説明

ビスマス金属酸化物を有する一次アルカリ電池

一次電池は、1または2以上の金属と5価のビスマスからなる酸化物を含むカソード、アノード、カソードとアノードの間に設置されたセパレータ、およびアルカリ電解質を有する。金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および/または主族金属である。セパレータは、イオン選択性であり、あるいは可溶性ビスマスイオン種がカソードからアノードに拡散することを実質的に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次アルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池のような電池は、電気エネルギー源として広く使用されている。通常、電池は、負極(アノード)と正極(カソード)とを有する。負極は、酸化され得る電気的に活性な材料(亜鉛粒子等)を有する。正極は、還元され得る電気的に活性な材料(二酸化マンガン等)を有する。負極の活物質は、正極の活物質を還元することができる。負極の活物質と正極の活物質の直接反応を防止するため、電極は、イオン透過性セパレータによって、相互に機械的におよび電気的に分離される。
【0003】
電池が、携帯電話等の装置の電気エネルギー源として使用される場合、電極間が電気的に接続されると、装置内に電子が流れ、各電極において酸化および還元反応が生じるようになり、電力が提供される。電極と接している電解質液は、電極間に設けられたセパレータを通過することができるイオンを含んでおり、放電時の電池の電気的中性が保たれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、ビスマスを含むアルカリ電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ある態様では、本発明によって、1または2以上の金属および5価のビスマス(Bi5+)を含む酸化物からなる活物質を含むカソード、アノード、カソードとアノードの間のイオン透過性セパレータ、およびアルカリ電解質を有する一次電池が提供される。
【0006】
一次電池とは、例えば一度放電し尽くすと、廃棄される電池を意味する。一次電池では、再充電をすることはできない。一方、二次電池は、何回も、例えば50回以上あるいは100回以上、充電することが可能である。
【0007】
5価のビスマス含有金属酸化物は、電池特性全体を向上させることができる。例えば、5価のビスマス含有金属酸化物を含むカソードを有するアルカリ電池では、1.4と1.7Vの間(例えば低放電速度)の工業的に有益な平均作動電圧において、相当の放電総容量が得られ、比較的平坦な放電電圧プロファイルを示すため、デジタル電子装置の電源として適している。また、5価のビスマス含有金属酸化物は、(例えば、高放電速度で)良好なカソード利用率を示す。カソード活物質は、低コストな方法で、異なる寸法(例えば、AA、AAA、AAAA、C、D)の円筒状アルカリ電池に挿入され、あるいは、ボタン型電池、コイン型電池、角柱状または平坦型電池、および可撓性袋、外囲器もしくはバッグ電池等の他の形状を有する電池に挿入される。多くのビスマス含有化合物は、毒性が低く、環境に与える影響が小さいため、5価のビスマス含有金属酸化物を含む電池の製造および廃棄は、健康および環境にほとんど害を及ぼさない。
【0008】
別の態様では、本発明によって、リチウムまたはカリウム等のアルカリ金属および5価のビスマスを含む酸化物を有するカソードと、アノードと、カソードとアノードの間のセパレータと、アルカリ電解質とを有する一次電池が提供される。酸化物は、例えばLiBiO3、Li3BiO4、Li5BiO5、Li7BiO6、Li6KBiO6、Li4Bi2O7、Li5Bi3O10またはKBiO3である。
【0009】
別の態様では、本発明によって、アルカリ土類金属および5価のビスマスを含む酸化物を有するカソードと、アノードと、カソードとアノードの間のセパレータと、アルカリ電解質とを有する一次電池が提供される。アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムまたはバリウムであっても良い。酸化物は、例えばMgBi2O6、Sr2Bi2O7またはBa2Bi2O6である。
【0010】
別の態様では、本発明によって、金属および5価のビスマスを含む酸化物を有するカソードであって、前記金属は、主族金属、ランタノイドまたは銀以外の遷移金属であるところのカソードと、アノードと、カソードとアノードの間のセパレータと、アルカリ電解質とを有する一次電池が提供される。
【0011】
遷移金属は、例えば、スカンジウム、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、カドミウム、タンタルまたはタングステンである。ランタノイドは、例えばランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムまたはイッテリビウムである。主族金属は、例えばインジウム、スズ、アンチモンまたは鉛である。酸化物は、例えばZnBi2O6、Cu2Bi2O7、CdBi2O6、Sr2ScBiO6である。
【0012】
前述の実施例は、1または2以上の以下の特徴を有しても良い。酸化物は、炭素または導電性金属酸化物からなる導電性表面コーティング等の導電性部分を有しても良い。アノードは、亜鉛を含んでも良い。電解質は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含んでも良い。セパレータは、可溶性ビスマス化学種がカソードからアノードに拡散することを防止しても良い。またセパレータは、可溶性ビスマス化学種を捕獲しても良い。
【0013】
本発明の他の態様、特徴および利点は、添付図面、明細書の記載および特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1において、電池10は、円筒状ハウジング18と、ハウジング内のカソード12と、ハウジング内のアノード14と、カソードとアノードの間のセパレータとを有する。また電池10は、電流コレクタ20、シール22および金属上部キャップ24を有し、金属上部キャップ24は、電池の負極としての役割を果たす。カソード12は、ハウジング18と接触しており、電池10の正の端子は、電池10の負の端子とは反対側の端部にある。電解質液は、例えばアルカリ溶液であって、電池10全体に分散されている。
【0015】
カソード12は、電気的に活性な材料を含み、この材料は、5価のビスマス含有金属酸化物と、導電性添加物と、任意でバインダとを含む。
【0016】
特に、5価のビスマス含有金属酸化物は、時折「ビスマス酸塩」と呼ばれ、これは、通常5価のビスマスBi5+と、任意で微量成分として3価のビスマスBi3+(例えば、約50原子%以下)と、1または2以上の金属とを含む複合酸化物である。例えば、複合金属酸化物の化学式単位では、ビスマスの少なくとも約50原子%(例えば、少なくとも約60、70、80または90原子%)は、5価のビスマスである。5価のビスマス含有金属酸化物によって、電池10には、高容積エネルギー密度が提供され(例えば、理論容積エネルギーは、MnO2/Zn、β-NiOOH/ZnまたはAg2O/Znを含む市販のアルカリ亜鉛一次電池よりも高い)、工業的に有益な平均作動電圧範囲が提供される(例えば、閉回路電圧CCVで、約1.4から1.7V(図2))。5価のビスマス含有金属酸化物は、溶解度が低く、通常室温のアルカリ電解質中で、約70ppm未満の溶解度であるが、約40ppm未満であることが好ましく、約10ppm未満であることがさらに好ましい。その結果、電池10は、良好な自然保管寿命を示す。また、5価のビスマス含有金属酸化物は、約200℃以上の温度(例えば約300℃)まで、空気中において熱的に安定である。5価のビスマス含有金属酸化物のこの良好な熱安定性は、酸化物の結晶格子構造の構造安定性、および酸化物の電解質中あるいは電池に含まれる他の物質中での化学的安定性を示唆していると思われる。5価のビスマス含有金属酸化物は、ルチル型、トリルチル型、ホタル石型、パイロクロア型、ペロブスカイト型、または他の関連結晶格子構造を有する。以下に示すように、5価のビスマス含有金属酸化物の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ランタノイド、および/または主族金属であっても良い。
【0017】
5価のビスマス含有金属酸化物がアルカリ金属を含む実施例では、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよび/またはセシウムである。アルカリ金属を含む5価のビスマス含有金属酸化物の例は、MをLi、Na、K、Rbおよび/またはCsとしたとき、MBiO3、M3BiO4、M7BiO6、M4Bi2O7、M5Bi3O10、Li5BiO5、Li6KBiO6である。そのようなアルカリ金属と5価のビスマス含有金属酸化物との合成は、例えば、トレホークス(J. Trehoux)ら、Mater. Res. Bull.、17巻、p1235-43、1982年;野村(E. Nomura)ら、J. Solid State Chem.、52巻、p91-3、1984年;グリーブス(C. Greaves)ら、Mater. Res. Bull.、24巻、p973-980、1989年;コジアラム(S. Kodialam)ら、Mater. Res. Bull.、27巻、p1379-1384、1992年;ヌグイェン(T. N. Nguyen)ら、Chem. Mater.、5(9)巻、p1273-6、1993年;カセノブ(B. K. Kasenov)ら、Zhur. Fiz. Khim.、71(6)巻、p1146-8、1997年;熊田(N. Kumada)ら、J. Solid State Chem.、126巻、p121-6、1996年;Mater. Res. Bull.、32(8)巻、p1003-1009、1997年に示されている。5価のビスマス含有金属酸化物は、一種類以上のアルカリ金属を含んでも良く、例えば、イオン置換またはイオン交換によるいかなる組み合わせで、アルカリ金属を含んでも良い。ある例では、0<x<1としたとき、Li1-xNaxBiO3およびNa1-xKxBiO3であり、KLi6BiO6、RbLi6BiO6である。5価のビスマス含有アルカリ金属酸化物は、化学量論的であっても、非化学量論的であっても良く、微量成分として3価のビスマスを、例えば約50原子%未満含んでも良く、30原子%または10原子%含んでも良い。混合アルカリ金属5価ビスマス含有酸化物の混合物の合成は、例えば、ヒューベンタル(R. Huebenthal)、ホープ(R. Hoppe)、Acta Chem. Scand.、45(8)巻、p805-811、1991年;カールソン(V. A. Carlson)、ステイシー(A. M. Stacy)、J. Solid State Chem.、96巻、p332-343、1992年に示されている。
【0018】
5価のビスマス含有金属酸化物がアルカリ土類金属を含む実施例では、アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび/またはバリウムである。アルカリ金属ビスマス酸化物の例は、MgBi2O6、Ba2Bi2O6またはSr2Bi2O7である。アルカリ土類金属5価ビスマス含有金属酸化物の合成は、例えば、K. Kumadaら、Mater. Res. Bull.、32巻、p1003-8、1997年;コックス(D. E. Cox)、スレイト(A. W. Sleight)、Solid State Commun.、19巻、p969-973、1976年;ノップ(O. Knop)ら、Can. J. Chem.、58巻、p2221、1980年に示されている。ある場合、例えばペロブスカイト型Ba2Bi2O6等のアルカリ土類金属ビスマス酸化物の場合、ビスマスは、混合価数を取り、Bi5+とBi3+の両化学種として存在する。アルカリ金属5価ビスマス酸化物と同様に、アルカリ土類金属5価ビスマス酸化物は、1種類以上のアルカリ土類金属、または1以上のアルカリ金属と1以上のアルカリ土類金属の組み合わせを有する。この一例として、Ba1-xKxBiO3、Sr1-xKxBiO3(Ba0.6K0.4BiO3のような混合価数のビスマスを有しても良い)、LiSr3BiO6、Li2Ba5Bi2O11がある。アルカリ土類金属ビスマス酸化物は、化学量論的であっても非化学量論的であっても良く、3価のビスマスを微量成分として含んでも良い。アルカリ金属とアルカリ土類金属5価ビスマス含有酸化物の混合物の合成は、例えば、A. W. Sleightら、Solid State Commun.、17巻、p27-8、1975年;J. Solid State Chem.、78巻、p319、1989年;ノートン(M. L. Norton)、Mater. Res. Bull.、24巻、p1391-7、1989年;リュウ(S. F. Liu)、フュー(W. T. Fu)、Mater. Res. Bull.、36巻、p1505-12、2001年;ガルソン(V. A. Carlson)、A. M. Stacy、J. Solid State Chem.、96巻、p332-343、1992年に示されている。
【0019】
5価のビスマス含有金属酸化物は、1または2以上の遷移金属および/または1または2以上の主族金属を有しても良い。遷移金属は、第1列の遷移金属(例えばSc、V、Mn、Fe、Co、Ni、CuまたはZn)、第2列の遷移金属(例えばY、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、AgまたはCd)または第3列の遷移金属(例えばTa、W)を含む。5価のビスマス含有遷移金属酸化物の例は、ZnBi2O6、Cu2Bi2O7、CdBi2O6、AgBiO3、Ag25Bi3O18、Ba2YBiO6、Sr2ScBiO6、Sr18Ru1.9Bi4.1O33およびLi8PdBi2O10である。遷移金属5価ビスマス含有酸化物の合成は、例えば、N. Kumadaら、Mater. Res. Bull.、32巻、p1003-8、1997年;産業研究用アドバンストイオン交換、239巻、p212-217、1999年;Mater. Res. Bull.、35(2)巻、p2397-2402、2000年;溝口(H. Mizoguchi)ら、Chem. Commun.、(9)、p1084-5、2003年;ボルツ(M. Bortz)、ジャンセン(M. Jansen)、アーノーグ(Z. Anorg). Allgem. Chem.、612巻、p113-7、1992年;マーチンゴンザレス(M. S. Martin-Gonzalez)ら、J. Solid State Chem.、173巻、p203-8、1993年;ラリガント(Y. Laligant)、リベイル(A. LeBail)、Euro. J. Solid State Inorg. Chem.、30巻p689-698、1993年に示されている。遷移金属は、ランタノイド(例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmまたはYb)であっても良い。5価のビスマス含有ランタノイド酸化物の例は、Ba2LaBiO6およびSr2NdBiO6である。5価のビスマス含有ランタノイド酸化物の合成は、例えば、H. Mizoguchiら、Chem. Commun.、(9)、p1084-5、2003年、およびレンズ(A. Lenz)、ミューラー(H. Mueller-Buschbaum)、J. Less Common Metals、161(1)巻、p141-6、1990年に示されている。主族金属は、例えばIn、Sn、PbまたはSbである。5価のビスマス含有主属酸化物は、Ba2InBiO6およびBaBi1-xPbxO3を含む。5価のビスマス含有主族金属酸化物の合成は、例えば、W. T. Fuら、Mater. Res. Bull.、35巻、p1205、2000年、およびA. W. Sleightら、Solid State Commun.、17巻、p27、1975年に示されている。前述の5価のビスマス含有金属酸化物と同様に、5価のビスマス含有遷移金属酸化物、ランタノイド酸化物、または主族金属酸化物は、1種類以上の金属をいかなる組合わせで含んでも良い。5価のビスマス含有金属酸化物は、化学量論的であっても非化学量論的であっても良く、混合価数のビスマス、すなわちBi5+とBi3+の両方を有しても良い。
【0020】
ある実施例では、5価のビスマス含有金属酸化物カソード材料は、放電時に電解質から水分を消費せずに、例えばビスマス金属に還元され得る。例えば、以下の式1から8に示すように、ZnBi2O6では、2段階の還元が可能である。第1のステップ(式1)では、1ビスマス当たり2つの電子によってBi2O3に還元され、第2のステップ(式5)では、1ビスマス当たり3つの電子によってBi金属に還元される。
【数1】

正味の電池放電反応は、式4および式8で示される。水は、正味の電池放電反応では消費されないため、電池10(例えば電解質)に含まれる水の総量を減少させても、性能低下は生じない。その結果、電池10のカソード12および/またはアノード14に追加の電極活物質を加えることが可能となり、これにより全放電容量が向上する。ある実施例では、カソード12には、カソード活物質が、重量比で約50%から約95%の間の重量で含まれるが、約60%から約90%の間の重量で含まれることが好ましく、約70%から約85%の間の重量で含まれることがさらに好ましい。カソード12には、カソード活物質が、重量比で約50、60、70、80もしくは90%以上、および/または重量比で約95、90、80、70もしくは60%以下だけ含まれる。カソード12には、1または2以上(例えば、2、3または4以上)の前述の5価のビスマス含有金属酸化物が、いかなる組み合わせで含まれても良い。例えば、カソード12は、KBiO3、MgBi2O6および/またはZnBi2O6の混合物を有しても良い。
【0021】
1または2以上の5価のビスマス含有金属酸化物は、カソード12の活物質の全てを占めても良く、カソード12の活物質の一部を占めても良い。例えば、5価のビスマス含有金属酸化物は、カソード12の活物質として、二酸化マンガンの混合物(例えば、電解合成γMnO2(EMD)または化学合成γMnO2(CMD)またはEMDとCMDの合成)を有しても良い。二酸化マンガンは、本願の参照文献として取り入れられている、2000年3月1日に出願された米国特許出願第09/563,447号に示されているような、高出力係数のEMDであっても良い。5価のビスマス含有金属酸化物は、二酸化マンガン含有電池の平均作動電圧および/または容積エネルギー密度を向上させることができる。また、5価のビスマス含有金属酸化物は、実質的にEMDに比べて高い真密度を有し、EMDのように放電反応時に水を消費しないため、5価のビスマス含有金属酸化物を含むアルカリ電池の体積容量は、EMD含有アルカリ電池よりも実質的に大きくなる。ある場合、例えば、添加剤として5価のビスマス含有金属酸化物を含むアルカリ電池の場合には、約0.8Vを超える比放電容量が得られ、この値は、活性カソード材料としてEMDのみを含む電池に比べて、実質的に大きい。さらに、添加剤として5価のビスマス含有金属酸化物を含むアルカリ電池のカソード利用率(例えば約0.8V未満)は、電池放電時にBi2O3の還元によって金属Biが形成されるため、増大する。活物質の混合物を含むカソードでは、5価のビスマス含有金属酸化物は、重量比で活物質の約1%から100%の間を占める。例えば、カソード12は、重量比で約0%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%以上の5価のビスマス含有金属酸化物を含む;および/または重量比で約100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%または10%の5価のビスマス含有金属酸化物を含む。5価のビスマス含有金属酸化物と組み合わせて使用される好適なカソード活物質の他の例は、β-NiOOH、γ-NiOOH、AgO、Ag2O、AgNiO2またはAgCoO2である。
【0022】
5価のビスマス含有金属酸化物は、半導体であっても良く、例えばMgBi2O6、ZnBi2O6およびBa2InBiO6がある。また、5価のビスマス含有金属酸化物は、n型半導体の変形体であっても良く、例えばH. Mizoguchiら、Chem. Commun.、(9)巻、p1084-5、2003年に示されているような、MgBi2O6およびZnBi2O6がある。
【0023】
ある実施例では、バルク電導度を高めるため、5価のビスマス含有金属酸化物は、導電性表面コーティングを有しても良い。導電性表面コーティングは、電池10の(例えば低放電速度での)全放電容量および/または平均作動電圧を高める役割を果たし、さらに(例えば、高放電速度において)有効カソード利用率を高める。導電性表面コーティングは、例えばグラファイト(天然または人工)、カーボンブラックおよび/またはアセチレンブラック等の炭素質材料を有しても良い。導電性表面コーティングは、金もしくは銀のような金属および/または酸化コバルト(例えばCo3O4)、オキソ水酸化コバルト、酸化銀、酸化銀ニッケル、オキソ水酸化ニッケル、酸化インジウムもしくは酸化インジウムスズ等の導電性もしくは半導体金属酸化物を有しても良い。導電性表面コーティングは、例えば、電析、無電解メッキ等の湿式法を用いて、または気相成膜法(例えば、スパッタリング、物理気相成膜法、もしくは化学気相成膜法)によって、設置もしくは成膜することができる。好適な導電性表面コーティング厚さは、5価のビスマス含有金属酸化物の全重量に対して、重量比で約3から10%の範囲(例えば、重量比で約3、4、5、6、7、8もしくは9%以上および/または重量比で約10、9、8、7、6、5または4%以下)で、導電性材料を設置することによって提供される。
【0024】
また前述のように、カソード12は、カソード12のバルク導電性を向上させる導電性添加物を有しても良い。導電性添加物の例は、天然もしくは非合成グラファイト、合成グラファイト、ビスマス粉末、金粉末および/またはカーボンナノチューブである。好適な導電性添加物は、グラファイト粒子およびカーボンナノチューブである。ある実施例では、グラファイト粒子は、非合成、非膨張グラファイト粒子であり、これは例えば、ブラジリアンナショナルデグラファイト社、イタペシリカ、MGブラジル(例えばMP-0702X)から入手できる。別の実施例では、グラファイト粒子は、合成非膨張グラファイト粒子であり、これは例えば、チムカル社、ボディオ、スイス(例えばチムレックス(登録商標)KS15、SFG15)から入手できる。カーボンナノチューブは、例えば、同一出願人により2000年9月7日に出願されたUSSN第09/658,042号、2001年4月10日に出願されたUSSN第09/829,709号に示されている。カソード12は、重量比で約5から約30%(例えば約8から約20%)の導電性添加物を有する。
【0025】
必要であればバインダを添加して、カソード12の構造一体化を助長させても良い。バインダの一例は、ポリエチレン粉末、ポリアクリルアミド、ポートランドセメントおよびフッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の各種フッ化炭素樹脂である。好適なポリエチレンバインダは、(Hoescht社から)商品名Coathlene HA-1681として市販されているものである。カソード12は、例えば重量比で約0.1%から約2%のバインダを有する。またカソード12は、他の追加添加物を有しても良い。例えば少量の(例えば約0.01から約1重量%の)フッ化物塩、例えばニッケル亜鉛電池のカソードにフッ化カリウムを加えることは、米国特許出願公開第2002−0192547号に記載されており、これによりニッケルカソード利用率が向上する。
【0026】
また電解質溶液を、例えば重量比で約5乃至7%程、カソード12に分散させても良い。この場合、前述のまたは後述の重量%表示は、電解質溶液をカソード12に分散させた後のものである。電解質溶液は、アルカリ電池に広く使用されているいかなる電解質溶液であっても良い。電解質溶液は、例えばLiOH、NaOH、KOHまたはアルカリ金属水酸化物溶液の混合物(例えば、KOHとNaOH、KOHとLiOH)等の、水溶性金属水酸化物溶液のようなアルカリ溶液であっても良い。例えば、水溶性アルカリ金属水酸化物溶液は、重量比で約33から45%の間のアルカリ金属水酸化物を含み、例えば約9NのKOH(この場合、重量比で約37%のKOH)である。ある実施例では、さらに電解質溶液は、重量比で約6%以下の酸化亜鉛を含み、例えば重量比で約2%の酸化亜鉛を含む。別の実施例では、電解質溶液は、溶解しにくいフッ化物塩、例えばフッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カリウム、およびフッ化ストロンチウムを含む。アルカリ電解質溶液(例えば、6MのKOH+0.6MのLiOH)に、約0.0001Mから0.001Mの濃度のフッ化バリウムを添加することは、米国特許第5,681,672号に示されており、これにより、充電可能なアルカリニッケル亜鉛電池のサイクル寿命が延伸し、サイクル効率が向上する。またアルカリ電解質溶液(例えば、3MのKOH+0.5MのLiOH)に、フッ化カリウムを単独で添加(例えば18乃至30重量%)し、またはフッ化カリウム(例えば約0.5乃至4M)と炭酸カリウム(例えば約0.5乃至4M)の混合物を添加することは、米国特許第4,247,610号および第5,302,475号に示されており、これにより、充電可能なアルカリニッケル亜鉛電池の容量および高出力側の特性が向上する。
【0027】
アノード14は、アルカリ電池のアノードに使用される標準的ないかなる亜鉛材料で構成されても良い。例えば、アノード14は、ガス化抑制剤として亜鉛金属粒子を含む亜鉛ゲルであっても良い。また、電解質溶液の一部は、アノードに分散されていても良い。
【0028】
亜鉛粒子は、従来のゲル化亜鉛アノードに使用されるいかなる亜鉛粒子であっても良い。亜鉛粒子の例は、本願の参照文献として取り入れられている、米国特許第6,284,410号、第6,472,103号、第6,521,378号に、および同一出願人によるUSSN第10/29,575号、USSN第10/113,075号に示されている。アノードは、例えば、重量比で67%から71%の間の亜鉛粒子を含む。
【0029】
ゲル化材の例は、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、カルボキシメチルセルロースまたはそれらの組み合わせである。そのようなポリアクリル酸の例は、Carbopol940と934(B. F. グッドリッチ社から入手できる)、およびPolygel4P(3V社から入手できる)であり、グラフトスターチ材の例は、Waterlock A221(グレインプロセッシング社、マスカチーン、IA)である。ポリアクリル酸の例は、Alcosorb G1(シバスペシャルティ社から入手できる)である。アノードは、例えば重量比で0.1%から約1%のゲル化材を含んでも良い。
【0030】
ガス化抑制剤は、無機材料であっても良く、例えばビスマス、スズ、鉛およびインジウムならびにこれらの合金または化合物である。あるいは、ガス化抑制剤は、有機化合物であっても良く、例えば、リン酸エステル、イオン性表面活性剤、非イオン性表面活性剤である。イオン性表面活性剤の例は、例えば本願の参考文献として取り入れられている米国特許第4,777,100号に示されている。
【0031】
セパレータ16は、従来の一次アルカリ電池セパレータのいかなる構造であっても良い。ある実施例では、セパレータ16は、不繊の非膜状材料の2層で構成され、一つの層は、他の層の表面に沿って設置される。効率的な電池を得るため、セパレータ16の容積を最小限に抑制する場合、不繊の非膜状材料からなる各層は、基本重量が約54g/m2で、乾燥時の厚さは約5.4ミルで、湿式時の厚さは約10ミルである。この実施例では、セパレータは、2枚の不繊の非膜状層の間に、膜材料の層または接着層を含まないことが好ましい。通常、これらの層には、無機粒子等の充填材が実質的に充填されていない。ある実施例では、セパレータは、無機粒子を含む。アルカリ電解質溶液に僅かしか溶解しない、不溶性アルカリ土類金属フッ化物粒子(例えば、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム)を含むセパレータは、米国特許出願公開第2002−0182512号に示されている。そのようなセパレータは、銀の析出を抑制し、金属銀電池の特性劣化を抑制する。
【0032】
別の実施例では、セパレータ16は、セロファンの外層と、不繊材料の層とを有する。またセパレータは、不繊材料の追加層を有する。セロファン層は、カソード12に隣接して設置される。不繊材料は、約78重量%から約82重量%のポリビニルアルコール(PVA)と、約18重量%から約22重量%のレーヨンと、微量の表面活性剤とを含む。そのような不繊材料は、商品名PA25という名称でPDM社から市販されている。セロファンと不繊材料の層を含むセパレータの例は、Duralam DT225(ジュラセル社、アールスコット、ベルギー)である。
【0033】
さらに別の実施例では、セパレータ16は、イオン選択性セパレータである。イオン選択性セパレータは、ミクロポア膜基材と、イオン選択性高分子コーティングとを有する。充電可能なアルカリ二酸化マンガン電池の場合、例えば[Zn(OH)4]2-のような可溶性亜鉛酸塩のアノードからカソードへの拡散が、二酸化マンガンの還元および酸化によって妨害され、これにより、クーロン効率の損失およびサイクル寿命の低下が抑制される。水酸化物イオンの通過を妨害せず、亜鉛酸イオンの通過を選択的に抑制するセパレータは、米国特許第5,798,180号および第5,910,366号に示されている。セパレータの例は、親水性セルロースアセテートコーティングされたポリプロピレンミクロポア膜(例えば、セルガード(登録商標)3559、セルガード(登録商標)550、セルガード(登録商標)2500等)を有する高分子基材、および、基材表面の少なくとも一表面にイオン選択性コーティングが施工された高分子基材である。好適なイオン選択性コーティングは、有限数の単量体のフェニレン単位の繰り返しを有する、多環芳香族エーテル(ポリ(2,6−ジメチル−1、4−フェニレンオキシド)のスルホン化誘導体)であり、フェニレン単位は、1もしくは2以上の低級アルキル基またはフェニル基、およびスルホン酸もしくはカルボキシル酸基で置換される。また、亜鉛酸イオンの二酸化マンガンカソードへの泳動を抑制するための選択性セパレータは、米国特許第5,798,180号および第5,910,366号に示されており、この技術では、放電の際に可溶性イオン種がカソードから拡散することを抑制することができる。
【0034】
この代わりにあるいはこれに加えて、セパレータは、可溶性ビスマス化学種(例えば、ビスマス酸塩、BiO31-、BiO21-、Bi(OH)41-)がカソードから亜鉛アノードに拡散することを抑制しても良い。そのようなセパレータは、米国特許第5,952,124号に示されている。セパレータは、セロファン、ナイロン(例えば、フランデンバーグ社から市販されているPellon(登録商標))、ミクロポアを有するポリプロピレン(例えば、セルガード社から市販されているセルガード(登録商標)3559)、またはミクロポアアクリルコポリマー(例えば、Pall-RAL社から市販されているPD2193)内にカルボキシルイオン交換性材料の分散剤を含む複合材料等の、基材膜を含んでも良い。またセパレータは、スルホン酸化多環芳香族エーテルを含む高分子コーティングを有しても良く、これは、米国特許第5,798,180号、第5,910,366号および第5,952,124号に示されている。
【0035】
別の実施例では、セパレータ16は、吸着層またはトラップ層を有する。そのような層は、可溶性ビスマス化学種(例えば、ビスマス酸塩、BiO31-、BiO21-、Bi(OH)41-)からなる不溶性化合物または不溶性錯体を形成する無機粒子を含んでおり、これにより可溶性ビスマス化学種がセパレータを通過してアノードに拡散することが抑制される。無機粒子は、例えばZrO2およびTiO2の金属酸化物ナノ粒子を含んでも良い。そのような吸着性セパレータは、可溶性ビスマス化学種の濃度を低下させるが、可溶性ビスマス化学種が高濃度で存在する場合、その濃度は飽和し、効率の低下は抑制される。そのような吸着性セパレータの例は、「電池のセパレータ」という題目で2003年10月9日に出願された、同一出願人によるUSSN10/682,740号に示されている。
【0036】
セルハウジング18は、従来の一次アルカリ電池に使用されるいかなるハウジングであっても良い。通常、ハウジングは、金属内部壁と、熱収縮プラスチック等の非導電性外部材料とを有する。必要であれば、導電性材料の層は、ハウジングの内壁とカソード12の間に設置されても良い。この層は、壁の内表面に沿って、またはカソード12の周囲に沿って、または両者に沿って設置される。この導電層は、例えば炭素質材料で構成される。そのような材料の例は、LB1000(チムカル社)、Eccocoat257(W. R. グレース社)、Electrodag 109(アーキーソンコロイズ社)、Electrodag 112(アーキーソン社)およびEB0005(アーキーソン社)である。導電層を設置する方法は、例えば、本願の参照文献として取り入れられているカナダ特許第1,263,697号に示されている。
【0037】
電流コレクタ20は、黄銅等の好適な金属で構成される。シール22は、例えばナイロンで構成される。
【0038】
電池10は、従来の方法を用いて組み立てられる。ある実施例では、正極12は、パックドリル法によって形成され、この方法は、2000年8月24日に出願されたUSSN09/645,632号に示されている。
【0039】
電池10は、例えば、AA、AAA、AAAA、CまたはD電池である。別の実施例では、電池10は、非円筒状であって、コイン型電池、ボタン型電池、角柱状電池、平坦電池、バッグ電池または長円状電池である。
【0040】
別の実施例では、ビスマス含有金属酸化物内の5価のビスマスの一部または全部は、1または2以上の他の5価の金属と置換される。このような他の5価の金属の好適例は、Sb5+、Nb5+、Ta5+および/またはV5+である。5価の金属酸化物および5価のビスマス含有金属酸化物は、ルチル型、ホタル石型、パイロクロア型もしくはペロブスカイト型構造または他の関連構造の固溶体を形成する。置換金属酸化物または金属酸化物の固溶体は、p型もしくはn型半導体のいずれであっても良い。そのような材料の例は、0<x<2としたとき、ZnBi2-xNbxO6、ZnBi2-xSbxO6、MgBi2-xTaxO6である。そのような材料内に、微量成分として、3価のビスマスが含まれても良い。
【0041】
以下、実施例を説明するが、これは、本願発明を限定するものではない。
(実施例1)
5.00gのビスマス酸ナトリウム水和物(NaBiO3・1.15 H2O、フルカ、独国、純度≧85%)と、50mlの0.398M硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)溶液に、20mlの脱イオン水を加えて混合し、PTFE125ml圧力容器中に密閉した。圧力容器を95℃に加熱し、4.5日間その温度に保持した。圧力容器は、開ける前に室温まで冷却した。
【0042】
真空濾過によって、固形分と液体を分離した。固形分は、400mlの脱イオン水中に入れて洗浄、撹拌し、遠心分離によって固形分を回収した。洗浄処理は、3回繰り返した。洗浄した固形分を真空条件下、90℃で3時間乾燥させ、赤茶色の粉末を得た。
【0043】
粉末は、粉末X線回折法、化学分析法および熱分析法を用いて評価した。粉末の粉末X線回折パターンは、トリルチル型ZnBi2O6のデータと一致した。格子パラメータは、正方晶空間群P42/mnmで絞り込んだ。計算値(a=4.8437(4)Å、c=9.7420(1)Å)は、報告値(a=4.8386(1)Å、c=9.7422(3)Å)と良い一致を示した。計算結晶密度は、dx=8.44g/cm3であり、報告されている比重の実験値8.36g/cm3と良い一致を示した。誘導結合プラズマ(ICP)分光分析(図3)によって得られたZn:Bi原子比は、1.05:2.00となり、トリルチル型構造の値と一致した。示差熱分析および大気流通下で550℃まで10℃/分の加熱速度で昇温する熱重量分析(DTA/TGA)によるZnBi2O6の熱分析の結果、約300℃以下で重量減少が生じた。これは、酸素の消失を伴うZnBi2O6のZnOおよびBi2O3への分解に相当すると考えられる。実験的に観察された重量減少量は、5.6重量%であり、これは、重量減少量の計算値である5.52重量%に近い。
【0044】
ZnBi2O6粉末で構成されたカソードの導電性を向上させるため、ZnBi2O6粒子上に、CoOOHの薄膜コーティングを施工した。20mlの脱イオン水中に溶解した0.272gの硫酸コバルト水和物(CoSO4・6.9 H2O、アルファイーザー社)を含む溶液を撹拌して、100mlの脱イオン水中に溶解させた9.12gのペルオキシジ硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8、アルファイーザー社、純度≧98%)を含む500mlのフラスコに添加し、77℃に加熱した。9.765gのZnBi2O6粉末を含むスラリーに少量の脱イオン水を加え、強制撹拌しながら、これをCoSO4・6.9 H2Oと(NH4)2S2O8を含む高温溶液中に添加した。77℃で10分間の攪拌後、pHを上げるため、30mlの0.766MのNH4OH溶液を添加した。攪拌混合物は、さらに数時間77℃に保持し、その後室温まで冷却した。真空分離によって、濃茶色固形分が抽出され、これを洗浄後、60℃の真空中で2時間乾燥させた。
【0045】
製作直後の未コート(実施例1a)とCoOOHコートしたZnBi2O6(実施例1b)の両方の放電特性を、635型アルカリボタン電池において評価した。カソード混合物は、約6.00g(60重量%)のZnBi2O6活物質と3.50gの天然グラファイト(ナショナルデグラファイト社、MP0702x)とを混合したものに、38重量%のKOHと、約2重量%のZnOとを含む0.50gの電解質溶液を加え、乳鉢と乳棒を用いて調製した。重量が0.45gのカソードディスクに、5000ポンドの印加圧力を加えて、カソードカンの底部に溶接された細いニッケル線グリッド上に、カソードディスクを直接圧縮した。不繊層の上に積層されたセロファンの層を有するセパレータディスクは、電解質で湿らせてから、カソードディスクの上部に設置した。プラスチックシールは、アノードカン上に設置され、60重量%の亜鉛合金粒子、39.5重量%の電解質溶液、および約0.5重量%のゲル化材を含む2.50gのゲル化亜鉛スラリーを、カンに添加した。電池は、圧接によって、気密密閉した。各試料に対して、多くのボタン型電池が製作された。通常電池は、放電前に室温で24時間保管し、カソードとセパレータが電解質で完全に濡れた状態とした。
【0046】
電池の放電データは、図4乃至6に示されている。未コートZnBi2O6を含むカソードを有する電池では、0.8Vのカットオフ電圧までの低速度(例えば、10mA/g のZnBi2O6)での放電の際の平均比容量は、10mAh/gであった。3重量%のCoOOHコーティングZnBi2O6を含む電池の場合、0.8Vのカットオフ電圧までの低速度での容量は、約100mAh/gに増大した。これは、理論上、4電子(すなわち2電子/Bi)の比容量であるとして計算された、ZnBi2O6の計算値185mAh/gの約55%に相当する(図7)。24時間後の平均OCVは、約1.70Vであった。0.8Vのカットオフ電圧まで、15mA/g(すなわちC/30)で放電された、CoOOHコーティングされたZnBi2O6を含む実施例1bのボタン型電池の低速放電曲線は、図4に示されている。平均低速作動電圧は、1.65Vである。0.8Vのカットオフ電圧まで、150mA/g(すなわちC/30)速度で放電された、通常のボタン型電池の高速放電曲線は、図5に示されている。平均高速作動電圧は、約1.45Vである。0.8Vのカットオフ電圧まで、連続放電後のカソードの粉末X線回折では、グラファイト、Bi2O3、酸化亜鉛およびビスマス金属の存在が示唆された。0.6 Vのカットオフ電圧まで、公称速度10mA/g(すなわちC/30)で放電された、ボタン型電池の通常の低速放電曲線は、図6に示されている。平均作動電圧が約0.76Vの位置に、第2の放電平坦部が存在する。2つの平坦部の全比容量は、約335mAh/gであり、これは、ZnBi2O6において計算された理論的な10電子容量(すなわち5電子/ビスマス)の約70%に相当する。0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたカソードの粉末X線回折の結果、グラファイト、ビスマス金属および酸化亜鉛が存在することがわかったが、Bi2O3は認められなかった。実施例1aおよび1bの電池における、0.8Vのカットオフ電圧まで(すなわち上部平坦部のみ)、および0.6Vのカットオフ電圧まで(すなわち上部および底部平坦部を含む)の低速度比容量は、図7に示されている。
(実施例2)
5.00gのビスマス酸ナトリウム水和物(NaBiO3・1.37 H2O、アルドリッチ、ACS試薬)と、13.35gの塩化マンガン6水和物(MgCl2・6 H2O、アルファイーザー社、99-102%)と、約60mlの脱イオン水とを混合して、PTFE125ml圧力容器中に密閉した。圧力容器と内容物を135℃に加熱し、2.5日間その温度に保持した。圧力容器は、開ける前に室温まで冷却した。
【0047】
真空濾過によって、固形分と液体を分離し、脱イオン水で何回か洗浄した。さらに固形分は、1000mlの脱イオン水中で、30分間攪拌して洗浄し、真空濾過によって固形分を回収した。洗浄処理工程は何回か繰り返し行った。洗浄した固形分は、室温大気中で乾燥してから、真空中、約95乃至105℃で4時間乾燥させ、さらに115℃で約14時間乾燥させて、濃茶色粉末を得た。
【0048】
粉末を粉末X線回折、化学分析および熱分析を用いて評価した。粉末X線回折パターンは、トリルチル型MgBi2O6のデータと一致した。格子パラメータは、正方晶空間群P42/mnmで絞り込んだ。得られた値(a=4.82168(3)Å、c=9.71194(8)Å)は、報告値(a=4.8187(1)Å、c=9.7067(2)Å)と良い一致を示した。計算結晶密度は、dx =7.92g/cm3であり、報告されている比重の実験値7.96g/cm3と良い一致を示した。ICP発光分析(図3)によって得られたMg:Bi原子比は、1.02:2.00となり、トリルチル型構造の値と一致した。MgBi2O6のDTA/TGA(550℃まで10℃/分)熱解析の結果、空気導入下で約400℃以下で重量減少が生じた。これは、酸素の消失を伴うMgOおよびBi2O3への分解に相当すると考えられる。実験的に観察された重量減少量は、5.91重量%であり、これは、重量減少量の計算値である5.94重量%に近い。
【0049】
MgBi2O6粉末で構成されたカソードの導電性を向上させるため、MgBi2O6粒子上に、CoOOHの薄膜コーティングを設置した。少量の脱イオン水中に、9.43gのMgBi2O6粉末を含むスラリーを混ぜ、500mlフラスコ中に、これと、50mlの0.8M過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8、アルファイーザー社、純度≧98%)溶液を加え、74−76℃で加熱した。MgBi2O6と過硫酸アンモニウムの混合物に、20mlの0.175M硫酸コバルト水和物(CoSO4・6.9 H2O、アルファイーザー社)溶液を攪拌しながら加えた。75℃で約15分間の撹拌後、40mlの0.5M KOH溶液を加え、pHを14以上に上昇させ、さらに撹拌を45分間続行した。その後、混合物を室温に冷却した。真空濾過によって、液体から分離された濃茶色固形物を洗浄し、真空下90乃至115℃で約2時間乾燥させた。
【0050】
製作直後の未コート(実施例2a)とCoOOHコートしたMgBi2O6(実施例2b)の両方の放電特性を、635型アルカリボタン電池において評価した。カソード混合物は、約7.50g(75重量%)のMgBi2O6活物質と2.00gの天然グラファイト(ナショナルデグラファイト社、MP0702x)とを混合したものに、38重量%のKOHと、約2重量%のZnOとを含む0.50gの電解質溶液を加え、乳鉢と乳棒を用いて調製した。実施例1について示したような方法で、各試料につき、多くのボタン型電池を製作した。通常電池は、放電前に室温で24時間保管した。
【0051】
電池の放電データを図8乃至10に示す。室温で24時間保管後の平均OCVは、約1.70Vであった。0.8Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(すなわちC/30)速度での、CoOOHコートされたMgBi2O6を含む実施例2bの通常のボタン型電池の低速放電曲線は、図8に示されている。低速比容量は、約115mAh/gであり、これは、MgBi2O6の計算値である理論的な4電子容量(2電子/ビスマス)199 mAh/gの約60%に相当する。平均低速作動電圧は、約1.68Vであった。0.8Vのカットオフ電圧まで、公称150mAh/g(すなわち0.8C)速度での、CoOOHコートされたMgBi2O6を含む実施例2bの通常の高速放電曲線は、図9に示されている。平均高速作動電圧は、約1.48Vである。0.6Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(すなわちC/30)速度での、実施例2bの通常のボタン型電池の低速放電曲線は、図10に示されている。全比容量は、約345 mAh/gと予想され、これは、理論的な10電子比容量498mAh/gの約70%に相当する。約0.76Vの平均作動電圧のところに、第2の放電平坦部が認められる。0.8Vのカットオフ電圧まで(すなわち上部電圧平坦部のみ)、および0.6Vのカットオフ電圧(すなわち上部電圧平坦部と底部電圧平坦部の組み合わせ)までの、実施例2aと2bの電池の低速および高速比容量は、図7に示されている。
(実施例3)
5.00gのビスマス酸ナトリウム水和物(NaBiO3・1.15H2O、フルカ、独国、純度≧85%)と、4.83gの硝酸銅(Cu(NO3)2・3H2O)と、約60mlの脱イオン水とを混合して、PTFE125ml圧力容器中に密閉した。圧力容器を125℃に加熱し、4.5日間その温度に保持した。圧力容器は、開ける前に室温まで冷却した。
【0052】
真空濾過によって、固形分と青色液体を分離した。固形分は、500mlの脱イオン水に浸漬、撹拌して洗浄し、真空濾過によって固形分を得た。洗浄処理工程は、3回繰り返した。洗浄した固形分を真空中約95℃で5時間乾燥し、赤茶色の粉末を得た。
【0053】
固形分を粉末X線回折、化学分析および熱分析を用いて評価した。固形分の粉末X線回折パターンは、トリルチル型構造とは一致しなかった。この構造は、欠陥型パイロクロア型構造または欠陥型ホタル石型構造に近いと予想される。またICP発光分析によって得られたCu:Bi原子比は、約1.50:2.00であり、トリルチル型構造の1.00:2.00とは異なる。残留ナトリウム量は、無視できるほど少なかった(図3)。固形分のDTA/TGA(550℃まで10℃/分)を用いた熱分析の結果、重量減少は、空気流通下、約300℃で生じた。これは、酸素の消失を伴う、CuOおよびBi2O3への分解に相当すると考えられる。しかしながら、全重量減少量は11.64重量%となり、これは、CuO、Bi2O3および酸素の形成に相当する計算値の4.87重量%を超えている。このデータは、結晶格子に水が含まれており、固形分が水和していることを示している。
【0054】
製作直後の水和固形分の放電特性を、635型アルカリボタン電池において評価した。カソード混合物および電池製作工程は、前述の実施例1と同様である。通常電池は、放電前に室温で24時間保管した。0.6Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(すなわちC/30)速度で放電された、固形分を含むボタン型電池の通常の低速放電曲線は、図11に示されている。全比容量は、約360 mAh/gであり、これは、理論的な14電子の比容量571 mAh/gの約63%に相当する。室温で24時間保管後のOCVは、約1.70Vであった。低速放電曲線には、3つの顕著な電圧平坦部が観測された。上部、中段および底部の平坦部の公称平均作動電圧は、それぞれ約1.5乃至1.6V、1.06Vおよび0.74Vである。上部放電平坦部は、Bi5+からBi3+の還元に相当し、中段の平坦部は、Cu2+からCu+への還元、また底部平坦部は、Bi3+からBi0への還元とCu+からCu0への還元の組み合わせに対応すると考えられる。高い放電速度(例えば150mA/g)では、上部放電平坦部は、生じず、より下側の約0.9Vと0.65Vに、2つの平坦部が観測される。低速および高速放電された電池の全比容量は、図7に示されている。
(実施例4)
5.00gのビスマス酸ナトリウム水和物(NaBiO3・1.37 H2O、アルドリッチ、ACS試薬)と、100mlの0.5M硝酸銀(Ag(NO3)、アルファイーザー社、ACS試薬)溶液とを混合し、これをPTFE125ml圧力容器中に密閉した。圧力容器と内容物を80℃に加熱し、22時間その温度に保持した。圧力容器は、開ける前に室温まで冷却した。
【0055】
真空濾過によって、固形分と液体を分離し、脱イオン水で何回か洗浄した。さらに固形分は、1500mlの脱イオン水に浸漬し、30分間攪拌して洗浄し、真空濾過によって固形分を回収した。洗浄処理工程は2回繰り返し行った。洗浄した固形分は、室温大気中で乾燥してから、真空中、約95乃至105℃で4時間乾燥させ、さらに80℃で約16時間乾燥させて、黒色粉末を得た。固形分は、光を遮蔽する琥珀色の瓶に保管した。
【0056】
粉末を粉末X線回折、化学分析および熱分析を用いて評価した。粉末X線回折パターンは、イルメナイト型構造を有するビスマス酸銀AgBiO3のデータと一致した。格子パラメータは、菱面体の空間群R3で絞り込んだ。得られた格子パラメータ(a=5.6353(6)Å、c=16.094(2)Å)は、報告値(a=5.641(1)Å、c=16.118(2)Å)と良い一致を示した。計算結晶密度は、dx =8.21g/cm3であり、報告されている結晶密度dx =8.18g/cm3と良い一致を示した。ICP発光分析(図3)によって得られたAg:Bi原子比は、1.02:1.00となり、イルメナイト型構造の値と一致した。大気中で550℃まで10℃/分で昇温した、AgBiO3のDTA/TGA熱解析の結果、約200℃以下で重量減少が生じた。これは、酸素の消失を伴うAgBiO3のAgおよびBi2O3への分解に相当すると考えられる。実験的に観察された全重量減少量は、6.68重量%であり、これは、重量減少量の計算値である6.58重量%に近い。
【0057】
製作直後のビスマス酸銀の放電特性を、635型アルカリボタン電池において評価した。カソード混合物は、前述の実施例1と同様の方法で調製し、電池を同様の方法で組み立てた。電池は、放電前に室温で24時間保管した。0.6Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(C/30)の速度での、ビスマス酸銀を有するボタン型電池の通常の低速放電曲線は、図12に示されている。全比容量は、約310 mAh/gであり、これは、理論的な6電子容量である約444 mAh/gの約70%に相当する。24時間室温保管後の平均OCVは、約1.74Vである。低速放電曲線には、3つの明確な電圧平坦部が認められる。上部、中段および底部の公称作動電圧は、それぞれ約1.74V、1.36Vおよび0.77Vである。しかしながら、放電前に室温で24時間保管した電池では、約1.38Vと0.77Vの2つの下側の放電平坦部しか生じない。低速および高速で放電された電池の全比容量は、図7に示されている。
(実施例5)
PTFE反応容器に、70gの固形水酸化カリウムペレット(KOH、85%、アルドリッチ、ACS試薬)を入れ、これを炉内に設置し、大気中で約250℃に加熱した。KOHが溶融してから、8.45gのビスマス酸ナトリウム水和物(NaBiO3・1.37 H2O、アルファイーザー、ACS試薬)をゆっくりと加え、撹拌しながら溶解させる。混合物を250℃で14時間保持した。反応容器を炉から取り出し、室温まで冷却される前に、反応容器の底に沈積している濃茶色固形物を、黄色液体から抽出した。反応容器を室温に冷却し、約1000mlの脱イオン水を加え、約30分間撹拌した。
【0058】
真空濾過によって、固形分を液体から分離し、脱イオン水で何回か洗浄した。さらに固形物を1000mlの脱イオン水中に再度浸漬し、30分間撹拌して、真空濾過によって固形物を回収した。洗浄工程は4から5回繰り返した。洗浄した固形物は、真空中80℃で、約5時間乾燥させ、濃赤茶色粉末を得た。
【0059】
固体状の反応生成物を粉末X線回折および熱分析を用いて評価した。反応生成物の粉末X線回折パターンは、立方晶KSbO3型結晶構造を有するKBiO3のデータと一致した。格子パラメータは、立方晶空間群Im3で絞り込んだ。得られた格子パラメータ(a=10.0199(9)Å)は、無水和物のKBiO3の報告値(a=10.0194(6)Å)および水和KBiO3・1.45 H2O(a=10.0175(2)Å)の報告値と良い一致を示した。大気中550℃まで10℃/分の昇温速度での示差熱分析および熱重量分析(DTA/TGA)による反応生成物の熱分析の結果、重量減少は、約250℃で始まった。これは、酸素の消失を伴うKBiO3からBi2O3およびK2Oへの分解に相当すると考えられる。実験的に測定された重量減少量は、5.08重量%であり、この値は、無水和KBiO3で計算された重量減少量5.40重量%にほぼ一致した。
【0060】
KBiO3粉末で構成されるカソードの導電性を高めるため、KBiO3粒子の表面には、実施例2に示したような方法で薄膜コーティングCoOOHを設置した。635型アルカリボタン電池を用いて、未コート(実施例5a)およびCoOOHコート(実施例5b)のビスマス酸カリウムの製作直後の放電特性を評価した。実施例1に示す方法で、カソード混合物を調製し、電池を組み立てた。電池は、放電前に大気中、室温で24時間保管した。0.6Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(C/30)の速度での、CoOOHコートビスマス酸カリウムを含む通常のボタン型電池の低速放電曲線は、図15に示されている。室温で24時間保管後の平均OCVは、約1.67Vであった。低速放電電圧曲線のプロファイルは、室温で2時間保管後に放電したビスマス酸銀電池のものとよく似ている。ビスマス酸カリウム電池の全比容量は、約375mAh/gであり、この値は、理論的な5電子容量である約453 mAh/gの約83%に相当する。低速放電曲線には、2つの電圧平坦部が観測された。上部および底部平坦部の公称平均作動電圧は、それぞれ、約1.5Vおよび0.76Vであった。上部平坦部の比容量は、約105V mAh/gであり、この値は、理論的な2電子容量である約181 mAh/g の約58%に相当する。低速および高速で放電した電池の比容量は、図7に示されている。
(比較例1)
製造直後のメタビスマス酸ナトリウム(NaBiO3・1.37 H2O、アルドリッチ、ACS試薬)の放電特性を635型アルカリボタン電池において評価した。前述の実施例1と同様に、カソード混合物を調製し、電池を組み立てた。NaBiO3・1.37 H2Oの溶解度が高いため、0.6Vのカットオフ電圧までの約10mAh/g(すなわちC/30)速度において、電池は、製造から2時間以内で放電された。放電曲線には、約1.55Vと0.78Vの、2つの電圧平坦部が生じた。NaBiO3・1.37 H2Oにおける理論的な5電子の比容量は、約440 mAh/gである。0.6Vのカットオフ電圧まで、低速度で放電された、製造直後の電池の平均比容量は、約405 mAh/gであり、これは、理論値の約92%に相当する。製造直後の電池の平均OCVは、約1.67Vであった。放電前に室温で24時間保管された電池では、図13に示すように、約0.78Vの一つの電圧平坦部のみが生じた。放電前に室温で約24時間保管された電池の平均OCVは、約1.67Vであった。しかしながら、0.6Vのカットオフ電圧まで、低速度で放電された電池の平均比容量は、約325 mAh/gであり、この値は、理論値の約74%に相当する。観測された容量損失の大部分は、1.55Vの平坦部の消滅によるものであり、この平坦部は、電解質中の水の酸化によって酸素が生じる反応に伴うBi5+の自己放電に相当すると考えられる。
(比較例2)
4.00gのビスマス酸ナトリウム水和物(NaBiO3・1.37 H2O、アルドリッチ、ACS試薬)と、1.328gの硝酸カリウム(KNO3、アルファイーザー、99.9%)と、約65mlの脱イオン水とを混合して、PTFE125ml圧力容器中に密閉した。圧力容器を80℃に加熱し、数時間その温度に保持した。さらに135乃至145℃の温度で、約4.5日間保持した。圧力容器は、開ける前に室温まで冷却した。
【0061】
真空濾過によって、固形分と液体を分離し、固形分を脱イオン水で何回か洗浄した。さらに固形分を1000mlの脱イオン水に浸漬し、30分間撹拌して洗浄し、真空濾過によって固形分を得た。洗浄処理工程は、4から5回繰り返した。洗浄した固形分を大気中で約12時間乾燥させ、その後115℃の真空中で約20時間乾燥し、橙茶色の粉末を得た。
【0062】
固形分を粉末X線回折、化学分析および熱分析を用いて評価した。反応生成物分の粉末X線回折パターンは、β−Sb2O4型結晶構造を持つ単斜晶の四酸化ビスマスBi2O4のものと一致した。粉末X線回折パターンから、微量の未反応NaBiO3・1.37 H2Oが存在することがわかった。なお、いくつかの不明な極めて小さなピークが認められた。格子パラメータを単斜晶空間群C2/cで絞り込んだ結果、a=12.3737(1)Å、b=5.1195(4)Å)c=5.5707(4)Åとなり、β=107.829(5)゜となった。これらの値は、単斜晶Bi2O4で報告されている値:a=12.3668(2)Å、b=5.1180(1)Å)c=5.5670(1)Å、β=107.838(1)゜と良い一致を示した。
【0063】
製作直後の単斜晶Bi2O4の放電特性を、635型アルカリボタン電池において評価した。カソード混合物の調製方法および電池製作工程は、前述の実施例2と同様である。電池は、放電前に室温で24時間保管した。24時間室温で保管後の平均OCVは、約1.2Vであった。0.6Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(すなわちC/30)速度で放電された、単斜晶Bi2O4を含む電池の通常の低速放電曲線は、図14に示されている。低速放電曲線には、約0.78Vの位置に1つの電圧平坦部のみが出現した。単斜晶Bi2O4の8電子の理論的な比容量は、約445 mAh/gである。0.6Vのカットオフ電圧まで、低速で放電された電池の平均比容量は、約336 mAh/gであり、これは、理論値の約75%に相当する。
(比較例3)
三酸化二ビスマス(+3)(フィッシャー化学社認定)の製造直後の放電特性を、635型アルカリボタン電池において評価した。カソード混合物の調製方法および電池の組み立て方法は、実施例2と同様である。電池は、放電前に室温で24時間保管した。24時間室温で保管後の平均OCVは、約1.10Vであった。電池は、0.6Vのカットオフ電圧まで、公称10mAh/g(すなわちC/30)速度で放電した。平均作動電圧約0.78Vの位置に、単一の放電平坦部が出現した。Bi2O3の理論的な6電子比容量は、約345mAh/gであった。0.6Vのカットオフ電圧まで、低速度で放電された電池の平均比容量は、約260 mAh/gであり、これは、理論値の約75%に相当する。
【0064】
放電前に室温で24時間保管後に、高速および低速で放電が継続される場合、オキシ水酸化コバルトコーティングされたZnBi2O6、MgBi2O6、KBiO3を含む実施例1b、2b、および5bのアルカリ電池は、上部電圧平坦部(例えば1.55〜1.65V)において、相当の容量(例えば100 mAh/g以上)を示した。上部電圧平坦部での低速でのカソード利用率は、通常約55%以上であった。
【0065】
Cu2Bi2O7を含むと予想されるカソードを用いた実施例3の電池では、放電前に室温で24時間保管後に、低速で放電が継続される場合、上部電圧平坦部(例えば1.5V)における容量が低下した。また、製造直後の電池が高速で放電される場合、Cu2+からCu+の還元に関係する中間電圧平坦部(例えば0.9V)は残存するものの、上部電圧平坦部は、完全に消滅した。上部電圧平坦部の容量の低下は、アルカリ電解質中のCu2Bi2O7の溶解度によるものであり、この結果、Bi5+からBi3+の自己放電が生じる。この仮定は、Cu2Bi2O7を含むカソードを室温のアルカリ電解質中に浸漬した際に、ゆっくりと青色すなわちCu(OH)42-イオンの色が生じる観察結果と一致する。
【0066】
同様の放電挙動は、室温で約24時間保管された実施例4のビスマス酸銀を含むカソードを有する電池においても観測された。上部電圧平坦部の容量は、製造直後(製造から2時間以内)に放電された電池に比べて小さくなった。しかしながら、Ag+からAg0への還元に関係すると思われる、中間段階の電圧平坦部(例えば1.2乃至1.4V)の容量は、製造後2時間以内に放電された電池に比べて、より明確であった。
【0067】
可溶性メタビスマス酸ナトリウムを含むカソードを有する比較例1の電池において、室温で24時間保管された電池が放電された場合、上部電圧平坦部(例えば1.5V)の容量は、ほとんど認められなかった。電池が製造直後(製造から2時間以内)に放電された場合、上部電圧平坦部の容量は、幾分不明瞭となった。しかしながら、0.6Vのカットオフ電圧までの全低速容量は、理論値のほぼ75%であった。
【0068】
室温で24時間保管後の、ビスマスの平均酸化状態が+4の四酸化ビスマスを含むカソードを有する比較例2の電池では、上部電圧平坦部の容量は無視できるほど小さかった。しかしながら、0.6Vのカットオフ電圧までの全容量は、少なくとも理論値の75%であった。
【0069】
三酸化二ビスマスを含む(すなわち、Bi5+を含まない)カソードを有する比較例3の電池では、放電時に上部電圧平坦部は認められなかった。0.6Vのカットオフ電圧までの単一の電圧平坦部での高速および低速容量は、理論値の約70%であった。
【0070】
前述の実施例および比較例から、アルカリ電池がゲル化亜鉛アノードを有し、カソードが5価のビスマス含有金属酸化物を含み、カソード活物質の体積比容量が約0.8、1.5または2.0Ah/cm3(すなわち、重量比容量が約100、150、200mAh/g)以上であって、電池の平均作動電圧が約1.4乃至1.7Vの場合、ビスマスは、5価であることが好ましく、金属酸化物は、室温のアルカリ電解質に実質的に難溶性であることが好ましい。実施例1、2および5のカソード材料は、全てのこれらの特徴を兼ね備える。実施例3、4および5のカソード材料は、部分的に可溶性であり、溶解Bi5+化学種の一部が水の酸化に伴って自己放電する結果、酸素および可溶性BiO2-イオンが生成される。その結果、上部電圧平坦部の容量は、減少する。比較例1および2のカソード材料は、アルカリ電解質中に簡単に溶解し、室温で保管した場合、多量の自己放電が生じる。比較例3のカソード材料は、いかなるBi5+も含まないため、約0.8V以上では、電圧平坦部が生じない。
【0071】
本願に示した特許出願、刊行物および特許に関する全ての文献は、本願の参照文献として取り入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】電池の断面図である。
【図2】公称平均作動電圧が1.5Vの5価のビスマス含有金属酸化物を含む選定された一次アルカリ亜鉛電池の理論容量、体積容量、および容積エネルギー密度を示す表である。
【図3】誘導結合プラズマ発光分析法によって同定された、選定された5価のビスマス含有金属酸化物の化学成分を示す表である。
【図4】0.8Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、オキシ水酸化コバルトコーティングZnBi2O6の公称15mA/gの定速度での放電曲線である。
【図5】0.8Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、オキシ水酸化コバルトコーティングZnBi2O6の公称150mA/gの定速度での放電曲線である。
【図6】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、オキシ水酸化コバルトコーティングZnBi2O6の公称15mA/gの定速度での放電曲線である。
【図7】0.6Vおよび0.8Vまで放電された、コバルト含有未コーティングおよびCoOOHコーティングビスマス含有金属酸化物を有するアルカリボタン電池の重量比容量を示す表である。
【図8】0.8Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、オキシ水酸化コバルトコーティングMgBi2O6の公称10mA/gの定速度での放電曲線である。
【図9】0.8Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、オキシ水酸化コバルトコーティングMgBi2O6の公称150mA/gの定速度での放電曲線である。
【図10】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、オキシ水酸化コバルトコーティングMgBi2O6の公称10mA/gの定速度での放電曲線である。
【図11】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、「Cu2Bi2O7」の公称10mA/gの定速度での放電曲線である。
【図12】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、AgBiO3の公称10mA/gの定速度での放電曲線である。
【図13】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、NaBiO3・1.37H2Oの公称10mA/gの定速度での放電曲線である。
【図14】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、Bi2O4の公称10mA/gの定速度での放電曲線である。
【図15】0.6Vのカットオフ電圧まで放電されたアルカリボタン電池における、KBiO3の公称10mA/gの定速度での放電曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属と5価のビスマスとを含む酸化物を有するカソードであって、アルカリ金属はリチウムまたはカリウムであるところのカソード、
アノード、
前記カソードと前記アノードの間のセパレータ、および
アルカリ電解質、
を有する一次電池。
【請求項2】
前記酸化物は、LiBiO3、Li3BiO4、Li5BiO5、Li7BiO6、Li4Bi2O7、Li5Bi3O10またはKBiO3であることを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記酸化物は、導電性部分を有することを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記導電性部分は、炭素または金属酸化物からなる導電性表面コーティングであることを特徴とする請求項3に記載の電池。
【請求項5】
前記導電性表面コーティングは、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、酸化コバルト、オキソ水酸化コバルト、酸化銀、酸化銀ニッケル、オキソ水酸化ニッケルおよび酸化インジウムからなる群から選定された材料を有することを特徴とする請求項4に記載の電池。
【請求項6】
アノードは、亜鉛を含むことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記電解質は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記セパレータは、可溶性ビスマス化学種がカソードからアノードに拡散することを抑制することを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記セパレータは、可溶性ビスマス化学種を捕獲することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項10】
アルカリ土類金属と5価のビスマスとを含む酸化物を有するカソード、
アノード、
前記カソードと前記アノードの間のセパレータ、および
アルカリ電解質、
を有する一次電池。
【請求項11】
アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムからなる群から選定されることを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項12】
前記酸化物は、MgBi2O6、Sr2Bi2O7またはBa2Bi2O6であることを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項13】
前記酸化物は、導電性部分を有することを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項14】
前記導電性部分は、炭素または金属酸化物からなる導電性表面コーティングであることを特徴とする請求項13に記載の電池。
【請求項15】
前記導電性表面コーティングは、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、酸化コバルト、オキソ水酸化コバルト、酸化銀、酸化銀ニッケル、オキソ水酸化ニッケルおよび酸化インジウムからなる群から選定された材料を含むことを特徴とする請求項14に記載の電池。
【請求項16】
前記酸化物は、オキソ水酸化コバルトおよびMgBi2O6を含むことを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項17】
前記アノードは、亜鉛を含むことを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項18】
前記電解質は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含むことを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項19】
さらに前記酸化物は、アルカリ金属を含むことを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項20】
前記セパレータは、可溶性ビスマス化学種がカソードからアノードに拡散することを抑制することを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項21】
前記セパレータは、可溶性ビスマス化学種を捕獲することが可能であることを特徴とする請求項10に記載の電池。
【請求項22】
金属と5価のビスマスとを含む酸化物を有するカソードであって、前記金属は、主族金属、ランタノイドまたは銀を除く遷移金属のいずれかであるところのカソード、
アノード、
前記カソードと前記アノードの間のセパレータ、および
アルカリ電解質、
を有する一次電池。
【請求項23】
前記金属は、スカンジウム、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、カドミウム、タンタルおよびタングステンからなる群から選定されることを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項24】
前記金属は、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムおよびイッテリビウムからなる群から選定されることを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項25】
前記金属は、インジウム、スズ、アンチモンおよび鉛からなる群から選定されることを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項26】
さらに前記酸化物は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むことを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項27】
前記酸化物は、ZnBi2O6、Cu2Bi2O7、CdBi2O6またはSr2ScBiO6を含むことを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項28】
前記酸化物は、導電性部分を有することを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項29】
前記導電性部分は、炭素または金属酸化物からなる導電性表面コーティングであることを特徴とする請求項28に記載の電池。
【請求項30】
前記導電性表面コーティングは、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、酸化コバルト、オキソ水酸化コバルト、酸化銀、酸化銀ニッケル、オキソ水酸化ニッケルおよび酸化インジウムからなる群から選定された材料を含むことを特徴とする請求項29に記載の電池。
【請求項31】
前記酸化物は、オキソ水酸化コバルトおよびZnBi2O6を含むことを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項32】
前記アノードは、亜鉛を含むことを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項33】
前記電解質は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含むことを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項34】
前記セパレータは、可溶性ビスマス化学種がカソードからアノードに拡散することを抑制することを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項35】
前記セパレータは、可溶性ビスマス化学種を捕獲することが可能であることを特徴とする請求項22に記載の電池。
【請求項36】
アルカリ電解質、
5価のビスマスを含む酸化物を有するカソードであって、前記酸化物は、室温の前記電解質中に約75ppm以下のビスマス溶解度を有するところのカソード、
アノード、および
前記カソードと前記アノードの間のセパレータ、
を有する一次電池。
【請求項37】
前記ビスマス溶解度は、室温で約50ppm以下であることを特徴とする請求項36に記載の電池。
【請求項38】
前記酸化物は、体積比容量が少なくとも約0.8Ah/cm3であることを特徴とする請求項36に記載の電池。
【請求項39】
前記酸化物は、体積比容量が少なくとも約1.5Ah/cm3であることを特徴とする請求項36に記載の電池。
【請求項40】
平均作動電圧が少なくとも約1.4Vであることを特徴とする請求項36に記載の電池。
【請求項41】
平均作動電圧が少なくとも約1.6Vであることを特徴とする請求項36に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2007−506252(P2007−506252A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526930(P2006−526930)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/029106
【国際公開番号】WO2005/034267
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(593093249)ザ ジレット カンパニー (349)
【Fターム(参考)】