説明

ビタミンD誘導体の結晶化方法

【課題】 従来技術より短時間で、しかも経済的に実施することができる、式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化方法の提供。
【解決手段】
式(I)で示されるビタミンD誘導体の粗体を、粗体1gに対して10〜50mlのカルボン酸(酢酸またはプロピオン酸)に室温で溶解し、さらに適当な貧溶媒(炭化水素または水)を加え、ビタミンD誘導体の結晶を析出させる。次に析出した結晶をろ過し、乾燥することにより、ビタミンD誘導体の高純度結晶を得る。従来の方法に比べて短期間でしかも高収率で目的の結晶を取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品として有用なビタミンD誘導体であるパリカルシトールの結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンD誘導体、特に1−ヒドロキシ−19−ノルビタミンD誘導体は、様々な生理活性を示すことが知られている。その中のひとつであり、式(I)で表されるパリカルシトールは、悪性細胞の分化誘導活性を示す化合物として見出され(特許文献1、非特許文献1および2参照)、現在では、慢性腎不全患者の甲状腺機能亢進症治療薬として広く用いられている。
【0003】
【化1】

(I)
【0004】
式(I)で示されるビタミンD誘導体の精製法として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる方法が知られている(特許文献2および3参照)。このHPLCによる分離精製法で、スケールアップを行なう場合、分取HPLCシステム、分取用大型HPLCカラム等の新たな設備投資が求められ、コスト的に有利とは言いがたい。また、精製に大量の溶媒を使用することから、コスト面と、環境への配慮の面でも問題がある。作業時間の観点からは、HPLC分離後のフラクションの濃縮工程が必須であり、その結晶を得るまでに概算で分離精製工程に1日、濃縮工程に1日の最低でも2日は必要になる。乾燥工程も含めれば合計3日の時間が必要である。
【0005】
また結晶化による精製法として、炭素数2ないし6のエーテル、炭素数2ないし4のエステル、炭素数3ないし5のケトン等の有機溶媒中での結晶化法が知られている(特許文献4参照)。この方法は、式(I)で示されるビタミンD誘導体を有機溶媒に溶解した後、濃縮し、さらに冷却晶析し、濾取するという工程を含んでいる。化合物を大量に調製する場合、溶媒の濃縮や装置の冷却といった操作には、長時間を必要とすることは周知の事実である。作業を開始してから結晶を得るまでの時間は、概算で濃縮工程までに1日、冷却工程で1日、濾取工程で1日の合計3日は最低必要になる。目的物の乾燥工程も含めると4日は必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平3-505330号公報
【特許文献2】米国特許 5,086,191 号公報
【特許文献3】米国特許 5,281,731号公報
【特許文献4】米国特許公開 2007/0093458 号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Org.Chem.45,3253(1980)
【非特許文献2】Tetrahedron.Lett.31,1823(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、より短時間で行うことができ、しかも経済的に実施することができる、式(I)で示されるビタミンD誘導体の結晶化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を進めていたところ、式(I)で示されるビタミンD誘導体をカルボン酸に溶解し、さらに適当な貧溶媒を加えることにより純度の高い結晶を収率よく取得できることを見出した。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]である。
【0010】
[1]式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化方法であって、
(1)該ビタミンD誘導体をカルボン酸に溶解する工程、
(2)該ビタミンD誘導体の該溶液に炭化水素または水を加え、該ビタミンD誘導体の結晶を析出させる工程、
を含んでなる方法。
【化2】

(I)

[2]カルボン酸が、酢酸、プロピオン酸またはそれらの混合物である[1]記載の方法。
[3]炭化水素が、炭素数6〜7の炭化水素またはそれらの混合物である[1]記載の方法。
[4]炭化水素が、n−ヘキサンまたはn−ヘプタンである[1]記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の特長として、1)収率よく目的物を得ることができる、2)工程が少ないので短期間で目的物を製造できる、3)短期間で実施できるのでコスト削減ができる、4)工程が少ないので作業上のトラブルの発生を抑えられる、5)HPLCのような特別な装置は不要である、を挙げることができる。本発明は、工業的に実施可能であり、しかも非常に短い時間で作業を完結できる効率的な精製法である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の特徴は、式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体をカルボン酸に溶解し、次に貧溶媒として炭化水素または水を加えることによって、該ビタミンD誘導体の高純度結晶を収率よく得ることである。
【0013】
本発明で原料として使用できる式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体は特許、文献などに開示されている公知の方法により調製することができ、その純度は70〜98%程度でよく、目的とする結晶の純度に合わせて適宜選定すればよい。本発明の方法を用いれば、例えば純度約95%の原料から純度約99%の結晶を得ることができる。
【0014】
本発明で使用できるカルボン酸は、酢酸、プロピオン酸またはそれらの混合物が使用でき、炭化水素は、炭素数6〜7の炭化水素またはそれらの混合物が使用できる。具体的には、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタンまたはそれらの混合物を挙げることができ、好ましいものとして、n−ヘキサン、n−ヘプタンを挙げることができる。
【0015】
カルボン酸は、式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体1gに対して、10〜50ml使用でき、好ましくは22〜28mlである。炭化水素は、同じく粗体1gに対して50〜200ml使用でき、好ましくは68〜156mlである。水は粗体1gに対して5〜100ml使用でき、好ましくは13〜46mlである。
【0016】
式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体を溶解する温度および結晶を析出させる温度は、室温でよく、特段の加温や冷却あるいは濃縮操作は必要ない。結晶を析出させるために必要な時間は、10〜120分程度で十分であるが、好ましくは45分〜1時間である。
【0017】
こうして析出した結晶は、通常用いられる方法で単離することができる。例えば、桐山ロートやブフナロートを用い濾過して単離することができる。得られた結晶は、溶媒で洗浄する工程に付す。洗浄する際に使用する溶媒は、この結晶と反応せず、溶解する能力の低いものであれば特に制限はないが、結晶化工程で使用した炭化水素または水が好ましい。結晶の溶解度が高いため、カルボン酸を含む溶媒を用いた洗浄は好ましくない。
【0018】
次に洗浄された結晶は、真空ポンプ減圧下で乾燥させる。乾燥は6〜30時間行えば十分であるが、好ましくは10〜25時間である。乾燥温度は室温でよい。このように本発明の方法では、作業を開始してから結晶を得るまで1〜2日で完了することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明は、以下の態様に限定されるものではない。また後述する例1〜9で得られた結晶は以下の条件でそれぞれ分析を行った。
【0020】
HPLC
装置;Agilent 1100 HPLCシステム
カラム;Develosil ODS−UG−5 (4.6mmI.D. x 250mm、野村化学(株))
移動相;(A)水/(B)アセトニトリル
(B)5%(0−5min)、(B)5−57.5% gradient (5−15min)、(B)57.5%(15−50min)、(B)57.5−100% gradient (50−55min)、(B)100%(55−75min)
流速;0.8ml/min.
温度;40℃
検出;252nm
【0021】
XRPD(粉末X線結晶回折)
装置;JEOL JDX−8030
線源;CuKα
【0022】
例1(実施例)
溶解溶媒として酢酸を、貧溶媒としてn−ヘプタンをそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度95.4%)を酢酸(1.15ml)に溶解させた。攪拌しながら、n−ヘプタン(4.8ml)を加える。45分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、n−ヘプタン(1mlx2)で洗浄した。室温で、結晶を真空ポンプ減圧下で20時間乾燥させた。白色粉体(27.5mg、収率55.0%)。HPLCによる相対純度98.6%。
【0023】
例2(実施例)
溶解溶媒として酢酸を、貧溶媒としてn−ヘキサンをそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度95.4%)を酢酸(1.15ml)に溶解させた。攪拌しながら、n−ヘキサン(4.6ml)を加える。45分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、n−ヘキサン(1mlx2)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、20時間室温で乾燥させた。白色粉体(25.7mg、収率51.5%)。HPLCによる相対純度98.7%。
【0024】
例3(実施例)
溶解溶媒として酢酸を、貧溶媒として水をそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度95.4%)を酢酸(1.15ml)に溶解させた。攪拌しながら、精製水(0.65ml)を加える。45分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、精製水(1mlx2)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、25時間室温で乾燥させた。白色粉体(37.1mg、収率74.3%)。HPLCによる相対純度97.9%。
【0025】
例4(実施例)
溶解溶媒としてプロピオン酸を、貧溶媒としてn−ヘプタンをそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度95.0%)をプロピオン酸(1.4ml)に溶解させた。攪拌しながら、n−ヘプタン(3.4ml)を加える。45分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、n−ヘプタン(1mlx2)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、17時間室温で乾燥させた。白色粉体(32.1mg、収率64.1%)。HPLCによる相対純度98.2%。
【0026】
例5(実施例)
溶解溶媒としてプロピオン酸を、貧溶媒として水をそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度95.0%)をプロピオン酸(1.4ml)に溶解させた。攪拌しながら、精製水(2.3ml)を加える。45分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、精製水(1mlx2)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、17時間室温で乾燥させた。白色粉体(39.6mg、収率79.2%)。HPLCによる相対純度97.7%。
【0027】
例6(実施例)
溶解溶媒として酢酸を、貧溶媒としてn−ヘプタンをそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度98.2%)を酢酸(1.1ml)に溶解させた。攪拌しながら、n−ヘプタン(5.1ml)を加える。55分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、n−ヘプタン(1mlx2)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、20時間室温で乾燥させた。白色粉体(32.5mg、収率65.0%)。HPLCによる相対純度99.4%。
【0028】
例7(実施例)
溶解溶媒として酢酸を、貧溶媒としてn−ヘキサンをそれぞれ用い、以下のとおり式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化を行った。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度98.2%)を酢酸(1.1ml)に溶解させた。攪拌しながら、n−ヘキサン(7.8ml)を加える。45分攪拌後、析出した結晶を桐山ロート(21mmφ、No.5c濾紙使用)で濾取した。結晶を、n−ヘキサン(1mlx2)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、17時間室温で乾燥させた。白色粉体(39.6mg、収率79.2%)。HPLCによる相対純度99.3%。
【0029】
例8(参考例)
溶解溶媒としてアセトンを、貧溶媒として水をそれぞれ用い、特許文献4の実施例1に記載された方法に準じて以下のとおり実施した。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(50mg、相対純度95.4%)にアセトン(7.5ml)を加え、超音波をあて15分間溶解させた。これを濾過し、不溶物を取り除いた後、精製水(0.75ml)を加えた。これを液量が5mlになるまで減圧濃縮し、−13℃にて17時間静置した。生成した結晶を濾取し、冷アセトン(1.8ml)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、18時間室温で乾燥させた。白色針状結晶(19.0mg、収率38.0%)。HPLCによる相対純度98.3%。
【0030】
例9(参考例)
溶解溶媒としてアセトンを、貧溶媒として水をそれぞれ用い、特許文献4の実施例1に記載された方法に準じて以下のとおり実施した。式(I)で表されるビタミンD誘導体の粗体(100mg、相対純度98.7%)にアセトン(15ml)を加え、超音波をあて15分間溶解させた。これを濾過し、不溶物を取り除いた後、精製水(1.5ml)を加えた。これを液量が10mlになるまで減圧濃縮し、−13℃にて17時間静置した。生成した結晶を濾取し、冷アセトン(3.7ml)で洗浄した。結晶を真空ポンプ減圧下で、13時間室温で乾燥させた。白色針状結晶(32.5mg、収率32.5%)。HPLCによる相対純度99.1%。
【0031】
例1〜9の結果を表1にまとめて示す。なお、結晶形については、特許文献4記載のの粉末X線結晶解析データと比較して決定した。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるビタミンD誘導体の結晶化方法であって、
(1)該ビタミンD誘導体をカルボン酸に溶解する工程、
(2)該ビタミンD誘導体の該溶液に炭化水素または水を加え、該ビタミンD誘導体の結晶を析出させる工程、
を含んでなる方法。
【化1】

(I)
【請求項2】
カルボン酸が、酢酸、プロピオン酸またはそれらの混合物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭化水素が、炭素数6〜7の炭化水素またはそれらの混合物である請求項1記載の方法。
【請求項4】
炭化水素が、n−ヘキサンまたはn−ヘプタンである請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2012−96996(P2012−96996A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33489(P2009−33489)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】