説明

ビタミンK依存性タンパク質の発現収率を増加させる方法

本発明は、細胞培養における1つ又はそれ以上の機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現のためのi)ビタミンKの還元型及び/又はii)ビタミンKアナログの還元型及び/又はiii)ビタミンK前駆体の還元型を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物の使用、並びにi)ビタミンKの還元型及び/又はii)ビタミンKアナログの還元型及び/又はiii)ビタミンK前駆体の還元型を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物を発酵プロセスの前及び/又は間に細胞培養培地に添加する、1つ又はそれ以上のビタミンK依存性タンパク質を発現する真核細胞の発酵方法を包含する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ビタミンKは、γ−カルボキシグルタメート残基(Gla残基)を形成するための、タンパク質中のいくつかのグルタミン酸残基のカルボキシル化に関与する。修飾された残基は、Glaドメインと呼ばれる特定のタンパク質ドメイン内に位置する。Gla残基は、通常、カルシウム結合に関与する。Gla残基は、全ての公知のGlaタンパク質の生物活性にとって必須である。
【0002】
GluをGlaへ変換するためにビタミンKがどのように使用されるかという生化学は、過去30年にわたって解明された。細胞内で、ビタミンKは、酵素ビタミンKエポキシドレダクターゼ(VKOR)によるビタミンKの還元型(ビタミンKヒドロキノンと呼ばれる)への電子還元を受ける。VKOR(VKORC1)をコードする遺伝子は、最近同定され、非特許文献1に詳細に記載されている。次いで、別の酵素が、ビタミンKヒドロキノンを酸化し、GlaへのGluのカルボキシル化を可能にし;この酵素は、γ−グルタミルカルボキシラーゼ又はビタミンK依存性カルボキシラーゼ(VKGC)と呼ばれる。カルボキシラーゼ酵素が同時にビタミンKヒドロキノンをビタミンKエポキシドへ酸化することができる場合にのみ、カルボキシル化反応は進行し;カルボキシル化反応及びエポキシ化反応は、共役反応であると言われている。次いで、ビタミンKエポキシドは、ビタミンKエポキシドレダクターゼによってビタミンKへ再変換される。これらの2つの酵素は、いわゆるビタミンKサイクルを構成する(非特許文献2)。
【0003】
現在、以下のヒトGla含有タンパク質が、一次構造のレベルまで特徴付けられた:血液凝固第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、及び第X因子、抗凝固性プロテインC及びS、及び第X因子標的化プロテインZ、並びに骨Glaタンパク質 オステオカルシン、石灰化抑制マトリックスGlaタンパク質(MGP)、細胞増殖調節増殖停止特異的遺伝子6タンパク質(Gas6)、並びに機能が現段階では未知である4回膜貫通Glaタンパク質(TMGP)。Gas6は、Axl受容体チロシンキナーゼを活性化し、ある細胞において細胞増殖を刺激するか又はアポトーシスを防止する、増殖因子として機能し得る。それらの機能が公知であった全ての場合において、これらのタンパク質中のGla残基の存在は、機能活性に必須であることがわかった。多数のGla残基が、リン脂質膜表面への結合と組み合わせてのビタミンK依存性タンパク質の活性のために必要とされる構造変化をGlaドメインが受けることを可能にする。
【0004】
ビタミンK依存性血液凝固タンパク質は、カルシウムイオンの存在下で膜表面へ結合するために完全な又はほぼ完全なカルボキシル化を必要とする。ビタミンKアンタゴニストがγカルボキシル化を阻害する場合、このように低カルボキシル化(undercarboxylated)ビタミンK依存性タンパク質は、カルシウム依存性構造を形成することができず、このことは、リン脂質膜への低親和性及びより低い活性をもたらす。血友病B患者において見られる低カルボキシル化第IX因子突然変異体の失われた凝固促進活性は、損なわれたカルシウム誘導構造変化、及びリン脂質小胞へ結合する能力の低下が原因であるとされ得る。
【0005】
バイオテクノロジーは、低コスト生物医薬品を製造する見込みを提供した。凝固因子に関して、これは、より広範囲の血友病患者に適切な治療を提供する見込みを与えた。残念ながら、天然の生体分子の固有の複雑性、及び遺伝子操作細胞中におけるそれらの組換えタンパク質相当物の合成に関連する様々な制限に大部分起因して、この見込みは達成されなかった。
【0006】
本出願は、商業生産について十分な収率で、それらが活性となるように適切に処理された第IX因子又は第VII/VIIa因子などのビタミンK依存性タンパク質を製造する方法についての必要性に取り組む。ビタミンK依存性血液凝固タンパク質の入手可能性を増加させ、血友病Bなどの出血障害の治療についての世界的な医学的必要性を満たすために、遺伝子操作細胞からの、完全に機能性のタンパク質、この例においては第IX因子、の製造における改善が、必要とされる。具体的には、本質的に完全な翻訳後修飾を得るために必要とされる酵素活性の不足の同定及び補完が、必要である。
【0007】
従って、宿主生物中におけるビタミンK依存性タンパク質の発現、特に、組換え発現を増加させ、発現されるビタミンK依存性タンパク質の改善された分泌率及び/又は活性をもたらすための強い必要性が存在する。
【0008】
γ−カルボキシル化タンパク質の組換え過剰発現が、より高い分泌率でプロペプチド切断及びγ−カルボキシル化の制限をもたらし、従って、ビタミンKが培養培地中において過剰に利用可能である場合も、Gla残基で部分的にしか占められていないタンパク質をもたらすことが、ヒト第IX因子において示された。これは、活性が低下したビタミンK依存性組換えタンパク質の変異体の分泌をもたらす。培地へのビタミンKの添加は、高発現レベルでは第IX因子活性を改善しなかった。活性第IX因子を誘発するための細胞培養培地中に存在するビタミンKの必要量は、5μg/mlで飽和に達することが示された。このレベル未満では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞からの活性第IX因子の分泌量は、ビタミンK濃度に依存した(非特許文献3)。
【0009】
ビタミンK及びビタミンKアナログは、メナジオンと呼ばれる共通の2−メチル−1,4−ナフトキノン構造を有する、親油性疎水性ビタミンの群を構成する。
【0010】
ビタミンのビタミンK群の全てのメンバーは、メチル化ナフトキノン環構造を共有し、3位に結合された脂肪族側鎖が異なる。
【0011】
植物及びシアノバクテリアは、クロロフィル中におけるものと同一のフィチル側鎖を有するフィロキノン(ビタミンK1としても公知)と呼ばれるたった1つの化学形態を、ほぼ常に、合成している。
【0012】
腸内で細菌によって通常産生されるメナキノン(ビタミンK2としても公知)は、フィチル鎖ではなく繰り返しプレニル単位のポリマーを3−側鎖が大部分含む点で、フィロキノンとは相違する。命名のために、メナキノンはプレニル単位の数に従って分類され、この数は接尾辞として与えられ(即ち、メナキノン−N(Menquinone−N)はMk−Nと省略される)、一部のプレニル単位はまた、飽和され得、接頭辞ジヒドロ、テトラヒドロなどによって示され、MK−N(H2)、MK−N(H4)などと省略される。
【0013】
ナフトキノンは官能基であり、従って、作用機序が全てのビタミンKについて類似することが一般的に受け入れられている。
【0014】
メナジオン及び還元型メナジオンがγカルボキシル化の促進において不活性であることも、細胞を含まない系において示された(非特許文献4)。
【0015】
細胞培養培地へビタミンKを補うことに加えて、機能的ビタミンKの発現を高めるための他の手段が試されてきた。
【0016】
ビタミンK依存性γ−カルボキシラーゼ(VKGC)の過剰発現は、第IX因子の場合、改善されたタンパク質分泌をもたらさなかった(非特許文献5)。
【0017】
最近、あるグループが、VKGC及びVKORの両方の同時発現が機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現レベルを増加させ得ることを示した(特許文献1〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 2005/030039
【特許文献2】WO 2005/040367
【特許文献3】WO 2006/089613
【特許文献4】WO 2006/101474
【特許文献5】WO 2007/065173
【特許文献6】WO 2007/075976
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Rost et al, 2004 ((2004) Nature, 427, 537−541)
【非特許文献2】http://en.wikipedia.org/wiki/Vitamin K - cite note-Stafford-28#cite note-Stafford-28
【非特許文献3】Kaufman, R. J. et al. (1986), J.Biol.Chem., 261, 9622−9628
【非特許文献4】Sadowski et al. (1976), J.Biol.Chem. Vol. 251, No. 9 pp. 2770−2776
【非特許文献5】Rehemtulla, A. et al. (1993) PNAS 90, 4611−4615
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の概要
本発明の発明者らは、i)ビタミンKの還元型及び/又はii)ビタミンKアナログの還元型及び/又はiii)ビタミンK前駆体の還元型を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物をビタミンK依存性タンパク質の細胞培養培地に補うことによって、同量の同一しかし非還元型のそれぞれのビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体を細胞培養培地に添加する場合に得られる発現収率と比較して、それぞれの活性ビタミンK依存性タンパク質の発現収率が顕著に増加し得ることを、驚くべきことに見出した。
【0021】
本発明の一実施態様は、哺乳動物細胞における機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現収率を高めるための、ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログタンパク質の還元型の使用である。
【0022】
本発明の他の実施態様は、組換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物の製造方法であって、発現相の間の少なくともある時点でビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型を含む細胞培養培地において、該生物活性ビタミンK依存性タンパク質を発現するプロモーターに機能的に連結されたビタミンK依存性タンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を有する哺乳動物細胞を使用する工程と、ビタミンK依存性タンパク質産物を採取する工程とを含む方法に関する。場合により、哺乳動物細胞株は、少なくとも1つのプロモーターに機能的に連結されたプロセシング因子をコードする少なくとも1つの遺伝子をさらに含む。好ましい実施態様において、ビタミンK依存性タンパク質産物は、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC又はプロテインSである。より好ましくは、ビタミンK依存性タンパク質は、第IX因子又は第VII因子である。
【0023】
好ましい実施態様において、プロセシング因子は、1つ又はそれ以上のプロモーターに機能的に連結された、塩基性アミノ酸対変換酵素(PACE)、ビタミンK依存性エポキシドレダクターゼ(VKOR)、ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)及びそれらの組み合わせより選択される核酸である。より好ましくは、プロセシング因子タンパク質は、VKOR及びVKGCを含む。好ましくは、遺伝子のうちの少なくとも1つは、過剰発現される。
【0024】
従って、本発明は、細胞培養における1つ又はそれ以上の機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現のためのi)ビタミンKの還元型及び/又はii)ビタミンKアナログの還元型及び/又はiii)ビタミンK前駆体の還元型を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物の使用、並びに、1つ又はそれ以上のビタミンK依存性タンパク質を発現する真核細胞の発酵方法であって、ビタミンKの還元型及び/又はii)ビタミンKアナログの還元型及び/又はiii)ビタミンK前駆体の還元型を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物を発酵プロセスの前及び/又は間に細胞培養培地に添加する方法を包含する。
【0025】
本発明はまた、発酵における細胞の生存能力を高めるためのビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体の還元型の使用を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】前駆体第IX因子のビタミンK依存性カルボキシル化を示す図である。
【図2】ビタミンK1、K2及びメナジオンの化学式を示すである。
【図3】メナジオン重亜硫酸ナトリウムの還元を示す図である。
【図4】実験2におけるリアクターA4及びB4についての総生細胞数プロットを示す図である。
【図5】実験3における4個のリアクターの生細胞密度プロットを示す図である。
【図6】MSB及びrMSBの増量滴定下での時間に対する細胞の生存能力を示す図である。
【図7】MSB及びrMSBの増量滴定下での生細胞密度データを示す図である。
【図8】(a)及び(b)は、MSBからrMSBへの変更に伴うピーク比活性の増加のTukey-Kramer法による群間比較検定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
記載の実施態様は本発明の好ましい実施態様を示す一方、本発明の要旨から逸脱することなく、改変が当業者によって考えられることが理解される。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定される。
【0028】
本発明の好ましい実施態様は、細胞培養において機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現収率を増加させるためのビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型の使用に関する。ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型を細胞培養培地に添加し、ここで、それは細胞によって取り込まれる。
【0029】
好ましくは水溶性の、ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型が使用される。しかし、エンドサイトーシス及び/又は特定の受容体(recpetor)によって、不水溶性の、ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型もまた、細胞によって取り込まれる。
【0030】
本発明の一実施態様は、細胞培養における機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現のためのビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型の使用に関し、ここで、同量の同一しかし非還元型のそれぞれのビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体を同一の様式で細胞培養培地に添加する場合に得られる発現収率と比較して、それぞれの機能的ビタミンK依存性タンパク質の発現収率が増加する。本発明の好ましい実施態様は、哺乳動物細胞における生物活性ビタミンK依存性タンパク質の収率を高めるための方法に関する。優先的には、細胞は遺伝子操作される。
【0031】
本発明の実施態様を、第IX因子及び第VII因子の産生に関して説明する。しかし、開示の方法は、全てのビタミンK依存性タンパク質へ適用可能である:血液凝固第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、及び第X因子、抗凝固性プロテインC及びS、及び第X因子標的化プロテインZ、並びに骨Glaタンパク質オステオカルシン、石灰化抑制マトリックスGlaタンパク質(MGP)、細胞増殖調節増殖停止特異的遺伝子6タンパク質(Gas6)、並びに4回膜貫通Glaタンパク質(TMGP)。
【0032】
本発明の好ましい実施態様において、ビタミンK依存性タンパク質は、発現相の間のある時点でビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型を含む細胞培養培地中において発現される。
【0033】
ビタミンK及びビタミンKアナログは、メナジオンと呼ばれる共通の2−メチル−1,4−ナフトキノン構造を有する、親油性疎水性ビタミンの群を構成する。
【0034】
ビタミンのビタミンK群の全てのメンバーは、メチル化ナフトキノン環構造を共有し、3位に結合された脂肪族側鎖が異なる。
【0035】
植物及びシアノバクテリアは、クロロフィル中におけるものと同一のフィチル側鎖を有するフィロキノン(ビタミンK1としても公知)と呼ばれるたった1つの化学形態を、ほぼ常に、合成している。
【0036】
腸内で細菌によって通常産生されるメナキノン(ビタミンK2としても公知)は、フィチル鎖ではなく繰り返しプレニル単位のポリマーを3−側鎖が大部分含む点で、フィロキノンとは相違する。命名のために、メナキノンはプレニル単位の数に従って分類され、この数は接尾辞として与えられ(即ち、メナキノン−nはMK−nと省略される)、一部のプレニル単位はまた、飽和され得、接頭辞ジヒドロ、テトラヒドロなどによって示され、MK−n(H2)、MK−n(H4)などと省略される。
【0037】
ナフトキノンは官能基であり、従って、作用機序が全てのビタミンKについて類似することが一般的に受け入れられている。
【0038】
VKGCについての補因子として作用するフィロキノン及びいくつかのメナキノンについての相対能力が、部分的に精製された肝ミクロソーム酵素調製物において測定された(Buitenhuis et al., Biochim. Biophys Acta (1990) 1034:170−175)。メナキノンの活性は、3−側鎖長と共に変化し、長さが増加するにつれて減少した。
【0039】
本明細書において使用される場合、用語「ビタミンK」は、以下を含む:
a)ビタミンK1(フィロキノン、図2を参照のこと)、例えば、その様々な塩、例えば、ビタミンK1二リン酸塩(2−メチル−3−フィチル(pyhtyl)−1,4−ナフトヒドロキノン−1,4−ジホスファート)、ビタミンK1二酢酸塩(2−メチル−3−フィチル−1,4−ナフトヒドロキノン−1,4−ジアセタート)及びビタミンK1二硫酸塩:(2−メチル−3−フィチル−1,4−ナフトヒドロキノン−1,4−ジスルファート)
b)可変数(n)を有するビタミンK2(メナキノン、図2を参照のこと)
c)ビタミンKアナログ
d)ビタミンK前駆体、例えば、メナジオン(図2を参照のこと)、メナジオールジアセタート(2−メチル−1,4−ナフトヒドロキノンジアセタート)、メナジオールジホスファート(テトラナトリウム2−メチル−1,4−ナフタレンジオール−ビス(リン酸二水素)六水和物)、メナジオールジブチラート:(2−メチル−1,4−ナフタレンジオールジブチラート)、メナジオールジスルファート:2−メチル−1,4−ナフタレンジオールビス(硫酸水素)二ナトリウム塩、メナジオンニコチンアミド重亜硫酸塩(2−メチル−1,4−ナフタレンジオールビス(硫酸水素)二ナトリウム塩、及びメナドキシム:(3−メチル−4−オキソ−1(4H)−ナフタレニリデン)アミノ]オキシ]−酢酸アンモニウム塩。
【0040】
本明細書において使用される場合、「ビタミンKアナログ」は、化合物が、2−メチル−1,4−ナフトキノン環構造を含み、かつ、ビタミンK依存性タンパク質におけるGla残基へのグルタミン酸残基のビタミンKサイクル依存γカルボキシル化において機能的にビタミンK1の代わりをし得る限り、任意の他の化合物を含む。
【0041】
本明細書において使用される場合、「ビタミンK前駆体」は、哺乳動物細胞によって取り込まれた後に、メチル化 ナフトキノン環構造を含み、かつ、ビタミンK依存性タンパク質におけるGla残基へのグルタミン酸残基のビタミンKサイクル依存γカルボキシル化において機能的にビタミンK1の代わりをし得る化合物へ該哺乳動物細胞によって変換され得る、任意の他の化合物、例えばメナジオンを含む。
【0042】
本明細書において使用される場合、「ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型」は、ビタミンK依存性タンパク質中のGla残基へグルタミン酸残基を変換するカルボキシル化反応においてVKGCの補助基質としてさらなる還元工程の必要性無しに受け入れられる、上記に定義されるようなビタミンK、ビタミンKアナログ及びビタミンK前駆体の種々の形態のヒドロキノン形態を含む、任意の化合物を意味する。
【0043】
ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型は、関心対象のビタミンK依存性タンパク質の発現相の間のある時点で細胞培養培地中に存在しなければならない。細胞培養培地がビタミンKの単一の還元型又はビタミンKアナログの単一の還元型又はビタミンK前駆体の単一の還元型、又はそれらのクラスの化合物の各々の2つ以上のメンバー、並びにそれらのクラスの化合物の各クラスの1つ又はそれ以上のメンバーの組み合わせを含む、ビタミンK依存性タンパク質を発現させる方法が、本発明よって包含される。
【0044】
キノンを還元するための1つの方法は、亜鉛粉末及び塩化亜鉛又は亜鉛粉末及び水素イオンの作用による。
【0045】
酸性pHでの、好ましくは2〜4.5のpHでのアスコルビン酸は(Isaacs et al. (1997) J.Chem.Soc.Perkin Trans. 2, page 1465 to 1467)、キノンを還元する限られた能力を有することが公知である。
【0046】
本発明の一実施態様は、亜鉛によるMSBの還元のために約5.3のpHでのアスコルビン酸と組み合わせて亜鉛粉末を使用することによってrMSBを製造する新規の方法である。アスコルビン酸は、水素イオンの供給源として作用し、rMSBを還元型で維持するのを助ける。
【0047】
本発明の他の実施態様は、発現相の間の少なくともある時点でビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体タンパク質の還元型を含む細胞培養培地において、該生物活性ビタミンK依存性タンパク質を発現するプロモーターに機能的に連結されたビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子を有する哺乳動物細胞を使用する工程と、ビタミンK依存性タンパク質産物を採取する工程とを含む、組換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物の製造方法及びプロセスに関する。場合により、さらに、細胞株は、少なくとも1つのプロモーターに機能的に連結されたプロセシング因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。
【0048】
本明細書において使用される場合、「機能性の」は、ビタミンK依存性タンパク質が、血漿から単離された場合、それぞれのビタミンK依存性タンパク質の好ましくは少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%生物活性を有することを意味する。例えば、第IX因子を発現する場合、その機能性は、MONONINE(登録商標)(CSL Behring)などのヒト血漿に由来する第IX因子標準を参照して決定される。それぞれのビタミンK依存性タンパク質標準の生物活性は、100%であるとされる。それぞれのビタミンK依存性タンパク質は、それぞれのビタミンK依存性タンパク質標準の生物活性の好ましくは少なくとも10%を有する。好ましくは、本発明の実施態様に従うそれぞれのビタミンK依存性タンパク質は、それぞれのビタミンK依存性タンパク質標準の生物活性の少なくとも25%、より好ましくはそれぞれのビタミンK依存性タンパク質標準の生物活性の少なくとも50%を有する。
【0049】
本発明の別の局面は、本発明の方法又はプロセスにおいてビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型を使用することによって、ビタミンK依存性タンパク質の抗原含量に対するビタミンK依存性タンパク質の比活性の比率が、同量の同一しかし非還元型のそれぞれのビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体を同一の様式で細胞培養培地に添加する場合に得られる同一の機能的ビタミンK依存性タンパク質のビタミンK依存性タンパク質の抗原含量に対するビタミンK依存性タンパク質の比活性の比率と比較して、好ましくは少なくとも15%又は好ましくは少なくとも25%、又はより好ましくは少なくとも50%、又はなおより好ましくは少なくとも75%又は少なくとも100%増加することである。
【0050】
非限定的な例として、ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型の存在下で本発明に従って発現されたビタミンK依存性タンパク質第IX因子は、少なくとも0.7、又は好ましくは少なくとも1、又はより好ましくは少なくとも1.5、又はなおより好ましくは少なくとも2の、活性/抗原比率を有する。
【0051】
本発明の別の局面は、本発明の方法又はプロセスにおいてビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型を使用することによって、ビタミンK依存性タンパク質の細胞密度比活性生産性が、同量の同一しかし非還元型のそれぞれのビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体を同一の様式で細胞培養培地に添加する場合に得られる同一の機能的ビタミンK依存性タンパク質の細胞密度比活性生産性と比較して、少なくとも25%又は好ましくは少なくとも50%、又はより好ましくは少なくとも75%増加することである。
【0052】
さらに非限定的な例として、ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型の存在下で本発明に従って発現されたビタミンK依存性タンパク質第IX因子は、少なくとも0.22 U/106細胞/日又は好ましくは少なくともU/106細胞/日又は少なくとも0.37 U/106細胞/日の細胞比活性生産性を有する。
【0053】
ある実施態様において、γ−カルボキシル化は、参照により本明細書に組み入れられるWO 00/54787において議論されるようなγ−カルボキシラーゼについてより低い親和性を有するプロペプチド配列で天然プロペプチド配列を置き換えることによって増加される。有用なプロペプチド配列としては、異種ビタミンK依存性タンパク質についての、野生型配列又はプロペプチド配列の改変形態、又はそれらの組み合わせが挙げられる。ビタミンK依存性タンパク質中のプロペプチド配列は、タンパク質のγカルボキシル化を指示する酵素についての認識エレメントである。ビタミンK依存性タンパク質は、γカルボキシル化部分を高いパーセンテージ含まないならば、完全には機能性でない。従って、これらのタンパク質の組換え型を作製する場合、それらの完全なγカルボキシル化を確実にするためにはメカニズムを適所に置くことが重要である。
【0054】
いくつかのプロペプチド配列の配列アライメントが、WO 00/54787の図3に示されている。従って、本発明において有用であるプロペプチドは、図3に示される配列を有するものであり、ここで、いくつかの有用なプロペプチドの18アミノ酸配列が、γ−カルボキシラーゼについてのこれらのプロペプチドの相対的親和性と共に示されている。低親和性プロペプチドは、プロトロンビン又はプロテインC上のアミノ酸−9又は−13のいずれか1つを修飾することによって作製され得る。好ましい修飾としては、9位でのArg又はHis残基の置換、及び13位でのPro又はSer残基の置換が挙げられる。他の好ましいキメラタンパク質としては、選択されたプロペプチド配列に対して天然でない成熟ビタミンK依存性タンパク質と組み合わせての未改変プロペプチド、又は改変された第IX因子、第X因子、第VII因子、プロテインS、プロテインC及びプロトロンビンからなる群より選択されるプロペプチドが挙げられる。
【0055】
用語「プロセシング因子」は、機能的ビタミンK依存性タンパク質の形成を促進する任意のタンパク質、ペプチド、非ペプチド補因子、基質又は核酸を含む広い用語である。このようなプロセシング因子の例としては、PACE、VKOR及びVKGCが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書において使用される場合、用語「PACE」は、塩基性アミノ酸対変換酵素(又は切断)酵素についての頭字語である。初めはヒト肝臓細胞株から単離されたPACEは、サブチリシン様エンドペプチダーゼ、即ち、タンパク質の塩基性残基、例えば、−Lys−Arg−、−Arg−Arg、又は−Lys−Lys−での切断について特異性を示す、プロペプチド切断酵素である。成熟タンパク質の産生についてプロセシングを必要とするプロタンパク質及びPACEの同時発現は、成熟タンパク質の高レベル発現をもたらす。さらに、生物活性についてγ−カルボキシル化を必要とするタンパク質及びPACEの同時発現は、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞における増加した収率の機能性生物活性成熟タンパク質の発現を可能にする。
【0057】
ビタミンK依存性エポキシドレダクターゼ(VKOR)はビタミンK依存性タンパク質にとって重要であり、何故ならば、ビタミンKは、それが補因子である反応の間、ビタミンKエポキシドへ変換されるためである。ヒトの食事中のビタミンKの量は、限られている。従って、ビタミンKエポキシドは、枯渇を防ぐためにVKORによってビタミンKへ再び変換されなければならない。従って、VKORとの同時トランスフェクションは、ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKCG)などのビタミンK依存性酵素の適切な機能について十分なビタミンKを提供する。ビタミンK依存性VKCGの適切な機能は、ビタミンK依存性凝固因子のGlaドメインの適切なγ−カルボキシル化のために必須である。
【0058】
ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)は、ビタミンK依存性タンパク質の翻訳後修飾に関与する酵素である。VKGCは、カルボキシ基をグルタミン酸中へ組み入れ、約40残基のプロペプチド内のビタミンK依存性タンパク質内の多数の残基を修飾する。ヒトビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼについてのcDNA配列は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,268,275号によって記載されている。
【0059】
ベクターは、複製起点、及び形質転換体の認識を容易にするための選択遺伝子が通常与えられた、宿主において複製する能力を有するDNA構築物である。ベクターは、ビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAを増幅するために及び/又はビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAを発現させるために、本明細書において使用される。発現ベクターは、ビタミンK依存性タンパク質をコードするDNA配列が、適切な宿主中においてビタミンK依存性タンパク質の発現を実行することができる適切な制御配列に機能的に連結されている、複製可能なDNA構築物である。このような制御配列についての必要性は、選択される宿主及び選択される形質転換法に応じて変化する。一般的に、制御配列としては、転写プロモーター、転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボゾーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終了を制御する配列が挙げられる。
【0060】
ベクターは、プラスミド、ウイルス(例えば、アデノウイルス、サイトメガロウィルス)、ファージ、及び組換えによって宿主ゲノム中へ組み込むことができるDNA断片を含む。ベクターは、宿主ゲノムとは無関係に複製及び機能し、又は、ある場合においては、ゲノム自体中へ組み込み得る。発現ベクターは、発現される遺伝子に機能的に連結されており、宿主生物中において機能的である、プロモーター及びRNA結合部位を含有するべきである。
【0061】
DNA領域は、それらが互いに機能的に関連している場合、機能的に連結されているか又は機能的に結合されている。例えば、プロモーターは、配列の転写を制御する場合、コード配列に機能的に連結されており;又は、リボソーム結合部位は、翻訳を可能にするように配置されている場合、コード配列に機能的に連結されている。形質転換宿主細胞は、組換えDNA技術を使用して、1つ又はそれ以上のビタミンK依存性タンパク質ベクターをコードする1つ又はそれ以上の遺伝子を含む1つ又はそれ以上のベクターで形質転換又はトランスフェクトされた細胞である。
【0062】
本発明の実施態様は、ビタミンK依存性タンパク質を処理するために必要な酵素及び補因子を細胞に提供し、その結果、生物活性ビタミンK依存性タンパク質のより高い収率が達成されることに関する。適切なレベルの完全に機能性のビタミンK依存性タンパク質が組換え細胞によって産生される場合、所望の産物から、役に立たない、部分的に修飾された、又は修飾されていないビタミンK依存性タンパク質を除去するために設計される長々しい精製工程が、回避される。これは、生産コストを下げ、患者にとって望ましくない副作用を有し得る不活性物質を排除する。
【0063】
好ましい実施態様において、PACE、VKGC及び/又はVKORの同時発現によってビタミンK依存性タンパク質を製造するための方法は、以下の技術を含み得る。先ず、PACE及びビタミンK依存性タンパク質などの1つを超えるタンパク質についてのコード配列を含有する単一のベクターを、選択した宿主細胞中へ挿入し得る。あるいは、ビタミンK依存性タンパク質及び1つ又はそれ以上の他のタンパク質をコードする2つ又はそれ以上の別個のベクターを、宿主中へ挿入し得る。選択した宿主細胞について好適な条件下で培養すると、2つ又はそれ以上のタンパク質が産生され、成熟タンパク質へのプロタンパク質の切断及び修飾を提供するように相互作用する。
【0064】
別の代替法は、2つの形質転換宿主細胞の使用であり、ここで、一方の宿主細胞は、ビタミンK依存性タンパク質を発現し、他方の宿主細胞は、培地へ分泌されるPACE、VKGC及び/又はVKORの1つ又はそれ以上を発現する。これらの宿主細胞は、細胞外PACEによる成熟形態への切断及びN末端グルタメートのγカルボキシル化を含む、組換えビタミンK依存性タンパク質及び同時発現される組換えタンパク質の発現及び分泌又は放出を可能にする条件下で同時培養され得る。この方法において、PACEタンパク質は、培地中に分泌されるように膜貫通ドメインを欠いていることが好ましい。
【0065】
ある場合において、他の遺伝子に関してビタミンK依存性タンパク質を発現する遺伝子の複数のコピー、2つ又はそれ以上、を有することが望ましい場合があり、逆もまた同様である。これは、様々な方法で達成され得る。例えば、別個のベクター又はプラスミドが使用され得、ここで、ビタミンK依存性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターは、他のポリヌクレオチド配列を含有するベクターよりも多くのコピー数を有し、逆もまた同様である。この状況において、宿主中のプラスミドの継続的な維持を確実にするために、2つのプラスミド上に異なる選択マーカーを有することが望ましい場合がある。あるいは、一方又は両方の遺伝子が宿主ゲノム中へ組み込まれ得、遺伝子の一方は増幅遺伝子(例えば、dhfr又はメタロチオネイン遺伝子の1つ)と結合され得る。
【0066】
あるいは、ビタミンK依存性タンパク質の増加した発現又はビタミンK依存性タンパク質と比べての他のプロセシング因子タンパク質のいずれかの発現を提供する、異なる転写開始速度を有する2つの転写調節領域が使用され得る。別の代替法として、異なるプロモーターが使用され得、ここで、1つのプロモーターは、ビタミンK依存性タンパク質の低レベルの構成的な発現を提供し、一方、第2のプロモーターは、他の産物の高レベルの又は誘導性の発現を提供する。多種多様のプロモーター、例えば、周知の哺乳動物プロモーターであるCMV、MMTV、SV 40又はSRaプロモーターが、選択される宿主細胞について公知であり、当業者によって本発明において容易に選択及び使用され得る。
【0067】
第IX因子又は第VII/VIIa因子などの生物活性ビタミンK依存性タンパク質の産生は、PACE、VKOR及び/又はVKGCの1つ又はそれ以上の過剰発現によって、及び/又はγ−カルボキシル化を最大限にするようなGla領域の修飾によって、場合により最大限にされる。即ち、律速成分が十分な量で発現され、その結果、全システムが機能し、商業的に実現可能な量のビタミンK依存性タンパク質が産生される。
【0068】
適切な宿主細胞としては、原核生物、酵母又はより高等な真核細胞、例えば、哺乳動物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多細胞生物由来の細胞が、組換えビタミンK依存性タンパク質合成について特に適切な宿主であり、哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞培養におけるこのような細胞の増殖は、型通りの手順となった(Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Patterson, editors (1973))。有用な宿主細胞株の例は、VERO及びHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、並びにWI138、HEK 293、BHK、COS−7、Per.C6、HepG2、HeLa、Vero、COS、CV、及びMDCK細胞株である。好ましい細胞株はCHO−K1又はCHO−Sである。
【0069】
このような細胞についての発現ベクターは、複製起点、リボソーム結合部位と共に、発現されかつそれと機能的に結合されたビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAの上流に配置されたプロモーター、RNAスプライス部位(イントロン含有ゲノムDNAが使用される場合)、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列を(必要な場合)通常含む。
【0070】
複製起点は、SV 40又は他のウイルス(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、又はBPV)供給源に由来し得るような、外因性の起点を含めるためのベクターの構築によって提供され得るか、又は宿主細胞染色体複製機構によって提供され得る。ベクターが宿主細胞染色体中へ組み込まれる場合、後者はしばしば十分である。
【0071】
ウイルス複製起点を含有するベクターを使用するのではなく、選択マーカー及びビタミンK依存性タンパク質についてのDNAを用いての同時形質転換法によって哺乳動物細胞を形質転換することができる。好適な選択マーカーの例は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)又はチミジンキナーゼである。
【0072】
一般的に、哺乳動物細胞以外の細胞がビタミンK依存性タンパク質の発現のために使用される場合、関心対象のタンパク質の生物学的機能のために必要とされる翻訳後修飾に必須のタンパク質をコードする他の遺伝子も提供することが必要である場合がある。
【0073】
本発明のクローン化遺伝子は、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、ブタ及びヒトを含む、起源の種をコードし得るが、好ましくはヒト起源のビタミンK依存性タンパク質をコードし得る。本明細書に開示されるタンパク質をコードするDNAとハイブリダイズ可能であるビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAも包含される。
【0074】
このような配列のハイブリダイゼーションは、低ストリンジェンシー条件又は同等のストリンジェント条件下で行われ得る(例えば、標準インサイチュハイブリダイゼーションアッセイにおいて、本明細書に開示されるビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAに対して、60℃での又は70℃でさえの0.3M NaCl、0.03Mクエン酸ナトリウムの洗浄ストリンジェンシーによって示される条件。J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (2d Ed. 1989 Cold Spring Harbor Laboratory)を参照のこと)。
【0075】
細胞培養におけるビタミンK依存性タンパク質の発現のための参照されるプロセスは、3つの主な選択肢がある懸濁細胞培養プロセスである:1.灌流プロセス及び2.バッチプロセス及び3.ドローフィルプロセス。
【0076】
1.灌流プロセス:
懸濁細胞灌流プロセスにおいて、細胞を、動物由来の成分を好ましくは欠く培養培地を含有する種培養容器中へ接種し、細胞が最低限の密度に達するまで増殖させる。続いて、増殖した種培養物を、動物由来の成分を欠く培養培地を含有する大量培養容器へ移し、少なくとも所定の細胞密度が達成されるまで増殖させる。
【0077】
この段階において、細胞を懸濁状態で増殖させ、培養容器内の細胞数を所定値又は臨界値へ増加させる。培地交換は、培養容器に新鮮な培地を連続的に灌流することによって行われる。
【0078】
灌流される培地の量は、細胞密度に依存し、1日(24時間)当たりタンク容量の、一般的に10〜300%、好ましくは10%〜95%、25%〜80%であり得る。
【0079】
細胞密度が生産相の開始に適した値に達すると、タンク中のタンク培地の60〜95%、好ましくは80%が、24時間毎に交換される。80%培地交換はまた、生産相において好ましくは使用される。
【0080】
増殖相において、細胞がある密度に達するまで、培養物を増殖させる。この密度に達すると、培養物は生産相に入る。
【0081】
セットポイントはまた、この時点で変更され、それぞれのビタミンK依存性タンパク質の産生に適した値に設定され得る。培地灌流は、好ましくは連続的に行われる。培地の流量は、規定の時間当たりの培地のパーセンテージタンク容量によって表され得る。培地灌流は、10〜48時間当たり10〜200%タンク容量であり得;好ましくは、培地灌流は、10〜48時間当たり90%、より好ましくは24時間毎に80%タンク容量である。
【0082】
培養容器内での細胞保持は、多数の細胞保持装置を使用して達成され得る。下記の装置セットは全て、このプロセスについて使用され得る。
1.外部セッティングヘッド
2.内部セッティングヘッド
3.連続的な遠心分離機
4.内部又は外部スピンフィルター
5.外部フィルター又は中空繊維カートリッジ
6.超音波細胞分離装置
7.培養容器内部のある長さのパイプ
【0083】
2.バッチプロセス:
2.1 単純なバッチプロセス:
単純なバッチプロセスにおいて、細胞を、動物由来の成分を欠く培養培地を含有する種培養容器中へ接種し、細胞が最低限の密度に達するまで増殖させる。続いて、増殖した種培養物を、動物由来の成分を好ましくは欠く培養培地を含有する大量培養容器へ移す。次いで、培地中の栄養素が使い尽くされるまで、培養容器を操作する。
【0084】
採取時期を決定しなければない。全ての栄養素が使い尽くされるまで、伝統的なバッチは操作される。しかし、これは、細胞溶解を一般的に引き起こし、これは、産物に対して有害であり得るか又は精製に対して問題を引き起こし得る。
【0085】
2.2 フェドバッチプロセス:
前述したように、単純なバッチプロセスは、培養容器に細胞を接種すること、及び培地中の栄養素が使い尽くされるまでタンクを操作することからなる。これのようなバッチプロセスは、タンクへ栄養素の濃縮溶液を供給することによって延長され得る。これは、プロセス時間を延長し、培養容器内のそれぞれのビタミンK依存性タンパク質の産生の増加を最終的にもたらす。
【0086】
通常、培養容器中の最も重要な栄養素は、グルコース濃度である。従って、供給の制御及び開始は、この栄養素のレベルに関連付けられ得る。グルコース濃度が臨界値未満に下がる場合、供給が開始され、添加される供給量は、この臨界値へグルコース濃度を再び上げるに十分である。
【0087】
単純なバッチプロセスにおけるのと同様に、タンクの最も長い可能な操作と細胞溶解及び産物品質の低下の危険性とのバランスがとれるように、採取時期を決定しなければない。
【0088】
供給物の添加法もまた可変である。供給物は、単一のパルス(1日に1回、2回、3回など)として添加され得るか、又は24時間にわたって徐々に供給され得る。採取時期を決定しなければない。伝統的な、又は単純な、バッチは、全ての栄養素が使い尽くされるまで操作される。しかし、プロセスは、毒性代謝産物の蓄積に起因して、無限には維持され得ない。これは、細胞生存能力の減少及び最終的に細胞溶解をもたらす。これは、産物に対して損害を引き起こし得るか又はその後の精製に対して問題を引き起こし得る。
【0089】
3.ドローフィルプロセス:
単純なドローフィルプロセスは、反復バッチ発酵に非常によく似ている。バッチ発酵においては、細胞を培養容器中において増殖させ、培地を実行の終了時に採取する。ドローフィルプロセスにおいては、培養容器を、栄養素が使い尽くされる前に採取する。容器から内容物の全部を取り出す代わりに、タンク容量の一部のみを取り出す(一般的にタンク容量の80%)。
【0090】
採取後に、同容量の新鮮な培地を容器へ再び添加する。次いで、細胞をもう一度容器中において増殖させ、別の80%採取物を、設定した日数の後に採取する。反復バッチプロセスにおいて、採取後に容器中に残された細胞は、次のバッチのための接種物として使用され得る。
【0091】
プロセスは2段階で操作され得、第1段階は単純なバッチプロセスと同様に操作される。第1採取後、培養容器は、単純なバッチプロセスのように再び操作され;しかし、より高い初期細胞密度のために、バッチの長さは、第1バッチよりも短い。これらの短い「反復バッチ段階」が、無限に続けられ得る。
【0092】
培養容器は、広範囲のサイクルタイム及び広範囲のドローフィル容量内で操作され得る。
【0093】
本発明の実施において、培養される細胞は、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくは哺乳動物樹立細胞株、例えば、非限定的に、CHO(例えば、ATCC CCL 61)、COS−1(例えば、ATCC CRL 1650)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、及びHEK293(例えば、ATCC CRL 1573;Graham et al., J. Gen. Viro/. 36: 59−72, 1977)細胞株である。
【0094】
好ましいCHO細胞株は、ATCCから入手可能なCHO K1細胞株である。別の好ましいCHO細胞株は、Invitrogenから入手可能なCHO−S細胞株である。
【0095】
他の好適な細胞株としては、非限定的に、Rat Hep I(ラット肝細胞癌;ATCC CRL 1600)、Rat Hep II(ラット肝細胞癌;ATCC CRL 1548)、TCMK(ATCC CCL 139)、ヒト肺(ATCC HB 8065)、NCTC 1469(ATCC CCL 9.1);DUKX細胞(CHO細胞株)(Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216−4220,1980)(DUKX細胞はまたDXB11細胞と呼ばれる)、及びDG44(CHO細胞株)(Cell, 33: 405,1983、及びSomatic Cell and Molecular Genetics 12: 555,1986)が挙げられる。3T3細胞、Namalwa細胞、骨髄腫、及び骨髄腫と他の細胞との融合体も有用である。ある実施態様において、細胞は、突然変異又は組換え細胞、例えば、それらが誘導された細胞型とは質的に又は量的に異なる、タンパク質の翻訳後修飾を触媒する様々な酵素(例えば、グリコシル化酵素、例えば、グリコシルトランスフェラーゼ及び/又はグリコシダーゼ、又はプロセシング酵素、例えば、プロペプチド)を発現する細胞であり得る。
【0096】
ある実施態様において、本発明の実施において使用される細胞は、懸濁培養において増殖することができる。本明細書において使用される場合、懸濁コンピテント細胞は、大きな堅い集合体を作ることなく懸濁状態で増殖し得るもの、即ち、単分散であるか又は集合体当たりほんの少数の細胞を有する緩い集合体で増殖する細胞である。懸濁コンピテント細胞としては、非限定的に、適応又は操作無しに懸濁状態で増殖する細胞(例えば、造血細胞又はリンパ球様細胞)、及び懸濁増殖への接着依存性細胞の徐々の適応によって懸濁適格にされた細胞(例えば、上皮細胞又は線維芽細胞)が挙げられる。
【0097】
ある実施態様において、本発明の実施において使用される細胞は、接着細胞(付着依存性細胞又は接着依存性細胞としても公知)である。本明細書において使用される場合、接着細胞は、増殖及び成長のために適切な表面へそれら自体を接着又は付着させる必要があるものである。マイクロキャリアベースの発酵が、このような実施態様についての例である。
【0098】
本発明は、動物由来の成分を優先的には欠く培地中において哺乳動物細胞を培養することを包含する。本明細書において使用される場合、「動物由来の」成分は、インタクトな動物において産生される任意の成分(例えば、血清から単離又は精製されたタンパク質)であるか又はインタクトな動物におい産生される成分を使用することによって作製された成分(例えば、動物から単離及び精製された酵素を使用して植物源材料を加水分解することによって作製されたアミノ酸)である。対照的に、動物タンパク質の配列を有する(即ち、動物にゲノム起源を有する)が、インタクトな動物において産生されそこから単離及び精製される成分を欠く培地中において、細胞培養においてインビトロで(例えば、例えば、組換え酵母又は細菌細胞中において、又は、組換えか否かにかかわらず、樹立した連続的な哺乳動物細胞株中において)産生されるタンパク質は、「動物由来の」成分ではない(例えば、酵母又は細菌細胞中において産生されたインスリン、又は例えば、CHO、BHK又はHEK細胞などの樹立哺乳動物細胞株中において産生されたインスリン、又はNamalwa細胞中において産生されたインターフェロン)。例えば、動物タンパク質の配列を有する(即ち、動物にゲノム起源を有する)が、動物由来の成分を欠く培地中において組換え細胞中において産生されるタンパク質(例えば、酵母又は細菌細胞中において産生されたインスリン)は、「動物由来の」成分ではない。従って、動物由来の成分を欠く細胞培養培地は、組換えによって産生される動物タンパク質を含有し得るものであり;しかし、このような培地は、例えば、動物血清、又は動物血清から精製されたタンパク質若しくは他の産物を含有しない。このような培地は、例えば、植物由来の1つ又はそれ以上の成分を含有し得る。
【0099】
本発明の条件下で細胞増殖及び維持を支援する、動物由来の成分を欠く任意の細胞培養培地が、使用され得る。一般的に、培地は、水、浸透圧調節剤、緩衝剤、エネルギー源、アミノ酸、無機若しくは組換え鉄供給源、1つ又はそれ以上の合成又は組換え増殖因子、ビタミン、及び補因子を含有する。動物由来の成分及び/又はタンパク質を欠く培地は、例えば、Sigma、SAFC、Invitrogen及びGibcoなどの、供給業者から入手可能である。
【0100】
培養容器は、例えば、撹拌が従来のインペラータイプによって得られる従来の撹拌タンク反応器(CSTR)、又は、撹拌が容器の底から空気を導入することによって得られるエアリフト反応器であり得る。指定の範囲内で制御されるパラメーターの中でも、pH、溶存酸素圧(DOT)、及び温度がある。pHは、例えば、ヘッドスペースガス及び/又はスパージャー中のCO2濃度を変化させることによって及び必要な場合に培養液へ塩基を添加することによって、制御され得る。
【0101】
溶存酸素圧は、例えば、空気又は純酸素又はそれらの混合物を散布するによって、維持され得る。温度制御培地は、必要に応じて加熱又は冷却された、水である。水は、容器を囲むジャケット経由で又は培養物中に浸されたパイピングコイル経由で通され得る。
【0102】
いったん培地が培養容器から除去されると、それは、所望のタンパク質を得るための1つ又はそれ以上のプロセシング工程へ供され得、これらとしては、非限定的に、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー;イオン交換クロマトグラフィー;サイズ排除クロマトグラフィー;電気泳動手順(例えば、分取等電点電気泳動(IEF))、溶解度差(differential solubility)(例えば、硫酸アンモニウム沈殿法)、又は抽出などが挙げられる。一般的に、Scopes, Protein Purification, Springer−Verlag, New York, 1982;及びProtein Purification, J.−C. Janson and Lars Ryden, editors, VCH Publishers, New York, 1989を参照のこと。
【0103】
培養は、上述のように選択された特定の宿主細胞によるビタミンK依存性タンパク質の発現に適した条件下で増殖培地を用いて、任意の好適な発酵容器中において行われ得る。関心対象の所望のビタミンK依存性タンパク質の発現相の間のある時点で、ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型が、細胞培養培地中に含まれる。好ましくは、前記ビタミンKの還元型及び/又はビタミンKアナログの還元型及び/又はビタミンK前駆体の還元型は、全体の増殖及び発現相の間存在する。好ましい実施態様において、ビタミンK依存性タンパク質は、培養培地から直接集められ得るか、又は、宿主細胞を溶解させ、そこからビタミンK依存性タンパク質が集められ得る。好ましい実施態様において、次いで、ビタミンK依存性タンパク質は、公知の技術に従ってさらに精製され得る。
【0104】
上記タイプの分泌細胞の培地中に蓄積する組換えビタミンK依存性タンパク質は、細胞培養培地中の所望のタンパク質と他の物質とのサイズ、電荷、疎水性、溶解度、特異的親和性などの差異を利用する方法を含む、様々な生化学的及びクロマトグラフ的方法によって濃縮及び精製され得る。
【0105】
一般的な問題として、本発明に従って産生される組換えタンパク質の純度は、好ましくは、タンパク質の最適な活性及び安定性をもたらすことが当業者に公知の適切な純度である。例えば、組換えタンパク質が第IX因子である場合、第IX因子は、好ましくは超高純度のものである。
【0106】
好ましくは、組換えタンパク質は、所望のタンパク質を濃縮するために並びに製造、保存及び/又は使用の間に組換えタンパク質の断片化、活性化及び/又は分解を引き起こす物質を除去するために、多数のクロマトグラフィー精製工程、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、色素クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及び好ましくはイムノアフィニティークロマトグラフィーへ供されている。精製によって好ましくは除去される物質の例示的な例としては、他のタンパク質汚染物質、例えば、修飾酵素、例えば、PACE/フーリン、VKOR、及びVKGC;タンパク質、例えば、組換えタンパク質産生の間に産生細胞から組織培養培地中へ放出される、宿主細胞タンパク質;非タンパク質汚染物質、例えば、脂質;並びにタンパク質及び非タンパク質汚染物質の混合物、例えば、リポタンパク質が挙げられる。ビタミンK依存性タンパク質についての精製手順は、当技術分野において公知である。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,714,583号を参照のこと。
【0107】
ウイルス汚染の理論上の危険性を最小限にするために、ウイルスの有効な不活性化又は排除を可能にする追加の工程が、プロセスに含まれ得る。このような工程は、例えば、液体又は固体状態での熱処理、溶媒及び/又は界面活性剤での処理、可視又はUVスペクトルの放射、γ放射線又はナノ濾過である。
【0108】
FIXについての及び他のビタミンK依存性凝固因子についての遺伝子配列は、公知であり、入手可能である;例えば、第II因子(アクセッション番号NM_000506)、第VII因子(アクセッション番号NMJH9616)、FIX(アクセッション番号NM_000133)及び第X因子(アクセッション番号NM_000504)。
【0109】
本発明に記載されるビタミンK依存性タンパク質は、治療用途のための薬学的調製物に処方され得る。精製タンパク質は、薬学的調製物を提供するために場合により薬学的賦形剤が添加され得る、従来の生理学的に適合性の水性緩衝液に溶解され得る。
【0110】
このような薬学的担体及び賦形剤並びに好適な薬学的製剤は、当技術分野において周知である(例えば、“Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins”, Frokjaer et al., Taylor & Francis (2000) 又は “Handbook of Pharmaceutical Excipients”, 3rd edition, Kibbe et al., Pharmaceutical Press (2000)を参照のこと)。特に、本発明のタンパク質変異体を含む薬学的組成物は、凍結乾燥形態又は安定した液体形態で処方され得る。タンパク質変異体は、当技術分野において公知の様々な手順によって凍結乾燥され得る。凍結乾燥製剤は、注射用滅菌水又は滅菌生理食塩水などの1つ又はそれ以上の薬学的に許容される希釈剤の添加によって使用前に再構成される。
【0111】
組成物の製剤は、任意の薬学的に適切な投与手段によって個体へ送達される。様々な送達システムが公知であり、任意の好都合な経路によって組成物を投与するために使用され得る。優先的には、本発明の組成物は、全身投与される。全身使用について、本発明の挿入タンパク質は、従来の方法に従う非経口(例えば、静脈内、皮下、筋内、腹腔内、大脳内、肺内(intrapulmonar)、鼻腔内又は経皮)又は経腸(例えば、経口、腟内又は直腸)送達について処方される。最も優先的な投与経路は、静脈内及び皮下投与である。製剤は、ボーラス注射によって又は注入によって連続的に投与され得る。ある製剤は、徐放システムを含む。
【0112】
本発明の挿入タンパク質は、治療有効用量で患者へ投与され、これは、許容されない有害な副作用を生じさせる用量に達することなく、治療される状態又は適応症の重篤度又は広がりを予防するか又は減らすという、所望の効果を生じさせるに十分である用量を意味する。正確な用量は、例えば、適応症、製剤、投与様式などの多くの因子に依存し、各々それぞれの適応症についての前臨床及び臨床試験において決定されなければならない。
【0113】
本発明の薬学的組成物は、単独で又は他の治療剤と併用して投与され得る。これらの薬剤は、同一の医薬品の一部として組み入れられ得る。
【実施例】
【0114】
実施例1:第IX因子構築物のクローニング
2つのcDNAがFIX由来のリンカー配列によって分離された状態で、ヒト凝固第IX因子cDNAをヒトアルブミンcDNAに対してインフレーム5'にクローニングした。FIXとアルブミンとの間のこのリンカー配列は、FIX活性化に関与する内因性FIX配列に由来し、従って、FIXを活性化する同一の酵素(FXIa又はFVIIa/TF)による融合タンパク質の切断を可能にする。
【0115】
FIX配列は、公知のAla/Thr多型性の部位で最も一般的な表現型である、148位でのトレオニンを利用し、プロペプチド切断を最適化するためにP−3V突然変異を含んだ(分泌された産物中には存在しない)。アルブミンシグナルペプチドでFIXのそれを取り替え、得られたcDNA配列を効率的な哺乳動物細胞発現のためにコドン最適化した。タンパク質コード配列に、5'末端ではHindIII制限部位及びコンセンサスKozac配列を、3'末端ではEcoRI制限部位を隣接させた。ヌクレオチドは、配列番号1[シグナル配列bp 1−60、プロペプチドbp 61−123)、FIX (bp 124−1368)、リンカーbp 1369−1422)、アルブミン (bp1423−3180)]であり、得られるrIX−FPタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2[FIX配列 (aa 1 − 415)、リンカー配列 (aa 416 − 433);アルブミン配列 (aa 434 − 1018)]である。
【0116】
rIX−FP配列をLonza GSTM発現ベクターpEE12.4中へクローニングし、ヒトPACE/フーリンセリンプロテアーゼcDNAをLonza GSTM発現ベクターpEE6.4中へクローニングした。PACE/フーリンは、高発現細胞株中におけるプロペプチド配列の効率的な切断のために必要とされる。rIX−FP cDNA及びPACE/フーリンcDNAの両方を、個々のCMVプロモーターの制御下で合わせ、最終の二重遺伝子構築物を作製した。
【0117】
実施例2:クローンA2及びA5のトランスフェクション及び選択
rIX−FP−PACE/フーリン構築物をCHOK1SV細胞中へエレクトロポレーションし、市販のグルタミンフリーの培地を使用して96ウェルプレート中においてコロニーを選択した。次いで、得られたコロニーを、FIX発現及び活性についてスクリーニングし、所望の発現/活性プロフィールを有する2つのクローン(A2及びA5)をさらなる開発のために選択した。
【0118】
実施例3:還元型メナジオン重亜硫酸塩(rMSB)の製造
手順は、亜鉛粉末の触媒添加及びアスコルビン酸の水溶液を使用するメナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)のインサイチュ還元を含んだ。得られた濾過反応混合物は、アスコルビン酸及び微量のZnの存在下で、MSB及び2つの対応の異性体還元生成物(図3において番号2及び番号3として示される;還元型ビタミンK)を含有した。この濾液混合物を、最終生成物混合物として使用した。
【0119】
アスコルビン酸(12.75g)を、栓を備えた200mLメスシリンダー中の脱気Milli Q水(100mL)中に溶解した。
【0120】
メナジオン重亜硫酸ナトリウム(10.00g)を100mLビーカー中の脱気Milli Q 水(50mL)中に溶解し、アスコルビン酸溶液へ添加した。ビーカーを、200mLメスシリンダー中へ2×20mLの脱気Milli Q水で2回リンスした。得られたアスコルビン酸/メナジオン重亜硫酸ナトリウム溶液を、脱気Milli Q水で200mLにし、室温で10分間反応容器を転倒することによって混合した。
【0121】
活性化亜鉛をTextbook of Practical Organic Chemistry; Arthur Israel Vogel, A.R.
Tatchell, B.S. Furnis. [year, editor]に従って作製した。簡潔には、50mLポリプロピレンチューブ中の亜鉛粉末40gヘ、10% v/v塩酸15mLを添加した。混合物を振盪し、2分間静置した。混合物を500mL Pyrexビーカーへ移し、Milli Q水で数回洗浄した。これはまた、微粒子を除去するためにMilli Q水での大量のエルトリエーションを必要とした。リンスされた活性化亜鉛を、Milli Q水中に懸濁し、フィルター装置へ移し、ここで、それは0.45μm Durapore(登録商標)GV膜上に捕らえられた。亜鉛を50mL HPLC等級アセトニトリルで数回洗浄し、その後、1.5時間60℃でロータリーエバポレーターにて乾燥した。乾燥された活性化亜鉛を、アルゴン下でPyrexボトル中に保存した。
【0122】
活性化亜鉛粉末(4.73g)をアスコルビン酸/メナジオン重亜硫酸ナトリウム溶液へ添加し、25〜30分間メスシリンダーを連続的に穏やかに転倒することによって混合した。
【0123】
完了後、溶液を0.22μm Durapore(登録商標)GV膜によって真空下で濾過した。ついで、濾液を滅菌ボトルへ移し、アルゴンでフラッシュし、光から保護するためにホイルでカバーし、−70℃で保存した。この濾液をバイオリアクターへ添加した。
【0124】
還元MSBは、ある程度、不安定であると予想される。従って、バイオリアクターへ添加した際のrMSBの実際の濃度は、記載の濃度よりもいくぶん低い場合がある(下記の分析データを参照のこと)。従って、本発明において使用される場合、rMSBの記載の濃度は、実施例3において詳述されるようにrMSBを作製するために使用される実際のMSB濃度に対応する名目上の濃度として理解されるべきである。
【0125】
還元MSBのアッセイ
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を備える逆相HPLCによって、還元MSBをアッセイした。
【0126】
バッファーAとしての10mM酢酸アンモニウムバッファー及びバッファーBとしての95%アセトニトリル、10mM酢酸アンモニウムを用いて、Merck Supersher RP−Select B (4.0×75mm)カラムを使用して、HPLC分離を達成した。下記の勾配を使用した。
【表1】

【0127】
メナジオン重亜硫酸ナトリウム(Sigma Lot 087K0737、試験成績書(C of A)によって97%)を、標準を作製するために使用した。
【0128】
Waters Q−ToF II質量分析計をネガティブイオンモードで操作し、メナジオン重亜硫酸塩についての253のm/zでの抽出イオンクロマトグラムを統合し、二次多項式へ適合された5点較正曲線をプロットするために使用した(0を通らない)。
【0129】
m/z 255での還元型メナジオン重亜硫酸塩の抽出イオンクロマトグラムを統合し(of were bisulphite were integrated)、MSB標準で得られた較正曲線に対して還元型メナジオン重亜硫酸塩の濃度を計算するために使用した。
【0130】
結果を下記の表に要約する(50mg/mL rMSBの名目上の濃度)。
【表2】

【0131】
実施例4
ヒトアルブミンを有する組換え第IX因子融合タンパク質を発現するCHO細胞株を、実施例1及び2に詳述したように作製した。活性分子の発現を増加させる方法を調べるために、培養物へのメナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)及び還元MSB(rMSB)の添加の効果を評価する多数の実験を行った。この研究の目的は、MSB又はrMSBのいずれか添加が活性分子の発現を増加させることができるかどうか又は発現される抗原性物質の量を減少させることができるかどうかを確認することであった。活性の増加は、ビタミンK3の利用可能性によって駆動される、分子上のグルタミン酸残基のγ−カルボキシル化の増加に起因すると仮定して、分子の活性を特定の第IX因子アッセイキットによって評価した。
【0132】
細胞の増殖についての全ての場合において及び生産性評価の間に使用した培地は、下記に詳述されるような培地Aと本明細書で呼ばれる、化学的に規定された培地であった。比較目的のために他の培地タイプを使用した場合、それらを本明細書に記載した。この研究の間に測定した重要なパラメーターは、ヒトアルブミンと融合された組換え第IX因子(rIX−FP)の抗原性発現、この発現から生じるFIX活性、及び生細胞密度によって測定される細胞増殖であった。これらの重要な細胞アウトプットの測定の詳細を下記に説明する。
【0133】
方法及び材料:
培地組成
増殖のために使用した培地は、CHO細胞中での組換えタンパク質の産生のために特別に設計された市販の無血清の化学的に規定された培地であった:「培地A」。クローンは、Lonzaグルタミンシンセターゼ(GS)システムを利用し、グルタミンの非存在下で継代し、25uMメチオニンスルホキシイミン(MSX)によって選択を維持した。生産性測定のために使用した、最後の培養段階において、グルタミン及びMSXを両方とも培地に添加しなかった。
【0134】
ボーラス添加
グルコース濃度が2g/Lの下限値に達したらグルコース100g/Lのボーラス添加を培養物に対して行い、いったん下限値濃度が達成されたら、4g/Lの上限量へ残りの培地濃度を増加させるように供給を誘導した。
【0135】
ビタミンKは、分子のビタミンK依存性γ−カルボキシル化に起因して、活性組換え第IX因子の産生のために細胞にとって必須である。本発明を説明する実験において、メナジオン重硫酸(bi−sulphate)ナトリウム(MSB、Sigma)の形態のビタミンK3をビタミンKの供給源として選択し、何故ならば、この形態は水溶性であり、従って細胞へ容易に接近可能であるためであった。MSBの添加を50ng/mlの濃度で毎日行った。
【0136】
還元MSB(rMSB)を、実施例3に前述したように作製した。rMSBを−70℃で保存し、使用直前に解凍した。還元MSBの固有の不安定な性質に起因して、還元MSBの正確な濃度の定量化は、実験時に利用可能ではなかった。従って、還元MSBの全ての記載の濃度は、還元プロセスの開始時でのMSBの出発濃度から誘導された計算値であった。実際の還元MSB濃度は、還元プロセスにわたって生じるいくらかの僅かな減少に起因して、計算量未満であることが、予想される。
【0137】
発酵パラメーター
リアクターは、撹拌のための単一のRushtonインペラー及びリングスパージャーを備える、Sartorius/ Braun 5L皿型底ガラスリアクターであった。特に指定のない限り、全てのリアクター培養を下記の条件下で行った。
体積:合計4リットルで開始(3.2リットル培地及び0.8リットル接種物);
温度:37℃、接種から採取まで;
通気:0.025vvmの最大速度で、溶存酸素(D.O.)セットポイントに応答して散布される、期間について0.0375毎分空隙容量vvmでのヘッドスペースエア;
D.O.:40%飽和のセットポイント;
酸素:0.075vvmの最大流量でのD.O.セットポイントに応答して散布される;
撹拌:100rpmの一定速度で;
pH:7.00±0.05の単一のセットポイント;
塩基:2M NaOH;
酸:100% CO2;
接種物:3×105〜5×105細胞/mLの開始細胞密度。
【0138】
細胞培養アッセイ:
Innovartis Cedex自動細胞カウンターを利用して製造業者の使用説明書に従って、細胞カウントを行った。Yellow Springs Instruments (YSI) 7100アナライザーを利用して製造業者の使用説明書に従って、グルコース、ラクテート、アンモニア及びグルタミンアッセイを行った。Siemens(以前はBayer)製のRapidLab 248血液ガス分析装置を使用して製造業者の使用説明書に従って、溶存二酸化炭素濃度のオフライン測定を行った。第IX因子抗原の定量化のための内部手順ELISAを使用して、抗原アッセイを行った。“BIOPHEN FIX”発色FIXテストを使用して、第IX因子活性アッセイを行った。全てのアッセイについて接種時から毎日、サンプリングを行った。
【0139】
フラスコ生産性アッセイ
フラスコ生産性アッセイを下記に説明するように行った。
【0140】
rIX−FPを発現するCHO−S細胞株を使用し、8mM L−グルタミンを含むCHO細胞中での組換えタンパク質の産生のために特別に設計された代替の市販の無血清の化学的に規定された培地(「培地B」)中において培養した。N−1及びN(Nは最後の継代数である)継代において、50ng/ml MSBを添加した。追加の添加を接種後48時間で行った。培養物を125mL振盪フラスコ中において30mL体積で2×105生細胞/mLで接種し、加湿インキュベーター(Multitron, Infors HT)中において37℃、5% CO2、125rpmで培養した。細胞密度、細胞生存能力、rIX−FP活性及び抗原含量についてサンプルをアッセイした。
【0141】
結果:
実験1:振盪フラスコ中におけるFIX発現の比較
実験1を行い、フラスコ形式でのMSBの添加と比較しての培養パフォーマンスに対する還元MSBの効果を評価した。この実験において調べたテスト条件の概要を表1に示す。細胞を標準フラスコ生産性アッセイへ供し、細胞密度、第IX因子抗原及び第IX因子活性についてのアッセイを行った。このフラスコ生産性アッセイから得られた結果の概要を表2及び表3に示す。
【0142】
【表3】

【0143】
72時間及び96時間についての活性結果を下記に示す。それらは、全てのテスト条件について72時間で得られた非常に類似した結果を示した。MSBの2回添加について活性の僅かな増加が得られ、還元MSBを使用する結果の全ては、非還元MSB添加よりも僅かに高かった。興味深いことに、還元MSB条件についての2回添加について増加は存在しなかった。しかし、72時間での結果の解釈は、条件間での活性結果の小さな差異及び少数の反復に起因して限定的である。
【0144】
活性結果のより明確な増加が、96時間サンプルについて得られた。この場合、還元MSB条件は、MSB添加について得られたものよりも大きな活性結果を返した。全ての記録された値は、二重のフラスコの平均値である。
【0145】
【表4】

【0146】
【表5】

【0147】
表2及び3に示される結果から、活性FIXの産生及びFIX抗原と比べての活性FIX分子(比率)の増加に対するプラスの効果が、MSBの添加と比較して還元MSBの添加で観察された。
【0148】
フラスコ生産性研究から得られた予備的な結果は、MSBの還元型の存在が存在することに起因して、細胞による活性分子分泌の差異が存在し得ることを示した。CHO細胞中におけるrIX−FPの産生に対する還元MSBの効果を試験するために、リアクターに基づく実験を行った。
【0149】
実験2:フェドバッチ条件下でのFIX発現の比較
リアクターフェドバッチ条件下で、rIX−FP CHO−K1クローンを標準条件下で培養した。この実験は、MSB添加又は還元MSB添加のいずれかの下での、細胞増殖、抗原産生、及び細胞からの活性rIX−FP産生を評価した。この実験において利用した供給は、下記のアミ
ノ酸が補われたグルコースベースのもの(100g/L)であった:
アスパラギン 21.4g/L;
システイン 5.6g/L;
アスパラギン酸 5g/L。
【0150】
リアクターテスト条件は、非還元MSB添加を利用するリアクターA4、及び還元MSB添加を利用するリアクターB4であった。両方のリアクターにおいて、培地Aを実施例4において説明した通りに使用した。
【0151】
培養物から得られた細胞増殖結果図4に示す。
【0152】
上記データは、2つの条件(還元及び非還元MSB)についての生細胞密度が、非常に類似した増殖プロフィール及び最大細胞密度を得たことを示している。これらの2つの条件下で、唯一の差異は、還元MSBと非還元MSBとの意図される比較であった。抗原、活性分子及びそれぞれの比率についてのアッセイ結果を表4に示す。抗原に対する活性分子の1を超える比率が可能であり、何故ならば、それらが各々測定されるIUは、血漿に対して様々な標準リファレンスを有するためである。
【0153】
【表6】

【0154】
還元MSB添加条件下でこの場合にもたらされたより高い比率は、MSB添加条件と比較しての、産生された活性FIX分子の増加及び産生されたFIX抗原レベルの減少によって引き起こされた。
【0155】
実験3:延長ドローフィル条件下でのFIX発現の比較
CHO−K1クローンA5を、2つの培地、培地Aと、CHO細胞中での組換えタンパク質の産生のために特別に設計されたさらに別の市販の無血清の化学的に規定された培地:培地Cとを用いて、延長ドローフィル条件下で培養した。培地のパフォーマンスを比較する一方で、MSB又は還元MSBの添加の効果を評価した(表5)。前の実験と同様に、この研究からのアウトプットは、細胞の増殖パラメーター並びに活性rIX−FP分子及びrFIX−FP抗原の産生であった。
【0156】
【表7】

【0157】
この研究において、細胞増殖に関しての差異が観察された。この差異は、より多い細胞数が培地Aにおいて達成され得たことであった。この濃度のMSB/rMSB(1日当たり50ng/ml)での還元及び非還元MSBを比較するリアクター間の細胞増殖に関して、非常に僅かな差異があった。
【0158】
異なるテスト条件下での細胞のFIX抗原及び活性FIX分子産生を分析した。これらの結果の概要を表6に示す。延長されたドローフィル組み合わせ下で明らかな実質的な差異があった。培地Aは、同様の培養体積から培地Cよりも20%〜30%より高い抗原及び22%〜27%より高い活性をもたらした。
【0159】
【表8】

【0160】
実験4:細胞増殖及び生存能力に対するMSB及びrMSBの効果
細胞増殖及び生存能力に対する濃度増大のMSB及び還元MSBの効果を試験するために、さらなる研究を行った。MSB添加又は還元MSB添加を除いて、8個のリアクターを同一のパラメーター下で培養した。前の実験と同様に、還元MSBの濃度は計算値であり、真の濃度は計算値よりも低い場合がある。使用した培地は、実験1に記載されるような培地Aであった。添加を毎日細胞当たりに基づいて増加させ(表7)、細胞増殖に対する効果をモニタリングした。リアクターをドローフィル様式で行い、第1サイクルは6日間の期間を有し、第2サイクルは4日間の期間を有した。
【0161】
【表9】

【0162】
生細胞密度及び細胞生存能力データをそれぞれ図6及び7に示す。
【0163】
リアクターA3及びA4を実験の完了前に終わらせ、これをデータプロットにおいて反映させた。漸増MSB濃度がリアクター内で細胞死を引き起こしていたので、リアクターを早く終わらせた。観察されたリアクター中での細胞死は、減少した酸素需要において反映された。リアクターA4は、最も高いMSB濃度を含有し、その低下を最初に開始し、2番目に最も高いMSB濃度を有するリアクターA3が続いた。リアクターA4の細胞死は、リアクターA3中の細胞死の開始の10時間以内に始まった。
【0164】
実験5:MSB及び還元MSBの増量滴定下での細胞生存能力データ
この研究は、細胞増殖及び活性第IX因子融合タンパク質分子の生産性に対するMSB及び還元MSB添加のパフォーマンスを評価するために行った。最初に、さらなる研究を支援するためのデータを得るために、CHO−Sクローンを用いてフラスコ実験を行った。この実験において、データを72時間及び96時間の両方の時点で集めた。72時間で、増加した活性収率が、還元MSB添加で達成された。抗原性収率もまた、MSB添加と比較して増加し;しかし、最も高い比率が、還元MSB添加によって維持された。この場合において、還元MSBの単回添加は、MSBの二重添加と比較して増加したしかし同等の活性収率を与えた。96時間の時点で集めたデータは、還元MSB添加について活性の僅かな増加しか示さなかった。しかし、全ての還元MSB添加フラスコが、MSB添加と比較して等価の又はより高い比率を維持した。全体的にみて、増加した比率及び等価の又は増加した活性発現が、MSB添加と比較して還元MSB添加から得られた。
【0165】
本質的に不安定なタンパク質を発現させる場合、灌流又はドローフィルなどの培養形式が望ましく、何故ならば、それは、使用された培地の除去、並びに所望のタンパク質のその後の精製及び安定化を可能にするためである。細胞能力をさらに延長するために、及びMSB添加と比較しての還元MSB添加の可能性のある効果を明らかにするために、フェドバッチ培養を行った。この研究の結果を実験2において示した。フェドバッチ条件下で、同様の増殖が還元MSB又はMSB添加下で達成された(図4を参照のこと)。データは、還元MSB添加条件下で、活性rIX−FPの量が、59%増加を示す、22357 IUから35444 IUへ増加したことを示している。興味深いことには、活性分子の観察された増加と同時に、MSB値の77%を示す、38197 IUへの抗原性収率の減少があった。活性の増加及び抗原性物質の減少は、還元MSBの添加に起因しての比率の大幅な増加をもたらした。
【0166】
ドローフィル様式における細胞応答を試験するために、CHO−K1クローンを2つの培地において培養し、再びMSB及び還元MSB添加の効果を評価した。細胞の増殖は、テスト培地に関連して相違した(図5を参照のこと)。より高い細胞密度への増殖が培地Aを用いて得られた。しかし、各培地テスト内での複製物は非常に再現性があり、このことは、試験した濃度でのMSB又は還元MSBの添加に起因して、増殖特性に差異はほとんどなかったか又は全くなかったことを再び示している。前の実験と同様に、活性分子及び抗原性分子の量をアッセイした。両方の培地タイプについて、より高い活性値が還元MSB添加で得られたが、この場合、増加は非常に小さく、MSB添加値は、還元MSB添加値の94〜98%の範囲内であった。より大きな差異が、テスト条件下で産生された抗原性物質の量において観察された。培地A及びCの両方について、還元MSB添加リアクターは、MSB添加からのものよりも少ない抗原性物質を産生した。培地A中で培養した場合、還元MSBは、MSB添加と比較して、抗原性物質の78%を産生し、培地C中においては、抗原性物質の84%を産生した。これは、還元MSB添加によって提供された、培地タイプに応じて19〜35%の比率の増加をもたらした。
【0167】
細胞にとって許容可能であるMSB及び還元MSBのレベルを試験するために、最終実験を設計した。この研究からのアウトプットは、これらの培養の間に達成された細胞生存能力及び生細胞密度であった(それぞれ図6及び図7を参照のこと)。使用したコントロール条件は、毎日添加した50ng/ml MSBであり、これらの条件下で達成された細胞数及び生存能力は、予想通りであり、以前の結果と一致した。210ug/10^6細胞/日へのMSB添加増加で、細胞生存能力及び細胞数の実質的な減少が観察された。720及び2160ug/10^6細胞/日の両方で観察された細胞生存能力及び細胞数のさらなる減少は、MSB添加が、濃度増大で細胞に対して漸増的に毒性であったことを示している。
【0168】
添加の毒性効果がまた、還元MSBを用いて観察されたが、それはより少ない程度であった。還元MSB添加のために使用した濃度は、前述したように、名目上の計算値であった。細胞増殖は、240及び720 ug/10^6細胞/日 添加の両方について、コントロールと同等であった。観察された毒性は、2160ug/10^6細胞/日 還元MSB添加について、等価のMSB条件とは全く対照的に、細胞死をもたらさなかったが、減少した細胞増殖をもたらした。これらの結果は、使用した濃度で、還元MSBは、MSBの添加よりも細胞に対して遙に少ない毒性効果を有したことを示している。
【0169】
MSB及び還元MSB添加の効果を、様々な培養形式で評価した。同等の条件下でのこれらの研究から達成された一貫した結果は、還元MSB添加は、MSB添加と比較して、等価の又は増加した活性収率及び減少した抗原性収率を返したことであった。還元MSBの毒性は、より高い濃度での細胞による耐性によって実証されたように、より低いようであった。還元MSB効果の正確な作用機序は、完全には解明されていない。効果は、細胞中への増強された進入、培養における、又は細胞質内での、還元MSBの増加した安定性、又は細胞のγカルボキシル化経路に対する直接的な機序によってであり得た。正確な機序は明らかではないが、培養物への還元MSBの添加の最終結果は、総抗原性物質と比較しての発現された活性物質の増加した比率であった。組換えrIX−FPの産生の状況において、これは顕著な利点を示す。
【0170】
実験6:
Thromb. Haemost. 2008 Apr;99(4):659−67に記載されるように、アルブミン融合第VII因子をクローニングし、CHO−S細胞中において発現させた。
【0171】
哺乳動物細胞の培養を、5リットルバイオリアクターシステム中において3リットルの開始体積で、バッチ又はフェドバッチ条件下で行った。制御したパラメーターは、温度(37℃)、pH(7.2)、撹拌(250rpm)及び溶存酸素であった。使用した培地は、50ng/mlの開始濃度でのMSB又はrMSPが補われた、市販の化学的に規定された培地(CD−CHO、Invitrogen)であった。第5日に250ng/mlの最大濃度に達するまで、毎日、濃度を50ng/mlずつ増加し、その後、これを培養期間の残りの間保持した。培養期間は、12日を超えなかった。
【0172】
発色アッセイ(COASET(登録商標)FVIIテストキット(Chromogenix, 82190063))を使用して、FVIIの活性を測定した。タンパク質の量を逆相HPLCによって測定した。
【表10】

【0173】
MSBからrMSBへの変更は、第IX因子及び第VII因子の両方の場合において、発現される活性産物の量を増加させるという利点があった。各場合において、比活性の対応の増加も観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又はそれ以上のビタミンK依存性タンパク質を発現する真核細胞の発酵方法であって、
i)ビタミンKの還元型及び/又は
ii)ビタミンKアナログの還元型及び/又は
iii)ビタミンK前駆体の還元型
を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物を、発酵プロセスの前及び/又は間に細胞培養培地に添加する、上記方法。
【請求項2】
ビタミンK依存性凝固因子が、FIX、FVII、FX、FII、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、オステオカルシン、石灰化抑制マトリックスGlaタンパク質(MGP)又は細胞増殖調節増殖停止特異的遺伝子6タンパク質(Gas6)からなるリストより選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ビタミンK依存性凝固因子がFIX又はFVIIである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
還元ビタミンKアナログが還元型メナジオン重亜硫酸塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
発現をバイオリアクター中で行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
発酵をドローフィル様式で操作する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
発酵をバッチ様式で操作する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
発酵を灌流様式で操作する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
懸濁状態の細胞を使用して発酵を行う、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
接着細胞を用いて発酵を行う、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
i)ビタミンKの還元型及び/又は
ii)ビタミンKアナログの還元型及び/又は
iii)ビタミンK前駆体の還元型
を含むリストより選択される1つ又はそれ以上の化合物の使用であって、該化合物を細胞培養培地に添加することによる細胞培養における1つ又はそれ以上の機能性ビタミンK依存性タンパク質の発現のための、上記使用。
【請求項12】
同量の同一しかし非還元型のそれぞれのビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体をそれぞれの還元型と同一の様式で細胞培養培地に添加する場合に得られる同一の機能性ビタミンK依存性タンパク質の発現収率と比較して、それぞれの機能性ビタミンK依存性タンパク質の発現収率が増加する、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
ビタミンK依存性タンパク質の抗原レベル発現に対する活性の比率が増加する、請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
ビタミンK依存性タンパク質の抗原レベル発現に対する活性の比率が、少なくとも15%増加する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
ビタミンK依存性凝固因子が、FIX、FVII、FX、FII、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、オステオカルシン、石灰化抑制マトリックスGlaタンパク質(MGP)又は細胞増殖調節増殖停止特異的遺伝子6タンパク質(Gas6)からなるリストより選択される、請求項11〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
ビタミンK依存性凝固因子がFIX又はFVIIである、請求項11〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
還元型ビタミンKアナログが還元型メナジオン重亜硫酸塩である、請求項11〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
発現をバイオリアクター中で行う、請求項11〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
発酵をドロー−フィル様式で操作する、請求項11〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
ビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体の還元型で補足されたビタミンK依存性タンパク質の発酵用の培地。
【請求項21】
還元型メナジオン重亜硫酸塩で補足された、請求項20に記載の培地。
【請求項22】
発酵における細胞の生存能力を増強するための細胞培養培地中のビタミンK及び/又はビタミンKアナログ及び/又はビタミンK前駆体の還元型の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−531918(P2012−531918A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518696(P2012−518696)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000881
【国際公開番号】WO2011/003153
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(500021413)シーエスエル、リミテッド (28)
【Fターム(参考)】