説明

ビソクラミス属に属する菌類の検出方法

【課題】ビソクラミス属に属する菌類を特異的にかつ迅速に検出しうる方法、及びそれに用いる検出用DNA、検出用オリゴヌクレオチドを提供する。
【解決手段】特定の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の同定を行うことを特徴とするビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性菌類の一種であるビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法、及びそれに用いる検出用DNA、検出用オリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性の菌類(真菌類)は自然界に広く分布し、野菜、果物等の農作物で繁殖し、これらの農作物を原材料とした飲食品を汚染する。しかも、耐熱性の菌類は通常の他の菌類に比べて高い耐熱性を有する。例えば酸性飲料の加熱殺菌処理を行ったとしても耐熱性菌類が生存、増殖し、カビの発生原因となることがある。このため、耐熱性菌類は重大な事故を引き起こす重要危害菌として警戒されている。
【0003】
加熱殺菌処理後の飲食品からも検出されることがある汚染事故の原因菌の主な耐熱性菌類の1つとして、ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する耐熱性菌類が知られている。飲食品及びこれらの原材料中の耐熱性菌類による事故防止のためには、ビソクラミス属に属する耐熱性菌類の検出が重要である。
【0004】
一方、従来の耐熱性の菌類を検出する方法としては、検体をPDA培地等で培養して検出する方法がある。しかし、この方法ではコロニーが確認されるまでに約7日間を要する。しかも、菌種の同定は、菌の特徴的な器官の形態に基づいて行うので、形態学的な特徴が認められるまでさらに約7日間の培養を必要としている。したがって、この方法によると、耐熱性菌類の検出に約14日間もの時間を要する。このように耐熱性菌類の検出に長期間を要することは飲食品の衛生管理、原材料の鮮度確保、流通上の制約など観点から、必ずしも満足できるものではない。そのため、より迅速な耐熱性菌類の検出方法の確立が求められている。
【0005】
菌類の迅速な検出方法としては、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を利用した検出方法が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、これらの方法では特定の耐熱性菌類を特異的にかつ迅速に検出することが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−505728号公報
【特許文献2】特開2006−61152号公報
【特許文献3】特開2006−304763号公報
【特許文献4】特開2007−174903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飲食品汚染の主な原因菌の1つであるビソクラミス属に属する菌類を特異的にかつ迅速に検出しうる方法を提供することを課題とする。また、本発明は該検出方法に用いる検出用DNA及び検出用オリゴヌクレオチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のように耐熱性菌類の検出を困難にしている一因として、従来の公知のプライマーを用いたPCR法では擬陽性や擬陰性の結果が出ることが挙げられる。
本発明者等は、この問題を克服し特定の耐熱性菌類を特異的に検出・識別しうる新たなDNA領域を探索すべく、鋭意検討を行った。その結果、ビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子中に、他の菌類のものとは明確に区別しうる、特異的な塩基配列を有する領域(以下、「可変領域」ともいう)が存在することを見い出した。また、この可変領域をターゲットとすることで、上記ビソクラミス属に属する菌類を特異的かつ迅速に検出・識別できることを見い出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記(c)の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の同定を行うことを特徴とするビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法に関するものである。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
また、本発明は、ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出に用いるための前記(c)の塩基配列で表されるDNAに関するものである。
また、本発明は、前記(c)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出用オリゴヌクレオチドに関するものである。
また、本発明は、下記の(a)及び(b)で示されたビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対に関するものである。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
また、本発明は、前述したオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド対を含むビソクラミス属に属する菌類検出用のキットに関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、飲食品の汚染事故の主な原因菌の1つであるビソクラミス属に属する菌類を特異的にかつ迅速に検出できるオDNA及びオリゴヌクレオチドを提供することができる。さらに、本発明によれば、前記DNA及びオリゴヌクレオチドを用いたビソクラミス属に属する菌類の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における電気泳動図である。
【図2】実施例2における、ビソクラミス ファルバの各菌株を用いた電気泳動図である。
【図3】実施例2における、ビソクラミス ニベアの各菌株を用いた電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列、すなわちビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子領域中におけるビソクラミス属に特異的な領域(可変領域)の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス属に属する菌類の同定を行い、ビソクラミス属に属する菌類を特異的に識別・検出する方法である。
本発明における「ビソクラミス属に属する菌類」とは、マユハキタケ科(Trichocomaceae)に属する不整子嚢菌類を意味する。ビソクラミス属に属する菌類は、75℃、30分間の加熱処理後であっても生存可能な子のう胞子を形成する耐熱性菌類である。ビソクラミス属に属する菌類の例として、ビソクラミス ファルバ(Byssochlamys fulva)、ビソクラミス ニベア(Byssochlamys nivea)が挙げられる。
【0013】
「β−チューブリン」とは微小管を構成する蛋白質であり、「β−チューブリン遺伝子」とは、β−チューブリンをコードする遺伝子である。また、本発明において、「可変領域」とは、β-チューブリン遺伝子中で塩基変異が蓄積しやすい領域であり、この領域の塩基配列は真菌の属間で大きく異なる。ビソクラミス属のβ-チューブリン遺伝子の可変領域はビソクラミス属固有の塩基配列であるため、他の通常の菌類のものとは明確に区別しうるものである。
【0014】
本発明の検出方法は、下記の(c)の塩基配列で表される核酸、すなわちビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子中の特定領域(可変領域)の塩基配列に対応する核酸を用いることを特徴とする。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
発明者らは、ビソクラミス属に属する菌類及びビソクラミス属に属する菌類に近縁な菌類から種々のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を同定し、ビソクラミス属と近縁な属とビソクラミス属との間、及びビソクラミス属内での遺伝的距離の解析を行った。さらに、決定した各種のβ−チューブリン遺伝子配列の相同性解析をおこなった。その結果、当該配列中にビソクラミス属に属する菌類に固有の塩基配列を有する可変領域を見出した。この可変領域において、ビソクラミス属に属する菌類は固有の塩基配列を有しているため、ビソクラミス属に属する菌類を識別・同定することが可能となる。本発明は、この可変領域及び可変領域に由来する核酸、オリゴヌクレオチドをターゲットとしたものである。
【0015】
本発明の検出方法に用いる前記(c)の塩基配列は、ビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配に対応する。
【0016】
配列番号3に記載の塩基配列及びその相補配列は、ビソクラミス ニベアから単離、同定されたβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列である。当該配列はビソクラミス属に属する菌類に特異的であり、被検体がこの塩基配列を有しているか否かを確認することで、ビソクラミス属に属する菌類を特異的に識別・同定することが可能である。また、配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列で表される核酸を用いても、同様にビソクラミス属に属する菌類を特異的に識別・同定することが可能である。これらの塩基配列で表される核酸は、特にビソクラミス ニベア及びビソクラミス ファルバを検出するために好適に用いられる。
以下、前記(c)の塩基配列を「本発明の可変領域の塩基配列」ともいう。
【0017】
上記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス属に属する菌類を同定する方法として特に制限はなく、シークエンシング法、ハイブリダイゼンション法、PCR法など通常用いられる遺伝子工学的手法で行うことができる。
【0018】
本発明の検出方法において、前記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス属に属する菌類の同定を行うには、被検体のβ−チューブリン遺伝子領域の塩基配列を決定し、該領域の塩基配列中に前記(c)の塩基配列が含まれるか否かを確認することが好ましい。すなわち、本発明の検出方法は、被検体の有するβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を解析・決定し、決定した塩基配列と本発明の前記(c)記載のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列とを比較し、その一致又は相違に基づいてビソクラミス属に属する菌類の同定を行うものである。
塩基配列を解析・決定する方法としては特に限定されず、通常行われているRNA又はDNAシークエンシングの手法を用いることができる。
具体的には、マクサム−ギルバート法、サンガー法等の電気泳動法、質量分析法、ハイブリダイゼーション法等が挙げられる。サンガー法においては、放射線標識法、蛍光標識法等により、プライマー又は、ターミネーターを標識する方法が挙げられる。
【0019】
本発明においては、上記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス属に属する菌類の検出・同定を行うために、前記本発明の可変領域の塩基配列、すなわち前記(c)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、かつビソクラミス属に属する菌類を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得る検出用オリゴヌクレオチドを用いることができる。
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、ビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できるものであればよい。すなわち、ビソクラミス属に属する菌類の検出のための核酸プライマーや核酸プローブとして使用できるものや、ストリンジェントな条件でビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであれば良い。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば後述の条件が挙げられる。
【0020】
本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドとしては、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列から選択される領域であって、(1)ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む、(2)オリゴヌクレオチドのGC含量がおよそ30%〜80%となる、(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い、(4)オリゴヌクレオチドのTm値(融解温度:melting temperature)がおよそ55℃〜65℃となる、の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドが好ましい。
上記(1)において「ビソクラミス属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域」とは、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の中でも、異なる属間での塩基配列の保存性が特に低く(すなわち、ビソクラミス属に属する菌類の特異性が特に高く)、10塩基前後にわたってビソクラミス属に属する菌類に固有の塩基配列が連続して現れる領域を意味する。
また、上記(3)において「オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い」とは、プライマーの塩基配列からプライマー同士が結合しないことが予想されることを言う。
本発明の検出用オリゴヌクレオチドの塩基数としては、特に限定されないが、13塩基〜30塩基であることが好ましく、18塩基〜23塩基であることがより好ましい。ハイブリダイズ時のオリゴヌクレオチドのTm値は、55℃〜65℃の範囲内であることが好ましく、59℃〜62℃の範囲内であることがより好ましい。オリゴヌクレオチドのGC含量は、30%〜80%が好ましく、45%〜65%がより好ましく、55%前後であることが最も好ましい。
【0021】
本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドとしては、下記の(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドがより好ましい。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0022】
すなわち、本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドとしては、配列番号1又は2に記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、配列番号1又は2に記載の塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有する塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドであって、ビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できるものが好ましい。ビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列とは、配列番号1又は2に記載の塩基配列に対して70%以上の相同性を有し、ビソクラミス属に属する菌類の検出のための核酸プライマーや核酸プローブとしてビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できるものや、ストリンジェントな条件でビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズ可能な塩基配列であれば良い。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。また、相同性が75%以上であることがさらに好ましく、相同性が80%以上であることがさらに好ましく、相同性が85%以上であることがさらに好ましく、相同性が90%以上であることがよりさらに好ましく、相同性が95%以上ありビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できるものであることが特に好ましい。
また、本発明の検出用オリゴヌクレオチドには、ビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できるものであれば、配列番号1又は2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドに対して、塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾が施されたオリゴヌクレオチドも包含される。また、本発明のオリゴヌクレオチドには、配列番号1又は2に記載の塩基配列に対して、塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾が施された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドで、ビソクラミス属に属する菌類の検出のための核酸プライマーや核酸プローブとしてビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できるものや、ストリンジェントな条件でビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズ可能な塩基配列でもよい。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。そのような塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾が施されたオリゴヌクレオチドとしては配列番号1又は2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドにおいて1又は数個、好ましくは1から5個、より好ましくは1から4個、さらに好ましくは1から3個、よりさらに好ましくは1から2個、特に好ましくは1個の塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾されたオリゴヌクレオチドも包含される。また、配列番号1又は2に記載の塩基配列に、適当な塩基配列を付加してもよい。塩基配列の相同性については、Lipman−Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0023】
本発明の前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチドは、ビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。したがって、前記オリゴヌクレオチドを用いることによって、前記ビソクラミス属に属する菌類を特異的、迅速かつ簡便に検出することができる。
【0024】
配列番号1及び配列番号2に記載の塩基配列で示されたオリゴヌクレオチドは、β−チューブリン遺伝子領域に存在し、ビソクラミス属に属する菌類に特異的な塩基配列、すなわち可変領域の一部分に相補的なオリゴヌクレオチドである。配列番号1及び配列番号2に記載の塩基配列で示されたオリゴヌクレオチドは、ビソクラミス属に属する菌類のDNA及びRNAの一部分と特異的にハイブリダイズすることができる。
【0025】
ビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域をビソクラミス ニベアを例として詳細に説明する。上述のように、ビソクラミス ニベアのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列は配列番号3で示される。このうち、ビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列の20位から175位までの領域は真菌の属間で塩基配列の保存性が特に低く、属固有の塩基配列を有する領域であることを本発明者らが見い出した。
前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチドは、配列番号3に記載の塩基配列のうち、それぞれ33位から52位まで、159位から178位までの領域に対応する。したがって、前記オリゴヌクレオチドをビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、ビソクラミス属に属する菌類を特異的に検出することができる。
【0026】
本発明の検出用オリゴヌクレオチドとしては、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドのなかでも、下記の(a1)及び(b1)のオリゴヌクレオチドが好ましく、配列番号1及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドがより好ましい。
(a1)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b1)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0027】
また、本発明のビソクラミス属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対は、前記(a)のオリゴヌクレオチドと前記(b)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対である。なかでも、本発明の検出方法においては、前記(a1)のオリゴヌクレオチドと前記(b1)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対を用いることが好ましく、配列番号1及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いることがより好ましい。
【0028】
後述するように、本発明の検出方法において、上記本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対は核酸プローブ又は核酸プライマーとして好適に用いることができる。
上記検出用オリゴヌクレオチドの結合様式は、天然の核酸に存在するホスホジエステル結合だけでなく、例えばホスホロアミデート結合、ホスホロチオエート結合等であってもよい。
【0029】
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、例えばDNA自動合成機等を用いた化学合成等の通常の合成方法により調製することができる。また、ビソクラミス属に属する菌類の遺伝子から制限酵素等を用いて直接切り出したり、また遺伝子をクローニングして単離精製した後、制限酵素などを用いて切り出して調製することも可能である。操作の容易さ、大量かつ安価に一定品質のオリゴヌクレオチドを得られる点から化学合成により調製するのが好ましい。
【0030】
本発明の検出方法において、前記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス属に属する菌類の同定を行うには、前記(c)の塩基配列で表される核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする検出用オリゴヌクレオチドを標識化し、得られた検出用オリゴヌクレオチドを検査対象物より抽出した核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせ、ハイブリダイズした検出用オリゴヌクレオチドの標識を測定することが好ましい。この場合、前記(c)の塩基配列で表される核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする検出用オリゴヌクレオチドとしては、上述した本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対を用いることができ、好ましい範囲も同様である。
【0031】
本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対は、核酸プローブとして用いることができる。核酸プローブは、前記オリゴヌクレオチドを標識物によって標識化することで調製することができる。前記標識物としては特に制限されず、放射性物質や酵素、蛍光物質、発光物質、抗原、ハプテン、酵素基質、不溶性担体などの通常の標識物を用いることができる。標識方法は、末端標識でも、配列の途中に標識してもよく、また、糖、リン酸基、塩基部分への標識であってもよい。上記核酸プローブはビソクラミス属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の一部と特異的にハイブリダイズするので、被検体中のビソクラミス属に属する菌類を迅速かつ簡便に検出することができる。かかる標識の検出手段としては、例えば核酸プローブが放射性同位元素で標識されている場合にはオートラジオグラフィー等、蛍光物質で標識されている場合には蛍光顕微鏡等、化学発光物質で標識されている場合には感光フィルムを用いた解析やCCDカメラを用いたデジタル解析等が挙げられる。
このようにして標識化された本発明の検出用オリゴヌクレオチドを、通常の方法により検査対象物から抽出された核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせた後、ハイブリダイズした検出用オリゴヌクレオチドの標識を測定することでビソクラミス属に属する菌類を検出することができる。ここで、ストリンジェントな条件としては、前述した条件を挙げることができる。また、核酸とハイブリダイズした核酸プローブの標識を測定する方法としては、通常の方法(FISH法、ドットブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法等)を用いることができる。
【0032】
また、本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、固相担体に結合させて捕捉プローブとして用いることもできる。この場合、捕捉プローブと、標識核酸プローブの組み合わせでサンドイッチアッセイを行うこともできるし、標的核酸を標識して捕捉することもできる。
【0033】
本発明の検出方法において、前記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス属に属する菌類の同定を行うには、前記(c)の塩基配列で表される核酸中の一部又は全部の領域からなる核酸を遺伝子増幅し、増幅産物の有無を確認することも好ましい態様である。この場合、本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対を、核酸プライマー及び核酸プライマー対としても用いることができ、好ましい範囲も同様である。なかでも、前記(c)の塩基配列で表される核酸中の領域であって、(1)ビソクラミス属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む、(2)オリゴヌクレオチドのGC含量がおよそ30%〜80%となる、(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い、(4)オリゴヌクレオチドのTm値がおよそ55℃〜65℃となる、の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることが好ましい。さらに、前記(a)及び/又は(b)のオリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対を、核酸プライマー及び核酸プライマー対として用いることが好ましく、前記(a1)及び/又は(b1)のオリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対を、核酸プライマー及び核酸プライマー対として用いることがより好ましく、配列番号1及び/又は2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを核酸プライマー及び核酸プライマー対として用いるのがさらに好ましい。
本発明の核酸プライマーは、前記オリゴヌクレオチドをそのまま核酸プライマーとして用いることもできるし、前記オリゴヌクレオチドを標識物で標識化して核酸プライマーとして用いることができる。標識物及び標識方法の例としては、核酸プローブの場合と同様のものが挙げられる。
【0034】
本発明において、遺伝子増幅処理はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により行うことが好ましい。PCR反応の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。PCRの反応条件の好ましい一例としては、例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95〜98℃で10〜60秒間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を59〜61℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを30〜35サイクル行う。
【0035】
本発明において、遺伝子断片の増幅の確認は通常の方法で行うことができる。例えば遺伝子増幅反応時に放射性物質などの標識の結合したヌクレオチドを取り込ませる方法、PCR反応産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、PCR反応産物の塩基配列を解読する方法、増幅したDNA2本鎖の間に蛍光物質を入り込ませ発光させる方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、遺伝子増幅処理後に電気泳動を行い、増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法が好ましい。
配列番号3に記載の塩基配列において、33位から178位までの塩基数は146塩基である。したがって、被検体にビソクラミス属に属する菌類が含まれる場合、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対をプライマーセットとして使用してPCR反応を行い、得られたPCR反応産物について電気泳動を行うと、ビソクラミス属に属する菌類に特異的な約150bpのDNA断片の増幅が認められる。この操作を行うことにより、ビソクラミス属に属する菌類を検出することができる。
【0036】
本発明の耐熱性菌類の検出方法において、被検体としては特に制限はなく、飲食品自体、飲食品の原材料、単離菌体、培養菌体等を用いることができる。
被検体からDNAを調製する方法としては、耐熱性菌類の検出を行うのに十分な精製度及び量のDNAが得られるのであれば特に制限されず、通常の方法や市販の調製用キットを用いることができる。また、被検体中のRNAを逆転写して得られるDNAを用いることもできる。
【0037】
本発明のビソクラミス属に属する菌類の検出方法によれば、被検体の調製工程から菌類の検出工程までを約5〜12時間という短時間で行うことが可能である。
【0038】
本発明のビソクラミス属に属する菌類検出用キットは、前記本発明の検出用オリゴヌクレオチドを核酸プローブ又は核酸プライマーとして含有するものである。このキットは、ビソクラミス属に属する菌類の検出方法に用いることができる。本発明のキットは、前記核酸プローブ又は核酸プライマーの他に、目的に応じ、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酵素基質(dNTP,rNTP等)等、菌類の検出に通常用いられる物質を含有する。本発明のキットには、本発明の検出用オリゴヌクレオチドによって検出反応が可能であることを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明の検出用オリゴヌクレオチドにより増幅される領域を含んだDNAが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
1.βチューブリン部分長の塩基配列決定
下記の方法によりビソクラミス属各種のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を決定した。ポテトデキストロース寒天斜面培地にて30℃、7日間、暗所培養したビソクラミス属菌体からGenとるくんTM(タカラバイオ(株)社製)を使用し、DNAを抽出した。目的とする部位のPCR増幅は、PuRe TaqTM Ready-To-Go PCR Beads(GE Health Care UK LTD製)を用いて、プライマーとしてBt2a(5’-GGTAACCAAATCGGTGCTGCTTTC-3’:配列番号4)、Bt2b(5’-ACCCTCAGTGTAGTGACCCTTGGC-3’:配列番号5)(Glass and Donaldson,Appl Environ Microbiol 61:1323−1330,1995)を使用した。増幅条件は、βチューブリン部分長は変性温度95℃、アニーリング温度59℃、伸長温度72℃、35サイクルで実施した。PCR産物は、Auto SegTM G−50(Amersham Pharmacia Biotech社製)を使用し精製した。PCR産物は、BigDye terminator Ver. 1.1(商品名:Applied Biosystems社製)を使用してラベル化し、ABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)で電気泳動を実施した。電気泳動時の蛍光シグナルからの塩基配列の決定には、ソフトウエアー“ATGC Ver.4”(Genetyx社製)を使用した。
シークエンシング法により決定したビソクラミス ニベアや各種菌類の公知のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列情報をもとに、DNA解析ソフトウエア(商品名:DNAsis pro、日立ソフトウエア社製)を用いてアライメント解析を行い、ビソクラミス属に属する菌類に特異的な塩基配列を含有するβ−チューブリン遺伝子の中の特定領域(配列番号3)を決定した。
【0041】
2.ビソクラミス属に属する菌類の検出及び属レベルでの同定
(1)プライマーの設計
上記で得られたビソクラミス属に属する菌類に特異的な塩基配列領域のうち、3’末端側でタラロマイセス属に属する菌類の特異性が特に高い領域から、1)属固有の塩基配列が数塩基前後存在している、2)GC含量が概ね30%〜80%となる、3)自己アニールの可能性が低い、4)Tm値が概ね55〜65℃程度となる、の4つの条件を満たす部分領域の検討を行った。この塩基配列を基にして1組のプライマー対を設計し、各種菌体から抽出したDNAを鋳型として用いてPCR反応によるビソクラミス属検出及び属同定の有効性を検討した。すなわち、ビソクラミス属DNAを鋳型とした反応では約150bpにDNA増幅反応が認められ、その他のカビのゲノムDNAを鋳型とした反応では増幅産物が認められないことの検討を行った。その結果、ビソクラミス ニベア及びビソクラミス ファルバで特異的に約150bpにDNA増幅が認められ、その他のカビのゲノムDNAを鋳型とした反応では増幅産物が認めらかった。この結果より、ビソクラミス属の網羅的な検出、すなわちビソクラミス属の属レベルでの同定が可能であることを確認した。有効性が確認できたプライマー対は、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対である。なお、使用したプライマーはシグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0042】
(2)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちビソクラミス属とその他の耐熱性カビ及び一般カビとしては、表1及び表2に記載の菌を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて指摘温度、すなわち一般カビは25℃、耐熱性カビ及びアスペルギルス フミガタスは30℃で7日間培養した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(商品名 PrepMan ultra、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0046】
(4)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるプライマー(0.02pmol/μl)0.5μl及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるプライマー(0.02pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0047】
(5)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図1(a)及び図1(b)に示す。なお、図1(a)は表1に示す菌類の試料についての電気泳動図を示し、図1(b)は表2に示す菌類の試料についての電気泳動図を示す。図中の番号は表記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。
その結果、ビソクラミス属に属する菌類のゲノムDNAを含む試料(図2の1〜4レーン)では、150bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、ビソクラミス属に属する菌類のゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。以上の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、ビソクラミス属に属する菌類を特異的に検出することができる。
【0048】
実施例2
ビソクラミス属に属する菌類の検出
(1)プライマー
実施例1で設計した、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを使用した。
【0049】
(2)検体の調製
前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドのビソクラミス属に属する菌類に対する検出特異性を確かめるために、図2に示すビソクラミス ファルバの各菌株及び図3に示すビソクラミス ニベアの各菌株を使用した。これらの菌類は独立行政法人製品製品評価技術基盤機構によりNBRC番号で管理されているもの及びThe Centraalbureau voor SchimmelculturesによりCBS番号で管理されているもの等を入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて30℃で14日間培養した。
【0050】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(商品名 PrepMan ultra、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0051】
(4)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるプライマー(0.02pmol/μl)0.5μl及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるプライマー(0.02pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0052】
(5)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から4μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図2及び図3に示す。なお、図2はビソクラミス ファルバの各菌株の試料についての電気泳動図を示し、図3はビソクラミス ニベアの各菌株の試料についての電気泳動図を示す。
その結果、使用したビソクラミス ファルバ及びビソクラミス ニベアの全ての菌株において、特異的な増幅DNA断片が確認された。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、菌株の種類に左右されることなくビソクラミス属に属する菌類を高い精度で特異的に検出することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(c)の塩基配列で表される核酸を用いてビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の同定を行うことを特徴とするビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【請求項2】
同定を行うために、被検菌のβ‐チューブリン遺伝子領域の塩基配列を決定し、該領域の塩基配列中に前記(c)の塩基配列が含まれるか否かを確認することを特徴とする請求項1記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
【請求項3】
同定を行うために、前記(c)の塩基配列で表される核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする検出用オリゴヌクレオチドを標識化し、得られた検出用オリゴヌクレオチドを検査対象物より抽出した核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせ、ハイブリダイズした検出用オリゴヌクレオチドの標識を測定することを特徴とする請求項1記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
【請求項4】
同定を行うために、前記(c)の塩基配列で表される核酸中の一部又は全部の領域からなる核酸を遺伝子増幅し、増幅産物の有無を確認することを特徴とする請求項1記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
【請求項5】
前記増幅反応をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって行うことを特徴とする請求項4記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
【請求項6】
前記(c)に記載の塩基配列で表される核酸中の領域であって、下記の(1)〜(4)の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを、核酸プライマーとして用いて遺伝子増幅反応を行うことを特徴とする請求項5記載の検出方法。
(1)ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む
(2)オリゴヌクレオチドのGC含量が30%〜80%となる
(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い
(4)オリゴヌクレオチドのTm値が55℃〜65℃となる
【請求項7】
下記(a)及び/又は(b)のオリゴヌクレオチドを検出用オリゴヌクレオチドとして用いることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項8】
前記検出用オリゴヌクレオチドを核酸プローブ又は核酸プライマーとして用いることを特徴とする請求項7記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
【請求項9】
前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマー対として用いることを特徴とする請求項7記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
【請求項10】
下記(a’)及び/又は(b’)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることを特徴とする、ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出方法。
(a’)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b’)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項11】
ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出に用いるための、下記(c)の塩基配列で表されるDNA。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【請求項12】
下記(c)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出用オリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつビソクラミス属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【請求項13】
前記検出用オリゴヌクレオチドが、前記(c)に記載の塩基配列で表される核酸中の領域であって、下記の(1)〜(4)の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項12記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド。
(1)ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む
(2)オリゴヌクレオチドのGC含量が30%〜80%となる
(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い
(4)オリゴヌクレオチドのTm値が55℃〜65℃となる
【請求項14】
前記検出用オリゴヌクレオチドが、配列番号1〜2のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プローブ又は核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項12又は13記載のビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類の検出用オリゴヌクレオチド。
【請求項15】
下記の(a)及び(b)で示されたビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項16】
下記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして含むビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌類検出用キット。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−4880(P2010−4880A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129479(P2009−129479)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】