説明

ビスホスホン酸の経口ゼリー状製剤

【課題】嚥下しやすく、1回/1週の用量でも白濁せず均一で、安定性、強度、及び溶出性に優れたビスホスホン酸類の経口ゼリー状製剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、ビスホスホン酸類、ゲル化剤、多価アルコール及び水を含む経口ゼリー状製剤であり、骨粗鬆症患者、特に嚥下能力が低下した高齢者や嚥下障害者にも嚥下しやすく、1回/1週の用量でも白濁せず均一で、安定性、強度、溶出性に優れた製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスホスホン酸類を含む経口ゼリー状製剤に関する。より詳しくは、易嚥下性を示し、優れた溶出性、物理的安定性及び均一性を併せ持ったビスホスホン酸類の経口ゼリー状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレンドロン酸を含むビスホスホン酸類は、その製剤として悪性腫瘍による高カルシウム血症の治療を目的とした注射剤の他に、経口剤として骨粗鬆症の治療を目的とした錠剤が上市されている。骨粗鬆症治療の場合、1回/1日または1回/1週の服用が必要であるところ、骨粗鬆症は閉経後の女性に起きやすいので高齢で嚥下機能が低下した患者が多く、製剤の服用性は患者にとって重要である。
【0003】
錠剤は、嚥下能力が低下した高齢者や嚥下障害者には服用性が良いとはいえない剤形であり、さらには口腔内や咽頭部への張り付きが懸念される剤形である。そこで、これらの患者にとって服用しやすい固形製剤として、口中の唾液で速やかに崩壊や溶解するタイプの錠剤も開発されている。しかしながら、高齢者又は嚥下障害者の多くは、唾液分泌機能低下による口渇を伴うため、口中の唾液で崩壊または溶解するタイプの錠剤も、そのような患者にとっては服用性が向上した剤形とは言い難い。
【0004】
また、ビスホスホン酸類の経口製剤は、起床後すぐに服用する必要があることから、他の錠剤と区別がつきにくいと服用コンプライアンスが低下する可能性がある。
このように、ビスホスホン酸類の経口製剤として、服用性がより向上した剤形が望まれる。
服用性が向上した剤形として、経口ゼリー状製剤(例えば特許文献1)が知られており、ビスホスホン酸類のものとして分散性に優れたビスホスホン酸のゲル剤(特許文献2)の開示がある。
【0005】
一般に経口ゼリー状製剤はカラギーナン等のゲル化剤によりゼリー状製剤となる。そして、このゲル化剤は金属イオンによりゲル化が促進され、製剤中にこれら金属イオンを含むことが好ましいとされる(特許文献1)。一方、ビスホスホン酸類は、その水溶液中の微量の金属イオンにより不溶性の析出物を生じることが一般に知られている(特許文献3)。この析出物は、製剤中の主薬含量均一性や溶出性等、製剤の品質を不良とするので好ましくない。従ってビスホスホン酸類のゼリー状製剤化には本質的に課題がある。
【0006】
また、特許文献2の製剤中のアレンドロン酸ナトリウム(4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸一ナトリウム三水和物)の濃度は0.5重量%と低く、服用コンプライアンスが高い1回/週製剤の用量である45.68mgのアレンドロン酸ナトリウム(アレンドロン酸として35mg)を含有させようとすると、製剤として10g程度までの多量の服用が必要で現実的でない。一方で現実的な製剤服用量(1〜3g)を保ちつつアレンドロン酸の濃度を上げると、アレンドロン酸が析出し不均一となり、医薬品としての有効性や安全性の保証ができなくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−28028号公報
【特許文献2】特開2009−7262号公報
【特許文献3】特表平10−504574号公報
【特許文献4】特開2000−256181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、嚥下能力が低下した高齢者や嚥下障害者にも嚥下しやすく、1回/1週の用量でも均一で、安定性、強度、及び溶出性に優れたビスホスホン酸類の経口ゼリー状製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を踏まえて鋭意研究した結果、アレンドロン酸、ゲル化剤、多価アルコール及び水を含む経口ゼリー状製剤とすることで、骨粗鬆症患者、特に嚥下能力が低下した高齢者や嚥下障害者にも嚥下しやすく、1回/1週の用量でも均一で、安定性、強度、溶出性に優れた製剤の提供が可能となることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は下記である。
(1)ビスホスホン酸、ゲル化剤、多価アルコール、及び水を含む、骨粗鬆症治療又は予防のための経口ゼリー状製剤。
(2)増粘剤をさらに含み、ゲル化剤と増粘剤の組み合わせがカラギーナンとカロブビーンガムである(1)に記載の経口ゼリー状製剤。
(3)ビスホスホン酸の水に対する割合が、当該ビスホスホン酸の20℃における溶解度以上溶解度の5倍以下である(1)に記載の経口ゼリー状製剤。
(4)ビスホスホン酸の水に対する割合が、3〜12重量%である(1)又は(2)に記載の経口ゼリー状製剤。
(5)ビスホスホン酸の製剤に対する割合が、2〜7重量%である(1)から(4)のいずれかに記載の経口ゼリー状製剤。
(6)多価アルコールがグリセリンである(1)から(5)のいずれかに記載の経口ゼリー状製剤。
(7)グリセリンの含量が14重量%以上である(6)に記載の経口ゼリー状製剤。
(8)ビスホスホン酸がアレンドロン酸である(1)から(7)のいずれかに記載の経口ゼリー状製剤。
(9)アレンドロン酸がアレンドロン酸ナトリウムである(8)に記載の経口ゼリー状製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、骨粗鬆症患者、特に嚥下能力が低下した高齢者や嚥下障害者にも嚥下しやすい経口ゼリー状製剤を提供することができる。また、本発明の製剤は、1回/1週の用量でも均一で安定性、強度、及び溶出性に優れたビスホスホン酸類の経口用ゼリー状製剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】日本薬局方溶出試験第1液及び薄めたMcIlvaineの緩衝液(pH7.5)における実施例1で調製したゲルからのアレンドロン酸の溶出を示すグラフである。
【図2】アレンドロン酸ナトリウムを含むゼリー剤のグリセリン濃度とゼリー強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられるビスホスホン酸類の例としては、アレンドロン酸、イバンドロン酸、ミノドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、ゾロドロン酸等が挙げられる。特に、本発明においてはアレンドロン酸が好ましく、アレンドロン酸としては、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸が好ましい。
【0014】
アレンドロン酸は、薬剤上許容可能な塩と誘導体も本発明で有用である。塩の非限定例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、及びモノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−C〜C30アルキル置換アンモニウム等からなる群の中から選択されるものが挙げられる。好ましい塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、又はアンモニウム塩である。誘導体の非限定例としてはエステル、水和物及びアミドからなる群から選択されるものが挙げられる。本発明のアレンドロン酸は、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸一ナトリウム三水和物として含有するのが好ましい。
【0015】
本発明のビスホスホン酸類製剤が適用される疾患は、骨吸収の異常を伴う疾患であり、例えば骨粗鬆症が挙げられる。
本発明の製剤の服用頻度は、通常1日1回〜3週に1回であって、より好ましくは週1回である。
【0016】
本発明に用いられるビスホスホン酸類の含量は、その種類により異なるが、アレンドロン酸の場合、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸一ナトリウム三水和物として、製剤に対して0.3〜7重量%、好ましくは2〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%、更により好ましくは2〜3重量%である。水に対して、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸一ナトリウム三水和物として、0.5〜12重量%、好ましくは3〜12重量%、より好ましくは3〜8重量%、更により好ましくは3〜5重量%である。これより低いと製剤としての投与重量が多くなり服用性上好ましくなく、高いとアレンドロン酸が析出し、製剤が均一性、安定性や溶出性等の点で不良となり好ましくない。
【0017】
本発明に用いられるゲル化剤は、カラギーナン、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、マンナン、コンニャク、コンニャクマンナン、グルコマンナン、キトサン、キサンタンガム、タマリンド種子多糖類、ジェランガム、カラヤガム、もしくはカシアガム、またはこれらの2種以上の組み合わせであり、中でもカラギーナンが好ましい。カラギーナンの中でも、特にカッパ、又はカッパ及びイオタタイプのカラギーナンの組み合わせが好ましい。カラギーナンは種々の方法で製造されたものを用いることができるが、ビスホスホン酸はカルシウムやマグネシウムと不溶性の塩を形成することから、中でもカルシウムイオンやマグネシウムイオンを使用せずに製造されたものが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるゲル化剤の含量は、その種類によるが、カラギーナンの場合、製剤に対して、0.02〜5.0重量%、好ましくは0.03〜3.0重量%、より好ましくは0.05〜1.5重量%である。また、水に対して、カラギーナンの場合、0.03〜8.0重量%、好ましくは、0.05〜5.0重量%、より好ましくは0.08〜2.5重量%である。
【0019】
本発明に含まれる多価アルコールはグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。中でもグリセリンが好ましく、その添加量は製剤に対して、5〜50重量%、好ましくは14〜20重量%、より好ましくは14.5〜20重量%、更に好ましくは14.6〜20重量%、更により好ましくは15.0〜20重量%である。これより高いとゼリー状とならず、低いとゼリー強度が急激に低下し、溶出性も不良となる傾向があるので、好ましくない。
【0020】
本発明の製剤における水分含量は、50〜70重量%、特に55〜65重量%が好ましい。これより高いとゲル化が不十分となりゼリー状製剤として必要な物性(強度、離水率等)を保てなくなり、低いと製剤の均一性が保てなくなるので、好ましくない。
【0021】
上記製剤とすることにより、ビスホスホン酸類の水に対する含量を、各ビスホスホン酸類の水への溶解度以上にしても、ビスホスホン酸類は析出せず、均一性、安定性や溶出性等を良好に維持することが可能となる。アレンドロン酸ナトリウム(4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸一ナトリウム三水和物)の場合、水への溶解度は26.7mg/g(20℃)であるが、本発明の製剤においては、4.2倍もの112.02mg/g(20℃)でも析出は認められないことが確認された。すなわち、本発明の製剤では、ビスホスホン酸の水に対する割合が、当該ビスホスホン酸の20℃における溶解度以上、溶解度の5倍以下とすることができる。好ましくは、溶解度以上、溶解度の4.2倍以下である。
【0022】
本発明の製剤は、アレンドロン酸ナトリウムの製剤に対する割合を0.3〜7重量%、好ましくは2〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%、更により好ましくは2〜3重量%、水に対する割合を0.5〜12重量%とすることができ、これは前述のビスホスホン酸のゲル剤の先行技術における製剤に対する割合0.5%(特許文献2の実施例1〜5)の14倍程度までの濃度である。
【0023】
本発明の製剤は、1回/1週間の用量(45.68mg、アレンドロン酸として35mg)程度を、通常の水への溶解度以上に溶かすことが可能となるので、服用しやすい製剤量程度(1〜3g)中に医薬品としての品質を維持したまま含有させることができる。
【0024】
本発明の製剤は、ビスホスホン酸類、ゲル化剤、多価アルコール及び水を含有すれば、経口ゼリー状製剤の品質としてほぼ満足でありうる。さらに成形性を高めたり、強度を保持したり、溶出性を高めたりする等の、より良好な品質を得るために、任意の成分を含有させることができる。任意成分としては、例えば、増粘剤、pH調節剤、防腐剤、甘味剤などが挙げられる。
【0025】
本発明の製剤は、前記任意成分のうち、特に、増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤を含むことによって、より溶出性と物理的安定性に優れ、より高濃度なビスホスホン酸の溶解が可能となる。増粘剤としてはカロブビーンガム、アラビアゴム、トラガント、デキストリン、デキストラン、アラビノガラクタン、プルラン、カルメロースナトリウム、ヒドロプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コポリドン、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、もしくはマクロゴールなどが挙げられる。これらを単独で用いても良いし、2種類以上を組合せても良い。
【0026】
本発明において、前記増粘剤のうちカロブビーンガムが好ましい。その添加量は、組成物全量に対して、0.02〜3.0重量%、より好ましくは0.03〜2.0重量%、更に好ましくは0.05〜1.0重量%程度である。
【0027】
本発明はゲル化剤と増粘剤の組合せとして、より高濃度なビスホスホン酸の溶解が可能となるため、カラギーナンとカロブビーンガムが好ましい。その含量は組成物全体に対してカラギーナンが0.02〜5.0重量%、カロブビーンガムが0.02〜3.0重量%、より好ましくはカラギーナンが0.03〜3.0重量%、カロブビーンガムが0.03〜2.0質量%、更に好ましくはカラギーナンが0.05〜1.5重量%、カロブビーンガムが0.05〜1.0重量%程度である。
【0028】
本発明は前記任意成分のうち、pH調節剤を必要であれば含むことが好ましい。製剤のpHは3.8〜7.5が好ましく、5.0〜6.0がより好ましい。pH調節剤としては、具体的にはクエン酸とその塩、リン酸とその塩、希塩酸、酒石酸、dl‐リンゴ酸又はコハク酸等の有機酸塩が挙げられる。
前記したように、本発明のゼリー状組成物には、味、香り、口当たり及び飲みやすさ等の性質を調整する目的で、甘味料、香料、防腐剤などを含有することができる。
【0029】
甘味料としては、D−ソルビトール、果糖、精製白糖、パラチノース、トレハロース、オリゴ糖、アスパルテーム、異性化糖、果糖、黒砂糖、サッカリン、サッカリンナトリウム、アマチャ、アマチャ末、ステビオシド、カンゾウ、カンゾウエキス、ブドウ糖、水アメ、アメ粉、還元麦芽糖水アメ、寒梅粉等が挙げられ、香料としては、ウイキョウ、ウイキョウ油、オレンジ、オレンジエキス、オレンジエッセンス、オレンジ油、ハッカ水、ハッカ油、ハチミツ、d−ボルネオール、dl−メントール、l−メントール、ユーカリ油、ラベンダー油、レモン油、ローズ油、シュガーフレーバー、バニラフレーバー、バニリン、チョコレートフレーバーA22736、フルーツフレーバー、チェリーフレーバー、エチルバニリン、各種の果汁等が挙げられ、防腐剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、ソルビン酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル等の医薬品添加物として認められている防腐剤が挙げられる。これらの添加量は各々、内服製剤に対して医薬品添加物として使用実績的に認められている量の範囲に基づいて設定される。
【0030】
本発明のゼリー状製剤の強度は、排出したゼリー剤をφ10mmの圧縮治具でゼリーを破断させて、23℃にて強度を測定したとき、好ましくは1.5〜5.0N、より好ましくは2.0〜5.0N、更に好ましくは3.0〜4.5Nである。これより低いと保存時あるいは取り扱い時の安定性が不良となり好ましくなく、高いと服用性が不良となり好ましくない。
【0031】
本発明の溶出性は、第15改正日本薬局方記載の溶出試験法(パドル法)に従って評価した。尚、溶出液には同じく第15改正日本薬局方に定める溶出試験第1液又は薄めたMcIlvaineの緩衝液(pH7.5)を用い、パドルの回転速度は50rpmを採用した。15分での溶出率はpH1.2で好ましくは65〜95%、より好ましくは70〜90%、更に好ましくは75〜85%程度、pH7.5で好ましくは65〜95%、より好ましくは70〜90%、更に好ましくは75〜85%程度である。
【0032】
本発明の製剤を保存する容器としては、密封性のある容器にて保存することが望ましい。中でも投与具などを用いずに簡便に服用可能なゼリー剤として、熱溶着可能なフィルムで形成され熱溶着により内部を封じた棒状の袋状容器が好ましいものとして挙げられる(例えば特許文献4)。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を記載する。ただし、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0034】
[参考例1]
アレンドロン酸ナトリウム(4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸一ナトリウム三水和物。以下実施例において同じ。)の水での飽和濃度を液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定し、溶解性を求めた。その結果、20±5℃での溶解度は26.7mg/mlであった。
【0035】
[実施例1]
アレンドロン酸ゼリー剤を以下の手順に従って、表1に示す分量で調製した。精製水中に37.34mg/g相当のアレンドロン酸ナトリウム、グリセリン、クエン酸ナトリウムを攪拌しながら加え、加温して溶解させた。これにカラギーナン、カロブビーンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、その他の成分を加え、80℃に加温して溶解させた。なお、カラギーナンはカルシウムイオンやマグネシウムイオンを使用せずに製造されたものを用いた。このように得られたゼリー状医薬組成物を容器に2g充填して、アレンドロン酸ゼリー剤を得た。
性状は無色〜微黄色の透明なゼリー剤であった。排出したゼリー剤をφ10mmの圧縮治具でゼリーを破断させたときの強度(ゼリー強度)は、3.46Nであった(表1)。溶出性は日局1液での15分の溶出率は80%、pH7.5では78%となった(図1)。
水への溶解度(26.7mg/g)を超える37.34mg/gのアレンドロン酸ナトリウムが含まれているにも関わらず、透明なゼリー剤であった。
【0036】
[実施例2]ゲル化剤低含量製剤
実施例1を基に、ゲル化剤低含量製剤として、カラギーナン0.4%、カロブビーンガム0.2%、グリセリン10%、精製水65.75%に変更し、同様の方法でゼリー剤を調製したところ、日局1液での15分の溶出率は98%(pH7.5では86%)と非常に速い溶出性を示したが、実施例1と比較して、ゼリー強度が1.1Nと低下し、安定性が低下することが分かった。
【0037】
[実施例3]グリセリン低含量製剤
実施例1を基に、ゲル化剤高含量製剤として、カラギーナン0.7%、カロブビーンガム0.3%、グリセリン10%、精製水65.44%に変更し、同様の方法でゼリー剤を調製したところ、ゼリー強度は2.82Nと向上したが、日局1液での15分の溶出率が74%、pH7.5では69%と、実施例1と比較して溶出率は低下した。
【0038】
[実施例4〜7]ゼリー強度におけるグリセリン濃度の影響
実施例1の成分のグリセリンを、実施例4として13.5%、実施例5として14.0%、実施例6として14.5%、実施例7として20%に変更して、同様の方法でゼリー剤を調製した。詳細な組成は表1に示すとおりである。実施例1、4〜7の結果を実施例3の結果と併せて図2に示す。この結果から、グリセリン濃度14〜15%にゼリー強度における臨界点があり、これ以上でゼリー強度が良好となることが分かった。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例2、3の結果より、ゲル化剤を低含量にすると速く良好な溶出性を示したがゼリー強度が低下し、ゲル化剤を高含量にするとゼリー強度は良好であったが溶出性が遅くなった。なお、ゼリー強度を向上させるための他の方法として金属イオン濃度を上げる方法が知られているが(特許文献1)、アレンドロン酸が析出するので困難であった。しかしながら、実施例1、4〜7の結果から、驚くべきことに、ゼリー剤の強度はグリセリン濃度の影響を受け、グリセリンを増量することで良好な溶出性を維持しつつ、ゼリー強度が向上すること、そしてグリセリン濃度14%付近に臨界点が存在し、これを超えるとゼリー強度が急激に高くなることを見出した。
【0041】
[実施例8〜12]アレンドロン酸ナトリウムの析出抑制要因の検討
実施例1に従って表2に示す分量でアレンドロン酸ゼリー剤を調製した。各実施例のゼリー剤は、水への溶解度(26.7mg/g)を大きく超える、112.02mg/g相当のアレンドロン酸ナトリウムを含んでおり、これら調製したゼリー剤中でのアレンドロン酸ナトリウムの析出の有無を確認した。充填直後の性状は無色〜微黄色の透明なゼリー剤であった。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例8の結果から、ゲル化剤としてイオタカラギーナン及びカッパカラギーナン、増粘剤としてカロブビーンガムを含まない場合、製剤中全体に1mm〜1cm程度のアレンドロン酸ナトリウムの析出が無数に確認された。
実施例9では、アレンドロン酸ナトリウムの析出は確認されなかったのでゲル化剤としてイオタ及びカッパカラギーナン、増粘剤としてカロブビーンガムを含むゼリー剤ではアレンドロン酸ナトリウムの析出が抑制されることが確認された。
【0044】
実施例10〜12の結果から、ゲル化剤としてイオタ及びカッパカラギーナン、増粘剤としてカロブビーンガムの内、1種類を抜いた場合、アレンドロン酸ナトリウムの析出が確認された。しかしその析出は、製剤中に0.5mm〜2mm程度のアレンドロン酸ナトリウムが数個のみであり、これら3種類を含まなかった実施例8のゼリー剤に比べて、かなり低度な析出だった。
【0045】
実施例8〜12の結果から、ゲル化剤及び増粘剤の添加により、アレンドロン酸ナトリウムの析出が最も抑制されることが分かった。特にその組み合わせとして、ゲル化剤としてイオタ及びカッパカラギーナン、増粘剤としてカロブビーンガムとすることで、アレンドロン酸ナトリウムの析出抑制効果が著しく向上することを見出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスホスホン酸、ゲル化剤、多価アルコール、及び水を含む、骨粗鬆症治療又は予防のための経口ゼリー状製剤。
【請求項2】
増粘剤をさらに含み、ゲル化剤と増粘剤の組み合わせがカラギーナンとカロブビーンガムである請求項1に記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項3】
ビスホスホン酸の水に対する割合が、当該ビスホスホン酸の20℃における溶解度以上溶解度の5倍以下である請求項1に記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項4】
ビスホスホン酸の水に対する割合が、0.5〜12重量%である請求項1又は2記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項5】
ビスホスホン酸の製剤に対する割合が、0.3〜7重量%である請求項1から4のいずれかに記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項6】
多価アルコールがグリセリンである請求項1から5のいずれかに記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項7】
グリセリンの含量が14重量%以上である請求項6に記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項8】
ビスホスホン酸がアレンドロン酸である請求項1から7のいずれかに記載の経口ゼリー状製剤。
【請求項9】
アレンドロン酸がアレンドロン酸ナトリウムである請求項8に記載の経口ゼリー状製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46506(P2012−46506A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165607(P2011−165607)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】