説明

ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物のアダクトを回収するプロセス

ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物の固形アダクトを含む懸濁液から前記固形アダクトを回収するプロセスを開示する。このプロセスは、a)前記懸濁液をロータリーフィルターへ供給し、b)供給された懸濁液とロータリーフィルターにおいて濾過してアダクトをアダクトケーキとして保留し、c)アダクトケーキを不活性ガスで予備乾燥し、d)予備乾燥したアダクトケーキを洗浄し、e)任意的に、洗浄アダクトケーキを乾燥し、そしてf)ロータリーフィルターから洗浄アダクトケーキを排出する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物の固形アダクトを含む懸濁液から前記アダクトを回収するプロセス、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンを回収するプロセス並びにこれらのプロセスによって製造することができる固形アダクト及びビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンに関する。
【背景技術】
【0002】
酸触媒の存在下におけるフェノール化合物とカルボニル化合物の縮合生成物であるビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンは、ポリカーボネートやエポキシ樹脂のような多くの商業的製品の製造に使用されている。特に技術上及び商業上の重要性はしばしばビスフェノール−Aと呼ばれるフェノールとアセトンとの縮合生成物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンである。ビスフェノール−Aの1999年における世界生産量は2百万メートルトン/年で、依然として成長している。非常に高純度のビスフェノール−Aは、それをプロセス処理するポリカーボネートのような商業的製品の品質に対して必要不可欠なことである。ビスフェノール−Aを製造する周知の方法は、i)酸性触媒の存在下に、過剰のフェノールをアセトンと反応させてビスフェノール−Aを含む混合生成物を製造し、ii)その混合生成物を結晶化器を通してビスフェノール−Aとフェノールの結晶アダクトを含む懸濁液を得、iii)アダクトを母液から分離してアダクト結晶を洗浄し、そしてiv)ビスフェノール−A:フェノールアダクトからフェノールを留去してビスフェノール−Aを得る工程を含む。反応混合物は、典型的には、ビスフェノール−A、未反応フェノール、水、そして一般には未反応アセトンも含む。しかし、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(o,p−アイソマー(異性体))、2,2,4−トリメチル−4−(4−ヒドロキシフェニル)クロマン、分子中に3個又はそれ以上のフェニル環を有するポリフェノール、置換インデン、ヒドロキシ−フェニルクロマン、ヒドロキシフェニル−インダノール又は置換キサンテンのようないくらかの副生物も含む。これらの副生物は結晶ビスフェノール−A:フェノールアダクトから効果的に分離されなければビスフェノール−A:フェノールアダクトに望ましくない着色を生じる。
【0003】
従って、当業者はビスフェノール−A:フェノールアダクトの結晶化、母液からの結晶の分離及びビスフェノール−A:フェノールアダクトの精製に多大な努力を払ってきた。
【0004】
結晶化工程には、例えば特許文献1〜5などの多くの特許出願が提出されている。これらの文献には、水の存在下での結晶化、多酸結晶化及びプロセス中での(in−process)結晶化が記載されている。
【0005】
特許文献6は母液からのアダクト結晶の分離の問題に関している。この文献は数個のフィルターセルを含む回転真空ドラムにおける連続濾過によって母液からアダクト結晶を分離し、次にフェノールで洗浄し、そして吸引によって洗浄液から分離するプロセスを示唆している。
【0006】
その他の文献は主としてアダクト結晶の洗浄に関するものである。特許文献7は結晶を熱水で洗浄することを開示している。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4740635号
【特許文献2】米国特許第4861919号
【特許文献3】米国特許第4927973号
【特許文献4】米国特許第5345000号
【特許文献5】米国特許第5545764号
【特許文献6】WO 01/46105A1
【特許文献7】米国特許第5434316号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
商業的生産に使用される多量のビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン類及びそれらの純度に対する高い要求からみて、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物(phenolic compound)のアダクトを回収する新しいプロセス並びにビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン類を回収する新しいプロセスを見出すことは依然として望まれている。特に高純度の前述のアダクト類及びビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン類を回収できる新しいプロセスを見出すことは特に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様はビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物の固形アダクトを含む懸濁液から前記アダクトを回収するプロセスであって、
a)前記懸濁液をロータリーフィルターへ供給し、
b)供給された懸濁液とロータリーフィルターにおいて濾過してアダクトをアダクトケーキとして保留し、
c)アダクトケーキを不活性ガスで予備乾燥し、
d)予備乾燥したアダクトケーキを洗浄し、
e)任意的に、洗浄アダクトケーキを乾燥し、そして
f)ロータリーフィルターから洗浄アダクトケーキを排出する
各工程を含んでなる固形アダクトの回収プロセスである。
【0010】
本発明の別の態様は、前述のプロセスに従って製造することができるビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物のアダクトである。
【0011】
本発明の更に別の態様は、前述のプロセスによって回収されアダクトを溶融してフェノール性化合物を留去するビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンの回収プロセスである。
【0012】
本発明の更に別の態様は前述のプロセスに従って得ることができるビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物の固形アダクトを含むスラリーは化学量論的に過剰な量のフェノール性化合物を、酸性触媒の存在下に、カルボニル化合物と反応させることにより得ることができる。
【0014】
有用なフェノール性化合物は米国特許第5723688号(4欄7〜39行)に列挙されている。式(I)の化合物の好ましい例は、フェノール、クレゾール、キシレノール(例えば2,6−ジメチルフェノール又は3,5−ジメチルフェノール)、クロロフェノール、ジクロロフェノール、2−イソプロピル−5−メチル−フェノール、5−イソプロピル−2−メチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2,4−ジメチル−3−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−エチル−4−メチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−メチル−4−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,3,5,6−テトラメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、3,5−ジエチルフェノール、2−メチル−3,5−ジエチルフェノール、o−フェニルフェノール又はp−フェニルフェノールである。
【0015】
有用なカルボニル化合物はケトン類及びアルデヒド類で、これらは米国特許第5723688号(4欄40〜67行及び5欄1〜4行)に列挙されている。適当なケトンの例は、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン及びメチルアミンケトンを含む。適当なアルデヒドの例はホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びブチルアルデヒドを含む。
【0016】
本発明のプロセスはビスフェノール−Aとフェノールのアダクトを回収するのに特に適している。ビスフェノール−Aはアセトンとフェノールの反応生成物である。しかし、本発明のプロセスはこれらには限定されない。
【0017】
好ましくはビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトを含む懸濁液は、触媒としての酸性カチオン交換樹脂の存在下に、化学量論的に過剰のフェノール性化合物とカルボニル化合物とを反応させ、そして得られた生成混合物を結晶化デバイスにおいて処理することによって得られる。更に好ましくは、生成混合物は、生成混合物を結晶化デバイスに通す前に、蒸留工程にかけない。このようなプロセスは米国特許第5723688号に記載されている。結晶化前に、得られる生成混合物はビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン、未反応フェノール性化合物、いくらかの未反応カルボニル化合物、水及び副生物を含む。反応におけるモル過剰のフェノール性化合物は生成混合物が生成混合物の合計重量当り10〜27%のフェノール性化合物を含むように選ぶのが好ましい。結晶化工程前に、生成混合物中のアセトンのようなカルボニル化合物の含量を制御するのが好ましく、必要であればカルボニル化合物の合計濃度が、生成混合物の合計重量当り、0.1〜8%になるようにカルボニル化合物を添加する。生成混合物中の水の重量は、好ましくは、生成混合物の全重量当り、1〜10%である。生成混合物は結晶化デバイスを通してビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物とのアダクト結晶を生成させる。アダクトの結晶化は、例えば結晶化デバイス中の生成混合物を25〜75℃の温度、更に好ましくは30〜65℃、最も好ましくは34〜58℃に冷却することによって、実施することができる。生成混合物の冷却は外部冷却、例えば水冷却を備えたジャケット付き結晶化デバイスのような熱交換器、又は結晶化デバイス中の圧力の減圧化によって、そして、水、カルボニル化合物及び少量のフェノール性化合物の蒸発によって実施することができる。生成混合物の結晶化デバイス中の滞留時間は好ましくは0.1〜20時間、更に好ましくは1〜6時間である。ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンの主要部分はフェノール性化合物との1:1モル比のアダクトとして結晶化する。これによって、液体、即ち母液中のアダクトの懸濁液が得られ、それによって母液は、主としてフェノール性化合物、いくらかのビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン、副生物及び場合によっては残存する量の未反応カルボニル化合物並びに水を含む。
【0018】
別法として、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトを含む懸濁液は、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトの分離後、前記結晶化デバイスから回収される母液の処理によって得ることができる。この懸濁液は、例えば、母液の冷却、濃縮又は他の適当な処理によって得ることができる。
【0019】
別法として、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトを含む懸濁液は、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との粗固形アダクトを適当な液体、例えばフェノール性化合物、水及びアセトンの混合物又はフェノール性化合物及びアセトンの混合物又はフェノール性化合物単独中にスラリー化させることによって得ることができる。フェノールが最も好ましいフェノール性化合物である。
【0020】
本発明に係る懸濁液は、好ましくは、懸濁液全重量に基づいて、2〜40、更に好ましくは5〜38、最も好ましくは10〜30重量%のアダクト結晶、0.5〜8.5、更に好ましくは0.8〜6.5、最も好ましくは1.2〜4.8重量%のビスフェノール化合物のo,p−アイソマー及び0.5〜10.6、更に好ましくは0.8〜7.8、最も好ましくは1.1〜6.4重量%の他の副生物を含む。懸濁液の残りの部分は主としてフェノール性化合物及び場合によっては少量のアセトン及び水とからなる。存在する場合のアセトンの量は一般的には、懸濁液の全重量当り、0.1〜8%である。存在する場合の水の量は懸濁液の全重量当り一般的には1〜10%である。
【0021】
ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との、固形、典型的には結晶形、のアダクトは、以下に述べるプロセス、即ち、a)前記懸濁液をロータリーフィルターへ供給し、b)供給された懸濁液とロータリーフィルターにおいて濾過してアダクトをアダクトケーキとして保留し、c)アダクトケーキを不活性ガスで予備乾燥し、d)予備乾燥したアダクトケーキを洗浄し、e)任意的に、洗浄アダクトケーキを乾燥し、そしてf)ロータリーフィルターから洗浄アダクトケーキを排出する
各工程を含むプロセスから回収される。
【0022】
本発明のプロセスに使用されるロータリーフィルターは真空又は圧力(pressure)フィルターとすることができる。ロータリー圧力フィルターの使用が好ましいことを見出した。ロータリー圧力フィルターそれ自体は、業界において一般に知られている。圧力フィルターは一般にフェノール及びガス気密性である必要がある。ロータリー真空フィルターにおけるよりもフィルター媒体の内部と外部との間の高い圧力差を達成する可能性は、アダクトケーキの純度に好ましい影響を与える。特に好ましいのは連続操作を可能にするロータリー圧力フィルターであり、最も好ましいのは本発明のプロセスに適合するBHS Sonthofenにより出荷されているロータリープレッシャーフィルターである。
【0023】
添付図面は、本発明プロセスにおいて有用な好ましいロータリーフィルター、更に好ましいロータリー圧力フィルターの断面図を示す。以下の記述は添付図面を参照するが、本発明プロセスをこれに限定するものではない。ロータリーフィルターは懸濁液供給ゾーン1、予備乾燥ゾーン2、第一の洗浄ゾーン3a、中間乾燥ゾーン4、第二の洗浄ゾーン3b、乾燥ゾーン5及び排出ゾーン15を含んでなるロータリードラム3を含む。このロータリーフィルターは数種の濾過セル6を含む。各濾過セル6は、その中にアダクトケーキ8が形成される濾過布7を含む。母液は各濾過セル6から溝路(又は導管)9を通して、母液出口として典型的に機能するコントロールヘッド10に除去することができる。ロータリーフィルターはまたガス供給ノズル11a,11b及び11c、液供給ノズル12a及び12b並びに懸濁液供給溝路(又は導管)14を含む。ロータリードラム13の内部分割部の故に、アダクトケーキは別々のゾーンで更に処理することができる。ロータリーフィルターは一般に、図示されていないが、ロータリードラム並びにロータリードラムへ、そしてロータリードラムから、物質を供給したり、取り出したりする種々の追加の溝路用の、ハウジング及びサポートを含む。
【0024】
本発明のプロセスの工程a)において、前述のアダクトを含む懸濁液は、懸濁液供給溝路14を通して、懸濁液供給ゾーン1に供給される。懸濁液は大気圧上、好ましくは0.1〜5.0バール(10〜500kPa)、更に好ましくは0.4〜3.2バール(40〜320kPa)、最も好ましくは0.6〜2.4バール(60〜240kPa)の圧力を有する。この懸濁液は、前記結晶化デバイスと前記ロータリーフィルターとの間静止高さ(static height)に十分な差がある場合には、好ましくは静下降力(static descending force)によってロータリーフィルター中に供給する。ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物とのアダクトの結晶形状を、可能な限り最大限、保存するために、静止高さの差により与えられる懸濁液の圧力はポンプの使用を超えて好ましい。
【0025】
濾過工程b)は好ましくは不活性ガス雰囲気、更に好ましくは窒素雰囲気下に実施する。ロータリーフィルターは一般に32〜98℃、好ましくは35〜85℃、更に好ましくは42〜68℃の温度を有する。ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトは濾過セル6にアダクトケーキ8として保持される。母液は各濾過セル6から溝路9を通して母液出口として典型的に作用するコントロールヘッド10に通す。コントロールヘッド10の回転によって、アダクトケーキ8で充たされた濾過セル6は懸濁液供給ゾーン1から予備乾燥ゾーン2へ通すことができる。
【0026】
本発明プロセスの工程c)において、アダクトケーキは不活性ガスで予備乾燥される。驚くべきことに、本発明の予備乾燥工程c)はビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトの高純度及び淡色を達成するために必須である。特に、ビスフェノール−A:フェノールアダクトを回収するときに、高純度の結晶を達成することができる。窒素は好ましい不活性ガスである。予備乾燥温度は好ましくは40〜85℃であり、更に好ましくは42〜68℃である。不活性ガスの圧力は好ましくは0.2〜6バール(20〜600kPa)であり、更に好ましくは0.6〜3.8バール(60〜380kPa)である。予備乾燥ゾーン2へは第一のガス供給ノズル11aを通して供給できる。アダクトケーキは、好ましくは、乾燥アダクトケーキの重量に対して、残存湿分含量50重量%未満、更に好ましくは6〜42重量%、最も好ましくは、12〜30重量%まで乾燥させることができる。コントロールヘッド10の回転によって、予備乾燥されたアダクトケーキで充たされた濾過セル6を予備乾燥ゾーン2から第一の洗浄ゾーン3aへ送ることができる。
【0027】
本発明のプロセスの工程d)において、予備乾燥したアダクトケーキを洗浄する。洗浄液は洗浄ゾーン3a及び/又は第二の洗浄ゾーン3b中に第一の液体供給ノズル12a及び/又は第二の液体供給ノズル12bを通して供給することができる。好ましい洗浄液は、例えばフェノール、アセトン、水、フェノール/アセトン混合物、フェノール/水混合物、フェノール/アセトン/水混合物又はアセトン/水混合物である。別法として、予備乾燥したアダクトケーキはスチームで洗浄することができる。このケーキは単一又は多段工程で洗浄することができる。多段工程で洗浄する場合には、前記ケーキは向流で、又は好ましくは共流(co−currently)で洗浄することができる。アダクトケーキは好ましくは2又はそれ以上の段階で、更に好ましくは2段で中間乾燥工程と一緒に、洗浄する。洗浄工程d)の好ましい態様において、アダクトケーキは第一段階でフェノール/アセトン/水混合物で洗浄して、残存量の母液を結晶から除去し、そして母液中に一般に存在する不純物を除去又は減少させる。フェノール/アセトン/水混合物において、フェノールの濃度は、合計混合物重量に対して、好ましくは0.8〜98%、更に好ましくは2.1〜55%、最も好ましくは5〜40%であり、アセトンの濃度は、好ましくは0.4〜46%、更に好ましくは1.1〜25%、最も好ましくは1.5〜10%であり、そして混合物の残存量は水である。洗浄工程d)で使用するフェノール/アセトン/水混合物の温度は好ましくは20〜90℃、更に好ましくは32〜72℃である。好ましくは0.1〜2.6重量部、更に好ましくは0.4〜1.5重量%のフェノール/アセトン/水混合物を、例えばビスフェノール−A:フェノールアダクトのようなビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクトを1重量部当り使用する。固形アダクト結晶の洗浄に使用するフェノール/アセトン/水混合物は好ましくは循環する。第一洗浄段階の後、アダクトケーキは好ましくは中間乾燥工程にかける。窒素のような不活性ガスは好ましくは中間乾燥工程に使用される。不活性ガスの温度は好ましくは40〜85℃、更に好ましくは42〜68℃である。不活性ガスの圧力は好ましくは0.2〜6バール(20〜600kPa)、更に好ましくは0.6〜3.8バール(60〜380kPa)である。中間乾燥工程において、アダクトケーキは、好ましくは、乾燥アダクトケーキの重量に基づいて、残存湿分含量を、50重量%未満、更に好ましくは4〜36重量%、最も好ましくは8〜24重量%に乾燥する。第二の洗浄工程にはアダクトケーキは好ましくはフェノールで洗浄する。洗浄フェノールの温度は好ましくは42〜95℃、更に好ましくは44〜78℃である。好ましくは0.1〜1.6重量部、更に好ましくは0.3〜1.2重量部の洗浄フェノールを、例えばビスフェノール−A:フェノールアダクトのようなビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物との固形アダクト1重量部に対して使用する。固形アダクト結晶を洗浄するのに使用された洗浄フェノールは、好ましくはビスフェノール製造プロセスに循環する。コントロールヘッド10の回転によって、洗浄アダクトケーキ8で充たされた濾過セル6は第一の洗浄ゾーン3aから中間乾燥ゾーン4へ、そして第二の洗浄ゾーン3b、そして次に乾燥ゾーン5に送られる。
【0028】
洗浄工程d)の後、結晶は場合によっては、好ましくは窒素のような不活性ガスで乾燥する。不活性ガスはガス供給ノズル11cによって乾燥ゾーン5中に供給することができる。不活性ガスの温度は、好ましくは40〜85℃、更に好ましくは42〜68℃である。不活性ガスの圧力は好ましくは0.2〜6バール(20〜600kPa)、更に好ましくは0.6〜3.8バール(60〜380kPa)である。例えばビスフェノール−A:フェノールアダクトのようなビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物とのアダクトは、好ましくは、乾燥アダクトの重量基準で、2〜46重量%、更に好ましくはは8〜30重量%の残存湿分含量を有する。コントロールヘッド10の回転によって、乾燥されたアダクトケーキ8で充たされた濾過セル6は乾燥ゾーン5から排出ゾーン15に移すことができる。
【0029】
洗浄した、そして場合によっては乾燥したアダクトケーキは公知のやり方でロータリーフィルターから排出することができる。例えばアダクトケーキは過圧の窒素のような不活性ガスによって排出ゾーン15から排出することができる。排出工程f)は好ましくは逆方向のガスブローによって補助することができる。アダクトケーキの排出後、濾過布7を、好ましくはフェノールで、更に好ましくは洗浄工程d)において述べたのと同一の条件に、洗浄する。
【0030】
本発明のプロセスの濾過工程b)において得られる母液は洗浄工程d)から得られる使用洗浄液と混合することができる。混合物は公知の方法で蒸留して水、アセトン及び少量のフェノールを、好ましくは絶対圧で150〜750ミリバール(15〜75kPa)、更に好ましくは220〜620ミリバール(22〜62kPa)で、除去することができる。フェノール/アセトン/水の蒸留混合物の一部は好ましくは本発明の洗浄工程d)に循環する。
【0031】
本発明プロセスに従って得られたビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンとフェノール性化合物とのアダクトから、アダクトを溶融し、そしてフェノール性化合物を留去することによって、ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンを回収することができる。例えばフェノールのような回収フェノール性化合物はビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンを製造する反応混合物中に循環することができ、又はアダクト結晶を洗浄する本発明の工程d)に循環することができる。蒸留は、好ましくは温度70〜240℃、更に好ましくは150〜230℃で、好ましくは圧力2〜600ミリバール(0.2〜60kPa)、更に好ましくは5〜160ミリバール(0.5〜16kPa)で実施する。
【0032】
本発明のプロセスに従って回収されたビスフェノール−Aは一般には1400ppm未満の2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(o,p−アイソマー)、好ましくは1300ppm未満のo,p−アイソマー、更に好ましくは1100ppmのo,p−アイソマー、そして最も好ましくは1000ppm未満のo,p−アイソマー濃度を有する。そのカラーは好ましくは10APHA未満である。
【0033】
図中の符号は以下のものを示す。
1:懸濁液供給ゾーン
2:予備乾燥ゾーン
3a:第一の洗浄ゾーン
3b:第二の洗浄ゾーン
4:中間乾燥ゾーン
5:乾燥ゾーン
6:濾過セル
7:濾過布
8:アダクトケーキ
9:溝路
10:コントロールヘッド
11a,11b,11c:ガス供給ノズル
12a,12b:液供給ノズル
13:ロータリードラム
14:懸濁液供給溝路
15:排出ゾーン
【実施例】
【0034】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、本発明をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。特に断らない限り、部及び%はすべて重量基準である。不純物2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(o,p−アイソマー)の含量はガスクロマトグラフィーで分析する。ビスフェノール−Aの色(カラー)はAPHA−ASTM、テスト方法 D 1209−84(1988年再承認)の方法に従って求める。低APHA数は明色(bright color)を示す。
【0035】
例1(比較、但し従来技術ではない)
結晶性ビスフェノール−A:フェノールアダクト14.8%、ビスフェノール−Aのo,p−アイソマー(異性体)2.7%、水2.6%、アセトン0.5%、その他の副生物3.4%を含み、残りはフェノールである懸濁液を連続加圧フィルター(pressure filter)に、懸濁液の圧力1.4バールで、11720kg/時の速度で供給した。濾過工程でアダクト結晶を母液から分離した。アダクトケーキを第一の洗浄段階で洗浄フェノール425kg/時で洗浄し、そして第二の洗浄段階で洗浄フェノール475kg/時で洗浄した。洗浄に使用した洗浄フェノールの温度は55℃であった。洗浄段階の後、ケーキを圧力1.9バールで窒素で、乾燥アダクトケーキの重量に対して、30%の残存水分(湿分)含量まで乾燥した。得られたケーキを、窒素を用いて、圧力フィルターから排出した。2060kg/時の湿りアダクト結晶(450kg/時のフェノールを湿分として含む)を溶融タンクへ移した。混合物を154℃に加熱し、溶融させ、そして蒸留装置に供給し、そこで温度164℃、175℃及び186℃並びに圧力(絶対)165mbar、75mbar及び40mbarで3個の真空カラムでフェノールを留去した。ビスフェノール−Aを1130kg/時で得た。得られたビスフェノール−Aは濃度1450ppmのビスフェノールのo,p−アイソマーを含む、カラーは10APHAであった。
【0036】
分離した母液は、フェノール、ビスフェノール−A、副生物、未反応アセトン及び生成した水を含み、蒸留カラムに供給して混合物から水及びアセトンを分離した。
【0037】
例2
例1と同じ懸濁液を11720kg/時で連続加圧フィルターへ供給し、そこで懸濁液の圧力は1.4バールであった。濾過工程でアダクト結晶は母液から分離した。アダクト結晶は1.9バールの圧力及び温度51℃で窒素で予備乾燥した。
【0038】
得られたアダクトケーキを、例1に述べたようにして、2回の洗浄段階で洗浄し、乾燥し、更に処理した。1130kg/時のビスフェノール−Aが得られた。このビスフェノール−Aはビスフェノール−Aのo,p−アイソマーを1040ppmの濃度で含み、カラーは8APHAであった。
【0039】
分離した母液はフェノール、ビスフェノール−A、副生物、未反応アセトン及び生成水を含み、例1のようにして処理した。
【0040】
例3(比較、但し従来技術ではない)
例1と同じ懸濁液を、連続加圧フィルターに、懸濁液の圧力1.4バールで、11720kg/時の速度で供給した。濾過工程でアダクト結晶を母液から分離した。
【0041】
アダクトケーキを第一の洗浄段階でフェノール/アセトン/水の混合物(フェノール7.2%、アセトン1.7%、及び水)を用いて42℃で425kg/時の速度で洗浄した。次に洗浄アダクトケーキを、圧力1.9バール及び温度51℃で窒素による中間乾燥工程にかけた。そして第二の洗浄段階で洗浄フェノール475kg/時でそのアダクトケーキを洗浄した。洗浄に使用した洗浄フェノールの温度は55℃であった。第二洗浄段階の後、アダクトケーキを圧力1.9バール及び温度55℃で窒素で、乾燥アダクトケーキの重量に対して、30%の残存水分(湿分)含量まで乾燥した。得られたケーキを、窒素を用いて、加圧フィルターから排出した。
【0042】
2060kg/時の湿りアダクト結晶(450kg/時のフェノールを湿分として含む)を溶融タンクへ移した。ビスフェノール−Aを1130kg/時で得た。得られたビスフェノール−Aは濃度1240ppmのビスフェノールのo,p−アイソマーを含む、カラーは7APHAであった。
【0043】
分離した母液は、フェノール、ビスフェノール−A、副生物、未反応アセトン及び生成した水を含み、例1のようにして処理した。
【0044】
例4
例1と同じ懸濁液を11720kg/時で連続加圧フィルターへ供給し、そこで懸濁液の圧力は1.4バールであった。濾過工程でアダクト結晶は母液から分離した。アダクト結晶は1.9バールの圧力及び温度51℃で窒素で予備乾燥した。
【0045】
得られたアダクトケーキを、例3に述べたようにして、2回の洗浄段階で洗浄し、乾燥し、更に処理した。1130kg/時のビスフェノール−Aが得られた。このビスフェノール−Aはビスフェノール−Aのo,p−アイソマーを710ppmの濃度で含み、カラーは2APHAであった。
【0046】
分離した母液はフェノール、ビスフェノール−A、副生物、未反応アセトン及び生成水を含み、例1のようにして処理した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のプロセスに有用なロータリー圧力フィルターの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物の固形アダクトを含む懸濁液から前記アダクトを回収するプロセスであって、
a)前記懸濁液をロータリーフィルターへ供給し、
b)供給された懸濁液とロータリーフィルターにおいて濾過してアダクトをアダクトケーキとして保留し、
c)アダクトケーキを不活性ガスで予備乾燥し、
d)予備乾燥したアダクトケーキを洗浄し、
e)任意的に、洗浄アダクトケーキを乾燥し、そして
f)ロータリーフィルターから洗浄アダクトケーキを排出する
各工程を含んでなる固形アダクトの回収プロセス。
【請求項2】
前記プロセスをロータリー圧力フィルターにおいて実施する請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ロータリーフィルターが数個の濾過セル(b)を含む請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ロータリーフィルターが懸濁液供給ゾーン(1)、予備乾燥ゾーン(2)、第一の洗浄ゾーン(3a)、中間乾燥ゾーン(4)、第二の洗浄ゾーン(3b)、乾燥ゾーン(5)及び排出ゾーン(15)を含んでなるロータリードラム(3)を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記懸濁液を静下降力によってロータリーフィルター中に供給する請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記アダクトケーキを大気圧上0.2〜6バールの圧力で窒素で予備乾燥する請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記予備乾燥したアダクトケーキを先ずフェノール、アセトン及び水の混合物で洗浄し、そして次に水で洗浄する請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記予備乾燥したアダクトケーキをフェノールで洗浄する請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程d)において予備乾燥したアダクトケーキを中間乾燥工程で2段で洗浄し、
工程e)において前記乾燥ケーキを乾燥し、そして
工程f)において前記洗浄及び乾燥したアダクトケーキをロータリーフィルターから
排出する請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記懸濁液が、触媒としての酸性カチオン交換樹脂の存在下に、化学量論的過剰のフェノール性化合物のカルボニル化合物との反応及び得られる生成混合物の結晶化デバイスにおける処理から生ずるアダクトを含む請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
ビスフェノール−A及びフェノールのアダクトを回収する請求項1〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロセスによって製造することができるビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物のアダクト。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロセスによって回収されたアダクトを溶融し、そしてフェノール性化合物を留去するビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンの回収プロセス。
【請求項14】
請求項13のプロセスによって得ることができるビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン及びフェノール性化合物の固形アダクトを含む懸濁液から前記アダクトを回収するプロセスであって、
a)前記懸濁液をロータリーフィルターへ供給し、
b)供給された懸濁液とロータリーフィルターにおいて濾過してアダクトをアダクトケーキとして保留し、
c)アダクトケーキを不活性ガスで予備乾燥し、
d)予備乾燥したアダクトケーキを洗浄し、
e)任意的に、洗浄アダクトケーキを乾燥し、そして
f)ロータリーフィルターから洗浄アダクトケーキを排出する
各工程を含んでなる固形アダクトの回収プロセス。
【請求項2】
前記プロセスをロータリー圧力フィルターにおいて実施する請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ロータリーフィルターが数個の濾過セル(b)を含む請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ロータリーフィルターが懸濁液供給ゾーン(1)、予備乾燥ゾーン(2)、第一の洗浄ゾーン(3a)、中間乾燥ゾーン(4)、第二の洗浄ゾーン(3b)、乾燥ゾーン(5)及び排出ゾーン(15)を含んでなるロータリードラム(3)を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記懸濁液を静下降力によってロータリーフィルター中に供給する請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記アダクトケーキを大気圧上0.2〜6バールの圧力で窒素で予備乾燥する請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記予備乾燥したアダクトケーキを先ずフェノール、アセトン及び水の混合物で洗浄し、そして次に水で洗浄する請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記予備乾燥したアダクトケーキをフェノールで洗浄する請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程d)において予備乾燥したアダクトケーキを中間乾燥工程で2段で洗浄し、
工程e)において前記乾燥ケーキを乾燥し、そして
工程f)において前記洗浄及び乾燥したアダクトケーキをロータリーフィルターから
排出する請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記懸濁液が、触媒としての酸性カチオン交換樹脂の存在下に、化学量論的過剰のフェノール性化合物のカルボニル化合物との反応及び得られる生成混合物の結晶化デバイスにおける処理から生ずるアダクトを含む請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
ビスフェノール−A及びフェノールのアダクトを回収する請求項1〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロセスによって回収されたアダクトを溶融し、そしてフェノール性化合物を留去するビス(4−ヒドロキシアリール)アルカンの回収プロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2006−518377(P2006−518377A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502852(P2006−502852)
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/001118
【国際公開番号】WO2004/076394
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【出願人】(505316152)ダウ ドイチュランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー オッフェネ ハンデルスゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】