説明

ビス含フッ素フタル酸化合物の製造方法

【課題】 出発物質として過剰の含フッ素フタロニトリルを用いてビス含フッ素フタル酸化合物を製造する方法であって、当該製造を効率的に実施できる方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタル酸化合物(V)を製造する方法において、最初の反応において、含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、且つ、次の反応を、未反応の含フッ素フタロニトリル(I)を除去することなく行い、且つ、反応終了後、含フッ素フタル酸(IV)と、ビス含フッ素フタル酸化合物(V)とを分離することを特徴とするビス含フッ素フタル酸化合物(V)の製造方法。


[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリイミドの中間体として有用であるビス含フッ素フタル酸化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、含フッ素ポリイミドは、例えば、耐熱性、耐薬品性、撥水性及び低誘電性に優れた樹脂原料であり、当該含フッ素ポリイミドを用いたプラスチック材料は、従来使用されている無機系材料に比べ軽量であり、耐衝撃性や加工性に優れ、取り扱いが容易である等の特徴を有することから、これまで配線基板材料、感光材料及び液晶材料等に用いられてきた。
【0003】
ビス含フッ素フタル酸化合物は、かかる含フッ素ポリイミドの中間体として有用であり、その製造方法に関して、例えば、以下のような検討がされている。
【0004】
特許文献1には、過剰量の含フッ素フタロニトリルを出発物質として、求核置換体と反応させることによりビス含フッ素フタル酸化合物の中間体であるビス含フッ素フタロニトリルを製造する方法が記載されている。また、特許文献2には、当該ビス含フッ素フタロニトリルを出発物質として有機溶媒に溶解した後、酸を添加して加水分解することにより、ビス含フッ素フタル酸化合物を製造する方法が開示されている。
【0005】
上記特許文献1の技術により、過剰の含フッ素フタロニトリルを出発物質としてビス含フッ素フタル酸化合物を製造する場合には、最初に含フッ素フタロニトリルから中間体の生成反応を行った後、残存する含フッ素フタロニトリルを除去することによって、当該中間体を精製していた。かかる中間体の精製工程は、蒸留によって未反応物を除去したうえで、カラムクロマトグラフィーにより精製を行うものである。
【0006】
しかし、当該中間体は熱に弱いため、蒸留温度を上げることができず、減圧蒸留が必要となる。かかる減圧蒸留の制御を生産スケールで行うのは容易なものではなく、しかも、設備費用の問題も生じる。また、蒸留により、前記中間体の一部が除去され、収率が低下するという問題もある。一方、前記精製工程をカラムクロマトグラフィーのみで行うことも、装置構成が複雑であり、生産スケールで実施するには設備費用の問題が生じる。
【0007】
従って、従来技術による方法では、残存する含フッ素フタロニトリルを除去することは極めて煩雑であり、エネルギー、時間、設備費用等の様々な無駄なコストが発生し、ビス含フッ素フタル酸化合物の生産効率は極めて悪かった。
【特許文献1】特開平6−16615号公報
【特許文献2】特許第3490407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、出発物質として過剰の含フッ素フタロニトリルを用いてビス含フッ素フタル酸化合物を製造する方法であって、当該製造を効率的に実施できる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、下記化学式(I)に示す含フッ素フタロニトリルと下記化学式(III)に示すビス含フッ素フタロニトリルの物理的性質は類似する一方で、下記化学式(IV)に示す含フッ素フタル酸と下記化学式(V)に示すビス含フッ素フタル酸化合物の物理的性質には明確な差があり、両者の分離が極めて容易であることを見出した。
【0010】
従って、反応の中間段階で、過剰に用いた含フッ素フタロニトリル(I)を除去することなく更に加水分解反応を進めることによって、目的化合物であるビス含フッ素フタル酸化合物を容易に分離することができる。
【0011】
すなわち、上記課題を解決することのできた本発明の製造方法とは、下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタル酸化合物(V)を製造する方法において、
【0012】
【化1】

【0013】
[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]
最初の反応において、含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、且つ、次の反応を、未反応の含フッ素フタロニトリル(I)を除去することなく行い、且つ、反応終了後、含フッ素フタル酸(IV)と、ビス含フッ素フタル酸化合物(V)とを分離することを特徴とする。
【0014】
前記分離は、水に対する溶解度の差を利用して行うことにより、より簡易に行うことができる。また、前記含フッ素フタロニトリル(I)としては、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルを用い、前記化合物(II)としては、テトラフルオロハイドロキノンを用いることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により、過剰の含フッ素フタロニトリルを出発物質としたビス含フッ素フタル酸化合物の製造を、従来と比較して極めて容易に行うことができる。従って、エネルギー、時間、設備費用等の様々な無駄なコストを削減することができ、ビス含フッ素フタル酸化合物の生産効率を極めて高くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の製造方法は、下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタル酸化合物(V)を製造する方法において、
【0017】
【化2】

【0018】
[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]
最初の反応において、含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、且つ、次の反応を、未反応の含フッ素フタロニトリル(I)を除去することなく行い、且つ、反応終了後、含フッ素フタル酸(IV)と、ビス含フッ素フタル酸化合物(V)とを分離することを特徴とする。
【0019】
本発明の製造方法に関して、以下、工程ごとに説明する。
【0020】
本発明の最初の反応は、上記化学式(I)で示される含フッ素フタロニトリル及び上記化学式(II)で示される化合物(以下、化合物(II))から、上記化学式(III)で示されるビス含フッ素フタロニトリル及び未反応の含フッ素フタロニトリル(I)を得る反応である。当該反応は、上記含フッ素フタロニトリルを過剰に用いるところに要旨を有する。
【0021】
上記含フッ素フタロニトリルとしては、上記化学式(I)で示される化合物を用いるのであれば特に限定されない。また、当該化学式(I)において、pは、Fのベンゼン環中への結合数を示し、2〜4の整数であれば、特に限定されない。例えば、前記含フッ素フタロニトリルとして、pが4である化合物、すなわち、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルを用いることが好ましい。
【0022】
上記化合物(II)としては、上記化学式(II)におけるZが2価の有機基であるものを用いるのであれば、特に限定されないが、例えば、Zとしては、下記式で示される有機基を用いることができる。
【0023】
【化3】

【0024】
上記式において、Xは、フッ素,塩素,臭素,ヨウ素原子等のハロゲン原子を表し、mはベンゼン環へのXの結合数を表し、1〜4の整数である。上記式において、Xがベンゼン環中で複数個存在する(すなわちmが2〜4の整数である)場合には、Xとして、それぞれ、ベンゼン環中で同一のものを用いても、あるいは異なるものを用いてもよい。本発明における2価の有機基としては、例えば、下記式
【0025】
【化4】

で表されるものを用いることが好ましく、下記式
【0026】
【化5】

【0027】
で示されるものを用いることがより好ましい。これらのうち、上記化学式のXとして、フッ素を用い、mとして、好ましくは2〜4の整数、より好ましくは4であるものを用いることが更に好ましく、すなわち、上記化合物(II)として、テトラフルオロハイドロキノンを用いることが更に好ましい。
【0028】
上記最初の反応に使用する含フッ素フタロニトリルの添加量は、化合物(II)に対して過剰に用いるのであれば、特に限定されない。当該過剰に用いるとは、前記含フッ素フタロニトリルを、前記化合物(II)1molに対する理論量2molより多く用いることである。含フッ素フタロニトリルを理論量より多く用いることにより、下記式
【0029】
【化6】

【0030】
[上記式中、qはp−2を示し、Zは2価の有機基を示す。]
で示される反応副生成物等を減らすことができるからである。前記含フッ素フタロニトリルは、例えば、化合物(II)1molに対して、好ましくは5mol以上、より好ましくは7mol以上、更に好ましくは9mol以上、好ましくは50mol以下、より好ましくは30mol以下、更に好ましくは15mol以下用いることが望ましい。5mol以上用いることにより、上記式で示される副生成物をより減らすことができ、50mol以下用いることにより、未反応の含フッ素フタロニトリルを減らし、後述する分離工程の際の効率を上げることができる等、より無駄なコストを省き、生産効率を上げることができ得るからである。
【0031】
上記最初の反応に用いる溶媒としては、用いる含フッ素フタロニトリル及び化合物(II)を溶解することができ、かつ、当該反応生成物であるビス含フッ素フタロニトリルに対して不活性であれば、当業者に公知な適当ないかなる溶媒も用いることができ、特に限定されない。すなわち、水系溶媒あるいは有機溶媒のいずれも用いることができるが、例えば、有機溶媒を用いることが好ましい。当該有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ベンゾニトリル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル等を用いることができるが、これらのうち、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピルを用いることがより好ましい。かかる有機溶媒を用いることにより、上記中間体の反応収率をより高めることができ得るからである。
【0032】
上記溶媒中における、含フッ素フタロニトリル及び化合物(II)の合計濃度としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下とすることが望ましい。5質量%以上とすることにより、生産効率を上げることができ、45質量%以下とすることにより、反応物質を十分に溶解させ、反応速度を高めることができ得るからである。
【0033】
また、上記最初の反応には、当該反応を阻害しなければ、当業者に公知な適当ないかなる添加物も加えることができ、特に限定されないが、反応効率をより高めるために、例えば、塩基性物質を加えることが好ましい。当該塩基性物質は、特に限定されないが、例えば、フッ化ナトリウム,フッ化カリウム等のアルカリ金属のフッ化物、フッ化カルシウム等のアルカリ土類金属のフッ化物、あるいはトリメチルアミン,トリエチルアミン等の第三級アミン等を用いることが好ましく、フッ化カリウムを用いることがより好ましい。かかる塩基性物質の添加量は、上記化合物(II)1molに対して、好ましくは2mol以上、好ましくは20mol以下、より好ましくは10mol以下とすることが望ましい。2mol以上とすることにより、反応効率をより高めることができ、20mol以下とすることにより、無駄な原料の使用を減らすことができる等、生産効率をより高めることができ得るからである。
【0034】
そして、上記最初の反応における反応温度は、用いる溶媒等により異なり、特に限定されないが、例えば、好ましくは−5℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは40℃以上、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下とすることが望ましい。−5℃以上とすることにより、反応効率をより高めることができ、150℃以下とすることにより、反応の制御をより容易にすることができ得るからである。
【0035】
更に、上記最初の反応における反応時間は、用いる溶媒、反応温度等により異なり、特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上、通常26時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは10時間以下とすることが望ましい。1時間以上とすることにより、反応の進行をより促進させることができ、26時間以下とすることにより、余分なエネルギー、時間等の無駄なコストを減らすことができる等、生産効率を上げることができ得るからである。
【0036】
尚、上記最初の反応は、常圧下、あるいは減圧下のいずれでも行うことができ、特に限定されないが、例えば、常圧下で行うことが好ましい。
【0037】
上記最初の反応において、含フッ素フタロニトリル、化合物(II)、溶媒及びその他添加物の添加方法は、当該最初の反応による反応物を得られるのであれば、特に限定されない。例えば、前記含フッ素フタロニトリル、溶媒及びその他の添加物を添加して加熱し、かかる混合物に、前記化合物(II)を滴下した後、更に加熱するといった方法を用いることができる。
【0038】
上記最初の反応において、塩基性物質を添加した場合には、当該反応終了後、当該塩基性物質及びその塩を除去することが好ましい。当該塩基性物質およびその塩は、上記次の反応に混入した場合には、例えば、腐食性を有するフッ化水素等、好ましくない化合物を副生成物として生成するおそれがあるからである。かかる塩基性物質及びその塩を除去する方法としては、当業者に公知な適当な方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、濾過あるいは水洗により行うことが好ましい。上記最初の反応後における主な残存物である含フッ素フタロニトリル及びビス含フッ素フタロニトリルは、構造上、いずれも水に難溶性であるからことから、前記除去をより容易に行い得るからである。前記濾過は、例えば、用いた溶媒の種類によって、前記塩基性物質及びその塩が析出する場合に有用である。また、前記水洗は、溶媒として水に不溶性あるいは難溶性のものを用いた場合に有用であり、反応溶液を水系溶媒で洗浄することによって前記除去が可能となる。これらの操作は両方行ってもよく、特に限定されない。
【0039】
上記最初の反応終了後、当該反応溶液からビス含フッ素フタロニトリル及び未反応の含フッ素フタロニトリルを固体として採取した後、次の反応に用いることもできる。かかる固体としての採取方法は、当業者に公知な適当な方法で行うことができ、特に限定されない。
【0040】
本発明の製造方法において、次の反応とは、上記未反応の含フッ素フタロニトリル(I)及びビス含フッ素フタロニトリル(III)から、上記化学式(IV)で示される含フッ素フタル酸及び上記化学式(V)で示されるビス含フッ素フタル酸化合物を得る反応である。当該反応は、加水分解反応であって、上記最初の反応において未反応の含フッ素フタロニトリルを除去することなく用いるところに要旨を有する。
【0041】
上記次の反応には、例えば、最初の反応における反応用液をそのまま用いることができる。また、例えば、上述したように、上記最初の反応における未反応の含フッ素フタロニトリル及びビス含フッ素フタロニトリルを固体として採取したものを用いることもでき、かかる場合には、当該固体をそのまま、次の反応に用いることも、必要に応じて、溶媒を用いることもでき、特に限定されない。前記溶媒を用いる場合には、前記固体を溶解することができ、かつ、反応生成物であるビス含フッ素フタル酸化合物及び含フッ素フタル酸に対して不活性であれば、当業者に公知な適当ないかなる溶媒も用いることができ、特に限定されない。例えば、上記最初の反応に用いた溶媒を用いることができ、かかる場合、採取した固体の溶媒に対する濃度としては、例えば、上記最初の反応における濃度とすることができるが、特にこれに限定されない。前記溶媒としては、他に、例えば、ギ酸,酢酸,プロピオン酸等の有機酸、無水ギ酸,無水酢酸,無水プロピオン酸等の酸無水物、アセトン,メチルイソブチルケトン(MIBK),メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサン等のケトン類、クロロホルム,塩化メチレン,四塩化炭素,クロロエタン,ジクロロエタン及びテトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン,トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン(THF),ジオキサン,ジフェニルエーテル,ベンジルエーテル及びtert−ブチルエーテル等のエーテル類、ギ酸メチル,ギ酸エチル,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピル及び酢酸イソプロピル等のエステル類、あるいはN−メチルピロリジノン(NMP),ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルアセトアミド等も用いることができる。これらのうち、有機酸及び酸無水物が好ましく、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸、及び無水プロピオン酸がより好ましい。前記溶媒に対する上記未反応の含フッ素フタロニトリル及びビス含フッ素フタロニトリルの合計濃度は、かかる化合物が十分溶解する濃度であれば特に限定されないが、例えば、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下とすることができる。
【0042】
また、上記次の反応は、例えば、反応効率をより高めることができるという観点から、酸性条件下で行うことが好ましい。かかる酸性条件とする方法として、例えば、上記最初の反応で得られた反応溶液、上記採取した固体、あるいは、上記採取した固体を上記溶媒で溶解した溶液に、酸性水媒体を添加することによって行うことができ、当該酸性水媒体としては、例えば、水と無機酸あるいは有機酸等の酸性物質との混合物を用いることができる。かかる酸性物質のうち、無機酸を添加することが好ましく、当該無機酸としては、硫酸、塩酸、リン酸等を用いることができるが、硫酸を用いることがより好ましい。また、前記酸性水媒体中における酸性物質の濃度は、用いる酸性物質により異なるが、例えば、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下とすることが望ましい。30質量%以上とすることにより、反応効率をより高めることができ、90質量%以下とすることにより、反応の制御をより容易にすることができ得るからである。
【0043】
上記酸性水媒体の添加量は、未反応の含フッ素フタロニトリル及びビス含フッ素フタロニトリルを十分加水分解できる量とするのであれば、特に限定されず、反応温度、酸性物質の種類等により異なるが、例えば、上記酸性水媒体に対する当該未反応の含フッ素フタロニトリル及びビス含フッ素フタロニトリルの合計濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下とすることが望ましい。
【0044】
そして、上記次の反応における反応温度は、用いる溶媒あるいは酸性水媒体等によって異なるが、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下とすることが望ましい。20℃以上とすることにより、反応効率をより高めることができ、300℃以下とすることにより、反応の制御をより容易にすることができ得るからである。
【0045】
更に、上記次の反応における反応時間は、反応温度等によって異なり、特に限定されないが、通常0.1時間以上、好ましくは0.3時間以上、より好ましくは0.5時間以上、通常40時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは20時間以下とすることが望ましい。0.1時間以上とすることにより、反応の進行をより促進することができ、40時間以下とすることにより、余分なエネルギー、時間等の無駄なコストを減らすことができる等、生産効率を上げることができ得るからである。
【0046】
尚、上記次の反応は、常圧下、あるいは減圧下のいずれでも行うことができ、特に限定されないが、例えば、常圧下で行うことが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法において、分離とは、上記次の反応において生成した含フッ素フタル酸(IV)及びビス含フッ素フタル酸化合物(V)から、含フッ素フタル酸(IV)を除去して、ビス含フッ素フタル酸化合物(V)を得る方法である。
【0048】
当該分離を行うことができる方法であれば、当業者に公知な適当な方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶、再沈などの方法を用いることができる。
【0049】
例えば、前記化合物の水に対する溶解度を比較した場合、含フッ素フタル酸よりもビス含フッ素フタル酸化合物の方がその溶解度が小さいことを考慮すれば、水に対する溶解度の差を利用して分離することが好ましい。すなわち、上記次の反応の反応溶液に、更に水を添加することにより、ビス含フッ素フタル酸化合物を析出させるといった再結晶法を用いることが好ましい。複雑な工程を経ることがなく、より簡易に副反応物である含フッ素フタル酸を除去し、ビス含フッ素フタル酸化合物の結晶を得ることが可能となり得るからである。
【0050】
尚、このように分離したビス含フッ素フタル酸化合物は、純度を上げるために、当業者に公知な適当な方法で洗浄、再結晶、再沈等することも任意に行うことができる。
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0052】
撹拌装置、冷却還流管、温度計及び滴下装置を備えた200mL四つ口フラスコに、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル60.52g(0.30mol)、フッ化カリウム5.50g(0.095mol)及びメチルイソブチルケトン100gを加え、50℃まで加熱した。その後、前記滴下装置を用いて、テトラフルオロハイドロキノン5.50g(0.030mol)をメチルイソブチルケトン9gに溶解させた溶液を15分かけて滴下した後、更に50℃で2時間、続いて80℃で3時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却してからフッ化カリウム及びその塩を濾別し、濾液を得た。得られた濾液を5質量%硫酸ナトリウム水溶液40gで3回洗浄した後、メチルイソブチルケトンを留去し、固体生成物を得た。
【0053】
次に、上記と同様の撹拌装置、冷却還流管、温度計及び滴下装置を備えた2L四つ口フラスコに、上記固体生成物及びプロピオン酸550gを加え、120℃で撹拌しながら、更に70質量%硫酸水溶液400gを1時間かけて滴下した後、還流温度130℃で20時間反応を行った。反応終了後、室温まで冷却し、水2500mLに当該反応溶液を加え、結晶を析出させ、濾過した。当該濾物にアセトン15g、水135gを加えて再結晶し、結晶を析出させた。析出した結晶を、濾過し、100℃で5時間乾燥し、生成物を得た。かかる生成物に関し、高速液体クロマトグラフィーにより分析を行ったところ、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシ−2,5,6−トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンを99.5%含有することがわかった。
【0054】
以上の結果、本発明の製造方法によれば、上記化学式(V)で示されるビス含フッ素フタル酸化合物を効率的に製造できることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタル酸化合物(V)を製造する方法において、
【化1】

[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]
最初の反応において、含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、且つ、
次の反応を、未反応の含フッ素フタロニトリル(I)を除去することなく行い、且つ、
反応終了後、含フッ素フタル酸(IV)と、ビス含フッ素フタル酸化合物(V)とを分離することを特徴とするビス含フッ素フタル酸化合物(V)の製造方法。
【請求項2】
前記分離を、水に対する溶解度の差を利用して行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素フタロニトリル(I)として、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルを用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(II)として、テトラフルオロハイドロキノンを用いる請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−225349(P2006−225349A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42889(P2005−42889)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】