内で偏流や対流が起こると十分な触媒性能が得られないため、好ましくない。また、水で膨潤させた強酸性イオン交換樹脂触媒を反応器に充填する場合、反応時に必要な触媒体積に対して、充填時に必要な触媒体積が大きくなるので反応器を大きくする必要があり、経済的にも好ましくない。一方、
フェノール膨潤度Cに対する水膨潤度Dの比D/Cが0.3未満では水によって湿潤状態のイオン交換樹脂にフェノールを接触させた時に大きく膨潤し、イオン交換樹脂が破砕してしまう場合があり好ましくない。
【0028】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、前記ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒の存在下、フェノール化合物とカルボニル化合物とを反応させることによりビスフェノール化合物の製造を行う。
ビスフェノール化合物は、フェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応により製造される。フェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応では、フェノール性水酸基の強いオルト‐パラ配向性、特にパラ配向性を利用するものと解されるところより、使用するフェノール化合物はオルト位又はパラ位に置換基のないものが好ましい。中でも、縮合反応生成物であるビスフェノール化合物は、その用途の点から4,4′−ビスフェノール化合物が一般的に好ましく、この点からパラ位に置換基のないフェノール化合物が好ましい。このような原料を用いることにより、4,4‘−ビスフェノール化合物の選択性が高いという本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒の特徴を、十分に発揮させることが可能となる。
【0029】
フェノール化合物が置換基を有する場合、置換基はフェノール性水酸基のオルト‐パラ配向性を阻害せず、又、カルボニル化合物の縮合位置に対して立体障害を及ぼさない限り、得られるビスフェノール化合物の用途や物性に応じて任意のものでありうる。典型的な置換基としては、例えば炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられる。又、該置換基の代わりに、弗素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子が置換したフェノール化合物についても、同様の置換位置の化合物を使用することができる。置換基の数は1つでも複数でもよい。そして、そのようなフェノール化合物としては、具体的には、例えば、フェノール(無置換のフェノール)、o−クレゾール、m−クレゾール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール等が挙げられる。これらの中ではフェノールが特に好ましい。
【0030】
カルボニル化合物としては特に制限はないが、具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等の炭素数3〜10程度のケトン類、及び、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等の炭素数1〜6程度のアルデヒド類が挙げられる。これらの中では、アセトンが好ましい。フェノール化合物としてフェノールを使用し、カルボニル化合物としてアセトンを使用した場合、ポリカーボネート樹脂等の原料として有用なビスフェノールAを得ることができるので、特に好ましい。
【0031】
縮合反応の原料として用いるフェノール化合物とカルボニル化合物のモル比は、カルボニル化合物1モルに対してフェノール化合物が通常2モル以上、好ましくは4モル以上であり、通常40モル以下、好ましくは30モル以下とする。フェノール化合物の使用量が少なすぎると、副生物が増加する傾向があり、一方、多すぎてもその効果に殆ど変化はなく、むしろ回収、再使用するフェノール化合物の量が増大するため経済的でなくなる傾向がある。
【0032】
フェノール化合物とカルボニル化合物とをビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒存在下に反応させてビスフェノール化合物を製造する際に、収率や選択率の向上を目的として、メルカプト基或いは保護されたメルカプト基を含有する化合物(以下、メルカプト化合物と言うことがある)を共存させて反応を行うことが知られている。メルカプト化合物を共存させる方法としては、原料であるフェノール化合物とカルボニル化合
物とともにメルカプト化合物を反応系に供給する方法、事前にビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒のスルホン酸基にメルカプト化合物を結合させたものを用いて反応させる方法、これらの方法を同時に行う方法等がある。メルカプト化合物で変性したイオン交換樹脂をビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒として用いる方法は、メルカプト化合物が反応生成物中に混入しない為これを回収する必要がないこと、触媒調製が容易であること等の点から、メルカプト化合物を反応原料と共に連続的に酸性触媒に供給する方法よりも優れている。
【0033】
イオン交換樹脂を変性する方法としては特に限定されず、代表的な方法としては、メルカプト基或いは保護されたメルカプト基を含有し、且つイオン交換樹脂のスルホン酸基とイオン結合し得るような官能基を含有するメルカプト化合物を、水性溶媒もしくは有機溶媒中でイオン交換樹脂と反応させて、イオン交換樹脂のスルホン酸基にイオン結合させる方法が挙げられる。具体的には、水、アルコール、ケトン、エーテル、フェノール等の適当な溶媒に当該メルカプト化合物を溶解させた溶液、もしくは溶媒により希釈されていないメルカプト化合物を直接、溶媒中に分散させたイオン交換樹脂に滴下などにより混合し、攪拌する方法、等が挙げられる。この方法により、酸性イオン交換樹脂のスルホン酸基の一部とメルカプト基或いはメルカプト化合物とが反応することにより中和され、イオン結合し、変性されることとなる。
【0034】
変性に使用されるメルカプト化合物は特に限定されるものではなく、イオン交換樹脂のスルホン酸基とイオン結合を形成する化合物であればよい。このようなメルカプト化合物としては、例えば2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−メルカプトプロピルアミン等のメルカプトアルキルアミン類;3−メルカプトメチルピリジン、2−(2−メルカプトエチル)ピリジン、3−(2−メルカプトエチル)ピリジン、4−(2−メルカプトエチル)ピリジン等のメルカプトアルキルピリジン類及び、これらのメルカプト基が保護された誘導体;チアゾリジン、2,2−ジメチルチアゾリジン、2−メチル−2−フェニルチアゾリジン、3−メチルチアゾリジン等のチアゾリジン類等が挙げられる。
【0035】
メルカプト基の保護基としては、メルカプト基が含有する硫黄原子を保護することが可能な基であれば特に限定されず、例えば「Green's Protective Groups in Organic Synthesis, Fourth Edition, Wiley(2007)」に記載されている保護基及び保護する方法を用い
ることで保護が可能である。具体的な例としては、tert−ブチル基のような安定なカルボカチオンを生じる脂肪族保護基で保護したチオエーテル体、アセチル基のようなアシル保護基で保護したチオエステル体、カーボネート保護基で保護したチオカーボネート体、ベンジル保護基で保護したベンジルチオエーテル体、ケトンやアルデヒドで保護したジチオアセタール体等が挙げられる。
【0036】
尚、イオン交換樹脂をメルカプト化合物により変性する割合は、イオン交換樹脂の全スルホン酸基の3モル%以上とするのが好ましく、5モル%以上とするのがより好ましい。また70モル%以下とするのが好ましく、50モル%以下とするのが更に好ましく、30%以下とするとより好ましい。これにより、縮合反応に必要なスルホン酸基の量の低下による活性低下を引き起こすことなく、メルカプト化合物が助触媒として働く効果を最大限に発現させることができる。メルカプト化合物がスルホン酸基に結合している割合が小さすぎる場合は反応性の向上効果が低くなる傾向にあり、触媒としての活性や寿命が不十分となる傾向にある。また変性する割合が大きすぎる場合は、反応に関与するスルホン酸基の量が少なくなるので、反応性が低下する傾向がある。また、高価なメルカプト化合物を多く使用することになるので、経済的にも好ましくない。
【0037】
本発明の製造方法では、フェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応を行うに際
し、製造量や装置の制約等に応じて、連続法、半連続法、及びバッチ法等を任意に選択することが可能であり、反応器は単独でもよく、複数の反応器を並列、或いは直列に接続して製造する方法や、これらの方法や反応器を組み合わせて製造することも可能である。これらの製造方法は単独の反応方法でもよく、別の方法としては、例えば複数の反応器を用いて連続法とバッチ法を並列で行う等の方法も選択可能である。フェノール化合物とカルボニル化合物は別々に反応器に供給してもよく、混合して供給してもよい。また、カルボニル化合物を反応開始時に一度に反応に供してもよく、複数回に分割して反応に供してもよい。例えば、複数の反応器を直列に接続して製造する場合には、カルボニル化合物を各反応器に任意の割合で分割して供することができる。反応装置も加熱装置を有する反応器や断熱反応器等、必要に応じて種々の装置を用いることが可能である。本願発明の製造方法においては、反応効率や運転の容易さから、連続法が好ましい。連続法としては、本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒を充填した反応器にフェノール化合物とカルボニル化合物とを連続的に供給して反応を行う方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、固定床流通方式、流動床方式、及び連続撹拌方式のいずれでもよいが、ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒を固定床とし、フェノール化合物とカルボニル化合物とを連続的に供給、流通させる、固定床流通方式が好ましい。
【0038】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法において、固定床流通方式、流動床方式、及び連続撹拌方式で縮合反応を行う場合には、原料であるフェノール化合物とカルボニル化合物との供給は、フェノール化合物湿潤状態のスルホン酸型強陽イオン交換樹脂を基準として、フェノール化合物とカルボニル化合物との合計が通常LHSV0.05hr-1以上、好ましくは0.2hr-1以上で行なう。また通常20hr-1以下、好ましくは10hr-1以下で行う。特に固定床流通方式で反応を行う場合、必要に応じて装置の上部及び/又は下部にスクリーンなどを設けて、充填したビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒が装置外に流出せずに反応液だけが流通できるようにしてもよい。原料は反応装置の上部から下部に流しても(ダウンフロー式)、装置の下部から上部に流しても(アップフロー式)もよい。固定床流通方式の場合、アップフローでは触媒の流動化やそれに伴う触媒の流出が、ダウンフローでは差圧が生じやすい等の問題点が知られているので、これらの問題点も勘案した上で都度適切な方法を選択すればよい。
【0039】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法における反応温度は、通常、反応溶液が固化せずに液状で存在しうる温度で行なわれ、フェノール化合物がフェノールの場合は40℃以上、好ましくは60℃以上である。反応温度が高いほど反応速度的には有利であるが、イオン交換樹脂の耐熱温度の点から反応器内の最高温度が120℃以下、特に100℃以下となるような条件で反応させるのが好ましい。反応温度が高くなるとイオン交換樹脂の耐熱温度以下でも部分的に分解などによりスルホン酸基の脱離などがおこるので、このような観点からは、できるだけ低い温度が好ま
しいが、温度が低すぎると生成したビスフェノール化合物が固化する場合がある。
【0040】
本発明のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒をフェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応に供する際は、イオン交換樹脂内に水分が残留していると反応の阻害要因となるため、反応に使用する前に原料であるフェノール化合物と接触させることによりイオン交換樹脂内の水分を除去しておくのが好ましい。このような処理により、反応開始時の誘導期間が短くなり、速やかに反応に使用できるようになる。
【0041】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法に使用するフェノール化合物(後述の、ビスフェノール化合物製造プロセス内で回収・使用される以外のフェノール化合物)は、純度が高いものであればそのまま使用することもできるが、精製した後に使用するのが好ましい。フェノール化合物の精製方法としては特に制限はないが、例えばフェノール化合物を
40〜110℃で一般的なスルホン酸型陽イオン交換樹脂のような酸性触媒と接触させ、フェノール化合物中に含まれる不純物を重質化させた後に蒸留して重質分を除去する方法などが挙げられる。このようにして得られるフェノール化合物は、反応器へ供給することにより反応原料として使用される。
【0042】
また、本発明のビスフェノール化合物の製造方法に使用するフェノール化合物としては、ビスフェノール化合物の製造工程で回収されたものをリサイクルして使用することも可能である。リサイクルされるフェノール化合物の例としては、反応生成液から目的とするビスフェノール化合物を分離したフェノール溶液を挙げることができる。具体的には、ビスフェノール化合物を晶析などによって固化し、固液分離工程にて固液分離する方法によってビスフェノール化合物を分離した場合に得られる、一般的に「母液」と呼ばれているフェノール溶液や、その他にも蒸留などによって分離されたフェノール溶液等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、上記の如く精製されたフェノール化合物は、固液分離工程で得られた結晶の洗浄液として使用し、母液と共に反応器へリサイクルする等、プロセスに応じて所望の方法で使用することもできる。
【0043】
その際に全量もしくは一部を分離して、酸やアルカリの触媒で処理をした後に重質分などの不純物を除去したり、更にビスフェノール化合物を回収した後に縮合反応の原料として用いることが好ましい。プロセス内で回収されたフェノール化合物をリサイクルして固液分離工程で得られた結晶の洗浄液として使用する際は、精製した後、使用するのが好ましい。
尚、実験室などの小さなスケールでは、原料として用いるフェノール化合物として精製した高純度のフェノール化合物なども用いられるが、工業レベルのスケールでは、通常、プロセス内で回収されたフェノール化合物をリサイクルさせて使用するのが経済的にも有利である。
【0044】
上記方法により製造された反応液中には目的とするビスフェノール化合物と共に、大過剰のフェノール化合物、未反応のカルボニル化合物、縮合反応時に生成した不純物等が含まれているので、これらの溶液の中から目的とするビスフェノール化合物を取り出す必要がある。反応液から目的物質であるビスフェノール化合物を分離精製する方法は特に制限はなく、公知の方法に準じて行なわれるが、目的物質が、ビスフェノールAの場合を例として、分離精製方法の代表例を以下に説明する。
【0045】
上記縮合反応に引き続いて、低沸点成分分離工程において、縮合反応で得られた反応液をビスフェノールAとフェノールとを含む成分と、反応で副生する水、未反応アセトン等を含む低沸点成分とに分離する。低沸点成分分離工程は、減圧下に蒸留によって低沸点成分を分離する方法で行なわれるのが好ましく、低沸点成分にはフェノール等が含まれていてもよい。ビスフェノールAとフェノールとを含む成分は、必要に応じて、さらに蒸留等によってフェノールを除去したり、フェノールを追加することによって、ビスフェノールAの濃度を所望の濃度に調整することができる。
【0046】
続いて、晶析工程においてビスフェノールAとフェノールとの付加物の結晶を含有するスラリーを得る。晶析工程に供するビスフェノールAとフェノールとを含む成分のビスフェノールAの濃度は、得られるスラリーの取り扱いの容易さ等から、10〜30%が好ましい。また晶析方法の例としては、ビスフェノールAとフェノールとを含む成分を直接冷却させる方法、水等の他の溶媒を混合し、当該溶媒を蒸発させることによって冷却を行なう方法、さらにフェノールを除去して濃縮を行なう方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられ、所望の純度の付加物を得るために1回もしくは2回以上晶析を行ってもよい。当該晶析工程で得られたスラリーは、固液分離工程において減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等により付加物の結晶と母液とに固液分離され、ビスフェノールAとフェノールと
の付加物の結晶が回収される。当該晶析工程で、ビスフェノールAの結晶を晶析によって直接得ることもできる。
【0047】
当該固液分離工程で得られた付加物の結晶を、続く脱フェノール工程において、溶融後にフラッシュ蒸留、薄膜蒸留、スチームストリッピング等の手段によってフェノールを除去することにより、高純度の溶融ビスフェノールAを得る。除去されたフェノールは所望により精製され、反応や上記固液分離工程で得られた付加物の結晶の洗浄等に供することができる。得られた高純度の溶融ビスフェノールAは、造粒工程において固化されるが、ノズルから噴射させ、冷却ガスと接触させることにより小球状のビスフェノールAプリルを得る方法が簡便で好ましい。尚、脱フェノール工程を経ることなく、固液分離工程で得られた付加物の結晶から、再度、晶析を行いビスフェノールAのみを晶析により得ることもできる。
【0048】
また、系内の不純物の蓄積を防止する目的で、固液分離工程で分離された母液の少なくとも一部を不純物処理工程において処理することもできる。例えば、アルカリ又は酸を混合して加熱処理した後に蒸留して軽質分と重質分とに分離し、軽質分を酸触媒等により再結合反応処理して反応に使用するのが経済性の点でも好ましい。ここで重質分を系外にパージすることにより不純物の蓄積を防止し、製品の純度を向上させることができる。また、母液の少なくとも一部を酸触媒によって異性化した後、晶析を行なうことによってビスフェノールAの回収率の向上を図ることもできる。
低沸点成分分離工程で得られた低沸点成分は、アセトン循環工程によって未反応アセトンを分離回収し、回収されたアセトンを反応工程に循環させることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を詳細に示すが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
なお、各種の分析及び計算は、以下の通りに行った。
<分析及び計算>
1)含水率
強酸性イオン交換樹脂の表面に付着した水分を拭き取った湿潤状態の樹脂Ww(g)を恒温減圧乾燥機(105℃、1kPa以下)で6時間乾燥させ、更にデシケーター中で30分放冷した後、得られた乾燥強酸性イオン交換樹脂の質量Wd(g)を測定し、下記の式を用いて含水率を算出した。
【0050】
含水率(%)=(Ww−Wd)/Ww×100
2)強酸性イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量(交換容量)
洗浄したフラスコに、湿潤状態の強酸性イオン交換樹脂0.50gと塩化ナトリウム0.25g、脱塩水20mLを秤量し、室温で約30分攪拌した後、メチルレッド−メチレ
ンブルー混合指示薬(和光純薬社製)を用いて0.1N水酸化ナトリウム水溶液(力値:f)で滴定し、滴定に要した滴下量(A ml)から以下の式を用いて湿潤状態の強酸性イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量(湿潤状態の交換容量:meq/g−wet)を算出した。
【0051】
湿潤状態の交換容量(meq/g−wet)=A×0.1xf/W
また、乾燥状態の強酸性イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量(乾燥状態の交換容量:meq/g−dry)を以下の式を用いて算出した。
乾燥状態の交換容量(meq/g−dry)=湿潤状態の交換容量(meq/g−wet)×100/(100−含水率(%))
【0052】
3)フェノール膨潤度に対する水膨潤度の比(D/C)
約1gの乾燥強酸性イオン交換樹脂W1(g)と溶融したフェノール約7mLとを10
mLのメスシリンダーへ入れて50℃で5時間静置した後、メスシリンダーの底部を軽く
たたいて体積が減少しなくなったところでの体積V1(mL)を読み取り、これらの値から下記式に従ってフェノール膨潤度Cを算出した。
【0053】
フェノール膨潤度C(mL/g−乾燥樹脂)=V1/W1
約1gの乾燥強酸性イオン交換樹脂W2(g)と脱塩水約7mLとを10mLのメスシリンダーへ入れて室温で5時間静置した後、メスシリンダーの底部を軽くたたいて体積が減少しなくなったところでの体積V2(mL)を読み取り、これらの値から下記式に従って水膨純度Dを算出した。
【0054】
水膨純度D(mL/g−乾燥樹脂)=V2/W2
上記方法により求めたC及びDの値を用いて、フェノール膨潤度Cに対する水膨潤度Dの比D/Cを求めた。
4)硫黄原子存在量の比(B/A)
乾燥イオン交換樹脂をミクロトーム(ライカ社製、ウルトラミクロトームUCT)を用いて半球状に切断した。切断面をイオンスパッタ装置(日立製作所社製、E101)を用いてAu蒸着を3分間行い、測定用サンプルとした。
【0055】
作成した測定用サンプルを用いて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により強酸性イオン交換樹脂内の硫黄原子分布を測定し、球状樹脂の中心における硫黄原子存在量をA、樹脂表面から半径40%の間の硫黄原子存在量の最大値をBとして、その比(B/A)を求めた。
測定条件を以下に記す。
機種名:日本電子社製 JXA−8100
前処理:ミクロトーム断面切削、Au蒸着
電子銃:Wエミッター、加速電圧10kV、照射電流20nA
線分析:分析長650〜750μm(ステージ走査)、収集間隔5μm、分析面積:5μmφ、収集時間:1000msec/point
【0056】
5)変性率
変性率は、変性に使用した湿潤状態の強酸性イオン交換樹脂の量、添加した助触媒の量及び滴定によって求めた強酸性イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量から、下式に従って求めた。
【0057】
変性率(%)=[(添加した助触媒のモル数(ミリモル))/{(強酸性イオン交換樹脂
全体のスルホン酸基の量(meq/g−湿潤状態)×変性に使用した強酸性イオン交換樹脂の重量(g−湿潤状態))}]×100
【0058】
6)ガスクロマトグラフィー
反応によって得られたサンプルは、ガスクロマトグラフィーの分析によって、4,4’-ビスフェノールA及び2,4’-ビスフェノールAの定量を行った。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通り。
装置:島津製作所製 GC−2014
カラム:アジレントテクノロジー製「HP−Ultra2、25m×0. 32mm×0. 52μm」
検出器:FID
キャリアーガス:ヘリウム
得られた分析結果を用いて、以下の計算式より4,4’−ビスフェノールA収率、ターンオーバー数(TON)、4,4’−ビスフェノールAと2,4’−ビスフェノールAの
生成比(4,4’−体/2,4’−体比)を求めた。
4,4’−ビスフェノールA収率(%)=〔(生成した4,4’−ビスフェノールAのモル数(ミリモル))/(反応に用いたアセトンのモル数(ミリモル))〕×100
TON(ターンオーバー数)=〔生成した4,4’−ビスフェノールAのモル数(ミリモル)〕/〔(イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量(meq/g−湿潤状態))×(使用触媒量(g−湿潤状態))〕
4,4’−体/2,4’−体比 =〔(生成した4,4’−ビスフェノールAのモル数(ミリモル))/(生成した2,4’−ビスフェノールAのモル数(ミリモル))〕
【実施例1】
【0059】
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
窒素雰囲気下、モーター攪拌器、ジムロート冷却器および温度計を付した300mLの四口フラスコに、乾燥したスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂(三菱化学社製、架橋度4%、ゲル型)30.0g、95%硫酸100mLを加え、105℃で11時間攪拌し、スルホン化を行った。
この後、残留硫酸を脱塩水で徐々に希釈し、得られた樹脂をろ過した後、洗浄液が中性になるまで脱塩水を用いて樹脂を洗浄し、目的とする強酸性イオン交換樹脂を得た。
得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表1に示す。
【0060】
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製(助触媒による変性)>
窒素ガス導入管を備えた100mLの四つ口フラスコ中に、前記で製造した強酸性イオン交換樹脂5.08g−湿潤状態(0.52meq/g−湿潤状態)、及び60℃の脱塩水約20mLを入れ、強酸性イオン交換樹脂を洗浄し、洗浄液をデカンテーションにより廃棄した。60℃の脱塩水約20mlでの洗浄を3回繰り返し、洗浄液を廃棄した後、脱塩水約20mLを加えて、フラスコ内を窒素で置換した。そこへ、助触媒として2−(4−ピリジル)エタンチオール0.057g(0.41ミリモル)を攪拌下に一度に加え、更に2時間、室温下で攪拌して変性処理を行った。処理終了後、得られた変性強酸性イオン交換樹脂を脱塩水で洗浄し、2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率15.5%)を得た。
【0061】
<ビスフェノール化合物の製造>
窒素ガス導入管、モーター攪拌器、ジムロート冷却器を備えた200mLガラス製フラスコに、前記で得られた2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率15.5%)をフェノール膨潤状態の体積が2.0mLとなるような量を秤量し、70℃のフェノール約100mLを用いて、洗浄後のフェノールの含水率が0.1重量%以下になるまで洗浄した。次いで、上記フラスコにフェノール90.0gを加え、窒素を導入した。攪拌下、アセトン4.27gを加えて温度を70℃に保持し、反応を開始した。反応開始後240分で反応液を採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析し、評価を行った。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0062】
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
実施例1の<強酸性イオン交換樹脂の製造>において、26時間攪拌してスルホン化を行った他は実施例1と同様にして、強酸性イオン交換樹脂を得た。得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表1に示す。
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>
実施例2の<強酸性イオン交換樹脂の製造>で得られた樹脂を用いた他は実施例1の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>と同様の操作により、2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率16.2%)を得た。
【0063】
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例2の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>で得られた2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた他は実施例1の<ビスフェノール化合物の製造>と同様にして反応と分析を行い、4,4’−ビスフェノールA収率(%)、TON(ターンオーバー数)及び4,4’−体/2,4’−体比を求めた。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0064】
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
実施例1の<強酸性イオン交換樹脂の製造>において、39時間攪拌してスルホン化を行った他は実施例1と同様にして、強酸性イオン交換樹脂を得た。得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表1に示す。
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>
実施例3の<強酸性イオン交換樹脂の製造>で得られた樹脂を用いた他は実施例1の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>と同様にして、2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率16.4%)を得た。
【0065】
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例3の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>で得られた2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた他は実施例1の<ビスフェノール化合物の製造>と同様にして反応と分析を行い、4,4’−ビスフェノールA収率(%)、TON(ターンオーバー数)及び4,4’−体/2,4’−体比を求めた。その結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
実施例1の<強酸性イオン交換樹脂の製造>において、119時間攪拌してスルホン化を行った他は実施例1と同様にして、強酸性イオン交換樹脂を得た。得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表1に示す。
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>
比較例1の<強酸性イオン交換樹脂の製造>で得られた樹脂を用いた他は実施例1の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>と同様にして、2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率16.0%)を得た。
【0067】
<ビスフェノール化合物の製造>
比較例1の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>で得られた2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた他は実施例1の<ビスフェノール化合物の製造>と同様にして反応と分析を行い、実施例1と同様にして4,4’−ビスフェノールA収率(%)、TON(ターンオーバー数)及び4,4’−体/2,4’−体比を求めた。その結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>
実施例1の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>において、強酸性イオン交換樹脂として三菱化学株式会社製の架橋度4%ゲル型強酸性イオン交換樹脂(商品名:SK104H、交換容量1.67meq/g−湿潤状態)を用いた他は実施例1と同様にして、2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率15.9%)を得た。
【0069】
<ビスフェノール化合物の製造>
比較例2の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>で得られた2−(4−ピリジル)エタンチオール変性強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた他は実施例1の<ビスフェノール化合物の製造>と同様にして反応と分析を行い、実施例1と同様にして4,4’−ビスフェノールA収率(%)、TON(ターンオーバー数)及び4,4’−体/2,4’−体比を求めた。その結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【実施例4】
【0071】
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>
実施例2の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>において、実施例2で製造した強酸性イオン交換樹脂5.05g−湿潤状態(1.07meq/g−湿潤状態)を用い、2−(4−ピリジル)エタンチオールに代えて2−メルカプトエチルアミン塩酸塩0.095g(0.84ミリモル)/脱塩水10ml溶液を攪拌下に20分かけて室温で滴下した他は、実施例2の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>と同様にして2−メルカプトエチルアミン変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率15.5%)を得た。
【0072】
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例4の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>で得られた2−メルカプトエチルアミン変性強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた他は実施例1の<ビスフェノール化合物の製造>と同様にして反応と分析を行い、実施例1と同様にして4,4’−ビスフェノールA収率(%)、TON(ターンオーバー数)及び4,4’−体/2,4’−体比を求めた。その結果を表2に示す。
【0073】
(比較例3)
<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>
実施例4の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>において、強酸性イオン交換樹脂として比較例2で使用した三菱化学株式会社製の架橋度4%ゲル型強酸性イオン交換樹脂(商品名:SK104H、交換容量1.67meq/g−湿潤状態)を用いた他は、実施例4と同様にして、2−メルカプトエチルアミン変性強酸性イオン交換樹脂触媒(変性率15.5%)を得た。
【0074】
<ビスフェノール化合物の製造>
比較例3の<強酸性イオン交換樹脂触媒の調製>で得られた2−メルカプトエチルアミン変性強酸性イオン交換樹脂触媒を用いた他は実施例1の<ビスフェノール化合物の製造>と同様にして反応と分析を行い、実施例1と同様にして4,4’−ビスフェノールA収率(%)、TON(ターンオーバー数)及び4,4’−体/2,4’−体比を求めた。その結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【実施例5】
【0076】
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
窒素雰囲気下、モーター攪拌器、ジムロート冷却器および温度計を付した100mLの
四口フラスコに、乾燥したスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(三菱化学社製、架橋度4%、ゲル型)5.0g、1,2−ジクロロエタン35mLを仕込み、70℃で1時間攪拌し樹脂を膨潤させた。室温まで冷却後、95%硫酸2.04mLを加え、85℃で5時間攪拌し、スルホン化を行った。
【0077】
反応終了後放冷し、THF/脱塩水混合溶液(体積比5/1)50mLを90分かけて滴下し、次いでガラスフィルター付きカラム管へ樹脂を移送し、更にTHF/脱塩水混合溶液(体積比5/1)50mLを通液した。続いて、洗浄液が中性になるまで脱塩水を用いて洗浄し、目的とする強酸性イオン交換樹脂を得た。
得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表3に示す。
【0078】
<ビスフェノール化合物の製造>
窒素雰囲気下、マグネチックスターラー、ジムロート冷却器を備えた50mLガラス製
二口フラスコに、前記で得られた強酸性イオン交換樹脂触媒をフェノール膨潤状態の体積が0.6mLとなる量を秤量した。次いで、上記フラスコに70℃のフェノール22.5gを加え、1時間攪拌し樹脂を膨潤させた。攪拌下、2−(4−ピリジル)エタンチオール7.2μL(0.057ミリモル)を加え、更に、1時間攪拌した後、アセトン1.07gを加えて反応を開始した。反応開始後240分で反応液を採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析を行い、評価を行った。結果を表3に示す。
【実施例6】
【0079】
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
窒素雰囲気下、モーター攪拌器、ジムロート冷却器および温度計を付した200mLの
四口フラスコに、乾燥したスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(三菱化学社製、架橋度4%、ゲル型)5.0g、脱水ジクロロメタン50mLを仕込み、室温で1時間攪拌し樹脂を膨潤させた。氷冷下(内温5℃)で攪拌しながら、クロロスルホン酸1.2mLと脱水ジクロロメタン20mLの混合溶液を20分間かけて滴下し、更に、氷冷下で7時間攪拌してスルホン化を行った。
【0080】
反応終了後、THF/脱塩水混合溶液(体積比5/1)50mLを30分かけて滴下した後に室温まで戻し、次いでガラスフィルター付きカラム管へ樹脂を移送し、更にTHF/脱塩水混合溶液(体積比5/1)50mLを通液した。続いて、洗浄液が中性になるまで脱塩水を用いて洗浄し、目的とする強酸性イオン交換樹脂を得た。
得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表3に示す。
【0081】
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例6の<強酸性イオン交換樹脂触媒の製造>で得られた強酸性イオン交換樹脂触媒を用い、2−(4−ピリジル)エタンチオール11.2μL(0.088ミリモル)を用いた他は、実施例5の<ビスフェノール化合物の製造>と同様に反応と分析を行い、評価を行った。結果を表3に示す。
【実施例7】
【0082】
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例2の<強酸性イオン交換樹脂触媒の製造>で得られた強酸性イオン交換樹脂触媒を用い、2−(4−ピリジル)エタンチオール6.4μL(0.05ミリモル)を用いた他は、実施例5の<ビスフェノール化合物の製造>と同様に反応と分析を行い、評価を行った。結果を表3に示す。
【0083】
(比較例4)
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
実施例5の<強酸性イオン交換樹脂の製造>において、1,2−ジクロロエタン35mLに代えてニトロベンゼン15mLを用い、95%硫酸1.36mLを加えて105℃で5時間攪拌しスルホン化を行った他は、実施例5の<強酸性イオン交換樹脂の製造>と同様の操作により強酸性イオン交換樹脂を得た。
得られた樹脂の含水率、交換容量、膨潤度比(D/C)、硫黄原子存在量の比(B/A)の値を表3に示す。
【0084】
<ビスフェノール化合物の製造>
比較例4の<強酸性イオン交換樹脂触媒の製造>で得られた強酸性イオン交換樹脂触媒を用い、2−(4−ピリジル)エタンチオール6.6μL(0.052ミリモル)を用いた他は、実施例5の<ビスフェノール化合物の製造>と同様に反応と分析を行い、評価を行った。結果を表3に示す。
【0085】
(比較例5)
<ビスフェノール化合物の製造>
比較例2の<強酸性イオン交換樹脂触媒の製造>で得られた強酸性イオン交換樹脂触媒を用い、2−(4−ピリジル)エタンチオール23.2μL(0.184ミリモル)を用いた他は、実施例5の<ビスフェノール化合物の製造>と同様に反応と分析を行い、評価を行った。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
(参考例1)
<強酸性イオン交換樹脂の製造>
窒素雰囲気下、モーター攪拌器、ジムロート冷却器および温度計を付した100mLの
四口フラスコに、乾燥したスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(三菱化学社製、架橋度4%、ポーラス型)5.0g、95%硫酸20mLを加え、105℃で19時間攪拌し、スルホン化を行ったところ、樹脂が破砕し、以降の評価を行うことが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によって、高収率、高選択性で工業的にビスフェノール化合物を製造可能な、ビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒、及びビスフェノール化合物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するスチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂からなるビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒であって、該強酸性イオン交換樹脂触媒が以下を満足することを特徴とするビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒。
1)該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂が球状のゲル型である
2)該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂全体のスルホン酸基の量が、乾燥状態で0.5meq/g以上4.0meq/g以下である
3)該強酸性イオン交換樹脂触媒の、イオン交換樹脂の中心における硫黄原子存在量Aに対する樹脂表面から半径40%の間の硫黄原子存在量の最大値Bの比B/Aが、5以上である
【請求項2】
該強酸性イオン交換樹脂触媒のフェノール膨潤度Cに対する水膨潤度Dの比D/Cが、0.3以上1.2以下である請求項1に記載のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒。
【請求項3】
該強酸性イオン交換樹脂触媒において、イオン交換樹脂の架橋度が、2%以上7%以下である請求項1又は2に記載のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒。
【請求項4】
該強酸性イオン交換樹脂触媒が、膨潤剤の不存在下に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合樹脂をスルホン化して製造されたものである請求項1乃至3の何れかに記載のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹脂触媒。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のビスフェノール化合物製造用強酸性イオン交換樹
脂触媒の存在下、フェノール化合物とカルボニル化合物とを反応させるビスフェノール化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−247010(P2010−247010A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96129(P2009−96129)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】