説明

ビス含フッ素フタロニトリル化合物の製造方法

【課題】ビス含フッ素フタロニトリル化合物を容易に得ることができ、プラントレベルの大量合成にも適した製造方法を提供する。
【解決手段】含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を製造する方法において、



[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。] 当該反応を繰り返し実施し、;各反応において含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、;各反応終了後、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して含フッ素フタロニトリル(I)とビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を分離し、;且つ回収した含フッ素フタロニトリル(I)を再利用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス含フッ素フタロニトリル化合物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度にフッ素置換されたビス含フッ素フタロニトリル化合物は、光学材料,配線基板材料,感光材料や液晶材料等の中間原料として有用である。
【0003】
この様なビス含フッ素フタロニトリル化合物、例えば、1,4-ビス(3,4-ジシアノ-2,5,6-トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン(以下、「10FEDN」という)を得るには、一般的には下記反応に従い、3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル(以下、「TFPN」という)とテトラフルオロハイドロキノン(以下、「TFHQ」という)を原料として使用する。
【0004】
【化1】

【0005】
上記反応式によれば、理論的には、TFHQに対して2当量のTFPNを反応させればよいはずである。しかしそれでは、下に示す副反応が起こる。即ち、TFPNとTFHQとの1対1縮合物が、TFPNではなく目的化合物である10FEDNと反応してしまい、目的化合物(10FEDN)の収率と純度が極度に低下するという問題があった。
【0006】
【化2】

【0007】
そこで、特許文献1に記載の技術では、TFHQに対してTFPN等を8モル当量以上反応させることによって、高純度のビス含フッ素フタロニトリル誘導体を得ることに成功している。
【0008】
しかし、TFPN等の原料化合物を過剰に用いた場合には、反応終了後、目的化合物の精製の際に問題が生じる。つまり、特許文献1の実施例では、反応終了後に残存するTFPNを蒸留により除去した上で、目的化合物をカラムクロマトグラフィーにより精製している。ところが、目的化合物である10FEDN等は熱に弱いため、精製工程では温度を上げることができない。その一方で、原料化合物であるTFPNの融点は87℃であり常温で固体であるので、蒸留除去するには減圧する必要がある。その際、TFPN等の減圧留去に伴って、目的化合物も除去されてしまうという問題もある。従って、従来技術により含フッ素フタロニトリル化合物を製造する場合には、その精製工程における減圧蒸留条件の制御が難しく、プラントレベルでの大量生産に適した方法ではなかった。
【0009】
しかも、当該精製工程における減圧蒸留では、上述した通り温度を上げることができないため、原料化合物が留去されるにしたがって、10FEDN等が固結するという問題もあった。
【0010】
一方、特許文献2に記載の実施例では、やはり過剰のTFPNを用いて含フッ素芳香族ニトリルが合成されているが、目的化合物は、トルエンとヘキサンとの混合溶媒から再結晶精製されている。しかし、この再結晶は目的化合物の純度を上げるために行なわれており、反応後に残存するTFPNは、再結晶前における「有機層の濃縮」により目的化合物から分離されており再結晶により分離されているのではない。
【特許文献1】特開平6−16615号公報(請求項1,実施例等)
【特許文献2】特開2003−238515号公報(段落[0046]と[0058])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した様に、これまでにもビス含フッ素フタロニトリル化合物の合成方法は種々知られており、その中でも特に、原料化合物である含フッ素フタロニトリルを過剰に用いる方法が、収率を向上させることができるものとして有効である。しかし、反応終了後に残存するこの含フッ素フタロニトリルが、目的化合物であるビス含フッ素フタロニトリル化合物の精製に影響を与えるため、効率的に大量合成するのは困難であった。
【0012】
そこで、本発明が解決すべき課題は、ビス含フッ素フタロニトリル化合物を製造するに当たり、反応終了後の精製工程において、過剰に残存する原料化合物を減圧留去しなくても目的化合物を容易に得ることができ、プラントレベルの大量合成にも適した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ビス含フッ素フタロニトリル化合物を効率的に大量合成できる条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、過剰の原料化合物と目的化合物との溶解度における相違を利用してこれらを分離すれば、効率よく目的化合物が得られるのみでなく原料化合物を回収できるため、これを再利用すれば、無駄のないビス含フッ素フタロニトリル化合物の大量合成システムを確立できることを見出して本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明に係る含フッ素フタロニトリル化合物の製造方法は、下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を製造する方法において、
【0015】
【化3】


[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]
【0016】
当該反応を繰り返し実施し、
各反応において含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、
各反応終了後、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して含フッ素フタロニトリル(I)とビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を分離し、且つ
回収した含フッ素フタロニトリル(I)を再利用することを特徴とする。
【0017】
上記分離は、再結晶法により行なうことが好ましい。目的化合物であるビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)が、高純度且つ高収率で得られるからである。
【0018】
上記有機溶媒としては、芳香族炭化水素,脂肪族炭化水素またはこれらの混合物が好適である。これらを使用すれば、含フッ素フタロニトリル(I)とビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)とを効率的に分離できるからである。
【0019】
上記製造方法においては、上記含フッ素フタロニトリル(I)を、上記有機溶媒の溶液としてビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)から分離する態様が好ましい。本発明者らが見出した知見によれば、含フッ素フタロニトリル(I)とビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)は、当然に共通構造を有するものでありながら、特定の有機溶媒に対する溶解度において適度な差を有し、含フッ素フタロニトリル(I)は溶解度がより高いからである。
【0020】
上記化合物(II)として、好適には下記式で表される化合物を用いる。
【0021】
【化4】


[上記式中、XおよびYはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]
【0022】
当該化合物(II)を原料として得られるビス含フッ素フタロニトリル化合物は、光学材料等として特に有用性が高く、大量合成方法が切望されている上に、後述する実施例によって、本発明に係る製造方法が当該化合物の製法として優れていることが実証されているからである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によれば、目的化合物であるビス含フッ素フタロニトリル化合物と原料として過剰に用いた含フッ素フタロニトリル(I)とを効率よく分離することができ、回収した含フッ素フタロニトリル(I)を同様の反応で再利用できる。従って、特に含フッ素フタロニトリル(I)をプラントレベルで大量合成するに当たって、目的化合物を高純度で効率的に得られるのみでなく、過剰に用いなければならない原料化合物の無駄を抑制することができる。よって、本発明に係る含フッ素フタロニトリル化合物の製造方法は、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明方法は、下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を製造する方法であって、
【0025】
【化5】


[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]
【0026】
当該反応を繰り返し実施し;各反応において含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い;各反応終了後、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して含フッ素フタロニトリル(I)とビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を分離し;且つ回収した含フッ素フタロニトリル(I)を再利用する点に要旨を有する。以下、本発明方法のブロック図である図1を参照し、各工程につき説明する。また、以下では、含フッ素フタロニトリル(I)等を、単に「化合物(I)」等という場合がある。
【0027】
(1) 反応
先ず、化合物(I)と化合物(II)とを反応させる。化合物(I)としては、フッ素置換数が多いほど光学特性に優れることから、pが3または4である化合物がより好適であり、pが4である化合物(3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル)が最適である。
【0028】
化合物(II)において、Zは2価の有機基を示すが、当該基として例えば以下のものを例示することができる。即ち、以下のアリール基
【0029】
【化6】

[上記アリール基は、フッ素原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。];
以下のアリールオキシ基
【0030】
【化7】

[上記アリール基は、フッ素原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。];
以下のアリールチオ基
【0031】
【化8】

[上記アリール基は、フッ素原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。] などを挙げることができる。これらの中では、アリールオキシ基またはアリールチオ基が好ましく、アリールオキシ基がより好ましい。
【0032】
上記例示において、置換基が複数である場合には、置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、好適な置換基は、フッ素原子および/またはトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
【0033】
Z基としては、以下の基が好適である。
【0034】
【化9】

[上記式中、XおよびYはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]
この場合、XとYは同一である、即ちXとYは共に酸素原子であるか或いは硫黄原子であることが好ましく、共に酸素原子であることがより好ましい。
【0035】
上記反応では、化合物(I)と(II)との1対1縮合化合物が、化合物(I)ではなく生成した目的化合物(III)と縮合する副反応が起こり得る。そこで、斯かる副反応を抑制するために、化合物(I)を過剰に使用する必要がある。この場合、使用する化合物(I)の量は、化合物(II)に対して8〜50モル当量(より好適には、15〜30モル当量)が好ましい。化合物(I)をあまりに過剰に用いると、副反応の抑制効果以上に精製工程が煩雑になることによる。
【0036】
反応は、化合物(I)の溶液に、化合物(II)の溶液を滴下することにより行なうのが好ましい。化合物(I)が常に過剰に存在する状態で反応を進行させることによって、副反応をより効率的に抑制できるからである。
【0037】
ここで使用される溶媒は、原料化合物を溶解でき且つ反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えばメチルイソプロピルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル,酢酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類;ベンゾニトリル等のニトリル類を挙げることができる。
【0038】
また、反応を促進するために塩基性化合物を反応系に添加することが好ましい。この様な塩基性化合物としては、例えば、フッ化ナトリウム,フッ化カリウム等のアルカリ金属のフッ化物;フッ化カルシウム,フッ化マグネシウム等のアルカリ土類金属のフッ化物;トリメチルアミン,トリエチルアミン等の第三級アミン等を挙げることができる。
【0039】
化合物(II)の溶液を滴下する際の反応温度は特に制限されないが、反応を促進するために加熱することが好ましく、好適な反応温度は40〜100℃である。反応の進行により温度が上がり過ぎる場合には、滴下中は温度を押さえ気味にし、滴下後に温度を上げればよい。また、反応温度は、使用する溶媒の沸点を大幅に超えることがない様に調整することも重要である。
【0040】
反応時間は、使用する原料の種類や溶媒、反応温度等により変わるが、一般的には1〜24時間であり、具体的には薄層クロマトグラフィー等により反応の終了を確認した上で後処理を開始すればよい。
【0041】
(2) 水溶性成分の除去
上記反応において、化合物(II)は実質的に全て消費されるため、反応終了後に存在する主な化合物は、化合物(I)と化合物(III)である。これら化合物は、構造上水に難溶性である。しかし、反応により生じたフッ化物イオンの塩や触媒として用いた塩基性化合物等の水溶性成分も存在する。従って、精製前にこの水溶性成分を除去する必要がある。
【0042】
これら水溶性成分は、主に使用する溶媒の種類によって、反応終了後に反応溶液を室温まで冷却することにより析出する場合がある。斯かる場合には、濾過等により除去することができる。また、反応溶媒として水に不溶性または難溶性のものを用いた場合には、反応溶液を水系溶媒で洗浄することによっても除去できる。これら操作は、両方行なってもよい。
【0043】
(3) 精製
塩基性化合物を反応溶液から除去した後は、溶媒を留去する。残渣は、主に原料である化合物(I)と目的化合物(III)である。
【0044】
斯かる残渣へ適切な有機溶媒を加えることによって、目的化合物であるビス含フッ素フタロニトリル誘導体(III)を優先的に析出させる。つまり、本発明の精製工程で使用する「有機溶媒」は、化合物(I)に対する溶解能に優れる一方で、化合物(III)に対する溶解度が低いもの(好ましくは、室温では実質的に化合物(III)を溶解しないもの)をいう。好適には、芳香族炭化水素,脂肪族炭化水素またはこれらの混合物を用いる。この芳香族炭化水素としては、ベンゼン等の無置換芳香族炭化水素;トルエン,キシレン等の置換芳香族炭化水素を例示することができる。脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン,オクタン等の鎖状脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素を挙げることができる。これらを混合して用いる場合の混合割合は、化合物(I)や化合物(III)の溶解度を考慮した上で、予備実験により決定すればよい。
【0045】
なお、化合物(III)を製造するに当たり化合物(I)を過剰に用いる反応において、化合物(I)と(III)の分離を再結晶等により行なう技術は知られていなかった。このことは、原料化合物である化合物(I)と目的化合物である化合物(III)は、構造上共通部分が多い上に、化合物(I)が晶出させるべき化合物(III)よりも多いために、化合物(III)を優先的に晶出させるのは不可能であると考えられていたことによる。しかし、本発明者らは、過剰の原料化合物が残存している場合であっても目的化合物の晶出が可能であるという有機合成化学分野における常識と相反する現象により、上記課題が解決できることを見出して本発明を完成した。
【0046】
化合物(I)と化合物(III)の分離は、再結晶法によることが好ましい。具体的には、これら化合物の混合残渣に有機溶媒を加えた後、一旦温度を上げて目的化合物(III)を実質的に溶解し、その後室温までゆっくり冷却し静置することによって、目的化合物(III)を再結晶させる。この際、化合物(I)は、化合物(III)と共通構造を有するものでありながら溶解度が高いので、化合物(III)から分離することができる。
【0047】
化合物(III)を再結晶する際の濾液には、主として化合物(I)が溶解している。この化合物(I)は、溶液のまま上記(1)の反応で用いることもできる。しかし、(1)の反応で用いる溶媒と、再結晶で用いた溶媒とが異なる場合には、濾液から化合物(I)を精製して再利用することが好ましい。この場合には、再結晶で用いた溶媒を減圧留去した後、更に減圧蒸留するか、用いた有機溶媒よりも化合物(I)の沸点が低い場合には、化合物(I)を減圧蒸留すればよい。
【0048】
なお、化合物(I)を回収する際には、目的化合物(III)が混入する場合もあり得るが、本発明では回収したものを再利用して繰り返し反応を行なうため、全体として無駄はない。
【0049】
以上説明した通り、本発明の製造方法によれば、目的化合物であるビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を効率よく得られる上に、反応終了後も反応系に残存するビス含フッ素フタロニトリル(I)も効率的に回収することが可能になり、無駄なく再利用することができる。従って、本発明方法の効果は、合成規模が大きくなる程高くなり、従来方法との差が顕著となる。
【0050】
以下に、実施例を示し本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1 1,4-ビス(3,4-ジシアノ-2,5,6-トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンの製造
攪拌装置,冷却還流管,温度計および滴下装置を備えた200 ml四つ口フラスコに、3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル(60.52g, 0.3 mol),フッ化カリウム(5.5 g, 0.095 mol)およびメチルイソブチルケトン(100 g)を加え、50℃まで加熱した。滴下装置よりテトラフルオロハイドロキノン(5.5 g, 0.03 mol)をメチルイソブチルケトン(9 g)に溶解させた溶液を15分かけて滴下した。その後、50℃で2時間、続いて80℃で3時間反応させた。
【0052】
反応終了後、室温まで冷却してから濾過し、フッ化カリウム等を濾別した。得られた濾液を5%硫酸ナトリウム水溶液(40 g)で3回洗浄した後、メチルイソブチルケトンを留去した。トルエン(50 g)を加え、還流温度まで加熱した後、室温まで冷却した。析出物を濾過し、トルエン(25 g)で濾物を洗浄した。この濾物を乾燥することによって、標記化合物(15.77 g, 0.029 mol)を得た(対テトラフルオロハイドロキノン収率:97%)。得られた標記化合物の純度を液体クロマトグラフィーで測定した結果は、95%であった。
【0053】
標記化合物を濾別した後の濾液中には、45 gの原料化合物である3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリルが残存していた。当該濾液からトルエンを留去し、更に圧力1.3 kPa,蒸留温度110℃で減圧蒸留することによって、25 gの3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリルを回収した。この際、目的化合物である含フッ素フタロニトリル誘導体は殆ど残存していなかったことから、固結の問題は発生しなかった。
【0054】
実施例2 1,4-ビス(3,4-ジシアノ-2,5,6-トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンの製造
上記実施例1で回収した25 gの3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリルに新たな同化合物を追加して60.52g(0.3 mol)とした以外は全て同じ条件で、標記化合物を製造した。得られた標記化合物は15.68 g(0.029 mol)であり、テトラフルオロハイドロキノンに対する収率は96%であった。また、得られた標記化合物の純度を液体クロマトグラフィーで測定したところ、95%であった。
【0055】
当該結果により、過剰に用いた含フッ素フタロニトリルを再結晶法により回収しつつ、目的物である含フッ素フタロニトリル化合物を収率良く製造できる上に、回収した含フッ素フタロニトリルを再利用しても、同様の反応を効率よく行なえることが実証された。従って、本発明方法は、特にプラントレベルの大量合成に適するものである。
【0056】
比較例1 1,4-ビス(3,4-ジシアノ-2,5,6-トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンの製造
出発原料として3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル(60.52 g, 0.3 mol)とテトラフルオロハイドロキノン(5.5g, 0.03mol)を用い、上記実施例1と同様の条件で反応を行なった。
【0057】
反応終了後、室温まで冷却してから濾過し、フッ化カリウム等の水溶性成分を濾別した。得られた濾液を5%硫酸ナトリウム水溶液(40 g)で3回洗浄した後、メチルイソブチルケトンを留去した。更に、まだ過剰に存在している出発原料である3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリルを、圧力1.3 kPa,蒸留温度110℃で減圧蒸留した。この蒸留によって44 gの3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリルを回収できたが、留出物が無くなった時点で蒸留残渣は固結した。当該蒸留残渣の融点は、160℃以上であった。
【0058】
留去後の残渣にトルエン(20 g)を加え、還流温度まで加熱後、室温まで冷却した。析出物を濾過し、トルエン(20 g)で濾物を洗浄した。この濾物を乾燥することによって、標記化合物(15.61 g, 0.029mol)を得た(対テトラフルオロハイドロキノン収率:96%)。得られた標記化合物の純度を液体クロマトグラフィーで測定した結果は、94%であった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明方法のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記反応により含フッ素フタロニトリル(I)からビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を製造する方法において、
【化1】


[上記式中、pは2,3または4を示し、qはp−1を示し、Zは2価の有機基を示す。]
当該反応を繰り返し実施し、
各反応において含フッ素フタロニトリル(I)を過剰に用い、
各反応終了後、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して含フッ素フタロニトリル(I)とビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)を分離し、且つ
回収した含フッ素フタロニトリル(I)を再利用することを特徴とする含フッ素フタロニトリル化合物の製造方法。
【請求項2】
上記分離を再結晶法により行なう請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記有機溶媒として、芳香族炭化水素,脂肪族炭化水素またはこれらの混合物を用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記含フッ素フタロニトリル(I)を上記有機溶媒の溶液としてビス含フッ素フタロニトリル化合物(III)から分離するものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
上記化合物(II)として、下記式で表される化合物を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【化2】


[上記式中、XおよびYはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]


【図1】
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【公開番号】特開2006−199599(P2006−199599A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10430(P2005−10430)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】