説明

ビタミンB12、ビタミンB6及び葉酸障害の鑑別診断及びモニター

【課題】 本発明は、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害を判定するための方法、特に、3個の独立した測定変数を使用するビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害の鑑別診断に関する。
【解決手段】該鑑別診断法は、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症を同定するために、ならびに必要な治療を推奨するために、並びに治療の経過及び治療の成否をモニターするために用いることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害を判定するための方法、特に、3個又は4個の独立したパラメーターを使用するビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害の鑑別診断に関する。該鑑別診断は、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症を検出するために、ならびに必要な治療を推奨するために、ならびに治療の経過及び成否をモニターするために用いることが可能である。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB12、B6及び葉酸は補酵素の形成のための前駆体物質として人体にとって非常に重要である。B12及び葉酸の欠乏症は非常に頻繁に生じ、種々の欠乏症状及び疾患を示しうる。また、それらは多数の疾患の危険因子でもある。例えば、非炎症性慢性疾患は、しばしば、ビタミンB(B12、B6、葉酸)の欠乏症により特徴づけられる。
【0003】
人体においては、ビタミンB12は、ビタミンB12に特異的に結合するいわゆる内因子に結合することにより、胃粘膜で吸収される。ビタミンB12はその結合型として回腸に到達し、そこでエンドサイトーシスにより上皮内に取り込まれる。ビタミンB12は回腸の粘膜細胞内で内因子により切断され、トランスコバラミンIIに結合する。トランスコバラミンIIとビタミンB12との複合体(ホロトランスコバラミンII、ホロ-TC II)は該細胞を離れ、体内に分布しうる。肝臓内で大量(約4〜5g)のビタミンB12が貯蔵される。
【0004】
補酵素として、ビタミンB12は、部分的には葉酸と共に、脂肪、炭水化物及び核酸の代謝において極めて重要な役割を果たす。とりわけ、ビタミンB12は、正常な赤血球生成及び神経細胞機能に不可欠である。ビタミンB12の代謝は葉酸の代謝に密接に関連づけられる。それらの活性型においては、どちらのビタミンも補酵素としてC1代謝に関与する。
【0005】
補酵素として活性な葉酸形態であるテトラヒドロ葉酸はC1単位の転移において主要な役割を果たし、例えば核酸合成、アミノ酸代謝及び血液細胞の生成に影響を及ぼす。
【0006】
ビタミンB12欠乏症は、例えば栄養不良により、吸収不良により、又はビタミンB12の吸収もしくは輸送メカニズムにおける欠損により生じうる。しかし、身体は非常に高いビタミンB12貯蔵能を有するため、重篤な欠乏症状は数年後になって初めて生じるらしい。
【0007】
Herbert(Am. J. Clin. Nutr. 1994; 59 (suppl.): 1213S-22)によると、正常なビタミンB12状態からビタミンB12欠乏症への移行は4つの段階に細分されうる。第1段階は、通常、血清中のビタミンB12濃度の減少により特徴づけられる。第2段階では、細胞内のビタミンB12の貯蔵の減少の開始及び枯渇を観察することが既に可能であり、第3段階では、赤血球生成欠損のような重篤な機能的障害と共に生化学的ビタミンB12欠乏症が生じる。第4段階は、貧血及び神経損傷が存在しうる臨床的に明らかなビタミンB12欠乏症である。欠乏状態の持続期間に応じて、もはや可逆的ではない損傷が生じうる。
【0008】
ヒトにおけるビタミンB12欠乏症は、巨大赤芽球性貧血の一形態である致命的な貧血を招く。さらに、脊髄の或る領域の重篤な変性である索性脊髄症が生じうる。ビタミンB12欠乏症の血液学的症状は葉酸欠乏症の症状に類似している。
【0009】
葉酸欠乏症は、ビタミンB12欠乏症に次いで最も良く見られるビタミン欠乏症である。葉酸欠乏症は、例えば、栄養不良、吸収不良、例えば妊娠もしくは授乳中の要求性の増強、例えば長期的な血液透析中の排出増加、又は薬物誘発性障害により生じうる。
【0010】
テトラヒドロ葉酸は、例えば、チミジル酸合成における補酵素として中心的な役割を果たす。ビタミンB12もこの合成における補酵素として関与するため、ビタミンB12欠乏症は機能的葉酸欠乏症をも引き起こしうる。
【0011】
葉酸貯蔵の可能性は人体においては限定されている。肝臓の葉酸貯蔵は、血清中の正常な葉酸レベルを僅か約3〜4週間維持するのに十分なものであるに過ぎない。
【0012】
葉酸欠乏症はヒトにおいて巨大赤芽球性貧血を招く。しかし、葉酸代謝とビタミンB12代謝との間の密接な関連性の結果として、この貧血は葉酸の一次性欠乏症によって引き起こされるばかりでなく、コバラミン欠乏症により生じる二次性葉酸欠乏症によっても引き起こされうる。さらに、妊娠中の葉酸欠乏症は流産及び胎児奇形のリスクに関連している。
【0013】
また、葉酸欠乏症は体内の葉酸代謝の代謝産物の蓄積を引き起こしうる。例えば、葉酸欠乏症が存在する場合には、ホモシステインが体内で蓄積する。なぜなら、それはメチオニンへとメチル化され得ないからである。したがって、葉酸はホモシステインのメチル化に関する指標体とみなされうる。ホモシステインからメチオニンへのメチル化はビタミンB12欠乏症においても低下する。どちらの場合にも、血中のホモシステインの病的蓄積及びホモシステイン血症が生じる。ホモシステイン血症は種々の疾患の素因となる。例えば、動脈硬化性心血管疾患、静脈血栓症、内皮損傷及び卒中リスクの増加がホモシステイン血症に関連している。さらに、ホモシステイン血症は妊娠女性における神経管欠損及び子癇前症の危険因子である。高ホモシステイン血症は血液凝固系の障害及び末梢閉塞性動脈疾患をも促進する。
【0014】
ホモシステインはビタミンB6依存性代謝経路によってもシステインに分解されうる。したがって、正常なホモシステイン濃度を維持するためには適当なレベルのビタミンB6が必要である。
【0015】
ビタミンB6はタンパク質代謝において非常に重要である。欠乏症は、皮膚の変化ならびに免疫系及び神経系の障害のような種々の健康障害を引き起こしうる。
【0016】
ビタミンB12、ビタミンB6又は葉酸状態を測定するためには、種々の生化学的パラメーターが現在用いられている。ビタミンB6は、例えば、酵素アッセイ又はHPLC分析により測定することができる。血清中のビタミンB12及び葉酸濃度の測定も広く用いられている。葉酸又はビタミンB12欠乏症を調べるために、葉酸及びビタミンB12の濃度を赤血球においても測定することも可能である。しかし、これらの測定は非常に手間がかかる。
【0017】
もう1つの方法は、血液像を測定すること、又は骨髄スミアを実施することである。しかし、巨大赤芽球性貧血はコバラミン及び葉酸欠乏症と共に生じるため、葉酸欠乏症又はビタミンB12欠乏症の場合には、血液像と骨髄スミアとの間で鑑別を行うことはできない。
【0018】
ビタミンB12の吸収障害及びその結果として生じるビタミンB12欠乏症を検出するための、いわゆるシリング試験が、当技術分野において記載されている。これは、経口投与された放射能標識ビタミンB12の排泄を尿において測定するビタミンB12吸収試験である。しかし、この試験方法は放射能の使用を要し、該試験は非常に手間がかかり、結果は信頼しうるものでないことが多い。
【0019】
ビタミンB12欠乏症を測定するために使用しうるもう1つの生化学的パラメーターはメチルマロン酸(MMA)の濃度であり、これは、ビタミンB12欠乏症が存在する場合に血清中及び尿中で増加する。MMA濃度は、しばしば、ビタミンB12欠乏症の初期段階で既に増加しているが、MMAの濃度はビタミンB12欠乏症のみと相関するわけではなく、他の原因とも関連している。
【0020】
血清中のホモシステイン濃度の増加はビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症に関するもう1つの指標である。しかし、ホモシステインはビタミンB12欠乏症の場合及び葉酸欠乏症の場合に体内に蓄積して、その血清濃度の増加が生じるため、存在する欠乏症を特異的に判定するためにはこのパラメーターのみでは十分でない。
【0021】
代謝における葉酸及びビタミンB12及びビタミンB6の間の密接な生理学的関連性、ならびにそれによって生じる、欠乏状態における症状の類似性は、決定的で明らかな診断を非常に困難にする。ビタミンB12及び葉酸の状態を測定するための先行技術における公知試験は、しばしば、信頼し得ない結果を与え、通常、実施が非常に複雑である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
このような理由により、本発明の目的は、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸のビタミン状態、特に細胞内状態の信頼しうる評価を可能にし更にはビタミンB12欠乏症と葉酸欠乏症との鑑別を行うのを可能にする簡便な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的は、本発明に従い、
(i)ホロトランスコバラミンII(ホロTC II)、
(ii)ホモシステイン(tHCY)、
(iii)メチルマロン酸(MMA)、及び場合によっては
(iv)シスタチオニン(CSY)
を測定することを含む、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害を検出するための方法により達成される。
【0024】
したがって、本発明は、3個又は4個の独立したパラメーターを使用するB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害の鑑別診断に関する。したがって、本発明の方法は、ビタミンB12、B6及び葉酸に関する生物のビタミン供給の全体的状態の評価を可能にする。
【0025】
測定パラメーターであるホロトランスコバラミンII、ホモシステイン、メチルマロン酸及び場合によってはシスタチオンは、好ましくは、1つのサンプルから測定される。これは患者からのサンプルでありうる。前記の3個又は4個のパラメーターは、同じ又は異なる体液、例えば血液、血液画分又は尿において測定されうる。測定は、好ましくは、血清において行われる。
【0026】
「ビタミンB12」なる語は、本明細書中では、コバラミンと同義の語として用いられており、ヒトにおいて生物学的効果を有するすべてのコバラミン、例えばメチルコバラミン又は5'-デオキシアデノシルコバラミンを包含する。
【0027】
「葉酸」なる語は、本明細書中では、プテリジン環、p-アミノ安息香酸及び1以上のグルタミン酸残基を含む、天然に存在する化合物又は合成化合物の総称として用いられている。本明細書中で用いる「葉酸」なる語は、これらの化合物の生物学的に活性な形態、例えばテトラヒドロ葉酸をも包含する。
【0028】
驚くべきことに、本発明において、3個又は4個の独立したパラメーターを組合せることにより患者のビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸の状態に関する信頼しうる情報が迅速に得られうることが見出された。好ましくは、細胞内ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸の状態を測定する。
【0029】
先行技術においては、通常、血清中でビタミンB12、B6及び葉酸欠乏症を測定する。しかし、感度及び特異性が低いため、血清中のビタミンB12濃度の情報価値は限定されたものである。正常血清値は、良好なビタミンB12供給を常に示すわけではなく、逆に、血清中の低いビタミンB12濃度は、ビタミンB12欠乏症を常に示すわけではない。
【0030】
血漿中の葉酸濃度は、血液採取時の一時的な葉酸の平衡を示すに過ぎない。血漿中の葉酸濃度は組織内の葉酸貯蔵状態を反映するものではなく、葉酸の日常的摂取及び経時的な葉酸代謝の変化により大きく変動する。
【0031】
ビタミンB12の血清濃度も葉酸の血清濃度も、これらのビタミンの細胞内機能状態に関する信頼しうる情報を与えない。欠乏状態の評価に不可欠である細胞内のビタミンB12又は葉酸の状態は、対応する血清濃度とは必ずしも相関しない。本発明の方法は、有利にも、細胞内ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸の状態の測定を可能にする。
【0032】
本発明においては、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸の状態を測定するために、ビタミンB12、ビタミンB6及び葉酸の血清濃度の測定を行う必要ではないが、所望により行ってもよい。この目的には、それらの血清濃度を追加的に測定し、対照値として使用する。
【0033】
本発明の方法は、例えば血清濃度又は血液像が欠乏症の状態を未だ示していない場合に、ビタミンB6、葉酸及び/又はビタミンB12欠乏症の早期診断を可能にする。例えば、ビタミンB12の脳内貯蔵量は非常に少量で急速に枯渇することから、ビタミンB12欠乏症は神経精神科学的疾患を引き起こしうるため、ビタミンB12欠乏症のそのような早期診断は非常に重要となりうる。早期診断を行い、約1000μg/日のビタミンB12の投与が検討されれば、神経精神科学的疾患はビタミンB12の補給により反転しうる。
【0034】
本発明の方法は、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸の状態、特に、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症の分類を可能にする。4つの独立したパラメーターであるホロトランスコバラミンII、ホモシステイン、メチルマロン酸及び場合によってはシスタチオニンを組合せることにより、本発明の方法は、正常なビタミンB12、ビタミンB6又は葉酸の状態とビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症との間の常套的識別を可能にする。
【0035】
誤った治療を避けるためには、この識別は非常に重要である。例えば、ビタミンB12欠乏症を葉酸補給で治療すると、血液像は正常になるが、ビタミンB12欠乏症は尚も存続し、したがって、不可逆的な神経変性のような二次的疾患のリスクが残存する。
【0036】
好ましい実施形態においては、本発明の方法により測定するビタミンB12及び葉酸の状態を以下の群の1つに分類する:
(a)ビタミンB12、B6及び葉酸欠乏症、
(b)ビタミンB12及びB6欠乏症、
(c)葉酸欠乏症、
(d)欠乏症無し、ならびに場合によっては、
(e)ビタミンB6及び葉酸欠乏症、
(f)ビタミンB6欠乏症又は
(g)ビタミンB6欠乏症無し
該分類は、パラメーターであるホトトランスコバラミンII、ホモシステイン、メチルマロン酸及び場合によってはシスタチオニンを測定することにより行う。
【0037】
パラメーターであるホモシステイン(tHCY)の適当な基準値の範囲は、例えば約3〜18μmol/l、好ましくは約5〜15μmol/l、好ましくは<約15μmol/l、特に好ましくは<約12μmol/l、特に約10μmol/lである。パラメーターtHCYは血清中のホモシステイン濃度の指標となる。該基準範囲内の任意の値(例えば、12、13、14、15、16又は17μmol/l)を測定限界として用いることが可能である。該限界としては、約15μmol/lが好ましく用いられる。
【0038】
パラメーターであるホロトランスコバラミン(ホロTCII)の基準値の範囲は、好ましくは約20〜170pmol/l、好ましくは約30〜160pmol/l、特に好ましくは>約50pmol/l、特に>約30pmol/lである。パラメーターであるホロTCIIは細胞内のホモシステイン濃度の指標となる。該基準範囲内の任意の値(例えば、28、29、30、31又は32pmol/l)を測定限界として用いることが可能である。該限界としては、約30pmol/lが好ましく用いられる。
【0039】
パラメーターであるメチルマロン酸(MMA)の基準値の範囲は、約60〜280mmol/l、好ましくは約70〜270mmol/l、特に<約270mmol/lである。パラメーターMMAはB6及びB12濃度の指標である。該基準範囲内の任意の値(例えば、250、260、265、270、275又は280mmol/l)を測定限界として用いることが可能である。該限界としては、約270mmol/lが好ましく用いられる。
【0040】
パラメーターであるシスタチオニンの基準値の範囲は、約60〜310nmol/l、好ましくは約65〜300nmol/l、特に<約300nmol/lである。パラメーターであるシスタチオニンはB6濃度の指標となる。該基準範囲内の任意の値(例えば、280、290、295、300、305又は310nmol/l)を測定限界として用いることが可能である。該限界としては、約300nmol/lが好ましく用いられる。
【0041】
例えば、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症への分類には、以下の表1に示すような細分類を用いる。
【表1】

【0042】
好ましくは、測定したパラメーターを、例えば適当なソフトウェアを使用するコンピューターの補助により評価することができる。さらに、好ましくは、ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害への測定範囲の容易な割当てを可能にする図表の形態で、測定した値を図示することができる。
【0043】
本発明の方法においては、判定されたビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害に応じて、それぞれの患者に必要な治療を簡便に予め決定することも可能である。したがって、例えば、群(a)の分類にはビタミンB12、B6及び葉酸の補給が示唆され、群(b)の分類にはビタミンB12及びB6の補給が示唆され、群(c)の分類には葉酸の補給が示唆され、群(d)の分類には治療は不要であり、場合によっては、群(e)の分類にはビタミンB6及び葉酸の補給が示唆され、群(f)の分類にはビタミンB6の補給が示唆される。
【0044】
これらのビタミンは、任意の適当な方式の投与、好ましくは経口投与により補給することが可能である。
【0045】
ビタミンB12欠乏症の場合には、1日当たり約0.1〜3mg、好ましくは約0.1〜2mg、より好ましくは約0.1〜1mg、特に約1mg、例えば0.9〜1.1を投与する。葉酸欠乏症は、例えば、1日当たり約0.1〜1.5mg、好ましくは約0.1〜1.0mg、特に約0.5mg、例えば0.4〜0.6mgで補給する。ビタミンB6欠乏症と診断された場合には、ビタミンB6を約1〜7mg、好ましくは約1〜5mg、特に約5mg、例えば4.5〜5.5mgの用量で投与することが可能である。
【0046】
もちろん、それらのビタミンの任意の組合せを投与することが可能であり、また、1以上のビタミンと他の生理的に許容される物質、例えば賦形剤、芳香剤及び香味剤又は他の医薬物質の任意の組合せを投与することも可能である。
【0047】
ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸障害の治療に加えて、本発明の方法は、治療の経過又は治療の成否の観察及び/又はモニターも可能にして、個々の患者におけるビタミンB12、ビタミンB6及び葉酸製剤(例えば、経口又は非経口ビタミンB12、ビタミンB6又は葉酸製剤)の最適な使用を保証し、また、投与の量及び期間に関して最適な投薬を保証する。
【0048】
本発明の方法は、患者のビタミンB12、B6及び/又は葉酸障害を判定するのに適している。該方法は、例えば正常なCRP(C反応性タンパク質)値により特徴づけられるビタミンB12、B6及び/又は葉酸欠乏症により引き起こされる慢性非炎症性(変性)疾患を判定するために使用することも可能である。
【0049】
さらに、本発明の方法は、他の試験、例えば機能性鉄障害(図9参照)に関する試験と組合せて使用することも可能である。例えば、考えられうるビタミン欠乏症を判定するために、鉄分布の障害を有する患者からのサンプルを本発明の方法に付すことが可能である。ビタミン欠乏症の場合には、まず、罹患患者に、エリスロポエチンではなくビタミン投与のみを行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
図1〜9及び実施例1により、本発明の方法を更に詳しく説明する。
【0051】
図面及び実施例においては、略語は以下の意義を有する。
【0052】
ホロTC II ホロトランスコバラミンII
tHCY 総ホモシステイン
MMA メチルマロン酸
CYS シスタチオニン
SAM S-アデノシルメチオニン
Suc-CoA スクシニル-CoA
図1は、ビタミンB12、B6及び/又は葉酸欠乏症の鑑別診断及びモニターのスキームを示す。
【0053】
図2〜8は、ビタミンB6、B12及び/又は葉酸欠乏状態を伴わない正常な代謝における、ならびに種々のビタミンB6、B12及び/又は葉酸欠乏症を伴う場合の再メチル化及び硫酸移動の図式的表示を示す。
【0054】
図2は、正常な代謝の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0055】
図3は、ビタミンB12欠乏症の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0056】
図4は、葉酸欠乏症の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0057】
図5は、ビタミンB12及び葉酸欠乏症の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0058】
図6は、ビタミンB6欠乏症の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0059】
図7は、ビタミンB12及びビタミンB6欠乏症の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0060】
図8は、ビタミンB6及び葉酸欠乏症の場合におけるホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【0061】
図9は、ビタミン欠乏性疾患に関する試験と機能性鉄障害に関する試験のような他の試験との種々の可能な組合せのスキームである。ビタミン欠乏症/慢性疾患の領域においては、領域A〜EはビタミンB12及び葉酸欠乏症を表し、領域C及びFはビタミン欠乏症の非存在を表し、領域BはビタミンB12欠乏症を表し、領域DはビタミンB6欠乏症を表す。葉酸は領域Aと領域Bとの差から算出されうる。
【実施例1】
【0062】
高ホモシステイン血症におけるビタミン置換
非慢性炎症性疾患(CRP>15mg/l)及び高ホモシステイン血症(tHCY>12μmol/l)を有する60歳未満の患者を1mgのビタミンB12、1mgの葉酸及び5mgのビタミンB6で3週間の期間にわたり経口的に治療した。t-ホモシステインの初期値は13.9μmol/lであった。治療開始後の第21日にt-ホモシステイン値は僅か8.9μmol/lであった。同じ量を2週間経口投与することにより治療を継続した。
【0063】
文献
(1) Cazzola, M., Mercuriali, F.及びBrugnara, C. (1997); Use of Recombinant Human Erythropoietin Outside the Setting of Uremia; Blood 89: 4248-4267;
(2) Herbert V. Staging vitamin B12 (cobalamin) status in vegetarians. Am J. Clin Nutr. 1994:59:1213S-22S;
(3) Bjorkegren K, Svardsudd K., Serum cobalamin, folate, methylmalonic acid and total homocysteine as vitamin B12 and folate tissue deficiency markers amongst elderly Swedes. A population-based study. J. Intern. Med. 2001:249:423-32。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、ビタミンB12、B6及び/又は葉酸欠乏症の鑑別診断及びモニターのスキームを示す。
【図2】図2は、正常な代謝の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図3】図3は、ビタミンB12欠乏症の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図4】図4は、葉酸欠乏症の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図5】図5は、ビタミンB12及び葉酸欠乏症の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図6】図6は、ビタミンB6欠乏症の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図7】図7は、ビタミンB12及びビタミンB6欠乏症の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図8】図8は、ビタミンB6及び葉酸欠乏症の場合のホモシステインの再メチル化及び硫酸移動のスキームを示す。
【図9】図9は、ビタミン欠乏性疾患に関する試験と機能性鉄障害に関する試験のような他の試験との種々の可能な組合せのスキームである。ビタミン欠乏症/慢性疾患の領域においては、領域A〜EはビタミンB12及び葉酸欠乏症を表し、領域C及びFはビタミン欠乏症の非存在を表し、領域BはビタミンB12欠乏症を表し、領域DはビタミンB6欠乏症を表す。葉酸は領域Aと領域Bとの差から算出されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ホロトランスコバラミンII、
(ii)ホモシステイン及び
(iii)メチルマロン酸(MMA)、及び場合によっては
(iv)シスタチオニン
を測定することを含む、ビタミンB12及び/又は葉酸障害を検出するための方法。
【請求項2】
測定を血清において行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
鑑別診断を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症を検出することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
細胞内ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症を検出することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
該欠乏症を以下の群:
(a)ビタミンB12、B6及び葉酸欠乏症、
(b)ビタミンB12及びB6欠乏症、
(c)葉酸欠乏症、
(d)欠乏症無し、ならびに場合によっては
(e)ビタミンB6及び葉酸欠乏症、
(f)ビタミンB6欠乏症又は
(g)ビタミンB6欠乏症無し
に分類することを特徴とする請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
該欠乏症の分類に基づいて、必要な治療が推奨されることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
群(a)の分類にはビタミンB12、B6及び葉酸の補給が示唆され、群(b)の分類にはビタミンB12及びB6の補給が示唆され、群(c)の分類には葉酸の補給が示唆され、群(d)の分類には治療は不要であり、群(e)の分類にはビタミンB6及び葉酸の補給が示唆され、群(f)の分類にはビタミンB6の補給が示唆されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
治療の経過及び/又は治療の成否を観察及び/又はモニターすることを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
慢性非炎症性疾患を判定するための請求項1〜9のいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項11】
鉄代謝の障害を判定するための試験と組合わされた、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ホロトランスコバラミンII、
(ii)ホモシステイン及び
(iii)メチルマロン酸(MMA)、及び場合によっては
(iv)シスタチオニン
を測定することを含む、ビタミンB12及び/又は葉酸障害を検出するための方法。
【請求項2】
測定を血清において行う、及び/又は鑑別診断を行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ビタミンB12、ビタミンB6及び/又は葉酸欠乏症を検出し、該欠乏症を以下の群:
(a)ビタミンB12、B6及び葉酸欠乏症、
(b)ビタミンB12及びB6欠乏症、
(c)葉酸欠乏症、
(d)欠乏症無し、ならびに場合によっては
(e)ビタミンB6及び葉酸欠乏症、
(f)ビタミンB6欠乏症又は
(g)ビタミンB6欠乏症無し
に分類することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
該欠乏症の分類に基づいて、必要な治療が推奨されることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
慢性非炎症性疾患を判定するための請求項1〜4のいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項6】
鉄代謝の障害を判定するための試験と組合わされた、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−520468(P2006−520468A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504654(P2006−504654)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002539
【国際公開番号】WO2004/081578
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】