説明

ビスフェノールAの製造方法

【課題】ビスフェノールA(BPA)の製造工程において得られる母液の一部を不純物処理した後に反応系に再供給する工程を有するBPAの製造方法に於て、BPAの製造触媒の活性の劣化を防止する。
【解決手段】アセトンとフェノール(PL)とを反応させてBPA及びPLを含む反応混合物を得る反応工程、反応混合物からBPAを含む成分を分離する低沸点成分分離工程、BPAを含む成分からBPAを主成分とする物質流と、PLを主成分とする母液に分離するBPA分離工程、母液の少なくとも一部をアルカリの存在下で加熱処理及び蒸留により軽質分と重質分とに分離する軽質分分離工程、分離された軽質分を触媒の存在下で処理して軽質分中のPLとイソプロペニルフェノールとを再結合させてBPAに変換する再結合反応工程を包含するBPAの製造方法であって、反応工程における反応液中のイソプロペニルフェノールの含有量を4重量%以下に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAの製造方法に関し、詳しくは、ビスフェノールA分離工程において得られる母液の一部に含まれる不純物を処理した後に反応系に再供給する工程を有するビスフェノールAの製造方法において、ビスフェノールA製造触媒の活性劣化を防止することが出来るビスフェノールAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAは、通常、フェノールとアセトンを原料として製造される。代表的な製造方法としては、陽イオン交換樹脂などの酸性触媒の存在下で上記の原料を反応させる方法が挙げられるが、この方法で得られる反応混合物は、目的物であるビスフェノールAの他に、未反応フェノール、未反応アセトン、反応生成水および着色物質などの反応副生物を含む。反応混合物からこれらの反応副生物を分離する方法としては、通常、蒸留法が採用される。この場合、蒸留塔内でフェノールの沸点よりも低い温度で蒸留を行い、未反応アセトン、反応生成水、一部の未反応フェノール等の低沸点成分を塔頂から回収し、塔底からはビスフェノールAを含む成分を得る。そして、塔底からのビスフェノールAを含む成分をビスフェノールAを主成分とする物質流と、フェノールと反応不純物とを主成分とする母液とに分離する。
【0003】
上記の母液の大部分は反応系に再供給されるが、反応系内に異性体や高沸点不純物が蓄積するのを避けるため、通常、母液の一部を抜出して含まれる不純物を除去する。不純物の除去方法としては、アルカリを添加して加熱反応を行い、ビスフェノールA及びその異性体をフェノールとイソプロペニルフェノールとに分解する方法が一般的である。この際、その他の不純物の一部は重質化し、タールとして系外へ除去される。この分解反応は、通常、反応蒸留方式で行なわれ、分解反応により生成したフェノールとイソプロペニルフェノールを、酸性イオン交換樹脂触媒が収容されている再結合反応器に供給し、ビスフェノールAを生成させる(例えば特許文献1〜3参照)。再結合反応器から流出した反応液は、不純物の除去を行っていない母液とともに反応系に再供給される。
【0004】
しかしながら、この様に、母液の一部を抜き出してアルカリ加熱処理により不純物の除去処理を行っても、反応工程の酸性イオン交換樹脂触媒の劣化が起り、長期間安定してビスフェノールAの製造を行うことが出来なかった。
【0005】
更に、イソプロピルフェノールによる触媒の活性劣化の検討を行った結果、原料アセトン中に含まれるメタノールがイソプロピルフェノールによる活性劣化を更に促進することを見出した。原料アセトン中には不純物として微量のメタノールが含まれており、そのメタノールがアミノチオール担持型のイオン交換樹脂触媒の触媒活性を低下させることは公知である(例えば特許文献4及び5)。しかしながら、イソプロピルフェノールの様なアルキルフェノールとの活性低下促進効果については知られていない。
【0006】
【特許文献1】特公昭49−48319号公報
【特許文献2】特開平1−230538号公報
【特許文献3】特開平5−331088号公報
【特許文献4】特開平6−92889号公報
【特許文献5】特開平6−25047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ビスフェノールA分離工程において得られる母液の少なくとも一部を不純物処理した後に反応系に再供給する工程を有するビスフェノールAの製造方法において、ビスフェノールAの製造触媒の活性の劣化を抑制することが出来るビスフェノールAの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、アルカリの存在下で加熱処理することにより不純物の除去処理を行う際に副生するイソプロピルフェノールが反応工程の酸性イオン交換樹脂触媒の活性劣化を促進させる物質であり、反応工程における反応液中のイソプロピルフェノール量を特定の範囲に制御することにより、反応工程の酸性イオン交換樹脂触媒の劣化を抑制することが出来ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の要旨は、酸性イオン交換樹脂触媒の存在下に原料成分のアセトンとフェノールとを反応させてビスフェノールA及びフェノ−ルを含む反応混合物を得る反応工程、反応混合物をビスフェノールAを含む成分と未反応アセトンを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程、ビスフェノールAを含む成分をビスフェノールAを主成分とする物質流と、フェノールを主成分とする母液とに分離するビスフェノールA分離工程、分離された母液の少なくとも一部をアルカリの存在下での加熱処理および蒸留により軽質分と重質分とに分離する軽質分分離工程、分離された軽質分を酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で処理して軽質分中のフェノールとイソプロペニルフェノールとを再結合させてビスフェノールAに変換する再結合反応工程、再結合反応液を反応工程に循環する再結合反応液循環工程とを少なくとも包含するビスフェノールAの製造方法であって、前記反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を4重量%以下に制御することを特徴とするビスフェノールAの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のビスフェノールAの製造触媒によれば、ビスフェノールA分離工程において得られる母液の少なくとも一部を不純物処理した後に反応系に再供給する工程を有するビスフェノールAの製造方法において、ビスフェノールAの製造触媒の活性の劣化を防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。本発明のビスフェノールAの製造方法は、酸性イオン交換樹脂触媒の存在下に原料成分のアセトンとフェノールとを反応させてビスフェノールA及びフェノ−ルを含む反応混合物を得る反応工程、反応混合物をビスフェノールAを含む成分と未反応アセトンを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程、ビスフェノールAを含む成分をビスフェノールAを主成分とする物質流と、フェノール及び反応副生物を主成分とする母液とに分離するビスフェノールA分離工程、分離された母液の少なくとも一部をアルカリの存在下での加熱処理および蒸留により軽質分と重質分とに分離する軽質分分離工程、分離された軽質分を酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で処理して軽質分中のフェノールとイソプロペニルフェノールとを再結合させてビスフェノールAに変換する再結合反応工程、再結合反応液を反応工程に循環する再結合反応液循環工程とを少なくとも包含する。更に、必要に応じて、低沸点成分分離工程で得られた低沸点成分から未反応アセトンを分離回収し、反応工程に循環させるアセトン循環工程や分離された母液の一部を処理することなく反応工程に循環する母液循環工程などを含んでもよい。
【0012】
先ず、本発明の理解を容易にするため、図1のフロー図を基にビスフェノールAの製造方法の概略を説明するが、本発明の製造方法は種々の実施形態が可能である。
【0013】
原料であるアセトンとフェノールはライン(1)を介して反応器(2)に供給される。反応器(2)からの反応混合物はライン(3)を介して蒸留塔(4)に導入される。蒸留塔(4)の塔頂から抜出されたアセトン、水、フェノール等を含む低沸点成分は、分離システム(20)へ移送され、蒸留などにより、アセトン、水およびフェノールに分離される。アセトンは、ライン(21)及びライン(A)を介して後述する精製器としてのメタノール除去装置(1a)へ移送される。水は分離システム(20)から系外に排出される。フェノールは分離システム(20)から精製器(20a)に供給されて精製処理された後にフェノール貯留用タンク(22)へ移送される。
【0014】
蒸留塔(4)の塔底成分は晶析器(5)に移送され、ビスフェノールAとフェノールとが付加してなる結晶アダクトを析出させる。この結晶アダクトは、固液分離器(6)で固液分離された後に、再溶解器(7)で再溶解され、再晶析器(8)で再晶析され、遠心分離機などにより構成される固液分離およびリンスシステム(9)で処理される。ここで、結晶アダクトのリンス(洗浄)は、タンク(22)から供給される清浄なフェノールで行われる。リンス廃液はライン(10)を介して再溶解器(7)へ移送される(又はライン(17)を介し固液分離器(6)のリンスに使用される)。リンス後の結晶アダクトは、アダクト分解装置(11)にて加熱されてビスフェノールAとフェノールとに分解され、ビスフェノールAは精製器(12)にて処理され、製品ビスフェノールAとなる。アダクト分解装置(11)及び精製器(12)にて分離されたフェノールは、タンク(22)へ移送される。
【0015】
固液分離器(6)で分離された分離液(母液)の少なくとも一部は、不純物除去ライン(13’)に供給されて不純物の除去処理が行われる。不純物の除去処理においては、母液の少なくとも一部を母液濃縮塔(13c)にて濃縮した後にアルカリ分解塔(13a)でアルカリの存在下で加熱処理した後に軽質分と重質分とに分離し、軽質分は再結合反応器(13b)において再結合反応処理し、再びライン(13)に戻す。なお、母液の一部はライン(13)を介して母液タンク(14)へ移送されてもよい。母液タンク(14)内の母液は、ライン(15)を介してライン(1)へ移送され、アセトンと混合されて反応器(2)に供給される。更に、母液タンク(14)内の母液は、ライン(16)を介してライン(3)にも移送される。
【0016】
反応器(2)に供給されるアセトンと母液との混合液中において、アセトンとフェノールとの比率が所定範囲となる様に、ライン(15)からライン(1)への母液の供給量が制御される。アセトンとフェノールとの比率が所定範囲となることにより、製品ビスフェノールAの品質および収率が安定する。なお、母液タンク(14)は、ライン(13)からの循環量の変動を平準化するためのバッファータンクの役目を担う。
【0017】
次に、各工程について詳細に説明する。
【0018】
<反応工程>
反応器(2)内で行われる反応において、原料のフェノールとアセトンは、化学量論的にフェノール過剰で反応させる。フェノールとアセトンとのモル比(フェノール/アセトン)は、通常3〜30、好ましくは、5〜20である。反応温度は、通常50〜100℃、反応圧力は、通常、常圧ないし600kPa(絶対圧力)である。
【0019】
原料のアセトンとしては、工業的に入手可能なものであれば特に制限されずに使用することが出来る。例えば、新たに系外から供給される精製アセトン、後述する低沸点成分分離工程で分離された未反応アセトンを更にアセトン循環工程で処理して得られるアセトン、それらの混合物などを使用することが出来る。
【0020】
触媒としては、通常、スルホン酸型などの強酸性陽イオン交換樹脂、好ましくは、強酸性陽イオン交換樹脂を部分的に含イオウアミン化合物で修飾した樹脂が使用される。特に、2−アミノエタンチオール、2−(4−ピリジル)エタンチオール等の含イオウアミン化合物で修飾した樹脂を使用した場合、本発明の効果が顕著となる。含イオウアミン化合物による修飾の程度は、酸性イオン交換体中の酸基(スルホン酸基)に対し、通常2〜30モル%、好ましくは5〜20モル%である。
【0021】
フェノールとアセトンとの縮合反応は、通常、固定床流通方式または懸濁床回分方式で行われる。固定床流通方式の場合、反応器に供給する原料混合物の液空間速度は、通常0.2〜50/hである。懸濁床回分方式の場合、反応温度、反応圧力によって異なるが、酸性イオン交換樹脂触媒の使用量は、原料混合物に対して通常20〜100重量%、反応時間は通常0.5〜5時間である。
【0022】
<低沸点成分分離工程>
反応工程において得られた反応混合物を、ビスフェノールAを含む成分と未反応アセトンを含む低沸点成分とに分離する。分離方法としては、図1のフロー図に基づいて前述した様に、蒸留塔(4)を使用し、反応工程において得られた反応混合物を蒸留し、塔頂から未反応アセトンを含む低沸点成分を分離する。塔底液はビスフェノールAを含む液体成分である。蒸留塔としては公知のものが使用できる。蒸留を常圧で行う場合はフェノールの沸点以下で行うが、好ましくは減圧蒸留により行われる。減圧蒸留は、通常、温度50〜150℃、圧力50〜300mmHgで行われる。反応混合物中に含まれる未反応フェノールは、以降の晶析工程でビスフェノールAとアダクト付加物を形成させるため、所定量を塔底から抜き出す条件で蒸留を行うことが好ましい。蒸留塔(4)の塔頂から分離される成分は、未反応アセトン、水、不純物として含まれるメタノール、イソプロピルフェノール、未反応フェノール等である。この塔頂から抜き出されるイソプロピルフェノールの量を調節することにより、反応液中の該物質の濃度を調節することが出来る。例えば、本蒸留塔(4)で反応液中のイソプロピルフェノールの量を低減させる場合、塔頂側へのフェノールの回収量を増加やしたり、還流比を下げたりといった操作を行うか、または、蒸留塔(4)に外部よりフェノールを供給するといった操作を行うことにより、効率よく上記の調節を行うことが出来る。この様な操作により、塔頂側に回収されるイソプロピルフェノール量が供給された同物質の量に対し、通常0.8重量%以上、好ましくは1.5重量%以上となる様にするのがよい。
【0023】
上記の低沸点成分を塔頂から分離した後の塔底液中のビスフェノールAの濃度は、通常20〜50重量%である。ビスフェノールAの濃度が20重量%よりも小さい場合、ビスフェノールAの収率が低くなり、50重量%より大きい場合、濃縮混合液の粘度が高くなって移送が困難になる。塔底液はビスフェノールA分離工程に移送され、目的物であるビスフェノールAの回収が行われる。
【0024】
上記のアセトン循環工程を有する場合、低沸点成分分離工程で分離された未反応アセトン、水、フェノール、イソプロピルフェノールを含む低沸点成分は、分離システム(20)から成るアセトン循環工程に送られ、例えば蒸留などによりアセトンが分留される。分留されたアセトンは、原料アセトンとして反応系に再供給される前に、反応工程前段のメタノール除去装置(1a)へフィードバックし、不純物であるメタノールを除去することが好ましい。
【0025】
触媒の活性劣化という側面からはメタノール量は少ないほど好ましいが、原料アセトンから微量のメタノールを除去するためには、非常に大きな段数を有する蒸留塔を必要に応じて複数基設置するなど、巨大な設備が必要になり、経済的な負担が大きく現実的ではない。これらを考慮すると、原料アセトン中のメタノール量は、通常10〜500重量ppm、好ましくは30〜500重量ppm、更に好ましくは50〜300重量ppmであり、これにより、アセトンの精製に過度の負担をかけることなく、触媒の活性低下が抑制された実用的な運転を行うことが出来る。
【0026】
分離システム(20)としては、通常、多段蒸留塔が使用される。分離回収したフェノールは、通常、フレッシュフェノールと共に精製器(20a)において精留された後、清浄フェノールの貯留用タンク(22)に貯えられ、後述の結晶アダクトのリンスに使用される。精製器(20a)では、蒸留などによりイソプロピルフェノールが系外へパージされる。蒸留によりイソプロピルフェノールを系外へパージする場合、例えば、温度150〜190℃、絶対圧力300〜760mmHgとし、外部から供給されたフェノールに含まれる重質物と共にフェノールに含まれるイソプロピルフェノールも合わせて塔底よりパージする方法が挙げられる。
【0027】
<ビスフェノールA分離工程>
ビスフェノールA分離工程において、低沸点成分分離工程で得られたビスフェノールAを含む成分からビスフェノールAを主成分とする物質流を分離する。物質流を分離する方法としては特に制限されず、公知の方法が採用できる。ここで、「ビスフェノールAを主成分とする物質流」とは、ビスフェノールAが50重量%以上含まれる物質流のことをいう。すなわち、ビスフェノールAとフェノールのアダクト結晶またはビスフェノールA単独の結晶のケーキやスラリー、溶融ビスフェノールAやガス状のビスフェノールA等のビスフェノールAを主成分とする固体、液体、ガス、スラリー、ケーキ状の物質流を意味し、これらにフェノールや、反応副生物の様な不純物が含まれていてもよい。物質流を分離する方法としては、晶析によりビスフェノールAとフェノールのアダクト結晶のケーキから成る物質流と、ビスフェノールAや2,4−ビスフェノールA、クロマン等の反応副生物を含有するフェノールを主成分とする所謂「母液」と呼ばれる物質流とに分離する方法が例示される。この方法以外にも、ビスフェノールAを含む溶液に水やアセトンの様な第三成分を添加し、アダクトではなく直接ビスフェノールAの結晶を晶析させ、固液分離することによりビスフェノールAを分離する方法、蒸留塔を使用して高真空下でビスフェノールAを含む物質流を蒸留し、塔頂からビスフェノールAを留出させて分離する方法などが例示できる。以下に、代表例として、晶析を行った後に固液分離を行うことによりビスフェノールAとフェノールとのアダクト結晶と母液に分離する方法における晶析工程およびビスフェノールAの回収工程について説明する。
【0028】
<晶析工程>
低沸点成分分離工程で低沸点成分を分離した塔底液(ビスフェノールAを含む液体成分)に対して引続き晶析工程にて晶析を行う。斯かる晶析工程では、晶析器(5)において塔底液が70〜140℃から35〜60℃まで冷却され、結晶アダクトが晶析してスラリーとなり、このスラリーは、固液分離器(6)において固液分離される。晶析器(5)としては、通常、1基または切替運転可能な複数の外部冷却器を有する晶析槽が使用される。外部冷却器を複数設けて切替運転する場合、使用していない方の外部冷却器の内部に付着している結晶を加熱溶解した後に切替えて使用することにより、高い能力を保ったまま、連続的に晶析工程の運転を行うことが出来る。なお、外部冷却器の切り替え時に、晶析槽での晶析特性が変動するため、固液分離器(6)で分離される母液量が変動することがある。この様なライン(15)からライン(1)へ供給される母液量の変動を防ぐためには、通常、ライン(16)を介して母液の一部を反応器(2)の後方側へバイパスさせる。晶析器(5)として、ジャケット式冷却器を具備した晶析槽を使用する場合、伝熱面に付着した結晶を除去する掻き取り装置を備えたものが好ましい。
【0029】
<ビスフェノールAの回収工程>
固液分離器(6)において回収された結晶アダクトは、再溶解器(7)中でフェノールに再溶解され、再晶析器(8)で再晶析されて純度を高めた後に、遠心分離機などにより構成される固液分離およびリンスシステム(9)で固液分離され、清浄なフェノールでリンスされる。次いで、結晶アダクト分解システム(11)に移送される。
【0030】
なお、固液分離およびリンスシステム(9)で分離された液分の大部分およびリンス廃液は、再溶解器(7)における結晶アダクト再溶解用フェノール及び固液分離器(6)に供給されるリンス液として使用できる。固液分離およびリンスシステム(9)で分離された液分の一部は循環母液と共にタンク(14)に循環される。
【0031】
結晶アダクト分解装置(11)においては、通常、100〜160℃に結晶アダクトを加熱溶融し、得られた溶融液から大部分のフェノールを留去する方法が使用される。精製器(12)においては、通常、スチームストリッピング等により残存するフェノールを除去し、ビスフェノールAを精製する方法が使用される。この方法は、例えば、特開平2−28126号公報、特開昭63−132850号公報などに記載されている。
【0032】
<母液循環工程>
本発明における母液とは、ビスフェノールA分離工程において、ビスフェノールAを含む成分からビスフェノールAを主成分とする物質流を除いたものであって、例えば、アダクト晶析後、固液分離器によりビスフェノールA/フェノールアダクト体を分離した液をなどを示す。固液分離器(6)で固液分離された液分(母液)の一部(例えば85〜96%)は、ライン(13)を介し、ライン(15)を通して反応工程の前に及び/又はライン(16)を通して反応工程後方側に循環される。本発明において、本工程は必須ではないが、後述の軽質分分離工程と併用することにより、効率的に重質物除去を行い、安定運転を継続することが可能となる。
【0033】
すなわち、固液分離器(6)から得られる母液の組成は、通常、フェノール65〜85重量%、ビスフェノールA10〜20重量%、2,4’−異性体などの副生物5〜15重量%であり、2,4’−異性体などの不純物を多く含んでいる。これらの不純物のプロセス内への蓄積を防止するため、固液分離器(6)から得られる母液の一部を後述する軽質分分離工程へ供する。この場合、ライン(1)へのフレッシュアセトン量(a)とライン(21)を介して供給される回収アセトン量(b)との合計量(a+b)に対するフェノールのモル比(フェノール/アセトン)が前記に示した一定の混合比率となる様にタンク(14)からライン(15)への母液送出用ポンプ(図示略)の制御を行う。
【0034】
<軽質分分離工程>
本工程においては、前記の工程で分離された母液の少なくとも一部をアルカリの存在下での加熱処理および蒸留により軽質分と重質分とに分離する。具体的には、ライン(13)から母液の少なくとも一部を不純物除去ライン(13’)に分取し、アルカリ分解塔(13a)において、アルカリ存在下での加熱処理および蒸留により軽質分と重質分とに分離する。好ましくは、分取した母液の少なくとも一部を母液濃縮塔(13c)にて蒸留によりフェノールの一部と共にイソプロピルフェノールの多くを軽質留出液として塔頂および/またはサイドから留出せた後、アルカリ性物質の存在下に加熱して、ビスフェノールA及び異性体をフェノールとイソプロペニルフェノールに分解する。以下、軽質留出液を塔頂から得る場合を例として説明する。
【0035】
母液濃縮塔(13c)塔頂より回収されたフェノールには多くのイソプロピルフェノールが含まれるため、この液の少なくとも一部を分岐し、ライン(13d)を経由して系外にパージする、または、少なくとも一部を分岐して精製器(20a)に供給してイソプロピルフェノールを精製除去することにより、反応液中のイソプロピルフェノール濃度を調節することが出来る。蒸留塔(4)でのイソプロピルフェノールの分離操作と合わせて行うことにより、更に効率的なイソプロピルフェノール濃度のコントロールを行うことが出来る。
【0036】
母液濃縮塔(13c)塔頂より回収されたフェノールのうち、ライン(13d)を経由して系外にパージされなかったフェノールは、アルカリ分解塔(13a)塔頂の冷却(クエンチ)に使用される。ライン(13d)を経由して系外にパージされフェノールに含まれるイソプロピルフェノールの量は、母液濃縮塔(13c)に供給されるイソプロピルフェノール量の5重量%以上であることが好ましく、5〜20重量%であるのが更に好ましく、7〜15重量%以上であるのが特に好ましい。イソプロピルフェノールの抜出し量が上記の範囲未満の場合、反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を所定の範囲に保つことが困難な場合がある。また、ライン(13d)を経由して系外にパージされるイソプロピルフェノールの量を多くするためには、パージされるフェノールの量を増加させる必要があり、フェノールの損失を招く場合がある。特に、系外にパージされなかったフェノールをアルカリ分解塔(13a)塔頂の冷却(クエンチ)に使用する場合には、冷却(クエンチ)に使用するフェノールの量が少なくなるなるので冷却(クエンチ)が不十分になる場合がある。また、冷却(クエンチ)に使用するフェノールの量が少な過ぎる場合は、アルカリ分解塔(13a)から得られる軽質分中のイソプロペニルフェノールの濃度が高くなる。イソプロペニルフェノールの濃度が高い場合、イソプロペニルフェノールの2量化が起こったり、後述する再結合反応工程での選択率が悪化する傾向がある。
【0037】
母液濃縮塔(13c)では、塔頂側へのフェノールの回収量を増加したり、還流比を下げたりといった操作を行うことにより、留出塔頂側に回収されるイソプロピルフェノール量が供給された同物質の量に対し、通常0.6以上、好ましくは0.8以上にする。また、この留出液を分岐して抜き出す比率は0.1以上が好ましい。このとき、後工程の再結合反応器(13b)に供給するフェノール量が低減することにより、フェノールとイソプロペニルフェノールの比率をコントロールする必要がある場合は、外部よりフェノールを供給するといった操作を合わせて行うことも出来る。
【0038】
上記の分解反応は、アルカリ分解塔(13a)に母液とアルカリ性物質を供給し、200〜300℃に加熱して分解させる様な反応蒸留方式で行うことが好ましい。アルカリ性物質としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、フェノール塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、フェノール塩など、公知のアルカリ性物質が使用でき、これらのアルカリ性物質は水溶液などの状態で供給するのが好ましい。アルカリ分解工程におけるビスフェノールA及び異性体の分解率は、通常30%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上である。
【0039】
上記の母液は、特開平10−218814号公報に開示されている様に、予め濃縮して分解反応に供してもよく、また濃縮せずに分解反応に供してもよい。これは、母液をそのまま分解反応に供しても、母液中のフェノールは直ちに蒸発するために濃縮されるからである。不純物処理する母液は、アルカリ分解塔(13a)内においてアルカリ分解すると共に、フェノールとイソプロペニルフェノールとを含む軽質分と、タール等の重質分に分離される。重質分は系外に放出される。
【0040】
<再結合反応工程>
上記の軽質分は再結合反応器(13b)において再結合反応処理される。すなわち、上記のイソプロペニルフェノールは重合性物質であり、容易に重合体を形成する。したがって、イソプロペニルフェノールを含有する軽質分をそのまま母液循環ライン(13)に戻すと、この重合体により、製品ビスフェノールが着色する問題が生じる。そこで、アルカリ分解塔(13a)の塔頂から留出した軽質分(フェノールとイソプロペニルフェノール)を、直ちに凝縮させて再結合反応器(13b)に供給し、酸性イオン交換樹脂の存在下で再結合反応を行うことにより、着色成分である重合物の生成を抑制している。
【0041】
再結合反応は、通常50〜85℃の温度で行う。再結合反応に使用する強酸性陽イオン交換樹脂としては、通常、スルホン酸型などの強酸性陽イオン交換樹脂が使用される。なお、反応工程で使用する含イオウアミン化合物で部分的に中和されたスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂と同じものを使用してもよい。
【0042】
再結合反応において、イソプロペニルフェノールが二量化する副反応が生起することがあるが、再結合反応器(13b)に供給するイソプロペニルフェノールに対するフェノールのモル比を40以上とすることにより、この副反応を著しく抑制することが出来て好ましい。イソプロペニルフェノールに対するフェノールのモル比を40以上とする場合、外部からのフェノール(晶析工程で結晶の洗浄に使用したフェノール等)を追加供給することが好ましい。
【0043】
<再結合反応液循環工程>
上記の工程で得られた再結合反応液(ビスフェノールAの生成液)は、母液循環ライン(13)に戻す。
【0044】
本発明のビスフェノールAの製造方法は、反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を4重量%以下、好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下に制御することを特徴とする。本発明者らは、反応工程における反応液中に不純物として含まれるイソプロピルフェノール(o−、m−、p−体およびそれらの混合物を含む)が反応工程の酸性イオン交換樹脂触媒の活性劣化を促進させる物質であることを見出した。更に、このイソプロピルフェノールは、上記の不純物処理工程におけるアルカリの存在下で加熱処理することにより副生することも見出した。それゆえ、上記の不純物処理工程を有するビスフェノールAの製造方法において、イソプロピルフェノールの混入は避けられず、不純物処理を行えば行うほど、イソプロピルフェノールが系内に蓄積していく。したがって、本発明においては、反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を4重量%以下に制御する。これにより、反応工程における酸性イオン交換樹脂触媒の劣化を抑制することが出来る。反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの濃度としては、反応器入口、反応器内部、反応器出口の何れを基準にしてもよいが、イオン交換樹脂の劣化を防ぐ為には、反応器入口を基準として調節するのが好ましい。
【0045】
反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を4重量%以下に制御する方法としては、軽質分分離工程に供給される母液の5〜20重量%、好ましくは5〜15重量に相当する量を重質分として分離することが好ましい。これは、本発明者らが、系内におけるアルキルフェノールの生成量とアルカリ分解塔(13a)から排出される重質分(タール分)の量との間に相関があることを見出したことに基づく。重質分排出量を調節する要件としては、アルカリ分解塔(13a)における母液の滞留時間、アルカリ濃度、分解温度、減圧度などであり、これらを適宜選択し、組合せることにより、重質分排出量を上記の範囲に調節することが出来る。
【0046】
具体的には、アルカリ分解塔(13a)における母液の滞留時間は、通常1〜20時間、好ましくは2〜10時間であり、アルカリ濃度(軽質分分離工程で系外に除去される重質分中のアルカリ濃度(金属ナトリウム換算)としては、通常100〜4000重量ppm、好ましくは200〜2000重量ppmであり、分解温度は、通常170〜300℃、好ましくは200〜250℃であり、減圧度は、通常10〜100Torr、好ましくは20〜50Torrである。また、ライン(13)から不純物除去ライン(13’)に分取する母液の分取率を調節したり、アルカリを添加する前に、母液濃縮塔(13c)で行うフェノールの蒸留に際し、イソプロピルフェノールはフェノールと共に抜き出されるため、その留出割合を変更したり、または、ライン(13d)より精製器(20a)へ抜き出す量を調節することにより、反応工程における反応液中のイソプロピルフェノール含有量を調節することが出来る。特に、ライン(13d)より精製器(20a)へ抜き出す量を調整する方法は、イソプロピルフェノールを効率的に抜き出すことが出来るので好ましい。また、再結合反応器(13b)からライン(13)に供給する量を調節したり、原料フェノール中のフレッシュフェノールの量を調節することによっても、反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を調節することが出来る。また、アルカリ分解塔(13a)から得られた軽質分から蒸留によりイソプロピルフェノールを除去することも出来るが、上記アルカリ分解塔(13a)の運転条件により制御する方法が簡便で好ましい。
【0047】
なお、本発明の製造方法において、上記の操作に加えて、反応触媒の使用開始時に脱水操作で発生した含水フェノールについて、運転中に、当該含水フェノールをプロセス内の蒸留塔に少しずつ供給し、脱水することによりフェノールを再利用することが原料となるフェノールを再使用することが出来るので好ましい。
【0048】
前述の様に、本発明の好ましい態様として、アミノチオール化合物で修飾されているスルホン酸型イオン交換樹脂を充填した反応器にアセトンと大過剰のフェノールとを加えることにより縮合反応が進行し、ビスフェノールAが生成する。この場合、触媒として使用しているスルホン酸型イオン交換樹脂触媒は、ビスフェノールA生成反応を長期間行うことにより、助触媒として働くアミノチオール化合物が変性してその効果が失われたり、イオン交換樹脂表面に副生成物であるタールの様な重質物が付着し、触媒表面が覆われることにより、触媒活性の低下が起ることがある。そのため、定期的にこれらの触媒を反応器から抜き出し、交換する必要がある。
【0049】
交換により新たに添加される触媒としては、新規に製造された触媒でもよく、又は、活性が低下して反応器から抜き出した使用済みの触媒を酸などで処理することにより表面のタールや変性した助触媒を除去した後、再びアミノチオール化合物を含む溶液に含浸させる事により、改めて修飾されたスルホン酸型イオン交換樹脂触媒でもよい。
【0050】
反応器へのイオン交換樹脂触媒の充填は、通常、イオン交換樹脂触媒が水で膨潤した状態で行われる事が多い。そのため、充填したイオン交換樹脂触媒は、ビスフェノールAの製造反応の前に脱水操作を行うことが好ましい。イオン交換樹脂の脱水操作は、通常、粗々の水分を除去した後に、フェノールと接触させることにより行われる。水膨潤イオン交換樹脂は脱水により急激に体積が減少するので、脱水操作によりイオン交換樹脂自体が破損するおそれがある。そこで、最初の脱水操作は、フェノール/水=9/1程度の混合溶液を使用して行う事が好ましい。この操作により急激な体積変化が抑制できるので、イオン交換樹脂の破損などを防止することが出来る。
【0051】
脱水操作におけるフェノールの接触方法については、バッチ操作により含浸させてもよく、又、連続的にフェノールを流通させてもよい。使用するフェノールは精製した純フェノールでもよく、又、ビスフェノールAプロセスで循環使用している固液分離工程で発生する濾液(母液)でもよい。
【0052】
脱水操作で使用したフェノールは、水分やスルホン酸型イオン交換樹脂から脱離した酸性成分などを含んでいるので、精製して再利用することが好ましい。脱水操作で使用したフェノールの精製方法については特に限定されず、タンクなどに貯めて運転を再開した際に少しずつプロセス内に戻すことにより精製する方法、専用の蒸留塔などを用いて精製する方法などが挙げられる。また反応器を2基以上並列に設置して運転している場合は、1基以上の反応器を運転したまま、他の停止している1基以上の反応器の脱水処理を同時に行い、その際に発生する未精製フェノールをプロセス内に戻してもよい。
【0053】
プロセス内に戻す場合は、反応器下流の未反応アセトン、水などを除去する低沸点成分分離工程の蒸留塔に供給してもよく、又、不純物除去処理の前に供給して、フェノールの精製を行ってもよい。またこれらを組み合わせて行ってもよい。一般に、未精製フェノール中に含まれる酸性成分が製品ビスフェノールA中に含まれてしまうおそれがあるので、不純物除去処理の前へ供給することが好ましいが、不純物除去処理に脱水操作の初期に発生する水含有量の多いフェノールを供給してしまうと、不純物除去処理のアルカリ分解塔に水が混入してしまい、高温(200℃以上)・高減圧(80mmHg以下)の条件で運転しているアルカリ分解工程の運転が、混入した水の蒸気圧のために高減圧が保てなくなることがあって、困難となる場合がある。そのため、脱水操作初期の水分含有量が多いフェノールは低沸点成分分離工程で処理し、フェノール中の水分含有量が少なくなった時点で不純物除去処理前への供給に切り替えるのが好ましい。
【0054】
精製したフェノールは、固液分離工程におけるアダクト結晶の洗浄用フェノールなどに使用される。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(1)アセトンの分析方法:
フューズドシリカキャピラリーカラム及びTCD検出器を備えたガスクロマトグラフ装置(島津製作所製GC−14B)にて行った。
【0057】
(2)イソプロピルフェノールの分析方法:
フューズドシリカキャピラリーカラム及びFID検出器を備えたガスクロマトグラフ装置(島津製作所製GC−14B)にて行った。
【0058】
(3)アセトン転化率:
以下の式によって求めた。
【0059】
【数1】

【0060】
実施例1:
図2に示すフローを有するパイロット実験設備により連続的にビスフェノールAを製造した。反応工程に設置されている反応器(2)の直径は660mmであり、この反応器に触媒としてスルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンSK−104H」)を2−(4−ピリジル)エタンチオールにてスルホン酸基の20モル%を修飾したイオン交換樹脂340Lを充填した。触媒を充填した反応器(2)に、ライン(15)から供給される母液とアセトンとの混合液(フェノール82重量%、アセトン4重量%、ビスフェノールA8重量%及びその他の成分6重量%から成り、アセトンに含有されるメタノール濃度は100重量ppmである)を400kg/hの流量でフィードし、65℃で反応を行った。理論段数が7段となる様に充填物を装備した蒸留塔(4)に、ライン(3)からの液を供給し、塔頂に62kg/h抜き出した。このとき、蒸留塔(4)の塔頂から抜き出されるイソプロピルフェノールの量は、供給された量の1.6重量%であった。蒸留塔(4)の塔底液は、晶析塔(5)に供給し、ビスフェノールAとフェノールのアダクト結晶を晶析させた。得られたアダクト結晶は、リンスに使用した精製フェノール(120kg/h)を含めて、固液分離装置(6)で固体(78kg/h)と母液(385kg/h)に分離した。理論段数3段となる様に充填物を装備した母液濃縮塔(13c)に、ライン(13’)からの液を供給し、塔頂に29kg/h抜き出した。この液の11%を分岐し、ライン(13d)から系外に排出することによってイソプロピルフェノールの除去を行った。このとき、イソプロピルフェノールの系外排出量は、母液濃縮塔(13c)に供給された量の10重量%であった。
【0061】
母液の内の347kg/h(母液全体量の90重量%)は、ライン(13)を介してそのまま反応工程に再供給したが、残りの38kg/h(母液全体量の10重量%)は、上記の母液濃縮塔(13c)での処理の後、系外に排出されなかった塔頂液および塔底液をアルカリ分解塔(13a)に供給し、不純物の除去を行った。アルカリ分解塔(13a)において、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を0.22kg/h添加した後に、温度210℃、圧力40Torr、滞留時間4時間の条件でアルカリ分解反応および蒸留を行って、重質分3.8kg/h(重質分パージ率10重量%)を分離した。重質分(タール分)を除去した軽質分を、65℃に保持された含イオウアミン化合物で修飾されていないスルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンSK−104H」が充填された再結合反応器(13b)に供給し、アルカリ分解反応で生成したイソプロペニルフェノールとフェノールとを反応させてビスフェノールAにした後、ライン(13)を介して反応系に再供給した。
【0062】
上記の操作により4000時間連続運転を行った。運転開始から250時間で系内の不純物量は安定し、その後4000時間まで不純物量の変化はなかった。その際の反応器(2)に供給する原料中のp−イソプロピルフェノールの濃度は0.3重量%であり、蒸留塔(4)の塔頂から抜出されるイソプロピルフェノールは、供給されたイソプロピルフェノールの1.5重量%、ライン(13d)から系外に排出されたイソプロピルフェノールは、母液濃縮塔(13c)に供給されたイソプロピルフェノールの10重量%であった。また、アセトン転化率は、アセトンフィード開始後1時間で98.5%となり、その後4000時間の運転により93.1%となった。
【0063】
実施例2:
母液濃縮塔(13c)の留出液の一部をライン(13d)から系外に排出するのを取り止めた以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、反応器(2)に供給する原料中のイソプロピルフェノールの濃度は0.8重量%で安定した。アセトンの転化率は、アセトンフィード開始後1時間で98.5%となり、その後、4000時間の運転により91.8%となった。
【0064】
実施例3:
蒸留塔(4)の留出液からイソプロピルフェノールを系外に排出するのを取り止めた以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、反応器(2)に供給する原料中のイソプロピルフェノールの濃度は1.2重量%で安定した。アセトンの転化率は、アセトンフィード開始後1時間で98.5%となり、その後、4000時間の運転により90.4%となった。
【0065】
実施例4:
反応原料としてメタノールを650重量ppm含有するアセトンを使用した他は、実施例1と同様の操作を行ったところ、反応器(2)に供給する原料中のイソプロピルフェノールの濃度は0.4重量%で安定した。アセトン転化率は、アセトン供給開始後1時間で98.0%となり、その後4000時間の運転により88.6%となった。
【0066】
実施例5:
軽質分分離工程において、アルカリ分解塔(13a)の温度を250℃、分離される重質分を0.9kg/h(重質分パージ率2.3重量%)とし、母液濃縮塔(13c)塔頂からライン(13d)を経由してパージされるイソプロピルフェノールの量を母液濃縮塔(13c)に供給される量の20重量%とし、蒸留塔(4)塔頂から抜出されるイソプロピルフェノールの量を蒸留塔(4)に供給される量の2.5重量%とした他は、実施例1と同様の操作を行ったところ、反応器(2)に供給する原料中のイソプロピルフェノールの濃度は2.1重量%で安定した。アセトン転化率は、アセトン供給開始後1時間で98.5%となり、その後4000時間の運転により88.3%となった。
【0067】
比較例1:
実施例1において、アルカリ分解による反応蒸留条件を変更し、250℃にて反応・蒸留を行った以外は、実施例1と同様の条件で運転を行った。アルカリ分解温度が実施例1よりも高かったため、実施例1と比較してアルカリ分解がより進行し、塔底部より除去される重質分の量は0.8kg/h(重質分パージ率2.3重量%)と減少した。運転開始から250時間で系内の不純物量は安定し、その後4000時間まで変化はなかった。その際の反応器(2)に供給する原料中のイソプロピルフェノールの濃度は6.3重量%であった。アセトン転化率はアセトンフィード開始後1時間で98.5%となり、その後4000時間の運転により80.9%となってアセトン添加率は大きく減少し、スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒の劣化が顕著に認められた。
【0068】
比較例2:
反応原料としてメタノールを650重量ppm含有するアセトンを使用した他は、比較例1と同様の操作を行ったところ、反応器(2)に供給する原料中のイソプロピルフェノールの濃度は6.3重量%で安定した。アセトン転化率は、アセトン供給開始後1時間で97.5%となり、その後4000時間の運転により71.1%となった。
【0069】
【表1】

【0070】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読みとれる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、その様な変更を伴う場合も本発明の技術的範囲であると理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のビスフェノールAの製造方法を示すフロー図である。
【図2】実施例1で使用したパイロットを示すフロー図である。
【符号の説明】
【0072】
1a:メタノール除去装置
2:反応器
4:蒸留塔
5:晶析器
6:固液分離器
7:再溶解器
8:再晶析器
9:固液分離及びリンスシステム
11:結晶アダクト分解装置
12:精製器
13a:アルカリ分解塔
13b:再結合反応器
13c:母液濃縮塔
14:タンク
20:分離システム
20a:精製器
22:フェノール貯留タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性イオン交換樹脂触媒の存在下に原料成分のアセトンとフェノールとを反応させてビスフェノールA及びフェノ−ルを含む反応混合物を得る反応工程、反応混合物をビスフェノールAを含む成分と未反応アセトンを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程、ビスフェノールAを含む成分をビスフェノールAを主成分とする物質流と、フェノール及び反応副生物を主成分とする母液とに分離するビスフェノールA分離工程、分離された母液の少なくとも一部をアルカリの存在下での加熱処理および蒸留により軽質分と重質分とに分離する軽質分分離工程、分離された軽質分を酸性イオン交換樹脂触媒の存在下で処理して軽質分中のフェノールとイソプロペニルフェノールとを再結合させてビスフェノールAに変換する再結合反応工程、再結合反応液を反応工程に循環する再結合反応液循環工程とを少なくとも包含するビスフェノールAの製造方法であって、前記反応工程における反応液中のイソプロピルフェノールの含有量を4重量%以下に制御することを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
【請求項2】
反応工程の酸性イオン交換樹脂触媒がアルキルアミノチオールで修飾されている変性酸性イオン交換樹脂触媒である請求項1に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項3】
アルキルアミノチオールが2−アミノエタンチオール及び/又は2−(4−ピリジル)エタンチオールである請求項2に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項4】
軽質分分離工程において、当該軽質分分離工程に供給される母液の5〜20重量%に相当する量を重質分として分離する請求項1〜3の何れか一項に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項5】
軽質分分離工程が、加熱処理に先立って、母液濃縮塔を有しており、当該母液濃縮塔から得られる軽質留出分の少なくとも一部がパージとして軽質分離工程から抜出されるに際し、母液濃縮塔に供給されるイソプロピルフェノールの5重量%以上が抜出される様になされている請求項1〜4の何れか一項に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項6】
低沸点成分分離工程において、供給されるイソプロピルフェノールの0.8重量%以上を低沸点成分と共に分離する請求項1〜5の何れか一項に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項7】
反応工程に供給される原料成分のアセトン中に含有されるメタノールの量が10〜500重量ppmである請求項1〜6の何れか一項に記載のビスフェノールAの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−224020(P2007−224020A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13825(P2007−13825)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】