説明

ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの調製及び使用方法

【課題】ビス(トリエトキシシリルプロピル)フマレートのようなビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートはタイヤ処方において有用である。従来のビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートの製造方法より速く、低温で、及び/又は少ない副産物でビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを製造方法を提供する。
【解決手段】a)ハロオルガノアルコキシシラン、b)ジカルボキシル官能性化合物の二金属塩、及びc)二環式アミジン、二環式アミジンの第4級イミニウム化合物、又はこれらの組み合わせを含む相間移動触媒を含む組成物を反応させるステップ1)を具える、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを含む反応生成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照及び連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本出願は、本明細書に参照により組み入れる、現在係属中の、2011年9月20日に出願されたPCT出願第PCT/US11/52331号の一部継続出願である。
【0002】
ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートのようなビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート化合物の新規合成経路について開示する。ビス(トリエトキシシリルプロピル)フマレートのようなビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートはタイヤ処方において有用である。新規経路は、従来のビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートの製造方法より速く、低温で、及び/又は少ない副産物でビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを製造することができる。
【背景技術】
【0003】
ジカルボン酸二金属のハロオルガノアルコキシシランでの相間移動触媒反応は、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムのような第4級アンモニウム触媒を用いて行うことができる。しかしながら、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムには、この反応に用いられる温度で熱的に不安定であるという欠点があり、よって高性能触媒とはみなされない。臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)のようなハロゲン化テトラブチルアンモニウムも、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシル官能性化合物を製造するのに必要な温度では熱的に不安定であり得る。相間移動触媒としてTBABを用いることは、生成物中に存在する触媒分解物、例えば、トリブチルアミン及びブチルフマレートをもたらし得る。
【0004】
アミン第4級塩は(反応の条件下で分解するので)ホスホニウム化合物より熱的に不安定及び非効率的であり、反応中及びその後の生成物の回収中に、例えば触媒残留物からの生成物の高温蒸留により、望ましくない副産物を生成し得る。分解副産物は、沸点が近いため、及びそれらが精製プロセス中に連続的に生成されるため、蒸留により分離するのが困難であり得る。
【0005】
ジカルボン酸二金属のハロオルガノアルコキシシランとの、PhPMeClのようなホスホニウム塩を用いる相間移動触媒反応には、用いられるホスホニウム塩がそれらのアンモニウム対応物より毒性であるという欠点がある。
【0006】
熱的に安定なアミン系相間移動触媒、塩化ヘキサエチルグアニジウムについても開示されている。しかしながら、塩化ヘキサエチルグアニジウムは水溶液として入手可能であり、使用前に完全に乾燥させなければならず、これは望ましくない追加の、かつエネルギーを消費するプロセスステップである。塩化ヘキサエチルグアニジウムには、商業的な量で入手することが困難であるという欠点もある。
【0007】
当技術分野には、代替の相間移動触媒を提供する継続的必要性がある。非水環境において用いるのに適した相間触媒が望まれている。
【発明の概要】
【0008】
a)ハロオルガノアルコキシシラン、
b)ジカルボキシル官能性化合物の二金属塩、及び
c)相間移動触媒
を含む組成物を反応させるステップを具える、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを含む反応生成物の調製方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
用語の定義及び使用法
すべての量、比、及び割合は、とくに指定のない限り、重量による。冠詞「a」、「an」、及び「the」はそれぞれ、本明細書の文脈によりとくに指定のない限り、1つ以上を指す。接頭語「ポリ」とは1つより多いことを意味する。範囲の開示は、範囲そのもの及びまたその中に含まれるもの、並びに端点を含む。例えば、2.0〜4.0の範囲の開示は、2.0〜4.0の範囲のみならず、単独で2.1、2.3、3.4、3.5、及び4.0、並びに範囲内に含まれるその他の数も含む。さらに、例えば、2.0〜4.0の範囲の開示は、例えば、2.1〜3.5、2.3〜3.4、2.6〜3.7、及び3.8〜4.0の部分集合、並びに範囲に含まれるその他の部分群を含む。同様に、マルクーシュ群の開示は群全体並びにまたいずれかの単独の要素及びその中に含まれる部分群を含む。例えば、マルクーシュ群、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はアルカリル基の開示は、要素、アルキル単独;部分群、アルキル及びアリール;並びにその他の単独要素及びその中に含まれる部分群を含む。
【0010】
「アラルキル」及び「アルカリル」とはそれぞれ、側鎖及び/又は末端アリール基を有するアルキル基又は側鎖アルキル基を有するアリール基を指す。例となるアラルキル基としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、及びフェニルブチルが挙げられる。
【0011】
「炭素環」及び「炭素環式」とは炭化水素環を指す。炭素環は単環式であってもよく、又はあるいは縮合、架橋、若しくはスピロ多環式環であってもよい。単環式炭素環は3〜9個の炭素原子、あるいは4〜7個の炭素原子、あるいは5〜6個の炭素原子を有することができる。多環式炭素環は7〜17個の炭素原子、あるいは7〜14個の炭素原子、あるいは9〜10個の炭素原子を有することができる。炭素環は飽和又は部分不飽和であってもよい。
【0012】
「シクロアルキル」とは飽和炭素環を指す。シクロアルキル基の例としては、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0013】
「複素環」及び「複素環式」とは環中に炭素原子及び1つ以上のヘテロ原子を含む環基を指す。ヘテロ原子はN、O、P、S、又はこれらの組み合わせであってもよい。あるいは、ヘテロ原子はNであってもよい。複素環は単環式であってもよく、又はあるいは縮合、架橋、又はスピロ多環式環であってもよい。単環式複素環は環中に3〜9員原子、あるいは4〜7員原子、あるいは5〜6員原子を有することができる。多環式複素環は7〜17員原子、あるいは7〜14員原子、あるいは9〜11員原子を有することができる。複素環は飽和又は部分不飽和であってもよい。
【0014】
本明細書において用いる略語を以下のとおり定義する。「GC」とはガスクロマトグラフィーを意味する。「NMR」とは核磁気共鳴を意味する。略語「ppm」とは100万分の部数を意味する。「Et」とはエチルを意味する。「Me」とはメチルを意味する。「Ph」とはフェニルを意味する。「Pr」とはプロピルを意味し、iPr及びnPrのような各種構造を含む。「iPr」とはイソプロピルを意味する。「nPr」とは標準プロピルを意味する。「Bu」とはブチルを意味し、nBu、sec−ブチル、tBu、及びiBuを含む各種構造を含む。「iBu」とはイソブチルを意味する。「nBu」とは標準ブチルを意味する。「tBu」とは第3級ブチルを意味する。「Vi」とはビニルを意味する。
【0015】
ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの調製方法を、以下の説明ではビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートについて例示する。しかしながら、当業者であれば、他のビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート化合物(例えば、マレイン酸塩、イタコン酸塩、シトラコン酸塩、メサコン酸塩、及びマロン酸塩)を、適当な出発物質を変えることにより調製することができることを認識するだろう。
【0016】
ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの調製方法
1)a)ハロオルガノアルコキシシラン、b)ジカルボキシル官能性化合物の二金属塩、及びc)相間移動触媒
を含む組成物を反応させるステップを具える、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを含む反応生成物の調製方法。
成分a)がハロアルキルアルコキシシランであり、成分b)がフマレートの二金属塩である場合、反応生成物はビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを含む。ステップ1)において反応が起こって、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート(例えば、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート)及び金属ハロゲン化物を含む反応生成物を形成する。組成物は任意で1つ以上の追加の成分をさらに含むことができる。追加成分の例としては、これらに限定されないが、d)共触媒、e)溶媒、f)安定剤、及びこれらの組み合わせが挙げられる。本方法は、2)金属ハロゲン化物の少なくとも一部を除去するステップをさらに具えることができる。本方法は、3)ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート、例えば、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを回収するステップをさらに具えることができる。
【0017】
ステップ1)反応条件
ステップ1)における反応は、組成物を最高180℃の反応温度で最高18時間の反応時間加熱することにより行うことができる。あるいは、反応温度は最高140℃であってもよい。あるいは、反応温度は最高120℃であってもよい。あるいは、反応温度は周囲温度〜180℃の範囲内であってもよい。あるいは、反応温度は60℃〜180℃の範囲内であってもよい。あるいは、反応温度は130℃〜180℃の範囲内であってもよい。あるいは、反応温度は80℃〜120℃の範囲内であってもよい。あるいは、反応時間は30分〜24時間(h)、あるいは6h〜18h、あるいは6h〜12h、あるいは7h〜11h、あるいは14h〜18hの範囲内であってもよい。
【0018】
反応は実質的に無水条件下で行うことができる。実質的に無水条件とは、組成物の含水量が、成分a)のハロオルガノアルコキシシラン、成分b)のジカルボキシル官能性化合物の二金属塩、及び成分c)の相間移動触媒の総重量に対して、0%〜1%、あるいは0.15%〜0.5%、あるいは0.2%〜0.4%の範囲内であり得ることを意味する。水の非存在は組成物中の成分から微量の水を除去することにより達成することができる。例えば、成分は、分子篩のような乾燥剤の補助によって乾燥させることができる。さらなる例としては、ステップ1の反応は、実質的に無水条件下、最高180℃の反応温度で最高18hの反応時間加熱することにより行うことができる。ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの調製方法は任意で、ステップ1)前に成分の1つ以上を乾燥させるステップをさらに具えることができる。例えば、このステップは、成分b)及び/又は成分c)を乾燥させ、ステップ1)における加熱前の成分中の含水量を1%以下、あるいは0.05%以下、あるいは0.025%以下のレベルまで低減するステップを具えることができる。
【0019】
反応は実質的に不活性条件下で行うことができる。例えば、ステップ1)は窒素ブランケットのような不活性ガスブランケット下で行うことができる。
【0020】
成分a)ハロオルガノアルコキシシラン
本明細書に記載する方法において用いられる成分a)のハロオルガノアルコキシシランは式(I):XSi(OR(4−a−b)を有することができる。式中、下付き文字aは1又は2、あるいは1であり、下付き文字bは0、1、又は2、あるいは0又は1、あるいは1、あるいは0であるが、ただし、(a+b)<4である。各Xは独立してハロゲン化有機基である。基Xは、Cl、Br、又はI、あるいはClのような少なくとも1つのハロゲン原子を含有するアルキル基であってもよい。Xの例となる基としては、クロロメチル、クロロプロピル、ブロモプロピル、ヨードプロピル又はクロロイソブチルが挙げられる。あるいは、Xはクロロメチル及びクロロプロピルから選択することができる。
【0021】
式(I)中、各Rは独立してヒドロカルビル基である。Rにより表されるヒドロカルビル基は、一般的には1〜6個の炭素原子、あるいは1〜4個の炭素原子を有する。少なくとも3個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基は、分岐又は非分岐構造を有することができる。Rのヒドロカルビル基の例としては、これらに限定されないが、Me、Et、Pr、1−メチルエチル、Bu、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシルのようなアルキル;シクロペンチル及びシクロヘキシルのようなシクロアルキル;フェニルのようなアリール;ビニル、アリル、及びプロペニルのようなアルケニル;並びにエチニル及びプロピニルのようなアルキニルが挙げられる。
【0022】
式(I)中、各Rは独立してヒドロカルビル基である。Rにより表されるヒドロカルビル基は一般的には1〜10個の炭素原子、あるいは1〜6個の炭素原子、あるいは1〜4個の炭素原子を有する。少なくとも3個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基は、分岐又は非分岐構造を有することができる。ヒドロカルビル基の例としては、これらに限定されないが、Me、Et、Pr、1−メチルエチル、Bu、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシルのようなアルキル;メチルシクロヘキシル、シクロペンチル及びシクロヘキシルのようなシクロアルキル;フェニル及びナフチルのようなアリール;トリル、キシリル、ベンジル、及びフェニルエチルのようなアラルキル;スチリル及びシンナミルのようなアラルケニル;ビニル、アリル、プロペニル、及びへキセニルのようなアルケニル;並びに、エチニル及びプロピニルのようなアルキニルが挙げられる。
【0023】
式(I)のハロオルガノアルコキシシランの例としては、これらに限定されないが、クロロメチルジメチルメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルエトキシシラン、3−クロロプロピルエチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルエチルジエトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、3−ヨードプロピルトリメトキシシラン、3−ヨードプロピルトリエトキシシラン、クロロブチルフェニルメチル−n−プロポキシシラン、クロロメチルジメチルメトキシシラン、3−クロロ−2−メチルプロピルトリメトキシシラン又はクロロメチルトリメトキシシランが挙げられる。あるいは、式(I)のハロオルガノアルコキシシランは3−クロロプロピルトリメトキシシラン又は3−クロロプロピルトリエトキシシランである。
【0024】
成分a)のハロオルガノアルコキシシランの量は、成分a)及びb)の総重量に対して、1%〜99%の範囲内とすることができる。あるいは、成分a)及び成分b)の量は、2:1のハロオルガノアルコキシシラン及びジカルボキシレートの二金属塩のモル比をもたらすように選択することができる。
【0025】
成分b)ジカルボキシル官能性化合物の二金属塩
上述の方法において用いる成分b)はジカルボキシル官能性化合物の二金属塩である。成分b)は式(II):
【化1】

を有することができ、式中、Mはアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン又はアンモニウムカチオンから選択されるカチオンであり、cは1又は2、あるいは1であり、Rは二価有機基である。Mにより表されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属カチオンの例としては、Li、Na、K、Mg2+、及びCa2+;テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、及びトリエチルアンモニウムが挙げられる。あるいは、MはNa又はKである。RはCH、C、C、又はCであってもよい。成分b)の例としては、これらに限定されないが、フマル酸ジナトリウム、マレイン酸ジナトリウム、イタコン酸ジナトリウム、フマル酸ジカリウム、マレイン酸ジカリウム、及びイタコン酸ジカリウムが挙げられる。
【0026】
あるいは、成分b)がフマレートの二金属塩である場合、成分b)は式(IIa):
【化2】

を有することができる。式中、各Mは上述のとおりである。成分b)はフマル酸二カリウム又はフマル酸二ナトリウムとすることができる。式(IIa)のフマレートの二金属塩の量は、成分a)及びb)の総重量に対して、1%〜50%の範囲内とすることができる。あるいは、式(I)の成分a)及び式(IIa)の成分b)の量は2:1の成分a):成分b)のモル比をもたらすように選択することができる。
【0027】
成分c)相間移動触媒
成分c)の相間移動触媒は、二環式アミジン、二環式アミジンの第4級イミニウム化合物、又はこれらの組み合わせを含む。成分c)は、ポリアザビシクロアルケンのようなポリアザ,ポリシクロアルケンを含むことができる。あるいは、成分c)はポリアザビシクロアルケンクワットのようなポリアザ,ポリシクロアルケンクワットを含むことができる。適切なポリアザビシクロアルケン、及びその塩;並びにそれらの調製方法は、例えば、米国特許第3,769,244号;第4,524,104号;第4,465,867号;及び第4,465,868号において開示されている。あるいは、成分c)の相間移動触媒は、米国特許第3,769,244号及び第4,524,104号の第2段、第31〜54行において開示されているもののようなジアザビシクロアルケンを含むことができる。ジアザビシクロアルケンの例としては、これらに限定されないが、
i)1,5−ジアザビシクロ[4.2.0]オクト−5−エン;
ii)1,8−ジアザビシクロ[7.2.0]ウンデク−8−エン;
iii)1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクト−4−エン;
iv)3−メチル−1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクト−4−エン;
v)3,6,7,7−テトラメチル−1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクト−4−エン;
vi)7,8,8−トリメチル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−4−エン;
vii)1,8−ジアザビシクロ[7.3.0]トリデク−8−エン;
viii)1,7−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−6−エン;
ix)1,5−ジアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン;
x)1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN);
xi)1,8−ジアザビシクロ[7.4.0]トリデク−8−エン;
xii)1,8−ジアザビシクロ[7.3.0]ドデク−8−エン;
xiii)1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デク−7−エン;
xiv)9−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デク−7−エン;
xv)9−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン;
xvi)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU);
xvii)1,6−ジアザビシクロ[5.5.0]ドデク−6−エン;
xviii)1,7−ジアザビシクロ[6.5.0]トリデク−7−エン;
xix)1,8−ジアザビシクロ[7.5.0]テトラデク−8−エン;
xx)1,10−ジアザビシクロ[7.3.0]ドデク−9−エン;
xxi)1,10−ジアザビシクロ[7.4.0]トリデク−9−エン;
xxii)1,14−ジアザビシクロ[11.3.0]ヘキサデク−13−エン;
xxiii)1,14−ジアザビシクロ[11.4.0]ヘプタデク−13−エン;
xxiv)1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デク−7−エン;及び
xxv)これらの組み合わせ
が挙げられる。
【0028】
あるいは、ポリアザ,ポリシクロアルケンは、ともに米国ミズーリ州セントルイスのSigma−Aldrich,Inc.から市販される、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン又は7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン(MTBD)のようなトリアザビシクロアルケンを含むことができる。
【0029】
あるいは、ポリアザ,ポリシクロアルケンは、DBU、DBN、MTBD、又はこれらの組み合わせからなる群から選択されるポリアザビシクロアルケンであってもよい。あるいは、ポリアザビシクロアルケンはDBN及びMTBDからなる群から選択することができる。以下の構造を参照されたい:
【化3】

【0030】
ポリアザ,ポリシクロアルケンは一般式(IV):
【化4】

を有することができる。式中、各Rは独立して水素原子又は一価ヒドロカルビル基であり、Rは二価有機基であり、下付き文字dは少なくとも2の値を有する整数であり、下付き文字eは少なくとも1の値を有する整数である。
【0031】
により表されるヒドロカルビル基は、1〜18個の炭素原子、あるいは1〜12個の炭素原子、あるいは1〜6個の炭素原子、あるいは1〜4個の炭素原子を有することができる。少なくとも3個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基は分岐又は非分岐構造を有することができる。Rのヒドロカルビル基の例としては、これらに限定されないが、Me、Et、Pr、1−メチルエチル、Bu、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシルのようなアルキル;シクロペンチル及びシクロヘキシルのようなシクロアルキル;フェニルのようなアリール;ビニル、アリル、及びプロペニルのようなアルケニル;並びにエチニル及びプロピニルのようなアルキニルが挙げられる。あるいは、各Rは水素原子又は1〜4個の炭素原子のアルキル基であってもよい。あるいは、各Rは水素原子であってもよい。式(IV)中、Rの二価有機基は(CRのようなアルキレン基であってもよく、式中、R及び下付き文字dは上で定義したとおりである。あるいは、Rの二価有機基はヘテロ原子を含有することができる。Rの二価有機基は式:RN(CRを有することができ、式中、R及び下付き文字dは上で定義したとおりであり、Rは水素原子又は1〜6個の炭素原子、あるいは1〜4個の炭素原子を有することができるヒドロカルビル基である。Rのヒドロカルビル基の例としては、これらに限定されないが、Me、Et、Pr、1−メチルエチル、Bu、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシルのようなアルキル;シクロペンチル及びシクロヘキシルのようなシクロアルキル;フェニルのようなアリール;ビニル、アリル、及びプロペニルのようなアルケニル;並びにエチニル及びプロピニルのようなアルキニルが挙げられる。あるいは、各Rは水素原子又はMeであってもよい。あるいは、式(IV)中、下付き文字dは2〜6、あるいは2〜4の範囲内の値を有する整数であってもよい。
【0032】
二環式アミジンの第4級イミニウム化合物は、実施例において後述する方法により調製することができる。例えば、ポリアザ,ポリシクロアルケンクワットは、i)上述のポリアザ,ポリシクロアルケン及びii)式(V):Rの有機官能性化合物を含む成分を反応させるステップを具える方法により調製することができる。式中、各Rはアルキル基又はアラルキル基であり、各Rはハロゲンである対イオンである。各Rは独立してCl、Br、及びI;あるいはCl又はBr;あるいはCl;あるいはBrからなる群から選択することができる。本方法は、成分を、例えば、50℃〜180℃の範囲内の温度まで加熱するステップを具えることができる。式(V)の有機官能性化合物はハロゲン化n−アルキルのようなハロゲン化アルキルであってもよい。適切なハロゲン化アルキルとしては、これらに限定されないが、臭化2−エチルヘキシル、1−ブロモオクタン、1−クロロオクタン、1−ブロモブタン、1−ブロモドデカン、塩化2−エチルヘキシル、1−クロロブタン、及び1−クロロドデカンが挙げられる。あるいは、ハロゲン化アルキルは上に挙げた臭素化合物からなる群から選択することができる。あるいは、ハロゲン化アルキルは上に挙げた塩素化合物からなる群から選択することができる。あるいは、ハロゲン化n−アルキルは上に挙げた臭化n−アルキルからなる群から選択することができる。あるいは、ハロゲン化n−アルキルは上に挙げた塩化n−アルキルからなる群から選択することができる。
【0033】
あるいは式(V)中、Rは炭素原子1〜12個のn−アルキル基であり、RはCl及びBrから選択されるハロゲン対イオンである。あるいは、Rは炭素原子1〜12個のn−アルキル基であり、RはClである。あるいは、Rは炭素原子1〜12個のn−アルキル基であり、RはBrである。得られる反応生成物はポリアザ,ポリシクロアルケンクワット及びポリアザ,ポリシクロアルケン塩副産物を含み、この反応生成物は上述の方法において成分c)の相間移動触媒として用いることができる。
【化5】

【0034】
あるいは、上述のポリアザ,ポリシクロアルケンクワットを含む反応生成物の調製方法は、任意でポリアザ,ポリシクロアルケンクワットの精製をさらに含むことができる。適切な精製方法は当技術分野において知られ、例えば、「Synthesis and crystal structure of new phase−transfer catalysts based on 1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene and 1,5−diazabicyclo[4.3.0]non−5−ene」、Progr.Colloid Polym.Sci.(2004)123:28−30、を参照されたい。ポリアザ,ポリシクロアルケンクワット(塩及び/又はオレフィンのような副産物を含まない)は、上述の方法において成分c)の相間移動触媒として用いることができる。
【0035】
あるいは、二環式アミジン(二環式アミジンクワット)の第4級イミニウム化合物は、例えば、i)上述のポリアザ,ポリシクロアルケンを、ii)式(V):Rの有機官能性化合物と反応させる場合、イオン交換により調製することができる。式中、Rは上述のとおりであり、各Rの上述のハロゲン化物対イオンはHSO、HCO、酢酸塩、SO2−、CO2−、HPO2−、及びPO3−からなる群から選択される対イオンと交換することができる。あるいは、二環式アミジンクワットは市販のものであってもよい。例えば、塩化ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エニウム(塩化ベンジル−DBU)は米国ジョージア州ノークロスのAkzo Nobelから市販されている。
【0036】
他の例となる成分c)に適した二環式アミジンの第4級イミニウム化合物としては、これらに限定されないが、上記i)〜xxiv)(段落[0027])に指定した例となるジアザビシクロアルケンのハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及び炭酸塩が挙げられる。あるいは、二環式アミジンの第4級イミニウム化合物は、
i)ハロゲン化(例えば、臭化又は塩化)5−オクチル−1,5−ジアザビシクロ−[4.2.0]オクト−5−エニウム;
ii)ハロゲン化8−ウンデシル−1,8−ジアザビシクロ−[7.2.0]ウンデク−8−エニウム;
iii)ハロゲン化4−オクチル−1,4−ジアザビシクロ−[3.3.0]オクト−4−エニウム;
iv)ハロゲン化3−メチル−4−オクチル−1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクト−4−エニウム;
v)ハロゲン化3,6,7,7−テトラメチル−4−オクチル−1,4−ジアザビシクロ[3.3.0]オクト−4−エニウム;
vi)ハロゲン化5−オクチル−7,8,8−トリメチル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エニウム;
vii)ハロゲン化8−トリデシル−1,8−ジアザビシクロ[7.3.0]トリデク−8−エニウム;
viii)ハロゲン化7−ノニル−1,7−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−6−エニウム;
ix)ハロゲン化5−デシル−1,5−ジアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エニウム;
x)ハロゲン化5−ノニル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エニウム;
xi)ハロゲン化8−トリデシル−1,8−ジアザビシクロ[7.4.0]トリデク−8−エニウム;
xii)ハロゲン化8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[7.3.0]ドデク−8−エニウム;
xiii)ハロゲン化8−デシル−1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デク−7−エニウム;
xiv)ハロゲン化8−デシル−9−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デク−7−エニウム;
xv)ハロゲン化8−ウンデシル−9−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エニウム;
xvi)ハロゲン化8−ウンデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エニウム;
xvii)ハロゲン化6−オクチル−1,6−ジアザビシクロ[5.5.0]ドデク−6−エニウム;
xviii)ハロゲン化7−トリデシル−1,7−ジアザビシクロ[6.5.0]トリデク−7−エニウム;
xix)ハロゲン化8−テトラデシル−1,8−ジアザビシクロ[7.5.0]テトラデク−8−エニウム;
xx)ハロゲン化10−ドデシル−1,10−ジアザビシクロ[7.3.0]ドデク−9−エニウム;
xxi)ハロゲン化10−トリデシル−1,10−ジアザビシクロ[7.4.0]トリデク−9−エニウム;
xxii)ハロゲン化14−ヘキサデシル−1,14−ジアザビシクロ[11.3.0]ヘキサデク−13−エニウム;
xxiii)ハロゲン化14−ヘプタデシル−1,14−ジアザビシクロ[11.4.0]ヘプタデク−13−エニウム;
xxiv)ハロゲン化8−デシル−1,8−ジアザビシクロ[5.3.0]デク−7−エニウム;及び
xxv)これらの組み合わせ
からなる群から選択することができる。
あるいは、成分c)は、臭化オクチルとともに1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン第4級イミニウム塩;臭化エチルヘキシルとともに1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン第4級イミニウム塩;塩化オクチルとともに1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン第4級イミニウム塩;臭化エチルヘキシルとともに7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン第4級イミニウム塩;臭化ブチルとともに7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン第4級イミニウム塩;臭化オクチルとともに7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン第4級イミニウム塩;臭化ドデシルとともに7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン第4級イミニウム塩;又はこれらの組み合わせからなる。
【0037】
あるいは、二環式アミジン(二環式アミジンクワット)の第4級イミニウム化合物は、ポリアザビシクロアルケンクワットであってもよい。ポリアザビシクロアルケンクワットは式(VI):
【化6】

を有することができる。式中、R、R、R、R、並びに下付き文字d及びeは上述のとおりである。
【0038】
あるいは、成分c)の相間移動触媒は、DBU、DBU−ハロゲン化アルキルクワット、又はこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0039】
成分c)として組成物に添加する相間移動触媒の量は、成分a)及びb)について選択されるタイプ及び量、d)共触媒、e)溶媒、f)安定剤、又はこれらの組み合わせのようないずれかの追加の成分を組成物に添加するかどうかを含む各種要因によって決まる。しかしながら、成分c)として組成物に添加する相間移動触媒の量は、0.1mol%〜20mol%、あるいは1mol%〜10mol%の範囲内とすることができる。あるいは、相間移動触媒の量は、0.01mol%〜15mol%、あるいは0.1mol%〜10mol%、あるいは0.1mol%〜7.5mol%、あるいは2.5mol%〜5mol%の範囲内とすることができる。
【0040】
成分d)共触媒
成分d)、共触媒は任意で、本明細書に記載するビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの製造方法に用いることができる。共触媒は、成分c)について選択される相間移動触媒のタイプを含む各種要因に基づいて選択される。共触媒は成分c)として選択されるPTCより高い溶解性を有する。理論に縛られることを望むことなく、共触媒は、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを形成するための反応速度を、共触媒を除外した以外は同じ反応条件及び同じ成分を用いて達成することができる反応速度と比較して増加させることができると考えられる。理論に縛られることを望むことなく、成分d)として、成分c)の相間移動触媒より低い親油性のアニオンを有する塩を添加するステップは反応速度を増加するという利点をもたらすことができると考えられる。硬質及び軟質の酸及び塩基の理論に従って、これらのより硬質のアニオンは、組成物のイオン強度を増加させながら、成分a)上の相間移動触媒、求核試薬及びハロ有機基の離脱基のアニオンと競合して、相間移動触媒のオニウムカチオンにより低い親和性を示すとさらに考えられる。共触媒の量は、成分c)の相間移動触媒のモル量の0mol%〜100%の範囲内とすることができる。成分d)の共触媒は、本明細書に記載する方法のステップ1)前に成分c)と又は成分b)と組み合わせることができる。あるいは、成分d)はステップ1)中に組成物に添加することができる。
【0041】
成分d)の例となる共触媒は、式Mの金属化合物を含む。式中、Mは上述のとおりであり、RはHSO、HCO、酢酸塩、SO2−、CO2−及びPO3−からなる群から選択される。成分d)の例となる共触媒としては、酢酸カリウム及び/若しくは酢酸ナトリウムのような金属酢酸塩;KSO及び/若しくはNaSOのような金属硫酸塩;KHSO及び/若しくはNaHSOのような金属水素硫酸塩;KCO及び/若しくはNaCOのような金属炭酸塩;KHCO及び/若しくはNaHCOのような金属水素炭酸塩;又はKHPO、KPO及び/若しくはNaPOのような金属リン酸塩が挙げられる。
【0042】
成分e)溶媒
成分e)、溶媒を任意で、本明細書に記載するビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの製造方法に用いることができる。成分e)の溶媒は、本明細書に記載する方法のステップ1)前に上述の成分の1つ以上と組み合わせることができる。あるいは、溶媒はステップ1)中に添加することができる。溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、n−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの組み合わせのような極性非プロトン性溶媒であってもよい。成分d)の溶媒の量は組成物中のすべての成分の総重量に対して10%〜200%の範囲内とすることができる。
【0043】
あるいは、ステップ1)における反応はニートで、すなわち、溶媒を添加することなく行うことができる。理論に縛られることを望むことなく、成分a)及び/又は生成物(例えば、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート)は成分a)、b)及び/又はc)を組成物中に可溶化し、反応を追加溶媒の非存在下で促進することができると考えられる。
【0044】
成分f)安定剤
成分f)、安定剤は任意で、本明細書に記載するビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの製造方法に用いることができる。成分f)の安定剤は、本明細書に記載する方法のステップ1)前に上述の成分の1つ以上と組み合わせることができる。あるいは、溶媒はステップ1)中に添加することができる。成分f)の安定剤は、一般的にはアクリレート、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、フェノチアジン(PTZ)、ヒドロキノン及びヒドロキノンのモノメチルエーテル(MEHQ)のようなその誘導体、並びにこれらの組み合わせとともに用いられる安定剤であってもよい。上に記載したもののような適切な安定剤は、米国ミズーリ州セントルイスのSigma−Aldrich,Inc.から市販されている。安定剤の量は0〜1,500ppmwの範囲内とすることができる。あるいは、安定剤の量は、存在する場合、組成物中のすべての成分の総重量に対して10ppmw〜1,000ppmwの範囲内とすることができる。
【0045】
上述の方法のステップ1)における反応は、上述のように、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートのようなビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを含む反応生成物を形成する。反応生成物は式(III):Mx+を有する第1金属ハロゲン化物をさらに含み、式中、Xはハロゲン化物アニオンであり、Mは金属元素であり、xはMの価数である。
【0046】
ステップ2)第1実施形態における金属ハロゲン化物の除去
上述の方法は、ステップ2):反応生成物からの第1金属ハロゲン化物の少なくとも一部の除去をさらに含むことができる。本明細書において用いる「一部」とは、反応生成物中の金属ハロゲン化物を後述する範囲内まで除去するのに十分であることを意味する。例えば、一部は一般的には、反応生成物中の金属ハロゲン化物の初期量の少なくとも50%、あるいは少なくとも90%、あるいは少なくとも99.99%である。
【0047】
金属ハロゲン化物は、当技術分野において知られる、有機物質から固体金属ハロゲン化物を除去するプロセスにより、反応生成物から除去することができる。金属ハロゲン化物は、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーション、洗浄、又はこれらの組み合わせにより除去することができる。例えば、金属ハロゲン化物は、ろ過又はデカンテーションにより除去することができる。あるいは、金属ハロゲン化物は、後述するように、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを金属ハロゲン化物からデカンテーションした後、溶液で洗浄することにより除去することができる。
【0048】
金属ハロゲン化物の少なくとも一部を反応生成物から除去した後、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートは一般的には、金属ハロゲン化物を、第1金属ハロゲン化物のビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの重量に対して、100万分の10,000部(ppmw)未満、あるいは1ppmw〜1,000ppmw、あるいは10ppmw〜100ppmwの量で含有する。
【0049】
ステップ2)第2実施形態における金属ハロゲン化物の除去
あるいは、ステップ2)における金属ハロゲン化物の少なくとも一部の除去は、i)ステップ1)において形成された反応生成物(すなわち、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート及び式(III)の金属ハロゲン化物を含む反応生成物)、及びii)非極性溶媒を含む混合物をi)水及び、任意で、ii)第2金属ハロゲン化物を含む溶液で洗浄し、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを含む有機相及び第1金属ハロゲン化物(すなわち、ステップ1)における反応により形成された式(III)の金属ハロゲン化物)の少なくとも一部を含む水相を生成するステップを具える方法により行うことができる。
【0050】
非極性溶媒は10より低い、あるいは5より低い、あるいは1〜5の誘電定数を有する。非極性溶媒は25℃で1ミリリットル当たり1.0グラム(g/mL)未満、あるいは0.6〜0.9g/mL、あるいは0.7〜0.8g/mLの密度を有する。非極性溶媒の例としては、これらに限定されないが、ミネラルスピリット、トルエン、m−、o−、及びp−キシレン並びにこれらの混合物、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロヘキサン、cis−シクロオクテン、tert−ブチルメチルエーテル及びジ−n−ブチルエーテルのような有機溶媒が挙げられる。
【0051】
混合物は、ステップ1)において非極性溶媒を組成物に添加することにより形成することができる。あるいは、混合物は、反応器において、溶液をブレンドするのに一般的に用いられる条件で、非極性溶媒をビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート及び第1金属ハロゲン化物を含む反応生成物と組み合わせることにより形成することができる。例えば、組み合わせは、混合ブレードを有する混合槽において周囲温度で行うことができる。
【0052】
ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートは一般的には混合物中に、非極性溶媒、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート及び第1金属ハロゲン化物の総重量に対して、1%〜90%、あるいは10%〜80%、あるいは30%〜70%の範囲内の量で存在する。
【0053】
非極性溶媒は、混合物中に、非極性溶媒、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート、及び第1金属ハロゲン化物の総重量に対して、10%〜90%、あるいは15%〜80%、あるいは25%〜60%の範囲内の量で存在する。
【0054】
第1金属ハロゲン化物は一般的には、混合物中に、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート、非極性溶媒、及び第1金属ハロゲン化物の総重量に対して、1%〜50%、あるいは5%〜30%、あるいは5%〜15%の範囲内の量で存在する。混合物中の第1金属ハロゲン化物の量は、化学量論的に計算、又は当技術分野において知られる混合物中の金属ハロゲン化物の量を測定するプロセスにより、例えばイオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0055】
溶液はi)水及び、任意で、ii)第2金属ハロゲン化物を含む。例えば、溶液は第2金属ハロゲン化物及び水の総重量に対して、0%〜飽和濃度未満、あるいは0%〜50%、あるいは0%〜15%の範囲内の量の第2金属ハロゲン化物を含むことができる。本明細書において用いる「飽和濃度」とは、追加量の第2金属ハロゲン化物が溶解しない特定の温度及び圧力での濃度を意味する。水は一般的には脱イオン水であるが、蒸留水又は水道水のような他のタイプの水を用いることができる。
【0056】
第2金属ハロゲン化物は式(III)の第1金属ハロゲン化物について上で記載及び例示したとおりである。第2金属ハロゲン化物は第1金属ハロゲン化物と同じ又は異なっていてもよく、それぞれ本明細書において式(III)に従って金属ハロゲン化物の混合物であってもよい。1つの実施形態では、第2金属ハロゲン化物は第1金属ハロゲン化物と同じであり、塩化カリウム又は塩化ナトリウムである。あるいは、第2金属ハロゲン化物は、反応しない、又は反応を誘発しない、第2金属ハロゲン化物の代わりに用いることができる。こうした塩の例としては炭酸塩が挙げられる。
【0057】
本発明の第2プロセスにおいて有用な溶液の例としては、水及び塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化カリウムの不飽和水溶液が挙げられる。溶液が第2金属ハロゲン化物を含む場合、溶液は、当技術分野において知られるこうした溶液の製造プロセスにより製造することができる。多くの金属ハロゲン化物の水溶液は市販されている。
【0058】
この実施形態におけるステップ2)は、当技術分野において知られる有機溶液を水で洗浄するためのいずれかの槽において行うことができる。例えば、ステップ2)は機械的混合装置を備えたステンレス鋼槽において行うことができる。この実施形態においてステップ2)に要する時間は、溶液及び混合物を組み合わせて混合し、溶液が第1金属ハロゲン化物を混合物から抽出するのに要する時間に等しい。例えば、この実施形態におけるステップ2)に要する時間は、1分〜60分、あるいは5分〜45分、あるいは10分〜45分の範囲内とすることができる。
【0059】
この実施形態における溶液の添加順序及び速度は通常重要ではない。一般的には、溶液及び混合物はいかなる速度でいかなる順序でも添加することができる。
【0060】
この実施形態においてステップ2)を行う温度は、0℃〜120℃、あるいは0℃〜60℃、あるいは10℃〜40℃の範囲内とすることができる。
【0061】
この実施形態においてステップ2)を行う圧力は、大気圧より低い圧力〜大気圧より高い圧力、あるいは0〜1000kPag、あるいは0〜100kPagの範囲内とすることができ、あるいはこの実施形態においてステップ2)を行う圧力は大気圧であってもよい。
【0062】
この実施形態では、混合物は、第1金属ハロゲン化物及び第2金属ハロゲン化物がともに第1金属ハロゲン化物、第2金属ハロゲン化物、及び水の総重量の少なくとも15%、あるいは少なくとも18%、あるいは18〜50%となるように、十分な量の溶液で洗浄する。本明細書において用いる「十分な量」とは、第1金属ハロゲン化物及び第2金属ハロゲン化物の総パーセントを所定の範囲外にするほどには大きくない量である。十分な量の溶液は、混合物中の第1金属ハロゲン化物並びに溶液中の第2金属ハロゲン化物及び水の重量から計算することができ、これは当技術分野において知られるプロセスを用いて、例えばイオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0063】
洗浄はビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート及び非極性溶媒を含む有機相、並びに溶液及び第1金属ハロゲン化物の少なくとも一部を含む水相をもたらす。有機及び水相は非混和性である。
【0064】
水相は、第1金属ハロゲン化物、第2金属ハロゲン化物、及び水の重量に対して、少なくとも15%、あるいは少なくとも18%、あるいは18%〜飽和濃度の、組み合わせた第1金属ハロゲン化物及び第2金属ハロゲン化物を含む。この実施形態におけるステップ2)の洗浄後、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートは、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの重量に対して、10,000ppmw未満、あるいは1ppmw〜1000ppmw、あるいは10ppmw〜100ppmwの、第1金属ハロゲン化物を含むことができる。
【0065】
この実施形態は、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート及び金属ハロゲン化物の比較的速い(すなわち、ろ過より速い)分離をもたらす。さらに、この実施形態は有機相のろ過の必要性を除外する。またさらに、この実施形態は、著しい加水分解なしに、及び分離するのが難しい分散物の形成なしに、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの洗浄を可能にする。
【0066】
あるいは、成分d)の任意の極性非プロトン性溶媒を本明細書に記載する方法のステップ1)に用いる場合、極性非プロトン性溶媒は非極性溶媒を添加する前に反応生成物から除去する。成分d)の極性非プロトン性溶媒は、大気圧又は減圧下での揮散又は蒸留のようないずれかの便利な手段により除去することができる。
【0067】
ステップ3)ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートの回収
本方法は任意で、ステップ3):ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートの回収をさらに含むことができる。ステップ3)におけるビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートはビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートであってもよい。ステップ3)におけるビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートはビス(トリエトキシシリルプロピル)フマレートであってもよい。ステップ3)は上述の方法のステップ2)中又は後に行うことができる。回収は当技術分野において知られるプロセスにより達成することができる。例えば、回収は、高温及び/又は減圧での揮散又は蒸留を含む方法により行うことができる。第2実施形態をステップ2)について行う場合、有機相及び水相は、デカンテーション後の有機相の蒸留のような、既知のプロセスを用いて分離することができる。
【0068】
使用方法
本明細書に記載する方法により調製されるビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート、とくにビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートは、不飽和樹脂又はポリマー系の結合剤、有機−無機界面での接着促進剤、及び表面調整剤として用いることができる。
【0069】
本明細書に記載する方法により調製されるビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート、例えば、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート、及びとくに、フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)は、加工ゴム製品用途においてとくに有用である。こうした用途はベルト及び/又はホースを含む。あるいは、本明細書に記載する方法により調製されるビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート、例えば、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート、及びとくに、フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)は、タイヤ、又はその一部、例えばトレッドの調製に用いられるゴム組成物のようなタイヤ用途においてとくに有用である。ゴム組成物は、各種用途、例えば、レースカー、地下鉄電車及びバスのような大型車両、重量物を輸送する車両、建設車両、農業車両、四輪駆動車両、乗用車、トラック、スポーツ用多目的車、航空機、及び/又は自動車のタイヤに用いるのに適切であり得る。ゴム組成物は新規タイヤの製造及び/又はすり減ったタイヤの再生に用いることができる。例となるこうしたゴム組成物は一般的にはA)ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリビニル芳香族ポリマー、又は天然ゴムのようなジエンポリマー、B)シリカ及び/又はカーボンブラック及び/又は天然繊維、例えばデンプン及び/又はセルロースのような補強充填材、並びにC)本明細書に記載する方法により調製される、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートのようなビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを含む。あるいは、成分C)は、本明細書に記載する方法により調製される、フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)を含むことができる。本明細書に記載する方法により調製されるビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート、とくにビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート(例えば、フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル))は、例えば、本明細書に記載するゴム組成物中のアルコキシシラン及び/又は結合剤に加えて、又はその代わりに、米国特許第5,811,479号明細書;第6,071,995号明細書;第6,903,155号明細書;第6,900,263号明細書;第7,078,449号明細書;第7,186,776号明細書;第7,256,233号明細書;第7,300,970号明細書;第7,629,408号明細書;及び第7,718,717号明細書;並びに、国際公開第2010/000478号明細書;国際公開第2010/125123号明細書;及び国際公開第2010/125124号のいずれか1つに記載されるような、ゴム組成物に添加することができる。
【実施例】
【0070】
これらの実施例は本発明のいくつかの実施形態を例示することを意図し、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定すると解釈すべきでない。参照例は、とくに指定のない限り、従来技術であるとみなすべきでない。以下の成分を以下の実施例に用いる。
【表1】

【0071】
上の表において、「Aldrich」とは、米国ミズーリ州セントルイスのSigma−Aldrich,Inc.を指す。クロロプロピルトリエトキシシランは、米国ミシガン州ミッドランドのダウコーニングコーポレーションからDOW CORNING(登録商標)Z−6376として市販されていた。
【0072】
参照例1〜8―クワット調製の一般的な手順
ポリアザビシクロアルケンクワット:ハロゲン化アルキルクワット(イミニウム塩)を、ポリアザビシクロアルケン(上述)及びハロゲン化アルキルを組み合わせることにより調製した。試験したハロゲン化アルキルは、臭化2−エチルヘキシル、1−ブロモブタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモドデカン、及び1−クロロオクタンだった。いくつかの場合で混合物を加熱した。得られるイミニウム塩の合成は、以下に示すモデル反応においてDBU+臭化2−エチルヘキシルについて以下に例示する。オレフィン副産物を形成する競合する脱離反応は反応混合物の63mol%を占め、37mol%はDBU臭化エチルヘキシルクワットとなった。この反応生成物は、精製なしに、上述の方法において成分c)の相間移動触媒として用いることができる。あるいは、成分c)の相間移動触媒としての前記クワットの使用前のDBUクワットの精製は、本明細書において上述したような、いずれかの便利な手段により行うことができる。以下のモデル反応において示すように、臭化2−エチルヘキシルの1−ブロモオクタンでの置換は、得られるDBU臭化オクチルクワットの収率を98mol%まで増加させた。1−クロロオクタン、1−ブロモブタン及び1−ブロモドデカンのような他のハロゲン化n−アルキルもDBUと反応させ、相間移動触媒として用いるのに適した対応するイミニウム塩を形成した。
【化7】

【0073】
参照例1―DBU臭化2−エチルヘキシルクワット
15mlのバイアルに、3.03g(19.9mmol)のDBU及び3.84g(19.9mmol)の臭化2−エチルヘキシルを添加した。バイアルを渦混合し、透明な溶液を形成し、80℃のオーブンに入れ、7分後に取り出し、簡単に渦混合した後、オーブンに戻した。内容物は7分後濁っていた。バイアルを30分後オーブンから取り出した。内容物は2つの相、濃い下相及び薄い上相に分離した。H NMRは、上相が出発物質及び2−エチルヘキセンの混合物であることを示した。H NMRにより、下相の粗物質は37mol%のクワット塩であり、残部はDBU.HBr及び少量の2−エチルヘキセンだった。下相の粗物質を精製なしに相間移動触媒として評価した。別の調製では、粗生成物は、塩化メチレン中に溶解し、脱イオン(DI)水で洗浄し、有機相をMgSOで乾燥させ、ペンタンを有機相に添加し、2つの相を形成することより精製した。主に2−エチルヘキセンを含有するペンタン層を排出した。塩化メチレン層を4トールで50℃まで真空揮散させ、純粋なクワット塩を分離した。
【0074】
参照例2―MTBD臭化2−エチルヘキシルクワット
2mlのバイアルに、0.48g(3.1mmol)のMTBD及び0.61g(3.1mmol)の臭化2−エチルヘキシルを添加した。バイアルを渦混合し、透明な溶液を形成し、104℃のオーブンに入れ、14分後に取り出し、簡単に渦混合した後、オーブンに戻した。内容物は14分後濁っていた/不透明だった。追加の渦混合を30分後に完了した。バイアルを138分後オーブンから取り出した。内容物は2つの相、濃い下相及び薄い上相に分離した。H NMRは、上相が出発物質及び2−エチルヘキセンの混合物であることを示した。下相の粗物質を精製なしに相間移動触媒として評価した。
【0075】
参照例3―DBU臭化オクチルクワット
500mlの3口フラスコに、193.67g(1.00mol)の1−ブロモオクタンを添加した。フラスコは、パドル撹拌器(202rpm)、温度計/Nヘッドスペースパージ入口、水冷還流凝縮器/油入バブラーへのNヘッドスペースパージ出口、及び152.73g(1.00mol)のDBUを含有する添加漏斗を備えた。1−ブロモオクタンを、添加漏斗の内容物を30分かけて一滴ずつ添加する前に、加熱マントルで87℃まで加熱した。内容物をボトルに移す前に80℃まで冷却した。別の実験では、添加の順序を逆にし、順序は重要でないことを見出した。H NMRは、微量(〜2mol%)のみの1−オクテンが形成され、出発物質が残っていなかったことを示した。物質を精製なしに相間移動触媒として評価した。
【0076】
参照例4―DBU塩化オクチルクワット
100mlの3口フラスコに、21.28g(0.140mol)のDBU及び20.77g(0.140mol)の1−クロロオクタンを添加した。フラスコは、1”磁気撹拌棒、温度計/Nヘッドスペースパージ入口、及び水冷還流凝縮器/油入バブラーへのNヘッドスペースパージ出口を備えた。内容物を加熱マントルで加熱し、120℃で3.3時間維持した。内容物をボトルに移す前に80℃まで冷却した。H NMRは、微量(〜2mol%)のみの1−オクテンが形成され、出発物質が残っていなかったことを示した。物質を精製なしに相間移動触媒として評価した。
【0077】
参照例5―MTBD臭化ブチルクワット
周囲温度で、1.80g(11.3mmol)のMTBDを1.61g(11.7mmol)の1−ブロモブタンと混合した。反応混合物を100℃で1時間加熱した。周囲温度まで冷却した後、高粘度で暗黄色の透明な液体を生成物として分離した。生成物をH NMRで分析し、1−ブロモブタン及びMTBDがともに反応したことを確認した。
【0078】
参照例6―MTBD臭化オクチルクワット
周囲温度で、1.80g(11.3mmol)のMTBDを2.26g(11.7mmol)の1−ブロモオクタンと混合した。反応混合物を100℃で1時間加熱した。周囲温度まで冷却した後、高粘度で暗黄色の透明な液体を生成物として分離した。生成物をH NMRで分析し、1−ブロモオクタン及びMTBDがともに反応したことを確認した。1−オクテンを生成物中に4.8mol%又は1.6wt%の含有量で検出した。
【0079】
参照例7―MTBD臭化ドデシルクワット
周囲温度で、1.60g(10.4mmol)のMTBDを2.60g(10.4mmol)の1−ブロモドデカンと混合した。反応混合物を100℃で1時間加熱し、粘性で暗黄色の透明な液体を形成した。周囲温度まで冷却した後、黄色の固体を生成物として分離した。生成物をH NMRで分析し、1−ブロモドデカン及びMTBDがともに反応したことを確認した。1−ドデセンを生成物中に11.8mol%又は5.3%の含有量で検出した。
実施例1―異なる相間移動触媒を用いるビス(トリエトキシシリルプロピル)フマレートの合成
【化8】

モデル反応スキーム1.クロロプロピルトリエトキシシランとフマル酸二ナトリウムの縮合中のビス(トリエトキシシリルプロピル)フマレートの合成
【0080】
フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)を、CPTES及びフマル酸二ナトリウムの縮合中に各種相間移動触媒(PTC)を用いて合成した。縮合反応を、クロロプロピルトリエトキシシラン(2.38mL、10mmol)及びフマル酸二ナトリウム(0.80g、5mmol)の反応を下の表1−1に示す各種触媒を用いて触媒することにより行った。各サンプルは、20:1(CPTES:PTC比、mmol:mmol)の比の量のCPTES及びPTC又は5モル%のPTCで製剤した。反応は120℃〜140℃の範囲内の温度で6〜18時間行った。閉鎖反応をホウケイ酸ガラスにおいて300rpmで周囲圧力でのオーバーヘッド撹拌によって行った。得られた反応生成物は、表1〜2中の条件下でガスクロマトグラフィーにより定量化した塩沈殿物を有する液体だった。
【0081】
GC分析をHewlett−Packard 6890シリーズのインジェクター、ガスクロマトグラフ、炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。システムは表1〜3に詳述するように構成した。
【表2】

【0082】
ドデカンを内部標準として用い、クロマトグラフ分析を重量測定に基づき定量化した。内部標準を反応後にドデカン及びトルエンの溶液から約5%で導入した。検体の理論的応答因子を計算し、ChemStationに入れ、較正表を自動的に作成し、検体の濃度を内部標準の存在下で定量的に計算した(等式1)。
RF検体=([検体]/面積検体)×(面積IS/[IS])×RFIS (等式1)
【0083】
等式1中の用語は以下のように定義する:RF検体=検体の理論的応答因子、[検体]=検体の濃度、面積検体=検体のピーク面積、面積IS=内部標準のピーク面積、[IS]=内部標準の濃度、RFIS=内部標準の理論的応答因子。
【0084】
用いた理論的応答因子はフマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)(ビス−フマレート)について1.984、CPTESについて2.481、及びドデカンについて1.181だった。
【0085】
興味のある物質の保持時間はCPTESについて9.242分、ビス−フマレートについて15.350分だった。表1〜2を参照されたい。CPTES及びビス−フマレートピークをGC−MSにより確認した。
【0086】
実験及び器械誤差を含み、測定の相対標準偏差は1%未満だった。
【表3】

上の表中の「Aldrich」はSigma−Aldrich Inc.を指す。
【表4】

【0087】
実施例2―DBUでのフマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)の合成
フマル酸二ナトリウム(93.0g、0.581mol)、CPTES(280.0g、1.16mol)、PTZ及びBHT(各0.112g)並びにDBU(3.52g)を、機械的撹拌器を備えた500ml丸底(RB)フラスコに連続して添加した。反応混合物を140℃で18時間加熱した。試料を2日間周囲条件で放置することにより増粘した後、191.3gの透明な褐色がかった浮遊物をデカンテーションした。その後、180mlのヘキサンを塩残留物に添加し、スラリーを形成した。スラリーを形成した後、480gの15%塩水を添加し、混合した。30分の沈殿後、224.5gの透明な有機物を分離し、真空揮散させ、82.6gの低揮発性を有する透明な褐色がかった液体を得た。2つの褐色がかった液体を組み合わせ、真空下(1トール未満)、140℃で簡単な蒸留を行った。フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)生成物(238.3g)を92%収率で分離した。この実施例は、本発明のプロセスを用いてフマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)から金属ハロゲン化物を除去することができる速さ及び容易さを示す。
【0088】
実施例3―異なるPTCの比較
フマル酸二ナトリウムとCPTESとの間の相間移動触媒反応は、フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)を製造するのに効果的な合成経路であることが分かった。反応は固体−液体二相性求核置換だった。それは、固体−液体界面を通る不十分な物質移動のため、反応が遅かった。許容可能な変換率を得るため、高い反応温度及び長い反応時間を用いた。これらの条件下、触媒及び溶媒の選択は反応速度に影響を及ぼした。触媒及び溶媒の効果を以下の一般的な実験手順を用いて研究した。
1)窒素ブランケット下、150mLのRBフラスコに、フマル酸二ナトリウム及びCPTESを1:2のモル比、500ppmのBHT及びPTZ安定剤、相間移動触媒、並びに任意で溶媒を入れた。
2)反応混合物を撹拌下で140℃まで加熱した。
3)液相をGC分析のため3時間及び18時間後にサンプリングした。フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)及びCPTESのGCピーク面積を用い、フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)のGC面積%を、等式「フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)のGC面積%=(フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)のGCピーク面積)/(フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)のGCピーク面積+CPTESのGCピーク面積)×100%」を用いて計算した。
4)4つのPTC、すなわち、ともに相対的である臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)及び臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB);並びにDBU及びDBU臭化オクチルクワット;並びに2つの溶媒(ミネラルスピリット及びDMF)を6回の実行で評価した。触媒をCPTESのモルの2mol%又は4mol%で添加した。ミネラルスピリットは非極性溶媒である。DMFは極性非プロトン性溶媒である。溶媒を反応混合物の重量の特定パーセントで添加した。計算したフマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)のGC面積%をこれらの6回の実行について以下の表3−1に示す。GC面積%を実際の反応変換率に質的に調整したが、フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)及びCPTESは異なるGC応答因子及び固体塩との親和性を有するので、反応変換率として均一に処理することはできなかった。フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)は、CPTESより低いGC応答因子、及び低い固体塩との親和性を有すると考えられた。
【表5】

【0089】
3時間以内のすべてのGC面積%値は低く、140℃及び触媒の存在下でも反応が遅かったことを示した。バッチ2において4mol%のTBABを触媒として用いた場合、フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)のGC面積%は3時間以内での10.8%〜18時間以内での5.0%まで減少した。これは、分解生成物、トリブチルアミンの強いGC信号で示されるように、140℃での最初の3時間のTBABの素早い分解をもたらした。よって、TBABはこれらの条件下でのフマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)の合成に適した触媒ではなかった。バッチ1では、非極性溶媒、ミネラルスピリット中、GC面積%が3時間後4.2%のみだったので、反応速度はさらに低減した。よって、非極性溶媒はこれらの条件下で反応速度に害を及ぼすと考えられた。バッチ5において高温触媒TBPBを用いた場合、変換率は3時間後のTBABに相当したが、18時間後のTBABよりかなり高く、TBPBがこれらの条件下でフマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)の調製のためのTBABより良好な触媒であることを示した。DBUは、バッチ3において3及び18時間両方でTBPBと同様のGC面積%をもたらし、DBUがTBPBと同様に効率的だったことを示した。2mol%のDBU臭化オクチルクワットをバッチ6において触媒として用いた場合、変換率は3時間以内で低かったが、18時間以内でDBU及びTBPBより高かった。理論に縛られることを望むことなく、おそらくDBU臭化オクチルクワットの活性化メカニズムが存在し、活性化した場合にDBU及びTBPBより効率的になったと考えられる。この実施例におけるもっとも顕著な変換率の増加は、バッチ4において高極性非プロトン性溶媒、DMF中でのDBU触媒反応を行うことにより達成された。3時間以内にGC面積%のわずかなリード及び18時間以内に顕著な優位性があった。理論に縛られることを望むことなく、18時間以内の高GC面積%は反応速度の増加、及びDMF中でのフマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)及びCPTESの固体塩との関連性の低下のためであったと考えられる。従って、高温触媒、極性非プロトン性溶媒、又はこれらの組み合わせを用い、反応変換率を向上させることができると考えられる。
【0090】
実施例4―フマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)の精製
実施例3において上で調製したフマル酸ビス(トリエトキシシリルプロピル)のうちの2バッチ、3及び6バッチを、以下のように塩水洗浄手順を用いて精製した。
1)反応混合物を2日間室温で放置した。その期間中、塩が沈殿し、透明な固体−液体界面を形成した。
2)透明な褐色がかった有機物(粗生成物の第1部分)をデカンテーションした後、ヘキサンを得られる塩ケーキに添加し、混合物を再スラリー化した。次に塩水を添加して塩を溶解又は部分溶解し、飽和NaCl溶液を形成した。得られる塩水相がほぼ飽和である限り、水を塩水の代わりに用いることができる。ヘキサンの量は、素早い液体−液体相分離を可能にするのに十分でなければならない。
3)撹拌を止めると、重い塩水相から軽い有機相を素早く分離し、数分以内できれいな液体−液体界面をもたらした。
4)有機相を真空下で蒸発させ、ヘキサンを除去し、褐色がかった液体(粗生成物の第2部分)をもたらした。
5)粗生成物の2つの部分を組み合わせ、真空下(0.1トール)、140℃のポット温度で蒸留し、未反応CPTESを除去した。
6)生成物をポットから褐色がかった低粘度の液体として分離した。生成物の純度をGC−FIDで測定し、H NMRで95%であると確認した。H NMRスペクトルは、フマル酸ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)のH NMRの、フマレート二重結合上のプロトンの特有の化学シフトを含む、重要な特徴を有する。
7)フマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)の構造を13C及び29Si NMR及びGC−MSで確認した。
【0091】
これは、バッチ3において92%収率、バッチ6において91%収率であって、95%純度を有するフマル酸ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)の分離をもたらした。不純物は、3.8%のCPTES及び0.8%のGC−MSで確認された副産物で構成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
驚くべきことに、成分c)として本明細書に記載する相間移動触媒、並びに/又は成分c)の相間移動触媒及び成分d)の共触媒の組み合わせのいくつかを用い、ビス(トリエトキシシリルプロピル)フマレートのようなビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを、従来の相間移動触媒を用いる場合より、低い温度及び/又は速い反応時間で精製することができることが見出された。本明細書に記載する触媒は、ビス(アルコキシシリルアルキル)フマレートを、臭化ヘキサエチルグアニジニウムを同じハロルキル,アルコキシシランとフマル酸の金属塩とともに触媒として用いる場合より、少ない副産物で製造することもできる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ハロオルガノアルコキシシラン、
b)ジカルボキシル官能性化合物の二金属塩、及び
c)二環式アミジン、二環式アミジンの第4級イミニウム化合物、又はこれらの組み合わせを含む相間移動触媒
を含む組成物を反応させるステップ1)を具える、ビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを含む反応生成物の製造方法。
【請求項2】
ステップ1)前に、成分の1つ以上を乾燥させるステップをさらに具える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、d)共触媒、e)溶媒、f)安定剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される任意の成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記共触媒が、式:Mの化合物を含み、式中、Mは、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンであり、Rは、HSO、HCO、酢酸塩、SO2−、CO2−及びPO3−からなる群から選択される対イオンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
成分c)が、ポリアザビシクロアルケン又は二環式アミジンの第4級イミニウム化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物がd)金属酢酸塩さらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法により調製されるビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレート。
【請求項8】
A)ジエンポリマー、
B)補強充填材、及び
C)請求項1に記載の方法により調製されるビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート
を含む、タイヤ用途に用いるのに適したゴム組成物。
【請求項9】
A)ジエンポリマー、
B)補強充填材、及び
C)請求項1に記載の方法により調製されるビス(アルコキシシリルアルキル)フマレート
を含む、加工ゴム製品用途に用いるのに適したゴム組成物。
【請求項10】
結合剤、接着促進剤、及び表面調整剤からなる群から選択される用途にビス(アルコキシシリルオルガノ)ジカルボキシレートを用いるステップをさらに具える、請求項1に記載の方法。


【公開番号】特開2013−67604(P2013−67604A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−92407(P2012−92407)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(590001418)ダウ コーニング コーポレーション (166)
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
【Fターム(参考)】