説明

ビスマス系ガラス組成物およびビスマス系封着材料

【課題】480℃以上で一次焼成しても、失透することがなく、その後に供される二次焼成で良好な流動性および封着強度を確保することが可能なビスマス系ガラス組成物およびビスマス系封着材料を提供すること。
【解決手段】本発明のビスマス系ガラス組成物は、下記酸化物換算のモル%で、Bi 30〜50%、B 20〜35%、ZnO 10〜25%、BaO 1〜15%、BaO+SrO+MgO+CaO 3〜15%のガラス組成を含有し、且つモル分率でBi/B 1.0〜1.75(但し、1.75は含まない)、ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO) 1.0〜3.5の関係を満たすことに特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面表示装置や電子部品等の封着に好適なビスマス系ガラス組成物およびビスマス系封着材料に関し、特に、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称する)、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FEDと称する)、蛍光表示管(以下、VFDと称する)等の平面表示装置の封着および水晶振動子、ICパッケージ等の電子部品の封着に好適なビスマス系ガラス組成物およびビスマス系封着材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から平面表示装置等の封着材料としてガラスが用いられている。ガラスは、樹脂系の接着剤に比べ、化学的耐久性および耐熱性が優れるとともに、平面表示装置等の気密性を確保するのに適している。
【0003】
これらのガラスは、用途によっては機械的強度、流動性、電気絶縁性等の種々の特性が要求されるが、少なくとも平面表示装置等に使用される蛍光体の蛍光特性等を劣化させない温度で使用可能であることが要求される。それゆえ、上記特性を満足するガラスとして、ガラスの融点を下げる効果が極めて大きいPbOを多量に含有する鉛硼酸系ガラス(例えば、特許文献1参照)が広く用いられてきた。
【0004】
ところが、最近、鉛硼酸系ガラスに含まれるPbOに対して環境上の問題が指摘されており、鉛硼酸系ガラスからPbOを含まないガラスに置き換えることが望まれている。そのため、鉛硼酸系ガラスの代替品として、様々な低融点ガラスが開発されている。その中でも、特許文献2等に記載されているビスマス系ガラス(Bi−B系ガラスとも称される)は、化学耐久性、機械的強度等の諸特性において鉛硼酸系ガラスと同等の特性を有するため、その代替候補として期待されている。
【0005】
ところで、PDPに使用される封着材料は、以下のような工程を経る。まず、三本ロールミル等の混練装置を用いて、封着材料とビークルを均一に混合し、ペースト化する。一般的に、ビークルは、有機溶媒や樹脂等を含有しており、樹脂は、ガラスの軟化点以下の温度で良好に熱分解するニトロセルロースまたはアクリル樹脂等が使用される。次に、PDPの背面ガラス基板の外周縁部に作製されたペーストを塗布し、高温でビークル成分を熱分解または焼却して、一次焼成(グレーズ焼成、仮焼成)を行う。一次焼成は、ビークルに使用する樹脂が完全に熱分解する温度条件で行われる。さらに、封着材料の二次焼成(本焼成)が行なわれ、PDPの前面ガラス基板と背面ガラス基板を封着する。最後に、排気管を通してPDP内部を真空排気した後、希ガスを必要量注入して排気管を封止する。このようにしてPDPは作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−315536号公報
【特許文献2】特開平6−24797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、PDPの製造効率の向上を目的として、封着材料と蛍光体材料の一次焼成を同時に行う場合がある。ここで、蛍光体材料は、蛍光体粉末を有機溶媒や樹脂からなるビークルに均一に分散され、ペースト状に加工された後、使用に供される。一般的に、このビークルに使用される樹脂は、粘度特性等が良好なエチルセルロース等が使用されている。なお、エチルセルロースは、ニトロセルロースやアクリル樹脂等と比較して、分解温度が高く、熱分解性が劣っている。したがって、蛍光体材料と封着材料の一次焼成を同時に行う場合、その温度条件は、エチルセルロースの熱分解が十分に進行する条件とされる。また、PDPの製造効率向上の要請を満たすためには、エチルセルロースの熱分解を短時間で行う必要があり、一次焼成の条件は480℃以上で30分間程度とする必要がある。換言すると、一次焼成の温度条件が480℃未満であれば、エチルセルロースの熱分解に長時間を要し、PDPの製造効率を低下させるおそれがある。
【0008】
その一方で、蛍光体材料を分散するビークルに使用する樹脂として、熱分解性が良好な樹脂、例えばニトロセルロース等を用いる方法も考えられるが、そのような樹脂は粘性が十分ではなく、ペーストの粘性を十分に確保することが困難であり、蛍光体材料の塗布作業性が悪化するため、逆にPDPの製造効率を低下させるおそれがある。
【0009】
また、封着材料の一次焼成後に供される二次焼成は、蛍光体の蛍光特性を劣化させない温度で行われ、エネルギー効率等を考慮して、できるだけ低温で行われる。具体的には、封着材料の二次焼成の条件は、500℃以下、好ましくは450〜480℃で30分間程度とされている。
【0010】
ところで、従来の鉛硼酸系封着材料は、熱的安定性が良好であり、480℃以上で一次焼成した後にガラスに結晶が析出することがなく、さらに450〜480℃で二次焼成してもガラスに結晶が析出することがなかった。しかし、ビスマス系封着材料は、鉛硼酸系封着材料に比べ、安定に使用できる温度範囲が狭く、熱的安定性が劣っていた。つまり、480℃以上で一次焼成した後にガラスに結晶が析出することがなく、且つ450〜480℃で二次焼成してもガラスに結晶が析出することがないビスマス系封着材料を得ることができなかった。特に、ビスマス系封着材料の一次焼成を500℃以上とした場合、ガラスに結晶が析出し、その後に供される二次焼成で更に結晶が成長してしまう。その場合、ビスマス系封着材料は、二次焼成で流動性を確保することができないばかりか、二次焼成で封着材料が的確に潰れず、PDPの気密性が確保できないおそれもあった。また、ビスマス系封着材料の流動性が乏しいと、ガラス基板と封着材料の界面における反応も十分に進行せず、PDPの封着強度が乏しくなるといった問題もあった。
【0011】
また、特許文献2には、電子部品の封着等に使用可能なビスマス系封着材料が記載されている。しかし、このビスマス系封着材料は、鉛硼酸系封着材料と比較して、耐失透性が乏しく、特に、耐火性フィラー粉末を含有させた場合、失透性が顕著である。したがって、特許文献2に記載のビスマス系封着材料を使用すると、ビスマス系封着材料と蛍光体材料の一次焼成を同時に行った場合、つまり、480℃以上で焼成した場合、ビスマス系ガラスが失透し、その後の二次焼成で流動し難くなり、その結果、PDPの気密信頼性を確保することができなくなる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、480℃以上で一次焼成しても、失透することがなく、その後に供される二次焼成で良好な流動性および封着強度を確保することができるビスマス系ガラス組成物およびビスマス系封着材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、ビスマス系ガラスのガラス組成を所定範囲に規制するとともに、ZnOとアルカリ土類金属酸化物のモル比率(モル分率)を所定範囲に規制すると、480℃以上で一次焼成してもビスマス系ガラスに結晶が生じることがなく、且つ450〜480℃の二次焼成でビスマス系ガラスが良好に流動することを見出した。さらに、BiとBのモル比率を所定範囲に規制すると、PDPの焼成条件で好適に使用できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0014】
また、本発明のビスマス系ガラス組成物は、ビスマス系ガラスのガラス組成を所定範囲に規制しているため、鉛硼酸系封着材料と同等以上に熱的安定性を有しており、安定に使用できる温度範囲が極めて広範である。特に、一次焼成を500℃以上としても、ビスマス系ガラスに結晶が析出することがなく、且つその後に供される二次焼成で結晶が析出することはない。さらに、本発明のビスマス系ガラス組成物は、軟化点が低い特長も有しており、一次焼成を500℃以上としても、その後に供される450〜480℃の二次焼成で良好に流動することができる。
【0015】
具体的には、本発明のビスマス系ガラス組成物は、下記酸化物換算のモル%で、ガラス組成として、Bi 30〜50%、B 20〜35%、ZnO 10〜25%、BaO 1〜15%、BaO+SrO+MgO+CaO 3〜15%を含有し、且つモル比率でBi/B 1〜1.75(但し、1.75は含まない)、ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO) 1〜3.5の関係を満たすことに特徴付けられる。
【0016】
第二に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、Bが24.4〜35%(但し、24.4%は含まない)であることに特徴付けられる。
【0017】
第三に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、CuO 0〜10%、Fe 0〜10%を含有することに特徴付けられる。
【0018】
第四に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、実質的にPbOを含有しないことに特徴付けられる。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成内のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0019】
第五に、本発明のビスマス系封着材料は、上記のビスマス系ガラス組成物からなるガラス粉末45〜95体積%と、耐火性フィラー粉末5〜55体積%とを含有することに特徴付けられる。
【0020】
第六に、本発明のビスマス系封着材料は、耐火性フィラー粉末がコーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、酸化錫またはこれらの組合せであることに特徴付けられる。
【0021】
第七に、本発明のビスマス系封着材料は、PDPの封着に使用することに特徴付けられる。ここで、PDPの封着には、前面ガラス基板と背面ガラス基板の封着、排気管と背面ガラス基板の封着、場合よってはスペーサ−材の封着等が想定される。
【0022】
上記の構成を有するビスマス系封着材料は、鉛硼酸系封着材料と同等以上に熱的安定性を有しており、安定に使用できる温度範囲が極めて広範である。それ故、本発明のビスマス系封着材料は、480℃以上で一次焼成した後にビスマス系ガラスに結晶が析出することがなく、且つ450〜480℃で二次焼成してもビスマス系ガラスに結晶が析出することがない。特に、一次焼成が500℃以上であっても、ビスマス系ガラスに結晶が析出し、その後に供される二次焼成で更に結晶が成長するといった事態は生じない。したがって、本発明のビスマス系封着材料は、二次焼成で良好な流動性を確保することができるとともに、二次焼成で封着材料が的確に潰れることから、PDPの気密性を十分に確保することができる。
【0023】
また、本発明のビスマス系封着材料は、流動性が良好であるため、ガラス基板とビスマス系封着材料の界面における反応も十分に進行し、前面ガラス基板と背面ガラス基板の封着強度を顕著に上昇させることができる。その上、本発明のビスマス系封着材料は、流動性が良好であるため、的確な封着形状を確保することができ、ビスマス系封着材料と排気管およびビスマス系封着材料と背面ガラス基板の界面でのクラックの発生を有効に回避できる。
【0024】
さらに、本発明のビスマス系封着材料は、ビスマス系ガラスの軟化点が低いことに加え、熱的安定性が優れるため、失透を起因とする流動性の低下を生じることがなく、その結果、PDPの信頼性を確実に維持することができる。
【0025】
第八に、本発明のビスマス系タブレット(タブレットは、プレスフリット・ガラス焼結体・ガラス成型体等とも称される)は、ビスマス系封着材料を所定形状に焼結させたビスマス系タブレットであって、該ビスマス系封着材料が上述のビスマス系封着材料であることに特徴付けられる。なお、本発明のビスマス系タブレットは、特に形状は限定されないが、排気管の固定を想定した場合、リング状であることが好ましい。
【0026】
第九に、本発明のタブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部に、上述のビスマス系タブレットが取り付けられていることに特徴付けられる。ここで、本発明において、「排気管の先端部」とは、拡径化された排気管の表面部位を指し、拡径化された部分においてパネルと接する側の排気管底面および排気管外周側面を指す。また、ビスマス系タブレットは、排気管の先端部のみに接着される態様だけでなく、排気管の先端部の一部に接着される態様を含む。
【0027】
第十に、本発明のタブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部に、上述のビスマス系タブレットと、軟化点が520℃以上の高融点タブレットとが取り付けられており、且つビスマス系タブレットが拡径された排気管の先端部側に取り付けられ、高融点タブレットがビスマス系タブレットよりも後端部側に取り付けられていることに特徴付けられる。また、本発明でいう「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のタブレット一体型排気管を示す断面図である。
【図2】本発明のタブレット一体型排気管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のビスマス系ガラス組成物のガラス組成範囲を上記のように限定した理由は以下の通りである。なお、以下の%表示は、断りがある場合を除き、モル%を指す。Biは、ビスマス系ガラスの軟化点を低くするための主要成分であり、その含有量は30〜50%、好ましくは32〜50%、より好ましくは35〜45%、最も好ましくは35〜40%である。Biの含有量が30%より少ないと、ビスマス系ガラスの軟化点が高くなって低温、例えば450〜480℃程度の温度で流動性が乏しくなる。一方、Biの含有量が50%より多いと、480℃以上の一次焼成で失透しやすくなる。
【0030】
は、ガラス形成成分として必須であり、その含有量は20〜35%、好ましくは22〜35%、より好ましくは24.4〜35%(但し、24.4%は含まない)、更に好ましくは25〜33%、最も好ましくは25〜30%である。Bの含有量が20%より少ないと、ビスマス系ガラスのガラスネットワークが十分に形成されず、480℃以上の一次焼成で失透しやすくなり、その後に供される二次焼成で必要な流動性を確保し難くなる。一方、Bの含有量が35%より多いと、ビスマス系ガラスの粘性が高くなる傾向があり、二次焼成、例えば450〜480℃の温度で良好な流動性が得られ難くなり、結果としてPDPの封着強度および気密性が損なわれるおそれがある。
【0031】
ZnOは、一次焼成時の失透を抑制する効果があり、その含有量は10〜25%、好ましくは12〜22%、より好ましくは14〜20%、さらに好ましくは15〜20%である。ZnOの含有量が10%より少ないと、480℃以上の一次焼成で失透しやすくなり、その後に供される二次焼成で必要な流動性を確保し難くなる。また、ZnOの含有量が25%よりも多いと、ビスマス系ガラスの軟化点が高くなり、二次焼成で必要な流動性を確保し難くなる。
【0032】
BaOは、一次焼成時の失透を抑制する効果がある。BaOの含有量は1〜15%、好ましくは2〜15%、より好ましくは3〜13%、さらに好ましくは5〜10%である。BaOの含有量が1%より少ないと、一次焼成時の失透を抑制する効果が得られ難くなる。BaOの含有量が15%より多いと、他の成分とのバランスを維持できず、逆に一次焼成で失透しやすくなり、その後に供される二次焼成で必要な流動性を確保し難くなる。
【0033】
アルカリ土類金属酸化物の合量(BaO+SrO+MgO+CaO)は、一次焼成時の失透性に影響を及ぼす成分である。これらの含有量は合量で3〜15%、5〜15%、さらには7〜12%であることが好ましい。これらの成分の合量が3%未満であると、一次焼成時の失透を抑制する効果が得られにくくなる。また、これらの成分の合量が15%より多いと、ビスマス系ガラスの軟化点が高くなり、二次焼成、例えば450〜480℃でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなる。なお、SrO、MgO、CaOのそれぞれの含有量は、0〜5%、特に0〜3%であることが好ましい。SrO、MgO、CaOのそれぞれの含有量が5%より多くなると、二次焼成、例えば450〜480℃でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなる。
【0034】
モル比率Bi/Bは、ビスマス系ガラスの熱的安定性および流動性に大きく影響を及ぼす成分比率である。また、ビスマス系ガラスにおいて、BiとBは、その含有量が多いとともに、ガラスの骨格を形成する主要成分であることから、ビスマス系ガラスの特性を決定付ける成分と考えられる。Biは、ビスマス系ガラスの軟化点を低下させる成分であり、Bに対しBiの含有量が多くなるにつれて、ビスマス系ガラスの軟化点が低下する傾向がある。その一方、Bに対しBiの含有量が多くなるにつれて、ビスマス系ガラスの熱的安定性が乏しくなる傾向がある。また、Bは、ビスマス系ガラスの熱的安定性を向上させる成分であり、Biに対しBの含有量が多くなるにつれて、ビスマス系ガラスの熱的安定性が向上する。その一方、Biに対しBの含有量が多くなるにつれて、ビスマス系ガラスの軟化点が上昇する。したがって、BiとBは、その特性がトレードオフの関係にあり、Bi/Bのモル比率を所定範囲に規制すれば、ビスマス系ガラスの軟化点と熱的安定性を最適化することが可能となり、480℃以上で一次焼成した後にビスマス系ガラスに結晶が析出することがなく、且つ450〜480℃で二次焼成してもビスマス系ガラスに結晶が析出することがないとともに、450〜480℃の二次焼成で流動性が良好なガラスを得ることができる。本発明のビスマス系ガラス組成物において、モル比率Bi/Bは1〜1.75(但し、1.75は含まない)、好ましくは1〜1.7、より好ましくは1〜1.6、更に好ましくは1.2〜1.6である。モル比率Bi/Bが1より小さいと、ガラスの熱的安定性は向上するが、二次焼成、例えば450〜480℃でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなるとともに、PDPの気密性を確保することが困難となる。モル比率Bi/Bが1.75以上であると、ビスマス系ガラスの軟化点は低下するが、480℃以上の一次焼成で失透しやすくなり、その後に供される二次焼成で必要な流動性を確保し難くなる。
【0035】
モル比率ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)は、ビスマス系ガラスの熱的安定性に顕著な影響を及ぼす成分比率である。また、ZnOおよび(BaO+SrO+MgO+CaO)は、ビスマス系ガラスのガラスネットワークを修飾し、ビスマス系ガラスの熱的安定性に影響を及ぼし得るが、アルカリ土類金属酸化物の合量よりもZnOの含有量が多い一定の範囲内で熱的安定性が極めて良好となる。すなわち、ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)を所定範囲に規制すれば、軟化点を上昇させることなく、熱的安定性を向上させることが可能となる。本発明のビスマス系ガラス組成物において、モル比率ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)は1〜3.5、好ましくは1.1〜3.2、より好ましくは1.2〜3、更に好ましくは1.4〜2.7、最も好ましくは1.5〜2.5である。モル比率ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)が1より小さいと、ビスマス系ガラスが熱的に不安定になり、480℃以上の一次焼成で失透しやすくなり、その後に供される二次焼成で必要な流動性を確保し難くなる。モル比率ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)が3.5より大きいと、軟化点が高くなり、二次焼成、例えば450〜480℃の温度でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなるとともに、PDPの気密性を確保することが困難となる。
【0036】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、上記成分以外にも以下の成分等を任意成分として含有させることができる。
【0037】
CuOは、一次焼成時の失透を抑制する効果がある成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは1〜8%である。CuOの含有量が10%よりも多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆に結晶の析出速度が極めて大きくなって、即ち失透傾向が増大して流動性が悪くなる傾向がある。
【0038】
Feは、ビスマス系ガラスの熱的安定性を向上させ、一次焼成での失透を抑制する成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.3〜5%である。Feの含有量が10%より多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆にビスマス系ガラスが熱的に不安定になって480℃以上の温度で一次焼成した場合、失透しやすくなる傾向がある。
【0039】
Alは、ビスマス系ガラスの熱的安定性を向上させ、一次焼成での失透を抑制する成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.1〜5%、更に好ましくは0.1〜1%である。Alの含有量が10%より多いと、ビスマス系ガラスの軟化点が高くなりすぎ、二次焼成、例えば450〜480℃の温度でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなるとともに、PDPの気密性を確保することが困難となる。
【0040】
Sbは、一次焼成時の失透を防止する効果がある成分である。また、二次焼成時の失透も生じにくくする効果がある。Sbの含有量は0〜5%、好ましくは0.01〜5%、より好ましくは0.1〜1.5%である。Sbの含有量が5%より多いと、ビスマス系ガラスの溶融工程において、溶融ガラスが白金容器と合金を形成する傾向が顕著となり、白金は高価な耐火性金属であることから、結果としてビスマス系ガラスの製造コストが高騰する。
【0041】
SiOは、耐候性を高める目的で5%まで添加することができる。SiOの含有量が5%より多いと、ビスマス系ガラスの軟化点が高くなり、二次焼成、例えば450〜480℃の温度でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなる。
【0042】
Li、Na、KおよびCsの酸化物は、ビスマス系ガラスの軟化点を低くする成分であるが、ビスマス系ガラスの失透を促進する作用を有するため合量で2%以下に規制することが好ましい。
【0043】
は、失透を抑制する成分であるが、その含有量が1%よりも多いと分相する傾向が発現するため好ましくない。
【0044】
MoO、La、YおよびCeOは、ビスマス系ガラスを熱的に安定化する成分であるが、これらの合量が3%よりも多いと、ビスマス系ガラスの軟化点が高くなり、二次焼成、例えば450〜480℃の温度でPDPの封着に必要な流動性を確保し難くなる。特に、ビスマス系ガラスの熱的安定性を向上させる観点から、CeOの含有量は0.01〜3%が好ましく、0.1〜2%がより好ましく、0.2〜1%が更に好ましい。
【0045】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、PbOを含有する態様を排除するものではないが、既述の通り、環境上の理由からPbOは実質的に含有しないことが好ましい。また、ガラスにPbOを含有させると、ガラス中に存在するPb2+が拡散して電気絶縁性を低下させる場合がある。
【0046】
以上のガラス組成を有するビスマス系ガラス組成物は、480℃以上で一次焼成しても失透せず、さらに450〜480℃の温度で二次焼成しても結晶が析出しない極めて熱的安定性が高く、使用可能な温度範囲が広範な非結晶性のガラスである。また、このビスマス系ガラス組成物は、30〜300℃における熱膨張係数が100〜120×10−7/℃程度である。そのため、このビスマス系ガラス組成物とほぼ同じ熱膨張係数を有する材料であれば、耐火性フィラー粉末を添加することなく、ビスマス系ガラス組成物からなる粉末を単独でビスマス系封着材料として用いることができるとともに、450〜480℃等の低温で封着することができる。
【0047】
また、ビスマス系ガラス組成物と熱膨張係数の適合しない材料、例えば高歪点ガラス基板(85×10−7/℃)、ソーダ板ガラス基板(90×10−7/℃)等の封着を行う場合、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末とを混合して複合材料とし、これをビスマス系封着材料として用いればよい。ビスマス系封着材料の熱膨張係数は、被封着物に対して10〜30×10−7/℃程度低く設計することが重要である。これは、封着後にビスマス系封着材料にかかる歪をコンプレッション(圧縮)側にしてビスマス系封着材料の破壊を防ぐためである。また、熱膨張係数の調整以外にも、例えば機械的強度の向上のために耐火性フィラー粉末を添加することもできる。
【0048】
耐火性フィラー粉末を混合する場合、その混合割合は、ビスマス系ガラス粉末が45〜95体積%、耐火性フィラー粉末5〜55体積%であることが好ましく、ビスマス系ガラス粉末が50〜85体積%、耐火性フィラー粉末15〜50体積%であることがより好ましく、ビスマス系ガラス粉末が20〜80体積%、耐火性フィラー粉末20〜40体積%であることが更に好ましい。両者の割合をこのように規定した理由は、耐火性フィラー粉末が5体積%より少ないと、上記した効果が得られにくい傾向があり、55体積%より多いと、流動性が悪くなり、気密封着等できなくなるおそれがあるからである。
【0049】
耐火性フィラー粉末は、ビスマス系ガラス粉末に添加しても熱的安定性を低下させない程度に反応性が低いことが要求され、用途によっては熱膨張係数が低く、機械的強度が高いことが要求される。また、耐火性フィラー粉末は、環境的観点から、実質的にPbOを含有させないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有させない」とは、耐火性フィラー粉末中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0050】
耐火性フィラー粉末として、種々の材料が使用可能であるが、具体的には、コーディエライト、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英固溶体、ウイレマイト、アルミナ、[AB(MO]の基本構造をもつ化合物(なお、ここでA、B、Mとして、例えば下記成分が挙げられる)、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの混合物を用途に応じて適宜選択し使用すればよい。
【0051】
上記耐火性フィラー粉末の中でも、コーディエライトとウイレマイトがより好ましい。コーディエライトは、ビスマス系ガラスの熱的安定性を低下させる傾向が最も小さく、一次焼成の温度条件が高い場合、例えば500℃以上であってもビスマス系ガラスに失透が生じにくくなる。また、ウイレマイトは、ビスマス系ガラスの流動性を低下させる傾向が最も小さいことから、ウイレマイトを耐火性フィラー粉末として使用すれば、ビスマス系封着材料が二次焼成で的確に潰れ、PDPの気密性を十分に確保できるとともに、ガラス基板とビスマス系封着材料の界面における反応が十分に進行し、前面ガラス基板と背面ガラス基板の封着強度を顕著に向上させることができる。特に、排気管と背面ガラス基板の封着において、二次焼成でビスマス系封着材料が良好に流動することにより、排気管の封着にとって的確な封着形状を形成することができ、結果として、ビスマス系封着材料と排気管およびビスマス系封着材料とガラス基板間の界面で発生するクラックを抑止することができる。さらに、コーディエライトおよびウイレマイトは、低膨張であり、機械的強度にも優れる特長も有している。
【0052】
酸化錫は、ビスマス系封着材料の機械的強度を向上させる目的で適量添加することが好ましい。
【0053】
また、耐火性フィラー粉末は、アルミナ、酸化亜鉛、ジルコン、チタニア、ジルコニア等によって被覆すると、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末との間での反応を抑制できるため好ましい。特に、アルミナは融点が高く、ビスマス系ガラスと反応しにくいため好ましい。
【0054】
本発明のビスマス系封着材料は、良好に使用可能な温度範囲が極めて広範であり、換言すればビスマス系封着材料の軟化点と結晶化析出温度の温度差(ΔT)が大きい。したがって、本発明のビスマス系封着材料は、PDP用途だけではなく、複数の熱処理工程を経る平面表示装置や電子部品等に好適であることは言うまでもない。具体的な用途としては、(I)PDPの隔壁や誘電体層の形成材料、(II)VFDの封着材料、絶縁層の形成材料、(III)陰極線管(CRT)等のディスプレイの封着材料、(IV)磁気ヘッド−コア同士またはコアとスライダーの封着材料、(V)水晶振動子パッケージ、半導体パッケージ等の封着材料等が挙げられる。
【0055】
ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末とを混合したビスマス系封着材料は、粉末のまま封着材料として使用しても良いが、ビスマス系封着材料とビークルとを均一に混練してペーストとして使用すると取り扱いやすい。ビークルは、主に有機溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
【0056】
有機溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0057】
樹脂としては、アクリル樹脂、エチルセルロ−ス、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル樹脂、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0058】
本発明のビスマス系封着材料は、所定形状に焼結し、ビスマス系タブレットとするのが好ましい。すなわち、本発明のビスマス系タブレットは、流動性と耐熱性が良好であるため、PDPの排気管の固定に好適である。本発明のビスマス系封着材料をタブレットに加工すれば、排気管の取り付けにあたって、排気設備への接続を容易にできるとともに、排気管の傾きをパネルに対して低減することができ、すなわちパネル面に対し垂直に取り付けやすくなり、更には平面表示装置の発光能力を維持しつつ気密性が保たれるように取り付けることができる。
【0059】
本発明のビスマス系タブレットは、リング状であることが好ましい。このようにすれば、排気管を挿入しやすくなり、排気管の先端部をパネルの排気孔の位置に合わせやすくなるとともに、クリップ等で固定しやすくなる。さらに、ビスマス系タブレットの封着温度で焼成を行い、ビスマス系タブレットを軟化させることにより、容易に排気管をパネルに取り付けることができる。
【0060】
本発明のビスマス系タブレットは、以下のように複数回の熱工程を別途独立に経て、製造する。まず、ビスマス系材料にバインダーや溶剤を添加し、スラリーを形成する。その後、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、顆粒を作製する。その際、顆粒は、溶剤が揮発する程度の温度(100〜200℃程度)で熱処理される。さらに、作製された顆粒は、所定の寸法に設計された金型に投入され、リング状等に乾式プレス成形され、プレス体が作製される。次に、ベルト炉等の焼成炉にて、このプレス体に残存するバインダーを分解揮発させるとともに、ビスマス系ガラスの軟化点程度の温度で焼成することにより、ビスマス系タブレットが作製される。また、焼成炉での焼成は、複数回行われる場合がある。焼成を複数回行うと、ビスマス系タブレットの強度が向上し、ビスマス系タブレットの欠損、破壊等を効果的に防止できる。なお、本発明のビスマス系タブレットは、熱的安定性が良好であるため、ビスマス系ガラスの軟化点付近の焼成を複数回行っても、ビスマス系ガラスに失透が生じることはない。
【0061】
本発明のビスマス系タブレットは、拡径された排気管の先端部に取り付けてタブレット一体型排気管として用いることが好ましい。以上のような構成にすれば、パネル、ビスマス系タブレットおよび排気管の3つの部品を排気孔での中心位置合わせを同時に行う必要がなく、排気管取り付け作業を簡略化することができる。このようなタブレット一体型排気管を製造するためには、排気管の一端にビスマス系タブレットを接触させた状態で焼成し、ビスマス系タブレットを排気管の先端部に接着させる必要がある。このような場合、一般に排気管を治具により固定し、この状態の排気管にビスマス系タブレットを挿入し焼成する方法を採用することができる。排気管を固定する治具は、ビスマス系タブレットが融着しない材質を用いることが好ましく、例えば、カーボン治具等が使用可能である。また、排気管とビスマス系タブレットの接着は、ビスマス系ガラスの軟化点付近で5〜10分程度の短時間で行えばよい。さらに、本発明のビスマス系タブレットは、流動性が良好であるため、被封着物とビスマス系タブレットの封着強度が良好である。なお、本発明のタブレット一体型排気管は、ビスマス系タブレットの熱的安定性が良好であるため、タブレット一体型排気管の組み立ての際、ビスマス系ガラスに失透が生じることはない。
【0062】
排気管としては、アルカリ金属酸化物を所定量含有させたSiO−Al−B系ガラスが好適であるが、特に日本電気硝子株式会社製の商品グレード「FE−2」が好適である。この排気管は、熱膨張係数が85×10−7/℃、耐熱温度が550℃であり、寸法が、例えば外径5mm、内径3.5mmである。また、排気管の先端部を拡径化するのが好ましく、先端部にフレア部またはフランジ部を形成するのが好ましい。排気管の先端部を拡径化する方法として、種々の方法を採用することができる。その中でも、排気管の先端部を回転させながらガスバーナーを用いて加熱し、数種類の治具を用いて所定の形状に加工する方法が量産性に優れるため好ましい。
【0063】
図1にこのような構成のタブレット一体型排気管の一例を示す。図1は、タブレット一体型排気管の断面図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管のパネル側の先端部にビスマス系タブレット2が接着されている。
【0064】
本発明のタブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部にビスマス系タブレットと、520℃以上の軟化点を有する高融点タブレットとが取り付けられており、且つビスマス系タブレットを拡径された排気管の先端部側に取り付けて、高融点タブレットをビスマス系タブレットよりも後端部側に取り付けることが好ましい。タブレット一体型排気管をこのような構成にすれば、ビスマス系タブレットが排気管の先端部側に取り付けられているので、パネル等に排気管を取り付ける際にパネル等と接触する面積は、排気管だけの場合よりも広くなり、安定してパネル等の上に排気管を自立させることができ、パネル等に対して傾くことなく垂直に取り付けることが容易となる。また、タブレット一体型排気管をこのような構成にすれば、タブレット一体型排気管を製造する工程において、ビスマス系タブレットを排気管に固着させる際、治具とビスマス系タブレットの間に高融点タブレットを配置させることにより、タブレット一体型排気管を製造することができ、つまりタブレット一体型排気管の製造において、特殊な治具を使用する必要がなくなり、製造工程を簡略化することができる。
【0065】
上記構成のタブレット一体型排気管において、ビスマス系タブレットは、好ましくは排気管の先端部の外周面に固着され、さらに好ましくは排気管の先端部の外周面のみに固着され、排気管先端部の先端面、すなわちパネル等と接着する面には固着されない。このようにすれば、パネル等に形成された排気孔へガラスが流れ込む事態を容易に防止できる。また、高融点タブレットは、排気管に直接接着せず、ビスマス系タブレットを介して排気管に固定すれば、封着工程で高融点タブレット部分をクリップで固定した状態で排気管を加圧封着できるため、好ましい。
【0066】
高融点タブレットとしては、日本電気硝子株式会社製の商品グレード「ST−4」、「FN−13」を材料として用いるのが好ましい。高融点タブレットは、上述のビスマス系タブレットと同様の方法で作製することができる。また、高融点タブレットの材質として、セラミックス、金属等を用いることもできる。
【0067】
図2にこのような構成のタブレット一体型排気管の一例を示す。図2は、タブレット一体型排気管の断面図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管1のフランジ部分1a外周面側の先端部にビスマス系タブレット2が接着している。一方、高融点タブレット3は排気管1の外周面側に接着していない。また、ビスマス系タブレット2は、フランジ部分1aの先端部側に取り付けられて、高融点タブレット3がビスマス系タブレット2よりもフランジ部分1aの後端部側に取り付けられている。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0069】
表1〜3は、本発明のビスマス系ガラス組成物の実施例(試料a〜o)を示し、表4は比較例(試料p〜t)を示すものである。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
表1〜4に記載の各試料a〜tは、次のようにして調製した。
【0075】
まず、表1〜4に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1000℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部を熱膨張係数測定用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより薄片状に成形した。なお、熱膨張係数測定用サンプルは、成形後に所定の徐冷処理(アニール)を行った。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き75μmの篩いを通過させて、平均粒径約10μmの各試料を得た。
【0076】
以上の試料を用いて、ガラス転移点、軟化点および熱膨張係数を評価した。その結果を表1〜4に示す。
【0077】
軟化点は、DTA装置により求めた。
【0078】
ガラス転移点および熱膨張係数は、押棒式熱膨張測定装置により求めた。
【0079】
表1〜3から明らかなように、本発明のビスマス系ガラス組成物の実施例である試料a〜oは、ガラス転移点が349〜369℃、軟化点が423〜443℃、30〜300℃における熱膨張係数が106〜118×10−7/℃であった。
【0080】
表1の試料a〜eおよび表4の試料p、qは、アルカリ土類金属酸化物の合量およびZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)のモル比率が略同量であるとともに、BiとB以外の成分量が略同量である。一方、表1の試料a〜eおよび表4の試料p、qは、BiとBの成分量およびBi/Bのモル比率が異なっている。表1の試料a〜eにおいて、Bi/Bのモル比率が最も小さい試料aは、ガラス形成酸化物のBが最も多いため、熱的安定性が最も良好であると判断できる。しかし、試料pは、Bi/Bのモル比率が試料aよりも小さいが、Biに対してガラス形成酸化物のBが過剰であり、その結果、軟化点が452℃と高くなり、PDP等の封着に不適と判断できる。また、表1の試料a〜eにおいて、Bi/Bのモル比率が最も大きい試料eは、Biが最も多いため、流動性が最も良好であると判断できる。しかし、試料qは、Bi/Bのモル比率が試料eよりも大きいが、Biに対してガラス形成酸化物のBが少なすぎ、熱的安定性が乏しく、PDP等の封着に不適と判断できる。
【0081】
表2の試料f〜jおよび表4の試料r、sは、BiとBの成分量およびBi/Bのモル比率が略同量であるとともに、ZnOおよびアルカリ土類金属酸化物以外の成分量が略同量である。一方、表2の試料f〜jおよび表4の試料r、sは、ZnO、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の合量およびZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)のモル比率が異なっている。表2の試料f〜jおよび表4の試料r、sは、熱膨張係数、ガラス転移点、軟化点が略同等であった。
【0082】
表3の試料k〜oは、全てのガラス組成が所定範囲に規制されているとともに、Bi/Bのモル比率およびZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)のモル比率も所定範囲に規制されている。表3の試料k〜oは、軟化点等の特性から判断してもPDP等の封着に好適であると判断できる。一方、表4の試料tは、ZnOの成分量が26.9%と過剰であり、その結果、軟化点が452℃と高くなり、PDP等の封着に不適と判断できる。
【0083】
次に、表1〜4のビスマス系ガラス組成物を用いてビスマス系封着材料を作製した。表5は、本発明のビスマス系封着材料の実施例(試料No.1〜16)、表6は比較例(試料No.17〜21)を示している。
【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
各試料は、表5、6に示す割合でビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末とを混合して作製した。耐火性フィラー粉末には、ウイレマイトまたはコージェライトを用いた。
【0087】
ウイレマイトは、亜鉛華、純珪粉、酸化アルミニウムを重量%でZnO 70%、SiO 25%、Al 5%の組成になるように調合し、混合後、1440℃で15時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕し、250メッシュのステンレス製篩を通過したものを使用した。コーディエライトは、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、純珪粉を2MgO・2Al・5SiOの割合になるように調合し、混合後、1400℃で10時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕し、250メッシュのステンレス製篩を通過したものを使用した。
【0088】
流動径は、各試料の合成密度に相当する重量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板上に載置し、空気中で10℃/分の速度で昇温して500℃で30分間保持した上で室温まで10℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価した。なお、合成密度とは、ガラス粉末の密度と耐火物フィラー粉末の密度を、所定の体積比で混合させて算出される理論上の密度である。また、流動径が22mm以上であると、一次焼成でビスマス系封着材料の流動性が優れることを意味する。
【0089】
失透状態は、各試料を500℃で30分間保持した後、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて各試料の失透状態を観察することで評価した。なお、昇降温速度は、10℃/分とした。その結果、全く失透が認められなかったものを「○」、失透が認められたものを「×」とした。なお、本試験で「○」の評価を得た試料は、一次焼成で失透せず、熱的安定性が良好であると判断できる。
【0090】
再流動性は、流動径の評価で作製したボタン試料を、ボタン試料の頂部が下方となるように別途用意したガラス基板に接触するように載せ、その後、空気中10℃/分で昇温して480℃30分間保持した上で室温まで10℃/分で降温し、二枚のガラス基板に挟まれたボタンの潰れ具合で評価した。別途用意したガラス基板上のボタン径(接着領域の平均ボタン直径)が19mm以上の試料を「○」とし、ボタン径が19mm未満の試料を「×」とした。ここで、「○」の評価を得た試料は、二次焼成で流動性が良好であるとともに、二次焼成で失透が生じない程度に熱的安定性が優れていると判断できる。
【0091】
表5から明らかなように、試料No.1〜16は、軟化点が429〜463℃、30〜300℃における熱膨張係数が73〜80×10−7/℃であった。試料No.1〜16は、流動径が23.1〜25.3mmであり、良好な流動性を有していた。さらに、試料No.1〜16は、失透性が良好であるとともに、熱的安定性が良好であった。さらに、試料No.1〜16は、再流動性も良好であり、二次焼成で失透が生じない程度に熱的安定性が優れているとともに、二次焼成における流動性も良好であった。したがって、試料No.1〜16は、PDP等の封着に好適であると判断できる。
【0092】
表6から明らかなように、試料No.17〜21は、軟化点が430〜469℃、30〜300℃における熱膨張係数が68〜83×10−7/℃であった。試料No.17、21は、流動径がそれぞれ19.9mm、20.6mmと小さく、流動性が不良であった。また、試料No.18、19および20では失透が認められ、熱的安定性が不良であった。また、試料No.17〜21は再流動性が不良であった。したがって、試料No.17〜21は、少なくとも熱的安定性および流動性が両立しておらず、PDP等の封着に好適ではないと判断できる。
【0093】
表5の試料No.1〜3、5、6および表6の試料No.17、18は、耐火性フィラー粉末としてコーディエライトを使用するとともに、その含有比率も同等である。表5の試料No.1〜3、5、6および表6の試料No.17、18に使用したガラス粉末のガラス組成は、表1の試料a〜eおよび表4の試料p、qであり、上述の通り、これらはアルカリ土類金属酸化物の合量およびZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)のモル比率が略同量であるとともに、BiとB以外の成分量が略同量である。表5の試料No.1〜3、5、6は、ビスマス系ガラスのBi/Bが所定範囲に規制されているため、流動径、失透状態、再流動性の評価が良好であり、PDPの封着に適した流動性および熱的安定性を備えており、PDPの封着に好適であると判断できる。しかし、Bi/Bのモル比率が試料aよりも小さい試料pを用いた試料No.17は、ガラス組成においてBiに対してガラス形成酸化物のBが過剰であり、軟化点が469℃と高く、その結果、流動径が19.9mmと小さいことに加えて再流動性も乏しく、PDP等の封着に適した流動性を備えていないと判断できる。また、Bi/Bのモル比率が試料eよりも大きい試料qを用いた試料No.18は、ガラス組成においてBiに対してガラス形成酸化物のBが少なすぎ、その結果、熱的安定性が損なわれ、失透状態の評価が不良となり、PDP等の封着に適した熱的安定性を備えていないと判断できる。
【0094】
表5の試料No.7〜11および表6の試料No.19、20は、耐火性フィラー粉末としてウイレマイトを使用するとともに、その含有比率も同等である。表5の試料No.7〜11および表6の試料No.19、20に使用したガラス粉末のガラス組成は、表2の試料f〜jおよび表4の試料r、sであり、上述の通り、これらはBiとBの成分量およびBi/Bのモル比率が略同量であるとともに、ZnOおよびアルカリ土類金属酸化物以外の成分量が略同量である。表5の試料No.7〜11は、ガラスのZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO)が所定範囲に規制されているため、流動径、失透状態、再流動性の評価が良好であり、PDPの封着に適した流動性および熱的安定性を備えており、PDPの封着に好適であると判断できる。しかし、試料No.19に使用した試料rは、ZnOに対して(BaO+SrO+MgO+CaO)が過剰であり、その結果、熱的安定性が損なわれ、失透状態の評価が不良となり、当然のことながら、その失透が原因で再流動性も不良となり、PDP等の封着に適した熱的安定性を備えていないと判断できる。試料No.20に使用した試料sは、ZnOに対して(BaO+SrO+MgO+CaO)が少なすぎ、その結果、熱的安定性が損なわれ、失透状態の評価が不良となり、当然のことながら、その失透が原因で再流動性が不良となり、PDP等の封着に適した熱的安定性を備えていないと判断できる。
【0095】
表5の試料No.12〜16は、上述の通り、試料k〜oのガラス組成が所定範囲に規制されているとともに、フィラー粉末のウイレマイト、コーディエライトを所定範囲で含有している。したがって、表5の試料No.12〜16は、流動径、失透状態、再流動性の評価が良好であり、PDPの封着に適した流動性および熱的安定性を備えており、PDPの封着に好適であると判断できる。しかし、試料No.21に使用した試料tは、ZnOの成分量が過剰であり、その結果、軟化点が462℃と高くなるとともに、流動径が20.6mmと小さいことに加えて再流動性も乏しく、PDP等の封着に適した流動性を備えていないと判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上の説明から明らかなように、本発明のビスマス系ガラス組成物およびビスマス系封着材料は、PDP、FED、VFD等の平面表示装置の封着用途、CRT等のディスプレイの封着用途、水晶振動子、ICパッケージ等の電子部品の封着用途、PDPの絶縁誘電体層形成用途、PDPの隔壁形成用途および磁気ヘッド−コア同士またはコアとスライダーの封着用途等に好適である。
【符号の説明】
【0097】
1 排気管
2 ビスマス系タブレット
3 高融点タブレット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化物換算のモル%で、ガラス組成として、Bi 30〜50%、B 20〜35%、ZnO 10〜25%、BaO 1〜15%、BaO+SrO+MgO+CaO 3〜15%を含有し、且つモル比率でBi/B 1〜1.75(但し、1.75は含まない)、ZnO/(BaO+SrO+MgO+CaO) 1〜3.5の関係を満たすことを特徴とするビスマス系ガラス組成物。
【請求項2】
が24.4〜35%(但し、24.4%は含まない)であることを特徴とする請求項1に記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項3】
CuO 0〜10%、Fe 0〜10%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項4】
実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項5】
ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、請求項1〜4のいずれかに記載のビスマス系ガラス組成物からなるガラス粉末 45〜95体積%と、耐火性フィラー粉末 5〜55体積%とを含有することを特徴とするビスマス系封着材料。
【請求項6】
耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、酸化スズまたはこれらの組合せであることを特徴とする請求項5に記載のビスマス系封着材料。
【請求項7】
プラズマディスプレイパネルの封着に使用することを特徴とする請求項5または6に記載のビスマス系封着材料。
【請求項8】
ビスマス系封着材料を所定形状に焼結させたビスマス系タブレットであって、ビスマス系封着材料が請求項5〜7のいずれかに記載のビスマス系封着材料であることを特徴とするビスマス系タブレット。
【請求項9】
拡径された排気管の先端部に、請求項8に記載のビスマス系タブレットが取り付けられ
ていることを特徴とするタブレット一体型排気管。
【請求項10】
拡径された排気管の先端部に、請求項8に記載のビスマス系タブレットと、軟化点が520℃以上の高融点タブレットとが取り付けられており、且つビスマス系タブレットが拡径された排気管の先端部側に取り付けられ、高融点タブレットがビスマス系タブレットよりも後端部側に取り付けられていることを特徴とするタブレット一体型排気管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−82624(P2013−82624A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−8189(P2013−8189)
【出願日】平成25年1月21日(2013.1.21)
【分割の表示】特願2007−351(P2007−351)の分割
【原出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】