説明

ビタミンE関連代謝産物の測定による、結腸直腸癌及び卵巣癌の診断方法

本発明は結腸直腸癌及び卵巣癌(それぞれCRC及びOC)の診断に関する。本発明は、内生小分子とCRC又はOCとの関係を記載する。詳細には、本発明は、ビタミンEアイソフォーム及び関連代謝産物の測定によるCRC及びOCの診断に関する。本発明はまた、前記方法により同定された診断マーカーにも関する。本発明は、CRCの潜在的な症例及び症状が現れる前の段階、様々なステージ及び重篤度のCRCの診断、CRCの早期発見、CRC及びOCの健康状態についての治療の効果のモニター及び診断に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸癌及び卵巣癌(それぞれCRC及びOC)の診断に関する。本発明は、内生小分子とCRC又はOCとの関係を記載する。詳細には、本発明は、ビタミンE関連代謝産物を測定することによる、CRC及びOCの診断に関する。本発明はまた、上記方法により同定された診断マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸癌は世界で3番目に多い悪性腫瘍であり、全世界で発症する全てのがんの約10%を占める(非特許文献1)。世界的な人口の高齢化により、CRCは深刻な公衆衛生問題となっており、この疾患の影響を最小限にするための新しい対応策が必要とされている。CRCから生存する可能性は、(表1に示されるように)診断時における疾患のステージと密接に関わっており(http://www.alternative-cancer-treatments.com/colon-cancer-prognosis.htm)、診断が早いほど、生存する可能性が高くなる。例えば、この疾患のタイムフレームの後期(デュークスD)に診断がされた場合の5年後生存率は5%未満であるが、一方、初期(デュークスA)に診断された場合の5年後生存率は90%を超える。したがって、早期の外科治療が効果的なことから、早期発見はCRC患者にとって大きな利益となる。
【0003】
現在のところ、CRCのリスク要因はよく分かっていない。実際、この疾患について、食事以外の具体的なリスク要因はほとんど解明されていない。炎症性腸疾患及び家族性大腸ポリポーシス(FAP)はリスクを増大させるが、それでも全体的なCRC発症率に占めるこれらの割合は非常に小さい。民族的、人種的差異、及び移民についての研究から、移民及びその子孫において発症率が急激に上昇して受入国における発症率にまで達することから、環境要因が疾因に関与していることが示唆されている(非特許文献2及び非特許文献3)。全体的に見て、CRCの症例において家族性のものは15%に満たず、食事、環境及びライフスタイルが、病因に大きな影響をもつことが示唆されている。
【0004】
現在最も一般的なCRCのスクリーニング検査は、1)がんは出血性であるので化学的検査又は免疫学的検査により便中に検出することができるという想定に基づく、便潜血検査(FOBT)、及び2)全体的な異常を特定する侵襲性の方法である。FOBTはCRCに対して最も広く用いられている検査であり、ヘモグロビン中のヘムのペルオキシダーゼ様活性のおおまかな検査が含まれるが、全ての腺腫及びCRCが出血するわけではないため、この検査の感度は約50%しかなく、腺腫に対しての感度はたったの20%である(非特許文献2)。
【0005】
全体的な異常の特定方法としては、バリウム注腸二重撮像法及び仮想結腸内視鏡検査の他に、軟性S状結腸鏡検査及び結腸内視鏡検査等を挙げることができる。結腸内視鏡検査は、FOBTで陽性であった人が次に受ける検査であり、擬陽性率が80%であるため、多くの人に不必要な危険及びリスクを負わせる。結腸内視鏡検査は、CRC又は線腫性ポリープ、又は炎症性腸疾患等のその他の素因疾患の既往歴があり、50歳を超える、リスクが平均以上の人のスクリーニング方法として好ましい。リスクが平均的な集団については、結腸内視鏡検査のみによるスクリーニングで発症率又は死亡率が下がるという証拠はない(非特許文献3)。しかし、S状結腸鏡検査、及び上記の手法の組合せを含む総合的評価法は、高リスクの人について、一定期間中に期待されるCRCの率を減らすことができる(非特許文献4)。
【0006】
結腸内視鏡検査は、いまだにポリープ及びCRCの有無を調べる標準的な検査法であるが、直径1cmを超える病変の15%は見逃されることがある(非特許文献5)。結腸内視鏡検査の合併症には、穿孔、出血、呼吸抑制、不整脈、及び感染症が含まれる(非特許文献6)。大体1000人に1人の患者が穿孔をきたし、1000人に3人の患者が出血する。この検査により、検査10,000回当たり1〜3人が死亡する(非特許文献3)。その他にも、訓練を受けた人材の不足、患者の不快感、及び高い費用等の不利な点があることが、結腸内視鏡検査が一般集団の日常的なCRCスクリーニング法になるのを妨げていると考えられる(表2参照)。最も散在性のCRCは、悪性腫瘍に発達する数が非常に少ない良性の腺腫から発達すると考えられる。良性の腺腫が悪性に発達する期間を5〜10年とすると、一般集団の腺腫を結腸内視鏡検査/S状結腸鏡検査によって検出するには、全体として患者に過剰な処置が必要になり、費用もかかり、有害になる恐れもある(非特許文献7)。
【0007】
コンピュータ断層撮影コロノグラフィー(CTC)、すなわち仮想結腸内視鏡検査は、結腸を画像化する最近の非侵襲性の手法である。この検査法の性能特性についての報告には大きなばらつきがあり(39%〜94%の特異度)、これは主に患者の準備並びに分析に用いたハードウェア及びソフトウェアの技術的差異によるものである。CTCのその他の制限として、擬陽性率が高い、扁平腺腫を検出できない、ポリープを除去できない、反復的及び累積的放射線量、並びに費用を挙げることができる(非特許文献6)。
【0008】
CRCの分子病理学的理解が進むにつれ、糞便試料からのDNA分析に基づく複数の新規なスクリーニング方法が出現した。これらは基本的にPCRを利用した検査法であり、腺腫−癌連鎖(adenoma-to-carcinoma sequence)において発生することが知られている変異、又は家族性CRCで知られている変異を特定するために用いられる。よくスクリーニングされる遺伝子変異には、KRAS、TP53、APCが含まれ、またマイクロサテライト不安定性及び高メチル化DNAについての検査もある。非特許文献7から再作成した表2では、現在あるCRCのスクリーニング方法を比較している。
【0009】
上述の方法は全て、通常、腺腫形成後のCRCしか検出できず、また、一般的に大規模集団のスクリーニングに理想的なものではない。上記の検査法はいずれも、CRCを正又は負に促進する環境を定量的に評価することはできず、また、正常なヒトの生化学及び関連する健康状態へのCRCの影響を定量的に評価することもできない。ゲノミクスに基づく検査法によって散在性CRCについての高い診断精度がもたらされるかどうかはまだわかっていない。非特許文献7は、CRCの理想的なスクリーニング検査法の特徴を以下のように概説している:1)安価、実施しやすい、3)非侵襲性、4)全結腸が対象となる、5)結果の解釈が明確(すなわち、感度、特異度、陽性適中率、及び陰性適中率が高い)、6)教えやすい、並びに7)品質管理維持が容易。
【0010】
特定の代謝産物を検出できる検査法の開発は比較的容易で、検査当たりの費用も経済的であることから、血清中の小分子又は代謝産物を利用する診断法は上記の基準を満たしている。この検査法は低侵襲性であり、結腸の近接(colonic proximity)に関わらず疾患の状態を示すと考えられる。臨床化学検査室に現在あるハードウェアと両立するような臨床検査への変換が商業的に許容でき且つ効果的であり、この方法は急速に世界中に広まると思われる。さらに、検査を実施及び解釈するための高度な訓練を受けた人材も不要となる。
【0011】
CRCの存在、CRC促進又は抑制環境、CRCの生理的負担、又はそれらの特性の組合せを評価することができるヒト血清中のCRC特異的バイオマーカーは、CRCのリスク、予防、及び治療の管理に非常に有益である。これらのバイオマーカーを測定するように設計された検査は、一般集団に広く受け入れられると思われる。なぜなら、この検査は低侵襲性であり、且つ従来のスクリーニング検査を実施する前に又は従来のスクリーニング検査と組合せて個人の疾患への罹患しやすさをモニターするために利用することができるからである。
【0012】
卵巣癌は、女性の癌による死因のうちで5番目に多い死因である(非特許文献8)。米国だけで、今年新たに卵巣癌と診断される件数は22,000件を超えると推定されており、16,210人が死亡すると予想されている(非特許文献9)。卵巣癌は一般的に、患者のステージがIII又はIVになるまで確認されず、予後が不良である(5年生存率が約25〜30%)(非特許文献10)。現在ある卵巣癌のスクリーニング法には、内診(双合診)、経膣的超音波検査法、及びCA125の測定が含まれる(非特許文献9)。この卵巣癌のスクリーニング検査の効果については現在のところ不明である。なぜなら、スクリーニングによって死亡率が減少するという証拠が無く、擬陽性結果に関連するリスクについて調査中であるからである(非特許文献8及び11)。米国癌協会によると、CA125測定及び経膣的超音波検査法は、卵巣癌に対する信頼できるスクリーニング又は診断テストではなく、確実な診断のために利用できる方法は外科的な方法だけである(http://www.cancer.org)。
【0013】
CA125(癌抗原125)は高分子量ムチンであり、正常な細胞と比べてほとんどの卵巣癌細胞で上昇していることがわかっている(非特許文献9)。CA125検査の結果が30〜35U/mlより高いと、通常、上昇しているとされる(非特許文献9)。卵巣癌のCA125スクリーニングは、CA125の上昇を定義するための閾値が様々であり、被検患者群のサイズも様々であり、患者の年齢層及び人種が広い範囲に渡っているため、精度、感度及び特異度を確立することが困難であった(非特許文献8)。ジョンズ・ホプキンス大学の病理学ウェブサイトによると、卵巣癌について、CA125検査の結果が真陽性であるのは、ステージIの患者で約50%、ステージII、III及びIVの患者で約80%でしかない(http://pathology2.jhu.edu)。子宮内膜症、良性卵巣嚢胞、骨盤内炎症性疾患及び妊娠第1期においても血中CA125レベルが上昇することが報告されている(非特許文献11)。国立衛生研究所のウェブサイトには、CA125は卵巣癌の有効な一般的スクリーニング検査ではないと記載されている。国立衛生研究所の報告によると、健康な女性でCA125レベルの高かった100人のうち、実際に卵巣癌を有していたのはたったの3人程であり、卵巣癌と診断された患者の約20%でしか実際にCA125レベルが上昇していなかった(http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/007217.htm)。
【0014】
ヒト血清中の特異度及び感度が高い卵巣癌バイオマーカーの同定は、検査が非侵襲性であり、且つ従来の方法を実施する前に又は従来の方法と組合せて個人の疾患への罹患しやすさをモニターするために利用することができ、非常に有益である。血清検査は低侵襲性であり、一般集団に受け入れられると考えられる。
【非特許文献1】Boyle, P. and M.E. Leon, Epidemiology of colorectal cancer. Br Med Bull, 2002. 64: p. 1-25.
【非特許文献2】Ahlquist, D.A., et al., Fecal blood levels in health and disease. A study using HemoQuant. N Engl J Med, 1985. 312(22): p. 1422-8.
【非特許文献3】Winawer, S., et al., Colorectal cancer screening and surveillance: clinical guidelines and rationale-Update based on new evidence. Gastroenterology, 2003. 124(2): p. 544-60.
【非特許文献4】Rex, D.K., et al., Colorectal cancer prevention 2000: screening recommendations of the American College of Gastroenterology. American Collegeof Gastroenterology. Am J Gastroenterol, 2000. 95(4): p. 868-77.
【非特許文献5】Hixson, L.J., et al., Prospective study of the frequency and size distribution of polyps missed by colonoscopy. J Natl Cancer Inst, 1990. 82(22): p. 1769-72.
【非特許文献6】Lidofsky, S., Detection and prevention of colon cancer: colonoscopy, virtual colonoscopy, and DNA stool tests. Med Health R I, 2005. 88(3): p. 82-5.
【非特許文献7】Davies, R.J., R. Miller, and N. Coleman, Colorectal cancer screening: prospects for molecular stool analysis. Nat Rev Cancer, 2005. 5(3): p. 199-209.
【非特許文献8】Screening for ovarian cancer: recommendation statement. Ann Fam Med, 2004. 2(3): p. 260-2.
【非特許文献9】Chu, C.S. and S.C. Rubin, Screening for ovarian cancer in the general population. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol, 2005.
【非特許文献10】Hanna, L. and M. Adams, Prevention of ovarian cancer. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol, 2005.
【非特許文献11】Rosenthal, A. and I. Jacobs, Familial ovarian cancer screening. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol, 2005.
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1実施形態では、CRC及びOCの診断に使用する代謝産物マーカーの同定方法が提供され、該方法は以下のステップを含む:未同定代謝産物を複数含む試料であって、前記疾患状態を呈する患者から採取した試料を、高分解能質量分析計、例えばフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)に導入するステップ;代謝産物の同定・定量用データを取得するステップ;前記同定・定量用データのデータベースを作成するステップ;上記試料の同定・定量用データを対照試料の対応データと比較するステップ;差異のある1又は複数の代謝産物を同定するステップ;及び、最適な診断に必要な最少数の代謝産物を選択するステップ。
【0016】
本発明の別の実施形態では、生物の健康状態を診断する代謝産物バイオマーカー検査法の開発プロセスが提供され、該プロセスは以下を含む:複数の健康状態の生物から生物学的試料を採取する;前記生物学的試料を高分解能/精密タンデム質量分析計(high resolution/accurate mass mass spectrometer)に導入し、上記生物学的試料に含まれる代謝産物に関する同定・定量用データを取得し、複数の健康状態間で強度が異なる代謝産物を見出す;多変量統計を用いて、前記健康状態を区別するのに必要な最少セットのバイオマーカーを同定する;別にMS法を用いてこれらのバイオマーカーを確認する;同定及び検証されたバイオマーカーを測定するための標的化ハイスループット法(targeted high throughput method)を作成する。
【0017】
本発明の別の実施形態では、結腸直腸癌特異的な代謝マーカーの同定方法が提供され、該方法は以下のステップを含む:未同定代謝産物を複数含む試料であって、結腸直腸癌/卵巣癌と診断された患者から採取した試料をフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(FTMS)に導入するステップ;代謝産物の同定・定量用データを取得するステップ;前記同定・定量用データのデータベースを作成するステップ;試料の同定・定量用データを対照試料の対応データと比較するステップ;差異のある1又は複数の代謝産物を同定するステップ(ここで、上記代謝産物は、表3に示される1又は複数の代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される。)。
【0018】
本発明の別の実施形態では、結腸直腸癌特異的な代謝マーカーの同定方法が提供され、該方法は以下のステップを含む:未同定代謝産物を複数含む試料であって、結腸直腸癌/卵巣癌と診断された患者から採取した試料をフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)に導入するステップ;代謝産物の同定・定量用データを取得するステップ;前記同定・定量用データのデータベースを作成するステップ;試料の同定・定量用データを対照試料の対応データと比較するステップ;差異のある1又は複数の代謝産物を同定するステップ(ここで、上記代謝産物は、ダルトンで測定した精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的に同等の質量を有し、且つ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される。);最適な診断に必要な最少数の代謝マーカーを選択するステップ。
【0019】
本発明の別の実施形態では、卵巣癌特異的代謝マーカーの同定方法が提供され、該方法は以下のステップを含む:未同定代謝産物を複数含む試料であって、結腸直腸癌/卵巣癌と診断された患者から採取した試料をフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)に導入するステップ;代謝産物の同定・定量用データを取得するステップ;前記同定・定量用データのデータベースを作成するステップ;試料の同定・定量用データを対照試料の対応データと比較するステップ;差異のある1又は複数の代謝産物を同定するステップ;ここで、上記代謝産物は、ダルトンで測定した精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的に同等の質量を有し、且つ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択され;最適な診断に必要な最少数の代謝マーカーを選択するステップ。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、表3に記載されている代謝産物又はそれらのフラグメント若しくは誘導体から選択される、CRC/OR癌特異的な代謝マーカーが提供される。
【0021】
本発明の1つの実施形態では、精密な中性質量(ダルトンで測定)が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的に同等の中性質量を有する代謝産物又はそのフラグメント若しくは誘導体(±5ppmの差は、同じ代謝産物を示す)からなる群から選択される、CRC/OR癌特異的な代謝マーカーが提供される。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態では、ダルトンで測定した精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的に同等な質量を有し、且つ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される結腸直腸癌/卵巣癌特異的な代謝マーカーが提供される。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態では、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6からなる群から選択される分子式を有する代謝産物からなる群から選択される、結腸直腸癌/卵巣癌特異的な代謝マーカーが提供される。
【0024】
本発明のさらに別の態様では、患者の結腸直腸癌若しくは卵巣癌の存在、又はCRC若しくはOCを発症するリスクを診断する方法が提供され、該方法は、前記患者から採取した試料を、表3に記載されている代謝産物又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される1又は複数の代謝マーカーの有無についてスクリーニングするステップを含む。ここで、1又は複数の前記代謝マーカーの強度に差があれば、CRC又はOCが存在することが示される。
【0025】
本発明の別の実施形態では、患者の結腸直腸癌又は卵巣癌の存在を診断する方法が提供され、該方法は、前記患者から採取した試料を、精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的に同等の中性質量を有する代謝産物からなる群から選択される1又は複数の代謝マーカーの有無についてスクリーニングするステップを含む。ここで、1又は複数の前記代謝マーカーが存在しなければ、CRC又はOCが存在することが示される。
【0026】
本発明の別の実施形態では、疾患状態が未知の被検者におけるCRC又はOCの有無を診断する方法が提供され、該方法は以下のステップを含む:前記被検者から血液試料を採取するステップ;前記血液試料を分析して、精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であることで同定される分子又はそれらと実質的に等しい質量を有する分子又はそれらのフラグメント若しくは誘導体を含む群から選択される分子の定量用データを取得するステップ;前期被検者から得られた前記分子についての定量用データを、複数人のCRC陽性又はOC陽性のヒトの前記分子から得られた定量用データ或いは複数人のCRC陰性又はOC陰性のヒトから得られた定量用データと比較するステップ;並びに前記比較を用いて被検者がCRC/OCに陽性又は陰性である可能性を決定するステップを含む。
【0027】
本発明はまた、健常対照群と比べて、CRC陽性患者及びOC陽性患者の血清中で異なる発現をしているビタミンE様代謝産物の同定を開示する。開示されている異なる発現は、CRC及びOCに特異的である。
【0028】
本発明の1実施形態では、ビタミンE様代謝産物からなる群から選択される最少サブセットの代謝産物を用いて開発された血清検査を、CRC/OCの存在、又はCRC若しくはOCを促進又は抑制する環境の存在を診断するために利用することができる。
【0029】
本発明の別の実施形態では、ビタミンE様代謝産物からなる群から選択される最少サブセットの代謝産物を用いて開発された血清検査を、CRCと診断された患者の治療の影響に起因するCRC健康状態を診断するために利用することができる。治療の例としては、化学療法、外科手術、放射線治療、生物学的治療等を挙げることができる。
【0030】
本発明の別の実施形態では、ビタミンE様代謝産物からなる群から選択される最少サブセットの代謝産物を用いて開発した血清検査を、CRC治療を受けている患者のCRC状態を長期的にモニターし、その患者に適した用量や具体的な治療法を決定するために利用することができる。
【0031】
本発明はまた、CRC陽性又はOC陽性患者の血清中で健常対照群と異なる発現をしている、芳香環構造が還元されたガンマ−トコフェロール/トコトリエノール系代謝産物の同定を開示する。開示されている異なる発現は、CRC及びOCに特異的である。
【0032】
本発明は、ヒト血清中における、ヒドロキシクロマン含有構造に結合した−OC2H5、−OC4H9、又は−OC8H17部分をもつガンマ−トコフェロール/トコトリエノール系代謝産物の存在を開示している。
【0033】
本発明はまた、CRC陽性患者の血清中で健常対照群と異なる発現をしているアルファ−トコフェロール系代謝産物の同定を開示する。開示されている異なる発現はCRCに特異的である。
【0034】
本発明の別の実施形態では、抗酸化療法が有効であると考えられる患者を特定及び診断する方法が提供され、該方法は以下を含む:前記被検者からの血液試料の採取;前記血液試料の分析による、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物群の代謝誘導体の全て又はサブセットについての定量用データの取得;前記被検者中の前記分子について得られた定量用データと、複数人のCRC陰性又はOC陰性のヒトの分析から得られた参照用データとの比較;並びに、前記比較を用いた、被検者にそのような療法が有効である可能性の決定。
【0035】
本発明の別の実施形態では、被験者がOC又はCRCを発症するリスクを有する可能性の決定方法が提供され、該方法は以下を含む:CRC又はOCの無症候性被検者からの血液試料の採取;前記血液試料の分析によるトコフェロール、トコトリエノール、又は前記代謝産物類の代謝誘導体の全て又はサブセットについての定量用データの取得;前記被検者から得られた前記分子についての定量用データと、複数人のCRC陰性又はOC陰性のヒトを分析して得られた参照用データとの比較;前記比較を用いた、被検者がOC又はCRCを発症するリスクを有する可能性の決定。
【0036】
本発明の別の実施形態では、CRC若しくはOCを予防、治療、若しくは安定化するように、又はCRC若しくはOCに関連する症状を改善するようにデザインされた食事療法、化学療法、又は生物学的治療法に反応する人の診断方法が提供され、該方法は以下を含む:前記被検者からの単回採取又は経時的な複数回採取のどちらかによる1又は複数の血液試料の採取;前記血液試料の分析による、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE様分子、又は前記代謝産物群の代謝誘導体の全て又はサブセットについての定量用データの取得;前記被検者の試料中の前記分子についての定量用データと、複数人のCRC陰性又はOC陰性のヒトの前記分子から得られた参照用データとの比較;及び、前記比較を用いた、前記被検者の代謝状態が前記治療の期間中に改善されているかどうかの決定。
【0037】
本発明の別の実施形態では、様々な手法を用いて血清又は組織を分析することによる、細胞によるビタミンE及び関連代謝産物の取り込み又は輸送が欠損している個体の同定方法が提供される。上記の様々な手法としては特に限定されないが、放射性標識を用いたトレーサー実験、ビタミンE輸送タンパク質の遺伝子発現又はタンパク質発現の分析、ビタミンE輸送タンパク質のゲノム上での異常又は変異、ビタミンE輸送タンパク質レベルのin vivo又はex vivoにおけるイメージング、抗体を利用したビタミンE輸送タンパク質の検出法(酵素結合免疫吸着検定法、ELISA)等を挙げることができる。
【0038】
この本発明の開示(summary of the invention)は、必ずしも本発明の全ての特徴を記載しているわけではない。
【0039】
本発明の上記の特徴及びその他の特徴は、以下の記述によりさらに明らかになる。以下の記述では添付図面を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、結腸直腸癌及び卵巣癌(それぞれCRC及びOC)の診断に関する。本発明は、内生小分子とCRC又はOCとの関係を記載している。詳細には、本発明は、ビタミンEのアイソフォーム及び関連代謝産物の測定によるCRC及びOCの診断に関する。より詳細には、本発明は、ヒト血清中のビタミンE関連代謝産物とCRC及びOCにおけるそれらの意味との関係に関する。
【0041】
CRCに特異的に関連した明確且つ明瞭な生化学的変化は、本発明によって初めて開示されるものである。これらの所見はまた、これらのバイオマーカーの測定が、CRC治療の有効性を測定する普遍的な方法を提供し得ることを意味する。これにより、新規治療法の実行可能性を評価するために簡単な生化学的検査が利用できることから、臨床試験実施にかかる費用が大幅に減少すると考えられる。さらに、治療が有益であったかを決定するのに、腫瘍の進行又は患者の死亡を待つ必要がなくなる。研究者は、かかる検査を利用することで、CRC治療における投与量、処方、及び化学的構造変化の有効性を、数年ではなく数ヶ月で判断できるようになると考えられる。
【0042】
本発明は、ヒト血清中に存在する特定の小分子のレベルを測定し、それらと「正常な」参照レベルとを比較することによる、CRC又はOCの診断方法に関する。本出願の1実施形態では、CRC及びOCを早期発見及び早期診断し、CRC及びOCの治療の効果をモニターする新規な方法を記載する。
【0043】
好ましい方法は、1若しくは複数の疾患又は特定の健康状態を診断するための、表3から選択される代謝産物のサブセットから開発されたハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイの使用を含む。特許保護請求されている方法の実用性は、CRC陽性健康状態を診断すうることができるHTSアッセイを開発することで実証及び検証される。
【0044】
かかるアッセイのCRC及びOCに与える影響は非常に大きく、リスクの評価及びこれらの疾患の早期発見のために、事実上全ての人を長期間、生涯を通してスクリーニングすることができる。一般的なCRC集団に対して本検査の性能特性が成り立つとすれば、本検査は単独でも、現在利用可能などのCRCスクリーニング法よりも優れていると考えられる。なぜなら、従来の方法で検出可能な疾患の進行よりも前に、疾患の進行を検出することができるからである。疾患の早期発見は、良好な治療転帰を得るために重要である。
【0045】
ある健康状態の生化学的マーカーが特定の集団中にあるかどうかを確かめるためには、その健康状態(すなわち、特定の疾患)を代表する患者群と、「正常な」対応する個体群が必要である。特定の健康状態の範疇に属する患者から採取した生物学的試料を、正常者集団から採取した同じ試料と比較して、試料の抽出及び様々な解析プラットフォームを用いた解析により、2つの群の差異を特定することができる。上記様々な解析プラットフォームとしては特に限定されないが、例えばフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FTMS)及び液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)を挙げることができる。生物学的試料は、生体内のどこに由来してもよく、限定されるものではないが、例えば、血液(血清・血漿)、脳脊髄液(CSF)、尿、便、呼気、唾液、又は任意の固形組織(腫瘍、隣接する正常な平滑筋及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、毛髪、腎臓、膵臓、肺、結腸、胃等)の生検を挙げることができる。
【0046】
記載のCRC診断アッセイを発明するために、CRC及びOCに陰性の健常個体を代表する集団と、専門家にCRC陽性であると診断された患者を代表する集団とから血清試料を得た。本出願中を通して「血清」という用語を使用するが、方法中で血漿、全血、又は全血のサブフラクションを用いてもよいことは、当業者にとって自明であると考えられる。
【0047】
患者から血液試料を採血する際、試料は複数の方法で処理することができる。処理の範囲は、少ない処理としては無処理(すなわち、凍結した全血)であってもよいし、複雑な処理としては特定の細胞型を単離してもよい。最も一般的で、日常的な処理には、全血からの血清又は血漿の調製が含まれる。本発明には、血液試料の固相支持体(例えば、濾紙又はその他の固定材料)へのスポッティングなど、全ての血液試料処理方法も包含される。
【0048】
上述の処理済血液試料をさらに処理して解析的分析手法に適合させ、処理済血液試料(本件の場合、血清試料)中に含まれる生化学的物質の検出及び測定に使用する。処理の種類は、少ない処理としてはさらなる処理を全くしないものから、複雑な処理としては段階抽出(differential extraction)及び化学誘導体化までわたってもよい。抽出方法としては特に限定されないが、一般的な溶媒(例えばメタノール、エタノール、アルコールと水の混合物、又は酢酸エチル若しくはヘキサンなどの有機溶媒)中での、超音波処理、ソックスレー抽出法、マイクロ波抽出法(MAE)、超臨界流体抽出(SFE)、高速溶媒抽出法(ASE)、加圧流体抽出法(PLE)、加圧熱水抽出(PHWE)、及び/又は界面活性剤による抽出法(surfactant-assisted extraction)を挙げることができる。FTMS非標的型分析(non-targeted analysis)に好ましい代謝産物抽出方法は、非極性代謝産物を有機溶媒に溶解させ、極性代謝産物を水性溶媒に溶解させる、液液抽出の実施である。本発明の1実施形態では、血清試料中に含まれる代謝産物を、超音波処理及び激しい攪拌(ボルテックスでの混合)により極性抽出物と非極性抽出物に分離した。
【0049】
生物学的試料の抽出物は、直接導入であれ、クロマトグラフィーにょる分離の後であれ、基本的に任意の質量分析プラットフォームに基づく分析に適している。典型的な質量分析計は、試料中の分子をイオン化する源とイオン化した粒子を検出する検出器とを含んで構成される。一般的な源の例としては、例えば電子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、表面支援レーザー脱離イオン化(SELDI)、及びそれらの変法を挙げることができる。一般的なイオン検出器としては、四重極型のシステム、飛行時間型(TOF)、磁場型、イオンサイクロトロン型、及びそれらの変法(derivations)を挙げることができる。
【0050】
本発明では、非標的型分析として知られる方法によって小分子を同定する。非標的型分析では、予備知識も分析前の成分の選択もなしに、試料中の可能な限り多くの分子を測定する(2001年8月9日公開の国際公開第01/57518号参照)。したがって、非標的型分析により新規の代謝産物バイオマーカーが発見される可能性は、予め決められたリストの分子を検出する標的型の方法よりも高い。本発明は、非標的型方法を用いて、CRC陽性個体及び健常個体の間で差のある代謝産物成分を同定し、続いて、非標的型分析で同定された代謝産物サブセットのハイスループット標的型アッセイを開発する。しかし、代謝産物のその他のプロファイリング方法も、本出願で開示されている異なる制御を受けている代謝産物の一部又は全てを発見するために使用され得ること、並びに本明細書に記載の代謝産物は、発見又は測定されたとしても、その検出及び測定に使用され得る分析技術に拠らない単一の化学物質(chemical entities)であることは、当業者には自明であると考えられる。
【0051】
本分析によれば、CRC陽性の血清と正常な血清の間で量が異なる数百の小分子、代謝産物、又は代謝産物フラグメントを同定することができる。本発明は、表3に記載のとおり、480個の代謝産物を開示しており、これらはCRC陽性の血清と正常な血清の間で、統計的に有意に量が異なっていた。2集団の間で統計的に異なるこれらの特徴の全てが、診断に使用され得る。しかし、商業的な検査法に480個のシグナルを組み込むのは非実用的であるので、マーカー又は代謝産物の最適な診断用セットを選択するための周知の方法を実施した。
【0052】
本特許中に記載の方法から、代謝産物9個のパネルを、正常とCRCを識別するために最適なものとして選んだ。本発明において、精密な中性質量(ダルトンで測定)が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の質量を有する代謝産物(+/−5ppmの差は同じ代謝産物を示すものとする)からなる群から選択される結腸直腸癌特異的代謝マーカーが同定された。したがって、これらのマーカーは、CRCの存在について患者をスクリーニングする診断検査に使用することができる。
【0053】
ハイスループットスクリーニング(HTS)法を実施するために、上記9個の代謝産物から、さらに6個を選んだ。このHTS法は、従来の三連四重極質量分析技術に基づく(概略については、図26参照)。HTS法は、血清抽出物を三連四重極質量分析装置に直接導入し、次いで選択イオン検出法(SIM)により6個の親分子の各々を個々に分離することで行われる。続いて、不活性ガス(衝突ガスと呼ばれる)を用いて各分子をフラグメント化する(衝突誘起解離又はCIDと総称される)。その後、各親バイオマーカーからの特異的フラグメントの強度を、マルチプルリアクションモニタリング(multiple-reaction monitoring)(MRM)と呼ばれるプロセスによって測定及び記録する。さらに、各サンプルに内部標準分子を添加し、フラグメント化する。この内部標準フラグメントは、方法及び装置が正しく機能していれば、各々のサンプルで同じ強度を有するはずである。6個のバイオマーカーフラグメントの強度、及び内部標準フラグメントの強度が得られたら、バイオマーカーフラグメントの強度とISフラグメントの強度の比率を算出し、この比率を対数変換する。各患者試料について、6個のうちの最も低い値を、事前に決定されている疾患陽性及び対照における分布と比較し、疾患に陽性又は陰性である相対的な可能性を決定する。
【0054】
検出する分子によって、現在、多種類の費用効率の良い検査プラットフォームの選択肢が利用可能である。それらには、比色分析法(UV又はその他の波長)、抗体を用いる酵素免疫吸着測定法(ELISA)、核酸検出法のための、チップを利用した(chip-based)ポリメラーゼ連鎖反応、ビーズを利用した核酸検出法、ディップスティックを用いた化学的検査法、MRI、PETスキャン、CTスキャンなどの画像解析、及び質量分析計に基づく様々な系が含まれ得る。
【0055】
本発明の本態様によれば、前のセクションで同定したMS/MSフラグメンテーションパターンを用いた、CRCの患者をスクリーニングする商業的方法の開発が提供される。この検査法が全世界で配置されるには多く選択肢がある。最も明白な2点は、1)検査室に現在ある機器と互換性のあるMS/MS法の開発及び世界中の多くの検査室に配置するのが容易な三連四重極質量分析計、並びに/又は2)試料の配送及び分析が一箇所ででき、患者若しくは患者の主治医に結果を返送できる検査施設の設立である。
【0056】
一連の物理的特性及び化学的特性を検討し、選択した代謝産物の構造を解析し、決定した。例えば、同定に通常使用される主な性質は、精密質量及び分子式の決定、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、及びMS/MS又はMSnスペクトルである。本発明の代謝産物の実体が解明されれば、疾患の進行に関わる代謝経路の同定が可能となる。
【0057】
9個の好ましい診断マーカー(446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851)の分子式は、それらの精密な中性質量、極性、及びイオン化特性に基づき、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6、C36H66O6に決定された。本発明によって、これらの代謝産物は、半飽和クロマン環及びフィチル側鎖からなること、したがって、ビタミンE関連構造と合致することが判明した。
【0058】
ビタミンEの効果については、in vitro及びCRCのモデル動物においてはかなり多くの研究が行われてきたのに対して、ビタミンEとOCに関してはほとんど研究がなされていない。1980年代という早い時期に、Cook and McNamara[Cook, M.G. and P. McNamara, Effect of dietary vitamin E on dimethylhydrazine-induced colonic tumors in mice. Cancer Res, 1980. 40(4): p. 1329-31]は、化学的に誘発した結腸癌に対するビタミンEの保護効果をマウスにおいて示した。しかし、ヒトを用いた研究では、CRCの予防、原因、治療、又は支持療法においてビタミンEが重要な役割を果たしているという説得力のある証拠は得られていない。Coulter et alは、38研究のうち、個々の癌に対するアルファ−トコフェロールによる治療で有意な効果は1つも得られず、プールされた相対危険度が単独で0.91(95% CI:0.74m 1.12)であったことを示している[Coulter, I.D., et al., Antioxidants vitamin C and vitamin e for the prevention and treatment of cancer. J Gen Intern Med, 2006. 21(7): p. 735-44]。
【0059】
「ビタミンE」という用語は、8種の天然に存在するアイソフォームである、4種のトコフェロール(アルファ、ベータ、ガンマ及びデルタ)及び4種のトコトリエノール(アルファ、ベータ、ガンマ及びデルタ)の総称である。西洋型の食事に多く見られる形態はガンマ−トコフェロールであるが、ヒトの血清/血漿中に多く見られる形態はアルファ−トコフェロールである。トコトリエノールも食事中に存在するが、穀類及びある種の植物油(例えば、パーム油及びぬか油)中に、より高い濃度で存在する。興味深いことに、トコトリエノールは、トコフェロールより強力に心臓血管疾患及びがんを予防し得るということが示唆されている[Theriault, A., et al., Tocotrienol: a review of its therapeutic potential. Clin Biochem, 1999. 32(5): p. 309-19]。これは、トコトリエノールが脂質膜中に多く分布すること、ラジカルと相互作用する能力が高いこと、及び素早く再利用される能力(対応するトコフェロールよりも速い)によるのかも知れない[Serbinova, E., et al., Free radical recycling and intramembrane mobility in the antioxidant properties of alpha-tocopherol and alpha-tocotrienol. Free Radic Biol Med, 1991. 10(5): p. 263-75]。ラット肝臓ミクロソームにおいて、鉄が仲介する脂質過酸化に対する保護効果が、アルファ−トコトリエノールはアルファ−トコフェロールの40倍高いことが実証されている[Serbinova, E., et al., Free radical recycling and intramembrane mobility in the antioxidant properties of alpha-tocopherol and alpha-tocotrienol. Free Radic Biol Med, 1991. 10(5): p. 263-75]。しかし、ヒト血漿の測定から、トリエノールは、検出もされず、わずかな濃度でも存在しないことが示されており[Lee, B.L., A.L. New, and C.N. Ong, Simultaneous determination of tocotrienols, tocopherols, retinol, and major carotenoids in human plasma. Clin Chem, 2003. 49(12): p. 2056-66]、これは、親油性が高いために胆汁中に排出されるためである考えられる[Birringer, M., et al., Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8]。
【0060】
アルファ及びガンマトコフェロールの分布の違いに関するかなりの量の研究が、これらのアイソフォームについて行われてきた。早くも1974年には、ガンマ及びアルファ−トコフェロールは腸で同じように吸収されるが、血漿濃度は有意に異なることが知られ、報告されている[Bieri, J.G. and R.P. Evarts, Gamma tocopherol: metabolism, biological activity and significance in human vitamin E nutrition. Am J Clin Nutr, 1974. 27(9): p. 980-6]。Bieri and Evartsの研究[Bieri, J.G. and R.P. Evarts, Gamma tocopherol: metabolism, biological activity and significance in human vitamin E nutrition. Am J Clin Nutr, 1974. 27(9): p. 980-6]では、ビタミンEを10日間欠乏させたラットに、アルファ型のガンマ型に対する比が0.5の食餌を14日間与え、14日目に観察したところ、血漿中のアルファ型のガンマ型に対する比は5.5であった。原著者らは、これはガンマ−トコフェロールの代謝回転が有意に速いためであるとしているが、このような速い代謝回転の原因は知られていなかった。トコフェロールの血漿濃度は肝臓のトコフェロール結合タンパク質によって厳密に制御されていると考えられている。このタンパク質はアルファ−トコフェロールに優先的に結合することが示されている[Traber, M.G., Determinants of plasma vitamin E concentrations. Free Radic Biol Med, 1994. 16(2): p. 229-39]。アルファ−トコフェロールの消費が大きく増加する結果、血漿濃度はわずかに増加するだけである[Princen, H.M., et al., Supplementation with low doses of vitamin E protects LDL from lipid peroxidation in men and women. Arterioscler Thromb Vasc Biol, 1995. 15(3): p. 325-33]。同様なことはトコトリエノールでも観察されており、大量に補充しても、最大血漿濃度は約1〜3マイクロモル濃度にしかならないことが示されている[Schaffer, S., W.E. Muller, and G.P. Eckert, Tocotrienols: constitutional effects in aging and disease. J Nutr, 2005. 135(2): p. 151-4]。より最近では、Birringer et al[ Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8]が、摂取されたガンマ−トコフェロールの50%以上が、ヒト肝細胞腫HepG2細胞によってオメガ酸化により様々なアルコール及びカルボン酸に代謝されるが、この経路で代謝されるアルファ−トコフェロールは3%に満たないことを示した。この経路がガンマ−トコフェロールの速い代謝回転を担っているようである。この論文中で、著者らはガンマ−トコフェロールからのオメガCOOHの生成が、アルファ−トコフェロールからの類似オメガCOOHの生成の50倍を超える速度で起こることを示した。Birringerはまた、トリエノールの代謝が、同様な、しかし補助酵素を必要とするより複雑なオメガカルボキシル化経路によって行われることも示した[Birringer, M., et al., Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8]。
【0061】
これら2つの構造選択的なプロセスが存在することには生物学的な意義があると思われる。Birringer et al[Birringer, M., et al., Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8]は、ガンマ−トコフェロール特異的P450オメガヒドロキシラーゼの目的はガンマ−トコフェロール/トリエノールを選択的に2,7,8−トリメチル−2−(ベータ−カルボキシ−3’−カルボキシエチル)−6−ヒドロキシクロマン(ガンマ−CEHC)として除去することであると提案している。しかし、もし生物学的目的が単にガンマ−トコフェロール/トリエノールを除去することであれば、選択的なヒドロキシル化及びグルクロン酸化による方が、はるかに簡単であり、よりエネルギー効率がよいはずである。これら2つのプロセスの純粋な生物学的効果は、ビタミンEに関する文献中で言及されたことはないが、2種類の主要な食事性ビタミンEアイソフォーム(アルファ及びガンマ)が、初回通過代謝中に肝臓に入るとすぐに、2つの別々の代謝系へと振り分けられるということである。系1は、最も生物学的活性の強い抗酸化型アイソフォーム(アルファ−トコフェロール)を素早く血流中へと移動させ、体の組織に適切な量のこの必須ビタミンを供給する。系2は、ガンマ−トコフェロールを素早くオメガCOOHに変換する。本発明は、ガンマ−トコフェロール/トコトリエノールオメガCOOHの6個のアイソフォームが、かなりの濃度で正常なヒト血清中に常に存在することを開示している。三連四重極法で使用される、有機溶媒に溶解性のカルボン酸含有内部標準であるコール酸の測定から、ヒト血清中のこれらの分子の各々の濃度は低いマイクロモル濃度範囲にあると推測することができた。これは、γ−トコフェロールについて以前に報告されている0.5〜2マイクロモル濃度という血漿濃度範囲内である(アルファ−トコフェロールの血漿濃度の約20分の1に満たない)[Winklhofer-Roob, B.M., M.A. van't Hof, and D.H. Shmerling, Reference values for plasma concentrations of vitamin E and A and carotenoids in a Swiss population from infancy to adulthood, adjusted for seasonal influences. Clin Chem, 1997. 43(1): p. 146-53]。したがって、血清中の、6個の新規なγ−トコフェロール酸(γ-tocopheric acids)全ての累積合計量はわずかではなく、γ−トコフェロール自体の累積合計量よりも多いこともあり得る。Birringer et al [Birringer, M., et al., Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8]に記載されている他の短鎖ガンマ−トコフェロール/トリエノール代謝産物は血清中に検出されなかった。また、アルファ及びガンマトコトリエノールも、本件中に報告する研究に用いた患者の血清中に検出されなかった。このことから、ガンマ−トコフェロール/トリエノール特異的P450おヴぇがヒドロキシラーゼの主要な目的は、ガンマ−CEHCの生成ではなくオメガCOOHの生成であることが示唆された。この理論の正確性により制限されるものではないが、したがって、本願で開示されている様々なガンマ−トコフェロール/トコトリエノールオメガCOOH代謝産物は新規な生理活性剤(bioactive agents)であり、正常な健康状態の維持及び疾患の予防のための特異的且つ必須な生物学的機能を発揮することが示唆される。
【0062】
また、哺乳動物が、in vivoでトリエノールをトコフェロールに変換できるということも関連がある[Qureshi, A.A., et al., Lowering of serum cholesterol in hypercholesterolemic humans by tocotrienols (palmvitee). Am J Clin Nutr, 1991. 53(4 Suppl): p. 1021S-1026S及びQureshi, A.A., et al., Novel tocotrienols of rice bran suppress cholesterogenesis in hereditary hypercholesterolemic swine. J Nutr, 2001. 131(2): p. 223-30]。なぜなら、新規な6個のビタミンE様代謝産物のうち、2個は飽和フィチル側鎖を含み、トコフェロール様であり、他の4個は半飽和フィチル側鎖を有し、トコトリエノール起源であると考えられるからである。哺乳動物はこの二重結合を導入することができないので、6個の分子全てがトコトリエノール様前駆物質に起源する可能性がある。
【0063】
トリエノールがトコフェロールとは別の生物学的活性を有することが報告されているように[Sen, C.K., S. Khanna, and S. Roy, Tocotrienols: Vitamin E beyond tocopherols. Life Sci, 2006. 78(18): p. 2088-98]、ガンマ−トコフェロールもアルファ−トコフェロールとは異なる別の生物学的機能を有することが報告されている。例えば、アルファトコフェロールとアルファトコトリエノールの重要な相違としては、例えばアルファ−トコトリエノールは特定の細胞死特異的な仲介物質を制御することで神経変性を特異的に予防することができること[Khanna, S., et al., Molecular basis of vitamin E action: tocotrienol modulates 12-lipoxygenase, a key mediator of glutamate-induced neurodegeneration. J Biol Chem, 2003. 278(44): p. 43508-15]、トリエノールはコレステロールを下げることができること[Qureshi, A.A., et al., Synergistic effect of tocotrienol-rich fraction (TRF(25)) of rice bran and lovastatin on lipid parameters in hypercholesterolemic humans. J Nutr Biochem, 2001. 12(6): p. 318-329]、酸化によるタンパク質の損傷を減らし、C. elegansの寿命を延ばすことができること[Adachi, H. and N. Ishii, Effects of tocotrienols on life span and protein carbonylation in Caenorhabditis elegans. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2000. 55(6): p. B280-5]、及び乳癌細胞の増殖を抑制することができること[Nesaretnam, K., et al., Effect of tocotrienols on the growth of a human breast cancer cell line in culture. Lipids, 1995. 30(12): p. 1139-43及びMcIntyre, B.S., et al., Antiproliferative and apoptotic effects of tocopherols and tocotrienols on normal mouse mammary epithelial cells. Lipids, 2000. 35(2): p. 171-80]を挙げることができる。トコフェロールのガンマ型とアルファ型の間の重要な違いとしては、ガンマ型がラットの炎症による損傷における炎症性エイコサノイドを減らすことができること[Jiang, Q. and B.N. Ames, Gamma-tocopherol, but not alpha-tocopherol, decreases proinflammatory eicosanoids and inflammation damage in rats. Faseb J, 2003. 17(8): p. 816-22]、及びシクロオキシゲナーゼ(COX−2)活性の阻害[Jiang, Q., et al., gamma-tocopherol and its major metabolite, in contrast to alpha-tocopherol, inhibit cyclooxygenase activity in macrophages and epithelial cells. Proc Natl Acad Sci U S A, 2000. 97(21): p. 11494-9]を挙げることができる。Jiang et al[Jiang, Q., et al., gamma-tocopherol and its major metabolite, in contrast to alpha-tocopherol, inhibit cyclooxygenase activity in macrophages and epithelial cells. Proc Natl Acad Sci U S A, 2000. 97(21): p. 11494-9]には、ガンマ−トコフェロールがこの効果を発揮するには8〜24時間かかること及びガンマ−トコフェロールの抑制作用をアラキドン酸(arachadonic acid)が競合的に阻害することが報告されている。ガンマ−トコフェロールのオメガCOOH代謝産物は、抗炎症作用を担う主要な生理活性種ではないかという仮説が立てられる。アラキドン酸からエイコサノイドへの変換は、炎症における重要なステップである。COOH型のガンマ−トコフェロールは、アラキドン酸に構造が類似していることから、自然のガンマ−トコフェロールより強力な、この生成の競合阻害剤であると考えられる。
【0064】
本発明の1つの態様では、ヒト血清中の新規のガンマ−トコフェロール/トコトリエノール系代謝産物が提供される。これらのガンマ−トコフェロール/トコトリエノール系代謝産物は、還元された芳香環構造を有していた。本発明のこの態様では、ガンマ−トコフェロール/トコトリエノール系代謝産物は、ヒト血清中のヒドロキシクロマン構造に結合した−OC2H5、−OC4H9、又は−OC8H17部分を有する。
【0065】
特定の理論に限定されるものではないが、本発明は、どのようにしてガンマ−トコフェロール/トコトリエノールがアルカンラジカルと反応して、安定なアルケン及び安定化されたガンマ−トコフェロール/トコトリエノールラジカルが生じるのかについての仮説を開示する。この機構を介して、1分子のガンマ−トコフェロール/トコトリエノールは、6個までのアルカンラジカルを中和することができることが示唆される。本発明はさらに、どのようにしてガンマ−トコフェロール/トコトリエノールラジカルが過酸化脂質と反応し、その結果、過酸化脂質を中和して安定なガンマ−トコフェロール/トコトリエノールアルキルエーテル及び安定な脂質アルデヒドになるのかを示唆する。鉄の存在がこの反応を触媒し得ることも示唆される。
【0066】
ガンマ−トコフェロールの取り込み及び濃度は、結腸上皮細胞と血漿では劇的に異なる。Tran and Chan[Tran, K. and A.C. Chan, Comparative uptake of alpha- and gamma-tocopherol by human endothelial cells. Lipids, 1992. 27(1): p. 38-41]は、ヒト上皮細胞で、アルファ−トコフェロールよりもガンマ−トコフェロールが優先的に取り込まれることを示しており、Nair et al[Uptake and distribution of carotenoids, retinol, and tocopherols in human colonic epithelial cells in vivo. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev, 1996. 5(11): p. 913-6]は、ヒト結腸上皮細胞におけるin vivoでのガンマ−トコフェロール濃度が、アルファ−トコフェロールより2倍高いことを示している。したがって、主に血液供給によって栄養が補給される組織では、アルファ−トコフェロールが優先的に多くなっている[Bieri, J.G. and R.P. Evarts, Gamma tocopherol: metabolism, biological activity and significance in human vitamin E nutrition. Am J Clin Nutr, 1974. 27(9): p. 980-6]のに対し、トコフェロールを直接大腸から吸収する結腸上皮細胞では、食事中に含まれるこれらのアイソフォームの比率を反映した濃度となっている[Nair, P.P., et al., Uptake and distribution of carotenoids, retinol, and tocopherols in human colonic epithelial cells in vivo. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev, 1996. 5(11): p. 913-6]。
【0067】
本出願は、対照群と比べて、CRC患者の血清中ではアルファ−トコフェロール/トコトリエノール濃度が有意に低下しているが、この低下はOC、前立腺癌、腎細胞癌、乳癌又は肺癌では見られないことを開示している。さらに、対照群と比べて、CRC患者及びOC患者の血清中で、ガンマ−トコフェロール及びガンマ−トコフェロール/トコトリエノール関連代謝産物強度が有意に低下しているが、この低下は前立腺癌、腎細胞癌、乳癌又は肺癌では見られないことも開示している。
【0068】
特定の理論に限定されることを意図するものではないが、本発明において、本明細書に開示されている新規の代謝産物はビタミンE活性の指標となり、かかる代謝産物の減少は以下のいずれかの状態を示しているという仮説が立てられる:
1.ビタミンE及び関連代謝産物が食事による供給を上回る速度で消費されている代謝状態、又は過酸化(hyper-oxidative)状態;
2.ビタミンE及び関連代謝産物の食事性欠乏又は、吸収の損傷;
3.ビタミンE関連代謝産物の食事性欠乏、又は吸収/上皮輸送の損傷。
【0069】
特に、血清ビタミンE濃度とCRCの関連に関しては、対照群と比較してCRC患者でビタミンEレベルが有意に減少しているという報告はない。最も最近の有力な研究は、Ingles et al[Ingles, S.A., et al., Plasma tocopherol and prevalence of colorectal adenomas in a multiethnic population. Cancer Res, 1998. 58(4): p. 661-6]である。この研究で著者らは、「以前にS状結腸鏡検査による研究で用いた、結腸直腸腺腫を有する332人の被検者と対照群363人について、アルファ−及びガンマ−トコフェロールの血漿濃度を検査した。アルファ−トコフェロールレベルの上昇とガンマ−トコフェロールレベルの低下は、大きな(1cm以上)腺腫の発症率低下と関連していたが、小さな(1cm以下)腺腫の発症とは関連がなかった。しかし、潜在的な交絡変数を調整した後では、これらの傾向は有意ではなかった。」と述べている。
【0070】
前述の、ビタミンEとCRCについての関連する疫学的研究の全てにおいて、調査の焦点は、疾患発症への食事の関与についてである。これらの研究のいずれも、上記内生代謝産物に対する疾患の影響については検討していない。したがって、根底にある1つの仮説は、特定のビタミン又は栄養素の食事性欠乏が、特定の疾患のリスクを上昇させるというものである。疾患状態が、必須栄養素又はビタミンの欠乏を生じさせるという仮説は検討されていない。
【0071】
本願中に開示されている発見に基づけば、食事による摂取不足はCRCの発症リスクを上昇させ得る(決定的な証明はされていない)が、CRCの存在はビタミンEのアイソフォーム及び関連代謝産物を減少させるということが考えられる。これらの減少は、疫学的研究による強い関連が示されていることから、単純な食事性の欠乏ではないと考えられる。CRCがこれらの代謝産物の減少を引き起こし、逆ではないとすると、ビタミンE濃度とCRCの間の疫学的関連が弱かったことは、CRCが結腸内視鏡で検出されるサイズ及び段階になるまでには長い年月がかかり得ることから、単に正常であると思われたコホート中に、検出されなかった初期のCRCが存在した結果ということもあり得る。
【0072】
本願中に開示されている発見に基づけば、ビタミンE様代謝産物レベルの低下は単純な食事性の欠乏ではなく、むしろ結腸上皮によるビタミンE及び関連分子の取り込みが損傷を受けているためであるということも考えられる。したがって、これは、酸化ストレス負荷がかかっている上皮細胞に十分な抗酸化能を与えるための律速段階を表す。このモデルでは、赤肉、飽和度の高い脂肪、及び食物繊維の不足(鉄をキレートする効果が低下する[Babbs, C.F., Free radicals and the etiology of colon cancer. Free Radic Biol Med, 1990. 8(2): p. 191-200])によって鉄の消費量が増加するという、食事による影響により、前述のフェントン誘導性のフリーラジカル(このフリーラジカルが十分に除去されるかは、上皮のビタミンEレベルが適切かどうかに依存する)が増加する。したがって、抗酸化物質としてのビタミンE様代謝産物の減少並びに肝取り込み及びP450を介した代謝による還元及びカルボキシル化されたアイソフォームの減少は、ビタミンEに関連する輸送の欠損と、上皮におけるフリーラジカル量の上昇を反映している。最近、CaCo−2結腸上皮細胞へのビタミンEの取り込みは飽和プロセスであり、タンパク質が仲介するイベントに大きく依存することが示された[Reboul, E., et al., Scavenger receptor class B type I (SR-BI) is involved in vitamin E transport across the enterocyte. J Biol Chem, 2006. 281(8): p. 4739-45]。タンパク質トランスポーターは基本的に酵素であり、典型的なミカエリスメンテンの速度式に従うので、結腸上皮細胞にビタミンEが取り込まれる速度は最高速度(Vmax)に達するが、この最高速度は、CRCの発生に対する十分な抗酸化保護効果を提供できないこともあり得る。したがって、ある時点において、結腸上皮細胞内へビタミンEが輸送される速度を超えるほどに酸化ストレス速度が上昇すると、結腸内/上皮内の蓄えが枯渇してしまう。したがって、CRCの発症についての仮説は、食事中の鉄の増加及び食物繊維の減少のみならず、上皮によるガンマ型ビタミンE及び関連代謝産物の取り込み欠損にも基づく。これは、CRC発症率と食事によるビタミンE補充の間に有意な相関がないという多くの疫学的研究と一致し、本モデルに基付けば、ビタミンEを大量に投与しても、上皮内レベルの上昇によって反映されない。
【0073】
CRCの病状に特異的な9個の代謝産物の精密な中性質量(M−Hイオンを中性質量に変換)を、FTICR−MSによって、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851に決定した。これらの精密な中性質量値に基づき、9個の好ましい診断マーカーの分子式は、それぞれ、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6、C36H66O6に決定された。
【0074】
これらの代謝産物のM−Hイオンは、図13〜21に示される娘イオンを1又は1以上含む衝突誘起解離(CID)MS/MSフラグメンテーションパターンを有することを特徴とする。より詳細には、これらの7個の代謝産物のM−Hイオンは、図13〜21に示される娘イオンの各々を含む衝突誘起解離(CID)MS/MSフラグメンテーションパターンを有することを特徴とする。
【0075】
精密な質量MS/MSスペクトルに基づき、各推定構造をバイオマーカーの帰属を行った。バイオマーカーのMS/MSスペクトルの解釈を総合した結果、これらは全て、カルボン酸部分(COの脱離により示される)と、少なくとも1個のヒドロキシル部分(H2Oの脱離により示される)とを含有している。さらに、C28H46O4を除く全ての構造がC18フラグメント(式中、x≧31、y≧2)を生成したことから、飽和度の高い脂肪酸側鎖が示唆された。この情報は、C28分子がガンマ−トコフェロール及びガンマ−トコトリエノールの代謝産物であることと一致する。したがって、C32及びC36のバイオマーカーは、それぞれ、ガンマ−トコフェロールとリノール酸残基及びオレイン酸残基との反応により生じた代謝副産物であるという仮説が立てられる。
【0076】
選ばれた6個の代謝産物のうち、4つについての確認された構造と、2つについての推定構造を図12に示す。
【0077】
本発明はまた、以下の実施例を参照し記載するが、これらの実施例は本発明を限定するものとして解釈されるものではない。
【実施例1】
【0078】
CRC陽性と正常健常対照群で異なる発現をしている代謝産物の発見及び同定
【0079】
本発明に記載の、CRCの生化学的マーカーは、CRC陽性患者から得た血清試料40検体(TNM分類によるステージI/IIが24検体、ステージIII/IVが16検体)及び健常対照から得た血清試料50検体の分析に由来する。全ての試料は1つの時点で採取し(single time-point collections)、CRC試料は腫瘍切除の直前又は直後に採取した。全ての試料は化学療法又は放射線療法の前に採取した。
【0080】
マルチプル非標的型メタボロミクス戦略(multple non-targeted metabolomics strategies)は科学文献に記載されており、例えばNMR[Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82]、GC−MS[Fiehn, O., et al., Metabolite profiling for plant functional genomics. Nat Biotechnol, 2000. 18(11): p. 1157-61、Hirai, M.Y., et al., Integration of transcriptomics and metabolomics for understanding of global responses to nutritional stresses in Arabidopsis thaliana. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101(27): p. 10205-10及びRoessner, U., et al., Metabolic profiling allows comprehensive phenotyping of genetically or environmentally modified plant systems. Plant Cell, 2001. 13(1): p. 11-29]LC−MS、及びFTMS法[Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82、Castrillo, J.I., et al., An optimized protocol for metabolome analysis in yeast using direct infusion electrospray mass spectrometry. Phytochemistry, 2003. 62(6): p. 929-37、Fiehn, O., Metabolomics--the link between genotypes and phenotypes. Plant Mol Biol, 2002. 48(1-2): p. 155-71及びAharoni, A., et al., Nontargeted metabolome analysis by use of Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry. Omics, 2002. 6(3): p. 217-34]が含まれる。本願において異なる発現をしている代謝産物の発見に用いた代謝産物プロファイリング方法は、Phenomenome Discoveries社が発明した非標的型FTMS法[Hirai, M.Y., et al., Integration of transcriptomics and metabolomics for understanding of global responses to nutritional stresses in Arabidopsis thaliana. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101(27): p. 10205-10、Aharoni, A., et al., Nontargeted metabolome analysis by use of Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry. Omics, 2002. 6(3): p. 217-34、Hirai, M.Y., et al., Elucidation of gene-to-gene and metabolite-to-gene networks in arabidopsis by integration of metabolomics and transcriptomics. J Biol Chem, 2005. 280(27): p. 25590-5、Murch, S.J., et al., A metabolomic analysis of medicinal diversity in Huang-qin (Scutellaria baicalensis Georgi) genotypes: discovery of novel compounds. Plant Cell Rep, 2004. 23(6): p. 419-25及びTohge, T., et al., Functional genomics by integrated analysis of metabolome and transcriptome of Arabidopsis plants over-expressing an MYB transcription factor. Plant J, 2005. 42(2): p. 218-35]である。
【0081】
本明細書に記載の本発明には、90個体(CRC40人、正常者50人)からの血清抽出物を、ポジティブモード及びネガティブモードの両方でESI又はAPCIによるイオン化によりFTMSに直接導入し、分析することが含まれる。その他のMSを用いるプラットフォームに対するFTMSの利点は、分解能が高いことであり、これにより、分解能の低い機器ではその多くが見逃されてしまうような、数百ダルトンしか差のない代謝産物を分離することが可能となる。有機(100%ブタノール)試料抽出物は、負イオン化モードでは、メタノール:0.1%(v/v)水酸化アンモニウム(50:50、v/v)で3倍又は6倍に希釈し、正イオン化モードでは、メタノール:0.1%(v/v)ギ酸(50:50、v/v)で3倍又は6倍に希釈した。APCIでは、酢酸エチル有機試料抽出物を希釈せずに直接導入した。全ての分析は、7.0Tのアクティブシールド付き超伝導磁石を備えたBruker Daltonics APEX III FTMS(Bruker Daltonics社、Billerica、MA)を用いて実施した。試料は、ESI又はAPCIを用いて、1時間当たり600μLの流速で直接導入した。イオンの輸送/検出パラメータは、セリン、テトラ−アラニン、レセルピン、Hewlett-Packard社製チューニングミックス(tuning mix)、及び副腎皮質刺激ホルモンフラグメント4〜10の標準的な混合物を用いて最適化した。さらに、機器メーカーの推奨に従い、イオン強度及び100〜1000amuの質量範囲に渡る幅広い累積を最適化するように機器の状態を調整した。上記標準物質の混合物を用いて、質量精度について、100〜1000amuの測定範囲(acquisition range)となるように各試料のスペクトルを内部較正した。
【0082】
各試料について、抽出物及びイオン化モードの組合せを含む、合計6個の別々の分析を得た:

水性抽出物
1.正ESI(分析モード1101)
2.負ESI(分析モード1102)
有機抽出物
3.正ESI(分析モード1201)
4.負ESI(分析モード1202)
5.正APCI(分析モード1203)
6.負APCI(分析モード1204)
【0083】
線形最小二乗法回帰線を用いて、各内部標準の質量ピークがその理論上の質量と比較した質量誤差が1ppm未満になるように、質量軸の値を較正した。Bruker Daltonics Inc.社製のXMASSソフトウェアを用いて、1メガワードのサイズのデータファイルを取得し、2メガワードまで0を入力した。フーリエ変換及び大きさの計算の前に、sinmデータ変換を行った。各分析から得られた質量スペクトルを積算し、各ピークの精密な質量及び絶対強度を含むピークリストを作成した。100〜2000m/zの範囲にある化合物を分析した。イオン化モード及び極性の異なるデータを比較及び要約するために、全ての検出された質量ピークを、その対応する水素付加体に基づく中性質量に変換した。次いで、DISCOVAmetrics(商標)ソフトウェア(Phenomenome Discoveries Inc.社製、Saskatoon、SK、カナダ)を用いて、自己生成型の二次元(質量対試料強度)アレイを作成した。複数のファイルのデータを統合し、この統合ファイルを処理して、固有の質量を全て決定した。各固有の質量の平均を決定し、y軸に示した。最初に分析対象に選んだ各ファイルについてカラムを作成し、x軸に示した。選んだ各ファイルの各質量中の強度を、対応するx、y座標上に入力した。強度の値を含まない座標は空白のままにした。アレイ中に一度、データをさらに処理し、視覚化して解釈し、推定化学構造の帰属を行った。その後、各スペクトルのピークを拾い、検出された全ての代謝産物の質量及び強度を得た。次いで、全てのモードから得られたこれらのデータを結合し(merge)、試料ごとに1つのデータファイルを作成した。90試料全てから得られたデータを結合及び整列化し、各試料がカラムで表され、各固有代謝産物が1つの列で表される、2次元代謝産物アレイを作成した。所与の代謝産物試料の組合せに対応するセルには、その試料中における代謝産物強度が表される。データをこの形式で表すことで、試料群(すなわち、正常及び癌)間で差を示す代謝産物を決定することができる。
【0084】
スチューデントのt検定を用いて、正常試料及びCRC陽性試料の間で差が見られる代謝産物を選択した(p<0.05)。この基準を満たした代謝産物(480個)を表3に示す。これらは全て、2つの集団間で統計的に有意な差のある特徴をもち、したがって、診断に有用である可能性がある。上記の特徴は、それらの精密な質量及び分析モードで記載され、この2つの特徴は、各代謝産物の推定分子式及び化学的特徴(例えば、極性及び推定官能基)を得るのに十分である。しかし、商業的に有用なアッセイへの480個のシグナルの組込み及び開発は非実用的である。そこで、教師付きの統計的手法を用いて、以下に記載のように、480個から最適な診断用の特徴セットを抽出した。
【0085】
マイクロアレイ予測解析(predictionanalysis of microarrays)(PAM)(http://www-stat.stanford.edu/~tibs/PAM/)と呼ばれる教師付きの統計的手法を用いて、最初のアレイから、最適な診断特性を有する代謝産物特徴を選んだ[Tibshirani, R., et al., Diagnosis of multiple cancer types by shrunken centroids of gene expression. Proc Natl Acad Sci U S A, 2002. 99(10): p. 6567-72]。本方法では、対応する診断結果が既知の試料で分類アルゴリズムを訓練し、それを未知試料(すなわち、テスト例)の診断に適用することができる。教師付きの方法は複数あるが、最良の特徴セットを同定するためにはどの方法を用いてもよく、例えば、人工ニューラルネトワーク(ANN)、サポートベクターマシン(SVM)、部分最小二乗法による判別分析(partial least squares discriminant analysis)(PLSDA)、半線形関連方法(sub-linear association methods)、ベイズ推論法、教師付き主成分分析(PCA)、縮重重心法(shrunken centroids)(本明細書に記載)、その他(概説については[Wu, B., et al., Comparison of statistical methods for classification of ovarian cancer using mass spectrometry data. Bioinformatics, 2003. 19(13): p. 1636-43]参照)を挙げることができる。
【0086】
本研究では、CRC試料を40検体しか利用できないため、CRC診断へのPAM法の有効性を2つの方法で検討した。第1の方法では、テスト例用の試料を残さず、90検体全て(CRC及び正常)を用いて、交差検定された訓練分類器を構築した。第2の方法では、試料を無作為に半分に分割し、一方を分類器の構築に使用し、他方を診断用の盲検「テスト例」として使用した。第1の方法ではより多くの試料を用いて分類器を作成しているので、その推定精度は第2の方法よりも高いことが予想され、したがって、高い診断精度を得るために必要となる代謝産物は少なくなる。重要な点は、第1の方法で同定されるのと同じ診断特徴が、第2の方法で同定されるサブセットにも含まれるということである。これらの結果と質量分析データからの信号対雑音の強度情報とに基づき、さらに構造的特徴を解析する、最適なCRC診断用バイオマーカーセットとして、7個の代謝産物が選ばれた。図2Aのグラフは、様々な閾値(ユーザー定義のPAMパラメータ)において所与の訓練誤差を達成するために必要な代謝産物の数を示している。このプロットは、たった7個の代謝産物特徴を用いることで、誤り率が10%(0.1訓練誤差)未満の訓練分類器が得られることを示している(閾値は約5.8、矢印を参照)。300以上の代謝産物特徴を用いたときに最も低い訓練誤差が達成されるが、その誤差は7個の代謝産物特徴を用いたときよりも数パーセント低いだけであり、また、数百の特徴を使用するのは臨床的有用性の点から非現実的であることに留意することも意味がある。図2Bのプロットは、概念的には2Aのプロットと似ているが、2Bのグラフは、PAMプログラムに不可欠な交差検定処理を行った後にCRC及び正常個体について訓練した分類器の誤分類エラーを示している。ひし形でつながれた線は前述の結果を反映しており、CRC陽性個体についての交差検定された最小の誤分類エラーが、たった7個の代謝産物を用いることで達成され得ることを示している。四角で描かれた正常固体も、たった1個の代謝産物特徴を使用するだけで、正常であると正確に診断することができることが示されている。しかし、この閾値では、CRCの誤分類エラーが95%を超えている(矢印参照)。したがって、この方法に基づく、CRCの陽性及び陰性の両方を診断することができる代謝産物特徴の最良の組合せには、7個の代謝産物特徴の組合せが含まれる。これらは、446.3406、450.3726、466.3661、538.4259、468.384、592.4711、及び594.4851の質量を有するか又はこれらと実質的に同等の質量を有していた。
【0087】
本研究における90個体各々の、個々の交差検定後の診断確率を図3に示す。CRC陽性試料を全てグラフの左側に記載し、正常個体を右側に記載する。各試料はグラフ上に2つの点を有し、1つはCRCを有する確率を示し(ひし形)、1つはCRCを有しない(すなわち、正常である)確率を示す(四角)。図に示されているとおり、正常であると分類されたCRC試料は7検体あり(グラフ左側の丸囲み)、CRC陽性であると分類された正常試料は2検体あった(グラフ右側の丸囲み)。予想された確率から、JROCFIT(http://www.rad.jhmi.edu/jeng/javarad/roc/JROCFITi.html)を用いて、真陽性率(CRCに罹患していると予測されたCRC個体)対擬陽性率(CRCに罹患していると予測された正常個体)を示す図4の受信者動作特性(ROC)曲線を作成した。曲線下面積は95%であり、感度は82.5%、特異度は96%である。全体として、交差検定した設計に基づくと、診断精度は90%である。これら7個の代謝産物を、構造的特性を解析するためにさらに選んだ。
【0088】
訓練例に使用できる試料が多いほど、得られる分類器の未知試料の診断における精度は高くなるはずであるというのが、上述の最適な診断マーカーパネルの同定に試料を90検体全てを用いた理由であった。しかし、このアプローチの欠点は、(訓練例に含まれていない)盲検テスト例として使用できる試料が残らないことである。この問題に取り組むため、試料を無作為に2つの群に分け、一方は分類器構築用とし、他方はテスト例としての使用用とした。訓練例は、CRC試料21検体及び正常試料27検体を含んでなる。これらの試料を用いた、誤分類エラーを最も低くするために必要な代謝産物の最適数は16であった(図5下部に記載)。これら16個には、上述の7個のサブセットが含まれている。次に、この分類器を用いて、残りの試料(盲検;CRC22検体、正常27検体)の診断を予測した。盲検試料がCRC陽性又は正常である予測確率を図5にプロットする。この結果は、CRC陽性試料のうちの2検体で、正常である確率の方が高く、正常試料のうちの2検体でCRC陽性である確率の方が高いことを示している。図6Aは、テスト例に使用された患者、及びその実際の診断結果及び予想診断結果を示す。その後、図5の確率を図6Bに示すROC曲線に変換した。盲検テスト例の分類に基づく性能特性は、感度91%、特異度92.6%であり、全体の診断精度は91.8%であった。
【0089】
分類器により選択された7個の代謝産物が、実際にCRC血清と正常血清とで差があることを実証するために、生スペクトルデータを視覚化した。正常試料5検体及びCRC試料5検体について、7個のバイオマーカーのうちの6個についてのスペクトルを、図7A〜7Fに示す(各パネル、上部が正常試料、下部がCRC試料)。各々のケースにおいて、マーカーは、正常試料中には存在し、CRC試料中には存在していない。
【0090】
これらの結果に基づけば、CRC陽性患者と健常(非CRC)個体の血清の間には明確な識別が可能である。したがって、このような、CRC陽性とCRC陰性の血清を同定し区別できるという発見は、本願に記載されているように、CRC診断テストの基礎を形成する。
【実施例2】
【0091】
発見された代謝産物を確認する独立した方法
【0092】
FTMS法を用いて発見された7個の診断用代謝産物の、正常血清及びCRC血清の間における強度の差を、独立に、質量分析法を用いて検証した。典型的なCRC陽性試料抽出物5検体及び典型的な正常試料抽出物5検体を、ABI QSTAR(登録商標)質量分析計に連結されたHP1050高速液体クロマトグラフィーを用いたLC−MSにより分析した。
【0093】
CRC試料抽出物5検体及び正常試料抽出物5検体の酢酸エチル画分を窒素ガス下で蒸発させ、イソプロパノール:メタノール:ギ酸(10:90:0.1)70μL中に再構成した。再構成試料のうち10μLを、HPLC(Hypersil ODS 5 u, 125 x 4 mmカラムを備えたHP 1050、Agilent Technologies社製)によるフルスキャンにかけ、30μLを、流速1ml/分でMS/MSにかけた。
【0094】
HPLC溶出物を、大気圧化学イオン化(APCI)源に取り付けられたABI QSTAR(登録商標)XL質量分析計を用いて、負モードで分析した。フルスキャンモードのスキャンタイプは、蓄積時間が1.0000秒、質量範囲が50〜1500Da、継続時間が55分の飛行時間型(TOF)とした。源のパラメータは以下の通りである:イオン源ガス1(GS1)80;イオン源ガス2(GS2)10;カーテンガス(CUR)30;ネブライザー電流(NC)−3.0;温度400℃;デクラスタリングポテンシャル(DP)−60;フォーカシングポテンシャル(FP)−265;デクラスタリングポテンシャル(DP2)−15。MS/MSモードは、スキャンタイプは生成イオン、蓄積時間は1.0000秒、スキャン範囲は10〜650Da、継続時間は55分とした。源のパラメータは全て上述と同じにし、衝突エネルギー(CE)を−35V、衝突ガス(CAD、窒素)圧は5psiとした。
【0095】
バイオマーカー6個について、QSTAR(登録商標)による検出で抽出されたイオンクロマトグラム(EIC)を図8A〜図8Fに示す。上のパネルは、5つの正常なEICを示し、各々の下のパネルは5つのCRCのEICを示す。また、QSTAR(登録商標)の感度はFTMSより優れているため、選択したバイオマーカーについて、正常集団とCRC集団の間の強度の差は、より大きくなる。
【0096】
図9は、保持時間16〜17分のウィンドウにおける、代謝産物6個についての3セットの抽出質量スペクトル(EMS)を示す。図9Aは、正常試料5検体の平均EMSを示し、一方、図9Bは、CRC試料5検体の平均EMSを示している。図9Cは、上の2つのスペクトルの純差(net difference)を示す。図に示されているように、質量範囲約445〜600Daの全てのピークが、CRCのパネルではほとんど検出されていない(四角で囲まれた領域)。FTMSプラットフォームで同定されたバイオマーカー7個は全てQ-Trapで検出され、この質量範囲における最も大きなピークの7つであった(矢印で強調表示)。
【0097】
正常者及びCRC患者について、FTMS及びQ-Starで検出された7個のマーカーの平均を、それぞれ図10A及び図10Bに示す。これら分子について、両方のプラットフォームで、CRC陽性集団における再現性のある一貫した減少が観察された。
【0098】
PAMアルゴリズムによって、「最適な」診断性能を有する7個の特徴が選ばれたが、最初にFTMSによって得られた、分子式、化学特性、及びイオン化情報に基づいてこれら7個に関連があると思われた代謝産物のデータを再検証した。PAMが選んだ7個に関連する、30を超える分子を同定することができ、これらは全て、CRC患者コホートにおいて発現が低下していた。これらは、炭素含量によってさらに分類することができた(すなわち、炭素数28、32、又は36のもの)(図11参照)。さらに、天然のアルファ及びガンマ−トコフェロールが同定され、これらも、CRCコホート中において強度が低下していた(図11、GT及びAT)。これらの情報に基づいて、どの分子をハイスループットスクリーニング法に用いるべきか再評価し、2集団(CRC及び正常)間で一貫して最も強い識別子であると思われた炭素数28の分子6個を用いることに決定した。
【実施例3】
【0099】
主要代謝産物バイオマーカーの構造解明(NMR、FTIR、及びMSMS)
【0100】
新規代謝産物の構造解明に通常使用される基本的な性質は、精密な質量及び分子式の決定、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、及びMS/MS又はMSnスペクトルである。しかし、構造決定の際に代謝産物のその他の性質を使用することができることは当業者には明らかであろう。
【0101】
9個の好ましい診断用マーカーの分子式は、それらの精密な中性質量、極性、及びイオン化特性に基づき、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6、C36H66O6に決定された。これらの代謝産物は、本発明によって、半飽和クロマンカン及びフィチル側鎖からなり、したがって、ビタミンE関連構造に一致することが判明した。
【0102】
目的の代謝産物を含む抽出物を、C18カラムを用いた逆相LC−MSにかけ、上述の詳細な方法に記載したMSによる分析に供した。前記ビタミンE様バイオマーカー全ての保持時間は、これらのHPLC条件下で約16.5分であった。
【0103】
抽出条件からも、バイオマーカーの化学特性についての洞察が得られる。代謝産物マーカー7個は全て有機酢酸エチル画分に抽出されたことから、これらの代謝産物が酸性条件下で非極性であることが示唆された。さらに、これらは負APCIモードで優先的にイオン化されたことから、分子中の酸性プロトンの存在が示唆された。
【0104】
分子の構造は、決められた条件下において特異的なフラグメンテーションパターンを与え、そのフラグメンテーションパターンは、その分子に特異的である(人の指紋に相当)。分子構造がわずかに変化しただけでも、フラグメンテーションパターンは異なり得る。分子に固有な指紋が提供されることに加え、CIDにより生成されたフラグメントは、分子の構造についての洞察を得るために使用することができる。MS/MS分析を、ABI-QSTAR(登録商標)XLを用い、パラメータは全て前述のパラメータを用い、窒素を衝突ガスとして5psiで使用し、CEのセッティングを−25、−35、及び−50ボルトにして行った。
【0105】
診断能が最も高く、HTS開発に最も適しているとして同定された6個の代謝産物を、衝突誘起解離(CID)を用いたMS/MS用のフラグメント化に供した。最初の9個から上記6個を選び、全て炭素数28の分子であって、同じ分析モードで全て検出することができる分子へとグループを狭めた。図12A〜12Fは、6個の分子の構造をガンマ型のトコフェロール及びトコトリエノールと比較している。以下の詳細な構造の記載で、この図を参照することがある。
【0106】
精密な質量MS/MSスペクトルに基づき、各バイオマーカーに推定構造の帰属を行った。要約すると、バイオマーカーのMS/MSスペクトルの総合的解釈より、これらは全て、カルボン酸部分を含み(CO2の脱離により示される)、ヒドロキシル部分を少なくとも1つ含む(H2Oの脱離により示される)ことが明らかとなった。さらに、C28H46O4以外の全ての構造がC18HxOyフラグメント(式中、x≧31かつy≧2)を生成したことから、高度に飽和された脂肪酸側鎖の存在が示唆された。この情報は、C28分子がガンマ−トコフェロールの代謝産物であることと一致する。したがって、C32及びC36のバイオマーカーはそれぞれ、ガンマ−トコフェロールとリノール酸残基の過酸化脂質及びオレイン酸残基の過酸化脂質との反応により生じた代謝副産物であるという仮説が立てられた(図19〜21)。MS/MSスペクトルはこの仮説を裏付けている。軽微な変更(限定されるものではないが、例えば、二重結合の位置、ヒドロキシル基の位置、特定の炭素原子の立体配向又はキラル配向)は、上述のバイオマーカーの性質(identity)を有意に変えるものではないことは、当業者に明らかであろう。以下でさらに特徴を解明するマーカー6個について、フラグメントへの構造の帰属を図13〜21及び表5〜10に示す。MS−MSの結果として記載されている質量は検出された質量であり、中性質量ではない。これらをM−1質量と呼ぶ。これらは、負イオン化モードの質量分析計で検出されたことから、以前のセクションで言及したそれらの対応する中性物質と比べ、質量1Daが失われているか又は式中の水素分子1つが脱離していると考えられる。しかし、M−1質量は、対応する中性物質と同じ分子を表す。続くNMRのセクションで言及されているのは中性質量である。
【0107】
詳細には、各バイオマーカーについて負イオン化モードで得られたMS/MSデータを、構造の帰属、特に官能基の位置決定のために、個々に分析した。各バイオマーカーのMS/MSスペクトルは、水の脱離によるピーク(M−18)及び二酸化炭素の脱離によるピーク(M−44)を示した。これらから、第三級又は第二級炭素分子に隣接する遊離ヒドロキシル基、及びカルボン酸基の存在が規定される。フィトール鎖フラグメントの脱離も共通して観察されたが、この鎖の開裂は異なる場所で起こっていた。
【0108】
2847(表5、図13)について、最初に水及び二酸化炭素の脱離が観察される(m/z 385;C2745O)。次に、m/z 279(C1935O)を表すフラグメントは、その後の、クロマン環のO1−C9における開裂及びフィトール鎖のC10−C4部位における開裂を示唆している。
【0109】
2847(表6、図14)は2つの遊離ヒドロキシル官能基を有し、通常の二酸化炭素の脱離に加え、水2分子の脱離を示している(m/z=383;C2743O)。続く、O1−C9における環開裂がここでも示され、続いてC18−C19の間で開裂が起こり、C2235O(m/z 315)のフラグメントが生じている。続く、開環したフラグメントからの水分子の脱離を示すm/z 297(C2233)に対応するシグナルも観察された。バイオマーカー3(m/z 448.3726)と違い、フィトール鎖の開裂はC12−C13で起こっており、C28H48O5のMS/MSスペクトル中に、半分に分かれた2つの分子、m/z 241(C1425)、m/z 223(C1423)が観察された。この特有のフラグメンテーションは、クロマン環とフィトール鎖の間に官能基が分布する強く示している。
【0110】
2845(表7、図15)のMS/MSスペクトルは、C28H47O5のスペクトルと似たパターンを示している。水の脱離(m/z 427;C2843)及び二酸化炭素の脱離(m/z 401;C2745)は、片方だけ脱離したもの及び両方同時に脱離したもの(m/z 383;C2743O)の両方が観察された。C28H47O5同様、フィトール鎖の開裂はC12−C13で、最初にC17−C18間における水の脱離の後に起こっており、m/z 223(C1423)のフラグメントが生成されている。対となる他方のフラグメントであるC1421O(m/z 205)も観察され、これはまた、それぞれC及びCHの脱離を示す、次の2つの連続するフラグメント、m/z 177(C1217O)及びm/z 162(C11114O)の親イオンをも表している。
【0111】
興味深いことに、C2849(表8、図16)においては、通常の水の脱離(m/z 447;C2847)及び二酸化炭素の脱離(m/z 421;C2645)に加えて、エタノールフラグメントの脱離(m/z 433;C2745)、続くエチレンフラグメントの脱離(m/z 405;C2645)も検出された。これらの観察結果は、推定されるクロマン環のC2−C3における開環及びC27メチル基のヒドロキシル化、それによりメタノール及びエチレンフラグメントのプリカーサーが生成されることを示唆している。フィトール側鎖のフラグメント化による、複数の異なるフラグメントが観察された。それらには、C18−C19における開裂(m/z 349;C2237)、最初にC18−C17間の水が脱離された後のC1−C2における開裂(m/z 297;C1833)とそれに続く別の水分子の脱離(m/z 279;C1831)、及びC15−C16における開裂(m/z 185;C13H19O3)が含まれる。予測された、C12−C13間のフラグメンテーションも、2つの対分子イオン(m/z 241(C1529)及びm/z 223(C1319))として観察された。
【0112】
2849(表9、図17)のMS/MSスペクトルも、予想された水及び二酸化炭素の脱離を示した(m/z 431;C2849、m/z 405;C2749)。C28H47O5のスペクトル同様、水2分子の脱離によるフラグメントが示された(m/z 413;C2845)。このことから、構造中に遊離ヒドロキシル基が2個存在することが示唆される。フィトール環の開裂は、C15−C16間(m/z 281;C1833)、及び水分子の脱離に先立つC16−C17間(m/z 277;C1933O)の2ヶ所で起こる。これらのフラグメントから、フィトール鎖中にヒドロキシル基が存在しないこと、及びC17−C18間が不飽和であることが証明された。バイオマーカー7の構造は、これに沿って決定される。
【0113】
2851(表10、図18)のMS/MSスペクトルにより、水2分子の脱離(m/z 431;C2847)並びに水及び二酸化炭素分子が同時に脱離した別のフラグメント(m/z 405;C2749)が示され、これは2個の遊離ヒドロキシル基及び1個のカルボニル官能基の存在を示唆している。個々で観察されたフラグメントのいくつかは、C28H49O5で観察されたフラグメントと同じであった。C28H49O5がC28H51O5と異なる点は、不飽和度が高いことだけであり、最初にC18−C17間の水が脱離した後のC1−C2における開裂(m/z 297;C1833)と続く別の水分子の脱離(m/z 279;C1831)がそれである。その後の、C1831からのCHの脱離が、m/z 263(C1727)の分子イオンピークで表されている。m/z 215(C1223)の分子イオンピークは、C13−C14結合の開裂と続くCHの脱離によって生じたフィトール鎖のフラグメントを表している。フィトール鎖がC15−C16で開裂したことによるフラグメント(m/z 187;C1019)が、次の2つの連続するフラグメント(C1019から、それぞれ、水分子の脱離(m/z 169;C1017)及びエチレンフラグメントの脱離(m/z 141;C13)によって生じる)の親イオンとして観察された。
【0114】
これらの炭素数28の分子6個に加えて、炭素数28でないビタミンE様分子のMSMS分析も実施した(図19〜21に示す)。これらの、炭素数32及び炭素数36のバイオマーカーは、それぞれ、ガンマ−トコフェロールとリノール酸残基の過酸化脂質及びオレイン酸残基の過酸化脂質との反応により生じた代謝副産物と考えられる。図19〜21に示されるように、MS/MSスペクトルは、この仮説を裏付けている。
【0115】
NMR法及びFTIR法における全ての薬品及び媒体はSigma-Aldrich Canada Ltd.社(Oakville, ON)から購入した。全ての溶媒(solvent)をHPLCグレードのものを用いた。薄層クロマトグラフィー(TLC)による分析を、プレコートしたシリカゲルTLCアルミニウムシート(EM science社製、Kieselgel 60 F254、5×2cm×0.2mm)を用いて実施した。化合物は、UV光(254/366nm)で可視化するか、又はヨウ素蒸気のタンク中に置き、プレートに、1%硫酸セリウム(w/v)及び4%HSO(v/v)を含む5%リンモリブデン酸水溶液(w/v)を滴下し、その後加熱することで可視化した。分取薄層クロマトグラフィー(分取TLC)をシリカゲルプレート(EM science社製、60 F254 20×20cm、厚さ0.25mm)上で行った。化合物はUV光下及びヨウ素中で可視化した。クォータナリポンプと、オートインジェクターと、脱気装置と、インラインフィルターを取り付けたセミ分取カラム(シリカ粒子径5μm、9.1i.d×200mm)及びHypersil ODSカラム(シリカ粒子径5μm、4.6i.d×200mm)とを備えた高速液体クロマトグラフを用いてHPLC分析を行った。移動相は、流速1.0ml/分で、HO−MeOHから100%MeOHへのリニアグラジエント(52分)とした。
【0116】
NMRスペクトルは、H NMR(500MHz)のδ値はCDCl(7.24ppmにCHCl)を基準に、13C NMR(125.8MHz)のδ値はCDCl(77.23ppm)を基準にして、Bruker Avance社製の分光計で記録した。高分解能(HR)質量スペクトル(MS)は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)質量分析計であるBruker apex 7T、及びTOF型質量分析計であるQstar XLで、大気圧化学イオン化(APCI)源を負モードにして記録した。フーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトルは、Bio-Rad FTS-40分光光度計で記録した。スペクトルは、KBrに分散させた試料について、拡散反射法で測定した。
【0117】
血清抽出物の粗精製プールHPLC画分(32mg)は、H NMRスペクトルでガンマ−トコフェロール様化合物及びガンマ−トコトリエノール様化合物の混合物であることが示され、これを分取TLCで精製し、図12C〜12Fに示す構造:C(3、3.6mg)、D(4、2.5mg)、E(5、3.4mg)、及びF(6、4.6mg)が得られた。以下のセクションでは、これらの新規の構造物をガンマ−トコエノイック酸(gamma-tocoenoic acids)と呼ぶ。
【0118】
ガンマ−トコエノイック酸3の分子式(図12C(3))は、HRAPCI−MSにより、不飽和度5のC2848(中性)に決定された。FTIRによる、3315(br)及び1741cm−1における吸収から、ヒドロキシル基及びカルボニル基が示唆された。H NMR及び13C NMRの分光分析データ(表11及び12)を分析した結果、6個のメチル基、4個のオレフィン炭素、及びガンマ−トコトリエノール(図12B(2)[Pearce, B.C., et al., Hypocholesterolemic activity of synthetic and natural tocotrienols. J Med Chem, 1992. 35(20): p. 3595-606及びHan, N.M., et al., Isolation of palm tocols using supercritical fluid chromatography. J Chromatogr Sci, 2004. 42(10): p. 536-9])に存在するようなフィトール長鎖の存在が示された。HMQC及びHMBCデータの分析は構造の帰属に役立った。δ2.24メチンプロトン(H−22)との長距離相関を示している、δ173.8に見られる唯一のカルボニル様炭素(C−23)は、そのMS/MSスペクトルに二酸化炭素の脱離が観察されたことから、カルボン酸官能基であることが確認された。同様に、δ74.2の炭素(C−9)は、δ2.28のメチレンプロトン(H−4)と相関を示し、このプロトンは、δ2.28の別のメチレンプロトン(H−6)と共に、δ130.5のsp炭素(C−10)にHMBC相関を示した。これらは、ガンマ−トコトリエノール(図12B)に存在するような半飽和クロマン環系を示している。フィトール側鎖上に、δ1.55のメチルプロトン(H−26)とδ123.2のsp炭素(C−13)、δ1.01付近のメチレンプロトン(H−12、H−15)とδ140.2のsp炭素(C−14)、及びδ0.91付近のメチルプロトン(H−25)とδ56.6の第三級炭素(C−18)の間で長距離相関が観察された。MS/MSスペクトル分析から、水及び二酸化炭素の脱離並びにC9−O1位における開環と続くフィトール側鎖フラグメントの脱離によるフラグメント(m/z 279;C1831)が確認される。したがって、ガンマ−トコエノイック酸の構造は3(図12C)のように帰属された。
【0119】
ガンマ−トコエノイック酸4(図12D(4))はC2848の分子式を有し(HRAPCI−MS)、不飽和度5を示していた。FTIRによる、3437(br)及び1743cm−1の吸収から、ヒドロキシル基及びカルボニル基が示唆された。H NMRスペクトルと13C NMRスペクトルは、C28H48O4のスペクトルと非常によく似ていた。違いは、ヒドロキシ基が1つ多いことだけであった。これは、C28H48O4と比べて、MS/MSフラグメンテーションにおけるHOの脱離が1つ多いことから示唆された。このヒドロキシ基は、H−5(δ 2.21〜2.25)及びH−7(δ 1.47〜1.53)のメチレンプロトンとH−6(δ 3.69〜3.71)のメチンプロトンとのH−HCOSY相関を考慮して、C−6上に帰属された。MS/MS分析により、CO分子の脱離により示されるカルボン酸基の存在、並びにC12−C13間での開裂により生じたMS/MSフラグメントであるC1425(m/z 241)及びC1423(m/z 223)の存在も確認された。さらにこのことは、フィトール側鎖上のジエンの帰属及びクロマン環上のヒドロキシル化を裏付けている。したがって、ガンマ−トコエノイック酸4の構造は図12Dのように帰属された。
【0120】
ガンマ−トコエノイック酸5(図12E(5))はC2846の分子式を有し(HRAPCI−MS)、不飽和度6を示していた。FTIRによる、3125(br)及び1736cm−1の吸収から、ヒドロキシル基及びカルボニル基の存在が示唆された。H NMRスペクトルと13C NMRスペクトルは、C28H48O4のスペクトルと非常によく似ていた。違いは、半飽和クロマン環中に二重結合が1つ多いことだけであった。この二重結合はC6−C7間での脱水によって生じたと考えられる。MS/MSスペクトルの分析により、カルボン酸基の存在、水の脱離により生じたフラグメント、並びにC28H48O5で観察されたのと同様な、C12−C13間の開裂により生じたフラグメントであるC1423(m/z 223;C1425−HO)及びC1421O(m/z 205;C1423−HO)が確認された。したがって、ガンマ−トコエノイック酸5の構造は図12Eに示すように帰属された。
【0121】
ガンマ−トコフェリック酸(Gamma-Tocopheric acid)6(図12F)はC2850の分子式を有し(HRAPCI−MS)、不飽和度4を示していた。FTIRによる、3314(br)及び1744cm−1の吸収から、ヒドロキシル基及びカルボニル基が示唆された。H NMRスペクトルと13C NMRスペクトルは、C28H48O4及びC28H48O5のスペクトルと幾分似ていたが、大きな違いもいくつか観察された。類似点としては、6個のメチル基、4個のsp混成炭素、及びδ2.28(H−22)のメチンプロトンと長距離相関を示しているδ174.1に見られる1個のカルボニル様炭素(C−22)の存在を挙げることができる。相違点としては、クロマン環系の開環や、H NMRのスペクトルが、共にδ5.12のメチンプロトン(H−2、m)とカップリングしているδ4.27〜4.29(H−27a、dd、J=4.0、12.0Hz)及びδ4.04〜4.14(H−27b、dd、J=6.0、12.0Hz)の2個のメチレンプロトンを含むスピン系を示していること等を挙げることができる(このことはH−HCOSY及びH−H同種核デカップリング実験によって示された)。さらに、C28H50O5のHMBC及びH−HCOSYは、他のトコトリエノイック酸C28H48O4、C28H48O5、及びC28H46O4に共通して見られた、メチルプロトンとsp炭素との間の長距離相関を示さず、これはフィトール側鎖が飽和していることを示しており、その構造をガンマ−トコフェリック酸の誘導体に限定している。MS/MSスペクトル分析により、カルボキシル基の存在、水の脱離によるフラグメント、C12−C13間における開裂の結果生じる2つの共通するフラグメント(m/z 241及びm/z 223)が確認された。このことから、環の開裂がC2−C3間であり、フィトールが飽和しているものの、構造に関するその他の点は、その他の同定されたトコエノイック酸C28H48O4、C28H48O5、及びC28H46O4の構造に類似している。したがって、ガンマ−トコフェリック酸の構造は図12Fの6のように帰属された。
【0122】
テストした溶媒系を用いた分取TLCで分離できなかったその他のバイオマーカー2個の構造(C5850(7、図12G)及びC2852(8、図12H))は、MS/MSフラグメンテーションデータを評価することで、それぞれ図12G及び図12Hのように決定された。
【0123】
代謝産物を血清から単離し、構造をNMRで再確認した。合計200mLの血清を酢酸エチル(500mL、3×)で抽出し、窒素エバポレータ(nitrogen evaporator)を用いて乾燥させ、抽出物をメタノール4mLに再構成した。この抽出物を、1分間分取(1 min window)で52分間フラクションを回収するように設定したフラクションコレクションモードでLC/MSにかけた(インジェクション100μL、40×)。15〜17分の間に溶出された予想される代謝産物をプールし、窒素エバポレーターを用いて濃縮乾固した(約32mg)。H NMRスペクトルでトコフェロール関連化合物混合物を示した半精製フラクションを分取TLCにかけ、CHCl−ヘキサン(2:1)で展開した結果、ガンマ−トリエノイック酸3(3.6mg)及びガンマ−トコエノイック酸4(2.5mg)が得られた。残りのバンドを合わせて(約22mg)、シクロヘキサン−CHCl−EtOAc(35:5:1)を用いた分取TLCにさらに供し(2回)、ガンマ−トコエノイック酸5(3.4mg)、ガンマ−トコフェリック酸6(4.6mg)及び1つのフラクション(6.6mg)が得られた。上記1つのフラクションは混合物であることが分かった。
【0124】
ガンマ−トコエノイック酸3
TLC R=0.81(シクロヘキサン−CHCl−EtOAc、10:4:1)。H及び13C NMRスペクトルについては、表11及び12を参照されたい。FTIR(cm−1)3315(br)、2935、2852、1741、1465、1377、1178、726。HRAPCI−MS m/z:計測値447.3490([M−H];C2847の計算値は447.3480)。MS/MS m/z(相対強度):447([M−H、50%])、429(45%)、403(100%)、385(20%)、279(10%)。
【0125】
ガンマ−トコエノイック酸4
TLC R=0.21(シクロヘキサン−CHCl−EtOAc、10:4:1)。H及び13C NMRスペクトルについては、表11及び12を参照されたい。FTIR(cm−1)3347(br)、2935、2868、1743、1466、1377、1057、958。HRAPCI−MS m/z:計測値463.3449([M−H];C2847の計算値は463.3429)。MS/MS m/z(相対強度):463([M-H]、100%)、445(50%)、419(90%)、401(25%)、241(20%)。
【0126】
ガンマ−トコエノイック酸5
TLC R=0.79(シクロヘキサン−CHCl−EtOAc、10:4:1、UVアクティブスポット)。H及び13C NMRスペクトルについては、表11及び12を参照されたい。FTIR(cm−1)3125(br)、2941、2855、1736、1556、1466、1377、1177、1008、773。HRAPCI−MS m/z:計測値445.3333([M−H];C2845の計算値は445.3323)。MS/MS m/z(相対強度):445([M-H]、100%)、427(60%)、401(85%)、383(40%)、223(12%)、205(20%)、177(10%)、162(18%)。
【0127】
ガンマ−トコエノイック酸6
TLC R=0.62(シクロヘキサン−CHCl−EtOAc、10:4:1、UVアクティブスポット)。H及び13C NMRスペクトルについては、表11及び12を参照されたい。FTIR(cm−1)3314(br)、2926、2854、1744、1465、1379、1253、1145、722。HRAPCI−MS m/z:計測値465.3588([M−H];C2849の計算値は465.3585)。MS/MS m/z(相対強度):465([M-H]、100%)、447(50%)、421(35%)、403(20%)、349(10%)、279(18%)。
【実施例4】
【0128】
ハイスループットスクリーニング(HTS)の開発及び個別試料セットの分析
【0129】
次に、FTMS法を用いて発見され、LC−MS法で確認を行った、主要バイオマーカー6個のハイスループット分析法を開発した。
【0130】
非標的型FTMS用に、血清試料を記載のとおりに抽出した。各試料の分析には酢酸エチル有機画分を用いた。各試料の酢酸エチル画分120μLずつに、内部標準(1ng/mLの、メタノール中(24−13C)コール酸)を15μL添加して、最終体積を135μLとした。フローインジェクション分析により、4000QTRAPにオートサンプラーで試料100μLを注入した。キャリア溶媒には90%メタノール:10%酢酸エチルを用い、APCI源への流速は360μL/分とした。
【0131】
TurboV(商標)源及びAPCIプローブを備えた四重極リニアイオントラップABI 4000Q質量分析計によるMS/MS HTS法を開発した。ソースガスのパラメータは以下のとおりである:CUR:10.0、CAD:6、NC:−3.0、TEM:400、GS1:15、インターフェースヒーター:オン。「化合物」の設定は以下のとおりである:入口電圧(EP):−10、及び衝突セル出口電圧(CXP):−20.0。本方法は、各代謝産物の1個の親イオンの推移(transition)、1個の内生ハウスキーパー(housekeeper)の推移、及び1個の内部標準の推移のマルチプルリアクションモニタリング(MRM)に基づいている。推移の各々を、250ms、合計サイクル時間2.3秒モニターした。1試料当たりの合計収集時間(total acquisition time)は約1分である。方法全体の概略を図26に示す。簡潔には、本方法では、(図27A〜27Fに示されるように)バイオマーカー6個の各々の強度及び内部標準(IS)の推移を測定し、また、あらかじめヒト血清中に内生的に存在することを確認した「ハウスキーピング(housekeeping)」バイオマーカーの推移も測定する(図27G)。ハウスキーピングバイオマーカーとは、疾患状態に伴って変化しないことが確認された代謝産物であり、正しく採取された血清試料であれば検出されるはずのものである。したがって、「ハウスキーピング」バイオマーカーの目的は、複数の部位から採取した試料をHTS検査に用いることができるようにすることである。次に、各患者について、測定した6個のバイオマーカー:ISの推移の比を平均正規化log(2)変換したときに最も低いものを決定することで患者スコアを作成する。次いで、この値を、正常個体から作成したスコア分布と比較し、それにしたがってCRCリスク要因を決める。ABI Qtrapで、上述の方法を用いて、6個のバイオマーカー各々及びハウスキーピング代謝産物について、バイオマーカーの推移対内部標準の推移のピーク面積比をプロットすることで、推移ピーク領域を正確に測定することができることを確認した(図26)。さらに、本HTS法は、基準血清材料の段階希釈を含み、これにより、機器の線形性が決定及び保証される。ハウスキーピング代謝産物が検出されないか又は検量線のR値が0.98を超える場合、試料のラン(run)に不備があると考えられるので、その試料を再度ランする必要がある。
【0132】
前記ビタミンE様分子がCRCに関連しているという最初の発見を検証するために、CRC186検体、正常288検体、前立腺癌24検体、卵巣癌25検体、腎細胞癌30検体、肺癌25検体、乳癌20検体を含む独立した試料セットを、上述のHTS法を用いて分析した。その分析結果の概略を表13Aに示す。この結果は、誰をCRCが存在する危険性が高いと見なすかを決定するカットオフ値を−1.3にしたとき、本方法のCRCに対する感度が約78%であることを示している(正常な分布は図28、診断出力は図29を参照)。この結果は、結腸癌の存在に伴うこれら新規ビタミンE様分子レベルの低下を明白に示している。しかしここで、癌横断的な比較(cross-cancer comparison)から、卵巣癌の感度が70%であり、腎細胞癌及び肺癌の感度がそれぞれ36%及び40%であることも分かった。これらの感度の値は、CRCについての特異度が89%となるカットオフ値(これは擬陽性率約5%と等しい。なぜなら、図28に示される正常分布は結腸内視鏡により疾患がないことが未確認の個体に基づいているため)に基づいて選択された。平均から低リスクの集団の最大10%が、内視鏡検査で高度異形成に陽性であることが以前に報告されているが、本分布ではこれらは考慮しなかった(Han, N.M., et al., Isolation of palm tocols using supercritical fluid chromatography. J Chromatogr Sci, 2004. 42(10): p. 536-9.)。非CRC癌のセットは数が比較的少ないものの、検査結果は有意に卵巣癌と重なっていることから、卵巣癌の診断も特許請求の範囲に含まれる。最終的には、より大きな非CRC癌集団を検査してこれらの結果を確認する必要がある。
【0133】
また、正常個体及びCRC陽性個体の無作為に抽出したサブセットを用いて、年齢、人種、BMI、及び性によるバイアスをチェックし、これら様々なクラスのいずれにおいても前記バイオマーカーレベルに有意な差が無いことを確認した(表13B)。さらに、CRCのステージI/II又はIII/IV(TNM)に分類された患者群又はポリープ有り若しくは無しに分類された患者群においてもバイアスは見られなかった(表13B)。
【実施例5】
【0134】
CRC及びOCにおいて撹乱される代謝経路の生物学的解釈
【0135】
6個のバイオマーカーの構造解明及びさらなるFTMSデータの調査に基づき、フリーラジカル形成及びCRCに関連する別の洞察が考えられた。
【0136】
推定されるトコフェロール及びトコトリエナール代謝産物をさらに調査した結果、CRC患者集団における、アルファ及びガンマ−トコフェロール両方の血清濃度の有意な低下が見られた(図11参照)。アルファ/ガンマ−トコフェロール比の計算値は6.3であった。これは文献で以前に報告されている値と一致する。特に、血清アルファ−トコフェロール強度はガンマ−トコフェロール強度より有意に高いことが観察されたものの、文献による報告のない、オメガ酸化ガンマ−トコフェロール/トコトリエノール代謝産物に相当する分子式を有する6個の代謝産物は、正常者及びCRC患者の両方で観察され、一方、オメガ酸化アルファ−トコフェロール代謝産物は観察されないことが明らかになった。これらの所見は、ヒト肝臓HepG2細胞中で、アルファ−トコフェロールよりガンマ−トコフェロールでオメガCOOH形成が50倍を超えて多いことを示したSontag and Parkerによる最近の所見と一致する(Sontag, T.J. and R.S. Parker, Cytochrome P450 omega-hydroxylase pathway of tocopherol catabolism. Novel mechanism of regulation of vitamin E status. J Biol Chem, 2002. 277(28): p. 25290-6)。トコトリエノールについては、このオメガカルボキシル化及び続くトコフェロールの様々なヒドロキシクロマノールへの代謝も観察されている(Birringer, M., et al., Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8)。Sontag and Parker(Sontag, T.J. and R.S. Parker, Cytochrome P450 omega-hydroxylase pathway of tocopherol catabolism. Novel mechanism of regulation of vitamin E status. J Biol Chem, 2002. 277(28): p. 25290-6)又はBirringer et al(Birringer, M., et al., Identities and differences in the metabolism of tocotrienols and tocopherols in HepG2 cells. J Nutr, 2002. 132(10): p. 3113-8)によってこれらの代謝産物が発見されなかった理由は、上記研究者らによるオメガ酸化機構の記載が、修飾されていないアルファ−又はガンマ−トコフェロール/トコトリエノール代謝産物について行われたためであると考えられる。本発明者らの結果は、オメガ酸化が、ガンマトコフェロール/トコトリエノールがフリーラジカルと反応した後におそらくは結腸/卵巣上皮細胞で起こるか、又はガンマトコフェロール/トコトリエノールとフリーラジカルの反応と同時に結腸/卵巣上皮細胞で起こることを示している。
【0137】
CRCで減少が観察されたその他の複数の代謝産物が、ガンマ−トコフェロール又はガンマ−トコトリエノール関連代謝産物であると推測されて同定されたものと類似の分子式を有していた。これらの代謝産物は、炭素分子の数に基づいて、特にそれらが30、32、又は36個の炭素を有するかどうかで大きく3つのカテゴリーに分類された(図11)。さらに、これらの代謝産物が、ガンマ−トコフェロールと、リノレン酸、リノール酸、及びオレイン酸の脂質残基由来のペルオキシラジカルとの反応に由来するという仮説を立てた(以下に記載)。ガンマ−トコフェロール/トコトリエノールのこれら代謝誘導体はその後、肝臓での初回通過代謝中にP450によるオメガ酸化を受ける。
【0138】
特定の理論に限定することを意図するものではないが、本発明は、特定の脂肪酸、ビタミンEアイソフォーム、及び関連代謝産物レベルの低下は単なる食事性欠乏の結果ではなく、結腸上皮によるビタミンE及び関連分子の取り込みが損なわれるためであることを考慮することにより、CRC及びOCの発症及び進行におけるビタミンE及び関連代謝産物の役割を示す仮説を開示している(図36)。この損傷は、通常の酸化ストレス下又は上昇した酸化ストレス下において十分な抗酸化能を付与する際の律速段階となる。このモデルでは、CRC又はOC発症で最初に起こることは、結腸上皮細胞におけるビタミンEガンマの欠乏である。2個体で食事が等しければ、結腸上皮細胞へのビタミンEの輸送が弱まっている人ではフリーラジカルが増加する。そしてこれは、本発明で記載しているように、血清ビタミンE代謝産物の減少に正比例する。しかし、この仮説からはまた、血清中のオメガCOOH代謝産物レベルの低下が生じることで、本明細書中で既に述べたようにアラキドン酸に対する競合阻害効果が弱まることにより、プロスタグランジン生合成経路の抑制に負の効果が生じることが考えられる。本発明者らは、それにより生じるプロスタグランジン経路の活性化が、上皮起源のその他の癌、特に卵巣癌の発症に関わっているという仮説を立てている。本発明者らはまた、この機構によりCRCにおいてCOX経路がさらに活性化されると考えており、これにより、CRC及びその他の癌の予防薬として確立されている非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)の役割を説明することができる。
【0139】
これらは、CRC及びOCの治療方針に関して有意義な所見である。これらの疾患の両方において、炎症はリスク要因である。ガンマ−トコフェロール及びガンマ−カルボキシエチルヒドロキシクロマノール(CEHC)は、アラキドン酸が仲介する炎症を軽減することが示されている。ガンマ−トコフェロール活性の遅れは、ガンマトコフェロールが実際の生物学的活性分子の前駆物質であることを示している。複数のオメガCOOHガンマトコフェロール/トコトリエノール代謝産物が発見されたことから、これらが内生の抗炎症物質であること並びにこれら代謝産物の減少がCRC及びOCに関連した炎症を引き起こしている又は該炎症の徴候であるかも知れないことを示唆している。
【0140】
フリーラジカルは、結腸癌の病因に一役買っていると長い間考えられてきた(Babbs, C.F., Free radicals and the etiology of colon cancer. Free Radic Biol Med, 1990. 8(2): p. 191-200、Blakeborough, M.H., R.W. Owen, and R.F. Bilton, Free radical generating mechanisms in the colon: their role in the induction and promotion of colorectal cancer? Free Radic Res Commun, 1989. 6(6): p. 359-67、及びGraf, E. and J.W. Eaton, Dietary suppression of colonic cancer. Fiber or phytate? Cancer, 1985. 56(4): p. 717-8)。本出願の、CRCが慢性的過酸化ストレスに関連していること並びにガンマ−トコフェロールが固有の抗酸化特性を有し、この抗酸化特性が結腸及び卵巣の上皮細胞の健康な酸化状態を維持するのに重要であることを示す統合的な仮説は、本発明者らによって初めて提出されるものである。Campbell, S., et al., Development of gamma (gamma)-tocopherol as a colorectal cancer chemopreventive agent. Crit Rev Oncol Hematol, 2003. 47(3): p. 249-59はガンマ−トコフェロールの抗酸化特性に言及しているが、これらの特性はアルファ−トコフェロールの特性と同じであると推定している。本発明は、ガンマ−トコフェロール/トリエノール又は関連代謝産物が固有の脂質ラジカル除去機構を有し得ることを示す固有の代謝産物を同定している。これらの発見された代謝産物の選択性が他の癌に比べてCRC及びOCに対して高いこと(表13)は、結腸上皮細胞にガンマ−トコフェロールが優先的に取り込まれること、結腸上皮細胞においてアルファ−トコフェロールよりガンマ−トコフェロールの濃度が高いこと、トコフェロールよりトリエノールの方が生物活性が高いこと、及びアルファ−トコフェロールよりガンマ−トコフェロールの方が代謝回転が速いことを示す従来の報告と合わせて、ガンマ−トコフェロール/トリエノール関連プロセスが選択的に上皮細胞恒常性に関与しているという仮説を裏付ける強い証拠である。
【0141】
抗酸化物質は機能するうちに消費されること及びこの機能がリアルタイムで起こること、すなわち、ある日に過剰な抗酸化能を有していても、別の日の抗酸化能欠乏は補われないことは、よく知られている。比較的重要でないリサイクル機構を別にすれば、抗酸化物質の能力及び有効期間は限られており、一度使用され尽くしてしまうと、酸化反応はチェックされることなく進行する。そのため、複数のフリーラジカル分子を中和することができる抗酸化分子の選択が生物学的に好ましい。分析データ及びフリーラジカルに関する従来の文献から、1個のガンマ−トコフェロール/トコトリエノール分子が6個のフリーラジカルを中和することができるような機構が提案及び裏付けされる。
【0142】
脂質酸化プロセスの研究は広く行われてきた。図30は、不飽和脂肪酸(例としてリノレン酸を使用)の自己酸化プロセスを図示している。簡潔には、炭化水素分子から水素ラジカルが引き抜かれる(図30A)。この引き抜きは、光、熱、照射、金属イオン、又はラジカルにより仲介され、飽和炭化水素よりも不飽和炭化水素ではるかに多く起こる。生体系では、過酸化物の形成が最初のステップである(図30A)。この過酸化物ラジカルは、次いで、a)ガンマ−トコフェロール−ヒドロキシドにより安定化されるか(図30B)、又はb)ガンマ−トコフェロール過酸化物ラジカルと反応する(図30C)と考えられ、どちらの場合にも準安定過酸化物が形成される。その後、この2種類の過酸化物は、鉄が触媒するフェントン反応(Babbs, C.F., Free radicals and the etiology of colon cancer. Free Radic Biol Med, 1990. 8(2): p. 191-200)により、又は酸化窒素による、鉄に依存しない方法(Rubbo, H., et al., Nitric oxide regulation of superoxide and peroxynitrite-dependent lipid peroxidation. Formation of novel nitrogen-containing oxidized lipid derivatives. J Biol Chem, 1994. 269(42): p. 26066-75及びRadi, R., et al., Peroxynitrite-induced membrane lipid peroxidation: the cytotoxic potential of superoxide and nitric oxide. Arch Biochem Biophys, 1991. 288(2): p. 481-7)でヒドロキシルラジカルに変換される。アルファ−トコフェロールよりもガンマ−トコフェロールの方が、in vitroでの二酸化窒素の解毒に優れていることが示されているが(Cooney, R.V., et al., Gamma-tocopherol detoxification of nitrogen dioxide: superiority to alpha-tocopherol. Proc Natl Acad Sci U S A, 1993. 90(5): p. 1771-5)、Stone et al(Stone, W.L., et al., The influence of dietary iron and tocopherols on oxidative stress and ras-p21 levels in the colon. Cancer Detect Prev, 2002. 26(1): p. 78-84)によるin vivo実験は、ガンマ−/アルファ−トコフェロール比の高い又は低い(それぞれ約2:1〜1:18)食餌を、1日摂取推奨量の鉄又は8倍の鉄と共に与えられたラットで、鉄が増加すると、結腸細胞中及び血漿中のガンマ−トコフェロールレベルの有意な低下(それぞれ、32%及び18%)、並びに結腸細胞中のアルファ−トコフェロールレベルの有意な低下(22%)が観察されることを明確に示した。鉄の増加は、肝臓又は糞便におけるアルファ−又はガンマ−トコフェロール濃度に何も影響しなかった。消化管における鉄濃度は、小腸に比べ、結腸で大幅に高い。結腸における鉄濃度はその他の組織よりも10倍を超えて高い推定されている(Babbs, C.F., Free radicals and the etiology of colon cancer. Free Radic Biol Med, 1990. 8(2): p. 191-200)。したがって、結腸内でのフリーラジカルの生成は、鉄が触媒している反応である可能性が高い。
【0143】
ヒドロキシルラジカルは、水素ラジカルを引き抜いて安定な水分子を形成し、脂質ラジカルが残る。全てのトコフェロール及びトコトリエノールはこれらのヒドロキシルラジカルを中和することができ、これによって、脂質フリーラジカルの形成が予防されている。しかし、一度、脂質ラジカルが生成されると、抗酸化物質の活性は、その脂質ラジカルと同じ局在をする能力に関係する。ビタミンEアイソフォームは脂質膜に組み込まれるのに最適なフィチル側鎖長を有し、これらの分子が膜から脂質ラジカルを除去するために理想的な分子となっていることが示されている。
【0144】
除去されない脂質フリーラジカルは、酸素とすみやかに反応して過酸化脂質ラジカルを生成する(図30A)。トコフェロール/トコトリエノールは、過酸化脂質に水素ラジカルを供与することができ、その結果、トコフェロール/トコトリエノールラジカルが生成され、これはクロマン環構造及び生じた脂質ヒドロペルオキシドで安定化されている(図30B)。通常の条件下では、フリーラジカルの増殖はこの段階で停止する。トコフェロール/トコトリエノールラジカルは、2つ目の過酸化脂質ラジカルと反応して、電子数が偶数であるトコフェロール/トコトリエノール過酸化物を生成することができる(図30C)。ヒドロ/アルキル過酸化物分子はフリーラジカルではないが、O−O結合はエネルギーが高く、該結合の切断はエネルギー的に有利である(図30D)。ヒドロペルオキシドの破壊を促進することが知られている最も強力な2つの触媒は銅と鉄である。本願中で既に述べたように、大腸は特に濃度の高い鉄源である。したがって、上記ヒドロペルオキシドはヒドロキシルラジカルと酸化脂質ラジカルとに分解され、再びフリーラジカルの増殖連鎖が開始される。遊離の脂質ヒドロペルオキシドのように、トコフェロール/トコトリエノール過酸化物は、鉄又は銅の存在下で分解されやすいと推測される。
【0145】
本発明は、この過酸化物を安定なトコフェロール/トコトリエノールアルキルエーテルと脂質アルデヒドとに内部分解する新規の機構を提出する。この提出される反応は、熱力学的に安定な2つの生成物を生じる。この機構(図31A〜C)により、内生の脂質中に存在する3種類の主要な不飽和脂肪酸残基(リノレン酸、リノール酸、及びオレイン酸)から生成する過酸化物がトコフェロール/トコトリエノールにより中和されることが提案される。本機構はガンマ−トコフェロール選択的であると考えられ、また、ヒトで、アルファ−トコフェロールではなくガンマ−トコフェロールの副産物であるC30、C32、及びC36の生成が観察されたことにより裏付けられている。鉄存在下で分解される中性トコフェロール/トコトリエノールの反応で生じる最初のヒドロペルオキシドの分解から安定な生成物が生じるような機構はない(図32)。この反応は、ヒドロキシルラジカル及び酸化脂質ラジカルを生じ、したがって古典的な手段によって中和される必要がある。酸化脂質ラジカルは自発的にアルデヒド及びラジカルアルカン又はアルケンに分解され得る(図33)。本発明者らは、トコフェロール/トコトリエノールが、生じたフリーラジカルアルカンを中和することができるという追加的な機構を提出する。ガンマ−トコフェロール/トコトリエノールの立体障害のない芳香環構造は、ラジカルアルカンから水素ラジカルを受容することができ、その結果、環が安定化されたトコフェロール/トコトリエノールラジカル及び安定なアルカンが生じることを提案する(図34)。この機構により、ガンマ−トコフェロール/トコトリエノールは最大6個までのアルカンラジカルを中和することができる。この仮説は、芳香環の二重結合が1個まで還元されたガンマ−トコフェロールが観察されたことにより裏付けられている。したがって、ガンマ−トコフェロールは最大4個の水素ラジカルを受容できると考えられる(図34)。これら2つの機構から、1分子のガンマ−トコフェロール/トコトリエノールは6個のフリーラジカルを中和することができると考えられる。
【0146】
前述のように、提出されたこれらの機構により生じるガンマ−トコフェロール関連代謝産物は、肝臓での初回通過代謝中にP450反応を介したω酸化を受ける(図35)。
【0147】
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【0148】
全ての引用文献を参照により本願に援用する。
【0149】
1又は複数の実施形態に関連して本発明を記載したが、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更及び修正が可能であることは当業者には明白である。
【0150】
【表1】

【表2】


【表3】









【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】


【表9】

【表10】


【表11】


【表12】

【表13】


【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の1実施形態におけるCRC/OC診断バイオマーカーパネルの同定に含まれるステップの概略を示す図である。
【図2】マイクロアレイ予測解析(prediction of microarrary analysis)(PAM)の訓練誤差プロット(図2A)及び交差検定後の誤分類エラープロット(図2B)を示す図である。
【図3】PAM出力を交差検定した、図2で作成した分類器に基づく全ての試料についての診断確率を示す図である。
【図4】交差検定した確率に基づく受信者動作特性曲線を示す図である。
【図5】半分の試料を訓練に用い、残りの半分を盲検用のテストセットに用いたときの、盲検試料に対する診断予測を示す図である。
【図6】盲検テストセットの分析に基づく予測結果(図6A)及び受信者動作特性曲線(図6B)を示す図である。
【図7】選択された6個のバイオマーカーについての生のFTMSスペクトルを示す図である(FTMS中性質量を示す;図7A〜7F)。上のパネル:正常試料5検体;下のパネル:CRC陽性5試料検体。
【図8】バイオマーカー6個のQSTARにより抽出されたイオンクロマトグラムを示す図である(名目的な検出質量を示す:図8A〜8F)。上のパネル:正常試料5検体;下のパネル:CRC陽性5試料検体。
【図9】QSTARで検出された、保持時間ウィンドウ16〜17分、正常5検体(図9A)及びCRC5検体(図9B)の血清試料について抽出された質量スペクトルの平均並びに純差(図9C)を示す図である。
【図10】CRC試料5検体及び正常試料5検体の、FTMS分析(図10A)及びQ-star分析(図10B)により得られた平均CRCバイオマーカー強度を示す図である。各バイオマーカーについて、1番目のカラムはCRC陽性;各バイオマーカーについて、2番目のカラムは正常を示す図である。
【図11】FTMSデータセットで検出された、ビタミンE様ファミリーの一部である30個の代謝産物のグラフを示す図である。これらはその含有する炭素数にしたがって分類することができる。ガンマトコフェロール(GT)及びアルファトコフェロール(AT)の強度も示す。
【図12】ガンマトコフェロール及びトコトリエノールの構造(図12A及び12B)、並びにMSMS及びNMRによって決定された炭素数28の6種類のビタミンE様分子の構造(図12C〜12H)を示す図である。
【図13】中性質量が448.3726であるバイオマーカー(C2848)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図14】中性質量が464.3522であるバイオマーカー(C2848)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図15】中性質量が446.3522であるバイオマーカー(C2846)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図16】中性質量が466.3661であるバイオマーカー(C2850)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図17】中性質量が450.3726であるバイオマーカー(C2850)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図18】中性質量が468.3840であるバイオマーカー(C2852)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図19A】中性質量が538.4259であるバイオマーカー(C3258)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図19B】中性質量が538.4259であるバイオマーカー(C3258)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図20A】中性質量が592.4711であるバイオマーカー(C3664)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図20B】中性質量が592.4711であるバイオマーカー(C3664)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図21A】中性質量が594.4851であるバイオマーカー(C3666)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図21B】中性質量が594.4851であるバイオマーカー(C3666)の、主要なMS/MSフラグメントの推定構造を示す図である。
【図22】448.3406(C28H48O4)のH NMRスペクトルを示す図である。
【図23】464.3522(C28H48O5)のH NMR分析を示す図である。
【図24】446.3406(C28H46O4)のH NMR分析を示す図である。
【図25】466.3661(C28H50O5)のH NMR分析を示す図である。
【図26】MS/MSハイスループットスクリーニング法の概略を示す図である。
【図27A】6個のCRCバイオマーカーの推移及び内部標準の推移(図27A〜27B)並びにハウスキーパーの推移(図27G)の解析画像スクリーンショット(analyst screenshots)を示す図である。各頁につき、標準的な「正常」個体及び標準的な「CRC陽性」個体におけるバイオマーカー2個の推移についてのピーク領域を示している。上の4つのプロットは正常のもので、下の4つはCRC陽性のものである。BM:バイオマーカー、IS:内部標準。
【図27B】6個のCRCバイオマーカーの推移及び内部標準の推移(図27A〜27F)並びにハウスキーパーの推移(図27G)の解析画像スクリーンショット(analyst screenshots)を示す図である。各頁につき、標準的な「正常」個体及び標準的な「CRC陽性」個体におけるバイオマーカー2個の推移についてのピーク領域を示している。上の4つのプロットは正常のもので、下の4つはCRC陽性のものである。BM:バイオマーカー、IS:内部標準。
【図27C】6個のCRCバイオマーカーの推移及び内部標準の推移(図27A〜27B)並びにハウスキーパーの推移(図27G)の解析画像スクリーンショット(analyst screenshots)を示す図である。各頁につき、標準的な「正常」個体及び標準的な「CRC陽性」個体におけるバイオマーカー2個の推移についてのピーク領域を示している。上の4つのプロットは正常のもので、下の4つはCRC陽性のものである。BM:バイオマーカー、IS:内部標準。
【図27D】6個のCRCバイオマーカーの推移及び内部標準の推移(図27A〜27B)並びにハウスキーパーの推移(図27G)の解析画像スクリーンショット(analyst screenshots)を示す図である。各頁につき、標準的な「正常」個体及び標準的な「CRC陽性」個体におけるバイオマーカー2個の推移についてのピーク領域を示している。上の4つのプロットは正常のもので、下の4つはCRC陽性のものである。BM:バイオマーカー、IS:内部標準。
【図28】疾患に罹患していない個体288人の最終HTS結果に基づく、正常集団の分布を示す図である。−1.3は、この値より低い値であればCRCのリスクが高いと見なされるように選ばれたカットオフ値を示している(図29参照)。
【図29】HTS診断出力を示す図である。図28に示される正常な対象の分布に基づくカットオフ値を、特異度が90.5%に達するように選ぶ。これは、患者スコアが−4〜−1.3であればCRCに対して高リスクであり、スコアが−1.3〜0.8が中リスク、スコアが−0.8より高ければ低リスクであることを意味する。推奨される対応についても示す。
【図30A】脂質過酸化のガンマ−トコフェロール/トコトリエノール中和を示す図である。不飽和脂肪酸の自己酸化(図30A)、ガンマ−トコフェロールによるペルオキシラジカルの安定化(図30B)、ガンマ−トコフェロールラジカルによるペルオキシラジカルとの反応(図30C)及びガンマ−トコフェロールにより形成される準安定過酸化物(図30D)を示す図である。
【図30B】脂質過酸化のガンマ−トコフェロール/トコトリエノール中和を示す図である。不飽和脂肪酸の自己酸化(図30A)、ガンマ−トコフェロールによるペルオキシラジカルの安定化(図30B)、ガンマ−トコフェロールラジカルによるペルオキシラジカルとの反応(図30C)及びガンマ−トコフェロールにより形成される準安定過酸化物(図30D)を示す図である。
【図31A】鉄存在下におけるガンマ−トコフェロール過酸化物の内部分解を示す図である。図31Aはリノレン酸に由来するC30系列のトコフェロール代謝産物を示す。図31Bはリノール酸に由来するC32系列のトコフェロール代謝産物を示す。図31Cはオレイン酸に由来するC36系列のトコフェロール代謝産物を示す図である。
【図31B】鉄存在下におけるガンマ−トコフェロール過酸化物の内部分解を示す図である。図31Aはリノレン酸に由来するC30系列のトコフェロール代謝産物を示す。図31Bはリノール酸に由来するC32系列のトコフェロール代謝産物を示す。図31Cはオレイン酸に由来するC36系列のトコフェロール代謝産物を示す図である。
【図32】鉄存在下におけるヒドロペルオキシドの分解を示す図である。
【図33】フリーラジカルの自然発生的な分解を示す図である。図33Aは、点線Aで示す結合が切断されて生じる長鎖アルデヒド及び短鎖アルカンラジカルを示す。図33Bは結合「B」の自然発生的な切断(点線B)によって生じる長鎖アルカンラジカル及び短鎖アルデヒドを示す。
【図34】ガンマ−トコフェロールがフリーアルカンラジカルを中和することができることを示す図である。立体障害のないガンマ−トコフェロール/トコトリエノールの芳香環構造は、ラジカルアルカンから水素ラジカルを受容することができ、その結果、環が安定化されたトコフェロール/トコトリエノールラジカル及びアルケンが生じる(図34A)。この水素ラジカルの受容反応は4回起こることができ、環構造の二重結合を1個にまで還元する(図34B)。
【図35】肝臓のP450代謝によるオメガカルボキシル化を示す図である。
【図36】正常な状態(図36A)並びにCRC及びOC(図36B)における、ビタミンE及び関連代謝産物の役割についての仮説を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の結腸直腸癌(CRC)又は卵巣癌(OC)の診断に使用するための代謝産物マーカーの同定方法であって、
結腸直腸癌患者から採取した試料であって、未同定の代謝産物を複数含む前記試料を、高分解能質量分析計に導入するステップと、
代謝産物の同定・定量用データを得るステップと、
前記同定・定量用データのデータベースを作成するステップと、
前記試料から得られた前記同定・定量用データを、対照試料から得られた対応データと比較するステップと、
対象者の結腸直腸癌及び卵巣癌の診断に使用することができる、異なる1又は複数の代謝産物を同定するステップと
を含むことを特徴とする、同定方法。
【請求項2】
代謝産物が、表3に記載の代謝産物群、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最適な診断に必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
高分解能質量分析計が、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
代謝産物が、ダルトンで測定した精密な中性質量が、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711、及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
代謝産物が、ダルトンで測定した精密な中性質量が、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有し、かつ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
代謝産物が、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6の分子式を有する代謝産物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
代謝産物が、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物の代謝誘導体であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
表3に記載の代謝産物又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される、CRC/OC癌特異的代謝マーカー。
【請求項10】
精密な中性質量(ダルトンで測定)が、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有する代謝産物(+/−5ppmの差は同じ代謝産物を示すものとする)、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載のマーカー。
【請求項11】
マーカーが、ダルトンで測定した精密な中性質量が、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有し、かつ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載のマーカー。
【請求項12】
マーカーが、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6の分子式を有する代謝産物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載のマーカー。
【請求項13】
代謝産物が、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物の代謝誘導体であることを特徴とする、請求項12に記載のマーカー。
【請求項14】
CRC若しくはOCの存在、又はCRC若しくはOCを発症する危険性について患者を診断する方法であって、
前記患者から採取した試料を、表3の代謝産物リスト又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される1又は複数の代謝マーカーの有無についてスクリーニングするステップを含み、1又は複数の前記代謝マーカーの強度の差が、CRC若しくはOCの存在、又はCRC若しくはOCを発症する危険性を指し示すことを特徴とする、診断方法。
【請求項15】
代謝マーカーが、精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有する代謝マーカー、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択され、1又は複数の前記代謝マーカーが存在しないことが、CRC若しくはOCの存在、又はCRC若しくはOCを発症する危険性を指し示すことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
マーカーが、ダルトンで測定した精密な質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有し、かつ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
マーカーが、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6の分子式を有する代謝産物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
代謝産物が、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物の誘導体であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
疾患状態が未知の被検者について、CRC若しくはOCの有無、又はCRC若しくはOCを発症する危険性を診断する方法であって、
前記被検者から血液試料を採取するステップと、
前記血液試料を分析し、表3に記載の代謝産物又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択される分子についての定量用データを得るステップと、
前記被検者の前記分子について得られた定量用データを、複数人のCRC若しくはOC陽性のヒトの前記分子から得られた定量用データ又は複数人のCRC若しくはOC陰性のヒトから得られた定量用データと比較するステップと、
前記比較を用いて、被検者がCRC若しくはOCに陽性若しくは陰性である可能性、又はCRC若しくはOCを発症する危険性を決定するステップと
を含むことを特徴とする診断方法。
【請求項20】
分子が、精密な中性質量が、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851あることで同定される分子、又はこれらの分子と実質的に等しい質量を有する分子、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
分子が、ダルトンで測定した精密な中性質量が、446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有し、かつ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する分子、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
分子が、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6の分子式を有する分子からなる群から選択されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
分子が、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物の代謝誘導体であることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
分子が、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)法又は直接導入三連四重極質量分析法によって分析されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
分子の各々の強度推移及び内部標準の強度推移が測定されることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
患者の分子の中で最も低い平均正規化log(2)変換率を決定することで患者スコアを作成することを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
患者スコアと、正常個体から作成した患者スコアとを比較することによって、CRC若しくはOCの有無、又はCRC若しくはOCを発症する危険性を診断することを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
抗酸化療法が有効である患者の特定及び診断方法であって、
被検者から血液試料を採取するステップと、
前記血液試料を分析し、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体の全て又はサブセットについての定量用データを得るステップと、
前記被検者の前記分子について得られた定量用データを、複数人のCRC又はOC陰性のヒトの分析から得られた参照用データと比較するステップと、
前記比較を用いて、被検者にそのような療法が有効である可能性を決定するステップと
を含むことを特徴とする、特定及び診断方法。
【請求項29】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、表3に記載の代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、精密な中性質量(ダルトンで測定)が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の分子量を有する代謝産物(+/−5ppmの差は同じ代謝産物を示すものとする)、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、ダルトンで測定した精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有し、かつ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6の分子式を有する代謝産物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
CRC若しくはOCを予防、治癒、若しくは安定化するように、又はCRC若しくはOCに関連する症状を改善するように計画された食事療法、化学療法、又は生物学的療法に反応する個体の診断方法であって、
被検者から、1又は複数の血液試料を、単回採取又は経時的な複数回採取によって採取するステップと、
前記血液試料を分析し、トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE様分子、又は前記代謝産物類の代謝誘導体の全て又はサブセットについての定量用データを得るステップと、
前記被検者試料の前記分子について得られた定量用データを、複数人のCRC又はOC陰性のヒトの前記分子から得られた参照用データと比較するステップと、
前記比較を用いて、前記被検者の代謝状態が前記治療中に改善されているかを判定するステップと
を含むことを特徴とする、診断方法。
【請求項34】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、表3に記載の代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、精密な中性質量(ダルトンで測定)が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の分子量を有する代謝産物(+/−5ppmの差は同じ代謝産物を示すものとする)、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、ダルトンで測定した精密な中性質量が446.3406、448.3563、450.3726、464.3522、466.3661、468.3840、538.4259、592.4711及び594.4851であるか又は実質的にそれらと同等の中性質量を有し、かつ図13〜21のいずれか1つに示されるLC−MS/MSフラグメントパターンを有する代謝産物、又はそれらのフラグメント若しくは誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
トコフェロール、トコトリエノール、ビタミンE関連代謝産物、又は前記代謝産物類の代謝誘導体が、C28H46O4、C28H48O4、C28H50O4、C28H48O5、C28H50O5、C28H52O5、C32H58O6、C36H64O6及びC36H66O6の分子式を有する代謝産物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図27D】
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【図28】
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【図29】
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【図30A】
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【図30B】
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【図31A】
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【図31B】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2009−508091(P2009−508091A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529437(P2008−529437)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001502
【国際公開番号】WO2007/030928
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】