説明

ビタミンB12を含有する植物の作製方法

【課題】本発明は、ビタミンB12を含有する植物の作製を目的とする。
【解決手段】従って、本発明はビタミンB12を含有する種子、および植物を提供する。また、本発明はビタミンB12を含有する植物を作製する方法であって、1.前記ビタミンB12を含有する浸漬液に前記植物の種子、胞子、または菌糸を浸漬する工程と、2.前記浸漬した植物の種子、胞子、または菌糸を栽培する工程とを含む方法を提供する。さらに、本発明は植物にビタミンB12を導入するためのビタミンB12を含有する浸漬液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB12を含有する植物に関する。また、本発明は、ビタミンB12を含有する植物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB12は、人の健康維持に必須のビタミンの一つである。他のほとんどの必須ビタミン、ミネラルが一日あたり数mg以上必要であるのに比し、ビタミンB12の必要量はごく微量(成人一日あたりの必要量で約2.4μg)である。しかし、B12の欠乏は悪性貧血などの病気を引き起こすことが知られており、また最近ではさらにB12の研究が進み、動脈硬化やアルツハイマー病、睡眠遅延症候群などとの関係も判明しつつある。
【0003】
現在、人におけるビタミンB12の作用で最も重要なのは、B12関与のメチオニン合成酵素系におけるC1代謝であることが知られている。この代謝には葉酸やビタミンB6などB12以外のビタミンも関与し、主としてホモシステインなどのアミノ酸や核酸、生理活性物質などをメチル化して細胞の正常な機能が可能になるように働いている。この代謝が損なわれると、巨赤芽球性悪性貧血をはじめ、動脈硬化、神経障害などが引き起こされると考えられている。
【0004】
ビタミンB12は、水溶性であり、また熱にも比較的耐えるので加熱調理しても揮散したり壊れたりすることはあまりない。人体では、食物としてとり入れた後、胃液中に分泌される糖タンパク質の内因子により修飾を受け、結合体となって小腸から吸収される。従って、胃潰瘍などで胃を切除した人はB12欠乏症が出ることがあるので、医者は術後の患者にビタミンB12の非経口的投与を行っている。一方、高齢者などではビタミンB12の吸収力が低下し、潜在的欠乏症を呈しているものも多く、また、極端な菜食主義者には、ビタミンB12の欠乏症が現れることがある。これらの場合は経口的投与が有効である。
【0005】
ビタミンB12は、ある種のビタミンB12生産菌によってしか作られず、動物はそれら微生物の生合成したものを摂取して、ビタミンB12を相当量含有するようになる。そのためビタミンB12はレバーや肉、卵、魚介類などの動物性食品に多く含まれている。しかし、一般の植物性食品では、ビタミンB12が多く含まれてくると考えられている海苔のような海藻類(ビタミンB12生産菌が付着していることによると考えられている)などの例外を除き、ビタミンB12給源としては全く無視しうる程度にしか含まれていない。
【0006】
人は、健康維持のためにビタミン、ミネラルを豊富に含む野菜植物を、豆、果物などの様々な形で食している。また、現代人の多忙さによる食の偏りを補うために、必須成分を補給する栄養剤(総合ビタミン剤、ドリンク剤など)が出回っているが、極力自然な食品で同時に多種多様な栄養素をとる、いわゆる自然食品の形で摂取するのがより好ましく、ビタミンやミネラルを強化した食品が求められている。
【0007】
植物は、ビタミンやミネラルが元々豊富であり、同時に多様なビタミンが摂取できるから自然食品として優れている。厚生労働省が推進する「健康日本21」では、成人一日あたり350g以上の植物性食品および緑黄野菜120g以上を食べることを推奨している。しかし、これら多量の野菜を毎日食べたとしても、ビタミンB12だけは、通常の野菜中にほとんど含有されていないので、不足することになる。
【0008】
従って、健常者はもとより、下記のような多数の人々にビタミンB12を十分含有させた“健康食用植物”が望まれている。
【0009】
(1)動物性食品を好まない食習慣を持つ人。
【0010】
(2)アレルギーなどで動物性食品を摂ることが好ましくない人。
【0011】
(3)食品をバランス良く摂る時間のない忙しい人。
【0012】
(4)歯が悪くて肉類を日常的に摂取するに難のある高齢者。
【0013】
(5)菜食主義者。
【0014】
(6)胃潰瘍などで胃の機能が低下している人。
【0015】
(7)ビタミン剤を飲むことに抵抗感を持つ人。
【0016】
これらの人々では、ビタミンB12の潜在的欠乏といわれる状態や真に欠乏状態になる場合が考えられる。ビタミンB12は人の健康維持に不可欠であり、無理なく、容易に食べられる形で安価に提供することは意義がある。
【0017】
(従来技術)
ビタミン補給のための手段として、ビタミン、ミネラルを強化した植物を栽培して健康食品とする発想がある。しかし、その発想は元々植物に含まれている水溶性ビタミン、およびミネラルを対象としたものであった。ビタミンB12は、細菌により生合成されるため、元々植物には含まれていない。また、このビタミンB12を栽培植物自体から摂取するという発想はこれまでに存在しなかった。このため、動物性食品を食べない人々では、総合ビタミン剤の一成分として薬品の形で取得することが考えられていた。
【0018】
上記ビタミン欠乏を防ぐためには、ビタミン剤:サプリメントとして摂ることも一方法である。しかし、錠剤で摂ることに抵抗のある人もいる。さらに栄養素のバランスの取れた摂取という点からも栽培植物から自然な形で供給されることが望ましいが、ビタミンB12を十分含むような植物は現在までに栽培されていない。
【0019】
また、長時間かけて栽培する大型野菜の場合には、ビタミンB12の直接散布、または土中投与といった方法も考えられるが、希釈されるため単位重量当たりの含量はあまり高くならないといった問題もある。さらに、ビタミンB12は高価であるため、少量で安価に作製する方法であることが望まれる。
【0020】
従って、本来植物には殆ど含有されていないビタミンB12を植物中に高濃度で含有されるるようにして、日常の食生活において植物からだけでもビタミンB12の所要量(成人2.4μg/日)が快適に摂取することができる新たな手段の開発は非常に有意義といえる。
【0021】
さらに、種子を浸漬液に短時間浸すだけで、十分量のビタミンB12を種子に入れることができる方法は、植物の果実や葉の可食部分にB12を含ませる方法よりもはるかに容易であり、使用するビタミンB12の量が非常に少なくて済むという利点もある。
【0022】
ちなみに、植物にビタミンB12を適用した従来技術としては下記がある。
【0023】
1.特許文献1
ビタミンB12を有効成分とする植物成長調整剤を目的とした発明である。有効成分であるビタミンB12は、極めて顕著な植物成長調整作用、特に着果促進、落果防止、肥大促進、サビ果防止等の作用を併せて有する旨が記載されている。たとえばミカン等の柑橘類、ぶどう等の果実類、いちご、なす、きゅうり等の果菜類等に適用してこれらの収穫時期を顕著に短縮でき、しかもその収穫量、個数、品質等を増大または向上できる。しかし、B12を用いることは本発明と同じであるが、B12の適用方法・時期・目的が異なっている。
【0024】
2.特許文献2
果物の減酸及び減酸増糖方法についての発明である。果物の樹木、果菜類の草体にビタミンB群の溶液を投与することによって酸味を減少させることを目的としている。ビタミンB群の1種又は2種以上の混合物の少量を水又は他の溶媒に溶解し、この溶液を開花後の果物の樹木又は果菜類の草体に葉面散布するか又は土中投与することにより、酸味が減り、甘味が増すとしている。したがって、ビタミンB12を用いることは本発明と同じであるが、ビタミンB12の適用方法・時期・目的が異なっている。
【0025】
3.特許文献3
サイトカイニンとジベレリン及び核酸,ビタミン類の1種以上の併用による相互作用によって植物に対する花芽分化効果を促進した花芽分化促進剤の発明である。ビタミンB12散布によって花芽分化が促進され、早期収穫できたとしている。しかし、ビタミンB12を用いることは本発明と同じであるが、ビタミンB12の適用方法・時期・目的が異なっている。
【特許文献1】特公昭61−56209号公報
【特許文献2】特公昭60−36402号公報
【特許文献3】特開平03−5409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
そこで、本発明は、ビタミンB12を含有する植物および種子を提供することを目的とする。また、本発明は、ビタミンB12を含有する植物を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、植物にビタミンB12を高含量で含有させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0028】
すなわち、本発明は、ビタミンB12を含有する種子、胞子、または菌糸から成長する植物、並びにビタミンB12を含有する種子、胞子、または菌糸を提供する。
【0029】
また、ビタミンB12を可食部分1gあたり少なくとも0.01μg、0.1μgまたは1μg以上含む植物を提供する。
【0030】
さらに、上記植物が加工食品用原料植物である、ビタミンB12を含有する植物を提供する。
【0031】
さらに、ビタミンB12を含有する植物を原料に含む加工食品を提供する。
【0032】
また、本発明は、ビタミンB12を含有する植物を作製する方法であって、
1.前記ビタミンB12を含有する浸漬液に前記植物の種子、胞子、または菌糸を浸漬する工程と、
2.前記浸漬した植物の種子、胞子、または菌糸を栽培する工程と、
を含む方法を提供する。
【0033】
さらに、上記方法であって、前記栽培は、B12を含有する溶液を根から吸収させて栽培することを含む方法を提供する。
【0034】
さらに、本発明は、植物にビタミンB12を導入するためのビタミンB12を含有する浸漬液を提供する。
【0035】
特に、ビタミンB12を100μg/mL以上含む植物用種子浸漬液を提供する。
【0036】
また、本発明は、水耕栽培においてビタミンB12を含有する植物を作製する方法であって、
前記植物の種子を発芽させる工程と、
前記植物の発芽後、収穫前に適切な量のビタミンB12溶液を添加し根から吸収させて栽培する工程と、
を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0037】
本発明の種子、植物により、ごく微量ではあるが不可欠なビタミンB12を摂取しやすい形で摂取することができる。特に、カイワレ大根などの植物性食品は、葉酸やビタミンBなどを比較的多く含んでいる。また、本発明の方法により、植物にビタミンB12を導入することが可能となる。植物に本発明の方法により植物にビタミンB12を導入した植物により、ビタミンB12を容易に摂取することが可能となる。その結果、ビタミン動脈硬化や神経障害などの予防し、健全な食生活を送るうえで極めて有効といえる。
【発明の実施の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0039】
本発明の一つの態様において、ビタミンB12を含有する種子、胞子、または菌糸から成長する植物、並びに種子、胞子、もしくは菌糸を提供する。
【0040】
本明細書において、前記ビタミンB12とは、コバラミン、およびその誘導体を意味する。前記誘導体は、完全型ビタミンB12であるコバラミンと生理的に同様の活性を有する限り、いずれの誘導体であってもよい。たとえば、前記コバラミン、およびその誘導体は、図1に示したシアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミン、アデノシルコバラミンを含むがこれらに限定されない。好ましくは、図1に示す構造を有する完全型ビタミンB12のコバラミンである。通常の場合は、前記ビタミンB12はCN−B12(シアノコバラミン)である。本明細書において、上記ビタミンB12は、単にB12とも記す。
【0041】
本明細書において、植物とは、双子葉植物、単子葉植物、菌類を含む。
【0042】
したがって、本発明の植物は、種子から生長する植物であってもよく、または胞子もしくは菌糸から成長する植物であってもよい。
【0043】
本発明の植物は、好ましくは短期間で栽培される植物である。たとえば、種子から生長する植物であれば、カイワレ大根、大豆もやしを含み、また、胞子もしくは菌糸から成長する植物であれば、えのき茸、なめ茸などのキノコ類を含むがこれらに限定されない。
【0044】
本発明の植物は、たとえばカイワレ大根であれば、一本(約0.1g)あたり約0.05μg以上のB12を有するので、一日に数十本のカイワレ大根を食べればビタミンB12一日の必要量(成人2.4μg/日)を採取することができる。B12の含有量を高めておいたものでは、数本でも所要量の摂取が可能である。該カイワレ大根は、生食でもよく、いずれの方法で料理してもよい。
【0045】
ビタミンB12は日常的に必須の栄養素であり、味覚・食感に優れた食品から採取することでより食べやすくなる。たとえばB12を導入した本発明の大豆を市場に提供することによって、味覚・食感に優れた様々な加工食品が製造できる。
【0046】
本明細書において加工食品とは、植物を一部・または主成分として添加ないし加工した人用・飼育用食品をいう。
【0047】
12は熱にも比較的強いので、加工食品用原料植物からの加工段階でB12が散逸することは少なく、加工後の食品に加工食品用原料植物のB12を含ませることができる。したがって、本発明は、ビタミンB12を含有する加工食品用原料植物を原料に含む加工食品を包含する。加工食品とは、原料植物そのままの食品ではなく、調理、発酵などを行った食品である。
【0048】
このような条件にあう加工食品用原料植物としては、大豆がある。大豆を使用した加工食品としては、たとえば、納豆などがあげられる。本発明の大豆(一粒が約0.5g:含水率0%とした)は、B12を1μg/g(可食部分:この場合大豆種子)以上含む。したがって、該大豆をたべることにより、容易に一日に必要な量(成人2.4μg/日)のB12を採取することができる。
【0049】
もちろん加工段階で薬品としてのビタミンB12を添加して、B12入りの製品を製造することが可能である。しかし、そのような加工食品は、従来の技術の範囲であって、本発明の技術的思想の範囲には含まれない。
【0050】
また、本発明の実施の形態におけるB12入りの原料大豆を製造する方法は任意である。たとえば、大豆にビタミンB12を吸収させて直ちに加工等してもよい。たとえば、農地に蒔く前の種子大豆を本発明の浸漬液に浸漬させてB12を導入してもよい。種子にB12を導入してから土壌中で長期間栽培させた植物は、小型植物からB12を採食する場合に比べてB12の薬品側からみた利用効率は高いとは言えない。しかし、工場の生産時点で食品に添加物を加えた加工食品と、B12が導入された原料から製造された加工食品とを比較すると、食品安全の面では後者の方が優れている場合が多い。従って本発明の植物は産業上利用可能な物である。
【0051】
その他、野菜ジュース用の原料植物としても有用である。従来の技術では、例えば市販の野菜ジュースには、B12は含有してない。ジュースは飲みやすい商品であり、ジュースの原料となる加工食品用原料植物にB12を導入して、上述の商品の価値を向上させることができる。
【0052】
本発明の植物は、上述したように食用植物である。さらに、本発明の植物は、人のみならずルーメンなどの胃をもたない動物、魚、鳥、昆虫、爬虫類などの飼育用植物であってもよい。
【0053】
本発明の種子、胞子または菌糸は、以下の方法によって作成することができる。
【0054】
本発明のビタミンB12を含有する植物を作製するための方法は、
1.ビタミンB12を含有する浸漬液に前記植物の種子、胞子または菌糸を浸漬する工程と、
2.浸漬した植物の種子、胞子または菌糸を栽培する工程と、
を含む。
【0055】
本発明の植物は、上述したような植物であればよい。また、種子等を浸漬する時間は、種子、胞子または菌糸がビタミンB12を取り込むことができる時間以上であれば、いずれの時間でもよい。好ましくは1時間、2時間または5時間以上である。浸漬時間は、たとえば、カイワレ大根の場合、30分、1時間または3時間以上浸漬することが望ましい。
【0056】
本発明の浸漬液は、ビタミンB12を0.01μg/mL、0.1μg/mLまたは100μg/mL以上含む浸漬液である。ビタミンB12は水溶性で溶解度が非常に高いので、少量の水に溶かすことができ、10mg/mL以上の濃度も可能である。しかし、種子を浸漬させるための溶液としては濃度が高すぎても種子の吸収に非効率なので、100μg/mL程度の濃度の液を使用することが好ましい。この濃度の溶液は下記により作成する。
【0057】
ビタミンB12(試薬1級) 100mg
水道水(滅菌処理) 1L
また、植物の種類または栽培方法により、上記濃度よりも低濃度で、たとえば、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mL使用することもできる。
【0058】
次に、両者の混合物をかき混ぜる。その後、透明ないし不透明な容器に小分けして詰め、低温で保管、輸送または展示する。
【0059】
浸漬液には、植物の栽培に悪影響を与えない限り、ビタミンB12以外のものを含んでいてもよい。本発明のビタミンB12を植物に導入する方法は、ビタミンB12以外の他のビタミンやミネラルを添加するのにも有用な方法である。したがって、所望の成分とビタミンB12を組み合わせて前記植物に導入してもよい。たとえば、B12と葉酸、B12と鉄イオンなどの混合浸漬溶液を作成することによって、それらを高濃度に含有する植物を作製することができる。
【0060】
上記工程により、ビタミンB12を含有する種子、胞子または菌糸を容易に作成することができる。
【0061】
次いで、浸漬液に浸した後、種子等をそれぞれの植物に適した条件下で栽培することにより本発明の植物を作製することができる。たとえば、自宅でカイワレ大根を栽培する人は、浸漬液に常温で3時間以上浸した後、通常の繊維質を敷いた皿の上で水耕栽培するとよい。
【0062】
以下、本発明の植物の栽培方法を具体的に例示する。
【0063】
1.水耕栽培植物の種子を本発明の浸漬液に5時間以上浸漬する。浸漬後の種子を用いて、通常の栽培を行うことによって本発明の植物が収穫できる。
【0064】
浸漬液中のビタミンB12は種子に吸収されるが、相当量液中に残存するので必要に応じて再使用してもよい。再使用する場合には、マイクロウエーブ加熱などにより加熱処理後、必要な場合はビタミンB12を追加して使用することができる。これによって、貴重なビタミンB12の損失を防ぐことができ、かつ有効に植物にビタミンB12を導入することができる。
【0065】
2.種子にビタミンB12を含浸させた後、水耕用ベッド(苗床)上で栽培する。または、植物栽培を始める前の種子に、上記工程1と同様にビタミンB12を吸収させ、その後土壌に播種して発芽・生育させる。
【0066】
胞子や菌糸から成長する植物についても、基本的には種子から成長する植物と同じであり、えのき茸やなめ茸などのキノコ類の胞子または菌糸をビタミンB12含有浸漬液に短時間浸漬し、該胞子または菌糸を適した条件下で栽培することにより、キノコ類にB12を導入することができる。
【0067】
また、水耕栽培植物の場合、培養液中で植物が栽培される。したがって、培養液に微量のビタミンB12を含むようにしておけば、植物の根からもビタミンB12が成長中の植物に吸収され、本発明の植物が収穫できる。したがって、本発明の植物が水耕栽培植物の場合、植物の培養水に本発明の浸漬液を添加した水耕栽培用液において栽培してもよい。
【0068】
また、上記水耕栽培植物の場合、種子をビタミンB12を含有する浸漬液に浸した後で該植物を栽培するのではなく、ビタミンB12を含有しない水耕栽培用液中で単に発芽および栽培した後、収穫前に水耕栽培用液に適切な量のビタミンB12を添加し、該植物を栽培することにより、本発明の植物を作製することもできる。たとえば、収穫の6時間前、12時間前、1日前、2日前、3日前またはそれ以上前に、ビタミンB12を水耕栽培用液に添加して栽培した後、収穫すればよい。また、適切な量のビタミンB12として、たとえば、水耕栽培用液に0.1μg/mL、1μg/mL、10μg/mLまたは100μg/mL以上含むようにビタミンB12を添加すればよい。
【0069】
このような方法で栽培することにより、微量のビタミンB12を使用して植物にビタミンB12を含有させることができる。
【0070】
以下、本発明の方法により、植物にビタミンB12を導入した一実施例を示す。
【実施例】
【0071】
(カイワレ大根の栽培)
カイワレ大根の種子1gを、ビタミンB12を200μg/mL含む浸漬液に常温で6時間浸漬した。比較例として同じ種類の種子1gを、ビタミンB12を添加しない溶液に同一条件で6時間浸漬した。両方の種子を、ビタミンB12を含まない500mLビーカー中の脱イオン水で湿らせた脱脂綿上に蒔いて6日間栽培して約6cmに成長したカイワレ大根:約5g(湿重量:本数で約50本)を採取し、一度軽く水洗後、分析を行った。B12の分析はLactobacillus delbrueckii subsp.lactis ATCC7830を用いる微生物定量によった。分析用の試料は、乳鉢上でカイワレ大根を10mLの蒸留水とともに磨砕後、KCN0.1mg含有0.2M酢酸緩衝液(pH4.5) 30mLを添加し、100℃で20分間加熱抽出したものを遠心分離後、その上清を適当に希釈して使用した。表1は分析結果をカイワレ大根100gに含まれるB12量(μg/100g)で示す。また、ここで示した植物、ビタミンB12濃度、浸漬時間、栽培方法等に限らず、種々の条件下においても同様にビタミンB12を導入することができた(データ示さず)。
【0072】
【表1】

【0073】
本発明のカイワレ大根は、0.5μg/g以上のビタミンB12を含んでいることが解る。この量は動物性食品の中でB12含量が最大の牛の肝臓などに匹敵している。条件設定によっては、本品のB12含量は更に高めることが可能である。また、比較品と比べて上記の実施例は、外観・食味とも相違はみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明のビタミンB12およびその誘導体の構造式の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB12を含有する双子葉/単子葉植物を作製する方法であって、
1.ビタミンB12を100μg/mL以上含むビタミンB12を含有する浸漬液に前記植物の種子を浸漬する工程と、
2.前記種子を前記浸漬液から取り出して、前記種子を栽培する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記種子を栽培して得られた植物体は、その可食部分1gあたり、ビタミンB12を0.01μg以上含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物がカイワレ大根である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物が加工食品用原料植物である、請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−246891(P2006−246891A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92440(P2006−92440)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【分割の表示】特願2003−118323(P2003−118323)の分割
【原出願日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】