説明

ビタミンK2の製造方法

【課題】より長いイソプレン側鎖を有するビタミンK2を高効率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】2005年12月5日にDSMZに寄託されたバシラス・サブチリス変異株GN13/72(DSM17766)の培養を含む、ビタミンK2(MK−7)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バシラス(Bacillus)属微生物を使用するビタミンK2(メナキノン(menaquinone)−7:MK−7)の発酵生産に関する。
【0002】
本発明は、特定の培養条件下で大量にMK−7を生産することができる、ブダペスト条約の下に寄託された微生物のバシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)の突然変異体に関する。
【背景技術】
【0003】
ビタミンKは、タンパク質におけるγ−カルボキシグルタミン酸(Gla)残基の生成のための必須補助因子である(R.E.Olson(1984)Annu.Rev.Nutr.4:281-337、J.W.Suttie(1985)Annu.Rev.Biochem.54:459-477参照)。Gla含有タンパク質は、カルシウムイオンに結合し、例えば、血液凝固および組織石灰化に影響を及ぼす(例えば、骨組織に見られるオステオカルシン)(P.V.Hauschkaら(1978)J.Biol.Chem.253:9063-9068、P.A.Priceら(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 73:1447-1451参照)。ビタミンK欠乏症は、新生児の頭蓋内出血(G.Ferlandら(1993)J.Clin.Invest.91:1761−1768、M.J.Shearer(1995)Lancet 345:229−234参照)や骨粗鬆症による骨折(M.H.Knapen(1989)Ann.Int.Med.111:1001−1005参照)など、いくつかの臨床的疾患に関与している。
【0004】
ビタミンKは、2種の形、すなわち、緑色植物においてK1(フィロキノン)、ならびに腸内細菌を含めた動物およびいくつかの細菌においてK2(メナキノンMK)として天然に存在する(M.D.Collinsら(1981)Microbiol.Rev.45:316−354、J.M.Conlyら(1992)Prog.Food Nutr.Sci.16:307−343、K.Ramotarら(1984)J.Infect.Dis.150:213−218、H.Taberら(1980)Functions of vitamin K2 in microorganisms.177−187J.W.Suttie,Ed.Univ. Park Press,Baltimore,MD、M.Watanukiら(1972)J.Gen.Appl.Microbiol.18:469−472参照)。MKは、4〜13個の可変なイソプレン単位の側鎖を有する。これらは、MK−ηと呼ばれ、η(イータ)は、イソプレノイド残基の数を表す。MKは、細菌の原形質膜の構成要素であり、電子伝達および酸化的リン酸化系における酸化還元剤として機能する(H.Taber、1980年;K.Ramotarら、1984年)。
【0005】
乳酸菌は、様々な食糧を製造するスターターカルチャーとして使用されており、一般に安全であると見なすことができ(GRAS)、定性的な研究により、いくつかの乳酸菌がMKを生産することが示されている。多くの国々で、ビタミンKの1日の所要量は、体重1kgあたり約1μgとなっている。
【0006】
B.M.RowlandおよびH.W.Taber(1996年)、B.Rowlandら(1995年)、H.W.Taberら(1981年)は、バシラス・サブチリスにおけるMK生成のメカニズムを広範囲にわたって研究してきた(B.M.RowlandおよびH.W.Taber(1996)J Bacteriol 178:854−861、B.Rowlandら(1995)Gene 167:105−109、H.W.Taberら(1981)J Bacteriol 145:321−327参照)。しかし、バシラス・サブチリスによるMKの生産を増加させる研究は、報告されていない。Y.TaniおよびN.Sakurai(1987年)、Y.TaniおよびH.Taniguchi(1989年)は、フラボバクテリウム(Flavobacterium)によるMK−4、MK−5、およびMK−6の効率的な生産と、生産されたMKの最大濃度が192mg/lに達したこととを報告した(Y.TaniおよびN.Sakurai(1987)Agric Biol Chem 51:2409−2415、Y.TaniおよびH.Taniguchi(1989)J Ferment Bioeng 67:102−106参照)。一方、より長いイソプレン側鎖を有するMKの工業的生産は、最近になって初めてT.Morishitaら(1999年)によって報告された(T.Morishitaら(1999)J Dairy Sci 82:1897−1903参照)。彼らの研究で、29〜123μg/lのMK−7が、乳酸菌によって生産された。発酵大豆「ナットウ(natto)」は、製造にバシラス・サブチリスが必要であり、日本で有名であり、非常に大量のMK(600〜900μg/100g)を含む(T.Sakanoら(1988)Vitamins(Japan)62:393−398参照)。ナットウを製造する上で使用されるバシラス・サブチリスの株は食用なので、それらは食品産業においてMKの最も有利な供給源の1つである。
【0007】
Yoshinori Tsukamotoら(2001年)は、生産力が乾燥重量で1719μg/100gであるバシラス・サブチリスのアナログ耐性変異株「ナットウ」を回収した。存在する複数の特許または特許出願によれば、それらのうちのいくつかを以下に列挙するが、K2(MK−7)は、乾燥重量で1.0μg/gまたはそれ以下の量で生産される(特許文献1、2、3、4参照)。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/043015号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0025759号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0146786号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2001/0046697号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、大量にMK−7を生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる第一の発明は、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)変異株GN13/72(2005年12月5日、DSMZに寄託;DSM17766)の培養を含む、ビタミンK2(MK−7)の製造方法である。
【0010】
本発明にかかる第二の発明は、2005年12月5日にDSMZに寄託されたバシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)変異株GN13/72(DSM17766)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
今回、バシラス・サブチリスの変異株が、160〜200時間、より正確には170〜185時間の生産サイクル(事前播種から発酵まで)で、乾物で1,000〜25,000ppmの範囲の生産力を有することが分かり、これは本発明の目的である。バシラス・サチリス変異体GN13/72は、NTGあるいはU.V.で処理することによって得られ、微粉化大豆ミール固形培地上で回収された。
【0012】
この株を、2005年12月5日に受託番号DSM17766としてドイツの特許微生物寄託機関であるDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)にブダペスト条約の条件の下に寄託した。
【0013】
MK−7の高含有量バイオマスを、炭素源(グルコース、ショ糖、グリセロール、デンプン加水分解物など)、窒素源(酵母エキス、自己分解物質、様々な起源のペプトン、大豆ミールなど)、様々な塩(リン酸カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛など)を含む培地を用いて既知の発酵技術に従って調製する。
【0014】
pHは、6.0〜8.5、より正確には6.5〜7.8の範囲であり、気流は、0.1〜2.0vvm、より正確には0.25〜1.0vvmの範囲であり、発酵槽での撹拌速度は、100〜250rpmであり、圧力は、0.01〜0.12MPa(0.1〜1.2bar)、より正確には0.025〜0.10MPa(0.25〜1.0bar)の範囲である。発酵は、回分(batch)または流加(fed−batch)モードで行われ、従来のSTR(=撹拌タンク型反応器)またはCSTR(=連続撹拌タンク型反応器)発酵槽を使用する。
【0015】
このバイオマスは、遠心分離または精密ろ過によって集められ、精製水で2回洗浄され、精製水中で再懸濁される。得られたクリーム状物を、真空凍結乾燥または噴霧乾燥によって乾燥し、次いで真空下で包装する。
【0016】
本発明を、以下の実施例によって詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
バシラス・サブチリスGN13/27(DSM17766)を、以下の組成を有する発酵培地「F10」が、幾何学的スケール上、20l入った30l容の発酵槽において好気的に増殖させる。
・微粉化大豆ミール 15.00g/l
・酵母エキス 1.00g/l
・グリセロール 10.00g/l
・K2HPO4 0.05g/l
・NaCl 5.00g/l
・pH7.3(±0.1)
・殺菌 121℃、30分
発酵槽に、培地「S3」が以下の組成を有する8%(1600ml)の16時間(±2時間)シードを接種する。
・大豆ペプトン 10.00g/l
・グリセロール 5.00g/l
・pH7.2(±0.1)
次に、シードに、精製水10mlで洗浄したスラント(斜面培養株)からのバシラス・サブチリス懸濁液5mlを接種した。
増殖条件:
・シード:
培地800mlが入った3l容の撹拌フラスコ
インキュベーション温度 37℃
撹拌 90rpm
時間 17時間(±2時間)
・発酵槽:
撹拌 120rpm
気流 0.6vvm
圧力 0.025MPa(0.25bar)
温度 37℃
シリコン消泡剤
時間 144時間(±4時間)
前記条件下で得られたバイオマスは、乾燥重量で8(±1)g/lであり、MK−7含有量が1100(±100)ppmであった。
(実施例2)
バシラス・サブチリスGN13/72(DSM17766)を実施例1と同様に培養するが、発酵培地「F12」は以下の組成を有する。
・大豆ペプトン 10.00g/l
・グリセロール 10.00g/l
・酵母エキス 1.00g/l
・K2HPO4 0.05g/l
・NaCl 5.00g/l
発酵期間は、140時間(±2時間)である。
【0018】
乾燥重量で10(±1)g/lが得られ、MK−7含有量は3000(±100)ppmである。
(実施例3)
バシラス・サブチリスGN13/72(DSM17766)を実施例1と同様に培養するが、発酵培地「F13」は以下の組成を有する。
・大豆ペプトン 12.00g/l
・酵母エキス 0.50g/l
・デキストリン 60.00g/l
・K2HPO4 0.05g/l
・NaCl 5.00g/l
発酵期間は、140時間(±1時間)である。
【0019】
乾燥重量で9.0(±1.0)g/lが得られ、MK−7含有量は7800(±200)ppmである。
(実施例4)
バシラス・サブチリスGN13/72(DSM17766)を実施例3と同様に培養するが、炭素源は、デキストリンの代りにマルトデキストリンからなる。
【0020】
発酵期間は、140時間(±3時間)である。
【0021】
乾燥重量で8.0(±1.0)g/lが得られ、MK−7含有量は8500(±150)ppmである。
(実施例5)
バシラス・サブチリスGN13/72(DSM17766)を実施例4と同様に培養するが、消泡剤は大豆油とする。
【0022】
発酵期間は、144時間(±4時間)である。
【0023】
乾燥重量で11(±1)g/lが得られ、MK−7含有量は11700(±300)ppmである。
(実施例6)
バシラス・サブチリスGN13/72(DSM17766)を、培地「F13」が225lの実用的な量であり、pHがNaOHで自動的に7.2に維持され、撹拌が100rpmであり、気流が0.5vvmであり、圧力が0.03MPa(0.3bar)であり、消泡剤の大豆油が自動制御される300l容の発酵槽において培養する。
【0024】
接種物が、合計30l容に20lの実用的な量の「S3」培地を含むシードにおいて4%得られた(実施例1参照)。
【0025】
発酵期間は、142時間(±4時間)である。得られたバイオマスは、乾燥重量で11(±1.0)g/lであり、得られたMK−7は、15150(±200)ppmである。
(実施例7)
バシラス・サブチリスGN13/72(DSM17766)を、実施例6と同様に培養する。定常期に達する前に発酵を止めた。乾燥重量で7.0(±1.5)g/lが得られ、MK−7の生産力は21000ppmである。バイオマスを二部に分割し、一部を凍結乾燥して17000(±350)ppmの粉末を得、もう一部を噴霧乾燥して20000(±500)ppmを得た。
噴霧乾燥機の動作条件:
・吸気温度 200℃
・排気温度 80℃
(実施例8)
実施例7の手順に従うと、発酵の有効量は2m3であった。噴霧乾燥した最終製品を、真空下で250gの小袋(sachet)として包装した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)変異株GN13/72(2005年12月5日、DSMZに寄託;DSM17766)を培養する工程を含む、ビタミンK2(MK−7)の製造方法。
【請求項2】
前記培養に使用される炭素源が、デキストリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養に使用される炭素源が、マルトデキストリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記培養に使用される消泡剤が、大豆油である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記培養により得られるバイオマスが、噴霧乾燥によって乾燥される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記噴霧乾燥によって乾燥された前記バイオマスが、真空下で包装される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
2005年12月5日にDSMZに寄託されたバシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)変異株GN13/72(DSM17766)。



【公開番号】特開2007−181461(P2007−181461A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354565(P2006−354565)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(506054660)ニョシス ソシエタ ペル アチオニ (3)
【氏名又は名称原語表記】GNOSIS S.P.A.
【Fターム(参考)】