説明

ビタミン製剤

【課題】 独特のビタミン臭が少なく、製品中に均一に混合(分散)することができ、安定性に優れたビタミン製剤を提供すること。
【解決手段】 ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステル、あるいは脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる、ビタミン製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミン製剤、より詳細にはビタミンB製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンBは、必須の栄養成分であるが、熱、紫外線、pHなどに対して不安定である。そのため、より安定性の高いビタミンBの塩または誘導体が、栄養強化目的で利用されている。また、ビタミンBの誘導体の中には、チアミンラウリル硫酸塩などの抗菌性を有するものがあり、このような誘導体は、安全性が高い食品用の日持向上剤などとして広く利用されている(例えば、特許文献1)。しかし、ビタミンBの塩や誘導体は、(1)独特のビタミン臭を有するため、添加量が制限されること、および特にビタミンBの誘導体については、(2)水に難溶性であることから、食品などの製品中に添加した場合、析出し、凝集するため、均一に混合しにくいことなどの理由から、上記の目的を充分に発揮することが難しいという問題がある。
【0003】
上記ビタミンBの誘導体などの難水溶性のビタミンBを製品(例えば、食品など)中に均一に混合させるために、そのビタミンBを含有する液状製剤が利用されている。この液状製剤には、安定的な液体状態を維持する観点から、溶媒として、水のみではなく、アルコール、酢酸などの有機溶媒、あるいは有機溶媒と水との混合溶媒などが用いられている。例えば、特許文献2には、チアミンラウリル硫酸塩と水とアルコールとを乳化剤の存在下で混合した水性液剤が開示されている。特許文献3には、チアミンラウリル硫酸塩と、酢酸と、水とを特定の割合で混合した食品添加用水性溶液組成物が開示されている。
【0004】
しかし、上記のように、アルコール、酢酸などを用いて液状製剤を調製する場合には、溶媒の揮発性が高いことから、例えば、ビタミン臭をより誘発してしまう問題や、溶媒量が減少することによって保存中にビタミンBが再結晶化して析出するという問題が生じる。さらに、液状製剤は、粉末状、固形状などの場合に比べて、ビタミンBが分解され易くなるため、栄養強化目的が達成されなくなる、あるいは抗菌作用の持続性がなくなるといった問題も生じ得る。
【0005】
現在、ビタミンBの分解および再結晶化を改善する液状組成物が提案されている(例えば、特許文献4および5)。液中でのビタミンBの安定性を高めた液状組成物としては、例えば、特許文献4には、大豆油などの脂肪を含む乳化液に、ビタミンBを添加した注射剤が開示され、特許文献5には、ビタミンBと、常温で液体状または流動性を示す油性成分とからなる油性組成物が開示されている。
【0006】
しかし、液状製剤である以上、ビタミンBが分解され易くなるという問題を十分に解消することは困難である。さらに、油性組成物とした場合には、用途が制限されるといった新たな問題も生じ得る。
【0007】
一方、粉末製剤は、食品などの製品中に均一に混合しにくいという難点はあるものの、液状製剤に比べて、保存中にもビタミンBが安定である点で好ましく用いられる。しかし、粉末製剤においては、ビタミン臭を低減すること、製品中に均一に混合し易くすることなどの検討は行われていない。粉末製剤においては、例えば、さらにビタミンBの分解防止の観点から検討される程度である(例えば、特許文献6および7)。
【0008】
特許文献6には、高級脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルと、脂肪酸エステル型界面活性剤またはリン脂質型界面活性剤とを含むコーティング剤中に、チアミンまたはその塩類を懸濁し、この懸濁液を噴霧することによって、ビタミンBを被膜した養魚用チアミン被膜製剤が開示されている。この製剤は、被膜されているため、飼料などに混合する場合にもビタミンBの分解が少ない。しかし、抗菌力を有するビタミンBを被膜してしまう結果、充分な抗菌効果が得られなくなる場合があり、さらに食品などに利用する場合には、被膜する多量のコーティング剤が味に影響を与える場合もある。
【0009】
特許文献7には、ビタミンBと、ニンニクに含有される刺激臭の油性物質であるアリシンとを反応させることによって、脂溶性のアリチアミンが得られることが記載されている。アリチアミンは、アノイリナーゼなどのビタミンB分解因子によって分解されない安定な化合物であることが記載されている。しかし、このアリチアミンは脂溶性であるため用途が限られる。さらに原料のアリシンは刺激臭を有するため、このアリシンが残存する場合には、添加する食品に悪影響を与え得る。
【0010】
このように、栄養強化および抗菌作用の目的を十分達成することが可能なビタミン製剤については、十分な検討がなされていないのが現状である。
【特許文献1】特許第2684636号公報
【特許文献2】特開2004−210749号公報
【特許文献3】特許第2654522号公報
【特許文献4】特開平9−12458号公報
【特許文献5】特許第3229842号公報
【特許文献6】特公昭61−43978号公報
【特許文献7】特開平4−121168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、独特のビタミン臭が少なく、製品中に均一に混合(分散)することができ、安定性に優れたビタミン製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、独特のビタミン臭が少なく、製品中に均一に混合(分散)することができる、粉末状のビタミン製剤について鋭意検討を行った。その結果、ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステルとを粉末状で混合することによって得られる製剤が、ビタミンB特有のビタミン臭およびビタミン味が少なく、食品、飼料などへの分散性に優れることを見出した。さらに、抗菌力を有するビタミンBを用いて得られる上記ビタミン製剤は、そのビタミンBを単独で食品に添加する場合に比べて、優れた抗菌効果を有し、かつこの効果が長期間持続することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明のビタミン製剤は、ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステルとを粉末状態で混合して得られる。
【0014】
本発明のビタミン製剤はまた、ビタミンBと、脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる。
【0015】
好ましい実施態様においては、さらに抗菌物質を含む。
【0016】
好ましい実施態様においては、上記抗菌物質は、アミノ酸、有機酸およびその塩、リン酸塩、ε−ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、エタノール、キトサン、ペクチン分解物、ユッカ抽出物、カンゾウ抽出物、唐辛子抽出物、ホップ抽出物、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、および孟宗竹抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0017】
本発明の抗菌剤は、ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステルとを粉末状態で混合して得られる。
【0018】
本発明の抗菌剤はまた、ビタミンBと、脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる。
【0019】
好ましい実施態様においては、さらにビタミンB以外の抗菌物質を含む。
【0020】
好ましい実施態様においては、上記抗菌物質は、アミノ酸、有機酸およびその塩、リン酸塩、ε−ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、エタノール、キトサン、ペクチン分解物、ユッカ抽出物、カンゾウ抽出物、唐辛子抽出物、ホップ抽出物、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、および孟宗竹抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のビタミン製剤は、ビタミンB特有のビタミン臭およびビタミン味が少ないため、食品などの製品に添加し易く、さらに分散性に優れることから、製品中に均一に混合することができる。特に抗菌力を有するビタミンBを用いて得られる本発明のビタミン製剤は、上記抗菌力を有するビタミンBを単独で製品(食品など)に添加する場合に比べて、優れた抗菌効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のビタミン製剤は、ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステル、あるいは脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる。本発明のビタミン製剤は、さらに必要に応じて、抗菌物質およびその他の成分を含有し得る。本発明のビタミン製剤は、優れた抗菌効果を有するため、抗菌剤として用いることも可能である。以下、本発明に用いられる各成分、およびビタミン製剤または抗菌剤について説明する。
【0023】
(ビタミンB
本発明のビタミン製剤に用いられるビタミンBは、粉末状であればよく、特に制限されない。例えば、食品、飼料などに当業者が通常添加するビタミンBが用いられる。具体的には、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、ジベンゾイルチアミン、ジベンゾイルチアミン塩酸塩、チアミンセチル硫酸塩、チアミンラウリル硫酸塩、チアミンナフタレン−1,5−ジスルホン酸塩、チアミンチオシアン酸塩、ビスベンチアミンなどが挙げられる。好ましくはチアミンラウリル硫酸塩およびチアミンセチル硫酸塩である。ビタミンBは、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(脂肪酸またはその塩もしくはエステル、あるいは脂肪酸を含む食品素材)
本発明のビタミン製剤に用いられる必須成分の1つは、脂肪酸またはその塩もしくはエステルである。本発明においては、この脂肪酸を含む食品素材も、脂肪酸として好ましく用いることができる。本明細書において、これらの脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸のエステル、および脂肪酸を含む食品素材をまとめて脂肪酸等という場合がある。上記脂肪酸等は、単独で用いてもよいし、あるいは組み合わせて用いてもよい。これらの脂肪酸等は粉末状で用いられる。
【0025】
上記脂肪酸は、常温において固体であればよく、特に制限されない。飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、直鎖状および分岐状のいずれであってもよい。好ましくは炭素数が12〜24、より好ましくは16〜22の脂肪酸である。脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などの飽和脂肪酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデカテトラエン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。好ましくはパルミチン酸およびステアリン酸である。
【0026】
上記脂肪酸の塩としては、例えば、上記脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0027】
上記脂肪酸のエステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0028】
上記脂肪酸を含む食品素材は、安全性の点から、好ましく用いられる。例えば、卵黄、乳、肉類などの動物由来の食品素材、種子類などの植物由来の食品素材、これらの食品素材の乾燥粉末(卵黄粉、粉乳など)、および食品素材の抽出物(動物性油脂、植物性油脂など)が挙げられる。中でも、卵黄粉は、脂肪酸を60質量%以上、好ましくは70質量%以上と高い割合で含有し、さらにビタミン臭抑制効果に優れる点で、特に好適に用いられる。
【0029】
(抗菌物質)
本発明のビタミン製剤は、抗菌作用をさらに増強させる目的から、抗菌物質を好ましく含有し得る。このような抗菌物質としては、例えば、アミノ酸(例えば、グリシン)、有機酸およびその塩(例えば、酢酸ナトリウム)、リン酸塩、ε−ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、エタノール、キトサン、ペクチン分解物、ユッカ抽出物、カンゾウ抽出物、唐辛子抽出物、ホップ抽出物、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、孟宗竹抽出物などが挙げられる。好ましくはグリシンおよび酢酸ナトリウムである。抗菌物質は、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(ビタミン製剤および抗菌剤)
本発明のビタミン製剤または抗菌剤は、上記ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステル、あるいは脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる。
【0031】
上記混合において、ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステルとの割合に特に制限はない。好ましくは、ビタミンB100質量部に対して、脂肪酸等を好ましくは10質量部〜300質量部、より好ましくは10質量部〜250質量部、さらに好ましくは50質量部〜250質量部、最も好ましくは50質量部〜200質量部である。本発明において、脂肪酸として、脂肪酸を含む食品素材を用いる場合は、通常、食品素材中に含まれる脂肪酸量が上記の割合となるように混合される。しかし、脂肪酸を多く含む食品素材、例えば、卵黄粉を用いる場合は、より簡便に食品素材の量を脂肪酸量として混合してもよい。混合は、例えば、ミキサーなどを用いて行われる。
【0032】
本発明のビタミン製剤または抗菌剤は、必要に応じて、さらに抗菌物質を含む。抗菌物質の含有量は、好ましくはビタミンB1質量部に対して、4質量部〜9999質量部、より好ましくは19質量部〜199質量部である。上記抗菌物質は、当業者が通常行う方法によって含有される。例えば、抗菌物質が粉末状の場合、上記ビタミンBと脂肪酸等とを混合する際に、添加することによって含有させてもよいし、ビタミンBと脂肪酸等との混合物を得た後に、該混合物と抗菌物質とをさらに混合することによって含有させてもよい。抗菌物質が液状の場合、例えば、ビタミンBと脂肪酸等との混合物を得た後、該混合物に抗菌物質を添加あるいは噴霧するなどの方法によって含有される。
【0033】
本発明のビタミン製剤または抗菌剤は、目的に応じて、種々の食品、飼料などに使用される。このような食品、飼料などの形態は、特に制限されず、固形状、ペースト状、油状、液状などであり得る。固形状の食品としては、ハンバーグ、卵焼き、水練り製品(ちくわ、かまぼこなど)などが挙げられる。ペースト状の食品としては、カスタードクリーム、ホワイトソースなどが挙げられる。油状の食品としては、ドレッシングソースなどが挙げられる。液状の食品としては、たれ、調味液などが挙げられる。
【0034】
本発明のビタミン製剤は、ビタミンB特有のビタミン臭およびビタミン味が少ないため、食品などの製品に添加し易く、大量に添加することも可能である。さらに分散性に優れることから、製品中に均一に混合することができる。特に抗菌力を有するビタミンBを用いて得られる本発明のビタミン製剤は、上記抗菌力を有するビタミンBを単独で製品(食品など)に添加する場合に比べて、優れた抗菌効果を有し、かつこの効果が安定的に長期間持続する。したがって、本発明のビタミン製剤は、ビタミン強化の目的、あるいは抗菌効果の目的で、食品、飼料などに容易に利用することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
チアミンラウリル硫酸塩、脂肪酸としてステアリン酸、およびデキストリンの各粉末を用いて、表1に記載の割合で混合して粉末製剤を得た(製剤Aとする)。
【0036】
得られた製剤Aについて、ビタミン臭抑制効果を以下のようにして評価した。まず、対照例として、チアミンラウリル硫酸塩およびデキストリンを混合して粉末製剤(対照製剤とする)を調製した。このチアミンラウリル硫酸塩を単独で含む対照粉末のビタミン臭を5とした場合の製剤Aのビタミン臭を1〜10の10段階で評価し、4以下であれば、ビタミン臭抑制効果があると判断した。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2〜10)
チアミンラウリル硫酸塩、脂肪酸としてステアリン酸または卵黄粉、およびデキストリンの各粉末を用いて、以下の表1に記載の割合で混合して粉末製剤を得た(製剤B〜Jとする)。得られた各粉末について、実施例1と同様に、ビタミン臭抑制効果を評価した。
【0038】
さらに、製剤B、C、D、G、H、およびIならびに対照製剤については、40℃にて1ヶ月保存した後(各々、製剤B40、C40、D40、G40、H40、およびI40ならびに対照製剤40とする)、上記と同様に、ビタミン臭抑制効果を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果から、実施例のチアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤は、対照例のチアミンラウリル硫酸塩単独の場合に比べて、ビタミン臭抑制効果を有することがわかる。このビタミン臭抑制効果は、実施例2〜4および実施例7〜9の結果からも明らかなように、各製剤を40℃1ヶ月保存した場合にも安定に発揮される。
【0041】
なお、製剤A〜Jおよび対照製剤の含有量が5質量%となるように水に分散させたところ、対照製剤ではビタミンBが比較的大きな結晶となり、析出し、沈殿したが、製剤A〜JではビタミンBは析出したものの、結晶にはならず、分散性が良好であった。
【0042】
(実施例11:カスタードクリーム中におけるビタミン臭およびビタミン味抑制効果、ならびに抗菌効果)
実施例1〜10で得られた各製剤(製剤A〜J、製剤B40、C40、D40、G40、H40、およびI40)、グリシン、薄力粉、および上白糖の各粉末を表2に記載の割合で混合した。この混合物に、牛乳、卵黄、およびバターを表2に記載の割合で加えて、よく撹拌しながら電子レンジで加熱して糖度30度のカスタードクリームをそれぞれ調製した(試験例1〜16とする)。
【0043】
他方、上記製剤の代わりに対照製剤または対象製剤40を用いて、あるいは製剤を用いずに、表2に記載の割合で混合したこと以外は、上記と同様にして、糖度30度のカスタードクリームをそれぞれ調製した(比較試験例1〜4とする)。
【0044】
上記の試験例1〜16および比較試験例1〜4の各カスタードクリームについて、ビタミン臭およびビタミン味抑制効果、抗菌効果1(細菌に対する抗菌効果)、および抗菌効果2(カビに対する抗菌効果)を以下のようにして評価した。
【0045】
(1)ビタミン臭およびビタミン味抑制効果
比較試験例1で得られたチアミンラウリル硫酸塩を単独で含む対照製剤を用いたカスタードクリームのビタミン臭を5とした場合の各カスタードクリームのビタミン臭を1〜10の10段階で評価した。そして評価が4以下であれば、ビタミン臭抑制効果があると判断した。結果を表3に示す。ビタミン味抑制効果についても、ビタミン臭抑制効果と同様の方法で評価した。
【0046】
(2)抗菌効果1
まず、調製されたカスタードクリーム中の細菌数が10個/gとなるように、予め卵黄液に細菌(Bacillus cereus)を接種しておき、この細菌接種後の卵黄液を用いて、上記と同様に、試験例1〜16および比較試験例1〜4のカスタードクリームを調製した。これらのカスタードクリームを30℃にて保存し、保存後0時間、24時間、48時間、および72時間経過時の菌数を、標準寒天培地を用いた希釈法にて計測した。保存後72時間経過時において、比較試験例1のチアミンラウリル硫酸塩を単独で含む場合に比べて、菌数が少なければ、抗菌効果があるとし(○)、菌数が同等、あるいは多ければ、抗菌効果がない(×)として評価した。結果を表3に併せて示す。
【0047】
(3)抗菌効果2
上記で得られた試験例1〜16および比較試験例1〜4の各カスタードクリームの表面に、青カビ(Penicillium chrysogenum)の希釈溶液を菌数が約100個/gとなるように噴霧して15℃にて保存した。保存7日目、8日目、および9日目にそれぞれカビの状態を観察し、以下の基準で評価した。この評価は、−、±、および+の順に抗菌効果が高いことを示す。なお、試験はいずれも試験数3で行い、最も抗菌効果が高い評価を採用した:
−: カビ未確認
±: カビの菌糸を確認
+: カビの胞子を確認。
【0048】
保存7日目、8日目、および9日目のいずれかにおいて、比較試験例1のチアミンラウリル硫酸塩を単独で含む場合の結果に比べて、抗菌効果が高ければ、抗菌効果があるとし(○)、比較試験例1の結果と差がない、あるいは抗菌効果が低ければ、抗菌効果なし(×)として評価した。結果を表3に併せて示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
表3の結果から、ビタミン臭およびビタミン味抑制効果については、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いた場合(試験例1〜16)は、チアミンラウリル硫酸塩単独で含む対照製剤を用いた場合(比較試験例1および2)に比べて、ビタミン臭およびビタミン味の優れた抑制効果を有していた。このビタミン臭およびビタミン味抑制効果は、試験例2〜7および試験例10〜15からも明らかなように、各製剤を40℃1ヶ月保存した場合にも安定に発揮される。
【0052】
細菌に対する抗菌効果(抗菌効果1)については、試験例1〜16から明らかなように、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いた場合に発揮される傾向があった。中でも、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して、脂肪酸を50質量部〜200質量部混合して得られた製剤B〜Dおよび製剤G〜Iを用いた場合(試験例2〜7および試験例10〜15)は、特に優れた抗菌効果が得られた。
【0053】
カビに対する抗菌効果(抗菌効果2)については、試験例1〜16から明らかなように、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いる場合に発揮される傾向があった。特に、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して、脂肪酸を50質量部〜200質量部混合して得られた製剤B〜Dおよび製剤G〜Iを用いた場合(試験例2、4、6、10、12、および14)に優れた抗菌効果が得られた。これに対して、チアミンラウリル硫酸塩を単独で含む対照製剤を用いた場合はカビに対する抗菌効果は得られなかった。これらのことは、カビに対する抗菌効果が、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを粉末状態で混合することによって得られる効果であることを示す。
【0054】
(実施例12:卵焼き中におけるビタミン臭およびビタミン味抑制効果、ならびに抗菌効果)
まず、水66.6質量部、味醂6質量部、醤油2質量部、塩0.6質量部、砂糖24質量部、および粉末だし0.8質量部を配合して調味液を準備した。
【0055】
次いで、実施例1〜10で得られた各製剤(製剤A〜J)、コーンスターチ、およびグリシンの各粉末を表4に記載の割合で混合した。この混合物に、上記調味液および全卵液を表4に記載の割合で加えて、撹拌し、これを用いて約200gの卵焼きを調理した(試験例1〜10とする)。
【0056】
他方、上記製剤の代わりに対照製剤を用いて、あるいは製剤を用いずに、表4に記載の割合で混合したこと以外は、上記と同様にして、卵焼きをそれぞれ調理した(比較試験例1〜3とする)。
【0057】
上記の試験例1〜10および比較試験例1〜3の各卵焼きについて、実施例11と同様にして、(1)ビタミン臭およびビタミン味抑制効果、ならびに(2)抗菌効果1(細菌に対する抗菌効果)を評価した。なお、(2)の抗菌効果1における細菌の接種は、卵焼きの原料である全卵液に対して行った。結果を表5に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
表5の結果から、ビタミン臭およびビタミン味抑制効果については、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いた場合(試験例1〜10)は、チアミンラウリル硫酸塩単独で含む対照製剤を用いた場合(比較試験例1)に比べて、ビタミン臭およびビタミン味の優れた抑制効果を有していた。
【0061】
細菌に対する抗菌効果(抗菌効果1)については、試験例1〜10から明らかなように、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いた場合に発揮される傾向があった。特に、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して、脂肪酸を50質量部〜200質量部混合して得られた製剤B〜D、製剤G〜Iを用いた場合(試験例2〜4、試験例7〜9)は、特に優れた抗菌効果が得られた。
【0062】
(実施例13:ハンバーグ中におけるビタミン臭およびビタミン味抑制効果、ならびに抗菌効果)
まず、食塩60質量部、砂糖20質量部、および胡椒20質量部を混合して調味料を準備した。次いで、実施例2〜4および7〜9で得られた各製剤(製剤B〜DおよびG〜I)および酢酸ナトリウムの各粉末を表6に記載の割合で混合した。この混合物に、合挽肉、炒め玉葱、パン粉、上記調味料、牛乳、および全卵液を表6に記載の割合で加えて、よく混練した。この混練物50gを成形して180℃にて15分間焼成して、ハンバーグを得た(試験例1〜6とする)。
【0063】
他方、上記製剤の代わりに対照製剤を用いて、あるいは製剤を用いずに、表6に記載の割合で混合したこと以外は、上記と同様にして、卵焼きをそれぞれ調理した(比較試験例1〜3とする)。
【0064】
上記の試験例1〜6および比較試験例1〜3の各卵焼きについて、実施例11と同様にして、(1)ビタミン臭およびビタミン味抑制効果、ならびに(2)抗菌効果1(細菌に対する抗菌効果)を評価した。なお、(2)の抗菌効果1における細菌の接種は、ハンバーグの原料である全卵液に対して行った。結果を表7に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
表7の結果から、ビタミン臭およびビタミン味抑制効果については、チアミンラウリル硫酸塩と脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いた場合(試験例1〜6)は、チアミンラウリル硫酸塩単独で含む対照製剤を用いた場合(比較試験例1)に比べて、ビタミン臭およびビタミン味の優れた抑制効果を有していた。
【0068】
細菌に対する抗菌効果(抗菌効果1)については、試験例1〜6から明らかなように、チアミンラウリル硫酸塩と、脂肪酸とを組み合わせた製剤を用いることによって、優れた抗菌効果が発揮された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のビタミン製剤は、ビタミンB特有のビタミン臭およびビタミン味が少ないため、食品などの製品に添加し易く、大量に添加することも可能である。さらに分散性に優れることから、製品中に均一に混合することができる。特に抗菌力を有するビタミンBを用いて得られる本発明のビタミン製剤は、上記抗菌力を有するビタミンBを単独で製品(食品など)に添加する場合に比べて、優れた抗菌効果を有し、かつこの効果が安定的に長期間持続する。したがって、本発明のビタミン製剤は、ビタミン強化の目的、あるいは抗菌効果の目的で、食品、飼料などに容易に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステルとを粉末状態で混合して得られる、ビタミン製剤。
【請求項2】
ビタミンBと、脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる、ビタミン製剤。
【請求項3】
さらに抗菌物質を含む、請求項1または2に記載のビタミン製剤。
【請求項4】
前記抗菌物質が、アミノ酸、有機酸およびその塩、リン酸塩、ε−ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、エタノール、キトサン、ペクチン分解物、ユッカ抽出物、カンゾウ抽出物、唐辛子抽出物、ホップ抽出物、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、および孟宗竹抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載のビタミン製剤。
【請求項5】
ビタミンBと、脂肪酸またはその塩もしくはエステルとを粉末状態で混合して得られる、抗菌剤。
【請求項6】
ビタミンBと、脂肪酸を含む食品素材とを粉末状態で混合して得られる、抗菌剤。
【請求項7】
さらにビタミンB以外の抗菌物質を含む、請求項5または6に記載の抗菌剤。
【請求項8】
前記抗菌物質が、アミノ酸、有機酸およびその塩、リン酸塩、ε−ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、エタノール、キトサン、ペクチン分解物、ユッカ抽出物、カンゾウ抽出物、唐辛子抽出物、ホップ抽出物、カラシ抽出物、ワサビ抽出物、および孟宗竹抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の抗菌剤。

【公開番号】特開2007−31413(P2007−31413A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234688(P2005−234688)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】