ビタミンK依存性タンパク質発現を改善するための、ビタミンKエポキシドレダクダーゼサブユニット1の組換え同時発現
【課題】VKORC1の同時発現を介する(特に、組換え)VKDタンパク質発現の生産性を改善するために、新規の系および方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、ここで、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現される。さらに、本発明は、この組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系、および適切な系で培養されている宿主生物における組換えVKDタンパク質の発現の生産性を改善するための方法に関する。
【解決手段】本発明は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、ここで、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現される。さらに、本発明は、この組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系、および適切な系で培養されている宿主生物における組換えVKDタンパク質の発現の生産性を改善するための方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、ここで、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現される。さらに、本発明は、上記組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系に関し、そして、適切な系で培養されている宿主生物における組換えVKDタンパク質の発現の生産性に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ビタミンKエポキシドレダクターゼ複合体(VKORC)は、ビタミンK依存性(VKD)タンパク質の翻訳後のγ−カルボキシル化に必須の補因子である、還元型ビタミンKを再循環させる(非特許文献1)。VKORC1遺伝子は最近同定され、Rostら、2004(非特許文献2)において詳細に記載される。
【0003】
VKDタンパク質は、γ−カルボキシル化グルタミン酸(gla)残基を含み、この残基は、血液凝固因子の場合、負に帯電したリン脂質膜へのCa依存性の結合に類似する、特異的な生化学特性および生理学的特性をこのタンパク質に付与する(非特許文献3)。VKDタンパク質としては、凝血原因子(procoagulant factor)II、VII、IXおよびX、ならびに抗凝固タンパク質(anticoagulant protein)C、SおよびZが挙げられる。唯一の公知の酵素反応に限定するが、γ−カルボキシラーゼ活性は、全ての哺乳動物の組織で見出されている(非特許文献4)。γ−カルボキシラーゼは、補因子として還元型ビタミンKを使用するカルボキシル化反応を触媒する。
【0004】
グルタミン酸残基のビタミンK依存性の(VKD)γカルボキシル化は、止血、増殖制御、カルシウムホメオスタシス、およびシグナル変換において役割を担う、生物学的に活性なVKDタンパク質の産生に必要とされる翻訳後タンパク質修飾である(非特許文献5;非特許文献6)。これらのタンパク質のN末端Glaドメインの数個のグルタミン酸残基は、カルボキシル化により改変され、カルシウム依存性のリン脂質膜相互作用を可能にする(非特許文献7;非特許文献8)。これらの複数のγグルタミン酸(Gla)残基は、Glaドメインが、リン脂質膜表面への結合と組み合わせてVKDタンパク質の活性に必要とされるコンフォメーション変化を受けることを可能にする(非特許文献9;非特許文献10)。
【0005】
VKD血液凝固タンパク質は、カルシウムイオンの存在下で膜表面に結合するために、完全なまたは完全に近いカルボキシル化を必要とする(非特許文献11)。したがって、ビタミンKアンタゴニストがγカルボキシル化を阻害する場合、カルボキシル化が不十分なVKDタンパク質は、カルシウム依存性の構造を形成することができず、このことは、リン脂質膜への低い親和性およびより低い活性をもたらす(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)。例えば、タンパク質活性の全体的な喪失への寄与は、VKDタンパク質活性化ヒトプロテインCの各々10個のGla残基が存在しないことに帰せられ得る(非特許文献15)。血友病B患者に見られる、カルボキシル化が不十分な因子IX変異体の凝血原活性の喪失は、カルシウム誘導性コンフォメーション変化の欠陥およびリン脂質小胞に結合する能力の喪失に帰せられ得る(非特許文献16)。
【0006】
組換え第IX因子の場合、より高い産生レベルにおいて、カルボキシル化活性が飽和しているという事実により、チャイニーズハムスター卵巣細胞内での機能的な第IX因子の発現が制限されることが示されている(非特許文献17;非特許文献18)。
【0007】
ヒト第IX因子の場合に、γ−カルボキシル化タンパク質の組換え過剰発現は、より速い分泌速度において、ペプチド前駆体(propeptide)の切断およびγ−カルボキシル化の制限をもたらし、それゆえ、培養培地中に余剰にビタミンKが利用可能である場合でもまた、部分的にしかgla残基で占められていないタンパク質しか得られないことが示されている。このことは、低減した活性を有するVKD組換えタンパク質改変体の分泌をもたらす。培地へのビタミンKの追加は、高い発現レベルでの第IX因子の活性を改善しなかった。活性な第IX因子を誘導するために、細胞培養培地中に存在するビタミンKの必要量は、5μg/mlで飽和に達することが示されている。このレベル以下では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から分泌される活性な第IX因子の量は、ビタミンK濃度に依存した(非特許文献17)。
VKDタンパク質を翻訳後に修飾する細胞の能力についてのこれらの制限を克服するために、現在までに、発現レベルの低い細胞株が生成のために選択されてきた。Furin(ペプチド前駆体切断酵素)の同時発現は、このペプチド前駆体の完全な切断をもたらす(非特許文献19)が、γ−カルボキシル化の改善を伴わない。別のアプローチ(γ−カルボキシラーゼの過剰発現)は、第IX因子の場合には、タンパク質の分泌の改善をもたらさなかった(非特許文献20)。第IX因子分子は、カルボキシル化反応の間、カルボキシラーゼに結合し、効率よく放出されない。γ−カルボキシル化の部位での還元型ビタミンK形態の供給は、この反応の制限工程であることが結論付けられた(非特許文献21)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nelsestuen,G.L.、Zytkovicz,T.H.およびHoward,J.B.The mode of action of vitamin K.Identification of gamma−carboxyglutamic acid as a component of prothrombin.J.Biol.Chem.(1974)249,6347−6350
【非特許文献2】Rost,S.,Fregin,A.,Ivaskevicius,V.,Conzelmann,E.,Hortnagel,K.,Pelz,H.J.,Lappegard,K.,Seifried,E.,Scharrer,I.,Tuddenham,E.G.,Muller,C.R.,Strom,T.M.およびOldenburg,J.(2004)Mutations in VKORC1 cause warfarin resistance and multiple coagulation factor deficiency type 2.Nature,427,537−541
【非特許文献3】Mann,K.G.,Jenny,R.J.,およびKrishnaswamy,S.Cofactor proteins in the assembly and expression of blood clotting enzyme complexes.Annu.Rev.Biochem.(1988)57,915−956
【非特許文献4】Vermeer,C.およびde Boer−van den Berg MA Vitamin K−dependent carboxylase.Haematologia(Budap.)(1985)18,71−97
【非特許文献5】Furie.B.,Bouchard,B.A.およびFurie.B.C.Vitamin K−dependent biosynthesis of gamma−carboxyglutamic acid.Blood(1999)93,1798−1808
【非特許文献6】Berkner.K.L.The vitamin K−dependent carboxylase.J.Nutr.(2000)130,1877−1880
【非特許文献7】Stenflo.J.およびSuttie.J.W.Vitamin K−dependent formation of gamma−carboxyglutamic acid.Annu.Rev.Biochem.(1977)46,157−172
【非特許文献8】Suttie.J.W.Mechanism of action of vitamin K:synthesis of gamma−carboxyglutamic acid.CRC Crit Rev.Biochem.(1980)8,191−223
【非特許文献9】Nelsestuen.G.L,Broderius.M.およびMartin,G.Role of gamma− carboxyglutamic acid.Cation specificity of prothrombin and factor X−phospholipid binding.J.Biol.Chem.(1976)251,6886−6893
【非特許文献10】Zwaal.R.F.,Comfurius.P.およびBevers.E.M.Lipid−protein interactions in blood coagulation.Biochim.Biophys.Acta(1998)1376,433−453
【非特許文献11】Furie.B.およびFurie.B.C.The molecular basis of blood coagulation.Cell(1988)53,505−518
【非特許文献12】Esmon.C.T.,Sadowski.J.A.およびSuttie.J.W.A new carboxylation reaction.The vitamin K−dependent incorporation of H−14−CO3− into prothrombin.J.Biol.Chem.(1975a)250,4744−4748
【非特許文献13】Esmon.C.T.,Suttie.J.W.およびJackson,C.M.The functional significance of vitamin K action.Difference in phospholipid binding between normal and abnormal prothrombin.J.Biol.Chem.(1975b)250,4095−4099
【非特許文献14】Malhotra.O.P.,Nesheim.M.E.,およびMann.K.G.The kinetics of activation of normal and gamma−carboxyglutamic acid−deficient prothrombins.J.Biol.Chem.(1985)260,279−287
【非特許文献15】Zhang.L,Jhingan.A.およびCastellino.F.J.Role of individual gamma−carboxyglutamic acid residues of activated human プロテインC in defining its in vitro anticoagulant activity.Blood(1992)80,942−952
【非特許文献16】Ware,J.,Diuguid.D.L,Liebman.H.A.,Rabiet.M.J.,Kasper.C.K.,Furie,B.C,Furie.B.およびStafford,D.W.Factor IX San Dimas.Substitution of glutamine for Arg−4 in the propeptide leads to incomplete gamma−carboxylation and altered phospholipid binding properties.J.Biol.Chem.(1989)264,11401−11406
【非特許文献17】Kaufman,RJ.,Wasley.LC,Furie.B.C、Furie.B.およびShoemaker.C.B.Expression,purification,and characterization of recombinant gamma−carboxylated factor IX synthesized in Chinese hamster ovary cells.J.Biol.Chem.(1986)261,9622−9628
【非特許文献18】Derian.C.K.,VanDusen.W.,Przysiecki,C.T.,Walsh.P.N.,Berkner.K.L.,Kaufman,R.J.およびFriedman,PA Inhibitors of 2−ketoglutarate−dependent dioxygenases block aspartyl beta−hydroxylation of recombinant human factor IX in several mammalian expression systems.J.Biol.Chem.(1989)264,6615−6618
【非特許文献19】Wasley,L.C.,Rehemtulla,A.,Bristol,J.A.およびKaufman,RJ.PACE/furin can process the vitamin K− dependent pro−factor IX precursor within the secretory pathway.J.Biol.Chem.(1993)268,8458−8465
【非特許文献20】Rehemtulla,A.,Roth,D.A.,Wasley,L.C.,Kuliopulos,A.,Walsh,C.T.,Furie,B.,Furie,B.C.およびKaufman,RJ.In vitro and in vivo functional characterization of bovine vitamin K−dependent gamma−carboxylase expressed in Chinese hamster ovary cells.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,(1993)90,4611−4615
【非特許文献21】Hallgren,K.W.,Hommema,E.L.,McNally,BAおよびBerkner,K.L.Carboxylase overexpression effects full carboxylation but poor release and secretion of factor IX:implications for the release of vitamin K−dependent proteins.Biochemistry(2002)41,15045−15055
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、改善された分泌速度および/または改善された活性の発現VKDタンパク質を宿主生物で得ることにおいて、発現(特に、VKDタンパク質の組換え発現)を安定化させることへの強い需要が存在する。
【0010】
それゆえ、VKORC1の同時発現を介する(特に、組換え)VKDタンパク質発現の生産性を改善するために、新規の系および方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、この宿主生物内で発現される。
【0012】
さらに、本発明は、VKORC1またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸、およびVKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系(ここで、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、この細胞内で発現される)、組換え的にVKORC1を同時発現させることによる、宿主生物における組換えVKDタンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法、ならびに、組換えVKD発現の生産性を改善するための、宿主生物または細胞培養系におけるVKORC1の組換え発現の使用に関する。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸、およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む宿主生物であって、ここで、該組換えVKORC1および該組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現される、宿主生物。
(項目2)
項目1に記載の宿主生物であって、前記組換えVKORC1をコードする核酸または前記組換えVKDタンパク質をコードする核酸のいずれか、あるいはそれらの両方が、誘導性発現、一過性発現および恒久性発現からなる群より選択される発現様式を介して発現される、宿主生物。
(項目3)
哺乳動物細胞である、項目1または2に記載の宿主生物。
(項目4)
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞株に由来する細胞である、項目3に記載の宿主生物。
(項目5)
前記組換えVKDタンパク質が、凝血原血液因子またはその機能的に活性な誘導体である、項目1〜4のいずれか一項に記載の宿主生物。
(項目6)
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、項目5に記載の宿主生物。
(項目7)
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、項目6に記載の宿主生物。
(項目8)
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系であって、該組換えVKORC1および該VKDタンパク質の両方が該細胞内で発現される、細胞培養系。
(項目9)
前記培養された細胞が哺乳動物細胞である、項目8に記載の細胞培養系。
(項目10)
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される、項目9に記載の細胞培養系。
(項目11)
前記組換えVKDタンパク質が凝血原血液因子またはその機能的に活性な誘導体である、項目8〜10に記載の細胞培養系。
(項目12)
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、項目11に記載の細胞培養系。
(項目13)
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、項目12に記載の細胞培養系。
(項目14)
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法であって、
(a)宿主生物を提供する工程;
(b)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;
(c)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;ならびに
(d)工程(b)および(c)の組換え核酸を発現させる工程、
を包含する、方法。
(項目15)
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法であって、
(a)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する、方法。
(項目16)
前記VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸が安定に発現される、項目15に記載の方法。
(項目17)
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法であって、
(a)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する、方法。
(項目18)
前記VKORC1またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸が安定に発現される、項目17に記載の方法。
(項目19)
組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質であって、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸および該組換えVKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を宿主生物に挿入する工程、該核酸を発現させる工程、ならびに該組換えVKDタンパク質を回収する工程によって取得可能である、組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、CHO由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIX(ng/ml)の濃度(垂直軸)(図1A)、および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU/ml)(垂直軸)(図1B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図2】図2は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、CHO由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIXの特異的な生産性(ng rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図2A)および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図2B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図3】図3は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、HEK293由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIXの濃度(ng/ml)(垂直軸)(図3A)および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU/ml)(垂直軸)(図3B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図4】図4は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、HEK293由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIXの特異的な生産性(ng rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図4A)および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図4B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図5】図5は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)によるCHO由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、rFIXの比凝固活性(specific clotting activity)(%)(図5A)およびrVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、HEK293由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、rFIXの比凝固活性(%)(図5B)を示す。
【図6】図6は、rFVIIを安定に発現するCHO由来細胞株におけるrVKORC−1の一過性発現を示す。この細胞株を、VKORC1をコードするベクターまたはコントロールとしてVKORC1を含まない同一のベクター(「空ベクター」)で一過的にトランスフェクトさせる。トランスフェクションを二連で実行し、続いて5つの異なるビタミンK1濃度を使用する。ビタミンK濃度に対して、培養上清中のrFVII生産性およびrFVII活性の測定結果を示す。図6A)ELISA測定に基づく生産性の値。図6B)凝固活性測定に基づく生産性の値。図6C)ELISAによって決定される、1μgあたりのFVII凝固単位(clotting unit)に基づくFVII比活性の算出。
【図7】図7は、rFVIIを安定に発現するCHO由来細胞株およびHEK293由来細胞株における、rVKORC1の一過性発現を示す。これらの細胞株を、rVKORC1をコードするベクターまたはrVKORC1を含まない同一のベクター(「空ベクター」)で一過的にトランスフェクトさせる。トランスフェクションを二連で実行する。ELISAに基づくrFVII生産性およびrFVII活性の測定結果ならびに培養上清中のFVII凝固およびFVIIa凝固を示す。A)CHO由来細胞株。B)HEK293由来細胞株。
【図8】図8は、CHO−DHFR―宿主細胞における、rFVIIおよびrVKORCの安定なバイシストロン性(bicistronic)の同時発現を示す。rFVII生産性について選択されたクローンは、増加量のMTXによる遺伝子同時増幅(gene co−amplification)によって生成した。2つの異なるヒトrFVIIをコードする発現ベクターを、DHFRをコードする選択プラスミドとともに同時トランスフェクトした。図8A)ベクター構築物でトランスフェクトした83クローンが、rFVIIおよびrVKORC1のバイシストロン性の同時発現を生じた。図8B)rFVIIをコードするベクターで同時トランスフェクトした133クローン。
【図9】図9は、rVKORC1バイシストロン性同時発現の有無での、rFVIIを産生するCHO由来クローンの生産性および比活性の値を示す。このクローンは、サブクローニングおよび遺伝子増幅による安定なトランスフェクション後に生成した。同時に発現していない133クローンおよびrVKORC1を同時発現している83クローンを、分泌されたrFVIIのELISA測定およびFVII凝固測定に基づいて、rFVII生産性および比凝固活性について比較する。
【図10】図10は、CHO由来細胞株から単離されたmRNAレベルにおける遺伝子発現のノーザンブロット分析の一例を示す。レーン1:CHO−DHFR−非トランスフェクション細胞株、レーン2:rFVIIクローン、レーン3および4:実施例4に記載される、rFVIIをコードするプラスミドベクターおよびrVKORC−1をコードするプラスミドベクターで連続的にトランスフェクトされた2つのクローン、レーン5〜7:実施例3に記載される、rFVII配列とrVKORC1配列とがIRESを介して連結しているバイシストロン性mRNAをコードする単一のベクターでトランスフェクトされたクローン。パネルA、BおよびCは、ハイブリダイゼーション後に、3つの異なるプローブで発色させた同一のブロットを示す。A)ヒトVKORC1に対するプローブ。B)ヒトFVIIに対するプローブ。C)ハムスターGAPDHに対するプローブ。同定したmRNAの名称およびサイズを示す。
【図11】図11は、安定にトランスフェクトしたCHO由来細胞クローンおよびHEK293由来細胞クローンのrFVII発現レベルを示す。これらのクローンは、rVKORC1をコードするプラスミドまたはコントロールプラスミドでのrFVII産生細胞株の2回目のトランスフェクション後に単離した。コントロールは、空の宿主ベクターである。生産性の値は、分泌されたrFVIIのELISA測定に基づく。図11A)CHO由来細胞クローン。図11B)HEK293由来細胞クローン。
【図12】図12は、安定にトランスフェクトしたCHO由来細胞クローンおよびHEK293由来細胞クローンの比活性値と比較したrFVII発現レベルを示す。これらのクローンは、rVKORC1をコードするプラスミドまたはコントロールプラスミドでのrFVII産生細胞株の2回目のトランスフェクション後に単離した。コントロールは、空の宿主ベクターである。生産性の値は、分泌されたrFVIIのELISA測定に基づく。比活性値は、ELISAにより決定される、1μg FVIIあたりのFVII凝固単位として算出される。図12A)は、CHO由来細胞クローンを示し、図12B)は、HEK293−由来細胞クローンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明の一局面は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、この組換えVKORC1タンパク質および組換えVKDタンパク質の両方は、上記宿主生物内で発現される。
本明細書で使用される用語「機能的に活性な誘導体」とは、それぞれVKORC1タンパク質およびVKDタンパク質と実質的に同一な生物学的機能を有する、任意のポリペプチドを意味する。機能的に活性な誘導体のポリペプチド配列は、アミノ酸の欠失、付加および/または置換を含み得、このアミノ酸の不在、存在および/または置換は、それぞれ、このポリペプチドの活性にいかなる実質的な負の影響も有さない(例えば、タンパク質の生物学的活性に寄与しない、ポリペプチド配列の部分に位置するアミノ酸)。上記ポリペプチドの生物学的活性を変更しない、それぞれのポリペプチド配列の小規模なアミノ酸の欠失、付加および/または置換はまた、機能的に活性な誘導体として本発明の適用に包含される。
【0015】
以下で、表現「(組換え)VKORC1またはその機能的に活性な誘導体」および「(組換え)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体」はまた、それぞれ「(r)VKORC1」および「(r)VKDタンパク質」として示される。
【0016】
本発明の組換え核酸は、組換え核酸の産生に関して当該分野で公知の任意の方法(例えば、組換えDNA技術、RNAの逆転写および/またはDNAの増幅を介してか、あるいは細菌の複製(bacterial reproduction)を介して)によって取得され得る。
【0017】
本発明の宿主生物は、生物学的に活性なrVKORC1タンパク質および生物学的に活性なrVKDタンパク質を発現することができる、任意の宿主生物(組換え宿主生物を含む)から取得され得る。特に、本発明の宿主生物は、薬理学的に活性なrVKDタンパク質を産生することによって特徴付けられる、真核生物の宿主生物(多細胞生物を含む)であり得る。
【0018】
本発明の一実施形態において、上記宿主生物は、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK293細胞、NSO細胞、Sp20細胞、Perc.6細胞、SkHep細胞、HepG2細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Vero細胞およびCOS細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞株に由来する細胞)である。本発明の具体例において、この宿主生物は、CHO細胞またはHEK293細胞に由来する細胞である。
【0019】
本発明の一実施形態において、本発明の宿主生物に含まれるrVKORC−1をコードする核酸もしくはrVKDタンパク質をコードする核酸のいずれか、またはその両方は、誘導性発現、一過性発現および恒久性発現からなる群より選択される発現様式によって発現される。当該分野で公知であるか、または市販されている任意の発現系が、VKORC1および/またはVKDタンパク質をコードする組換え核酸の発現に使用され得る(適切かつ好ましく制御可能なプロモーター、エンハンサーなどのような制御系の使用を含む)。
【0020】
本発明の宿主生物の好ましい実施形態において、VKORC1をコードする組換え核酸もしくはVKDタンパク質をコードする組換え核酸のいずれか、またはその両方は、本発明の宿主生物の遺伝子材料に安定に組み込まれる。
【0021】
本発明の宿主生物は、rVKDタンパク質、例えば、血液因子(blood factor)またはその機能的に活性な誘導体、好ましくは、ヒト凝血原血液因子(procoagulant blood factor)または抗凝固血液因子(anticoagulant blood factor)あるいはそれらの機能的に活性な誘導体の改善された発現のために使用され得る。本発明の好ましい実施形態において、このrVKDタンパク質は、出血障害の処置に使用され得る、薬理学的に受容可能なヒト凝血原血液因子(procoagulant blood factor)である。
【0022】
本発明の一実施例として、rVKDタンパク質は、凝血原血液因子(第II因子、第VII因子、第IX因子(好ましくは、ヒト第IX因子)および第X因子を含む)または抗凝固血液因子(プロテインC、プロテインSおよびプロテインZを含む)である。
【0023】
本発明にしたがって、宿主生物は、VKORC1をコードする組換え核酸およびVKDタンパク質をコードする組換え核酸を含み、rVKORC1およびrVKDタンパク質の両方は、上記宿主生物内で発現され、そして組換えVKDタンパク質発現の生産性が実質的に改善される。
【0024】
本明細書で使用される用語「組換えVKDタンパク質発現の生産性が実質的に改善される」とは、rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体の量、分泌速度、活性および/または安定性が実施的に増大されることを意味する。
【0025】
組換えVKDタンパク質発現の生産性の改善は、当該分野で公知の任意の方法(例えば、培養培地からの単離、もしくは宿主生物を回収することによる単離、および、例えば、発現されたタンパク質の電気泳動、クロマトグラフィもしくは免疫吸着による分析が挙げられる)によって決定され得る。本発明の好ましい実施形態において、rVKDタンパク質の発現は、任意の公知の酵素イムノアッセイ(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA))によって検出される。あるいは、rVKDタンパク質の完全性および活性は、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time)(APTT)を測定することにより、評価され得る。
【0026】
本発明の別の局面は、VKORC1をコードする組換え核酸およびVKDタンパク質をコードする組換え核酸を含む細胞培養系に関し、rVKORC1およびrVKDタンパク質の両方が、上記細胞内で発現される。
【0027】
本発明の細胞培養系は、生物学的に活性なrVKORC1タンパク質および生物学的に活性なrVKDタンパク質を発現することができる細胞を含む、任意の細胞培養系を含み得る。適切な細胞の例は、上記に列挙されている。好ましい実施形態において、本発明の細胞培養系は、1つ以上の薬理学的に活性なrVKDタンパク質を産生することにより特徴付けられる真核細胞系である。
【0028】
本発明の一実施形態において、本発明の細胞培養系は、上記で定義される宿主生物を含む。
【0029】
本発明の細胞培養系内の細胞を培養する(連続様式またはバッチ様式で細胞を培養することを含む)ための、培地、試薬および条件に対する具体的な限定は存在しない。本発明の一実施形態において、細胞は、血清を含まない条件または血清およびタンパク質を含まない条件下で培養される。本発明のさらなる実施形態において、VKORC1またはVKDタンパク質をコードする組換え核酸を含む細胞が、例えば、選択培地を使用することによって選択的に増殖される条件が使用される。
【0030】
所望のrVKDタンパク質(このタンパク質は、選択された宿主生物の細胞により発現され、そして使用されるトランスフェクション/ベクター系に依存して、細胞内に含まれるか、細胞を培養するための培地に分泌される)は、当該分野で公知の方法を使用して、細胞培養系から単離/回収され得る。
【0031】
本発明のさらなる局面は、宿主生物内で発現される組換えVKDタンパク質の比活性を改善するための方法を提供し、この方法は、
(a)宿主生物を提供する工程;
(b)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;
(c)VKORC1をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(d)工程(b)および工程(c)の組換え核酸を発現させる工程、
を包含する。
【0032】
本発明の一実施形態において、VKORC1またはVKDタンパク質をコードする組換え核酸は、同時トランスフェクションによって宿主生物に同時に挿入される。あるいは、この組換え核酸は、続くトランスフェクションによって宿主生物に続いて挿入される。
【0033】
本発明にしたがって使用される組換え核酸は、宿主生物へのトランスフェクションに適する任意の形態および系(プラスミドベクターおよびウイルスベクターを含む)に含まれ得る。それぞれVKORC1およびVKDタンパク質をコードする組換え核酸は、一つのベクター分子内に両方とも存在しても、それぞれ一つのベクター分子に存在してもよく、この2つの異なるベクター分子は、同一でも異なっていてもよい。組換え核酸のトランスフェクションは、使用されるトランスフェクション系に依存し、宿主生物(例えば、真核細胞)などをトランスフェクトするための、当該分野で公知の任意の方法または市販されている方法(エレクトロポレーション、沈殿またはマイクロインジェクションが挙げられる)によって実行され得る。
【0034】
本発明の別の局面は、宿主生物における組換えVKDタンパク質発現の生産性を改善するための方法を提供し、この方法は、
(a)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、この組換え核酸は、その遺伝子材料(好ましくは、そのゲノム)に組み込まれている、工程;
(b)VKORC1をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに、
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、VKDタンパク質をコードする組換え核酸は、安定に発現される。
【0036】
本発明のさらなる局面は、宿主生物における組換えVKDタンパク質発現の生産性を改善するための方法を提供し、この方法は、
(a)VKORC1をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、この組換え核酸は、その宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、VKORC1をコードする組換え核酸が安定に発現される。
【0038】
本発明にしたがって、上記で定義した宿主生物または上記で定義した細胞培養系は、rVKORC−1の同時発現によって、組換えVKDタンパク質発現の生産性を驚異的に改善するために使用され得る。
【0039】
本発明のさらなる目的は、rVKDタンパク質を提供し、このタンパク質は、VKORC1をコードする組換え核酸およびこのrVKDタンパク質をコードする組換え核酸を挿入する工程、この核酸を発現させる工程、そしてこのrVKDタンパク質を回収する工程によって取得可能である。
【0040】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、それに対しいかなる限定もしない。
【実施例】
【0041】
(実施例1:rFIX産生HEK293由来細胞株およびCHO由来細胞株におけるrVKORC1の一過性トランスフェクションおよび同時発現)
強力なウイルスプロモーターの制御下にあるヒト第IX因子(FIX)をコードするDNA配列を含む発現プラスミドを、適切なトランスフェクション法により哺乳動物宿主細胞株へ導入し、それらのゲノムへ安定に組み込まれたこの導入された配列を有する細胞を得ることによって、組換え第IX因子(rFIX)の発現を達成する。このプラスミドはまた、適切な耐性遺伝子を送達することによって選択可能なマーカー薬物に対する耐性を付与する。ヌクレオチド新規合成経路の酵素の欠陥のために、培地中のヌクレオチド前駆体の存在下でのみ増殖することができるCHO細胞の場合、この酵素(ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR))の発現が必要とされる。このことは、メトトレキサート(MTX)の濃度を徐々に増大させることによって、FIX遺伝子の同時増幅を可能し、細胞のゲノム内でのDHFRをコードする遺伝子およびrFIXをコードする遺伝子の両方のコピー数の増大をもたらす。この目的のために、CHO由来細胞クローンをまた、ヌクレオチドおよびヌクレオチド前駆体を欠く選択培地により増殖させる必要がある。
【0042】
ヒトrFIX産生細胞を同定するために、トランスフェクションおよび培地への選択薬物の添加の後、単一細胞由来のクローンを単離することを可能にするために、細胞懸濁物を希釈する。単離後、これらの細胞クローンを、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)技術により細胞培養上清のrFIX含量を測定することを可能にする集密度まで培養する。この目的のために、これらの細胞を、rFIXを分泌する細胞の同定を確実にするために、いかなる増殖を促進するウシ胎仔血清もその成分も存在しない条件下で増殖させる必要がある。完全に機能的なrFIXタンパク質を確実にするために、ビタミンKを添加する。上清を、24時間後に回収し、rFIX特異的ELISA技術により分析する。さらに、タンパク質の完全性および活性を、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定することにより評価する。
【0043】
rVKORC1の同時発現は、rFIX発現のために予め選択されている細胞株を使用して、一過性発現技術によって達成される。rVKORC−1 cDNAを含む発現プラスミドを、さらなるクローン選択を行わずに、これらの細胞にトランスフェクトする。上清を、トランスフェクトされた細胞のプール全体から収集し、そしてrFIX含量および活性を、ネガティブコントロールと比較し、rVKORC−1活性の効果を評価するために、特異的なrFIX分泌速度について正規化する。
【0044】
(材料および方法)
発現ベクター
発現ベクターを、標準的なクローニング技術にしたがってクローニングする。簡潔に述べると、マウスDHFRを含むベクターpAdD26SV(A)−3(Scahill,S.J.,Devos,R.,Van der,H.J.およびFiers,W.(1983)Expression and characterization of the product of a human immune interferon cDNA gene in Chinese hamster ovary cells.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,80,4654−4658;ベクターは、Dr.Hauser,GBFGermanyにより供与された)のPstl 1.5kbpフラグメントを、pSVβベクター(Clontech,Palo Alto,CA)(SV40エンハンサー、初期プロモーターおよびイントロンを提供する、NotI消化によりβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を除去し、ポリリンカーを挿入した)に挿入することにより、pSV−DHFRを作製する。このベクターをまた、EcoRI/HindIIIフラグメントをphβAPr−1−βgal(これもまた、Dr.Hauserにより供与された)のEcoRI/Hindlllフラグメントと交換することによりヒトアクチンプロモーターおよびイントロンを含むphactを作製するために使用している。ala148多型(McGraw,R.A.,Davis,L.M.,Noyes,CM.,Lundblad,R.L.,Roberts,H.R.,Graham,J.B.およびStafford,D.W.(1985) Evidence for a prevalent dimorphism in the activation peptide of human coagulation factor IX.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,82,2847−2851)を有する野生型ヒトFIX cDNAを含むphact−FIXを、pFIX−bluescript(これは、無作為に選択された(randomly primed)ヒト肝臓cDNAライブラリ由来のヒトFIXをpBluescript(Stratagene,La JoIIa,CA)に挿入することによって作製した)をEcoRI消化し、生じたフラグメントをEcoRIで部分的に消化したphactに挿入することにより作製する。
【0045】
ベクターpCMV−FIX−neoを、ベクターpFIX−bluescriptのEcoRIフラグメントをpCMVβ(Clontech)(β−gal cDNAを除去しておく)に挿入することにより作製する。このベクター内で、alaに対するコドンを、天然に存在する多型ala148をthr148に変更するPCRを介する部位特異的変異誘発によってthrに交換する。PCR産物を、再度、同一のベクターに再挿入する。このベクターのEcoRIフラグメントを、pcDNA3.1(Invitrogen,Carlsbad,CA)にクローニングし、pCMV−FIX−neoを得る。
【0046】
ベクターpCMV−VKORC1−EDHproを、PCRのための鋳型としてベクターpCEP4−VKORC1(Prof.Oldenburgにより供与された、説明については、Rostら、2004を参照のこと)を使用することによって作製する。rVKORC1 cDNAを含むPCR産物を、pCMV−EDHproベクター(Herlitschka,S.E.,Falkner,F.G.,Schlokat,U.およびDorner,F.(1996) Overexpression of human prothrombin in permanent cell lines using a dominant selection/amplification fusion marker.Protein Expr.Purif.,8,358−364)にクローニングする。
【0047】
細胞培養およびトランスフェクション
CHO DUKX/DXB11細胞を、Columbia University(New York,NY)から取得し、5%ウシ胎仔血清(PAA,Linz,Austria)、デオキシアデノシン(desoxy−adenosine)、アデノシンおよびチミジン(全てSigma,St.Louis,MO製)およびL−グルタミン(Invitrogen)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を補充したDMEM/Ham’s F12(1:1)混合物(Invitrogen)中で増殖させる。HEK293細胞(ATCC No.CRL−1573)を、5%ウシ胎仔血清およびL−グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM/Ham’s F12(1:1)混合物中で増殖させる。安定なトランスフェクションのために、リン酸カルシウム共沈殿(co−precipitation)法を使用する。CHOrFIX細胞を、線状化した(linearized)プラスミドphact−FIXおよびpSV−DHFRでの同時トランスフェクションならびにヒポキサンチン、グリシンおよびチミジン(Invitrogen)を含まない、5%透析済みFBS(PAA)を補充したDMEM/Ham’s F12(1:1)混合物での選択によって作製する。遺伝子増幅のために、MTX(Ebewe,Unterach,Austria)を、10nMから始めて200nMまでの段階的に増やした濃度で加える。HEK293細胞を、線状化したプラスミドpCMV−FIX−neoでトランスフェクトし、500μg/ml G418(Invitrogen)を含む培地で選択する。細胞クローンを、手動で、またはフローサイトメトリー細胞選別技術を使用してのいずれかで限界希釈クローニング技術により単離する。
【0048】
細胞培養上清へのFIX分泌を、増殖培地を、10μg/mlビタミンK1(Sigma)を補充した血清非含有培地に交換することにより検出する。上清を収集し、FIX濃度を、ELISAおよび凝固アッセイ(活性化部分トロンボプラスチン時間、APTT)によって決定する。特異的な分泌速度の算出のために、細胞数を、CASY cell counter(Scharfe Systems,Reutlingen,Germany)を使用して計数する。
【0049】
一過性の同時発現実験のために、線状化していないプラスミドpCMV−VKORC1−EDHProを、Lipofectamine 2000試薬(Invitrogen)を使用して処理する。rVKORC−1 cDNAを含まない同一のベクターをネガティブコントロールとして使用する。
【0050】
分析法
ELISAを、一次抗体として1:40000希釈のポリクローナルウサギ抗ヒトFIX(Accurate Chemical,Westbury,NY)および検出抗体としてポリクローナルヤギ抗ヒトFIX西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体を使用して実行する。標準として、ヒト血漿由来FIX(Enzyme Research Laboratories,S.Lafayette,IN)を使用する。APTTを、FIXサンプルをFIX欠乏血漿(plama)に希釈することにより、STA Compact automated coagulometer(Diagnostica Stago,Asnieres,France)を使用して決定する。凝固に関する全ての試薬を、Baxter,Vienna,Austriaから購入する。
【0051】
(結果)
2つの安定なrFIX産生細胞株(1つはCHO由来および1つはHEK293由来)を、ヒトVKORC1をコードするcDNAを保持する発現ベクターpCMV−VKORC1−EDHproでの一過性トランスフェクションに供する。コントロールとして、空ベクターpCMV−EDHproおよび安定なrFIX発現細胞株を使用する。一過性トランスフェクションの後、細胞を血清含有培地中で一晩置く。細胞をPBSで洗浄し、血清非含有培地中で24時間培養し、その後、上清を回収する。rFIX発現および培地へのrFIXの分泌を、抗原レベルまたは凝固活性を測定する免疫化学診断法および凝固診断法によってモニタリングする。細胞の生産性への効果を推定するために、分泌速度を、細胞数および24時間あたりの産物濃度に基づいて算出する(図1〜図4)。
【0052】
rVKORC−1トランスフェクション後に、rFIXを発現するHEK293細胞は、空ベクターコントロールと比較して、特異的な分泌速度に平均2.7倍の増大、そしてrFIX濃度に2.9倍の増大を示す。これらの値は、APTT測定に基づく。ELISA値は、濃度に2.0倍の増大、そして特異的な生産性に1.8倍の増大を示す。
【0053】
CHO由来rFIX産生細胞株に関して、ELISA力価に1.5倍の増大、そしてELISAに基づく特異的な分泌速度に1.2倍の増大が観察される。APTTから算出した分泌速度は1.4倍高く、APTTから測定したFIX濃度は1.7倍高い。
【0054】
これらの値から、異なる細胞型の両方に関し、主に、より高い細胞の特異的なrFIX分泌速度に起因して、rVKORC1の存在下で、より高いrFIX産物濃度を達成することができると結論付けることができる。完全にγ−カルボキシル化されたrFIX分子のより高い分泌速度についての理由は、この翻訳後修飾に対する細胞の品質制御機構であり得る(Lin,PJ.,Straight,D.L.およびStafford,D.W.(2004)Binding of the factor IX gamma−carboxyglutamic acid domain to the vitamin K−dependent gamma−glutamyl carboxylase active site induces an allosteric effect that may ensure processive carboxylation and regulate the release of carboxylated product.J.Biol.Chem.,279,6560−6566)。両方の細胞株の場合において、ELISA値よりも、APTT値のより大きな増大は、より良好なFIX凝固活性を示す。
【0055】
CHO細胞よりも、HEK293由来細胞における、rFIX同時発現に対するrVKORC−1のより強力な効果は、より高い細胞のrFIX生産性によって説明され得る。一過性VKORC1トランスフェクションの前に、APTT値に関する生産性において、293由来クローンは、CHOクローンよりも3.5倍高いが、ELISA値に関する生産性については5倍高い。このことは、より高い生産性に起因して、293由来細胞における、より低い程度の翻訳後プロセシングを示す。したがって、rVKORC−1同時発現によってγ−カルボキシル化能力を修復した場合に、活性なrFIXアイソフォームのより高い収量が、この細胞株で見出される。
【0056】
(実施例2:組換えヒト凝固因子VII(rFVII)を安定に発現するCHO由来哺乳動物細胞株およびHEK293由来哺乳動物細胞株における、組換えヒトVKORC1の一過性の同時発現)
rFVIIの活性および/または分泌速度に対するrVKORC−1のあらゆる影響を、ヒト組換え凝固因子VII(rFVII)産生細胞における一過性の同時発現によって研究することができる。したがって、rFVIIを産生する細胞集団の大部分はまた、短期間、VKORC1を同時発現する。この期間の間、分泌されたrFVIIをサンプリングし、特徴付け、空ベクターコントロールで並行してトランスフェクトした同一の細胞株により分泌されたrFVIIと比較することができる。
【0057】
哺乳動物細胞におけるrFVIIの安定な発現を、ヒトrFVII cDNAおよび選択耐性遺伝子を含むプラスミドベクターをトランスフェクトし、続いて産生クローンを選択することにより、達成することができる。実施例1に列挙された同一の宿主細胞株を、rFVIIの安定な発現に使用することができる。遺伝子選択および遺伝子増幅手順、ならびに産生クローンのスクリーニングは、同様に実施すべきである。
【0058】
その後、ヒトVKORC1 cDNAを保持する発現ベクターを、実施例1に記載されるものと同様な方法で、一過的にトランスフェクトし、組換えVKORC1(rVKORC1)の同時発現を達成することができる。
【0059】
(材料および方法)
発現ベクター
ヒトrFVII遺伝子情報を含む発現ベクターを、鋳型としてのワクシニア発現ベクターpselp/huFVII(Himlyら、1998)のような適切な供給源からPCRによりヒトFVII cDNAを単離することによって、構築することができる。このPCR産物を、制限部位を介して、サイトメガロウイルス(CMV)に由来するような強力なウイルスプロモーターおよびネオマイシン耐性遺伝子またはハイグロマイシン耐性遺伝子のようなさらなる抗生物質選択マーカーを提供する哺乳動物発現ベクター(例えば、pcDNA3.1/hyg+またはpcDNA3.1/neo+(Invitrogen,Carlsbad,CA))に挿入することができる。
【0060】
CHO−DHFR−発現系での安定な遺伝子発現のために、実施例1に記載されるpSV−DHFRのようなさらなるプラスミドを使用して、DHFR含有細胞クローンの選択およびMTX遺伝子増幅を可能にする。
【0061】
実施例1に記載されるベクターpCMV−VKORC1−EDHproを、rVKORC1の一過性発現に使用することができる。
【0062】
細胞培養およびトランスフェクション
実施例1に記載されるものと同一の、細胞株および培養プロトコールを使用することができる。安定なトランスフェクト体(transfectant)を作製するために、リン酸カルシウム共沈殿法を使用することができる。トランスフェクション前に、プラスミドを、制限酵素消化によって線状化しなければならない。FVII cDNAを含む哺乳動物発現ベクターを、CHO宿主細胞株またはHEK293宿主細胞株の安定なトランスフェクションに使用することができる。CHO DUKX DXB11細胞は、pSV−DHFRで同時トランスフェクトしなければならない。ハイグロマイシンBを、選択薬剤として使用する場合、HEK293由来トランスフェクト体を選択するためにその濃度は、培地中100μg/mLでなければならず、CHOトランスフェクト体の場合には、250μg/mLでなければならない。ネオマイシン耐性を選択マーカーとして使用する場合、G418の濃度は、各々の細胞型に対して実施例1に記載されるように調整しなければならない。
【0063】
一過性トランスフェクションのプロトコールは、実施例1に記載されるように、LipofectamineTM2000試薬の使用を包含する。適切なネガティブコントロールとrVKORC−1を一過的に発現する細胞との比較を可能にするために、ベクターpCMV−VKORC1−EDHproおよびVKORC1 cDNA配列を含まない同一のベクターを、数回の重複試験(好ましくは、6ウェルプレート)において、並行してトランスフェクトしなければならない。同一の集団から取得された細胞を、1ウェルあたり等量の細胞密度で分配する。集密になったら、全てのトランスフェクションを同時に行う。
【0064】
細胞培養上清へのrFVIIの分泌は、増殖培地を、0.1〜10μg/mLに及ぶ種々のビタミンK1濃度で補充した血清非含有培地に交換することにより検出することができる。上清を24時間後に収集することができ、rFVII濃度を、以下に記載される適切な方法によって決定することができる。特異的なrFVII分泌速度の算出のために、例えば、CASY cell counter(Scharfe Systems,Reutlingen,Germany)またはトリパンブルー排除法を使用することによって、細胞を計数しなければならない。
【0065】
分析アッセイ
rFVII産生クローンをスクリーニングするために、そしてFVII活性と抗原レベルとを関連付けるために、以下のアッセイが適切である。
【0066】
FVII活性を、プロトロンビン凝固時間(prothrombin clotting time)(PT)として凝固アッセイによってか。または色素形成性FXa基質の変換によって定量される凝固因子Xa(FXa)の生成量として色素形成アッセイ(欧州薬局方(European Pharmacopeia 5,2005)に従う)によって測定することができる。FVII抗原レベルは、適切な抗体の対(例えば、捕捉のための、1:3000希釈したアフィニティ精製ポリクローナルヒツジ抗ヒトFVII抗血清(Affinity Biologicals,Ancaster,Canada)、および検出のための、ポリクローナルヒツジ抗ヒトFVII西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体(Cedarlane,Ontario,Canada;1:2000希釈))を使用し、続いて、光度測定(photometric)検出のための適切な色素形成試薬を添加する、ELISAを使用して決定することができる。
【0067】
全てのアッセイに対して、血漿由来のFVII調製物(国際FVII標準97/592と比較してアッセイする)を、標準物質として使用しなければならない。相対的な比凝固活性(specific clotting activity)を、活性値に対して測定した抗原の比を算出し、これらを内部でか、または血漿由来のFVII調製物の値と比較することによって推定することができる。
【0068】
分泌された総rFVIIの一部としてFVIIaレベルを推定するために、以下のアッセイを使用することができる:Staclot(登録商標)アッセイ(Diagnostica Stago,Asnieres,France)は、選択的にFVIIaのプロトロンビン凝固時間を測定するのに適している(Morrisseyら、1993)。FVIIaレベルは、国際FVIIa標準89/688と比較してアッセイしなければならない。
【0069】
(結果)
安定なrFVII産生CHO由来細胞株を、VKORC1をコードする発現ベクターpCMV−VKORC1−EDHproでの一過性トランスフェクションに供する。コントロールとして、VKORC1をコードするcDNAを含まない空ベクターpCMV−EDHproを使用することができる。1ウェルあたり1×106細胞の細胞濃度で、細胞を6ウェルプレートに播種する。集密になったら、一過性トランスフェクション手順を二連で実行する。一晩のインキュベーション後、細胞を、いかなるビタミンK1も含まない血清非含有培地でインキュベートし、FBS供給由来の細胞内部のビタミンK1レザバを枯渇させる。24時間後、培地を、0μg/mL〜5μg/mLの範囲に及ぶ種々の濃度のビタミンK1を含む血清非含有培地に交換する。さらなる分析のために、上清を収集する。24時間あたりの生産性を、ELISAおよび一段階の凝固アッセイによって測定されるrFVII抗原および活性の濃度値から決定する。FVII比凝固活性を、1μg抗原あたりのFVII凝固単位(clotting−unit)として算出する。rFVIIa〜rFVIIaの自己賦活の程度を推定するために、Staclot(登録商標)アッセイを使用することができる。図6A、6Bおよび6Cに、これらの実験の結果を示す。
【0070】
両方のベクター構築物での一過性トランスフェクションの後、rFVII発現レベルを、ELISA(図6A)およびFVII凝固(図6B)によって決定する。この細胞株によって産生されるrFVIIaは、著しい量ではないので、rFVII活性は、rFVII生産性と相関し得る。
【0071】
培地中にビタミンK1が存在しない場合、細胞の生産性および産生されたrFVIIの比活性は、rVKORC1を同時発現させてもさせなくても著しく低い。rVKORC1の同時発現の場合、rFVIIの生産性は、凝固およびELISAの両方で測定される場合、0.1μg/mL〜空ベクターでのコントロールトランスフェクションの4倍の値で回復する。rVKORC1同時発現は、ビタミンK1濃度に拘らず、細胞培養培地に添加されるビタミンK1の使用法を改善する。概して、rFVII−生産性(2つの異なる方法によって決定される)は、rVKORC1同時発現を伴う全てのビタミンK1濃度において、コントロールの最大4倍である。産生された1μg rFVIIあたりの凝固単位として表現される比活性は、0μg/mLのビタミンK1において、著しくより低い値を示し、rVKORC1の有無で有意な違いを示さない。
【0072】
同様な実験において、一過性のrVKORC−1同時発現後にrFVIIを安定に発現するCHO由来細胞株とHEK293由来細胞株とを比較した場合、両方の場合におけるコントロールトランスフェクションのように、有意により高い生産性が見出され得る(図7)。この実験において、0.5μg/mLのビタミンK1を使用する。凝固およびELISAの両方で測定されるように、CHO−rFVII細胞に関して、rVKORC−1を同時発現させたrFVII発現レベルは、コントロールよりも2.5倍高いことが見出され得る。
【0073】
γ−カルボキシル化は、この反応に必要とされる還元型ビタミンK形態が十分な量で利用可能ではない場合、rFVIIの生産性に対する律速工程(rate limiting step)であることが結論付けられ得る。推定上の細胞制御機構は、細胞内の不完全なγ−カルボキシル化を伴うrFVII分子を保持する(Linら、2004)。一過性のrVKORC−1同時発現は、完全なγ−カルボキシル化を確実にする還元型ビタミンK形態のより良好な供給を提供することにより、広範囲のビタミンK1濃度でrFVII生産性を改善する。
【0074】
これらの知見は、また、哺乳動物細胞において、γ−カルボキシラーゼの同時発現が組み替えヒト第IX因子の生産性の低下をもたらすという以前の研究(Hallgrenら、2002)に従う。細胞代謝内での、VKORC1について現在までに既知の唯一の機能は、ビタミンK−2,3エポキシドの、γ−カルボキシル化反応に必要とされるそのヒドロキノン形態への還元である。たとえ哺乳動物細胞株それ自体が良好に機能するγ−カルボキシル化機構を保持しているとしても、rVKORC1同時発現が完全なγ−カルボキシル化された品質の所望のrFVIIタンパク質を保証することが結論付けられ得る。
【0075】
(実施例3:非ウイルス性遺伝子トランスフェクション後の、CHO由来細胞株内でのrVKORC1およびrFVIIの安定なバイシストロン性同時発現)
rFVII産生のための安定な哺乳動物細胞株を作製することの範囲内の、γ−カルボキシル化に対するrVKORC1同時発現のあらゆる効果を利用するために、バイシストロン性発現系を使用することができる。このような系を使用して、単一の発現ベクターの送達後に、真核細胞における2つのタンパク質の同時発現を達成することができる。さらに、2つのタンパク質を、同時に同一のmRNA分子から翻訳させる。このことは、発現ベクター構築物の、2つの導入遺伝子をコードするcDNAの間にウイルス性遺伝子エレメント(これは、内部リボソームエントリー配列(internal ribosome entry sequence)(IRES)と呼ばれる)を導入することによって可能になる(MountfordおよびSmith、1995)。このDNAベクター構築物(これは、宿主細胞の染色体に安定に組み込まれている)からのmRNAの転写後、2つのリボソームが、プロセシングされたmRNAに結合することができ、両方のポリペプチド鎖を同時に伸長させることができる。
【0076】
哺乳動物発現のためのエレメント(例えば、強力なウイルスプロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびクローン選択を可能にする耐性遺伝子)を提供するように、ベクターを構築しなければならない。所望のタンパク質をコードする両方のcDNAを、それらの間にIRES配列を有するように、ベクターにクローニングする。
【0077】
rFVII発現とバイシストロン性のrFVIIおよびrVKORC1の同時発現とを比較するために、rFVII cDNAのみを保持する同一の宿主ベクターに厳密に由来するコントロール発現ベクターを構築することができる。これらの2つのベクターを、同一の宿主細胞株(例えば、CHO−DHFR−細胞株であるCHO DUXK DXB11)に並行してトランスフェクトすることができる。この細胞株は、遺伝子増幅によりタンパク質発現レベルを増大させる機会を提供する。このことは、DHFR遺伝子を保持するプラスミドの同時トランスフェクションおよび実施例1に記載される継代培養(sub−cultivation)の間に薬物MTXのレベルを増大させることによって達成することができる。この発現および同時増幅(co−amplification)系において、同時発現ベクターとモノシストロン性(monocistronic)rFVIIベクターとを比較することにより、ヘルパータンパク質(helper protein)としてのrVKORC−1の存在の有無で、rFVII発現レベルおよび活性に対する遺伝子増幅の効果を観察することができる。rFVII産生クローンの選択および産生されたrFVIIの特徴付けは、実施例2で説明したように達成することができる。2つの発現系を比較する場合にクローン特異的な偏りを回避するために、同一の方法論でスクリーニングした多数のクローンを特徴付けなければならない。
【0078】
(材料および方法)
発現ベクター
プラスミドベクター構築物(これらは、実施例2で説明される同一の宿主ベクターに由来する)を標準的なクローニング技術によって構築することができる。ベクターpCMV−rFVIIの構築を実施例2に記載されるようにして達成することができ、類似のベクターpCMV−rFVII−lRES−VKORC1を、以下のようにして構築することができる:ヒトFVII cDNAを、実施例2で使用したものと同一の供給源からPCRによって増幅することができる。IRESエレメントを、供給源ベクターplRES2−EGFP(Clontech,Palo Alto,CA)から単離することができ、そしてVKORC1 cDNAを、実施例1に記載されるものと同一の供給源ベクター(pCEP4−VKORC1)からクローニングすることができる。これら3つのエレメント全てを、pCMV−rFVIIの構築(実施例2を参照のこと)に使用したものと同一の宿主ベクターにクローニングすることができる。詳細には、付加されたKozak配列およびEcoRI制限部位を有するFVII cDNAのPCR産物を、適切な制限部位を介した切断を可能にするために中間体ベクター(例えば、pBluescript;Stratagene,LaJoIIa,CA)にクローニングすることができる。FVII cDNAを含むこの中間体のHindlll/BamHIフラグメントを、pcDNA3.1/Hyg+(Invitrogen)にクローニングすることができる。この中間体構築物は、BamHIおよびXholで消化することができ、一回のライゲーション反応で、VKORC1 cDNA(鋳型pCEP4−VKORC1から得る)ならびに5’端および3’端にBstXIとXhoI部位とを有するPCR産物とともに、pIRES2−EGFP由来のBamHI/BstXIフラグメント(IRESを含む)を同時に挿入することを可能にし、pCMV−rFVII−IRES−VKORC1を取得することができる。
【0079】
CHO−DHFR−発現系での遺伝子発現および増幅を可能にするために、実施例1に記載される第二の選択プラスミドpSV−DHFRを使用することができる。
【0080】
細胞培養およびトランスフェクション
CHO−DHFR−宿主細胞株、ならびに、実施例1に記載されるものと同一の材料およびトランスフェクションプロトコールおよび培養プロトコールを、所望のrFVII産生クローンを作製および選択するために使用することができる。MTXによる遺伝子増幅を同様に達成することができる。
【0081】
分析アッセイ
rFVIIまたは活性および濃度についてクローンおよび上清を特徴付け、細胞特異的な生産性を決定するために、実施例2に記載されるものと同一のアッセイを使用することができる。FVIIa活性を同様にモニタリングする必要がある。
【0082】
ノーザンブロット
この技術を使用して、導入した遺伝子の転写をmRNAレベルで特異的に検出し、正確なmRNAサイズを確認することができる。細胞集団から単離および調製された細胞の総RNAを、アガロースゲル上で分離し、ナイロンメンブレンにブロットすることができる。DIG標識プローブのハイブリダイゼーション、そしてハイブリダイズしたプローブへ結合した後のアルカリホスファターゼ標識抗DIG抗体(Roche,Basel,Switzerland)によるX線フィルムへの化学発光を現像することにより、特異的なRNA配列を検出することができる。標的mRNAレベル(rVKORC1およびrFVII)は、ハウスキーピング遺伝子(例えば、ハムスターグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH))と比較しなければならない。
【0083】
(結果)
CHO−DHFR−発現系に由来する安定な細胞クローンを作製し、そして、ELISA技術およびプロトロンビン時間(PT)凝固技術によってrFVII生産性をアッセイすることができる。発現プラスミドpCMV−rFVII−IRES−VKORC1またはpCMV−rFVIIを、リン酸カルシウム共沈殿技術によって選択プラスミドpSV−DHFRと同時にトランスフェクトすることができ、クローンを、ヒポキサンチン、グリシンおよびチミジンを欠く選択培地への曝露(exposition)および抗生物質による選択への曝露によって取得することができる。単一の細胞由来のクローンを、限界希釈クローニングの後にスクリーニングし、MTX濃度を増加させながら数回継代培養して、遺伝子増幅を達成する。サブクローニング工程毎に、クローンを最大320nMのMTX濃度へ曝す。サブクローニングの全ラウンド(round)から、全部でpCMV−rFVIIトランスフェクション由来の133クローンおよびrVKORC−1同時発現構築物でのトランスフェクション由来の83クローンを、増殖させ、詳細に特徴付ける。細胞培養上清に関して、rFVII濃度をELISAによって決定することができ、rFVIIおよびrFVIIa活性をPT凝固アッセイによって並行して測定する。不自然に高い特異的なFVII凝固値(FVII−clotting value)を避けるために、rFVIIのうち10%未満がFVIIaに活性化されたクローンのみを特徴付けに関して考慮する(データは示していない)。発現レベルを、24時間、106細胞あたりのngとしてELISA濃度の値から算出する。FVII比凝固活性を、1μgあたりの凝固単位として算出する。
【0084】
図8において、ELISAを基にした特異的な生産性の値を、rFVIIのみを発現するクローン(図8A)、およびrFVII−rVKORC1同時発現クローン(図8B)に関してそれぞれMTX濃度に対してプロットする。両方の株において、MTXレベルと発現レベルとの間の関連性を見ることができる。rFVIIのみのクローンについて、MTX無しでの初期クローンは、匹敵するか、または幾分より高いレベルで始まる。特に、MTXが20nMの低い開始レベルから40nMに増加する場合、rFVII−rVKORC1同時発現クローンについて、より急激な共動性の発現レベルの増大を明確に見ることができる(図8Bに対して、図8A)。80nMのMTXにおいて、全てのrFVII−rVKORC1同時発現クローンは、初期クローンの2〜80倍のrFVIIを発現するのに対し、rFVIIのみのクローンに関して、依然として、一部のクローンが、初期クローンと同様な発現レベルを有することが見出される。20nMより上では、全てのMTXレベルにおいて、rFVIIのみのクローンよりもrFVII−rVKORC1内でより良好な産生クローンが見出される。遺伝子増幅後のより良好なrFVII産生クローンの発現レベルは、特にMTX増大の最初のラウンドにおいて、rVKORC1同時発現により2倍になることが見出され得る。
【0085】
FVII比凝固活性に関して、全てのこれらのクローンについて計算した値を生産性に対してプロットし、タンパク質の機能性を比較することができる。図9において、両方の株を比較することにより、同様な生産性の範囲においておよそ等しい活性値であり、より高い生産性において両方とも全体的に減少することが示される。rFVII−rVKORC1同時発現クローンは、2倍超の生産性を有することが見出されるので、一日、106細胞あたり、4μgより高い範囲の活性値を比較することができない。rFVII−rVKORC1クローンにおけるこの発現レベルより高く、血漿由来のFVIIに類似する一定の活性値(1μgあたり2U)を維持し得る(Moorら、1995)。
【0086】
単一のバイシストロン性mRNA(rFVIIおよびrVKORC1をコードする配列を含む)の転写をもたらす、IRESエレメントを含むベクター構築物の機能性および機能的なゲノム組み込みを、特にVKORC1特異的なアッセイを利用することができない場合には、ノーザンブロット技術により実証することができる。
【0087】
図10は、ノーザンブロットを示し、ここでは、CHO由来のトランスフェクト体またはコントロール細胞の全mRNAを細胞溶解後に単離し、そして電気泳動で分離した後にナイロンメンブレン上にブロットした。このメンブレンを、ヒトVKORC1、ヒトFVII、および参照遺伝子(ハムスターGAPDH)に特異的なDIG標識DNAプローブで3回連続してハイブリダイズさせた。プローブを、DIG特異的標識抗体で検出する。サンプルは、:トランスフェクトさせていないCHO−DHFR−細胞、rFVIIのみを発現する1つのCHO由来クローン、実施例3に記載される、rFVIIをコードするベクターおよびrVKORC1をコードするベクターで連続的にトランスフェクトした2つのクローン、ならびに、バイシストロン性rFVIIおよびrVKORC1の同時発現を有する3つのクローンである。rFVII−IRES−rVKORC1構築物についての約2.4kbのサイズ、rFVII構築物についての1.4kbのサイズ、rVKORC1 mRNAについての0.5kbのサイズ、およびGAPDHコントロールmRNAについての1.0kbのサイズを有するmRNA転写物は、全3つのプローブを用いて検出することができる。GAPDHは、全てのクローンで見出されるが、rVKORC1およびrFVIIは、それぞれの細胞株において、トランスフェクトされたプラスミドベクターにしたがって存在する。
【0088】
まとめると、rVKORC1の安定なバイシストロン性同時発現は、特に、遺伝子増幅を適用する場合に、哺乳動物細胞においてrFVIIの生産性を増大させる効果を有する。遺伝子導入後のrFVII高生産クローンの収量は、rVKORC1同時発現によってより高い。スクリーニングしたクローンの半数において、2倍超の発現レベルを、同じMTX濃度レベルにおいて達成することができる。タンパク質活性を、高い細胞タンパク質分泌レベルにおいて維持することができる。両方の効果は、γ−カルボキシル化反応に必要とされる還元型ビタミンK形態の十分な供給(これは、完全にカルボキシル化されたタンパク質を適時に放出することを確実にするために、高いタンパク質分泌レベルにおいて、高い代謝回転速で生じる必要がある)によって説明され得る。
【0089】
(実施例4:CHOまたはHEK293哺乳動物細胞における2つの連続的な非ウイルス性トランスフェクション後の、rFVIIおよびrVKORC1の安定な同時発現)
哺乳動物細胞培養物におけるrFVII組換え発現に対する、ヘルパータンパク質としてのrVKORC1の効果を確認するために、別のアプローチを使用して、rFVIIととものrVKORC−1の同時発現を達成することができる。二回目のトランスフェクション後に、安定なrFVIIおよびrVKORC−1同時発現を示すクローンを選択するためのストラテジーを使用することができる。安定なトランスフェクション後に、rFVII発現に関して選択されているクローンに対し、ヒトVKORC1をコードする別のプラスミドベクターで二回目のトランスフェクションを行うことができる。第二の耐性マーカーを導入して、別の抗生物質への耐性によって選択工程を確実にすることができる。適切なコントロールとして、VKORC1 cDNAを含まない同一のベクターを、同一の細胞集団に並行してトランスフェクトすることができる。これらのトランスフェクションから、安定なクローンを、クローニング工程内で2種類の抗生物質を用いての同時選択後に単離することができ、実施例2および3に記載されるように特徴付けることができる。これらの新規に単離されたクローンの比較は、rVKORC−1同時発現がrFVII生産性および活性に与える効果について結論付けることを可能にするはずである。
【0090】
(材料および方法)
発現ベクター
rFVIIを産生するクローンを作製するために、実施例2に列挙されるものと同一の発現ベクターおよびrFVII cDNAの供給源を使用することができる。CHO−DHFR−系のために、さらなる選択プラスミドpSV−DHFRを使用することができる。
【0091】
二回目のトランスフェクション後に、rVKORC1同時発現を達成するために、ヒトVKORC1および一回目のトランスフェクションで使用したものとは異なる抗生物質選択マーカーをコードするベクターを採用することができる。このベクターを、実施例1に記載されるものと同一の鋳型から生成されたPCR産物をpcDNA3.1ベースのベクター(Invitrogen)に挿入することによって構築することができる。この場合において、挿入しなかった同一のpcDNA3.1ベクターを、二回目のコントロールトランスフェクションに使用すべきである。あるいは、実施例1に記載されるベクターpCMV−VKORC1−EDHproを、同一のトランスフェクションのための発現ベクターとして使用することができる。コントロールプラスミドとして、空ベクターpCMV−EDHpro(出典は、実施例1を参照のこと)を使用することができる。
【0092】
細胞培養およびトランスフェクション
実施例1で使用したものと同一の細胞株(CHOおよびHEK293)を使用して、rFVIIを産生する安定な細胞株を生成することができる。それにしたがって、全ての細胞培養培地、トランスフェクションプロトコールおよび培養プロトコールを使用することができる。これらの細胞株において、rVKORC−1の安定な同時発現を達成するために、リン酸カルシウム共沈殿を使用する二回目のトランスフェクションを使用することができる。rFVIIおよびrVKORC−1を同時発現するクローンを取得するために、さらなる抗生物質性選択薬物を使用する別のクローニング工程が必要とされる。
【0093】
分析アッセイ
濃度および活性の測定について、実施例2および3に記載されるものと同一のアッセイを使用して、rFVII発現を確認することができる。mRNAレベルでのrVKORC1の転写は、実施例3に記載されるように、ノーザンブロット技術により示すことができる。
【0094】
(結果)
rFVIIの発現に対するrVKORC−1ヘルパータンパク質の効果を示すために、2つの引き続くトランスフェクションおよびクローニングのラウンドのアプローチを使用することができる。最初のラウンドにおいて、rFVIIを発現する細胞クローンを、安定なトランスフェクションおよび抗生物質選択の後に、適切なスクリーニング技術によって単離することができる。これらのクローンのうちの1つを増殖させ、ヒトVKORC1をコードするプラスミドまたは空のコントロールプラスミドでの二回目のトランスフェクションに使用することができる。別の選択マーカーを導入することができる。再度、第二の抗生物質性選択薬物を培地に添加した(これによりトランスフェクトされていない細胞を枯渇することを確実にする)後、適切な技術によって、クローンをrFVII発現についてスクリーニングすることができる。rVKORC−1トランスフェクションまたはコントロールトランスフェクションに由来するクローンを、rFVII生産性または活性に関して比較することができる。空のコントロールベクターは、rFVII発現に影響する同一の培養条件(特に、二重の抗生物質選択)に曝されているクローンの比較を確実にする。
【0095】
代表的に、首尾よくトランスフェクトされた細胞に由来する全てのクローンから、それらのrFVII生産性にしたがって、少数のクローンを選択し、さらなる特徴付けのために増殖される。この特徴付けは、抗原ELISA技術ならびにrFVIIおよびrFVIIa凝固活性の測定による分泌されたrFVII濃度の決定を含む。rVKORC−1およびrFVIIの同時発現を、図10、レーン3および4において、2つのCHO由来クローンについて示されるように、ノーザンブロット技術によってmRNAレベルで確認することができる。
【0096】
図11において、培養上清のELISA力価に基づく特異的な生産性の値を、一連の選択されたクローン(これらは、CHO由来rFVII産生細胞株(図11A)およびHEK293由来rFVII産生細胞株(図11B)のrVKORC1の二回目のトランスフェクションまたはコントロールトランスフェクションに由来する)について示す。両方の細胞型において、rVKORC1 トランスフェクションに由来するクローンが、コントロールトランスフェクションに由来するクローンよりも多くのrFVIIを産生することが示され得る。全ての生産性のメジアン値は、両方の場合において、rVKORC1 クローンについて約2倍高い。
【0097】
図12Aおよび12Bにおいて、1マイクログラムELISAあたりのFVII凝固単位として示されるrFVII比凝固活性を、二回目のトランスフェクションの後の両方の細胞型に由来するクローンについて示す。比活性算出のために、rFVIIaへの大量のrFVII活性化を有するクローン(これはFVIIa特異的凝固アッセイにより測定することができる)は考慮すべきではない。FVII凝固単位あたり、10%のFVIIa凝固単位の値は、rFVIIaへ活性化される顕著な量のrFVIIを産生するクローンを排除するために選択され得る。したがって、図11に比べ図12にはより少ないクローンが示される。
【0098】
FVII比凝固活性における差は、rVKORC1同時発現ではなく、発現レベルと相関し得る。しかしながら、CHO由来クローンの場合に、同様な発現レベルを有するクローンは、rVKORC1同時発現の存在下でより高い活性を示す。CHO由来細胞クローンおよびHEK293由来細胞クローンの両方の生産性に関して、rVKORC1同時発現が、コントロールと比較して2倍の平均値の改善をもたらすことが結論付けられ得る。さらに、rFVII活性はまた、γ−カルボキシル化に加えて、細胞の代謝性タンパク質分泌および修飾能力によって影響される他の要因によって影響されることが結論付けられ得る。生産性および活性の値は、実施例2および3に記載されるrFVII/rVKORC1同時発現実験の結果と一致する。
【0099】
(参考文献のリスト)
【0100】
【化1】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、ここで、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現される。さらに、本発明は、上記組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系に関し、そして、適切な系で培養されている宿主生物における組換えVKDタンパク質の発現の生産性に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ビタミンKエポキシドレダクターゼ複合体(VKORC)は、ビタミンK依存性(VKD)タンパク質の翻訳後のγ−カルボキシル化に必須の補因子である、還元型ビタミンKを再循環させる(非特許文献1)。VKORC1遺伝子は最近同定され、Rostら、2004(非特許文献2)において詳細に記載される。
【0003】
VKDタンパク質は、γ−カルボキシル化グルタミン酸(gla)残基を含み、この残基は、血液凝固因子の場合、負に帯電したリン脂質膜へのCa依存性の結合に類似する、特異的な生化学特性および生理学的特性をこのタンパク質に付与する(非特許文献3)。VKDタンパク質としては、凝血原因子(procoagulant factor)II、VII、IXおよびX、ならびに抗凝固タンパク質(anticoagulant protein)C、SおよびZが挙げられる。唯一の公知の酵素反応に限定するが、γ−カルボキシラーゼ活性は、全ての哺乳動物の組織で見出されている(非特許文献4)。γ−カルボキシラーゼは、補因子として還元型ビタミンKを使用するカルボキシル化反応を触媒する。
【0004】
グルタミン酸残基のビタミンK依存性の(VKD)γカルボキシル化は、止血、増殖制御、カルシウムホメオスタシス、およびシグナル変換において役割を担う、生物学的に活性なVKDタンパク質の産生に必要とされる翻訳後タンパク質修飾である(非特許文献5;非特許文献6)。これらのタンパク質のN末端Glaドメインの数個のグルタミン酸残基は、カルボキシル化により改変され、カルシウム依存性のリン脂質膜相互作用を可能にする(非特許文献7;非特許文献8)。これらの複数のγグルタミン酸(Gla)残基は、Glaドメインが、リン脂質膜表面への結合と組み合わせてVKDタンパク質の活性に必要とされるコンフォメーション変化を受けることを可能にする(非特許文献9;非特許文献10)。
【0005】
VKD血液凝固タンパク質は、カルシウムイオンの存在下で膜表面に結合するために、完全なまたは完全に近いカルボキシル化を必要とする(非特許文献11)。したがって、ビタミンKアンタゴニストがγカルボキシル化を阻害する場合、カルボキシル化が不十分なVKDタンパク質は、カルシウム依存性の構造を形成することができず、このことは、リン脂質膜への低い親和性およびより低い活性をもたらす(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)。例えば、タンパク質活性の全体的な喪失への寄与は、VKDタンパク質活性化ヒトプロテインCの各々10個のGla残基が存在しないことに帰せられ得る(非特許文献15)。血友病B患者に見られる、カルボキシル化が不十分な因子IX変異体の凝血原活性の喪失は、カルシウム誘導性コンフォメーション変化の欠陥およびリン脂質小胞に結合する能力の喪失に帰せられ得る(非特許文献16)。
【0006】
組換え第IX因子の場合、より高い産生レベルにおいて、カルボキシル化活性が飽和しているという事実により、チャイニーズハムスター卵巣細胞内での機能的な第IX因子の発現が制限されることが示されている(非特許文献17;非特許文献18)。
【0007】
ヒト第IX因子の場合に、γ−カルボキシル化タンパク質の組換え過剰発現は、より速い分泌速度において、ペプチド前駆体(propeptide)の切断およびγ−カルボキシル化の制限をもたらし、それゆえ、培養培地中に余剰にビタミンKが利用可能である場合でもまた、部分的にしかgla残基で占められていないタンパク質しか得られないことが示されている。このことは、低減した活性を有するVKD組換えタンパク質改変体の分泌をもたらす。培地へのビタミンKの追加は、高い発現レベルでの第IX因子の活性を改善しなかった。活性な第IX因子を誘導するために、細胞培養培地中に存在するビタミンKの必要量は、5μg/mlで飽和に達することが示されている。このレベル以下では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から分泌される活性な第IX因子の量は、ビタミンK濃度に依存した(非特許文献17)。
VKDタンパク質を翻訳後に修飾する細胞の能力についてのこれらの制限を克服するために、現在までに、発現レベルの低い細胞株が生成のために選択されてきた。Furin(ペプチド前駆体切断酵素)の同時発現は、このペプチド前駆体の完全な切断をもたらす(非特許文献19)が、γ−カルボキシル化の改善を伴わない。別のアプローチ(γ−カルボキシラーゼの過剰発現)は、第IX因子の場合には、タンパク質の分泌の改善をもたらさなかった(非特許文献20)。第IX因子分子は、カルボキシル化反応の間、カルボキシラーゼに結合し、効率よく放出されない。γ−カルボキシル化の部位での還元型ビタミンK形態の供給は、この反応の制限工程であることが結論付けられた(非特許文献21)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
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【非特許文献18】Derian.C.K.,VanDusen.W.,Przysiecki,C.T.,Walsh.P.N.,Berkner.K.L.,Kaufman,R.J.およびFriedman,PA Inhibitors of 2−ketoglutarate−dependent dioxygenases block aspartyl beta−hydroxylation of recombinant human factor IX in several mammalian expression systems.J.Biol.Chem.(1989)264,6615−6618
【非特許文献19】Wasley,L.C.,Rehemtulla,A.,Bristol,J.A.およびKaufman,RJ.PACE/furin can process the vitamin K− dependent pro−factor IX precursor within the secretory pathway.J.Biol.Chem.(1993)268,8458−8465
【非特許文献20】Rehemtulla,A.,Roth,D.A.,Wasley,L.C.,Kuliopulos,A.,Walsh,C.T.,Furie,B.,Furie,B.C.およびKaufman,RJ.In vitro and in vivo functional characterization of bovine vitamin K−dependent gamma−carboxylase expressed in Chinese hamster ovary cells.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,(1993)90,4611−4615
【非特許文献21】Hallgren,K.W.,Hommema,E.L.,McNally,BAおよびBerkner,K.L.Carboxylase overexpression effects full carboxylation but poor release and secretion of factor IX:implications for the release of vitamin K−dependent proteins.Biochemistry(2002)41,15045−15055
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、改善された分泌速度および/または改善された活性の発現VKDタンパク質を宿主生物で得ることにおいて、発現(特に、VKDタンパク質の組換え発現)を安定化させることへの強い需要が存在する。
【0010】
それゆえ、VKORC1の同時発現を介する(特に、組換え)VKDタンパク質発現の生産性を改善するために、新規の系および方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、この宿主生物内で発現される。
【0012】
さらに、本発明は、VKORC1またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸、およびVKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系(ここで、この組換えVKORC1および組換えVKDタンパク質の両方は、この細胞内で発現される)、組換え的にVKORC1を同時発現させることによる、宿主生物における組換えVKDタンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法、ならびに、組換えVKD発現の生産性を改善するための、宿主生物または細胞培養系におけるVKORC1の組換え発現の使用に関する。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸、およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む宿主生物であって、ここで、該組換えVKORC1および該組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現される、宿主生物。
(項目2)
項目1に記載の宿主生物であって、前記組換えVKORC1をコードする核酸または前記組換えVKDタンパク質をコードする核酸のいずれか、あるいはそれらの両方が、誘導性発現、一過性発現および恒久性発現からなる群より選択される発現様式を介して発現される、宿主生物。
(項目3)
哺乳動物細胞である、項目1または2に記載の宿主生物。
(項目4)
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞株に由来する細胞である、項目3に記載の宿主生物。
(項目5)
前記組換えVKDタンパク質が、凝血原血液因子またはその機能的に活性な誘導体である、項目1〜4のいずれか一項に記載の宿主生物。
(項目6)
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、項目5に記載の宿主生物。
(項目7)
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、項目6に記載の宿主生物。
(項目8)
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系であって、該組換えVKORC1および該VKDタンパク質の両方が該細胞内で発現される、細胞培養系。
(項目9)
前記培養された細胞が哺乳動物細胞である、項目8に記載の細胞培養系。
(項目10)
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される、項目9に記載の細胞培養系。
(項目11)
前記組換えVKDタンパク質が凝血原血液因子またはその機能的に活性な誘導体である、項目8〜10に記載の細胞培養系。
(項目12)
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、項目11に記載の細胞培養系。
(項目13)
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、項目12に記載の細胞培養系。
(項目14)
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法であって、
(a)宿主生物を提供する工程;
(b)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;
(c)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;ならびに
(d)工程(b)および(c)の組換え核酸を発現させる工程、
を包含する、方法。
(項目15)
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法であって、
(a)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する、方法。
(項目16)
前記VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸が安定に発現される、項目15に記載の方法。
(項目17)
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質発現またはその機能的に活性な誘導体の生産性を改善するための方法であって、
(a)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する、方法。
(項目18)
前記VKORC1またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸が安定に発現される、項目17に記載の方法。
(項目19)
組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質であって、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸および該組換えVKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を宿主生物に挿入する工程、該核酸を発現させる工程、ならびに該組換えVKDタンパク質を回収する工程によって取得可能である、組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、CHO由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIX(ng/ml)の濃度(垂直軸)(図1A)、および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU/ml)(垂直軸)(図1B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図2】図2は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、CHO由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIXの特異的な生産性(ng rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図2A)および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図2B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図3】図3は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、HEK293由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIXの濃度(ng/ml)(垂直軸)(図3A)および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU/ml)(垂直軸)(図3B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図4】図4は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、HEK293由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、ELISA値に基づいて算出されたrFIXの特異的な生産性(ng rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図4A)および凝固活性(APTT)値に基づいて算出されたrFIXの比活性(mU rFIX/106細胞/日)(垂直軸)(図4B)を示す。血清を含まない細胞培養上清を24時間後に収集した。
【図5】図5は、rVKORC−1(1)または空ベクター(2)によるCHO由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、rFIXの比凝固活性(specific clotting activity)(%)(図5A)およびrVKORC−1(1)または空ベクター(2)による、HEK293由来のrFIX産生細胞株の一過性トランスフェクション後の、rFIXの比凝固活性(%)(図5B)を示す。
【図6】図6は、rFVIIを安定に発現するCHO由来細胞株におけるrVKORC−1の一過性発現を示す。この細胞株を、VKORC1をコードするベクターまたはコントロールとしてVKORC1を含まない同一のベクター(「空ベクター」)で一過的にトランスフェクトさせる。トランスフェクションを二連で実行し、続いて5つの異なるビタミンK1濃度を使用する。ビタミンK濃度に対して、培養上清中のrFVII生産性およびrFVII活性の測定結果を示す。図6A)ELISA測定に基づく生産性の値。図6B)凝固活性測定に基づく生産性の値。図6C)ELISAによって決定される、1μgあたりのFVII凝固単位(clotting unit)に基づくFVII比活性の算出。
【図7】図7は、rFVIIを安定に発現するCHO由来細胞株およびHEK293由来細胞株における、rVKORC1の一過性発現を示す。これらの細胞株を、rVKORC1をコードするベクターまたはrVKORC1を含まない同一のベクター(「空ベクター」)で一過的にトランスフェクトさせる。トランスフェクションを二連で実行する。ELISAに基づくrFVII生産性およびrFVII活性の測定結果ならびに培養上清中のFVII凝固およびFVIIa凝固を示す。A)CHO由来細胞株。B)HEK293由来細胞株。
【図8】図8は、CHO−DHFR―宿主細胞における、rFVIIおよびrVKORCの安定なバイシストロン性(bicistronic)の同時発現を示す。rFVII生産性について選択されたクローンは、増加量のMTXによる遺伝子同時増幅(gene co−amplification)によって生成した。2つの異なるヒトrFVIIをコードする発現ベクターを、DHFRをコードする選択プラスミドとともに同時トランスフェクトした。図8A)ベクター構築物でトランスフェクトした83クローンが、rFVIIおよびrVKORC1のバイシストロン性の同時発現を生じた。図8B)rFVIIをコードするベクターで同時トランスフェクトした133クローン。
【図9】図9は、rVKORC1バイシストロン性同時発現の有無での、rFVIIを産生するCHO由来クローンの生産性および比活性の値を示す。このクローンは、サブクローニングおよび遺伝子増幅による安定なトランスフェクション後に生成した。同時に発現していない133クローンおよびrVKORC1を同時発現している83クローンを、分泌されたrFVIIのELISA測定およびFVII凝固測定に基づいて、rFVII生産性および比凝固活性について比較する。
【図10】図10は、CHO由来細胞株から単離されたmRNAレベルにおける遺伝子発現のノーザンブロット分析の一例を示す。レーン1:CHO−DHFR−非トランスフェクション細胞株、レーン2:rFVIIクローン、レーン3および4:実施例4に記載される、rFVIIをコードするプラスミドベクターおよびrVKORC−1をコードするプラスミドベクターで連続的にトランスフェクトされた2つのクローン、レーン5〜7:実施例3に記載される、rFVII配列とrVKORC1配列とがIRESを介して連結しているバイシストロン性mRNAをコードする単一のベクターでトランスフェクトされたクローン。パネルA、BおよびCは、ハイブリダイゼーション後に、3つの異なるプローブで発色させた同一のブロットを示す。A)ヒトVKORC1に対するプローブ。B)ヒトFVIIに対するプローブ。C)ハムスターGAPDHに対するプローブ。同定したmRNAの名称およびサイズを示す。
【図11】図11は、安定にトランスフェクトしたCHO由来細胞クローンおよびHEK293由来細胞クローンのrFVII発現レベルを示す。これらのクローンは、rVKORC1をコードするプラスミドまたはコントロールプラスミドでのrFVII産生細胞株の2回目のトランスフェクション後に単離した。コントロールは、空の宿主ベクターである。生産性の値は、分泌されたrFVIIのELISA測定に基づく。図11A)CHO由来細胞クローン。図11B)HEK293由来細胞クローン。
【図12】図12は、安定にトランスフェクトしたCHO由来細胞クローンおよびHEK293由来細胞クローンの比活性値と比較したrFVII発現レベルを示す。これらのクローンは、rVKORC1をコードするプラスミドまたはコントロールプラスミドでのrFVII産生細胞株の2回目のトランスフェクション後に単離した。コントロールは、空の宿主ベクターである。生産性の値は、分泌されたrFVIIのELISA測定に基づく。比活性値は、ELISAにより決定される、1μg FVIIあたりのFVII凝固単位として算出される。図12A)は、CHO由来細胞クローンを示し、図12B)は、HEK293−由来細胞クローンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明の一局面は、ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を含む宿主生物に関し、この組換えVKORC1タンパク質および組換えVKDタンパク質の両方は、上記宿主生物内で発現される。
本明細書で使用される用語「機能的に活性な誘導体」とは、それぞれVKORC1タンパク質およびVKDタンパク質と実質的に同一な生物学的機能を有する、任意のポリペプチドを意味する。機能的に活性な誘導体のポリペプチド配列は、アミノ酸の欠失、付加および/または置換を含み得、このアミノ酸の不在、存在および/または置換は、それぞれ、このポリペプチドの活性にいかなる実質的な負の影響も有さない(例えば、タンパク質の生物学的活性に寄与しない、ポリペプチド配列の部分に位置するアミノ酸)。上記ポリペプチドの生物学的活性を変更しない、それぞれのポリペプチド配列の小規模なアミノ酸の欠失、付加および/または置換はまた、機能的に活性な誘導体として本発明の適用に包含される。
【0015】
以下で、表現「(組換え)VKORC1またはその機能的に活性な誘導体」および「(組換え)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体」はまた、それぞれ「(r)VKORC1」および「(r)VKDタンパク質」として示される。
【0016】
本発明の組換え核酸は、組換え核酸の産生に関して当該分野で公知の任意の方法(例えば、組換えDNA技術、RNAの逆転写および/またはDNAの増幅を介してか、あるいは細菌の複製(bacterial reproduction)を介して)によって取得され得る。
【0017】
本発明の宿主生物は、生物学的に活性なrVKORC1タンパク質および生物学的に活性なrVKDタンパク質を発現することができる、任意の宿主生物(組換え宿主生物を含む)から取得され得る。特に、本発明の宿主生物は、薬理学的に活性なrVKDタンパク質を産生することによって特徴付けられる、真核生物の宿主生物(多細胞生物を含む)であり得る。
【0018】
本発明の一実施形態において、上記宿主生物は、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK293細胞、NSO細胞、Sp20細胞、Perc.6細胞、SkHep細胞、HepG2細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Vero細胞およびCOS細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞株に由来する細胞)である。本発明の具体例において、この宿主生物は、CHO細胞またはHEK293細胞に由来する細胞である。
【0019】
本発明の一実施形態において、本発明の宿主生物に含まれるrVKORC−1をコードする核酸もしくはrVKDタンパク質をコードする核酸のいずれか、またはその両方は、誘導性発現、一過性発現および恒久性発現からなる群より選択される発現様式によって発現される。当該分野で公知であるか、または市販されている任意の発現系が、VKORC1および/またはVKDタンパク質をコードする組換え核酸の発現に使用され得る(適切かつ好ましく制御可能なプロモーター、エンハンサーなどのような制御系の使用を含む)。
【0020】
本発明の宿主生物の好ましい実施形態において、VKORC1をコードする組換え核酸もしくはVKDタンパク質をコードする組換え核酸のいずれか、またはその両方は、本発明の宿主生物の遺伝子材料に安定に組み込まれる。
【0021】
本発明の宿主生物は、rVKDタンパク質、例えば、血液因子(blood factor)またはその機能的に活性な誘導体、好ましくは、ヒト凝血原血液因子(procoagulant blood factor)または抗凝固血液因子(anticoagulant blood factor)あるいはそれらの機能的に活性な誘導体の改善された発現のために使用され得る。本発明の好ましい実施形態において、このrVKDタンパク質は、出血障害の処置に使用され得る、薬理学的に受容可能なヒト凝血原血液因子(procoagulant blood factor)である。
【0022】
本発明の一実施例として、rVKDタンパク質は、凝血原血液因子(第II因子、第VII因子、第IX因子(好ましくは、ヒト第IX因子)および第X因子を含む)または抗凝固血液因子(プロテインC、プロテインSおよびプロテインZを含む)である。
【0023】
本発明にしたがって、宿主生物は、VKORC1をコードする組換え核酸およびVKDタンパク質をコードする組換え核酸を含み、rVKORC1およびrVKDタンパク質の両方は、上記宿主生物内で発現され、そして組換えVKDタンパク質発現の生産性が実質的に改善される。
【0024】
本明細書で使用される用語「組換えVKDタンパク質発現の生産性が実質的に改善される」とは、rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体の量、分泌速度、活性および/または安定性が実施的に増大されることを意味する。
【0025】
組換えVKDタンパク質発現の生産性の改善は、当該分野で公知の任意の方法(例えば、培養培地からの単離、もしくは宿主生物を回収することによる単離、および、例えば、発現されたタンパク質の電気泳動、クロマトグラフィもしくは免疫吸着による分析が挙げられる)によって決定され得る。本発明の好ましい実施形態において、rVKDタンパク質の発現は、任意の公知の酵素イムノアッセイ(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA))によって検出される。あるいは、rVKDタンパク質の完全性および活性は、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time)(APTT)を測定することにより、評価され得る。
【0026】
本発明の別の局面は、VKORC1をコードする組換え核酸およびVKDタンパク質をコードする組換え核酸を含む細胞培養系に関し、rVKORC1およびrVKDタンパク質の両方が、上記細胞内で発現される。
【0027】
本発明の細胞培養系は、生物学的に活性なrVKORC1タンパク質および生物学的に活性なrVKDタンパク質を発現することができる細胞を含む、任意の細胞培養系を含み得る。適切な細胞の例は、上記に列挙されている。好ましい実施形態において、本発明の細胞培養系は、1つ以上の薬理学的に活性なrVKDタンパク質を産生することにより特徴付けられる真核細胞系である。
【0028】
本発明の一実施形態において、本発明の細胞培養系は、上記で定義される宿主生物を含む。
【0029】
本発明の細胞培養系内の細胞を培養する(連続様式またはバッチ様式で細胞を培養することを含む)ための、培地、試薬および条件に対する具体的な限定は存在しない。本発明の一実施形態において、細胞は、血清を含まない条件または血清およびタンパク質を含まない条件下で培養される。本発明のさらなる実施形態において、VKORC1またはVKDタンパク質をコードする組換え核酸を含む細胞が、例えば、選択培地を使用することによって選択的に増殖される条件が使用される。
【0030】
所望のrVKDタンパク質(このタンパク質は、選択された宿主生物の細胞により発現され、そして使用されるトランスフェクション/ベクター系に依存して、細胞内に含まれるか、細胞を培養するための培地に分泌される)は、当該分野で公知の方法を使用して、細胞培養系から単離/回収され得る。
【0031】
本発明のさらなる局面は、宿主生物内で発現される組換えVKDタンパク質の比活性を改善するための方法を提供し、この方法は、
(a)宿主生物を提供する工程;
(b)VKDタンパク質またはその機能的に活性な誘導体をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;
(c)VKORC1をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(d)工程(b)および工程(c)の組換え核酸を発現させる工程、
を包含する。
【0032】
本発明の一実施形態において、VKORC1またはVKDタンパク質をコードする組換え核酸は、同時トランスフェクションによって宿主生物に同時に挿入される。あるいは、この組換え核酸は、続くトランスフェクションによって宿主生物に続いて挿入される。
【0033】
本発明にしたがって使用される組換え核酸は、宿主生物へのトランスフェクションに適する任意の形態および系(プラスミドベクターおよびウイルスベクターを含む)に含まれ得る。それぞれVKORC1およびVKDタンパク質をコードする組換え核酸は、一つのベクター分子内に両方とも存在しても、それぞれ一つのベクター分子に存在してもよく、この2つの異なるベクター分子は、同一でも異なっていてもよい。組換え核酸のトランスフェクションは、使用されるトランスフェクション系に依存し、宿主生物(例えば、真核細胞)などをトランスフェクトするための、当該分野で公知の任意の方法または市販されている方法(エレクトロポレーション、沈殿またはマイクロインジェクションが挙げられる)によって実行され得る。
【0034】
本発明の別の局面は、宿主生物における組換えVKDタンパク質発現の生産性を改善するための方法を提供し、この方法は、
(a)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、この組換え核酸は、その遺伝子材料(好ましくは、そのゲノム)に組み込まれている、工程;
(b)VKORC1をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに、
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、VKDタンパク質をコードする組換え核酸は、安定に発現される。
【0036】
本発明のさらなる局面は、宿主生物における組換えVKDタンパク質発現の生産性を改善するための方法を提供し、この方法は、
(a)VKORC1をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、この組換え核酸は、その宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含する。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、VKORC1をコードする組換え核酸が安定に発現される。
【0038】
本発明にしたがって、上記で定義した宿主生物または上記で定義した細胞培養系は、rVKORC−1の同時発現によって、組換えVKDタンパク質発現の生産性を驚異的に改善するために使用され得る。
【0039】
本発明のさらなる目的は、rVKDタンパク質を提供し、このタンパク質は、VKORC1をコードする組換え核酸およびこのrVKDタンパク質をコードする組換え核酸を挿入する工程、この核酸を発現させる工程、そしてこのrVKDタンパク質を回収する工程によって取得可能である。
【0040】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、それに対しいかなる限定もしない。
【実施例】
【0041】
(実施例1:rFIX産生HEK293由来細胞株およびCHO由来細胞株におけるrVKORC1の一過性トランスフェクションおよび同時発現)
強力なウイルスプロモーターの制御下にあるヒト第IX因子(FIX)をコードするDNA配列を含む発現プラスミドを、適切なトランスフェクション法により哺乳動物宿主細胞株へ導入し、それらのゲノムへ安定に組み込まれたこの導入された配列を有する細胞を得ることによって、組換え第IX因子(rFIX)の発現を達成する。このプラスミドはまた、適切な耐性遺伝子を送達することによって選択可能なマーカー薬物に対する耐性を付与する。ヌクレオチド新規合成経路の酵素の欠陥のために、培地中のヌクレオチド前駆体の存在下でのみ増殖することができるCHO細胞の場合、この酵素(ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR))の発現が必要とされる。このことは、メトトレキサート(MTX)の濃度を徐々に増大させることによって、FIX遺伝子の同時増幅を可能し、細胞のゲノム内でのDHFRをコードする遺伝子およびrFIXをコードする遺伝子の両方のコピー数の増大をもたらす。この目的のために、CHO由来細胞クローンをまた、ヌクレオチドおよびヌクレオチド前駆体を欠く選択培地により増殖させる必要がある。
【0042】
ヒトrFIX産生細胞を同定するために、トランスフェクションおよび培地への選択薬物の添加の後、単一細胞由来のクローンを単離することを可能にするために、細胞懸濁物を希釈する。単離後、これらの細胞クローンを、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)技術により細胞培養上清のrFIX含量を測定することを可能にする集密度まで培養する。この目的のために、これらの細胞を、rFIXを分泌する細胞の同定を確実にするために、いかなる増殖を促進するウシ胎仔血清もその成分も存在しない条件下で増殖させる必要がある。完全に機能的なrFIXタンパク質を確実にするために、ビタミンKを添加する。上清を、24時間後に回収し、rFIX特異的ELISA技術により分析する。さらに、タンパク質の完全性および活性を、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定することにより評価する。
【0043】
rVKORC1の同時発現は、rFIX発現のために予め選択されている細胞株を使用して、一過性発現技術によって達成される。rVKORC−1 cDNAを含む発現プラスミドを、さらなるクローン選択を行わずに、これらの細胞にトランスフェクトする。上清を、トランスフェクトされた細胞のプール全体から収集し、そしてrFIX含量および活性を、ネガティブコントロールと比較し、rVKORC−1活性の効果を評価するために、特異的なrFIX分泌速度について正規化する。
【0044】
(材料および方法)
発現ベクター
発現ベクターを、標準的なクローニング技術にしたがってクローニングする。簡潔に述べると、マウスDHFRを含むベクターpAdD26SV(A)−3(Scahill,S.J.,Devos,R.,Van der,H.J.およびFiers,W.(1983)Expression and characterization of the product of a human immune interferon cDNA gene in Chinese hamster ovary cells.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,80,4654−4658;ベクターは、Dr.Hauser,GBFGermanyにより供与された)のPstl 1.5kbpフラグメントを、pSVβベクター(Clontech,Palo Alto,CA)(SV40エンハンサー、初期プロモーターおよびイントロンを提供する、NotI消化によりβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を除去し、ポリリンカーを挿入した)に挿入することにより、pSV−DHFRを作製する。このベクターをまた、EcoRI/HindIIIフラグメントをphβAPr−1−βgal(これもまた、Dr.Hauserにより供与された)のEcoRI/Hindlllフラグメントと交換することによりヒトアクチンプロモーターおよびイントロンを含むphactを作製するために使用している。ala148多型(McGraw,R.A.,Davis,L.M.,Noyes,CM.,Lundblad,R.L.,Roberts,H.R.,Graham,J.B.およびStafford,D.W.(1985) Evidence for a prevalent dimorphism in the activation peptide of human coagulation factor IX.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,82,2847−2851)を有する野生型ヒトFIX cDNAを含むphact−FIXを、pFIX−bluescript(これは、無作為に選択された(randomly primed)ヒト肝臓cDNAライブラリ由来のヒトFIXをpBluescript(Stratagene,La JoIIa,CA)に挿入することによって作製した)をEcoRI消化し、生じたフラグメントをEcoRIで部分的に消化したphactに挿入することにより作製する。
【0045】
ベクターpCMV−FIX−neoを、ベクターpFIX−bluescriptのEcoRIフラグメントをpCMVβ(Clontech)(β−gal cDNAを除去しておく)に挿入することにより作製する。このベクター内で、alaに対するコドンを、天然に存在する多型ala148をthr148に変更するPCRを介する部位特異的変異誘発によってthrに交換する。PCR産物を、再度、同一のベクターに再挿入する。このベクターのEcoRIフラグメントを、pcDNA3.1(Invitrogen,Carlsbad,CA)にクローニングし、pCMV−FIX−neoを得る。
【0046】
ベクターpCMV−VKORC1−EDHproを、PCRのための鋳型としてベクターpCEP4−VKORC1(Prof.Oldenburgにより供与された、説明については、Rostら、2004を参照のこと)を使用することによって作製する。rVKORC1 cDNAを含むPCR産物を、pCMV−EDHproベクター(Herlitschka,S.E.,Falkner,F.G.,Schlokat,U.およびDorner,F.(1996) Overexpression of human prothrombin in permanent cell lines using a dominant selection/amplification fusion marker.Protein Expr.Purif.,8,358−364)にクローニングする。
【0047】
細胞培養およびトランスフェクション
CHO DUKX/DXB11細胞を、Columbia University(New York,NY)から取得し、5%ウシ胎仔血清(PAA,Linz,Austria)、デオキシアデノシン(desoxy−adenosine)、アデノシンおよびチミジン(全てSigma,St.Louis,MO製)およびL−グルタミン(Invitrogen)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を補充したDMEM/Ham’s F12(1:1)混合物(Invitrogen)中で増殖させる。HEK293細胞(ATCC No.CRL−1573)を、5%ウシ胎仔血清およびL−グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM/Ham’s F12(1:1)混合物中で増殖させる。安定なトランスフェクションのために、リン酸カルシウム共沈殿(co−precipitation)法を使用する。CHOrFIX細胞を、線状化した(linearized)プラスミドphact−FIXおよびpSV−DHFRでの同時トランスフェクションならびにヒポキサンチン、グリシンおよびチミジン(Invitrogen)を含まない、5%透析済みFBS(PAA)を補充したDMEM/Ham’s F12(1:1)混合物での選択によって作製する。遺伝子増幅のために、MTX(Ebewe,Unterach,Austria)を、10nMから始めて200nMまでの段階的に増やした濃度で加える。HEK293細胞を、線状化したプラスミドpCMV−FIX−neoでトランスフェクトし、500μg/ml G418(Invitrogen)を含む培地で選択する。細胞クローンを、手動で、またはフローサイトメトリー細胞選別技術を使用してのいずれかで限界希釈クローニング技術により単離する。
【0048】
細胞培養上清へのFIX分泌を、増殖培地を、10μg/mlビタミンK1(Sigma)を補充した血清非含有培地に交換することにより検出する。上清を収集し、FIX濃度を、ELISAおよび凝固アッセイ(活性化部分トロンボプラスチン時間、APTT)によって決定する。特異的な分泌速度の算出のために、細胞数を、CASY cell counter(Scharfe Systems,Reutlingen,Germany)を使用して計数する。
【0049】
一過性の同時発現実験のために、線状化していないプラスミドpCMV−VKORC1−EDHProを、Lipofectamine 2000試薬(Invitrogen)を使用して処理する。rVKORC−1 cDNAを含まない同一のベクターをネガティブコントロールとして使用する。
【0050】
分析法
ELISAを、一次抗体として1:40000希釈のポリクローナルウサギ抗ヒトFIX(Accurate Chemical,Westbury,NY)および検出抗体としてポリクローナルヤギ抗ヒトFIX西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体を使用して実行する。標準として、ヒト血漿由来FIX(Enzyme Research Laboratories,S.Lafayette,IN)を使用する。APTTを、FIXサンプルをFIX欠乏血漿(plama)に希釈することにより、STA Compact automated coagulometer(Diagnostica Stago,Asnieres,France)を使用して決定する。凝固に関する全ての試薬を、Baxter,Vienna,Austriaから購入する。
【0051】
(結果)
2つの安定なrFIX産生細胞株(1つはCHO由来および1つはHEK293由来)を、ヒトVKORC1をコードするcDNAを保持する発現ベクターpCMV−VKORC1−EDHproでの一過性トランスフェクションに供する。コントロールとして、空ベクターpCMV−EDHproおよび安定なrFIX発現細胞株を使用する。一過性トランスフェクションの後、細胞を血清含有培地中で一晩置く。細胞をPBSで洗浄し、血清非含有培地中で24時間培養し、その後、上清を回収する。rFIX発現および培地へのrFIXの分泌を、抗原レベルまたは凝固活性を測定する免疫化学診断法および凝固診断法によってモニタリングする。細胞の生産性への効果を推定するために、分泌速度を、細胞数および24時間あたりの産物濃度に基づいて算出する(図1〜図4)。
【0052】
rVKORC−1トランスフェクション後に、rFIXを発現するHEK293細胞は、空ベクターコントロールと比較して、特異的な分泌速度に平均2.7倍の増大、そしてrFIX濃度に2.9倍の増大を示す。これらの値は、APTT測定に基づく。ELISA値は、濃度に2.0倍の増大、そして特異的な生産性に1.8倍の増大を示す。
【0053】
CHO由来rFIX産生細胞株に関して、ELISA力価に1.5倍の増大、そしてELISAに基づく特異的な分泌速度に1.2倍の増大が観察される。APTTから算出した分泌速度は1.4倍高く、APTTから測定したFIX濃度は1.7倍高い。
【0054】
これらの値から、異なる細胞型の両方に関し、主に、より高い細胞の特異的なrFIX分泌速度に起因して、rVKORC1の存在下で、より高いrFIX産物濃度を達成することができると結論付けることができる。完全にγ−カルボキシル化されたrFIX分子のより高い分泌速度についての理由は、この翻訳後修飾に対する細胞の品質制御機構であり得る(Lin,PJ.,Straight,D.L.およびStafford,D.W.(2004)Binding of the factor IX gamma−carboxyglutamic acid domain to the vitamin K−dependent gamma−glutamyl carboxylase active site induces an allosteric effect that may ensure processive carboxylation and regulate the release of carboxylated product.J.Biol.Chem.,279,6560−6566)。両方の細胞株の場合において、ELISA値よりも、APTT値のより大きな増大は、より良好なFIX凝固活性を示す。
【0055】
CHO細胞よりも、HEK293由来細胞における、rFIX同時発現に対するrVKORC−1のより強力な効果は、より高い細胞のrFIX生産性によって説明され得る。一過性VKORC1トランスフェクションの前に、APTT値に関する生産性において、293由来クローンは、CHOクローンよりも3.5倍高いが、ELISA値に関する生産性については5倍高い。このことは、より高い生産性に起因して、293由来細胞における、より低い程度の翻訳後プロセシングを示す。したがって、rVKORC−1同時発現によってγ−カルボキシル化能力を修復した場合に、活性なrFIXアイソフォームのより高い収量が、この細胞株で見出される。
【0056】
(実施例2:組換えヒト凝固因子VII(rFVII)を安定に発現するCHO由来哺乳動物細胞株およびHEK293由来哺乳動物細胞株における、組換えヒトVKORC1の一過性の同時発現)
rFVIIの活性および/または分泌速度に対するrVKORC−1のあらゆる影響を、ヒト組換え凝固因子VII(rFVII)産生細胞における一過性の同時発現によって研究することができる。したがって、rFVIIを産生する細胞集団の大部分はまた、短期間、VKORC1を同時発現する。この期間の間、分泌されたrFVIIをサンプリングし、特徴付け、空ベクターコントロールで並行してトランスフェクトした同一の細胞株により分泌されたrFVIIと比較することができる。
【0057】
哺乳動物細胞におけるrFVIIの安定な発現を、ヒトrFVII cDNAおよび選択耐性遺伝子を含むプラスミドベクターをトランスフェクトし、続いて産生クローンを選択することにより、達成することができる。実施例1に列挙された同一の宿主細胞株を、rFVIIの安定な発現に使用することができる。遺伝子選択および遺伝子増幅手順、ならびに産生クローンのスクリーニングは、同様に実施すべきである。
【0058】
その後、ヒトVKORC1 cDNAを保持する発現ベクターを、実施例1に記載されるものと同様な方法で、一過的にトランスフェクトし、組換えVKORC1(rVKORC1)の同時発現を達成することができる。
【0059】
(材料および方法)
発現ベクター
ヒトrFVII遺伝子情報を含む発現ベクターを、鋳型としてのワクシニア発現ベクターpselp/huFVII(Himlyら、1998)のような適切な供給源からPCRによりヒトFVII cDNAを単離することによって、構築することができる。このPCR産物を、制限部位を介して、サイトメガロウイルス(CMV)に由来するような強力なウイルスプロモーターおよびネオマイシン耐性遺伝子またはハイグロマイシン耐性遺伝子のようなさらなる抗生物質選択マーカーを提供する哺乳動物発現ベクター(例えば、pcDNA3.1/hyg+またはpcDNA3.1/neo+(Invitrogen,Carlsbad,CA))に挿入することができる。
【0060】
CHO−DHFR−発現系での安定な遺伝子発現のために、実施例1に記載されるpSV−DHFRのようなさらなるプラスミドを使用して、DHFR含有細胞クローンの選択およびMTX遺伝子増幅を可能にする。
【0061】
実施例1に記載されるベクターpCMV−VKORC1−EDHproを、rVKORC1の一過性発現に使用することができる。
【0062】
細胞培養およびトランスフェクション
実施例1に記載されるものと同一の、細胞株および培養プロトコールを使用することができる。安定なトランスフェクト体(transfectant)を作製するために、リン酸カルシウム共沈殿法を使用することができる。トランスフェクション前に、プラスミドを、制限酵素消化によって線状化しなければならない。FVII cDNAを含む哺乳動物発現ベクターを、CHO宿主細胞株またはHEK293宿主細胞株の安定なトランスフェクションに使用することができる。CHO DUKX DXB11細胞は、pSV−DHFRで同時トランスフェクトしなければならない。ハイグロマイシンBを、選択薬剤として使用する場合、HEK293由来トランスフェクト体を選択するためにその濃度は、培地中100μg/mLでなければならず、CHOトランスフェクト体の場合には、250μg/mLでなければならない。ネオマイシン耐性を選択マーカーとして使用する場合、G418の濃度は、各々の細胞型に対して実施例1に記載されるように調整しなければならない。
【0063】
一過性トランスフェクションのプロトコールは、実施例1に記載されるように、LipofectamineTM2000試薬の使用を包含する。適切なネガティブコントロールとrVKORC−1を一過的に発現する細胞との比較を可能にするために、ベクターpCMV−VKORC1−EDHproおよびVKORC1 cDNA配列を含まない同一のベクターを、数回の重複試験(好ましくは、6ウェルプレート)において、並行してトランスフェクトしなければならない。同一の集団から取得された細胞を、1ウェルあたり等量の細胞密度で分配する。集密になったら、全てのトランスフェクションを同時に行う。
【0064】
細胞培養上清へのrFVIIの分泌は、増殖培地を、0.1〜10μg/mLに及ぶ種々のビタミンK1濃度で補充した血清非含有培地に交換することにより検出することができる。上清を24時間後に収集することができ、rFVII濃度を、以下に記載される適切な方法によって決定することができる。特異的なrFVII分泌速度の算出のために、例えば、CASY cell counter(Scharfe Systems,Reutlingen,Germany)またはトリパンブルー排除法を使用することによって、細胞を計数しなければならない。
【0065】
分析アッセイ
rFVII産生クローンをスクリーニングするために、そしてFVII活性と抗原レベルとを関連付けるために、以下のアッセイが適切である。
【0066】
FVII活性を、プロトロンビン凝固時間(prothrombin clotting time)(PT)として凝固アッセイによってか。または色素形成性FXa基質の変換によって定量される凝固因子Xa(FXa)の生成量として色素形成アッセイ(欧州薬局方(European Pharmacopeia 5,2005)に従う)によって測定することができる。FVII抗原レベルは、適切な抗体の対(例えば、捕捉のための、1:3000希釈したアフィニティ精製ポリクローナルヒツジ抗ヒトFVII抗血清(Affinity Biologicals,Ancaster,Canada)、および検出のための、ポリクローナルヒツジ抗ヒトFVII西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体(Cedarlane,Ontario,Canada;1:2000希釈))を使用し、続いて、光度測定(photometric)検出のための適切な色素形成試薬を添加する、ELISAを使用して決定することができる。
【0067】
全てのアッセイに対して、血漿由来のFVII調製物(国際FVII標準97/592と比較してアッセイする)を、標準物質として使用しなければならない。相対的な比凝固活性(specific clotting activity)を、活性値に対して測定した抗原の比を算出し、これらを内部でか、または血漿由来のFVII調製物の値と比較することによって推定することができる。
【0068】
分泌された総rFVIIの一部としてFVIIaレベルを推定するために、以下のアッセイを使用することができる:Staclot(登録商標)アッセイ(Diagnostica Stago,Asnieres,France)は、選択的にFVIIaのプロトロンビン凝固時間を測定するのに適している(Morrisseyら、1993)。FVIIaレベルは、国際FVIIa標準89/688と比較してアッセイしなければならない。
【0069】
(結果)
安定なrFVII産生CHO由来細胞株を、VKORC1をコードする発現ベクターpCMV−VKORC1−EDHproでの一過性トランスフェクションに供する。コントロールとして、VKORC1をコードするcDNAを含まない空ベクターpCMV−EDHproを使用することができる。1ウェルあたり1×106細胞の細胞濃度で、細胞を6ウェルプレートに播種する。集密になったら、一過性トランスフェクション手順を二連で実行する。一晩のインキュベーション後、細胞を、いかなるビタミンK1も含まない血清非含有培地でインキュベートし、FBS供給由来の細胞内部のビタミンK1レザバを枯渇させる。24時間後、培地を、0μg/mL〜5μg/mLの範囲に及ぶ種々の濃度のビタミンK1を含む血清非含有培地に交換する。さらなる分析のために、上清を収集する。24時間あたりの生産性を、ELISAおよび一段階の凝固アッセイによって測定されるrFVII抗原および活性の濃度値から決定する。FVII比凝固活性を、1μg抗原あたりのFVII凝固単位(clotting−unit)として算出する。rFVIIa〜rFVIIaの自己賦活の程度を推定するために、Staclot(登録商標)アッセイを使用することができる。図6A、6Bおよび6Cに、これらの実験の結果を示す。
【0070】
両方のベクター構築物での一過性トランスフェクションの後、rFVII発現レベルを、ELISA(図6A)およびFVII凝固(図6B)によって決定する。この細胞株によって産生されるrFVIIaは、著しい量ではないので、rFVII活性は、rFVII生産性と相関し得る。
【0071】
培地中にビタミンK1が存在しない場合、細胞の生産性および産生されたrFVIIの比活性は、rVKORC1を同時発現させてもさせなくても著しく低い。rVKORC1の同時発現の場合、rFVIIの生産性は、凝固およびELISAの両方で測定される場合、0.1μg/mL〜空ベクターでのコントロールトランスフェクションの4倍の値で回復する。rVKORC1同時発現は、ビタミンK1濃度に拘らず、細胞培養培地に添加されるビタミンK1の使用法を改善する。概して、rFVII−生産性(2つの異なる方法によって決定される)は、rVKORC1同時発現を伴う全てのビタミンK1濃度において、コントロールの最大4倍である。産生された1μg rFVIIあたりの凝固単位として表現される比活性は、0μg/mLのビタミンK1において、著しくより低い値を示し、rVKORC1の有無で有意な違いを示さない。
【0072】
同様な実験において、一過性のrVKORC−1同時発現後にrFVIIを安定に発現するCHO由来細胞株とHEK293由来細胞株とを比較した場合、両方の場合におけるコントロールトランスフェクションのように、有意により高い生産性が見出され得る(図7)。この実験において、0.5μg/mLのビタミンK1を使用する。凝固およびELISAの両方で測定されるように、CHO−rFVII細胞に関して、rVKORC−1を同時発現させたrFVII発現レベルは、コントロールよりも2.5倍高いことが見出され得る。
【0073】
γ−カルボキシル化は、この反応に必要とされる還元型ビタミンK形態が十分な量で利用可能ではない場合、rFVIIの生産性に対する律速工程(rate limiting step)であることが結論付けられ得る。推定上の細胞制御機構は、細胞内の不完全なγ−カルボキシル化を伴うrFVII分子を保持する(Linら、2004)。一過性のrVKORC−1同時発現は、完全なγ−カルボキシル化を確実にする還元型ビタミンK形態のより良好な供給を提供することにより、広範囲のビタミンK1濃度でrFVII生産性を改善する。
【0074】
これらの知見は、また、哺乳動物細胞において、γ−カルボキシラーゼの同時発現が組み替えヒト第IX因子の生産性の低下をもたらすという以前の研究(Hallgrenら、2002)に従う。細胞代謝内での、VKORC1について現在までに既知の唯一の機能は、ビタミンK−2,3エポキシドの、γ−カルボキシル化反応に必要とされるそのヒドロキノン形態への還元である。たとえ哺乳動物細胞株それ自体が良好に機能するγ−カルボキシル化機構を保持しているとしても、rVKORC1同時発現が完全なγ−カルボキシル化された品質の所望のrFVIIタンパク質を保証することが結論付けられ得る。
【0075】
(実施例3:非ウイルス性遺伝子トランスフェクション後の、CHO由来細胞株内でのrVKORC1およびrFVIIの安定なバイシストロン性同時発現)
rFVII産生のための安定な哺乳動物細胞株を作製することの範囲内の、γ−カルボキシル化に対するrVKORC1同時発現のあらゆる効果を利用するために、バイシストロン性発現系を使用することができる。このような系を使用して、単一の発現ベクターの送達後に、真核細胞における2つのタンパク質の同時発現を達成することができる。さらに、2つのタンパク質を、同時に同一のmRNA分子から翻訳させる。このことは、発現ベクター構築物の、2つの導入遺伝子をコードするcDNAの間にウイルス性遺伝子エレメント(これは、内部リボソームエントリー配列(internal ribosome entry sequence)(IRES)と呼ばれる)を導入することによって可能になる(MountfordおよびSmith、1995)。このDNAベクター構築物(これは、宿主細胞の染色体に安定に組み込まれている)からのmRNAの転写後、2つのリボソームが、プロセシングされたmRNAに結合することができ、両方のポリペプチド鎖を同時に伸長させることができる。
【0076】
哺乳動物発現のためのエレメント(例えば、強力なウイルスプロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびクローン選択を可能にする耐性遺伝子)を提供するように、ベクターを構築しなければならない。所望のタンパク質をコードする両方のcDNAを、それらの間にIRES配列を有するように、ベクターにクローニングする。
【0077】
rFVII発現とバイシストロン性のrFVIIおよびrVKORC1の同時発現とを比較するために、rFVII cDNAのみを保持する同一の宿主ベクターに厳密に由来するコントロール発現ベクターを構築することができる。これらの2つのベクターを、同一の宿主細胞株(例えば、CHO−DHFR−細胞株であるCHO DUXK DXB11)に並行してトランスフェクトすることができる。この細胞株は、遺伝子増幅によりタンパク質発現レベルを増大させる機会を提供する。このことは、DHFR遺伝子を保持するプラスミドの同時トランスフェクションおよび実施例1に記載される継代培養(sub−cultivation)の間に薬物MTXのレベルを増大させることによって達成することができる。この発現および同時増幅(co−amplification)系において、同時発現ベクターとモノシストロン性(monocistronic)rFVIIベクターとを比較することにより、ヘルパータンパク質(helper protein)としてのrVKORC−1の存在の有無で、rFVII発現レベルおよび活性に対する遺伝子増幅の効果を観察することができる。rFVII産生クローンの選択および産生されたrFVIIの特徴付けは、実施例2で説明したように達成することができる。2つの発現系を比較する場合にクローン特異的な偏りを回避するために、同一の方法論でスクリーニングした多数のクローンを特徴付けなければならない。
【0078】
(材料および方法)
発現ベクター
プラスミドベクター構築物(これらは、実施例2で説明される同一の宿主ベクターに由来する)を標準的なクローニング技術によって構築することができる。ベクターpCMV−rFVIIの構築を実施例2に記載されるようにして達成することができ、類似のベクターpCMV−rFVII−lRES−VKORC1を、以下のようにして構築することができる:ヒトFVII cDNAを、実施例2で使用したものと同一の供給源からPCRによって増幅することができる。IRESエレメントを、供給源ベクターplRES2−EGFP(Clontech,Palo Alto,CA)から単離することができ、そしてVKORC1 cDNAを、実施例1に記載されるものと同一の供給源ベクター(pCEP4−VKORC1)からクローニングすることができる。これら3つのエレメント全てを、pCMV−rFVIIの構築(実施例2を参照のこと)に使用したものと同一の宿主ベクターにクローニングすることができる。詳細には、付加されたKozak配列およびEcoRI制限部位を有するFVII cDNAのPCR産物を、適切な制限部位を介した切断を可能にするために中間体ベクター(例えば、pBluescript;Stratagene,LaJoIIa,CA)にクローニングすることができる。FVII cDNAを含むこの中間体のHindlll/BamHIフラグメントを、pcDNA3.1/Hyg+(Invitrogen)にクローニングすることができる。この中間体構築物は、BamHIおよびXholで消化することができ、一回のライゲーション反応で、VKORC1 cDNA(鋳型pCEP4−VKORC1から得る)ならびに5’端および3’端にBstXIとXhoI部位とを有するPCR産物とともに、pIRES2−EGFP由来のBamHI/BstXIフラグメント(IRESを含む)を同時に挿入することを可能にし、pCMV−rFVII−IRES−VKORC1を取得することができる。
【0079】
CHO−DHFR−発現系での遺伝子発現および増幅を可能にするために、実施例1に記載される第二の選択プラスミドpSV−DHFRを使用することができる。
【0080】
細胞培養およびトランスフェクション
CHO−DHFR−宿主細胞株、ならびに、実施例1に記載されるものと同一の材料およびトランスフェクションプロトコールおよび培養プロトコールを、所望のrFVII産生クローンを作製および選択するために使用することができる。MTXによる遺伝子増幅を同様に達成することができる。
【0081】
分析アッセイ
rFVIIまたは活性および濃度についてクローンおよび上清を特徴付け、細胞特異的な生産性を決定するために、実施例2に記載されるものと同一のアッセイを使用することができる。FVIIa活性を同様にモニタリングする必要がある。
【0082】
ノーザンブロット
この技術を使用して、導入した遺伝子の転写をmRNAレベルで特異的に検出し、正確なmRNAサイズを確認することができる。細胞集団から単離および調製された細胞の総RNAを、アガロースゲル上で分離し、ナイロンメンブレンにブロットすることができる。DIG標識プローブのハイブリダイゼーション、そしてハイブリダイズしたプローブへ結合した後のアルカリホスファターゼ標識抗DIG抗体(Roche,Basel,Switzerland)によるX線フィルムへの化学発光を現像することにより、特異的なRNA配列を検出することができる。標的mRNAレベル(rVKORC1およびrFVII)は、ハウスキーピング遺伝子(例えば、ハムスターグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH))と比較しなければならない。
【0083】
(結果)
CHO−DHFR−発現系に由来する安定な細胞クローンを作製し、そして、ELISA技術およびプロトロンビン時間(PT)凝固技術によってrFVII生産性をアッセイすることができる。発現プラスミドpCMV−rFVII−IRES−VKORC1またはpCMV−rFVIIを、リン酸カルシウム共沈殿技術によって選択プラスミドpSV−DHFRと同時にトランスフェクトすることができ、クローンを、ヒポキサンチン、グリシンおよびチミジンを欠く選択培地への曝露(exposition)および抗生物質による選択への曝露によって取得することができる。単一の細胞由来のクローンを、限界希釈クローニングの後にスクリーニングし、MTX濃度を増加させながら数回継代培養して、遺伝子増幅を達成する。サブクローニング工程毎に、クローンを最大320nMのMTX濃度へ曝す。サブクローニングの全ラウンド(round)から、全部でpCMV−rFVIIトランスフェクション由来の133クローンおよびrVKORC−1同時発現構築物でのトランスフェクション由来の83クローンを、増殖させ、詳細に特徴付ける。細胞培養上清に関して、rFVII濃度をELISAによって決定することができ、rFVIIおよびrFVIIa活性をPT凝固アッセイによって並行して測定する。不自然に高い特異的なFVII凝固値(FVII−clotting value)を避けるために、rFVIIのうち10%未満がFVIIaに活性化されたクローンのみを特徴付けに関して考慮する(データは示していない)。発現レベルを、24時間、106細胞あたりのngとしてELISA濃度の値から算出する。FVII比凝固活性を、1μgあたりの凝固単位として算出する。
【0084】
図8において、ELISAを基にした特異的な生産性の値を、rFVIIのみを発現するクローン(図8A)、およびrFVII−rVKORC1同時発現クローン(図8B)に関してそれぞれMTX濃度に対してプロットする。両方の株において、MTXレベルと発現レベルとの間の関連性を見ることができる。rFVIIのみのクローンについて、MTX無しでの初期クローンは、匹敵するか、または幾分より高いレベルで始まる。特に、MTXが20nMの低い開始レベルから40nMに増加する場合、rFVII−rVKORC1同時発現クローンについて、より急激な共動性の発現レベルの増大を明確に見ることができる(図8Bに対して、図8A)。80nMのMTXにおいて、全てのrFVII−rVKORC1同時発現クローンは、初期クローンの2〜80倍のrFVIIを発現するのに対し、rFVIIのみのクローンに関して、依然として、一部のクローンが、初期クローンと同様な発現レベルを有することが見出される。20nMより上では、全てのMTXレベルにおいて、rFVIIのみのクローンよりもrFVII−rVKORC1内でより良好な産生クローンが見出される。遺伝子増幅後のより良好なrFVII産生クローンの発現レベルは、特にMTX増大の最初のラウンドにおいて、rVKORC1同時発現により2倍になることが見出され得る。
【0085】
FVII比凝固活性に関して、全てのこれらのクローンについて計算した値を生産性に対してプロットし、タンパク質の機能性を比較することができる。図9において、両方の株を比較することにより、同様な生産性の範囲においておよそ等しい活性値であり、より高い生産性において両方とも全体的に減少することが示される。rFVII−rVKORC1同時発現クローンは、2倍超の生産性を有することが見出されるので、一日、106細胞あたり、4μgより高い範囲の活性値を比較することができない。rFVII−rVKORC1クローンにおけるこの発現レベルより高く、血漿由来のFVIIに類似する一定の活性値(1μgあたり2U)を維持し得る(Moorら、1995)。
【0086】
単一のバイシストロン性mRNA(rFVIIおよびrVKORC1をコードする配列を含む)の転写をもたらす、IRESエレメントを含むベクター構築物の機能性および機能的なゲノム組み込みを、特にVKORC1特異的なアッセイを利用することができない場合には、ノーザンブロット技術により実証することができる。
【0087】
図10は、ノーザンブロットを示し、ここでは、CHO由来のトランスフェクト体またはコントロール細胞の全mRNAを細胞溶解後に単離し、そして電気泳動で分離した後にナイロンメンブレン上にブロットした。このメンブレンを、ヒトVKORC1、ヒトFVII、および参照遺伝子(ハムスターGAPDH)に特異的なDIG標識DNAプローブで3回連続してハイブリダイズさせた。プローブを、DIG特異的標識抗体で検出する。サンプルは、:トランスフェクトさせていないCHO−DHFR−細胞、rFVIIのみを発現する1つのCHO由来クローン、実施例3に記載される、rFVIIをコードするベクターおよびrVKORC1をコードするベクターで連続的にトランスフェクトした2つのクローン、ならびに、バイシストロン性rFVIIおよびrVKORC1の同時発現を有する3つのクローンである。rFVII−IRES−rVKORC1構築物についての約2.4kbのサイズ、rFVII構築物についての1.4kbのサイズ、rVKORC1 mRNAについての0.5kbのサイズ、およびGAPDHコントロールmRNAについての1.0kbのサイズを有するmRNA転写物は、全3つのプローブを用いて検出することができる。GAPDHは、全てのクローンで見出されるが、rVKORC1およびrFVIIは、それぞれの細胞株において、トランスフェクトされたプラスミドベクターにしたがって存在する。
【0088】
まとめると、rVKORC1の安定なバイシストロン性同時発現は、特に、遺伝子増幅を適用する場合に、哺乳動物細胞においてrFVIIの生産性を増大させる効果を有する。遺伝子導入後のrFVII高生産クローンの収量は、rVKORC1同時発現によってより高い。スクリーニングしたクローンの半数において、2倍超の発現レベルを、同じMTX濃度レベルにおいて達成することができる。タンパク質活性を、高い細胞タンパク質分泌レベルにおいて維持することができる。両方の効果は、γ−カルボキシル化反応に必要とされる還元型ビタミンK形態の十分な供給(これは、完全にカルボキシル化されたタンパク質を適時に放出することを確実にするために、高いタンパク質分泌レベルにおいて、高い代謝回転速で生じる必要がある)によって説明され得る。
【0089】
(実施例4:CHOまたはHEK293哺乳動物細胞における2つの連続的な非ウイルス性トランスフェクション後の、rFVIIおよびrVKORC1の安定な同時発現)
哺乳動物細胞培養物におけるrFVII組換え発現に対する、ヘルパータンパク質としてのrVKORC1の効果を確認するために、別のアプローチを使用して、rFVIIととものrVKORC−1の同時発現を達成することができる。二回目のトランスフェクション後に、安定なrFVIIおよびrVKORC−1同時発現を示すクローンを選択するためのストラテジーを使用することができる。安定なトランスフェクション後に、rFVII発現に関して選択されているクローンに対し、ヒトVKORC1をコードする別のプラスミドベクターで二回目のトランスフェクションを行うことができる。第二の耐性マーカーを導入して、別の抗生物質への耐性によって選択工程を確実にすることができる。適切なコントロールとして、VKORC1 cDNAを含まない同一のベクターを、同一の細胞集団に並行してトランスフェクトすることができる。これらのトランスフェクションから、安定なクローンを、クローニング工程内で2種類の抗生物質を用いての同時選択後に単離することができ、実施例2および3に記載されるように特徴付けることができる。これらの新規に単離されたクローンの比較は、rVKORC−1同時発現がrFVII生産性および活性に与える効果について結論付けることを可能にするはずである。
【0090】
(材料および方法)
発現ベクター
rFVIIを産生するクローンを作製するために、実施例2に列挙されるものと同一の発現ベクターおよびrFVII cDNAの供給源を使用することができる。CHO−DHFR−系のために、さらなる選択プラスミドpSV−DHFRを使用することができる。
【0091】
二回目のトランスフェクション後に、rVKORC1同時発現を達成するために、ヒトVKORC1および一回目のトランスフェクションで使用したものとは異なる抗生物質選択マーカーをコードするベクターを採用することができる。このベクターを、実施例1に記載されるものと同一の鋳型から生成されたPCR産物をpcDNA3.1ベースのベクター(Invitrogen)に挿入することによって構築することができる。この場合において、挿入しなかった同一のpcDNA3.1ベクターを、二回目のコントロールトランスフェクションに使用すべきである。あるいは、実施例1に記載されるベクターpCMV−VKORC1−EDHproを、同一のトランスフェクションのための発現ベクターとして使用することができる。コントロールプラスミドとして、空ベクターpCMV−EDHpro(出典は、実施例1を参照のこと)を使用することができる。
【0092】
細胞培養およびトランスフェクション
実施例1で使用したものと同一の細胞株(CHOおよびHEK293)を使用して、rFVIIを産生する安定な細胞株を生成することができる。それにしたがって、全ての細胞培養培地、トランスフェクションプロトコールおよび培養プロトコールを使用することができる。これらの細胞株において、rVKORC−1の安定な同時発現を達成するために、リン酸カルシウム共沈殿を使用する二回目のトランスフェクションを使用することができる。rFVIIおよびrVKORC−1を同時発現するクローンを取得するために、さらなる抗生物質性選択薬物を使用する別のクローニング工程が必要とされる。
【0093】
分析アッセイ
濃度および活性の測定について、実施例2および3に記載されるものと同一のアッセイを使用して、rFVII発現を確認することができる。mRNAレベルでのrVKORC1の転写は、実施例3に記載されるように、ノーザンブロット技術により示すことができる。
【0094】
(結果)
rFVIIの発現に対するrVKORC−1ヘルパータンパク質の効果を示すために、2つの引き続くトランスフェクションおよびクローニングのラウンドのアプローチを使用することができる。最初のラウンドにおいて、rFVIIを発現する細胞クローンを、安定なトランスフェクションおよび抗生物質選択の後に、適切なスクリーニング技術によって単離することができる。これらのクローンのうちの1つを増殖させ、ヒトVKORC1をコードするプラスミドまたは空のコントロールプラスミドでの二回目のトランスフェクションに使用することができる。別の選択マーカーを導入することができる。再度、第二の抗生物質性選択薬物を培地に添加した(これによりトランスフェクトされていない細胞を枯渇することを確実にする)後、適切な技術によって、クローンをrFVII発現についてスクリーニングすることができる。rVKORC−1トランスフェクションまたはコントロールトランスフェクションに由来するクローンを、rFVII生産性または活性に関して比較することができる。空のコントロールベクターは、rFVII発現に影響する同一の培養条件(特に、二重の抗生物質選択)に曝されているクローンの比較を確実にする。
【0095】
代表的に、首尾よくトランスフェクトされた細胞に由来する全てのクローンから、それらのrFVII生産性にしたがって、少数のクローンを選択し、さらなる特徴付けのために増殖される。この特徴付けは、抗原ELISA技術ならびにrFVIIおよびrFVIIa凝固活性の測定による分泌されたrFVII濃度の決定を含む。rVKORC−1およびrFVIIの同時発現を、図10、レーン3および4において、2つのCHO由来クローンについて示されるように、ノーザンブロット技術によってmRNAレベルで確認することができる。
【0096】
図11において、培養上清のELISA力価に基づく特異的な生産性の値を、一連の選択されたクローン(これらは、CHO由来rFVII産生細胞株(図11A)およびHEK293由来rFVII産生細胞株(図11B)のrVKORC1の二回目のトランスフェクションまたはコントロールトランスフェクションに由来する)について示す。両方の細胞型において、rVKORC1 トランスフェクションに由来するクローンが、コントロールトランスフェクションに由来するクローンよりも多くのrFVIIを産生することが示され得る。全ての生産性のメジアン値は、両方の場合において、rVKORC1 クローンについて約2倍高い。
【0097】
図12Aおよび12Bにおいて、1マイクログラムELISAあたりのFVII凝固単位として示されるrFVII比凝固活性を、二回目のトランスフェクションの後の両方の細胞型に由来するクローンについて示す。比活性算出のために、rFVIIaへの大量のrFVII活性化を有するクローン(これはFVIIa特異的凝固アッセイにより測定することができる)は考慮すべきではない。FVII凝固単位あたり、10%のFVIIa凝固単位の値は、rFVIIaへ活性化される顕著な量のrFVIIを産生するクローンを排除するために選択され得る。したがって、図11に比べ図12にはより少ないクローンが示される。
【0098】
FVII比凝固活性における差は、rVKORC1同時発現ではなく、発現レベルと相関し得る。しかしながら、CHO由来クローンの場合に、同様な発現レベルを有するクローンは、rVKORC1同時発現の存在下でより高い活性を示す。CHO由来細胞クローンおよびHEK293由来細胞クローンの両方の生産性に関して、rVKORC1同時発現が、コントロールと比較して2倍の平均値の改善をもたらすことが結論付けられ得る。さらに、rFVII活性はまた、γ−カルボキシル化に加えて、細胞の代謝性タンパク質分泌および修飾能力によって影響される他の要因によって影響されることが結論付けられ得る。生産性および活性の値は、実施例2および3に記載されるrFVII/rVKORC1同時発現実験の結果と一致する。
【0099】
(参考文献のリスト)
【0100】
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む宿主生物であって、ここで、該組換えVKORC1タンパク質および該組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現され、rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記宿主生物。
【請求項2】
前記組換えVKORC1をコードする核酸または前記組換えVKDタンパク質をコードする核酸のいずれか、あるいはそれらの両方が、誘導性発現、一過性発現および恒久性発現からなる群より選択される発現様式を介して発現される、請求項1に記載の宿主生。
【請求項3】
哺乳動物細胞である、請求項1または2に記載の宿主生物。
【請求項4】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞株に由来する細胞である、請求項3に記載の宿主生物。
【請求項5】
前記組換えVKDタンパク質が、凝血原血液因子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の宿主生物。
【請求項6】
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、請求項5に記載の宿主生物。
【請求項7】
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、請求項6に記載の宿主生物。
【請求項8】
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系であって、該組換えVKORC1タンパク質および該VKDタンパク質の両方が該細胞内で発現され、rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記細胞培養系。
【請求項9】
前記培養された細胞が哺乳動物細胞である、請求項8に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される、請求項9に記載の細胞培養系。
【請求項11】
前記組換えVKDタンパク質が凝血原血液因子である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項12】
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、請求項11に記載の細胞培養系。
【請求項13】
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、請求項12に記載の細胞培養系。
【請求項14】
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質の分泌速度を増大するための方法であって、
(a)宿主生物を提供する工程;
(b)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;
(c)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1 )をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;ならびに
(d)工程(b)および(c)の組換え核酸を発現させる工程、
を包含し、
rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記方法。
【請求項15】
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質の分泌速度を増大するための方法であって、
(a)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1 )をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含し、
rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記方法。
【請求項16】
前記VKDタンパク質をコードする組換え核酸が安定に発現される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質の分泌速度を増大するための方法であって、
(a)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含し、
rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記方法。
【請求項18】
前記VKORC1をコードする組換え核酸が安定に発現される、請求項17に記載の方法。
【請求項1】
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む宿主生物であって、ここで、該組換えVKORC1タンパク質および該組換えVKDタンパク質の両方は、該宿主生物内で発現され、rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記宿主生物。
【請求項2】
前記組換えVKORC1をコードする核酸または前記組換えVKDタンパク質をコードする核酸のいずれか、あるいはそれらの両方が、誘導性発現、一過性発現および恒久性発現からなる群より選択される発現様式を介して発現される、請求項1に記載の宿主生。
【請求項3】
哺乳動物細胞である、請求項1または2に記載の宿主生物。
【請求項4】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞株に由来する細胞である、請求項3に記載の宿主生物。
【請求項5】
前記組換えVKDタンパク質が、凝血原血液因子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の宿主生物。
【請求項6】
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、請求項5に記載の宿主生物。
【請求項7】
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、請求項6に記載の宿主生物。
【請求項8】
ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸およびビタミンK依存性(VKD)タンパク質をコードする組換え核酸を含む細胞を含む細胞培養系であって、該組換えVKORC1タンパク質および該VKDタンパク質の両方が該細胞内で発現され、rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記細胞培養系。
【請求項9】
前記培養された細胞が哺乳動物細胞である、請求項8に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞およびHEK293細胞からなる群より選択される、請求項9に記載の細胞培養系。
【請求項11】
前記組換えVKDタンパク質が凝血原血液因子である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の細胞培養系。
【請求項12】
前記凝血原血液因子が、第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子からなる群より選択される、請求項11に記載の細胞培養系。
【請求項13】
前記凝血原血液因子がヒト第IX因子である、請求項12に記載の細胞培養系。
【請求項14】
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質の分泌速度を増大するための方法であって、
(a)宿主生物を提供する工程;
(b)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;
(c)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1 )をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物へ挿入する工程;ならびに
(d)工程(b)および(c)の組換え核酸を発現させる工程、
を包含し、
rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記方法。
【請求項15】
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質の分泌速度を増大するための方法であって、
(a)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1 )をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含し、
rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記方法。
【請求項16】
前記VKDタンパク質をコードする組換え核酸が安定に発現される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
宿主生物における組換えビタミンK依存性(VKD)タンパク質の分泌速度を増大するための方法であって、
(a)ビタミンKレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)をコードする組換え核酸を有する宿主生物を提供する工程であって、該組換え核酸は、該宿主生物のゲノムに組み込まれている、工程;
(b)VKDタンパク質をコードする組換え核酸を工程(a)の宿主生物に挿入する工程;ならびに
(c)工程(a)および(b)の核酸を発現させる工程、
を包含し、
rVKORC1を同時に発現しない宿主生物内でのrVKDタンパク質の発現と比較した場合、組換え発現されたVKDタンパク質の分泌速度が実施的に増大される、前記方法。
【請求項18】
前記VKORC1をコードする組換え核酸が安定に発現される、請求項17に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−63089(P2013−63089A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−279460(P2012−279460)
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2011−102480(P2011−102480)の分割
【原出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−279460(P2012−279460)
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2011−102480(P2011−102480)の分割
【原出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】
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