説明

ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物及びその製造方法

【課題】接着剤や木工ボンドとして使用されたり、塗料、コーティング、インクの中で使用されたり、皮革の処理に使用されたり、不織布の接着に使用されてきたビニルエステルをベースとしたポリマーラッテクス組成物の接着強度を改善した組成物を提供する。
【解決手段】実質的に保護コロイドの不在下にて、界面活性剤なしで、又は少量の界面活性剤の存在下でラジカル乳化重合によって得たビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を使用することにより、大幅な接着強度の改善が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に保護コロイドの不在下にて、界面活性剤なしで、又は少量の界面活性剤の存在下でラジカル乳化重合によって得られる、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物、及びその製造方法に関する。本発明はさらに、ビニルエステルをベースとしたこのポリマーラテックス組成物を含む分散液、上記分散液を含む製品、及び上記分散液のさまざまな用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物、中でもビニルアセテート/エチレンをベースとしたポリマーラテックス組成物が、当業者に周知である。上記組成物は、何十年にもわたって製造され、使用されてきた。例えば、接着剤(特に、紙や包装のための接着剤)や木工ボンド(wood glue)として使用されたり、塗料、コーティング、インクの中で使用されたり、皮革の処理に使用されたり、布帛(特に不織布)の接着に使用されたりしてきた。
【0003】
使い捨ての不織布製品の販売量が、過去に急増したため、これら不織布製品の接着に用いるエマルジョンポリマーの改良に興味が集中してきている。接着した不織布製品の湿潤抗張力は消費者に受け入れられたり利用されたりする上で重要な因子であるため、この湿潤抗張力が特に注目されている。不織布には、例えば、おむつ、生理ナプキン、医療用ガウン、吸湿用品、テーブルの上面板や、湿潤状態で所定の抗張力が必要な他の製品が含まれる。
【0004】
ビニルアセテート、エチレン、及び架橋剤(主に、N−メチロールアクリルアミド)から調製したエマルジョンコポリマーを、不織布の基部(substrate)に接着させると、水や有機溶媒の存在下では、許容できないほど強度が低下することが多い。さらに、このようなエマルジョンコポリマーは、商品寿命が許容できないほど短かったり、あるいは、ラテックスの安定性が欠ける問題を有することが多い。このようなエマルジョンコポリマーは、基部への接着強度が不足している場合がある。上記欠点があるため、このような配合物は、多くの商業的用途、工業的用途での利用が制限される。そこで、不織布産業は、これらの制限を克服できるバインダーとして使用されるラテックス組成物を探し続けてきた。
【0005】
ビニルアセテート/エチレン(VAE)エマルジョンに付随する上記問題を克服しようとして多数の組成物が開発されてきた。最も成功した方法では、ビニルアセテート及びエチレンを架橋させるためのコモノマーとしてN−メチロールアクリルアミドが使用されている。得られた分散液のコロイド安定性は、ビニルアセテート及びエチレンを乳化重合させる際に、界面活性剤及び/又は保護コロイドを用いることによって実現されてきた。この方法の具体例として、米国特許出願公開第2003/0,176,133号明細書;米国特許第3,380,851号明細書、同第3,345,318号明細書、同第3,440,200号明細書、同第4,332,850号明細書、同第5,109,063号明細書;ドイツ国出願公開第25 12 589号明細書、同第42 40 731号明細書(欧州特許第672,073号明細書が対応する)、同第44 32 945号明細書(米国特許第5,763,033号明細書が対応する)、又は同第196 31 935号明細書(米国特許第6,174,568号明細書が対応する)、及び欧州特許出願第0 609 849号明細書等がある。
【0006】
ある種の界面活性剤を上記組成物中で使用(特に、塗料、コーティング、インク、接着剤の配合物、あるいは、不織布を接着するための配合物中で用いられた場合)すると、環境問題を引き起こす可能性があることが、最近、確認された。そこで、ビニルアセテートをベースとしたポリマーラテックス組成物を安定化させるのに界面活性剤を使用しないようにする試みがいくつかなされている。多くの場合、安定化は、界面活性剤の代わりに保護コロイドによって与えられるか、界面活性剤と保護コロイドによって付与される。対応技術の例として、ドイツ国出願公開第41 13 839号明細書(カナダ国特許第2,066,988号明細書が対応する)、同第102 04 234号明細書、同第40 32 096号明細書(カナダ国特許第2,053,005号明細書が対応する)、及び同第198 21 774号明細書;欧州特許出願第1 392 744号明細書(米国特許出願公開第2004/0132939号明細書が対応する)、及び同第0 727 441号明細書(米国特許第5,889,101号明細書が対応する)、及び米国特許第4,440,897号明細書、同第4,316,830号明細書、同第6,117,960号明細書、同第4,745,025号明細書、同第3,954,724号明細書等がある。保護コロイドを用いると、系がより複雑になり、コストが上昇し、他の望ましい性質が低下する可能性がある。例えば接着した不織布が黄変する原因となりうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記を考慮し、本発明の目的は、実質的に保護コロイドを含まず、界面活性剤も実質的に含まないか、又は含んでいてもほんの少量の界面活性剤だけである、ビニルアセテートをベースとしたポリマーラテックス組成物を提供することである。本発明のさらに別の目的は、不織布の接着に用いる場合に、接着された製品の湿潤抗張力を向上させる、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的や従来技術の他の欠点は、本発明によって解決される。本発明の第1の態様により、ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、及び後架橋モノマー(post−crosslinking monomer)のラジカル乳化重合によって得られる、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物であって、実質的に保護コロイドを含まず、上記モノマーの全質量に基づいて、0〜0.1質量%の界面活性剤を含むラテックス組成物が提供される。このラテックス組成物は、界面活性剤を含まないことが最も好ましい。
【0009】
実施態様の一つでは、本発明のラテックス組成物は;
20〜96質量%、又は40〜96質量%、好ましくは40〜95.3質量%、より好ましくは60〜93.3質量%のビニルエステルモノマー;
3〜60質量%、又は3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%のエチレンモノマー;
1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の後架橋モノマー;
0〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
0〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
を含み、全てのパーセンテージは、上記モノマーの全質量に基づいている。
この実施態様では、上記界面活性剤の濃度は、上記モノマーの全質量に基づいて、最大1.0質量%(1.0質量%以下)、好ましくは最大0.5質量%(0.5質量%以下)にすることさえ可能である。
【0010】
上記ラテックス組成物は、
(f)上記モノマーの全質量に基づいて、0〜30質量%の、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも一つの共重合性モノマーをさらに含み、
ここで、
(i)上記モノマーXは、C1〜10アルキルアクリレートモノマー、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
(ii)上記モノマーYは、ビニル−C5〜18アシルエステル、不飽和ジカルボン酸C1〜10モノアルキルエステル及び不飽和ジカルボン酸C1〜10ジアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸一酸ハロゲン化物又は不飽和ジカルボン酸二酸ハロゲン化物、並びにそれらの混合物から成る群から選択され、
(iii)上記モノマーZは、モノエチレン系不飽和の(mono−ethylenically unsaturated)、水溶性の機能性モノマー、ポリエチレン系不飽和の(poly−ethylenically unsaturated)前架橋モノマー(pre−crosslinking monomer)、連鎖移動剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される。
【0011】
本発明の第2の態様では、ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、及び後架橋モノマーを、水性媒体の中でラジカル乳化重合させることによるビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物の製法が提供され、上記製法は、実質的に保護コロイドを含んでおらず、モノマーの全質量に基づいて、0〜0.1質量%の界面活性剤の存在下で実施される。重合の際に、通じて界面活性剤は存在しないことが好ましい。
【0012】
好ましい実施態様の一つでは、上記方法は;
(i)上記モノマーの一部を含む反応容器初期投入物(charge)を用意する第一の段階;そして
(ii)残った任意のモノマーと、随意選択的な重合開始剤系とを、重合条件下において1回又は2回以上の供給で、上記初期装填物に添加する第二の段階:
を含む半連続乳化重合である。
【0013】
より好ましくは、この半連続法において、反応容器初期投入物は;
−ビニルエステルモノマーの全質量の少なくとも一部;
−エチレンモノマーの少なくとも一部(好ましくは全部);
−後架橋モノマーの少なくとも一部;及び
−存在する場合には、ビニルスルホネートモノマーの少なくとも一部(好ましくは全部):
を含む水相を含む。
【0014】
本発明は、水性媒体中で、ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、及び後架橋モノマーを半連続ラジカル乳化重合させることによる、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物の製造するための乳化重合法が提供され、
ここで、上記方法は、添加される保護コロイドの実質的不存在下で、かつモノマーの全質量に基づいて1.0質量%以下の界面活性剤の存在下で実施され、
ここで、使用されるモノマーは;
20〜96質量%、又は40〜96質量%、好ましくは40〜95.3質量%のビニルエステルモノマー;
3〜60質量%、又は3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%のエチレンモノマー;
1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の後架橋モノマー;
0〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%のビニルスルホネートモノマー;
0〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%の不飽和カルボン酸モノマー;及び
(f)0〜30質量%、好ましくは1〜10質量%の、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも1つの共重合性モノマー:
を含み、
ここで、全てのパーセンテージは、上記モノマーの合計質量に基づいており、そして前記モノマーの前記合計質量は100質量%であり、
ここで、
(i)上記モノマーXは、C1〜10アルキルアクリレートモノマー、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
(ii)上記モノマーYは、ビニル−C5〜18アシルエステル、不飽和ジカルボン酸C1〜10モノアルキルエステル及び不飽和ジカルボン酸C1〜10ジアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸一酸ハロゲン化物又は不飽和ジカルボン酸二酸ハロゲン化物、並びにそれらの混合物から成る群から選択され、
(iii)上記モノマーZは、モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマー、ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマー、連鎖移動剤、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
上記方法は;
(i)上記モノマーの一部を含む反応容器初期投入物を用意する第一の段階;そして
(ii)残った任意のモノマーと、随意選択的な重合開始剤系とを、1回又は2回以上の供給で、上記初期装填物に添加する第二の段階:
を含み、
ここで、上記初期投入物が;
−上記ビニルエステルモノマーの全質量の少なくとも一部;
−上記エチレンモノマーの少なくとも一部;
−上記後架橋モノマーの少なくとも一部;及び
−存在する場合には、上記ビニルスルホネートモノマーの少なくとも一部:
を含有する水相を含む。
【0015】
本発明により、上記ラテックス組成物又は上記方法で得られるラテックス組成物を含む分散液と、その分散液を含むいくつかの製品と、その製品の利用法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、安定化用保護コロイドが実質的に不在の状態で、そして界面活性剤も存在していてもほんの少量の存在下で、コロイド安定性のある、ビニルアセテートをベースとしたポリマーラテックス組成物を得ることができるという驚くべき発見に基づいている。
【0017】
上記ラテックス組成物のコロイド安定性は、このラテックスを構成するモノマー組成を、ビニルエステルモノマーと、エチレンモノマーと、後架橋モノマーが含まれるように注意深く調整することによって得られる。コロイド安定性は、これらモノマーを半連続重合法で重合することによってさらに大きくすることができる。この方法では、モノマーは、初期装填物と、第二の段階で添加される任意の供給物又は遅延供給物(delay)とに分けられる。
【0018】
保護コロイド及び界面活性剤の両方を使用せずに済むことにより、環境によりやさしい製品という市場の要求に合致するという利点が生じる。本発明のラテックス組成物はまた、界面活性剤及び/又は保護コロイドを含む従来型ラテックス組成物バインダーで接着させた不織布と比較して、上記組成物で接着させた不織布製品に、驚くほど強い湿潤抗張力を付与する。
【0019】
従って、本発明の第1の態様により、ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、及び後架橋モノマーのラジカル乳化重合によって得られる、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物が提供され、ここで、上記ラテックス組成物は、実質的に保護コロイドを含まず、上記モノマーの全質量に基づいて、0〜0.1質量%の界面活性剤を含む。上記ラテックス組成物は、界面活性剤を含まないことが最も好ましい。
【0020】
上記ビニルエステルモノマーは、ビニルエステル(ビニル−C1〜18−アシルエステルが好ましい)、ビニルハライド、及びそれらの混合物から成る群から選択される。ビニルハライドの用語には、ビニルアルコールと無機酸(例えばHF、HCl、HBr、HI)との縮合生成物が含まれる。上記ビニルハライドは、ビニルクロライドであることが好ましい。上記ビニルエステルモノマーは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルピバレート、ビニルベルサテート(vinyl versatate)、ビニルラウレート、ビニルクロライド、及びそれらの混合物から成る群から選択されることがより好ましく、ビニルアセテートが最も好ましい。上記ビニルエステルモノマーは、ラテックスを構成するモノマーの全質量に基づいて、20〜96質量%、又は40〜96質量%、好ましくは40〜95.3質量%、より好ましくは60〜93.3質量%、又は60〜90.3質量%の量で使用される。
【0021】
本発明のラテックス組成物は、モノマーの全質量に基づいて、3〜60質量%、又は3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%のエチレンモノマーをさらに含む。上記エチレンモノマーは、唯一のモノマーとしてエチレンから成ることが好ましいが、少量(例えば、全エチレンモノマーに基づいて、最大10質量%)の他のエチレン型不飽和C210オレフィン(例えば、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、シクロヘキセン、オクテン、デセン等)を含むことができる。エチレン含有量に関する要請があるため、製品を得るための重合は圧力下で実施し、したがって加圧乳化重合反応も考えることができる。
【0022】
本発明のラテックス組成物に含まれる後架橋モノマーとしては、最終ラテックス又は分散液の適用の際及び/又は適用後に、ポリマーを架橋させることのできる任意のモノマーでありうる。後架橋モノマーは、N−アルキロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及びそれらの混合物から成る群から選択されることが好ましい。上記後架橋モノマーの特定例は、N−メチロールアクリルアミド(NMA)、N−メチロールメタクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド(IBMA)、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド(NBMA)、及びそれらの混合物であり、随意選択的に、アクリルアミドと組み合わされる。NMA又はIBMAが、最も好ましい。上記架橋モノマーは、モノマーの全質量に基づいて、1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、最も好ましくは4〜6質量%の量を使用することができる。上記のN−メチロールアクリルアミドを、ホルムアルデヒドが少ない形態で使用することが最も好ましい。この形態はNMA−LFとして知られており、サイテック・ケミカル社(米国)から市販されている。本明細書では、(メタ)アクリルアミドという表記は、アクリルアミドとメタクリルアミドとの両方をまとめた形態である。
【0023】
本発明のラテックス組成物は、ビニルスルホネートモノマーをさらに含むことができる。適切なビニルスルホネートモノマーとしては、遊離のビニルスルホン酸、ビニルスルホネートエステル等があるが、任意のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩(例えばビニルスルホン酸ナトリウム)も適切である。上記ビニルスルホネートモノマーは、モノマーの全質量に基づいて、0〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%、最も好ましくは0.2〜1.2質量%の量で使用される。上記ビニルスルホネートモノマーを添加すると、コロイド安定性が増大する。上記ビニルスルホネートモノマーはまた、好ましい量を用いた場合には、ラテックスを用いて接着させたウェブの湿潤抵抗力を驚くほど増大させる。
【0024】
本発明のラテックス組成物は、モノマーの全質量に基づいて、0〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%の量の不飽和カルボン酸モノマーを、さらに含むことができる。上記不飽和カルボン酸モノマーは、存在する場合には、従来技術で公知の好適な不飽和C3〜6−カルボン酸モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル、並びにこれらの誘導体及び混合物から成る群から選択されうる。上記不飽和C3〜6−カルボン酸モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、及びそれらの混合物から成る群から選択されることが好ましいが、アクリル酸が最も好ましい。不飽和カルボン酸モノマーを上記の量使用し、重合の際に、凝固物や粗粒子の形成を最少にすること、及び得られたラテックスを用いて接着させたウェブの湿潤抵抗力を増大させることが好ましい。
【0025】
本発明のラテックス組成物は、実質的にあらゆる保護コロイドの不在下で得られること、上記保護コロイドを実質的に含まないこと、そして好ましくは、上記コロイドをまったく含まないことを特徴とする。本明細書で用いる場合において、用語「保護コロイド」は、水溶性の基を含み、そして上記分散液又はラテックスを安定化させるのに用いられる任意のポリマーを意味する。典型的な保護コロイドは、ポリビニルアルコール、カゼイン、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、アラビアゴムである。本明細書で用いる場合には、「実質的に含まない」という表現は、保護コロイドを意図的には添加しないことを意味する。その場合、用いられる出発材料に由来する不純物が存在する可能性は除外されず、そのような出発材料も安定化ポリマーの上記定義に当てはまる。より詳細には、(意図的に添加した)「保護コロイドを実質的に含まない」という用語は、上記添加された保護コロイドの含有率が、モノマーの全量に基づいて、0.1質量%未満、好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは検出限界未満であることを意味する。
【0026】
第1の実施態様では、最大0.1質量%の界面活性剤の存在下で、好ましくは任意の界面活性剤の不在下で、本発明のラテックス組成物が得られることをさらなる特徴とする。従って、上記ラテックス組成物は、0〜0.1質量%の界面活性剤、より好ましくは0〜0.01質量%の界面活性剤、最も好ましくは0質量%の界面活性剤(すなわち、界面活性剤フリー組成物である)を含む。上記少量の界面活性剤の添加は、最終ラテックスの粒子サイズを調整するのに役立ち、そしてある実施態様において、妥当又は望ましい場合がある。上記界面活性剤の含有率は、意図的に添加した界面活性剤に該当し、そして任意の出発材料に由来する、可能性のある不純物を含むことは意図していない。しかし、上記不純物のない出発材料を使用することが好ましい。
【0027】
しかし、望ましい場合には、本発明のラテックス組成物を含む、そのまま使用できる(ready−to−use)任意の組成物に、界面活性剤を添加することができる。
【0028】
本発明の実施態様の一つでは、ラテックス組成物は;
(a)20〜96質量%、又は40〜96質量%、好ましくは40〜95.3質量%、より好ましくは60〜93.3質量%のビニルエステルモノマー;
(b)3〜60質量%、又は3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の後架橋モノマー;
(d)0〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
(e)0〜5質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
を含み、ここで、全てのパーセンテージは、上記モノマーの全質量(100質量%)に基づく。
【0029】
各モノマーの特定の区分により、この場合には、界面活性剤の含有率を、最大1.0質量%(1.0質量%以下)、又は最大0.5質量%(0.5質量%以下)にできるが、上記の範囲、すなわち0.1質量%未満でもよい。特定のモノマーの組成により、界面活性剤の含有率がわずかに高いにもかかわらず、本発明のラテックス組成物で接着させた不織布の湿潤抗張力に関して、界面活性剤が少ない場合と同じ利益が得られる。
【0030】
上記モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)が、モノマーの全質量の少なくとも90質量%(好ましくは少なくとも94質量%)となることが好ましい。
【0031】
本発明の好ましい実施態様の一つでは、上記のラテックス組成物は、界面活性剤の含有量とは無関係に、下記;
(f)モノマーの全質量に基づいて、0〜30質量%、好ましくは1〜10質量%、最も好ましくは3〜5質量%の、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも1つの共重合性モノマーをさらに含むことができ、
ここで、
(i)上記モノマーXは、C1〜10アルキルアクリレートモノマー、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
(ii)上記モノマーYは、ビニル−C5〜18アシルエステル、不飽和ジカルボン酸C1〜10モノアルキルエステル及び不飽和ジカルボン酸C1〜10ジアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸一酸ハロゲン化物又は不飽和ジカルボン酸二酸ハロゲン化物、並びにそれらの混合物から成る群から選択され、そして
(iii)上記モノマーZは、モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマー、ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマー、連鎖移動剤、並びにそれらの混合物から成る群から選択される。
【0032】
上記C1〜10アルキルアクリレートモノマーXは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシルエチルアクリレート、ヒドロキシルプロピルアクリレート、並びにそれらの混合物から成る群から選択されることが好ましい。上記モノマーXは、ブチルアクリレートであることが最も好ましい。上記モノマーXは、モノマーの全質量に基づいて、0〜15質量%、又は0.01〜5質量%の量で使用されることが好ましい。
【0033】
上記ビニル−C5〜18アシルエステルモノマーYは、5〜18個(より好ましくは5〜11個)の炭素原子を有するα分岐モノカルボン酸のビニルエステル(ビニルベルサテート)、複数のビニルベルサテートの混合物、及びビニルラウレートから成る群から選択されることが好ましい。ビニルベルサテート製品は、Resolution Performance Products社から商品名VeoVa(商標)9、VeoVa(商標)10、及びVeoVa(商標)11として市販されている。
【0034】
モノマーYとしての不飽和ジカルボン酸モノエステル及び不飽和ジカルボン酸ジエステルは、当業界で一般的に用いられる公知の不飽和カルボン二酸の任意のモノエステル及びジエステルであることができる。これらには、一般的に、C3〜10ジカルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸等)のC1〜8アルキルモノ及びジエステルが含まれる。モノマーYとしての不飽和ジカルボン酸ジエステルの具体例として、ジイソプロピルフマレート、ジ(2−エチルヘキシル)フマレート、及びジ(2−エチルヘキシル)マレエート等が含まれる。モノマーYは、モノマーの全質量の0〜25質量%又は0.01〜15質量%の量で使用されることが好ましい。
【0035】
1〜10アルキルアクリレートモノマーX及びビニル−C5〜18アシルエステルモノマーY(ブチルアクリレート及びビニルベルサテートが好ましい)の使用は、随意選択的であるが、使用することが好ましい。上記量のアクリル酸アルキルモノマーXは、本発明のポリマーラテックス組成物の貯蔵安定性の向上に貢献する。しかし、アクリル酸アルキルモノマー量を上記量よりも多くしても、貯蔵安定性又は商品寿命がさらに延びることはない。逆に、上記量を増やすと、得られたラテックス分散液で接着させた不織布製品の湿潤抗張力が低下する可能性がある。
【0036】
ビニル−C5〜18アシルエステルモノマーYは、上記の量を使用する場合には、粗粒子の形成をさらに減らすことができる。さらに、ビニルアシルエステルモノマーYを、反応容器初期投入物の中に添加すると(以下の説明を参照のこと)、同じ量を後から供給する場合と比較し、得られたラテックスで接着させた不織布製品の湿潤抗張力を、驚くほど向上させることができる。湿潤抗張力がこのように改善されることを考慮して、本発明の方法では、少なくとも50質量%、好ましくは50〜100質量%、最も好ましくは全量のモノマーYを、本方法の初期装填物中で使用する。モノマーの全質量に基づいて、下記の0〜25質量%を超えて量をさらに増やしても、さらに顕著な向上が見られることはない。
【0037】
モノマーZとして使用するモノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマーとしては、当業者に公知の任意のモノマーであることができ、例えば、スルホン酸、リン酸、カルボン酸、酸アミド等の官能基を含むモノマーが挙げられる。アニオン性官能基が好ましい。モノマーZは、アクリルアミド、ビニルピロリドン、アクリロニトリル、2−アクリルアミド−プロパンスルホン酸、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸の塩、及びそれらの混合物から成る群から選択されることが好ましい。適切な塩としては、例えば、上記化合物のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等がある。
【0038】
モノマーZとして使用するポリエチレン系不飽和の前架橋モノマーとしては、乳化重合反応の際に、形成されたポリマー鎖を架橋することができる、当業者に公知のあらゆる前架橋モノマーが可能である。上記モノマーZは、ジビニルアジペート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゾール、及びそれらの混合物から成る群から選択されることが好ましい。上記モノマーZは、従来技術で知られている連鎖移動剤(例えばア、ルデヒド又はメルカプタン)であることができる。
【0039】
上記モノマーZは、モノマーの全質量に基づいて、0〜6質量%、又は0.01〜4質量%の量で使用されることが好ましい。モノマーZを、ここに示した量で使用すると、コロイド安定性が増し、粗粒子又は凝固物の形成を減らすのに役立つ。
【0040】
本発明の最も好ましい実施態様の一つでは、ラテックス組成物は;
(a)50〜90.3質量%のビニルアセテート;
(b)5〜30質量%のエチレン;
(c)4〜6質量%のN−メチロールアクリルアミド;
(d)0.2〜2質量%のビニルスルホン酸ナトリウム;
(e)0.5〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%のアクリル酸;
(f1)0〜15質量%のモノマーX(ブチルアクリレートが好ましい)、より好ましくは0〜1.5質量%のブチルアクリレート;
(f2)0〜25質量%のモノマーY(ビニルベルサテートが好ましい)、より好ましくは0〜6質量%のビニルベルサテート;及び
(f3)0〜6質量%のモノマーZ(2−アクリルアミドプロパンスルホン酸のナトリウム塩(AMPS)が好ましい)、より好ましくは0〜2質量%の2−アクリルアミドプロパンスルホン酸のナトリウム塩:
を含み、
ここで、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZの和は0〜30質量%、好ましくは1〜10質量%であり、
全てのパーセンテージは、上記モノマーの全質量に基づき、そして上記モノマーの全質量は、100質量%である。
【0041】
上記のように、この実施態様の界面活性剤の含有量は、モノマーの全質量に基づいて、最大1.0質量%、又は最大0.5質量%にすることができる。しかし、本発明の第1の実施態様に関して以下に説明する最大0.1質量%のより低い範囲も可能である。さらに、この好ましい組成物は、安定化用の任意の界面活性剤を含む必要がないため、界面活性剤を含まない組成物にすることができる。しかし、上記のより多くの量の界面活性剤を添加しても、得られるラテックスで接着した不織布材料の湿潤抗張力が実質的に低下することはない。
【0042】
上記いずれかの実施態様のラテックス組成物は、ラテックス組成物の全質量に基づいて、少なくとも20質量%の固体を含む。上記ラテックス組成物は、ラテックス組成物の全質量に基づいて、20〜65質量%の固体を含むことが好ましく、40〜60質量%の固体を含むことがより好ましい。固体含有率は、適切な任意の溶媒(特に、水又は水溶液)を添加して調整可能である。ラテックスの粘性率の安定性を大きくするために、任意の好適な手段により、最終ラテックス組成物のpHを4〜7、好ましくは4.5〜5.5に調整してもよい。有機又は無機の酸又は塩基(例えばアンモニア、NaOH、HCl、ギ酸、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸等)を添加して、pHを調整することが好ましい。
【0043】
本発明の第2の態様により、ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、および後架橋モノマー、水性媒体の中でラジカル乳化重合させることにより、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を製造する方法が提供され、ここで、当該方法は、実質的に保護コロイドを含んでおらず、モノマーの全質量に基づいて、0〜0.1質量%の界面活性剤の存在下で実施される。重合の際に、界面活性剤が存在しないことが好ましい。
【0044】
本発明の乳化重合法で用いるモノマーと、本発明の乳化重合法によって得られるラテックス組成物とは、上記の通りである。上記モノマーは、連続法、半連続法、バッチ法のいずれかを利用して重合させることができ、これらの方法は全て、当業者に公知である。本発明に規定される半連続法は、重合すべきモノマーの初期装填物を供給し、第二の段階において、追加のモノマー、開始剤、溶媒、pH調整剤等を、1回又は2回以上の供給物又は遅延供給物としてそこに添加するあらゆる方法を意味する。本発明の乳化重合法は、エチレンモノマーを添加するため、加圧法であることがさらに好ましい。
【0045】
上記重合は、3以下(最も好ましくは2〜2.8の範囲)のpHで、モノマーの添加を含む第二の段階の際に実施することが好ましい。上記pHは、遅延供給を行なう初期、又はこの重合の終了期近くでは、これらの値と異なっていてもよい。上記pHを、任意の好適な手段(例えば、上記有機酸又は無機酸の添加)により調整することができる。酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、エリソルビン酸、又はギ酸の添加が好ましい。重合組成物のpHを所望の範囲に維持するように、あらゆる供給物のpHを調整することができる。
【0046】
好ましい実施態様の一つでは、本発明の乳化重合法は、
(i)上記モノマーの一部を含む反応容器初期投入物を準備する第一の段階;そして
(ii)残った任意のモノマーと、随意選択的な重合開始剤系とを、1回又は2回以上の供給で、上記初期装填物に供給する第二の段階:
を含む半連続乳化重合である。
上記方法は、当業者に公知である。任意の適切な装置を用いることができる。第二の段階が終了した後、得られたラテックスを反応容器から取り出すことができ、あるいは、同じ反応容器内でさらに処理することができる。
【0047】
重合は、触媒として有効な量の当業者に公知のラジカル形成材料を添加することによって開始させる。上記材料としては、過酸化化合物(例えば過酢酸、過酸化ベンゾイル、過硫酸塩)及びアゾ化合物等がある。随意選択的な金属触媒の存在下で、還元剤と酸化剤の両方を用いた組み合わせ型の系も使用できる。これは、一般的にレドックスシステムと呼ばれている。上記レドックスシステムは、一般的に、還元剤又は活性化剤として、例えば、亜硫酸水素塩、スルホキシル酸塩、アルカリ金属の亜硫酸水素塩−ケトン付加体(特に、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム)、又は還元特性を有する他の化合物(例えば、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、他の還元糖)を含む。上記酸化剤としては、例えば、過酸化水素、有機過酸化物(t−ブチルヒドロペルオキシド(t−BHP)等)、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等)がある。随意選択的に、当業者に公知の触媒を、これらのシステムで用いることができる。上記触媒例には、例えば、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(本明細書では、硫酸アンモニウム鉄(II)と呼ぶ)中の鉄が含まれる。
【0048】
使用可能な具体的なレドックスシステムには、
過酸化水素及びホルムアルデヒドスルホキシル酸亜鉛;
過酸化水素及びエリソルビン酸;
過酸化水素、過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウムと、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸亜鉛又はホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム;
t−ブチルヒドロペルオキシド及び亜硫酸水素ナトリウム−ケトン付加化合物等がある。
ホルムアルデヒドが少ないか、あるいは極めて少ない(本発明に従って、好ましい)バインダーエマルジョンでは、上記レドックスシステムは、ホルムアルデヒドを放出しない還元剤を含むことになろう。上記レドックスシステムは公知であり、例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、亜硫酸水素塩、アルカリ金属の亜硫酸水素塩−ケトン付加化合物(特に、アルカリ金属の亜硫酸水素塩−ケトン付加化合物)を含むことができる。上記システムは公知であり、米国特許第6,787,594号明細書及び欧州特許第0 237 643号明細書に記載されている(両明細書を参照し、本明細書に組み入れる)。特に好ましいのは、過硫酸アンモニウム/アスコルビン酸、又は過硫酸アンモニウム/イソアスコルビン酸ナトリウムである。
【0049】
乳化重合法は、触媒量の鉄(例えば、硫酸第アンモニウム鉄(II))の存在下で、レドックス開始システムを用いて開始させることが好ましい。上記レドックスシステム及び/又は触媒は、1回又は2回以上の供給で、供給物又は遅延供給物として添加することが好ましい。
【0050】
酸化剤は、一般的に、重合系に含まれるビニルエステルモノマーの質量に基づいて、0.01〜1.5質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%の量が使用される。還元剤は、通常は、必要な当量で添加される。
【0051】
反応温度は、レドックスシステムの添加速度(すなわち、第二の段階の際の供給速度)及び/又は反応容器の壁面からの熱の散逸速度により、調整することができる。モノマーの重合の際に、反応温度を約40℃〜60℃に維持すること、そして温度が80℃を大きく超えないようにすることが一般的に好ましいが、0℃の低温を利用することができる。典型的には、経済的な低温の下限は、約30℃である。エチレンが反応するために圧力低下が起こる可能性のあることを考慮すると、反応中は温度を上げていくことが望ましい。反応圧力は、重合させるエチレンの量と、温度と、反応容器の装填度とによって異なる。反応容器内の初期圧力は、一般的に、300バール(30.9MPa)を超えず、150バール(15.5MPa)を超えないことが好ましく、80バール(8.24MPa)を超えないことが最も好ましい。
【0052】
重合反応中の反応混合物のpH値は、約2〜7の範囲でありうる。得られるラテックスのバインダーとしての性能を考えると、この方法の第二の段階(すなわち、モノマー遅延供給物を含むあらゆる遅延供給物を供給している間)における重合反応は、3以下のpH、最も好ましくは2〜2.8の範囲のpHで行なれることが好ましい。
【0053】
重合反応中のpHの制御は、反応容器初期投入物のpHを調整し、それに対応して1回又は2回以上供給する供給物のpHを調整することによって行なわれる。反応容器初期投入物のpHは約4に調整するとよい。第二の段階の後は、モノマー遅延供給物を含め、pH値は通常3未満である。その後、pHを高くすることができる。
【0054】
ラテックス製品の粘性率を十分に安定させるためには、適切な塩基(例えばアンモニウム)を添加して、得られるラテックス組成物の最終pHを4〜7、好ましくは4.5〜5.5に調整するとよい。
【0055】
驚くべきことに、重合反応中のpHを3以下にすると、本発明によって得られるラテックスの後架橋反応が、大きな影響を受ける。特に、3以下のpHにおいて得られたラテックス組成物で接着させた不織布(エアレイド不織布製品が好ましい)は、3超のpHにおける重合により得られるラテックスで接着させた不織布と比べて、湿潤抗張力が顕著に改良されることがわかった。反応容器初期投入物にアクリル酸アルキルモノマーYを使用すると、重合の際の所定の低pH値において、貯蔵安定性又は商品寿命がさらに向上する。
【0056】
反応時間は、温度、ラジカル生成源、所望の重合度等の変数によって異なるであろう。本明細書で任意の遅延供給物又は供給物に言及する場合には、任意のモノマー、開始剤、又は他の任意の成分に関して、連続的添加、増分式添加、断続的添加(すなわち、段階的添加)が含まれるものと理解される。連続的添加又は断続的添加が好ましい。本発明の方法では、供給の第二の段階は、1〜5時間以内に終えることが好ましく、2〜4時間以内に終えることがより好ましく、2〜3時間以内に終えることが最も好ましい。従来のどの方法と比較しても、残っているモノマーが相対的に速く添加される。したがって第二の段階は、本明細書では迅速な添加段階とも呼ばれる。
【0057】
本発明の半連続法では、初期装填物は、ビニルエステルモノマーの全量の少なくとも一部を含有する水相を含むことが好ましいが、エチレンモノマーの全てと、後架橋モノマーの少なくとも一部と、存在する場合にはビニルスルホネートモノマーの少なくとも一部(好ましくは全て)を含むことがより好ましい。反応容器初期投入物に後架橋モノマーの少なくとも一部が含まれていると、この重合で得られたラテックスで接着させた不織布の湿潤強度を高めるのに役立つ。
【0058】
上述のように、驚くべきことに、モノマーを初期装填物と遅延供給物又は供給物とに明確に分割すると、この重合で得られたラテックスで接着させた製品は、バッチ法で得られたラテックスで接着させた製品と比較して、湿潤抗張力が向上することが見いだされた。この分割は、本発明のラテックス組成物の安定化も助ける。従って、後架橋モノマーの少なくとも一部と、存在する場合にはビニルスルホネートモノマーの少なくとも一部(好ましくは全部)と、存在する場合にはモノマーXとモノマーYの全部ではなくとも少なくとも一部とを初期装填物に添加することが好ましい。最も好ましいのは、不飽和カルボン酸モノマー及び/又はモノマーZを、初期装填物に添加しないことである。
【0059】
半連続法の好ましい実施態様の一つでは、使用するモノマーは上記の様に規定され、そして上記初期装填物が;
(a)ビニルエステルモノマーの全質量に基づいて、10〜30質量%のビニルエステルモノマー;
(b)エチレンモノマーの全質量に基づいて、少なくとも50質量%、好ましくは全てのエチレンモノマー;
(c)後架橋モノマーの全質量に基づいて、5〜25質量%の後架橋モノマー;
(d)ビニルスルホネートモノマーの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のビニルスルホネートモノマー;
(e)不飽和カルボン酸モノマーの全質量に基づいて、0〜2.5質量%の不飽和カルボン酸モノマー;
(f1)モノマーXの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のモノマーX;
(f2)モノマーYの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のモノマーY;及び
(f3)モノマーZの全質量に基づいて、最大50質量%、好ましくは最大10質量%のモノマーZ:
を含む。
【0060】
本発明の方法の好ましい実施態様では、使用するモノマーは;
(a)20〜96質量%、又は40〜96質量%、好ましくは60〜93.3質量%のビニルエステルモノマー;
(b)3〜60質量%、又は3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の後架橋モノマー;
(d)0〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%のビニルスルホネートモノマー;
(e)0〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%の不飽和カルボン酸モノマー;及び
(f)0〜30質量%、好ましくは0〜10質量%の、上記モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも1つの共重合性モノマー:
を含み、
ここで、全てのパーセンテージは、上記モノマーの全質量に基づいており、そして上記モノマーの全質量は、100質量%である。
【0061】
上記のように、この実施態様の界面活性剤の含有率は、モノマーの全質量に基づいて、最大1.0質量%、又は最大0.5質量%でありうる。しかし、本発明の第1の実施態様で説明したように、含有量は、0.1質量%以下のより低い範囲にすることもできる。さらに、上記の好ましい組成物は、安定化用の界面活性剤を含む必要がないため、界面活性剤フリー組成物でもありうる。しかし、上記のより多いほうの量の界面活性剤を添加しても、得られるラテックスで接着させた不織布材料の湿潤抗張力が、実質的に低下することはない。
【0062】
上記初期装填物は、
(a)ビニルエステルモノマーの全質量に基づいて、10〜30質量%のビニルエステルモノマー;
(b)エチレンモノマーの全質量に基づいて、少なくとも50質量%のエチレンモノマー;
(c)後架橋モノマーの全質量に基づいて、5〜25質量%の後架橋モノマー;
(d)ビニルスルホネートモノマーの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のビニルスルホネートモノマー;
(e)不飽和カルボン酸モノマーの全質量に基づいて、0〜2.5質量%の不飽和カルボン酸モノマー;
(f1)モノマーXの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のモノマーX;
(f2)モノマーYの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のモノマーY;及び
(f3)モノマーZの全質量に基づいて、最大50質量%、好ましくは最大10質量%のモノマーZ:
を含有する水相を含むことが好ましい。
【0063】
特に好ましい方法では、使用するモノマーは;
(a)50〜90.3質量%のビニルアセテート;
(b)5〜30質量%のエチレン;
(c)4〜6質量%のN−メチロールアクリルアミド;
(d)0.2〜2質量%のビニルスルホン酸ナトリウム;
(e)0.5〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%のアクリル酸;
(f1)0〜15質量%のモノマーX;
(f2)0〜25質量%のモノマーY;及び
(f3)0〜6質量%のモノマーZ:
を含み、
そして界面活性剤の含有量はモノマーの全質量に基づいて、最大1.0質量%である(上の説明を参照)が、最大0.1質量%であることが好ましい。
上記半連続重合におけるこの好ましいモノマー組成物に関して、上記初期装填物は;
(a)ビニルアセテートの全質量に基づいて、10〜30質量%のビニルアセテート;
(b)エチレンの全質量に基づいて、少なくとも50質量%、好ましくは100質量%のエチレン;
(c)N−メチロールアクリルアミドの全質量に基づいて、5〜25質量%のN−メチロールアクリルアミド;
(d)ビニルスルホン酸ナトリウムの全量;
(e)アクリル酸の全質量に基づいて、0〜2.5質量%のアクリル酸;
(f1)モノマーXの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のモノマーX;
(f2)モノマーYの全質量に基づいて、最大100質量%、好ましくは50〜100質量%のモノマーY;及び
(f3)0質量%のモノマーZ:
を含有する水相を含むことが好ましい。
【0064】
使用するモノマーX、モノマーY、及びモノマーZは、モノマーの全質量に基づいて;
(f1)0〜1.5質量%のブチルアクリレート;
(f2)0〜6質量%のビニルベルサテート;及び
(f3)0〜2質量%の2−アクリルアミド−プロパンスルホン酸ナトリウム:
を含むことが最も好ましい。
【0065】
次いで、上記初期装填物は;
(f1)ブチルアクリレートの全量;
(f2)ビニルベルサテートの全量;及び
(f3)0質量%の2−アクリルアミド−プロパンスルホン酸ナトリウム:
を含むことが好ましい。
【0066】
上記任意の実施態では、上記初期装填物は、随意選択的に、使用される界面活性剤を全量ではなくとも少なくとも一部含むことが好ましい。しかし、界面活性剤は、第二の段階を通じて1回又は2回以上の供給で、供給物とともに添加することもできる。その場合には、初期装填物に界面活性剤が含まれている必要はない。いかなる界面活性剤も用いる必要がない。0.1質量%を超える界面活性剤を使用する場合には、0.1質量%を超えた分の過剰量は、遅延供給物とともに添加することが好ましい。
【0067】
界面活性剤は、存在する場合には、当業者に公知の任意の好適な界面活性剤の中から選択できる。アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を使用することができる。アニオン性界面活性剤の具体例は、米国特許第4,447,570号明細書に記載されており、その内容を参照し、本明細書に組み入れる。好適な界面活性剤の詳細なリストは、欧州特許第1 370 621号明細書にも見いだすことができる(上記内容も参照し、本明細書に組み入れる)。上記界面活性剤の具体例には、脂肪酸エトキシレート(Genapol(商標)ZRO又はTexapon(商標)NSO)、イソ−トリデシルエトキシレート(Genapol(商標)1879又はGenapol(商標)3214)、スルホコハク酸塩(Aerosol(商標)A102)、ベンゼンスルホン酸のアルキル誘導体(Marlon(商標)A315)等が含まれるがこれらに限定されるものではない。他の具体例は、Soprophor(商標)化合物(例えば、Soprophor(商標)4D384 and FL)や、ABEX(商標)化合物(例えば、ABEX(商標)2005)であり、これらは全てRhodiaから供給されている。
【0068】
重合反応が終了すると、今度は過酸化水素を用いて反応を完了させ、還元成分としてアスコルビン酸を用いたことによって生じうる脱色を少なくする。また、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド(t−BHP)及びアスコルビン酸を、水溶液中で用いて後重合段階を実施することができる。さらに、従来の様式において、重合後、蒸気ストリッピング段階を実施し、モノマーの残留質量を減らすことができる。一般的に、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、最も好ましくは200ppm未満の残留モノマーを、有する最終ラテックスが提供されることが望ましい。
【0069】
得られる最終ラテックス組成物は、Tgが+10〜−30℃であることが好ましく、+5〜−15℃であることがより好ましい。そのため、上記ラテックス組成物は、ソフトバインダーと呼ばれ、適用の際に、架橋させることができる。
【0070】
本発明の第3の態様により、ビニルエステルをベースとした上記のポリマーラテックス組成物又は本発明の方法で得られたラテックス組成物を含む分散液が提供される。上記分散液は、目的とする用途に応じ、ラテックスに加え、追加成分を含むことができる。上記成分には、溶媒、pH調整剤、緩衝物質、消泡剤、充填剤、顔料、染料、セメント質材料、蝋、UV安定剤、湿潤剤、殺生物剤、殺真菌剤、及び当業者に公知の同様のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
最終ラテックス組成物に湿潤剤を添加して、不織布と不織布製品に所望の親水性を付与することが好ましい。上記湿潤剤は、例えば、公知の化合物である、スルホコハク酸塩(スルホコハク酸ジオクチル)やAerosol(商標)OTの中から選択される。上記湿潤剤を、分散液の全質量に基づいて、0.5〜1質量%の量で用いることができる。
【0072】
上記の様に、上記分散液のpH値を、4〜7に調整することが好ましく、4.5〜5.5に調整することがより好ましい。これにより、ラテックスの貯蔵安定性又は商品寿命が増大する。
【0073】
上記分散液は、分散液の全質量に基づいて、固形分が20〜65質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。固形分は、例えば、適切な溶媒(水等の水性溶媒が好ましい)を添加して調整可能である。
【0074】
上記分散液は、ビニルアセテート/エチレンをベースとした公知のラテックス組成物の任意の一般用途で用いることができる。上記用途には、特に、多くの製品におけるバインダー又はその一部としての用途が含まれる。上記製品の具体例としては、布帛(織物と不織布)、テキスタイル、紙、カーペット、コーティング、インク、塗料、接着剤だけでなく、建設資材もある。不織布のバインダーとしての用途が特に好ましい。
【0075】
本発明のさらに別の態様により、上記分散液を含む製品が提供される。この製品は、布帛(織物及び不織布であるが、後者が好ましい)、テキスタイル、皮革、塗料、インク、コーティング、紙、接着剤、木工ボンド、バインダー、カーペットの裏張り、食品用コーティング、建設資材から成る群から選択することができる。
【0076】
好ましい実施態様では、上記製品は、繊維が本発明の分散液で接着された不織布である。上記不織布を、1種又は2種以上の天然繊維や合成繊維(例えば、セルロース、木材パルプ、絹、ビスコースレーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、金属、ガラス等)から製造することができる。上記繊維を、当業者に公知の種々の技術(例えば、ドライ−レイ(dry−lay)技術、ウェット−レイ(wet−lay)技術、エア−レイ(air−lay)技術)を用いて、不織布ウェブにすることができる。エアレイド・ウェブ(air−laid web)が好ましい。
【0077】
上記製品は、内壁又は外壁の塗装に役立つ塗料組成物又はコーティング配合物であることができ、本発明の上記水性分散配合物は、上記塗料配合物又はコーティング配合物の少なくとも一部として用いられる。
【0078】
上記製品は、接着剤配合物又は木工ボンド配合物であることができ、本発明の水性分散配合物は、上記接着配合物の少なくとも一部として用いられる。
【0079】
本発明はまた、ビニルエステルをベースとした本発明のポリマーラテックス又は本発明の分散液をバインダーとして用いた、布帛(特に不織布)を接着法も提供される。
【0080】
本発明は、基部をコーティングする方法をさらに提供し、ここで、適用されるコーティングは、ビニルエステルをベースとした本発明のポリマーラテックス又は本発明の分散液を含む。上記方法は、テキスタイル製品又は紙をコーティングする方法であることが好ましい。上記コーティングを、印刷工程によって適用することができき、そしてその場合には、上記コーティングは、本発明のラテックスに加えて染料及び/又は顔料を含む彩色コーティングであってもよい。
【0081】
本発明は、ビニルエステルをベースとした本発明のポリマーラテックス又は本発明の分散液を用いて皮革製品を処理する方法又は仕上げる方法をさらに提供する。
【0082】
次の例は、本発明をさらに詳しく説明するために提供されるが、これらの例に限定されるように構成されるべきではない。
【実施例】
【0083】
次の試験方法を適用して、本発明のポリマーラテックス組成物の優れた性質を明らかにする。
[1.エアレイド性能を評価するための試験方法]
a)エアレイド材料の浸漬(impregnation)
【0084】
20質量%が表面に付着したエアレイド・ウェブを得るために、固形分が20質量%の希釈ポリマー分散液を用いたスプレーにより、75gのエアレイド・ウェブ(88質量%の木材パルプ、12質量%のBico−Fiber)を浸漬させた。当該浸漬されたエアレイド・ウェブを、23℃及び湿度50%の条件下で一晩保管した。
b)湿潤抗張力の測定
【0085】
23℃において、Zwick1446装置を用い、上記浸漬させたエアレイド・ウェブの抗張力を測定した。測定前に、水を入れたFinch Cupに試料を15秒間にわたって浸した。湿潤条件(Finch Cup)下で、長さ10cm×幅5cmの接着試料に、ひずみが定率になるように、長さ方向に力を加えた。最大抗張力の値と最大引張伸長度の値は、「力−伸び」から得られ、そして10回の測定の平均値を結果報告用に用いた。
c)湿潤抗張力の結果の比較及び提示
【0086】
比較のため、次の例の全てのポリマー分散バインダーを、スタンダードと比べた。上記スタンダードとして、比較例2の分散バインダーを選択した。次の例の全てのポリマー分散バインダーは、同一の固形分50質量%において、pH=4の同一のpH値に調整した後、スプレー塗装するための希釈液を調製した。全てのケースにおいて、固定量の湿潤剤(スルホコハク酸ジオクチル)を添加し、水の取り込み速度及び取り込み能力として測定されるウェブの親水性を、ほぼ同一となるようにした。
【0087】
上記スタンダードに関して得られた湿潤抗張力の結果を、全ての試験シリーズに関して、100%として定義する。
[2.粒子サイズの推定]
【0088】
コールター社(マイアミ、フロリダ州)から提供されたCOULTER LS230を用い、最終ポリマー分散液の粒子サイズを特徴付けた。測定のため、最終ポリマー分散液の試料を適切な濃度に希釈した。
【0089】
COULTER LS230を用いた測定は、光の回折及び一部の静的光散乱に基づいており、粒子サイズの分布が得られる。粒子サイズを特徴づけるために、体積密度粒子サイズ分布モードを採用した。
[3.粗粒子の概算]
【0090】
ポリマー分散液の試料100gを、蒸留水(最大1リットル)で希釈し、そして150μmのナイロン篩で濾過し、次に、40μmの篩で濾過した。篩を十分な量の水でリンスし、最終的に純水だけが篩を通過するようにした。篩表面の残留物を乾燥させると一定の塊になった。40μm超の粗粒子の全量を、両方の篩に残った乾燥残留物から計算し、ポリマーラテックスに対する百万分率(ppm)で表記した。
【0091】
濾過工程の際、あるいはスプレー工程による適用の際の、厄介な問題を避けるにために、粗粒子の含有量が少ないことが好ましい。濾過試験のスコアが3よりも優れている場合には、最大で300ppmの、40μm超の粒子の全粗粒子含有率が、許容できる。40μm超の粒子の粗粒子含有量が、約200ppm未満である製品が好ましい。
[4.濾過試験]
【0092】
ポリマー分散液の試料150mLを、60μmのナイロン篩で濾過して、250mLのビーカーに入れた。これにより、濾過試験の前に、60μm超の粗粒子が除去された。次に、この試料の100mLの試料を減圧吸引し、60μmのナイロン篩の印のある約1cm2の円形領域を通過させた。
【0093】
通常は、印のある円形領域のうちで詰まった面積の割合は、残った分散液を水で注意深く除去してから乾燥させた後に調べた。
【0094】
次に、濾過能力を、以下のスコアによって特徴づけた。
1:メッシュのどの穴も詰まらなかった;優れた濾過;
2:メッシュの穴が散発的にしか詰まらない;良好な濾過;
3:印のある領域の最大50%が詰まった;濾過可能;
4:印のある領域の50%超が詰まった;濾過には努力が必要となろう;
5:印のある領域の100%が詰まった;濾過不能。
スコアが4の場合には、産業利用する際には、濾過に努力が必要とされる。スコアが5の場合には、産業的利用は、不可能であろう。
【0095】
例1(比較例)
AIRFLEX(商標)EN1020ビニルアセテート−エチレン(VAE)ポリマーエマルジョンは、Air Productsから入手できる標準的な軟質ビニルアセテート/エチレン/N−メチロールアクリルアミドコポリマーバインダーであり、参照として使用した。AIRFLEX EN1020 VAEポリマーエマルジョンは、2質量%超の界面活性剤を含むが、保護コロイドは含まない。
【0096】
例2(比較例)
例2を、接着したエアレイド・ウェブの性能を比較するためのスタンダードとして使用した。以下の例の全ての一連の試験において、例2で得られた湿潤抗張力を、100%とした。例2の乳化重合は、18リットルの圧力反応容器の中で実施した。反応容器の初期投入物は、以下の通りである。4209gのイオン交換水と、106.5gのGenapol(商標)X150界面活性剤(40%)と、20.8gのAerosol(商標)A102界面活性剤(30%)と、42.3gのビニルスルホン酸ナトリウム(25%)と、30gのベンゾキノン(0.1%)と、40gのクエン酸ナトリウム(10%)を均質化した後、10%クエン酸を添加して、pHを3.8に調整した。次に、5256gのビニルアセテートと53gのブチルアクリレートとからなるモノマー組成物を添加した。反応容器を50℃に加熱し、1700gのエチレンを用いて加圧した。温度が40℃に達したとき、55.5gのアスコルビン酸(5質量%)と21gの硫酸アンモニウム鉄(II)(1質量%)とを、ポンプで中に入れた。過硫酸アンモニウム(APS、10質量%)溶液を62g/hで連続的に遅延供給して、反応を開始させる。
【0097】
反応が発熱反応になったとき、416gの水と、289.5gのAerosol(商標)A102界面活性剤(30質量%)と、44gのアクリル酸と、664gのN−メチロールアクリルアミド−LF(48質量%)と、36gのベンゾキノンとを含む水性N−メチロールアクリルアミド供給物の添加を開始した。この水性供給物の添加を5時間にわたって継続した。この供給と並行して、APS(10質量%)及びアスコルビン酸(5質量%)のそれぞれの2種類のレドックス開始溶液を、それぞれ39g/hで連続的に計量しながら供給した。遅延供給を開始してから210分後、526gのビニルアセテートモノマーの供給を開始し、90分間にわたって計量しながら供給した。ビニルアセテート及びN−メチロールアクリルアミドの両供給を、同時に終了させた。
【0098】
レドックス成分の遅延供給を、60分間にわたって継続した。反応が終了した後、アンモニアを用いてpHを4.5に調整した。次に、生成物を、内部を完全に減圧した脱ガス装置に移した。固形分を50%に調整した。
【0099】
例3
2リットルの圧力反応容器の中で重合を行った。反応容器の初期投入物は下記から成る。
水 496g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 17g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 22.7g
ビニルアセテート 171g
ブチルアクリレート 7.1g
VeoVa(商標)10 28.4g
エチレン 233g
ギ酸で、水性成分のpHを4に調整した。ビニルアセテート、ブチルアクリレート、VeoVa(商標)10のモノマーを添加する前に、減圧、次いで窒素を適用し、次いで4gの硫酸アンモニウム鉄(II)を1%の水溶液として添加することにより、水溶液を2回パージした。温度を、50℃のほぼ一定に制御した。233gのエチレンを添加した後、次の反応の際、圧力を約68バールの一定に維持し、さらに20gのエチレンを添加し、次いでエチレンの供給を終了させた。
【0100】
下記2種類の開始水溶液を平行して供給し、反応を開始させた。
供給1:過硫酸アンモニウム(10%水溶液)
供給1を、13.4mL/hで連続的に添加し、供給3及び供給4が終了した60分後に停止させた。
供給2:アスコルビン酸(5%水溶液)
供給2を、供給1と平行して13.4mL/hで連続的に添加した。
供給3:ビニルアセテート 500g
供給3を、反応が発熱反応になった10分後に、約215分間にわたり148.7mL/hで連続的に添加した。
供給4:
水 47g
Genapol(商標)ZRO(28%) 30.3g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 85g
アクリル酸 13.8g
アンモニアで、この水溶液のpHを3.8に調整した。
供給4は、供給3と平行して、49.1mL/hで連続的に添加した。
供給5:分散液の全質量に基づいて、1%の量の過酸化水素(10%水溶液)
供給5は、供給1及び供給2が終了した後に添加した。
【0101】
十分な量のアンモニア(12.5%水溶液)を添加し、ラテックスの最終pHを5に調整した。生成物を脱ガス装置に移し、減圧で処理した。水を添加して、固形物含有率を50%に調整した。
【0102】
例4
例4は、例3の再生産物である。
【0103】
例5
例5では、反応容器初期投入物が、233gのエチレンのみを含み、例3のように20gのエチレンを含まない点を除き、例3と同じ組成物、同じ方法を用いた。
【0104】
例6
2リットルの圧力反応容器の中で重合を行った。当該手順は、例3の手順と同様である。
反応容器初期投入物は、下記から成る。
水 519g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 8.9g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 23.8g
ビニルアセテート 179g
エチレン 233g
ギ酸で、水性装填物のpHを4に調整した。4gの硫酸アンモニウム鉄(II)を1%水溶液として添加した。温度を、ほぼ一定の50℃に制御した。初期圧力は約66バールであった。
供給1:過硫酸アンモニウム(10%水溶液)
供給1を、13.4mL/hで連続的に添加し、供給3及び供給4が終了した60分後に停止させた。
供給2:アスコルビン酸(5%水溶液)
供給2を、供給1と平行して、13.4mL/hで連続的に添加した。
供給3:ビニルアセテート 556g
供給3を、反応が発熱反応になった10分後に、約240分間にわたり148.9mL/hで連続的に添加した。
供給4:
水 63.9g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 89g
ギ酸で、この水溶液のpHを3.8に調整した。供給4は、供給3と平行して、38.8mL/hで連続的に添加した。
供給5:分散液の全質量に基づいて、1%の量の過酸化水素(10%水溶液)
供給5は、供給1及び供給2の添加が終了した後に添加した。
ある量のアンモニア(12.5%水溶液)を添加して、最終pHを5に調整した。生成物を脱ガス装置に移し、減圧で処理した。水を添加して、固形分を50%に調整した。
【0105】
例7
2リットルの圧力反応容器の中で重合を行った。当該手順は、例6の手順と同様である。反応容器初期投入物が、下記から成る。
水 542.8g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 8.9g
ビニルアセテート 179g
エチレン 233g
ギ酸で、水性成分のpHを4に調整した。4gの硫酸アンモニウム鉄(II)を1%水溶液として添加した。温度を、ほぼ一定の50℃に制御した。初期圧力は約66バールであった。
供給1:過硫酸アンモニウム(10%水溶液)
供給1は、13.4mL/hで連続的に添加し、供給3及び供給4が終了した60分後に停止させた。
供給2:アスコルビン酸(5%水溶液)
供給2を、供給1と平行して、13.4mL/hで連続的に添加した。
供給3:ビニルアセテート 556g
供給3は、反応が発熱反応になった10分後に、約240分間にわたり148.9mL/hで連続的に添加した。
供給4:
水 49.5g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 89g
アクリル酸 14.4g
アンモニアで、この水溶液のpHを3.8に調整した。供給4は、供給3と平行して、38.6mL/hで連続的に添加した。
供給5:分散液の全質量に基づいて、1%の量の過酸化水素(10%水溶液)
供給5は、供給1及び供給2の添加が終了した後に添加した。ある量のアンモニア(12.5%水溶液)を添加して、最終pHを5に調整した。生成物を脱ガス装置に移し、減圧で処理した。水を用いて固形分を50質量%に調整した。
【0106】
例8
反応容器初期投入物が、下記;
水 519g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 17.8g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 23.8g
ビニルアセテート 179g
ブチルアクリレート 7.4g
エチレン 233g
から成る点と、供給4が、下記;
水 49.5g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 89g
アクリル酸 14.4g
を含む点を除き、例6と同じである。
アンモニアで、この水溶液のpHを3.8に調整した。供給4は、供給3と平行して、38.6mL/hで連続的に添加した。
【0107】
例9
反応容器初期投入物が、ブチルアクリレートの代わりにVeoVa(商標)9を含むことを除き、例8と同じである。
【0108】
例10
反応容器初期投入物が、下記;
水 519g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 26.7g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 23.8g
ビニルアセテート 179g
VeoVa(商標)9 29.6g
エチレン 233g
から成る点を除き、例8と同じである。
【0109】
例11
例11は、例10の再生産物である。
【0110】
例12
反応容器初期投入物が下記から成る点を除き、例8と同じである。
水 519g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 8.9g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 23.8g
ビニルアセテート 179g
VeoVa(商標)9 29.6g
エチレン 233g
【0111】
例13
反応容器初期投入物が、7.4gのブチルアクリレートの代わりに、29.6gのVeoVa(商標)9を含む点を除き、例8と同じである。
【0112】
例14
反応容器初期投入物が、以下からなる点を除き、例8と同じである。
水 519g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 26.7g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 23.8g
ビニルアセテート 179g
ブチルアクリレート 7.4g
VeoVa(商標)9 29.6g
エチレン 233g
【0113】
例15
反応容器初期投入物が、以下からなる点を除き、例8と同じである。
水 519g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 26.7g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 23.8g
ビニルアセテート 179g
VeoVa(商標)11 29.6g
エチレン 233g
【0114】
例16
2リットルの圧力反応容器の中で、重合を実施した。反応容器初期投入物は、以下から成る。
水 500g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 17.1g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 22.9g
ビニルアセテート 172.3g
ブチルアクリレート 7.1g
VeoVa(商標)10 28.5g
エチレン 224g
ギ酸で、水相のpHを4に調整した。4gの硫酸アンモニウム鉄(II)を1%水溶液として添加した。温度を、50℃に制御した。初期圧力を約66バールにした。
供給1:過硫酸アンモニウム(10%水溶液)
供給1を、15mL/hで開始し、そして供給3及び供給4を開始したときに、19mL/hに上げた。供給1を、供給3及び供給4の添加が終了した60分後に停止した。
供給2:アスコルビン酸(5%水溶液)
供給2は、供給1と平行して、同じ供給速度で添加した。
供給3:ビニルアセテート 506g
供給3は、反応が発熱反応になった10分後に、約180分間にわたり180.6mL/hで連続的に添加した。
供給4は、下記から成る。
水 47.5g
ABEX(商標)2005(30%) 14.3g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 85.7g
アクリル酸 13.9g
アンモニアで、この水溶液のpHを3.9に調整した。
供給4は、供給3と平行して、55.3mL/hで連続的に添加した。
供給5:分散液の全質量に基づいて、1%の量の過酸化水素(10%水溶液)
供給5は、供給1及び供給2が終了した後に添加した。アンモニア(12.5%水溶液)を添加して、最終pHを5に調整した。次いで、生成物を脱ガス装置に移し、減圧で処理した。水を添加して、固形分を50%に調整した。
【0115】
例17
反応容器初期投入物が、233gのエチレンのみを含み、反応の際にさらなるエチレンを添加しないことを除き、例3と同じである。
供給4は、下記から成る。
水 77.6g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 85g
アクリル酸 20.7g
アンモニアで、この水溶液のpHを3.8に調整した。
供給4を、供給3と平行して、51.2mL/hで連続的に添加した。
【0116】
例18
反応容器初期投入物が、26.7gのN−メチロールアクリルアミド−LF(48%)と、29.6gのビニルラウレートとを含むことを除き、例6と同じである。
供給4は、14.4gのアクリル酸をさらに含むため、水の量をそれと同じ量減らした。供給4のpHを、3.8に調整した。
【0117】
例19
反応容器初期投入物中のビニルラウレートの代わりに同量のジ(2−エチルヘキシル)フマレートを用いた点を除き、例18と同じである。
【0118】
例20
反応容器初期投入物中のジ(2−エチルヘキシル)フマレートが、同量のVeoVa(商標)9に置換された点と、供給4が、10.8gのAMPS(Lubrizol(商標)2403A)の50%溶液をさらに含むことを除き、例19と同じである。
【0119】
例21
2リットルの圧力反応容器の中で重合を実施した。反応容器初期投入物は、下記から成る。
水 500.5g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 17.1g
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 22.9g
ビニルアセテート 172.3g
ブチルアクリレート 7.1g
VeoVa(商標)10 28.5g
エチレン 224g
ギ酸で、水相のpHを4に調整した。3.9gの硫酸アンモニウム鉄(II)を、1%水溶液として添加した。温度を50℃に制御した。初期圧力は、約65バールであった。
供給1:過硫酸アンモニウム(10%水溶液)
供給1を、12.9mL/hで開始し、そして供給3及び供給4を開始したときに16.1mL/hに上げた。供給1を、供給3及び供給4の添加が終了した60分後に停止した。
供給2:アスコルビン酸(5%水溶液)
供給2を、供給1と平行して、同じ供給速度を用いて添加した。
供給3:ビニルアセテート 506g
供給3を、反応が発熱反応になった10分後に、約180分間にわたり180.6mL/hで連続的に添加した。
供給4は、下記から成る。
水 47.6g
Genapol(商標)ZRO(28%) 30.5g
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 85.7g
アクリル酸 13.9g
アンモニアを用いてこの水溶液のpHを3.8に調整した。
供給4は、供給3と平行して、59.4mL/hで連続的に添加した。
供給5:分散液の全質量に基づいて、1%の量の過酸化水素(10%水溶液)
供給5は、供給1及び供給2が終了した後に添加した。アンモニア(12.5%水溶液)を添加して、最終pHを5に調整した。生成物を脱ガス装置に移し、減圧で処理した。水を添加して、固形分を50%に調整した。
【0120】
例22
反応容器初期投入物の水相に、1.2gのGenapol(商標)ZRO(28%)がさらに含まれることを除き、例21と同じ組成物及び同じ手順であった。
【0121】
例23
反応容器初期投入物の水相に、2.4gのGenapol(商標)ZRO(28%)がさらに含まれることを除き、例21と同じ組成物及び同じ手順であった。
【0122】
例24
580リットルの圧力反応容器の中で重合を実施した。当該手順は、例4と同様であった。反応容器初期投入物は、下記から成る。
水 160.50kg
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 5.42kg
ビニルスルホン酸ナトリウム(25%) 7.25kg
ビニルアセテート 54.50kg
ブチルアクリレート 2.25kg
VeoVa(商標)10 9.00kg
エチレン 71.00kg
ギ酸で、水相のpHを4に調整した。12.8gの硫酸アンモニウム鉄(II)を添加した。温度を50℃に制御し、初期圧力を約65バールにした。
供給1:過硫酸アンモニウム(10%水溶液)
供給1を、4.6kg/hで開始し、供給3及び供給4を開始したときに5.75kg/hに上げた。供給1を、供給3及び供給4の添加が終了した60分後に停止した。
供給2:アスコルビン酸(5%水溶液)
供給2は、供給1と平行して、同じ供給速度を用いて添加した。
供給3:VAC 160kg
供給3は、初期固形分が約10%になったとき添加を開始し、53.3kg/hで連続的に約180分間にわたり添加を継続した。
供給4は、下記を含んでいた。
水 15.00kg
Genapol(商標)ZRO(28%) 9.65kg
N−メチロールアクリルアミド−LF(48%) 27.10kg
アクリル酸 4.38kg
【0123】
アンモニアを用いて、この水溶液のpHを3.8に調整した。
供給4を、供給3と平行して、19.2kg/hで連続的に添加した。
供給5:分散液の全質量に基づいて、1%の量の過酸化水素(10%水溶液)
供給5を、供給1及び供給2の添加が終了した後に添加した。アンモニア(12.5%水溶液)を添加して、最終pHを5に調整した。生成物を脱ガス装置に移し、減圧で処理した。水を添加して、固形分を50%に調整した。
【0124】
例25(比較例)
供給4の水溶液のpHを4.5に調整した以外は、例3と同じ組成物、及び同じ手順であった。pHの調整を変えたことにより、反応容器内の重合pHが、4.4±0.2となった。
【0125】
例26(比較例)
供給4の水溶液のpHを5.0に調整した以外は、例3と同じ組成物、及び同じ手順であった。pHの調整を変えたことにより、反応容器内の重合pHが、5.1±0.2となった。
【0126】
(下記)表のデータは、上記試験法に記載されるように、バインダーをエアレイド・ウェブに適用したときの、例1〜26で得られたポリマー分散液の性能のまとめである。この表には、ポリマー分散液を特徴づける別の解析データも掲載してある。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

n.d.=データなし
*100%とした例2のスタンダードに基づく
**COULTER(商標)LS230から得られた体積密度分布のモード
***モノマーの全質量に対する界面活性剤の質量%
****モノマーの遅延供給物を含む重合工程の第二の段階の際のpH
【0129】
本発明の組成物及び/又は方法に基づいて、界面活性剤の含有量を1質量%以下に減らすことにより(例3〜5、及び21〜24)、例1及び例2の比較例と比べて、湿潤抗張力を約10〜20%改良できることは、表中のデータから明らかである。これはかなりの改善である。上記改良は、界面活性剤濃度をさらに下げて0.1質量%以下又はゼロにすると、さらに一層顕著になる(例10〜15、及び18〜20)。
【0130】
他方、1質量%未満という少量の界面活性剤により、粗粒子が少なくなり、そして粒子サイズが小さくなる(例3〜5、16、21〜24を、それ以外の例と比較せよ)。しかし、pHが3未満での重合によっても、界面活性剤の含有率がより高いにもかかわらず、ラテックスで接着させた不織布の湿潤抗張力を大きくすることができる(例3及び4vs.例25及び26)。
【0131】
粒子サイズは、0.1質量%未満の界面活性剤を、反応容器初期投入物中に添加して、調整することができる(例21と比較した例22及び23)。しかし、界面活性剤の含有量が少ない(又はゼロの)場合の粒子サイズ及び粗粒子含有率はまた、モノマー組成により調整することができる(例6〜20)。
【0132】
上記例は、具体的な説明の目的のみを意図している。当業者は、続く特許請求の範囲及び本発明の精神から逸脱することなく、好適な変更を思いつくであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、及び後架橋モノマーのラジカル乳化重合によって得られる、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物であって、実質的に保護コロイドを含んでおらず、そして前記モノマーの全質量に基づいて0〜0.1質量%の界面活性剤を含む前記ラテックス組成物。
【請求項2】
界面活性剤を含まない、請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
前記モノマーの全質量に基づいて、
(a)20〜96質量%のビニルエステルモノマー;
(b)3〜60質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜20質量%の後架橋モノマー;
(d)0〜5質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
(e)0〜5質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
の重合単位を含む、請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項4】
ラジカル乳化重合によって得られ、そしてモノマーの全質量に基づいて、
(a)20〜96質量%のビニルエステルモノマー;
(b)3〜60質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜20質量%の後架橋モノマー;
(d)0〜5質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
(e)0〜5質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
の重合単位を含むビニルエステルをベースとしたラテックス組成物であって、実質的に保護コロイドを含んでおらず、そして前記モノマーの全質量に基づいて、1.0質量%以下の界面活性剤を含む、ポリマーラテックス組成物。
【請求項5】
前記ビニルエステルモノマーが、ビニル−C2〜18−アシルエステル、ビニルハライド、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記後架橋モノマーが、随意選択的にアクリルアミドと組み合わせて、N−アルキロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記不飽和カルボン酸モノマーが、C3〜6アルケン酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、及びそれらの混合物から成る群から選択され、ここで前記C3〜6アルケン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして
前記ビニルスルホネートモノマーが、ビニルスルホン酸又はその塩である、
請求項3に記載のラテックス組成物。
【請求項6】
前記ビニルエステルモノマーが、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルピバレート、ビニルベルサテート(vinyl versatate)、ビニルラウレート、ビニルクロライド、及びそれらの混合物から成る群から選択され;そして
前記後架橋モノマーが、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド、及びそれらの混合物から成る群から選択される、
請求項5に記載のラテックス組成物。
【請求項7】
前記ビニルエステルモノマーがビニルアセテートであり;
前記後架橋モノマーがN−メチロールアクリルアミドであり;
前記ビニルスルホネートモノマーがビニルスルホン酸又はその塩であり;そして
前記不飽和カルボン酸モノマーがアクリル酸である、
請求項6に記載のラテックス組成物。
【請求項8】
(f)前記モノマーの全質量に基づいて、0〜30質量%の、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも1つの共重合性モノマーをさらに含み、
ここで、
(i)前記モノマーXは、C1〜10アルキルアクリレートモノマー、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
(ii)前記モノマーYは、ビニル−C5〜18アシルエステル、不飽和ジカルボン酸C1〜10モノ及びジアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸一又は二酸ハロゲン化物、及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして
(iii)前記モノマーZは、モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマー、ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマー、連鎖移動剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される、
請求項3に記載のラテックス組成物。
【請求項9】
前記C1〜10アルキルアクリレートが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシルエチルアクリレート、ヒドロキシルプロピルアクリレート、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記ビニル−C5〜18アシルエステルが、5〜11個の炭素原子を有する1つ又は2つ以上のα分岐モノカルボン酸のビニルエステル、ビニルラウレート、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記不飽和ジカルボン酸ジエステルが、ジイソプロピルフマレート、ジ(2−エチルヘキシル)フマレート、及びジ(2−エチルヘキシル)マレエートから成る群から選択され、
前記モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマーが、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸の塩、及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして
前記ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマーが、ジビニルアジペート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゾール、及びそれらの混合物から成る群から選択される、
請求項8に記載のラテックス組成物。
【請求項10】
前記C1〜10アルキルアクリレートが、ブチルアクリレートであり、そして前記ビニル−C5〜18アシルエステルが、5〜11個の炭素原子を有する1つ又は2つ以上のα分岐モノカルボン酸である、請求項9に記載のラテックス組成物。
【請求項11】
前記モノマーの全質量に基づいて;
(a)40〜95.3質量%のビニルエステルモノマー;
(b)5〜30質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜10質量%の後架橋モノマー;
(d)0.2〜2質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
(e)0.5〜2質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
の重合単位を含む、請求項3又は4に記載のラテックス組成物。
【請求項12】
前記ビニルエステルモノマーが、ビニル−C2〜18−アシルエステル、ビニルハライド、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記後架橋モノマーが、随意選択的にアクリルアミドと組み合わせて、N−アルキロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記不飽和カルボン酸モノマーが、C3〜6アルケン酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、及びそれらの混合物から成る群から選択され、ここで、前記C3〜6アルケン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記ビニルスルホネートモノマーが、ビニルスルホン酸又はその塩である、
請求項4に記載のラテックス組成物。
【請求項13】
(f)前記モノマーの全質量に基づいて、0〜30質量%の、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも1つの共重合性モノマーをさらに含み、
ここで、
(i)前記モノマーXは、C1〜10アルキルアクリレートモノマー、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
(ii)前記モノマーYは、ビニル−C5〜18アシルエステル、不飽和ジカルボン酸C1〜10モノ及びジアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸一又は二酸ハロゲン化物、及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして
(iii)前記モノマーZは、モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマー、ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマー、連鎖移動剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される、
請求項4に記載のラテックス組成物。
【請求項14】
前記C1〜10アルキルアクリレートが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシルエチルアクリレート、ヒドロキシルプロピルアクリレート、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記ビニル−C5〜18アシルエステルが、5〜11個の炭素原子を有する1つ又は2つ以上のα分岐モノカルボン酸のビニルエステル、ビニルラウレート、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記不飽和ジカルボン酸ジエステルが、ジイソプロピルフマレート、ジ(2−エチルヘキシル)フマレート、及びジ(2−エチルヘキシル)マレエートから成る群から選択され、
前記モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマーが、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸の塩、及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして
前記ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマーが、ジビニルアジペート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゾール、及びそれらの混合物から成る群から選択される、
請求項13に記載のラテックス組成物。
【請求項15】
前記C1〜10アルキルアクリレートが、ブチルアクリレートであり、そして前記ビニル−C5〜18アシルエステルが、5〜11個の炭素原子を有する1つ又は2つ以上のα分岐モノカルボン酸である、請求項14に記載のラテックス組成物。
【請求項16】
ビニルエステルモノマー、エチレンモノマー、及び後架橋モノマーを、水性媒体中でラジカル乳化重合させるビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物の製法であって、任意の添加された保護コロイドを実質的に除外し、かつ前記モノマーの全質量に基づいて、0〜0.1質量%の界面活性剤の存在下で実施する前記方法。
【請求項17】
前記重合を、3以下のpHで実質的に実施する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックスが、前記モノマーの全質量に基づいて;
(a)20〜96質量%のビニルエステルモノマー;
(b)3〜60質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜20質量%の後架橋モノマー;
(d)0〜5質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
(e)0〜5質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
の重合単位を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物が、モノマーの全質量に基づいて;
(a)40〜95.3質量%のビニルエステルモノマー;
(b)5〜30質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜10質量%の後架橋モノマー;
(d)0.2〜2質量%のビニルスルホネートモノマー;及び
(e)0.5〜2質量%の不飽和カルボン酸モノマー:
の重合単位を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
次の各段階;
(i)前記モノマーの一部を含む反応容器初期投入物を準備する第一の段階;そして
(ii)残った任意のモノマーと、随意選択的な重合開始剤系とを、1回又は2回以上の供給で、前記初期投入物に添加する第二の段階:
を含む半連続乳化重合である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
水性媒体中の半連続ラジカル乳化重合による、ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物の製法であって、
前記方法は、添加される保護コロイドの実質的不存在下で、かつモノマーの全質量に基づいて1.0質量%以下の界面活性剤の存在下で実施され、
前記ビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物は、モノマーの全質量に基づいて;
(a)20〜96質量%のビニルエステルモノマー;
(b)3〜60質量%のエチレンモノマー;
(c)1〜20質量%の後架橋モノマー;
(d)0〜5質量%のビニルスルホネートモノマー;
(e)0〜5質量%の不飽和カルボン酸モノマー;及び
(f)0〜30質量%の、モノマーX、モノマーY、及びモノマーZから成る群から選択される少なくとも1つの共重合性モノマー:
の重合単位を含んでおり、
ここで、全てのパーセンテージは、前記モノマーの合計質量に基づいており、そして前記モノマーの前記合計質量は100質量%であり、
(i)前記モノマーXは、C1〜10アルキルアクリレートモノマー、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
(ii)前記モノマーYは、ビニル−C5〜18アシルエステル、不飽和ジカルボン酸C1〜10モノ及びジアルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸一又は二酸ハロゲン化物、及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして
(iii)前記モノマーZは、モノエチレン系不飽和の、水溶性の機能性モノマー、ポリエチレン系不飽和の前架橋モノマー、連鎖移動剤、及びそれらの混合物から成る群から選択され、
前記方法が;
(i)前記モノマーの一部を含む反応容器初期投入物を準備する第一の段階;そして
(ii)残った任意のモノマーと、随意選択的な重合開始剤系とを、1回又は2回以上の供給で、前記初期投入物に添加する第二の段階
:を含み、
ここで、前記反応容器初期投入物が、
−前記ビニルエステルモノマーの全質量の少なくとも一部;
−前記エチレンモノマーの少なくとも一部;
−前記後架橋モノマーの少なくとも一部;及び
−存在する場合には、前記ビニルスルホネートモノマーの少なくとも一部:
を含む水相を含む、
前記方法。
【請求項22】
モノマー(a)が、ビニルアセテートを含み;
モノマー(c)が、N−メチロールアクリルアミドを含み;
モノマー(d)が、ビニルスルホン酸ナトリウムを含み;
モノマー(e)が、アクリル酸を含み;そして
モノマー(f)が;
(f1)0〜1.5質量%のブチルアクリレート;
(f2)0〜6質量%のビニルベルサテート;及び
(f3)0〜2質量%の2−アクリルアミドプロパンスルホン酸ナトリウム塩:
を含む、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記反応容器初期投入物が、0.1質量%以下の界面活性剤をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記反応容器初期投入物が界面活性剤を含まない、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記重合を、3以下のpHで実施する、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
請求項1に記載のビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を含む、水性分散配合物又はスプレードライ粉末。
【請求項27】
請求項26に記載の水性分散配合物を含む製品であって、織物、不織布、テキスタイル、皮革、紙、カーペット、建設資材、バインダー、接着剤、木工ボンド、塗料、インク、コーティング、食品用コーティングから成る群から選択される製品。
【請求項28】
前記不織布が、エアレイド不織布であり、当該不織布が、請求項26に記載の水性分散配合物で接着されている、請求項27に記載の製品。
【請求項29】
バインダーを、不織布に適用することを含む不織布の接着法であって、
ここで、請求項1に記載のビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物が、前記バインダーの少なくとも一部である、
前記方法。
【請求項30】
コーティング配合物を、基板に適用することを含む基板のコーティング法であって、
ここで、前記コーティング配合物が、請求項1に記載のビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を含んでいる、
前記方法。
【請求項31】
請求項4に記載のビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を含む、水性分散配合物又はスプレードライ粉末。
【請求項32】
請求項31に記載の水性分散配合物を含む製品であって、織物、不織布、テキスタイル、皮革、紙、カーペット、建設資材、バインダー、接着剤、木工ボンド、塗料、インク、コーティング、食品用コーティングから成る群から選択される製品。
【請求項33】
前記不織布が、エアレイド不織布である、請求項32に記載の製品。
【請求項34】
ポリマーバインダーを、不織布に適用し、そしてそこに適用された前記ポリマーバインダーと共に前記不織布を乾燥かつ硬化させることを含む不織布の接着法であって、
ここで、請求項4に記載のビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物が、前記バインダーの少なくとも一部を構成している、
前記方法。
【請求項35】
コーティング配合物を、基板に適用することを含む基板のコーティング法であって、
前記コーティング配合物が、請求項4に記載のビニルエステルをベースとしたポリマーラテックス組成物を含む、
前記方法。

【公開番号】特開2007−154163(P2007−154163A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−283508(P2006−283508)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(504274262)エア プロダクツ ポリマーズ,リミティド パートナーシップ (2)
【Fターム(参考)】